図1は、本発明が適用される四輪駆動車両10(以下、車両10という)の概略構成を説明する骨子図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、エンジン12、左右の前輪14L,14R(以下、特に区別しない場合には前輪14という)、左右の後輪16L,16R(以下、特に区別しない場合には後輪16という)、エンジン12と前輪14との間の動力伝達経路であるエンジン12の動力を前輪14に伝達する第1の動力伝達経路、エンジン12と後輪16との間の動力伝達経路であるエンジン12の動力を後輪16に伝達する第2の動力伝達経路などを備えている。
エンジン12は、例えばガソリンエンジン或いはディーゼルエンジン等の内燃機関であって、駆動力を発生する駆動力源である。前輪14は、二輪駆動走行中(2WD走行中)及び四輪駆動走行中(4WD走行中)のときに共に駆動輪となる主駆動輪である。後輪16は、2WD走行中のときに従動輪となり且つ4WD走行中のときに前記第2の動力伝達経路を介してエンジン12から動力が伝達される駆動輪となる副駆動輪である。従って、車両10は、FFベースの四輪駆動車両である。
前記第1の動力伝達経路は、変速機18、フロントデフ20、左右の前輪車軸22L,22R(以下、特に区別しない場合には前輪車軸22という)などを備えている。前記第2の動力伝達経路は、変速機18、前輪14へ伝達されるエンジン12の動力の一部を後輪16へ分配する前後輪動力分配装置であるトランスファ24、ドリブンピニオン26、トランスファ24にて分配されたエンジン12からの動力を4WD走行中に後輪16へ伝達する駆動力伝達軸であるプロペラシャフト28、ドライブピニオン30、リヤデフ32、左右の後輪車軸34L,34R(以下、特に区別しない場合には後輪車軸34という)などを備えている。
変速機18は、エンジン12と前輪14との間の前記第1の動力伝達経路及びエンジン12と後輪16との間の前記第2の動力伝達経路のうちの共通する動力伝達経路の一部を構成し、エンジン12の動力を前輪14側や後輪16側へ伝達する。変速機18は、例えばギヤ比(変速比)γ(=変速機入力回転速度Nin/変速機出力回転速度Nout)が異なる複数の変速段が選択的に成立させられる公知の遊星歯車式多段変速機、ギヤ比γが無段階に連続的に変化させられる公知の無段変速機、或いは公知の同期噛合型平行2軸式変速機などの自動変速機である。又、変速機18の出力回転部材である出力歯車18aには、パーキングギヤ18pが一体的に連結されている。
フロントデフ20は、デフケース20cと、傘歯歯車からなる差動機構20dとを含んで構成されており、左右の前輪車軸22L,22Rに適宜差回転を与えつつ回転を伝達する公知のディファレンシャルギヤである。デフケース20cにはリングギヤ20rが形成されている。そのリングギヤ20rは、歯車機構35を介して変速機18の出力歯車18aと噛み合っている。従って、変速機18から出力される動力はリングギヤ20rに入力される。
トランスファ24は、前記第1の動力伝達経路の一部を構成する回転部材としてのフロントデフ20と並んで設けられて、そのフロントデフ20に連結されている。トランスファ24は、第1回転部材36と、第2回転部材38と、フロント側クラッチ40とを含んで構成されている。
第1回転部材36は、略円筒形状を有しており、その内周側を前輪車軸22Rが貫通している。第1回転部材36の軸方向の一方には、フロントデフ20のデフケース20cに形成された不図示の嵌合歯と嵌合する嵌合歯が形成されており、第1回転部材36は、そのデフケース20cと一体的に連結されている(換言すれば、そのデフケース20cと一体的に回転する)。又、第1回転部材36の軸方向の他方には、フロント側クラッチ40の一部を構成するクラッチ歯42が形成されている。
第2回転部材38は、略円筒形状を有しており、その内周側を前輪車軸22Rが貫通している。第2回転部材38の軸方向の一方には、後輪16側にエンジン12の動力を伝達する為の、ドリブンピニオン26と噛み合うリングギヤ38rが形成されている。又、第2回転部材38の軸方向の他方には、フロント側クラッチ40の一部を構成するクラッチ歯44が形成されている。リングギヤ38rと噛み合うドリブンピニオン26は、プロペラシャフト28に接続され、更に、プロペラシャフト28を介してドライブピニオン30に接続されている。
フロント側クラッチ40は、相対する回転部材としての第1回転部材36と第2回転部材38との間を選択的に断接するクラッチである。フロント側クラッチ40は、クラッチ歯42とクラッチ歯44とスリーブ46と保持部材48とフロント側アクチュエータ50とを含んで構成される、ドグクラッチ(すなわち噛合式クラッチ)である。スリーブ46は、略円筒形状を有しており、スリーブ46の内周側には、クラッチ歯42及びクラッチ歯44と噛合可能な内周歯52が形成されている。スリーブ46は、例えば電気的(電磁的)に制御可能なフロント側アクチュエータ50によって軸方向に移動させられる。尚、フロント側クラッチ40において、更に、同期機構(シンクロ機構)が備えられていても構わない。
図1は、フロント側クラッチ40が解放された状態を示している。この状態では、第1回転部材36と第2回転部材38との接続が遮断されているので、後輪16にはエンジン12の動力が伝達されない。一方、スリーブ46が移動させられてクラッチ歯42及びクラッチ歯44が共に内周歯52と噛み合うと、フロント側クラッチ40が係合され、第1回転部材36と第2回転部材38とが接続される。従って、第1回転部材36が回転すると、第2回転部材38、ドリブンピニオン26、プロペラシャフト28、及びドライブピニオン30が連れ回される。このように、フロント側クラッチ40は、プロペラシャフト28のエンジン12側に設けられた、フロントデフ20とプロペラシャフト28との間の動力伝達経路(換言すれば前記第2の動力伝達経路)を断接する断接機構である。つまり、フロント側クラッチ40は、変速機18を介して前輪14へ伝達されるエンジン12の動力の一部を後輪16へ伝達する前記第2の動力伝達経路に設けられた、その第2の動力伝達経路を断接する断接機構である。
リヤデフ32は、デフケース32cと、傘歯歯車からなる差動機構32dとを含んで構成されており、左右の後輪車軸34L,34Rに適宜差回転を与えつつ回転を伝達する公知のディファレンシャルギヤである。デフケース32cにはリングギヤ32rが形成されており、そのリングギヤ32rはドライブピニオン30と噛み合っている。従って、トランスファ24にて分配されたエンジン12の動力は、プロペラシャフト28を介してリングギヤ32rに入力され、リヤデフ32を介して後輪16へ伝達される。
