以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るツインクラッチ式自動変速機の変速制御装置が適用された自動二輪車10の左側面図である。図2は、自動二輪車10の動力源としてのエンジン100の右側面図である。自動二輪車10の車体フレーム14は、左右一対のメインパイプ36を有し、メインパイプ36の車体前方側にはヘッドパイプ15が設けられている。前輪WFを回転自在に軸支すると共に操向ハンドル18を支持する左右一対のフロントフォーク17は、このヘッドパイプ15に対して回動可能に支持されている。
メインパイプ36の下方に懸架されるエンジン100は、所定の挟み角をなして前後シリンダを配置したV型4気筒式とされる。シリンダブロック40内を摺動するピストン41や動弁機構等は、4つの気筒において同様の構成を有している。クランクケース46には、ピストン41を支持するコンロッド41a(図2参照)を回転自在に軸支するクランク軸105、変速機を構成する複数の歯車対が取り付けられた主軸(メインシャフト)13およびカウンタ軸(カウンタシャフト)9が収納されている。
前後シリンダブロックの間には、燃料タンク19の下部に配設されたエアクリーナボックスを通過した新気を各気筒の吸気ポートに導入するエアファンネル42が配置されている。各エアファンネル42には、それぞれ燃料噴射弁が取り付けられている。シート53の下方には、排気管59によって車体後方に導かれた燃焼ガスを排出するマフラ54が配設されている。
メインパイプ36の後方下部には、ショックユニット37によって吊り下げられると共に後輪WRを回転自在に軸支するスイングアーム38が揺動自在に軸支されている。スイングアーム38の内部には、カウンタ軸9から出力されるエンジン100の回転駆動力を後輪WRに伝達するドライブシャフト58が配設されている。後輪WRの車軸近傍には、後輪WRの回転速度を検知する車速センサSEVが設けられている。
操向ハンドル18の車幅方向左側には、エンジン100と後輪WRとの間の駆動力伝達を断接するためのクラッチ手動操作手段としてのクラッチレバーLが取り付けられており、車幅方向左側の足乗せステップの近傍には、変速機TMのシフトチェンジを行うシフト手動手段としてのシフトペダルPが取り付けられている。
図2を参照して、エンジン100を構成する前側バンクBFおよび後側バンクBRは、シリンダブロック40の上側に取り付けられて動弁機構を収納するシリンダヘッド44と、該シリンダヘッド44の上端を覆うヘッドカバー45とからなる。ピストン41は、シリンダブロック40に形成されたシリンダ43の内周部を摺動動作する。クランクケース46は、シリンダブロック40と一体成型された上側ケース半体46aと、オイルパン47が取り付けられる下側ケース半体46bとから構成されている。
冷却水を圧送するためのウォータポンプ49は、主軸13に形成されたスプロケット13aに巻き掛けられた無端状のチェーン48によって回転駆動される。クランクケース46の車幅方向右側の側面には、クラッチカバー50が取り付けられている。
本実施形態に係るエンジン100は、変速機との間で回転駆動力の断接を行う油圧クラッチに、第1クラッチおよび第2クラッチからなるツインクラッチ式を適用している。ツインクラッチに供給する油圧はアクチュエータで制御可能とされ、エンジン100の右側部には、両クラッチを制御するアクチュエータとしての第1バルブ107aおよび第2バルブ107bが取り付けられている。ツインクラッチTCLは、エンジン回転数や車速等に応じた自動制御およびクラッチレバーLの操作による乗員の駆動指令の組み合わせによって断接駆動される。
図3は、自動変速機としての自動マニュアル変速機(以下、AMT)1およびその周辺装置のシステム構成図である。AMT1は、主軸(メインシャフト)上に配設された2つのクラッチによってエンジンの回転駆動力を断接するツインクラッチ式自動変速装置である。クランクケース46に収納されるAMT1は、クラッチ用油圧装置110およびAMT制御ユニット120によって駆動制御される。AMT制御ユニット120には、第1バルブ107aおよび第2バルブ107bからなるクラッチアクチュエータとしてのバルブ107を駆動制御するクラッチ制御手段が含まれる。また、エンジン100は、スロットルバルブを開閉するスロットルバルブモータ104が備えられたスロットル・バイ・ワイヤ形式のスロットルボディ102を有している。
AMT1は、前進6段の変速機TM、第1クラッチCL1および第2クラッチCL2からなるツインクラッチTCL、シフトドラム30、該シフトドラム30を回動させるシフトモータ(シフトアクチュエータ)21を備えている。シフトモータ21は、エンジン回転数や車速等に応じた自動制御およびシフトペダルPの操作による乗員の駆動指令の組み合わせによって回動駆動される。
変速機TMを構成する多数のギヤは、主軸13およびカウンタ軸9にそれぞれ結合または遊嵌されている。主軸13は、内主軸7と外主軸6とからなり、内主軸7は第1クラッチCL1と結合され、外主軸6は第2クラッチCL2と結合されている。主軸13およびカウンタ軸9には、それぞれ主軸13およびカウンタ軸9の軸方向に変位自在な変速ギヤが設けられており、これら変速ギヤおよびシフトドラム30に形成された複数のガイド溝に、それぞれシフトフォーク71,72,81,82の端部が係合されている。
エンジン100のクランク軸105には、プライマリ駆動ギヤ106が結合されており、このプライマリ駆動ギヤ106はプライマリ従動ギヤ3に噛み合わされている。プライマリ従動ギヤ3は、第1クラッチCL1を介して内主軸7に連結されると共に、第2クラッチCL2を介して外主軸6に連結される。また、AMT1は、カウンタ軸9上の所定の変速ギヤの回転速度を計測することで、内主軸7および外主軸6の回転速度をそれぞれ検知する内主軸回転数(回転速度)センサ131および外主軸回転数(回転速度)センサ132を備えている。
内主軸回転数センサ131は、内主軸7に回転不能に取り付けられた変速ギヤに噛合されると共に、カウンタ軸9に対して回転自在かつ摺動不能に取り付けられた被動側の変速ギヤC3の回転速度を検知する。また、外主軸回転数センサ132は、外主軸6に回転不能に取り付けられた変速ギヤに噛合されると共に、カウンタ軸9に対して回転自在かつ摺動不能に取り付けられた被動側の変速ギヤC4の回転速度を検知する。
カウンタ軸9の端部には傘歯車56が結合されており、この傘歯車56が、ドライブシャフト58に結合されている傘歯車57と噛合することで、カウンタ軸9の回転駆動力が後輪WRに伝達される。また、AMT1内には、プライマリ従動ギヤ3の外周に対向配置されたエンジン回転数センサ130と、シフトドラム30の回動位置に基づいて変速機TMのギヤ段位を検知するギヤポジションセンサ134と、シフトモータ21によって駆動されるシフタの回動位置を検知するシフタセンサ27と、シフトドラム30がニュートラル位置にあることを検知するニュートラルスイッチ133が設けられている。スロットルボディ102には、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ103が設けられている。
