<本発明の化合物(A)>
まず、一般式(1)で用いられている各記号について説明する。
R1、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。該炭化水素基は、脂肪族であっても芳香族であってもよく、また飽和又は不飽和、直鎖又は分岐鎖であってもよい。例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリールアルキル基、アルケニルアリール基等が挙げられる。
アルキル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、シクロヘプタニル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロオクタニル基、n−ノニル基、シクロノナニル基、n−デシル基等が挙げられる。
アルケニル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、例としては、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
アルキニル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、例としては、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、1−メチル−2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−ペンチニル基、1−エチル−2−プロピニル基、2−ペンチニル基、3−ペンチニル基、1−メチル−2−ブチニル基、4−ペンチニル基、1−メチル−3−ブチニル基、2−メチル−3−ブチニル基、1−ヘキシニル基、2−ヘキシニル基、1−エチル−2−ブチニル基、3−ヘキシニル基、1−メチル−2−ペンチニル基、1−メチル−3−ペンチニル基、4−メチル−1−ペンチニル基、3−メチル−1−ペンチニル基、5−ヘキシニル基、1−エチル−3−ブチニル基等が挙げられる。
アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
アルキルアリール基の例としては、低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)で置換されたアリール基が挙げられ、具体的には、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ジブチルフェニル基、メチルナフチル基等が挙げられる。
アリールアルキル基の例としては、アリール基で置換された低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)が挙げられ、具体的にはベンジル基等が挙げられる。
アルキルアリールアルキル基の例としては、低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)で置換されたアリール基を置換基として有する低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)が挙げられ、具体的には、メチルベンジル基等が挙げられる。
アルケニルアリール基の例としては、低級アルケニル基(特に、炭素数1〜6のアルケニル基)で置換されたアリール基が挙げられ、具体的には、スチリル基、アリルフェニル基等が挙げられる。
炭化水素基の炭素数は1〜20であるが、ここで言う炭素数とは炭化水素基全体の炭素数のことであり、結合しているビニル基の重合性の観点から、1〜4が好ましく、1〜2がより好ましい。
また、前記炭化水素基は置換基を有していてもよく、置換基を含めた炭化水素基の炭素数が1〜20であれば、置換基の種類及び数は特に限定されない。置換基の具体例としては、アミノ基、水酸基、アルコキシ基、アミド基、アシル基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
これらのなかでも、R1及びR2は、結合しているビニル基の重合性の観点から、水素原子であることが好ましい。R3は、結合しているビニル基の重合性の観点から、水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましく、加水分解等により化合物(A)の重合性部位が脱離した場合の生体に対する刺激性の観点から、メチル基がさらに好ましい。また、同様の観点から、R1及びR2が水素原子であり、R3が水素原子又は炭素数1〜20アルキル基であることが好ましく、R1及びR2が水素原子であり、R3が水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましく、R1及びR2が水素原子であり、R3がメチル基であることがさらに好ましい。
Xは、−COO−、−CONH−、−OCO−、−O−、−S−、−CH2O−、−CH2S−、−C6H4O−、−C6H4CONH−、−C6H4NHCO−、−C6H4COO−、−C6H4OCO−、及び−CONHCO−からなる群から選択される1種を表す。これらのなかでも、結合しているビニル基の重合性の観点から、−COO−又はCONH−であることが好ましく、化合物(A)の製造の容易さから、−COO−がより好ましい。
XとY1との間のスペーサーとして存在する−CH2CH2NHCO−は、化合物(A)の特徴に寄与する部分であり、分子間の相互作用を強める役割を担っており、結果、分子間の重合性部位が近接することによって、重合硬化しやすくなると考えられる。
Y1及びY2は、それぞれ独立して、−O−、−S−、及び−NH−からなる群から選択される1種を表す。これらのなかでも、化合物(A)の製造の容易さから、Y1及びY2はそれぞれ独立して−O−又は−S−であることが好ましく、Y1及びY2とも酸素原子であることがより好ましい。
R4は置換基を有してもよい炭素数2〜20の有機基を表す。R4は、Y1とY2の間のスペーサーとしての役割を有する。Y2に結合するリン酸基部位(−P(=Z)(OR5)(OR6))は接着対象と相互作用するが、スペーサーとしてR4が存在することによって、重合性部位が接着対象より適切な距離離れ、重合性部位の重合が容易になる。また、R4があることによって、化合物(A)の単位重量あたりのリン酸基部位の濃度が低くなり、化合物(A)が加水分解しにくくなる。
R4で表される有機基は、脂肪族であっても芳香族であってもよく、また飽和又は不飽和、直鎖又は分岐鎖であってもよい。有機基は、炭化水素基に限られず、炭化水素基の主鎖に、カルボニル炭素、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挿入されていてもよい。例としては、飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素、又は芳香族炭化水素から、それぞれ水素原子を2個除いた基が挙げられる。
R4で表される有機基が有する置換基の数及び種類は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、置換基の例として、アミノ基、水酸基、アルコキシ基、アミド基、アシル基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
R4で表される有機基の炭素数は2〜20であるが、ここで言う炭素数とは置換基を含めた有機基全体の炭素数であり、接着性及び重合性の観点から、4〜14が好ましく、4〜12がより好ましい。炭素数が2以上であると歯質と反応して生成したカルシウム塩の水への溶解性が低いことから接着性が良好であり、炭素数が20以下であると架橋密度が低くなり過ぎず、接着性が良好に保たれる。
R4として好ましくは、炭素数4〜14の脂肪族炭化水素基であり、具体的には、n−ブチレン基、イソブチレン基、n−ペンチレン基、イソペンチレン基、n−へキシレン基、イソへキシレン基、n−へプチレン基、イソへプチレン基、n−オクチレン基、イソオクチレン基、n−ノニレン基、イソノニレン基、n−デシレン基、イソデシレン基、n−ウンデシレン基、イソウンデシレン基、n−ドデシレン基、イソドデシレン基、n−トリデシレン基、イソトリデシレン基、n−テトラデシレン基、イソテトラデシレン基、ビシクロノナンジメチル基、シクロヘキサンブチルプロピル基、ジメチルデシレン基、ジエチルデシレン基等が挙げられる。また、接着性の観点からより好ましくは、炭素数4〜12の脂肪族炭化水素基であり、具体的には、n−ブチレン基、n−ペンチレン基、n−へキシレン基、n−へプチレン基、n−オクチレン基、n−ノニレン基、n−デシレン基、n−ウンデシレン基、n−ドデシレン基等が挙げられる。
R5及びR6は、それぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基、又は金属原子を表す。R5及びR6で表される炭素数1〜20の炭化水素基の例としては、R1〜R3について挙げたものと同様であり、置換基の数及び種類も同様である。金属原子としては、周期律表第1族又は第2族の金属原子であることが好ましく、具体的にはナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。
これらのなかでも、化合物(A)の酸性度の観点からは、R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜6の炭化水素基であることが好ましく、水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基であることがより好ましく、水素原子、メチル基、エチル基又はフェニル基であることがさらに好ましく、R5及びR6はいずれも水素原子であることがさらに好ましい。
Zは酸素原子又は硫黄原子を表し、化合物(A)の製造の容易さの観点から、酸素原子が好ましい。
化合物(A)としては、具体的には、以下の構造式の化合物が例示される。なお、構造式中、nは2〜20の整数を示す。
化合物(A)のより好ましい構造は、下記式(2)又は(3)で示される構造である。
本発明の化合物(A)は公知方法を組み合わせることにより、製造することができる。一例としては、まず、下記一般式(4)で表される化合物と、下記一般式(5)で表される化合物を反応させ、下記一般式(6)で表される化合物を得た後、一般式(6)で表される化合物のY4基にリン酸基を導入することで、化合物(A)を得ることができる。
(式中、R1〜R4及びY1は前記と同義であり、Y3は一般式(4)で表される化合物の−NCO基と反応可能な官能基であり、Y4はリン酸化剤と反応可能な官能基を表す)