車両10は、更に、リヤデフ32と左側の後輪車軸34Lとの間に設けられた、前記第2の動力伝達経路の一部を構成するカップリング54を備えている。カップリング54は、例えば多板クラッチ54cやリヤ側アクチュエータとしての不図示の電磁ソレノイドなどを有する、公知の電子制御カップリングであり、リヤデフ32と左側の後輪車軸34Lとの間でトルク伝達を行う。多板クラッチ54cは、相対する回転部材として、複数の内側クラッチ板54ca及び複数の外側クラッチ板54cbを有する湿式の摩擦クラッチである。カップリング54は、例えば多板クラッチ54cの係合力(換言すればカップリング54の伝達トルク)が制御されることで、後輪16へ伝達される駆動力が制御される。
具体的には、カップリング54の係合時には、プロペラシャフト28と左側の後輪車軸34Lとがリヤデフ32等を介してトルク伝達可能に連結され、又、プロペラシャフト28と右側の後輪車軸34Rとがリヤデフ32等を介してトルク伝達可能に連結される。一方で、カップリング54の解放時には、左側の後輪車軸34Lにプロペラシャフト28からのトルクが伝達されず、これに伴って(すなわち、リヤデフ32におけるディファレンシャルギヤとしての一般的な特性によって)、右側の後輪車軸34Rにもプロペラシャフト28からのトルクが伝達されない。カップリング54では、前記不図示の電磁ソレノイドに電流が供給されると、その電流値に比例した係合力で多板クラッチ54cが係合され、カップリング54の伝達トルクが増加するに従って後輪16に伝達される駆動力が増加する。カップリング54は、伝達トルクが制御されることで、前輪14と後輪16とのトルク配分を例えば100:0〜50:50の間で連続的に変更することができる。このように、カップリング54は、プロペラシャフト28の後輪16側に設けられた、プロペラシャフト28と後輪16との間の動力伝達経路(換言すれば前記第2の動力伝達経路)を断接する断接機構である。従って、カップリング54は、フロント側クラッチ40と同様に、変速機18を介して前輪14へ伝達されるエンジン12の動力の一部を後輪16へ伝達する前記第2の動力伝達経路に設けられた、その第2の動力伝達経路を断接する断接機構の1つとして機能する。又、カップリング54は、解放と係合との間で伝達トルクが制御され得るクラッチであるので、内側クラッチ板54ca及び外側クラッチ板54cbの各回転速度を同期させる過程での係合力が制御され得るクラッチである。
前述のように構成された車両10では、例えばフロント側クラッチ40が係合されると共に、カップリング54の伝達トルクが零よりも大きな値に制御されると、後輪16にもカップリング54の伝達トルクに応じた駆動力が伝達される。従って、前輪14及び後輪16共に動力が伝達されて4WD走行となる。この4WD走行においては、カップリング54の伝達トルクが制御されることで、前輪14と後輪16とのトルク配分が必要に応じて調整される。
又、車両10では、例えばフロント側クラッチ40が解放されると、第1回転部材36と第2回転部材38との連結が遮断される為、後輪16には動力が伝達されない。従って、前輪14のみが駆動する2WD走行となる。加えて、例えばリヤ側クラッチに相当するカップリング54が解放されると、2WD走行中において、第2回転部材38からデフケース32cまでの動力伝達経路を構成する各回転要素(第2回転部材38、ドリブンピニオン26、プロペラシャフト28、ドライブピニオン30、デフケース32c等)には、エンジン12側からも後輪16側からも回転が伝達されない。従って、2WD走行中において、これらの各回転要素が回転停止し、前記各回転要素の連れ回りが防止され、走行抵抗が低減される。フロント側クラッチ40及びカップリング54は、2WD走行中に解放作動させることによって4WD走行中に後輪16へ動力を伝達する所定の回転要素を回転停止させる為にプロペラシャフト28のエンジン12側と後輪16側とに各々設けられた2つの断接機構である。つまり、車両10は、2WD走行中に作動させられることよって前記所定の回転要素を回転停止させるディスコネクト機構として、この2つの断接機構を備えている。前記所定の回転要素は、エンジン12と後輪16との間の動力伝達経路を構成する回転要素のうち、フロント側クラッチ40とカップリング54とで挟まれている回転要素(すなわち第2回転部材38からデフケース32cまでの動力伝達経路を構成する各回転要素)である。又、フロント側クラッチ40及びカップリング54が共に解放されて前記各回転要素が回転停止する駆動状態(すなわち、連れ回りが防止される2WD走行)は、前記所定の回転要素が回転停止するディスコネクト状態である。このディスコネクト状態での2WD走行を2WD_d走行と記載する。尚、2WD_d走行において、カップリング54が解放された状態であっても多板クラッチ54cの引き摺りによって前記所定の回転要素を完全に回転停止させることができない可能性があるが、ディスコネクト機構は、所定の回転要素を回転停止させる為に(つまり回転停止させることを狙って)設けられているものであり、所定の回転要素を回転停止させるということには結果的に所定の回転要素の回転が多少発生した状態も含んでいる。
又、車両10では、フロント側クラッチ40が係合される一方でカップリング54が解放されると、或いはフロント側クラッチ40が解放される一方でカップリング54が係合されると、後輪16に動力は伝達されない。従って、前輪14のみが駆動する2WD走行となる。このような2WD走行では、第2回転部材38からデフケース32cまでの動力伝達経路を構成する各回転要素が連れ回される。その為、2WD走行であるもののプロペラシャフト28等が連れ回される分だけ燃費が低下する。しかしながら、2WD走行から4WD走行へ切り替える際には、カップリング54を接続するだけで済み、速やかな切替えが可能となる。
車両10は、フロント側クラッチ40の断接状態、乃至カップリング54の伝達トルクが車両10の走行状態に応じて制御されることで、2WD走行と4WD走行との間で切り替えられる。
