JP5892380B2 - 高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(以下、Al2O3で示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆工具が良く知られている。
そして、上記の従来被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の構造についての種々の提案がなされている。
そして、このようなAl2O3結晶粒について、基体表面の法線に対して、(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、傾斜角度数分布を求めた場合、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分及び5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に、それぞれピーク強度がI1、I2のピークが存在し、該ピーク強度の比の値I1/I2は、1<I1/I2<3を満足し、かつ、それぞれの傾斜角区分に存在する度数割合は、45〜70%、15〜40%であり、さらに、隣接する結晶粒の(0001)面の法線が工具基体表面の法線方向に対してなす角の角度差が5度以下であって、かつ、隣接する結晶粒の(10−10)面の法線同士がなす角度差が5〜30度である粒界が導入されるため、それによって、Al2O3層の高温強度と靭性が向上することを見出したのである。
「 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層は、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層は、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
(c)上記(b)の酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布を測定した場合、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分及び5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に、それぞれピーク強度がI1、I2のピークが存在すると共に、該ピーク強度の比の値I1/I2は、1<I1/I2<3を満足し、また、上記0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜70%の割合を占め、上記5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の15〜40%の割合を占め、さらに、隣接する相互の結晶粒間において、(0001)面の法線がなす角度差を測定した場合、角度差が5度以下の結晶粒界比率が80%以上であり、かつ、隣接する相互の結晶粒間において、(10−10)面の法線同士がなす角度差を測定した場合、角度差が5〜30度の結晶粒界比率が80%以上であることを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
Ti化合物層は、自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体と上部層であるAl2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴う高速断続切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
Al2O3層は、一般的にすぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を発揮せしめることができない。一方、工具寿命の延命化を図るため、その平均層厚25μmまでの厚層化は可能であるが、平均層厚が25μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜25μmと定めた。
即ち、Ti化合物層からなる下部層を通常の化学蒸着法で形成した後、該下部層の上に、例えば、通常の化学蒸着装置を用いて、
≪第1段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl3 0.1〜0.5%、CO2 8〜12%、HCl 6〜10%、残りH2、
反応雰囲気温度:750〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件(Al2O3核形成条件という)で、層厚が300〜500nmになるまでAl2O3核を形成する。
≪第2段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl3 0.1〜0.5%、HCl 1〜3%、残りH2、
反応雰囲気温度:750〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件(エッチング条件という)で、エッチング処理を施す。
≪第3段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl3 2〜5%、CO2 3〜8%、HCl 6〜10%、H2S 0.25〜0.6%、残りH2、
反応雰囲気温度:950〜1020℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件(二次蒸着形成条件という)で、目標上部層厚になるまでAl2O3を蒸着形成する。
上記の3段階で、Al2O3を蒸着形成することによって、特異な方位形態、方位割合を有するAl2O3層からなる上部層を形成することができる。
なお、上記3段階でのAl2O3の蒸着形成によって、特異な方位形態、方位割合が形成される機構は未だ解明されていないが、第1段階におけるAl2O3核形成と第2段階におけるエッチング処理によって、成長面に変化が生じ結晶粒の優先成長方位の変化が起こるものと考えられる。
そして、この上部層は、隣接する結晶粒において(0001)面の法線が工具基体表面の法線方向に対してなす角の角度差が5度以下である結晶粒界が、結晶粒界比率80%以上で導入され、さらに、隣接する相互の結晶粒間において、(10−10)面の法線同士がなす角度差が5〜30度である結晶粒界が、結晶粒界比率80%以上で導入される。
そして、このような粒界は工具基体法線方向に対し傾き方向の成分が少なく、ねじれ方向の成分が多くを占めるため、被覆層成長方向に周期的な構造が形成され、すぐれた粒界強度を発揮し、その結果、すぐれた高温強度と靭性を備えるとともに、層内に発生したクラックの伝播・進展を抑制する作用を有するので、高熱発生を伴い、切れ刃に衝撃的・断続的負荷が作用する高速断続切削加工において、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する。
さらに、上記0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜70%の割合を占め、また、5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の15〜40%の割合を占めていた。
図1に、基体表面の法線に対する傾斜角度数分布の測定結果の一例を示す。
なお、図1において、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分のピーク強度I1は、100(相対強度)、度数割合は53%であり、一方、5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分のピーク強度I2は、50(相対強度)、度数割合は35%であって、I1/I2の値は、約2であり、1<I1/I2<3を満足しているとともに、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分に存在する度数割合は45〜70%を満足し、5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に存在する度数割合は15〜40%を満足していることがわかる。
さらに、上部層として、耐チッピング性にすぐれると同時に耐摩耗性にすぐれたAl2O3層を得るためには、上記ピーク強度I1、I2の比の値I1/I2について、1<I1/I2<3を満足させることが必要である。
