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JP5947539B2 - 磁気特性の異方性に優れる高速回転ipmモータのロータ鉄心用鋼板、その製造方法、ipmモータのロータ鉄心及びipmモータ - Google Patents

磁気特性の異方性に優れる高速回転ipmモータのロータ鉄心用鋼板、その製造方法、ipmモータのロータ鉄心及びipmモータ Download PDF

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Description

本発明は、電気自動車、ハイブリッド自動車、工作機械などに主に使用される永久磁石埋め込み型モータ(IPMモータ)のロータ鉄心用鋼板、その製造方法、IPMモータのロータ鉄心及びIPMモータに関する。
一般に、IPMモータは、誘導電動機モータと比べ、高価な永久磁石を使用するため、コストは高くなるものの、高効率であり、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動用モータや発電用モータ、さらには各種工作機械用のモータとして広く使用されてきている。
IPMモータの鉄心は、ステータ(固定子)とロータ(回転子)とに分けられるが、ステータ側には巻線を通じて、交流磁界が直接付与されるため、高効率化のためには、鉄心には高透磁率であることが求められるとともに、体積抵抗率を高めて、鉄損を低減する必要があった。そのため、ステータ用の鉄心には、極低炭素鋼にSiやAlを添加して軟磁気特性を改善した電磁鋼板が用いられている。
一方、ロータには、永久磁石が埋め込まれ、鉄心は主にヨークとして磁束密度を高める役割を担っており、ステータ側から発生する僅かな交流磁界の影響は受けるもののその影響は限定的である。しかし、ステータのみに電磁鋼板を使用すると、電磁鋼板の製品歩留りが低下してモータの製造コストが高くなることもあって、通常はステータ側と全く同じ電磁鋼板を素材として用いていた。
一般に、自動車駆動用のIPMモータでは、高速回転化による体格の小型化が推進されているが、ロータには永久磁石が埋め込まれているため、回転速度が速くなり過ぎると、永久磁石に働く遠心力によってロータの突極部近傍が変形してステータと接触し、最終的にはモータの破損に至る。
回転速度の限界は、ロータ用鉄心の板厚や形状が同一の場合には、ロータ用鉄心の降伏強度に依存する。例えば、3質量%程度のSiを含有する無方向性電磁鋼板(35A300)の場合、磁性焼鈍後の降伏強度は約400N/mm程度であり、現状ではせいぜい15000rpm程度までが回転速度の限界と考えられている。これまでも、電磁鋼板をベースに鉄心の降伏強度を高くする検討が種々行われている。
例えば、特許文献1には、磁気特性及び耐変形性の優れた電磁鋼板及びその製造方法が開示されている。また、特許文献2には、鉄損特性の内、ヒステリシス損よりも渦電流損の改善に着目し、高強度化との両立を図った鋼板及びその製造方法が開示されている。特許文献2に開示される製造方法は、Cを通常の電磁鋼板よりも高め、連続焼鈍設備にて変態強化することを特徴とする。また、特許文献3には、C:0.06質量%超〜0.90質量%以下、Si:0.05質量%〜3.0質量%、Mn:0.2質量%〜2.5質量%、P:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、酸可溶Al:0.005質量%〜4.95質量%を、Si+Al:5.0質量%以下なる条件で含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有する熱間圧延鋼板を1回又は中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を施して所定の板厚とし、その後、200〜500℃の温度に加熱するIPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法が開示されている。さらに、特許文献4には、高速回転時の疲労特性の改善を目的として、圧延方向から45°方向の磁束密度が高い無方向性電磁鋼板及びその製造方法が開示されている。
特開2005−133175号公報 特開2005−60811号公報 特開2009−46738号公報 特開2009−299102号公報
しかしながら、特許文献1に開示される方法では、軟磁気特性の改善に力を注いでいるため、十分な強度を確保することができない。
