JP5944267B2 - 回転子および電動機 - Google Patents
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Description
図10に示されている電動機500は、固定子520と回転子550を備えている。固定子520は、軸方向に直角な断面で見て、周方向に沿って配置されている複数のティース532、隣接するティース532により形成される複数のスロット535、スロット535に挿入されている各相の固定子巻線540を有している。回転子550は、軸方向に直角な断面で見て、周方向に沿って交互に配置されている主磁極部と補助磁極部を有している。主磁極部には、磁石挿入孔561が設けられ、磁石挿入孔561には、永久磁石571が挿入されている。図10では、磁石挿入孔561および永久磁石571は、主磁極部の外周面の周方向中心と回転子550の回転中心Oを結ぶd軸に直交する方向に沿って直線状に延びている。永久磁石571としては、好適には、フェライト磁石より保持力が大きい希土類磁石が用いられる。このような、磁石挿入孔と、磁石挿入孔に挿入されている永久磁石を有する回転子を備える電動機は、永久磁石埋込型電動機と呼ばれている。
ここで、電動機500を進角制御する場合、図10に矢印で示されているように、固定子巻線540により発生する磁界が、回転子550の永久磁石571に、永久磁石571の着磁方向と逆向きに印加される。このように、永久磁石571の着磁方向と逆向きの外部磁界が永久磁石571に印加されると、永久磁石571が減磁されて電動機の特性が低下する。
永久磁石571の減磁を抑制する方法としては、永久磁石571の厚さを大きくする方法が考えられる。しかしながら、永久磁石571の厚さを大きくすると、永久磁石の使用量が増大する。
このため、永久磁石の減磁を抑制しながら永久磁石の使用量を低減することができる技術が要望されている。特に、希土類磁石は価格が高いため、永久磁石として希土類磁石を使用する場合には強く要望される。
なお、特開2004−350345号公報には、最大トルクの低下を抑制しながらトルク脈動を抑制するために、永久磁石と回転子の外周面の間に、径方向に沿って延びているスリットを設ける技術が開示されている。しかしながら、特開2004−350345号公報には、永久磁石の減磁を抑制しながら永久磁石の使用量を抑制するための技術は開示されていない。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、永久磁石の減磁を抑制しながら永久磁石の使用量を低減することができる技術を提供することを目的とする。
なお、「軸方向」は、回転子が固定子に対して回転可能に支持されている状態において、回転子の回転中心線の方向を示す。また、「周方向」は、回転子が固定子に対して回転可能に支持されている状態において、軸方向(回転中心線の方向)に直角な断面でみて、回転子の回転中心を中心とする円周方向を示す。
磁石挿入孔は、軸方向に直角な断面で見て、周方向に沿って延びている。「磁石挿入孔が周方向に沿って延びている」という記載は、磁石挿入孔の長手方向両端部が周方向に沿って離れている態様を表している。
永久磁石は、軸方向に直角な断面で見て、第1の磁石部と、第1の磁石部より回転子の回転方向側に配置されている第2の磁石部を有している。第1の磁石部と第2の磁石部は、別体であってもよいし、一体であってもよい。好適には、第1の磁石部と第2の磁石部は、主磁極部のd軸を挟んで周方向両側に配置される。また、第1の磁石部と第2の磁石部は、1つの磁石挿入孔に一緒に挿入されてもよいし、別々の磁石挿入孔に挿入されてもよい。
磁石挿入孔の断面形状(軸方向に直角な方向から見た断面形状)は、永久磁石の断面形状に対応した形状に形成される。磁石挿入孔および永久磁石の断面形状としては、直線形状、円弧形状、V字形状等の種々の形状を選択することができる。
また、軸方向に直角な断面で見て、第1の磁石部と第2の磁石部の間の境界部と回転子の外周面の間に、径方向に沿って延びているスリットが設けられている。なお、「径方向」は、回転子が固定子に対して回転可能に支持されている状態において、軸方向に直角な断面でみて、回転子の回転中心を通る方向を示す。
そして、軸方向に直角な断面で見て、第1の磁石部の厚さをT1、幅をW1、第2の磁石部の厚さをT2、幅をW2とした時、以下の条件
