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JP5924435B1 - クリンカ組成物及びセメント組成物 - Google Patents

クリンカ組成物及びセメント組成物 Download PDF

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JP5924435B1 JP2015055191A JP2015055191A JP5924435B1 JP 5924435 B1 JP5924435 B1 JP 5924435B1 JP 2015055191 A JP2015055191 A JP 2015055191A JP 2015055191 A JP2015055191 A JP 2015055191A JP 5924435 B1 JP5924435 B1 JP 5924435B1
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Abstract

【課題】高ビーライト系クリンカの水和活性を向上させることにより、セメントの良好な流動性を維持しつつ、優れた強度発現性が得られるクリンカ組成物及びこれを用いたセメント組成物を提供する。【解決手段】2CaO・SiO2を50〜70質量%と、3CaO・Al2O3及び4CaO・Al2O3・Fe2O3を合計で11〜14質量%と、固相に固溶しているSO3を0.33〜1.09質量%と、MgOを0.55〜1.10質量%と、P2O5を0.09〜0.26質量%と、Sn含有成分をSn換算で40〜250ppm含み、前記2CaO・SiO2のうちのβ−2CaO・SiO2の格子体積が347.2Å3以上であるクリンカ組成物、及びこれと石膏とを含むセメント組成物。【選択図】なし

Description

本発明は、強度発現性に優れたクリンカ組成物及びこれを用いたセメント組成物に関する。
コンクリートダムや部材寸法が大きな構造物におけるマスコンクリートにおいては、セメントの水和発熱による温度差に起因する応力を低減するため、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の低発熱型セメントが使用されている。特に、セメントの水和発熱の抑制の観点から、水和熱が低いビーライト(CS:2CaO・SiO)の含有率を多くした高ビーライト系セメントが多用されている。
近年、コンクリート構造物の大型化や高層化に伴い、低発熱型セメントを用いたコンクリートにおいても、高強度化の要求が増大している。このような高強度化の要求に対して、低発熱型セメントは、粉末度を高くする傾向にある。しかしながら、粉末度を高くすると、反応界面が増大し、エトリンガイトの生成量の増加や、石膏からの硫酸イオンの溶解速度の増大を招き、流動性が低下する要因となり、また、却って水和熱が増大する場合もある。
このため、低発熱型セメントの高強度化を目的とした、高ビーライト系セメントの配合組成の改良が種々提案されている。
例えば、特許文献1には、混合セメントにおいて、高ビーライト系セメントに、高炉スラグ粉末及び石灰石粉末を混入させることが記載されている。また、特許文献2には、高ビーライト系セメントに高炉スラグを配合した低発熱スラグセメントが記載されている。
一方、特許文献3には、高ビーライト型セメントと、エーライト(CS:3CaO・SiO)の含有率が多い高エーライト型セメントの微粉末とからなる低発熱型セメントが記載されている。また、特許文献4には、ビーライト系セメントクリンカーとエーライト系セメントクリンカーと石膏とを混合粉砕した低発熱型セメント組成物が記載されている。
さらに、特許文献5には、エーライトを含むセメントクリンカーと二酸化珪素含有物質とを1100℃以上で接触反応させて生成したビーライトを含有するセメントクリンカー組成物が記載されている。
また、特許文献6には、少量成分である固溶アルカリ、SO及びMgOの各含有量を調整し、リーベルト法を用いて鉱物組成を管理して、強度の向上を図ることが記載されている。
特開平6−287046号公報 特開平9−227182号公報 特開平7−215742号公報 特開平8−175854号公報 特開2005−67905号公報 特開2010−120787号公報
しかしながら、特許文献1,2に記載されているような低発熱型セメントは、高炉スラグの配合比率が高く、強度発現は、高ビーライト系セメントに配合する高炉スラグ等の混合材の品質によるばらつきを生じやすい。
