以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
図1〜3は、本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備えるハイブリッド駆動装置の構成の概略を示す図であり、図1は全体構成の概略を示し、図2,3は回転電機10の構成の概略を示す。本実施形態に係るハイブリッド駆動装置は、動力(機械的動力)を発生可能な原動機として設けられたエンジン(内燃機関)36と、エンジン36と駆動軸37(車輪38)との間に設けられ、変速比の変更が可能な変速機(機械式変速機)44と、エンジン36と変速機44との間に設けられ、動力(機械的動力)の発生及び発電が可能な回転電機10と、を備える。なお、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置については、例えば車両を駆動するための動力出力装置として用いることができる。
回転電機10は、図示しないステータケースに固定されたステータ16と、ステータ16に対し相対回転可能な第1ロータ28と、ロータ回転軸と直交する径方向においてステータ16及び第1ロータ28と所定の空隙を空けて対向し、ステータ16及び第1ロータ28に対し相対回転可能な第2ロータ18と、を有する。ステータ16は、第1ロータ28より径方向外側の位置に第1ロータ28と間隔を空けて配置されており、第2ロータ18は、径方向においてステータ16と第1ロータ28との間の位置に配置されている。つまり、第1ロータ28は第2ロータ18より径方向内側の位置で第2ロータ18と対向配置されており、ステータ16は第2ロータ18より径方向外側の位置で第2ロータ18と対向配置されている。第1ロータ28はエンジン36と機械的に連結されていることで、第1ロータ28にはエンジン36からの動力が伝達される。一方、第2ロータ18は変速機44を介して駆動軸37に機械的に連結されていることで、駆動軸37(車輪38)には第2ロータ18からの動力が変速機44で変速されてから伝達される。なお、以下の説明では、第1ロータ28を入力側ロータとし、第2ロータ18を出力側ロータとする。
入力側ロータ28は、ロータコア(第1回転子鉄心)52と、ロータコア52にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のロータ巻線30と、を含む。複数相のロータ巻線30に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ロータ巻線30は、ロータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。
ステータ16は、ステータコア(固定子鉄心)51と、ステータコア51にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のステータ巻線20と、を含む。複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。
出力側ロータ18は、ロータコア(第2回転子鉄心)53と、ロータコア53にその周方向に沿って配設され界磁束を発生する永久磁石32,33と、を含む。永久磁石32は、ロータコア53の外周部にステータ16(ステータコア51)と対向して配設されており、永久磁石33は、ロータコア53の内周部に入力側ロータ28(ロータコア52)と対向して配設されている。ここでは、永久磁石32,33を一体化することも可能である。
入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16のより詳細な構成例を図4に示す。図4に示す例では、入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16が同心円状に配置されている。ステータ16のステータコア51には、径方向内側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース51aがステータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ステータ巻線20がこれらのティース51aに巻回されていることで、磁極が構成される。入力側ロータ28のロータコア52には、径方向外側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース52aがロータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ロータ巻線30がこれらのティース52aに巻回されていることで、磁極が構成される。ステータ16のティース51aと出力側ロータ18の永久磁石32とが出力側ロータ18の回転中心軸(入力側ロータ28の回転中心軸と一致する)に直交する径方向に対向配置されており、入力側ロータ28のティース52aと出力側ロータ18の永久磁石33とがこの径方向に対向配置されている。ステータ巻線20の巻回軸及びロータ巻線30の巻回軸は、この径方向(入力側ロータ28と出力側ロータ18が対向する方向)に一致している。永久磁石32,33はロータ周方向に間隔をおいて配列されており、さらに、永久磁石32はロータコア53内にV字状に埋設されている。ただし、永久磁石32,33については、出力側ロータ18の表面(外周面または内周面)に露出していてもよいし、出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されていてもよい。
直流電源として設けられた充放電可能な蓄電装置42は、例えば二次電池により構成することができ、電気エネルギーを蓄える。蓄電装置42とステータ巻線20との間で電力変換を行う第1電力変換装置として設けられたインバータ40は、スイッチング素子と、スイッチング素子に対し逆並列接続されたダイオード(整流素子)とを備える公知の構成により実現可能であり、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ステータ巻線20の各相に供給することが可能である。さらに、インバータ40は、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を直流に変換して、電気エネルギーを蓄電装置42に回収する方向の電力変換も可能である。このように、インバータ40は、蓄電装置42とステータ巻線20との間で双方向の電力変換を行うことが可能である。
