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JP6043262B2 - 燃料電池セパレータおよびその親水化処理方法 - Google Patents

燃料電池セパレータおよびその親水化処理方法 Download PDF

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JP6043262B2 JP2013199842A JP2013199842A JP6043262B2 JP 6043262 B2 JP6043262 B2 JP 6043262B2 JP 2013199842 A JP2013199842 A JP 2013199842A JP 2013199842 A JP2013199842 A JP 2013199842A JP 6043262 B2 JP6043262 B2 JP 6043262B2
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Description

本発明は、燃料電池に使用される燃料電池セパレータの表面に親水性を付与する方法に関し、特に表面に導電性材料としてグラファイトを備える燃料電池セパレータの親水化に関する。
水素等の燃料と酸素等の酸化剤を供給し続けることで継続的に電力を取り出すことができる燃料電池は、乾電池等の一次電池や鉛蓄電池等の二次電池とは異なり、発電効率が高くシステム規模の大小にあまり影響されず、また騒音や振動も少ないため、多様な用途や規模をカバーするエネルギー源として期待されている。燃料電池は、具体的には、固体高分子型燃料電池(PEFC)、アルカリ電解質型燃料電池(AFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、バイオ燃料電池等として開発されている。中でも、燃料電池自動車や、家庭用コジェネレーションシステム、携帯電話やパソコン等の携帯機器向けとして、固体高分子型燃料電池の開発が進められている。
固体高分子型燃料電池(以下、燃料電池という)は、固体高分子電解質膜をアノードとカソードとで挟んだものを単セルとし、ガス(水素、酸素等)の流路となる溝が形成されたセパレータ(バイポーラプレートとも呼ばれる)を介して前記単セルを複数個重ね合わせて構成される。
セパレータは、燃料電池において発生した電流を外部へ取り出すための部品でもあるので、接触抵抗(電極とセパレータ表面との間で、界面現象のために電圧降下が生じることをいう。)が低い材料が適用される。また、セパレータは、燃料電池の内部がpH2〜4程度の酸性雰囲気であるために高耐食性が要求され、さらに前記の低接触抵抗(導電性)がこの酸性雰囲気での使用中に長期間維持されるという特性も要求される。これらの要求を満足するために適用される材料としてカーボンが挙げられる。具体的には、黒鉛粉末の成形体を削り出して製造されたり、黒鉛と樹脂の混合物成形体で形成された等のカーボン製のセパレータ(例えば特許文献1〜3)や、チタンやステンレス鋼等の金属材料からなる基材に、カーボン粒子を付着させたり(例えば特許文献4〜7)、化学気相成長(CVD)法等で炭素膜を成膜したセパレータが検討されている。
さらに、前記の導電性の維持や高耐食性の他に、特に燃料電池のカソード(空気極)側に配されるセパレータは、表面が親水性であることが好ましい。詳しくは、燃料電池が発電するに伴い、カソード(空気極)側で水が生成し、この生成水がセパレータの表面に付着したままであると発電性能が劣化するため、セパレータの表面を親水性として、生成水を速やかに排水することが好ましい。ところが、炭素材料は一般的に撥水性を有する。そこで、炭素材料を有するセパレータについて、表面に親水性を付与する親水化処理に関する技術が開発されている。
炭素材料への親水化処理としては、オゾン処理、紫外線(UV)処理、プラズマ処理等が知られているが、これらの処理は、燃料電池のセパレータに適用するには効果の持続性が不十分であるといわれている。そこで、例えば、特許文献1には、カーボン粉末に酸化ケイ素等の親水性物質を混合して成形することにより親水性を付与されたセパレータを製造する方法が開示されている。特許文献2には、カーボン成形体を、フッ素と酸素を含有する混合ガス雰囲気に曝露して表面を処理することにより、表面を親水化する方法が開示されている。特許文献3には、カーボン成形体の表面をシリカ薄膜で被覆する方法が開示されている。
