本発明の歯科用重合性組成物は、酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a)〔以降、成分(a)と記載することもある〕、酸性基を有しない多官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は酸性基を有しない常圧沸点が120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)〔以降、これらをまとめて成分(b)と記載することもある〕、非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)〔以降、成分(c)と記載することもある〕、並びに光重合開始剤(d)〔以降、成分(d)と記載することもある〕を含有してなり、該非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)が1種類の(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体及び/又は2種類以上の(メタ)アクリル酸エステルのランダム共重合体を含むものである。なお、本発明において(メタ)アクリルの表記は、メタクリルとアクリルの両者を包含する意味で用いられる。
酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a)
本発明の歯科用重合性組成物は、歯牙に対する接着強さを付与するために、酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a)を含有する。酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a)としては、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、及びカルボン酸基から選ばれる酸性基を少なくとも1個有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。中でも、歯牙に対する接着強さが良好である点から、リン酸基又はホスホン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、リン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。
リン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルの例としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシ−(1−ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート等が例示される。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
中でも、分子内に主鎖の炭素数が6〜20のアルキル基又はアルキレン基を有することが好ましく、分子内に主鎖の炭素数が8〜12のアルキレン基を有することがより好ましく、例えば、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェートが挙げられる。
酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a)の含有量は、接着性の観点から、歯科用重合性組成物中、1〜30重量%であることが好ましく、2〜25重量%であることがより好ましく、3〜20重量%であることがさらに好ましい。尚、本明細書において、酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a)の含有量とは、組成物に含有される酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステルの総含有量のことを意味する。
酸性基を有しない多官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は酸性基を有しない常圧沸点120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)
本発明の歯科用重合性組成物に用いられる、酸性基を有しない多官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は酸性基を有しない常圧沸点120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)としては、(メタ)アクリロイル基を1個有し、常圧沸点が120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(以降、単に、常圧沸点120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステルと記載することもある)、及び酸性基を有さず、重合性基を複数有する多官能性(メタ)アクリル酸エステル(以降、単に、多官能性(メタ)アクリル酸エステルと記載することもある)が例示される。ここでの酸性基とは、前記成分(a)における酸性基と同様のものを意味する。これらは、1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用しても良い。なお、本発明において常圧沸点とは、常圧101.3kPaにおける沸点(℃)を意味し、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
常圧沸点120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステルは、吐出力の観点から、常圧沸点が120℃以上であり、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上である。上限は特に限定されない。
常圧沸点120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステルの例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、(メタ)アクリルアミド、2−(エトキシカルボニルアミノ)エタン−1−オール(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、歯科用重合性組成物の硬化物の靭性が優れる点で、イソボルニルメタクリレート、2−(エトキシカルボニルアミノ)エタン−1−オール(メタ)アクリレートが好ましい。
多官能性(メタ)アクリル酸エステルとしては、酸性基を有しない、芳香族化合物系の二官能性(メタ)アクリル酸エステル、脂肪族化合物系の二官能性(メタ)アクリル酸エステル、三官能性以上の(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