スリップリング95は、入力側ロータ28と機械的に連結されており、さらに、ロータ巻線30の各相と電気的に接続されている。回転が固定されたブラシ96は、スリップリング95に押し付けられて電気的に接触する。スリップリング95は、ブラシ96に対し摺動しながら(ブラシ96との電気的接触を維持しながら)、入力側ロータ28とともに回転する。ブラシ96は、インバータ41と電気的に接続されている。蓄電装置42及びインバータ40のいずれかとロータ巻線30との間で電力変換を行う第2電力変換装置として設けられたインバータ41は、スイッチング素子と、スイッチング素子に対し逆並列接続されたダイオード(整流素子)とを備える公知の構成により実現可能であり、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ブラシ96及びスリップリング95を介してロータ巻線30の各相に供給することが可能である。さらに、インバータ41は、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を直流に変換する方向の電力変換も可能である。その際には、ロータ巻線30の交流電力がスリップリング95及びブラシ96により取り出され、この取り出された交流電力がインバータ41で直流に変換される。インバータ41で直流に変換された電力は、インバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20の各相へ供給可能である。つまり、インバータ40は、インバータ41からの直流電力と蓄電装置42からの直流電力とのいずれか(少なくとも一方)を交流に変換してステータ巻線20の各相へ供給することが可能である。また、インバータ41で直流に変換された電力を蓄電装置42に回収することも可能である。このように、インバータ41は、蓄電装置42及びインバータ40のいずれかとロータ巻線30との間で双方向の電力変換を行うことが可能である。
電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング素子のスイッチング動作を制御してインバータ40での電力変換を制御することで、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を制御する。そして、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング素子のスイッチング動作を制御してインバータ41での電力変換を制御することで、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を制御する。さらに、電子制御ユニット50は、エンジン36の運転状態の制御、及び変速機44の変速比の制御も行う。電子制御ユニット50には、回転速度センサ61で検出されたエンジン36(入力側ロータ28)の回転速度を示す信号が入力される。
インバータ40のスイッチング動作により複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生する。そして、ステータ巻線20で発生した回転磁界と永久磁石32で発生した界磁束との電磁気相互作用(吸引及び反発作用)により、出力側ロータ18にトルク(磁石トルク)を作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。つまり、蓄電装置42からインバータ40を介してステータ巻線20に供給された電力を出力側ロータ18の動力(機械的動力)に変換することができ、ステータ16及び出力側ロータ18を同期電動機(PMモータ部)として機能させることができる。さらに、出力側ロータ18の動力をステータ巻線20の電力に変換してインバータ40を介して蓄電装置42に回収することも可能である。このように、ステータ16のステータ巻線20と出力側ロータ18の永久磁石32とが電磁気的に結合されていることで、ステータ巻線20で発生する回転磁界を出力側ロータ18に作用させて、ステータ16と出力側ロータ18との間にトルク(磁石トルク)を作用させることができる。さらに、例えば図4に示すように、永久磁石32間に突極部として磁性体(強磁性体)がステータ16(ティース51a)と対向して配置されている例や、永久磁石32が出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されている例では、ステータ16の発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、磁石トルクに加えてリラクタンストルクもステータ16と出力側ロータ18との間に作用する。電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作により例えばステータ巻線20に流す交流電流の振幅や位相角を制御することで、ステータ16と出力側ロータ18との間に作用するトルク(PMモータトルク)を制御することができる。
また、入力側ロータ28が出力側ロータ18に対し相対回転して入力側ロータ28(ロータ巻線30)と出力側ロータ18(永久磁石33)との間に回転差が生じるのに伴ってロータ巻線30に誘導起電力が発生し、この誘導起電力に起因してロータ巻線30に誘導電流(交流電流)が流れることで回転磁界が生じる。そして、ロータ巻線30の誘導電流により生じる回転磁界と永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用によっても、出力側ロータ18にトルクを作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。このように、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33とが電磁気的に結合されていることで、ロータ巻線30で発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルク(磁石トルク)が作用する。そのため、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間で動力(機械的動力)を伝達することができ、入力側ロータ28及び出力側ロータ18を誘導電磁カップリング部として機能させることができる。