又、車両10は、複数のシフトポジションPsh、例えば駐車ポジション「P」、後進走行ポジション「R」、ニュートラルポジション「N」、及び前進走行ポジション「D」等へ操作される操作子としてのシフトレバー56を備えている。シフトレバー56は、例えばリンクやケーブル等の連動機構を介して不図示のマニュアルバルブのスプールを移動させることにより、変速機18の油圧制御回路の油路を切り換える。シフトレバー56が駐車ポジション「P」へ操作されると、変速機18のシフトレンジは、変速機18内の動力伝達経路が遮断され、且つ、図2に示すような車両10に備えられたパーキング機構60によりパーキングギヤ18p(つまりパーキングギヤ18pと一体の出力歯車18a)の回転、延いては前輪14の回転を機械的に阻止するパーキングロックが実行される駐車レンジ(以下、Pレンジという)へ切り替えられる。シフトレバー56が後進走行ポジション「R」へ操作されると、変速機18のシフトレンジは、変速機18内の動力伝達経路が車両10を後進させる為の動力伝達が可能な動力伝達可能状態とされる後進走行レンジ(以下、Rレンジという)へ切り替えられる。シフトレバー56がニュートラルポジション「N」へ操作されると、変速機18のシフトレンジは、変速機18内の動力伝達経路が遮断されるニュートラル状態とする為の中立レンジであるニュートラルレンジ(以下、Nレンジという)へ切り替えられる。シフトレバー56が前進走行ポジション「D」へ操作されると、変速機18のシフトレンジは、変速機18内の動力伝達経路が車両10を前進させる為の動力伝達が可能な動力伝達可能状態とされる前進走行レンジ(以下、Dレンジという)へ切り替えられる。Dレンジ及びRレンジは、車両10を走行させる為の走行レンジであり、Pレンジ及びNレンジは、車両10を走行させない為の非走行レンジである。
図2において、パーキング機構60は、パーキングギヤ18pと、パーキングギヤ18pに噛み合わされて出力歯車18aの回転を阻止するロック歯としてのロックポール62と、ロックカム64と、支持ピン66とを備えている。ロックポール62は、ロックカム64により支持ピン66まわりに回動させられる。ロックカム64は、例えばシフトレバー56の操作によりリンクやケーブル等の連動機構を介して回転させられる不図示のシャフトの回転に伴って、機械的に矢印A方向に沿って移動させられる。シフトレバー56が駐車ポジション「P」へ操作されることにより、ロックカム64が矢印Aの方向に押され、そのロックカム64によりロックポール62が矢印Bの方向に押し上げられる。ロックポール62がパーキングギヤ18pと噛み合う位置まで押し上げられると、パーキングギヤ18pと連動して回転する前輪14の回転が機械的に阻止され、変速機18のシフトレンジがPレンジに切り替えられる。
図1において、車両10には、例えば車両10の走行状態に応じてフロント側クラッチ40及びカップリング54の作動状態を切り替える車両10の制御装置を含む電子制御装置100が備えられている。電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置100は、エンジン12の出力制御、変速機18の変速制御、車両10の駆動状態の切替制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や変速制御用や駆動状態制御用等に分けて構成される。電子制御装置100には、図1に示すように、車両10に備えられた各種センサ(例えば各種回転速度センサ70,72,74,76,78、アクセル開度センサ80、スロットル弁開度センサ82、Gセンサ84、ヨーレートセンサ86、ステアリングセンサ88、シフトポジションセンサ90、各種温度センサ92,94,96,98など)による検出信号に基づく各種実際値(例えばエンジン回転速度Ne、変速機入力回転速度Nin、変速機出力回転速度Nout、プロペラシャフト回転速度Np、前輪14L,14R及び後輪16L,16Rの各車輪速Nwfl,Nwfr,Nwrl,Nwrrに対応する各車輪速Nw、アクセル開度θacc、スロットル弁開度θth、車両10の前後加速度Gx、車両10の左右加速度Gy、車両10の鉛直軸まわりの回転角速度であるヨーレートRyaw、ステアリングホイールの操舵角θsw及び操舵方向、シフトレバー56の操作位置であるシフトポジションPsh、外気温THair、エンジン12の温度に対応する冷却水温THeng、変速機18の温度に対応する作動油温THat、カップリング54の温度であるクラッチ温度THcltなど)が、それぞれ供給される。電子制御装置100からは、図1に示すように、例えばエンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号Se、フロント側クラッチ40の状態を切り替える為の作動指令信号Sd、カップリング54(多板クラッチ54c)の係合力を制御する為の係合力指令信号Scなどが、燃料噴射装置、点火装置、スロットルアクチュエータ等のエンジン制御装置、フロント側アクチュエータ50、カップリング54を駆動する不図示の電磁ソレノイドなどへそれぞれ出力される。尚、電子制御装置100は、各車輪速Nwに基づいて、各種実際値の1つとして、車両10の速度V(以下、車速Vという)を算出する。電子制御装置100は、例えば各車輪速Nwの平均車輪速を車速Vとする。
図3は、電子制御装置100による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図3において、電子制御装置100は、駆動状態判定手段すなわち駆動状態判定部102、駆動力演算手段すなわち駆動力演算部104、クラッチ制御手段すなわちクラッチ制御部106、及び変速制御手段すなわち変速制御部108を備えている。