酸性基を有しない芳香族化合物系の二官能性(メタ)アクリル酸エステルの例としては、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン(通称「Bis−GMA」)、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジトリエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
酸性基を有しない脂肪族化合物系の二官能性(メタ)アクリル酸エステルの例としては、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−エチル−1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート等が挙げられる。これらの中でも、得られる歯科用重合性組成物の取り扱いやすさに優れる点で、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−エチル−1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンオールジ(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレートが好ましく、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
酸性基を有しない三官能性以上の(メタ)アクリル酸エステルの例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N‘−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタン等が挙げられる。
常圧沸点120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステルの含有量は、硬化性の観点から、成分(b)中、0〜60重量%であることが好ましく、0〜45重量%であることがより好ましく、0〜30重量%であることがさらに好ましい。
多官能性(メタ)アクリル酸エステルの含有量は、硬化性の観点から、成分(b)中、30〜100重量%であることが好ましく、50〜100重量%であることがより好ましく、70〜100重量%であることがさらに好ましい。
また、多官能性(メタ)アクリル酸エステルの含有量は、本発明の歯科用重合性組成物の硬化物の靭性の観点から、酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a)、並びに酸性基を有しない多官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は酸性基を有しない常圧沸点が120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)の総量〔以降、成分(a)と成分(b)の総量と記載する〕中、30〜99重量%であることが好ましく、40〜97.5重量%であることがより好ましく、50〜95重量%であることがさらに好ましい。
また、本発明に用いられる成分(b)が、靭性の観点から、ウレタン結合を有する少なくとも1種類の(メタ)アクリル酸エステル(単に、ウレタン結合を有する(メタ)アクリル酸エステルと記載することもある)を含むことが好ましい。即ち、常圧沸点120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステルがウレタン結合を有するものであっても、多官能性(メタ)アクリル酸エステルがウレタン結合を有するものであってもよく、両者がウレタン結合を有するものであってもよい。なかでも、ウレタン結合を有する少なくとも1種類の(メタ)アクリル酸エステルは、靭性に優れる点から、2〜4官能性であることが好ましく、2官能性であることがより好ましい。
ウレタン結合を有する(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、後述するイソシアネート基(−NCO)を有する化合物と、水酸基(−OH)を有する(メタ)アクリレート化合物を付加反応させることにより容易に合成することができる。
イソシアネート基を有する化合物の例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHMDI)、トリシクロデカンジイソシアネート(TCDDI)、アダマンタンジイソシアネート(ADI)などが挙げられる。
また、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルの例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシ−3アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、2,2−ビス[4−〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのトリ又はテトラ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物を挙げることができる。
イソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物との付加反応は、公知の方法に従って行うことができ、特に限定はない。
得られるウレタン結合を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、ウレタン結合を有する常圧沸点120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステルとしては、2−(メチルアミノカルボキシ)エタン−1−オール(メタ)アクリレート、2−(エチルアミノカルボキシ)エタン−1−オール(メタ)アクリレート、2−(プロピルアミノカルボキシ)エタン−1−オール(メタ)アクリレート、2−(ブチルアミノカルボキシ)エタン−1−オール(メタ)アクリレート、2−(ヘキシルアミノカルボキシ)エタン−1−オール(メタ)アクリレート、2−(シクロヘキシルアミノカルボキシ)エタン−1−オール(メタ)アクリレート、2−(フェニルアミノカルボキシ)エタン−1−オール(メタ)アクリレート、2−(メトキシカルボニルアミノ)エタン−1−オール(メタ)アクリレート、2−(エトキシカルボニルアミノ)エタン−1−オール(メタ)アクリレート、2−(プロポキシカルボニルアミノ)エタン−1−オール(メタ)アクリレート、2−(ブトキシカルボニルアミノ)エタン−1−オール(メタ)アクリレート、2−(フェノキシカルボニルアミノ)エタン−1−オール(メタ)アクリレートなどが例示される。また、ウレタン結合を有する多官能性(メタ)アクリル酸エステルとしては、前記のイソシアネート基を有する化合物の中から選択される1種類以上の化合物と水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルの中から選択される1種類以上の化合物の任意の組み合わせの反応物が例示される。
