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JP5967642B2 - 建物の補強構造 - Google Patents

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Description

本発明は、建物の補強構造に係り、特に、地震や強風などの水平力に対する建物の強度・剛性を高めるための補強構造に関するものである。
従来、建物の耐震補強構造として、既存建物の柱を補強する構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この補強構造は、内側が収納空間とされている複数の箱状体で柱の外周部を全周に亘って囲み、各箱状体を構成する背面の板材を柱の柱側面に対向させるとともに、それらの箱状体同士を互いに一体に連結し、背面の板材と柱側面との間に未硬化の硬化性材料を充填して互いに密接させ、箱状体における天板材の板面と梁の下面との隙間、及び、箱状体における底板材の板面と床面との隙間の各々にも未硬化の硬化性材料を充填して互いに密接させて構成されている。
特開2009−197552号公報
しかしながら、特許文献1に記載された従来の補強構造のように、箱状体の板材と、柱側面や梁の下面、床面との間にモルタル等の充填材を充填し、この充填材を介して建物躯体に箱状体を接触させるだけでは、十分な補強効果が期待できない。即ち、地震等によって建物躯体(柱や梁)が損傷を受ける場合には、建物や各部材に大きな変形角が生じるため、この変形に補強材が追従しつつ応力を負担する必要があるにもかかわらず、従来の補強構造では、充填材を介して箱状体が設けられているにすぎないため、充填材が割れたり剥落したりすることで建物躯体と箱状体との一体性が損なわれる。このため、箱状体が建物躯体の変形に追従することができず、応力を負担できないことになり、大地震に対する補強効果を期待することができない。
また、従来の補強構造では、床面から梁下までの高さ寸法を有する一体の箱状体によって柱の全周を囲むことから、建物の階高(梁下の高さ)や柱の寸法に応じて箱状体を製作しなければならず、箱状体の共通化が困難となってコストが増加してしまう。さらに、独立した1本の柱に対しては、その全周を囲んで箱状体を設置することができるものの、壁付きの柱や、建具が取り付けられた柱などのように、柱の側方全周にスペースがない場合には箱状体を設置することができず、補強構造を適用することができる建物が限定されてしまうこととなる。また、一体に製作した箱状体を建物内部に設置しなければならないことから、その運搬や建物への搬入、設置などの各種作業に手間がかかり、補強工事の作業性が著しく低下してしまうという問題もある。
したがって、本発明は、簡便かつ低コストで施工可能で各種の建物に適用可能であるとともに、十分な補強効果を実現することができる建物の補強構造を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために請求項1に記載の建物の補強構造は、互いに接合された鉛直部材及び水平部材を有した建物の補強構造であって、前記鉛直部材が鉄骨製の柱であり、前記水平部材が鉄骨製の梁であり、該柱と該梁とが接合部を介して剛接されてラーメン架構を構成し、前記鉛直部材に沿って上下に積層される複数の補強部材と、前記複数の補強部材のうちの少なくとも一部を前記鉛直部材に固定する第一固定手段と、前記上下に積層される補強部材同士を互いに固定する第二固定手段と、前記水平部材の直下に位置する前記補強部材を該水平部材に固定する第三固定手段と、を備え、前記補強部材は、前記鉛直部材の側面に沿う第一側面部と、該第一側面部の上端縁に連続して前記鉛直部材から離れる方向に延びる上面部と、前記第一側面部の下端縁に連続して前記鉛直部材から離れる方向に延びる下面部と、前記上面部及び前記下面部の端縁同士を連結して前記第一側面部と平行に延びる第二側面部と、を有して全体矩形中空状に形成された鋼製部材であり、前記第一側面部と前記鉛直部材とが前記第一固定手段であるボルト−ナット接合、線溶接、あるいはスタッド接合によって直接固定され、前記複数の補強部材は、前記鉛直部材の略全長に沿って上下に積層されており、前記水平部材の直上に位置する前記補強部材を該水平部材に固定する第四固定手段、及び、基礎又は床スラブの直上に位置する前記補強部材を該基礎又は床スラブに固定する第五固定手段、の少なくとも一方を備えて構成され、上下に積層された前記複数の補強部材のうち、下側に位置する前記水平部材、前記基礎又は前記床スラブから上側に位置する前記水平部材までの高さにおける下側から過半の高さ範囲に位置する複数の補強部材は、それらの前記第二側面部に他の補強部材が固定されず前記鉛直部材の反対側が開放されていることを特徴とする。
