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JP5880043B2 - 封着構造体 - Google Patents

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Description

本発明は、封着構造体に係り、特に、所定量の金属粉末を添加したガラスフリットを焼結させて得られる封着構造体に関する。
従来、太陽電池、プラズマディスプレイパネル(PDP)、蛍光表示管(VFD)、有機ELディスプレイ(Organic Electro-Luminescence Display:OELD)、液晶表示装置(LCD)などの表示素子の気密封止や、ガラス、セラミックス、金属材料の気密封止のためにガラス粉末を含む封着組成物が使用されている。
前記封着組成物としては、鉛ホウ酸系ガラスが用いられていたが、近年環境上の問題から、化学耐久性、機械的強度等の特性が鉛ホウ酸系ガラスと同等であるビスマス系ガラスが用いられるようになっている(特許文献1)。
ここで、焼結による気密封止では、封着組成物の焼結体と被封着部材との間で発生する応力を小さくすることが必要である。従来、ガラスを含む封着組成物を用いた封止では、低線膨張のフィラーを加えることで、封着組成物と低線膨張の被封着部材との線膨張係数差を小さくし、発生する応力を抑制していた。
これによると、低線膨張係数の被封着部材を封止するには、低線膨張のフィラーが大量に必要となる。特に、石英などの、極めて線膨張係数の低い材料を封止するためには、封着組成物中のフィラーの量が多くなり、その分ガラス量が減ってガラスの流動性が悪化し、十分な封止が困難であった。
特開2009−173480号公報 特開2009−1433号公報
上記課題に対して、本発明者らは、線膨張係数の差に起因して発生する応力を抑制する手段として、封着組成物である焼結体そのもののヤング率を下げることに着目し、ガラスにヤング率の低い金属粉末を含有した封着組成物を用いて、低線膨張係数を有する被封着部材の封止を考えた。
一方で、ガラス粉末と金属粉末とを混合した封着組成物としては特許文献2がある。特許文献2には、金属成分はガラスの成分の酸化を防ぐ目的で使用されているが、封着組成物中のヤング率を下げることや、そのためにヤング率が低い金属粉末を用いることについては何も記載されていない。そして、特許文献2はスズ―リン酸系ガラスを使用したPDP用の封着組成物について提案されているのみで、低線膨張の被封着部材を封着するために、ある特定の金属粉末を含む封着組成物については何も記載されていない。
本発明は、封着組成物を焼結した際の焼結体中に金属を所定量含有することで、石英などの低線膨張の被封着部材を気密封止した封着構造体の提供を目的とする。
本発明の封着構造体は、線膨張係数が50×10−7/℃以下の一組の被封着部材を、金属粉末とガラス粉末とを含有する封着組成物の焼結体で封着した封着構造体であって、前記焼結体中に含有される金属量が10体積%以上29体積%以下であること特徴とする。
本発明の封着構造体によれば、線膨張係数が低い被封着部材を封着する際に、熱応力を有効に抑制でき、かつ、染み出しやクラック等の発生を抑制できる封着組成物により焼結体を形成しているため、確実に気密封着した封着構造体が得られる。
石英ガラス製の基板を封着する際の、冷却過程における封着組成物の基板に生じる応力と温度の関係を示した図である。 実施例および比較例の(被覆)金属粒子について、熱量計測装置(TGA)で測定される撹拌時間毎の質量変化率の図である。
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、下記実施形態に限定して解釈されるものではない。
[封着構造体]
本発明の封着構造体とは、封着組成物の焼結体からなる封着層により、低線膨張係数を有する被封着部材を封着したものである。本発明の封着構造体は、焼結体中における金属の含有量は10体積%以上29体積%以下である。これにより、焼結体のヤング率が低減され、かつ焼結体中の金属の塑性効果により封着層と被封着組成物との間で発生する応力が緩和されるため、従来困難であった線膨張係数が低い被封着部材を、確実に気密封着できる。
本発明の封着構造体は、公知の焼結操作により焼結されて製造される。焼結により金属表面が酸化すると、すなわち焼結体中の金属含有量が低減すると、金属成分が寄与する応力緩和効果が低減する。従って、本発明においては、焼結後に残存する金属成分が所定量となるための最適な焼結処理の条件で焼結しなければならない。
焼結後の金属残存量は、次のようにして測定する。ガラス基板上で封着組成物を焼結させる。焼結体を切断、研磨して得られた断面を、光学顕微鏡(オリンパス社製、商品名:BX51)を用いて、倍率200倍で0.7mmの範囲を観察し撮影する。得られた画像を、画像解析ソフト(三谷商事社製、商品名:WinROOF)を使用し、画像内から選んだ0.1mmの範囲において、画像の明るさの違いを利用して、金属部の占める面積を特定する。そして、この0.1mmの範囲の中で金属部分が占める面積の割合を、焼結体中に含有する金属量の体積%とする。
次に、本発明の封着構造体が、低線膨張係数の被封着部材を封着した際に応力抑制の効果が発揮することを、図1を用いて以下、具体的に説明する。
焼結処理を行ってから冷却する間の、封着層と被封着部材との間に発生する応力は次の式(1)で表される。
Figure 0005880043
式中、σは残留熱応力、Eは封着組成物のヤング率、Δαは被封着部材と封着組成物との線膨張係数差、ΔTは固着温度と冷却温度の差、である。ここで、固着温度とは焼結したガラス温度が下がると同時に粘度が下がり自身の自由変形ができなくなり、歪みが入り始める時の温度である。