これらのなかでも、硬化物の靭性及びエナメル質への接着性が優れる観点から、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称UDMA)、N,N‘−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス[2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール]テトラ(メタ)アクリレート(通称U4TH)、脂環式ジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの反応物、例えば、IPDと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの反応物、TCDDIと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの反応物、ADIと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの反応物が好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
その他、ジオールとジイソシアネートが反応して得られたポリウレタンの両末端に、(メタ)アクリル基を有するマクロモノマー等も用いることができる。
ウレタン結合を有する(メタ)アクリル酸エステルの含有量は、靭性の観点から、成分(b)中、20〜95重量%であることが好ましく、30〜92.5重量%であることがより好ましく、40〜90重量%であることがさらに好ましい。
また、ウレタン結合を有する(メタ)アクリル酸エステルの含有量は、本発明の歯科用重合性組成物の均一性及び硬化物の靭性の観点から、酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a)、並びに酸性基を有しない多官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は酸性基を有しない常圧沸点が120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)の総量〔成分(a)と成分(b)の総量〕中、5〜99重量%であることが好ましく、15〜95重量%であることがより好ましく、25〜90重量%であることがさらに好ましい。
成分(b)の含有量は、靭性の観点から、歯科用重合性組成物中、40〜90重量%であることが好ましく、50〜85重量%であることがより好ましく、60〜80重量%であることがさらに好ましい。尚、本明細書において、成分(b)の含有量とは、組成物に含有される成分(b)の総含有量のことを意味する。
また、成分(a)と成分(b)の含有量比〔(a)/(b)〕は、接着性と硬化性の観点から、40/60〜1/99が好ましく、30/70〜2.5/97.5がより好ましく、25/75〜5/95がさらに好ましい。
非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)
本発明の非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)は、1種類の(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体及び/又は2種類以上の(メタ)アクリル酸エステルの共重合体を含み、いずれも非架橋体であることを意味する。非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)において、2種類以上の(メタ)アクリル酸エステル単位が含まれる場合、非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)の、酸性基を有しない多官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は酸性基を有しない常圧沸点が120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)に対する溶解性に優れ、得られる歯科用重合性組成物の吐出性が優れる点で、ランダム共重合体であることが必要であり、ブロック共重合体やグラフト共重合体と区別される。ブロック共重合体、グラフト共重合体は、溶解性が乏しく得られる歯科用重合性組成物の吐出力が大きくなりやすい。なお、本発明において、共重合体が「ランダム」構造をとるとは、2種類以上の(メタ)アクリル酸エステルが無秩序に重合した連鎖構造をとることを意味し、1H−NMRおよび13C−NMRの分析により確認することができる。また、「非架橋」であるとは、重合体同士が架橋されていないことを意味し、(メタ)アクリル酸エステル又はクロロホルム、塩化メチレン、エタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸エチルなどの有機溶媒に溶解すること、若しくは200℃〜300℃に加熱した際に溶融することにより確認することができる。
本発明の非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)を構成する(メタ)アクリル酸エステル単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル等が挙げられる。これらの中で、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシルを用いた単独重合体及び/又は2種類以上の共重合体が、得られる歯科用重合性組成物の硬化物の靭性が高くなるため好ましく、2種類以上の(メタ)アクリル酸エステル単位が含まれていることがより好ましい。なかでも、靭性と溶解性に優れるため、メタクリル酸メチル又はメタクリル酸イソボルニルから選ばれる少なくとも1種類と、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、及び(メタ)アクリル酸ヘキシルから選ばれる少なくとも1種類とが含まれていることがさらに好ましい。
非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)には、本発明の効果を損なわない範囲で、他のモノマー単位が含まれてもよい。他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基を有するビニル系モノマー;(メタ)アクリルアミド;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニルモノマー;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン系モノマー;エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマー;ε−カプロラクトン、バレロラクトン等のラクトン系モノマー等が挙げられる。