ここで、本発明の補強構造を適用する建物としては、その用途(住宅、店舗、商業ビル、工場、倉庫など)や、規模(建築面積、容積、階数など)、構造種別(木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造など)、構造形式(軸組構造、ラーメン構造、壁式構造など)は、いずれも限定されず、各種の建物に対して本発明の補強構造を適用することができる。また、本発明において、鉛直部材とは、柱や壁等の鉛直方向に延びて設けられる部材を意味し、水平部材とは、梁や床、基礎等の水平方向に延びて設けられる部材を意味するが、ここでの鉛直方向や水平方向としては、多少の傾きを有した方向をも含むものである。
請求項に記載の建物の補強構造は、請求項1に記載された建物の補強構造において、前記複数の補強部材は、前記上面部、前記下面部、前記第一及び第二の側面部の各内面に四周が固定される内部パネルを有した第一タイプのものと、前記内部パネルを有しない第二タイプのものと、を備えて構成されることを特徴とする。
請求項に記載の建物の補強構造は、請求項に記載された建物の補強構造において、前記第一タイプの補強部材は、前記鉛直部材と前記水平部材とが接合される接合部の近傍に設けられ、前記第二タイプの補強部材は、前記接合部から離隔された位置に設けられていることを特徴とする。
請求項に記載の建物の補強構造は、請求項又はに記載された建物の補強構造において、前記内部パネルは、所定のせん断力により塑性化して履歴エネルギー吸収を行う減衰材料から構成されることを特徴とする。
請求項に記載の建物の補強構造は、請求項1〜のいずれか一項に記載された建物の補強構造において、前記複数の補強部材は、前記上面部及び前記下面部の幅寸法と前記第一及び第二の側面部の高さ寸法とが略同一の正方形タイプのものと、前記上面部及び前記下面部の幅寸法と前記第一及び第二の側面部の高さ寸法とが異なる長方形タイプのものと、を備えて構成されることを特徴とする。
請求項に記載の建物の補強構造は、請求項1〜のいずれか一項に記載された建物の補強構造において、前記鉛直部材に沿う前記補強部材を挟んで該鉛直部材の反対側に隣接して設けられる一又は複数の隣接補強部材をさらに備え、前記隣接補強部材は、前記補強部材と共通の全体矩形中空状に形成されていることを特徴とする。
請求項に記載の建物の補強構造は、請求項に記載された建物の補強構造において、前記隣接補強部材は、複数段かつ複数列に配列されるとともに、前記鉛直部材に沿う前記補強部材から離れた列ほど段数が減じられた複数で構成されており、上下左右に隣り合う前記隣接補強部材同士、及び隣り合う前記補強部材と前記隣接補強部材とが、前記第二固定手段によって互いに固定され、前記水平部材の直下に位置する前記隣接補強部材と該水平部材とが前記第三固定手段によって固定されていることを特徴とする。
請求項1に記載された発明によれば、鉛直部材に沿って複数の補強部材を上下に積層するとともに、第一固定手段によって補強部材を鉛直部材に固定するとともに、第二固定手段によって上下の補強部材同士を互いに固定し、第三固定手段によって補強部材を水平部材の下側に固定することで、各補強部材と鉛直部材及び水平部材とを確実に固定し、かつ補強部材同士も確実に固定することができ、積層した複数の補強部材と鉛直部材及び水平部材との一体性を高めることができる。従って、地震等によって変形した鉛直部材及び水平部材に複数の補強部材を追従させ、補強部材に応力を負担させることができ、十分な補強効果を得ることができる。また、複数の補強部材を上下に積層することで、個々の補強部材のサイズを小型化するとともに、モジュール化により形状や寸法を共通化することができる。従って、階高や構造形式、構造種別が異なる各種の建物に対して、共通の補強部材を用いることができ、製作コストや設置コストを抑制することができる。
