JP6274526B2 - 非水電解液二次電池およびその製造方法 - Google Patents
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Description
この種の非水電解液二次電池の典型例として、正極活物質を含む正極活物質層が表面に形成された長尺シート状の正極集電箔(典型的にはアルミ箔)と、負極活物質を含む負極活物質層が表面に形成された長尺シート状の負極集電箔(典型的には銅箔)とを、同じく長尺シート形状のセパレータとともに積層し、さらにシート長手方向に捲回して構成されたいわゆる捲回電極体を備えるものが挙げられる。
かかる捲回電極体を備える非水電解液二次電池は、該捲回電極体を非水電解液とともに所定の電池ケースに収容することにより構築される。ここで非水電解液は、主として捲回電極体の捲回軸方向(即ち捲回電極体を構成する長尺シート状正負極箔のシート長手方向に直交する幅方向)の両端部から電極体の内部(即ち、正負極とセパレータとの間)に含浸される。そして、構築後の非水電解液二次電池は、実際に使用可能な状態に調整するため、適切な条件での初期充電処理が施される。
例えば特許文献1には、被膜形成剤として、リチウムビス(オキサラト)ボレート(Li[B(C2O4)2]:以下「LiBOB」と記す。)を非水電解液中に含む非水電解液二次電池が開示されている。このようなLiBOB等のオキサラトボレート錯体は、初期充放電により負極活物質層の表面に化学的に安定なSEI被膜を形成し得る。かかるSEI被膜は、電解液と活物質との間の電荷担体の移動を可能としつつ負極の表面を保護し、さらなる非水電解液の分解を安定的に抑制し得る。そのため、負極活物質層の全体に亘ってLiBOB等のオキサラトボレート錯体由来のSEI被膜を備える電池は、安定性および耐久性が向上され得るために好ましい。
即ち、捲回電極体を構成する正極、負極およびセパレータを作製する際に用いられる原料には、Na成分(例えばNa塩)を含むものが多い。従って、捲回電極体に非水電解液を含浸させると、先ず、Na成分が電極体から非水電解液中に溶出する。非水電解液に溶出したNa成分(典型的にはNaイオン)は、非水電解液の捲回電極体中での移動に従って移動する。典型的には非水電解液は捲回軸方向の両端から中心に向けて含浸してゆくので、Na成分(Naイオン)もそれに合わせて捲回軸方向の中心付近に移動していく。このとき、Na成分(Naイオン)と比較して、オキサラトボレート錯体(典型的には[B(C2O4)2]−のような錯イオン)の捲回電極体中における移動(浸透)速度は、Na成分(Naイオン)の移動(浸透)速度よりも遅い。このため、捲回電極体の捲回軸方向の中心付近では、非水電解液の到達に因るNa成分(Naイオン)の高濃度化が起こり、その後にオキサラトボレート錯体が遅れて到達する結果、難溶性の当該オキサラトボレート錯体のナトリウム塩(例えばナトリウムビス(オキサラト)ボレート Na[B(C2O4)2]:以下「NaBOB」と記す。)が優先的に形成されてしまい、所望のSEI被膜の形成が困難となる或いは被膜形成量が著しく減少する事態となっていた。
そして、捲回電極体の捲回軸方向(上記幅方向)の特に正極集電側の端部からの非水電解液の含浸速度が上記捲回軸方向の中央領域におけるNa成分の高濃度化に強く関与していることを見出し、かかる正極集電側の端部からの非水電解液の含浸速度を制御することによって、捲回軸方向の中央領域におけるNa成分の高濃度化を効果的に抑制し得ることを見出した。
さらに、本発明者は、捲回電極体の正極集電体を構成する長尺シート形状の正極集電箔のシート長手方向における鏡面光沢度と幅方向の鏡面光沢度とをそれぞれ所定の範囲に規定することによって、正極集電側の端部からの非水電解液の含浸速度を制御することが可能であり、それによって捲回電極体の捲回軸方向の中央領域におけるNa成分の高濃度化を効果的に抑制し得ることを見出して本発明を完成するに至った。
そして、少なくとも負極活物質層の表面には、上記オキサラトボレート錯体由来のSEI被膜が形成されており、ここで捲回電極体を構成している上記長尺シート状の正極集電箔は、以下の条件:
該正極集電箔の長手方向に沿う方向の60度鏡面光沢度αおよび該正極集電箔の長手方向に直交する幅方向の60度鏡面光沢度βが、それぞれ、700%≦α≦760%、および、530%≦β≦590%である;