本発明で用いる非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)は、40℃において固体状を示すものであるが、組成物中において溶解した状態で使用するために、重合体同士が架橋されておらず、その重量均分子量(Mw)は、非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)の、酸性基を有しない多官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は酸性基を有しない常圧沸点が120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)に対する溶解性、歯科用重合性組成物の硬化物の靭性の観点から、10000〜2000000の範囲内であることが好ましく、25000〜1500000の範囲内であることがより好ましく、50000〜1000000の範囲内であることがさらに好ましい。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で求めたポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。また、重合体同士が架橋した場合、(メタ)アクリル酸エステルや有機溶媒に溶解しなくなる。
本発明で用いる非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)の製造方法は、化学構造に関する本発明の条件を満足する共重合体が得られる限りにおいて、特に限定されることはなく、公知の手法に準じた方法を採用することができる。
非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)の含有量は、溶解性、吐出性、賦形性および靭性の観点から、歯科用重合性組成物中、1〜30重量%であることが好ましく、2.5〜25重量%であることがより好ましく、5〜20重量%であることがさらに好ましい。尚、本明細書において、非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)の含有量とは、組成物に含有される非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体の総含有量のことを意味する。
また、成分(c)と成分(b)の含有量比〔(c)/(b)〕は、溶解性の観点から、1/99〜40/60が好ましく、2.5/97.5〜30/70がより好ましく、5/95〜25/75がさらに好ましい。
またさらに、成分(c)の含有量は、酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a)、並びに酸性基を有しない多官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は酸性基を有しない常圧沸点が120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)の総量(成分(a)と成分(b)の総量)100重量部に対して、1〜40重量部であることが好ましく、2.5〜30重量部であることがより好ましく、5〜25重量部であることがさらに好ましい。
光重合開始剤(d)
本発明に用いられる光重合開始剤(d)は、一般工業界で使用されている光重合開始剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に用いられている光重合開始剤が好ましく用いられる。
光重合開始剤(d)としては、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類、チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩、ケタール類、α−ジケトン類、アミノ安息香酸エステル類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物類、α−アミノケトン化合物類などが挙げられる。
これらの光重合開始剤の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類及びその塩、α−ジケトン類、並びにアミノ安息香酸エステル類からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す組成物が得られる。
上記光重合開始剤として用いられる(ビス)アシルホスフィンオキサイド類のうち、アシルホスフィンオキサイド類としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。ビスアシルホスフィンオキサイド類としては、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、(2,5,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドナトリウム塩、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドカリウム塩、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドのアンモニウム塩などが挙げられる。さらに、特開2000−159621号公報に記載されている化合物も挙げられる。
これら(ビス)アシルホスフィンオキサイド類の中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド及び2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドナトリウム塩が好ましい。
上記光重合開始剤として用いられるα−ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ジベンジル、カンファーキノン、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、4,4’−オキシベンジル、アセナフテンキノン等が挙げられる。この中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、カンファーキノンが好ましい。
上記光重合開始剤として用いられるアミノ安息香酸エステル類としては、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−(メタクリロイルオキシ)エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチル等が挙げられる。