特開平10−3931号公報 特許第4075343号公報 特開2005−162550号公報 特許第3904690号公報 特許第3904696号公報 特許第4886885号公報 特許第5108986号公報
しかしながら、特許文献1に記載された方法は、絶縁性の酸化ケイ素等が混合されるためにカーボン成形体(燃料電池セパレータ)の導電性が低くなる。特許文献2に記載された方法は、反応性の高いフッ素を使用するため、特許文献4〜7に記載されたような金属材料からなる基材を備えた燃料電池セパレータには適用することができず、またフッ素に曝される処理室等も劣化し易い。特許文献3に記載された方法は、親水性が表面のシリカ薄膜の剥離で失われ易く長期間持続せず、また、シリカ薄膜の形成のためのシリコンアルコキシドの重縮合物溶液に塩酸等の酸触媒が添加されているため、特許文献2と同様、金属材料からなる基材を備えた燃料電池セパレータには適用することができない。
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、導電性の維持および耐食性に優れた導電性材料として炭素を表面に備えた燃料電池セパレータ、特にカーボン製のセパレータよりも薄型化の容易な金属材料からなる基材を備えるセパレータについて、表面に親水性を付与する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意研究により、炭素材料の中でも比較的導電性に優れた結晶性のグラファイトを適用し、大気等の酸素含有雰囲気における低温域での熱処理により、導電性を維持しつつ親水性が付与されることを見出した。
すなわち、本発明に係る燃料電池セパレータの親水化処理方法は、グラファイトを含有する炭素からなる導電層を表面に備えて前記導電層が金属からなる基材を被覆してなる燃料電池セパレータの前記表面に親水性を付与する方法であって、前記燃料電池セパレータに、酸素濃度1%以上の雰囲気で150〜500℃の熱処理を施すことを特徴とする。
このように、所定範囲の温度での熱処理により、本来撥水性であるグラファイトに、導電性を維持しつつ親水性が付与される。さらに熱処理の温度が高過ぎず、チタン等の金属材料が変質し難いため、金属材料を基材に用いた燃料電池セパレータに適用することができる。
本発明に係る燃料電池セパレータは、グラファイトを含有する炭素からなる導電層を表面に備え、前記導電層が金属からなる基材を被覆してなり、25℃の環境下において、前記表面に水を滴下したときの接触角が70°以下であることを特徴とする。さらに本発明に係る燃料電池セパレータは、前記基材がチタンまたはチタン合金からなり、前記基材と前記導電層との間に炭化チタンを含有する中間層が形成されていることが好ましい。
このように、金属からなる基材を備えることで薄型化され、結晶性のグラファイトで導電層を形成して表面を被覆することで導電性が長期間維持され、さらに表面における水の接触角を規定することで、生成水が排水され易い燃料電池セパレータとなる。さらに、基材がチタンやチタン合金で形成されることで、いっそう薄型化、軽量化され、また、基材と導電層の両方の成分からなる炭化チタンを含有する中間層が形成されていることで基材と導電層との密着性および基材へのバリア性が得られるので、燃料電池の内部環境における耐久性に優れた燃料電池セパレータとなる。
本発明に係る燃料電池セパレータの親水化処理方法によれば、本来撥水性である炭素を表面に備えた燃料電池セパレータに、簡易な方法で親水性を付与することができ、特に金属材料を基材に備える燃料電池セパレータにも適用することができる。また、本発明に係る燃料電池セパレータによれば、薄型化が可能で、グラファイトを含有する導電層にて低い接触抵抗を長期間維持でき、燃料電池のカソード(空気極)側に好適に用いることができる。
接触抵抗の測定方法を説明する模式図である。 実施例に係る燃料電池セパレータの試験材の水接触角および接触抵抗の、親水化処理における温度依存性を示すグラフである。 実施例に係る燃料電池セパレータの試験材の水接触角および接触抵抗の、親水化処理における酸素濃度依存性を示すグラフである。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係る燃料電池セパレータ、ならびに本発明に係る燃料電池セパレータの親水化処理方法により表面に親水性を付与された燃料電池セパレータは、一般的な燃料電池(固体高分子型燃料電池)に使用されるための、水素や酸素等の流路となる溝が形成された板状のセパレータである(図示省略)。
〔燃料電池セパレータ〕