クラッチ用油圧装置110は、エンジン100の潤滑油と、ツインクラッチを駆動する作動油とを兼用する構成を有している。クラッチ用油圧装置110は、オイルタンク114と、このオイルタンク114内のオイル(作動油)を第1クラッチCL1および第2クラッチCL2に給送するための管路108とを備えている。管路108上には、油圧供給源としての油圧ポンプ109、クラッチアクチュエータとしてのバルブ(電磁制御弁)107が設けられており、管路108に連結される戻り管路112上には、バルブ107に供給する油圧を一定値に保つためのレギュレータ111が配置されている。バルブ107は、第1クラッチCL1および第2クラッチCL2に個別に油圧をかけることができる第1バルブ107aおよび第2バルブ107bとからなり、それぞれにオイルの戻り管路113が設けられている。
第1バルブ107aと第1クラッチCL1とを連結している管路には、この管路に生じる油圧、すなわち、第1クラッチCL1に生じる油圧を計測する第1油圧センサ63が設けられている。同様に、第2バルブ107bと第2クラッチCL2とを連結している管路には、第2クラッチCL2に生じる油圧を計測する第2油圧センサ64が設けられている。さらに、油圧ポンプ109とバルブ107とを連結する管路108には、主油圧センサ65および油温検知手段としての油温センサ66が設けられている。
AMT制御ユニット120には、変速機TMの自動変速(AT)モードと手動変速(MT)モードとの切り換えを行う変速モード切替スイッチ116と、シフトアップ(UP)またはシフトダウン(DN)の変速指示を行うシフト手動手段としてのシフトスイッチ115と、ニュートラル(N)とドライブ(D)との切り替えを行うニュートラルセレクトスイッチ117と、クラッチ操作の制御モードを切り替えるクラッチ制御モード切替スイッチ118とが接続されている。クラッチ制御モード切替スイッチ118は、押している間のみオフ→オンとなる押圧式スイッチであり、所定の条件下において、クラッチ制御を自動的に行うAutoモードとクラッチレバーLの操作に応じてクラッチを駆動するManualモードとの切り替えを任意に行うことができる。各スイッチは、操向ハンドル18のハンドルスイッチに設けられている。
なお、シフトペダルPは、シフトドラム30との機械的な接続はなく、シフトスイッチ115と同様にAMT制御ユニット120に対して変速要求信号を発信するスイッチとして機能する。また、クラッチレバーPは、ツインクラッチとの機械的な接続はなく、AMT制御ユニット120にクラッチ作動要求信号を発信するスイッチとして機能する。
AMT制御ユニット120は、中央演算処理装置(CPU)を備え、上記した各センサやスイッチの出力信号に応じてバルブ(クラッチアクチュエータ)107およびシフトモータ(シフトアクチュエータ)21を制御し、AMT1の変速段位を自動的または半自動的に切り換える。ATモードの選択時には、車速、エンジン回転数、スロットル開度等の情報に応じて変速段位を自動的に切り換え、一方、MTモードの選択時には、シフトスイッチ115またはシフトペダルPの操作に応じて、変速機TMをシフトアップまたはシフトダウンさせる。なお、MTモード選択時でも、エンジンの過回転やストール等を防止するための補助的な自動変速制御が実行可能に構成されている。
クラッチ用油圧装置110においては、油圧ポンプ109によってバルブ107に油圧が印加されており、この油圧が上限値を超えないようにレギュレータ111で制御されている。AMT制御ユニット120からの指示でバルブ107が開かれると、第1クラッチCL1または第2クラッチCL2に油圧が印加されて、プライマリ従動ギヤ3が、第1クラッチCL1または第2クラッチCL2を介して内主軸7または外主軸6と連結される。すなわち、第1クラッチCL1および第2クラッチCL2は、共にノーマリオープン式の油圧クラッチであり、バルブ107が閉じられて油圧の印加が停止されると、内蔵されている戻りバネ(不図示)によって、内主軸7および外主軸6との連結を断つ方向へ付勢されることとなる。
管路108と両クラッチとを連結する管路を開閉することで両クラッチを駆動するバルブ107は、AMT制御ユニット120が駆動信号を調整することで、管路の全閉状態から全開状態に至るまでの時間等を任意に変更できるように構成されている。
シフトモータ21は、AMT制御ユニット120からの指示に従ってシフトドラム30を回動させる。シフトドラム30が回動すると、シフトドラム30の外周に形成されたガイド溝の形状に従ってシフトフォーク71,72,81,82がシフトドラム30の軸方向に変位し、これに伴ってカウンタ軸9および主軸13上のギヤの噛み合わせが変わる。
本実施形態に係るAMT1では、第1クラッチCL1と結合される内主軸7が奇数段ギヤ(1,3,5速)を支持し、第2クラッチCL2と結合される外主軸6が偶数段ギヤ(2,4,6速)を支持するように構成されている。したがって、例えば、奇数段ギヤで走行している間は、第1クラッチCL1への油圧供給が継続されて接続状態が保たれている。そして、シフトチェンジの際には、シフトチェンジ前後の変速ギヤが噛み合った状態でクラッチの持ち替え動作を行うことで、駆動力を伝達する変速ギヤが切り替わることとなる。
図4は、変速機TMの拡大断面図である。前記と同一符号は同一または同等部分を示す。エンジン100のクランク軸105から、プライマリ駆動ギヤ106を介して、衝撃吸収機構5を有するプライマリ従動ギヤ3に伝達される回転駆動力は、ツインクラッチTCLから、外主軸6および外主軸6に回動自在に軸支される内主軸7、そして、主軸(外主軸6および内主軸7)13とカウンタ軸9との間に設けられる6対の歯車対を介して、傘歯車56が取り付けられたカウンタ軸9に出力される。傘歯車56に伝達された回転駆動力は、傘歯車57と噛合されることでその回転方向が車体後方側に屈曲されてドライブシャフト58に伝達される。
変速機TMは、主軸およびカウンタ軸の間に6対の変速歯車対を有しており、各軸の軸方向に摺動可能に取り付けられた摺動可能ギヤの位置と、第1クラッチCL1および第2クラッチCL2の断接状態との組み合わせによって、どの歯車対を介して回転駆動力を出力するかを選択することができる。ツインクラッチTCLは、プライマリ従動ギヤ3と一体的に回動するクラッチケース4の内部に配設されている。第1クラッチCL1は、内主軸7に回転不能に取り付けられ、他方、第2クラッチCL2は、外主軸6に回転不能に取り付けられており、クラッチケース4と両クラッチとの間には、クラッチケース4に回転不能に支持された4枚の駆動摩擦板と、両クラッチに回転不能に支持された4枚の被動摩擦板とからなるクラッチ板12が配設されている。