光重合開始剤(d)の含有量は特に限定されないが、酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a)、並びに酸性基を有しない多官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は酸性基を有しない常圧沸点が120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)の総量(成分(a)と成分(b)の総量)100重量部に対して、0.05〜15重量部であることが好ましく、0.1〜5重量部であることがより好ましく、0.15〜2.5重量部であることがさらに好ましい。尚、本明細書において、光重合開始剤(d)の含有量とは、組成物に含有される光重合開始剤の総含有量のことを意味する。
本発明の歯科用重合性組成物は、上記酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a)、酸性基を有しない多官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は酸性基を有しない常圧沸点が120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)、(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)、及び光重合開始剤(d)含有していれば特に限定はなく、当業者に公知の方法により、容易に製造することができる。
フィラー(e)
本発明の歯科用重合性組成物には、取り扱い性を調整するために、また硬化物の機械的強度を高めるために、フィラー(e)をさらに配合することができる。このようなフィラーとして、無機フィラー、及び有機−無機複合フィラー等が挙げられる。
無機フィラーの素材としては、石英、シリカ、アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス等が挙げられる。これらもまた、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。無機フィラーの形状は特に限定されず、不定形フィラー及び球状フィラーなどを適宜選択して使用することができる。これらの中でも、得られる歯科用重合性組成物の賦形性が優れる点で、石英、シリカ、アルミナが好ましく用いられ、より好ましくはシリカが用いられる。
前記無機フィラーは、酸性基を有しない多官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は酸性基を有しない常圧沸点が120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)との混和性を調整するため、必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。かかる表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
表面処理の方法としては、公知の方法を特に限定されずに用いることができ、例えば、無機フィラーを激しく攪拌しながら上記表面処理剤をスプレー添加する方法、適当な溶媒へ無機フィラーと上記表面処理剤とを分散又は溶解させた後、溶媒を除去する方法、あるいは水溶液中で上記表面処理剤のアルコキシ基を酸触媒により加水分解してシラノール基へ変換し、該水溶液中で無機フィラー表面に付着させた後、水を除去する方法などがあり、いずれの方法においても、通常50〜150℃の範囲で加熱することにより、無機フィラー表面と上記表面処理剤との反応を完結させ、表面処理を行うことができる。なお、表面処理量は特に制限されず、例えば、処理前の無機フィラー100重量部に対して、表面処理剤を1〜10重量部用いることができる。
有機−無機複合フィラーとは、上述の無機フィラーにモノマー化合物を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものである。有機−無機複合フィラーとしては、例えば、TMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などを用いることができる。前記有機−無機複合フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。
フィラー(e)の平均粒子径は、得られる歯科用重合性組成物の取り扱い性及びその硬化物の機械的強度などの観点から、0.001〜1.0μmであることが好ましく、0.001〜0.1μmであることがより好ましい。なお、本明細書において、フィラーの平均粒子径は、当業者に公知の任意の方法により測定され得、例えば、下記実施例に記載のレーザー回折型粒度分布測定装置により容易に測定され得る。
フィラー(e)の配合量は特に限定されないが、吐出性と賦形性の観点から、成分(a)と成分(b)の総量100重量部に対して、0〜50重量部であることが好ましく、1〜30重量部であることがより好ましく、2.5〜25重量部であることがさらに好ましい。
また、本発明の歯科用重合性組成物には、性能を低下させない範囲内で、公知の添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、重合禁止剤、酸化防止剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、有機溶媒、増粘剤等が挙げられる。
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノンモノメチルエーテル、t−ブチルカテコール、2−t−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン等が挙げられる。重合禁止剤の含有量は、成分(a)と成分(b)の総量100重量部に対して0.001〜1.0重量部が好ましい。
本発明の歯科用重合性組成物は、硬化前の粘度と賦形性が両立され操作性に優れる。また、歯質に対して良好な接着性を発揮する。そして、硬化物が靭性に優れている。従って、本発明の歯科用硬化性組成物は、1剤型のシリジン容器に収納されて使用される歯科材料に使用される。とりわけ、動揺歯固定材として最適に使用することができる。