駆動状態判定部102は、前記各種信号等の情報に基づいて車両10の最適な駆動状態を判断する。具体的には、駆動状態判定部102は、アクセル開度θacc及び車速V等に基づいて、車両10の駆動力変化が予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された(すなわち予め定められた)駆動力変化閾値よりも小さい定常走行状態にあると判断した場合には、車両10の駆動状態を、フロント側クラッチ40とカップリング54とが共に解放されたディスコネクト状態にて走行する2WD走行である2WD_d走行とするよう判定する。一方で、駆動状態判定部102は、駆動力変化が前記駆動力変化閾値を超えていると判断した場合には、車両10の駆動状態を、フロント側クラッチ40を係合し且つカップリング54を係合乃至スリップ係合して走行する4WD走行とするよう判定する。又、駆動状態判定部102は、操舵角θsw、左右加速度Gy、及びヨーレートRyawの各絶対値が、各々、車両旋回中であることを判断する為の予め定められた各旋回判定閾値θswth、Gyth、Ryawth以上となっているか否かに基づいて車両10が旋回中であるか否かを判断し、車両10が旋回中でないと判断した場合には、車両10の駆動状態を、2WD_d走行とするよう判定する。又、駆動状態判定部102は、各車輪速Nwに基づいて、各車輪間に、車両10の駆動状態を4WD走行とした方が良いことを判断する為の予め定められた4WD判定閾値としての所定車輪速度差が生じたか否かを判断し、各車輪間における回転速度差の何れかがその所定車輪速度差を超えたと判断した場合には、車両10の駆動状態を4WD走行とするよう判定する。又、駆動状態判定部102は、操舵角θswの絶対値が車両10を旋回させるように運転者によってステアリングホイールが操舵されたことを判断する為の予め定められた操舵判定閾値としての所定操舵角θswth2以上であるか否かに基づいて車両10の操舵時であるか否かを判定し、車両10の操舵時であると判定した場合には、車速Vや操舵角θswなどに基づいて算出した目標ヨーレートRyawtgtと、実際のヨーレートRyawとを比較して、アンダーステア状態及びオーバーステア状態の何れかの車両挙動となっているか否かを判断する。そして、駆動状態判定部102は、アンダーステア状態かオーバーステア状態かの何れかが発生したと判断した場合には、車両10の駆動状態を4WD走行とするよう判定する。このように、駆動状態判定部102は、2WD_d走行中に、4WD走行(以下、特に区別しない場合には、フロント側クラッチ40が係合され且つカップリング54の伝達トルクが略零とされる2WD走行を含む)への切替え要求が有るか否かを判断する四輪駆動要求判定手段すなわち四輪駆動要求判定部として機能する。
駆動力演算部104は、前記各種信号等の情報に基づいて最適な前後輪の駆動力配分を算出する。具体的には、駆動力演算部104は、エンジン回転速度Ne及びスロットル弁開度θth等に基づいてエンジントルクTeの推定値(推定エンジントルク)Tepを算出し、最大限の加速性能が確保されるように前後輪の駆動力配分を算出する。駆動力演算部104は、駆動状態判定部102により2WD_d走行とするよう判定された場合には、後輪16への駆動力配分を零とする。又、駆動力演算部104は、スロットル弁開度θth、車速V、各車輪速Nwなどに基づいて、運転者の操作状況や車両10の駆動力変化が安定していると判定した場合には、後輪16への駆動力配分を低下させて、前輪駆動に近い状況にして燃費を向上させる。又、駆動力演算部104は、低速での旋回時においてタイトブレーキング現象を防止する為、後輪16への駆動力配分を低下させる。
クラッチ制御部106は、駆動状態判定部102により判断された駆動状態、及び駆動力演算部104により算出された前後輪の駆動力配分となるように、フロント側クラッチ40の断接状態を切り替えるフロント側アクチュエータ50、、及びカップリング54の伝達トルクを制御する不図示の電磁ソレノイドに、各指令信号を出力する。具体的には、クラッチ制御部106は、駆動状態判定部102により2WD_d走行とするよう判定された場合には、フロント側クラッチ40を解放すると共にカップリング54の伝達トルクを零とする指令を、フロント側アクチュエータ50及び上記電磁ソレノイドにそれぞれ出力する。クラッチ制御部106は、駆動状態判定部102により4WD走行とするよう判定された場合には、駆動力演算部104により算出された前後輪の駆動力配分での4WD走行となるように、フロント側クラッチ40を接続(係合)すると共にカップリング54の伝達トルクを制御する指令を、フロント側アクチュエータ50及び上記電磁ソレノイドにそれぞれ出力する。
特に、2WD_d走行から4WD走行への移行に際して、先ず、クラッチ制御部106は、前記ディスコネクト状態を解除するときは、カップリング54に伝達トルクを発生させる指令を上記電磁ソレノイドに出力して、カップリング54を係合に向けて制御する。これは、フロント側クラッチ40を接続する為に、略回転停止中のプロペラシャフト28の回転速度を引き上げて、フロント側クラッチ40における相対する回転部材(第1回転部材36及び第2回転部材38)の回転速度の同期を図る為である。その後、クラッチ制御部106は、フロント側クラッチ40における相対する回転部材の回転速度の同期を判定した場合には、フロント側クラッチ40を接続する指令をフロント側アクチュエータ50に出力する。そして、クラッチ制御部106は、駆動力演算部104により算出された前後輪の駆動力配分となるように、カップリング54に伝達トルクを発生させる指令を上記電磁ソレノイドに出力する。上述した、2WD_d走行から4WD走行へ移行するときの一連の制御手順は、通常の4WD移行制御手順である。
クラッチ制御部106は、例えばプロペラシャフト回転速度Npがフロント側クラッチ40における相対する回転部材の回転速度を同期させる回転速度に到達したか否かに基づいて、フロント側クラッチ40における相対する回転部材の回転速度が同期したか否かを判定する。上記同期させる回転速度は、例えば第1回転部材36の回転速度から同期可能最大回転速度差ΔNsyncを減算した同期可能回転速度を、プロペラシャフト28上の回転速度に換算した同期判定閾値N1である。又、第1回転部材36の回転速度は、不図示の回転速度センサによって直接的に検出された回転速度であっても良いし、変速機出力回転速度Noutから換算された回転速度であっても良い。又、同期可能最大回転速度差ΔNsyncは、例えばフロント側クラッチ40の接続(係合)が可能である、第1回転部材36の回転速度と第2回転部材38の回転速度との回転速度差の絶対値の最大値として予め定められた同期許容回転速度差である。従って、クラッチ制御部106は、第1回転部材36の回転速度に基づいて同期判定閾値N1を算出し、プロペラシャフト回転速度Npが同期判定閾値N1を超えたか否かに基づいて、フロント側クラッチ40における相対する回転部材の回転速度が同期したか否かを判定する。
変速制御部108は、例えば変速機18のシフトレンジを、シフトレバー56のシフトポジションPshに基づいて切り替える。具体的には、変速機18が複数の係合装置(以下、ATクラッチ18c(図1参照)という)の係合と解放との組み合わせにより所定のギヤ段が形成される自動変速機である場合を一例として、説明する。
