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JP5889550B2 - 抗がん剤組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、ホスフィン遷移金属錯体を含有する抗がん剤組成物に関する。
本出願人は先に、以下の式(1’)で表されるホスフィン遷移金属錯体を含有する抗がん剤を提案した(特許文献1参照)。式中、R1、R2、R3、R4はアルキル基等である。またMは、金、銅又は銀である。この抗がん剤は、従来用いられてきた抗がん剤であるシスプラチン等の白金製剤やタキソール(登録商標)に比較して、高い抗がん活性を有するものである。
特開2007−320909号公報
前記ホスフィン遷移金属錯体は水に対して溶解性が低いため、薬剤溶液を生体に投与した場合に、体内でホスフィン遷移金属錯体の析出や、また抗がん効果が損なわれる可能がある。また、生体への投与形態もかなり限られたものになると言う問題もある。
上述の現況に鑑み、本発明の課題は、本出願人が提案した前述の抗がん剤の改良にある。
本発明は、下記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体と、シクロデキストリン化合物とを含有し、前記シクロデキストリン化合物がβ―シクロデキストリン化合物であり、シクロデキストリン化合物の含有量がシクロデキストリン化合物100重量部に対してホスフィン遷移金属錯体10〜75重量であることを特徴とする抗がん剤組成物を提供するものである。
(式中、R1及びR2は、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、置換基を有するシクロアルキル基、アダマンチル基、フェニル基又は置換基を有するフェニル基を示し、炭素数が1〜10であり、同一の基であっても異なる基であってもよい。前記置換基を有するフェニル基の置換基は、アルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基から選ばれる基を示す。3及びR4は、水素原子又は直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示し、炭素数が1〜6であり、同一の基であっても異なる基であってもよい。R3及びR4は、互いに結合して飽和又は不飽和の環を形成していてもよく、該飽和又は不飽和の環は、一価の置換基を有していてもよい。該一価の置換基は、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜5のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基から選ばれる基を示す。Mは、金、銅及び銀の群から選ばれる遷移金属原子を示す。X-は、アニオンを示す。)

本発明の抗がん剤組成物によれば、溶解性に優れ、高い抗がん活性を有しつつ、毒性の低い抗がん剤組成物が提供される。
本発明の抗がん剤組成物は、前記の式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体とシクロデキストリン化合物と、を含有している。
前記一般式(1)中、R及びRは、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、置換基を有するシクロアルキル基、アダマンチル基、フェニル基又は置換基を有するフェニル基を示す。また、R及びRは、炭素数が1〜10である。また、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよい。
及びRに係るアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、イソブチル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソヘプチル基、n−ヘプチル基、イソヘキシル基、n−ヘキシル基が挙げられる。また、R及びRに係るシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。また、R及びRが置換基を有するシクロアルキル基又は置換基を有するフェニル基の場合、置換基を有するシクロアルキル基又は置換基を有するフェニル基に係る置換基としては、アルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられる。また、Rがt−ブチル基であり、Rがメチル基であることが、抗がん活性が高くなる点で好ましい。
前記一般式(1)中のR及びRは、水素原子又は直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示す。また、R及びRは、炭素数が1〜6である。また、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよい。また、R及びRは、互いに結合して飽和又は不飽和の環を形成していてもよく、R及びRが互いに結合して飽和又は不飽和の環を形成する場合、飽和又は不飽和の環は、置換基を有していてもよい。