本発明者らは、Bi系のガラスを用い、(1)ガラスのみ、(2)ガラス+低線膨張フィラー、(3)ガラス+金属粉末、の3種類の封着組成物を作成し、これら封着組成物が石英ガラス製の基板を封着する際に生じる応力を測定した。その結果を、図1に示す。ここで、低線膨張フィラーはリン酸ジルコニウムを、金属粉末としてはSn−Bi粒子を用い、それぞれ封着組成物中の含有量が35質量%となるように混合した。
図1において、(1)と(2)を比較すると、共に封着で生じる応力は冷却の温度に対して比例した傾きで増加していく。しかし、その傾きは低線膨張フィラーを加えたものの方がガラスのみの場合と比べて小さい。これは、ガラスに低線膨張フィラーを混合すると、焼結体の線膨張係数が低減し、線膨張係数が低い石英ガラス基板との線膨張係数差が小さくなるためである。
一方、本発明の構成である(3)ガラスに金属粉末を混合したものでは、封着で生じる応力の温度に対する傾きは(2)と比べてもさらに小さくなっている。このように、発生した応力がより効果的に抑制されているのは、金属の融点以上の温度領域において金属が液相状態にあることにより、焼結体のヤング率が低減したためである。
さらに、図1(3)は、金属成分が固化し始める温度以下(220℃以下)において、応力の温度変化が式(1)に従わず、他の封着組成物を用いて封着した場合に比べて、発生する応力が緩和されている。これは、原因は不明であるが、発明者らは金属粒子の塑性特性による効果が一因であると考えている。
以上より、金属粉末を加えた封着組成物を用いて封着することで、封着組成物のヤング率の低減による作用と、金属粒子の塑性特性に基づく緩和作用の2つにより、被封着部材との間で発生する応力が効果的に抑制されるため、低線膨張の石英ガラス基板を確実に封着できる。
[被封着部材]
本発明に用いる被封着部材は、従来気密封止が困難であった線膨張係数が50×10−7/℃以下の材料である。例えば、5〜50×10−7/℃である低線膨張係数を有する石英ガラスやその他にもホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、コバールガラス等が挙げられる。一組の被封着部材には、これら同種の材料に限られず、これらの中から選ばれる異種の材料でもよい。なお、本明細書においては、特に断りのない限り線膨張係数とは、この30〜300℃における線膨張係数をいう。
[封着組成物]
本発明に用いる封着組成物は、金属粉末とガラス粉末とを含む態様と、ガラスに被覆された金属粉末からなる被覆金属粉末とガラス粉末とを含む態様とがある。以下では、金属粉末を被覆するガラスを被覆用ガラス粉末と記し、他のガラス粉末をマトリックスガラス粉末とそれぞれ記載する。なお、ガラスによる被覆とは、金属粉末表面の少なくとも一部がガラス粉末で覆われている状態をいう。ここでいうガラス粉末は製造過程において前記金属粉末に埋め込まれたガラス粉末も含むものとする。
焼結前の封着組成物中の金属含有量が35〜70質量%、ガラス含有量が65〜30質量%であることが好ましい。ここで、ガラス量は、マトリックスガラス粉末又は、マトリックスガラス粉末と被覆ガラスの合量である。
(金属粉末)
金属粉末は、マトリックスガラス粉末中の酸化されやすい成分に先立って自らが酸化されることでガラス組成の安定化に寄与し、また封着組成物の焼結体における線膨張係数の調整や機械的強度の向上に寄与するものである。さらに、金属粉末は、封着性を向上させるために、封止のための焼成時にガラスの軟化と同時に液相化するものが好ましい。ガラスの体積変化の勾配が大きく変わるガラス転移点付近で金属が液相化していれば、形状変化に対する自由度が増大し、焼成後に得られる封着組成物の焼結体における割れの発生を防止できる。具体的には、金属粉末は、マトリックスガラス粉末のガラス転移点付近より低い300℃以下の融点を有する金属材料で構成されていることが好ましく、さらに250℃以下の融点を有する金属材料で構成されていることが好ましい。
また、金属粉末は、低融点で、かつ、焼結体を冷却していくにあたって、金属成分が固化した後においても効果的に応力の緩和ができるように、そのモース硬度が1〜3の範囲にあることが好ましい。このような範囲となることで塑性効果が発揮され応力が有効に緩和される。
金属粉末を構成する金属としては、金属単体であっても複数の金属からなる合金であってもよい。融点が250℃以下でモース硬度が1〜3の金属として、具体的には、Sn単体、In単体等の金属単体、Snを含む合金、Inを含む合金、Au−Bi合金等が挙げられる。これらのうちでも、安定的供給かつ工業的に入手容易な原料から選ばれる元素から構成されることから、Sn単体、Snを含む合金、In単体、Inを含む合金が好ましい。これら金属単体や合金は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
Snを含む合金としては、Snと、Bi、In、Ga、Mg、Ag、Zn、Cu、およびGeから選ばれる少なくとも1種以上の金属と、からなる合金が好ましく、Snと上記金属の1種または2種からなる合金がより好ましい。Snを含む2種の金属からなる合金として、Sn−Bi合金、Sn−In合金、Sn−Ga合金、Sn−Cu合金、Sn−Ge合金等が好ましい。また、Snを含む3種の金属からなる合金として、Sn−Bi−In合金、Sn−Bi−Cu合金、Sn−Bi−Ge合金、Sn−Bi−Mg合金、Sn−Bi−Ag合金等が好ましい。
Inを含む合金としては、Inと、Ag、Bi、Ga、Mg、Ag、Zn、Al、Cu、GeおよびSiから選ばれる少なくとも1種以上の金属と、からなる合金が好ましく、Inと上記金属の1種または2種からなる合金がより好ましい。Inを含む2種の金属からなる合金としてIn−Ag合金、In−Bi合金、In−Ga合金、In−Cu合金、In−Ge合金、In−Si合金等が好ましい。また、Inを含む3種の金属からなる合金として、In−Bi−Ag合金、In−Bi−Cu合金、In−Bi−Ge合金、In−Bi−Al合金、In−Bi−Zn合金等が好ましい。