本発明の回転子では、スリットによって、周方向に沿った磁束の流れが抑制される。このため、例えば、本発明の回転子が組み込まれた電動機の各相の固定子巻線に電力を供給するインバータ装置を進角制御する際に、スリットより回転方向側に配置されている第2の磁石部に、第2の磁石部の着磁方向と逆向きの外部磁界が印加されるのを抑制することができる。すなわち、第2の磁石部の厚さT2を第1の磁石部の厚さT1より小さく設定しても、各相の固定子巻線により発生する磁束によって第2の磁石部が減磁されるのを抑制することができる。
ここで、第2の磁石部の厚さT2を第1の磁石部の厚さT1より小さく設定した場合、磁束量が低下する。本発明の回転子は、前述した条件を満足するように構成されているため、第2の磁石部の厚さT2を第1の磁石部の厚さT1より小さく設定することに伴う磁束量の低下を、第2の磁石部の幅W2を第1の磁石部の幅W1より長く設定することによって抑制している。
第2の磁石部の厚さT2の最小値、幅W2の最大値は、本発明の回転子を備える電動機の特性や回転子の寸法(直径)等によって定められる。
本発明の回転子を用いることにより、永久磁石の減磁および総磁束量の低下を抑制しながら、また、永久磁石の使用量を低減しながら、電動機を進角制御することができる。
本発明の異なる形態では、磁石挿入孔は、軸方向に直角な断面で見て、第1の磁石挿入孔と、第1の磁石挿入孔より回転子の回転方向側に配置されている第2の磁石挿入孔により構成されている。好適には、第1の磁石挿入孔と第2の磁石挿入孔は、主磁極部のd軸を挟んで周方向両側に配置される。そして、第1の磁石部が第1の磁石挿入孔に挿入され、第2の磁石部が第2の磁石挿入孔に挿入されている。本形態では、第1の磁石部と第2の磁石部の間の境界部は、第1の磁石挿入孔と第2の磁石挿入孔の間のブリッジ部が対応する。このブリッジ部によって、回転子の強度が向上する。
本形態では、回転子の強度を向上させることができる。
本発明の他の異なる形態では、軸方向に直角な断面で見て、第1の磁石部と第2の磁石部は、主磁極部のd軸と交差する方向、好適にはd軸と直交(「略直交」を含む)する方向に沿って直線状(「略直線状」を含む)に延びている。
本形態では、永久磁石の使用量を効果的に低減することができる。
本発明の他の異なる形態では、第1の磁石部と第2の磁石部は、主磁極部のd軸を挟んで周方向両側に設けられている。
本形態の他の異なる形態では、回転子の外周面は、軸方向に直角な断面でみて、主磁極部のd軸と交差している第1の外周面と、補助磁極部のq軸と交差している第2の外周面が交互に接続されて形成されている。第1の外周面は、d軸上に曲率中心を有する円弧形状に形成されている。また、第2の外周面は、q軸上に曲率中心を有し、第1の外周面の曲率半径より大きい曲率半径を有する円弧形状に形成されている。なお、第1および第2の外周面は、外周方向に凸状に形成されている。好適には、第1の外周面は、d軸上の回転中心を中心とする円弧形状に形成される。
本形態では、回転子の特定箇所に磁束が集中するのを防止することができるとともに、磁束量の変化を小さくして、固定子巻線に誘起される誘起電圧の波形に含まれる高調波成分を低減することができる。これにより、固定子巻線に誘起される誘起電圧を用いて回転子の位置を検出し、検出した回転子の位置に基づいてインバータを制御する場合に、インバータを正確に制御することができ、効率を向上させることができる。
本発明は、第1発明と同様の効果を有する。
本発明の異なる形態では、スリットの幅が、回転子の外周面とティース先端面との間の空隙の最大間隔以上に設定されている。「スリットの幅」は、スリットが延びている方向に直交する方向の長さである。1
本形態では、第2の磁石部の着磁方向と逆向きの磁束が第2の磁石部に印加されるのをより抑制することができる。
なお、以下で説明する各実施の形態では、固定子と、固定子の内側に回転可能に支持されている回転子を備えている回転子内転型の電動機について説明する。また、スロット数が24で、3相4極の固定子巻線が分布巻き方式で各スロットに挿入されている固定子と、極数が4(極対数Pが2)となるように永久磁石が配置されている回転子を有する電動機について説明する。勿論、本発明は、これ以外の種々の構成の回転子と固定子を備える電動機として構成することができる。