官能基Y3は、一般式(4)で表される化合物の−NCO基との反応によりY1、即ち、−O−、−S−、及び−NH−から選択される1種の結合が生成するように選ばれる。これらの結合を生成させる官能基Y3ならびにその反応方法は、当業者に周知である。例えば、−O−結合を形成させる場合には、Y3として、−OHを選択し、公知方法に従いウレタン化反応させればよい。−S−結合を形成させる場合には、Y3として、−SHを選択し、公知方法に従いチオウレタン化反応させればよい。−NH−結合を形成させる場合には、Y3として、−NH2を選択し、公知方法に従いウレア化反応させればよい。
官能基Y4は、リン酸化剤との反応によりY2、即ち、−O−、−S−、及び−NH−から選択される1種の結合が生成するように選ばれる。これらの結合を生成させる官能基Y4ならびにその反応方法は、当業者に周知である。例えば、−O−結合を形成させる場合には、Y4として、−OH、または、アルデヒド基を選択し、公知方法に従いリン酸エステル化反応させればよい。−S−結合を形成させる場合には、Y4として、−SHを選択し、公知方法に従いリン酸チオエステル化反応させればよい。−NH−結合を形成させる場合には、Y4として、−NH2を選択し、公知方法に従いチオアミド化反応させればよい。
以下、一般式(5)で表される化合物の官能基Y3及び一般式(4)で表される化合物の−NCO基の反応により、例えば、−NHCO−O−で表されるウレタン結合を生じさせる方法(以下、ウレタン化反応)について、詳細に説明する。ウレタン化反応は、特許文献:特公昭63−020203号公報に記載の方法を参照することができる。
一般式(4)で表される化合物類としては、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート等が挙げられる。
一般式(5)で表される化合物類としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,3−ヘプタンジオール、1,4−ヘプタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘプタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,3−オクタンジオール、1,4−オクタンジオール、1,5−オクタンジオール、1,6−オクタンジオール、1,7−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。
一般式(4)で表される化合物と一般式(5)で表される化合物との反応には触媒を用いることができ、触媒としては、有機金属化合物及びアミン類が使用できる。
有機金属化合物としては、ウレタン化反応に対して触媒活性のある有機金属化合物が使用できる。具体的には、ナフテン酸コバルト等の有機コバルト化合物、テトラ−n−ブチルスズ、トリメチルスズヒドロキシド、ジメチル二塩化スズ、ジラウリン酸ジ−n−ブチルスズ、オクトエ酸スズ等の有機スズ化合物等が挙げられる。アミン類としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等が挙げられる。
触媒の使用量は、原料である一般式(5)で表される化合物1モルに対して、通常、0.000001〜1モル程度が好ましく、0.00001〜0.01モルであることがより好ましい。触媒の使用量が0.000001モル未満の場合、触媒の効率が低下し反応時間が長くなるおそれがある。一方、1モルを超えると、使用量の増加による効果が得られなくなる。
また、本反応は、重合禁止剤の存在下に実施することが好ましい。かかる重合禁止剤としては、例えばハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノンなどのハイドロキノン類;p−ベンゾキノンなどのキノン類;α−ナフトール、β−ナフトールなどのナフトール類;カテコール、3,5−ジ−t−ブチルカテコールなどのカテコール類;ピロガロール、フェニルエチルピロガロールなどのピロガロール類;2,6−ジ−t−ブチルアニソールなどのアニソール類などが挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
反応は、無溶媒系で実施してもよく、また、溶媒を使用して実施してもよい。使用できる溶媒としては、一般式(5)で表される化合物の溶解度が、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である溶媒が挙げられる。具体的には、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。精製での溶媒除去のしやすさから、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルが好ましい。溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
一般式(4)で表される化合物と一般式(5)で表される化合物との反応温度は、通常、0〜150℃程度が好ましく、より好ましくは10〜100℃である。温度が低すぎると、反応速度が低下するため反応時間が長くなる。また、反応温度が高いと、重合等の副反応が進みやすくなり、生成物の純度が大幅に低下する。
反応の際の圧力は、絶対圧力で0.01〜10MPa程度が好ましく、より好ましくは常圧(101.3kPa)〜1MPaであり、もっとも好ましいのは、常圧である。圧力が高すぎると、安全上問題があり、特別な装置が必要となるため産業上有用ではない。圧力が10MPa以下であると、安全性が確保されるので特別な装置が不要となり、産業上有用である。
かくして、一般式(6)で表される化合物が得られる。なお、本発明では上記反応終了後に、洗浄、蒸留、晶析、カラム分離等により目的物を精製してもよい。精製方法は、生成物の性状と不純物の種類により選択できる。
続いて、一般式(6)で表される化合物のY4基をPOCl3又はPSCl3のリン酸化剤と反応させ、さらに加水分解又は加アルコール分解することで、化合物(A)を得ることができる。一般式(1)におけるR5及びR6が、例えば、金属原子である場合には、R5及びR6が水素原子である一般式(1)で表される化合物を金属塩に変換すればよい。
以下、一般式(6)で表される化合物とPOCl3を反応させ、さらに加水分解させることにより、化合物(A)を得る方法について説明する。なお、前記リン酸化反応は、特許文献2に記載の方法を参照することができる。
POCl3の使用量は、特に制限されないが、一般式(6)で表される化合物に対して、0.8〜3.0倍モルが好ましく、1.0〜1.5倍モルがより好ましい。
一般式(6)で表される化合物とPOCl3との反応においては、必要に応じて塩基性化合物を用いることができる。塩基性化合物としては、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ピリジンなどの含窒素化合物が挙げられる。塩基性化合物の使用量は特に制限されないが、POCl3に対して0.8〜5.0倍モルが好ましい。
一般式(6)で表される化合物とPOCl3との反応は、溶媒の存在下又は非存在下にて実施することができる。使用できる溶媒は反応に悪影響を及ぼさない限り特に制限はなく、例えばベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、キノリン、トリエチルアミン、トリメチルアミンなどの含窒素化合物類;ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄化合物類などが挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。溶媒を使用する場合、その使用量に特に制限はないが、一般式(6)で表される化合物に対して、通常、0.5〜200倍重量の範囲であることが好ましく、容積効率の観点からは0.5〜100倍重量の範囲であることがより好ましい。
一般式(6)で表される化合物とPOCl3との反応における反応温度は、通常、−50〜50℃の範囲であることが好ましく、−40〜20℃の範囲であることがより好ましい。
上記反応終了後、反応液に水を添加することにより加水分解し、化合物(A)を得ることができる。
水の使用量は特に制限されないが、通常、一般式(6)で表される化合物とPOCl3との反応物に対して2〜10倍モルの範囲であることが好ましい。
加水分解反応では、必要に応じて塩基性化合物を用いることができる。塩基性化合物は特に限定されないが、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ピリジンなどの含窒素化合物が挙げられる。塩基性化合物の使用量は、一般式(6)で表される化合物とPOCl3との反応物に対して2.0〜5倍モルの範囲であることが好ましい。
加水分解反応における反応温度は、通常、−40〜50℃の範囲であることが好ましく、−30〜10℃の範囲であることがより好ましい。
反応終了後、水洗等により副生物であるアミン塩酸塩を除去し、さらに、化合物(A)を有機溶媒で抽出し、得られた溶液を濃縮することにより、化合物(A)を得ることができる。
さらに、本発明では、上記により得られた化合物(A)を洗浄、蒸留、晶析、カラム分離等により精製してもよい。精製方法は、生成物の性状と不純物の種類により選択できる。
かくして得られた化合物(A)は、ビニル基を含む重合性部位が重合硬化することで機械的強度に優れる一方で、リン酸基を有する部位が歯や、ジルコニア、金属等からなる補綴物への良好な接着性を示すものである。
化合物(A)を含む重合性組成物は、優れた接着性を有し、硬化物の機械的強度を高めることができることから、特に、歯科用途において有用である。
そこで、本発明はまた、化合物(A)を含む重合性組成物を提供する。当該重合性組成物は、化合物(A)とは別の重合性単量体として、化合物(A)と共重合可能な重合性単量体(B)を含んでいてもよい。重合性組成物に好適なその他の成分としては、重合開始剤(C)、重合促進剤(D)、フィラー(E)、溶媒(F)などが挙げられる。
重合性単量体(B)
化合物(A)と共重合可能な重合性単量体(B)としては、酸性基を有さず、かつ1個の重合性基を有する重合性単量体(B−a)、及び、酸性基を有さず、かつ2個以上の重合性基を有する重合性単量体(B−b)が挙げられる。重合性単量体(B)としては、反応性及び生体に対する安全性の観点から、(メタ)アクリレート化合物及び(メタ)アクリルアミド化合物が好ましく、(メタ)アクリレート化合物がより好ましい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート化合物」とは、メタクリレート化合物とアクリレート化合物を、「(メタ)アクリルアミド化合物」とは、メタクリルアミド化合物とアクリルアミド化合物を意味する。
酸性基を有さず、かつ1個の重合性基を有する重合性単量体(B−a)において、酸性基とは、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等のことをいう。重合性単量体(B−a)は、歯科用接着材の成分の歯質への浸透を促進するとともに、自らも歯質に浸透して歯質中の有機成分(コラーゲン)に接着する。
