本明細書において、(1−100)面等の表記における「−1」は、本来、数字の上に横線を付して表記するところを「−1」と表記したものである。
上記特許文献1に記載されるように、従来、RAF成長法が結晶の低欠陥化に有効と考えられており、昇華法により(11−20)面(a面ともいう)成長及び(1−100)面(m面ともいう)成長を繰り返すことにより、転位を低減した結晶を作製することが行われている。しかしながら、RAF法によっても無転位の単結晶を得ることは難しく、また、(11−20)面及び(1−100)面の繰り返し成長が必要であり、より転位密度の低減が可能で且つ簡便な製造方法が望まれている。
本発明者は、溶液法によるSiC単結晶の製造において、種結晶に起因して成長結晶に発生し得るらせん転位、刃状転位、及びマイクロパイプ欠陥といった貫通転位密度が少なく且つ大きな成長厚みを有するSiC単結晶の製造方法について鋭意研究を行った。
その結果、種結晶の(1−100)面(m面ともいう)を基点としたm面成長を、溶液法を用いて行うことによって、種結晶よりも貫通転位密度が大幅に低いSiC単結晶が得られることを見出した。
溶液法を用いてSiC単結晶をm面成長させることによって、貫通転位をほとんど含まないか全く含まないSiC単結晶が得ることができる。この方法によれば、成長面を変えて単結晶を繰り返し成長させる必要が無く、m面成長のみで、種結晶よりも、貫通転位を大幅に低減したSiC単結晶が得ることができる。
さらには、(1−100)面を成長面としてSiC単結晶を成長させている際に、Si−C溶液の表面領域の温度勾配を少なくとも1回大きくすることが、大きな厚みを有するm面成長結晶を得るために有効であることが分かった。
本発明は、内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液にSiC種結晶基板を接触させてSiC単結晶を成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、(1−100)面を成長面としてSiC単結晶を成長させている際に、Si−C溶液の表面領域の温度勾配を少なくとも1回大きくして、4mm以上の成長厚みを有するSiC単結晶を成長させる、SiC単結晶の製造方法を対象とする。
本発明に係るSiC単結晶の製造方法においては、溶液法が用いられる。SiC単結晶を製造するための溶液法とは、坩堝内において、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度低下する温度勾配を形成することによってSi−C溶液の表面領域を過飽和にして、Si−C溶液に接触させた種結晶基板を基点として、種結晶基板上にSiC単結晶を成長させる方法である。
本方法においては、SiC単結晶の製造に一般に用いられる品質のSiC単結晶を種結晶として用いることができる。例えば昇華法で一般的に作成したSiC単結晶を種結晶として用いることができる。このような昇華法で一般的に作成したSiC単結晶には、概して貫通転位が多く含まれている。
本方法においては、(1−100)面を有するSiC種結晶を用いて、この(1−100)面を基点として溶液法を用いてSiC単結晶を(1−100)面成長させる。得られる(1−100)面成長したSiC単結晶の貫通転位密度は、種結晶の貫通転位密度よりも大幅に小さい。
本方法によれば、4mm以上の成長厚みを有し、且つ貫通らせん転位、貫通刃状転位、及びマイクロパイプ欠陥を含む貫通転位密度が、10個/cm2以下、好ましくは5個/cm2以下、より好ましくは1個/cm2以下、さらに好ましくは0個/cm2であるSiC単結晶を得ることができる。
大きな厚みを有するm面成長結晶を得るためには、成長速度を大きくしたり、成長時間を長くする方法が挙げられる。しかしながら、m面成長においてはSi−C溶液のインクルージョンが発生しやすいため成長速度を速くすることは難しく、また成長時間を長くしても結晶成長に非常に長時間を要したり、あるいは所定の厚み以上に結晶成長しないことがあった。
また、大きな厚みを有するm面成長結晶を得るために、複数回繰り返して成長を行う方法も挙げられる。ところが、複数回繰り返して成長を行っても、4mm以上の厚みにm面成長させる際に、非常に長時間を要したり、あるいは所定の厚み以上に結晶成長しないことがあった。
結晶成長の際に、非常に長時間を要したり、あるいは所定の厚み以上に結晶成長しないことの原因として、理論に束縛されるものではないが、SiC単結晶は、黒鉛軸よりも熱伝導率が高いため、結晶成長厚みが厚くなるほど、SiC結晶の成長面とSi−C溶液との界面領域の温度勾配が小さくなり、結晶成長速度が遅くなることが考えられる。