特許文献2に開示される方法では、焼入れままではヒステリシス損が大きくなり過ぎて交流磁界を付与しても十分に励磁することができず、磁束密度が低くなる。そのため、IPMモータのリラクタンストルクが低下してモータ効率が低下する。なお、特許文献2の図2において、焼入れままの電磁鋼板は、同じ体積抵抗率の従来技術による電磁鋼板よりも渦電流損が低い値となっているが、これは、同じ条件で励磁しても、磁壁の移動が磁界の変化に追随できず、磁界の変化幅が見かけ上小さくなったためと考えられる。すなわち、特許文献2に開示される電磁鋼板では、鋼中の転位密度が非常に高く、しかも複雑に絡み合っているために、励磁しても磁壁の移動が磁界の変化に追随できず、結果的に磁束密度の値が低くなっている。
特許文献3では、高強度かつ高磁束密度の鋼帯を得ることが可能であるが、種々の製造条件において磁束密度の異方性に関する実験を行ったところ、電磁鋼板のような再結晶集合組織を有する鋼板では、圧延方向の磁束密度のみ高くなる異方性を有していること、また、変態強化を使用した高強度鋼板では、圧延方向から90°方向の磁束密度のみ高くなる異方性を示していることがわかった。また、冷間圧延による加工強化を利用した高強度鋼板では、熱延条件及び冷延条件によっては圧延前の集合組織の影響を引継いで、圧延方向の磁束密度のみ高くなる異方性を示す場合があることもわかった。ロータは、鋼板を積層して製造され、最近では積層する際に円周方向に少しづつずらしながら積層するなどの製造方法も行われているが、素材鋼板の磁束密度の異方性が大きいと、コギングトルクが大きくなり回転時の振動が大きくなる等、モータ性能の劣化は避けられない。
特許文献4は、C含有量が低い鋼板だけを対象としており、高磁束密度かつ780N/mmを超える高強度を有する鋼板の例は示されていない。また、引張強度に関しては圧延方向から45°方向が最も低くなる異方性を有していることが示されているが、磁束密度の異方性に関する知見は得られず、磁束密度を高くすることで同時に高強度化が達成されるとの作用効果が示されているだけである。この場合、磁束密度が高いほど高強度であることから、磁束密度の異方性も圧延方向から45°方向の磁束密度が最も低くなっていることが推察される。
従って、本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、IPMモータのロータ用鉄心として用いるときにIPMモータのリラクタンストルクの低下を招くことなく、高速回転に対応可能な高い降伏強度及び良好な磁束密度の異方性を有するロータ鉄心用鋼板を提供することを目的とする。
また、本発明は、そのようなロータ鉄心用鋼板の製造方法、IPMモータのロータ鉄心及びIPMモータを提供することも目的とする。
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく、磁束密度の異方性の改善及び高強度化を図ると同時に、磁気特性の劣化を最小限に抑制してモータのリラクタンストルクを最大限に有効活用する方策を探索した。そして、本発明者らは、鋼材の成分組成、金属組織の調整法等を鋭意検討した結果、特定の成分組成とした上で、熱間圧延及び冷間圧延の条件を制御することにより、高強度かつ良好な磁束密度の異方性を有する鋼板が得られ、高速回転による変形や振動が抑制されるとともに、リラクタンストルクを確保するための高磁束密度の鋼板が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、C:0.03質量%〜0.90質量%、Si:0質量%〜1.5質量%、Mn:0.05質量%〜2.5質量%、P:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、酸可溶Al:0.005質量%〜0.5質量%かつSi+Al:1.6質量%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、引張試験による降伏強度が780N/mm以上であり、磁界の強さが8000A/mのときの圧延方向から45°方向の磁束密度BB8000が1.70T以上であり、下記(1)式にて計算される平均の磁束密度BA8000が1.65T以上でありかつBB8000≧BA8000であることを特徴とする磁気特性の異方性に優れる高速回転IPMモータのロータ鉄心用鋼板である。
A8000=(BL8000+2×BB8000+BC8000)/4・・・(1)
(ここで、BL8000:圧延方向の磁束密度、BB8000:圧延方向から45°方向の磁束密度、BC8000:圧延方向から90°方向の磁束密度)
本発明の高速回転IPMモータのロータ鉄心用鋼板は、必要に応じて、Ti、Nb、V、Cu、Ni、Mo、Cr及びBからなる群から選択される1種以上を含有することも可能である。