さらに、補強部材が第一側面部と上面部と下面部と第二側面部とを有して全体矩形中空状に形成されているので、補強部材自体を軽量化することができるとともに、積み重ねて搬送したり適宜な個数ずつを建物に搬入したり各補強部材を作業者が設置したりなど、搬送や搬入、設置の作業を容易に実施することができる。また、鉛直部材に第一側面部を対向させ、水平部材に上面部を対向させ、補強部材同士は互いの上面部と下面部とを対向させるとともに、中空部を利用して固定作業が実施できることで、第一〜第三の固定手段の固定作業を容易に行うことができ、設置作業の作業性をさらに向上させることができる。また、補強部材は、鉛直部材の全周を囲んで設置する必要がなく、鉛直部材の一の側面に沿って積層してもよいし、二以上の側面に沿って積層してもよく、いずれの場合にも前述の通り補強効果を得ることができることから、設置の自由度を高めることができ、様々な周辺条件の鉛直部材に対して柔軟な補強構造を実現することができる。
また、鉛直部材の略全長に沿って補強部材を上下に積層して設置することで、鉛直部材に対する補強効果をさらに高めることができる。そして、第四固定手段によって水平部材の上側に補強部材を固定するか、又は、第五固定手段によって基礎又は床スラブに補強部材を固定することで、建物躯体との一体性をさらに向上させることができる。また、鉛直部材の略全長に沿って補強部材が積層されているので、地震等によって万一鉛直部材が破断したり、鉛直部材と水平部材との接合が外れたりした場合であっても、上側の水平部材や床スラブの荷重を補強部材で支持することができ、層崩壊を防止することができる。
請求項に記載された発明によれば、内部パネルを有した第一タイプの補強部材と、内部パネルを有しない第二タイプの補強部材と、を備えることで、これら第一及び第二のタイプを適宜に使い分けて効率よく補強することができ、コストを抑制しつつ補強効果を高めることができる。
請求項に記載された発明によれば、鉛直部材と水平部材との接合部近傍に第一タイプの補強部材を用い、接合部から離隔された位置には第二タイプの補強部材を用いることで、地震時において変形や応力が大きく作用する接合部の応力を第一タイプの補強部材に負担させることができ、補強効果をより一層向上させることができる。一方、変形や応力がさほど大きくない接合部から離れた部位には第二タイプの補強部材を用いることで、設置コストを抑制させることができる。
請求項に記載された発明によれば、減衰材料から内部パネルを構成し、この内部パネルを所定のせん断力により塑性化させて履歴エネルギー吸収を行わせることで、建物全体のエネルギー吸収性能を高めることができる。ここで、減衰材料としては、一般的な建築構造用鋼材と比較して降伏強度が低くかつ延性(変形性能)に優れた極軟鋼等のダンパー用鋼材や、組織の再結晶化力を有した鉛などの金属材料、粘性体や粘弾性体など、各種の素材が利用可能である。
請求項に記載された発明によれば、正方形タイプの補強部材と、幅寸法と高さ寸法とが異なる長方形タイプの補強部材と、を備えることで、建物の階高や水平部材の高さ位置などに応じて適宜に両タイプの補強部材を混合して用いることで、様々な建物に対しても共通化した補強部材を適用することができる。具体的には、正方形タイプの補強部材を汎用部材として複数準備しておき、階高等によって半端な寸法となる位置に長方形タイプの補強部材を用いるようにすれば、正方形タイプの補強部材の製作コストを削減しつつ、様々な設置条件に柔軟に対応することができる。
請求項に記載された発明によれば、隣接補強部材を補強部材に隣り合わせて設置することで、補強効果をさらに高めることができる。また、隣接補強部材が補強部材と共通の全体矩形中空状に形成されているので、補強部材に並設して隣接補強部材を設置する際の固定作業を容易に実施することができる。
請求項に記載された発明によれば、隣接補強部材が複数段かつ複数列に配列され、補強部材から離れた列ほど段数が減じられた複数で構成されているので、鉛直部材から離れる側に傾斜したハンチ状に隣接補強部材を配列することができる。そして、前述と同じ第二固定手段によって隣り合う隣接補強部材同士、及び隣り合う補強部材と隣接補強部材とを固定するとともに、前述と同じ第三固定手段によって水平部材の下側に隣接補強部材を固定することで、固定構造を共通化できるとともに、これらの補強部材を鉛直部材及び水平部材に一体化することができる。従って、上下に積層した補強部材とハンチ状の隣接補強部材とを介して鉛直部材と水平部材とが連結されることとなり、これらの鉛直部材と水平部材とに亘って応力を伝達することができるので、補強効果をさらに一層向上させることができる。
本発明の一実施形態に係る補強構造を用いた建物を示す軸組図である。 前記建物の骨組みの一部及び前記補強構造を示す側面図である。 前記補強構造を拡大して示す側面図及び断面図である。 前記補強構造の下部を示す断面図である。 前記補強構造に用いる補強部材を示す断面図である。 前記補強部材のうち第一タイプの補強部材を示す斜視図である。 前記補強部材のうち第二タイプの補強部材を示す斜視図である。 前記補強構造の変形例を示す側面図である。 前記補強構造の他の変形例を示す側面図である。