また、本明細書では、「軸方向」は、回転子が固定子に対して回転可能に支持されている状態において、回転子の回転中心を通る回転中心線の方向を示す。また、「周方向」は、回転子が固定子に対して回転可能に支持されている状態において、軸方向(回転中心線の方向)に直角な断面でみて、回転子の回転中心を中心とする円周方向を示す。また、「径方向」は、回転子が固定子に対して回転可能に支持されている状態において、軸方向(回転中心線の方向)に直角な断面でみて、回転子の回転中心を通る方向を示す。
固定子120は、固定子コア130と、固定子巻線140を有している。
固定子コア130は、薄板状の電磁鋼板を軸方向に積層し、オートクランプ(カシメピン)等で一体化することによって構成されている。固定子コア130は、ヨーク131、複数のティース132、複数のスロット135を有している。
ヨーク131は、軸方向に直角な断面でみて、周方向に沿って延びている。本実施の形態では、ヨーク131は、環状(略環状を含む)に形成されている。
ティース132は、軸方向に直角な断面でみて、ヨーク131から径方向に沿って延びている。ティース132は、図5に示されているように、ヨーク131から径方向内側に延びているティース基部133と、ティース基部133の先端側に設けられ、周方向に沿って延びているティース先端部134を有している。ティース先端部134には、回転子150と対向する箇所にティース先端面132aが形成されている。本実施の形態では、ティース先端面132aは、軸方向に直角な断面でみて、回転子150の回転中心Oを中心とする円弧形状に形成されている。そして、回転子150は、ティース先端面132aによって形成される回転子収容空間内に、回転子150の外周面150aとティース先端面132aとの間に空隙(ギャップ)gを有するように回転可能に支持される。
スロット135は、ヨーク131と周方向に隣接する2つのティース132とによって形成される。スロット135は、隣接する2つのティース132のティース先端部134の間にスロット開口部を有している。
固定子巻線140は、各スロット135に分布巻き方式で挿入されている。本実施の形態では、固定子巻線140は、周方向に隣接する3つのティース132によって1つの磁極が形成されるように各スロット135に挿入されている。
回転子コア160は、薄板状の電磁鋼板を軸方向に積層し、オートクランプ(カシメピン)等で一体化することによって構成されている。回転子コア160には、回転軸180が挿入される回転軸挿入孔168が形成されている。回転軸180は、圧入方法や焼きバメ方法等によって回転軸挿入孔168に挿入される。
また、回転子コア160は、周方向に沿って交互に配置されている主磁極部A〜Dと補助磁極部AB〜DAを有している。主磁極部A〜Dには、永久磁石が挿入される磁石挿入孔が形成されている。
本実施の形態では、回転子コア160は、円筒形状に形成されている。すなわち、軸方向に直角な断面でみて、回転子150(回転子コア160)の外周面150aは、回転中心Oを中心とする円形形状を有している。そして、回転子150の外周面150aは、主磁極部A〜Dに対応する第1の曲線部分と補助磁極部AB〜DAに対応する第2の曲線部分により構成されている。第1の曲線部分は、軸方向に直角な断面でみて、回転子150の回転中心Oと主磁極部A〜Dの周方向中心点を結ぶ線(「d軸」と呼ばれている)と交差している。また、第2の曲線部分は、軸方向に直角な断面でみて、回転子150の回転中心Oと補助磁極部AB〜DAの周方向中心点とを結ぶ線(「q軸」と呼ばれている)と交差している。
主磁極部Aには、第1の磁石挿入孔161と第2の磁石挿入孔162が形成されている。すなわち、主磁極部Aに設けられる磁石挿入孔は、軸方向に直角な断面でみて、周方向に沿って延びている第1の磁石挿入孔161と第2の磁石挿入孔162により構成されている。
本実施の形態では、第1の磁石挿入孔161と第2の磁石挿入孔162は、軸方向に直角な断面でみて、d軸に直交(「略直交」を含む)する方向に沿って直線状に延びている。また、第2の磁石挿入孔162は、第1の磁石挿入孔161より回転子150の回転方向R側に配置されている。また、第1の磁石挿入孔161と第2の磁石挿入孔162は、d軸を挟んで周方向両側に配置されている。
第1の磁石挿入孔161(第2の磁石挿入孔162)の断面形状(軸方向に直角な方向の断面形状)は、第1の磁石挿入孔161(第2の磁石挿入孔162)に挿入される第1の永久磁石171(第2の永久磁石172)の断面形状に対応して設定される。
