JP5029099B2 - 高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(以下、Al2O3で示す)層、
からなる硬質被覆層を形成してなる被覆工具において、上記Ti化合物層におけるTiの一部を10原子%以下のCr等で置換することによって、耐摩耗性をさらに向上させるようにした被覆工具が知られている。
(a)従来被覆工具の硬質被覆層において、下部層を構成するTi化合物層のうちの(Ti,Cr)CN層(以下、「従来Ti系CN層」という)は、例えば、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:3〜10%、CrF5:0.1〜0.4%、CH3CN:0.5〜3%、N2:20〜40%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件(通常条件という)で蒸着形成されるが、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:1〜5%、CrCl3:0.7〜2.5%、CH3CN:3〜6%、N2:20〜40%、HCl:0.5〜2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:5〜20kPa、
の条件、すなわち上記の通常条件に比して、反応ガス成分の一つであるCrF5にかえて、少量のCrCl3およびHClを加え、さらに、CH3CNの含有割合を多くした条件で蒸着形成して、
組成式:(Ti1−XCrX)C1−YNY(ただし、原子比で、X:0.12〜0.20、Y:0.35〜0.55)、
を満足するTi系炭窒化物層を形成すると、この結果のTi系炭窒化物層(以下、「改質Ti系CN層」で示す)は、上記の従来Ti系CN層と同様の結晶構造、すなわち格子点にTi、Cr、炭素(C)、および窒素(N)からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有するが、前記従来Ti系CN層に比して一段とすぐれた耐熱性を有すること。
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図1(a),(b)に概略説明図で例示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{111}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、前記従来Ti系CN層は、図3に例示される通り、{111}面の測定傾斜角の分布が0〜45度の範囲内で不偏的な傾斜角度数分布グラフを示すのに対して、前記改質Ti系CN層は、図2に例示される通り、傾斜角区分の特定位置にシャープな最高ピークが現れ、そしてこのような場合に、改質Ti系CN層にはクーリングクラックが均一に分散し、これによって、Cr含有量を増加したことによる改質Ti系CN層の高温強度の低下を抑制することができ、しかも、このシャープな最高ピークは、グラフ横軸の傾斜角区分に現れる高さおよび傾斜角区分位置が前記改質Ti系CN層におけるCrの含有割合を調整することにより変化すること。
つまり、上記改質Ti系CN層のCr成分は、Tiとの合量に占める割合(原子比)で0.12(12原子%)以上で所望の耐熱性向上効果が現れるが、その含有割合が0.20(20原子%)を越えると、高熱発生を伴う高速切削加工では、改質Ti系CN層は急激に軟化し、熱塑性変形、偏摩耗を生じやすくなることから、その含有割合は、Tiとの合量に占める割合(原子比)で0.12〜0.20とする必要がある。
以上(a)〜(d)に示される研究結果を得たのである。
(a)上記上部層は、化学蒸着で形成された1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層からなり、
(b)上記下部層は、3〜20μmの合計平均層厚を有し、いずれも化学蒸着で形成された密着性Ti化合物層と改質Ti系炭窒化物層とからなり、
(c)上記密着性Ti化合物層は、0.5〜5μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、
(d)上記改質Ti系炭窒化物層は、2.5〜15μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Ti1−XCrX)C1−YNY(ただし、原子比で、X:0.12〜0.20、Y:0.35〜0.55)、
を満足するTiとCrの炭窒化物層からなり、さらに、上記改質Ti系炭窒化物層は、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{111}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、1.25〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すこと、
を特徴とする高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具(被覆工具)に特徴を有するものである。
(a)下部層の密着性Ti化合物層
密着性Ti化合物層は、工具基体と上部層であるAl2O3層および改質Ti系CN層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が0.5μm未満では、所望のすぐれた密着性を確保することができず、一方前記密着性は5μmまでの合計平均層厚で充分であることから、その合計平均層厚を0.5〜5μmと定めた。
上記の改質Ti系CN層の傾斜角度数分布グラフの傾斜角区分における最高ピーク位置および所定の傾斜角区分内に存在する度数割合は、上記の通り層中のCr含有割合(X値)をTiとの合量に占める原子比で、0.12〜0.20とすることによって、1.25〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークを存在させ、かつ0〜10度の範囲内に存在する度数割合を、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上とすることができるものであり、したがって、その含有割合が0.12未満でも、0.20を越えても、前記最高ピーク位置の現れる傾斜角区分が1.25〜10度の範囲内から外れ、さらに0〜10度の範囲内に存在する度数割合は45%未満となってしまい、そのため、高温強度の低下をクーリングクラックの均一分散により抑制することができなくなるばかりか、高速切削加工におけるすぐれた耐熱性向上効果を確保することができなくなり、熱塑性変形の発生あるいは偏摩耗の発生によって耐摩耗性の劣ったものとなる。
また、改質Ti系CN層におけるC成分には層の硬さを向上させ、一方N成分には高温強度を向上させる作用があり、これら両成分を共存含有することにより高い硬さとすぐれた強度を具備するようになるものであり、したがって、層中のN成分の含有割合(Y値)がC成分との合量に占める原子比で0.35未満では所望の強度を確保することができず、一方その含有割合(Y値)が同じく0.55を越えると、相対的にC成分の含有割合が少なくなり過ぎて、所望の高硬度が得られなくなることから、Y値を原子比で0.35〜0.55と定めた。
このように前記改質Ti系CN層は、上記の通り従来Ti系CN層に比して、一段とすぐれた耐熱性を有するようになるが、その平均層厚が2.5μm未満では所望のすぐれた耐熱性向上効果を硬質被覆層に十分に具備せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を2.5〜15μmと定めた。
Al2O3層は、すぐれた高温硬さを有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を発揮せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
すなわち、上記傾斜角度数分布グラフは、上記の改質TiCN層および従来Ti系CN層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{111}面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成した。
なお、図2は、本発明被覆工具5の改質Ti系CN層の傾斜角度数分布グラフ、図3は、従来被覆工具5の従来Ti系CN層の傾斜角度数分布グラフをそれぞれ示すものである。
被削材:JIS・SNCM439の丸棒、
切削速度: 380 m/min、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.25 mm/rev、
切削時間: 7 分、
の条件(切削条件Aという)での合金鋼の湿式連続高速切削試験(通常の切削速度は、200m/min)、
被削材:JIS・FC350の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 400 m/min、
切り込み: 2.0 mm、
送り: 0.30 mm/rev、
切削時間: 7 分、
の条件(切削条件Bという)での鋳鉄の湿式断続高速切削試験(通常の切削速度は、250m/min)、
被削材:JIS・S50Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 360 m/min、
切り込み: 1.3 mm、
送り: 0.35 mm/rev、
切削時間: 7 分、
の条件(切削条件Cという)での炭素鋼の湿式断続高速切削試験(通常の切削速度は、250m/min)を行い、
いずれの切削試験(水溶性切削油使用)でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に上部層と下部層とからなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)上記上部層は、化学蒸着で形成された1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層からなり、
(b)上記下部層は、3〜20μmの合計平均層厚を有し、いずれも化学蒸着で形成された密着性Ti化合物層と改質Ti系炭窒化物層とからなり、
(c)上記密着性Ti化合物層は、0.5〜5μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、
(d)上記改質Ti系炭窒化物層は、2.5〜15μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Ti1−XCrX)C1−YNY(ただし、原子比で、X:0.12〜0.20、Y:0.35〜0.55)、
を満足するTiとCrの炭窒化物層からなり、さらに、上記改質Ti系炭窒化物層は、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{111}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、1.25〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すこと、
を特徴とする高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具。
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