を具備することを特徴とする。
なお、本明細書において「鏡面光沢度」とは、JIS Z 8741:1997に準拠する測定方法で算出される入射角θにおける鏡面光沢度Gs(θ)をいう。従って、「60度鏡面光沢度」および「20度鏡面光沢度」は、それぞれ、Gs(60°)およびGs(20°)と表すこともできる。
具体的には、屈折率が可視波長範囲全域にわたって一定値(1.567)であるガラス表面において所定の入射角θ(典型的にはθ=60°、或いはθ=20°)での鏡面光沢度を基準値=100(%)とし、目的とする供試材料の測定面の同条件で測定したときの鏡面光沢度の値(%)を求める。
JIS Z 8741:1997に準拠する測定方法で鏡面光沢度Gs(θ)を測定する測定装置は、種々のメーカーから市販されており、特に測定原理を詳細に把握することなく、容易に「60度鏡面光沢度」や「20度鏡面光沢度」を測定することができる。
このことによって、正極活物質層と正極集電箔との結着性を良好に維持しつつ、捲回電極体の捲回軸方向(上記幅方向)の端部(特に正極集電側の端部)から電極体内に含浸する非水電解液の含浸速度を抑制し、捲回電極体の捲回軸方向の中央領域にNa成分が高濃度に偏在することを抑制することができる。従って、当該中央領域においてもNaBOBのような難溶性のオキサラトボレート錯体ナトリウム塩が多量に生成されるのを抑え、結果として、オキサラトボレート錯体由来のSEI被膜の形成ムラを効果的に抑制することができる。
従って、かかる構成の非水電解液二次電池によると、形成ムラを抑制して捲回電極体の負極活物質層の全体に亘ってオキサラトボレート錯体由来のSEI被膜を形成することができる。このため、高い耐久性(例えば容量維持率や耐久後出力性能)を実現することができる。
この種の非水電解液二次電池に用いられる正極集電箔としてはアルミ箔が一般的であるが、全体のRaが0.08μm以上0.12μm以下であるアルミ箔からなる正極集電箔であって、60度鏡面光沢度αおよび60度鏡面光沢度βがそれぞれ上記数値範囲内となるように構成された正極集電箔を備える捲回電極体では、正極活物質層と正極集電箔との結着性をより良好に維持しつつ、捲回電極体の捲回軸方向の端部(特に正極集電側の端部)から電極体内に含浸する非水電解液の含浸速度を好ましく抑制することができる。
本態様の非水電解液二次電池では、捲回電極体の捲回軸方向の中央領域に不可避的Na成分が偏在するのを抑制し、負極活物質層の表面に化学的に安定なLiBOB由来のSEI被膜を有する。このため、本態様の非水電解液二次電池によると、優れた耐久性(耐久後出力性能等)を実現することができる。
即ち、本発明により提供される非水電解液二次電池製造方法は、
正極活物質を含む正極活物質層が表面に形成された長尺シート状の正極集電箔と、負極活物質を含む負極活物質層が表面に形成された長尺シート状の負極集電箔とを、長尺シート状のセパレータとともに積層し、且つ捲回することによって捲回電極体を構築すること、
充電後に少なくとも上記負極活物質層の一部にSEI被膜を形成可能なオキサラトボレート錯体を含む非水電解液と、上記捲回電極体とを電池ケースに収容し、該捲回電極体の長手方向に直交する幅方向の端部から該非水電解液を該電極体中に含浸させること、
を包含する。そして、上記正極集電箔として、以下の条件:
該正極集電箔の長手方向に沿う方向の60度鏡面光沢度αおよび該正極集電箔の長手方向に直交する幅方向の60度鏡面光沢度βが、それぞれ、700%≦α≦760%、および、530%≦β≦590%である;
を実現するように調製された長尺シート状の正極集電箔を用いて上記捲回電極体を構築することを特徴とする。
かかる構成の製造方法によると、上述した効果を奏する本発明に係る非水電解液二次電池を製造することができる。
また、好ましい他の態様では、上記オキサラトボレート錯体としてリチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)を含む非水電解液を用いることを特徴とする。
これら材料を用いることにより、耐久性能に優れる好適なリチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池を製造することができる。