各種合金における組成は、融点が250℃以下で、かつ、モース硬度が1〜3となる組成が好ましい。Sn単体およびSnを含む合金については、原子百分率表示でSnが5〜100%、その他金属が合計量で0〜95%の割合が好ましく、Snが30〜100%、その他金属が合計量で0〜70%の割合がより好ましい。In単体およびInを含む合金については、原子百分率表示でInが5〜100%、その他金属が合計量で0〜95%の割合が好ましく、Inが10〜100%、その他金属が合計量で0〜90%の割合がより好ましい。
これらの金属のなかでも、ヤング率が80GPa以下の金属材料が好ましく、ヤング率が50GPa以下の金属がより好ましい。金属のヤング率の下限は特に制限されないが、10GPa程度が好ましい。このような金属としては、Sn−Bi合金、Sn−In合金が好ましく、Sn−Bi合金が特に好ましい。また、その組成については、上記Snを含む合金で示したのと同様とすることができる。特に好ましくは、Bi含有量が原子百分率表示で15〜70%のSn−Bi合金である。Sn−Bi合金のヤング率は、例えば原子百分率表示でBiを43%、Snを57%含有するSn−Bi合金で、39.7GPaである。
特に良好な封着性を得るためには、焼結後の封着組成物と被封着材料との残留歪みが小さいことが必要とされる。この残留歪みを封着組成物の特性で小さくするためには、封着組成物のガラス軟化点付近における歪みが入り始める固着点を下げる、被封着材料との線膨張係数差ができるだけ小さい封着組成物を作製する、封着組成物のヤング率を下げる等の方法が挙げられる。本発明においては、金属粉末として、低融点でヤング率の低い金属を用いることで、封着組成物の固着点を下げられ、封着組成物の焼結体のヤング率を下げられる。
金属粉末の50%粒径(以下、D50と記す)は、0.1〜100μmが好ましく、0.5〜8μmがより好ましい。金属粉末のD50が0.1μm未満になると、工業的に製造しづらく製造コストの点で不利であり、また取り扱いも困難となる。金属粉末D50が100μmを超えると、封着組成物中の金属粉末の分散性が低下し、金属粉末の添加効果が十分に発揮されないおそれがある。なお、本明細書におけるD50は、レーザ回折法で測定された値である。
(マトリックスガラス粉末)
封着組成物を構成するマトリックスガラス粉末は、必ずしも限定されないが、例えば、酸化物基準のモル百分率表示で、Biを15〜50%、Bを15〜50%、CeOを0.1〜8%、ZnOを0〜35%、SiOを0〜25%、Alを0〜15%、TiOを0〜15%含有し、かつ、CuOの含有量、Feの含有量、アルカリ金属酸化物の合計含有量、およびアルカリ土類金属酸化物の合計含有量がそれぞれ0〜10%であるものが好ましい。なお、アルカリ金属酸化物としては、LiO、NaO、KO等が挙げられ、アルカリ土類金属酸化物としては、CaO、SrO、MgO、BaO等が挙げられる。以下、各成分について説明する。
Biはガラスの網目を形成する酸化物であり、化学的耐久性を低下させることなしにガラス軟化点(以下、必要に応じて「Ts」、または、単に「軟化点」と記す。)を低下させることができる成分である。Biの含有量が15%未満ではTsが過度に高くなる。Bi含有量が50%を超えると線膨張係数が大きくなりすぎ、封着組成物として使用できなくなる。Biの含有量は、30〜50%の範囲がより好ましい。
はSiOほどにはTsを上げずにガラスを安定化させることができる成分である。Bの含有量が15%未満ではTsが過度に高くなる。Bの含有量が50%を超えると化学的耐久性が低下する。Bの含有量は、17〜38%の範囲がより好ましい。
CeOは酸化剤として機能することから、金属粉末が酸化被膜を形成する際の助剤として作用し、ガラスの組成を安定化させる。金属粉末の表面を薄く酸化することによって封着組成物を焼結した際にガラスマトリクスと金属粉末との接合性を向上させる。同時に、Biの還元を抑制し、ガラスの安定化により封着性の低下を抑制できる。Biは還元しやすく、還元によりガラスのTgやTsなどの熱特性が変化し、また過度に金属粉末の酸化を進めてしまい焼結時のガラスの封着性を低下させる。
CeOの含有量が0.1%未満では、金属粉末の酸化皮膜形成とBiの還元に必要な酸化力が不足する。つまり、CeOの含有によって、封着組成物を安定的に生産・供給できる。CeOの含有量が8%を超えると、過度な金属粉末の酸化によりガラスの粘度が上がり、封着温度が高くなるために低温での封着が困難となる。
ZnOは、線膨張係数を下げ、かつ荷重軟化点を下げる。ZnOの含有量が35%を超えると化学的耐久性が低下するとともに、ガラス成形時の安定性が低下して失透が発生しやすい。ZnOの含有量は、4〜35%の範囲が好ましい。ZnOの含有量が4%未満ではガラス化が困難となることがある。
SiOは、ガラスの網目を形成する酸化物であり、化学的耐久性、特に耐酸性を向上させる。SiOの含有量が25%を超えると、ガラス溶融温度が高くなる、またはTsが過度に高くなる。SiOの含有量はより好ましくは20%以下である。
Alは、線膨張係数を下げ、かつガラスの安定性、化学的耐久性を高める。Alの含有量が15%を超えると、ガラスの粘性が上がり、焼結後の封着層にAlが未熔融物として残留することになる。Alの含有量は、より好ましくは6%以下である。
TiOは、ガラスの耐候性を高める。TiOの含有量が15%を超えると、ガラスの安定性が低下する。TiOの含有量は、より好ましくは6%以下である。
Feは、粘性を殆ど増大させることなく、封着時におけるガラスの結晶化を抑制して封着可能温度域を広げる効果を有する。Feの含有量が10%を超えると、ガラス化範囲が狭くなる。Feの含有量は、より好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
