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JP5892380B2 - 高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents

高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDF

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JP5892380B2 JP2012146297A JP2012146297A JP5892380B2 JP 5892380 B2 JP5892380 B2 JP 5892380B2 JP 2012146297 A JP2012146297 A JP 2012146297A JP 2012146297 A JP2012146297 A JP 2012146297A JP 5892380 B2 JP5892380 B2 JP 5892380B2
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Description

この発明は、例えば、鋼や鋳鉄等の高熱発生を伴うとともに、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する高速断続切削加工で、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性および耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(以下、Alで示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆工具が良く知られている。
そして、上記の従来被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の構造についての種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1に示すように、WC基超硬合金、TiCN基サーメットからなる工具基体表面に、Ti化合物層からなる下部層、Al層からなる上部層を被覆形成した被覆工具において、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定して、傾斜角度数分布グラフを作成した場合、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、該0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すAl層を上部層として被覆形成することにより、耐チッピング性の改善を図ることが提案されている。
また、特許文献2に示すように、工具基体表面に、Ti化合物層からなる下部層、Al層からなる上部層を被覆形成した被覆工具において、上部層の結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定して、傾斜角度数分布グラフを作成した場合、0〜15度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、該0〜15度の範囲内に存在する度数の合計が度数全体の50%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示す上位層と、75〜90度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、該75〜90度の範囲内に存在する度数の合計が度数全体の50%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示す下位層層で上部層を構成することにより、高速重切削加工における硬質被覆層の耐チッピング性を改善することが提案されている。
また、特許文献3に示すように、工具基体の表面に、粒状結晶組織のTiN層、TiCN層からなる密着接合層、縦長成長結晶組織を有するl−TiCN層からなる強靭層、α型の結晶構造および粒状結晶組織を有する酸化アルミニウムからなる強化硬質層を被覆形成した被覆工具において、該酸化アルミニウムからなる強化硬質層について、表面研磨面の法線に対して、酸化アルミニウム結晶粒の結晶面(0001)面の法線がなす傾斜角を測定して傾斜角度数分布グラフを作成した場合、傾斜角度数分布グラフの少なくとも7〜15度の範囲内の傾斜角区分および0〜7度の範囲内の傾斜角区分にピークが存在すると共に、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体に占める割合で、前記7〜15度の範囲内に存在する度数の合計が35〜50%、前記0〜7度の範囲内に存在する度数の合計が25〜40%である強化硬質層を形成することで、高速重切削加工における硬質被覆層の耐チッピング性を向上させることが提案されている。
特開2005−205586号公報 特開2007−152491号公報 特開2006−123031号公報
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化、高効率化の傾向にある。また、工具寿命の延命化を図るという観点から、硬質被覆層の厚膜化も求められているが、例えば、硬質被覆層(例えば、上部層のAl層)の厚膜化を図った場合、上記従来の被覆工具においては、特にこれを厳しい切削条件の高速断続切削、すなわち、高熱発生を伴うとともに、切刃部にきわめて短いピッチで繰り返し断続的、衝撃的負荷が作用する高速断続切削で用いると、上部層のAl層は、高温強度、靭性、密着性が十分とはいえないため、切刃部にチッピングが発生しやすく、これが原因で、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、被覆工具の硬質被覆層の耐チッピング性向上をはかるとともに、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮させるべく、上部層を構成するAl結晶粒の方位形態、方位割合等について着目し、鋭意研究を重ねた結果、次のような知見を得た。
炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、下部層として、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物(TiC)層、窒化物(TiN)層、炭窒化物(TiCN)層、炭酸化物TiCO)層および炭窒酸化(TiCNO)物層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層を、また、上部層として、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(Al)層を蒸着形成するにあたり、Ti化合物層からなる下部層を形成した後、この上に、例えば、通常の化学蒸着装置にて、Alの核を形成し、ついで、該Al核表面にガスエッチング処理を施した後、所望層厚のAl層を上部層として蒸着形成すると、蒸着形成された上部層のAl層には、特異な方位形態、方位割合を有するAl結晶粒が形成される。
そして、このようなAl結晶粒について、基体表面の法線に対して、(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、傾斜角度数分布を求めた場合、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分及び5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に、それぞれピーク強度がI、Iのピークが存在し、該ピーク強度の比の値I/Iは、1<I/I<3を満足し、かつ、それぞれの傾斜角区分に存在する度数割合は、45〜70%、15〜40%であり、さらに、隣接する結晶粒の(0001)面の法線が工具基体表面の法線方向に対してなす角の角度差が5度以下であって、かつ、隣接する結晶粒の(10−10)面の法線同士がなす角度差が5〜30度である粒界が導入されるため、それによって、Al層の高温強度と靭性が向上することを見出したのである。