動揺歯固定材として好適な1液型の歯科用重合性組成物の組成割合の一例を示す。酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a)、並びに酸性基を有しない多官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は酸性基を有しない常圧沸点が120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)の総量100重量部に対し、酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a)を1〜40重量部、酸性基を有しない多官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は酸性基を有しない常圧沸点が120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)を60〜99重量部、非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)を1〜40重量部、光重合開始剤(d)を0.05〜15重量部、フィラー(e)を0〜50重量部含むことが好ましく、酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a)、並びに酸性基を有しない多官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は酸性基を有しない常圧沸点が120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)の総量100重量部に対し、酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a)を2.5〜30重量部、酸性基を有しない多官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は酸性基を有しない常圧沸点が120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)を70〜97.5重量部、非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)を2.5〜30重量部、光重合開始剤(d)を0.1〜5重量部、フィラー(e)を1〜30重量部含むことがより好ましく、酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a)、並びに酸性基を有しない多官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は酸性基を有しない常圧沸点が120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)の総量100重量部に対し、酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a)を5〜25重量部、酸性基を有しない多官能性(メタ)アクリル酸エステル及び/又は酸性基を有しない常圧沸点が120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)を75〜95重量部、非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)を5〜25重量部、光重合開始剤(d)を0.15〜2.5重量部、フィラー(e)を2.5〜25重量部含むことがさらに好ましい。
本発明の歯科用重合性組成物は、全ての成分が予め混合された1剤型であり、操作性の観点から円筒状のシリンジ容器に充填されて使用することが好ましい。シリンジ容器の大きさは円筒部の形状は長さ10cm、内径15mm以下が好ましく、長さ7.5cm、内径10mm以下がより好ましい。また、取り扱い性を向上させるためにシリンジの先端にノズルを装着して使用することができるが、ノズルの形状は長さ25mm、開口部の内径2.5mm以下が好ましく、長さ20mm、開口部の内径2.0mm以下がより好ましい。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお、例中の部は、特記しない限り重量部である。また、「常圧」とは101.3kPaを示す。
〔(メタ)アクリル酸エステル単量体の沸点〕
以下の実施例において使用した(メタ)アクリル酸エステル単量体の沸点を単蒸留装置によって測定した。用いた装置及び条件は次のとおりである。
(沸点測定の装置及び条件)
・装置:ガラス製単蒸留装置 旭製作所社製
・圧力:101.3kPa
〔(メタ)アクリル酸エステル重合体の重量平均分子量(Mw)〕
以下の実施例において使用した(メタ)アクリル酸エステル重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと表す)測定よりポリスチレン換算から求めた。GPC測定に用いた装置及び条件は以下のとおりである。
(GPC測定の装置及び条件)
・装置:東ソー社製GPC装置「HLC−8020」
・分離カラム:東ソー社製「TSKgel GMHXL」、「G4000HXL」及び「G5000HXL」を直列に連結
・溶離液:テトラヒドロフラン
・溶離液流量:1.0ml/分
・検出方法:示差屈折率(RI)
〔フィラーの平均粒子径〕
以下の実施例において使用したフィラーの平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定した。測定に用いた装置及び条件は以下のとおりである。
・装置:島津製作所社製 レーザー回折式粒度分布測定装置「SALD−2100」
・分散媒:0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液
次に、実施例及び比較例の歯科用重合性組成物の成分を略号と共に以下に記す。
[酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a)]
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
[酸性基を有しない多官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)]
UDMA:2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート
U4TH:N,N‘−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス[2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール]テトラ(メタ)アクリレート
TCDDM:トリシクロデカンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチルメタクリレートの反応物
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
[酸性基を有しない常圧沸点が120℃以上の単官能性(メタ)アクリル酸エステル(b)]
IBM:イソボルニルメタクリレート、常圧沸点200℃以上
ECAEM:2−(エトキシカルボニルアミノ)エタン−1−オール(メタ)アクリレート、常圧沸点200℃以上
[非架橋(メタ)アクリル酸エステル重合体(c)]
