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JP6056891B2 - 四輪駆動車の制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、エンジンの出力トルクを主駆動輪と補助駆動輪とに配分するようにした四輪駆動車の制御装置及び四輪駆動車に関する。
四輪駆動車として、エンジンと変速機と前輪用差動装置とでなり、車体前部に搭載されて主駆動輪である左右の前輪を駆動するパワーユニットに後輪駆動用のトランスファを備え、該トランスファに車体前後方向に延びるプロペラシャフトを連結すると共に、その後端部に後輪用差動装置を備えて補助駆動輪としての左右の後輪にも動力の伝達を可能としたものがある。
プロペラシャフトと後輪用差動装置との間には、電磁式等の伝達トルク可変のカップリングが配設されることがあり、該カップリングを完全に締結すれば、前輪と後輪とに均等にトルクが伝達される四輪駆動状態となり、カップリングを完全に解放すれば、駆動力は前輪のみに伝達される二輪駆動状態となり、カップリングを完全締結と完全解放との間の締結度に制御すれば、カップリングの締結度に応じて後輪に対するトルク配分が調整されるようになっている。
また、トランスファは、軸心が車幅方向に延びる前輪用差動装置のデフケースから軸心が車体前後方向に延びるプロペラシャフトに動力を伝達するために、互いに噛み合う一対の傘歯ギヤが用いられる。例えば、前記デフケースの軸心上に設けられた傘歯ギヤと、これに常時噛み合うプロペラシャフトの軸心上に設けられた傘歯ギヤとが用いられる。
ところで、エンジンの出力トルクは、各気筒における間欠的な爆発に起因した周波数で生じる変動トルクを伴う。一方、変速機、前輪用差動装置、トランスファ、プロペラシャフト、カップリング、後輪用差動装置等のトルク伝達手段には、捩り振動に対する共振周波数が存在する。したがって、変動トルクの周波数がトルク伝達手段の共振周波数に一致すると、トルク伝達手段における捩り振動が増大する場合がある。
このとき、カップリングが解放されて前輪のみに出力トルクが伝達される二輪駆動状態では、トランスファにおける前記一対の傘歯ギヤから後輪に至る後輪トルク伝達手段が動力非伝達状態で回転するので、この状態で捩り振動が増大すると、後輪トルク伝達手段のトランスファにおける前記一対の傘歯ギヤ間に歯面分離(ギヤの噛み合いが解放された状態)が断続的に生じやすく、歯打ちによる異音が発生して車内騒音の原因となり得る。
これに対して、後輪トルク伝達手段が共振するエンジンの運転領域で、カップリングの締結度を制御して、後輪トルク伝達手段に負荷を与えて変動トルクよりも大きなトルクを後輪に伝達することにより、後輪トルク伝達手段の動力非伝達状態での回転を防止することが考えられる。これにより、トルク伝達手段において捩り振動が増大したとしても、トランスファにおける一対の傘歯ギヤ間の歯面分離を抑制して歯打ちによる異音を抑制できる。
例えば、特許文献1には、エンジンと、トルクコンバータ、変速機、前輪用差動装置、トランスファ、プロペラシャフト、カップリング、後輪用差動装置等の駆動系とを備えた四輪駆動車において、トルクコンバータのロックアップクラッチを直結状態にしたときに、補助駆動輪としての後輪に対するトルク配分を所定のトルクよりも増大させることによって、駆動系の各ギヤ嵌合部におけるガタを詰めて、ロックアップクラッチ締結時におけるガタ打ち音(歯打ちによる異音)を解消することが開示されている。
特開2009−208633号公報
ところで、補助駆動輪に対するトルク伝達量は、カップリングの締結度を高めても増加せず、カップリングの締結度を高めることに伴ってトルク伝達手段の捻れが発生することにより増加する。つまり、補助駆動輪に対するトルク伝達量の増加は、応答性が悪い。このため、トルク伝達手段に伝達されるトルク変動が増大する運転状態への移行時に、トルク変動の増大に対して、補助駆動輪へのトルク配分の増大が遅れ、トルク伝達手段において異音が発生するおそれがあった。
この発明は、四輪駆動車における上記課題を解決するためになされたものであり、トルク変動が増大する運転状態への移行時において、トルク伝達手段における異音発生を抑制できる四輪駆動車の制御装置を提供することを目的とする。
前記課題を解決するため、本願発明は次のように構成したことを特徴とする。