本発明に係る燃料電池セパレータは、金属製の基材にグラファイトを含有する導電層(以下、炭素層)を被覆してなり、表面すなわち炭素層が親水性を有する。なお、燃料電池セパレータの親水性を有する表面とは、燃料電池に使用された際に、当該燃料電池の内部の雰囲気に曝される領域(両側の面や端面を含む)を指す。以下、本発明の実施形態に係る燃料電池セパレータを構成する各要素について説明する。
(基材)
基材は、燃料電池セパレータの基材として、板材を当該燃料電池セパレータの形状に成形されたものである。基材には、加工性および強度に優れたアルミニウム、チタン、ニッケル、それらを基とする合金、あるいはステンレス鋼等の金属材料を適用することができる。特に、薄肉化および燃料電池セパレータの軽量化に好適で、また燃料電池セパレータが燃料電池に使用された際に、当該燃料電池の内部の酸性雰囲気に対して十分な耐酸性を有するチタン(純チタン)またはチタン合金で形成されることが好ましい。これは、後記するように、本実施形態においては、炭素層が完全に連続した膜ではない場合があり、基材表面の炭素層がない部分が燃料電池の内部の雰囲気に曝されるためである。本実施形態に係る燃料セパレータは、基材がチタンまたはチタン合金からなる構成として説明する。
基材に用いるチタン、チタン合金としては、例えばJIS H 4600に規定される1〜4種の純チタンや、Ti−Al,Ti−Ta,Ti−6Al−4V,Ti−Pd等のTi合金を適用でき、中でも薄型化に特に好適な純チタンが好ましい。特に、チタン素材(母材)の冷間圧延のし易さ(中間焼鈍なしで総圧下率35%以上の冷間圧延を実施できる)や、その後のプレス成形性確保の観点から、O:1500ppm以下(より好ましくは1000ppm以下)、Fe:1500ppm以下(より好ましくは1000ppm以下)、C:800ppm以下、N:300ppm以下、H:130ppm以下であり、残部がTiおよび不可避的不純物からなるものが好ましく、例えばJIS 1種の冷間圧延板を使用することができる。ただし、基材に用いる純チタンまたはチタン合金としては、これらに限定されることはなく、他の金属元素等を含有してなる前記した純チタン相当またはチタン合金相当の組成を有するものであれば、好適に用いることができる。なお、以下、本明細書において、成分や元素としてのチタンおよび炭素は、それぞれ「Ti」、「C」と表記する。
基材の厚さ(板厚)は特に限定されないが、燃料電池セパレータの基材としては、0.05〜1.0mmであることが好ましい。基材の厚さをこのような範囲とすれば、燃料電池セパレータの軽量化・薄型化の要求を満足し、板材としての強度やハンドリング性を備え、かつ、かかる厚さの板材に形成(圧延)することが容易であり、さらに炭素層を形成した後に、当該燃料電池セパレータの形状に加工することが比較的容易である。
基材の製造方法の一例としては、前記したチタンまたはチタン合金を公知の方法で鋳造、熱間圧延し、必要に応じて間に焼鈍・酸洗処理等を行って、冷間圧延にて所望の厚さまで圧延して、板(条)材として製造することができる。なお、基材は冷間圧延後に焼鈍仕上げされていることが好ましいが、その仕上げ状態は問わず、例えば、前記焼鈍後に酸洗処理されていてもよく、あるいは真空熱処理仕上げ、光輝焼鈍仕上げ等のいずれの仕上げ状態であってもよい。
(炭素層)
炭素層は、基材を被覆して燃料電池セパレータの表面に設けられ、当該燃料電池セパレータに腐食環境下での導電性を付与する。炭素層は、耐食性を有する炭素(C)、特にグラファイトで形成され、導電性を有するものであればその構造は特に限定されないが、六方晶系のグラファイト構造を有する、詳しくはグラフェンシートが層状に多数積み重なった六角板状結晶であることが好ましい。結晶性のグラファイトは導電性に優れ、高温、酸性雰囲気の燃料電池の内部環境における耐久性に優れるため、前記導電性を維持することができる。このようなグラファイトである炭素層は、粒状または粉状に成形された黒鉛(グラファイト)やカーボンブラックのような炭素粉を基材に付着させて(塗布して)圧着することで形成できる(後記の燃料電池セパレータの製造方法にて詳細に説明する)。この他に、炭素層は、いわゆる炭のように、微小なグラファイト構造と立方晶系のダイヤモンド構造とが混在した非晶質(無定形)構造であってもよい。