図1に、(1−100面)を成長面としてSiC結晶成長を15時間連続して行った場合の、Si−C溶液の表面領域の温度勾配による、結晶厚さと結晶成長速度との関係を示す。図1において、Si−C溶液の表面領域の温度勾配とは、Si−C溶液の表面から3mmの範囲の温度勾配の平均値であり、結晶厚さとは、成長開始前の種結晶として用いるSiC単結晶の厚みであり、結晶成長速度とは、15時間で成長した結晶の厚みを15時間で除した値であり、平均の結晶成長速度である。図1から、結晶厚さが大きくなるほど結晶成長速度が低下することが分かる。また、Si−C溶液の表面領域の温度勾配を高くすることによって、結晶成長速度を高くすることができることも分かる。
図2に、SiC結晶成長を24時間連続して行ったこと以外は図1の場合と同じ条件で行った場合の、Si−C溶液の表面領域の温度勾配による、結晶厚さと結晶成長速度との関係を示す。図1のSiC結晶成長を15時間連続して行った場合と同様に、結晶厚さが大きくなるほど結晶成長速度は低下傾向を示す。
m面成長がこのような傾向を有することが分かり、m面成長の途中で、Si−C溶液の表面領域の温度勾配を少なくとも1回大きくすることが、大きな成長厚みを有するm面成長結晶を得る上で効果的である。この方法により4mm以上、好ましくは5mm以上、より好ましくは6mm以上、さらにより好ましくは7mm以上の厚みを有するm面成長結晶を良好に得ることができる。
本発明に係る方法によって(1−100)面成長させたSiC単結晶には、基底面転位及び積層欠陥は含まれ得るものの、貫通転位密度は非常に少ないかゼロであるため、このSiC単結晶の{0001}面を基点としてさらに結晶成長させると、貫通転位だけでなく基底面転位及び積層欠陥も含まない非常に高品質のSiC単結晶を得ることができる。
より具体的に説明すると、本発明に係る方法によって(1−100)面成長させたSiC単結晶から、{0001}面、好ましくは(000−1)面を露出させるように結晶を切り出して、種結晶として用いて、{0001}面成長、好ましくは(000−1)面成長を行うことができる。このようにして得られた{0001}面成長結晶、好ましくは(000−1)面成長結晶には、貫通転位、基底面転位、及び積層欠陥がほとんど含まれないか全く含まれない。
これは、種結晶の成長基点となる{0001}面における貫通転位が非常に少ないか全く含まれないため、種結晶から成長結晶に伝搬する貫通転位が非常に少ないか全く無いことと、種結晶に含まれ得る基底面転位及び積層欠陥は{0001}面成長結晶に伝搬しにくいためである。{0001}面成長は、溶液法を用いて行うことができ、あるいは昇華法を用いて行うことも可能である。{0001}面成長を昇華法により行う場合は、{0001}面より数度のオフ角を設けて成長してもよい。
したがって、m面成長させるSiC単結晶の成長厚みが厚いほど、大きな面積の(000−1)面を有するSiC結晶を得ることができるので、これを{0001}面成長用の種結晶として用いることによって、大きな口径を有し且つ欠陥をほとんど含まないか全く含まない{0001}面成長結晶を得ることができる。
本発明に係る方法において、Si−C溶液の表面領域の温度勾配を大きくするとき、最初に設定した結晶成長速度を上回らないようにすることが好ましい。通常、結晶成長初期においては、インクルージョンが発生しない範囲で最も速い成長速度となるように、Si−C溶液の表面領域の温度勾配を設定するためである。
本発明に係る方法においては、Si−C溶液のインクルージョンが入らないように結晶成長させることが好ましい。インクルージョンの発生を抑制するためには、所定の成長速度以下で結晶成長させることが効果的であり、15時間連続で結晶成長させる場合には、93μm/h以下の平均成長速度で結晶成長させることが好ましく、24時間連続で結晶成長させる場合には、87μm/h以下の平均成長速度で結晶成長させることが好ましい。
本発明に係る方法において、15時間連続または24時間連続で結晶成長させる場合には、SiC結晶の平均成長速度の下限は、0μm/hより大きく、好ましくは20μm/h以上であり、より好ましくは40μm/h以上であり、さらに好ましくは60μm/h以上であり、さらにより好ましくは80μm/h以上である。