まず、本願の請求項1に記載の発明は、エンジンと、該エンジンの出力トルクを主駆動輪と補助駆動輪とに伝達するトルク伝達手段と、該トルク伝達手段に設けられ、前記補助駆動輪に配分されるトルクを調整するトルク配分調整手段と、前記トルク伝達手段が異音発生状態となる異音発生領域でのエンジン作動時に、前記トルク配分調整手段を制御することによって、異音の発生を抑制するように前記補助駆動輪に対するトルク配分を増大させる異音低減手段と、を備えた四輪駆動車の制御装置であって、前記エンジンから前記トルク伝達手段に伝わるトルク変動が増大する運転状態への移行要求があったとき、該移行要求に基づく移行を所定期間、抑制する移行抑制手段を備えており、前記移行抑制手段によって前記移行要求に基づく移行が抑制される間に、前記異音低減手段による前記補助駆動輪に対するトルク配分の増大がなされることを特徴とする。
移行要求に基づく移行を抑制するには、好ましくは、前記移行要求に基づく移行の、開始を遅延し、移行速度を低減し、又は移行量を規制すればよい。
また、所定期間とは、補助駆動輪に対するトルク配分が、異音低減可能なトルクまで増大するまでの期間であり、例えばタイマーにより予め設定してもよく、また補助駆動輪に伝達された配分トルクを検出して、該検出された実配分トルクが異音低減可能なトルクに到達するまでの時間としてもよい。
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の四輪駆動車の制御装置において、前記移行抑制手段は、前記移行要求に基づく移行によるトルク変動の増大量が大きいほど、前記移行要求に基づく移行を抑制する抑制度合いを増大させる、ことを特徴とする。
抑制度合いを増大させるには、好ましくは、所定期間をより長時間に設定し、移行の、開始をより遅延させ、移行速度をより低減し、又は移行量をより低減すればよい。
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1又は2に記載の四輪駆動車の制御装置において、前記移行要求は、前記トルク伝達手段が前記エンジンとの接続部にロックアップクラッチを有するトルクコンバータを備える場合におけるロックアップクラッチの締結要求と、前記エンジンが火花点火モードと圧縮自己着火モードとに切換可能な場合における火花点火モードから圧縮自己着火モードへの切換要求と、前記エンジンがトルクアシストする駆動モータを備える場合における前記駆動モータによるアシストトルクの低減要求又はトルクアシストの停止要求と、のうちいずれか1つである、ことを特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項3に記載の四輪駆動車の制御装置において、前記トルク伝達手段は、前記トルクコンバータに接続された自動変速機を備え、前記移行要求は、前記自動変速機の変速終了時における、前記ロックアップクラッチを締結方向へ復帰させる復帰要求である、ことを特徴とする。
前記の構成により、本願各請求項の発明によれば、次の効果が得られる。
まず、請求項1に記載の発明によれば、トルク変動が増大する運転状態への移行要求があった場合、該移行要求に基づく移行が所定期間の間、移行抑制手段によって抑制され、この間に異音低減手段による補助駆動輪に対するトルク配分の増大がなされる。したがって、トルク変動が増大する運転状態への移行時において、変動トルクの増大に対して、補助駆動輪に伝達される実トルクの増大が遅れることがなく、トルク伝達手段における異音発生を抑制できる。
また、請求項2に記載の発明によれば、移行要求に基づく移行によるトルク変動の増大量が大きいほど、移行要求に基づく移行を抑制する抑制度合いが増大されるので、トルク変動の増大量に応じて抑制度合いが変更される。よって、移行要求に基づく移行の抑制を適切に行うことができる。例えば、移行要求に基づく移行によるトルク変動の増大量が小さい場合、前記移行の抑制度合いが不必要に増大されることがないので、移行に係る制御の応答性の悪化を抑制できる。一方、移行要求に基づく移行によるトルク変動の増大量が大きい場合、前記移行の抑制度合いが増大されるので、移行を確実に抑制できる。
また、請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2に記載の発明における、トルク変動が増大する運転状態への移行要求を具体的に特定するものである。すなわち、エンジンとトルク伝達手段との接続部にロックアップクラッチを備える場合には、ロックアップクラッチの締結度が大きいほど、エンジンからトルク伝達手段に伝わるトルク変動が増大するので、この場合の前記移行要求は、ロックアップクラッチの締結要求である。