及びRに係るアルキル基としては、例えば、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、イソブチル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソヘプチル基、n−ヘプチル基、イソヘキシル基、n−ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
また、R及びRが互いに結合して飽和又は不飽和の環を形成している場合、R及びRが互いに結合して形成された環としては、飽和又は不飽和の五員環又は六員環が挙げられ、例えば、フェニル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等が挙げられる。また、R及びRが互いに結合して形成された環は、一価の置換基を有してもよく、R及びRが互いに結合して形成された環が有する一価の置換基としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状であり且つ炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられる。
前記一般式(1)中、Mは、金、銅及び銀の群から選ばれる遷移金属原子を示す。そして、Mが金原子であることが抗がん活性が高くなる点で好ましい。
前記一般式(1)中、Xは、アニオンを示し、例えば、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、四フッ化ホウ素イオン、六フッ化リン酸イオン、過塩素酸イオン等が挙げられる。これらのうち、Xが、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンであることが、抗がん活性が高くなる点で好ましい。
前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体において、R及びRが互いに結合してベンゼン環を形成していることが、抗がん活性が高くなる点で好ましい。
及びRが互いに結合してベンゼン環を形成している場合のホスフィン遷移金属錯体とは、下記一般式(2)で表されるホスフィン遷移金属錯体である。
前記一般式(2)中、R、R、M及びXは、前記一般式(A)中のR、R、M及びXと同義である。
前記一般式(2)中、Rは、一価の置換基を示す。Rに係る置換基としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状であり且つ炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられる。また、nは、0〜4の整数を示す。
本発明において、前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体は、式中のRとRが互いに異なる基の場合、下記一般式(3):
(式中、R、R、R、R、M及びXは前記と同じ。*は不斉リン原子を示す。)で表される、リン原子上に不斉中心を有するホスフィン遷移金属錯体になる。
前記一般式(3)で表されるホスフィン遷移金属錯体は、不斉なリン原子を4個有するため、数多くの異性体が存在するが、本発明においては、これらの異性体の種類については、特に制限されるものではない。また、ホスフィン遷移金属錯体は、異性体を含む混合物であってもよい。具体的には、これらの異性体は、リン原子上の立体が、(R,R)(R,R)や、(S,S)(S,S)のように、単一のエナンチオマーから構成されていてもよく、また、(R,R)(S,S)のように、配位子のラセミ体から構成されていてもよく、また、(R,S)(S,R)のように、お互いにメソ体から構成されていてもよく、また、(R,R)(S,R)のように、1つのエナンチオマーとそのメソ体から構成されていてもよい。
異性体を含む混合物の一例として、1)下記の式(1a)〜式(1d)で表される化合物を2種以上を組み合わせもの、2)下記の式(1a)〜(1d)で表される化合物を2種以上含有することに加えて、下記の式(2a)〜式(2c)で表される化合物の群から選択される少なくもとも1種以上の化合物を含有するもの、3)下記の式(1a)〜(1d)で表される化合物を2種以上と、下記の式(A)で表される化合物を含有するもの、4)下記の式(1a)〜(1d)で表される化合物を2種以上、下記の式(2a)〜式(2c)で表される化合物の群から選択される少なくもとも1種以上及び下記の式(A)で表される化合物を含有するもの、或いは5)下記の式(2a)〜(2c)で表される化合物の群から選択される少なくとも1種と、下記の式(A)で表される化合物を含有するもの等が挙げられる。
次に、本発明の抗がん剤組成物に含まれる前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体の好適な製造方法について説明する。このホスフィン遷移金属錯体は、式(4)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体と、金、銅又は銀の塩とを反応させることで得られる。
