以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。一例として本実施形態では、図1に概略を示すように車両に横置きに搭載されたパワートレインに本発明を適用した場合について説明する。なお、本実施形態の記載はあくまで例示に過ぎず、本発明の構成や用途などについても限定することを意図しない。
−パワートレインの概略構成−
図1には概略的に示すように本実施形態のパワートレインは、エンジン1、トルクコンバータ2、前後進切換機構3、無段変速機構4、減速歯車機構5、差動歯車機構6などを備えている。エンジン1のクランクシャフト11はトルクコンバータ2に連結されており、その出力がトルクコンバータ2から前後進切換機構3、無段変速機構4および減速歯車機構5を介して差動歯車機構6に伝達され、左右の駆動輪7へ分配される。
−エンジン−
以下にエンジン1、トルクコンバータ2、前後進切換機構3および無段変速機構4について順に説明すると、まず、エンジン1は一例として多気筒ガソリンエンジンであって、クランクシャフト11の回転数を検出するためのエンジン回転数センサ101を備えている。エンジン1の吸気量を調整するスロットルバルブ12は、運転者によるアクセル操作とは独立して開度(スロットル開度Th)を調整可能な電子制御式のものであり、その実際の開度はスロットル開度センサ102によって検出される。
前記エンジン回転数センサ101やスロットル開度センサ102からの信号はECU(Electronic Control Unit)8に入力され、これを受けたECU8は、スロットルモータ13に制御信号を送って、目標吸気量が得られるようにスロットル開度Thを調整する。目標吸気量は、エンジン回転数Neや運転者によるアクセル操作量(アクセル開度Acc)などに応じて決定すればよい。
なお、図示のようにエンジン1には、その始動時にクランクシャフト11を強制回転(クランキング)させるスタータモータ16と、冷却水温を検出するためのエンジン水温センサ103とが設けられている。
−トルクコンバータ−
トルクコンバータ2は、入力側のポンプインペラ21と、出力側のタービンランナ22と、トルク増幅機能を発現するステータ23と、ワンウェイクラッチ24とを備えており、ポンプインペラ21とタービンランナ22との間で作動油(ATF)によって動力伝達を行う。ポンプインペラ21はエンジン1のクランクシャフト11に連結されており、一方、タービンランナ22はタービンシャフト25を介して前後進切換機構3に連結されている。
また、トルクコンバータ2は、その入力側と出力側とを直結するロックアップクラッチ26も備えている。ロックアップクラッチ26は、係合側油室内の油圧と解放側油室内の油圧との差圧(ロックアップ差圧)を制御することによって、完全係合、半係合(スリップ状態での係合)または解放のいずれかの状態に切り替えられる。
そして、ロックアップクラッチ26の解放状態では、前記のようにATFによってポンプインペラ21からタービンランナ22に動力が伝達されるが、タービンランナ22の回転数(タービン回転数Nt)がポンプインペラ21の回転数(エンジン回転数Neと同じ)よりも低い状態では、その回転差に応じてタービンシャフト25への出力トルクが増幅される。
なお、本実施形態ではトルクコンバータ2に、そのポンプインペラ21に連結されて駆動される機械式のオイルポンプ9が設けられている。このオイルポンプ9は、例えばギヤポンプ、ベーンポンプなどからなり、ポンプインペラ21を介してエンジン1のクランクシャフト11によって駆動される。
−前後進切換機構−
前後進切換機構3は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構30、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1を備えている。遊星歯車機構30のサンギヤ31はトルクコンバータ2のタービンシャフト25に連結されており、前進用クラッチC1の近傍にタービンシャフト25の回転数を検出するタービン回転数センサ104が配置されている。一方、遊星歯車機構30のキャリア33は無段変速機構4の入力軸40に連結されている。
そして、前記キャリア33とサンギヤ31とが前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ32は後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。すなわち、前進用クラッチC1が係合され、後進用ブレーキB1が解放されることにより、前後進切換機構3が一体に回転するようになって前進用動力伝達経路が成立し、この状態で、前進方向の駆動力が無段変速機構4側へ伝達される。
一方、後進用ブレーキB1が係合され、前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換機構3によって後進用動力伝達経路が成立する。この状態で、入力軸40はタービンシャフト25に対して逆方向へ回転し、この後進方向の駆動力が無段変速機構4側へ伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1がともに解放されると、前後進切換機構3は動力伝達を遮断するニュートラル状態になる。
−無段変速機構−