また、特許文献3,4に記載されているような高ビーライト系クリンカ及び高エーライト系クリンカが混合粉砕された低発熱型セメントは、それぞれのクリンカを製造する必要があるため、多大なエネルギーを要し、また、セメントは、両方のクリンカの鉱物組成のばらつき等の影響を受けるため、調製が容易であるとは言い難い。
また、特許文献5に記載のビーライトを含有するクリンカ組成物は、高エーライトクリンカを製造した後、さらに高温での処理等を行うため、製造に多大なエネルギーが必要となる。
しかも、これらの低発熱型セメントは、いずれも、それぞれ性能の異なるクリンカや混合材を組み合わせることにより、初期強度発現性を満足させようとするものであり、クリンカ自体の特性を改善したものではない。
一方、特許文献6に記載の方法は、クリンカ中の少量成分の調整により、低熱セメントの強度を向上させようとするものであるが、少量成分のクリンカへの固溶による鉱物量の変化に伴う強度発現性に着目したものであり、クリンカの水和活性の向上を図るものではなく、また、必ずしも良好な流動性が得られるとは言い難い。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、高ビーライト系クリンカの水和活性を向上させることにより、セメントの良好な流動性を維持しつつ、優れた強度発現性が得られるクリンカ組成物及びこれを用いたセメント組成物を提供することを目的とする。
本発明は、クリンカ組成物中の水硬性鉱物の組成や各相及び所定の少量成分を特定の割合で含有し、β−CSの格子体積を347.2Å以上とすることにより、高ビーライト系クリンカの水和活性を向上させ、優れた強度発現性を有するセメントを得ることを可能とするものである。
すなわち、本発明は、次の[1]〜[3]を提供する。
[1]2CaO・SiOを50〜70質量%と、3CaO・Al及び4CaO・Al・Feを合計で11〜14質量%と、固相に固溶しているSOを0.33〜1.09質量%と、MgOを0.55〜1.10質量%と、Pを0.09〜0.26質量%と、Sn含有成分をSn換算で40〜250ppm含み、前記2CaO・SiOのうちのβ−2CaO・SiOの格子体積が347.2Å以上である、クリンカ組成物。
[2]下記式(1)の関係を満たす、上記[1]に記載のクリンカ組成物。
0.54×S−0.50×M+1.93×P≧0.35 …(1)
(式(1)において、S:クリンカ組成物の固相に固溶しているSO量(質量%)、M:クリンカ組成物中のMgO含有量(質量%)、P:クリンカ組成物のP含有量(質量%)である。)
[3]上記[1]又は[2]に記載のクリンカ組成物と、石膏とを含む、セメント組成物。
本発明によれば、高ビーライト系クリンカの水和活性を向上させることにより、セメントの良好な流動性を維持しつつ、優れた強度発現性が得られるクリンカ組成物を提供することができる。
したがって、本発明のクリンカ組成物は、特に水和発熱抑制が求められる、中庸熱ポルトランドセメントや低熱ポルトランドセメント等の間隙相の含有量が少ないセメント組成物に適しており、ダムや大型構造物用のマスコンクリートにも好適に適用することができる。
実施例における式値とβ−CSの格子体積との関係を示したグラフである。 実施例におけるβ−CSの格子体積とモルタル圧縮強さとの関係を示したグラフである。
本発明のクリンカ組成物は、CSを50〜70質量%と、3CaO・Al(以下、CAと言う。)及び4CaO・Al・Fe(以下、CAFと言う。)を合計で11〜14質量%と、固相に固溶しているSOを0.33〜1.09質量%と、MgOを0.55〜1.10質量%と、Pを0.09〜0.26質量%と、Sn含有成分をSn換算で40〜250ppm含み、前記CSのうちのβ−CSの格子体積が347.2Å以上であることを特徴とする。
前記クリンカ組成物は、鉱物組成及び特定の少量成分を所定の割合を調整して、β−CSの格子体積を所定範囲とすることにより、高ビーライト系クリンカの水和活性を向上させ、優れた強度発現性を備えたセメント組成物を得ることを可能としたものである。
(クリンカ組成物)
クリンカ組成物は、エーライト(CS)とビーライト(CS)を主要鉱物(シリケート相)とし、アルミネート相(CA)とフェライト相(CAF)を間隙相として構成される。この中でも、ビーライトは、α型(α−CS)、α’型(α’−CS)、β型(β−CS)、γ型(γ−CS)の多形が存在し、α型及びα’型は高温安定型、β型及びγ型は低温安定型となっている。クリンカ組成物を得る際、原料混合物を1450〜1600℃で焼成すると、焼成後の冷却過程において、クリンカ中のビーライトは、α型からα’型やβ型を経てγ型に転移し、安定なγ型となる。