酸性基を有さず、かつ1個の重合性基を有する重合性単量体(B−a)は、単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用することができる。重合性単量体(B−a)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−アクリロイルモルホリン等が挙げられる。これらの中でも、象牙質のコラーゲン層への浸透性の改善の観点からは、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N−アクリロイルモルホリンが好ましく、より好ましくは2−ヒドロキシエチルメタクリレートである。
酸性基を有さず、かつ2個以上の重合性基を有する重合性単量体(B−b)は、重合性組成物の機械的強度、取り扱い性などを向上させる。なお、重合性単量体(B−b)において酸性基は、重合性単量体(B−a)における酸性基と同義である。
酸性基を有さず、かつ2個以上の重合性基を有する重合性単量体(B−b)は、単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用することができる。酸性基を有さず、かつ2個以上の重合性基を有する重合性単量体(B−b)としては、特に限定されないが、芳香族化合物系の二官能性重合性単量体、脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体、三官能性以上の重合性単量体などが挙げられる。
芳香族化合物系の二官能性重合性単量体の例としては、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン(通称「BisGMA」)、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン)、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン)、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテートなどが挙げられる。
脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体の例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン及び2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)等が挙げられる。
三官能性以上の重合性単量体の例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、N,N−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、及び1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタン等が挙げられる。
化合物(A)は、リン酸基を有することから酸エッチング効果を有するが、前記重合性単量体以外に、酸性基、又は、酸無水物を有する重合性単量体(B−c)と併用してもよい。酸性基を有する重合性単量体(B−c)としては、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸性基又は酸無水物基を少なくとも一個有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合性基を少なくとも一個有する重合性単量体が挙げられる。
酸性基又は酸無水物基を有する重合性単量体(B−c)の具体例としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ブロモエチルハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリルアミドエチルジハイドロジェンフォスフェート、ビス(6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル)ハイドロジェンフォスフェート、ビス(10−(メタ)アクリロイルオキシデシル)ハイドロジェンフォスフェート、ビス{2−(メタ)アクリロイルオキシ−(1−ヒドロキシメチル)エチル}ハイドロジェンフォスフェート、11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸、N−メタクリロイル−5−アミノサリチル酸、2−メチル−2−(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物等、特許第4611028号公報、特開2010−235465号公報に記載の化合物が挙げられる。
化合物(A)の配合量は、重合性単量体成分の全量100重量部中、1〜80重量部が好ましく、3〜50重量部がより好ましく、5〜30重量部がさらに好ましい。化合物(A)の配合量が1重量部以上であると、十分な接着性向上効果が発揮され、また、化合物(A)の配合量が80重量部以下であると、歯質へ十分浸透しているため接着性向上効果も良好である。
重合性単量体(B−a)の配合量は、重合性単量体成分の全量100重量部中、0〜60重量部が好ましく、5〜50重量部がより好ましい。重合性単量体(B−b)の配合量は、重合性単量体成分の全量100重量部中、5〜98重量部が好ましく、10〜50重量部がより好ましい。重合性単量体(B−c)の配合量は、重合性単量体成分の全量100重量部中、1〜40重量部が好ましく、2〜20重量部がより好ましい。
また、化合物(A)と重合性単量体(B−a)の重量比〔A/B−a〕は、歯質浸透性の観点から、1/10〜10/1が好ましく、1/5〜1/1がより好ましい。化合物(A)と重合性単量体(B−b)の重量比〔A/B−b〕は、重合硬化性の観点から、1/10〜10/1が好ましく、1/5〜1/1がより好ましい。化合物(A)と重合性単量体(B−c)の重量比〔A/B−c〕は、重合硬化性の観点から、1/1〜10/1が好ましく、2/1〜5/1がより好ましい。
なお、本発明において重合性単量体成分の全量とは、化合物(A)、重合性単量体(B−a)、重合性単量体(B−b)、重合性単量体(B−c)及びこれらと共重合可能なその他の重合性単量体の合計量をいう。
重合開始剤(C)
本発明に用いられる重合開始剤(C)は、一般工業界で使用されている重合開始剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に用いられている重合開始剤が好ましく用いられる。特に、光重合及び化学重合の重合開始剤が、単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用される。
光重合開始剤としては、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類、α−ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物類、α−アミノケトン系化合物などが挙げられる。
上記光重合開始剤として用いられる(ビス)アシルホスフィンオキサイド類のうち、アシルホスフィンオキサイド類としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。ビスアシルホスフィンオキサイド類としては、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、(2,5,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
これら(ビス)アシルホスフィンオキサイド類の中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドがより好ましい。
上記光重合開始剤として用いられるα−ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ジベンジル、カンファーキノン、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、4,4’−オキシベンジル、アセナフテンキノン等が挙げられる。この中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、カンファーキノンがより好ましい。
上記光重合開始剤として用いられるクマリン化合物の例としては、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−チェノイルクマリン、3−ベンゾイル−5,7−ジメトキシクマリン、3−ベンゾイル−7−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−6−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−8−メトキシクマリン、3−ベンゾイルクマリン、7−メトキシ−3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−8−メトキシクマリン、3,5−カルボニルビス(7−メトキシクマリン)、3−ベンゾイル−6−ブロモクマリン、3,3’−カルボニルビスクマリン、3−ベンゾイル−7−ジメチルアミノクマリン、3−ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3−カルボキシクマリン、3−カルボキシ−7−メトキシクマリン、3−エトキシカルボニル−6−メトキシクマリン、3−エトキシカルボニル−8−メトキシクマリン、3−アセチルベンゾ[f]クマリン、7−メトキシ−3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−8−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−6−ニトロクマリン、3−ベンゾイル−7−ジエチルアミノクマリン、7−ジメチルアミノ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−ジエチルアミノ)クマリン、7−メトキシ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−(4−ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3−(4−エトキシシンナモイル)−7−メトキシクマリン、3−(4−ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3−(4−ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3−[(3−ジメチルベンゾチアゾール−2−イリデン)アセチル]クマリン、3−[(1−メチルナフト[1,2−d]チアゾール−2−イリデン)アセチル]クマリン、3,3’−カルボニルビス(6−メトキシクマリン)、3,3’−カルボニルビス(7−アセトキシクマリン)、3,3’−カルボニルビス(7−ジメチルアミノクマリン)、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジブチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾイミダゾイル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジオクチルアミノ)クマリン、3−アセチル−7−(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’−カルボニルビス(7−ジブチルアミノクマリン)、3,3’−カルボニル−7−ジエチルアミノクマリン−7’−ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10−[3−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−1−オキソ−2−プロペニル]−2,3,6,7−1,1,7,7−テトラメチル1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]キノリジン−11−オン、10−(2−ベンゾチアゾイル)−2,3,6、7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]キノリジン−11−オン等の特開平9−3109号公報、特開平10−245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。
上述のクマリン化合物の中でも、特に、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノクマリン)及び3,3’−カルボニルビス(7−ジブチルアミノクマリン)が好適である。
上記光重合開始剤として用いられるアントラキノン類の例としては、アントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1−ブロモアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、1−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ヒドロキシアントラキノンなどが挙げられる。
上記光重合開始剤として用いられるベンゾインアルキルエーテル類の例としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。
上記光重合開始剤として用いられるα−アミノケトン類の例としては、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン等が挙げられる。
これらの光重合開始剤の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類及びその塩、α−ジケトン類、及びクマリン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す重合性組成物が得られる。
本発明に用いられる重合開始剤(C)のうち化学重合開始剤としては、有機過酸化物が好ましく用いられる。上記の化学重合開始剤に使用される有機過酸化物は特に限定されず、公知のものを使用することができる。代表的な有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるケトンパーオキサイドとしては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド及びシクロヘキサノンパーオキサイド等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるハイドロパーオキサイドとしては、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド及び1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるジアシルパーオキサイドとしては、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド及びラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるジアルキルパーオキサイドとしては、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン及び2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシン等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるパーオキシケタールとしては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン及び4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレリックアシッド−n−ブチルエステル等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるパーオキシエステルとしては、α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、2,2,4−トリメチルペンチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタラート、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート及びt−ブチルパーオキシマレリックアシッド等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるパーオキシジカーボネートとしては、ジ−3−メトキシパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート及びジアリルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
これらの有機過酸化物の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルパーオキサイドが好ましく用いられ、その中でもベンゾイルパーオキサイドがより好ましく用いられる。
本発明に用いられる重合開始剤(C)の配合量は特に限定されないが、得られる組成物の硬化性等の観点からは、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、重合開始剤(C)を0.001〜30重量部含有してなることが好ましい。重合開始剤(C)の配合量が0.001重量部未満の場合、重合が十分に進行せず、接着力の低下を招くおそれがあり、より好適には0.05重量部以上である。一方、重合開始剤(C)の配合量が30重量部を超える場合、重合開始剤自体の重合性能が低い場合には、十分な接着強度が得られなくなるおそれがあり、さらには組成物からの析出を招くおそれがあるため、より好適には20重量部以下である。
重合促進剤(D)
本発明の組成物は、重合促進剤(D)を含むことが好ましい。本発明に用いられる重合促進剤(D)としては、アミン類、スルフィン酸及びその塩、トリアジン化合物、銅化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ尿素化合物などが挙げられる。
重合促進剤(D)として用いられるアミン類は、脂肪族アミン及び芳香族アミンに分けられる。脂肪族アミンとしては、例えば、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチルエタノールアミン等の第2級脂肪族アミン;N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級脂肪族アミンなどが挙げられる。これらの中でも、組成物の硬化性及び保存安定性の観点から、第3級脂肪族アミンが好ましく、その中でもN−メチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミンがより好ましく用いられる。
また、芳香族アミンとしては、例えば、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−(メタクリロイルオキシ)エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチル等が挙げられる。これらの中でも、組成物に優れた硬化性を付与できる観点から、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル及び4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく用いられる。
重合促進剤(D)として用いられるスルフィン酸及びその塩としては、例えば、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸カリウム、p−トルエンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウム等が挙げられ、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウムがより好ましい。
重合促進剤(D)として用いられるトリアジン化合物としては、例えば、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メチルチオフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2,4−ジクロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−ブロモフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−n−プロピル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(α,α,β−トリクロロエチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−スチリル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(o−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−ブトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(1−ナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N−ヒドロキシエチル−N−エチルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N,N−ジアリルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等が例示される。