本実施形態では無段変速機構4は、前記のトルクコンバータ2および前後進切換機構3を介してエンジン1から入力する回転を、無段階に変速して出力可能なベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)からなる。無段変速機構4は、入力側のプライマリプーリ41、出力側のセカンダリプーリ42、および、これらプライマリプーリ41とセカンダリプーリ42との間に巻き掛けられた金属製の伝動ベルト43(チェーンであってもよい)などを備えている。
プライマリプーリ41の近傍にはプライマリプーリ回転数センサ105が配置されている。このプライマリプーリ回転数センサ105の出力信号から、無段変速機構4の入力軸回転数Ninを算出することができる。また、セカンダリプーリ42の近傍にはセカンダリプーリ回転数センサ106が配置されており、その出力信号から無段変速機構4の出力軸回転数Noutを算出することができる。さらに、セカンダリプーリ回転数センサ106の出力信号に基づいて車速spdを算出することもできる。
詳しくはプライマリプーリ41は、入力軸40に固定された固定シーブ411と、入力軸40に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ412とを備えている。そして、可動シーブ412側に配設された油圧アクチュエータ413によって、固定シーブ411と可動シーブ412との間のV溝幅を変更することで、伝動ベルト43の巻き掛け径(有効径)が変更されるようになっている。
同様にセカンダリプーリ42も、出力軸44に固定された固定シーブ421と、出力軸44に軸方向に摺動可能に配設された可動シーブ422とを備えており、可動シーブ422側に配設された油圧アクチュエータ423によって固定シーブ421と可動シーブ422との間のV溝幅を変更することで、伝動ベルト43の巻き掛け径(有効径)が変更されるようになっている。
そして、前記プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413を制御して、プライマリプーリ41およびセカンダリプーリ42の各V溝幅を変更することによって、両プーリ41,42の有効径を連続的に変化させて、変速比γを連続的に変化させることができる。なお、変速比γは、γ=入力軸回転数Nin/出力軸回転数Noutと定義され、例えばプライマリプーリ41の有効径が大きくなり、セカンダリプーリ42の有効径が小さくなるときに、変速比γは小さくなる。
そうしてプライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413を制御して、プライマリプーリ41およびセカンダリプーリ42のそれぞれの有効径を変化させる際に、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423は、伝動ベルト43の滑りが発生しないように所定の挟圧力を発生する。
−油圧制御回路−
次に、前記トルクコンバータ2、前後進切換機構3および無段変速機構4などを制御する油圧制御回路20について説明する。本実施形態の油圧制御回路20は、前記のように無段変速機構4の変速比γを変更する際に、主にプライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413の油圧を制御する変速制御部20aと、主にセカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423の油圧を制御する挟圧力制御部20bとを備えている。
また、油圧制御回路20は、図1には示さないが、ライン圧の制御や前後進切換機構3の前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1の係合および解放のための油圧制御、および、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ26の係合および解放のための油圧制御なども行うように構成されている。
詳しくは図2に示すように油圧制御回路20は、プライマリレギュレータバルブ201、セレクトバルブ202、ライン圧モジュレータバルブ203、ソレノイドモジュレータバルブ204、リニアソレノイドバルブ(SLP)205、リニアソレノイドバルブ(SLS)206、変速コントロールバルブ207、および、ベルト挟圧力コントロールバルブ208などを備えている。
また、本実施形態の油圧制御回路20は、前記したようにエンジン1からの駆動力によって駆動される機械式オイルポンプ9の他に、電動機91を動力源とする電動オイルポンプ90を備えている。機械式オイルポンプ9と電動オイルポンプ90とは並列接続されており、例えばエンジン1の一時停止(アイドルストップ)時には電動オイルポンプ90から油圧が供給される。
この油圧制御回路20においては、まず、機械式オイルポンプ9(または電動オイルポンプ90)により生成された油圧が、例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ201により調圧されてライン圧PLとなる。一例としてプライマリレギュレータバルブ201には、リニアソレノイドバルブ(SLS)206から出力される制御油圧がセレクトバルブ202を介して供給され、その制御油圧をパイロット圧として作動するようになっている。
そうしてプライマリレギュレータバルブ201により調圧されたライン圧PLは、ライン圧モジュレータバルブ203に供給されて一段、低いモジュレートライン圧LPM2に調圧される他に、変速コントロールバルブ207およびベルト挟圧力コントロールバルブ208には、そのままライン圧PLとして供給される。変速コントロールバルブ207およびベルト挟圧力コントロールバルブ208については後述する。