CuOはガラスの粘度を下げ、特に低温側での封着可能温度域を広げる。CuOの含有量が10%を超えると、ガラスの結晶の析出速度が大きくなって高温側での封着可能温度域を狭くする。CuOの含有量は、より好ましくは6%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
LiO、NaO、KO等のアルカリ金属酸化物は、Tsを低下させる。アルカリ金属酸化物の含有量が、これに分類されるLiO、NaO、KO等の金属酸化物の合計量として、10%を超えると、化学的耐久性、特に耐酸性が低下する。アルカリ金属酸化物の合計含有量は、より好ましくは5%以下である。
CaO、SrO、MgO、BaO等のアルカリ土類金属酸化物では、ガラスの安定性を高めるとともに、軟化点を低下させる。アルカリ土類金属酸化物の含有量が、これに分類されるCaO、SrO、MgO、BaO等の金属酸化物の合計量として、10%を超えると、ガラスの安定性が低下する。アルカリ土類金属酸化物の合計含有量は、より好ましくは8%以下である。
マトリックスガラス粉末は、基本的に上記成分からなることが好ましいが、本発明の趣旨に反しない限度において、上記成分以外の他の成分、例えば、AgO、MoO、Nb、Ta、Ga、Sb、WO、P、SnOx(xは1または2である)等を含有できる。
マトリックスガラス粉末は、酸化物基準のモル百分率表示で、Biを30〜50%、Bを17〜38%、CeOを0.1〜8%、ZnOを4〜35%、SiOを0〜20%、Alを0〜6%、TiOを0〜6%、CuO、Feをそれぞれ0〜1%含有するものがより好ましい。なお、基本的にこれらの成分からなることが好ましいが、これら以外の成分を含有してもよい。
マトリックスガラス粉末のより好ましい態様では、600℃以下の低温で封着でき、また化学的耐久性や耐候性の点で特に好ましい。すなわち、Biを上記含有量とすることに加えて、SiOやTiOを上記含有量とすることにより、化学的耐久性を飛躍的に向上させることができる。また、SiOおよびTiOはともに線膨張係数を下げることにも寄与する成分であるが、含有量が多くなると結晶化や分相が進みやすくなり、軟化点や転移点の熱特性が高くなる。これに対して、ZnOは熱特性の温度がSiOやTiOほど高くならずに線膨張を下げることができる。マトリックスガラス粉末のより好ましい態様は、このような各成分の特徴を勘案して調整した組成である。
また、マトリックスガラス粉末をより好ましい態様で用いることにより、例えば、封着組成物を色素増感型太陽電池に好適なものとできる。色素増感型太陽電池の集電配線被覆や封着などの製造にガラスを用いることが提案されているが、集電配線被覆や封止に用いられるガラスは電解液と接することになる。電解液は高極性の有機溶媒と、ヨウ素、金属ヨウ素化合物などの酸化還元剤成分とからなっており、一方、集電配線の材料としては一般的には銀が用いられるが、銀は電解液の酸化還元剤成分からの侵食に弱いため集電配線の絶縁被覆に用いられるガラスは集電配線の保護層として機能する必要がある。また、封着に用いられるガラスも、その目的と太陽電池に求められる耐用期間の長さとから考えて電解液に対する耐侵食性が必要とされる。さらに、より好ましい態様のマトリックスガラス粉末を用いた封着組成物によれば、耐侵食性にも優れることから、このような色素増感型太陽電池の集電配線被覆や封着などに使用できる。
より好ましい態様のマトリックスガラス粉末において、SiOを0〜12%に、Alを0〜3%に、およびTiOを0〜1%に変更すれば、さらに軟化点を下げることができる。これにより、Bi成分によるガラスの網目形成が保持され耐水性を維持した上で、封着温度が500℃以下と非常に低い温度で封着できる封着組成物が得られる。このような500℃以下の非常に低い温度で封着可能な封着組成物によれば、例えば、太陽電池やLED、LCDなどの半導体デバイスで不純物の拡散や半導体結晶中の転位など、特に熱による損傷をうけやすい物品への適用において、封着時の加熱による損傷のリスクを回避でき有利である。
マトリックスガラス粉末は、ガラス転移点(Tg)が概ね500℃以下と低く、良好な流動性を示す非晶質のガラスである。また、ガラス軟化点(Ts)は、概ね560℃以下である。TgおよびTsともに、上記範囲内で組成を調整することによって、必要に応じてより低い温度に調整することができる。マトリックスガラス粉末のTgは、300〜500℃が好ましく、さらに350〜480℃がより好ましい。また、マトリックスガラス粉末のTsは、被封着部材として一般的に使われているホウケイ酸ガラス基板のガラス転移点が525℃付近であることから、510℃以下が好ましく、特に好ましくは500℃以下である。なお、非晶質のガラスであるかどうかは、例えば、800℃まで10℃/分で昇温する示差熱分析(DTA)を行うことで確認できる。このような示差熱分析において結晶化ピークが認められないものは非晶質のガラスである。
また、マトリックスガラス粉末は、30〜300℃における線膨張係数が、概ね70×10−7/℃〜120×10−7/℃の範囲にある。また、マトリックスガラス粉末のヤング率は、残留歪みを抑制させるために低くさせることが望ましく、Bi系のガラス組成のヤング率抑制効果の観点から60〜80GPaであることが好ましい。
マトリックスガラス粉末のD50は、0.1〜100μmが好ましい。マトリックスガラス粉末のD50が0.1μm未満になると、工業的に製造しづらくまた凝集しやすくなるため、取り扱いが難しい。マトリックスガラス粉末のD50はより好ましくは0.3μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上である。一方、D50が100μmを超えると、ガラス全体での軟化が不十分になり封着が難しくなったり、封着組成物からなるペースト層を形成する際に、例えば、スクリーン印刷でスクリーン版のメッシュの目詰まりを起こして印刷性を低下させたりする問題が生じやすくなる。そのため、マトリックスガラス粉末のD50は10μm以下がより好ましく、6μm以下がさらに好ましい。
