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JP5940416B2 - 建物 - Google Patents

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JP5940416B2 JP2012190648A JP2012190648A JP5940416B2 JP 5940416 B2 JP5940416 B2 JP 5940416B2 JP 2012190648 A JP2012190648 A JP 2012190648A JP 2012190648 A JP2012190648 A JP 2012190648A JP 5940416 B2 JP5940416 B2 JP 5940416B2
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Description

本発明は、鉄骨造の建物に関するものである。
この種の建物として、耐力壁を建物壁部の適所に配置した構造が提案されている。より具体的には、耐力壁として、直線要素であるブレースにより構成されるブレース構造を採用したものが提案されている。又は、耐力壁として、荷重により断面が降伏することで塑性ヒンジが形成される塑性ヒンジ部を有するラチス柱を採用したものが提案されている(例えば特許文献1参照)。この場合、ラチス柱は、壁式構造(ブレース構造)に変形能力を加えた構成となっており、単に直線要素としてのブレースを用いた構造に比べて変形能力が高く、大規模地震に対する耐震性に優れたものとなっている。
特開2008−133662号公報
しかしながら、ラチス柱は、その柱長(背の高さ)に応じて剛性が異なり、柱長が小さいほど高剛性となる。そのため、例えば建物において屋根の一部を斜線制限に応じてカットし、そのカット部分を含む架構(斜線架構)に短いラチス柱を用いる場合には、その短いラチス柱だけが他の耐力壁よりも高剛性となることが考えられる。したがって、大規模地震などが発生した場合には建物において局所的な応力集中が生じてしまい、それに起因して建物の損壊が生じやすくなることが懸念される。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、局所的な応力集中が生じることを抑制することができる建物を提供することを主たる目的とするものである。
以下、上記課題を解決するのに有効な手段等につき、必要に応じて作用、効果等を示しつつ説明する。
第1の発明は、
複数の柱及び梁により構築される鉄骨造の建物であって、
前記柱は、複数の第1柱と、その第1柱よりも長い複数の第2柱とを有し、それら第1柱と第2柱との上端位置に傾斜構面が形成され、前記複数の第1柱の間に前記傾斜構面の下端部に連続して鉛直構面が形成されており、
前記傾斜構面に設けられ、直線材を補強要素として用いてなる傾斜補強部と、
前記鉛直構面に前記第1柱として設けられ、荷重により降伏し塑性変形することでエネルギを吸収するエネルギ吸収部を有するラチス柱と、
を備えることを特徴とする。
本発明の鉄骨造建物では、傾斜構面及び鉛直構面からなる連続面が形成されており、その連続面に耐震補強がなされている。この場合、傾斜構面及び鉛直構面からなる連続面において、上下寸法の短い鉛直構面にラチス柱(柱長の小さいラチス柱)を設けることにすると、そのラチス柱では柱長の大きいラチス柱に比べて剛性が大きいことから、鉛直構面の剛性が局所的に大きくなってしまう。そしてこれにより、地震などが生じた場合に鉛直構面のラチス柱に応力が集中し、建物の損壊を招くことが懸念される。
この点、上記構成によれば、傾斜構面と鉛直構面とのうち傾斜構面には、直線材を補強要素として用いてなる傾斜補強部が設けられ、鉛直構面には、塑性変形によりエネルギ吸収するエネルギ吸収部を有するラチス柱が設けられている。この場合、剛性の比較的高いラチス柱と剛性の比較的低い傾斜補強部とを組み合わせることで、傾斜構面及び鉛直構面からなる連続面においてその全体の剛性を低くすることができる。これにより、建物において局所的な応力集中が生じることを抑制し、ひいては地震発生時等における建物の損壊を抑制することができる。