第1クラッチCL1および第2クラッチCL2は、油圧ポンプ109(図3参照)からの油圧が供給されると、クラッチ板12に摩擦力を生じて接続状態に切り替わるように構成されている。クランクケース46に取り付けられるクラッチカバー50の壁面には、内主軸7の内部に二重管状の2本の油圧経路を形成する分配器8が埋設されている。そして、第1バルブ107aによって分配器8に油圧が供給され、内主軸7に形成された油路A1に油圧が供給されると、ばね等の弾性部材11の弾発力に抗してピストンB1が図示左方に摺動して第1クラッチCL1が接続状態に切り替わる。一方、油路A2に油圧が供給されると、ピストンB2が図示左方に摺動して第2クラッチCL2が接続状態に切り替わる。両クラッチCL1,CL2のピストンB1,B2は、油圧が印加されなくなると、弾性部材11の弾発力によって初期位置に戻るように構成されている。
上記したような構成により、プライマリ従動ギヤ3の回転駆動力は、第1クラッチCL1または第2クラッチCL2に油圧が供給されない限りクラッチケース4を回転させるのみであるが、油圧が供給されることにより、外主軸6または内主軸7をクラッチケース4と一体的に回転駆動させることとなる。この時、供給油圧の大きさを調整することによって、任意の半クラッチ状態を得ることができる。
第1クラッチCL1に接続される内主軸7は、奇数変速段(1,3,5速)の駆動ギヤM1,M3,M5を支持している。第1速駆動ギヤM1は、内主軸7に一体的に形成されている。第3速駆動ギヤM3は、スプライン噛合によって軸方向に摺動可能かつ周方向に回転不能に取り付けられており、第5速駆動ギヤM5は、軸方向に摺動不能かつ周方向に回転可能に取り付けられている。
一方、第2クラッチCL2に接続される外主軸6は、偶数変速段(2,4,6速)の駆動ギヤM2,M4,M6を支持している。第2速駆動ギヤM2は、外主軸6に一体的に形成されている。第4速駆動ギヤM4は、スプライン噛合によって軸方向に摺動可能かつ周方向に回転不能に取り付けられており、第6速駆動ギヤM6は、軸方向に摺動不能かつ周方向に回転可能に取り付けられている。
また、カウンタ軸9は、駆動ギヤM1〜M6に噛合する被動ギヤC1〜C6を支持している。第1〜4速の被動ギヤC1〜C4は、軸方向に摺動不能かつ周方向に回転可能に取り付けられており、第5,6速の被動ギヤC5,C6は、軸方向に摺動可能かつ周方向に回転不能に取り付けられている。
上記した歯車列のうち、駆動ギヤM3,M4および被動ギヤC5,C6、すなわち軸方向に摺動可能な「摺動可能ギヤ」は、後述するシフトフォークの動作に伴って摺動されるように構成されており、各摺動可能ギヤには、それぞれ、シフトフォークの爪部が係合する係合溝51,52,61,62が形成されている。なお、前記したように、内主軸回転数センサ131(図3参照)は第3速被動ギヤC3の回転速度を検知し、内主軸回転数センサ132は第4速被動ギヤC4の回転速度を検知するものである。
また、上記した摺動可能ギヤ以外の変速ギヤ(駆動ギヤM1,M2,M5,M6および被動ギヤC1〜C4)、すなわち、軸方向に摺動不能な「摺動不能ギヤ」は、隣接する摺動可能ギヤとの間で回転駆動力の断接を行うように構成されている。上記した構成により、本実施形態に係るツインクラッチ式変速装置1は、摺動可能ギヤの位置および両クラッチCL1,CL2の断接状態の組み合わせによって、回転駆動力を伝達する1つの歯車対を任意に選択することを可能とする。
本実施形態では、摺動可能ギヤと摺動不能ギヤとの間における回転駆動力の伝達にドグクラッチ機構を適用している。ドグクラッチ機構は、ドグ歯とドグ孔とからなる凹凸形状が噛み合うことで、ロスの少ない回転駆動力伝達を可能とするものである。本実施形態では、例えば、第6速被動ギヤC6に形成された4本のドグ歯55が、第2速被動ギヤC2に形成された4つのドグ孔35に噛み合うように構成されている。
図5は、変速機構20の拡大断面図である。また、図6はシフトドラム30のガイド溝の形状を示す展開図である。変速機構20は、前記した4つの摺動可能ギヤを駆動するため、2本のガイド軸31,32に摺動可能に取り付けられた4つのシフトフォーク71,72,81,82を備える。4つのシフトフォークには、摺動可能ギヤと係合するガイド爪(71a,72a,81a,82a)と、シフトドラム30に形成されたガイド溝と係合する円筒凸部(71b,72b,81b,82b)とが設けられている。
ガイド軸31には、第3速駆動ギヤM3に係合するシフトフォーク71と、第4速駆動ギヤM4に係合するシフトフォーク72とが取り付けられている。また、他方側のガイド軸32には、第5速被動ギヤC5に係合するシフトフォーク81と、第6速被動ギヤC6に係合するシフトフォーク82とが取り付けられている。
ガイド軸31,32と平行に配設されるシフトドラム30の表面には、主軸側のシフトフォーク71,72が係合するガイド溝SM1,SM2と、カウンタ軸側のシフトフォーク81,82が係合するガイド溝SC1,SC2が形成されている。これにより、摺動可能ギヤM3,M4,C5,C6は、シフトドラム30の回動動作に伴って、4本のガイド溝の形状に沿って駆動される。
シフトドラム30は、シフトモータ21によって所定の位置に回転駆動される。シフトモータ21の回転駆動力は、回転軸22に固定された第1ギヤ23、該第1ギヤ23に噛合する第2ギヤ24を介して、中空円筒状のシフトドラム30を支持するシフトドラム軸29に伝達される。シフトドラム軸29は、ロストモーション機構4を介してシフトドラム30に連結されている。
ロストモーション機構4は、シフトドラム軸29とシフトドラム30とをねじりコイルばね5を介して連結することで、例えば、ドグクラッチが噛み合わずにシフトドラム30が予定通りに回動できない場合でも、シフトモータ21の動きをねじりコイルばね5で一時的に吸収して、シフトモータ21に過剰な負荷が発生しないようにする機構である。
ロストモーション機構4は、シフトドラム軸29の端部に取り付けられた駆動ロータ7と、シフトドラム30の端部に取り付けられた従動ロータ6と、駆動ロータ7と従動ロータ6とを連結するねじりコイルばね5とから構成されている。これにより、シフトモータ21の動きが一時的に吸収された状態でシフトドラム30が回動可能な状態になると、ねじりコイルばね5の弾発力によってシフトドラム30が所定位置まで回動する。
ギヤポジションセンサ134(図3参照)は、シフトドラム30の実際の回転角度を検知するため、シフトドラム30または従動ロータ6の回転角度を検知するように配設されている。シフタセンサ27は、シフトドラム軸29に固定されたシフタ25に埋設されたピン26で回動されるカム28の位置に基づいて、シフトモータ21の所定位置にあるか否かを検知することができる。
図6の展開図を参照して、シフトドラム30の回動位置と4本のシフトフォークとの位置関係について説明する。ガイド軸31,32は、シフトドラム30の回転軸を基準として周方向に約90°離れた位置に配設されている。例えば、シフトドラム30の回動位置がニュートラル(N)にある場合、シフトフォーク81,82が図示左方の表示「C N−N」の位置にあるのに対し、シフトフォーク71,72は図示右方の表示「M N−N」の位置にある。
この図では、ニュートラル時の各シフトフォークの円筒凸部(71b,72b,81b,82b)の位置を破線円で示している。また、図示左方の表示「C N−N」から以下に続く所定回動位置および図示右方の表示「M N−N」から以下に続く所定回動位置は、それぞれ30度間隔で設けられている。なお、この図では、所定回動角度のうち、後述する「ニュートラル待ち(N待ち)」位置を四角で囲って示している。
