JP5736239B2 - タイヤ - Google Patents
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Description
特許文献1では、熱可塑性樹脂エラストマー組成物の層(熱可塑性樹脂フィルム)の貯蔵弾性率よりも、ジエン系ゴム組成物の層(カーカス)の貯蔵弾性率を小さく設定するとともに、両者を接着する粘接着剤の貯蔵弾性率がその中間の値になるように設定することにより、タイヤの変形に伴う熱可塑性樹脂フィルムへの応力集中を防ぎ、熱可塑性樹脂フィルムの低温耐久性を向上させている。
そこで、本発明は、熱可塑性樹脂フィルムをインナーライナーとして使用したタイヤであって、低温環境におけるインナーライナーの破断やクラックに対する耐性を向上することが可能なタイヤの提供を目的とする。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
[1]リムに当接する一対のビード部と、該ビード部に連なり互いに対峙する一対のサイドウォール部と、路面に接地するトレッド部と、該トレッド部の幅方向外側のトレッド端からタイヤ径方向の内側に向けて延び該サイドウォール部に連なるタイヤショルダー部と、
該一対のビード部の間で馬蹄形に形成されるとともに該トレッド部の該路面とは反対側に配置されるカーカスと、
前記カーカスと前記トレッド部との間に配置されるベルト層と、
該カーカスの該路面とは反対側に配置されるとともに熱可塑性樹脂フィルムを有するインナーライナーと、
を有するタイヤであって、
該カーカスと該インナーライナーとの間に配置されるゴム層を有し、
該ゴム層の−20℃における動的貯蔵弾性率E’が1.0×105〜1.0×107Paであるとともに、前記ゴム層の厚みが0.1〜1mmであり、
該ゴム層が、
該トレッド部のトレッド幅方向における中央領域を除く領域であって、
該ベルト層のトレッド幅方向における最も外側に位置するベルト端部に対応するカーカスの一部である第1部分と、該サイドウォール部において該カーカスの対峙する間隔が最大になる第2部分との間の領域を含む領域に配置されることを特徴とするタイヤ。
<タイヤの構造>
以下、本発明の実施形態に係るタイヤの構造について詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態として示すタイヤのトレッド幅方向及びタイヤ径方向の断面図である。図2は、図1の領域Iを拡大した拡大断面図である。
なお、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一または類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
ゴム層17の−20℃における動的貯蔵弾性率E2’は、1.0×105〜1.0×107Paであるとともに、ゴム層17の厚みは、0.1〜1mmである。ゴム層17の詳細は、後述する。
実施形態において、弾性率とは、上島製作所(株)製スペクトロメータを用い、初期歪み10%、動歪0.1%、周波数15Hz、−20℃の条件で測定した動的貯蔵弾性率(E')である。
カーカス15は、ベルト層18のトレッド幅方向における最も外側に位置するベルト端部181に対応する第1部分C1と、サイドウォール部3において該カーカス15の対峙する間隔CWが最大になる第2部分C2とを有する。
タイヤ1において、インナーライナー16は、タイヤ内面の全面に亘って配置されている。これに対して、ゴム層17は、図1に示すように、トレッド部4のトレッド幅方向における中央領域Aを除く領域であって、第1部分C1と、第2部分C2との間の領域を含む領域に配置される。ゴム層17が配置される領域は、タイヤショルダー部5を含む。
除かれる領域とは、タイヤ径方向及びトレッド幅方向の断面視において、ベルト層18のベルト端部181間の長さ(図1におけるTW)の70〜80%に相当する領域をいう。本実施形態に係るタイヤ1では、この領域にゴム層17は配置されない。
ゴム層17の延在範囲を上述のように設定することにより、インナーライナー16を補強する効果を維持しつつ、ゴム層17によるタイヤ1の全重量の増加を抑えることができる。
カーカス15は、1枚又は2枚以上のカーカスプライよりなっており、カーカスプライは、ポリエステルなどの繊維がコーティングゴムに包まれたものである。