本実施の形態では、第1の永久磁石171と第2の永久磁石172は、第1の磁石挿入孔161と第2の磁石挿入孔162と同様に、軸方向に直角な断面でみて、d軸に直交(「略直交」を含む)する方向に沿って直線状に延びている。また、第2の永久磁石172は、第1の永久磁石171より回転子150の回転方向R側に配置されている。第1の永久磁石171および第2の永久磁石172は、隙間嵌め等によって第1の磁石挿入孔161および第2の磁石挿入孔162に挿入される。
永久磁石(第1の永久磁石171と第2の永久磁石172)は、周方向に隣接する主磁極部A〜Dの極性が逆極性となるように配置される。図2では、主磁極部Aの永久磁石は外周側がN極となるように着磁されており、主磁極部Aに隣接する主磁極部BおよびDの永久磁石は外周側がS極となるように着磁されている。
磁石挿入孔の外周側端壁と永久磁石の外周側端壁の間に空隙部を形成して永久磁石を回転子の外周面から離れて配置することにより、永久磁石の端部がインバータのPWM制御等による高調波磁界の影響を防止することができる。これにより、永久磁石の端部発熱を減少させて、鉄損を減少させることができる。
空隙部161f(162f)に非磁性体を充填することもできる。本発明の「空隙部」には、「空隙部に非磁性体が充填されている」構成も包含される。
スリット166は、軸方向に直角な断面でみて、平行(「略平行」を含む)に、径方向に沿って直線状に延びている側壁166aおよび166bと、内周側端壁166cと、外周側端壁166dによって形成されている。スリット166の幅Hは、側壁166aと166bの間隔である。
また、第2の永久磁石172が挿入される第2の磁石挿入孔162の間隔が、第1の永久磁石171が挿入される第1の磁石挿入孔161の間隔より小さく設定されている。「磁石挿入孔の間隔」は、軸方向に直角な断面でみて、磁石挿入孔が延びている方向に直角な方向の間隔(内壁と外壁の間の間隔)である。なお、本実施の形態では、第1の磁石挿入孔161と第2の磁石挿入孔162は、同じ長さに設定されている。
駆動装置は、電動機100、インバータ装置10、制御装置20により構成されている。なお、電動機としては、第1の実施の形態の電動機100に限定されず、他の実施の形態の電動機を含む本発明の電動機を用いることができる。
インバータ装置10は、FET等のスイッチング素子を用いて、電動機100の固定子120の各相の固定子巻線140に順次電圧を印加可能に構成されている。インバータ装置10としては、交流電圧を直流電圧に変換し、直流電圧を各相の固定子巻線に順次印加可能なインバータ装置や、直流電圧を各相の固定子巻線に順次印加可能なインバータ装置が用いられる。インバータ装置10としては、公知の種々の構成のものを用いることができる。
なお、センサレス方式を用いる場合には、停止時における回転子の位置が分らない。このため、始動時には、固定子巻線140に微小電流を流して回転子150の位置を所定の位置に設定した後に、インバータ装置10を始動制御する。勿論、回転子150の位置を検出する位置検出器(例えば、ホール素子)を用いることもできる。この場合には、始動時の位置設定処理は不要である。
図10に示されているように、従来の電動機では、各相の固定子巻線に電力を供給するインバータ装置を進角制御する場合、固定子巻線から発生する、永久磁石の着磁方向と逆向きの磁束が永久磁石に印加される。このため、永久磁石の減磁を抑制するために、永久磁石の厚さを大きくする必要があった。
これに対し、本実施の形態の電動機100では、主磁極部に設けられる永久磁石を、周方向に沿って延びている第1の永久磁石171と第2の永久磁石172により構成している。そして、第1の永久磁石171より回転子の回転方向R側に配置されている第2の永久磁石172の厚さT2を第1の永久磁石171の厚さT1より小さく設定している。そして、第1の永久磁石171(第1の磁石挿入孔161)と第2の永久磁石172(第2の磁石挿入孔162)の間の内周側ブリッジ部163と、回転子150(回転子コア160)の外周面150aの間に、径方向に沿って延びているスリット166を設けている。
これにより、本実施の形態の電動機100の各相の固定子巻線140に電力を供給するインバータ装置10を進角制御する場合、固定子巻線140から発生する、永久磁石の着磁方向と逆向きの磁束は、第1の永久磁石171には印加されるが、スリット166より回転方向R側に配置されている第2の永久磁石172への印加は抑制される。これにより、第2の永久磁石172の厚さT2が第1の永久磁石171の厚さT1より薄く設定されていても、第2の永久磁石172への減磁磁束の印加が抑制されているため、第2の永久磁石172の減磁は抑制される。