15時間連続で結晶成長させる場合のSiC結晶の平均成長速度の上限は、好ましくは93μm/h以下であり、余裕を持って、90μm/h以下または80μm/h以下にしてもよい。24時間連続で結晶成長させる場合のSiC結晶の平均成長速度の上限は、好ましくは87μm/h以下であり、余裕を持って80μm/h以下または70μm/h以下にしてもよい。
本発明に係る方法においては、SiC単結晶の成長厚みが4mmに到達する前に、Si−C溶液の表面領域の温度勾配を大きくすることが好ましい。連続して結晶成長を行う場合、SiC単結晶の成長厚みが4mm程度になると、図1に示すように、成長速度が非常に小さくなるためである。
SiC単結晶の成長厚みが、より好ましくは3mmに到達する前、さらに好ましくは2mmに到達する前、さらにより好ましくは1mmに到達する前に、Si−C溶液の表面領域の温度勾配を大きくしてもよい。例えば、成長厚みが1mm厚に到達する前に温度勾配を大きくし、その後、さらに成長厚みが1mm厚に到達する前に温度勾配を大きくしてもよい。
SiC結晶成長の際に成長厚みをモニタリングすることができない場合は、事前に、図1または図2に示すような、Si−C溶液の表面領域の温度勾配による、結晶厚さと結晶成長速度との関係を調べておき、所定の結晶厚さになるタイミングで、所定の結晶成長速度になるように、Si−C溶液の表面領域の温度勾配を高くすればよい。
図1に示すような関係が得られている場合、例えば、2.6mm厚の種結晶を用意し、Si−C溶液の表面から3mmの深さの範囲の平均温度勾配を10℃/cmとして、93μm/hの平均成長速度で15時間成長させると、1.4mm結晶成長するので、4.0mmの結晶厚さが得られる。このままさらに15時間成長を続けると42μm/hの平均成長速度しか得られず、0.6mmの結晶成長により合計4.6mmの結晶厚さしか得られない。しかしながら、4.0mmの結晶厚さが得られたときに、Si−C溶液の表面から3mmの深さの範囲の平均温度勾配を21℃/cmに高くして、さらに15時間成長を続けると、平均85μm/hの成長速度で成長させることができ、1.3mm結晶成長するので、合計5.3mmの結晶厚さが得られる。
また、事前に、より細かくデータをとっておき、例えば、図3に模式的に示すように、破線で示す上限成長速度以下の範囲でほぼ一定の結晶成長速度が得られるように、結晶長さ(または成長時間)及び温度勾配のプログラムを設定して、結晶成長させることもできる。
このように、本発明に係る方法においては、SiC結晶成長の際に、Si−C溶液の表面領域の温度勾配を大きくすることは、少なくとも1回または2回以上行うことができる。
SiC結晶成長の際に成長厚みをモニタリングすることができる場合は、結晶成長時間を測定して、結晶成長速度を算出することができる。そして、成長速度が落ちてきたら、所定の結晶成長速度になるように、Si−C溶液の表面領域の温度勾配の設定にフィードバックすることができる。例えば1時間以下等の短時間毎またはリアルタイムで結晶成長速度を測定して、結晶成長厚みによらず成長速度をほぼ一定に保つように、Si−C溶液の表面領域の温度勾配を大きくしてもよい。この場合、図3に示すような結晶成長、またはより成長速度が一定である結晶成長をより容易に行うことができる。1時間以下等の短時間毎またはリアルタイムで結晶成長速度を測定することができる場合、成長速度の上限は、好ましくは170μm/h以下である。
SiC単結晶の成長速度は、Si−C溶液の過飽和度の制御によって行うことができる。Si−C溶液の過飽和度を高めればSiC単結晶の成長速度は増加し、過飽和度を下げればSiC単結晶の成長速度は低下する。
Si−C溶液の過飽和度は、主に、Si−C溶液の表面温度、及びSi−C溶液の表面領域の温度勾配により制御することができ、例えば、Si−C溶液の表面温度を一定にしつつ、Si−C溶液の表面領域の温度勾配を小さくすれば過飽和度を小さくすることができ、Si−C溶液の表面領域の温度勾配を大きくすれば過飽和度を大きくすることができる。
Si−C溶液の表面領域の温度勾配の制御方法は、後で図面を参照しながら詳細に説明するが、単結晶製造装置の坩堝周辺に配置された高周波コイル等の加熱装置の配置、構成、出力等を調整することによって、Si−C溶液の表面に垂直方向の所定の温度勾配を形成することができる。
別法では、種結晶保持軸を冷却することによって、Si−C溶液の表面領域の温度勾配を大きくすることができる。種結晶保持軸を冷却する方法としては、例えば、種結晶保持軸に、ガスを吹き付けること、冷却水を流すこと、または低温部材を近づけることが挙げられる。また、成長したSiC単結晶を冷却することによっても、Si−C溶液の表面領域の温度勾配を大きくすることができる。成長したSiC単結晶を冷却する方法としては、例えば、成長結晶の少なくとも一部に、ガスを吹き付けること、または低温部材を近づけることが挙げられる。