また、エンジンが火花点火モードと圧縮自己着火モードとに切換可能である場合には、点火プラグ周りからの火炎伝播によって次第に燃焼が成長する火花点火モードに比して、圧縮自己着火モードにおいては燃焼室の略至るところから燃焼が略同時に開始することになり急速に燃焼が成長するので、火花点火モードに比して圧縮自己着火モードでは、出力トルクに伴うトルク変動が大きくなる。したがって、この場合の前記移行要求は、火花点火モードから圧縮自己着火モードへの切換要求である。
また、エンジンがトルクアシストする駆動モータを備える場合には、駆動モータによるトルクアシストに応じて、エンジンで発生する駆動トルクが低減されるので、これに伴いエンジンのトルク変動が低減する。したがって、駆動モータによるトルクアシストが低減若しくは停止された場合に、エンジンの駆動トルクが増大すると共に、これに伴い変動トルクが増大することになるので、この場合の前記移行要求は、駆動モータによるアシストトルクの低減要求又はトルクアシストの停止要求である。
また、請求項4に記載の発明によれば、自動変速機の変速終了時において、トルク伝達手段における異音発生を抑制できる。すなわち、変速時に一旦、ロックアップクラッチを解放した後、変速終了後に差回転制御に早急に移行させるようにロックアップクラッチを締結状態に復帰させる場合に、移行抑制手段によってロックアップクラッチの締結度の締結方向への移行が所定期間、抑制される。したがって、変速終了時にロックアップクラッチを締結状態に復帰させる場合に、補助駆動輪に対するトルク配分の増大が遅れることがないので、トルク伝達手段における異音発生を抑制できる。
すなわち、本発明に係る四輪駆動車の制御装置によれば、トルク変動が増大する運転状態への移行時に、トルク伝達手段における異音発生を抑制できる。
本発明の実施形態に係る四輪駆動車の概略構成を示すブロック図である。 ロックアップクラッチの制御マップの一例を示す図である。 トルク伝達手段の捩り振動の伝達特性、トルク変動及び補助駆動輪に対する配分トルクを示すグラフである。 移行抑制制御を示すフローチャートである。 図4の場合の四輪駆動車の作動を示すタイムチャートである。 他の実施形態に係る移行抑制制御を示すフローチャートである。 他の実施形態に係るエンジンの制御マップの一例を示す図である。 更なる他の実施形態に係るエンジンの制御マップの一例を示す図である。
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る四輪駆動車の概略構成図である。図1に示すように、本発明の実施形態に係る四輪駆動車10は、エンジン14と、エンジン14の出力トルクを所定の減速比で減速するトランスミッション16と、トランスミッション16で減速した出力トルクを左右の前輪12Fに車軸18を介して伝達する前輪用差動装置20と、前輪用差動装置20から後輪12Rに伝達する出力トルクを取り出すトランスファ22と、トランスファ22からの出力トルクを左右の後輪12Rに車軸24を介して伝達する後輪用差動装置26とを有している。
トランスミッション16は、自動変速機である。四輪駆動車10は、エンジン14とトランスミッション16との接続部に、ロックアップクラッチ151を有するトルクコンバータ15を備えており、エンジン14の出力トルクTが、トルクコンバータ15を介してトランスミッション16に伝達される。
エンジン14は、複数気筒を有する多気筒エンジンであり、本実施形態では例えば直列4気筒エンジンである。すなわち、エンジン14では、各気筒において間欠的に爆発が生じ、これに起因してエンジン14で発生される出力トルクTは変動トルクXを伴う。具体的には、エンジン14は4気筒エンジンであるので、変動トルクXは、エンジン回転数の2倍の周波数で生じ、これがトルクコンバータ15、トランスミッション16や前輪用差動装置20を介してトランスファ22に伝達される。
トランスファ22と後輪用差動装置26とは、車体前後方向に延びるプロペラシャフト30及びカップリング28を介して連結されている。具体的には、トランスファ22の出力軸がプロペラシャフト30の一端に連結され、プロペラシャフト30の他端がカップリング28の入力軸に連結され、該カップリング28の出力軸が後輪用差動装置26の入力軸に連結されている。
トランスファ22は、軸心が車幅方向に延びる前輪用差動装置20から軸心が車体前後方向に延びるプロペラシャフト30に動力を伝達するために、互いに噛み合う一対の傘歯車(不図示)、具体的には前輪用差動装置20の軸心上に設けられた傘歯車とプロペラシャフト30の軸心上に設けられた傘歯車が用いられる。