第2の発明では、前記ラチス柱が第1ラチス柱、前記鉛直構面が第1鉛直構面であり、前記第1ラチス柱が設けられる層と同じ層において、前記第2柱により構成される第2鉛直構面に第2ラチス柱が設けられ、前記傾斜構面及び前記第1鉛直構面に設けられる前記傾斜補強部及び前記第1ラチス柱の構造強度と、前記第2ラチス柱の構造強度とを等しくさせるようにしていることを特徴とする。
上記構成によれば、建物における同じ層に第1ラチス柱と第2ラチス柱とが設けられている。これら両ラチス柱は柱長(背の高さ)が異なり、それ故に剛性が相違するが、柱長が小さい方の第1ラチス柱(剛性の高い方のラチス柱)には、傾斜構面の傾斜補強部が組み合わせされているため、傾斜補強部及び第1ラチス柱の構造強度と、第2ラチス柱の構造強度とを等しくすることが可能となる。これにより、第1ラチス柱と第2ラチス柱とが設けられる層において局所的な応力集中を抑制できる。
第3の発明では、四隅に2つの前記第1柱と2つの前記第2柱とを有し、それらの上端位置に形成された前記傾斜構面の上に傾斜屋根部が設けられる第1架構と、前記第1架構において前記第1鉛直構面とは反対側に隣接して設けられ、四隅に4つの前記第2柱を有してなる第2架構と、を有し、前記第2架構において、前記第1架構に隣接する側とは反対側の前記第2鉛直構面に前記第2ラチス柱が設けられていることを特徴とする。
上記構成によれば、同じ層に第1架構と第2架構とが設けられる建物において、それら各架構にラチス柱をバランスよく配置できる。また、第1架構及び第2架構の境界部とは反対側(建物の外周部分)にラチス柱をそれぞれ配置することで、第1架構及び第2架構の境界部に配置されるラチス柱を不要にすることができる。そのため、ラチス柱の存在に起因して間取りプランに制約が生じるといった不都合を抑制できる。
第4の発明では、前記傾斜構面の勾配に沿って延びる傾斜屋根部を有しており、前記傾斜屋根部は、建物の斜線制限に合わせて45度以上の勾配で建物内空間をカットした斜線カット部であることを特徴とする。
斜線制限に合わせて形成された斜線カット部の場合、屋根勾配は45度以上(例えば1.25/1の勾配)になることが考えられ、こうした急勾配の傾斜屋根部を有することで、鉛直構面(傾斜構面の下端部側の鉛直構面)の上下寸法が短くなり、ひいてはラチス柱の柱長が短くなりやすくなる。この点、上記のとおりラチス柱と傾斜補強部とを組み合わせて用いることにより、斜線カット部を有する建物においても、ラチス柱を用いて建物の耐震補強を好適に実施できる。
第5の発明では、前記複数の第1柱の上端部に、前記梁としての桁梁が架け渡して設けられており、前記傾斜補強部と前記第1柱としての前記ラチス柱とが、前記桁梁の同じ部位を挟んでその上側及び下側に設けられていることを特徴とする。
上記構成によれば、傾斜補強部とラチス柱とが互いに隣り合う位置に設けられているため、これら両部材による耐震作用の関連性を高めることができる。
建物の基本構造を説明するための斜視図。 三階部分の骨組構造を拡大して示す斜視図。 ラチス柱の構成を示す正面図。 ラチス柱及びブレース補強部の構成を示す正面図。 塑性ヒンジ部の変形を説明するための図。 各ラチス柱の構造特性を示す図。 三階部分における層間変位を説明するための図。 比較対象となる建物を示す斜視図。 斜線架構における補強構造の変形例を示す図。 ラチス柱の変形例を示す図。 斜線架構における補強構造の変形例を示す図。 三階部分にバルコニーを設けた構成例を示す図。
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、鉄骨軸組工法により構築された3階建ての建物について具体化しており、まずは建物の基本構造を図1を用いて説明する。なお、図1の(a)は、建物10の外観を示す斜視図であり、(b)は建物10の骨組みについて主要な構成を示す斜視図である。
図1(a)に示すように、建物10は、一階部分11と二階部分12と三階部分13とを有しており、三階部分13の上部に屋根部14が設けられている。屋根部14は、水平屋根面を形成する水平屋根部14aと、傾斜屋根面を形成する傾斜屋根部14bとを有している。傾斜屋根部14bは、道路斜線制限や北側斜線制限といった建物の高さ制限を考慮した斜線カット部に相当し、例えば水平方向=1に対して鉛直方向=1.25となる勾配(1.25/1の勾配)が付されている。三階部分13において傾斜屋根部14bの下側の鉛直部分は桁面15となっている。