なお、比較例の電動機として、スリット166が設けられてなく、厚さT1が2mmの第1の永久磁石171と厚さT2が2mmの第2の永久磁石172を有する回転子を備える電動機を用いた。また、本実施の形態の電動機として、スリット166が設けられ、厚さT1が2mmの第1の永久磁石171と厚さT2が1mmの第2の永久磁石172を有する回転子を備える電動機を用いた。
両者を同じ進角で進角制御した結果、両者とも、第1の永久磁石171および第2の永久磁石172の減磁を抑制することができた。
この場合、本実施の形態の電動機における永久磁石の使用量は、比較例の電動機における永久磁石の使用量の75%である。
したがって、本実施の形態の電動機100を用いることにより、永久磁石の減磁を抑制しながら、永久磁石の使用量を低減することができる。
進角αを電気角で0度〜90度の範囲内で変化させた場合の進角αと減磁電流との関係を測定したグラフが図6に示されている。減磁電流は、永久磁石を減磁させる電流の値であり、小さいほど永久磁石が減磁し易いことを表す。なお、図6に示されているグラフは、回転子の極対数P(=極数/2)が2(極数が4)、スリット166の外周側の開角度θ1が電気角で約5度(機械角で約2.5度)、隣接するティース132間の開角度θ2が電気角で約12度(機械角で約6度)の場合のものである。
ここで、スリット166の外周側の開角度θ1および隣接するティース132間の開角度θ2は、図5に示されているように定義される。すなわち、θ1は、軸方向に直角な断面でみて、スリット166の側壁166aと166bの外周側の端点をn1とn2とした時、回転中心Oと端点n1およびn2を結ぶ線の間の角度である。θ2は、軸方向に直角な断面でみて、隣接するティース132のそれぞれのティース基部133とティース先端部134との接続点をm1とm2とした時、回転中心Oと接続点m1およびm2を結ぶ線の間の角度である。θ2は、隣接するティース132間の、回転子側の開角度である。
進角αの最大値αmaxは、回転子150の極数が4(極対数P=2)の場合には、以下のように表される。
(電気角)αmax=[45+2×θ1/2+2×θ2/2]度
(機械角)αmax=[22.5+θ1/2+θ2/2]度
また、進角αの最大値αmaxは、回転子150の極数が6(極対数P=3)の場合には、以下のように表される。
(電気角)αmax=[45+3×θ1/2+3×θ2/2]度
(機械角)αmax=[15+θ1/2+θ2/2]度
以上のことから、永久磁石の減磁を効果的に抑制することができる進角αの最大値αmaxは、以下のように表される。
(電気角)αmax=[45+P×θ1/2+P×θ2/2]度
(機械角)αmax=[45/P+θ1/2+θ2/2]度
スリット166の長さは、スリット166と回転子150の外周面150aおよび内周側ブリッジ部163との間に形成されるブリッジ部を通過する磁束の量と回転子150の強度等に基づいて適切な値に設定される。
ここで、第1の永久磁石171と第2の永久磁石172の幅が同じ状態で、第2の永久磁石172の厚さT2を第1の永久磁石の厚さT1より小さく設定した場合、第2の永久磁石の磁束量φ2が第1の永久磁石の磁束量φ1より小さくなる。すなわち、総磁束量(φ1+φ2)が小さくなる。総磁束量の低下量は、第2の永久磁石172の厚さT2を小さくするほど(薄くするほど)増大する。
そこで、この総磁束量の低下も抑制しながら、永久磁石の使用量を低減することができる技術が要望される。
図7の線(1)は、T2がT1より小さく(T2<T1)、第2の永久磁石172の磁石量が第1の永久磁石171の磁石量と等しくなるT2とW2の組み合わせを示している。線(1)より下方の領域は、第2の永久磁石172の磁石量が第1の永久磁石171の磁石量より少なくなる領域である。また、線(1)より上方の領域は、第2の永久磁石172の磁石量が第1の永久磁石171の磁石量より多くなる領域である。