ロータ巻線30の誘導電流により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルク(電磁カップリングトルク)を発生させる際には、電子制御ユニット50は、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するように、インバータ41のスイッチング動作を行う。その際には、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング動作によりロータ巻線30に流れる交流電流を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクを制御することができる。一方、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング素子をオフ状態に維持してスイッチング動作を停止させることで、ロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクは作用しなくなる。
エンジン36が動力を発生している場合は、エンジン36の動力が入力側ロータ28に伝達され、入力側ロータ28がエンジン回転方向に回転駆動する。入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度より高くなると、ロータ巻線30に誘導起電力が発生する。電子制御ユニット50は、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するように、インバータ41のスイッチング動作を行う。これによって、ロータ巻線30の誘導電流と永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用により入力側ロータ28から出力側ロータ18にエンジン回転方向の電磁カップリングトルクが作用して出力側ロータ18がエンジン回転方向に回転駆動する。このように、入力側ロータ28に伝達されたエンジン36からの動力は、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33との電磁気結合によって、出力側ロータ18へ伝達される。出力側ロータ18に伝達された動力は、変速機44で変速されてから駆動軸37(車輪38)へ伝達されることで、車両の前進駆動等、負荷の正転駆動に用いられる。したがって、エンジン36の動力を用いて車輪38を正転方向に回転駆動することができ、車両を前進方向に駆動することができる。さらに、入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転差を許容することができるため、車輪38の回転が停止してもエンジン36がストールすることはない。そのため、回転電機10を発進装置として機能させることができ、摩擦クラッチやトルクコンバータ等の発進装置を別に設ける必要がなくなる。
さらに、ロータ巻線30に発生した交流電力は、スリップリング95及びブラシ96を介して取り出される。取り出された交流電力はインバータ41で直流に変換される。そして、インバータ40のスイッチング動作により、インバータ41からの直流電力がインバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20に供給されることで、ステータ巻線20に交流電流が流れ、ステータ16に回転磁界が形成される。このステータ16の回転磁界と出力側ロータ18の永久磁石32の界磁束との電磁気相互作用によっても、出力側ロータ18にエンジン回転方向のトルクを作用させることができる。これによって、出力側ロータ18のエンジン回転方向のトルクを増幅させるトルク増幅機能を実現することができる。また、インバータ41からの直流電力を蓄電装置42に回収することも可能である。
さらに、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、エンジン36の動力を用いて車輪38を正転方向に回転駆動するとともに、ステータ巻線20への供給電力を用いて発生させた出力側ロータ18の動力により車輪38の正転方向の回転駆動をアシストすることができる。また、負荷の減速運転時には、電子制御ユニット50は、ステータ巻線20から蓄電装置42へ電力回収するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の動力をステータ巻線20と永久磁石32との電磁気結合によってステータ巻線20の電力に変換して蓄電装置42に回収することができる。
エンジン36の動力を駆動軸37(車輪38)へ伝達する場合に、入力側ロータ28と出力側ロータ18間の電磁カップリングトルクT_cを制御するための電子制御ユニット50の構成例を図5に示す。フィードフォワード制御部102は、入力側ロータ28と出力側ロータ18間の電磁カップリングトルクの目標値T_refを基にフィードフォワード制御指令値u_ffを生成して加算器105へ出力する。電磁カップリングトルクの目標値T_refは、エンジン36のトルクT_eng(トルク変動を考慮しない平均値)を基に設定され、例えばエンジン36のトルクT_engと等しくなるように設定される。フィードフォワード制御指令値u_ffにより電磁カップリングトルクT_cを制御した場合に、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用するエンジン回転方向の電磁カップリングトルクT_cが目標値T_ref(エンジントルクT_eng)に等しくなるようなフィードフォワード制御指令値u_ffがフィードフォワード制御部102で演算される。エンジントルクT_eng(トルク変動を考慮しない平均値)については、エンジン36がガソリンエンジン等の火花点火式内燃機関である場合は、例えばスロットル開度により取得可能であり、エンジン36がディーゼルエンジン等の圧縮着火式内燃機関である場合は、例えば燃料噴射量により取得可能である。
差分器103は、エンジン回転速度の目標値ω_in_refと検出値ω_in(回転速度センサ61により検出)との偏差(ω_in_ref−ω_in)を演算してフィードバック制御部104へ出力する。エンジン回転速度の目標値ω_in_refについては、与えられたエンジン要求出力に対してエンジン効率が所定の高効率となる(例えば最も熱効率が高くなる)ようなエンジン回転速度が設定される。フィードバック制御部104は、差分器103からの出力値である偏差(ω_in_ref−ω_in)を基にフィードバック制御指令値u_fbを生成して加算器105へ出力する。フィードバック制御指令値u_fbにより電磁カップリングトルクT_cを制御した場合に、エンジン回転速度の検出値ω_inが目標値ω_in_refに等しくなるように、偏差(ω_in_ref−ω_in)をフィードバック補償したフィードバック制御指令値u_fbがフィードバック制御部104で演算される。