上記で例示したトリアジン化合物の中でより好ましいものは、重合活性の点で2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジンであり、また保存安定性の点で、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、及び2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンである。上記トリアジン化合物は1種又は2種以上を混合して用いても構わない。
重合促進剤(D)として用いられる銅化合物としては、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸第2銅、オレイン酸銅、塩化第2銅、臭化第2銅等が好適に用いられる。
重合促進剤(D)として用いられるバナジウム化合物は、好ましくはIV価及び/又はV価のバナジウム化合物類である。IV価及び/又はV価のバナジウム化合物類としては、例えば、四酸化二バナジウム(IV)、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)等の特開2003−96122号公報に記載されている化合物が挙げられる。
重合促進剤(D)として用いられるハロゲン化合物としては、例えば、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルセチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムブロマイド等が好適に用いられる。
重合促進剤(D)として用いられるアルデヒド類としては、例えば、テレフタルアルデヒドやベンズアルデヒド誘導体などが挙げられる。ベンズアルデヒド誘導体としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−メチルオキシベンズアルデヒド、p−エチルオキシベンズアルデヒド、p−n−オクチルオキシベンズアルデヒドなどが挙げられる。これらの中でも、硬化性の観点から、p−n−オクチルオキシベンズアルデヒドが好ましく用いられる。
重合促進剤(D)として用いられるチオール化合物としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、チオ安息香酸等が挙げられる。
重合促進剤(D)として用いられる亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウム等が挙げられる。
重合促進剤(D)として用いられる亜硫酸水素塩としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム等が挙げられる。
重合促進剤(D)として用いられるチオ尿素化合物としては、1−(2−ピリジル)−2−チオ尿素、チオ尿素、メチルチオ尿素、エチルチオ尿素、N,N’−ジメチルチオ尿素、N,N’−ジエチルチオ尿素、N,N’−ジ−n−プロピルチオ尿素、N,N’−ジシクロヘキシルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、トリエチルチオ尿素、トリ−n−プロピルチオ尿素、トリシクロヘキシルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラ−n−プロピルチオ尿素、テトラシクロヘキシルチオ尿素等が挙げられる。
本発明に用いられる重合促進剤(D)の配合量は特に限定されないが、得られる組成物の硬化性等の観点からは、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、重合促進剤(D)を0.001〜30重量部含有してなることが好ましい。重合促進剤(D)の配合量が0.001重量部未満の場合、重合が十分に進行せず、接着力の低下を招くおそれがあり、より好適には0.05重量部以上である。一方、重合促進剤(D)の配合量が30重量部を超える場合、重合開始剤自体の重合性能が低い場合には、十分な接着強度が得られなくなるおそれがあり、さらには組成物からの析出を招くおそれがあるため、より好適には20重量部以下である。
フィラー(E)
本発明の重合性組成物に、実施態様によっては、さらにフィラー(E)を配合することが好ましい。このようなフィラーは、通常、有機フィラー、無機フィラー及び有機−無機複合フィラーに大別される。有機フィラーの素材としては、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上の混合物として用いることができる。有機フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる組成物のハンドリング性及び機械強度などの観点から、前記有機フィラーの平均粒子径は、0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。
無機フィラーの素材としては、石英、シリカ、アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス等が挙げられる。これらもまた、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。得られる組成物のハンドリング性及び機械強度などの観点から、前記無機フィラーの平均粒子径は0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。
無機フィラーの形状としては、不定形フィラー及び球状フィラーが挙げられる。組成物の機械強度を向上させる観点からは、前記無機フィラーとして球状フィラーを用いることが好ましい。さらに、前記球状フィラーを用いた場合、本発明の重合性組成物を歯科用コンポジットレジンとして用いた場合に、表面滑沢性に優れたコンポジットレジンが得られるという利点もある。ここで球状フィラーとは、走査型電子顕微鏡(以下、SEMと略す)でフィラーの写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子が丸みをおびており、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で割った平均均斉度が0.6以上であるフィラーである。前記球状フィラーの平均粒子径は好ましくは0.1〜5μmである。平均粒子径が0.1μm未満の場合、組成物中の球状フィラーの充填率が低下し、機械的強度が低くなるおそれがある。一方、平均粒子径が5μmを超える場合、前記球状フィラーの表面積が低下し、高い機械的強度を有する硬化体が得られないおそれがある。
前記無機フィラーは、組成物の流動性を調整するため、必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。かかる表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
本発明で用いられる有機−無機複合フィラーとは、上述の無機フィラーにモノマー化合物を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものである。前記有機−無機複合フィラーとしては、例えば、TMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などを用いることができる。前記有機−無機複合フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる組成物のハンドリング性及び機械強度などの観点から、前記有機−無機複合フィラーの平均粒子径は、0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。なお、本明細書において、フィラーの平均粒子径は、当業者に公知の任意の方法により測定され得、例えば、レーザー回折型粒度分布測定装置により容易に測定され得る。
本発明に用いられるフィラー(E)の配合量は特に限定されず、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、フィラー(E)を1〜2000重量部が好ましい。フィラー(E)の好適な配合量は、用いられる実施態様によって大幅に異なるので、後述する本発明の重合性組成物の具体的な実施態様の説明と併せて、各実施態様に応じたフィラー(E)の好適な配合量を示すこととする。
溶媒(F)
本発明の重合性組成物は、その具体的な実施態様によっては、溶媒(F)を含むことが好ましい。溶媒としては、水、有機溶媒、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
本発明の重合性組成物が水を含む場合には、優れた接着強度を示す。水の含有量としては、重合性単量体成分の全量100重量部に対して6〜2000重量部が好ましい。水の含有量が6重量部未満の場合、歯面の脱灰が不十分となり、接着強度が低下する。一方、水の含有量が2000重量部を超える場合、モノマーの重合性が低下し、接着強度が低下するとともに機械的強度が低下する。水の含有量は、7重量部以上であることがより好ましく、10重量部以上であることがさらに好ましい。また、水の含有量は、1500重量部以下であることがより好ましい。水は、悪影響を及ぼすような不純物を含有していないことが好ましく、蒸留水又はイオン交換水が好ましい。
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ヘキサン、トルエン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。これらの中でも、生体に対する安全性と、揮発性に基づく除去の容易さの双方を勘案した場合、有機溶媒が水溶性有機溶媒であることが好ましく、具体的には、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、アセトン、及びテトラヒドロフランが好ましく用いられる。前記有機溶媒の含有量は特に限定されず、実施態様によっては前記有機溶媒の配合を必要としないものもある。前記有機溶媒を用いる実施態様においては、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、有機溶媒を1〜2000重量部含有してなることが好ましい。溶媒(F)の好適な配合量は、用いられる実施態様によって大幅に異なるので、後述する本発明の重合性組成物の具体的な実施態様の説明と併せて、各実施態様に応じた溶媒の好適な配合量を示すこととする。