図7の線(2)は、T2がT1より小さく(T2<T1)、固定子巻線の誘起電圧を45Vに維持することができるT2とW2の組み合わせを示している。固定子巻線の誘起電圧は、総磁束量により変化する。すなわち、線(2)の下方の領域は、総磁束量が、(T2=T1)および(W2=W1)の時の総磁束量より小さくなる(φ2<φ1)領域である。また、線(2)の上方の領域は、総磁束量が、(T2=T1)および(W2=W1)の時の総磁束量より大きくなる(φ2>φ1)領域である。
図7の線(3)は、直径が59.85mmである回転子に設けることができる第2の永久磁石172の幅W2の最大値である。
したがって、第2の永久磁石172の厚さT2と幅W2を、図7に示されている線(1)、線(2)および線(3)で囲まれる領域(斜線で示されている領域)内の値に設定することによって、第2の永久磁石172の厚さT2を第1の永久磁石171の厚さT1より小さくすることができ(永久磁石の減磁を抑制することができ)、また、総磁束量の低下を抑制しながら、永久磁石の使用量を低減することができる。
いま、第1の永久磁石171の厚さをT1、幅をW1、磁束量をφ1、第2の永久磁石172の厚さをT2(T2<T1)、幅をW2(W2=W1)、磁束量をφ2とした時、第2の永久磁石172の磁束量φ2は、(1式)で表される。
ここで、第2の永久磁石172の幅W2を第1の永久磁石の幅W1より大きくする(第2の永久磁石172を第1の永久磁石171より長くする)と(W2>W1)、第2の永久磁石172の磁束量φ2は、(2式)で表される。
したがって、(2式)で表される第2の永久磁石172の磁束量φ2が第1の永久磁石171の磁束量φ1以上になるように、すなわち、(3式)を満足するように構成することによって、永久磁石の減磁および総磁束量の低下を抑制しながら、永久磁石の使用量を低減することができる。
なお、好適には、(3式)の不等号を満足するように構成されるが、(3式)の等号を満足するように構成した場合であっても、第1の永久磁石171の厚さT1と第2の永久磁石172の厚さT2の差が小さい時には、総磁束量の低下を抑制することができる。
図8に示されている回転子250では、主磁極部Aに磁石挿入孔261が形成されている。
磁石挿入孔261は、軸方向に直角な断面でみて、d軸に直交する方向に沿って直線状に延びている。磁石挿入孔261は、内周側に配置されている第1の内壁261a1および第2の内壁261a2、外周側に配置されている外壁261b、外周面250aに対向する箇所に配置されている外周側端壁261cおよび261dにより形成されている。第1の内壁261a1、第2の内壁261a2、外壁261bは、平行(略平行を含む)に、d軸に直角な方向に直線状に形成されている。なお、第1の内壁261a1と第2の内壁261a2は、径方向に沿って延びている段差壁によって連結されており、これにより、第2の内壁261a2は、第1の内壁261a1より径方向に沿って外周側に配置されている。
そして、第1の内壁261a1、外壁261b、外周側端壁261cによって第1の挿入部が形成され、第2の内壁261a2、外壁261b、外周側端壁261dによって第2の挿入部が形成されている。第1の内壁261a1と外壁261bの間隔が第1の挿入部の間隔であり、第2の内壁261a2と外壁261bの間隔が第2の挿入部の間隔である。すなわち、本実施の形態では、主磁極部Aに設けられる磁石挿入孔261は、d軸に直交する方向に沿って直線状に延びている第1の挿入部と第2の挿入部により構成されている。第2の挿入部は、第1の挿入部より回転方向R側に配置されているとともに、第2の挿入部の間隔は、第1の挿入部の間隔より小さく設定されている。第1の挿入部および第2の挿入部の間隔は、後述する永久磁石271の第1の磁石部271Aの厚さT1および第2の磁石部271Bの厚さT2に対応して設定される。また、本実施の形態では、第1の挿入部と第2の挿入部は、d軸を挟んで周方向両側に配置されている。
なお、磁石挿入孔261の外周側端壁261cと回転子250の外周面250aとの間に外周側ブリッジ部264が形成され、磁石挿入孔261の外周側端壁261dと回転子250の外周面250aとの間に外周側ブリッジ部265が形成されている。