つまり、I1/I2の値が1以下である場合には、Al2O3層が十分な高温硬さを発揮することができないため、長期の使用に亘って満足できる耐摩耗性を示すことができず、一方、I1/I2の値が3以上である場合には、十分な高温硬さは維持できるものの、十分な靱性を発揮することができないため、高温強度と靭性が相対的に低下し、高熱発生を伴い、切れ刃に衝撃的・断続的負荷が作用する高速断続切削加工において、すぐれた耐チッピング性を発揮できなくなる。
したがって、本発明では、上部層の上記ピーク強度I1、I2の比の値を、1<I1/I2<3と定めた。
さらに、上部層のAl2O3層において、隣接する相互の結晶粒間において(0001)面の法線が工具基体表面の法線方向に対してなす角の角度差が5度以下の結晶粒界比率が80%未満である、あるいは、(10−10)面の法線同士がなす角度差が5〜30度の結晶粒界比率が80%未満である場合には、結晶粒界における傾き成分とねじれ成分の割合が十分でなく、その結果十分な耐チッピング性を発揮することができない。そのため、本発明では隣接する相互の結晶粒間において(0001)面の法線が工具基体表面の法線方向に対してなす角の角度差が5度以下の結晶粒界比率を80%以上、かつ、(10−10)面の法線同士がなす角度差が5〜30度の結晶粒界比率を80%以上と定めた。
ついで、上部層としてのAl2O3層を、表4に示される条件にて、かつ、表5に示される目標層厚で蒸着形成することにより、
本発明被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
ついで、上部層としてのAl2O3層を、表4に示される条件にて、かつ、表6に示される目標層厚で蒸着形成することにより、
比較例被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
まず、傾斜角度数分布測定は、上部層のAl2O3層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成した。また、上記傾斜角度数分布グラフにおいて、最大ピークを100として規格化することにより各ピークの強度を求めた。各結晶粒について、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、隣接する相互の結晶粒間において、上記(0001)面の法線がなす傾斜角の角度差が5度以下である結晶粒界長を求め、測定範囲内の全粒界長で除することにより(0001)面の法線がなす傾斜角の角度差が5度以下である結晶粒界比率を求めた。
また、前記同様、結晶粒の結晶面である(10−10)面の法線がなす傾斜角を測定し、隣接する相互の結晶粒間において、上記(10−10)面の法線がなす傾斜角の角度差が5度以下である結晶粒界長を求め、測定範囲内の全粒界長で除することにより、(10−10)面の法線がなす傾斜角の角度差が5度以下である結晶粒界比率を求めた。
表5、表6に、上記で求めた傾斜角度数分布測定において、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分及び5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分で測定されたそれぞれの度数割合、それぞれピーク強度の値I1、I2、また、I1/I2の値、(0001)面の法線がなす角度差が5度以下の結晶粒界比率、(10−10)面の法線がなす傾斜角の角度差が5度以下である結晶粒界比率の値を示す。
図1に、一例として、本発明被覆工具1について傾斜角度数分布測定で得られた傾斜角度数分布グラフを示す。
これに対して、比較例被覆工具においては、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分または5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分どちらかにしかピークが観察されていないものと、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分または5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分どちらにもピークが観察されていないものと、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分及び5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分にそれぞれピークが観察されているが、ピーク強度I2の強度が低いため、ピーク強度I1、I2の比の値I1/I2が3以上となっている等、いずれかが本発明で規定した定めた要件から外れている。
被削材:JIS・S30Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:450m/min、
切り込み:1.3mm、
送り:0.15mm/rev、
切削時間:6分、
の条件(切削条件A)での炭素鋼の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は、300m/min)、
被削材:JIS・SCM415の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:450m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.15mm/rev、
切削時間:6分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は、250m/min)、
被削材:JIS・FC300の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:440m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:6分、
の条件(切削条件C)での普通鋳鉄の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は、300m/min)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表7に示した。
これに対して、5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に強度ピークI2が存在しない比較例被覆工具1、I1/I2の値が3を超えるような比較例被覆工具2に示されるように、本発明で規定する要件から外れる比較例被覆工具は、チッピング等の異常損傷発生を原因として短時間で寿命に至るため、何れの比較例被覆工具も、高速断続切削加工では、長期の使用に亘って、すぐれた切削性能を発揮することはできない。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層は、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層は、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
(c)上記(b)の酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布を測定した場合、0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分及び5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に、それぞれピーク強度がI1、I2のピークが存在すると共に、該ピーク強度の比の値I1/I2は、1<I1/I2<3を満足し、また、上記0度以上5度未満の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜70%の割合を占め、上記5度以上10度未満の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の15〜40%の割合を占め、さらに、隣接する相互の結晶粒間において、(0001)面の法線がなす角度差を測定した場合、角度差が5度以下の結晶粒界比率が80%以上であり、かつ、隣接する相互の結晶粒間において、(10−10)面の法線同士がなす角度差を測定した場合、角度差が5〜30度の結晶粒界比率が80%以上であることを特徴とする表面被覆切削工具。
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