また、図1(b)に示すように、建物10において一階部分11及び二階部分12は、概ね同じ形状の架構により構成されており、骨組みとして複数の柱21や梁22を有している。なお、各柱21は例えば角形綱を用いて構成され、各梁22は例えばH形鋼を用いて構成されている。また、柱21として複数箇所にラチス柱23が用いられている。三階部分13は、直方体状をなす主架構31と、それに隣接して設けられる斜線架構32とからなり、主架構31は水平屋根部14aに対応する位置に設けられ、斜線架構32は傾斜屋根部14bに対応する位置に設けられている。
図2は、三階部分13の骨組構造を拡大して示す斜視図である。図2において、主架構31は、複数の柱33や、各柱33の上端部を連結する上梁34、各柱33の下端部を連結する下梁35により構成されている。複数の柱33のうち少なくとも1つにはラチス柱36が用いられている。この場合、複数の柱33及び梁34,35により鉛直構面P1が構成され、その鉛直構面P1にラチス柱36が設けられている。
これに対し、斜線架構32は、長さの相違する柱や、各柱の上端部及び下端部を連結する複数の梁により構成されている。詳しくは、長柱である柱33(主架構31と兼用)とそれよりも短い短柱である柱41とを有するとともに、これら各柱33,41の上端部を連結する梁として上梁34(主架構31と兼用)と桁梁42と傾斜梁43とを有している。なお、柱33が第2柱に相当し、柱41が第1柱に相当する。傾斜梁43の傾斜角が傾斜屋根部14bの勾配に相当する。また、各柱33,41の下端部を連結する梁として下梁35(主架構31と兼用)と下梁44とを有している。複数の柱41のうち1つにはラチス柱45が用いられている。この場合、複数の柱41及び梁42,44により鉛直構面P2が構成され、その鉛直構面P2にラチス柱45が設けられている。
また、上梁34と桁梁42との間には、傾斜梁43と同様に傾斜した状態でブレース補強部46が設けられている。この場合、各梁34,42,43により傾斜構面P3が構成され、その傾斜構面P3にブレース補強部46が設けられている。つまり、傾斜構面P3は、各柱33,41の上端位置に形成されている。鉛直構面P2と傾斜構面P3とは上下に連続し、これらの構面P2,P3により連続面が形成されている。
ここで、斜線架構32が、四隅に2つの柱33と2つの柱41とを有し、それらの上端位置に形成された傾斜構面P3の上に傾斜屋根部14bが設けられる構成であるのに対し、主架構31が、斜線架構32においてラチス柱45が設置される鉛直構面P2とは反対側に隣接して設けられ、四隅に4つの柱33を有してなる構成となっている。
次に、三階部分13において主架構31の補強要素であるラチス柱36と、斜線架構32の補強要素であるラチス柱45及びブレース補強部46とについて更に説明する。図3はラチス柱36の構成を示す正面図であり、図4はラチス柱45及びブレース補強部46の構成を示す正面図である。なお図4では、説明の便宜上、実際には傾斜しているブレース補強部46を鉛直方向に立てた状態(ラチス柱45と同方向に延びる状態)を示している。
図3において、ラチス柱36は、上梁34及び下梁35の間に設けられる一対の縦材51,52と、その一対の縦材51,52間において、同縦材51,52に対して斜め方向に延びるようにして設けられる耐震材53とを備えている。縦材51,52はそれぞれ角形鋼よりなり、その上端部及び下端部にはそれぞれ連結部材54が取り付けられている。そして、ボルト及びナット等の締結具により各連結部材54が上下の各梁34,35に締結されることで、縦材51,52が各梁34,35に連結されている。
耐震材53は、例えば丸鋼材よりなり、一対の縦材51,52の間に斜め方向に架け渡すようにして取り付けられている。図示の構成では、耐震材53は、上下6段に設けられる直線状の斜め部53aと、その斜め部53aの両端部に曲げ加工により形成された接合部53bとを有している。斜め部53aは、各縦材51,52に対して同じ角度で、かつ交互に逆向きとなるようにして設けられている。なお、耐震材53は、例えば斜め部53aごとに分割された複数の鋼材により構成されていてもよい。