本発明に係る方法に用いる種結晶は、例えば板状、円盤状、円柱状、角柱状、円錐台状、または角錐台状等の任意の形状であることができる。種結晶の(1−100)面をSi−C溶液面に接触させる種結晶の下面として用いることができ、反対側の上面を黒鉛軸等の種結晶保持軸に保持させる面として用いることができる。
本発明に係る方法に用いられる種結晶基板の(1−100)面は、オフセット角度が好ましくは±10°以内、より好ましくは±5°以内、さらに好ましくは±1°以内の面を含み、さらにより好ましくはジャスト面である。
本明細書において、Si−C溶液の表面領域の温度勾配とは、Si−C溶液の表面の垂直方向の温度勾配であって、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度低下する温度勾配である。温度勾配は、低温側となるSi−C溶液の表面における温度Aと、Si−C溶液の表面から溶液側に垂直方向の所定の深さにおける高温側となる温度Bを、種結晶基板をSi−C溶液に接触させる前に熱電対を用いて事前に測定し、その温度差を、温度A及び温度Bを測定した位置間の距離で割ることによって平均値として算出することができる。例えば、Si−C溶液の表面と、Si−C溶液の表面から溶液側に垂直方向の深さDcmの位置との間の温度勾配を測定する場合、Si−C溶液の表面温度Aと、Si−C溶液の表面から溶液側に垂直方向の深さDcmの位置における温度Bとの差をDcmで割った次の式:
温度勾配(℃/cm)=(B−A)/D
によって算出することができる。
温度勾配の制御範囲は、好ましくはSi−C溶液の表面から3mmの深さまでの範囲である。この場合、上記式において、Si−C溶液の表面温度Aと、Si−C溶液の表面から溶液側に垂直方向の深さ3mmの位置における温度Bとの差を3mmで割った値が温度勾配(℃/cm)となる。
温度勾配の制御範囲が浅すぎると、温度勾配を制御する範囲が浅くCの過飽和度を制御する範囲も浅くなりSiC単結晶の成長が不安定になることがある。また、温度勾配を制御する範囲が深いと、Cの過飽和度を制御する範囲も深くなりSiC単結晶の安定成長に効果的であるが、実際、単結晶の成長に寄与する深さはSi−C溶液の表面のごく近傍であり、表面から数mmの深さまでの温度勾配を制御すれば十分である。したがって、SiC単結晶の成長と温度勾配の制御とを安定して行うために、上記深さ範囲の温度勾配を制御することが好ましい。
SiC結晶中のインクルージョンの有無の観察は、顕微鏡を用いて行うことができる。成長させたSiC結晶を1mm厚程度の厚みにスライスして、下から光をあてて観察すると、SiC単結晶部分は透明に見え、インクルージョンが存在する部分は黒く見えるため、インクルージョンの有無を容易に判断することができる。インクルージョンの有無を判別しやすい場合は、成長結晶を単に外観観察してもよい。
SiC結晶中の貫通らせん転位、貫通刃状転位、及びマイクロパイプ欠陥を含む貫通転位密度の測定は、SiC結晶の(0001)面から<1−100>方向に傾けた面を露出させるように鏡面研磨をして、溶融水酸化カリウム、過酸化ナトリウム等を用いた溶融アルカリエッチングを行って、転位を強調させて、エッチング面を顕微鏡観察することによって行われ得る。(0001)面から<1−100>方向に傾ける角度は2〜8°が好ましく、3〜8°がより好ましく、例えば4°であることができる。
単結晶製造装置への種結晶基板の設置は、上述のように、種結晶基板の上面を種結晶保持軸に保持させることによって行うことができる。種結晶基板の種結晶保持軸への保持には、カーボン接着剤を用いることができる。
種結晶基板のSi−C溶液への接触は、種結晶基板を保持した種結晶保持軸をSi−C溶液面に向かって降下させ、種結晶基板の下面をSi−C溶液面に対して並行にしてSi−C溶液に接触させることによって行うことができる。そして、Si−C溶液面に対して種結晶基板を所定の位置に保持して、SiC単結晶を成長させることができる。