各ガイド溝によって決定されるシフトフォークの摺動位置は、主軸側のガイド溝SM1,SM2が、「左位置」または「右位置」の2ポジションであるのに対し、カウンタ軸側のガイド溝SC1,SC2では、「左位置」または「中位置」または「右位置」の3ポジションを有するように構成されている。
シフトドラム30がニュートラル位置にある時の各シフトフォークは、それぞれ、シフトフォーク81:中位置、シフトフォーク82:中位置、シフトフォーク71:右位置、シフトフォーク72:左位置にある。これは、各シフトフォークで駆動される4つの摺動可能ギヤが、隣接する摺動不能ギヤといずれも噛合していない状態である。したがって、第1クラッチCL1または第2クラッチCL2が接続されても、プライマリ従動ギヤ3の回転駆動力がカウンタ軸9に伝達されることはない。
次に、上記したニュートラル位置から、シフトドラム30を1速ギヤに対応する位置(「C 1−N」および「M 1−N」)に回動させると、シフトフォーク81が中位置から左位置に切り替わることで、第5速被動ギヤC5が中位置から左位置に切り替わる。これにより、第5速被動ギヤC5が、第1速被動ギヤC1とドグクラッチで噛合して、回転駆動力を伝達できる状態となる。この状態において、第1クラッチCL1を接続状態に切り換えると、内主軸7→第1速駆動ギヤM1→第1速被動ギヤC1→第5速被動ギヤC5→カウンタ軸9、の順に回転駆動力が伝達されることとなる。
そして、1速ギヤへの変速完了後、2速への変速指令が入力されると、シフトドラム30が30度だけシフトアップ方向に自動的に回動される。この回動動作は、2速への変速指令が出された際に、ツインクラッチTCLの接続状態の切り換えのみで変速を完了させるための「アップ側予備変速」と呼ぶものである。このアップ側予備変速により、2本のガイド軸は、図示左右の表示「C 1−2」および「M 1−2」の位置に移動する。
このアップ側予備変速に伴うガイド溝の変化は、ガイド溝SC2が中位置から右位置に切り替わるのみであり、これにより、シフトフォーク82が右位置に移動して、第6速被動ギヤC6が第2速被動ギヤC2とドグクラッチで噛合する。このアップ側予備変速が完了した時点では、第2クラッチCL2は遮断状態にあるので、外主軸6は、内主軸7との間に満たされた潤滑油の粘性によって従動的に回転されることとなる。
上記したアップ側予備変速によって、2速ギヤを介して回転駆動力を伝達する準備が整う。この状態で2速への変速指令が出されると、第1クラッチCL1が遮断されると共に第2クラッチCL2が接続状態に切り換えられる。このクラッチの持ち替え動作により、回転駆動力が途切れることなく、直ちに2速ギヤへの変速動作が完了する。
続いて、1速から2速への変速動作完了後、3速への変速指令が入力されると、2速から3速への変速動作をクラッチの持ち替えのみで完了させるためのアップ側予備変速が実行される。この2速から3速へのアップ側予備変速では、カウンタ軸側のガイド軸が、図示左側の表示「C 1−2」から「C 3−2」の位置に移動すると共に、主軸側のガイド軸が、図示右側の表示「M 1−2」から「M 3−2」の位置に移動する。これに伴うガイド溝の変化は、ガイド溝SC1が左位置から右位置に切り替わるのみであり、これにより、シフトフォーク81が左位置から右位置に移動して、第5速被動ギヤC5と第3速被動ギヤC3とがドグクラッチで噛合する。
2速から3速へのアップ側予備変速が完了すると、ツインクラッチTCLの接続状態を第2クラッチCL1から第1クラッチCL2に切り換える動作、すなわち、クラッチの持ち替え動作を行うのみで2速から3速への変速動作が完了する状態となる。このアップ側予備変速は、以降、5速ギヤの選択時まで同様に実行される。
上記した2速から3速へのアップ側予備変速時において、ガイド溝SC1は、図示左側の表示「C N−2」で中位置、すなわち、ドグクラッチによる噛合が行われない位置を通過する。シフトドラム30は、ギヤポジションセンサ134でその回動位置が検知され、シフトモータ21によってその回動速度を微調整することができる。これにより、例えば、図示左側の表示「C 1−2」から「C N−2」までの回動速度、すなわち、被動ギヤC1,C5間でドグクラッチの噛合状態を解除する際の速度と、「C N−2」から「C 3−2」までの回動速度、すなわち、被動ギヤC5,C3間でドグクラッチを噛合させる際の速度とを異ならせたり、また、「C N−2」の位置で所定時間停止する「ニュートラル待ち」を行うことが可能である。上記したようなAMT1の構成によれば、例えば、2速ギヤで走行中には、シフトドラム30の回動位置を「1−2」、「N−2」、「3−2」の間で任意に変更することができる。
この「ニュートラル待ち」の位置で一時停止させるニュートラル待ち制御を所定のタイミングで実行すると、ドグクラッチの断接時に生じやすい変速ショックを低減することが可能となる。なお、シフトドラム30の駆動タイミングや駆動速度は、変速時の変速段数やエンジン回転数等に応じても適宜調整することができる。
なお、シフトドラム30が「ニュートラル待ち」の位置にあるときは、奇数段側または偶数段側の1つの変速ギヤ対がニュートラル状態にある。例えば、前記した「C N−2」の位置では、被動ギヤC2,C6間のドグクラッチが噛合している一方、被動ギヤC5は、被動ギヤC1,C3のいずれにも噛み合わないニュートラル状態にある。したがって、この時に、第1クラッチCL1が接続状態に切り換えられたとしても、内主軸7が回転させられるだけで、カウンタ軸9への回転駆動力の伝達に影響は生じない。
図7は、シフトドラム30によって規定されるシフトポジションの一覧である。シフトドラム30は、1回のシフト送り動作で、例えば、N−Nから1−Nへと1段階ずつ変化する。奇数段側および偶数段側のいずれも、各ギヤ段の間に「N」で表示されるニュートラル待ち位置を有しており、例えば、「1−N」では、奇数段側ギヤが1速接続可能状態であるのに対し、偶数段側ギヤはクラッチを接続しても駆動力が伝達されないニュートラル状態となっている。これに対し、「1−2」等のニュートラル待ちのないポジションでは、第1クラッチCL1または第2クラッチCL2のいずれか一方を接続して駆動力伝達が行われる。
図8は、クラッチレバーLの操作量とクラッチ操作量センサSELの出力信号との関係を示すグラフである。操向ハンドル18に取り付けられるクラッチレバーL(図1参照)は、操作がされることなく開放されたクラッチ接続状態から、乗員の握り込む量に応じてクラッチを切断側に駆動するためのクラッチ手動操作手段であり、乗員が手を離すと初期位置に戻るように構成されている。
クラッチ操作量センサSELは、クラッチレバーLを完全に握り込んだ状態をゼロとし、レバーのリリースに応じて出力電圧(vcltlevin)が増大するように設定されている。本実施形態では、この出力電圧のうち、握り始めに存在するレバー遊び分と、握り込んだレバーがゴム等で形成されるハンドルグリップに当接することを考慮した突き当て余裕分とを除いた範囲を、有効電圧の範囲に設定している。