一方、ライン圧モジュレータバルブ203によって調圧されたモジュレートライン圧LPM2は、図2に示すようにソレノイドモジュレータバルブ204、リニアソレノイドバルブ(SLP)205、リニアソレノイドバルブ(SLS)206に供給される。ソレノイドモジュレータバルブ204は、モジュレートライン圧LPM2をさらに低圧のモジュレータ油圧PSMに調圧して、変速コントロールバルブ207およびベルト挟圧力コントロールバルブ208などに供給する。
また、前記リニアソレノイドバルブ(SLP)205、リニアソレノイドバルブ(SLS)206は、一例としてノーマルオープンタイプの電磁ソレノイドバルブであって(ノーマルクローズタイプであってもよい)、それぞれ、ECU8から送信される制御信号のデューティ比に応じて作動されて、モジュレートライン圧LPM2を元圧とする制御油圧を出力する。
こうして出力される制御油圧は、以下に説明するように変速コントロールバルブ207に供給されて、無段変速機構4の変速制御に供されるとともに、ベルト挟圧力コントロールバルブ208に供給されて、挟圧力制御に供される。また、リニアソレノイドバルブ(SLS)206からの制御油圧は、上述したようにプライマリレギュレータバルブ201にも供給される。
−変速制御部−
次に、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413の油圧を制御する変速制御部20aについて、詳細に説明する。図示のように無段変速機構4のプライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413(以下、プライマリ側油圧アクチュエータ413ともいう)には、その油圧を制御する変速コントロールバルブ207が接続されている。
変速コントロールバルブ207は概略円筒状のスプール弁からなり、軸方向に移動可能なスプール271を備えていて、その一端側(図2の下端側)には、圧縮コイルばね272が圧縮状態で配置されているとともに、制御油圧ポート273が設けられている。この制御油圧ポート273には、リニアソレノイドバルブ(SLP)205からの制御油圧が印加される。
また、変速コントロールバルブ207には、ライン圧PLが供給される入力ポート274、および、プライマリ側油圧アクチュエータ413に接続される出力ポート275が設けられている。そして、変速コントロールバルブ207は、リニアソレノイドバルブ(SLP)205から出力される制御油圧をパイロット圧としてライン圧PLを調圧し、出力ポート275からプライマリ側油圧アクチュエータ413へ供給する。
つまり、リニアソレノイドバルブ(SLP)205からの制御油圧に応じて調圧された変速コントロールバルブ207の出力油圧Pin(以下、プライマリシーブ油圧Pinともいう)が、プライマリ側油圧アクチュエータ413に供給される。これにより、プライマリ側油圧アクチュエータ413の油圧が制御され、無段変速機構4の変速比γが制御される。
具体的には、プライマリ側油圧アクチュエータ413に所定の油圧が供給されている状態で、リニアソレノイドバルブ(SLP)205からの制御油圧が増大すると、変速コントロールバルブ207のスプール271が図2の上側に変位して出力油圧Pinが増大し、プライマリ側油圧アクチュエータ413の油圧も増大する。その結果、プライマリプーリ41のV溝幅が狭くなって、変速比γは小さくなる。
反対にリニアソレノイドバルブ(SLP)205からの制御油圧が低下すれば、変速コントロールバルブ207のスプール271は図2の下側に変位して出力油圧Pinが低下し、プライマリ側油圧アクチュエータ413の油圧も低下する結果、プライマリプーリ41のV溝幅が広くなって、変速比γは大きくなる。
前記のような変速制御部20aの制御はECU8によって行われる。すなわち、詳細は後述するが、制御マップ(図4参照)に従って、ECU8により無段変速機構4の目標変速比(本例では入力軸40の目標回転数Nint)が算出され、この目標変速比と実際の変速比γとに基づいて制御信号が生成される。この制御信号を受けた変速制御部20aにおいて前記のようにリニアソレノイドバルブ(SLP)205からの制御油圧が調圧され、無段変速機構4のプライマリ側油圧アクチュエータ413の油圧が制御される。
−挟圧力制御部−
次に、前記変速制御部20aと同様に挟圧力制御部20bについて詳細に説明すると、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423(以下、セカンダリ側油圧アクチュエータ423ともいう)には、その油圧を制御するためにベルト挟圧力コントロールバルブ208が接続されている。
このベルト挟圧力コントロールバルブ208は概略円筒状のスプール弁からなり、軸方向に移動可能なスプール281を備えていて、その一端側(図2の下端側)には、圧縮コイルばね282が圧縮状態で配置されているとともに、制御油圧ポート283が設けられている。この制御油圧ポート283に前記のリニアソレノイドバルブ(SLS)206からの制御油圧が印加される。