種結晶基板の保持位置は、種結晶基板の下面の位置が、Si−C溶液面に一致するか、Si−C溶液面に対して下側にあるか、またはSi−C溶液面に対して上側にあってもよい。種結晶基板の下面をSi−C溶液面に対して上方の位置に保持する場合は、一旦、種結晶基板をSi−C溶液に接触させて種結晶基板の下面にSi−C溶液を接触させてから、所定の位置に引き上げる。種結晶基板の下面の位置を、Si−C溶液面に一致するか、またはSi−C溶液面よりも下側にしてもよいが、多結晶の発生を防止するために、種結晶保持軸にSi−C溶液が接触しないようにすることが好ましい。これらの方法において、単結晶の成長中に種結晶基板の位置を調節してもよい。
種結晶保持軸はその端面に種結晶基板を保持する黒鉛の軸であることができる。種結晶保持軸は、円柱状、角柱状等の任意の形状であることができ、種結晶基板の上面の形状と同じ端面形状を有する黒鉛軸を用いてもよい。
本発明において、Si−C溶液とは、SiまたはSi/X(XはSi以外の1種以上の金属)の融液を溶媒とするCが溶解した溶液をいう。Xは一種類以上の金属であり、SiC(固相)と熱力学的に平衡状態となる液相(溶液)を形成できれば特に制限されない。適当な金属Xの例としては、Ti、Mn、Cr、Ni、Ce、Co、V、Fe等が挙げられる。Si−C溶液は、Si及びCrを含む組成を有することが好ましい。
Si−C溶液は、Si/Cr/X(XはSi及びCr以外の1種以上の金属)の融液を溶媒とするSi−C溶液がより好ましい。さらに、原子組成百分率でSi/Cr/X=30〜80/20〜60/0〜10の融液を溶媒とするSi−C溶液が、Cの溶解量の変動が少なく、さらに好ましい。例えば、坩堝内にSiに加えて、Cr、Ni等を投入し、Si−Cr溶液、Si−Cr−Ni溶液等を形成することができる。
本発明に係る方法においてSi−C溶液の温度とは、Si−C溶液の表面温度をいう。Si−C溶液の表面の温度の下限は好ましくは1800℃以上であり、上限は好ましくは2200℃であり、この温度範囲でSi−C溶液へのCの溶解量を多くすることができる。さらにn型SiC単結晶を成長させる場合、Si−C溶液中への窒素溶解量を高くすることができる点で、Si−C溶液の表面の温度の下限はより好ましくは2000℃以上である。
Si−C溶液の温度測定は、熱電対、放射温度計等を用いて行うことができる。熱電対に関しては、高温測定及び不純物混入防止の観点から、ジルコニアやマグネシア硝子を被覆したタングステン−レニウム素線を黒鉛保護管の中に入れた熱電対が好ましい。
図4に、本発明の方法を実施するのに適したSiC単結晶製造装置の一例を示す。図示したSiC単結晶製造装置100は、SiまたはSi/Xの融液中にCが溶解してなるSi−C溶液24を収容した坩堝10を備え、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度低下する温度勾配を形成し、昇降可能な黒鉛軸12の先端に保持された種結晶基板14をSi−C溶液24に接触させて、SiC単結晶を成長させることができる。坩堝10及び黒鉛軸12を回転させることが好ましい。
Si−C溶液24は、原料を坩堝に投入し、加熱融解させて調製したSiまたはSi/Xの融液にCを溶解させることによって調製される。坩堝10を、黒鉛坩堝などの炭素質坩堝またはSiC坩堝とすることによって、坩堝10の溶解によりCが融液中に溶解し、Si−C溶液が形成される。こうすると、Si−C溶液24中に未溶解のCが存在せず、未溶解のCへのSiC単結晶の析出によるSiCの浪費が防止できる。Cの供給は、例えば、炭化水素ガスの吹込み、または固体のC供給源を融液原料と一緒に投入するといった方法を利用してもよく、またはこれらの方法と坩堝の溶解とを組み合わせてもよい。
保温のために、坩堝10の外周は、断熱材18で覆われている。これらが一括して、石英管26内に収容されている。石英管26の外周には、加熱用の高周波コイル22が配置されている。高周波コイル22は、上段コイル22A及び下段コイル22Bから構成されてもよく、上段コイル22A及び下段コイル22Bはそれぞれ独立して制御可能である。
坩堝10、断熱材18、石英管26、及び高周波コイル22は、高温になるので、水冷チャンバーの内部に配置される。水冷チャンバーは、装置内をAr、He等に雰囲気調整することを可能にするために、ガス導入口とガス排気口とを備える。
Si−C溶液の温度は、通常、輻射等のためSi−C溶液の内部よりも表面の温度が低い温度分布となるが、さらに、高周波コイル22の巻数及び間隔、高周波コイル22と坩堝10との高さ方向の位置関係、並びに高周波コイル22の出力を調整することによって、Si−C溶液24に、種結晶基板14が浸漬される溶液上部が低温、溶液下部が高温となるようにSi−C溶液24の表面に垂直方向の所定の温度勾配を形成することができる。例えば、下段コイル22Bの出力よりも上段コイル22Aの出力を小さくして、Si−C溶液24に溶液上部が低温、溶液下部が高温となる所定の温度勾配を形成することができる。