また、本発明の高速回転IPMモータのロータ鉄心用鋼板は、ロータ鉄心での鉄損低減の観点から、鋼板の少なくとも片方の表面に、有機成分からなる絶縁皮膜、無機成分からなる絶縁皮膜又は有機・無機複合材料からなる絶縁皮膜が形成されていることが好ましい。なお、絶縁皮膜の形成は、加熱処理の前後のいずれで行ってもその効果は変わらない。
上述の高速回転IPMモータのロータ鉄心用鋼板は、上述の成分組成を有するスラブを連続鋳造後、得られたスラブを1150℃以上の温度に加熱し、700℃以上かつ下記(2)式によって計算されるAc点−30℃以上の温度で仕上げ圧延を施した熱延鋼板を、1回の冷間圧延又は中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延で最終圧延率を40%以上とすることにより製造される。
Ac=937.2−476.5×C+56×Si−19.7×Mn−4.9×Cr+38.1×Mo−26.6×Ni+124.8×V−16.3×Cu+136.3×Ti−19.1×Nb+198.4×Al+3315×B・・・(2)
また、上述のような製造方法において、1回の冷間圧延又は中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延で最終圧延率を40%以上とした後、200〜500℃の温度に加熱してもよい。さらに、200〜500℃の温度に加熱し、同温度域に保持した状態でプレステンパー処理やテンションアニーリング処理を施すと板形状の点でも有利である。
さらに、高磁束密度の得る観点から、冷間圧延前の金属組織が、フェライト、パーライト、ベイナイト及びマルテンサイトからなる群から選択される1種以上からなるとともに、必要に応じてFe、Ti、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物を含有することが望ましい。
本発明によれば、高降伏強度及び高磁束密度を有し、磁気特性の異方性が優れたロータ鉄心用鋼板を提供することができる。この鋼板をIPMモータのロータ鉄心として用いることにより、IPMモータのリラクタンストルクの低下を招くことなく、スムーズに高速回転可能なIPMモータのロータが得られる。
実施例3で作製したロータの部分拡大図である。
本発明のIPMモータのロータ鉄心用鋼板は、C:0.03質量%〜0.90質量%、Si:0質量%〜1.5質量%、Mn:0.05質量%〜2.5質量%、P:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、酸可溶Al:0.005質量%〜0.5質量%かつSi+Al:1.6質量%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、引張試験による降伏強度が780N/mm以上であり、磁界の強さが8000A/mのときの圧延方向から45°方向の磁束密度BB8000が1.70T以上であり、下記(1)式にて計算される平均の磁束密度BA8000が1.65T以上でありかつBB8000≧BA8000であることを特徴とするものである。
A8000=(BL8000+2×BB8000+BC8000)/4・・・(1)
ここで、BL8000は圧延方向の磁束密度であり、BB8000は圧延方向から45°方向の磁束密度であり、BC8000は圧延方向から90°方向の磁束密度である。
鋼材の成分には、Ti、Nb及びVからなる群から選択される1種以上の成分が、合計で0.01質量%〜0.20質量%含有されてもよく、また、Cu:0.1質量%〜1.5質量%、Ni;0.1質量%〜1.0質量%、Mo:0.1質量%〜0.6質量%、Cr:0.1質量%〜1.0質量%及びB:0.0005質量%〜0.005質量%からなる群から選択される1種以上の成分が含有されてもよい。
鋼材の成分組成を限定した理由は以下の通りである。
<C:0.03質量%〜0.90質量%>
Cは、鋼中に固溶またはセメンタイト(FeC)として析出し、高強度化に有効な元素である。780N/mm以上の降伏強度を得るためには、0.03質量%以上のCを含有させる必要がある。しかし、0.90質量%を超えて含有させると、磁束密度が低くなる。
<Si:0質量%〜1.5質量%>
Siは、高強度化に有効である上に、体積抵抗率を高め、渦電流損を小さくするのに有効な元素であるが、本発明では添加しなくてもよい。渦電流損の抑制や高強度化の効果を得ようとするためには、0.01質量%以上含有させる必要がある。しかし、1.5質量%を超えて含有させると、オーステナイト域での熱間圧延が困難となることに起因して、良好な磁束密度の異方性が得られなくなる。
<Mn:0.05質量%〜2.5質量%>
Mnは、高強度化に有効な元素である。その効果を得るためには、0.05質量%以上の含有させることが必要である。しかし、2.5質量%を超えて含有させると、強度の向上効果は飽和するとともに、かえって磁束密度の低下を招く。
