JP6251463B1 - 脆性亀裂伝播停止特性に優れる溶接構造体 - Google Patents
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Abstract
Description
この非特許文献1では、溶接部で強制的に発生させた脆性亀裂の伝播経路、伝播挙動を実験的に調査し、溶接部の破壊靱性がある程度確保されていれば、溶接残留応力の影響により脆性亀裂は溶接部から母材側に逸れてしまうことが多いという結果が記載されているが、溶接部に沿って脆性亀裂が伝播した例も複数例確認されている。このことは、脆性破壊が溶接部に沿って直進伝播する可能性が無いとは言い切れないことを示唆している。
また、非特許文献2には、とくに発生した脆性亀裂の伝播停止のために、特別な脆性亀裂伝播停止特性を有する厚鋼板を必要とするとの指摘もある。
この特許文献1に記載された技術では、骨材(補強材)として、表層部および裏層部で3mm以上の厚みにわたり0.5〜5μmの平均円相当粒径を有しさらに板厚面に平行な面で(100)結晶面のX線面強度比が1.5以上である、ミクロ組織を有する鋼板を用いるとしている。このようなミクロ組織を有する鋼板を補強材として隅肉溶接した構造とすることにより、突合せ溶接継手部に脆性亀裂が発生しても、補強材である骨材で脆性破壊を停止でき、溶接構造体が破壊するような致命的な損傷を防止できるとしている。
この特許文献2に記載された溶接構造体では、隅肉溶接継手断面におけるウェブの、フランジとの突合せ面に未溶着部を残存させ、その未溶着部の幅と、隅肉溶接部の左右の脚長とウェブ板厚との和との比、Xが、被接合部材(フランジ)の脆性亀裂伝播停止性能Kcaと特別な関係式を満足するように、未溶着部の幅を調整する。これにより、被接合部材(フランジ)として板厚:50mm以上の厚物材を用いたとしても、接合部材(ウェブ)で発生した脆性亀裂の伝播を、隅肉溶接部のウェブとフランジの突合せ面で停止させ、被接合部材(フランジ)への脆性亀裂の伝播を阻止することができるとしている。
そして、このような溶接構造体であれば、被接合部材で発生した脆性亀裂を、大規模破壊に至る前に隅肉溶接金属で伝播阻止することができるとしている。
そして、このような溶接構造体とすることにより、脆性亀裂は、隅肉溶接部または接合部材の母材で伝播停止できるとしている。
そして、このような溶接構造体とすることにより、脆性亀裂は、隅肉溶接部または接合部材の母材で停止できるとしている。
また、このような溶接構造体とすることにより、被接合部材溶接部から発生した脆性亀裂、または接合部材溶接部から発生した脆性亀裂を、隅肉溶接部あるいは接合部材の溶接部または被接合部材の溶接部で伝播阻止することができるとしている。
この理由は明確には解明されていないが、一因としてT継手部に亀裂が突入するときの破壊駆動力(応力拡大係数)が被接合部材(フランジ)に突入する場合よりも接合部材(ウェブ)に突入する場合のほうが大きくなることが考えられる。
また、部材の板厚が80mm未満の場合であっても、現場での実施工においては、隅肉溶接部の脚長のバラツキが大きいため、隅肉溶接部の強度確保(隅肉脚長確保)と脆性亀裂阻止性能の確保(隅肉脚長16mm以下に制限)とを両立させることは、現場での施工管理上多大な労力を要すると共に、手直し等の追加コストがかさむという問題があった。
その結果、基本溶接構造を従来の隅肉溶接構造から、接合部材と被接合部材との間に、ダブラー部材を配設したダブラー部材付き隅肉溶接構造とし、脆性亀裂の伝播は、ダブラー部材と被接合部材の隅肉溶接金属部で阻止することに想到した。この隅肉溶接構造であれば、脆性亀裂を停止させる隅肉溶接部の施工を工場内で溶接することができる。また、これにより、隅肉溶接部の脚長のばらつきを所定の範囲内とすることが容易となり、現場での実施工コストの大幅な低減に繋がることを知見した。
そして、これにより、施工管理が厳しい現場で行う、接合部材とダブラー部材との接合は、接合部材の端面をダブラー部材の表面に突き合わせて、施工管理の容易な溶接条件(部分溶込み、完全溶込み等)で施工できるようになることを知見した。
その結果、被接合部材(フランジ)から発生した脆性亀裂の伝播を阻止(停止)するには、被接合部材(フランジ)とダブラー部材との重ね合せ面に不連続部を確保すると共に、被接合部材(フランジ)の板厚tf(mm)が大きくなると脆性亀裂先端のエネルギー解放率(亀裂進展駆動力)が増加し、脆性亀裂が停止しにくくなることに鑑みて、被接合部材(フランジ)の板厚tf(mm)に関連した、隅肉溶接部の靭性向上が必須となることに想到した。