各接合部53bのうち一方の縦材51側となる接合部53bは、その縦材51に対して直接接合されているのに対し、他方の縦材52側となる接合部53bは、その縦材52に対して接合プレート55を介して接合されている。接合プレート55は所定の板厚の金属板よりなる。又は、接合プレート55は高減衰ゴム製の板材(粘弾性部材)であってもよい。なお、各接合部53bは溶接等により接合されている。
接合プレート55の上下方向の長さ寸法は、それに取り付けられる接合部53bの上下方向の長さ寸法よりも短くなっており、ゆえに接合部53bの上下両端部は縦材52に対して離間した状態(浮いた状態)となっている。
ここで、耐震材53において、斜め部53aと接合部53bとの間の折り曲げ部が塑性ヒンジ部H1となっている。本実施形態では、各斜め部53aに1つずつの塑性ヒンジ部H1が設けられている。塑性ヒンジ部H1は、地震力などの外力が作用した場合に曲げ変形して振動エネルギを吸収するエネルギ吸収部に相当し、荷重により断面が降伏することで塑性ヒンジ(降伏ヒンジ)が形成される領域となっている。縦材52との関係で言えば、塑性ヒンジ部H1は縦材52から離間した位置に設けられている。これにより、塑性ヒンジ部H1の曲げ変形領域が確保され、縦材52に干渉することなく塑性ヒンジ部H1が変形できるようになっている。
図5(a)で説明すると、耐震材53の斜め部53aに図示のように圧縮荷重が作用することで、塑性ヒンジ部H1が縦材52側に曲げ変形する。この曲げ変形により、耐震材53において振動エネルギが吸収される。なお、塑性ヒンジ部H1は、互いに逆向きとなる各斜め部53aにそれぞれ設けられているため、揺れ(横荷重)の方向が左右逆になったとしてもそれに対処可能となっている。
ちなみに、一階部分11及び二階部分12においては、図3に示すラチス柱36と同様の構成を有するラチス柱23が設けられている。なお、図1に示すとおり一階部分11及び二階部分12では、三階部分13においてラチス柱45が設けられているのと同じ建物側面にラチス柱23が設けられている。
また、図4において、斜線架構32のラチス柱45は、桁梁42及び下梁44の間に設けられる一対の縦材61,62と、その一対の縦材61,62間において、同縦材61,62に対して斜め方向に延びるようにして設けられる2つの耐震材63とを備えている。縦材61,62及びその取付構造は、図3のラチス柱36の縦材51,52に準ずる。すなわち、縦材61,62はそれぞれ角形鋼よりなり、その上端部及び下端部にはそれぞれ連結部材64が取り付けられている。そして、ボルト及びナット等の締結具により各連結部材64が上下の各梁42,44に締結されることで、縦材61,62が各梁42,44に連結されている。
各耐震材63は、例えば丸鋼材よりなり、一対の縦材61,62の間にX字状に交差するようにして取り付けられている。各耐震材63の交差部分には中間プレート65が設けられており、この中間プレート65に対して各耐震材63が溶接により接合されることで2本の耐震材63の交差部分が連結固定されている。なお、各耐震材63は中間プレート65の表裏両面に1本ずつ溶接されている。
各耐震材63は、直線状の斜め部63aと、その斜め部63aの両端部に曲げ加工により形成された接合部63bとを有している。斜め部63aは、各縦材61,62に対して同じ角度で、かつ交互に逆向きとなるようにして設けられている。接合部63bは、いずれも各縦材61,62に対して直接接合されている。耐震材63において、接合部63bよりも内側が塑性ヒンジ部H2となっている。この場合、各耐震材63は、1本当たり2カ所ずつの塑性ヒンジ部H2を有している。塑性ヒンジ部H2は、地震力などの外力が作用した場合に曲げ変形して振動エネルギを吸収するエネルギ吸収部に相当し、荷重により断面が降伏することで塑性ヒンジ(降伏ヒンジ)が形成される領域となっている。縦材61,62との関係で言えば、塑性ヒンジ部H2は縦材61,62から離間して設けられている。これにより、塑性ヒンジ部H2の曲げ変形領域が確保され、縦材61,62と干渉することなく塑性ヒンジ部H2が変形できるようになっている。
図5(b)で説明すると、耐震材63の斜め部63aに図示のように圧縮荷重が作用することで、塑性ヒンジ部H2が縦材62の長手方向に曲げ変形する。この曲げ変形により、耐震材63において振動エネルギが吸収される。なお、塑性ヒンジ部H2は、互いに逆向きとなる2本の耐震材63よりなり、その各耐震材63の斜め部63aにそれぞれ塑性ヒンジ部H2が設けられているため、揺れ(横荷重)の方向が左右逆になったとしてもそれに対処可能となっている。