このコーティングゴムの材料には特に制限はなく、例えばジエン系ゴムが用いられる。このジエン系ゴムとしては、具体的には、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、シス−1,4−ポリブタジエンゴム(BR)、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエンゴム(1,2BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)等が挙げられる。これらジエン系ゴムは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
コーティングゴムには、上記ゴム成分の他に、ゴム業界で通常使用される配合剤、例えば、補強性充填材、軟化剤、老化防止剤、加硫剤、ゴム用加硫促進剤、スコーチ防止剤、亜鉛華、ステアリン酸等を目的に応じて適宜配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
インナーライナー16は、熱可塑性樹脂フィルムを有する。本実施形態では、インナーライナー16は、熱可塑性樹脂フィルムを含む複数の樹脂層から形成された多層構造体であってもよい。本実施形態において、熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂組成物からなるA層を構成する。
熱可塑性樹脂フィルムの−20℃における動的貯蔵弾性率E1’は、好ましくは1×108〜1×109Paであり、より好ましくは2×108〜8×108Paであり、更に好ましくは4×108〜6×108Paである。1×108Pa以上であると、気体透過性の低い熱可塑性樹脂フィルムを用いることができ、ガスバリア性を向上させることができる点で好ましい。
実施形態に係るタイヤにおけるインナーライナー16の構成としては、次のものが挙げられる。すなわち、熱可塑性樹脂フィルム(A層)の単層よりなっていてもよく、熱可塑性樹脂フィルム(A層)の2層以上の多層よりなっていてもよい。また、熱可塑性樹脂フィルム(A層)と他の層(B層)とを含む2層以上の多層よりなっていてもよい。他の層(B層)としては、延性の高いエラストマーを含む樹脂組成物からなる層であることが好ましい。これにより、熱可塑性樹脂フィルム(A層)の延性が低い場合でも、インナーライナー16の全体的な延性を高めることができる。
また、インナーライナー16の全体の厚さは、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.5μm以上750μm以下がより好ましく、1μm以上500μm以下がさらに好ましい。
以下、インナーライナー16が多層構造体である場合の層構造、熱可塑性樹脂フィルム(A層)、エラストマーを含む樹脂組成物からなる層(B層)、A層とB層との関係、及び多層構造体の製造方法について説明する。
本実施形態において、インナーライナー16を構成する多層構造体は、熱可塑性樹脂フィルム(A層)とエラストマーを含む樹脂組成物からなる層(B層)とを合計2層以上備えていることが好ましい。一例として、多層構造体において、A層は、ガス透過性の低い層であり、B層は、延性の高い層とすることができる。多層構造体をこのように構成した場合には、インナーライナー16のガス透過性を低下させるとともに、インナーライナー16の低温環境におけるクラックに対する耐性(耐クラック性という)及び屈曲によって生じる損傷等に対する耐性(耐屈曲性)を向上させることができる。ガス透過性が低いことを低ガス透過性、或いはガスバリア性という場合もある。
(1)A,B,A,B・・・A,B(つまり、(AB)n)
(2)A,B,A,B・・・・・A(つまり、(AB)nA)
(3)B,A,B,A・・・・・B(つまり、(BA)nB)
(4)A,A,B,B・・・B,B(つまり、(AABB)n)
等の積層順を採用することができる。また、その他のC層を有する場合、例えば、
(5)A,B,C・・・A,B,C(つまり、(ABC)n)
等の積層順を採用することができる。ただし、nは、1以上の整数である。
熱可塑性樹脂フィルム(A層)は、熱可塑性樹脂(A1)からなるマトリクス中に、−20℃における動的貯蔵弾性率E’が熱可塑性樹脂(A1)よりも低い柔軟樹脂(A2)を分散させた樹脂組成物(A3)からなる層を少なくとも含むことを要する。