したがって、このような硬質被覆層を備えた被覆切削工具を、例えば、鋼や鋳鉄などの、高熱発生を伴い、切刃に断続的、衝撃的負荷が作用する高速断続切削加工に用いた場合であっても、上部層がすぐれた高温強度と靭性を有することから、チッピングの発生が抑制されるとともに、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮するのである。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、
「 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層は、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層は、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
(c)上記(b)の酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布を測定した場合、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分及び5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に、それぞれピーク強度がI、Iのピークが存在すると共に、該ピーク強度の比の値I/Iは、1<I/I<3を満足し、また、上記0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜70%の割合を占め、上記5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の15〜40%の割合を占め、さらに、隣接する相互の結晶粒間において、(0001)面の法線がなす角度差を測定した場合、角度差が5度以下の結晶粒界比率が80%以上であり、かつ、隣接する相互の結晶粒間において、(10−10)面の法線同士がなす角度差を測定した場合、角度差が5〜30度の結晶粒界比率が80%以上であることを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
つぎに、この発明の被覆工具の硬質被覆層の構成層について、より具体的に説明する。
Ti化合物層(下部層):
Ti化合物層は、自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体と上部層であるAl23層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴う高速断続切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
Al層(上部層):
Al層は、一般的にすぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を発揮せしめることができない。一方、工具寿命の延命化を図るため、その平均層厚25μmまでの厚層化は可能であるが、平均層厚が25μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜25μmと定めた。
本発明による、特異な結晶方位形態、方位割合を有するAl層からなる上部層は、例えば、以下に示す蒸着形成方法によって蒸着形成することができる。
即ち、Ti化合物層からなる下部層を通常の化学蒸着法で形成した後、該下部層の上に、例えば、通常の化学蒸着装置を用いて、
≪第1段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl 0.1〜0.5%、CO 8〜12%、HCl 6〜10%、残りH
反応雰囲気温度:750〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件(Al核形成条件という)で、層厚が300〜500nmになるまでAl核を形成する。
≪第2段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl 0.1〜0.5%、HCl 1〜3%、残りH
反応雰囲気温度:750〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件(エッチング条件という)で、エッチング処理を施す。
≪第3段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl 2〜5%、CO 3〜8%、HCl 6〜10%、HS 0.25〜0.6%、残りH
反応雰囲気温度:950〜1020℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件(二次蒸着形成条件という)で、目標上部層厚になるまでAlを蒸着形成する。
上記の3段階で、Alを蒸着形成することによって、特異な方位形態、方位割合を有するAl層からなる上部層を形成することができる。
なお、上記3段階でのAlの蒸着形成によって、特異な方位形態、方位割合が形成される機構は未だ解明されていないが、第1段階におけるAl核形成と第2段階におけるエッチング処理によって、成長面に変化が生じ結晶粒の優先成長方位の変化が起こるものと考えられる。
そして、この上部層は、隣接する結晶粒において(0001)面の法線が工具基体表面の法線方向に対してなす角の角度差が5度以下である結晶粒界が、結晶粒界比率80%以上で導入され、さらに、隣接する相互の結晶粒間において、(10−10)面の法線同士がなす角度差が5〜30度である結晶粒界が、結晶粒界比率80%以上で導入される。
そして、このような粒界は工具基体法線方向に対し傾き方向の成分が少なく、ねじれ方向の成分が多くを占めるため、被覆層成長方向に周期的な構造が形成され、すぐれた粒界強度を発揮し、その結果、すぐれた高温強度と靭性を備えるとともに、層内に発生したクラックの伝播・進展を抑制する作用を有するので、高熱発生を伴い、切れ刃に衝撃的・断続的負荷が作用する高速断続切削加工において、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する。
上記で蒸着形成した上部層のAl層について、結晶方位形態、方位割合等の解析を行うため、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布を測定したところ、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分及び5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に、それぞれピーク強度がI、Iのピークが存在すると共に、該ピーク強度の比の値I/Iは、1<I/I<3を満足していた。
さらに、上記0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜70%の割合を占め、また、5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の15〜40%の割合を占めていた。
図1に、基体表面の法線に対する傾斜角度数分布の測定結果の一例を示す。
なお、図1において、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分のピーク強度Iは、100(相対強度)、度数割合は53%であり、一方、5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分のピーク強度Iは、50(相対強度)、度数割合は35%であって、I/Iの値は、約2であり、1<I/I<3を満足しているとともに、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分に存在する度数割合は45〜70%を満足し、5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に存在する度数割合は15〜40%を満足していることがわかる。
そして、本発明者らは、上部層のAl層についての上記傾斜角度数分布測定において、最大ピークが、0度以上5度未満の範囲を外れて出現するような場合あるいは0度以上5度未満の範囲の度数割合が45〜70%を外れるような場合には、工具基体表面の法線方向に対して(0001)面の法線が0度以上5度未満の範囲に存在するAl結晶粒が具備する高温硬さを十分に発揮することはできず、また、5度以上10度未満の範囲にピーク強度Iが出現しない場合あるいは5度以上10度未満の範囲の度数割合が15〜40%を外れるような場合には、工具基体表面の法線方向に対して(0001)面の法線が5度以上10度未満の範囲に存在するAl結晶粒が具備する靱性を十分に発揮することはできないことを実験的に確認した。