ちなみに、本実施形態の耐震構造では、2本の耐震材63を交差させその交差部分を中間プレート65により連結しているため、一方の耐震材63によって他方の耐震材63の座屈が拘束される。それにより面外座屈が防止されるようになっている。
また、斜線架構32のブレース補強部46は図4に示す構成となっている。図4では、上梁34と桁梁42との間には傾斜梁43に平行に中間傾斜梁71が設けられており、それら傾斜梁43,71の間にブレース補強部46が設けられている。ブレース補強部46は、中間梁72を挟んで上下2組のブレース部を有している。
詳しくは、傾斜梁43及び中間傾斜梁71には、それぞれ複数箇所にブラケット73が固定されており、そのブラケット73を被支持端部としてブレース74(筋交い)がX字状に配設されている。ブレース74はボルト接合によりブラケット73に対して固定されている。なお、ブレース74には、張力を調整する調整機構としてのターンバックル(図示略)が取り付けられている。ブレース補強部46は、直線材としてのブレース74を補強要素として用いてなる傾斜補強部に相当する。
ブレース補強部46は、ラチス柱45と同じ幅寸法を有し、かつ桁梁42の同じ部位を挟んでラチス柱45の上側となる位置に設けられている。
上記のとおり上下に連続する鉛直構面P2と傾斜構面P3とにおいてそれぞれラチス柱45とブレース補強部46とを設けたことで、三階部分13における局所的な応力集中が抑制されるようになっている。つまり、剛性の比較的高いラチス柱45と剛性の比較的低いブレース補強部46とを組み合わせることで、斜線架構32におけるラチス柱45とブレース補強部46との構造強度を、主架構31におけるラチス柱36の構造強度と等しくさせることが可能となり、これらの構造強度を等しくすることで局所的な応力集中が抑制されるようになっている。これを図6を用いて説明する。図6では、剛性の異なる2つのラチス柱A,Bとブレース構造とについて構造特性を示しており、ラチス柱Aが主架構31のラチス柱36に相当し、ラチス柱Bが斜線架構32のラチス柱45に相当する。
図6において、ラチス柱Aでは、剛性の高さを示す縦弾性係数(弾性域の傾き)はE1、降伏荷重(降伏応力度)はσ1であり、地震発生時には縦弾性係数E1に応じて弾性変形が生じ、その後降伏点に達すると略一定の荷重のまま塑性変形により地震エネルギが吸収される。これに対し、ラチス柱Bでは、剛性の高さを示す縦弾性係数はE2(E2>E1)、降伏荷重はσ2(例えばσ2≒σ1)であり、地震発生時には縦弾性係数E2に応じて弾性変形が生じ、その後降伏点に達すると略一定の荷重のまま塑性変形により地震エネルギが吸収される。
また、ブレース構造では、荷重に応じた変形が生じ、一定以上の地震力が加わると、変形能力を持っていないために塑性変形を伴うことなく切断される。
ここで、ラチス柱A,Bでは図示のとおり縦弾性係数が相違しており、そのため、これらラチス柱A,Bが混用された場合には、建物に地震力が加わった際に剛性の高い方のラチス柱Bに応力が集中してしまい、ラチス柱Bが先に壊れることが考えられる。つまり、ラチス柱Bはラチス柱Aに比べて初期剛性が高いため、建物において荷重が偏ることに起因して損壊が生じることが懸念される。
この点、剛性の比較的高いラチス柱Bに剛性の比較的低いブレース構造を組み合わせて用いることで、鉛直構面P2及び傾斜構面P3からなる連続面における全体の剛性を低くすることができる。つまり、ラチス柱45及びブレース補強部46からなる構造部の構造強度と、ラチス柱36の構造強度とを等しくさせることができる。この場合、層間変位で言えば、主架構31と斜線架構32とで層間変位が等しくなり、同じ層における層間変位のばらつきをなくすことができる。
これを図面で説明すると、図7(a)に示すように、主架構31では層間変位はラチス柱36の剛性に応じて決定され、「δ1」となっている。これに対し、図7(b)に示すように、斜線架構32では層間変位はラチス柱45とブレース補強部46との剛性に応じて決定され、「δ2」となっている。この場合、ラチス柱36,45を比較すると、柱長の短いラチス柱45の方が剛性が高く、層間変形角が小さいものとなるが(図のθ2<θ1)、ブレース補強部46の剛性を低くすることで、δ1≒δ2となる構成が実現できる。