より詳しくは、レバーの握り込み状態から突き当て余裕分が終わるまでリリースした操作量S1から、レバー遊び分が始まる操作量S2までの間を、有効電圧の下限値E1〜上限値ES2の範囲に対応するように設定し、この下限値E1〜上限値E2の範囲を、マニュアル操作クラッチ容量演算値(tqcltmt)のゼロ〜MAXの範囲に比例関係で対応させている。これにより、機械的ガタやセンサばらつき等の影響を低減し、手動操作によって要求されるクラッチ駆動量の信頼性を高めることができる。
図9は、AMT制御ユニット120の構成を示すブロック図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。AMT制御ユニット120の変速制御部180には、自動変速モードAT、手動変速モードMT、変速マップM、目標ギヤポジション判定部181、停車時クラッチオフ/発進要求判定部182、マニュアル操作クラッチ判定部183、Auto時接続側クラッチ判定部184、マニュアル操作クラッチ容量演算部185、クラッチ制御モード判定部186、シフトモータ駆動出力演算部187およびクラッチ容量出力値演算部188が含まれる。
また、変速制御部180には、クラッチレバーLの操作量を検知するクラッチレバー操作量センサSEL、ギヤポジションセンサ134、エンジン回転数センサ130、スロットル開度センサ103、車速センサSEV、変速モード切替SW(スイッチ)116、クラッチ制御モード切替SW(スイッチ)118、シフトペダルPの操作量を検知するシフトペダル操作量センサSEP、シフトSW(スイッチ)115、主油圧センサ65、第1油圧センサ63、第2油圧センサ64、第3油圧センサ66からの各出力信号が入力される。
変速制御部180は、クラッチ制御モードおよび変速モードを共に自動制御としたときには、主に、エンジン回転数センサ130、スロットル開度センサ103、ギヤポジションセンサ134および車速センサSEVの出力信号に基づき、3次元マップ等からなる変速マップMに従って、シフトアクチュエータ制御部190およびクラッチアクチュエータ制御部191に駆動信号を伝達する。
一方、本実施形態に係るAMT制御ユニット120は、手動操作手段としてのクラッチレバーLの操作、シフトスイッチ115またはシフトペダルPの操作に応じて、ツインクラッチTCLおよびシフトドラム30を駆動するマニュアル操作を実行可能に構成されている。このマニュアル操作は、変速モード切替スイッチ116およびクラッチ制御モード切替スイッチ118によってマニュアルモードが選択されている場合のほか、自動制御中に手動操作手段が操作された場合には手動操作手段の操作を優先させることも可能とされる。なお、AMT制御ユニット120は、スロットルバルブモータ104および燃料噴射装置の制御も行っており、例えば、シフトダウン時にエンジン回転数を合わせるための自動ブリッピング(空ぶかし)制御等も実行する。
図10は、シフトモータ駆動出力値およびクラッチ容量出力値の演算手順を示すブロック図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。シフトモータ駆動出力値およびクラッチ容量出力値は、前記変速制御部180内のシフトモータ駆動出力値演算部187およびクラッチ容量出力値演算部188によってそれぞれ演算されて、シフトアクチュエータ制御部190およびクラッチアクチュエータ制御部191に伝達される。
シフトドラム30の回動方向および回動量を決定するシフトモータ駆動出力値は、シフトモータ駆動出力値演算部187によって算出される。シフトモータ駆動出力値演算部187は、現在のギヤポジション(gearpos)と目標ギヤポジション(gptgt)とに差異が生じた場合に、現在のギヤポジションが目標ギヤポジションに合致するようにシフトモータ駆動出力値を算出する。
目標ギヤポジション(gptgt)は、自動変速制御による変速マップMに基づいた変速要求およびマニュアル操作(シフトペダルまたはシフトスイッチ操作)による変速要求に応じて、目標ギヤポジション判定部181によって導出される。また、現在のギヤポジション(gearpos)は、ギヤポジションセンサ134によって12段階の信号として検知される(図7参照)。
一方、クラッチ容量出力値演算部188は、マニュアル操作クラッチ判定値(cntcltmt)と、Auto時接続クラッチ判定値(cltcont)と、クラッチ制御モード(cltmode)と、マニュアル操作クラッチ容量演算値(tqcltmt)と、自動発進・変速制御に必要な情報(車速、スロットル開度、エンジン回転数/エンジントルク推定値等)とに基づいて、奇数段クラッチ(第1クラッチCL1)の駆動量を決定する奇数段クラッチ容量出力値(tqc1)および偶数段クラッチ(第2クラッチCL2)の駆動量を決定する偶数段クラッチ容量出力値(tqc2)をそれぞれ演算する。
マニュアル操作クラッチ判定部183で導出されるマニュアル操作クラッチ判定値(cntcltmt)は、第1クラッチCL1および第2クラッチCL2のどちらをクラッチレバーLの操作に応じた制御対象とするかを示すものであり、これは、目標ギヤポジション(gptgt)、ギヤポジション(gearpos)およびマニュアル操作クラッチ容量演算値(tqcltmt):Eに基づいて算出される。マニュアル操作クラッチ容量演算値(tqcltmt)は、図8を用いて説明したように、クラッチ操作量センサ信号(vcltlevin)に基づいて、マニュアル操作クラッチ容量演算部185によって導出される。
Auto時接続クラッチ判定部184で導出されるAuto時接続クラッチ判定値(cltcont)は、クラッチAutoモード時に第1クラッチ側CL1または第2クラッチCL2のどちらを接続するかを示すものであり、これは、目標ギヤポジション(gptgt)、ギヤポジション(gearpos)および停車時クラッチオフ要求(f_cltoff)に基づいて導出される。
停車時クラッチオフ要求(f_cltoff)は、エンジン運転中の停車時におけるクラッチ切断動作を示すものであり、エンジン回転数Ne、スロットル開度THおよび車速Vに基づいて、停車時クラッチオフ/発進要求判定部182によって導出される。停車時クラッチオフ/発進要求判定部182では、例えば、エンジン回転数Neが所定値に達することによる発進要求の検知も行われる。
クラッチ制御モード判定部186で導出されるクラッチ制御モード(cltmode)は、クラッチを自動制御または手動操作のいずれで駆動するかを示すものであり、これは、クラッチ制御モード切替SW118の操作状態に応じたクラッチ制御モード切替SW状態(cltmodsw)、クラッチ操作量センサ信号(vcltlevin)、奇数段クラッチ容量出力値(tqc1)、偶数段クラッチ容量出力値(tqc2)およびマニュアル操作クラッチ容量演算値(tqcltmt)に基づいて導出される。したがって、クラッチ制御モード(clmode)は、クラッチ制御モード切替SW118によってManualモードが選択されていても、他のパラメータに応じてAutoモード等に変更される場合が生じることがある。