さらに、上部層として、耐チッピング性にすぐれると同時に耐摩耗性にすぐれたAl層を得るためには、上記ピーク強度I、Iの比の値I/Iについて、1<I/I<3を満足させることが必要である。
つまり、I/Iの値が1以下である場合には、Al層が十分な高温硬さを発揮することができないため、長期の使用に亘って満足できる耐摩耗性を示すことができず、一方、I/Iの値が3以上である場合には、十分な高温硬さは維持できるものの、十分な靱性を発揮することができないため、高温強度と靭性が相対的に低下し、高熱発生を伴い、切れ刃に衝撃的・断続的負荷が作用する高速断続切削加工において、すぐれた耐チッピング性を発揮できなくなる。
したがって、本発明では、上部層の上記ピーク強度I、Iの比の値を、1<I/I<3と定めた。
さらに、上部層のAl層において、隣接する相互の結晶粒間において(0001)面の法線が工具基体表面の法線方向に対してなす角の角度差が5度以下の結晶粒界比率が80%未満である、あるいは、(10−10)面の法線同士がなす角度差が5〜30度の結晶粒界比率が80%未満である場合には、結晶粒界における傾き成分とねじれ成分の割合が十分でなく、その結果十分な耐チッピング性を発揮することができない。そのため、本発明では隣接する相互の結晶粒間において(0001)面の法線が工具基体表面の法線方向に対してなす角の角度差が5度以下の結晶粒界比率を80%以上、かつ、(10−10)面の法線同士がなす角度差が5〜30度の結晶粒界比率を80%以上と定めた。
硬質被覆層として、Ti化合物層からなる下部層とAl層からなる上部層を蒸着形成したこの発明の被覆工具は、上部層のAl層が、(0001)面の法線についての傾斜角度数分布測定において、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分及び5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計は、それぞれ、度数全体の45〜70%、15〜40%の割合を占め、しかも、それぞれの傾斜角区分には、それぞれピーク強度がI、Iのピークが存在し、I/Iの値は、1<I/I<3を満足し、さらに、隣接する相互の結晶粒間において、(0001)面の法線がなす角度差が5度以下の結晶粒界比率が80%以上であり、また、隣接する相互の結晶粒間において、(10−10)面の法線同士がなす角度差が5〜30度の結晶粒界比率が80%以上であることから、上部層は、すぐれた高温硬さ、高温強度及び靭性を備え、高熱発生を伴い、切れ刃に衝撃的・断続的負荷が作用する高速断続切削加工において、長期の使用に亘って、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮するのである。
本発明被覆工具1の硬質被覆層の上部層を構成するAl層の(0001)面の法線についての傾斜角度数分布グラフである。
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120408に規定するインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Dをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120412のインサート形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体a〜dを形成した。
つぎに、これらの工具基体A〜Dおよび工具基体a〜dの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、硬質被覆層の下部層として、表3に示される条件で、かつ、表5に示される組み合わせ及び目標層厚でTi化合物層を蒸着形成し、
ついで、上部層としてのAl層を、表4に示される条件にて、かつ、表5に示される目標層厚で蒸着形成することにより、
本発明被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、硬質被覆層の下部層として、表3に示される条件で、かつ、表5に示される組み合わせ及び目標層厚で、本発明被覆工具1〜13と同じTi化合物層を蒸着形成し、
ついで、上部層としてのAl層を、表4に示される条件にて、かつ、表6に示される目標層厚で蒸着形成することにより、
比較例被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
ついで、上記の本発明被覆工具と比較例被覆工具の硬質被覆層の上部層を構成するAl層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用いて、傾斜角度数分布測定を行った。
まず、傾斜角度数分布測定は、上部層のAl層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成した。また、上記傾斜角度数分布グラフにおいて、最大ピークを100として規格化することにより各ピークの強度を求めた。各結晶粒について、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、隣接する相互の結晶粒間において、上記(0001)面の法線がなす傾斜角の角度差が5度以下である結晶粒界長を求め、測定範囲内の全粒界長で除することにより(0001)面の法線がなす傾斜角の角度差が5度以下である結晶粒界比率を求めた。
また、前記同様、結晶粒の結晶面である(10−10)面の法線がなす傾斜角を測定し、隣接する相互の結晶粒間において、上記(10−10)面の法線がなす傾斜角の角度差が5度以下である結晶粒界長を求め、測定範囲内の全粒界長で除することにより、(10−10)面の法線がなす傾斜角の角度差が5度以下である結晶粒界比率を求めた。
表5、表6に、上記で求めた傾斜角度数分布測定において、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分及び5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分で測定されたそれぞれの度数割合、それぞれピーク強度の値I、I、また、I/Iの値、(0001)面の法線がなす角度差が5度以下の結晶粒界比率、(10−10)面の法線がなす傾斜角の角度差が5度以下である結晶粒界比率の値を示す。
図1に、一例として、本発明被覆工具1について傾斜角度数分布測定で得られた傾斜角度数分布グラフを示す。
表5、表6にそれぞれ示される通り、本発明被覆工具のAl層は、傾斜角度数分布測定において、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分及び5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分にそれぞれピークが観察され、また、それぞれのピーク強度I、Iの比の値I/Iが、1を超え3未満の範囲内にあり、さらに、それぞれの傾斜角区分の存在する度数割合は、45〜70%、15〜40%を満足している。
これに対して、比較例被覆工具においては、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分または5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分どちらかにしかピークが観察されていないものと、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分または5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分どちらにもピークが観察されていないものと、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分及び5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分にそれぞれピークが観察されているが、ピーク強度Iの強度が低いため、ピーク強度I、Iの比の値I/Iが3以上となっている等、いずれかが本発明で規定した定めた要件から外れている。
さらに、上記の本発明被覆工具1〜13および比較例被覆工具1〜13の各層の層厚を、走査型電子顕微鏡を用いて縦断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。