(被覆金属粉末)
被覆金属粉末は、ガラスで被覆された金属粉末からなる。被覆金属粉末中のガラスは、封着組成物の焼結時における金属粉末の融着を抑制するために設けられる。焼結時において金属粉末は液相状態にあり、融着しやすい。金属粉末が融着すると、封着組成物中の金属粉末の分散性が悪くなり、封着性が低下する。一方、金属粉末の表面をガラスで被覆すれば、焼結時における金属粉末表面の液相化が抑制されるため、金属粉末の融着を抑制できる。前記ガラスが封着組成物の加熱時に酸化剤として働くことで金属表面の酸化が促進され、金属表面の融点が上昇することが一因と考えられる。
被覆金属粉末中においてガラスの含有量は1〜20質量%が好ましい。被覆金属粉末におけるガラスの含有量は、金属粉末の表面がどの程度ガラスによって被覆されているかを表す指標となり、この値が大きいほど金属粉末の表面にガラスが多く形成されていることを表す。含有量が1質量%未満の場合、ガラスの被覆量が少なすぎるために、封着時の焼成における金属粉末の融着抑制の効果が十分でない。一方、ガラスの含有量が20質量%を超える場合、ガラスの被覆量が多すぎるために、封着時に金属自体のヤング率を引き出すことができず、また線膨張係数の調整もできない。被覆金属粉末におけるガラスの含有量は、2〜19質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
被覆金属粉末中のガラスの含有量は、ガラス組成が特定されている場合、以下のようにして求めることができる。封着組成物から任意の被覆金属粉末の粒子を抽出し、エネルギー分散型X線分析装置付き走査電子顕微鏡(SEM−EDX)により前記粒子の表面を分析して金属粉末の元素とガラス中の特定元素についての検出を行う。ガラス中の特定元素は、金属粉末に含まれずガラスにのみ含まれる元素とし、被覆金属粉末表面のSEM−EDX分析から得られる特定元素の質量から被覆金属粉末に含まれるガラスの質量を算出する。金属粉末質量と前記ガラス質量の合計量中の前記ガラス質量を被覆金属粉末におけるガラスの含有量とする。
また、被覆金属粉末は、比表面積比として算出される値が所定の範囲にあることが好ましい。ここで、本明細書において比表面積比は、比表面積比=(BET法による比表面積)/(レーザー回折法による比表面積)とする。本発明において比表面積比は、0.10<比表面積比<0.3が好ましく、0.11<比表面積比<0.25がより好ましく、0.12<比表面積比<0.20がさらに好ましい範囲である。被覆金属粉末の比表面積比が上の範囲内にあることで封着時の焼成による被覆金属粉末の融着抑制の効果が高まる。比表面積比は、被覆金属粉末の表面がどの程度荒れているかを表す指標となり、この値が大きいほど被覆金属粉末の表面が荒れていることを表す。
比表面積比が0.10以下の場合、表面が十分に荒れておらず、従来の金属粉末と大差がなく、封着時の焼成における金属粉末の融着を抑制できない。比表面積比は、被覆金属粉末の融着抑制能を向上させる観点から、大きいほどよく、0.10より大きいことが好ましいが、0.30以上は被覆金属粉末の製造に長時間を要するため好ましくない。
本発明でいう前記レーザー回折法による比表面積は、粉末の粒子を球状と仮定して次式により算出する。
(レーザー回折法による比表面積)=3/ρr
式中のρは粒子の密度で、rは粒子の粒径である。この粒子の粒径はレーザー回折法により得られる粒子の平均粒径である。一方、BET法による比表面積では、粒子への吸着量から比表面積を算出する。レーザー回折法による粒径分布と、BET法の比表面積は以下のようにして測定する。
(レーザー回折法)
封着組成物を水に加え、これを超音波発生器中で所定の超音波を数分間当てることで封着組成物の分散液を得る。この分散液を充てんした測定セルにレーザー光を入射して、その回折角から粒度分布および平均粒径を算出する。そして、この平均粒径から前述の方法により比表面積を算出する。
(BET法)
粉体の封着組成物を試料セルに入れ、BET測定装置により温度一定の条件下、窒素ガスを注入し試料セルの圧力変化に対する吸着量を測定する。得られた吸着等温線とBETの式から封着組成物表面の単分子層吸着量を算出する。この単分子層吸着量と吸着窒素ガス分子1個の占有面積から比表面積を算出する。
被覆金属粉末のD50は、0.1〜100μmが好ましく、0.5〜8μmがより好ましい。被覆金属粉末のD50が0.1μm未満になると、工業的に製造しづらく製造コストの点で不利であり、また取り扱いも困難となる。被覆金属粉末のD50が100μmを超えると、封着組成物中における被覆金属粉末の分散性が低下し、被覆金属粉末の添加効果が十分に発揮されないおそれがある。
(被覆用ガラス粉末)
被覆用ガラス粉末は、金属粉末の表面を有効に被覆でき、また封着時の焼成による金属粉末の融着を有効に抑制できるものであれば必ずしも制限されない。被覆用ガラス粉末としては、Bi、SnO、またはSiOを主成分とするものが好ましい。具体的には、酸化物基準のモル百分率表示で、Biを15〜50%、Bを15〜50%、CeOを0.1〜8%、ZnOを0〜35%、SiOを0〜25%、Alを0〜15%、TiOを0〜15%含有し、かつ、CuOの含有量、Feの含有量、アルカリ金属酸化物の合計含有量、およびアルカリ土類金属酸化物の合計含有量がそれぞれ0〜10%であるものが好ましい。なお、アルカリ金属酸化物としては、LiO、NaO、KO等が挙げられ、アルカリ土類金属酸化物としては、CaO、SrO、MgO、BaO等が挙げられる。