PMMA:非架橋ポリメチルメタクリレート粉、根上工業社製「ハイパールM4003」、Mw800000
PEMA:非架橋ポリエチルメタクリレート粉、根上工業社製「ハイパールM5001」、Mw400000
PMMA−PBMA:非架橋のポリメチルメタクリレート−ポリブチルメタクリレートランダム共重合体粉、根上工業社製「ハイパール122MB」、Mw300000
PMMA−PEMA:非架橋のポリメチルメタクリレート−ポリエチルメタクレートランダム共重合体粉、根上工業社製「ハイパールM4501」、Mw800000
[光重合開始剤(d)]
CQ:カンファーキノン
BAPO:ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド
PDE:N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル
[フィラー(e)]
Ar380:コロイドシリカ粉、日本アエロジル社製「アエロジル380」、平均粒子径0.007μm
Ar130:コロイドシリカ粉、日本アエロジル社製「アエロジル130」、平均粒子径0.022μm
[重合禁止剤]
BHT:3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン
実施例1〜11及び比較例1〜5(1剤型歯科用重合性組成物の調製)(但し、実施例1、2は参考例である)
表1〜2に示す原料を常温(23℃)暗所で混合してペーストを調製し、以下の試験例1〜4の方法に従って特性を調べた。結果を表1〜表2に示す。
試験例1 吐出性(吐出力)
吐出力の測定には、クリアフィル マジェスティLV(クラレノリタケデンタル社製、円筒部長さ7.5cm、開口部の内径0.8cm)の容器を、容器の先端に長さ1.5cm、開口部の内径0.8mmのガイドチップを装着して用いた。
組成物を容器に収納し1週間25℃で保管して組成物の性状を安定化した後、押出部材を容器に進入させて、容器内のペーストをガイドチップを通して吐出部から吐出させた。このときの吐出力(ペーストを収納容器から混合器へ押出しするのに要する力)を万能試験機(島津製作所社製、商品コード「AGI−100」)を用いて測定した。収納容器を鉛直に立て、圧縮強度試験用の治具を装着したクロスヘッドを4mm/分で降下させて、ペーストに荷重負荷を与えながら吐出し、そのときの最大荷重を吐出力とした。吐出力の測定は25℃で行った。吐出力が40N以下の場合は、容易に吐出可能で吐出性が良く、40N〜60Nでは吐出が可能であるが、吐出性は悪く、60N以上では吐出が困難である。
試験例2 賦形性
縦59mm×横83mmの歯科用練和紙に直径3mmの円を描いておき、その円内に重合性組成物を0.3g載せ、35℃の恒温器内に垂直に立て、その状態で3分間静置して重合性組成物の円内からの移動距離を測定した。この試験を3回行い、3回の測定値の平均値を垂れ距離(mm)とした。垂れ距離が大きいほど動揺歯固定材が流れやすいことを示す。この試験での垂れ距離が3mm以上のものは、賦形性がなく、操作性が悪い。
試験例3 靭性
ISO4049に準拠して曲げ試験により評価した。すなわち、作製した歯科用重合性組成物をSUS製の金型(縦2mm×厚さ2mm×長さ25mm)に充填し、上下をスライドガラスで圧接し、歯科用可視光照射器(モリタ社製、ペンキュア2000)で、10秒間ずつ片面5箇所で裏表に光照射して歯科用重合性組成物を硬化させた。得られた硬化物について、万能試験機(島津製作所社製、オートグラフAG−100kNI)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/minで曲げ試験を実施した。この測定において、曲げ弾性率が小さいほど柔軟性に優れ、曲げ強度が大きいほど高強度を、破断点変位が大きいほど破壊しにくいことを示し、曲げ弾性率が2GPa以下で、曲げ強度が60MPa以上、破断点変位が4mm以上の場合、靭性に優れる。
試験例4 歯質(牛歯エナメル質/象牙質)との引張接着強さ
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にて#80シリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)で研磨してエナメル質の平坦面又は象牙質の平坦面を得た。各平坦面を流水下にて#1000のシリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)でさらに研磨した後、表面の水を歯科用エアシリンジで吹き飛ばした。
各平坦面に下記の歯面処理剤1を筆で塗布し、30秒間放置した後、蒸留水で水洗した。次いで、歯科用エアシリンジで、蒸留水を軽く吹き飛ばした。直径3mmの丸孔を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼付し、接着面積を規定した。続いて、丸孔内に歯科用重合性組成物を充填し、1cm×1cmのPETフィルムを圧着した後、歯科用可視光照射器(モリタ社製、ペンキュア2000)で、10秒間光照射して歯科用重合性組成物を硬化させた。その後、PETフィルムを除去し、フィルム圧着面を圧力2MPaでアルミナサンドブラスト処理して、歯科用重合性組成物の硬化物表面を粗造化した。粗造化した面に、市販の歯科用レジンセメント(クラレノリタケデンタル社製、パナビア21)を用いてステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)を接着した。接着後、当該サンプルを30分間室温で静置した後、蒸留水に浸漬した。接着試験供試サンプルは計5個作製し、蒸留水に浸漬したすべてのサンプルを、37℃に保持した恒温器内に24時間保管した。
歯面処理剤1:
濃リン酸 50重量部
蒸留水 50重量部
Ar380 5重量部
からなる混合物
上記の接着試験供試サンプルの引張接着強度を、万能試験機(島津製作所社製、オートグラフAG−100kNI)にて、クロスヘッドスピード2mm/minで測定し、平均値を引張接着強さとした。引張接着強さが15MPa以上の場合、接着性に優れる。
表1〜2の結果より、実施例の歯科用重合性組成物は、粘度と賦形性が適切で硬化前の操作性に優れることが分かる。また、曲げ弾性率が小さいながらも曲げ強さ及び変位が大きく、靭性に優れている。さらに、歯質に対する接着性を有しており、本発明の歯科用重合性組成物は、動揺歯固定材として優れていることがわかる。一方、非架橋メタ(アクリル酸エステル共重合体(c)を含有していない比較例1の組成物は靭性に乏しく脆く、接着性も小さい。架橋PMMAを配合した比較例2の組成物はPMMAが溶解しないので、吐出力が大きく、硬化物は脆い。また、比較例3のMMA(常圧沸点101℃)を配合した特許文献2に相当する組成は、吐出性が顕著に悪い。さらに、比較例4及び5のブロックコポリマーを配合した特許文献3、4に相当する組成は柔軟性には優れるが吐出性と靭性には劣る。