これらのうち、ポルトランドセメントに含まれるものは、主としてβ−CSであり、これは低熱ポルトランドセメントの主要な組成化合物であり、一般に、コンクリートの材齢28日以降の強度発現に大きく寄与する。
また、β−CSの結晶格子の格子体積は、水との混練時にセメント組成物中の硫酸アルカリや石膏から溶解する硫酸イオンの吸着量に関係する。β−CSの格子体積が大きくなると、その結晶歪も大きくなり、β−CSの結晶表面への硫酸イオン吸着量が選択的に増加する。そして、β−CS表面への硫酸イオンの吸着により、液相中の硫酸イオン濃度が減少すると、硫酸イオンと競争吸着する混和剤は、β−CS以外のセメント組成鉱物粒子の表面に吸着する。このように、β−CS以外の粒子表面への混和剤の吸着量の増加により、セメント組成物全体として流動性が改善される。
このような観点から、本発明においては、クリンカ組成物に含まれるβ−CSの格子体積を347.2Å以上とする。前記格子体積が347.2Å未満の場合は、セメントの流動性を向上させることができない。一方、通常のクリンカ製造条件において、格子体積が347.5Åを超えるβ−CSを得ることは困難である。
したがって、β−CSの格子体積は、347.20〜347.50Åであることが好ましく、より好ましくは347.40〜347.50Åである。
なお、β−CSの格子体積は、後述する実施例に記載の方法により求められる。
β−CSの格子体積は、以下のような要因により変化するものと考えられる。
例えば、クリンカ組成物中の微量成分のうち、Cr、V及びP等は、β−CSの高温変態における安定化に及ぼす作用が強いことが知られている。Cr、V及びPは、5価イオンとして、SiO四面体のSiイオンと置換し、固溶する。それぞれの5価イオン半径は、Cr5+:46pm、V5+:40pm、P5+:35pmであり、Si4+のイオン半径である41pmに近似しているため、容易に置換するものと考えられる。これらのうち、Crによる置換が、イオン半径の差から、格子歪(格子体積)を最も増加させる。
また、クリンカ組成物中のSO含有量に対してMgO含有量が多い場合、結晶生成よりも核生成が促進されるため、格子定数は小さくなる。さらに、SO含有量に対してセメント中の全アルカリ含有量が多いと、SOはアルカリ硫酸塩となり、結晶生成に影響するSOが少なくなるため、格子体積は小さくなる傾向にある。
また、製造したクリンカを急冷すると、β−CSの格子体積は大きくなる傾向にある。
したがって、β−CSの格子体積は、クリンカの原料原単位(各原材料の配合量)やクリンカの冷却速度の調節により制御することができる。これらの調節は、サンプリングしたセメント組成物におけるβ−CSの格子体積の値を求め、これに基づいて行うことができる。
本発明は、特に水和発熱抑制を考慮した、中庸熱ポルトランドセメントや低熱ポルトランドセメント等の低発熱型セメントに好適に適用されるものであり、クリンカ組成物は、CSを50〜70質量%と、CA及びCAFを合計で11〜14質量%とを含む。これらの各含有量は、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」により測定した分析値より、ボーグ(Bogue)式により算出した値である。
Sの含有量は、50〜70質量%である。CSの含有量が50質量%未満では、低発熱型セメントが得られない。また、CSの含有量が70質量%を超えると、初期材齢の強度発現性が低下する。
Sの含有量は、50〜60質量%であることが好ましく、より好ましくは52〜56質量%である。
また、CA及びCAFの合計含有量は、11〜14質量%である。CA及びCAFの合計含有量が11質量%未満であると、間隙液相量が少なく、クリンカ焼成時に液相介在による固相−液相反応が速やかに進行しなくなり、また、キルン中でのダストの飛散を招き、ダストによりバーナーからの輻射熱が遮断され、クリンカ焼成の効率が低下することとなる。また、CA及びCAFの合計含有量が14質量%を超えると、カルシウムシリケート鉱物の生成が少なくなり、強度が低下し、また、キルン内のコーチング量が増加し、操業不良となるおそれがある。
A及びCAFの合計含有量は、好ましくは11.5〜13.5質量%である。
なお、CAは、水和熱抑制の観点から、CAFよりも少ないことが好ましく、1.1〜5.0質量%であることが好ましい。CAが1.1質量%以上であれば、融点の低いCAFによる液相粘性の低下が抑制され、クリンカ組成物の造粒が良好に進行する。また、水和熱の高いCAが5.0質量%以下であれば、セメント組成物の水和熱を290J/g以下に抑制することができるため好ましい。