Si−C溶液24中に溶解したCは、拡散及び対流により分散される。種結晶基板14の下面近傍は、コイル22の上段/下段の出力制御、Si−C溶液24の表面からの放熱、及び黒鉛軸12を介した抜熱によって、Si−C溶液24の下部よりも低温となる温度勾配が形成されている。高温で溶解度の大きい溶液下部に溶け込んだCが、低温で溶解度の低い種結晶基板下面付近に到達すると過飽和状態となり、この過飽和度を駆動力として種結晶基板上にSiC単結晶が成長する。
いくつかの態様において、SiC単結晶の成長前に、SiC種結晶基板の表面層をSi−C溶液中に溶解させて除去するメルトバックを行ってもよい。SiC単結晶を成長させる種結晶基板の表層には、転位等の加工変質層や自然酸化膜などが存在していることがあり、SiC単結晶を成長させる前にこれらを溶解して除去することが、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。溶解する厚みは、SiC種結晶基板の表面の加工状態によって変わるが、は加工変質層や自然酸化膜を十分に除去するために、およそ5〜50μmが好ましい。
メルトバックは、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度が増加する温度勾配、すなわち、SiC単結晶成長とは逆方向の温度勾配をSi−C溶液に形成することにより行うことができる。高周波コイルの出力を制御することによって上記逆方向の温度勾配を形成することができる。
メルトバックは、Si−C溶液に温度勾配を形成せず、単に液相線温度より高温に加熱されたSi−C溶液に種結晶基板を浸漬することによっても行うことができる。この場合、Si−C溶液温度が高くなるほど溶解速度は高まるが溶解量の制御が難しくなり、温度が低いと溶解速度が遅くなることがある。
いくつかの態様において、あらかじめ種結晶基板を加熱しておいてから種結晶基板をSi−C溶液に接触させてもよい。低温の種結晶基板を高温のSi−C溶液に接触させると、種結晶に熱ショック転位が発生することがある。種結晶基板をSi−C溶液に接触させる前に、種結晶基板を加熱しておくことが、熱ショック転位を防止し、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。種結晶基板の加熱は黒鉛軸ごと加熱して行うことができる。または、この方法に代えて、比較的低温のSi−C溶液に種結晶基板を接触させてから、結晶を成長させる温度にSi−C溶液を加熱してもよい。この場合も、熱ショック転位を防止し、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。
本発明はまた、貫通らせん転位、貫通刃状転位、及びマイクロパイプ欠陥を含む貫通転位密度が10個/cm2以下であり、且つ4mm以上の成長厚みを有する、SiC単結晶を対象とする。
本発明に係るSiC単結晶において、貫通転位密度は、好ましくは5個/cm2以下、より好ましくは1個/cm2以下、さらに好ましくは0個/cm2である。
本発明に係るSiC単結晶を種結晶として用いて、SiC単結晶をさらに成長させることができる。本方法によって(1−100)面成長させたSiC単結晶は、貫通転位をほとんど含まないか全く含まないため、このSiC単結晶の(000−1)面を基点としてさらに結晶成長させると、貫通転位だけでなく基底面転位及び積層欠陥も含まない非常に高品質のSiC単結晶を得ることができる。これは、種結晶の成長基点となる(000−1)面における貫通転位が非常に少ないか全く含まれないため、種結晶から成長結晶に伝搬する貫通転位が非常に少ないか全く無いことと、種結晶に含まれ得る基底面転位及び積層欠陥は(000−1)面成長結晶に伝搬しにくいためである。
(例1)
縦10mm、横10mm、及び厚みが1.5mmの直方体状の4H−SiC単結晶であって、下面が(1−100)面(ジャスト面)を有する昇華法により作製したSiC単結晶を用意して種結晶基板として用いた。種結晶基板の上面を、円柱形状の黒鉛軸の端面の略中央部に、黒鉛の接着剤を用いて接着した。