そしてさらに、隅肉溶接部の脚長もしくは溶着幅が長くなると、脆性亀裂の伝播が容易となるため、隅肉溶接脚長(もしくは溶着幅)に応じて隅肉溶接金属の靭性を確保する必要があることも知見した。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
(1)接合部材の端面が、ダブラー部材の表面に突き合わせ溶接接合され、かつ前記ダブラー部材が板厚50mm以上の被接合部材の表面に隅肉溶接接合された隅肉溶接継手を備えるダブラー部材付き隅肉溶接構造体であって、前記隅肉溶接継手における前記ダブラー部材の表面と前記被接合部材の表面とを重ね合わせた面に、前記隅肉溶接継手の断面でダブラー部材の板幅Wdの95%以上の未溶着部を有し、さらに前記ダブラー部材が、板厚tdと板幅Wdとの比td/Wdが下記(1a)式を満足し、さらに前記隅肉溶接継手の隅肉溶接金属を、該隅肉溶接金属のシャルピー衝撃試験破面遷移温度vTrs(℃)が、隅肉脚長もしくは溶着幅Lに対応して、前記被接合部材の板厚tfと隅肉脚長もしくは溶着幅Lとの関係で下記(1b)式または下記(1c)式を満足する隅肉溶接金属とする、脆性亀裂伝播停止特性に優れる溶接構造体。
記
td/Wd<2 ‥‥(1a)
L≧20mmの場合、 vTrs≦−5L+65−1.5(tf−75) ‥‥(1b)
L<20mmの場合、 vTrs≦−35−1.5(tf−75) ‥‥(1c)
ここで、vTrs:隅肉溶接金属のシャルピー衝撃試験破面遷移温度(℃)、
tf:被接合部材の板厚(mm)、
td:ダブラー部材の板厚(mm)、
Wd:ダブラー部材の板幅(mm)、
L:隅肉脚長もしくは溶着幅(mm)
従って、本発明によれば、鋼構造物、とくに、大型コンテナ船やバルクキャリアーなどにおける船体分離などの大規模な脆性破壊の危険性を回避することができ、船体構造の安全性を確保するうえで大きな効果をもたらし、産業上格段の効果を奏する。
本発明の溶接構造体は、接合部材1の端面をダブラー部材10の表面に突き合わせ、接合部材1とダブラー部材10とを接合してなり、かつダブラー部材10を板厚50mm以上の被接合部材2の表面に重ね合わせ、隅肉溶接により接合されてなる隅肉溶接継手を備えた溶接構造体である。この溶接構造体は、溶接脚長3もしくは溶着幅13がLmmの隅肉溶接金属5を有する隅肉溶接継手を備え、該隅肉溶接継手のダブラー部材10と被接合部材(フランジ)2との重ね合わせ面には、構造不連続部となる、未溶着部4を存在させる。なお、本発明溶接構造体では、接合部材1の端面をダブラー部材10の表面に突き合わせた突合せ面には、構造不連続部を含めてもよい。
そこで、本発明では、所定以上の靭性を保持する隅肉溶接金属5を形成し、脆性亀裂を、隅肉溶接金属5で停止させる。
そのため、本発明では隅肉溶接部における被接合部材とダブラー部材との重ね合せ面に未溶着部(構造の不連続部)4を存在させるのである。
また、溶接構造体の製造方法はとくに限定する必要はなく、常用の製造方法がいずれも適用できる。例えば、フランジ用鋼板同士、ウェブ用鋼板同士を突合せ溶接し、得られた突合せ溶接継手をダブラー部材を介して隅肉溶接して溶接構造体を製造してもよい。また、突合せ溶接前の一組のウェブ用鋼板をフランジ表面のダブラー部材に仮付溶接しついでウェブ用鋼板同士を突合せ溶接し、得られた突合せ溶接継手をフランジに溶接して溶接構造体を製造してもよい。
td/Wd<2 ‥‥(1a)
を満足するように、ダブラー部材の寸法を調整する。ダブラー部材の板厚tdとダブラー部材の板幅Wdが(1a)式を満足しない場合には、接合部材(ウェブ)から発生した脆性亀裂の伝播の停止ないし阻止の方が、被接合部材(フランジ)から発生した脆性亀裂の伝播の停止ないし阻止よりも厳しくなり、接合部材(ウェブ)および被接合部材(フランジ)から発生した脆性亀裂の伝播をともに、停止ないし阻止することができなくなる。
なお、td/Wdがあまりに小さくなると、ダブラー部材の縦方向剛性が低下する問題が生じるので、td/Wdの下限値は0.2とすることが好ましい。
L≧20mmの場合、 vTrs≦−5L+65−1.5(tf−75) ‥‥(1b)
L<20mmの場合、 vTrs≦−35−1.5(tf−75) ‥‥(1c)