式(4)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体は、例えば、反応式(9)に示すように、2,3−ジクロロピラジン(6)と、ホスフィン―ボラン(7)とを反応させ、ビス(ホスフィン−ボラン)ピラジン(8)を得、次いで、得られたビス(ホスフィン−ボラン)ピラジン(8)の脱ボラン化反応を行うことにより製造される。
反応式(9)において、2,3−ジクロロピラジン(6)と、ホスフィン−ボラン(7)との反応は、例えば、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム等の塩基の存在下、テトラヒドロフランやN,N−ジメチルホルムアミド等の不活性溶媒中、−78〜30℃で、1〜24時間反応させることにより行なわれる。
2,3−ジクロロピラジン(6)及びホスフィン−ボラン(7)は、公知の方法により製造される。2,3−ジクロロピラジン(6)は、市販されている。ホスフィン−ボラン(7)は、例えば特開2003−300988号公報、特開2001−253889号公報、特開2007−70310号公報及びJ.Org.Chem,2000,vol.65,P4185-4188等に記載されている方法を用いて製造される。
ビス(ホスフィン−ボラン)ピラジン(8)の脱ボラン化反応は、ビス(ホスフィン−ボラン)ピラジン(8)を含有する反応系に、N,N,N’,N’,−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)等の脱ボラン化剤を添加し、0〜100℃で、10分〜3時間反応させることにより行なわれる。
式(4)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体においては、RとRが異なる基であることによって、2つのリン原子がキラル中心となる。その結果、この2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体は、立体配置の異なる(R,R)体、(S,S)体及び(R,S)体の3種類の異性体が存在する。これらの3種類の異性体のうち、(R,S)体はメソ体であり、(R,R)体と(S,S)体の等モル混合物がラセミ体となる。こらの3種類の異性体を適切な量で用いることで、目的とする立体構造を有するホスフィン遷移金属錯体を得ることができる。
式(4)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体と反応する金、銅又は銀の塩は、例えば、これらの金属のハロゲン化物、硝酸塩、過塩素酸塩、四フッ化ホウ素酸塩、六フッ化リン酸塩等である。また、これらの金属の価数は、一価である。また、これらの金属の塩は、金属又はアニオンのいずれか一方又は両方が異なる2種以上の塩であってもよい。
好ましい金の遷移金属塩としては、例えば、塩化金(I)酸、塩化金(I)、あるいはテトラブチルアンモニウムクロリド・塩化金(I)等(「第5版 実験化学講座21」、編者 社団法人日本化学会、発行所 丸善、発行日 平成16年3月30日、p366〜380、Aust.J.Chemm.,1997,50,775-778頁参照)が挙げられる。好ましい銅の遷移金属塩としては、例えば、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)等(「第5版 実験化学講座21」、編者 社団法人日本化学会、発行所 丸善、発行日 平成16年3月30日、p349〜361)が挙げられる。また、好ましい銀の遷移金属塩としては、例えば、塩化銀(I)、臭化銀(I)、ヨウ化銀(I)等(「第5版 実験化学講座21」、編者 社団法人日本化学会、発行所 丸善、発行日 平成16年3月30日、p361〜366)が挙げられる。なお、本発明のホスフィン遷移金属錯体の製造方法に係る遷移金属塩は、無水物であっても含水物であってもよい。
金、銅又は銀の塩に対する、式(4)で表わされる2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体のモル比は、好ましくは1〜5倍モル、更に好ましくは1.8〜2.2倍モルとする。反応は、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム等の溶媒中で行うことができる。反応温度は好ましくは−20〜60℃、更に好ましくは0〜25℃であり、反応時間は好ましくは0.5〜48時間、更に好ましくは1〜3時間である。この反応によって、式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体が得られる。反応終了後は、必要に応じて常法の精製を行うことができる。