ところで、本実施形態における建物10(図1に示す建物)の比較対象としては、図8に示す建物80が想定される。この建物80では、建物10との相違点として、三階部分13において斜線架構32側の鉛直構面P2に、ラチス柱ではなくブレース補強部81が設けられている。なお、傾斜構面P3にブレース補強部46が設けられている点は同様である。この場合、構造計算上、ブレース補強部81はラチス枚数に加算できず、斜線架構32での構造強度を担保するべく、斜線架構32の上梁34を起点する位置に屋内ラチス柱82が設置されている。
ここで、図8に示すように屋内ラチス柱82が設けられる構成では、その屋内ラチス柱82の存在により間取りプランに制約が生じる。つまり、屋内ラチス柱82が存在することで、屋内空間として大空間を形成する上で支障となることが懸念される。
これに対し、図1に示す本実施形態の構成では、斜線架構32側の鉛直構面P2にラチス柱45を設けたことにより、屋内ラチス柱を無くすことができる。したがって、屋内ラチス柱の存在により間取りプランに制約が生じるといった不都合を抑制でき、プラン上の自由度が向上する。
また、本実施形態では、主架構31において斜線架構32とは反対側の鉛直構面P1にラチス柱36を設けるとともに、斜線架構32において主架構31とは反対側の鉛直構面P2にラチス柱45を設ける構成としており、かかる構成は、建物10の重心と剛心とを互いに近づける上で有利なものとなっている。つまり、図8のように屋内ラチス柱82が設けられる構成では、剛心が建物の中心からずれ、結果として重心からのずれも大きくなると考えられる。この点、斜線架構32を有する構成であっても、各ラチス柱が建物外周部に配置できる構成とすることで、重心と剛心とのずれを抑制できる。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
建物10の斜線架構32において、鉛直構面P2に、エネルギ吸収部としての塑性ヒンジ部H2を有するラチス柱45を設けるとともに、傾斜構面P3に、補強要素としてブレースを有するブレース補強部46を設ける構成とした。かかる構成によれば、剛性の比較的高いラチス柱45と剛性の比較的低いブレース補強部46とを組み合わせることで、傾斜構面P3及び鉛直構面P2からなる連続面においてその全体の剛性を低くすることができる。これにより、建物10において局所的な応力集中が生じることを抑制し、ひいては地震発生時等における建物10の損壊を抑制することができる。
建物10の同じ層(三階部分13)において、主架構31のラチス柱36の構造強度と、斜線架構32のラチス柱45及びブレース補強部46の構造強度とを等しくさせるようにした。要するに、ラチス柱36とラチス柱45とは背(柱長)が相違することで剛性が異なるが、剛性の高い方のラチス柱45にブレース補強部46を組み合わせる構成としたため、構造強度の均等化が可能となる。これにより、背の異なる複数のラチス柱36,45が設けられる階層において局所的な応力集中が生じることを抑制できる。
主架構31において、斜線架構32に隣接する側とは反対側の鉛直構面P1にラチス柱36を設ける構成とした。これにより、同じ層に主架構31と斜線架構32とを有する建物10において、それら各架構31,32にラチス柱36,45をバランスよく配置できる。また、主架構31及び斜線架構32の境界部とは反対側(建物の外周部分)にラチス柱36,45をそれぞれ配置することで、架構境界部に配置されるラチス柱を不要にすることができる。そのため、ラチス柱の存在に起因して間取りプランに制約が生じるといった不都合を抑制できる。
斜線架構32を有する建物構造において各ラチス柱の配置の自由度が向上することにより、建物10の剛心を重心近くにすることが可能となり、建物10において水平方向の回転力が生じることを抑制できる。これにより、応力の偏りを無くし、建物10を適正状態で維持することができる。