この他、本発明の重合性組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲でpH調整剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、増粘剤、着色剤、抗菌剤、香料等を配合してもよい。
本発明の重合性組成物は、高い接着性を有し、例えば、生体硬組織、金属材料、有機高分子材料、セラミック等用の接着材料として用いることができる。本発明の重合性組成物は、歯科用組成物として特に好適に用いられる。当該歯科用組成物は、例えば、プライマー、ボンディング材、コンポジットレジン、セメント(レジンセメント、レジン強化型グラスアイオノマーセメント)、小窩裂溝填塞材、義歯床用レジン等の歯科用材料に用いることができ、中でも、プライマー、ボンディング材、コンポジットレジン、又はセメントとして好適に用いられる。このとき、重合性組成物の成分を2つに分けた2剤型として用いてもよい。
歯科用プライマー
歯科用材料の接着システムは、象牙質表面を酸性成分で溶かす脱灰工程、モノマー成分が象牙質のコラーゲン層に浸透する浸透工程、浸透したモノマー成分が固まってコラーゲンとのハイブリッド層(樹脂含浸層)を形成する硬化工程を含む。基本的には、浸透工程に用いられる製品がプライマーである。プライマーとしては、近年前記脱灰工程と前記浸透工程とを併せて一段階で行うセルフエッチングプライマーもあり、化合物(A)が脱灰作用を有するため、本発明の重合性組成物と浸透作用を有する重合性単量体(B−a)を用いることによりセルフエッチングプライマーを構成することができる。
プライマーは、酸性基を含有する重合性単量体を含む公知のプライマーの、酸性基を含有する重合性単量体の一部又は全部を化合物(A)に置き換えることにより、構成することができる。プライマーの組成の例としては、重合性単量体成分の全量100重量部中において、化合物(A)1〜50重量部、重合性単量体(B−a)5〜99重量部、及び重合性単量体(B−b)0〜60重量部が配合され、好ましくは、化合物(A)1〜40重量部、重合性単量体(B−a)10〜99重量部、及び重合性単量体(B−b)0〜50重量部が配合される。そして、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、重合開始剤(C)0.001〜30重量部及び重合促進剤(D)0.001〜30重量部を含むことが好ましく、重合開始剤(C)0.05〜20重量部及び重合促進剤(D)0.05〜20重量部を含むことがより好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、溶媒(F)を6〜3500重量部含むことが好ましく、7〜2000重量部含むことがより好ましい。なお、化合物(A)の一部を酸性基を有する重合性単量体(B−c)としてもよい。
歯科用ボンディング材
上記の硬化工程に用いられる製品がボンディング材である。ボンディング材は、酸性基を含有する重合性単量体を含む公知のボンディング材の、酸性基を含有する重合性単量体の一部又は全部を化合物(A)に置き換えることにより、構成することができる。ボンディング材の組成の例としては、重合性単量体成分の全量100重量部中において、化合物(A)1〜40重量部、重合性単量体(B−a)0〜60重量部、及び重合性単量体(B−b)5〜99重量部が配合され、好ましくは、化合物(A)1〜30重量部、重合性単量体(B−a)0〜50重量部、及び重合性単量体(B−b)20〜99重量部が配合される。そして、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、重合開始剤(C)0.001〜30重量部及び重合促進剤(D)0.001〜30重量部を含むことが好ましく、重合開始剤(C)0.05〜20重量部及び重合促進剤(D)0.05〜20重量部を含むことがより好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、フィラー(E)を0〜30重量部含むことが好ましく、0〜15重量部含むことがより好ましい。また、溶媒(F)を使用しても良いが、実質的に含まないことがより好ましい。なお、化合物(A)の一部を酸性基を有する重合性単量体(B−c)としてもよい。
近年では、浸透工程、脱灰工程、及び硬化工程を併せて一段階で行う1ステップ型のボンディング材も開発されている。また、ボンディング材は、2剤を使用直前に混和して用いる2液型と、1剤をそのまま使用可能な1液型とに分かれるが、現在は1液型が主流である。化合物(A)が、脱灰作用、及び硬化作用を有するため、本発明の重合性組成物により、1ステップ型の1液型ボンディング材を構成することができる。
1ステップ型の1液型ボンディング材の組成の例としては、重合性単量体成分の全量100重量部中において、化合物(A)1〜40重量部、重合性単量体(B−a)0〜80重量部、及び重合性単量体(B−b)5〜99重量部が配合され、好ましくは、化合物(A)3〜30重量部、重合性単量体(B−a)10〜60重量部、及び重合性単量体(B−b)10〜60重量部が配合される。そして、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、重合開始剤(C)0.001〜30重量部及び重合促進剤(D)0.001〜30重量部を含むことが好ましく、重合開始剤(C)0.05〜20重量部及び重合促進剤(D)0.05〜20重量部を含むことがより好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、フィラー(E)を0〜30重量部含むことが好ましく、0〜15重量部含むことがより好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、溶媒(F)を6〜2000重量部含むことが好ましく、7〜1000重量部含むことがより好ましい。なお、化合物(A)の一部を酸性基を有する重合性単量体(B−c)としてもよい。
歯科用コンポジットレジン
コンポジットレジンは、通常、う蝕発生部位を切削し窩洞を形成した後に、前記窩洞に充填される形態で用いられる歯科用材料である。化合物(A)が、脱灰作用、及び高い硬化作用を有するため、本発明の重合性組成物により、自己接着性コンポジットレジンを構成することも可能である。
自己接着性コンポジットレジンは、酸性基を含有する重合性単量体を含む公知のコンポジットレジンの、酸性基を含有する重合性単量体の一部又は全部を化合物(A)に置き換えることにより、構成することができる。自己接着性コンポジットレジンの組成の例としては、重合性単量体成分の全量100重量部中において、化合物(A)1〜40重量部、重合性単量体(B−a)0〜80重量部、及び重合性単量体(B−b)10〜99重量部が配合され、好ましくは、化合物(A)3〜30重量部、重合性単量体(B−a)10〜70重量部、及び重合性単量体(B−b)20〜87重量部が配合される。そして、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、重合開始剤(C)0.001〜30重量部及び重合促進剤(D)0.001〜30重量部を含むことが好ましく、重合開始剤(C)0.05〜20重量部及び重合促進剤(D)0.05〜20重量部を含むことがより好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、フィラー(E)を50〜3000重量部含むことが好ましく、80〜2000重量部含むことがより好ましい。また、溶媒(F)を使用しても良いが、実質的に含まないことがより好ましい。なお、化合物(A)の一部を酸性基を有する重合性単量体(B−c)としてもよい。
歯科用セメント
歯科用セメントは、通常、インレーやクラウンと呼ばれる金属やセラミックス製の歯冠用修復材料を歯牙に固定する際の合着材として用いられる歯科用材料である。化合物(A)が、脱灰作用、及び硬化作用を有するため、本発明の重合性組成物により、自己接着性セメントを構成することも可能である。セメントとしては、レジンセメント及びレジン強化型グラスアイオノマーセメントがある。
セメントは、酸性基を含有する重合性単量体を含む公知のセメントの、酸性基を含有する重合性単量体の一部又は全部を化合物(A)に置き換えることにより、構成することができる。レジンセメントの組成の例としては、重合性単量体成分の全量100重量部中において、化合物(A)2〜50重量部、重合性単量体(B−a)0〜60重量部、及び重合性単量体(B−b)10〜98重量部が配合され、好ましくは、化合物(A)2〜40重量部、重合性単量体(B−a)0〜50重量部、及び重合性単量体(B−b)20〜98重量部が配合される。そして、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、重合開始剤(C)0.001〜30重量部及び重合促進剤(D)0.001〜30重量部を含むことが好ましく、重合開始剤(C)0.05〜20重量部及び重合促進剤(D)0.05〜20重量部を含むことがより好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、フィラー(E)を50〜2000重量部含むことが好ましく、80〜1000重量部含むことがより好ましい。また、溶媒(F)を使用しても良いが、実質的に含まないことがより好ましい。なお、化合物(A)の一部を酸性基を有する重合性単量体(B−c)としてもよい。
レジンセメントにおいては、重合開始剤(C)として化学重合開始剤を用いることが好ましく、重合促進剤(D)としてアミン類及び/又はスルフィン酸及びその塩を用いることが好ましい。レジンセメントにおいては、保存安定性の観点から、化合物(A)及び重合開始剤(C)と、重合促進剤(D)とを、それぞれ別々の容器に保存する2剤型とすることが好ましい。