なお、本明細書において「非水電解液二次電池」とは、非水電解液(非水溶媒中に支持塩を含む電解液)を備えた二次電池をいい、電荷担体がリチウムイオンである「リチウムイオン二次電池」はその典型例である。
図1に示すように、本実施形態に係る非水電解液二次電池(リチウムイオン二次電池)10は、扁平な直方体形状(角形)のケース本体13と、その開口部を塞ぐ蓋体14とから構成される電池ケース12を備える。電池ケース12の内部には、後述する捲回電極体20(図2)と非水電解液とが収容される。電池ケース12の上面(即ち蓋体14)には、外部接続用の正極端子16および負極端子15が、それら端子の一部が蓋体14から電池10の外方に突出するように設けられている。蓋体14には電池ケース12内部で発生したガスをケース12の外部に排出するための安全弁18が備えられている。かかる構成の非水電解液二次電池10は、例えば、ケース本体13の開口部から捲回電極体20を内部に収容し、該ケース本体13の開口部に蓋体14を取り付けた後、蓋体14に設けられた注入孔17から非水電解液を注入し、次いでかかる注入孔17を所定の封止部材19で塞ぐことによってリチウムイオン二次電池10が構築される。
図2および図3に示すように、電池ケース12に収容される捲回電極体20は、長尺シート状の正極集電箔32の両面にシート長手方向に沿って正極活物質層34が形成された正極シート30と、長尺シート状の負極集電体52の両面にシート長手方向に沿って負極活物質層54が形成された負極シート50とを、同じく長尺シート形状である2枚のセパレータとともに正極:セパレータ:負極:セパレータの順になるように重ね合わせ、その積層体を扁平な楕円形状となるように捲回して(或いは積層体を円筒状に捲回した後に扁平形状となるように側面を押圧して拉げさせて)形成された捲回電極体20である。
図3に示すように、負極活物質層54の幅方向のサイズb1は、正極活物質層34の幅方向のサイズa1よりも少し大きく形成されており(b1>a1)、さらにセパレータ70の幅方向のサイズc1,c2は負極活物質層54の幅b1よりも少し大きく形成されている。
そして、正極集電箔32の露出端部33に正極集電板66が、負極集電箔52の露出端部53には負極集電板65がそれぞれ付設され、上記正極端子16および上記負極端子15とそれぞれ電気的に接続されている。
捲回電極体20の正極集電箔32は、この種の電池の正極集電体として好ましい良好な導電性を有する金属製であればよく、例えばアルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。特にアルミニウム箔(アルミ箔)が好ましい。正極集電箔32の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm以上50μm以下程度が適当であり、8μm以上30μm以下程度がより好ましい。
従って、捲回電極体20の幅方向即ち捲回軸方向の中央領域(例えば図3中の負極活物質層54における符号54Bで示す領域)に不可避的に存在するNa成分が高濃度に偏在することを抑制し、中央領域54BにおけるNaBOB等の難溶性オキサラトボレート錯体ナトリウム塩の多量の生成を抑制し、結果、負極活物質層54の全領域54A,54Bにわたってほぼ形成ムラのないオキサラトボレート錯体(典型的にはLiBOB)由来のSEI被膜を形成することができる。
また、正極集電箔32の長手方向に直交する幅方向Wの60度鏡面光沢度βが530%よりも小さすぎる場合は、当該幅方向Wの粗さの配向性が高くなるが、却って正極集電箔32に対する正極活物質層34の結着性が低下して初期抵抗値が上昇するため好ましくない。他方、60度鏡面光沢度βが590%よりも大きすぎる場合は、相対的に幅方向Wの粗さの配向性が低く、非水電解液の含浸速度が高まるため、SEI被膜の形成ムラ等によって電池の耐久後出力性能が相対的に低下するので好ましくない。