変速制御部108は、シフトポジションPshが前進走行ポジション「D」であるときには、Dレンジを成立させて自動変速制御を実行する。変速制御部108は、この自動変速制御では、所定の変速マップに基づいて所定の前進走行用のギヤ段を形成する為の所定の係合要素としての所定のATクラッチ18cを係合する。変速機18のDレンジへのレンジ切替えに伴って、所定のATクラッチ18cの係合が完了させられると、所定の前進走行用のギヤ段が成立させられる。又、変速制御部108は、シフトポジションPshが後進走行ポジション「R」であるときには、Rレンジを成立させて、所定の後進走行用のギヤ段を形成する為の所定のATクラッチ18cを係合する。変速機18のRレンジへのレンジ切替えに伴って、所定のATクラッチ18cの係合が完了させられると、所定の後進走行用のギヤ段が成立させられる。又、変速制御部108は、シフトポジションPshが駐車ポジション「P」或いはニュートラルポジション「N」であるときには、Pレンジ或いはNレンジを成立させて、変速機18内の動力伝達経路が遮断されるようにATクラッチ18cの状態を切り替える。変速機18のNレンジへのレンジ切替えに伴って、ATクラッチ18cの状態の切替えが完了させられると、変速機18内の動力伝達経路が遮断される。変速機18のPレンジへのレンジ切替えに伴って、変速機18内の動力伝達経路が遮断されることに加え、パーキング機構60においてパーキングギヤ18pにロックポール62が噛み合わされると、出力歯車18aの回転が阻止される。変速機18において、パーキングギヤ18pとロックポール62とは所定の係合要素として機能する。このように、変速機18は、複数種類のシフトレンジに応じて所定の係合要素が係合される。
ところで、4WD状態とされている場合に、変速機18の走行レンジ切替えが行われると、レンジ切替え時トルクが後輪16側の動力伝達経路へ入力される。走行レンジ切替え時にエンジントルクTeが大きかったり、エンジン回転速度Neが高かったりすると、大きなトルクが後輪16側の動力伝達経路へ入力されるおそれがある。このような大きなトルクが後輪16側の動力伝達経路へ入力されることを想定して、後輪16側の動力伝達経路の構成部品を高強度とすると、その構成部品の体格が増大したり、その構成部品の重量増により燃費悪化を招くおそれがある。又、別の見方では、FFベースの四輪駆動車両で考えると、後輪16側の動力伝達経路は補助的なものとなるので、その後輪16側の動力伝達経路のハード構成が重厚になることを避けたい。本実施例では、このような観点から、動力性能(ドライバビリティ)よりも後輪16側の動力伝達経路の構成部品の保護を優先する実施態様を提案する。尚、変速機18の走行レンジ切替えは、非走行レンジ(P,Nレンジ)から走行レンジ(R,Dレンジ)への切替え(PorN→RorDレンジ)である。又、変速機18の走行レンジ切替えは、DレンジとRレンジとの間の切替え(R→Dレンジ,D→Rレンジ)も含む。又、N→RorDレンジやR→DレンジやD→Rレンジについては、停車中も走行中も含む。
電子制御装置100は、変速機18の走行レンジ切替えの際には、前記断接機構を解放するか或いは前記断接機構の解放を維持して車両10を2WD状態とし、変速機18の走行レンジ切替えに伴う所定のATクラッチ18cの係合完了後に、必要に応じて前記断接機構を係合して車両10を4WD状態とする。尚、ここでの上記2WD状態では、少なくともフロント側クラッチ40が解放されれば良い。
具体的には、電子制御装置100は、更に、走行状態判定手段すなわち走行状態判定部110、及び待機指令手段すなわち待機指令部112を備えている。
走行状態判定部110は、例えば変速機18がD,R,Nレンジの何れかとされており且つ車速Vが0[km/h]を超えているか否かを判定する。又、走行状態判定部110は、例えばシフトポジションPshに基づいて、変速機18を走行レンジへ切り替える為のシフト操作(以下、走行レンジ切替操作という)が為されたか否かを判定する。又、走行状態判定部110は、例えば車両10が2WD状態であるか或いは4WD状態であるかを判定する。
クラッチ制御部106は、例えば走行状態判定部110により、変速機18がD,R,Nレンジの何れかとされており且つ車速Vが0[km/h]を超えていると判定され、走行レンジ切替操作が為されたと判定され、且つ車両10が4WD状態であると判定された場合には、2WDへの切替え制御(例えばフロント側クラッチ40を解放する制御)を実行する。
待機指令部112は、例えば走行状態判定部110により走行レンジ切替操作が為されたと判定された場合には、必要に応じて、その走行レンジ切替操作に応じた変速機18の走行レンジ切替えに伴う変速機18の制御(すなわち所定のATクラッチ18cの係合制御)を待機する指示(指令)を変速制御部108へ出力する。又、待機指令部112は、例えば走行状態判定部110により車両10が2WD状態であると判定された場合には、4WDへの切替え制御(例えばフロント側クラッチ40を係合する制御)を禁止する指示をクラッチ制御部106へ出力する。
待機指令部112は、例えば4WDへの切替え制御を禁止する指示を出力した後、或いはクラッチ制御部106によるフロント側クラッチ40の解放が完了した後、前記待機する指示に替えて、前記走行レンジ切替操作に応じた変速機18の走行レンジ切替えに伴う変速機18の制御を許可する指示を変速制御部108へ出力する。すなわち、変速制御部108による前記走行レンジ切替えに伴う所定のATクラッチ18cの係合開始は、4WDへの切替え制御を禁止する指示が出力されるまで、或いはフロント側クラッチ40の解放が完了するまで、待機させられる。これにより、変速機18の走行レンジ切替えに伴う所定のATクラッチ18cの係合時には、後輪16側の動力伝達経路が確実に遮断されている。尚、上記「フロント側クラッチ40の解放が完了するまで」に替えて、「前記走行レンジ切替操作後(すなわち走行レンジ切替え後)にフロント側クラッチ40の解放が完了する時間として予め定められた所定時間経過するまで」としても良い。又、4WDへの切替え制御を禁止する指示は、変速制御部108による前記走行レンジ切替えに伴う所定のATクラッチ18cの係合完了後に、解除される。
図4は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわち後輪16側の動力伝達経路の構成部品の耐久性低下を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。図5及び図6は、図4のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例である。