図11は、3種のクラッチ制御モード間の関係を示す状態遷移図である。クラッチ制御モードには、自動制御を行うAutoモード、手動操作を行うManualモードおよび一時的な手動操作を行うTemp.Manualモード(以下、Tempモードと示すこともある)の3種が設定されている。
Autoモードは、自動発進・変速制御により走行状態に適したクラッチ容量を演算してクラッチを制御するモードである。また、Manualモードは、乗員によるクラッチ操作指示に応じてクラッチ容量を演算してクラッチを制御するモードである。そして、Tempモードは、Autoモード中に乗員からのクラッチ操作指示を受け付け、クラッチ操作指示からクラッチ容量を演算してクラッチを制御する一時的なマニュアル操作モードである。なお、Tempモード中に乗員がクラッチレバーLの操作をやめる(完全にリリースする)と、Autoモードに戻るように設定されている。
なお、本実施形態に係るツインクラッチ式変速機は、エンジンの回転駆動力でポンプを駆動してクラッチ制御油圧を発生する構造を有するため、システム起動時は、Autoモードでクラッチオフ(切断状態)から始める必要がある。同様に、エンジン停止時もクラッチ操作は不要なので、Autoモードでクラッチオフに戻るように設定されている。
まず、Autoモードにおいて、条件「車両停止およびエンジン運転中、かつマニュアル操作クラッチ容量演算値(tqcltmt)がクラッチオフ判定閾値以下、かつクラッチ制御モード切替SWオフ→オン(押圧操作がされた)」が成立すると、Manualモードに遷移する。
また、Autoモードにおいて、条件「走行中、かつ自動制御によるクラッチ締結状態、かつクラッチレバーLが離されており(マニュアル操作クラッチ容量演算値(tqcltmt)がクラッチ締結容量)、かつクラッチ制御モード切替SWオフ→オン」が成立すると、Manualモードに遷移する。
一方、Manualモードにおいて、条件「走行中、かつクラッチレバーLが離されており(tqcltmtがクラッチ締結容量)、かつクラッチ制御モード切替SWオフ→オン」が成立すると、Autoモードに遷移する。
また、Manual系(ManualモードまたはTempモード)において、車両停止およびエンジン運転中、かつマニュアル操作クラッチ容量演算値(tqcltmt)がクラッチオフ判定閾値以下、かつ自動発進条件非成立、かつクラッチモード切替SWオフ→オン」が成立すると、Autoモードに遷移する。
さらに、Autoモードにおいて、条件「エンジン運転中、かつクラッチ操作量センサ信号から算出されるマニュアル操作クラッチ容量演算値(tqcltmt)がクラッチ容量出力値(tqc1,tqc2)以下」が成立すると、Temp.Manualモードに遷移する。これにより、オートモードで運転中に乗員がクラッチ操作をした場合に、円滑にTempモードに移行する、いわゆる「オーバーライド機能」を実現することができる。
一方、Temp.Manualモードにおいて、条件「クラッチレバーLが離されている(tqcltmtがクラッチ締結容量)」が成立すると、Manualモードに遷移する。
また、Temp.Manualモードにおいて、条件「車両停止およびエンジン運転中、かつマニュアル操作クラッチ容量演算値(tqcltmt)がクラッチオフ判定閾値以下、かつクラッチモード切替SWオフ→オン」が成立すると、Manualモードに遷移する。
そして、Manual系(ManualまたはTempモード)において、条件「エンジン停止」が成立すると、Manualモードに遷移する。
図12は、マニュアル操作を実行するクラッチを判定する手順を示すフローチャートである。マニュアル操作クラッチ判定部183で実行されるこの判定は、クラッチレバーLが操作された際に、第1クラッチCL1または第2クラッチCL2のいずれを対応させるかを、現在のギヤポジションおよび目標ギヤポジションに基づいて判定するものである。
ステップS1では、奇数段側ギヤがインギヤ状態である(ニュートラル状態ではない)か否かが判定される。ステップS1で肯定判定されると、ステップS2に進み、偶数段側ギヤがインギヤ状態であるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS3に進む。
ステップS3では、|目標ギヤポジション−奇数段側ギヤポジション|の値が|目標ギヤポジション−偶数段側ギヤポジション|より大きいか否かが判定される。これは、偶数段側および奇数段側ギヤが両方ともインギヤ状態、例えば、ギヤポジションが「3−4」位置で、目標ギヤポジションが5速ギヤである場合に、|5−3|>|5−4|が成立して肯定判定となり、この不等式が成立しない場合に否定判定されるものである。
ステップS3で否定判定されると、ステップS4に進んで、マニュアル操作クラッチ判定が奇数段側クラッチであるか否かが判定され、否定判定されると、ステップS5に進む。ステップS5では、マニュアル操作クラッチ容量がクラッチオフ容量以下であるか否かが判定され、否定判定されると、ステップS6に進む。ステップS6では、マニュアル操作クラッチ容量がクラッチ接続側に変化したか否かが判定され、否定判定されると、ステップS7に進む。ステップS7では、マニュアル操作クラッチ判定が偶数段側クラッチに設定されて、一連の制御を終了する。
一方、ステップS4,S5,S6で肯定判定されると、それぞれ、ステップS13に進み、マニュアル操作クラッチ判定が奇数段側クラッチに設定されて、一連の制御を終了する。
また、ステップS3で肯定判定されると、ステップS8に進み、マニュアル操作クラッチ判定が偶数段側クラッチであるか否かが判定され、否定判定されると、ステップS9に進む。ステップS9では、マニュアル操作クラッチ容量がクラッチオフ容量以下であるか否かが判定され、否定判定されると、ステップS10に進む。ステップS10では、マニュアル操作クラッチ容量がクラッチ接続側に変化したか否かが判定され、否定判定されると、ステップS11に進む。ステップS11では、マニュアル操作クラッチ判定が奇数段側クラッチに設定されて、一連の制御を終了する。
一方、ステップS8,S9,S10で肯定判定されると、それぞれ、ステップS14に進み、マニュアル操作クラッチ判定が偶数段側クラッチに設定されて、一連の制御を終了する。
ステップS1の判定に戻って、ステップS1で否定判定される、すなわち、奇数段側ギヤがニュートラル状態であると判定されると、ステップS12に進み、偶数段側ギヤがインギヤ状態であるか否かが判定される。ステップS12で否定判定される、すなわち、ギヤポジションが「N−N」であると判定されると、ステップS16でマニュアル操作クラッチ判定が奇数段側クラッチに設定されて(「N−N」の隣は「1−N」しかないため)、一連の制御を終了する。
一方、ステップS12で肯定判定される、すなわち、偶数段側ギヤのみがインギヤ状態である(「N−2」、「N−4」、「N−6」)であると判定されると、ステップS15でマニュアル操作クラッチ判定が偶数段側クラッチに設定されて、一連の制御を終了する。