また、ベルト挟圧力コントロールバルブ208には、ライン圧PLの供給される入力ポート284、および、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423に接続される出力ポート285が形成されている。そして、ベルト挟圧力コントロールバルブ208は、リニアソレノイドバルブ(SLS)206が出力する制御油圧をパイロット圧としてライン圧PLを調圧し、出力ポート285からセカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423に供給する。
つまり、リニアソレノイドバルブ(SLS)206からの制御油圧に応じて調圧されたベルト挟圧力コントロールバルブ208の出力油圧Pd(以下、セカンダリシーブ油圧Pdともいう)が、セカンダリ側油圧アクチュエータ423に供給される。これにより、セカンダリ側油圧アクチュエータ423の油圧が制御され、無段変速機構4のベルト挟圧力が制御される。
具体的には、セカンダリ側油圧アクチュエータ423に所定の油圧が供給されている状態で、リニアソレノイドバルブ(SLS)206からの制御油圧が増大すると、ベルト挟圧力コントロールバルブ208のスプール281が図2の上側に変位して出力油圧Pdが増大し、セカンダリ側油圧アクチュエータ423の油圧も増大する。その結果、ベルト挟圧力は増大する。
反対に、リニアソレノイドバルブ(SLS)206からの制御油圧が低下すれば、ベルト挟圧力コントロールバルブ208のスプール281は図2の下側に変位して出力油圧Pdが低下し、セカンダリ側油圧アクチュエータ423に供給される油圧も低下する結果、ベルト挟圧力は減少する。
前記のような挟圧力制御部20bの制御もECU8によって行われる。すなわち、後述する制御マップ(図5参照)に従ってECU8により、必要油圧(ベルト挟圧力に相当)が算出され、この必要油圧が得られるようにリニアソレノイドバルブ(SLS)206が制御される。これにより、前記のように無段変速機構4のセカンダリ側油圧アクチュエータ423の油圧(セカンダリシーブ油圧Pd)が好適に制御される。
なお、前記の如くプライマリシーブ油圧Pinとセカンダリシーブ油圧Pdとを独立に制御する場合には、推力比τ(τ=[セカンダリシーブ油圧Pd×セカンダリ側油圧シリンダの受圧面積]/[プライマリシーブ油圧Pin×プライマリ側油圧シリンダの受圧面積])を保持できるよう、プライマリシーブ油圧Pinおよびセカンダリシーブ油圧Pdを制御している。
上述した油圧制御回路20の変速制御部20aおよび挟圧力制御部20bによる制御は、それぞれECU8からの制御信号を受けて各制御部20a,20bのリニアソレノイドバルブ207,208が前記の如く動作し、無段変速機構4の油圧アクチュエータ413,423などの油圧を好適に制御することで、実現される。
言い換えると本実施形態では、ECU8によって後述のように実行される所定のプログラムと、油圧制御回路20の変速制御部20aとによって、本発明に係る無段変速機の変速制御装置が実現される。
−ECU−
一例としてECU8は、図3に示すように、CPU(Central Processing Unit)81、ROM(Read Only Memory)82、RAM(Random Access Memory)83およびバックアップRAM84などを備えている。
ROM82には、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU81は、ROM82に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAM83はCPU81での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM84はエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
これらCPU81、ROM82、RAM83、および、バックアップRAM84はバス87を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース85および出力インターフェース86に接続されている。
入力インターフェース85には、図1にも表れているエンジン回転数センサ101、スロットル開度センサ102、エンジン水温センサ103、タービン回転数センサ104、プライマリプーリ回転数センサ105、セカンダリプーリ回転数センサ106等が接続されている。また、図3にのみ示すアクセル開度センサ107、ブレーキセンサ108、油圧センサ109、および、シフトレバー10のレバーポジション(P、R、N、D)を検出するレバーポジションセンサ110等も接続されている。
そして、前記各センサの出力信号、すなわちエンジン回転数Ne、スロットル開度Th、エンジン水温、タービン回転数Nt、無段変速機構4への入力軸回転数Nin、同じく出力軸回転数Nout、アクセル開度Acc、ブレーキ操作の有無、無段変速機構4の作動油圧、および、シフトレバー10のポジションなどを表す信号がECU8に入力される。なお、タービン回転数Ntは、前後進切換機構3の前進用クラッチC1が係合している前進走行時には、無段変速機構4への入力軸回転数Ninと一致する。
一方、ECU8の出力インターフェース86には、スロットルモータ13、燃料噴射装置14、点火装置15、スタータモータ16、油圧制御回路20などが接続されており、ECU8は、前記した各種のセンサの出力信号などに基づいて、エンジン1の制御、トルクコンバータ2の制御、前後進切換機構3の制御、無段変速機構4の制御等を実行する。例えばエンジン1の運転制御としてはスロットルモータ13、燃料噴射装置14、点火装置15等に制御信号が出力されて、吸気量や燃料噴射量、点火時期などが制御される。