グラスアイオノマーセメントは、典型的にはフルオロアルミノシリケートガラスのような無機フィラーと、ポリアクリル酸のようなポリアルケン酸とが酸−塩基反応によって反応、硬化するものである。そして、前記ポリアルケン酸と歯質を構成するハイドロキシアパタイト中のカルシウムとが相互作用することにより、接着機能が発現すると考えられている。グラスアイオノマーセメントの組成の例としては、重合性単量体成分の全量100重量部中において、化合物(A)2〜50重量部、重合性単量体(B−a)0〜60重量部、及び重合性単量体(B−b)10〜98重量部が配合され、好ましくは、化合物(A)2〜40重量部、重合性単量体(B−a)0〜50重量部、及び重合性単量体(B−b)20〜98重量部が配合される。そして、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、重合開始剤(C)0.001〜30重量部及び重合促進剤(D)0.001〜30重量部を含むことが好ましく、重合開始剤(C)0.05〜20重量部及び重合促進剤(D)0.05〜20重量部を含むことがより好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、ポリアルケン酸10〜200重量部、及びフルオロアルミノシリケートガラス50〜500重量部を含むことが好ましく、ポリアルケン酸10〜100重量部、及びフルオロアルミノシリケートガラス80〜400重量部を含むことがより好ましい。また、フルオロアルミノシリケートガラス以外のフィラー(E)を0〜2000重量部、好ましくは10〜1000重量部添加してもよい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、溶媒(F)を1〜500重量部含むことが好ましく、10〜50重量部含むことがより好ましい。なお、化合物(A)の一部を酸性基を有する重合性単量体(B−c)としてもよい。
グラスアイオノマーセメントにおいては、保存安定性の観点から、ポリアルケン酸と、フルオロアルミノシリケートガラスとを、それぞれ別々の容器に保存する2剤型とすることが好ましい。2剤に分ける場合には、化合物(A)は、ポリアルケン酸側に配合する。また、重合開始剤(C)と、重合促進剤(D)とを、別々の容器に保存することが好ましい。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。まず、実施例及び比較例で作製した重合性組成物の各成分について記載する。
[リン酸エステル化合物]
A−1:
A−2:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
A−3:
[酸性基を有さず、かつ1個の重合性基を有する重合性単量体(B−a)]
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
[酸性基を有さず、かつ2個以上の重合性基を有する重合性単量体(B−b)]
BisGMA:2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
[酸性基を有する重合性単量体(B−c)]
PME:2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート
[光重合開始剤]
TMDPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
[化学重合開始剤]
BPO:ベンゾイルパーオキサイド
[重合促進剤]
AMN:N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン
[無機フィラー]
無機フィラー(1):日本アエロジル製「R972」
無機フィラー(2):SCHOTT社製バリウムガラス「GM27884NF180」γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン13%表面処理品
実施例1(A−1の合成):化合物(A)の合成
[ペンタンジオール・モノウレタンメタクリレートの合成]
3つ口フラスコに10.4g(0.1mol)の1,5−ペンタンジオールを仕込み、2.6mgのジラウリン酸ジブチルスズと、22.6mgのハイドロキノンモノメチルエーテルを溶解した。20℃で撹拌しながら、15.5g(0.1mol)の2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工社製、カレンズMOI)を滴下開始した。滴下終了後50℃で熟成し、IRでイソシアネート基由来のピークの消失を確認後、反応を終了した。
この合成液を繰り返し水洗し、未反応のペンタンジオールを除去し、20.0gのペンタンジオール・モノウレタンメタクリレートとペンタンジオール・ジウレタンメタクリレートの混合物を得た。ガスクロマトグラフィーで分析したところ、未反応ペンタンジオール/ペンタンジオール・モノウレタンメタクリレート/ペンタンジオール・ジウレタンメタクリレートの面積比は1.2/71.0/22.1であった。
[A−1の合成]
窒素置換した3つ口フラスコに、50gのジエチルエーテルと、2.74g(0.018mol)のオキシ塩化リンを仕込み、−40℃に冷却した。別容器にて25gのジエチルエーテルに、上記で得られたペンタンジオール・モノウレタンメタクリレートとペンタンジオール・ジウレタンメタクリレートの混合物5g、及び1.66g(0.016mol)のトリエチルアミンを溶解させ、これを滴下した。滴下終了後−20℃で1時間熟成した。続いて、3.64g(0.036mol)のトリエチルアミン、1.45g(0.082mol)の水、25gのジエチルエーテル混合液を、0℃を超えない様に滴下し、0〜5℃で1時間熟成した。得られた合成液を繰り返し水洗し、発生したトリエチルアミン塩酸塩を除去した。得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、ジエチルエーテルを減圧留去した。シクロヘキサンで繰り返し洗浄することにより、不純物であるペンタンジオール・ジウレタンメタクリレートを除去し、4.0gの目的物を得た。
以下に、得られた化合物の1H−NMRデータを示す。
1H−NMR(400MHz、CDCl3、TMS)δ:1.33〜1.41(m,2H)、1.45〜1.65(m,4H)、1.86(s,3H)、3.31〜3.43(m,2H)、3.80〜4.02(m,4H)、4.08〜4.15(m,2H)、5.49(s,1H)、6.00(s,1H)、8.50〜8.75(m,2H).
製造例1(A−3の合成)
[1−メトキシメチル−10−ウンデセニルエーテルの合成]
3つ口フラスコに10−ウンデセン−1−オール10.0g(58.7mmol)、塩化メチレン100mL、ジイソプロピルエチルアミン37.9g(293.6mmol)をとり窒素置換した。0℃で撹拌しながら、クロロメチルメチルエーテル23.6g(293.6mmol)を10分かけて滴下した。滴下終了後、6時間撹拌を続けた。反応終了後、蒸留水50mLを加え、塩化メチレンで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下に溶媒を留去し、油状物質を得た。得られた油状物質をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液;n−ヘキサン/酢酸エチル=10/1)にて精製し、油状物として1−メトキシメチル−10−ウンデセニルエーテル11.2g(HPLC純度99.2%)を得た。
[11−メトキシメチルウンデカン−1,2−ジオールの合成]
3つ口フラスコに、上記で得られた1−メトキシメチル−10−ウンデセニルエーテル11.2g、アセトン200mL、テトラエチルアンモニウムアセテート2.4g、90重量%のt−ブチルハイドロパーオキサイド8.3gを加え、室温で30分間撹拌した。次いで0℃で撹拌しながら、四酸化オスミウム0.03gをt−ブタノール6mLに溶解させた溶液を添加し、0℃で2時間、室温で12時間撹拌した。ジエチルエーテル300mL添加した後、0℃で撹拌しながら、過酸化物が検出されなくなるまで10%亜硫酸水素ナトリウム水溶液を添加した。得られた溶液に塩化ナトリウムを加えて、2液に分離させた後、水相をジエチルエーテルで抽出した。有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下に溶媒を留去し、高粘度の油状物質を得た。得られた油状物質をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液;n−ヘキサン/酢酸エチル=3/1)にて精製し、ワックス状物質としてとして11−メトキシメチルウンデカン−1,2−ジオール9.9g(HPLC純度97.0%)を得た。
[10,11−ジメタクリロイルオキシウンデカン−1−オールの合成]
3つ口フラスコに11−メトキシメチルウンデカン−1,2−ジオール5.0g(19.5mmol)、トリエチルアミン9.9g(97.6mmol)、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン20mg、ハイドロキノンモノメチルエーテル5mg、ジメチルホルムアミド50mLをとり、窒素置換した。0℃で攪拌しながら、メタクリル酸クロリド6.1g(58.6mmol)を30分かけて滴下した。滴下終了後、室温で6時間攪拌を続け、次いで6N塩酸でpH1に調整した後、室温で2時間撹拌を続けた。得られた反応液をジエチルエーテルで抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下で溶媒を留去し、油状物質を取得した。得られた油状物質をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液;n−ヘキサン/酢酸エチル=5/1)にて精製し、油状物質としてとして10,11−ジメタクリロイルオキシウンデカン−1−オール4.2g(HPLC純度98.8%)を得た。
[A−3の合成]
窒素置換した3つ口フラスコに、オキシ塩化リン1.62g(10.6mmol)、ジエチルエーテル5mLをとった。−40℃で攪拌しながら、予め別容器で調製した、10,11−ジメタクリロイルオキシウンデカン−1−オール3.0g(8.8mmol)、ジエチルエーテル5mL、トリエチルアミン1.09g(10.6mmol)の混合液を30分かけて滴下した。滴下終了後、−40℃で30分、−20℃で1時間、0℃で4時間、室温で3時間撹拌した。攪拌終了後、0℃に冷却し、水0.5gを3分かけて滴下した。次いで、予め別容器で調製したトリエチルアミン1.78g(17.6mmol)、ハイドロキノンモノメチルエーテル3mg、ジエチルエーテル5mLの混合液を10分かけて滴下した。滴下終了後、0℃で12時間攪拌した。攪拌終了後、1N塩酸でpH1に調整し、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を蒸留水50mLで洗浄した。有機層から減圧下で溶媒を留去し、油状物3.8gを取得した。以下に、得られた化合物A−3の1H−NMRデータを示す。
1H−NMR(270MHz、CDCl3、TMS)δ:1.27−1.33(m,14H)、1.62−1.66(m,4H)、1.93(s,6H)、3.99−4.06(m,2H)、4.15−4.20(m,1H)、4.29−4.32(m,1H)、5.17−5.23(m,1H)、5.57(s,2H)、6.10(s,2H).