燃料電池セパレータは、燃料電池の内部の雰囲気に曝される全表面(両側の面、端面を含む)において、炭素層が被覆する面積率が高いほど導電性が向上する。したがって、炭素層は、前記全表面を被覆していることがもっとも好ましいが、40%以上に形成されていればよく、50%以上に形成されていることが好ましい。本実施形態に係る燃料電池セパレータにおいては、前記した通り、基材はチタンまたはチタン合金からなり、腐食環境下で不働態皮膜を形成するため、基材自体が耐食性を有するので露出していても腐食することはない。したがって、炭素層は完全に連続した膜とする必要はなく、前記したように粒状または粉状に成形された炭素粉を基材に圧着することで形成できる。このような方法で形成されることで、炭素層は生産性よく十分な厚さに形成され、黒鉛やカーボンブラックによって優れた導電性が得られる。
炭素層の厚さ(膜厚)は特に限定されないが、極端に薄いと導電性が十分に得られず、また、このような薄い膜は形成時の面積あたりの炭素粉の量すなわち個数が少ないために炭素層が隙間の多い膜となってバリア性が十分に得られず、基材の表面に微細に露出する領域が多くなり、このような領域に不働態皮膜が形成されるため、燃料電池セパレータの導電性がさらに劣化する。炭素層が燃料電池セパレータに十分な導電性を付与するためには、炭素の付着量に換算して2μg/cm2以上であることが好ましく、5μg/cm2以上がさらに好ましい。一方、炭素層の炭素の付着量が1mg/cm2を超えても、導電性はさらには向上しない。また、多量の炭素粉を圧着して炭素層を形成することが困難であり、さらに炭素層が極端に厚膜化されると基材との熱膨張率の差により後記の熱処理等で剥離し易くなることから、炭素の付着量は1mg/cm2以下であることが好ましい。炭素層の厚さおよび炭素の付着量は、当該炭素層の形成における基材への炭素粉の塗布量で制御することができる。
本実施形態に係る燃料電池セパレータの表面、すなわち炭素層は、少なくとも表面において親水性を有する。これは、後記にて説明する本発明に係る燃料電池セパレータの親水化処理方法により、炭素層の一部の炭素原子(C)が他の炭素原子との結合を維持しつつ、酸素(O)と、>C−O−C<、>C=O等の形で結合したことによると推測される。炭素層(グラファイト)は、このように酸素が結合しても導電性への影響は小さく、燃料電池セパレータの導電材料として問題ない。また、親水性を有するとは、具体的には、25℃の環境下において、燃料電池セパレータの表面に水を滴下したときの接触角が70°以下であることを指し、好ましくは接触角が50°未満である。
(中間層)
前記したように炭素粉で形成される炭素層は、硬質な基材に圧着されただけでは基材に押し付けられたことによって付着しているに過ぎず、基材との密着性が不十分である。また、基材の仕上げ状態(酸洗の有無)にかかわらず、基材の表面すなわち炭素層との界面にチタンの不働態皮膜(二酸化チタン、TiO2)が形成されているため、燃料電池セパレータの導電性が低くなる。そこで、本実施形態に係る燃料電池セパレータは、炭素層と基材との界面に、Ti,Cを含有する層(中間層)を有する。中間層においては、前記のTi,Cが、炭化チタン(チタンカーバイド、TiC)、あるいはさらに炭素固溶チタンとして存在する。このような中間層は、基材上に炭素層を形成した後に、非酸化性雰囲気(低酸素雰囲気)で熱処理を行うことにより、界面でC,Tiを互いに拡散させて形成される(後記の燃料電池セパレータの製造方法にて詳細に説明する)。
ここで、中間層が形成されている、すなわち基材と炭素層との界面に炭化チタンが存在するということは、基材の表面に不働態皮膜がないということである。基材に炭素粉を圧着して炭素層を形成した時点での状態で、非酸化性雰囲気で熱処理を施されると、基材表面の不働態皮膜の厚さが薄くなって最終的には消失し得る。これは、不働態皮膜(TiO2)中の酸素(O)が、基材の母材(Ti)中に内方拡散したり、炭素層のCと反応して二酸化炭素(CO2)として放出されることによると推測される。そして、炭素層が基材の母材(Ti)に接触した状態になると、その接触した界面で、熱処理によりC,Tiが互いに拡散して反応するようになり、炭化チタンが生成する。
したがって、中間層(炭化チタン)が形成された領域は、基材の不働態皮膜が消失した領域である。そして、このような領域では、炭素層が基材(母材)に導電性の中間層のみを介して被覆する状態となって、炭素層と基材が電気的に低抵抗で接続する。その結果、燃料電池セパレータは、基材、中間層、炭素層の積層体として低い接触抵抗が得られる。さらに、中間層が形成されることで、当該中間層を介して基材と炭素層とが強固に接合される。その結果、燃料電池セパレータは、当該燃料電池セパレータへの成形時、あるいは燃料電池に使用された際に、炭素層が剥離等しないだけでなく、基材と炭素層との間に間隙を生じないので、燃料電池内部の酸性雰囲気が浸入して基材表面に接触することがなく、新たな不働態皮膜の形成による接触抵抗の上昇が抑制され、耐久性が向上する。