被覆用ガラス粉末とマトリックスガラス粉末は同一のガラス組成としてもよい。この時ガラスの被覆は、例えば、金属粉末と原料ガラス粉末との配合物に対して所定の撹拌を行うことにより被覆できる。この場合、原料ガラス粉末は、一部が被覆用ガラス粉末となり、残部が封着組成物のマトリックスガラス粉末となる。そして、被覆金属粉末の製造と同時に、被覆金属粉末とマトリックスガラス粉末とからなる封着組成物を製造できる。
また、被覆用ガラス粉末は、マトリックスガラス粉末とは異なるガラス組成としてもよい。この時、例えば、前述と同様の方法により被覆できる。ただし、この場合、封着組成物を製造するためには、被覆用ガラス粉末と組成の異なるマトリックスガラス粉末を添加する必要がある。
また、封着組成物には、本発明の趣旨に反しない限度において、被覆金属粉末、マトリックスガラス粉末以外の添加剤を含有させることができる。このような添加剤として、例えば、セラミックスフィラーである硫酸バリウム、コージェライト、ジルコン、リン酸ジルコニウム等が挙げられる。添加剤の含有量は、封着組成物に対して、添加剤の合計量で10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
[製造方法]
次に、封着組成物の製造方法について説明する。
本発明の封着組成物は、従来の金属粉末を配合した封着組成物と同様に、マトリックスガラス粉末と金属粉末とを均一に混合すればよく、例えば、クロスロータリー、Vミキサー、プラネタリーミキサー、アキシャルミキサー、ボールミル、乳鉢等の混合方法により得られる。
ここで用いられるマトリックスガラス粉末は既に説明したマトリックスガラス粉末に記載のガラス粉末が使用できる。
この製造方法におけるマトリックスガラス粉末は、所定の組成となるようにガラス原料を配合、混合し、溶融法によってガラスを製造し、得られたガラスを乾式粉砕法や湿式粉砕法によって製造できる。湿式粉砕法の場合、溶媒として水を用いることが好ましい。粉砕は、例えばロールミル、ボールミル、ジェットミル等の粉砕機を使用できる。また、粉砕後に必要に応じて分級することにより、粒径の調整ができる。
この製造方法における金属粉末は既に説明した金属粉末に記載の金属粉末が使用できる。
この製造方法で金属粉末とガラスマトリックス粉末の配合割合は、封着組成物中において、金属粉末の含有量は35〜70質量%でガラスマトリックス粉末の含有量が65〜30質量%からなることが好ましい。そして、より好ましくは、金属粉末の含有量は37〜65質量%、ガラスマトリックス粉末の含有量が63〜35質量%であり、さらに好ましくは、金属粉末の含有量は40〜60質量%、ガラスマトリックス粉末の含有量が60〜40質量%である。金属粉末を35質量%以上とすることで、金属粉末の添加効果を十分に得ることができる。また、金属粉末を70質量%以下とすることで、封着時の焼成による金属粉末の融着を抑制し、封着性の低下を抑制できる。
次に、本発明の封着組成物として、被覆金属粉末を用いる場合の2通りの製造方法について説明する。
(第1の製造方法)
第1の製造方法では、マトリックスガラス粉末と被覆用ガラス粉末のガラス組成が同一である。所定の撹拌を行うことで、被覆金属粉末を生成させると同時に、マトリックスガラス粉末と被覆金属粉末とからなる封着組成物を製造する。
第1の製造方法は、以下の工程を有することを特徴とする。
ガラス粉末と金属粉末との配合物を得る配合工程と、
前記配合物に、圧縮力、衝撃力、および剪断力から選ばれる少なくとも1種を加える撹拌により前記金属粉末の表面がガラスに被覆され、前記ガラスの含有量が被覆金属粉末中1〜20質量%である被覆金属粉末を生成する被覆工程。
第1の製造方法で用いられるガラス粉末は既に既に説明したマトリックスガラス粉末に記載のガラス粉末が使用できる。
第1の製造方法におけるガラス粉末は、所定の組成となるようにガラス原料を配合、混合し、溶融法によってガラスを製造し、得られたガラスを乾式粉砕法や湿式粉砕法によって粉砕することにより得られる。湿式粉砕法の場合、溶媒として水を用いることが好ましい。粉砕は、例えばロールミル、ボールミル、ジェットミル等の粉砕機を使用できる。また、粉砕後に必要に応じて分級することにより、粒径の調整ができる。
第1の製造方法における金属粉末としては、既に説明したような金属材料からなる金属粉末を使用できる。
第1の製造方法の配合工程では、ガラス粉末と金属粉末との配合割合は、ガラスで被覆される前の金属粉末の含有量を35〜70質量%、ガラスの総量の含有量を65〜30質量%とするのが好ましい。金属粉末を35質量%以上とすることで金属粉末の添加効果を十分に得られる。また、金属粉末を70質量%以下とすることで、封着時の焼成による金属粉末どうしの融着を抑制し、封着性の低下を防止できる。前記金属粉末の含有量を37〜65質量%、ガラスの総量の含有量を63〜35質量%とするのがより好ましく、前記金属粉末の含有量を40〜60質量%、ガラスの総量の含有量を60〜40質量%とするのがさらに好ましい。
第1の製造方法の被覆工程では、圧縮力、衝撃力、および剪断力から選ばれる少なくとも1種を加える撹拌を行うことで、金属粉末の表面をガラスで被覆するとともに、前記表面を粗面化することにより、被覆金属粉末を生成できる。また、被覆金属粉末の生成と同時に、マトリックスガラス粉末と被覆金属粉末とからなる封着組成物を製造できる。
圧縮力、衝撃力、および剪断力から選ばれる少なくとも1種を加える撹拌は、所定の被覆金属粉末が得られるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、Vミキサー、プラネタリーミキサー、アキシャルミキサー、ボールミル、自動乳鉢等を使用できる。これらのものについては、例えば、ボールミルがボールの質量により圧縮力等を加えるのに対し、自動乳鉢は乳鉢と乳棒とによって強い圧縮力等を加えることができるため、自動乳鉢を用いることが好ましい。自動乳鉢としては、例えば、乳鉢と乳棒とを少なくとも有し、乳鉢と乳棒とを別個のモーターにより逆回転させ、配合物の撹拌を行うとともに圧縮力等を加えるものが挙げられる。