(ここで、vTrs:隅肉溶接金属のシャルピー衝撃試験破面遷移温度(℃)、tf:被接合部材の板厚(mm)、L:隅肉脚長もしくは溶着幅(mm))
を満足するように隅肉溶接金属の靭性を調整する。なお、Lは隅肉脚長、溶着幅のうち小さい方を用いる。
なお、本発明の溶接構造体は、上記した隅肉溶接継手を備えるものであり、例えば、船舶の船体外板をフランジとし、隔壁をウェブとする船体構造、あるいはデッキをフランジとし、ハッチをウェブとする船体構造などに適用可能である。
表1−1および表1−2に示す板厚の厚鋼板を接合部材(ウェブ)、ダブラー部材および被接合部材(フランジ)として用いて、図4(a)、(b)、(c)および図5(a)、(b)、(c)に示す形状の実構造サイズの大型溶接構造継手を作製した。図4(a)、(b)、(c)は、被接合部材(フランジ)から脆性亀裂が発生・伝播するケース、図5(a)、(b)、(c)は、接合部材(ウェブ)から脆性亀裂が発生・伝播するケースを想定したものである。なお、作製した隅肉溶接継手では、ダブラー部材10と被接合部材2との突合わせ面に、図1(a)に示すような未溶着部4を、未溶着部の比率Y(=(未溶着部の幅B/ダブラー部材の板幅Wd))を変化させて、存在させた。なお、接合部材(ウェブ)とダブラー部材の突合せ面には未溶着部は残留させなかった。
そして、機械ノッチ7の先端を、接合部材(ウェブ)1または被接合部材(フランジ)2の母材、突合せ溶接継手部12、22のBOND部または溶接金属WMとなるように加工した。
いずれの試験も、試験応力100〜283N/mm2、温度:−10℃の条件で実施した。試験応力100N/mm2は、船体に定常的に作用する応力の平均的な値であり、試験応力257N/mm2は、船体に適用されている降伏強度390N/mm2級鋼板の最大許容応力相当の値、試験応力283N/mm2は、船体に適用されている降伏強度460N/mm2級鋼板の最大許容応力相当の値である。温度−10℃は船舶の設計温度である。
得られた結果を表2−1および表2−2に示す。
一方、本発明の範囲を外れる比較例では、脆性亀裂を被接合部材(フランジ)から伝播させた場合において、または脆性亀裂を接合部材(フランジ)から伝播させた場合において、あるいは両方の場合において、脆性亀裂は隅肉溶接部で停止することなく伝播し、隅肉溶接金属で脆性亀裂の伝播を阻止することができなかった。
2 被接合部材(フランジ)
3 脚長
4 未溶着部
5 隅肉溶接金属
7 機械ノッチ
8 仮付け溶接
9 ダブラー部材付き大型隅肉溶接継手
10 ダブラー部材
12 ウェブ突合せ溶接継手部
13 溶着幅
16 未溶着幅(B)
22 フランジ突合せ溶接継手部
θ 交差角
Claims (3)
- 接合部材の端面が、ダブラー部材の表面に突き合わせ溶接接合され、かつ前記ダブラー部材が板厚50mm以上の被接合部材の表面に隅肉溶接接合された隅肉溶接継手を備えるダブラー部材付き隅肉溶接構造体であって、前記隅肉溶接継手における前記ダブラー部材の表面と前記被接合部材の表面とを重ね合わせた面に、前記隅肉溶接継手の断面でダブラー部材の板幅Wdの95%以上の未溶着部を有し、さらに前記ダブラー部材が、板厚tdと板幅Wdとの比td/Wdが下記(1a)式を満足し、さらに前記隅肉溶接継手の隅肉溶接金属を、該隅肉溶接金属のシャルピー衝撃試験破面遷移温度vTrs(℃)が、隅肉脚長もしくは溶着幅Lに対応して、前記被接合部材の板厚tfと隅肉脚長もしくは溶着幅Lとの関係で下記(1b)式または下記(1c)式を満足する隅肉溶接金属とする、脆性亀裂伝播停止特性に優れる溶接構造体。
記
td/Wd<2 ‥‥(1a)
L≧20mmの場合、 vTrs≦−5L+65−1.5(tf−75)
‥‥(1b)
L<20mmの場合、 vTrs≦−35−1.5(tf−75) ‥‥(1c)
ここで、vTrs:隅肉溶接金属のシャルピー衝撃試験破面遷移温度(℃)、
tf:被接合部材の板厚(mm)、
td:ダブラー部材の板厚(mm)、
Wd:ダブラー部材の板幅(mm)、
L:隅肉脚長もしくは溶着幅(mm) - 前記被接合部材が、前記接合部材に交差する向きに突合せ溶接継手部を有する請求項1に記載の溶接構造体。
- 前記接合部材が突合せ溶接継手部を有し、該接合部材の突合せ溶接継手部が前記被接合部材の突合せ溶接継手部と交差するように該接合部材を配設してなる請求項2に記載の溶接構造体。
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