加算器105は、フィードフォワード制御指令値u_ffとフィードバック制御指令値u_fbを加算した値(u_ff+u_fb)をトルク制御指令値uとして出力する。フィードフォワード制御指令値u_ff及びフィードバック制御指令値u_fbから算出したトルク制御指令値uによりインバータ41のスイッチング動作が制御されることで、入力側ロータ28と出力側ロータ18間の電磁カップリングトルクT_cが制御される。その際には、フィードフォワード制御指令値u_ffにより電磁カップリングトルクT_cが目標値T_ref(エンジントルクT_eng)に等しくなるように制御されるとともに、フィードバック制御指令値u_fbによりエンジン回転速度の検出値ω_inが目標値ω_in_refに等しくなるように制御される。これによって、エンジン効率が所定の高効率となる(例えば最も熱効率が高くなる)ようにエンジン回転速度ω_inを制御しつつ、エンジン36から出力側ロータ18へトルクT_engを伝達することができる。なお、図5において、ブロック106は、トルク制御指令値uに対する電磁カップリングトルクT_cの関係を表し、インバータ41の特性、入力側ロータ28及び出力側ロータ18による誘導電磁カップリング部の特性等が含まれる。また、ブロック107は、入力側ロータ28に作用するトルク(T_eng−T_c)に対するエンジン36(入力側ロータ28)の回転速度ω_inの関係を表し、例えばゲイン1/Jin(Jinはエンジン36、入力側ロータ28、及びスリップリング95を含む入力側回転要素の慣性モーメント)のゲインブロック109、及び積分器110により表すことが可能である。そして、ブロック108は、出力側ロータ18に作用するトルク(T_c−T_loadに対する出力側ロータ18の回転速度ω_outの関係を表し(T_loadは出力側ロータ18に作用する負荷トルク)、ゲイン1/Jout(Joutは出力側ロータ18を含む出力側回転要素の慣性モーメント)のゲインブロック111、及び積分器112により表すことが可能である。
ただし、エンジン36が発生するトルクは、クランク角に対して変動し、実際には振動成分を有するものとなる。そのため、回転速度センサ61で取得されるエンジン回転速度の検出値ω_inには、実際にはエンジントルク変動による振動成分が含まれ、エンジン回転速度の目標値ω_in_refと検出値ω_inとの偏差(ω_in_ref−ω_in)も、実際にはエンジントルク変動による振動成分が含まれたものとなる。フィードバック制御指令値u_fbによりエンジン回転速度ω_inを目標値ω_in_refとなるように制御することが可能となるが、偏差(ω_in_ref−ω_in)から演算したフィードバック制御指令値u_fbにエンジントルク変動による振動成分が含まれていると、トルク制御指令値u=(u_ff+u_fb)により制御される、入力側ロータ28と出力側ロータ18間の電磁カップリングトルクT_cにトルク変動が発生し、このトルク変動による振動が駆動軸37に伝達されることになる。
そこで、本実施形態では、フィードバック制御部104は、エンジン回転速度の目標値ω_in_refと検出値ω_inとの偏差(ω_in_ref−ω_in)に含まれる、エンジントルク変動による振動成分がフィードバック制御指令値u_fbにおいて抑制されるように、フィードバック制御指令値u_fbを生成する。以下、そのためのフィードバック制御部104の構成例について説明する。
図6に示す構成例では、フィードバック制御部104は、フィルタ121及びフィードバック制御器122を含んで構成される。フィルタ121には、差分器103からの偏差(ω_in_ref−ω_in)が入力される。フィルタ121は、例えば図7に示すような周波数特性を有し、エンジントルク変動の周波数帯域Ωにおけるゲインが、周波数帯域Ωよりも低い低周波数帯域におけるゲインに比べて小さい周波数特性を有する。この周波数特性を有するフィルタ121によって、偏差(ω_in_ref−ω_in)の周波数成分のうち、エンジントルク変動による振動成分が抑制され、エンジントルク変動による振動成分よりも低い低周波数成分は通過する。フィルタ121の設計の際には、エンジン36の運転範囲におけるトルク振動の周波数帯域Ωを予め計測して把握しておき、周波数帯域Ωにおけるゲインが、周波数帯域Ωよりも低い低周波数帯域におけるゲインに比べて小さくなるように、フィルタ121の周波数特性を設計する。例えばフィルタ121をローパスフィルタにより構成する場合は、そのカットオフ周波数をエンジントルク変動の周波数帯域Ωよりも低い周波数に設計する。さらに、フィルタ121を一時遅れフィルタにより構成する場合は、その時定数をτとすると、1/(2×π×τ)をエンジントルク変動の周波数帯域Ωよりも低い周波数に設計する。
フィードバック制御器122は、例えばPID(比例積分微分)制御器やPI(比例積分)制御器やI(積分)制御器等により構成することが可能であり、フィルタ121を通過した偏差(ω_in_ref−ω_in)をフィードバック補償したフィードバック制御指令値u_fbを演算して加算器105へ出力する。偏差(ω_in_ref−ω_in)に含まれる、エンジントルク変動による振動成分は、フィルタ121を通過することで抑制されているため、フィルタ121を通過した偏差(ω_in_ref−ω_in)から演算されるフィードバック制御指令値u_fbも、エンジントルク変動による振動成分が抑制されたものとなる。一方、エンジントルク変動よりも低い低周波数帯域については、フィルタ121で抑制されずにフィードバック制御器122に入力される。そのため、フィードバック制御器122で演算されるフィードバック制御指令値u_fbは、エンジントルク変動よりも低い低周波数帯域において、エンジン回転速度ω_inを目標値ω_in_refに追従させるためのものとなる。したがって、フィードバック制御指令値u_fbによりエンジン回転速度の目標値ω_in_refと検出値ω_inとの定常偏差の発生を抑制することができる。