傾斜屋根部14bは、建物の斜線制限に合わせて45度以上の勾配(本実施形態では1.25/1の勾配)で建物内空間をカットした斜線カット部となっており、こうして急勾配の傾斜屋根部14bを有することで、鉛直構面P2のラチス柱45の柱長が短くなりやすくなる。つまりこれにより、鉛直構面P2に設けられるラチス柱45の剛性が高くなる。この点、上記のとおりラチス柱45とブレース補強部46とを組み合わせて用いることにより、斜線カット部を有する建物においても、ラチス柱45を用いて建物の耐震補強を好適に実施できる。
斜線架構32において、ラチス柱45とブレース補強部46とを、桁梁42の同じ部位を挟んでその上側及び下側に設ける構成とした。この場合、ラチス柱45とブレース補強部46とが互いに隣り合う位置に設けられているため、これら両部材による耐震作用の関連性を高めることができる。
[他の実施形態]
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
・斜線架構32において、鉛直構面P2(桁面15)と傾斜構面P3との大きさの比率は図1等の構成以外に変更可能である。例えば、図9に示すように変更してもよい。図9(a)、(b)では、鉛直構面P2の上下寸法を図1等の構成よりも大きくしており、それに合わせて、ラチス柱45において上下3段、又は上下2段に耐震要素(X字状の耐震材)を設けている。この場合、ブレース補強部46は1段で設けられている。また、図9(c)では、鉛直構面P2の上下寸法を図1等の構成よりも小さくしており、それに合わせて、ラチス柱45において上下半段に耐震要素を設けている。この場合、ブレース補強部46は上下3段で設けられている。
図9(c)で用いるラチス柱45(半段の上下寸法のラチス柱)のより具体的な構成を図10に示す。図10に示すラチス柱45では、桁梁42及び下梁44の間に設けられる一対の縦材91,92と、その一対の縦材91,92間において、同縦材91,92に対して斜め方向に延びるようにして設けられる2つの耐震材93とを備えている。各耐震材93は、例えば丸鋼材よりなり、それぞれ一対の縦材91,92の間の中間位置まで延びるようにして取り付けられている。この場合、各耐震材93はそれぞれ縦材91,92と桁梁42とに対して固定されている。なお、2つの耐震材93は山形状をなす1つの耐震材(丸鋼材)により構成されていてもよい。各耐震材93は、直線状の斜め部93aと、その斜め部93aの両端部に曲げ加工により形成された接合部93bとを有している。斜め部93aは、各縦材91,92に対して同じ角度で、かつ交互に逆向きとなるようにして設けられている。耐震材93において、接合部93bよりも内側が塑性ヒンジ部H3となっている。この塑性ヒンジ部H3は、図5等で説明した塑性ヒンジ部H2と同様の構成を有している。
・上記実施形態では、鉛直構面P2及び傾斜構面P3からなる連続面において、ラチス柱45とブレース補強部46とを1カ所ずつ上下に並べ、両構面P2,P3の一方の側端部に寄せて設けたが(図2参照)、この構成を変更してもよい。以下、上記実施形態との相違点を説明しながら各構成を列記する。
図11において(a)では、ラチス柱45とブレース補強部46とを両構面P2,P3の側端部から離間した位置に設けている。(b)では、ラチス柱45を鉛直構面P2の一方の側端部に寄せて設けるとともに、ブレース補強部46を傾斜構面P3の側端部から離間した位置に設けている。(c)では、左右2つのブレース補強部46を2連で設けている。(d)では、左右2つのブレース補強部46を互いに離間させて設けている。(e)では、上下1組となるラチス柱45及びブレース補強部46を2カ所に設けている。(f)では、ラチス柱45のみを2カ所に設けている。
・図12に示すように、三階部分13(建物最上階)の斜線架構32にバルコニー95を設ける構成としてもよい。この場合、傾斜屋根部14bの一部であって、ブレース補強部46とは異なる部位に屋根開口部96を設け、その下方をバルコニー空間(開放空間)にするとよい。
・上記構成では、建物10の同じ層に主架構31と斜線架構32とを設ける構成としたが、斜線架構32のみを設ける構成とすることも可能である。また、2つの斜線架構32を用いて、全体として切妻のような屋根形状とすることも可能である。
・上記実施形態では、ラチス柱として、荷重により断面が降伏することで塑性ヒンジが形成される塑性ヒンジ部を有する構成を採用したが、これを変更してもよい。例えば、ラチス柱として、耐震材(ラチス材)の両端に板状又は筒状の低降伏点鋼材を取り付けておき、地震力が加わった際に低降伏点鋼材が降伏し塑性変形することで地震エネルギを吸収する構成としてもよい。