正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料であって、リチウム元素と一種または二種以上の遷移金属元素を含むリチウム含有化合物(例えばリチウム遷移金属複合酸化物)が挙げられる。例えば、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLiNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLiCoO2)、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMn2O4)、或いは、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)のような三元系リチウム含有複合酸化物が挙げられる。また、一般式がLiMPO4或いはLiMVO4或いはLi2MSiO4(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種以上の元素)等で表記されるようなポリアニオン系化合物(例えばLiFePO4、LiMnPO4、LiFeVO4、LiMnVO4、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4、Li2CoSiO4)を正極活物質として用いてもよい。
このような材料を用いて正極シート30を概ね以下の手順で好適に作製することができる。即ち、正極活物質、導電材、および有機溶媒に対して可溶性である結着剤等を有機溶媒に分散させてなるペースト状の正極活物質層形成用組成物(以下「正極合材」という。)を調製する。調製した正極合材を正極集電箔32に塗布し、乾燥させた後、プレス(圧縮)することによって、正極集電箔32と該正極集電箔32上に形成された正極活物質層34とを備える正極シート30を作製することができる。正極活物質層34全体に占める正極活物質の割合は、高エネルギー密度を実現する観点から、およそ60質量%以上(典型的には60質量%以上95質量%以下)とすることが適当であり、通常はおよそ70質量%以上95質量%以下であることが好ましい。また、正極活物質層34全体に占める結着剤の割合は、機械的強度(形状保持性)を好適に確保する観点から、例えばおよそ0.1質量%以上10質量%以下とすることができ、通常はおよそ0.2質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。また、出力特性とエネルギー密度とを高いレベルで両立する観点から、正極活物質層34全体に占める導電材の割合は、例えばおよそ1質量%以上20質量%以下とすることができ、通常はおよそ2質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。
負極集電箔52としては、従来のリチウムイオン二次電池の負極に用いられている集電箔と同様、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、銅や銅を主体とする合金を用いることができる。負極集電箔の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm以上50μm以下程度が適当であり、8μm以上30μm以下程度がより好ましい。
結着剤としては、一般的なリチウムイオン二次電池の負極に使用される結着剤と同様のものを適宜採用することができる。例えば、負極活物質合材層を形成するために水系のペースト状組成物を用いる場合には、水溶性のポリマー材料または水分散性のポリマー材料を好ましく採用し得る。水分散性のポリマーとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム類;ポリエチレンオキサイド(PEO)、酢酸ビニル共重合体等が例示される。なお、SBRは中和剤として水酸化ナトリウムを使用することがあるため、不可避的不純物としてNa成分を含み得る。
増粘剤としては、例えば、水溶性又は水分散性のポリマーを採用し得る。水溶性のポリマーとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース系ポリマー;ポリビニルアルコール(PVA);等が挙げられる。また、上記結着剤として挙げられる材料と同様のものを適宜採用することができる。
このような形態の負極活物質層54は、高い電池性能(例えば、高いエネルギー密度や出力密度)を実現することができる。なお、このように作製された負極シート50の構成材料は不可避的にNa成分を含み得る。
即ち、図3に示すように、正極シート30および負極シート50を計二枚のセパレータ70を介在させて積層し、長手方向に捲回する。換言すると、シート長手方向に直交する幅方向を倦回軸として捲回する。これにより、円筒形状の捲回電極体20を得ることができる。そして、得られた捲回電極体20を側面方向から押圧して拉げさせることによって、所望の扁平形状の捲回電極体20を構築することができる。或いは、最初から扁平形状に捲回してもよい。