カップリング28には、電磁式カップリングが用いられ、プロペラシャフト30と後輪用差動装置26との間の締結度を可変にできるようになっており、カップリング28の締結度に応じて、後輪12Rへ伝達されるトルク配分Tが調整されるようになっている。
具体的には、カップリング28を完全に締結すれば、エンジン14からの出力トルクTが、前輪12Fに伝達される配分トルクTと、後輪12Rに伝達される配分トルクTとに均等に配分される四輪駆動状態となる。一方、カップリング28を完全に解放すれば、出力トルクTは前輪12Fのみに伝達される二輪駆動状態となる。また、カップリング28を完全締結と完全解放との間の締結度にすれば、カップリング28の締結度に応じて後輪12Rへ伝達される配分トルクTが調整される。すなわち、カップリング28の締結度を制御することにより、後輪12Rに対する配分トルクTを、エンジン14からの出力トルクTの0〜50%の間に調整できる。
ロックアップクラッチ151は、エンジン14の出力トルクTが入力される入力軸(不図示)と、トランスミッション16へ出力する出力軸(不図示)との間の締結度を可変にできるようになっており、その締結度に応じてエンジン14からトランスミッション16に伝達されるトルクが調整される。すなわち、ロックアップクラッチ151を完全締結させた場合における直結状態でのトルク伝達から、ロックアップクラッチ151を解放状態にした場合におけるトルクコンバータ15による流体継手でのトルク伝達にまで、トルク伝達を可変にできる。
なお、ロックアップクラッチ151の締結度を締結方向へ移行させることによって、トルクコンバータ15の流体継手でのトルク伝達によるスリップ効果が減少し、エンジン14からトランスミッション16に伝わる変動トルクXが増大することになる。
図2は、ロックアップクラッチ151の制御マップの一例を示しており、該制御マップに基づいてロックアップクラッチ151の締結度が制御されるようになっている。例えば、ロックアップクラッチ151は、その締結度が、低回転、高負荷領域では締結方向に制御され、高回転、低負荷領域では解放方向に制御されるようになっている。
本実施形態では、前輪12Fが主駆動輪であり、後輪12Rが補助駆動輪であり、トルクコンバータ15、トランスミッション16、前輪用差動装置20、車軸18、トランスファ22、プロペラシャフト30、カップリング28、後輪用差動装置26及び車軸24によって、エンジン14の出力トルクTを前輪12Fと後輪12Rとに伝達するトルク伝達手段50が構成され、カップリング28によって、後輪12Rに配分される配分トルクTを調整するトルク配分調整手段が構成されている。
ここで、トルク伝達手段50には、軸回転方向における捩り振動に対する共振周波数が存在する。図3に示すように、本実施形態においては、トルク伝達手段50には、エンジン14のアイドル回転数NIDLEより低いエンジン14の非常用域において共振点P1及びP2が存在し、アイドル回転数NIDLE以上のエンジン14の常用域における共振点P3が存在している。
共振点P3の近傍において、エンジン14の出力トルクTに伴う変動トルクXが共振により増大されることになり、このとき、後輪12Rに対するトルク配分Tが変動トルクXよりも小さい場合には、トランスファ22において、傘歯ギヤ間に歯面分離が発生して異音(歯打ち音)が発生する。トルク伝達手段50から前記異音が発生する領域を異音発生領域Aと称して、以下説明する。
また、図1に示すように、四輪駆動車10には、運転者によるアクセルペダルの踏込量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ36と、エンジン14の回転数を検出するエンジン回転センサ38と、エンジン14やカップリング28やロックアップクラッチ151等の作動を制御する制御装置34と、が備えられている。
制御装置34には、アクセル開度センサ36からの信号及びエンジン回転センサ38からの信号等の各種情報が入力され、制御装置34は、これら各種情報に基づいてエンジン14やカップリング28やロックアップクラッチ151等の作動を制御する。なお、制御装置34は、マイクロコンピュータを主要部として構成されている。
制御装置34は、アクセル開度センサ36からの信号に基づいて、運転者の加速要求を検出して目標トルク(エンジン負荷)を設定し、該目標トルクを出力するように、エンジン14を制御する。また、制御装置34は、目標トルク及びエンジン回転数から、前記制御マップ(図2参照)に基づいて、ロックアップクラッチ151の締結度を制御する。