図4において、先ず、走行状態判定部110に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、例えば変速機18がD,R,Nレンジの何れかとされており且つ車速Vが0[km/h]を超えているか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS10の判断が肯定される場合は走行状態判定部110に対応するS20において、例えば走行レンジ切替操作に応じた変速機18の走行レンジ切替えが為されたか否かが判定される。このS20の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS20の判断が肯定される場合(図5のt2時点、図6のt1時点参照)は待機指令部112に対応するS30において、例えば上記走行レンジ切替えに伴う変速機18の制御(すなわち所定のATクラッチ18cの係合制御)を待機する指示が出力される(図6のt1時点乃至t3時点参照)。次いで、走行状態判定部110に対応するS40において、例えば車両10が2WD状態であるか或いは4WD状態であるかが判定される。このS40にて2WD状態であると判定された場合は待機指令部112に対応するS50において、例えば4WDへの切替え制御を禁止する指示が出力される(図5のt2時点乃至t3時点参照)。一方で、このS40にて4WD状態であると判定された場合はクラッチ制御部106に対応するS60において、例えば前記断接機構が遮断(解放)されて4WDから2WDへ切り替えられる(図6のt2時点参照)。上記S50或いは上記S60に次いで、待機指令部112に対応するS70において、例えば上記S30にて為された変速機18の制御を待機する指示が解除され、上記走行レンジ切替えに伴う変速機18の制御を許可する指示が出力される(図5のt2時点、図6のt3時点参照)。次いで、変速制御部108に対応するS80において、例えば上記走行レンジ切替えに伴う所定のATクラッチ18cの係合が完了させられる。次いで、駆動状態判定部102に対応するS90において、例えば4WD状態への切替え要求が有るか否かが判断される。このS90の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS90の判断が肯定される場合はクラッチ制御部106に対応するS100において、例えば前記断接機構が係合されて2WDから4WDへ切り替えられる(図5のt3時点、図6のt4時点参照)。
図5において、t1時点は、2WD走行中に4WD状態への切替え要求が為されたことを示している。t1時点から、カップリング54の係合によりプロペラシャフト28がフロント側クラッチ40の同期回転速度に向けて上昇させられる。又、t2時点は、R→Dシフト操作(走行レンジ切替操作)に応じたR→Dレンジ切替えに伴って所定のATクラッチ18cが係合開始されたことを示している。比較例では、その同期回転速度に到達後、フロント側クラッチ40が係合される。しかしながら、本実施例では、t2時点でのR→Dレンジ切替えに伴って4WD状態への切替えが禁止されるので、フロント側クラッチ40が係合されない。その為、比較例では、t2時点乃至t3時点に示すように、レンジ切替え時トルクが後輪16側の動力伝達経路へ入力されるが、本実施例では、レンジ切替え時トルクが後輪16側の動力伝達経路へ入力されない。加えて、比較例では、レンジ切替え時トルクに重なるように、4WD切替えに伴って一時的に発生するトルク(以下、4WD切替え時トルクという)も後輪16側の動力伝達経路へ入力される。本実施例では、所定のATクラッチ18cの係合完了後に、4WD状態への切替え禁止が解除されて4WD状態へ切り替えられ、4WD切替え時トルクのみが単独で後輪16側の動力伝達経路へ入力される。
図6において、t1時点は、4WD走行中にR→Dシフト操作に応じたR→Dレンジ切替えが為されたことを示している。比較例では、t1時点にてR→Dレンジ切替えに伴って所定のATクラッチ18cが係合開始される。しかしながら、本実施例では、R→Dレンジ切替えに伴う所定のATクラッチ18cの係合制御が待機させられ、その待機中のt2時点にて2WD状態へ切り替えられ、2WD中のt3時点にて所定のATクラッチ18cが係合開始される。その為、比較例では、t1時点乃至t4時点に示すように、レンジ切替え時トルクが後輪16側の動力伝達経路へ入力されるが、本実施例では、レンジ切替え時トルクが後輪16側の動力伝達経路へ入力されない。そして、本実施例では、所定のATクラッチ18cの係合完了後に、4WD状態への切替え要求に従って4WD状態へ切り替えられ、4WD切替え時トルクのみが単独で後輪16側の動力伝達経路へ入力される。
ここで、図4に示すフローチャートは、後輪16側の動力伝達経路へ大きなトルクが入力される可能性があるときに実行するようにしても良い。後輪16側の動力伝達経路へ大きなトルクが入力される可能性があるときとは、例えばエンジントルクTeが大きいときである。又、大きなトルクが入力される可能性があるときとは、例えばN,Pレンジ時にあるときに、エンジン12が空吹かし状態(レーシング状態)とされているときである。従って、電子制御装置100は、変速機18の走行レンジ切替えの際には、エンジン回転速度Ne、変速機18のレンジ切替えに伴う所定のATクラッチ18cの係合開始時のエンジン回転速度Neと変速機18のレンジ切替えに伴う所定のATクラッチ18cの係合完了時のエンジン回転速度Neとの回転速度差、及び運転者による車両10に対する駆動要求量のうちの何れかが各々の所定値以上である場合に、前記断接機構を解放するか或いは前記断接機構の解放を維持する。前記駆動要求量は、例えばアクセル開度θaccや車速Vに基づいて電子制御装置100により算出される要求駆動力[N]、要求駆動トルク[Nm]、要求駆動パワー[W]等である。又、前記駆動要求量として、単にアクセル開度θacc[%]やスロットル弁開度θth[%]や吸入空気量[g/sec]等を用いることもできる。前記所定値は、例えば後輪16側の動力伝達経路へ大きなトルクが入力される可能性があることを判定する為の予め定められた判定閾値である。