<P:0.05質量%以下>
Pは、高強度化に有効な元素であるが、鋼の靭性を著しく低下させる。IPMモータのロータとしては打抜きや簡単なカシメ加工が施されるのみであり、実用上0.20質量%までの添加は許容できるが、打抜いた部品の搬送等の取扱時に誤って破損させる可能性がある。本発明では、0.05質量%までは許容できるため、上限を0.05質量%とする。
<S:0.02質量%以下>
Sは、高温脆化を引き起こす元素であり、大量に含有させると、熱間圧延時に表面欠陥を生じ、表面品質を劣化させる。したがって、できるだけ低減することが望まれる。0.02質量%までは許容できるため、上限を0.02質量%とする。
<酸可溶Al:0.005質量%〜0.5質量%、Si+Al:1.6質量%以下>
Alは脱酸剤として添加されるほか、Siと同様に鋼の体積抵抗率を上昇させるのに有効な元素である。その効果を発揮するためには、0.005質量%以上の酸可溶Alを含有させることが必要である。しかし、酸可溶Al単独で0.5質量%を超えて含有させたり、Siとの合計で1.6質量%を越えて含有させると、オーステナイト域での熱間圧延が困難となることに起因して良好な磁束密度の異方性が得られなくなる。
<Ti、Nb及びVの1種以上:0.01質量%〜0.20質量%>
Ti、Nb及びVは、鋼中で炭窒化物を形成し、析出強化による高強度化に有効な元素である。その効果を得るためには、1種又は2種以上を合計で、0.01質量%以上の添加が必要である。しかし、0.20質量%を超えて添加しても、析出物の粗大化により強度上昇は飽和するとともに、製造コストの増大を招く。
<Cu:0.1質量%〜1.5質量%、Ni:0.1質量%〜1.0質量%、Mo:0.1質量%〜0.6質量%、Cr:0.1質量%〜1.0質量%及びB:0.0005質量%〜0.005質量%の1種以上>
Cu、Ni、Mo、Cr及びBは、鋼の焼入れ性を高めたり、析出強化による高強度化に有効な元素である。その効果を得るためには、Cu、Mo、Cr及びBの1種以上を、それぞれ設定した下限値以上添加することが必要である。しかし、それぞれ設定した上限値を超えて添加してもその効果は飽和するととともに製造コストの増加を招く。なお、1種だけの添加でも2種以上の添加でもその効果は認められるが、2種以上を添加する場合は、それぞれ設定した上限値の1/2を超える量を添加すると、その効果に比して製造コストの上昇が大きくなるので、1/2以下の量で添加することが望ましい。
機械的特性を限定した理由は以下の通りである。
<降伏強度:780N/mm以上>
15000rpmを超える超高速回転における遠心力でのロータの変形を抑制するため、鋼板の降伏強度は780N/mm以上とした。なお、本発明における降伏強度は、JIS5号引張試験片を用い、JIS Z2241に準拠した引張試験方法により測定されるものである。
磁気特性を限定した理由は以下の通りである。
<磁界の強さが8000A/mのときの圧延方向から45°方向の磁束密度BB8000:1.70T以上>
電磁鋼板や熱処理により強化した鋼板では、再結晶や変態に伴う集合組織の影響を受け、磁束密度は圧延方向又は圧延方向から90°方向だけが高くなる傾向を示す。この場合、圧延方向から45°方向の磁束密度が低くなるため、全方位の平均的な磁束密度も低くなるとともに、異方性の影響を受け、これらの鋼板をロータの素材としてモータを製造すると、コギングトルクが大きくなる。
一方、圧延方向から45°方向の磁束密度を圧延方向や圧延方向から90°方向よりも高くするとともに、下記のように平均の磁束密度を高くすれば、異方性の影響を効果的に抑制できることを見出した。この効果を得るためには、圧延方向から45°方向の磁束密度BB8000を1.70T以上にする必要がある。この値は高ければ高いほど良く、上限は特に設定しない。
<平均の磁束密度BA8000:1.65T以上かつBB8000≧BA8000
ロータ鉄心に用いられる鋼板は、主にヨークの役割を果たすとともに、ロータとして高速回転する際に磁石を挿入した位置(d軸)と挿入していない位置(q軸)でのインダクタンスの値の差に基づくリラクタンストルクを有効に活用し、特に高速回転領域において従来の鋼板と同等以上のトルク性能を発揮するためには、下記(1)式で計算される磁界の強さが8000A/mのときの平均の磁束密度BA8000が1.65T以上であることが必要である。また、圧延方向から45°方向の磁束密度BB8000が平均の磁束密度BA8000以上となる異方性とすることで、モータを製造した際の振動を抑制することが可能となる。
A8000=(BL8000+2×BB8000+BC8000)/4・・・(1)