以下、本発明の一実施形態に係る建物の補強構造を、図1〜図7に基づいて説明する。本実施形態の補強構造を適用した建物1は、例えば、鉄骨造の倉庫や事務所ビル等の既存建物であって、2階建て(一部中2階)の建物本体2とコンクリート製の基礎3とを有して構成されるものである。この建物1は、図1に示すように、張間方向(図の左右方向)が純ラーメン構造とされ、これと直交する桁行方向は、図示しない複数の鉛直ブレースを備えたブレース構造とされている。本実施形態では、張間方向のラーメンを構成する鉛直部材としての柱4及び水平部材としての梁5の耐力が不足していたり、柱4と梁5とが接合される接合部6の接合強度が不足していたりする場合において、張間方向に作用する地震力や風圧力等に対する水平耐力を補うための補強構造10を例示する。
図2〜4に示すように、基礎3は、地表面GLから立ち上がる立上部3Aと、この立上部3Aの側面に沿って増し打ちされた増打部3Bと、を有して形成されている。柱4は、一対のフランジ4Aとウェブ4Bとを有したH形鋼からなり、その強軸を張間方向に向けて設けられるとともに、柱脚が立上部3Aに根巻きされて図示しないアンカーボルト等を介して基礎3に固定されている。梁5は、一対のフランジ5A,5Bとウェブ5Cとを有したH形鋼からなり、柱4のフランジ4Aに溶接固定されたガセットプレート4Cを介して柱4にボルト接合されている。接合部6は、柱4のフランジ4A間と梁5のフランジ5A,5B間とで上下左右を囲まれた矩形状の領域であり、この接合部6には、桁行方向の梁7が接合されている。また、柱4には、接合部6の上下及び基礎3の上方に適宜な枚数のスチフナプレート4Dがフランジ4Aとウェブ4Bとに亘って溶接固定され、梁5には、接合部6の左右に適宜な枚数のスチフナプレート5Dがフランジ5A,5Bとウェブ5Cとに亘って溶接固定されている。なお、本実施形態では説明を省略するが、梁5の上側には、デッキプレートが載置され、このデッキプレートの上面に所定厚さを有したコンクリート製の床スラブが設けられている。
補強構造10は、柱4のフランジ4Aに沿って上下に積層される複数の補強部材11、12を備えて構成されている。補強部材11は、幅、高さ及び奥行きの各寸法が略同一の正方形タイプのものであって、補強部材11は、第一タイプの補強部材としての第一補強部材11Aと、第二タイプの補強部材としての第二補強部材11Bとで構成され、補強部材12は、幅及び奥行き寸法と高さ寸法とが異なる長方形タイプの調整用補強部材とされている。第一補強部材11Aは、接合部6の近傍である梁5の上下と基礎3の上側に設けられ、第二補強部材11Bは、接合部6から離隔した柱4の中間部に設けられている。また、調整用補強部材である補強部材12は、基礎3から梁5の下面までの高さや上下階の梁5間の高さによって、複数の補強部材11を積層しただけでは割り切れない半端な寸法が出る場合に用いられるものであって、その半端な寸法分を含めた高さ寸法を有して補強部材12が形成されている。従って、補強部材12は、各階(基礎3から梁5の間、又は上下の梁5間)において、1個が設けられていればよく、半端な寸法が出ない場合には補強部材12を省略して複数の補強部材11のみで補強構造10が構成されていてもよい。
また、補強構造10は、図3に示すように、補強部材11、12を柱4のフランジ4Aに固定する第一固定手段13と、上下に積層される補強部材11、12同士を互いに固定する第二固定手段14と、梁5の直下に位置する補強部材11を梁5の下フランジ5Bに固定する第三固定手段15と、梁5の直上に位置する補強部材11を梁5の上フランジ5Aに固定する第四固定手段16と、基礎3の直上に位置する補強部材11を基礎3に固定する第五固定手段17(図2、4参照)と、を備えて構成されている。なお、ここでは、上下に積層される全ての補強部材11、12が第一固定手段13によって柱4に固定された場合を示すが、上下の補強部材11、12同士が第二固定手段14によって互いに固定されていれば、補強部材11、12の全てが柱4に固定されていなくてもよい。また、第五固定手段17は、補強部材11を基礎3に固定するものの他に床スラブに固定するものとしても利用可能である。