又、図4に示すフローチャートは、後輪16側の動力伝達経路へ入力されるトルクをカップリング54により適切に制御し難いときに実行するようにしても良い。後輪16側の動力伝達経路へ入力されるトルクをカップリング54により適切に制御し難いときとは、例えばカップリング54の作動油の粘度が高くされるカップリング54の冷間時である。従って、電子制御装置100は、外気温THair、冷却水温THeng、作動油温THat、及びクラッチ温度THcltのうちの何れかが各々の所定値以下である場合に、前記断接機構を解放するか或いは前記断接機構の解放を維持する。前記所定値は、例えば後輪16側の動力伝達経路へ入力されるトルクをカップリング54により適切に制御し難いことを判定する為の予め定められた判定閾値である。
上述のように、本実施例によれば、変速機18の走行レンジ切替え時には後輪16側の動力伝達経路が遮断されているので、レンジ切替え時トルクが後輪16側の動力伝達経路へ入力されることが回避される。よって、後輪16側の動力伝達経路の構成部品の耐久性低下を抑制することができる。
次に、本発明の他の実施例を説明する。尚、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
走行中における変速機18の駐車レンジ切替え(Pレンジ切替え)が行われると、レンジ切替え時トルクが後輪16側の動力伝達経路へ入力される。例えば、車両走行中にシフトレバー56が駐車ポジション「P」へ操作された場合、エンゲージ車速Veを超える車速Vではパーキングギヤ18pがラチェット状態とされ、エンゲージ車速Ve以下の低車速となるとパーキングギヤ18pがロック状態とされる。従って、車両走行中にPレンジ切替えに伴ってパーキングギヤ18pとロックポール62とが係合完了すると、パーキングギヤ18pでは相応の車両10の走行エネルギーを受け止めることになり、4WD状態であれば後輪16側の動力伝達経路へもレンジ切替え時トルクが入力される。その為、走行中における変速機18のPレンジ切替えにおいても、変速機18の走行レンジ切替えと同様に、大きなトルクが後輪16側の動力伝達経路へ入力されるおそれがある。尚、走行中における変速機18のPレンジ切替えは、走行中におけるNレンジからPレンジへの切替え(N→Pレンジ)、又は走行中における走行レンジ(R,Dレンジ)からPレンジへの切替え(RorD→Pレンジ)である。又、上記ラチェット状態とは、ロックポール62がパーキングギヤ18pに向かって押し上げられるが、パーキングギヤ18pと噛み合えず、ロック状態に至っていない状態のことである。又、上記エンゲージ車速Veは、例えばパーキングギヤ18pがラチェット状態からロック状態とされる車速として(すなわちロックポール62とパーキングギヤ18pとの係合が可能な車速として)予め定められた係合車速である。
本実施例では、前述の実施例の制御態様における変速機18の走行レンジ切替えが、走行中における変速機18のPレンジ切替えに読み替えられる。つまり、電子制御装置100は、走行中における変速機18のPレンジ切替えの際には、前記断接機構を解放するか或いは前記断接機構の解放を維持して車両10を2WD状態とし、変速機18のPレンジ切替えに伴うロックポール62とパーキングギヤ18pとの係合完了後に、必要に応じて前記断接機構を係合して車両10を4WD状態とする。尚、本実施例では、各レンジ切替操作に応じた変速機18の各レンジ切替えは、パーキング機構60における切替制御を含め、電気制御により変速機18のシフトレンジを切り換えるシフトバイワイヤ(SBW)方式を採用している。
図7は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわち後輪16側の動力伝達経路の構成部品の耐久性低下を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
図7において、先ず、走行状態判定部110に対応するSB10において、例えば変速機18がD,R,Nレンジの何れかとされており且つ車速Vが0[km/h]を超えているか否かが判定される。このSB10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このSB10の判断が肯定される場合は走行状態判定部110に対応するSB20において、例えばPレンジ切替操作が為されたか否かが判定される。このSB20の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このSB20の判断が肯定される場合は待機指令部112に対応するSB30において、例えば上記Pレンジ切替操作に応じたPレンジ切替えに伴う変速機18及びパーキング機構60の制御を待機する指示が出力される。次いで、走行状態判定部110に対応するSB40において、例えば車両10が2WD状態であるか或いは4WD状態であるかが判定される。このSB40にて2WD状態であると判定された場合は待機指令部112に対応するSB50において、例えば4WDへの切替え制御を禁止する指示が出力される。一方で、このSB40にて4WD状態であると判定された場合はクラッチ制御部106に対応するSB60において、例えば前記断接機構が遮断(解放)されて4WDから2WDへ切り替えられる。上記SB50或いは上記SB60に次いで、待機指令部112に対応するSB70において、例えば上記SB30にて為された変速機18及びパーキング機構60の制御を待機する指示が解除され、上記Pレンジ切替えに伴う変速機18及びパーキング機構60の制御を許可する指示が出力される。次いで、走行状態判定部110に対応するSB80において、例えばロックポール62とパーキングギヤ18pとの係合完了に伴って車速Vが0[km/h]とされる。次いで、駆動状態判定部102に対応するSB90において、例えば4WD状態への切替え要求が有るか否かが判断される。このSB90の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このSB90の判断が肯定される場合はクラッチ制御部106に対応するSB100において、例えば前記断接機構が係合されて2WDから4WDへ切り替えられる。