ここで、BL8000は圧延方向の磁束密度であり、BB8000は圧延方向から45°方向の磁束密度であり、BC8000は圧延方向から90°方向の磁束密度である。
上述した通り、本発明のIPMモータのロータ鉄心用鋼板は、高速回転に耐え得る高強度と高いリラクタンストルクを得るための高磁束密度及び圧延方向から45°方向の磁束密度が高い良好な異方性を有している。このようなIPMモータのロータ鉄心用鋼板は、鋼板の成分組成を調整するだけでは得られず、適正な条件の熱間圧延及び冷間圧延を施すことによって得ることができる。これは、オーステナイト域にて仕上げ圧延を行う熱間圧延によって得た比較的ランダムな集合組織をベースとすることで、冷間圧延後に圧延面において(001)〔110〕を主方位とする集合組織が形成された結果であると考えられる。以下に、製造条件の詳細について説明する。
<熱間圧延条件>
連続鋳造によって得たスラブは、1150℃以上の温度に加熱し、700℃以上かつ下記(2)式で計算されるAc−30℃以上の温度で仕上げ圧延を施すことによって、実質的にオーステナイト域での仕上げ圧延となることに起因して熱間圧延ままでは比較的ランダムな集合組織とし、冷間圧延後に圧延方向から45°方向の磁束密度を高めることが可能となる。熱間圧延の加熱温度が1150℃未満の場合、鋼中の炭化物等の固溶が十分では無くなるとともに、Ac−30℃以上の仕上げ圧延温度の確保が難しくなる。熱間圧延における仕上げ温度が700℃を下回るか又はAc−30℃を下回ると、仕上げ圧延がフェライト域圧延となることにより、熱延鋼板において圧延方向と平行な方向の磁束密度が高くなる集合組織が発達し、冷間圧延後に良好な磁束密度の異方性が得られなくなる。なお、巻取り温度は高温になり過ぎると酸化スケールが厚くなり、その後の酸洗性を阻害するため、700℃以下とすることが望ましい。
Ac=937.2−476.5×C+56×Si−19.7×Mn−4.9×Cr+38.1×Mo−26.6×Ni+124.8×V−16.3×Cu+136.3×Ti−19.1×Nb+198.4×Al+3315×B・・・(2)
<金属組織>
熱間圧延により得られた鋼板(冷間圧延前の鋼板)の金属組織は、高い磁束密度を得るためには、強磁性体であるフェライト、パーライト、ベイナイト及びマルテンサイトからなる群から選択される1種以上からなるとともに、必要に応じてFe、Ti、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物を含有することが望ましい。なお、非磁性であるオーステナイト相が含まれると磁束密度が低下するので、オーステナイトを含まない組織とする。
<冷間圧延・加熱条件>
得られた熱間圧延鋼板は、焼鈍後に1回の冷間圧延を施してもよいし、中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を施してもよいが、最終圧延率を40%以上とすることが望ましい。冷間圧延率が40%未満では、圧延方向から45°方向の磁束密度が高くなる良好な異方性が得られなくなる場合がある。本発明では、冷間圧延ままでも高強度化と高磁束密度及び良好な磁束密度の異方性を達成することが可能であるが、冷間圧延後に再結晶温度未満の比較的低温域である200℃〜500℃の範囲の温度に加熱することにより高強度を維持しつつ、安定して高磁束密度を得ることが可能となる。
<プレステンパー処理>
冷間圧延ままの鋼板に、再結晶温度未満の比較的低温域である200〜500℃に再加熱するとともに、同温度域にてプレステンパー処理を施すと、冷間圧延によって導入された転位の再配列が生じ、残留応力を低減して鋼板の平坦度を改善することが可能となるので望ましい。加熱温度が200℃未満では、十分な平坦度が得られず、一方、500℃を超えると、転位の回復の進行に伴って大幅に軟質化し、十分な降伏強度が得られなくなる。なお、プレステンパーの圧力は鋼板の形状が平坦に保たれる程度であれば、特別に大きくする必要は無く、例えば板厚が1.0mm以下の薄鋼板の場合、1kg/cm未満の小さな圧力でも十分である。
<テンションアニーリング処理>
前記のプレステンパー処理と同様に、冷間圧延ままの鋼板に、再結晶温度未満の比較的低温域である200〜500℃にてテンションアニーリング処理を施すことにより、冷間圧延によって導入された転位の再配列が生じ、残留応力を低減して鋼板の平坦度を改善することが可能となるので望ましい。加熱温度が200℃未満では、十分な平坦度が得られず、一方、500℃を超えると、前述の通り軟質化し、十分な降伏強度が得られなくなる。また、テンションアニーリングの引張張力は鋼板の形状が平坦に保たれる程度であれば、特別に大きくする必要は無く、1N/mm以上の張力で十分にその効果が得られる。しかし、200N/mmを超える張力を付与すると、炉内での板切断が生じる場合があり、上限を200N/mmにすることが望ましい。