なお、正極シート30、負極シート50およびセパレータ70を積層する際には、正極シート30における正極集電箔露出端部33と、負極シート50における負極集電箔露出端部53とが、セパレータ70の幅方向の両側からそれぞれ互いに異なる側にはみ出すように、正極シート30と負極シート50とを幅方向でややずらして重ね合わせる。このことによって、捲回電極体20の捲回軸方向では、正極集電箔露出端部33と負極集電箔露出端部53とが、それぞれ捲回コア部分(すなわち正負の活物質層34,54が対向した部分)から外方にはみ出すこととなる。この正極集電箔露出端部33と負極集電箔露出端部53に、それぞれ、正極集電板66と負極集電板65を溶接により結合し、高効率な集電を行うことができる。
非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等が挙げられる。また、支持塩としては、LiPF6,LiBF4,LiAsF6,LiCF3SO3,LiC4F9SO3,LiN(CF3SO2)2,LiC(CF3SO2)3等のリチウム塩が挙げられる。例えば、ECとDECとの混合溶媒(例えば体積比1:1)にLiPF6を約1mol/Lの濃度で含有させた非水電解液が好適例として挙げられる。
この種のオキサラトボレート錯体の好適例としては、下記式(I)で表されるリチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)が挙げられる。LiBOBは、負極活物質層54(厳密には負極活物質層54に含まれる負極活物質)の表面に安定性に優れたSEI被膜を形成できるため、好ましい。
なお、非水電解液には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、ガス発生添加剤(ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン等)やその他の添加剤(界面活性剤、分散剤、増粘剤等)を0.01〜10質量%程度添加することもできる。
図2に示す形態では、捲回電極体20は、蓋体14が上方となるように電池ケース12を水平面に置いたとき、捲回軸方向が水平方向となるようにケース12内に収容される。
そして、捲回電極体20を電池ケース12に収容して蓋体14を溶接等によってケース本体13の開口部に取り付けて封口した後、注入孔17から所定量の非水電解液をケース内部に注入し、非水電解液を捲回電極体の捲回軸方向(幅方向)の端部から捲回電極体20内に含浸させる。
このとき、正極集電箔32の長手方向に沿う方向の60度鏡面光沢度αおよび長手方向に直交する幅方向の60度鏡面光沢度βが、それぞれ、700%≦α≦760%、および、530%≦β≦590%を具備することによって、特に正極集電箔露出端部33から捲回電極体20内に含浸する非水電解液の含浸速度を抑制し得るため、捲回電極体20の捲回軸方向の中央領域(特に負極活物質層の中央領域54B)にNa成分が高濃度に偏在することを抑制することができる。このため、従って、当該中央領域においてもNaBOBのような難溶性のオキサラトボレート錯体ナトリウム塩が多量に生成されるのを抑え、結果として、後述する初期充電処理後におけるオキサラトボレート錯体の分解物由来のSEI被膜の形成ムラを効果的に抑制することができる。
なお、「1C」とは正極の理論容量より予測した電池容量(Ah)を1時間で充電できる電流量を意味する。
図4に示すように、本実施形態に係る組電池100は、複数個(典型的には10個以上、好ましくは40〜80個程度、例えば50個)のリチウムイオン二次電池(単電池)10を、それぞれの正極端子16および負極端子15が交互に配置されるように一つずつ反転させつつ、角形の電池ケース12の幅広な面が対向する方向(積層方向)に配列されている。当該配列された単電池10間には、所定形状の冷却板110が挟み込まれている。この冷却板110は、使用時に各単電池10内で発生する熱を効率よく放散させるための放熱部材として機能するものであって、好ましくは単電池10間に冷却用流体(典型的には空気)を導入可能な形状(例えば、長方形状の冷却板の一辺から垂直に延びて対向する辺に至る複数の平行な溝が表面に設けられた形状)を有する。熱伝導性の良い金属製もしくは軽量で硬質なポリプロピレンその他の合成樹脂製の冷却板が好適である。