以上説明した本実施形態では、入力側ロータ28と出力側ロータ18間の電磁カップリングトルクT_cを制御する場合に、フィードフォワード制御指令値u_ffにより電磁カップリングトルクT_cが目標値T_ref(エンジントルクT_eng)になるようにフィードフォワード制御されるとともに、フィードバック制御指令値u_fbによりエンジン回転速度の検出値ω_inが目標値ω_in_refになるようにフィードバック制御される。これによって、エンジン回転速度ω_inを目標値ω_in_refに制御しつつ、エンジントルクT_engを出力側ロータ18へ伝達して所望のトルクを駆動軸37へ伝達することができる。その際には、エンジン回転速度の目標値ω_in_refをエンジン効率が所定の高効率となる(例えば最も熱効率が高くなる)値に設定することで、エンジン36を高効率で運転しつつ、所望のトルクを駆動軸37へ伝達することができる。さらに、本実施形態では、エンジン回転速度の目標値ω_in_refと検出値ω_inとの偏差(ω_in_ref−ω_in)に含まれる、エンジントルク変動による振動成分をフィルタ121により抑制することで、フィードバック制御指令値u_fbからエンジントルク変動による振動成分を抑制することができる。したがって、フィードバック制御指令値u_fbによりエンジン回転速度の目標値ω_in_refと検出値ω_inとの定常偏差の発生を抑制しつつ、入力側ロータ28と出力側ロータ18間の電磁カップリングトルクT_cに、フィードバック制御指令値u_fbの振動成分によるトルク変動が発生するのを抑制することができ、エンジン36のトルク変動による振動が駆動軸37に伝達されるのを抑制することができる。
なお、図6に示す構成例では、フィルタ121による処理をフィードバック制御器122の前段で行っているが、フィルタ121による処理をフィードバック制御器122の後段で行うことも可能である。
本実施形態では、フィードバック制御部104をI(積分)制御器により構成することも可能である。つまり、フィードバック制御部104の伝達関数(偏差(ω_in_ref−ω_in)に対するフィードバック制御指令値u_fbの関係)を、KI/s(sはラプラス演算子、KIは積分ゲイン)の積分特性になるように設計することも可能である。その場合、フィードバック制御部104(積分制御器)は、図8に示すように、エンジントルク変動の周波数帯域Ωにおけるゲインが、周波数帯域Ωよりも低い低周波数帯域におけるゲインに比べて小さい周波数特性を有する。そのため、フィードバック制御部104(積分制御器)で演算されるフィードバック制御指令値u_fbは、エンジントルク変動による振動成分が抑制されたものとなり、エンジントルク変動よりも低い低周波数帯域において、エンジン回転速度ω_inを目標値ω_in_refに追従させるためのものとなる。したがって、エンジン回転速度の目標値ω_in_refと検出値ω_inとの定常偏差の発生を抑制しつつ、電磁カップリングトルクT_cにフィードバック制御指令値u_fbの振動成分によるトルク変動が発生するのを抑制することができる。その際には、エンジン回転速度の目標値ω_in_refと検出値ω_inとの定常偏差が生じない程度に積分ゲインKIを低下させることで、フィードバック制御指令値u_fbからエンジントルク変動による振動成分をさらに低減することができる。
また、本実施形態では、フィードバック制御部104をPI(比例積分)制御器により構成することも可能である。つまり、フィードバック制御部104の伝達関数(偏差(ω_in_ref−ω_in)に対するフィードバック制御指令値u_fbの関係)を、KP×(1+1/(TI×s))(KPは比例ゲイン、TIは積分時間)の比例積分特性になるように設計することも可能である。その場合、フィードバック制御部104(比例積分制御器)は、例えば図9に示すように、エンジントルク変動の周波数帯域Ωにおけるゲインが、周波数帯域Ωよりも低い低周波数帯域におけるゲインに比べて小さい周波数特性を有する。そのため、フィードバック制御部104(比例積分制御器)で演算されるフィードバック制御指令値u_fbは、エンジントルク変動による振動成分が抑制されたものとなり、エンジントルク変動よりも低い低周波数帯域において、エンジン回転速度ω_inを目標値ω_in_refに追従させるためのものとなる。したがって、エンジン回転速度の目標値ω_in_refと検出値ω_inとの定常偏差の発生を抑制しつつ、電磁カップリングトルクT_cにフィードバック制御指令値u_fbの振動成分によるトルク変動が発生するのを抑制することができる。その際には、エンジン回転速度の目標値ω_in_refと検出値ω_inとの定常偏差が生じない程度に積分時間TIを調整し、且つ比例ゲインKPを低下させることで、フィードバック制御指令値u_fbからエンジントルク変動による振動成分をさらに低減することができる。
また、本実施形態では、図10に示すフィードバック制御指令値u_fbに基づいて電磁カップリングトルクT_cを制御するフィードバック制御系において、エンジントルクT_engから電磁カップリングトルクT_cまでの閉ループ伝達関数Tcl(jω)(ωは角周波数)について、エンジントルク変動の周波数帯域Ωでのゲインが、周波数帯域Ωよりも低い低周波数帯域でのゲインに比べて小さい周波数特性を有するように、フィードバック制御部104を設計することも可能である。その場合は、エンジントルク変動の周波数特性をD(jω)とすると、例えば図11に示すように、常に|W(jω)|>|D(jω)|となるような重み関数W(jω)を設計する。その際に、エンジントルク変動の周波数特性D(jω)については、予め計測して把握しておく。次に、以下の(1)式が成立するように、閉ループ伝達関数Tcl(jω)を設計する。閉ループ伝達関数Tcl(jω)の周波数特性の一例を図12に示す。
ブロック107の伝達関数をP(jω)、フィードバック制御部104及びブロック106から構成されるシステムの伝達関数をK(jω)とすると、閉ループ伝達関数Tcl(jω)は、以下の(2)式で表される。
(2)式において、P(jω)=1/Jin×1/jωであり、また、エンジントルク変動の周波数帯域Ω以下では、トルク制御指令値uに対する電磁カップリングトルクT_cの応答性は十分高いため、ブロック106の伝達関数については一定のゲイン特性と考えることができる。したがって、(2)式から、閉ループ伝達関数Tcl(jω)とフィードバック制御部104の伝達関数との関係式が決まり、フィードバック制御部104の伝達関数の設計が可能である。
例えばフィードバック制御部104をPI制御器とすると、伝達関数K(jω)は、以下の(3)式で表すことが可能である。
(3)式、P(jω)=1/Jin×1/jωを(2)式に代入すると、閉ループ伝達関数Tcl(jω)は、以下の(4)式で表される。
(4)式で表される閉ループ伝達関数Tcl(jω)の周波数特性を図13に示す。図13に示すように、(4)式で表される閉ループ伝達関数Tcl(jω)は、ローパスフィルタ特性を有し、そのカットオフ周波数が(2×KP/(Jin×TI))0.5となる。フィードバック制御部104の比例ゲインKPや積分時間TIを調整することで、閉ループ伝達関数Tcl(jω)のカットオフ周波数(2×KP/(Jin×TI))0.5を調整することができ、エンジントルク変動の周波数帯域Ωでのゲインが、周波数帯域Ωよりも低い低周波数帯域でのゲインに比べて小さい周波数特性を有するように、閉ループ伝達関数Tcl(jω)を設計することが可能である。