永久磁石271は、軸方向に直角な断面でみて、d軸に直交する方向に沿って直線状に延びている第1の磁石部271Aと第2の永久磁石271Bを有している。第2の磁石部271Bは、第1の磁石部271Aより回転方向R側に配置されている。また、第2の磁石部271Bの厚さT2は第1の磁石部271Aの厚さT1より小さく設定され(T2<T1)、第2の磁石部271bの幅W2は第1の磁石部271の幅W1より大きく設定されている(W2>W1)。すなわち、本実施の形態では、主磁極部Aに設けられる永久磁石は、厚さおよび長さが異なる第1の磁石部271Aと第2の磁石部271Bを有する単一の永久磁石271により構成されている。第1の磁石部271Aと第2の磁石部271Bは、d軸を挟んで周方向両側に配置されている。なお、前述したように、(W2=W1)であっても、T1とT2の差が小さい時には、総磁束量の低下を抑制することができる。
第1の磁石部271Aが、本発明の「第1の磁石部」に対応する。また、第2の磁石部271Bが、本発明の「第2の磁石部」に対応する。
ここで、磁石挿入孔261の径方向に沿った段差部と永久磁石271の径方向に沿った段差部との係合によって、永久磁石271の外周側端壁261d方向への移動が規制される場合には、凸部261fを省略することができる。
本実施の形態の回転子250を有する電動機は、第1の実施の形態の電動機100と同様の効果を有している。
本実施の形態の回転子350は、外周面の形状が第1の実施の回転子150と異なっている。
回転子350の外周面350aは、軸方向に直角な断面でみて、主磁極部A〜Dに対応する第1の曲線部分350A〜Dと、補助磁極部AB〜DAに対応する第2の曲線部分350AB〜DAが交互に配置されて構成されている。
第1の曲線部分350A〜Dは、d軸と交差し、回転子の外周方向に飛び出ている第1の曲線形状に形成されている。また、第2の曲線部分350AB〜DAは、q軸と交差し、外周方向に飛び出ている第2の曲線形状に形成されている。第1の曲線形状は、d軸上の回転中心Oを曲率中心とする半径Rdの円弧形状である。また、第2の曲線形状は、q軸上の、回転中心Oより第2の曲線部分350AB〜DAと反対方向に離れた点Pを曲率中心とする半径Rq(>Rd)の円弧形状である。
第1の曲線部分350A〜Dが、本発明の「第1の曲線部分」に対応する。また、第2の曲線部分350AB〜DAが、本発明の「第2の曲線部分」に対応する。
本実施の形態では、第1の曲線部分と第2の曲線部分の切り換わり部分(図9に●で示されている部分)がティースと対向する箇所を通過する時に、ティースに流れる磁束量の急激な変化を抑制することができる。これにより、ティースを流れる磁束量の急激な変化によって固定子巻線に誘起される誘起電圧の波形に含まれる高調波成分が増大するのを防止することができる。したがって、固定子巻線の誘起電圧に基づいてインバータを正確に制御することができる。
第1の磁石部と第2の磁石部は、同じ特性を有する永久磁石を用いることもできるし、異なる特性を有する永久磁石を用いることもできる。例えば、第2の磁石部として、第1の磁石部より保持力が大きい永久磁石を用いることができる。この場合、第1の磁石部より薄い厚さを有する第2の磁石部を用いた場合における総保持力の低下を抑制することができる。
軸方向に直角な断面で見て、第1の磁石部(永久磁石)および第2の磁石部(永久磁石)を主磁極部のd軸と直交する方向に沿って直線状に延びるように配設したが、第1の磁石部および第2の磁石部は、周方向に沿って延びるように配設されていればよい。例えば、d軸上の点を中心とし、内周側に飛び出ている円弧形状、内周側に飛び出ているV字形状等の種々の形状に配設することができる。
軸方向に直角な断面でみて、径方向に沿って直線状に延びているスリットを設けたが、スリットの形状は、径方向に沿って延びていればよく、直線状に限定されない。すなわち、スリットの長手方向両端部が径方向に沿って離れた箇所に配置されていればよい。例えば、径方向に対して傾斜して延びている直線状の側壁により形成されるスリットや曲線状の側壁により形成されるスリットを用いることができる。
磁石挿入孔および永久磁石の形状や数は、適宜変更可能である。例えば、間隔が異なる複数の磁石挿入口それぞれに厚さが異なる永久磁石を挿入する態様、間隔が異なる挿入部を有する1つの磁石挿入孔に厚さが異なる複数の磁石部を有する1つの永久磁石を挿入する態様、間隔が異なる複数の挿入部を有する1つの磁石挿入口に厚さが異なる複数の永久磁石を挿入する態様等を用いることができる。
永久磁石を磁石挿入孔内に位置決めする位置決め手段として凸部を用いたが、位置決め手段は凸部に限定されない。また、位置決め手段は省略することもできる。
磁石挿入孔の外周側端壁と永久磁石の外周側端壁の間に空隙部を形成したが、この空隙部は省略することもできる。