<絶縁皮膜の形成>
本発明では、ロータに発生する渦電流損の低減を目的として、鋼板の少なくとも片方の表面に、有機材料からなる絶縁皮膜、無機材料からなる絶縁皮膜及び有機・無機複合材料からなる絶縁皮膜を形成することが好ましい。無機材料からなる絶縁皮膜の例としては、六価クロムのような有害物質を含まず、リン酸二水素アルミニウムを含有する無機質系水溶液が挙げられるが、良好な絶縁が得られれば、有機材料からなる絶縁皮膜または有機・無機複合材料からなる絶縁皮膜を用いてもよい。絶縁被膜は、上記で例示した材料を鋼板の表面に塗布することにより形成することができる。
本発明のIPMモータのロータ鉄心用鋼板を所定の形状に打抜いて打抜き片とし、これを複数枚積層させることにより、IPMモータのロータ鉄心を得ることができる。このロータ鉄心に設けられた磁石埋め込み用の収容孔に永久磁石を埋め込むことで、IPMモータ用のロータを得ることができる。本発明のIPMモータのロータ鉄心用鋼板は、極めて高強度であるために、永久磁石間のセンターブリッジを省略しても、高速回転に耐え得るロータ強度を確保することができる。このようにセンターブリッジを省略することで、永久磁石からの漏れ磁束を抑止することができるので、トルク性能の向上したIPMモータとすることができる。結果として、IPMモータの更なる小型化や永久磁石の小型化が期待できる。また、磁束密度の異方性に優れるため、モータとしての振動を抑制することが可能となる。
<実施例1>
表1及び2に示す成分組成を有する鋼を真空溶解し、これらの連鋳片を1250℃に加熱し、950℃で仕上げ圧延して560℃で巻取り、板厚1.8mmの熱間圧延鋼板を得た。これらの熱間圧延鋼板を酸洗した後、一回の冷間圧延にて板厚0.35mmの冷間圧延鋼帯を得た(最終圧延率:約81%)。
得られた冷間圧延鋼帯を400℃に設定した連続炉に60秒通板してテンションアニーリング処理(引張張力100N/mm)を施した。また、その後、Cr系酸化物及びMg系酸化物を含有する半有機組成の約1μmの厚さの絶縁皮膜を鋼板の両面に形成した。
Figure 0005947539
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得られた鋼帯からJIS5号試験片を切り出し、引張試験に供した。また、圧延方向、圧延方向から45°方向及び90°方向に幅10mm、長さ100mmの短冊状の試験片を採取し、1次巻線:240ターン、2次巻線:400ターンとした小型のエプスタイン試験枠を用いて、各方向ごとに8000A/mにおける磁束密度を測定し、上記した(1)式にて8000A/mにおける平均の磁束密度BA8000を計算により求めた。さらに、幅10mmの短冊状のサンプルを圧延方向と平行な方向から切出し、先端r0.5mmの90°曲げ試験に供した。曲げ試験において、割れが発生しなかったものを曲げ性良好(○)、割れが発生したものを曲げ性不良(×)として曲げ性を評価した。金属組織は、冷間圧延前の鋼板の圧延方向の板厚断面を2%ナイタール試薬(2%硝酸・エチルアルコール溶液)にてエッチングを施し、走査型電子顕微鏡を用いた観察により、その組織形態から、フェライト、パーライト、ベイナイト、マルテンサイト等の組織に分類した。
各サンプルの降伏強さ、引張強さ、降伏比(YR)、曲げ性、平均の磁束密度(BA8000)、圧延方向から45°方向の磁束密度(BB8000)及び冷間圧延前の金属組織を表3及び4に示した。
Figure 0005947539
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表3及び4の結果から明らかなように、C含有量の少ないNo.1鋼では、降伏強さが780N/mmよりも低くなった。また、C、Si、Al及びMnの添加量が本発明の範囲を超えるNo.14、17、18及び19鋼では、BA8000が1.65T未満及び/又はBB8000が1.70T未満と低い値を示した。なお、Al及びSi+Al量が本発明範囲を超えるNo.18鋼では、Ac変態点が高すぎるため、熱間圧延の仕上圧延がフェライト域での圧延となっていた。
また、Pの添加量が本発明の範囲を超えるNo.20鋼では、曲げ性に劣っておりロータ形状への加工が困難となることがわかった。
一方、本発明の範囲を満足する成分組成を有し、本発明の範囲の冷間圧延と熱処理を施したものは、高い降伏強度と高磁束密度及び圧延方向から45°方向の磁束密度が高い良好な異方性を有していることから、機械的強度が要求される高速回転IPMモータのロータ用鋼板として好適である。
<実施例2>
