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JP5910979B2 - 発酵用消泡剤 - Google Patents

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Description

本発明は、醗酵用消泡剤に関し、その水による希釈液が高温安定性に優れ、且つ消泡効果に優れた醗酵用消泡剤に関する。
従来、醗酵技術において、特に通気撹拌を要する醗酵では多量の泡が発生するため、作業上の問題が生じている。泡で醗酵槽の気相部が満たされると、醗酵槽の容積効率が低下し、さらには泡が溢れて槽外に流出して槽外ラインを湿らし、コンタミを随伴する恐れがある。このような気泡発生による作業性低下を抑制するために、醗酵系へ消泡剤の添加が行われている。醗酵は恒常的な通気攪拌を伴うため、醗酵用消泡剤に必要とされる性能としては、投入した瞬間から泡を破壊する破泡性、持続的に起泡を抑える抑泡性、さらには醗酵生物へ阻害を示さないことが挙げられる。このような消泡剤としては、油脂と多価アルコールを原料にアルキレンオキシドを付加したタイプの消泡剤が、醗酵生物への阻害が少なく、優れた破泡性と抑泡性を示すことから汎用されてきている。
醗酵用消泡剤は、予め希釈することにより、醗酵系に均一な濃度の水溶液または懸濁液である希釈液として添加される。一般的な醗酵用装置では、醗酵槽内で発生した気泡が一定の高さまで達するとセンサーで検知され、消泡剤希釈液が貯槽から自動滴下装置を通して、醗酵槽へ添加される仕組みとなっている。醗酵用消泡剤は醗酵温度である30〜40℃で効果を示す必要があるため、それよりも10〜20℃低い温度に曇点をもつものが多く、曇点以上では水に溶解・混和しにくいため、曇点以下まで冷却して撹拌することによって希釈液を調製している。そのため、至適温度での水への分散性が必要とされる。
消泡剤希釈液は、醗酵容器への微生物の侵入を防止するために、加熱による滅菌を実施し、その後に醗酵温度付近まで冷却してから醗酵容器に添加される。このため、滅菌工程にて加熱することによって消泡剤は曇点以上の温度にさらされ、水への溶解性が低下するために下層部に沈殿する、もしくは上層部から中層部に油滴を形成する傾向にある。
従来のアルキレンオキシド付加タイプの醗酵用消泡剤の中で、加熱滅菌での沈殿もしくは油滴の形成が起きたものについては、滅菌温度から醗酵温度まで温度を下げるだけでは沈殿や油滴が消失しないため、液体部分の消泡剤濃度が低下していることから、この状態で醗酵槽へ添加しても本来の消泡効果が得られない。そのため、再度曇点以下まで冷却して撹拌することで、均一の希釈液に戻す工程が必要となり、工程として煩雑となってしまう。
例えば、特許文献1(特開平5−228308公報)に記載の醗酵用消泡剤は、油脂と多価アルコールの混合物にアルキレンオキシドを付加したものであるが、原料に対するエチレンオキシドの付加量がプロピレンオキシドの付加量に対して少ないために、消泡剤希釈液を加熱処理すると油滴を形成してしまう。また、特許文献2(WO97/00942)に記載の消泡剤は、上記のタイプの消泡剤と高級脂肪酸、高級アルコール等との複合系であり、醗酵成績に影響を与えることなく、長時間持続的に効能を示すものであるが、消泡剤希釈液を加熱する際に混合成分である高級脂肪酸や高級アルコールの溶解性が著しく低下してしまうため、沈殿や油滴を形成してしまい、消泡効果が低下する。
対照的に、特許文献3(特開平6−54680公報)に記載の消泡剤は、上記のタイプの消泡剤と基本的な構造は同じであるが、エチレンオキシド付加量はプロピレンオキシドの付加量に対して多いために、加熱滅菌時に沈殿や油滴を生じにくいが、消泡効果が十分でない。特許文献4(特開2001−178446公報)に記載の消泡剤は油脂と多価アルコールの混合物にプロピレンオキシドを1〜10モル付加した後、エチレンオキシドとプロピレンオキシドをランダム付加したものであり、加熱滅菌時に沈殿や油滴を生じにくいが、添加直後の破泡性が弱いために効能を示すまでに時間がかかる。
このように、水への分散性に優れており、高い消泡効果も併せ持つものは、これまで知られていなかった。
特開平5−228308号公報 WO97/00942 特開平6−54680号公報 特開2001−178446号公報