補強部材11,12は、図5〜7にも示すように、柱4のフランジ4Aに沿う第一側面部21と、この第一側面部21の上端縁に連続して柱4から離れる方向に延びる上面部22と、第一側面部21の下端縁に連続して柱4から離れる方向に延びる下面部23と、上面部22及び下面部23の端縁同士を連結して第一側面部21と平行に延びる第二側面部24と、を有して全体矩形中空状かつ側方に開口して形成されている。このような補強部材11,12は、鋼板を曲げ加工して端縁同士を溶接接合して形成されてもよいし、鋼管を切断して形成されてもよいし、さらには各面部ごとの鋼板を互いに溶接接合して形成されてもよい。また、第一補強部材11A及び第二補強部材11Bは、その第一側面部21と第二側面部24との距離である幅寸法Bと、上面部22と下面部23との距離である高さ寸法Hと、これらに直交する奥行き寸法Dと、が略同一に形成された全体立方体状に形成されている。一方、補強部材12は、幅寸法B及び奥行き寸法Dがそれぞれ補強部材11と同一とされ、高さ寸法Hのみが補強部材11よりも大きく形成されている。また、第一補強部材11Aは、第一及び第二の側面部21,24と上面部22及び下面部23の各内面に四周が固定される内部パネル25を有して形成されている。
第一固定手段13は、図3(A),(B)に示すように、柱4のフランジ4Aと補強部材11、12の第一側面部21とを貫通する4本のボルト13Aと、これらの各ボルト13Aに螺合するナット13Bと、を有して構成されている。そして、補強部材11,12の第一側面部21には、ボルト13Aを挿通させる挿通孔21A(図5〜7参照)が形成されている。第二固定手段14は、補強部材11、12の上面部22及び下面部23を貫通する4本のボルト14Aと、これらの各ボルト14Aに螺合するナット14Bと、を有して構成されている。そして、補強部材11,12の上面部22及び下面部23には、それぞれボルト14Aを挿通させる挿通孔22A,23A(図5〜7参照)が形成されている。第三固定手段15は、梁5の下フランジ5Bと補強部材11の上面部22(挿通孔22A)とを貫通する4本のボルト15Aと、これらの各ボルト15Aに螺合するナット15Bと、を有して構成されている。第四固定手段16は、梁5の上フランジ5Aと補強部材11の下面部23(挿通孔23A)とを貫通する4本のボルト16Aと、これらの各ボルト16Aに螺合するナット16Bと、を有して構成されている。第五固定手段17は、図2、4に示すように、基礎3の増打部3Bに埋設されて補強部材11の下面部23(挿通孔23A)を貫通する4本のアンカーボルト17Aと、これらの各アンカーボルト17Aに螺合するナット17Bと、を有して構成されている。
本実施形態において、補強部材11,12は、例えば、一般構造用角形鋼管(STKR400)であって板厚寸法が12mmのものを切断して形成され、その幅寸法Bが250mm、奥行き寸法Dが250mmに設定されている。また、補強部材11は、高さ寸法Hが250mmに設定され、補強部材12は、高さ寸法Hが250mmを越えて500mm未満に設定されている。さらに、第一補強部材11Aの内部パネル25は、降伏点強度が低く(例えば、80〜250N/mm2)かつ延性に優れた(例えば、伸び性能が30〜50%程度)鋼材(極軟鋼や低降伏点鋼、ダンパー用鋼材等と称される鋼材)を用いて形成されている。また、ボルト13A,14A,15A,16Aは、例えば、中ボルト(M16)が用いられ、アンカーボルト17Aは、例えば、長さ320mmの建築構造用アンカーボルト(ABR400、M16)が用いられている。なお、補強部材11,12の材種や各部寸法、ボルト13A,14A,15A,16Aやアンカーボルト17Aの材種や径寸法などは、前述したものに限られず、適宜に選択可能であることは自明である。また、内部パネル25は、極軟鋼などに限られず、一般構造用鋼材(SS400等)や溶接構造用鋼材(SM400A〜C等)で形成されていてもよく、さらには鋼材に限らず、任意の素材から形成されていてもよい。
以上の補強構造10の施工手順としては、先ず、基礎3において、立上部3Aの側面にコンクリートを増し打ちして増打部3Bを形成するとともに、この増打部3Bの内部にアンカーボルト17Aを埋設しておく。また、柱4のフランジ4Aと梁5のフランジ5A,5Bには、それぞれボルト13A,15A,16Aを挿通させるための図示しない挿通孔を形成しておく。次に、アンカーボルト17Aの先端を補強部材11の挿通孔23Aに挿通させてから、アンカーボルト17Aにナット17Bを螺合させ、基礎3の直上に位置する補強部材11を基礎3に固定する。また、梁5の直下に位置する補強部材11の上面部22を梁5の下フランジ5Bに沿わせ、下フランジ5Bの挿通孔と上面部22の挿通孔22Aとにボルト15Aを挿通させてから、ボルト15Aにナット15Bを螺合させ、下フランジ5Bに補強部材11を固定する。これと同様に、梁5の直上に位置する補強部材11の下面部23を梁5の上フランジ5Aに沿わせ、上フランジ5Aの挿通孔と下面部23の挿通孔23Aとにボルト16Aを挿通させてから、ボルト16Aにナット16Bを螺合させ、上フランジ5Aに補強部材11を固定する。