また、制御装置34は、エンジン14からの出力トルクTを、前輪12Fへの配分トルクTと後輪12Rに対する配分トルクTとに配分するように、カップリング28の締結度を制御する。例えば、加速する場合又は前輪12Fにスリップが検出された場合、前輪12Fと後輪12Rとに出力トルクTを配分する四輪駆動状態に制御し、定常走行及び/又はコースト走行においては前輪12Fのみに出力トルクTを伝達させる二輪駆動状態に制御する。
なお、後述する異音低減制御によって後輪12Rに対するトルク配分を制御してもよく、さらに他の要因により後輪12Rに対するトルク配分を制御するようにしてもよい。
制御装置34には、トルク伝達手段50が異音発生状態となる異音発生領域Aが記憶されている。図3に示すように、異音発生領域Aとは、トルク伝達手段50の共振点P3に、各気筒における間欠的な爆発に起因して生じる変動トルクXの周波数が一致する運転領域である。異音発生領域Aにおいてエンジン14からの変動トルクXが共振により増大され、これに伴いトルク伝達手段50における捩り振動が増大することになる。このとき、後輪12Rに対するトルク配分Tが変動トルクXよりも小さい場合には、トランスファ22において、一対の傘歯ギヤ間に歯面分離が発生して異音(歯打ち音)が発生する場合がある。
そこで、トルク伝達手段50における異音発生を抑制するために、制御装置34は、エンジン14が異音発生領域で作動している場合、異音低減制御を実施する。具体的には、異音低減制御では、異音発生領域において、後輪12Rに対する配分トルクTが、少なくとも変動トルクXよりも大きくなるようにカップリング28の締結度が制御される。すなわち、後輪12Rに対する配分トルクTを変動トルクXより増大させることにより、増大された捩り振動のためにトランスファ22における一対の傘歯ギヤ間の歯面分離が発生することを防止して、異音(歯打ち音)発生を抑制できる。
また、制御装置34には、エンジンの作動点(エンジン回転数及び負荷)毎に、トルク伝達手段50における変動トルクXが関連付けられた、変動トルクマップ(不図示)が記憶されている。この変動トルクマップには、トルク伝達手段50における共振による振動増大を含んだ変動トルクXが予め設定されており、異音低減制御において、制御装置34は、該変動トルクマップからトルク伝達手段50に伝わる変動トルクXを読み出し、該変動トルクXよりも大きな配分トルクTを後輪12Rに配分するように、カップリング28の締結度を制御する。
すなわち、制御装置34は、エンジン回転センサ38からの入力信号に基づいてエンジン14が異音発生領域Aで作動しているか否かを判定し、エンジン14が異音発生領域Aで作動していると判定した場合に、異音低減制御を実施する。したがって、制御装置34は、異音低減手段としても機能している。
また、制御装置34は、トルク変動が増大する運転状態への移行要求があったとき、すなわち、例えばロックアップクラッチ151の締結度の締結方向への移行要求があったとき、該移行要求に基づく移行を所定期間、抑制する移行抑制制御を実施する。制御装置34は、アクセル開度センサ36及びエンジン回転センサ38からの信号に基づいて、ロックアップクラッチ151の制御マップ(図2参照)に基づいて、ロックアップクラッチ151の締結要求を判定し、該締結要求からトルク変動が増大する運転状態への移行要求を判定している。したがって、制御装置34は、トルク変動が増大する運転状態への移行要求判定手段として機能すると共に、移行抑制手段として機能している。
制御装置34は、例えば、移行要求に基づく移行の、開始を遅延し、移行速度を低減し、又は移行量を低減することによって、前記移行を抑制している。
また、制御装置34は、前記移行要求に基づく移行を抑制する所定期間を、後輪12Rに対する配分トルクTが、移行により増大される変動トルクXに対して異音低減可能なトルクまで増大する期間となるように設定する。言い換えれば、所定期間は、後輪12Rに伝達された実配分トルクTが、前記変動トルクマップから読み出された前記移行よって増大される変動トルクXよりも、増大するまでの期間となるように設定される。制御装置34は、好ましくは、前記移行によるトルク変動の増大量が大きいほど、所定期間を長く設定する。
次に、制御装置34において実施される移行抑制制御を、図4のフローチャート及び図5のタイムチャートを参照して説明する。図4は移行抑制制御の流れを示すフローチャートであり、図5はこの場合の四輪駆動車10の作動を示すタイムチャートである。