図4に示す単結晶製造装置を用い、Si−C溶液24を収容する黒鉛坩堝に、Si/Cr/Niを原子組成百分率で50:40:10の割合で融液原料として仕込んだ。単結晶製造装置の内部の空気をヘリウムで置換した。黒鉛坩堝10の周囲に配置された高周波コイル22に通電して加熱により黒鉛坩堝10内の原料を融解し、Si/Cr/Ni合金の融液を形成した。そしてSi/Cr/Ni合金の融液に黒鉛坩堝10から十分な量のCを溶解させて、Si−C溶液24を形成した。
上段コイル22A及び下段コイル22Bの出力を調節して黒鉛坩堝10を加熱し、Si−C溶液24の内部から溶液の表面に向けて温度低下する温度勾配を形成した。所定の温度勾配が形成されていることの確認は、昇降可能な熱電対を用いて、Si−C溶液24の温度を測定することによって行った。高周波コイル22A及び22Bの出力制御により、Si−C溶液24の表面における温度を2000℃まで昇温させ、並びに溶液表面から3mmの範囲で溶液内部から溶液表面に向けて温度低下する温度勾配が10℃/cmとなるように高周波コイル22の出力を調節した。
黒鉛軸に接着した種結晶基板の下面(m面)をSi−C溶液面に並行に保ちながら、種結晶基板の下面の位置を、Si−C溶液の液面に一致する位置に配置して、Si−C溶液に種結晶基板の下面を接触させるシードタッチを行った。次いで、種結晶基板の下面の位置がSi−C溶液の液面よりも1.5mm上方に位置するように、黒鉛軸を引き上げた。1.5mm引き上げた位置で15時間保持して、SiC結晶を成長させた。
15時間の結晶成長後、黒鉛軸を上昇させて、種結晶基板及び種結晶基板を基点として成長したSiC結晶を、Si−C溶液及び黒鉛軸から切り離して回収した。得られた成長結晶は単結晶であり、2.0mmの成長厚みを有していた。種結晶基板と成長結晶の合計厚みは3.5mmであった。成長速度は133μm/hであった。
(例2)
例1で得られた3.5mm厚のSiC結晶を、そのまま研磨を施すことなく種結晶として用いて、例1と同じ条件にて(1−100)面成長させた。
得られた成長結晶は単結晶であり、0.9mmの成長厚みを有していた。種結晶と成長結晶の合計厚みは4.4mmであった。成長速度は60μm/hであった。
(例3)
例2で得られた4.4mm厚のSiC結晶を、そのまま研磨を施すことなく種結晶として用いて、温度勾配を21℃/cmとし、成長時間を24時間としたこと以外は、例1と同じ条件にて(1−100)面成長させた。
得られた成長結晶は単結晶であり、2.1mmの成長厚みを有していた。種結晶と成長結晶の合計厚みは6.5mmであった。成長速度は87μm/hであった。
(例4)
例3で得られた6.5mm厚のSiC結晶を、そのまま研磨を施すことなく種結晶として用いて、温度勾配21℃/cmの条件としたこと以外は、例1と同じ条件にて(1−100)面成長させた。
得られた成長結晶は単結晶であり、0.6mmの成長厚みを有していた。種結晶と成長結晶の合計厚みは7.1mmであった。成長速度は40μm/hであった。
(例5)
10mm、横10mm、及び厚みが1.5mmの直方体状の4H−SiC単結晶であって、下面が(1−100)面(ジャスト面)を有する昇華法により作製したSiC単結晶を用意して種結晶基板として用いた。温度勾配を13℃/cmとし、成長時間を10時間としたこと以外は、例1と同じ条件にて(1−100)面成長させた。
得られた成長結晶は単結晶であり、1.7mmの成長厚みを有していた。種結晶基板と成長結晶の合計厚みは3.2mmであった。成長速度は170μm/hであった。
(例6)
例5で得られた3.2mm厚のSiC結晶を、そのまま研磨を施すことなく種結晶として用いて、成長時間を24時間としたこと以外は例5と同じ条件にて、(1−100)面成長させた。
得られた成長結晶は単結晶であり、0.8mmの成長厚みを有していた。種結晶基板と成長結晶の合計厚みは4.0mmであった。成長速度は33μm/hであった。
(例7)
例6で得られたSiC結晶の成長面を鏡面研磨して、厚さ3.7mmのSiC結晶を得て、種結晶として用いて、成長時間を24時間としたこと以外は、例5と同じ条件にて(1−100)面成長させた。
得られた成長結晶は単結晶であり、0.4mmの成長厚みを有していた。種結晶基板と成長結晶の合計厚みは4.1mmであった。成長速度は17μm/hであった。
(例8)
例7で得られた4.1mm厚のSiC結晶を、そのまま研磨を施すことなく種結晶として用いて、成長時間を15時間としたこと以外は例5と同じ条件にて、(1−100)面成長させた。
得られた成長結晶は単結晶であり、0.9mmの成長厚みを有していた。種結晶基板と成長結晶の合計厚みは5.0mmであった。成長速度は60μm/hであった。