また、無段変速機構4の制御としてECU8は、一例として図4に示す変速制御マップを参照して目標変速比を算出する。この変速制御マップは、運転者の出力要求に対応するスロットル開度Th(アクセル開度Accでもよい)および車速spdをパラメータとして、目標変速比を予め実験・シミュレーションなどにより適合したものであって、ECU8のROM82に記憶されている。なお、車速spdは出力軸回転数Noutに対応するため、変速制御マップにおいては目標変速比として、入力軸回転数Ninの目標値である目標回転数Nintを設定している。
ECU8は、無段変速機構4の実際の入力軸回転数Ninが、前記の算出した目標回転数Nintになるように変速比γを制御する(変速制御)。すなわち、以下に詳述するような制御演算を行って、目標変速比(目標回転数Nint)となるように主にプライマリ側油圧アクチュエータ413を動作させる制御信号を、油圧制御回路20の変速制御部20aに出力する。
そのような変速制御の際にECU8は、一例として図5に示す挟圧力制御マップを参照して必要油圧(ベルト挟圧力に相当)を決定し、油圧制御回路20の挟圧力制御部20bを制御する。ECU8は、必要油圧に対応する制御信号を油圧制御回路20の挟圧力制御部20bに出力し、上述したようにセカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423への供給油圧を制御して、無段変速機構4のベルト挟圧力を制御する。
なお、図5の挟圧力制御マップは、一例としてスロットル開度Th(アクセル開度Accでもよい)および変速比γをパラメータとして、伝動ベルト43の滑りが生じないよう、予め実験・シミュレーションなどにより適合した必要油圧(ベルト挟圧力に相当)を設定したものであり、ECU8のROM82に記憶されている。
−変速制御の演算−
次に、前記のECU8による変速制御のための演算について詳細に説明する。前記したようにECU8は、図4の変速制御マップから算出した目標変速比(目標回転数Nint)に基づいて制御信号を生成するが、この際、図6に模式的に示すように、目標変速比と実際の変速比との偏差に応じてフィードバック制御量を算出するとともに、目標変速比に基づいてフィードフォワード制御量を算出し、それらを組み合わせて油圧制御回路20への制御信号を生成する。
ここで、フィードフォワード制御は、変速制御の応答性を高め、特に変速動作を早期に開始させるために行われる。具体的には、例えば、無段変速機構4のプライマリシーブ油圧Pin(またはプライマリ側油圧アクチュエータ413へのオイルの供給および排出量)と変速比γとの対応関係をモデルベースでデータ化し、フィードフォワード制御マップ(図示省略:以下、FF制御マップと呼ぶ)として設定しておき、このFF制御マップを参照して目標変速比になるようにプライマリシーブ油圧Pinを変更する。
一方、フィードバック制御は、目標変速比と実際の変速比との偏差を求め、その偏差を小さくするようにプライマリシーブ油圧Pinを変更する。これらフィードフォワード制御およびフィードバック制御に用いる制御量は、例えば、前記のようにプライマリシーブ油圧Pinを変更するための制御信号であって、ソレノイドバルブ(SLP)205に入力する電流指令値に対応している。
具体的には図6に示すように、一例として本実施形態では、変速制御マップ(図4)から読み取った目標回転数Nintをなまし処理した上で、フィードフォワード制御に用いる。すなわち、この目標回転数Nintに基づいてフィードフォワード制御部8a(FF制御部)により、前記のFF制御マップを参照してプライマリシーブ油圧Pin(またはプライマリ側油圧アクチュエータ413へのオイルの供給および排出量)を好適に調整するためのフィードフォワード制御量PinFFを算出する。
また、前記のようにフィードフォワード制御に用いる目標回転数Nintに対して、制御の応答遅れ(むだ時間)を考慮した補正を行い、フィードバック制御部8b(FB制御部)においてフィードバック制御に用いる目標回転数Nint*を算出した上で、これに基づいてフィードバック制御量PinFBを算出する。ここで、目標回転数Nint*は、油圧制御回路20やプライマリ側油圧アクチュエータ413の構成において、オイルの供給・排出やピストンの動作などにより不可避的に生じる制御の応答遅れを考慮した目標回転数である。
言い換えれば、本実施形態ではフィードバック制御に用いる目標回転数Nint*は、フィードフォワード制御に用いる目標回転数Nintに対して、システムの構成上で実現可能な値であって、所定の計算式やマップによって算出される。この計算式やマップは、詳しい説明は省略するが、リニアソレノイドバルブ(SLP)205への制御信号の入力に対するプライマリシーブ油圧Pinの応答遅れ分を、予め実験・シミュレーションなどにより適合して設定されている。
なお、例えば車両の定常走行時や緩加速時のように、無段変速機構4の変速速度が低くてフィードフォワード制御を組み合わせない場合もあり、このような場合は、前記のような補正を行う前の目標回転数Nintを用いてフィードバック制御のみを行う。
より詳しくは、本実施形態のECU8は、例えばアクセルオン(アクセルペダルの踏み込み)に伴う車両の加速時に変速制御マップ(図4)を参照し、現在の車速spdおよびスロットル開度Thに対応する目標回転数Nintを算出する。そして、一例を次式(1)に示すような計算式によって、フィードフォワード制御量PinFFを算出する。