図4に示すように、制御装置34は、アクセル開度センサ36からの信号及びエンジン回転センサ38からの信号等の各種情報を読み込む(ステップS101)。
次に、制御装置34は、エンジン回転センサ38からの信号に基づいて、エンジン14が異音発生領域A(図3参照)で作動しているか否かを判定する(ステップS102)。
ステップS102において、エンジン14が異音発生領域Aで作動していると判定した場合、制御装置34は、異音低減制御を実施する(ステップS103)。具体的には、トルク伝達手段50に伝わる変動トルクXよりも大きな配分トルクTを後輪12Rへ伝達するように、カップリング28の締結度を制御する。
次に、制御装置34は、変動トルクXが増大する運転状態への移行要求があるか否かを判定する(ステップS104)。本実施形態では、例えばロックアップクラッチ151の締結度の締結方向への移行要求があるか否かを判定する。
ステップS104において、変動トルクXが増大する運転状態への移行要求があると判定した場合、制御装置34は、前記変動トルクマップから該移行要求に基づく移行による変動トルクXの増大量を算出し、該増大量に応じて、移行を抑制する所定期間を設定する(ステップS105)。さらに、制御装置34は、異音低減制御を行い、前記変動トルクマップから前記移行要求に基づく移行後の変動トルクXを読み出し、該移行後の変動トルクXよりも後輪12Rに対するトルク配分Tを増大させるようにカップリング28の締結度を制御する。
次に、制御装置34は、移行抑制制御を開始する(ステップS106)。すなわち、制御装置34は、前記移行要求に基づく移行、すなわちロックアップクラッチ151の締結度の締結方向への移行を所定期間、抑制する。
そして、ステップS105で設定された所定期間が経過した(ステップS107)とき、制御装置34は、移行抑制制御を終了させる(ステップS108)。
この場合、図5に示すように、エンジン14が異音発生領域Aで作動している場合に四輪駆動車10が加速を開始したとき(時刻t1)、エンジン回転数の増大に伴って制御マップ(図2参照)に基づいてロックアップクラッチ151の締結方向への移行要求が生じる。なお、図5において、ロックアップクラッチ締結要求及びロックアップクラッチ締結度は、縦軸が大きいほどロックアップクラッチ151の締結要求及び締結度が高く、縦軸が小さいほどロックアップクラッチ151の締結要求及び締結度が低いことを示している。
このとき、制御装置34は、後輪12Rに対する実配分トルクTが、前記移行により増大される変動トルクXよりも増大するに要する期間として、所定期間T1を設定すると共に、ロックアップクラッチ151の締結度の締結方向への移行制御を所定期間T1、遅延させる。また、制御装置34は、異音低減制御によって後輪12Rに対する配分トルクTの増大を開始させる。
後輪12Rに対する配分トルクTの増大は、トルク伝達手段50の捻れによりなされるので、トルク伝達手段50が捻られる時間を要し、応答遅れを伴い、後輪12Rに配分される実トルクの増大は時刻t2に完了する。一方、制御装置34は、ロックアップクラッチ151に対する移行抑制制御を、後輪12Rに配分される実トルクの増大が完了する時刻t2以降に終了させる。
すなわち、時刻t2以降において、ロックアップクラッチ151の締結度が締結方向へ制御され、これに伴ってトルク伝達手段50に伝わる変動トルクXが増大する。したがって、ロックアップクラッチ151の締結度の締結方向への移行による変動トルクXの増大に先だって、後輪12Rに伝達される実トルクの増大が完了するので、トルク伝達手段50における異音発生が抑制される。
なお、移行抑制制御において、移行要求に基づく移行の開始を遅延させる他、図中に細線で示すように、移行速度を低減(二点鎖線で示す)し、又は移行量を規制(一点鎖線で示す)してもよい。
また、時刻t1〜t2間の変動トルクXの増大量に対して、変動トルクXの増大量がより大きな運転状態への移行要求があった場合(時刻t3)、制御装置34は、所定期間T1よりも長い所定期間T2を設定すると共に、ロックアップクラッチ151の締結度の締結方向への移行制御を所定期間T2、遅延させる。したがって、制御装置34は、変動トルクXの増大量が大きいほど、移行抑制制御の抑制度合いを増大させる。
一方、図4に示すように、ステップS102において、エンジン14が異音発生領域Aで作動していないと判定した場合、及びステップS104において、変動トルクXが増大する方向への移行要求がないと判定した場合、制御装置34は移行抑制制御を行わない。