次に、前述のように固定した上下の補強部材11間に他の補強部材11,12を順番に取り付けていく。先ず、下側の補強部材11の上に他の補強部材11(又は補強部材12)を重ねるか、あるいは、上側の補強部材11の下に他の補強部材11(又は補強部材12)を沿わせてから、互いの上面部22及び下面部23の挿通孔22A,23Aにボルト14Aを挿通させてから、ボルト14Aにナット14Bを螺合させ、上下に隣接する補強部材11同士を固定する。さらに、各補強部材11(又は補強部材12)と柱4とにおいて、第一側面部21の挿通孔21Aとフランジ4Aの挿通孔とにボルト13Aを挿通させてから、ボルト13Aにナット13Bを螺合させ、柱4に補強部材11(又は補強部材12)を固定する。以上の固定作業を繰り返し行うことで、補強部材11,12を上下に積層するとともに、これらの積層した補強部材11,12を柱4、梁5及び基礎3に固定し、これにより補強構造10の施工が完了する。なお、必要に応じて、基礎3と補強部材11の下面部23との間や、梁5のフランジ5A,5Bと補強部材11の上面部22又は下面部23との間、さらには柱4のフランジ4Aと補強部材11,12の第一側面部21との間、等の隙間に無収縮モルタルなどの充填材を充填したり、接着剤を充填して接着したりしてもよい。
このような補強構造10の施工手順によれば、複数の補強部材11,12を上下に積層することで、個々の補強部材11,12のサイズを小型化するとともに、モジュール化により形状や寸法を共通化することができる。従って、建物1の構造形式や各部の寸法(上下の梁5間の寸法等)に対して、共通の補強部材11を用いるとともに、半端な寸法に対して調整用補強部材である補強部材12によって調整することができ、補強部材11,12の製作コストや設置コストを抑制することができる。さらに、補強部材11,12が第一側面部21と上面部22と下面部23と第二側面部24とを有して全体矩形中空状に形成されているので、補強部材11,12自体を軽量化することができるとともに、積み重ねて搬送したり適宜な個数ずつを建物に搬入したりなど、搬送や搬入、設置の作業を容易に実施することができる。また、補強部材11,12の中空部を利用して柱4や梁5、基礎3への固定作業、及び補強部材11,12同士の固定作業を実施できることで、作業を容易に行うことができて施工性を向上させることができる。また、第一〜第四の固定手段13〜16がボルト13A,14A,15A,16A及びナット13B,14B,15B,16Bで構成され、第五固定手段17がアンカーボルト17A及びナット17Bで構成されているので、補強構造10の施工に際して溶接等の火気を使用する必要がないことから、現場養生等が簡略化できて既存の建物1内において施工しやすくできる。
次に、補強構造10の作用としては、地震等によって建物本体2が変形した場合、即ち鉛直部材である柱4及び水平部材である梁5に曲げ・せん断変形が生じた場合において、柱4及び梁5に固定した複数の補強部材11,12が変形に追従し、応力を負担することで建物本体2の荷重を支持するとともに変形を抑制させることができる。この際、特に応力や変形が集中しやすい接合部6の周辺に内部パネル25を有した第一補強部材11Aを設けていることで、柱4、梁5及び接合部6の変形に追従した第一補強部材11Aの内部パネル25にせん断力を負担させることができ、接合部6周辺の応力伝達を円滑化させることができる。さらに、内部パネル25が所定のせん断力により塑性化して履歴エネルギー吸収を行う減衰材料としての極軟鋼などから構成されているので、負担したせん断力に応じたエネルギー吸収による減衰力を発揮することができ、建物1の耐震性能を高めることができる。
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
例えば、本発明の補強構造としては、前記実施形態で説明した補強構造10のように補強部材11,12を柱4に沿った一列で取り付けたものに限らず、図8に示すように、柱4に沿う補強部材11を挟んで反対側に隣接する隣接補強部材18を備えたものでもよいし、図9に示すように、柱4の中間部や柱脚部の補強部材が省略されるとともに隣接補強部材18を備えたものでもよい。