エンジントルク変動の周波数帯域Ωでのゲインが、周波数帯域Ωよりも低い低周波数帯域でのゲインに比べて小さい周波数特性を有する閉ループ伝達関数Tcl(jω)についても、フィードバック制御部104で演算されるフィードバック制御指令値u_fbは、エンジントルク変動による振動成分が抑制されたものとなり、エンジントルク変動よりも低い低周波数帯域において、エンジン回転速度ω_inを目標値ω_in_refに追従させるためのものとなる。したがって、エンジン回転速度の目標値ω_in_refと検出値ω_inとの定常偏差の発生を抑制しつつ、電磁カップリングトルクT_cにフィードバック制御指令値u_fbの振動成分によるトルク変動が発生するのを抑制することができる。
また、エンジン36のトルク変動の振幅や周波数は、エンジン36の回転速度ω_inやトルクT_eng等の運転状態に応じて変化する。例えばエンジン回転速度ω_inが高くなると、エンジントルク変動の周波数帯域Ωが高くなり、エンジントルクT_engが大きくなると、エンジントルク変動の振幅が大きくなる。そこで、本実施形態では、エンジン36の回転速度ω_inやトルクT_eng等の運転状態に応じて、フィードバック制御部104の周波数特性やフィードバックゲインを変化させることも可能である。
フィードバック制御部104がフィルタ121を含む図6の構成例では、例えば図14のフィルタ121の周波数特性に示すように、エンジン回転速度ω_inの低下に対してフィルタ121(ローパスフィルタ)のカットオフ周波数を低くすることで、エンジン回転速度ω_inの変化によりエンジントルク変動の周波数帯域Ωが変化しても、カットオフ周波数がエンジントルク変動の周波数帯域Ωよりも低い状態を維持することができる。したがって、エンジン回転速度ω_inが変化しても、エンジン回転速度の目標値ω_in_refと検出値ω_inとの定常偏差の発生を抑制しつつ、エンジントルク変動による振動の駆動軸37での抑制量の低下を防ぐことができる。あるいは、エンジン回転速度ω_inの低下に対してフィルタ121(一時遅れフィルタ)の時定数τを増加させることも可能である。また、例えば図15のフィルタ121の周波数特性に示すように、エンジントルクT_engの増加に対してフィルタ121(ローパスフィルタ)のカットオフ周波数を低くすることで、エンジントルクT_engの増加によりエンジントルク変動の振幅が増加しても、エンジントルク変動による振動成分のフィルタ121での抑制量を増加させることができる。したがって、エンジントルクT_engが変化しても、エンジン回転速度の目標値ω_in_refと検出値ω_inとの定常偏差の発生を抑制しつつ、エンジントルク変動による振動の駆動軸37での抑制量の低下を防ぐことができる。あるいは、エンジントルクT_engの増加に対してフィルタ121(一時遅れフィルタ)の時定数τを増加させることも可能である。
フィードバック制御部104を積分制御器により構成する例では、例えば図16のフィードバック制御部104の周波数特性に示すように、エンジン回転速度ω_inの低下に対して積分ゲイン(フィードバックゲイン)KIを小さくすることで、エンジン回転速度ω_inの低下によりエンジントルク変動の周波数帯域Ωが低下しても、エンジントルク変動による振動成分の抑制量が低下するのを防ぐことができる。したがって、エンジン回転速度ω_inが変化しても、エンジン回転速度の目標値ω_in_refと検出値ω_inとの定常偏差の発生を抑制しつつ、エンジントルク変動による振動の駆動軸37での抑制量の低下を防ぐことができる。また、例えば図17のフィードバック制御部104の周波数特性に示すように、エンジントルクT_engの増加に対して積分ゲイン(フィードバックゲイン)KIを小さくすることで、エンジントルクT_engの増加によりエンジントルク変動の振幅が増加しても、エンジントルク変動による振動成分の抑制量を増加させることができる。したがって、エンジントルクT_engが変化しても、エンジン回転速度の目標値ω_in_refと検出値ω_inとの定常偏差の発生を抑制しつつ、エンジントルク変動による振動の駆動軸37での抑制量の低下を防ぐことができる。
フィードバック制御部104を比例積分制御器により構成する例では、例えば図18のフィードバック制御部104の周波数特性に示すように、エンジン回転速度ω_inの低下に対して比例ゲイン(フィードバックゲイン)KPを小さくする。比例ゲインKPが小さくなると、図13に示す閉ループ伝達関数Tcl(jω)のカットオフ周波数(2×KP/(Jin×TI))0.5が低くなる。エンジン回転速度ω_inの低下に対して比例ゲインKPを小さくすることで、エンジン回転速度ω_inの低下によりエンジントルク変動の周波数帯域Ωが低下しても、エンジントルク変動による振動成分の抑制量が低下するのを防ぐことができる。したがって、エンジン回転速度ω_inが変化しても、エンジン回転速度の目標値ω_in_refと検出値ω_inとの定常偏差の発生を抑制しつつ、エンジントルク変動による振動の駆動軸37での抑制量の低下を防ぐことができる。また、例えば図19のフィードバック制御部104の周波数特性に示すように、エンジントルクT_engの増加に対して比例ゲイン(フィードバックゲイン)KPを小さくする(閉ループ伝達関数Tcl(jω)のカットオフ周波数(2×KP/(Jin×TI))0.5を低くする)ことで、エンジントルクT_engの増加によりエンジントルク変動の振幅が増加しても、エンジントルク変動による振動成分の抑制量を増加させることができる。したがって、エンジントルクT_engが変化しても、エンジン回転速度の目標値ω_in_refと検出値ω_inとの定常偏差の発生を抑制しつつ、エンジントルク変動による振動の駆動軸37での抑制量の低下を防ぐことができる。
以上説明したトルク制御指令値u=(u_ff+u_fb)による電磁カップリングトルクT_cの制御を行う際には、回転電機10の入出力を入れ替えることも可能である。すなわち、第2ロータ18がエンジン36に機械的に連結され、第1ロータ28が変速機44を介して駆動軸37(車輪38)に機械的に連結されていてもよい。この場合は、エンジン36からの動力が第2ロータ18に伝達され、第1ロータ28からの動力が変速機44で変速されて駆動軸37に伝達されるため、第2ロータ18が入力側ロータとなり、第1ロータ28が出力側ロータとなる。また、以上説明したトルク制御指令値uによる電磁カップリングトルクT_cの制御を行う際には、ステータ16及びインバータ40を省略することも可能である。