さらに、ステップS2の判定に戻って、ステップS2で否定判定される、すなわち、偶数段側ギヤがニュートラル状態であり、奇数段側ギヤのみがインギヤ状態である(「1−N」、「3−N」、「5−N」)であると判定されると、ステップS13に進み、マニュアル操作クラッチ判定が奇数段側クラッチに設定されて、一連の制御を終了する。
図13は、Auto時接続側クラッチを判定する手順を示すフローチャートである。Auto時接続側クラッチ判定部184で実行されるこの判定は、クラッチ制御モードをAutoモードとした運転中に、自動制御によって第1クラッチCL1または第2クラッチCL2のどちらを接続するかを、現在のギヤポジションおよび目標ギヤポジションに基づいて判定するものである。
ステップS20では、目標ギヤポジションが「N−N」であるか否かが判定され、否定判定されるとステップS21に進む。ステップS21では、停車時クラッチオフ要求があるか否かが判定され、否定判定されるとステップS22に進む。ステップS22では、現在のギヤポジションが「N−N」であるか否かが判定され、否定判定されるとステップS23に進む。
ステップS23では、奇数段側ギヤがインギヤ状態であるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS24に進む。ステップS24では、偶数段側ギヤがインギヤ状態であるか否かが判定され、肯定判定される、すなわち、奇数段側ギヤおよび偶数段側ギヤの両方がインギヤ状態であると判定されるとステップS25に進む。
ステップS25では、|目標ギヤポジション−奇数段側ギヤポジション|の値が|目標ギヤポジション−偶数段側ギヤポジション|より大きいか否かが判定される。ステップS25で否定判定されると、ステップS26に進んで、接続クラッチ状態を奇数段側クラッチオンに設定し、一連の制御を終了する。一方、ステップS25で肯定判定されると、ステップS28に進んで、接続クラッチ状態を偶数段側クラッチオンに設定し、一連の制御を終了する。
ステップS20の判定に戻って、ステップS20,S21,S22のいずれかで肯定判定されると、それぞれ、ステップS29に進んで、クラッチ接続が不要であるとして接続クラッチ状態をオフに設定し、一連の制御を終了する。
また、ステップS23で否定判定されると、ステップS27に進んで、偶数段側ギヤがインギヤ状態であるか否かが判定される。ステップS27で肯定判定される、すなわち、奇数段側ギヤがニュートラル状態で偶数段側ギヤのみがインギヤ状態である(「N−2」、「N−4」、「N−6」)と判定されると、ステップS28に進んで、接続クラッチ状態を偶数段側クラッチオンに設定し、一連の制御を終了する。
なお、ステップS27で否定判定される、すなわち、奇数段側ギヤおよび偶数段側ギヤの両方がインギヤ状態でないと判定されると、ステップS29に進んで接続クラッチ状態をオフに設定し、一連の制御を終了する。また、ステップS24で否定判定されると、ステップS26に進んで、接続クラッチ状態を奇数段側クラッチオンに設定し、一連の制御を終了する。
図14,15は、クラッチ容量出力値演算の手順を示すフローチャート(1/2)および(2/2)である。ステップS30では、クラッチ制御モード判定値がAutoモードであるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS31に進む。ステップS30で否定判定されると、Aに進む(図15参照)。
ステップS31では、Autoモード時自動制御奇数段クラッチ容量(tqc1at)の演算が実行され、続くステップS32では、Autoモード時自動制御偶数段クラッチ容量(tqc2at)の演算が実行される。ステップS31,32では、主に、エンジン回転数センサ130、スロットル開度センサ103、ギヤポジションセンサ134および車速センサSEVの出力信号に基づいて、3次元マップ等からなる変速マップMに従って、発進/変速がスムーズに行われるように演算が実行される。
続いて、ステップS33では、奇数段側クラッチ容量出力値(tqc1)を自動制御奇数段クラッチ容量演算値(tqc1at)に設定し、さらに、ステップS34では、偶数段側クラッチ容量出力値(tqc2)を自動制御偶数段クラッチ容量演算値(tqc2at)に設定して、一連の制御を終了する。
一方、ステップS30で否定判定された場合、すなわち、クラッチ制御モード判定値がManualモードまたはTempモードである場合には、Aに続くステップS40に進む。
図15を参照して、ステップS40では、マニュアル操作クラッチ判定値が奇数段側クラッチであるか否かが判定される。ステップS40で肯定判定されると、ステップS41に進んで、自動制御奇数段クラッチ容量演算値(tqc1at)がマニュアル操作クラッチ容量演算値(tqcltmt)に移行済みであるか否かが判定される。ステップS41で否定判定されると、ステップS42に進んで、Manualモード時tqc1at演算が実行される。このステップS42では、自動制御クラッチ容量演算値をマニュアル操作クラッチ容量へ変化させるときに、偶数段側クラッチ容量と併せて車体挙動への影響が最小となるようにtqc1atの演算が実行される。
続くステップS43では、tqc1atがtqcltmt以上であるか否かが判定される。ステップS43で否定判定されると、ステップS44に進んで、tqc1をtqc1atに設定する。
ステップS41またはステップS43で肯定判定されると、ステップS45に進んで、tqc1がtqcltmtに設定されると共に、続くステップS46において、tqc1atがtqcltmtに設定されてステップS47に進む。
ステップS47では、Manualモード時tqc2at演算が実行される。ステップS47では、基本的にクラッチ容量を所定値(本実施形態ではゼロ)以下とし、クラッチ容量が所定値より大きい場合は、クラッチ容量演算値を所定値へと変化させるようにし、このとき、奇数段側クラッチ容量と併せて車体挙動への影響が最小となるように演算が実行される。そして、ステップS48でtqc2をtqc2atに設定すると、Bに戻って一連の制御を終了する。
ステップ40の判定に戻って、ステップS40で否定判定されると、前述したステップS41〜S48と同様の演算が、偶数段クラッチから順に開始される。
詳しくは、ステップS40で否定判定されると、ステップS49に進んで、自動制御偶数段クラッチ容量演算値(tqc2at)がマニュアル操作クラッチ容量演算値(tqcltmt)に移行済みであるか否かが判定される。ステップS49で否定判定されると、ステップS50に進んで、Manualモード時tqc2at演算が実行される。
続くステップS51では、tqc2at≧tqcltmtであるか否かが判定される。ステップS51で否定判定されると、ステップS52に進んで、tqc2をtqc2atに設定する。
ステップS49またはステップS51で肯定判定されると、ステップS53に進んで、tqc2がtqcltmtに設定されると共に、ステップS54においてtqc2atがtqcltmtに設定され、ステップS55に進む。
ステップS55では、Manualモード時tqc1at演算が実行される。そして、ステップS56でtqc1がtqc1atに設定されると、Bに戻る。