表1に示す成分組成を有する鋼の内、No.9、13、22及び25鋼について、連鋳片を1250℃に加熱し、それぞれ表5に示す温度で仕上げ圧延して600℃で巻取り、板厚1.8mmの熱間圧延鋼板を得た。これらの熱間圧延鋼板を酸洗した後、一旦板厚1.0mm、0.50mm、0.40mm及び0.32mmまで冷間圧延後、800℃で60秒均熱、平均冷却速度:約10℃/sで550℃まで冷却する一次冷却、引続き400℃まで180秒で冷却後室温まで急冷する二次冷却の条件での連続焼鈍を施し、その後、更に、板厚0.30mmまで冷間圧延を施し、最終圧延率を6.25%〜70%まで変化させた。また、その後、Cr系酸化物及びMg系酸化物を含有する半有機組成の約1μmの厚さの絶縁皮膜を鋼板の両面に形成した。なお、絶縁皮膜を形成する際、300℃まで過熱する塗装焼付け処理を施した。
各サンプルの降伏強さ、引張強さ、降伏比(YR)、曲げ性、平均の磁束密度(BA8000)、圧延方向から45°方向の磁束密度(BB8000)及び冷間圧延前の金属組織を実施例1と同様にして評価した。結果を表5に示した。
Figure 0005947539
表5の結果から明らかなように、熱間圧延の仕上げ温度が本発明範囲よりも低い場合、平均の磁束密度BA8000及び圧延方向から45°方向の磁束密度BB8000のいずれも目標とする値よりも低くなる。また、熱間圧延の仕上げ温度が本発明範囲であった場合でも、最終圧延率が本発明の範囲外になると、平均の磁束密度BA8000及び/又は圧延方向から45°方向の磁束密度BB8000が1.70T未満となるとともにBA8000>BB8000となり、圧延方向から45°方向の磁束密度が平均よりも低い値を示す。なお、冷延率が10%未満の場合には、降伏強度も780N/mmより低い値を示す。
<実施例3>
表6に示すように、実施例1で製造した板厚0.35mmのNo.8鋼及びNo.18鋼並びに実施例2で製造した板厚0.30mmのNo.22鋼の一部について、図1に示す8極(4極対)構造のロータを打抜き加工により作製し、負荷トルクを付与したモータ性能評価試験に供した。なお、比較のため市販の電磁鋼板(35A300)を素材としたロータも同時に作製し、同様の評価に供した。作製したロータ及びステータの仕様は以下の通りである。
◎ロータの仕様
・外径:80.1mm、軸長50mm
・積層枚数:0.35mm/140枚、0.30mm/163枚
・センターブリッジ、アウターブリッジの幅:1.0mm
・永久磁石:NEOMAX−38VH、9.0mm幅×3.0mm厚×50mm長さ、合計16個埋め込み
◎ステータの仕様
・ギャップ長:0.5mm
・外径:138.0mm、ヨーク厚:10mm、長さ:50mm
・鉄心素材:電磁鋼板(35A300)、板厚0.35mm
・積層枚数:140枚
・巻線方式:分布巻き
Figure 0005947539
なお、ステータは1個のみ製造し、製造したロータを組替えてモータとしての性能評価に供した。インバータのキャリア周波数10kHz、直流電源の最大電圧:220V、最大電流:24Aの入力条件において、それぞれのロータを組込んだときの5000rpm〜15000rpmにおけるモータの最大トルクと効率を表7にまとめて示した。
Figure 0005947539
表7の結果から明らかなように、電磁鋼板を含むBB8000が低い鋼板をロータ鉄心の素材としたロータを組込んだモータでは、本発明の良好な異方性を有する鋼板をロータ鉄心とした場合と比較して、2%以上効率が劣っており、とくにトータルトルクにおけるリラクタンストルクの割合が大きくなる15000rpmの高速回転域では、効率の差はより大きくなることがわかる。

Claims (12)

  1. C:0.03質量%〜0.90質量%、Si:0質量%〜1.5質量%、Mn:0.05質量%〜2.5質量%、P:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、酸可溶Al:0.005質量%〜0.5質量%かつSi+Al:1.6質量%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、引張試験による降伏強度が780N/mm以上であり、磁界の強さが8000A/mのときの圧延方向から45°方向の磁束密度BB8000が1.70T以上であり、下記(1)式にて計算される平均の磁束密度BA8000が1.65T以上でありかつBB8000≧BA8000であることを特徴とする高速回転IPMモータのロータ鉄心用鋼板。
    A8000=(BL8000+2×BB8000+BC8000)/4・・・(1)
    (ここで、BL8000:圧延方向の磁束密度、BB8000:圧延方向から45°方向の磁束密度、BC8000:圧延方向から90°方向の磁束密度)