PinFF = KFF×(f(Nint)) ・・・(1)
なお、前記の式(1)において、KFFはフィードフォワード定数(FFゲイン)であり、f(Nint)は、前記のFF制御マップにおける変速比と制御油圧との関係(関数)を表している。フィードバック制御量としてはプライマリシーブ油圧Pinの代わりに、プライマリシーブ油圧Pinを実現するためのプライマリ側油圧アクチュエータ413へのオイルの供給または排出量であってもよいし、これに相当するソレノイドバルブ(SLP)205への制御信号であってもよい。
また、ECU8は、前記のように目標回転数Nintを補正した目標回転数Nint*を用いて、一例を次式(2)に示すような計算式によりフィードバック制御量PinFBを算出する。次式(2)において、eは、無段変速機構4の入力軸回転数Ninとその目標回転数Nintとの偏差(Nint−Nin)であり、KPはフィードバック比例ゲイン、KIはフィードバック積分ゲインである。
PinFB = (KP×e+KI×(∫edt)) ・・・(2)
なお、フィードバック制御量についてもプライマリシーブ油圧Pinの代わりに、プライマリ側油圧アクチュエータ413へのオイルの供給または排出量、若しくはソレノイドバルブ(SLP)205への制御信号を用いることができる。
そして、ECU8は、例えば前記のフィードフォワード制御量PinFFとフィードバック制御量PinFBとを加算して、最終的な制御量(目標プライマリシーブ油圧Pinc=PinFF+PinFB)を算出し、これに基づいてソレノイドバルブ(SLP)205への制御信号を生成する。この制御信号がECU8から出力されて油圧制御回路20に入力され、ソレノイドバルブ(SLP)205によってプライマリシーブ油圧Pinが調圧されて、プライマリプーリ41およびセカンダリプーリ42のV溝幅が変更されることで、変速比γが変化する。
このように、フィードバック制御だけでなくフィードフォワード制御も組み合わせて、プライマリシーブ油圧Pinを好適に制御し、無段変速機構4の変速比γを連続的に変更するようにしているので、フィードバック制御の比例ゲインKPはあまり大きな値にしなくても、変速制御の応答性を十分に高くすることができる。フィードバック比例ゲインKPを小さめの値に設定すれば、制御の安定性を確保する上で有利になる。
−フィードバックゲインの補正−
ところで、前記の如くフィードフォワード制御を組み合わせ、その分、フィードバック比例ゲインKPを小さめの値に設定すると、フィードフォワード制御の寄与率が高い変速動作の開始時には効果的に応答性が高まる一方で、フィードフォワード制御の寄与率が低い変速動作の終盤以降は、フィードバック比例ゲインKPが小さいことから応答性が低下してしまい、問題となることがある。
すなわち、一例を図7に示すように、車両の走行中に乗員がアクセルペダルを踏み込み、これに応じて無段変速機構4の目標回転数Nint(目標変速比:図には細めの実線で示す)がステップ状に急上昇するとき(時刻t1〜t2)、これに追従するように無段変速機構4の実際の入力軸回転数Nin(同太めの実線で示す)も上昇する。
そして、時刻t3において入力軸回転数Ninが目標回転数Nintを越えて、さらに上昇するとき(目標回転数Nintから遠ざかるように変化するとき)、つまりはオーバーシュートするときには、フィードバック比例ゲインKPが小さいと入力軸回転数Ninを目標回転数Nintに戻すようなフィードバック制御量が小さくなってしまい、オーバーシュートの収束性が低下するのである。
この点に着目して本実施形態のECU8は、例えばアクセルオン(アクセルペダルの踏み込み)による車両の加速時に、前記変速制御マップ(図4)から求まる目標回転数Nint(目標変速比)の変化などから、無段変速機構4の変速比γの時間あたりの変化量が大きな急変速時であるか否かを判定し、急変速時であれば一時的にフィードバック比例ゲインKPを増大補正する、ゲイン補正部8c(図6を参照)を備えている。
以下、ECU8の実行するゲイン補正ルーチンについて一例を、図8のフローチャートを参照して説明する。なお、以下では加速時に大きな車両駆動力を確保するために、変速比を増大(即ち低車速側に変化)させる場合について説明する。なお、この制御ルーチンはECU8において所定の時間(例えば数十ミリ秒)間隔で繰り返し実行される。
まず、ECU8は、車両の走行中に無段変速機構4の変速比γが所定以上に急に変化する急変速状態か否か判定する(ステップST1)。例えば車速spdおよびスロットル開度Thに応じて変速制御マップ(図4)から算出される目標回転数Nintの時間あたりの変化量が所定の閾値未満で否定判定(NO)であれば一旦、制御を終了する一方、当該閾値以上で肯定判定(YES)であればステップST2に進む。
なお、前記の閾値は、無段変速機構4およびその油圧制御回路20、さらにはエンジン1や車両の仕様なども考慮して、或る程度、大きなオーバーシュートが生じるような変速比γの変化速度に対応するように、予め実験・シミュレーションなどにより適合した値であって、ECU8のROM82に記憶されている。閾値を車両の運転状態などに応じて変更するようにしてもよい。
また、急変速の判定に用いるパラメータは、前記のように目標回転数Nintの時間あたりの変化量にも限定されず、変速比γを規定するパラメータとして例えば、プライマリプーリ41の可動シーブ412の制御目標位置に着目し、その時間あたりの変化量としてもよい。また、アクセル開度Accやスロットル開度Thの時間あたりの変化量から間接的に急変速を判定するようにしてもよい。