このように、本実施形態によれば、変動トルクXが増大する運転状態への移行要求があった場合、該移行要求に基づく移行が所定期間の間、移行抑制制御によって抑制され、この間に異音低減制御による後輪12Rに対する配分トルクTの増大がなされる。したがって、変動トルクXが増大する運転状態への移行時において、変動トルクXの増大に対して、後輪12Rに伝達される実トルクの増大が遅れることがなく、トルク伝達手段50における異音発生を抑制できる。
また、移行要求に基づく移行による変動トルクXの増大量が大きいほど、移行要求に基づく移行を抑制する抑制度合いが増大されるので、変動トルクXの増大量に応じて移行抑制制御の抑制度合いが変更される。よって、移行要求に基づく移行の抑制を適切に行うことができる。例えば、移行要求に基づく移行による変動トルクXの増大量が小さい場合、前記移行の抑制度合いが不必要に増大されることがないので、移行に係る制御の応答性の悪化を抑制できる。一方、移行要求に基づく移行による変動トルクXの増大量が大きい場合、前記移行の抑制度合いが増大されるので、移行を確実に抑制できる。
上記実施形態では、移行抑制制御において、制御装置34は、変動トルクXの増大量に基づいて、後輪12Rに配分される実トルクの増大に要する期間として所定期間を設定しているが、これに限らず、例えば変動トルクXの増大量によらず共通の所定期間を予め設定してもよい。また、図6のフローチャートに示すように、後輪12Rに伝達される実トルクを検出するトルクセンサ(不図示)を設け、実トルクの増大が完了したことが検出されるまで、前記移行を抑制してもよい。
具体的に説明すると、制御装置34は、スステップS101〜S104と同様にテップS201〜S204において、エンジン14が異音発生領域で作動している場合に異音低減制御を実施すると共に、変動トルクXが増大する運転状態への移行要求があるか否かを判定する。
ステップS204において、変動トルクXが増大する運転状態への移行要求があると判定した場合、制御装置34は、移行抑制制御を開始する(ステップS205)。すなわち、前記移行要求に基づく移行が抑制される。さらに、制御装置34は、前記移行要求に基づくトルク変動の増大量に基づいて、異音低減制御による後輪12Rに伝達されるトルク配分Tを増大させるようにカップリング28の締結度を制御する。
次に、制御装置34は、トルクセンサからの信号に基づいて、後輪12Rに伝達された実トルクを検出し(ステップS206)、該実トルクが、前記移行により増大される変動トルクXよりも増大したか否かを判定する。言い換えれば、制御装置34は、後輪12Rに伝達された実トルクの前記移行後における異音低減可能なトルク値への増大が、完了したか否かを判定する(ステップS207)。
ステップS207において、後輪12Rに伝達される実トルクの増大が完了したと判定した場合、制御装置34は、移行抑制制御を終了させる(ステップS208)。
したがって、トルクセンサからの信号に基づいて、後輪12Rへの実トルクの増大が完了したことを判定することによって、より精度よく移行抑制制御を行うことができ、これによって、トルク伝達手段50における異音発生を確実に抑制できると共に、不必要に移行を抑制することを防止して制御応答性の悪化を抑制できる。
上記実施形態では、変動トルクXが増大する運転状態への移行要求として、ロックアップクラッチ151の締結度の締結方向への移行要求、又はエンジン14の出力トルクTの増大要求を例にとり説明した。なお、ロックアップクラッチ151の締結度の締結方向への移行要求として、トランスミッション16の変速終了時における、ロックアップクラッチの締結方向へ復帰させる復帰要求でもあり得る。
すなわち、トランスミッション16の変速時に一旦、ロックアップクラッチ151を解放した後、変速終了後に差回転制御に早急に移行させるようにロックアップクラッチ151を締結状態に復帰させる場合に、移行抑制手段によってロックアップクラッチ151の締結度の締結方向への移行が所定期間、抑制される。したがって、変速終了時にロックアップクラッチ151を締結状態に復帰させる場合に、後輪12Rに対する配分トルクTの増大が遅れることがないので、トルク伝達手段50における異音発生を抑制できる。
また、変動トルクXが増大する運転状態への移行要求として、例えば、図7に制御マップの一例を示す、火花点火モードと圧縮自己着火モードとに切換可能に構成されたエンジンにおいて、火花点火モードから圧縮自己着火モードへの切換要求でもよい。