つぎに、上記の各種の被覆工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具1〜13および比較例被覆工具1〜13について、
被削材:JIS・S30Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:450m/min、
切り込み:1.3mm、
送り:0.15mm/rev、
切削時間:6分、
の条件(切削条件A)での炭素鋼の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は、300m/min)、
被削材:JIS・SCM415の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:450m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.15mm/rev、
切削時間:6分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は、250m/min)、
被削材:JIS・FC300の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:440m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:6分、
の条件(切削条件C)での普通鋳鉄の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は、300m/min)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表7に示した。

表5〜7に示される結果から、本発明被覆工具1〜13は、上部層のAl層が、(0001)面の法線についての傾斜角度数分布測定において、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分及び5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に、それぞれピーク強度がI、Iのピークが存在し、しかも、I/Iの値が、1<I/I<3を満足すること、また、それぞれの傾斜角区分に存在する度数の合計が45〜70%、15〜40%であること、さらに、隣接する相互の結晶粒間において、(0001)面の法線がなす角度差が5度以下の結晶粒界比率が80%以上、かつ、(10−10)面の法線同士がなす角度差が5〜30度の結晶粒界比率が80%以上であることから、すぐれた高温硬さ、高温強度及び靭性を備え、高熱発生を伴い、切れ刃に衝撃的・断続的負荷が作用する高速断続切削加工において、長期の使用に亘って、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮するものであった。
これに対して、5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に強度ピークIが存在しない比較例被覆工具1、I/Iの値が3を超えるような比較例被覆工具2に示されるように、本発明で規定する要件から外れる比較例被覆工具は、チッピング等の異常損傷発生を原因として短時間で寿命に至るため、何れの比較例被覆工具も、高速断続切削加工では、長期の使用に亘って、すぐれた切削性能を発揮することはできない。
上述のように、この発明の被覆工具は、各種鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、特に高熱発生を伴い、切刃部に断続的、衝撃的負荷が作用する高速断続切削に用いた場合でも、すぐれた耐チッピング性を示し、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。



























Claims (1)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
    (a)下部層は、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
    (b)上部層は、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
    以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
    (c)上記(b)の酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布を測定した場合、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分及び5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に、それぞれピーク強度がI、Iのピークが存在すると共に、該ピーク強度の比の値I/Iは、1<I/I<3を満足し、また、上記0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜70%の割合を占め、上記5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の15〜40%の割合を占め、さらに、隣接する相互の結晶粒間において、(0001)面の法線がなす角度差を測定した場合、角度差が5度以下の結晶粒界比率が80%以上であり、かつ、隣接する相互の結晶粒間において、(10−10)面の法線同士がなす角度差を測定した場合、角度差が5〜30度の結晶粒界比率が80%以上であることを特徴とする表面被覆切削工具。






















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