中間層は、基材と炭素層との間(界面)のすべてに形成されていることがもっとも好ましいが、当該界面の50%以上に形成されていれば基材と炭素層との密着性が十分に得られる。また、中間層の厚さは特に限定されないが、10nm以上であれば基材と炭素層との密着性が十分に得られて好ましい。一方、中間層の厚さが500nmを超えても、基材と炭素層との密着性がさらに向上することはなく、また熱処理時間が長くなって生産性が低下するため、500nm以下が好ましく、200nm以下がさらに好ましい。
以上、説明した通り、本発明の実施形態に係る燃料電池セパレータは、高強度で加工性に優れた金属材料を基材に備えているので、薄型化が容易であり、また、本来撥水性でありながら、その導電性を維持しつつ親水性を付与されたグラファイトを表面に備えているので、燃料電池のカソード(空気極)側に配されるセパレータに適用しても、発電性能を生成水により低下させない。
〔燃料電池セパレータの製造方法〕
次に、本発明に係る燃料電池セパレータの親水化処理方法を、前記燃料電池セパレータの製造方法と共に説明する。
(基材製造工程)
前記した通り、公知の方法でチタンまたはチタン合金からなる所望の厚さの冷間圧延板(条材)を製造し、コイルに巻き取り、基材とする。さらに必要に応じて、冷間圧延板を焼鈍したり、フッ酸と硝酸の混合溶液等で酸洗してもよい。
(炭素層形成工程)
基材の表面(片面または両面)に、炭素層を形成するための炭素粉を付着させる。付着方法は特に限定されないが、炭素粉を直接に基材に付着させたり、炭素粉をカルボキシメチルセルロース等の水溶液や樹脂成分を含有する塗料中に分散させたスラリーを、基材に塗布すればよい。あるいは、炭素粉と樹脂とを混練して作製した炭素粉含有フィルムを基材に貼り付けたり、ショットブラストにより炭素粉を基材表面に打ち込んで、基材に担持させたり、炭素粉末と樹脂粉末とを混合して、コールドスプレー法によって基材に付着させる方法等が挙げられる。また、スラリーを塗布した場合等、溶媒を使用した場合は、ブロー等にて乾燥させてから後続の圧着を行うことが好ましい。
炭素層を形成するための炭素粉は、粉径または粒径(直径)が0.5〜100μmの範囲のものが好ましい。粒径が大き過ぎると、基材に付着させ難く、さらに圧延による基材への圧着においても付着し難い。反対に粒径が小さ過ぎると、圧延による基材への圧着において炭素粉が基材に押し付けられる力が弱くなるため、基材に付着し難くなる。
炭素粉を付着させた基材を、さらに冷間圧延を行うことにより、炭素粉を基材に圧着(以下、圧延圧着という)して、炭素粉同士を接合して膜状の炭素層とする。このときの冷間圧延は、基材を製造したときの通常の冷間圧延と同様に圧延機にて行うことができるが、炭素粉が潤滑剤と同様の効果を有するので、圧延ロールには潤滑油を塗布しなくてよい。この圧延圧着における総圧延率(圧延圧着前の基材+炭素層(付着した炭素粉)の合計厚さに対する圧延圧着による変化率)は0.1%以上とすることが好ましい。かかる圧延圧着により、軟質の炭素粉が変形して炭素粉同士が接合されて膜状の炭素層を形成して、基材に付着する。総圧延率の上限は特に規定せず、基材製造工程完了時の基材の厚さに対して所望の厚さとなるように調整すればよい。ただし、基材については総圧延率が過大になると反りやうねりを生じるため、基材の総圧延率(圧延圧着前の基材の板厚に対する圧延圧着による基材の板厚変化率)が50%以下となるようにすることが好ましい。
このように、炭素層は炭素粉を圧着して形成されることで、軟質な炭素粉同士では接合して一体の膜になるが、硬質な基材へは押し付けられたことによって付着しているので、炭素層の形成直後においては基材への密着性が不十分である。また、前記した通り、基材の表面すなわち炭素層との界面には不働態皮膜が形成されているために、全体として接触抵抗が高い。そこで、次の熱処理により、基材表面の不働態皮膜を消失させ、さらに炭素層との間に中間層を形成する。
(中間層形成工程)
炭素層を形成した基材を、非酸化性雰囲気で熱処理を施すことにより、基材の不働態皮膜を薄くして少なくとも一部を消失させて、基材の母材(Ti)に炭素層が接触するようにし、さらに接触した界面に炭化チタンを生成させて中間層を形成する。非酸化性雰囲気とは、具体的には、真空中または窒素(N2)やAr等の不活性ガスに、好ましくは酸素分圧1.3×10-3Pa以下を指す。酸素分圧が十分に低い雰囲気でないと、熱処理で炭素層の炭素が酸化して二酸化炭素(CO2)として解離してしまい、炭素層の膜厚が減少する。