また、以上の実施形態では、エンジントルク変動による振動が駆動軸37(車輪38)に伝達されるのを抑制できる一方、エンジン36、入力側ロータ28、及びスリップリング95を含む入力側回転要素には、エンジントルク変動による振動が残ることになる。エンジントルク変動による入力側回転要素の振動も低減するための電子制御ユニット50の構成例を図20に示す。エンジントルク振動推定部132は、エンジン36のトルクの振動成分ΔTを推定する。前述のように、エンジン36が発生するトルクはクランク角に対して変動し、さらに、エンジン回転速度ω_inが高くなるとエンジントルク振動成分ΔTの周波数が高くなり、エンジントルクT_engが大きくなるとエンジントルク振動成分ΔTの振幅が大きくなる。そこで、クランク角と、エンジン回転速度ω_inと、スロットル開度(ガソリンエンジン等の火花点火式内燃機関の場合)または燃料噴射量(ディーゼルエンジン等の圧縮着火式内燃機関の場合)とに基づいて、エンジントルク振動成分ΔTを推定することが可能である。さらに、火花点火式内燃機関の場合は、エンジントルク振動成分ΔTの推定に空燃比や点火時期を加えることも好適である。補正コントローラ133は、エンジントルク振動推定部132からのエンジントルク振動成分(推定値)ΔTに対応する補正指令値Δu1を生成して出力する。補正指令値Δu1によりステータ16と出力側ロータ18間のPMモータトルクT_mgを制御した場合に、ステータ16から出力側ロータ18に作用するエンジン回転方向のPMモータトルクT_mgが推定値ΔTに等しくなるような補正指令値Δu1が補正コントローラ133で演算される。リミッタ134は、補正コントローラ133で演算された補正指令値Δu1が所定の制限範囲内(負の下限値−ulim以上且つ正の上限値ulim以下)になるように制限する。ulimについては、入力側ロータ28と出力側ロータ18間に作用可能な電磁カップリングトルクの最大値と、ステータ16と出力側ロータ18間に作用可能なPMモータトルクの最大値のうち、小さい方の値に設定される。
加算器135は、加算器105からのトルク制御指令値u=(u_ff+u_fb)にリミッタ134からの補正指令値Δu1を加算することで、トルク制御指令値uを(u+Δu1)に補正する。そして、補正指令値Δu1で補正されたトルク制御指令値(u+Δu1)により入力側ロータ28と出力側ロータ18間の電磁カップリングトルクが制御される。補正指令値Δu1は、エンジントルク変動に対応する振動成分による指令値であり、電磁カップリングトルクは、トルク制御指令値u(フィードフォワード制御指令値u_ff及びフィードバック制御指令値u_fb)により制御される主トルクT_cに、補正指令値Δu1により制御される振動成分ΔTが重畳されたものとなる。その際には、補正指令値Δu1がリミッタ134により下限値−ulim以上且つ上限値ulim以下に制限されることで、補正指令値Δu1によるトルク成分ΔTが電磁カップリングトルクの最大値とPMモータトルクの最大値の小さい方の値を超えないように制限される。入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用するエンジン回転方向の電磁カップリングトルクは(T_c+ΔT)となり、その反作用として、出力側ロータ18から入力側ロータ28に作用するエンジン回転方向の電磁カップリングトルクは(−T_c−ΔT)となる。この入力側ロータ28に作用する電磁カップリングトルク(−T_c−ΔT)の振動成分−ΔTが、エンジン36の発生トルクに含まれる振動成分ΔTと打ち消し合うことで、エンジン36から入力側ロータ28に伝達されるトルクの変動を低減することが可能となり、エンジン36、入力側ロータ28、及びスリップリング95を含む入力側回転要素の振動を低減することが可能となる。
符号反転器136は、リミッタ134からの補正指令値Δu1の符号を反転して出力する。そして、符号反転器136からの補正指令値−Δu1によりステータ16と出力側ロータ18間のPMモータトルクT_mgが制御される。補正指令値−Δu1は、エンジントルク変動に対応する振動成分による指令値であり、PMモータトルクT_mgは振動成分ΔTを含むものとなり、ステータ16から出力側ロータ18に作用するエンジン回転方向のPMモータトルクT_mgは−ΔTとなる。その際には、補正指令値Δu1がリミッタ134により下限値−ulim以上且つ上限値ulim以下に制限されることで、補正指令値−Δu1によるトルク−ΔTの絶対値が電磁カップリングトルクの最大値とPMモータトルクの最大値の小さい方の値を超えないように制限される。ステータ16から出力側ロータ18に作用するPMモータトルクT_mgの振動成分−ΔTが、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用する電磁カップリングトルク(T_c+ΔT)の振動成分ΔTと打ち消し合うことで、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用する電磁カップリングトルクの変動が抑制される。その結果、出力側ロータ18に作用する電磁カップリングトルクとPMモータトルクの合成トルクには振動成分ΔTは生じず、振動が駆動軸37に伝達されるのを抑制することができる。その際には、補正指令値Δu1をリミッタ134により下限値−ulim以上且つ上限値ulim以下に制限することで、PMモータトルクT_mgの振動成分−ΔTと電磁カップリングトルク(T_c+ΔT)の振動成分ΔTが出力側ロータ18で確実に打ち消し合うようにすることができる。なお、図20において、ブロック146は、補正指令値−Δu1に対するPMモータトルク−ΔTの関係を表し、インバータ40の特性、ステータ16及び出力側ロータ18によるPMモータ部の特性等が含まれる。
以上説明した図20に示す構成例によれば、エンジン36のトルク変動による振動が駆動軸37に伝達されるのを抑制できるだけでなく、エンジン36、入力側ロータ28、及びスリップリング95を含む入力側回転要素においても、エンジントルク変動による振動を低減することができる。