このようにして得られた式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体におけるアニオンを、他の所望のアニオンに変換してもよい。例えば、先ず、上述の製造方法に従い、式(1)中のX-が、ハロゲン化物イオンであるホスフィン遷移金属錯体を合成し、次いで、このホスフィン遷移金属錯体と、所望のアニオンを有する無機酸、有機酸又はそれらのアルカリ金属塩とを、適切な溶媒中で反応させることにより、X-が、所望のアニオンであるホスフィン遷移金属錯体を得ることができる。このような方法の詳細は、例えば特開平10−147590号公報、特開平10−114782号公報及び特開昭61−10594号公報等に記載されている。
前記ホスフィン遷移金属錯体は、シクロデキストリン化合物に包接され、複合体を形成する(以下、「シクロデキストリン包接体」という。)。シクロデキストリン化合物の包接は、包接するゲスト分子の分子径、ゲスト分子とのVan der Waals力やシクロデキストリン化合物由来のヒドロキシル基との水素結合が関与しているものと考えられ、不溶性化合物ならすべてに適応できるものではなく、また、特定の化合物に対するシクロデキストリンの効果も予測することは困難である。
本発明で使用できるシクロデキストリン化合物としては特にβ−シクロデキストリンが、少ない添加量で溶解性をいっそう向上させることができる観点から好ましい。
シクロデキストリン包接体は、例えばシクロデキストリン化合物の水溶液を調製し、これに前記ホスフィン遷移金属錯体を添加し攪拌することで調製することができる。シクロデキストリン化合物に対するホスフィン遷移金属錯体の配合量は、シクロデキストリン化合物100重量部に対してホスフィン遷移金属錯体10〜75重量部、好ましくは20〜50重量部とすることがシクロデキストリン化合物及びホスフィン遷移金属錯体の包接に関与しない溶け残りを抑制する観点から好ましい。
このようにして得られたシクロデキストリン包接体は抗がん剤組成物として用いられる。
本発明の抗がん剤組成物の使用においては、種々の形態でヒト又は動物に、本発明の抗がん剤組成物を投与することができる。投与形態としては、経口投与でもよいし、静脈内、筋肉内、皮下又は皮内等への注射、直腸内投与、経粘膜投与等の非経口投与でもよい。経口投与に適する製剤形態としては、例えば錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤などを挙げることができる。非経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、注射剤、点滴剤、点鼻剤、噴霧剤、吸入剤、坐剤、あるいは、軟膏、クリーム、粉状塗布剤、液状塗布剤、貼付剤等の経皮吸収剤等が挙げられる。更に、本発明の抗がん剤の製剤形態として、埋め込み用ペレットや公知の技術を用いた持続性製剤が挙げられる。
上述したうち、好ましい投与形態や製剤形態等は、患者の年齢、性別、体質、症状、処置時期等に応じて、医師によって適宜選択される。
本発明の抗がん剤組成物が、錠剤、丸剤、散剤、粉剤、顆粒剤等の固形製剤の場合、これらの固形製剤は、本発明のシクロデキストリン包接体を、常法に従って適当な添加剤、例えば乳糖、ショ糖、D−マンニトール、トウモロコシデンプン、合成若しくは天然ガム、結晶セルロース等の賦形剤、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチン、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デンプン、コーンスターチ、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム等の滑沢剤、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム等の充填剤又は希釈剤等と適宜混合して製造される。錠剤等は、必要に応じて、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、酸化チタン等のコーティング剤を用いて、糖衣、ゼラチン、腸溶被覆、フイルムコーティング等が施されても良い。
本発明の抗がん剤組成物が、注射剤、点眼剤、点鼻剤、吸入剤、噴霧剤、ローション剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の液状製剤である場合、これらの液状製剤は、本発明のシクロデキストリン包接体を、精製水、リン酸緩衝液等の適当な緩衝液、生理的食塩水、リンゲル溶液、ロック溶液等の生理的塩類溶液、カカオバター、ゴマ油、オリーブ油等の植物油、鉱油、高級アルコール、高級脂肪酸、エタノール等の有機溶媒等に溶解して、必要に応じてコレステロール等の乳化剤、アラビアゴム等の懸濁剤、分散助剤、浸潤剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系、ポリエチレングリコール系等の界面活性剤、リン酸ナトリウム等の溶解補助剤、糖、糖アルコール、アルブミン等の安定化剤、パラベン等の保存剤、塩化ナトリウム、ブドウ糖、グリセリン等の等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、吸着防止剤、保湿剤、酸化防止剤、着色剤、甘味料、フレーバー、芳香物質等を適宜添加することにより、滅菌された水溶液、非水溶液、懸濁液、リポソーム又はエマルジョン等として調整される。この際、注射剤は、生理学的なpHを有することが好ましく、6〜8の範囲内のpHを有することが特に好ましい。