ここで、熱可塑性樹脂(A1)としては、−20℃における動的貯蔵弾性率E’が1×108Paを超えることが好ましく、具体的には、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリエステル系樹脂、熱可塑性ウレタン系エラストマー、エチレン−ビニルアルコール共重合体系樹脂等が挙げられ、これらの中でもエチレン−ビニルアルコール共重合体系樹脂が好ましい。かかるエチレン−ビニルアルコール共重合体系樹脂は、酸素の透過量が低く、低ガス透過性が非常に良好である。なお、これら熟可塑性樹脂(A1)は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
インナーライナー16が多層構造体である場合には、耐水性及びゴムに対する密着性の観点から、更にエラストマーを含む樹脂組成物からなる層(B層)を一層以上含むことが好ましい。このエラストマーとしては、溶融成形のためには熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。
上記多層構造体における、A層とB層との剥離抗力としては、180℃で15分間加熱後に、JIS−K6854に準拠し、23℃、50%RH雰囲気下、引張り速度50mm/分での測定において、好ましくは25N/25mm以上、より好ましくは27N/25mm以上、さらに好ましくは30N/25mm以上、特に好ましくは50N/25mm以上である。このように、A層とB層とは、非常に優れた層間接着性を有している。
上記多層構造体の製造方法は、A層とB層とが良好に積層・接着される方法であれば特に限定されるものではなく、例えば共押出し、はり合わせ、コーティング、ボンディング、付着などの公知の方法を採用することができる。当該多層構造体の製造方法としては、具体的には(1)A層形成用の樹脂組成物とB層形成用の樹脂組成物とを用い、多層共押出法によりA層及びB層を有する多層構造体を製造する方法や、(2)A層形成用の樹脂組成物とB層形成用の樹脂組成物とを用い、接着剤を介して複数の積層体を重ね合わせ、延伸することでA層及びB層を有する多層構造体を製造する方法などが例示される。この中でも、生産性が高く、層間接着性に優れる観点から、(1)のA層形成用の樹脂組成物とB層形成用の樹脂組成物とを用いた多層共押出法により成形する方法が好ましい。
電子線を照射する場合、電子線源として、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用い、通常加速電圧100〜500kVで、照射線量5〜600kGyの範囲で照射するのがよい。
また、活性エネルギー線として紫外線を用いる場合には、波長190〜380nmの紫外線を含むものを照射するのがよい。紫外線源としては、特に制限はなく、例えば高圧水銀燈、低圧水銀燈、メタルハライドランプ、カーボンアーク燈などが用いられる。
《ゴム層の構造》
本実施形態に係るタイヤにおいて、ゴム層17を構成するゴム成分に特に制限はなく、例えば、ジエン系ゴムが用いられる。このジエン系ゴムとしては、具体的には、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、シス−1,4−ポリブタジエンゴム(BR)、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエンゴム(1,2BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)等が挙げられる。これらジエン系ゴムは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
コーティングゴムには、上記ゴム成分の他に、ゴム業界で通常使用される配合剤、例えば、補強性充填材、軟化剤、老化防止剤、加硫剤、ゴム用加硫促進剤、スコーチ防止剤、亜鉛華、ステアリン酸等を目的に応じて適宜配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
ゴム層17の−20℃における動的貯蔵弾性率E2’は、1.0×105〜1.0×106Paであることが好ましく、1.0×105Pa〜5.0×105Paであることがより好ましい。動的貯蔵弾性率E2’が1.0×105Pa以上であると、練ゴムの作業性を十分に確保することができる。また、強度を損なうことなく、ゴム層17の厚みを0.1〜1mmの範囲まで薄くすることができる。動的貯蔵弾性率E2’が1.0×107Pa以下であると、カーカスの変形を緩和することができ、熱可塑性樹脂フィルムの変形を抑制し低温環境における耐クラック性が向上する。