中間層形成工程における熱処理温度は300〜850℃の範囲が好ましい。熱処理温度が低過ぎると、基材と炭素層の界面でのTiとCの反応が進行しないために中間層が形成されず、さらに低いと、基材の自然酸化膜(不働態皮膜)が、当該不働態皮膜中のOと炭素層のCとの反応が進行しないために残存する。温度が高いほど、これらの反応速度は速くなるので熱処理時間を短縮できる。熱処理時間は0.5〜120分間の範囲で、熱処理温度に応じて設定する。一方、熱処理温度が高過ぎるとTiの相変態が起こるため、基材の機械特性が変化する虞がある。
中間層形成工程における熱処理は、前記範囲の所望の熱処理温度で行うことができ、かつ雰囲気調整ができる熱処理炉であれば、電気炉、ガス炉等、どのような熱処理炉でも用いることができる。また、連続式の熱処理炉であれば、炭素層を形成した基材をコイル状の条材のままで熱処理を行うことができる。一方、バッチ式の熱処理炉を用いる場合は、炉内に収容可能な長さに、あるいは燃料電池セパレータとするための所定の形状に切断してから、あるいはさらに燃料電池セパレータの形状に成形した(後記の成形工程)後に、熱処理を行えばよい。
(成形工程)
炭素層および中間層を形成した基材を、切断、プレス加工等により、所望の形状に成形して、燃料電池セパレータ(親水化処理前)とする。なお、成形工程は熱処理工程前に行うこともできる。すなわち中間層が形成される前であっても、加工等により炭素層が剥離しない程度に基材に密着していればよい。また、圧延圧着に代えて、基材のプレス加工と同時に炭素粉を圧着して炭素層を形成してもよい。
(親水化処理工程)
本発明に係る燃料電池セパレータの親水化処理方法は、金属からなる基材の表面に炭素層を備える燃料電池セパレータに、酸素(O2)濃度1%以上の雰囲気で150〜500℃の熱処理を施す。以下、実施形態として、前記の製造方法により、チタンまたはチタン合金からなる基材に、炭素層、および基材と炭素層の間の中間層を形成された燃料電池セパレータについて、その親水化処理方法を詳細に説明する。
親水化処理工程においては、酸素(O2)を含有する雰囲気で熱処理を行う。N2やAr等の不活性ガスにO2を混合してもよいし、通常の大気雰囲気(O2濃度約21%)でもよい。燃料電池セパレータは、このような雰囲気で熱処理を施されることにより、表面の炭素層(グラファイト)に酸素(O)が結合して、炭素層が親水化すると推測される。O2濃度1%未満の雰囲気では、炭素層の親水化の進行が遅過ぎて、生産性が低下したり十分な親水性を付与することが困難となり、さらにO2濃度が低いとほとんど親水化しない。したがって、熱処理雰囲気のO2濃度は1%以上とし、5%以上が好ましい。一方、O2濃度の上限は特に規定されないが、10%を超えて高くしても親水化のさらなる向上効果は得られないことから、大気雰囲気(O2濃度約21%)相当以下とすることが好ましい。
親水化処理工程における熱処理温度は150〜500℃の範囲とする。熱処理温度が150℃未満では親水化の進行が遅過ぎて、生産性が低下したり十分な親水性を付与することが困難となり、さらに温度が低いとほとんど親水化しない。熱処理温度は、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上、さらに好ましくは250℃以上である。一方、熱処理温度が高いほど炭素層の親水化の進行が速くなるが、ある程度の高温になると燃料電池セパレータの導電性が劣化するようになる。これは、温度が高いと基材表層の金属が酸素(O)と反応すなわち酸化するようになり、特に本実施形態に係る燃料電池セパレータにおいては、Oが中間層さらには基材表層に導入されて、中間層等の導電性が低下することによると推測される。特に熱処理温度が500℃を超えると、導電性の劣化が顕著になる傾向がある。さらに温度が高いと、炭素層の炭素が酸化して二酸化炭素(CO2)として解離してしまい、炭素層の膜厚が減少する。熱処理温度は、好ましくは450℃以下、より好ましくは400℃以下、さらに好ましくは400℃未満である。熱処理時間は約5秒〜10分間の範囲が好ましく、熱処理温度に応じて設定する。
親水化処理工程における熱処理は、炉内に燃料電池セパレータを収容して、前記範囲の所望の熱処理温度で行うことができる熱処理炉であれば、電気炉、ガス炉等、どのような熱処理炉でも用いることができる。