自動乳鉢を用いる場合、撹拌時間は、10分以上が好ましく、30分以上がより好ましい。撹拌時間を10分以上とすることで、被覆金属粉末中のガラスの含有量を所定の範囲にできる。撹拌時間は、基本的には長いほどガラスの含有量が多くなるために好ましいが、ガラスの含有量が20質量%を超えるような過度の被覆を防ぐ観点から、撹拌時間は4時間以下が好ましい。
また、自動乳鉢を用いる場合、乳棒による加重は500g以上が好ましく、700g以上がより好ましい。乳棒による加重を500g以上とすることで、被覆金属粉末中のガラスの含有量を所定の範囲にできる。乳棒による加重は基本的には大きいほど効率的にガラスの含有量を多くできるが、通常、機器の最大荷重等から2000g以下である。
また、ボールミルを用いる場合、被覆金属粉末中のガラスの含有量を所定の範囲にできることから、撹拌時間8〜48時間が好ましく、12〜36時間がより好ましい。
以上、第1の製造方法について説明したが、ガラス粉末、金属粉末以外の添加剤を含有させる場合、配合工程または被覆工程で添加してもよいし、被覆工程後に添加してもよい。このような添加剤は、封着組成物における各粉末の合計質量に対して、添加材の含有量が10質量%以下となるように添加することが好ましく、5質量%以下となるように添加することがより好ましい。
(第2の製造方法)
第2の製造方法は、被覆用ガラス粉末とマトリックスガラス粉末のガラス組成が異なる点で第1の製造方法と相違する。第2の製造方法の場合、第1の製造方法に比べて製造工程は増えるが、被覆用ガラス粉末のガラス組成とマトリックスガラス粉末のガラス組成とを異なるものにでき、ガラス組成の自由度が高くなり好ましい。
第2の製造方法は、以下の工程を有することを特徴とする。
ガラス粉末と金属粉末との配合物を得る配合工程と、
前記配合物に、圧縮力、衝撃力、および剪断力から選ばれる少なくとも1種を加える撹拌により前記金属粉末の表面がガラスに被覆され、前記ガラスの含有量が被覆金属粉末中1〜20質量%である被覆金属粉末を生成する被覆工程と、
前記ガラス粉末とは組成の異なるガラス粉末と、前記被覆金属粉末とを混合する混合工程。
第2の製造方法では、被覆工程までは第1の製造方法と同様の原料と同様の装置を用いて被覆金属粉末を得ることができる。
第2の製造方法では、金属粉末とマトリックスガラス粉末と被覆用ガラス粉末は、封着組成物中の合計質量に対して、金属粉末の含有量を35〜70質量%、マトリックスガラス粉末と被覆用ガラス粉末の合量(以下、ガラス粉末の合量と略す)を65〜30質量%とするのが好ましい。金属粉末を35質量%以上とすることで、金属粉末の添加効果を十分に得ることができる。また、金属粉末を70質量%以下とすることで、封着時の焼成による金属粉末どうしの融着を抑制できる。そして金属粉末の含有量を37〜65質量%、ガラス粉末の合量を35〜63質量%とするのがより好ましく、金属粉末の含有量を40〜60質量%、ガラス粉末の合量を60〜40質量%とするのがさらに好ましい。なお、被覆ガラス粉末の質量1に対してマトリックスガラス粉末の含有量は2〜369とするのが好ましい。また、被覆ガラス粉末の質量1に対してマトリックスガラス粉末の含有量は3〜169とするのがより好ましく、4〜149とするのがさらに好ましい。
第2の製造方法における混合工程では、被覆用ガラス粉末とは組成の異なるマトリックスガラス粉末と前記被覆金属粉末とを用いる。第2の製造方法における混合工程に用いられる混合装置としては、特に制限されず、例えば、クロスロータリーミキサーのように、圧縮力、衝撃力、および剪断力を加えないものであってもよいし、例えば、Vミキサー、プラネタリーミキサー、アキシャルミキサー、ボールミル、自動乳鉢等のように、圧縮力、衝撃力、および剪断力から選ばれる少なくとも1種を加えるものであってもよい。
以上、第2の製造方法について説明したが、金属粉末、マトリックスガラス粉末および被覆用ガラス粉末に添加剤を含有させる場合、混合工程またはその後の工程で添加することが好ましい。このような添加剤は、封着組成物における各粉末の合計質量に対して、添加剤の含有量が10質量%以下となるように添加することが好ましく、5質量%以下となるように添加することがより好ましい。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
ここで、例2〜3が本発明の実施例であり、例1、4が本発明の比較例となるものである。なお、本発明はこれらの実施例に限定されない。
[例1〜4]
酸化物基準のモル百分率表示で、Biが44.7%、Bが20.2%、CeOが0.3%、ZnOが33.1%、Alが1.2%、Feが0.2%、CuOが0.3%のガラス組成となるようにガラス原料を調合し、これを白金ルツボに入れて1100℃に調整された熔融炉内に投入し、50分間熔融した。得られた熔融ガラスを、水冷ローラによりシート状に成形した後、これをボールミルにより粉砕した。これを目開き200メッシュの篩に通し、通過したものをガラス粉末(マトリックスガラス粉末と被覆用ガラス粉末とを兼ねるもの)とした。なお、ガラス粉末のD50を、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装社製)により測定したところ、いずれも5μmであった。
金属粉末としてSn−Bi粉末を準備した。このSn−Bi粉末のD50を、上記ガラス粉末と同様に測定したところ4μmであった。これらガラス粉末とSn−Bi粉末とを用い、両者の合計量(100質量%)に対して、ガラス粉末が59質量%、Sn−Bi粉末が41質量%となるようにそれぞれを秤量し、配合して配合物を得た。