Aの含有量は、より好ましくは1.1〜4.2質量%である。
また、CSの含有量は、初期材齢の強度発現性、水和熱抑制の観点から、20.0〜30.0質量%であることが好ましく、より好ましくは23.0〜29.0質量%である。
前記クリンカ組成物中、固相に固溶しているSO量(以下、ss−SO量と言う。)は0.33〜1.09質量%、MgO含有量は0.55〜1.10質量%、P含有量は0.09〜0.26質量%とする。
クリンカ組成物中のss−SO量に対してMgO含有量が多くなると、結晶成長よりも核生成が促進され、格子体積は小さくなる傾向にある。また、P含有量の増加は、CS量の増加を促進する。このような観点から、クリンカ組成物中の少量成分のうち、ss−SO、MgO及びPについて、上記範囲内の含有量とすることにより、高ビーライト系クリンカの水和活性を向上させ、強度発現性を付与することができる。
ss−SO量は、例えば、クリンカ組成物中のアルカリ量の低減や、硫黄燃料の使用量の調整、クリンカ製造後の冷却開始温度の調整等により制御することができる。
クリンカ組成物中のSOは、主要鉱物への固溶の他、アルカリ硫酸塩として存在している。このため、アルカリ量を低減させることにより、アルカリ硫酸塩生成量が低減するため、シリケート相のうち主にCSへの固溶量が増大する。アルカリ量の低減は、例えば、粘土原料において、粘土、建設発生土又は廃ガラス等の高アルカリ含有廃棄物に対する石炭灰の使用比率を多くすることにより制御することができる。
また、硫黄燃料については、例えば、クリンカ組成物に対する原単位140kg/トンの石炭を燃料とした場合、低硫黄炭(S分:0.66%)のみではss−SO量は0.23質量%であり、高硫黄炭(S分:4.38%)を40kg使用するとss−SO量は0.6質量%、また、50kg使用するとss−SO量は0.7質量%となる。このように、硫黄燃料の使用量は、任意に調整可能である。
また、クリンカ製造後の冷却開始温度を高くすることにより、ss−SO量を増加させることができる。
なお、ss−SOは、一般に、クリンカ組成物中にはKSO、KNa(SO等の水溶性のアルカリ硫酸塩が含まれているため、後述する実施例に記載の方法により、水溶性アルカリ硫酸塩のSO換算量を求め、これをクリンカ組成物のSO換算量から差し引くことにより、ss−SO量を求められる。また、MgO含有量及びP含有量は、後述する実施例に記載の方法により求められる。
さらに、前記ss−SO量(質量%)をS、MgO含有量(質量%)をM、P含有量(質量%)をPとした場合、これらは、下記式(1)を満たす範囲であることが好ましい。
0.54×S−0.50×M+1.93×P≧0.35 …(1)
ss−SO量、MgO含有量及びP含有量がこのような関係を満たすことにより、該クリンカ組成物中のβ−CSの格子体積を容易に347.2Å以上とすることができ、これにより、クリンカ組成物の水和活性が向上し、セメントの流動性を向上するとともに、優れた強度発現性を付与することができる。
S(硫黄)及びP(リン)は、シリケート相に固溶することが知られている。それぞれのイオン半径はS6+:26pm、P5+:31pmであり、Si4+:40pmに比べてかなり小さい。このため、Si4+よりもイオン半径が大きいAl3+を随伴してSi4+を置換し、シリケート相のうち主にCSに固溶し、β−CSの格子体積が増加する。
一方、MgOは、CS中のCaOと置換固溶するため、クリンカ組成物中のCSを相対的に多くすることから、本発明においては負要因となる。
これらから、S、M及びPを任意の値として配合したクリンカ組成物について、β−CSの格子体積とモルタル強さの関係について検討した結果、上記式(1)の式値が所定範囲にある場合に、高い相関関係を有することを見出した。
上記式(1)の(0.54×S−0.50×M+1.93×P)の式値は、強度発現性の観点から、0.35〜0.70であることが好ましく、より好ましくは0.35〜0.66である。
また、クリンカ組成物中のSn含有成分のSn換算量(以下、Sn量と言う。)は、流動性及び強度向上の観点から、40〜250ppmとする。Sn量が40ppm未満の場合、セメント組成物の流動性が混練直後に低下する。また、Sn量が250ppmを超えても、それ以上の強度発現性は認められない。
Sn量は、80〜200ppmであることが好ましく、より好ましくは100〜150ppmである。
Sn含有成分は、錫又は錫化合物として含まれるものであり、錫化合物としては、フッ化錫、塩化錫、酸化錫、硫酸錫又は硝酸錫等が挙げられ、これらの中でも、塩化錫、酸化錫が特に好ましい。