具体的には、図8に示す補強構造10Aは、前記実施形態と同様の補強部材11,12と、柱頭部において補強部材11に隣接して設けられる複数(例えば、3個)の隣接補強部材18と、を備えて構成されている。隣接補強部材18は、第一補強部材11Aと共通部材で構成され、補強部材11に隣り合う2個の隣接補強部材18を上下に並べた第一列と、この第一列に隣り合って1個の隣接補強部材18を設けた第二列と、によって柱4から離れる側に向かって段数が減じられたハンチ状に構成されている。そして、第一列の隣接補強部材18は、補強部材11に対して第二固定手段14(ボルト14A及びナット14B)で固定されるとともに、上下の隣接補強部材18同士も第二固定手段14で固定され、上側の隣接補強部材18は、梁5の下フランジ5Bに対して第三固定手段15(ボルト15A及びナット15B)で固定されている。また、第二列の隣接補強部材18は、第一列の隣接補強部材18に対して第二固定手段14(ボルト14A及びナット14B)で固定され、梁5の下フランジ5Bに対して第三固定手段15(ボルト15A及びナット15B)で固定されている。
一方、図9に示す補強構造10Bは、図8の補強構造10Aのうち、柱頭部の3個の補強部材11と隣接補強部材18とで構成され、即ち、柱4の中間部や柱脚部に補強部材11,12を固定せず、接合部6の近傍のうちで梁5の下側のみに補強部材11及び隣接補強部材18を設けた構造となっている。以上のような補強構造10A,10Bによれば、柱4に沿った補強部材11に隣接してハンチ状に配列した隣接補強部材18を固定することで、柱4と梁5及び接合部6を互いに強固に連結することができ、これらの部材間において伝達可能な応力を高めて補強効果をさらに向上させることができる。そして、第二固定手段14及び第三固定手段15によって隣接補強部材18を固定することで、固定構造を共通化して施工性を良好にすることができる。さらに、補強構造10Bのように、柱4の中間部や柱脚部から補強部材11,12を省略することで、建物1の内部空間を有効に利用することができる。
また、前記実施形態では、倉庫や事務所ビル等の既存建物に補強構造10,10A,10Bを適用する場合を例示したが、本発明の補強構造は、既存建物に限らず、新築の建物にも適用可能である。また、本発明の補強構造は、建物1の張間方向のみならず、桁行方向にも適用することができ、張間方向及び桁行方向の両方向に適用してもよい。また、前記実施形態では、建物本体2の下階から上階までの全ての階における柱4に沿って補強構造10,10A,10Bを設けた形態を例示したが、これに限らず、補強が必要とされる階における適宜な本数の柱4に沿って補強構造が設けられていればよい。さらに、補強部材11,12を沿わせる鉛直部材としては、柱4に限らず壁等であってもよく、水平部材としては、梁5に限らず、床スラブ等であってもよい。
また、前記実施形態では、補強部材11,12として、第一側面部21、上面部22、下面部23及び第二側面部24によって四面が構成され、他の二面が開放された立方体状又は直方体状の形態を例示したが、これに限らず、補強部材の形態は、他の二面のうちの少なくとも一面が閉鎖されたものでもよい。さらに、補強部材11,12としては、前記実施形態のように鋼製のものに限られず、樹脂製やコンクリート製、セラミックス製など、その素材は特に限定されない。また、前記実施形態では、第一〜第四の固定手段13〜16としてボルト・ナット接合を採用したが、これに限らず、線溶接やスタッド接合などの任意の固定手段を採用することができる。ここで、線溶接としては、補強部材に貫通孔を形成しておき、この貫通孔の内周と固定対象部材(柱や梁、他の補強部材など)とを溶接接合して固定する固定手段である。また、スタッド接合としては、固定対象物にスタッドを固定しておき、このスタッドを補強部材の挿通孔に挿通させてナットを螺合する固定手段である。
さらに、前記実施形態では、建物本体の構造種別が鉄骨造の場合を例示したが、これに限らず、鉄筋コンクリート造や木造の建物を補強対象としてもよい。建物の鉛直部材や水平部材が鉄筋コンクリート造の場合、固定手段としては、ケミカルアンカー等のアンカー材を躯体に打ち込み、このアンカー材を補強部材の挿通孔に挿通させてナットを螺合するなどの構造を採用してもよい。また、建物が木造の場合には、固定金物をビス止め等によって柱や梁に固定しておき、この固定金物と補強部材とをボルト等によって固着してもよい。さらに、鉛直部材や水平部材を挟んで補強部材を設置する場合には、鉛直部材や水平部材にアンカーボルト等の貫通部材を貫通させておき、この貫通部材によって補強部材を固定してもよい。