さらに、目標回転数Nintの時間あたりの変化量が閾値以上になれば、直ちに急変速と判定するのではなく、続けて所定回数(例えば3、4回)、閾値以上になったときに急変速と判定するようにしている。こうして急変速と判定すればゲイン補正フラグの値を1にして(ステップST2)、その後、オーバーシュートが発生すれば直ちにフィードバック比例ゲインKPを補正できるように準備する。
続いてステップST3で、オーバーシュートが発生したか否か判定する。具体的には、例えば無段変速機構4の入力軸回転数Ninが目標回転数Nintを越えたか否か(Nin>Nint)判定し、否定判定(NO)であれば所定時間は待機して、肯定判定(YES)になればステップST4に進む。そして、ゲイン補正フラグの値を2にして、続くステップST5〜ST7において、以下に説明するようにフィードバック比例ゲインKPの値を補正する。
なお、オーバーシュートの判定については、入力軸回転数Ninが目標回転数Nintを越えたことに限定されず、例えば、入力軸回転数Ninが目標回転数Nintになったとき、この入力軸回転数Ninの変化の様子(例えば微分値など)から目標回転数Nintを越えると判定したときに、オーバーシュートの発生と判定するようにしてもよい。また、前記の急変速の判定と同じく、プライマリプーリ41の可動シーブ412の位置などからオーバーシュートを判定することも可能である。
そうしてオーバーシュートが発生したと判定し(ステップST3)、ゲイン補正フラグの値を2にした場合(ステップST4)、まず、ステップST5においてフィードバック比例ゲインKPを所定期間、増大補正する。こうして比例ゲインKPを増大させることで、前記の式(2)により算出されるフィードバック補正量PinFBの値が大きくなって、オーバーシュートした入力軸回転数Ninの目標回転数Nintからの乖離を抑制することができる。
ここで、前記の所定期間は、例えば、オーバーシュートした入力軸回転数Ninが目標回転数Nintから遠ざかるように変化し、再度、目標回転数Nintに近づくように変化し始めるまでの期間となるように、予め実験・シミュレーションなどにより適合した時間である。また、入力軸回転数Ninの変化する様子から前記所定期間の経過を判定するようにしてもよい。
一方、フィードバック比例ゲインKPの増大補正量については、例えば、フィードバック制御の安定性を損なうことのない上限値まで増大させるようにしてもよい。また、変速の度合いが急であるほど、オーバーシュートが大きくなることを考慮して、目標回転数Nintの時間あたりの変化量が大きいほど、ゲインの増大補正量も大きな値にするようにしてもよい。
そして、前記所定期間が経過するまではステップST6で否定判定(NO)してステップST5に戻る一方、前記所定期間が経過し、入力軸回転数Ninが目標回転数Nintに近づくように変化するようになれば、ステップST6で肯定判定(YES)してステップST7に進み、今度はフィードバック比例ゲインKPの値を徐々に減少させる。これにより、目標回転数Nintに近づく入力軸回転数Ninの変化が緩やかになるので、ハンチングを抑制することができる。
それからステップST8においてゲイン補正フラグの値が零(0)か否か判定し、肯定判定(YES)であれば補正ルーチンを終了する(エンド)一方、否定判定(NO)であればステップST9に進んで、今度はオーバーシュートの終了か否かを判定する。すなわち、前記のように一旦、目標回転数Nintを越えてオーバーシュートした入力軸回転数Ninが再度、目標回転数Nintに近づいてきて、この目標回転数Nintになるまでは、否定判定して(NO)前記ステップST7に戻り、フィードバック比例ゲインKPの値を徐々に減少させる。
そして、入力軸回転数Ninが目標回転数Nintになれば、ステップST9でオーバーシュートの終了と肯定判定(YES)してステップST10に進み、フィードバック比例ゲインKPを補正前の値に戻す。また、ゲイン補正フラグの値も零(0)に戻し、しかる後に補正ルーチンを終了する(エンド)。
−ゲイン補正による作用効果−
次に、前記のようなフィードバック比例ゲインKPの補正による作用効果を、図9のタイムチャートを参照して説明する。まず、車両の走行中に時刻t1において乗員がアクセルペダルを踏み込み、これに応じてスロットル開度THが所定以上、急に増大するときには、変速制御マップ(図4)から求められる目標回転数Nint(目標変速比)が、図9には細めの実線で示すようにステップ状に急上昇する。
このような目標回転数Nintの変化に対応してECU8により、上述したフィードフォワード制御およびフィードバック制御の組み合わされた変速制御演算が行われ、制御信号が油圧制御回路20へ出力される。この制御信号を受けたソレノイドバルブ(SLP)205によってプライマリシーブ油圧Pinが調圧され、プライマリプーリ41およびセカンダリプーリ42のV溝幅が変更されて、無段変速機構4の変速比γが増大する。
すなわち、図9には太めの実線で示すように無段変速機構4の入力軸回転数Ninは、前記したステップ状の目標回転数Nintの変化にやや遅れて追従するように増大する。また、そのような目標回転数Nintの急な変化により、その時間あたりの変化量が続けて所定回数(例えば3、4回)、閾値以上になって、急変速と判定される(時刻t2)。これによりゲイン補正フラグの値が零(0)から1になる。