(クリンカ組成物の製造)
クリンカ組成物の原料としては、Ca、Si、Al、Fe、S、Mg、P及びSnを含むものであれば、元素単体や酸化物、炭酸化物等の形態を問わず、また、それらの混合物も用いることができる。天然原料としては、例えば、石灰石、粘土、珪石及び酸化鉄原料等が挙げられ、工業的な原料としては、例えば、上記元素を含む廃棄物原料、高炉スラグ及びフライアッシュ等が挙げられる。これらのクリンカ組成物の原料の混合割合は、特に限定されるものではなく、目的とするクリンカ組成に対応して原料配合を定めることができる。
なお、クリンカ組成物のSO換算量は、硫黄含有化合物に起因するものであり、硫黄含有化合物としては、硫黄を含むものであれば、単体硫黄、硫黄のオキソ酸等の形態を問わず、また、それらの混合物も用いることができる。例えば、硫酸、石油精製過程や非鉄精錬過程、火力発電等において回収された単体硫黄等が挙げられる。
また、MgO含有量は、MgO含有量が多いスラグの原料原単位の調整により、また、P含有量は、廃棄物原料量の調整により、それぞれ調整することができる。
そして、所望のクリンカ組成に対応する配合量で混合された原料を、焼成し、冷却する。焼成は、通常、電気炉やロータリーキルン等を用いて行われる。
焼成方法としては、例えば、クリンカ組成物の原料を、所定の第1焼成温度及び第1焼成時間で加熱して焼成を行う第1焼成工程と、該第1焼成工程後、第1焼成温度から所定の第2焼成温度まで所定の昇温時間をかけて昇温する昇温工程と、該昇温工程後、第2焼成温度及び所定の第2焼成時間で加熱して焼成を行う第2焼成工程と、を含む方法が挙げられる。例えば、電気炉を用いる場合、クリンカ組成物の原料を、1000℃の焼成温度(第1焼成温度)で30分間(第1焼成時間)加熱して焼成した後(第1焼成工程)、1450℃(第2焼成温度)まで30分間(昇温時間)かけて昇温し(昇温工程)、さらに1450℃で15分間(第2焼成時間)加熱して焼成した後(第2焼成工程)、焼成物を急冷することにより、クリンカ組成物を製造することができる。
(セメント組成物)
本発明のセメント組成物は、前記クリンカ組成物に石膏を添加混合することにより製造されるものであり、ボールミル等で粉砕し、モルタルやコンクリート等への使用に供される。
前記クリンカ組成物に添加される石膏は、一般のセメント用のものを用いることができ、主として二水石膏であるが、無水石膏や半水石膏でもよい。石膏原料は、天然石膏、排脱石膏、フッ酸石膏及び燐酸石膏等を使用することができる。
前記セメント組成物における石膏の添加量は、特に限定されるものではなく、通常、セメントを調製する際の配合量でよい。
前記セメント組成物中には、耐久性や耐薬品性等の向上、水和熱の抑制等を目的として、混合材として、高炉水砕スラグ、シリカフューム、フライアッシュ及び石灰石を該セメント組成物に対して5質量%以下添加してもよい。
高炉水砕スラグとしては、塩基度((CaO質量%+MgO質量%+Al質量%)/SiO質量%)が1.70以上、好ましくは1.80以上のものが使用される。また、フライアッシュは、JIS A 6201:1999「コンクリート用フライアッシュ」に規定のI種〜IV種、好ましくはI種又はII種のものが、セメントの水和促進に有効に作用する。
石灰石としては、CaCO量をCaO換算で53質量%以上含有しているものが好ましく、初期強度の向上及び流動性改善に有効である。なお、CaO換算量は、JIS M 8850:1994「石灰石分析方法」に準じて測定した値である。
前記セメント組成物は、水と混合することにより、セメントペーストを製造することができる。また、水及び砂と混合することにより、モルタルが製造され、また、水と、砂及び砂利等の骨材と混合することにより、コンクリートが製造される。
前記セメント組成物を用いてモルタルやコンクリートを製造する際に、混和材として、高炉スラグやフライアッシュ等を添加することもできる。
また、コンクリート等の流動性や強度をより顕著に向上させるために、混和剤として、AE減水剤、高性能減水剤又は高性能AE減水剤を添加することができる。これらの中でも、ポリカルボン酸系、ナフタレンスルホン酸系、アミノスルホン酸系、メラミン系、あるいはこれらのうちの2種以上の複合系のいずれかの高性能AE減水剤を用いることが好ましく、特に、ポリカルボン酸系の高性能AE減水剤が好ましい。
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
(クリンカ組成物の製造)