前記したように、中間層形成工程は成形工程の後に行うこともできるため、例えば雰囲気調整ができるバッチ式の熱処理炉を用い、中間層形成工程と親水化処理工程を連続して行ってもよい。具体的には、非酸化性雰囲気での熱処理にて中間層形成工程を行った後、炉内に燃料電池セパレータを収容したままで温度を降下させて150〜500℃の範囲の範囲とし、あるいは500℃以下で中間層形成工程における熱処理を行った後に温度を保持したままとし、炉内に酸素(O2)を導入して所望のO2濃度として親水化処理工程を行う。
なお、親水化処理工程は、中間層形成工程の後に行う。親水化処理工程の後に非酸化性雰囲気での高温の熱処理を行うと、炭素層に結合した酸素(O)が解離して、親水性が失われる虞があるためである。また、炭素層は親水性を付与されると潤滑性が低下する傾向があるため、成形の仕様や加工量にもよるが、親水化処理工程は成形工程の後に行うことが好ましい。
燃料電池セパレータの親水化処理は、本発明に係る燃料電池セパレータの親水化処理方法による処理(酸素含有雰囲気での熱処理)だけでなく、他の方法を組み合わせて行ってもよい。具体的には、オゾン処理、UV処理、プラズマ処理等が挙げられる。これらの処理は、酸素含有雰囲気での熱処理の後に行うことが好ましい。
本発明に係る燃料電池セパレータの親水化処理方法は、燃料電池セパレータの製造時だけでなく、燃料電池に使用された後、すなわち使用により親水性が劣化した燃料電池セパレータに適用することもできる。
本発明に係る燃料電池セパレータの親水化処理方法は、チタン等の金属材料からなる基材にグラファイトからなる炭素層(導電層)を被覆した燃料電池セパレータに限られず、カーボン(グラファイト)成形体からなる燃料電池セパレータにも適用することができる。カーボン成形体への親水化処理においては、基材の金属材料への酸素(O)の導入による導電性の低下の虞がないため、前記の範囲内において比較的高温で長時間の熱処理を施してよく、またこのような熱処理により、燃料電池セパレータ(カーボン成形体)の表層だけでなく内部まで親水化されるため、親水性が長期間維持される。
以上、本発明に係る燃料電池セパレータ、およびその親水化処理方法について、本発明を実施するための形態について説明したが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と比較して説明する。なお、本発明はこの実施例および前記形態に限定されるものではなく、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
〔試験材の作製〕
(基材作製)
基材材料としてJIS 1種、化学組成が、O:450ppm、Fe:250ppm、N:40ppm、C:200ppm、H:30ppm、残部がTiおよび不可避的不純物の純チタンを適用した。この純チタンを、公知の溶解、鋳造、熱間圧延、冷間圧延を施して、板厚0.1mmの条材を作製し、さらに焼鈍、酸洗仕上げとし、50mm×150mmに切り出して基材とした。
(炭素層形成)
炭素層を形成する黒鉛(グラファイト)粉として、平均粒径10μm、純度99.9%の鱗片状黒鉛粉(SECカーボン社製、SNO−10)を用いた。この黒鉛粉を、1.0質量%カルボキシメチルセルロース水溶液中に12質量%となるように分散させてスラリーを作製した。そして、このスラリーを15番の番手のバーコーターを用いて前記の基材の両面に各200μg/cm2(乾燥後換算)塗布し、設定温度を100℃とした乾燥機の中で乾燥させた。そして、基材を、ワークロール径200mmの2段圧延機を用い、潤滑油を塗布していない圧延ロールにて、荷重2.5トンでロールプレスし、1パスで圧下率(=総圧延率)1.0%の冷間圧延を施して基材両面に炭素層を形成した。
(中間層形成)
炭素層を形成した基材を、熱処理炉を用いて、酸素分圧1.3×10-3Pa以下の真空(6.7×10-3Pa)雰囲気で、560℃で2時間保持して熱処理を行った。熱処理後は、真空雰囲気下で基材の温度が100℃以下になるまで冷却し、40mm×30mmに切り出して、燃料電池セパレータの試験材(親水化処理前)とした。
(親水化処理)
得られた燃料電池セパレータの試験材を、大気炉にて、表1に示す温度で表1に示す時間保持して熱処理を施し、試験材No.2〜10とした。また、熱処理(親水化処理)を施さない試験材を比較例(試験材No.1)とした。
また、雰囲気調整が可能な急速加熱炉を用いて、窒素(N2)に表2に示す濃度の酸素(O2)を混合した雰囲気で、350℃で60秒間保持して熱処理を施し、試験材No.11〜16とした。
〔評価〕
(親水性)
試験材No.1〜16について、25℃の環境下で、試験材を水平に載置し、表面に約0.5μLの純水を滴下し、接触角測定器(協和界面科学社製、CA−A)を用いて接触角(水接触角)θを測定した。親水性の合格基準は、接触角θが70°以下とした。接触角θおよび試験材No.1との差Δθを表1、表2に示す。