実施例2〜7及び比較例1〜2(歯科用接着材組成物の調製)
表1記載の配合量(重量部)で、リン酸エステル化合物、重合性単量体(B−a)、重合性単量体(B−b)及び重合性単量体(B−c)を混合し得られた重合性単量体組成物100重量部にエタノール22重量部、水22重量部、TMDPO4重量部、無機フィラー(1)14重量部を常温下で混合して歯科用組成物である歯科用接着材組成物を調製し、牛歯エナメル質及び牛歯象牙質との接着強度、並びにビッカース硬度を下記方法に従って測定した。結果を表1にまとめて示す。
[歯科用組成物の牛歯エナメル質及び牛歯象牙質との接着性評価方法]
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にて#80シリコン・カーバイド紙(日本研紙株式会社製)で研磨して、エナメル質の平坦面を露出させたサンプル及び象牙質の平坦面を露出させたサンプルを得る。得られたそれぞれのサンプルを流水下にて#1000のシリコン・カーバイド紙(日本研紙株式会社製)でさらに研磨し、研磨終了後、表面の水をエアブローすることで乾燥させる。乾燥後の平滑面に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着し、接着面積を規制する。
調製した歯科用組成物を上記の丸穴内に筆を用いて塗布し、20秒間放置した後、エタノール、水等の溶媒を含む組成物であれば、表面をエアブローすることで、塗布した歯科用組成物の流動性が無くなるまで乾燥する。次いで、歯科用可視光線照射器「ペンキュア2000」(株式会社モリタ製)にて10秒間光照射することにより、塗布した歯科用組成物を硬化させる。
得られた歯科用組成物の硬化物の表面に歯科充填用コンポジットレジン(クラレノリタケデンタル株式会社製、商品名「クリアフィルAP−X」(登録商標))を塗布し、離型フィルム(ポリエステル)で被覆する。次いで、その離型フィルムの上にスライドガラスを載置して押しつけることで、前記コンポジットレジンの塗布面を平滑にする。続いて、前記離型フィルムを介して、前記コンポジットレジンに対して前記照射器「ペンキュア2000」(株式会社モリタ製)を用いて20秒間光照射を行い、前記コンポジットレジンを硬化させる。
得られた歯科充填用コンポジットレジンの硬化物の表面に対して、市販の歯科用レジンセメント(クラレノリタケデンタル株式会社製、商品名「パナビア21」)を用いてステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)を接着する。接着後、当該サンプルを30分間室温で静置した後、蒸留水に浸漬する。得られた蒸留水に浸漬したサンプルを、37℃に保持した恒温器内に24時間静置することで、接着試験供試サンプルを作製する。
5個の接着試験供試サンプルの引張接着強度を、万能試験機(株式会社島津製作所製)にてクロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定し、平均値を引張接着強度とする。
[歯科用組成物のビッカース硬度の評価方法]
歯科用組成物1gをガラス板上に塗布し、表面をエアブローすることで、塗布した歯科用組成物の流動性が無くなるまで乾燥する。乾燥した歯科用組成物をステンレス製の金型(寸法4mmφ×4mm)に充填後、上下をスライドガラスで圧接し、歯科用可視光線照射器「ペンキュア2000」(株式会社モリタ製)を用いて、片面10秒光照射して硬化させる。硬化物を金型から取り出した後、ビッカース硬度試験機(島津社製)を用いて、荷重HV0.2の条件下、光照射表面と裏面のビッカース硬度をそれぞれ測定する。
表1の結果から、本発明の化合物(A)であるA−1を含む歯科用接着材組成物(実施例2〜実施例7)は、従来広く用いられている化合物A−2を含む接着材組成物(比較例1)又は化合物A−3を含む接着材組成物(比較例2)に比べ、エナメル質接着強度、象牙質接着強度とも高く、優れた接着性を示すことがわかった。また、同様にビッカース硬度も高く、機械的強度を高めることがわかった。
実施例8〜10及び比較例3〜4(歯科用自己接着性コンポジットレジン組成物の調製)
表2記載の配合量(重量部)で、リン酸エステル化合物、重合性単量体(B−a)、重合性単量体(B−b)を混合し得られた重合性単量体組成物100重量部にTMDPO4重量部を混合溶解し、表2記載の配合量(重量部)で、無機フィラー(1)及び無機フィラー(2)を常温下で混合練和して歯科用組成物である歯科用自己接着性コンポジットレジン組成物を調製し、牛歯エナメル質及び牛歯象牙質との接着強度を実施例2の歯科用接着材組成物と同様にして測定し、曲げ強さを下記方法に従って測定した。結果を表2にまとめて示す。
[歯科用組成物の曲げ強さ測定方法]
歯科用組成物を金型(2mm×2mm×25mm)に充填し、歯科用可視光線照射器「ペンキュア2000」(株式会社モリタ製)を用いて、光照射(10秒×表裏各5回)を行い、硬化させた後、37℃水中に24時間浸漬し、試験片を作製する。万能試験機(インストロン社製)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/minで、3点曲げ試験法により、試験片の曲げ強さを測定する。
表2の結果から、本発明の化合物(A)であるA−1を含む歯科用自己接着性コンポジットレジン組成物(実施例8〜実施例10)は、従来広く用いられている化合物A−2を含む歯科用自己接着性コンポジットレジン組成物(比較例3)又は化合物A−3を含む歯科用自己接着性コンポジットレジン組成物(比較例4)に比べ、エナメル質接着強度、象牙質接着強度とも高く、優れた接着性を示すことがわかった。また、同様に曲げ強さも高く、機械的強度を高めることがわかった。
実施例11〜13及び比較例5〜6(歯科用セメント組成物の調製)
表3記載の配合量(重量部)で、リン酸エステル化合物、重合性単量体(B−a)、重合性単量体(B−b)を混合し得られた重合性単量体組成物100重量部にBPO3重量部を混合溶解し、表3記載の配合量(重量部)で、無機フィラー(1)及び無機フィラー(2)を常温下で混合練和し、ペーストAを調製した。また、同様にして、重合性単量体(B−a)、重合性単量体(B−b)を混合し得られた重合性単量体組成物100重量部にAMN1重量部を混合溶解し、無機フィラー(1)及び無機フィラー(2)を常温下で混合練和し、ペーストBを調製した。ペーストAとペーストBを1:1の重量比で混合練和し、歯科用組成物である歯科用セメント組成物を調製し、牛歯エナメル質及び牛歯象牙質との接着強度を実施例2の歯科用接着材組成物と同様にして測定し、曲げ強さを実施例8の歯科用自己接着性コンポジットレジン組成物と同様にして測定した。結果を表3にまとめて示す。
表3の結果から、本発明の化合物(A)であるA−1を含む歯科用セメント組成物(実施例11〜実施例13)は、従来広く用いられている化合物A−2を含むセメント組成物(比較例5)又は化合物A−3を含むセメント組成物(比較例6)に比べ、エナメル質接着強度、象牙質接着強度とも高く、優れた接着性を示すことがわかった。また、同様に曲げ強さも高く、機械的強度を高めることがわかった。