・上記実施形態では、傾斜補強部として、X字状のブレース74を用いたブレース補強部46を採用したが、これを変更してもよい。例えば、傾斜補強部を、上梁34と傾斜梁43との間に斜めに架け渡して設けられる直線材(火打ちのような形態のブレース)を用いて構成したり、又は、桁梁42と傾斜梁43との間に斜めに架け渡して設けられる直線材(火打ちのような形態のブレース)を用いて構成したりすることも可能である。ここで、ブレース(筋交い)として、斜め1本の「シングル」及び交差状の「ダブル(たすき掛け)」のいずれも採用可能である。
また、ブレース材としては、所望の剛性が得られるように鋼材の太さを決定するとよい。例えば、ブレース材として、柱材の1/2程度の太さの鋼材を用いてもよい。
・上記実施形態では、建物10において、道路斜線制限や北側斜線制限といった建物の高さ制限を考慮して斜線カット部を設け、その勾配を「1.25/1」としたが、この勾配を変更してもよい。例えば勾配を「1.5/1」にしてもよい。また、勾配を45度未満にすることも可能である。例えば、水平方向=10に対して鉛直方向=6となる勾配(6/10の勾配)にしてもよい。
・上記実施形態では3階建て建物にて本発明を具体化したが、これ以外の多層階建物(例えば2階建て建物)にて本発明を具体化したり、平屋建物にて本発明を具体化したりすることも可能である。
10…建物、14b…傾斜屋根部、31…主架構(第2架構)、32…斜線架構(第1架構)、33…柱(第2柱)、34…上梁、35…下梁、36…ラチス柱(第2ラチス柱)、41…柱(第1柱)、42…桁梁、43…傾斜梁、44…下梁、45…ラチス柱(第1ラチス柱)、46…ブレース補強部(傾斜補強部)、74…ブレース(直線材)、H1〜H3…塑性ヒンジ部(エネルギ吸収部)、P1…鉛直構面(第2鉛直構面)、P2…鉛直構面(第1鉛直構面)、P3…傾斜構面。

Claims (5)

  1. 複数の柱及び梁により構築される鉄骨造の建物であって、
    前記柱は、複数の第1柱と、その第1柱よりも長い複数の第2柱とを有し、それら第1柱と第2柱との上端位置に傾斜構面が形成され、前記複数の第1柱の間に前記傾斜構面の下端部に連続して鉛直構面が形成されており、
    前記傾斜構面に設けられ、ブレースを補強要素として用いてなる傾斜補強部と、
    前記鉛直構面に前記第1柱として設けられ、荷重により降伏し塑性変形することでエネルギを吸収するエネルギ吸収部を有するラチス柱と、
    を備えることを特徴とする建物。
  2. 前記ラチス柱が第1ラチス柱、前記鉛直構面が第1鉛直構面であり、
    前記第1ラチス柱が設けられる層と同じ層において、前記第2柱により構成される第2鉛直構面に第2ラチス柱が設けられ、
    前記傾斜構面及び前記第1鉛直構面に設けられる前記傾斜補強部及び前記第1ラチス柱の構造強度と、前記第2ラチス柱の構造強度とを等しくさせるようにしている請求項1に記載の建物。
  3. 四隅に2つの前記第1柱と2つの前記第2柱とを有し、それらの上端位置に形成された前記傾斜構面の上に傾斜屋根部が設けられる第1架構と、
    前記第1架構において前記第1鉛直構面とは反対側に隣接して設けられ、四隅に4つの前記第2柱を有してなる第2架構と、
    を有し、
    前記第2架構において、前記第1架構に隣接する側とは反対側の前記第2鉛直構面に前記第2ラチス柱が設けられている請求項2に記載の建物。
  4. 前記傾斜構面の勾配に沿って延びる傾斜屋根部を有しており、
    前記傾斜屋根部は、建物の斜線制限に合わせて45度以上の勾配で建物内空間をカットした斜線カット部である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の建物。
  5. 前記複数の第1柱の上端部に、前記梁としての桁梁が架け渡して設けられており、
    前記傾斜補強部と前記第1柱としての前記ラチス柱とが、前記桁梁の同じ部位を挟んでその上側及び下側に設けられている請求項1乃至4のいずれか一項に記載の建物。
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