ここで、図7に示すフローチャートは、後輪16側の動力伝達経路へ大きなトルクが入力される可能性があるときに実行するようにしても良い。後輪16側の動力伝達経路へ大きなトルクが入力される可能性があるときとは、例えば走行中にパーキング機構60においてラチェット状態からロック状態とされるときである。従って、電子制御装置100は、走行中における変速機18のPレンジ切替えの際には、走行中の車速Vが、エンゲージ車速Ve乃至そのエンゲージ車速Veよりも所定値分高い所定車速以下である場合に、前記断接機構を解放するか或いは前記断接機構の解放を維持する。前記所定車速は、例えばエンゲージ車速Veのばらつき分を反映して予め定められた所定値をエンゲージ車速Veに加えて予め定められた値である。
上述のように、本実施例によれば、変速機18のPレンジ切替え時には後輪16側の動力伝達経路が遮断されているので、レンジ切替え時トルクが後輪16側の動力伝達経路へ入力されることが回避される。よって、後輪16側の動力伝達経路の構成部品の耐久性低下を抑制することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例において、各実施例が独立して実施されているが、上記各実施例は必ずしも独立して実施する必要はなく、適宜組み合わせて実施しても構わない。例えば、電子制御装置100は、変速機18の走行レンジ切替えの際にも、走行中における変速機18のPレンジ切替えの際にも、前記断接機構(ここでは、フロント側クラッチ40及びカップリング54のうちの少なくとも一方)を解放するか或いは前記断接機構の解放を維持して車両10を2WD状態とし、変速機18のレンジ切替えに伴う所定の係合要素の係合完了後に、必要に応じて前記断接機構を係合して車両10を4WD状態とする。
また、前述の実施例における図4のフローチャートでは、S10において走行中のD,R,Nレンジが肯定されることを条件としたが、このような態様に限らない。例えば、走行中のD,R,Nレンジ、或いは停車中のD,R,N,Pレンジが肯定されることを条件としても良い。S10において停車中のD,R,N,Pレンジが肯定される場合、S20ではP→DorRレンジとなる走行レンジ切替操作が為されたか否かも判定される。このように、図4,7のフローチャートにおいて、各ステップの実行態様等は差し支えのない範囲で適宜変更することができる。
また、前述の実施例では、走行中の車速Vが、エンゲージ車速Ve乃至そのエンゲージ車速Veよりも所定値分高い所定車速以下である場合に、本発明を実施する態様を例示したが、このような態様に限らない。例えば、走行中に変速機18がPレンジへ切り替えられる場合のレンジ切替え時トルクは、車速Vが高い程大きくなると考えられる。その為、エンゲージ車速Ve以下の車速領域において、相対的に低い車速域では本発明を実施せず、レンジ切替え時トルクが大となる相対的に高い車速域で本発明を実施するというような態様も考えられる。
また、前述の実施例では、カップリング54は、リヤデフ32と左側の後輪車軸34Lとの間に設けられていたが、この態様に限らない。例えば、カップリング54は、プロペラシャフト28とドライブピニオン30との間に設けられたり、リングギヤ32rとデフケース32cとの間に設けられたり、リングギヤ32rと左右の後輪車軸34L,34Rとの間に各々1つずつ設けられたりしても良い。カップリング54が上記各々1つずつ設けられる態様では、デフケース32cや差動機構32dは必ずしも必要ない。又、リングギヤ32rと後輪車軸34との間に、ディスコネクト機構として更に別の断接機構(例えばドグクラッチ)が設けられても良い。ところで、別の断接機構(ここではドグクラッチ)を備えていない車両10では、2WD_d走行において、カップリング54が解放された状態であっても多板クラッチ54cの引き摺りが生じる為に、前記所定の回転要素(例えばプロペラシャフト28等)を完全に回転停止させることができない可能性がある。前記ディスコネクト機構は、所定の回転要素を回転停止させる機構であることが望ましいが、上述したような引き摺り等に因って回転が多少発生した状態としてしまう機構も含んでいる。尚、別の断接機構(ここではドグクラッチ)を備えることは、このような引き摺り等に因る回転を防止するということでは、有用である。
また、前述の実施例では、カップリング54は、電子制御カップリングであったが、これに限らない。例えば、カップリング54は、シンクロ機構付のドグクラッチであっても良い。又、前述の実施例では、フロント側クラッチ40は、シンクロ機構が備えられていても構わないとしたが、この場合には、4WD走行への移行が判断された時点からフロント側クラッチ40を係合開始することができる。又、前記断接機構は、フロント側クラッチ40及びカップリング54であったが、車両10は、前記断接機構として、フロント側クラッチ40及びカップリング54のうちの少なくとも一方を備えておれば、本発明は適用され得る。
また、前述の実施例では、フロント側クラッチ40は、電磁ドグクラッチであったが、これに限らない。例えば、フロント側クラッチ40は、スリーブを軸方向に移動させるシフトフォークを備え、電気制御可能な或いは油圧制御可能なアクチュエータによって、そのシフトフォークが駆動される形式のドグクラッチであっても良い。又、フロント側クラッチ40は、ドグクラッチであったが、これに限らない。フロント側クラッチ40は、回転要素間を断接する構成であれば適宜適用することができる。
また、前述の実施例では、車両10は、前輪14に常時動力が伝達され、後輪16が副駆動輪となる構造となっているが、これに限らない。例えば、車両10は、後輪16に常時動力が伝達され、前輪14が副駆動輪となる構造であっても構わない。例えば、車両10は、FRベースの四輪駆動車両であっても良い。
また、前述の実施例では、変速機18として、遊星歯車式多段変速機、無段変速機、同期噛合型平行2軸式変速機(公知のDCT含む)などの種々の自動変速機を例示したが、この態様に限らない。例えば、変速機18は、エンジン12に連結される差動機構と、エンジン12が連結される回転要素とは別の、その差動機構の回転要素に連結される電動機とを有して、その電動機の制御により電気的に変速比を変更することができる電気的無段変速機などであっても良い。この電気的無段変速機では、Pレンジ切替えに伴って係合される所定の係合要素を有しているので、少なくとも実施例2の実施態様を適用することができる。
また、前述の実施例では、駆動力源として、燃料の燃焼によって動力を発生する内燃機関であるガソリンエンジン等を例示したが、例えば電動機等の他の原動機を単独で或いはエンジンと組み合わせて採用することもできる。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。