  2. Ti、Nb及びVからなる群から選択される1種以上の成分を合計して0.01質量%〜0.20質量%さらに含有する請求項1に記載の高速回転IPMモータのロータ鉄心用鋼板。
  3. Cu:0.1質量%〜1.5質量%、Ni:0.1質量%〜1.0質量%、Mo:0.1質量%〜0.6質量%、Cr:0.1質量%〜1.0質量%及びB:0.0005質量%〜0.005質量%からなる群から選択される1種以上の成分をさらに含有する請求項1又は2に記載の高速回転IPMモータのロータ鉄心用鋼板。
  4. 鋼板の少なくとも片方の表面に、有機材料からなる絶縁皮膜、無機材料からなる絶縁皮膜又は有機・無機複合材料からなる絶縁皮膜が形成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の高速回転IPMモータのロータ鉄心用鋼板。
  5. C:0.03質量%〜0.90質量%、Si:0質量%〜1.5質量%、Mn:0.05質量%〜2.5質量%、P:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、酸可溶Al:0.005質量%〜0.5質量%かつSi+Al:1.6質量%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有するスラブを連続鋳造後、得られたスラブを1150℃以上の温度に加熱し、700℃以上かつ下記(2)式によって計算されるAc点−30℃以上の温度で仕上げ圧延を施した熱延鋼板を、1回の冷間圧延又は中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延で最終圧延率を40%以上とすることを特徴とする高速回転IPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法。
    Ac=937.2−476.5×C+56×Si−19.7×Mn−4.9×Cr+38.1×Mo−26.6×Ni+124.8×V−16.3×Cu+136.3×Ti−19.1×Nb+198.4×Al+3315×B・・・(2)
  6. スラブが、Ti、Nb及びVからなる群から選択される1種以上の成分を合計して0.01質量%〜0.20質量%さらに含有する請求項5に記載の高速回転IPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法。
  7. スラブが、Cu:0.1質量%〜1.5質量%、Ni:0.1質量%〜1.0質量%、Mo:0.1質量%〜0.6質量%、Cr:0.1質量%〜1.0質量%及びB:0.0005質量%〜0.005質量%からなる群から選択される1種以上の成分をさらに含有する請求項5又は6に記載の高速回転IPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法。
  8. 冷間圧延後、200〜500℃の温度に加熱することを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の高速回転IPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法。
  9. 冷間圧延後、200〜500℃の温度に加熱し、同温度域に保持した状態でプレステンパー処理を施すか又は同温度域に保持した状態でテンションアニーリング処理を施すことを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の高速回転IPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法。
  10. 冷間圧延前の金属組織が、フェライト、パーライト、ベイナイト及びマルテンサイトからなる群から選択される1種以上からなるとともに、Fe、Ti、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物を含有することを特徴とする請求項5〜9のいずれか一項に記載の高速回転IPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法。
  11. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のロータ鉄心用鋼板の打抜き片を積層させたことを特徴とするIPMモータのロータ鉄心。
  12. 請求項11に記載のロータ鉄心に永久磁石を埋め込んでなるロータを備えることを特徴とするIPMモータ。
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