(導電性)
試験材No.1〜16について、接触抵抗を、図1に示す接触抵抗測定装置を用いて測定した。試験材を両面から2枚のカーボンクロスで挟み、さらにその外側を接触面積1cm2の銅電極で荷重98N(10kgf)に加圧し、直流電流電源を用いて7.4mAの電流を通電し、両カーボンクロス間に印加される電圧を電圧計で測定して抵抗値を算出した。得られた抵抗値を接触抵抗として表1に示す。導電性の合格基準は、接触抵抗が5mΩ・cm2以下とした。
試験材No.1〜9の水接触角および接触抵抗について、親水化処理における温度依存性のグラフを図2に示す。なお、試験材No.1については熱処理温度0℃とした。また、試験材No.11〜16の水接触角および接触抵抗について、親水化処理におけるO2濃度依存性のグラフを図3に示す。
Figure 0006043262
Figure 0006043262
表1および図2に示すように、酸素含有雰囲気である大気中で熱処理を施した試験材No.2〜10のすべてについて、試験材No.1よりも親水性が高くなった。特に熱処理温度が350〜400℃付近(試験材No.6,7)までは、温度が高くなるにしたがい親水性が高くなった。また、熱処理温度が400℃を超えても親水性にほとんど変化がない一方で、300℃以上で接触抵抗が漸増し始め、600℃の熱処理を施した試験材No.9は、導電性が不合格となった。一方、試験材No.2は、熱処理温度が低く、親水化が不十分であった。また、熱処理温度が本発明の範囲の下限(150℃)において処理時間を長くした試験材No.10は、同じ熱処理温度の試験材No.3と比較して、導電性が低下することはなかったが、親水化の進行が遅く、親水性が大きく向上することはなかった。
表2および図3に示すように、酸素含有雰囲気で熱処理を施した試験材No.12〜16のすべてについて、試験材No.1(表1参照)よりも親水性が高くなった。特にO2濃度が5%(試験材No.14)までは、O2濃度が高くなるにしたがい親水性が顕著に高くなり、一方、O2濃度が5%を超えても親水性にほとんど変化がなく、また大気中で熱処理を施した試験材No.6(表1参照)とほとんど差がなかった。これに対して、同じ温度かつ保持時間であっても、窒素(N2)のみすなわち非酸化性雰囲気で熱処理を施した試験材No.11は、試験材No.1に対して親水性がほとんど変化しなかった。また、試験材No.12は、O2濃度が低く、親水化が不十分であった。また、接触抵抗については、O2濃度が1%以上で微増したが、O2濃度による依存性は極めて小さかった。
導電層(グラファイト)のみに対する効果を観察するために、燃料電池セパレータの試験材として、厚さ5mmのグラファイト成形体(東洋カーボン製、G347B)に対して、本発明に係る親水化処理方法における熱処理を施した。実施例1の試験材No.2〜10と同様に大気中で、450℃で180秒間保持して熱処理を施し、試験材No.17とした。試験材No.17について、熱処理の前後で実施例1と同様に、接触角および接触抵抗を測定し、表3に示す。なお、表3のΔθは熱処理前との接触角θの差である。
Figure 0006043262
表3に示すように、全体がグラファイトからなる燃料電池セパレータについても、熱処理により親水性が高くなった。一方で、実施例1の熱処理において比較的高温かつ長時間の熱処理であっても、導電性の低下はほとんどなかった。

Claims (3)

  1. グラファイトを含有する炭素からなる導電層を表面に備えて前記導電層が金属からなる基材を被覆してなる燃料電池セパレータの前記表面に、親水性を付与する燃料電池セパレータの親水化処理方法であって、
    前記燃料電池セパレータに、酸素濃度1%以上の雰囲気で150〜500℃の熱処理を施すことを特徴とする燃料電池セパレータの親水化処理方法。
  2. グラファイトを含有する炭素からなる導電層を表面に備え、前記導電層が金属からなる基材を被覆してなる燃料電池セパレータであって、
    25℃の環境下において、前記表面に水を滴下したときの接触角が70°以下であることを特徴とする燃料電池セパレータ。
  3. 前記基材がチタンまたはチタン合金からなり、
    前記基材と前記導電層との間に、炭化チタンを含有する中間層が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池セパレータ。
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