本発明の抗がん剤組成物が、ローション剤、クリーム剤、軟膏等の半固形製剤の場合、これらの半固形製剤は、本発明のシクロデキストリン包接体を脂肪、脂肪油、ラノリン、ワセリン、パラフィン、蝋、硬膏剤、樹脂、プラスチック、グリコール類、高級アルコール、グリセリン、水、乳化剤、懸濁化剤等と適宜混和することにより製造される。
抗がん剤組成物中の本発明のシクロデキストリン包接体の含有量は、投与形態、重篤度や目的とする投与量などによって様々であるが、一般的には、抗がん剤の全質量に対して、本発明のシクロデキストリン包接体の全量の割合が、好ましくは0.001〜90質量%、更に好ましくは0.1〜80質量%である。
本発明の抗がん剤組成物の投与量は、例えば患者の年齢、性別、体重、症状及び投与経路などの条件に応じて適宜医師により決定されるものであるが、一般的には、成人一日あたりの有効成分の量として、ホスフィン遷移金属錯体として1μg/kgから1,000mg/kg程度の範囲であり、好ましくは10μg/kgから10mg/kg程度の範囲である。この投与量の範囲内において、抗がん剤を一日一回で投与することができ、あるいは数回(例えば、2〜4回程度)に分けて投与することができる。
本発明の抗がん剤組成物が適用されるがんの種類は、特に限定されるものではなく、例えば、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、消化器癌、肺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、結腸癌、尿管腫瘍、胆嚢癌、胆管癌、胆道癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、睾丸腫瘍、上顎癌、舌癌、口唇癌、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、甲状腺癌、脳腫瘍、カポジ肉腫、血管腫、白血病、真性多血症、神経芽腫、網膜芽腫、骨髄腫、膀胱腫、肉腫、骨肉腫、筋肉腫、皮膚癌、基底細胞癌、皮膚付属器癌、皮膚転移癌、皮膚黒色腫等が挙げられる。更に、悪性腫瘍ばかりでなく良性腫瘍にも適用され得る。また、本発明の抗がん剤組成物は、がん転移を抑制するために使用されることができ、特に、術後のがん転移抑制剤としても有用である。
本発明の抗がん剤組成物の使用においては、既知の化学療法、外科的治療法、放射線療法、温熱療法や免疫療法などと組み合わせることもできる。
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(ホスフィン金錯体試料の調製)
<tert−ブチルメチルホスフィン−ボラン(7a)の合成>
下記反応式(11)に従って、tert−ブチルメチルホスフィン−ボラン(7a)の合成を行った。
tert−ブチル(ヒドロキシメチル)メチルホスフィン−ボラン(10)(1.78g、12.0mmol)を72mLのアセトンに溶解し、アセトン溶液を得た。次いで、水酸化カリウム(13.5g、240mmol)、過硫酸カリウム(19.4g、72.0mmol)及び三塩化ルテニウム三水和物(624mg、2.4mmol)を150mLの水に溶解した水溶液を調製し、該水溶液を激しく撹拌した状態で、0℃で、前記アセトン溶液を徐々に添加した。2時間経過後、反応混合液を3Mの塩酸で中和し、エーテルで3回抽出した。有機相を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した。ロータリーエバポレータで溶媒を室温下で除去し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(移動相:ペンタン/エーテル=8/1)で残渣を精製して、tert−ブチルメチルホスフィン−ボラン(7a)を得た。収量は2.27g、収率は80%であった。
<2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン(3a)の合成>
下記反応式(12)に従って、2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン(3a)を合成した。