圧延ロールの表面その他の圧延処理条件を適宜変更して調製した複数の長尺シート状のアルミ箔からなる正極集電箔(長手方向の長さ:300cm、幅方向の長さ:10cm、厚さ:15μm、表面粗さ(Ra):0.08μm〜0.12μm)を作製した。これら正極集電箔(実施例1〜4、比較例1〜10)の60度鏡面光沢度αおよびβを、市販の光沢度測定装置を用いてJIS Z 8741:1997に準拠する測定方法で求めた。結果を以下の表1の該当欄に示す。
[正極の準備]
正極活物質としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、結着材としてのPVdFとの質量比が90:8:2となるように秤量し、これら材料をNMPに分散させてペースト状の正極合材を調製した。その正極合材を表1に示す計14種類(実施例1〜4、比較例1〜10)の正極集電箔(アルミ箔)のそれぞれに両面塗布して乾燥させた後、プレス処理を行った。こうして正極集電箔上に密度が2.2g/cm3の正極活物質層が形成された実施例1〜4ならびに比較例1〜10に係る計14種の正極シートを作製した。
表面を非晶質炭素膜で被覆した天然黒鉛と、結着材としてのSBRと、増粘材としてのCMCとの質量比が98:1:1となるように秤量し、これら材料をイオン交換水に分散させて負極合材を調製した。その負極合材を銅箔からなる負極集電箔(長手方向の長さ:310cm、幅方向の長さ:10.5cm、厚さ:10μm)上に両面塗布して乾燥させた後、プレス処理を行った。こうして負極集電箔上に密度が1.1g/cm3の負極活物質層が形成された負極シートを作製した。
ポリエチレン層の両面にポリプロピレン層が形成された三層構造(PP/PE/PP)の厚さ20μmのセパレータ基材を準備した。そして、無機フィラーとしてのアルミナ粉末(平均粒径(D50)0.1μm)と結着材としてのアクリル系ポリマーと増粘材としてのCMCとを、それらの材料の質量比が94.4:4.9:0.7となるように水中で分散し、無機フィラー層形成用組成物を調製した。この無機フィラー層形成用組成物を、上記セパレータ基材の片面にグラビアロールにより塗布し乾燥することによって、セパレータ基材の上に厚さ5μmの耐熱層を形成した。以上より、総厚さ25μmのセパレータを作製した。
上記作製した計14種のうちの何れかの正極シート、ならびに負極シートおよび2枚のセパレータをセパレータの上記耐熱層が負極シートの負極活物質層と対向(隣接)するように重ね合わせて扁平な楕円状に捲回することにより、正極シートの種類に応じて計14種の捲回電極体を構築した。
次いで構築した捲回電極体の正負の電極集電箔の端部にそれぞれ電極端子を接合し、縦75mm、幅120mm、厚さ15mm、ケースの厚み1mmのアルミ製電池ケース内に該捲回電極体と非水電解液とを収容することにより、正極シートの種類に応じて計14種の角形のリチウムイオン二次電池(実施例1〜4、比較例1〜10)を作製した。
ここで非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)との体積比が3:4:3の混合溶媒に、支持塩としてのLiPF6と被膜形成剤としてのLiBOBとを溶解させたものを使用した。非水電解液中のLiPF6の濃度は1.1mol/Lであり、非水電解液中のLiBOBの濃度は0.01mol/Lとした。但し、表1中に示すように、比較例9,10についてはLiBOB無添加の非水電解液を使用した。
得られた計14種の電池について、初期抵抗値(mΩ)と耐久試験後の出力(W)を調べた。
即ち、25℃の温度条件下、1Cの充電レートでSOC60%の充電状態に調整した後、25℃の温度条件下、15Cの放電レートで10秒間の定電流放電を行い、0秒〜10秒間で降下した電池電圧ΔVを測定し、その電圧ΔVと放電電流とからオームの法則により初期抵抗(mΩ)を求めた。結果を表1の該当欄に示す。