1 建物
3 基礎
4 柱(鉛直部材)
5 梁(水平部材)
6 接合部
10,10A,10B 補強構造
11,12 補強部材
11A 第一補強部材(第一タイプの補強部材)
11B 第二補強部材(第二タイプの補強部材)
13 第一固定手段
14 第二固定手段
15 第三固定手段
16 第四固定手段
17 第五固定手段
18 隣接補強部材
21 第一側面部
22 上面部
23 下面部
24 第二側面部
25 内部パネル

Claims (7)

  1. 互いに接合された鉛直部材及び水平部材を有した建物の補強構造であって、
    前記鉛直部材が鉄骨製の柱であり、前記水平部材が鉄骨製の梁であり、該柱と該梁とが接合部を介して剛接されてラーメン架構を構成し、
    前記鉛直部材に沿って上下に積層される複数の補強部材と、
    前記複数の補強部材のうちの少なくとも一部を前記鉛直部材に固定する第一固定手段と、
    前記上下に積層される補強部材同士を互いに固定する第二固定手段と、
    前記水平部材の直下に位置する前記補強部材を該水平部材に固定する第三固定手段と、を備え、
    前記補強部材は、前記鉛直部材の側面に沿う第一側面部と、該第一側面部の上端縁に連続して前記鉛直部材から離れる方向に延びる上面部と、前記第一側面部の下端縁に連続して前記鉛直部材から離れる方向に延びる下面部と、前記上面部及び前記下面部の端縁同士を連結して前記第一側面部と平行に延びる第二側面部と、を有して全体矩形中空状に形成された鋼製部材であり、前記第一側面部と前記鉛直部材とが前記第一固定手段であるボルト−ナット接合、線溶接、あるいはスタッド接合によって直接固定され、
    前記複数の補強部材は、前記鉛直部材の略全長に沿って上下に積層されており、
    前記水平部材の直上に位置する前記補強部材を該水平部材に固定する第四固定手段、及び、基礎又は床スラブの直上に位置する前記補強部材を該基礎又は床スラブに固定する第五固定手段、の少なくとも一方を備えて構成され
    上下に積層された前記複数の補強部材のうち、下側に位置する前記水平部材、前記基礎又は前記床スラブから上側に位置する前記水平部材までの高さにおける下側から過半の高さ範囲に位置する複数の補強部材は、それらの前記第二側面部に他の補強部材が固定されず前記鉛直部材の反対側が開放されていることを特徴とする建物の補強構造。
  2. 前記複数の補強部材は、前記上面部、前記下面部、前記第一及び第二の側面部の各内面に四周が固定される内部パネルを有した第一タイプのものと、前記内部パネルを有しない第二タイプのものと、を備えて構成されることを特徴とする請求項1に記載の建物の補強構造。
  3. 前記第一タイプの補強部材は、前記鉛直部材と前記水平部材とが接合される接合部の近傍に設けられ、前記第二タイプの補強部材は、前記接合部から離隔された位置に設けられていることを特徴とする請求項に記載の建物の補強構造。
  4. 前記内部パネルは、所定のせん断力により塑性化して履歴エネルギー吸収を行う減衰材料から構成されることを特徴とする請求項又はに記載の建物の補強構造。
  5. 前記複数の補強部材は、前記上面部及び前記下面部の幅寸法と前記第一及び第二の側面部の高さ寸法とが略同一の正方形タイプのものと、前記上面部及び前記下面部の幅寸法と前記第一及び第二の側面部の高さ寸法とが異なる長方形タイプのものと、を備えて構成されることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の建物の補強構造。
  6. 前記鉛直部材に沿う前記補強部材を挟んで該鉛直部材の反対側に隣接して設けられる一又は複数の隣接補強部材をさらに備え、
    前記隣接補強部材は、前記補強部材と共通の全体矩形中空状に形成されていることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の建物の補強構造。
  7. 前記隣接補強部材は、複数段かつ複数列に配列されるとともに、前記鉛直部材に沿う前記補強部材から離れた列ほど段数が減じられた複数で構成されており、
    上下左右に隣り合う前記隣接補強部材同士、及び隣り合う前記補強部材と前記隣接補強部材とが、前記第二固定手段によって互いに固定され、
    前記水平部材の直下に位置する前記隣接補強部材と該水平部材とが前記第三固定手段によって固定されていることを特徴とする請求項に記載の建物の補強構造。
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