また、ゴム層17の厚みは、0.1〜0.6mmであることが好ましく、0.1〜0.4mmであることがより好ましい。ゴム層17の厚さが上記範囲にあると、−20℃において、カーカス15に対する追従性を保ちつつ、インナーライナー16を構成する熱可塑性樹脂フィルムに発生する応力を緩和し、熱可塑性樹脂フィルムの破断及びクラックの発生を抑制できる。また、熱可塑性樹脂フィルムの破断及びクラックが発生しても破断及びクラックの進展を抑制できる。
ゴム層17には、軟化剤が配合されている。軟化剤としては、鉱物油系軟化剤、植物油系軟化剤、及び合成軟化剤のいずれを使用することもできる。鉱物油系軟化剤には、石油系軟化剤とコールタール系軟化剤とがある。石油系軟化剤として、プロセス油、エクステンダー油、アスファルト系、パラフィン類、流動パラフィン、ワセリン、石油樹脂が挙げられる。コールタール系軟化剤として、コールタール、クマロンインデン樹脂が挙げられる。
植物油系軟化剤として、大豆油、パーム油、パイン油、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油、トール油などの脂肪油系軟化剤、ファクチス、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリンなどのワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸などの脂肪酸が挙げられる。
合成軟化剤として、合成樹脂軟化剤、液状ゴム又はオリゴマー、低分子可塑剤、高分子可塑剤、反応性可塑剤が挙げられる。
合成樹脂軟化剤として、例えば、フェノールアルデヒド樹脂、スチレン樹脂、アタクチックポリプロピレン等が挙げられる。液状ゴム又はオリゴマーとして、例えば、ポリブテン、液状ブタジエンゴム、液状イソプレンゴム、液状アクリロニトリルブタジエンゴム等が挙げられる。低分子可塑剤として、例えば、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、トリクレジルホスフェート等が挙げられる。
また、上述した軟化剤は、ゴム層17を構成するゴム成分100質量部に対して5〜50質量部含まれることが好ましく、5〜40質量部含まれることがより好ましく。5〜30質量部含まれることが更に好ましい。
ゴム成分に対する配合量を上記範囲とすることにより、ゴム層17の、−20℃における動的貯蔵弾性率E’を1.0×105〜1.0×107Paとすることができる。軟化剤は、上述した軟化剤から選択される一つを用いることもできるし、複数を組み合わせて用いることもできる。
ゴム層17には、加硫剤、加硫促進剤が含有されていてもよい。上記加硫剤として、硫黄等が挙げられる。加硫剤として硫黄を使用する場合、その使用量は、全ゴム成分100質量部に対し、硫黄分として0.1〜10.0質量部が好ましく、さらに好ましくは1.0〜5.0質量部である。
本実施形態において使用可能な加硫促進剤は、特に限定されないが、例えば、M(2−メルカプトベンゾチアゾール)、DM(ジベンゾチアゾリルジスルフィド)、CZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)等のチアゾール系、あるいはDPG(ジフェニルグアニジン)等のグアニジン系の加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤の使用量は、ゴム成分100質量部に対し、0.1〜5.0質量部が好ましく、さらに好ましくは0.2〜3.0質量部である。
充填材としては、無機フィラー及び/又はカーボンブラックが用いられる。無機フィラーとしては特に制限はないが、例えば湿式法によるシリカ、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、モンモリロナイト、マイカ、スメクタイト、有機化モンモリロナイト、有機化マイカ及び有機化スメクタイトなどを好ましく挙げることができる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
一方、カーボンブラックとしては、従来ゴムの補強用充填材などとして慣用されているものの中から任意のものを適宣選択して用いることができ、例えばFEF、SRF、HAF、ISAF、SAF、GPFなどが挙げられる。
この充填材の含有量は、ゴム成分100質量部当たり、タック性及び剥離抗力などの点から、カーボンブラックと共に、無機フィラー5質量部以上含むことが好ましい。