本発明の課題は、以上の問題点を鑑み、消泡剤希釈液の調製時の水への分散性に優れ、加熱殺菌工程を経た際の消泡剤希釈液に沈殿や油滴を生じることなく、醗酵培地における起泡に対して希釈液を添加した際に消泡効果、とくに添加直後の破泡性が強い醗酵用消泡剤を提供することである。
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、油脂と、プロピレンオキシドの付加モル数が1〜4モルであるグリセリンのプロピレンオキシド付加物およびグリセリンからなる群より選ばれた一種以上の化合物とを3/2〜1/2のモル比で混合した混合物に特定比率のプロピレンオキシドを付加し、次いでエチレンオキシド、プロピレンオキシドの順にブロック付加することにより、水への分散性が高く、且つ消泡性にも優れる醗酵用消泡剤が得られることを見出し、本発明を完成した。
本発明の醗酵用消泡剤を用いることにより、その希釈液が加熱滅菌工程後に沈殿を生じず、醗酵温度まで温度を下げてそのまま醗酵槽に添加することで、添加直後の破泡性が高く、かつ持続的に気泡の発生を抑制することが出来る。そのため、単位醗酵槽当りの醗酵生成物の収量が増え、収率が向上する。
本発明において使用する油脂は、ヨウ素価が40〜130の油脂を使用する。ヨウ素価は、基準油脂分析試験法(2.3.4.1−1996,ウィイス法)によって測定する。こうした油脂としては、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、ナタネ油、こめ油、落花生油、オリーブ油を例示でき、特に好ましくはパーム油、牛脂である。油脂のヨウ素価が40を下回った場合、十分な消泡効果がみられず、130を上回った場合は、醗酵微生物の醗酵成績の低下がみられる。これらの観点からは、油脂のヨウ素価は、70以下であることが更に好ましい。
本発明で使用するグリセリンのプロピレンオキシド付加物とは、グリセリンにプロピレンオキシドを1〜4モル付加したものである。4モルを超えて付加した場合は十分な消泡効果が得られない。
本発明では、油脂と、グリセリンおよびグリセリンのプロピレンオキシド付加物からなる群より選ばれた一種以上の化合物を混合する。油脂と、グリセリンおよびグリセリンのプロピレンオキシド付加物からなる群より選ばれた一種以上の化合物(二種の場合には合計量)との混合割合は、モル比(油脂/グリセリンおよびグリセリンのプロピレンオキシド付加物からなる群より選ばれた一種以上の化合物)で3/2〜1/2である。このモル比が3/2を上回った場合は、エステル化率が高く、アルキレンオキシドとの反応性が低下するため反応工程に多大な時間を要するため工業的な生産に適しておらず、さらに希釈して加熱した際には油滴や沈殿を形成し易いため消泡効果が弱くなる。1/2を下回った場合は、エステル化率が低下することによって、水溶液および懸濁液調製時の水への分散性が悪くなり、消泡効果も弱まる。本発明の観点からは、モル比(油脂/グリセリンおよびグリセリンのプロピレンオキシド付加物からなる群より選ばれた一種以上の化合物)は、1/1以下であることが更に好ましく、また、4/7以上が好ましく、2/3以上が更に好ましく、9/11以上がいっそう好ましい。
本発明に使用するアルキレンオキシドは、エチレンオキシド、プロピレンオキシドが挙げられる。まず、油脂と、グリセリンまたはグリセリンのプロピレンオキシド付加物(1〜4モル)の混合物の和1モルに対して、プロピレンオキシドを4〜17モル(Lモル)を付加する。Lが4を下回ると加熱滅菌後に沈殿または油滴を形成し、17を上回ると速やかな消泡効果が得られない。この観点からは、Lは6モル以上であることが好ましく、10モル以上であることが更に好ましい。また、Lは、15モル以下であることが好ましく、14モル以下であることが更に好ましい。
続いて、エチレンオキシドを20〜40モル(Mモル)付加する。Mが20モルを下回ると親水性が弱まるため、希釈液の加熱滅菌工程後に沈殿を形成する。40モルを上回ると、消泡効果が弱まる。本発明の観点からは、エチレンオキシドの付加モル数Mは、25モル以上が好ましく、30モル以上が更に好ましい。また、Mは38モル以下が好ましく、35モル以下が更に好ましい。
さらに、プロピレンオキシドを70〜100モル(Nモル)付加する。Nが70モルを下回ると消泡効果が弱まり、110モルを上回ると粘度が増大するために水への分散性が低下する。本発明の観点からは、Nは、75モル以上が好ましく、80モル以上が更に好ましい。また、Nは、100モル以下が好ましく、95モル以下が更に好ましい。
エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの付加形態は、ブロック付加が好ましく、ランダム付加をした場合は添加直後の破泡性が弱くなる。
M/(L+N)は、1/5〜1/2である。M/(L+N)が1/5を下回った場合は疎水性が強くなり、滅菌後に沈殿または油滴を形成し、1/2を上回った場合は十分な消泡効果が得られない。この観点からは、M/(L+N)は、1/4以上であることが好ましく、5/16以上であることが更に好ましい。また、M/(L+N)は、2/5以下であることが好ましく、30/83以下であることが更に好ましい。
また、PO付加モル数については、L/N=2/35〜2/5が好ましい。L/Nを2/35以上とすることによって、消泡効果の持続性が向上し、L/Nを2/5以下とすることによって、速やかな消泡効果がえられる。この観点からは、L/Nは、3/50〜17/70が更に好ましく、7/76〜12/85がもっとも好ましい。
L+M+Nは、94〜167が好ましい。L+M+Nを94以上とすることによって、消泡効果が向上する。また、L+M+Nを167以下とすることによって、粘性が低下し、希釈液調製時の分散性が向上する。これらの観点からは、L+M+Nは、110〜150が更に好ましく、120〜145がもっとも好ましい。
本発明の消泡剤の製造を実施するに当たって、反応温度は80〜160℃が好適である。使用する触媒は通常これらの反応で使われているアルカリ性物質、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩等で、例えばナトリウムメチラート、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、酢酸ナトリウム、t−カリウムブトキシド等が挙げられる。これらの触媒は直接投入してもよく、水で希釈して投入してもよい。この触媒は反応生成物に対して0.01〜0.5質量%程度使用するのがアルキレンオキシドの反応性を高めるため好ましく、反応時の圧力は1MPa以下の加圧下で行うのがより好ましい。反応後、触媒を除去するため、アルカリ吸着性の合成吸着剤を添加混合してろ過する。また、触媒は、酢酸、燐酸、塩酸などの有機、無機塩もしくは吸着剤で中和後、そのまま、あるいはろ過して、もしくは脱水後にろ過して製品とすることも出来る。
本発明の消泡剤は、水で希釈して分散、乳化させて、加熱滅菌工程を経てから(醗酵用消泡剤として)醗酵槽へ添加する。
本発明の醗酵用消泡剤は種々の物質の醗酵生産に適用でき、例えばアミノ酸の醗酵生産に使用することができる。具体的には、アミノ酸醗酵としては、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジン、スレオニン、トリプトファン、アラニン、グリシン等の醗酵生産が挙げられる。
本発明の消泡剤は、培養の開始前または培養中に培地に対して0.0001〜1質量%、特に0.0005〜0.5質量%添加して使用するのが好ましい。尚、本発明醗酵用消泡剤の適用対象となる培養は、至適温度は30〜40℃であり、起泡発生の多い通気、攪拌、振とう培養等が挙げられる。
(1) 消泡剤の合成
(実施例1)
パーム油169.6g(0.2モル)とグリセリン18.4g(0.2モル)を撹拌装置、温度センサー、および圧力計を備えた5L容積のオートクレーブに入れ、触媒として水酸化カリウム9gを添加し、系内を窒素ガスで置換した後、110℃に昇温し、窒素を吹き込みながら0.04MPa以下の減圧下で脱水を2時間行った。その後、120℃にて0.6MPa以下でプロピレンオキシド278.4g(4.8モル)を徐々に圧入した後、そのまま1時間反応を継続した。次に、エチレンオキシド545.6g(12.4モル)を徐々に圧入し、そのまま1時間反応を継続した。さらに、プロピレンオキシド1972g(34モル)を圧入し、そのまま2時間反応を継続した。反応終了後、窒素を通じながら未反応のアルキレンオキシドを除去し、塩酸を用いて触媒である水酸化カリウムを失活させ、脱水後にろ過を行うことにより本発明の消泡剤2745.3g(収率92%)を得た。
(2)実施例2〜4および比較例1〜5
以下、実施例1と同様の方法により表1に示す原料を用いて本発明の消泡剤2〜4、および比較例の消泡剤を得た。
表1中、(EO)/(PO)はランダム付加、(EO)−(PO)はブロック付加を表す。