この配合物の50gを乳鉢(大きさが直径150mm)と乳棒(大きさきさが直径35mm、長さ60mm)とを有する自動乳鉢(日陶科学社製、商品名:自動乳鉢)の乳鉢内に投入して撹拌を行って封着組成物を製造した。なお、乳棒による加重は800gとし、撹拌時間は0,1,2,4時間(それぞれ、順番に例1〜4とする)とした。
得られた封着組成物とビヒクルとを以下の方法で混合して封着組成物ペーストを作製した。ビヒクルの調製は、バインダ樹脂としてエチルセルロース(平均分子量75000)を5質量%、溶剤としてターピネオールを30質量%、およびプロピレングリコールジアセテートを65質量%となる割合で配合し、これらを60℃に加熱しながら2時間撹拌することにより行った。
封着組成物85質量%に前記ビヒクル15質量%を加えて、ロールミルで混合して封着組成物のペーストを得た。なお、ペーストの粘度をB型粘度計(Brookfield社製、商品名:HDBVII+)で測定したところ、25Pa・sであった。
得られた封着ペーストを、大きさ50mm×50mm、厚さ2mmの石英ガラス板からなる平板状基板を1枚、この平板状基板と同じサイズの石英ガラス板からなり、中心部に直径2mmの貫通孔を有する穴あき基板を1枚用意した。平板状基板の一方の主面上の外周近傍にペーストをスクリーン印刷によって外周の大きさ34mm×40mm、内周の大きさ31mm×37mmの枠形状(線幅1.5mm)に印刷し、電気炉にて420℃で40分間加熱(脱バインダ加熱)処理した。なお、ペーストは、加熱後のビヒクルが除去された封着組成物の膜厚が約50μmとなるように形成した。得られた封着組成物付きの平板状基板と穴あき基板とを封着組成物を挟むように積層し、これを電気炉にて480℃、30分間で焼結させて、4つの封着構造体を製造した。
(気密性)
例1〜4で得られた封着構造体について、ヘリウムディテクタを使ってヘリウムリーク量を測定した。すなわち、穴あき基板の開口部がヘリウムディテクタ吸入口に位置するように、かつ空気漏れがないように接着させ、ヘリウムガスを圧力0.5MPaのブロワーで測定試料へ吹きかける条件で曝して、ヘリウムリーク量(Pa・m/sec)を測定した。その後、測定試料に対して、−40℃雰囲気で30分間保持した後、85℃で30分間保持するヒートサイクルを1回とし、これを100回繰り返すヒートサイクル試験を行った後、上記同様にしてヘリウムリーク量を測定した。なお、ヘリウムリーク量は、1.0×10−9(Pa・m/sec)以下を「○」とした。結果を表1に示す。
また、封着部の染み出し、クラックの発生状況については接着面と焼結部の断面を光学顕微鏡とレーザー顕微鏡による観察により判断し、併せて表1に示した。
(金属残存率評価)
例1〜4で得られた封着構造体について、ガラス基板上で封着組成物を焼結させた。焼結体を切断、研磨して得られた断面を、光学顕微鏡(オリンパス社製、商品名:BX51)を用いて、倍率200倍で0.7mmの範囲を観察し撮影した。得られた画像を、画像解析ソフト(三谷商事社製、商品名:WinROOF)を使用し、画像内から選んだ0.1mmの範囲において、画像の明るさの違いを利用して、金属部の占める面積を特定した。そして、この0.1mmの範囲の中で金属部分が占める面積の割合を、焼結体中に含有する金属量の体積%とした。その結果を表1に示す。
Figure 0005880043
(酸化状態の変化)
なお、参考までに、例1〜4で得られた封着組成物について、600℃まで加熱における熱重量測定(TGA)をした結果について図2に示した。この試験は、大気雰囲気中で昇温速度10℃/分で行った。この結果から、自動乳鉢での撹拌時間を長くするほど、金属粉末が変形して表面積が大きくなり、酸化されやすくなっていることがわかる。
表1から明らかなように、被封着部材の封着において、焼結体中の残存金属量を所定範囲とすることによって応力緩和効果を向上させ、被封着部材が低線膨張係数の材料であっても、気密に封着できることが確認できた。

Claims (9)

  1. 線膨張係数が50×10−7/℃以下の一組の被封着部材を、金属粉末とガラス粉末とを含有する封着組成物の焼結体で封着した封着構造体であって、前記金属粉末は、ヤング率が80GPa以下である金属単体または合金からなり、前記焼結体中に含有される金属量が10体積%以上29体積%以下であることを特徴とする封着構造体。
  2. 焼結前の前記封着組成物中の金属含有量が35〜70質量%、ガラス粉末含有量が65〜30質量%である請求項1記載の封着構造体。
  3. 前記封着組成物中の金属粉末が、ガラスによって被覆された金属粉末からなる被覆金属粉末である請求項1又は2記載の封着構造体。
  4. 前記被覆金属粉末において、金属粉末の含有量が80〜99質量%でガラスの含有量が20〜1質量%である請求項3記載の封着構造体。
  5. 前記被覆金属粉末の比表面積比として算出される値が
    0.1<(BET法による比表面積)/(レーザー回折法による比表面積)<0.3
    の範囲にある請求項3または4記載の封着構造体。
  6. 前記ガラスは、化学組成としてBi、SnO、またはSiOを主成分とする請求項3乃至5のいずれか1項記載の封着組成物。
  7. 前記金属粉末は、250℃以下の融点を有する金属単体または合金からなる請求項1乃至6のいずれか1項記載の封着構造体。
  8. 前記金属粉末は、Sn単体、Snを含む合金、In単体、またはInを含む合金からなる請求項記載の封着構造体。
  9. 前記金属粉末は、Sn−Bi合金でありBi含有量が原子百分率表示で15〜70%である請求項記載の封着構造体。
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