以下では、タイムチャートを用いて種々の場面におけるクラッチ制御の流れを説明する。図16に示すタイムチャートは、全10項目のパラメータからなる上半分の表と、この表に対応する下半分の3つのグラフとからなる。
パラメータ表は、以下の(a)〜(j)に示す項目で構成されている。
(a)目標ギヤポジション(gptgt)=N,1,2,3,4,5,6のいずれか
(b)現在のギヤポジション(gearpos)=N−N,1−N,1−2,N−2,3−2,3−N,3−4,N−4,5−4,5−N,5−6,N−6のいずれか
(c)ギヤシフト状態=STOP(シフトドラム停止),UP(シフトアップ側送り動作中),DOWN(シフトダウン側送り動作中)のいずれか
(d)ギヤシフト制御モード(sftmode)=Auto(AT変速モード),Manual(MT変速モード)のいずれか
(e)クラッチ制御モード切替SW(clmodsw)=ONまたはOFF(スイッチを押している間のみオンとなり、クラッチManualモードへの切り替え意志表示)
(f)クラッチ制御モード(cltmode)=Autoモード、Temp.Manualモード、Manualモードのいずれか
(g)Auto時接続側クラッチ判定値(cltcont)=奇数段側クラッチのオン・オフまたは偶数段側クラッチのオン・オフ
(h)マニュアル操作クラッチ判定値(cntcltmt)=奇数段側クラッチまたは偶数段側クラッチ
(i)奇数段クラッチ容量出力(tqc1)=tqc1atまたはtqcltmt
(j)偶数段クラッチ容量出力(tqc2)=tqc2atまたはtqcltmt
また、タイムチャート下半分の3つのグラフには、クラッチ操作量センサ信号(vcltlevin)およびクラッチ容量、スロットル開度、エンジン回転数および車速を示している。クラッチ容量センサのグラフでは、第1クラッチCL1の容量出力(tqc1)を斜線で形成した太線で示し、第2クラッチCL2の容量出力(tqc2)を点描で形成した太線で示している。また、クラッチ操作量センサ信号(vcltlevin)を1点鎖線で示し、マニュアル操作クラッチ判定値(cntcltmt)は2点鎖線で示している。さらに、タイムチャート中の丸数字は、以下の説明において、(1),(2),(3)…のカッコ数字で表記することとする。
図16は、車両停止状態でのクラッチ制御モード切替の流れを示すタイムチャートである。このタイムチャートは、ギヤシフト制御モードおよびクラッチ制御モードを共にマニュアルとしてクラッチレバーLを握り込んだ停車状態から、スロットル操作を行いつつクラッチ制御モード切り替えスイッチ118を操作した場合の流れに対応する。
まず、エンジン始動中かつ車両が停車しており、クラッチレバーLを握り込んだ初期状態では、ギヤポジション:1−N、クラッチ制御モード:Manual、奇数段クラッチ容量出力(tqc1):tqcltmtで、第1クラッチCL1は切断状態にある。このとき、スロットル操作はまだ行われておらず、スロットル開度THはゼロである。
次に、時刻t1でスロットル操作が開始され、時刻t2でスロットル開度THが自動発進許可スロットル開度aを超えた後に、(1)に対応する時刻t3において、乗員によりクラッチ制御モード切替スイッチ118が操作される。
本実施形態では、このクラッチ制御モード切替スイッチ118の操作を受け付けず、ManualモードからAutoモードへの切り替えを禁止する、換言すれば、クラッチ制御モード切替スイッチ118の操作を無効とする点に特徴がある。これは、Autoモード選択中の発進御開始条件の1つであるスロットル開度条件が成立しているためであり、時刻t3においてAutoモードへの切り替えを許可してしまうと、時刻t3におけるスロットル開度THに基づいて自動発進を行うものとして計算されたクラッチ容量が適用されて、乗員の意図しないクラッチ接続が行われてしまう可能性があるためである。
このAutoモードへの切り替え禁止制御は、スロットル開度THが自動発進許可スロットル開度aを超える時刻t2から、スロットル開度THが自動発進許可スロットル開度aを下まわりかつエンジン回転数Neが自動発進許可エンジン回転数bを下回る時刻t6までの所定期間Cの間継続される。なお、AMT制御ユニット120は、この(2)に対応する所定期間C中のクラッチ制御モード切替スイッチ118の操作に対して、クラッチ制御モードがManualモードにあることをインジケータ等で警告することができる。
続いて、時刻t4では、エンジン回転数Neが自動発進許可エンジン回転数bを超えることにより、Auto時クラッチ判定値が奇数段クラッチオンに切り替えられるが、スロットル開度THが自動発進許可スロットル開度aを下回る時刻t5において自動的にオフ状態に戻る。
グラフの例では、Autoモードへの切り替え禁止制御が終了する時刻t6までに、2回目のクラッチ制御モード切替スイッチ118の操作が行われているが、スロットル開度THが自動発進許可スロットル開度aを下まわった後も、時刻t6までの間はエンジン回転数Neが自動発進許可エンジン回転数bを上回っており、Autoモード選択中の発進御開始条件の1つであるエンジン回転数条件が成立しているため、この2回目の操作も禁止され、クラッチ制御モードはManualモードのままとされる。
そして、このグラフの例では、時刻t6でAutoモードへの切り替え禁止制御が終了した後、(3)に対応する時刻t7において、3回目となるクラッチ制御モード切替スイッチ118の操作が行われている。時刻t7の時点では、スロットル操作が行われておらず、スロットル開度THが自動発進許可スロットル開度aを下回ると共にエンジン回転数Neも自動発進許可エンジン回転数bを下回っているため、クラッチ制御モードがAutoモードへと切り替えられる。
最後に、(4)に対応する範囲では、クラッチ制御モードがAutoモードに切り替えられたことで、奇数段クラッチ容量出力(tqc1)がマニュアル操作クラッチ容量演算値(tqcltmt)から自動制御奇数段側クラッチ容量演算値(tqclat)に切り替わっているので、クラッチレバーLを接続方向に駆動して完全にリリースしてもクラッチ容量(tqc1)に変化はないこととなる。
上記したように、本発明に係るツインクラッチ制御装置によれば、マニュアルモードの選択時にクラッチ制御モード切替スイッチ118が操作されても、スロットル開度THが自動発進許可スロットル開度aを超えている場合は、オートモードへの切り替えを禁止するので、マニュアルモードの選択中に、クラッチレバーを握り込んでクラッチを切断状態とし、かつスロットル操作によりブリッピング(空ぶかし)を行っているときにクラッチ制御モード切替スイッチを操作した場合でも、乗員が意図しないクラッチ接続が行われることを避けることが可能となる。
なお、ツインクラッチ、多段変速機およびエンジンの形状や構造、制御装置の構成、クラッチクラッチの手動操作手段の構成等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。本発明に係るツインクラッチ制御装置は、自動二輪車に限られず、鞍乗型の三/四輪車等の各種車両に適用することが可能である。