実施例及び比較例の各クリンカ組成物を、以下のようにして製造した。
クリンカ組成物(試料)の原料として、二酸化珪素(キシダ化学株式会社製、試薬1級、SiO)、酸化鉄(III)(関東化学株式会社製、試薬特級、Fe)、炭酸カルシウム(キシダ化学株式会社製、試薬1級、CaCO)、酸化アルミニウム(関東化学株式会社製、試薬1級、Al)、塩基性炭酸マグネシウム(キシダ化学株式会社製、試薬特級、約4MgCO・Mg(OH)・5HO)、炭酸ナトリウム(キシダ化学株式会社製、無水・特級、NaCO)、リン酸三カルシウム(キシダ化学株式会社製、試薬1級、Ca(PO))、硫酸カルシウム2水和物(キシダ化学株式会社製、試薬1級、CaSO・2HO)、及び酸化錫(IV)(和光純薬製、試薬1級、SnO)を用いた。
各原料の配合量を、製造するクリンカ組成物中の鉱物組成が、下記表1に示す値となるように、ボーグ式を用いて決定した。
代表として、以下に、実施例1についての具体的な製造工程を示す。
[実施例1]
上記原料試薬のうち、炭酸カルシウム109.7g、二酸化珪素26.3g、酸化アルミニウム2.7g、酸化鉄(III)3.3g、塩基性炭酸マグネシウム2.02g、硫酸カルシウム2水和物2.30g、リン酸三カルシウム0.55g、及び酸化錫(IV)0.015gを配合した。
これを、電気炉中で、1000℃で30分間焼成した後、1000℃から1450℃まで30分間かけて昇温し、さらに1450℃で15分間焼成した。そして、大気放冷し、下記表1の実施例1に示す鉱物組成及び化学成分を含むクリンカ組成物を得た。
[実施例2〜10、比較例1〜7]
ボーグ式を用いて決定した各原料配合量に基づいて、実施例1と同様にして、所望のクリンカ組成物を得た。
各クリンカ組成物の少量成分であるss−SO量、MgO含有量、P含有量及びSn量、並びにβ−CSの格子体積を、以下に示す方法により求めた。
(1)ss−SO
まず、クリンカ組成物中のSO量を、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準じて測定した。一方、クリンカ組成物中の水溶性アルカリ硫酸塩のSO換算量を、JCAS I−04−2004「セメントの水溶性成分の分析方法」に準じて、原子吸光分析装置(Z−2000;株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いた測定により求めた。そして、クリンカ組成物中のSO量から水溶性アルカリ硫酸塩のSO換算量を差し引いた値をss−SO量とした。
(2)MgO含有量、P含有量
JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準じて測定した。
(3)Sn量
JCAS I−52−2000「ICP発光分光分析及び電気加熱式原子吸光分析によるセメント中の微量成分の定量方法」に準じて測定した。
(4)β−CSの格子体積
以下の測定条件にて粉末X線回折測定を行い、得られたX線回折プロファイルをリートベルト解析ソフトで解析し、β−CSの格子体積を求めた。
粉末X線回折装置:粉末解析用X線回折装置 X’Part Powder(パナリ
ティカル社製)
結晶構造解析用ソフトウエア:(X’Part High Score Plus
version 2.1b)
X線管球 :Cu
管電圧−管電流 :45kV−40mA
測定範囲(2θ):10〜70°
ステップ幅 :0.017°
スキャン速度 :0.1012°/秒
なお、解析で使用した各クリンカ鉱物の結晶構造データは以下のとおりである。
S :単斜晶系(空間群C1m1) (参考文献1)
S :単斜晶系(空間群P21/n)(参考文献2)
A(立方晶):立方晶系(空間群P23) (参考文献3)
A(斜方晶):斜方晶系(空間群Pbca) (参考文献3)
AF :斜方晶系(空間群Ima2) (参考文献4)
各参考文献を以下に示す。
参考文献1:F.Nishi and Y.Takeuchi, Tricalcium silicate Ca3O[SiO4]: The monoclinic Superstructure, Zeitschrift fur Krystallographie, vol.172, pp.297-314(1985)
参考文献2:Mumme, W.Hill, R.Bushnell-Wye, G.Segnit, E.Neues Jahrb.Mineral.,Abh., vol.169, p.35(1995)