[分散性試験]
100mlメスシリンダーにイオン交換水99ml採取し、消泡剤1gを添加した後、スターラーチップ(Ф5mm×20mm)を入れ、1000rpmの速度で撹拌を開始した。撹拌開始から均一に溶解もしくは懸濁するまでの時間について計測し、分散性の指標として表2で評価した。分散性試験の全工程は室温にて行った。
[高温安定性試験]
100ml蓋つきサンプル瓶にイオン交換水95g、および消泡剤サンプルを5g仕込み、均一な希釈液になるまで撹拌した後、オートクレーブ高温加圧滅菌装置にて加熱滅菌(120℃、2kPa、20分)を行った直後の外観を観察した。また、その後25℃まで冷却し、その外観についても観察した。これらの結果を表2に示した。
Figure 0005910979
Figure 0005910979
(注1) ○:1分以内に均一な水溶液もしくは懸濁液となる
△:1〜3分経過後、水溶液もしくは懸濁液となる
×:均一に分散しない
(注2) ○:均一な水溶液もしくは懸濁液
△:不均一な懸濁液
×:懸濁液内に沈殿または油滴が生成した水溶液もしくは懸濁液
表2から明らかなように、本発明醗酵用消泡剤実施例1〜4は従来の消泡剤に比べて希釈液が安定である。一方、比較例2のように原料油脂の配合率が高くアルキレンオキシド鎖が長いものは常温で水に分散しにくく、滅菌工程を経た後に油滴を形成して再溶解が不可能となってしまう。比較例3のようにエチレンオキシド含量がプロピレンオキシド含量よりはるかに少ないものは、油滴を形成し易い。比較例5は、希釈液を加熱滅菌すると油滴を形成してしまうために、消泡効果が十分でなくなってしまう。
[消泡性評価]
1000mlメスシリンダーに、培地200mlを仕込み、これに[高温安定性試験]に示す方法で消泡剤を希釈して、加熱滅菌したものを、スターラーチップ(Ф5mm×20mm)で1000rpmの速度で撹拌後にサンプリングしてイオン交換水で50倍希釈し、評価系の消泡剤濃度が0.0005〜0.001%となるように、培地に1または2ml添加した。38℃で温度一定に保ったメスシリンダーに、デフューザーストーンから1000ml/分の空気流量にて空気を吹き込み、10分後の泡の高さ(ml)を測定した。この結果を表3に示した。
なお、[高温安定性試験]にて油滴や沈殿が認められたサンプルに関しては、本試験より除外した。
培地組成
ポリペプトン 1.0質量%
廃糖蜜 5.0質量%
尿素 0.1質量%
KHPO0.1質量%
MgSO・7HO 0.05質量%
水 残部
合計重量 100.0質量%
[破泡性試験]
10ml蓋つき試験管に、消泡剤を含有するA液4mlを入れ、38℃にて5分間振倒した。これに、B液を1ml入れ、泡の消失時間を測定した結果を表3に示した。
A液組成
ポリペプトン 5.0質量%
炭酸水素Na 10.0質量%
消泡剤 0.001質量%
水 残部
合計重量 100.0質量%
B液組成
ポリペプトン 5.0質量%
クエン酸 10.0質量%
消泡剤 0.001質量%
水 残部
合計重量 100.0質量%
Figure 0005910979
表3から明らかなように、本発明醗酵用消泡剤実施例1〜4は従来の消泡剤に比べて十分な消泡性能を有している。一方、比較例1はアルキレンオキシド鎖がランダム重合であるため、即効的な破泡性に欠けている。比較例4は水への分散性が良好であるが、消泡効果が十分ではない。また、1段階目のプロピレンオキシド付加反応量が多いため、破泡性に欠けており、速やかな消泡効果がみられない。

Claims (1)

  1. ヨウ素価40〜130の油脂と、プロピレンオキシドの付加モル数が1〜4モルであるグリセリンのプロピレンオキシド付加物およびグリセリンからなる群より選ばれた一種以上の化合物とのモル比3/2〜1/2の混合物に対する、プロピレンオキシド/エチレンオキシド/プロピレンオキシドの逐次付加ブロック共重合体を含有する醗酵用消泡剤であって、
    前記ブロック共重合体において、前記混合物1モルに対するプロピレンオキシドエチレンオキシドプロピレンオキシドの付加モル数が4〜17モル20〜40モル70〜110モルであり、かつエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのモル比が1/4〜2/5であることを特徴とする、醗酵用消泡剤。
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