実施の形態で説明した各構成は、単独で用いることもできるし、適宜選択した複数を組み合わせて用いることもできる。
実施の形態では電動機について説明したが、本発明は、電動機に用いられる回転子として構成することもできる。
20 制御装置
100、500 電動機
120、520 固定子
130 固定子コア
131 ヨーク
132、532 ティース
132a ティース先端面
133 ティース基部
134 ティース先端部
135、535 スロット
140、540 固定子巻線
150、250、350、550 回転子
150a、250a、350a 外周面
160、260、360 回転子コア
161、162、261、361、362、561 磁石挿入孔
161a、162a、261a1、261a2 内壁
161b、162b、261b 外壁
161c、162c、261c、261d 外周側端壁
161d、162d 内周側端壁
161e、162e、261e、261f 凸部
161f、162f 空隙部
163、164、165、264、265 ブリッジ部
166、266、366 スリット
166a、166b、266a、266b 側壁
166c、266c 内周側端壁
166d、266d 外周側端壁
168、268 回転軸挿入孔
171、172、271、371、372 永久磁石
171c、172c、271c、271d 外周側端壁
180、280 回転軸
Claims (7)
- 軸方向に直角な断面で見て、永久磁石が挿入されている磁石挿入孔を有する主磁極部と補助磁極部が周方向に沿って交互に配置されている回転子であって、
前記磁石挿入孔は、軸方向に直角な断面で見て、周方向に沿って延びており、
前記永久磁石は、軸方向に直角な断面で見て、第1の磁石部と、前記第1の磁石部より回転子の回転方向側に設けられている第2の磁石部を有しており、
また、前記第1の磁石部と前記第2の磁石部の間の境界部と回転子の外周面の間には、軸方向に直角な断面で見て、径方向に沿って延びているスリットが設けられており、
軸方向に直角な断面で見て、前記第1の磁石部の厚さをT1、幅をW1、前記第2の磁石部の厚さをT2、幅をW2とした時、以下の条件
- 請求項1に記載の回転子であって、
前記磁石挿入孔は、軸方向に直角な断面で見て、第1の磁石挿入孔と、前記第1の磁石挿入孔より回転子の回転方向側に設けられている第2の磁石挿入孔により構成されており、
前記第1の磁石部は、前記第1の磁石挿入孔に挿入され、前記第2の磁石部は、前記第2の磁石挿入孔に挿入されていることを特徴とする回転子。 - 請求項1または2に記載の回転子であって、
軸方向に直角な断面で見て、前記第1の磁石部および前記第2の磁石部は、主磁極部のd軸と交差する方向に沿って直線状に延びていることを特徴とする回転子。 - 請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の回転子であって、
前記第1の磁石部および前記第2の磁石部は、主磁極部のd軸を挟んで周方向両側に設けられていることを特徴とする回転子。 - 請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の回転子であって、
回転子の外周面は、軸方向に直角な断面で見て、主磁極部のd軸と交差する第1の外周面と補助磁極部のq軸と交差する第2の外周面が交互に接続されて形成されており、前記第1の外周面は、d軸上に曲率中心を有する円弧形状に形成され、前記第2の外周面は、q軸上に曲率中心を有し、前記第1の外周面の曲率半径より大きい曲率半径を有する円弧形状に形成されていることを特徴とする回転子。 - 固定子と、請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の回転子を備え、
前記固定子は、回転子収容空間を形成するティース先端面を有するティースと、前記ティースにより形成されるスロットと、前記スロットに挿入されている各相の固定子巻線により構成されており、
前記回転子は、前記回転子の外周面と前記ティース先端面との間に間隙を有する状態で前記回転子収容空間内に設けられていることを特徴とする電動機。 - 請求項6に記載の電動機であって、
前記スリットの幅は、前記回転子の外周面と前記ティース先端面との間の空隙の最大間隔以上に設定されていることを特徴とする電動機。
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