参考文献3:Y.Takeuchi and F.Nishi, Crystal-chemical Characterization of the 3CaO-Al2O3-Na2O Solid Solution Series, Zeitschrift fur Kristallographie, vol.152, pp,259-307(1980)
参考文献4:A.A.Colville and S.Geller, The Crystal Structute of Brownmillerite, Ca2FeAlO5, Acta Crystallographica, vol.B27, p.2311(1971)
また、上記により求めたss−SO量、MgO含有量及びP含有量の値を用いて、上記式(1)に示した(0.54×S−0.50×M+1.93×P)の値を算出し、これを式値とした。
これらの測定値及び算出値を表1にまとめて示す。また、式値とβ−CSの格子体積との関係をグラフにして図1に示した。
(セメント組成物の製造)
上記で製造した各クリンカ組成物に対して、半水石膏を内割でSO換算量1.5質量%添加し、粉末度が3200〜3450cm/gの範囲となるようにボールミルで混合粉砕し、下記表1に示すような粉末度の各セメント組成物を製造した。なお、粉末度は、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に準じて測定したブレーン比表面積で示す。
(セメント組成物の評価)
上記で製造した各セメント組成物を用いて、以下に示すような方法により、モルタル圧縮強さ及びコンクリートスランプフローの測定を行った。これらの測定結果を表1にまとめて示す。
(1)モルタル圧縮強さ
JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」の「10.強さ試験」に準じて、モルタル供試体を作製し、材齢28日の供試体について圧縮強さを測定した。
(2)コンクリートスランプフロー
上記で製造した各セメント組成物を用いて、セメント組成物710kg/m、水174kg/m(水セメント比24.5%)、細骨材(揖斐川産川砂)696kg/m、及び粗骨材(西島産砕石)840kg/mに、混和剤として高性能AE減水剤(レオビルドSP8SB;MASTER BUILDERS ポゾリス製)をセメント組成物に対して1.3%添加し、これらの材料を混練し、コンクリートを製造した。
製造したコンクリートについて、JIS A 1150:2007「コンクリートのスランプフロー試験方法」に準じて、混練から5分後のスランプフローを測定した。
Figure 0005924435
また、β−CSの格子体積と上記により求めたモルタル圧縮強さとの関係をグラフにして図2に示した。
図1のグラフに示したように、式値とβ−CSの格子体積には、高い相関関係があり、式値が0.35以上である場合に、β−CSの格子体積が347.2Å以上となることが認められた。また、図2のグラフに示したように、β−CSの格子体積の増加に伴い、モルタル圧縮強さも増加することが認められた。
表1に示したように、実施例1〜10は、モルタル圧縮強さが目標値である54N/mm以上であり、また、流動性の指標であるコンクリートスランプフローが目標値である460mm以上であり、強度及び流動性ともに良好であることが認められた。
一方、式値が0.35以上であっても、Sn量が40ppm未満である場合(比較例1)は、強度は十分であったものの、流動性に劣っていた。Sn量が40ppm未満である場合(比較例1,4,5)は、流動性に劣ることが認められた。また、式値が0.35未満である場合(比較例2〜7)、強度が不十分であった。

Claims (2)

  1. 2CaO・SiOを50〜70質量%と、3CaO・Al及び4CaO・Al・Feを合計で11〜14質量%と、固相に固溶しているSOを0.33〜1.09質量%と、MgOを0.55〜1.10質量%と、Pを0.09〜0.26質量%と、Sn含有成分をSn換算で40〜250ppm含み、
    前記2CaO・SiOのうちのβ−2CaO・SiOの格子体積が347.2Å以上であり、
    下記式(1)の関係を満たす、クリンカ組成物。
    0.54×S−0.50×M+1.93×P≧0.35 …(1)
    (式(1)において、S:クリンカ組成物の固相に固溶しているSO 量(質量%)、M:クリンカ組成物中のMgO含有量(質量%)、P:クリンカ組成物中のP 含有量(質量%)である。)
  2. 請求項に記載のクリンカ組成物と、石膏とを含む、セメント組成物。
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