236mg(2.0mmol)のtert−ブチルメチルホスフィン−ボラン(7a)を4mLのテトラヒドロフランに溶解して溶液を得た。この溶液を液体窒素で−78℃に冷却し、そこに、n−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M)を1.25mL滴下した。15分経過後、133mg(0.67mmol)の2,3−ジクロロキノキサリン(6a)(関東化学社製)を4mLのテトラヒドロフランに溶解させ、得られた溶液を、激しく撹拌しながら滴下した。1時間かけて液温を室温(25℃)にした後、3時間撹拌を行った。次いで、1mLのTMEDAを添加して、更に2時間撹拌を継続した。1Mの塩酸を添加して反応を終了させ、反応液をヘキサンで抽出した。有機相を1Mの塩酸及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した。溶媒を真空吸引で除去し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/酢酸エチル=30/1)で残渣を精製し、橙色の固体物を得た。この固体物を、熱メタノール(1.7mL)で再結晶した。これにより、2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン(3a)の橙色結晶を得た。このときの収率は80%であった。得られた2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン(3a)の物性値は以下の通りであった。
(同定データ)
H NMR(395.75MHz,CDCl):β 1.00−1.03(m,18H)、1.42−1.44(m,6H)、7.70−7.74(m,2H)、8.08−8.12(m,2H);
13C NMR(99.45MHz,CDCl):β 4.77(t,J=4.1Hz)、27.59(t,J=7.4Hz)、31.90(t,J=7.4Hz)、129.50,129.60,141.63,165.12(dd,J=5.7,2.4Hz);
31P NMR(202.35MHz,CDCl):β −17.7(s);
IR(KBR)2950,1470,780cm−1
HRMS(FAB)計算値(C1829(M+H))335.1809、実測値335.1826
<ビス(2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン)金(I)クロリド(1A)の合成>
窒素ガスで置換した25ml二口フラスコに、前記合成例1で調製した2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン(3a)1.33g(3.98mmol)と脱気したTHFを加えた。ここにテトラブチルアンモニウム金(I)ジクロリド1.02mg(1.99mmol)を加え、室温で20時間撹拌した。沈殿をろ別し、ろ液を乾固した。得られた褐色固体を減圧下で乾燥し、1.46gの下記式(1a)で表されるビス(2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン)金(I)クロリド(1A)を得た(以下、「ホスフィン金錯体試料」と呼ぶ。)。この時の収率は82%であった。
(同定データ)
31P NMR(121.55MHz,CDCl):8.8(s)
MS(ESI、POS)m/z 866 (M−Cl)
実施例1〜2及び参考例1〜6
表1に示した量と種類のシクロデキストリン化合物を水4mlに加えた。次いで上記で調製したホスフィン金錯体試料10mgを添加し、25℃で16時間攪拌混合して混合処理を行い、各種のシクロデキストリン包接体を得た。
次いで、2時間静置した後上澄み液を1mL採取し遠心分離を行った。この上澄み液をさらに0.7ml採取し遠心分離を2回行い、遠心分離後、上澄み液の0.100mlを採取し5mlメスフラスコに入れメタノールで5mlにメスアップした。次いで、この溶液を2μLシリンジで採取しHPLCで分析してホスフィン金錯体試料の量を測定し、この測定値から溶解度を求めた。その結果を表1に示した。なお、シクロデキストリン化合物を添加しないで、ホスフィン金錯体試料のみのものも同様にして溶解度を求め、ブランクとして表1に結果を併記した。
表1の結果より、ホスフィン金錯体をシクロデキストリン化合物へ包接させることで、ホスフィン金錯体試料の溶解度が向上することが分かる。特にシクロデキストリン化合物として、β―シクロデキストリンを用いた場合には、少ない添加量でホスフィン金錯体試料の溶解性を劇的に向上させることができることが分かる。
{実施例
(β−シクロデキストリン包接体試料の調製)
β―シクロデキストリンの2重量%水溶液5mlを調製し、ホスフィン金錯体試料40mgを添加し、16時間、25℃で攪拌混合することによりβ―シクロデキストリン包接体水溶液を調製した。
<抗がん性の評価>
β―シクロデキストリン包接体水溶液の腫瘍細胞に対する活性評価を下記のように実施した。また、比較対象としてシスプラチン(比較例1)及びβ―シクロデキストリンを添加しないで水に完全に溶解させたホスフィン金錯体試料(参考例1)についても同様な試験を実施した。
癌細胞としてHL−60(ヒト急性骨髄性白血病細胞)を使用し、10%ウシ胎児血清および1%抗生物質、抗真菌剤を補足したRosewell Park Memorial Institute培地(RPMI1640)中で、5%二酸化炭素雰囲気下、湿潤インキュベーター中、37℃で培養した。