そして500サイクル後の各電池について、定電流定電圧(CC−CV)充電によってSOC40%の充電状態に調整し、160W、180W、200Wおよび220Wの定電力(W)で放電させ、放電開始から電池電圧が2.5V(放電カット電圧)に低下するまでの時間(放電秒数)を測定した。その放電秒数に対し上記定電力放電における電力の値(W)をプロットして上記放電秒数が2秒となる電力値(即ち−30℃においてSOC40%の状態から2秒間で2.5Vまで放電する出力)を求め、これを当該電池の−30℃における耐久後出力とした。供試した各電池の結果を表1の該当欄に示す。
一方、各比較例についてみると、LiBOB等のオキサラトボレート錯体を含まない非水電解液を使用した比較例9,10に係るリチウムイオン二次電池では、当該錯体由来のSEI被膜が形成されないため、耐久性能に劣ることが分かる。
また、60度鏡面光沢度αが大きすぎる比較例6,8のリチウムイオン二次電池や60度鏡面光沢度βが小さすぎる比較例3,4のリチウムイオン二次電池では、初期抵抗値が高く、耐久性能も芳しくなかった。反対に、60度鏡面光沢度αが小さすぎる比較例5,7のリチウムイオン二次電池や60度鏡面光沢度βが大きすぎる比較例1,2のリチウムイオン二次電池では、初期抵抗値は低いものの、非水電解液の含浸速度が抑制されておらず、SEI被膜の形成ムラ等によって電池の耐久後出力性能が低いままとなった。
12 ケース
15 負極端子
16 正極端子
20 捲回電極体
30 正極シート
32 正極集電箔(アルミ箔)
34 正極活物質層
50 負極シート
52 負極集電箔(銅箔)
54 負極活物質層
70 セパレータ
100 組電池
Claims (7)
- 非水電解液二次電池であって、
正極活物質を含む正極活物質層が表面に形成された長尺シート状の正極集電箔と、負極活物質を含む負極活物質層が表面に形成された長尺シート状の負極集電箔とが、長尺シート状のセパレータとともに積層され且つ捲回された捲回電極体と、
非水電解液と、
前記捲回電極体および非水電解液を収容するケースと、
を備え、
少なくとも前記負極活物質層の表面には、オキサラトボレート錯体由来のSEI被膜が形成されており、
ここで前記長尺シート状の正極集電箔は、以下の条件:
該正極集電箔の長手方向に沿う方向の60度鏡面光沢度αおよび該正極集電箔の長手方向に直交する幅方向の60度鏡面光沢度βが、それぞれ、700%≦α≦760%、および、530%≦β≦590%である;
を具備する、非水電解液二次電池。 - 前記正極集電箔は、全体の算術平均粗さ(Ra)が0.08μm以上0.12μm以下であるアルミ箔である、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
- 前記オキサラトボレート錯体が、リチウムビス(オキサラト)ボレートである、請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池。
- 相互に電気的に接続された複数の非水電解液二次電池によって構成される組電池であって、
前記複数の非水電解液二次電池がいずれも請求項1〜3の何れか一項に記載の非水電解液二次電池である、組電池。 - 非水電解液二次電池を製造する方法であって、
正極活物質を含む正極活物質層が表面に形成された長尺シート状の正極集電箔と、負極活物質を含む負極活物質層が表面に形成された長尺シート状の負極集電箔とを、長尺シート状のセパレータとともに積層し、且つ捲回することによって捲回電極体を構築すること、
充電後に少なくとも前記負極活物質層の一部にSEI被膜を形成可能なオキサラトボレート錯体を含む非水電解液と、前記捲回電極体とを電池ケースに収容し、該捲回電極体の長手方向に直交する幅方向の端部から該非水電解液を該電極体中に含浸させること、
を包含し、
ここで、前記正極集電箔として、以下の条件:
該正極集電箔の長手方向に沿う方向の60度鏡面光沢度αおよび該正極集電箔の長手方向に直交する幅方向の60度鏡面光沢度βが、それぞれ、700%≦α≦760%、および、530%≦β≦590%である;
を実現するように調製された長尺シート状の正極集電箔を用いて前記捲回電極体を構築することを特徴とする、非水電解液二次電池の製造方法。 - 前記正極集電箔として、全体の算術平均粗さ(Ra)が0.08以上0.12以下であるアルミ箔を用いる、請求項5に記載の製造方法。
- 前記オキサラトボレート錯体としてリチウムビス(オキサラト)ボレートを含む非水電解液を用いる、請求項5又は6に記載の製造方法。
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