そして、時刻t3で目標回転数Nintが一定になると、これに入力軸回転数Ninが近づいてゆき(変速動作の終盤)、時刻t4では目標回転数Nintを越えてオーバーシュートすると、今度は入力軸回転数Ninを目標回転数Nintに戻すようにフードバック制御が行われる。この際、ゲイン補正フラグの値が1から2になって、フィードバック比例ゲインKPが増大補正されることで、フィードバック制御量が大きくなり、入力軸回転数Ninの目標回転数Nintからの乖離が抑制される。
すなわち、仮にフィードバック比例ゲインKPが増大補正されなければ、図9に破線で示すようにオーバーシュートが大きくなるところ、同図に太めの実線で示すように入力軸回転数Ninは目標回転数Nintから離れ難くなり、しかも、早めに目標回転数Nintに向かって変化するようになる。こうして入力軸回転数Ninが再度、目標回転数Nintに向かって変化するようになると(時刻t5)、今度はフィードバック比例ゲインKPが徐々に減少し、フィードバック制御量が徐々に小さくなってゆく。これにより、入力軸回転数Ninの変化も徐々に緩やかなものとなる。
そして、入力軸回転数Ninが目標回転数Nintになると(時刻t6)、ゲイン補正フラグの値が2から零(0)になり、フィードバック比例ゲインKPは補正前の値に戻される。この時点では既に入力軸回転数Ninの変化が非常に小さくなっているので、その後はフィードバック比例ゲインKPが小さくても、入力軸回転数Ninは速やかに目標回転数Nintに収束する。
なお、仮にフィードバック比例ゲインKPを増大補正するだけであると、図9に仮想線で示すように入力軸回転数Ninが繰り返し目標回転数Nintを越えて大きく変動する、いわゆるハンチングを誘発する可能性があるが、本実施形態では、オーバーシュートの発生に対して一旦、増大補正したフィードバック比例ゲインKPを所定期間の経過後には元の値に戻すようにしているので、ハンチングを誘発することはない。
したがって、本実施形態に係る無段変速機の制御装置によると、例えば車両の走行中にアクセルペダルが踏み込まれ、無段変速機構4の変速比γが目標変速比を越えてオーバーシュートするとき、所定の期間は変速制御のフィードバック比例ゲインKPを増大させるとともに、その後は徐々に減少させることによって、オーバーシュートした変速比γの目標変速比への収束性を高めることができる。
しかも、本実施形態の変速制御はフィードフォワード制御も組み合わせることによって応答性を高めており、その分、フィードバック比例ゲインKPの値は小さめに設定しているので、制御の安定性を確保する上では有利なものである。そして、このように通常のフィードバック比例ゲインKPが小さな場合に生じ易い、前記のようなオーバーシュート後の収束性の低下を、フィードバック比例ゲインKPの補正によって補完することができるのである。
また、本実施形態では、オーバーシュートが発生すれば直ちにフィードバック比例ゲインKPを増大させ、その後、オーバーシュートした実際の変速比γが再び目標変速比になったときに元の値に戻すようにしている。つまり、フィードバック補正量が実質的に零または極小のときにフィードバック比例ゲインKPの値が変化するので、この変化に起因するフィードバック制御量の変化が極小化され、制御の安定性の確保に有利になる。
さらに、本実施形態では急変速時にのみ、前記のようなフィードバック比例ゲインKPの補正を行うようにしており、例えば車両の定常走行時や緩加速時のように変速比の変化が小さく、殆どオーバーシュートの起きないときには余計なゲイン補正は行わないことも制御の安定性の確保に有利なものである。
−他の実施形態−
以上、説明した実施形態では、ガソリンエンジンを搭載した車両の無段変速機の制御装置として本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、ディーゼルエンジン等の他のエンジンを搭載した車両にも適用可能である。また、車両の動力源についてはエンジンの他に電動モータ、あるいはエンジンと電動モータの両方を備えたハイブリッド形動力源であってもよい。
また、前記実施形態では、無段変速機構4をベルト式のCVTとした例を示したが、本発明はこれにも限られることなく、例えばトロイダルCVTや静油圧CVTなど、種々の無段変速機構の変速比の制御に、本発明を適用することができる。
また、前記実施形態の変速制御においては、目標変速比に基づいて変速比のフィードフォワード制御量を算出するようにしているが、これにも限られず、フィードフォワード制御の態様は、制御の応答性を高めることができれば、どのようなものであってもよい。さらにフィードフォワード制御を組み合わせず、フィードバック制御のみ行う場合にも、本発明を適用することができる。
また、前記実施形態ではフィードバック比例ゲインKPの補正を、急変速時にのみ行うようにしているが、これにも限られることはない。但し、急変速時以外にもゲインを補正するのであれば、例えば、目標変速比の時間あたりの変化量が大きいほど、フィードバック比例ゲインKPの増大補正量を大きくし、目標変速比の時間あたりの変化量が小さいほど、補正量は小さくするのが好ましい。
さらに、前記実施形態のようにフィードバック比例ゲインKPの補正を急変速時にのみ行う場合にも、その増大補正量を目標変速比の時間あたりの変化量が大きいほど大きくし、目標変速比の時間あたりの変化量が小さいほど小さくしてもよい。
さらにまた、前記実施形態では変速制御のオーバーシュートについて具体的に説明したが、変速制御のアンダーシュートについても同様であることは勿論である。