なお、特許文献2では、エンジンのトルク変動による振動を抑制するために、エンジンと駆動軸間の動力伝達経路に配置されたモータジェネレータのトルクに、エンジンのトルク変動に応じたトルク変動を加算して出力している。しかし、特許文献2において、エンジントルク変動による振動の抑制量を増加させるためには、モータジェネレータの出力トルクに加算するトルク変動レベルを大きくする必要があり、そのためには、モータジェネレータのトルク容量を大きくする必要がある。これに対して図20に示す構成例では、補正指令値Δu1におけるエンジントルク変動に対応する振動成分のレベルは小さくても、ステータ16から出力側ロータ18に作用するPMモータトルクT_mgの振動成分−ΔTが、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用する電磁カップリングトルク(T_c+ΔT)の振動成分ΔTと打ち消し合うため、エンジントルク変動による振動の駆動軸37での抑制量を増加させることができる。その結果、ステータ16及び出力側ロータ18によるPMモータ部のトルク容量を大きくすることなく、エンジントルク変動による振動の駆動軸37での抑制量を増加させることができる。
エンジントルク変動による入力側回転要素の振動も低減するための電子制御ユニット50の他の構成例を図21に示す。補正用フィードバック制御部144は、差分器103からの偏差(ω_in_ref−ω_in)を基に補正用フィードバック制御指令値u_fb0を生成する。ただし、ここでの補正用フィードバック制御部144は、フィードバック制御部104とは異なり、偏差(ω_in_ref−ω_in)に含まれる、エンジントルク変動による振動成分が補正用フィードバック制御指令値u_fb0において抑制されないように、補正用フィードバック制御指令値u_fb0を生成する。そのために、補正用フィードバック制御部144の周波数特性を、フィードバック制御部104の周波数特性と比較して、エンジントルク変動による振動成分の周波数帯域Ωでのゲインが大きくなるように設計する。例えばフィードバック制御部104がフィルタ121を含む図6の構成例では、補正用フィードバック制御部144は、フィルタ121を含まず、フィードバック制御器122と同等の周波数特性を有するフィードバック制御器により構成する。また、フィードバック制御部104及び補正用フィードバック制御部144を積分制御器により構成する例では、補正用フィードバック制御部144の積分ゲインをフィードバック制御部104の積分ゲインよりも大きくする。また、フィードバック制御部104及び補正用フィードバック制御部144を比例積分制御器により構成する例では、補正用フィードバック制御部144の比例ゲインをフィードバック制御部104の比例ゲインよりも大きくする。
差分器143は、補正用フィードバック制御部144で演算された補正用フィードバック制御指令値u_fb0とフィードバック制御部104で演算されたフィードバック制御指令値u_fbとの差(u_fb0−u_fb)を演算して補正指令値Δu1としてリミッタ134へ出力する。補正用フィードバック制御部144で演算された補正用フィードバック制御指令値u_fb0においては、エンジントルク変動による振動成分、及びこの振動成分よりも低い低周波数成分が抑制されずに含まれており、フィードバック制御部104で演算されたフィードバック制御指令値u_fbにおいては、低周波数成分が抑制されずに含まれている一方、エンジントルク変動による振動成分が抑制されている。そのため、差分器143からリミッタ134へ出力される補正指令値Δu1=(u_fb0−u_fb)は、低周波数成分が抑制される一方、エンジントルク変動による振動成分が残り、エンジントルク変動に対応する振動成分による指令値となる。そして、図20に示す構成例と同様に、トルク制御指令値(u+Δu1)により入力側ロータ28と出力側ロータ18間の電磁カップリングトルクを制御することで、エンジン36から入力側ロータ28に伝達されるトルクの変動を低減することができ、補正指令値−Δu1によりステータ16と出力側ロータ18間のPMモータトルクを制御することで、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用する電磁カップリングトルクの変動を抑制して駆動軸37に振動が伝達されるのを抑制することができる。
図21に示す構成例では、エンジン36の回転速度ω_inやトルクT_eng等の運転状態に応じて、フィードバック制御部104及び補正用フィードバック制御部144の周波数特性やフィードバックゲインを変化させることも可能である。フィードバック制御部104及び補正用フィードバック制御部144を積分制御器により構成する例では、エンジン回転速度ω_inの低下に対して、補正用フィードバック制御部144の積分ゲイン(フィードバックゲイン)がフィードバック制御部の積分ゲイン(フィードバックゲイン)よりも大きい状態を維持しながら、フィードバック制御部104の積分ゲイン及び補正用フィードバック制御部144の積分ゲインを小さくする。これによって、エンジン回転速度ω_inの低下によりエンジントルク変動の周波数帯域Ωが低下しても、エンジントルク変動による振動の入力側回転要素(入力側ロータ28)及び駆動軸37での抑制量の低下を防ぐことができる。また、エンジントルクT_engの増加に対して、補正用フィードバック制御部144の積分ゲインがフィードバック制御部の積分ゲインよりも大きい状態を維持しながら、フィードバック制御部104の積分ゲイン及び補正用フィードバック制御部144の積分ゲインを小さくする。これによって、エンジントルクT_engの増加によりエンジントルク変動の振幅が増加しても、エンジントルク変動による振動の入力側回転要素(入力側ロータ28)及び駆動軸37での抑制量の低下を防ぐことができる。
また、フィードバック制御部104及び補正用フィードバック制御部144を比例積分制御器により構成する例では、エンジン回転速度ω_inの低下に対して、補正用フィードバック制御部144の比例ゲイン(フィードバックゲイン)がフィードバック制御部の比例ゲイン(フィードバックゲイン)よりも大きい状態を維持しながら、フィードバック制御部104の比例ゲイン及び補正用フィードバック制御部144の比例ゲインを小さくする。これによって、エンジン回転速度ω_inの低下によりエンジントルク変動の周波数帯域Ωが低下しても、エンジントルク変動による振動の入力側回転要素(入力側ロータ28)及び駆動軸37での抑制量の低下を防ぐことができる。また、エンジントルクT_engの増加に対して、補正用フィードバック制御部144の比例ゲインがフィードバック制御部の比例ゲインよりも大きい状態を維持しながら、フィードバック制御部104の比例ゲイン及び補正用フィードバック制御部144の比例ゲインを小さくする。これによって、エンジントルクT_engの増加によりエンジントルク変動の振幅が増加しても、エンジントルク変動による振動の入力側回転要素(入力側ロータ28)及び駆動軸37での抑制量の低下を防ぐことができる。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。