細胞はPBSで洗浄し、細胞数を算定後、同じ培地を用いて1×10細胞/ml懸濁液を調製した。滅菌96ウエルのマイクロプレートに前記の懸濁液を50000細胞/ウエルの密度となるように加えた。
次に上記で調製したβ―シクロデキストリン包接体水溶液、ジメチルスルホキシドに完全に溶解させたシスプラチン溶液(比較例1)又はβ―シクロデキストリンを添加しないで水に完全に溶解させたホスフィン金錯体試料(参考例1)を加え、引き続き24時間インキュベータ中で培養した。
その後、生存細胞数をMosmann(T.Mosmann, J.Immunnol.Method(1983))65,55-63)変法により評価した。即ち、テトラゾリウム塩(3,[4,5-dimethylthiazole-2-yl]-2,5-diphenyltetrazolium bromide,MTT)溶液を加え、さらに3時間、同条件で培養した。細胞内のミトコンドリアの酵素活性により生成したホルマザン結晶を0.04mol/HCl/イオソプロピルアルコールで溶解し、マイクロプレートリーダー(Bio-Rad 550)を用い、595nmの吸光度を測定した。バックグランドを排除するために630nmの吸光度を測定し、実測値から差し引いた。これを生存細胞数として評価し、50%細胞発育抑制濃度(IC50)を算出した。なお、IC50値の算出に当たっては、同様に実施した少なくとも3回以上の実験値の平均値を採用した。この結果を表2に示す。
表2の結果より、β―シクロデキストリン包接体は、シスプラチンよりも高い抗がん活性を有し、また、ホスフィン金錯体をβ―シクロデキストリン包接体として用いても、ホスフィン金錯体自体の高い抗がん活性をそのまま保持していることが分かる。
本発明の抗がん剤組成物によれば、溶解性に優れ、高い抗がん活性を有しつつ、毒性の低い抗がん剤組成物が提供される。

Claims (4)

  1. 下記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体と、シクロデキストリン化合物とを含有し、前記シクロデキストリン化合物がβ―シクロデキストリン化合物であり、シクロデキストリン化合物の含有量がシクロデキストリン化合物100重量部に対してホスフィン遷移金属錯体10〜75重量であることを特徴とする抗がん剤組成物。
    (式中、R1及びR2は、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、置換基を有するシクロアルキル基、アダマンチル基、フェニル基又は置換基を有するフェニル基を示し、炭素数が1〜10であり、同一の基であっても異なる基であってもよい。前記置換基を有するフェニル基の置換基は、アルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基から選ばれる基を示す。R3及びR4は、水素原子又は直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示し、炭素数が1〜6であり、同一の基であっても異なる基であってもよい。R3及びR4は、互いに結合して飽和又は不飽和の環を形成していてもよく、該飽和又は不飽和の環は、一価の置換基を有していてもよい。該一価の置換基は、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜5のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基から選ばれる基を示す。Mは、金、銅及び銀の群から選ばれる遷移金属原子を示す。X-は、アニオンを示す。)
  2. ホスフィン遷移金属錯体が下記一般式(2)で表されることを特徴とする請求項に記載の抗がん剤組成物。
    (式中、R1及びR2は、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、置換基を有するシクロアルキル基、アダマンチル基、フェニル基又は置換基を有するフェニル基を示し、炭素数が1〜10であり、同一の基であっても異なる基であってもよい。前記置換基を有するフェニル基の置換基は、アルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基から選ばれる基を示す。R5は、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜5のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基から選ばれる一価の置換基を示す。nは、0〜4の整数を示す。Mは、金、銅及び銀の群から選ばれる遷移金属原子を示す。X-は、アニオンを示す。)
  3. ホスフィン遷移金属錯体の式中のR1がt−ブチル基であり、R2がメチル基であることを特徴とする請求項記載の抗がん剤組成物。
  4. ホスフィン遷移金属錯体の式中のMが金原子であることを特徴とする請求項記載の抗がん剤組成物。
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