すなわち、点火プラグ周りからの火炎伝播によって次第に燃焼が成長する火花点火モードに比して、圧縮点火モードにおいては燃焼室の略至るところから燃焼が略同時に開始することになり急速に燃焼が成長する。このため、火花点火モードに比して圧縮点火モードでは、出力トルクに伴うトルク変動が大きくなる。したがって、移行要求とは、火花点火モードから圧縮自己着火モードへの切換要求である。
この場合、移行抑制制御における抑制とは、切換の開始を遅延させるものであって、切換速度を低減させたり、切換量を規制したりするものではない。
なお、圧縮自己着火モードを、非予混合圧縮自己着火モード(CI)と、予混合圧縮自己着火モード(HCCI)とにさらに区分してもよい。この場合、変動トルクXは、HCCI、CI、火花点火モード(SI)の順に大きく、したがって、変動トルクXが増大する運転状態への移行要求とは、SIからCI又はHCCIへの切換要求、又はCIからHCCIへの切換要求である。
また、変動トルクXが増大する運転状態への移行要求として、図8に制御マップの一例を示す、トルクアシストする駆動モータを備えたエンジンにおいて、駆動モータによるトルクアシストを低減要求又はトルクアシストの停止要求でもよい。すなわち、駆動モータによるトルクアシストに応じて、エンジンで発生する駆動トルクが低減されるので、これに伴いエンジンのトルク変動が低減する。したがって、移行要求とは、駆動モータによるトルクアシストを低減要求又はトルクアシストの停止要求である。
なお、上記実施形態では、前輪12Fを主駆動輪とし、後輪12Rを補助駆動輪とした四輪駆動車について説明しているが、後輪12Rを主駆動輪とし、前輪12Fを補助駆動輪とした四輪駆動車についても同様に適用することができる。
特許請求の範囲に記載された本発明の精神および範囲から逸脱することなく、各種変形及び変更を行うことも可能である。
以上説明したように、本発明に係る四輪駆動車の制御装置よれば、トルク変動が増大する運転状態への移行時に、トルク伝達手段における異音発生を抑制できるので、この種の製造技術分野において好適に利用される可能性がある。
10 四輪駆動車
12F 前輪
12R 後輪
14 エンジン
15 トルクコンバータ
151 ロックアップクラッチ
16 トランスミッション
20 前輪用差動装置
22 トランスファ
26 後輪用差動装置
28 カップリング
30 プロペラシャフト
34 制御装置
36 アクセル開度センサ
38 エンジン回転センサ
50 トルク伝達手段
T 出力トルク
配分トルク
X 変動トルク

Claims (4)

  1. エンジンと、該エンジンの出力トルクを主駆動輪と補助駆動輪とに伝達するトルク伝達手段と、該トルク伝達手段に設けられ、前記補助駆動輪に配分されるトルクを調整するトルク配分調整手段と、前記トルク伝達手段が異音発生状態となる異音発生領域でのエンジン作動時に、前記トルク配分調整手段を制御することによって、異音の発生を抑制するように前記補助駆動輪に対するトルク配分を増大させる異音低減手段と、を備えた四輪駆動車の制御装置であって、
    前記エンジンから前記トルク伝達手段に伝わるトルク変動が増大する運転状態への移行要求があったとき、該移行要求に基づく移行を所定期間、抑制する移行抑制手段を備えており、
    前記移行抑制手段によって前記移行要求に基づく移行が抑制される間に、前記異音低減手段による前記補助駆動輪に対するトルク配分の増大がなされることを特徴とする四輪駆動車の制御装置。
  2. 前記移行抑制手段は、前記移行要求に基づく移行によるトルク変動の増大量が大きいほど、前記移行要求に基づく移行を抑制する抑制度合いを増大させる、
    請求項1に記載の四輪駆動車の制御装置。
  3. 前記移行要求は、
    前記トルク伝達手段が前記エンジンとの接続部にロックアップクラッチを有するトルクコンバータを備える場合におけるロックアップクラッチの締結要求と、
    前記エンジンが火花点火モードと圧縮自己着火モードとに切換可能な場合における火花点火モードから圧縮自己着火モードへの切換要求と、
    前記エンジンがトルクアシストする駆動モータを備える場合における前記駆動モータによるアシストトルクの低減要求又はトルクアシストの停止要求と、のうちいずれか1つである、
    請求項1又は2に記載の四輪駆動車の制御装置。
  4. 前記トルク伝達手段は、前記トルクコンバータに接続された自動変速機を備え、
    前記移行要求は、前記自動変速機の変速終了時における、前記ロックアップクラッチを締結方向へ復帰させる復帰要求である、
    請求項3に記載の四輪駆動車の制御装置。
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