(例9)
例8で得られた5.0mm厚のSiC結晶を、そのまま研磨を施すことなく種結晶として用いて、温度勾配を21℃/cmとし、成長時間を24時間としたこと以外は例5と同じ条件にて、(1−100)面成長させた。
得られた成長結晶は単結晶であり、1.3mmの成長厚みを有していた。種結晶基板と成長結晶の合計厚みは6.3mmであった。成長速度は54μm/hであった。
(例10)
10mm、横10mm、及び厚みが3.4mmの直方体状の4H−SiC単結晶であって、下面が(1−100)面(ジャスト面)を有する昇華法により作製したSiC単結晶を用意して種結晶基板として用いた。温度勾配を21℃/cmとしたこと以外は、例1と同じ条件にて(1−100)面成長させた。
得られた成長結晶は単結晶であり、1.5mmの成長厚みを有していた。種結晶基板と成長結晶の合計厚みは4.9mmであった。成長速度は100μm/hであった。
(例11)
10mm、横10mm、及び厚みが2.9mmの直方体状の4H−SiC単結晶であって、下面が(1−100)面(ジャスト面)を有する昇華法により作製したSiC単結晶を用意して種結晶基板として用いた。温度勾配を11℃/cmとしたこと以外は、例1と同じ条件にて(1−100)面成長させた。
得られた成長結晶は単結晶であり、1.4mmの成長厚みを有していた。種結晶基板と成長結晶の合計厚みは4.3mmであった。成長速度は93μm/hであった。
(貫通転位密度の評価)
各例で成長させたSiC単結晶の貫通転位密度の測定を行った。
各例で成長させたSiC単結晶を、(0001)面から<1−100>方向に4°傾いた面を露出させるようにダイヤモンドソーで板状に1mm厚にスライスし、スライスした結晶を、2種類のダイヤモンドスラリー(スラリー粒径:6μm及び3μm)により研磨を行って鏡面仕上げをした。次いで、水酸化カリウム(ナカライテスク株式会社製)及び過酸化ナトリウム(和光純薬工業製)を混合した510℃の融液に、各SiC単結晶を5分間、浸漬してエッチングを行った。同様に、種結晶基板として用いた昇華法により作製したSiC単結晶についても、(0001)面から<1−100>方向に4°傾いた面について、エッチングを行った。エッチングした各SiC単結晶を混合融液から取り出し、純水中で超音波洗浄した後、顕微鏡観察(ニコン製)により、貫通転位の観察を行った。例1〜4で続けて成長させたSiC単結晶は連続した結晶であるが、各例で成長させた厚みが分かっているので、各例で成長させた部分の貫通転位密度をそれぞれ分析した。例5〜9で成長させたSiC単結晶の貫通転位密度についても同様に分析した。
図7に、例1で用いた昇華法により作製された種結晶基板14、及び種結晶基板14を基点として例1で成長させた部分の成長結晶16の貫通転位を評価したエッチング面の顕微鏡写真を示す。直線破線は種結晶基板14と成長結晶16の界面を示している。種結晶基板14のエッチング面には、貫通らせん転位(TSD)及び貫通刃状転位(TED)が検出されたが、例1で成長させた部分の成長結晶16のエッチング面には、貫通転位は検出されなかった。同様に、例2〜11で成長させた部分のSiC単結晶のエッチング面にも、貫通転位は検出されなかった。
(インクルージョン有無の観察)
各例で成長させたSiC単結晶のインクルージョン有無の評価を行った。上記の貫通転位密度の測定に用いたSiC単結晶に、下から光をあてて顕微鏡観察を行い、断面透過像の観察を行った。
図5に、例1で成長させた部分のSiC結晶の断面透過像を示す。図5に示すように、例1で成長させた部分のSiC結晶にはインクルージョンが含まれていた。図6に、例2で成長させた部分のSiC結晶の断面透過像を示す。図6に示すように、例2で成長させた部分のSiC結晶には、インクルージョンが含まれていなかった。同様にして、例3〜11で成長させた部分のSiC結晶のインクルージョン有無の観察を行った結果を、次の表1に示す。
例1〜11の成長条件、並びに成長結晶の厚み、成長速度、貫通転位密度、及びインクルージョンの有無について、表1にまとめた。
例1、2、4、8、10、及び11における15時間成長を行った場合の、種結晶の厚みと結晶成長速度との関係を図1に示す。また、例3、6、7、及び9における24時間成長を行った場合の、種結晶の厚みと結晶成長速度との関係を図2に示す。
m面成長において、結晶厚さが大きくなると結晶成長速度が低下する傾向がみられるが、Si−C溶液の表面領域の温度勾配を高くすることによって、成長速度を大きくすることができることが分かった。