ゴム層17に粘着性を付与する機能をもつ粘着付与樹脂としては、例えばフェノール系樹脂、テルペン系樹脂、変性テルペン系樹脂、水添テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、C5、C9石油樹脂、キシレン樹脂、クマロン−インデン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、スチレン系樹脂などが挙げられるが、これらの中で、フェノール系樹脂、テルペン系樹脂、変性テルペン系樹脂、水添テルペン樹脂及びロジン系樹脂が好適である。
フェノール系樹脂としては、例えばp−t−ブチルフェノールとアセチレンを触媒の存在下で縮合させた樹脂、アルキルフェノールとホルムアルデヒドとの縮合物などを挙げることができる。また、テルペン系樹脂、変性テルペン系樹脂、水添テルペン系樹脂としては、例えばβ−ピネン樹脂やα−ピネン樹脂などのテルペン系樹脂、これらを水素添加してなる水添テルペン系樹脂、テルペンとフェノールをフリーデルクラフト型触媒で反応させたり、あるいはホルムアルデヒドと縮合させた変性テルペン系樹脂を挙げることができる。ロジン系樹脂としては、例えば天然樹脂ロジン、それを水素添加、不均化、二量化、エステル化、ライム化などで変性したロジン誘導体などを挙げることができる。
これらの樹脂は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、特にフェノール系樹脂が好ましい。
この粘着付与樹脂は、ゴム成分100質量部に対し、5質量部以上用いることが好ましく、より好ましくは5〜40質量部、さらに好ましくは5〜30質量部の割合で用いられる。
本実施形態において、接着層31を構成する樹脂としては、インナーライナー16とゴム層17とを接着できる接着性樹脂であれば、特に限定されることはない。例えば、ポリウレタン系、ポリエステル系の一液型硬化性接着剤、又は二液型硬化性接着剤が挙げられる。
本発明の実施形態に係るタイヤ1において、インナーライナー16を構成する熱可塑性樹脂フィルムの動的貯蔵弾性率をE1’、ゴム層17の動的貯蔵弾性率をE2’、接着層31の−20℃における動的貯蔵弾性率をE4’とすると、下記の関係を有することが好ましい。
E1’>E4’>E2’
このような関係を有することにより、隣接部材同士(すなわち、インナーライナー16(熱可塑性樹脂フィルム)と接着層31、接着層31とゴム層17の低温における動的貯蔵弾性率の差が小さくなる。この結果、低温において、タイヤの屈曲などのタイヤ形状の変化に対する追従性がよく、特に、熱可塑性樹脂フィルムの耐クラック性を向上させることができる。
<製造方法の概略>
本発明の実施形態に係るタイヤ1の製造方法について説明する。タイヤ1の製造方法では、タイヤ成形用ドラム上において、予め接着層31を配置したインナーライナー16を、インナーライナー16が成型ドラム側になるように配置する。その上に、順次、ゴム層17,カーカス15,このほか通常タイヤ製造に用いられる部材が重ねられ、互いに貼り合わされる。これにより、グリーンタイヤが形成される。
次いで、このグリーンタイヤを、通常120℃以上、好ましくは125〜200℃、より好ましくは130〜180℃の温度で加熱・加硫することにより、タイヤ1が製造できる。
後述する製造例に従ってインナーライナーとして用いる熱可塑性樹脂フィルムを製造した。また、製造した熱可塑性樹脂フィルムをインナーライナーとして用いてタイヤを製造し、下記の方法により、各タイヤの低温における耐性を評価した。
<低温における耐性評価>
タイヤの低温(−20℃)における耐性は、以下のように評価した。すなわち、後述の製造例に従って製造したタイヤをJATMAに規定される標準リムに装着し、JATMAで規定される正規内圧及び正規荷重のもとでドラム走行試験を行った。
−20℃の雰囲気下、空気圧140kPaで80km/hの速度に相当する回転数のドラム上に荷重6kNで押し付けて、1,000km走行を実施した。
−20℃の温度条件下において、1,000km走行した後、インナーライナーを目視観察(光学顕微鏡観察)し、破断、クラック等の欠陥の有無を調べた。
タイヤ側面部を10cm×10cmの大きさに切り取り、20℃−65%RHで5日間調湿し、調湿済みのタイヤ側面部の切片のサンプルを2枚使用して、モダンコントロール社製「MOCON OX−TRAN2/20型」を用い、20℃−65%RH条件下でJIS−K7126−2:2006(等圧法)に記載の方法に準じて、酸素透過速度を測定し、その平均値(単位:mL/m2・day・atm)を求めた。比較例4の多層構造体のサンプルの酸素透過速度の平均値を100として指数表示している。指数値が低いほど、ガスバリア性に優れることを意味する。
後述する実施例及び比較例のタイヤの重量を測定した。比較例3の重量を100とする指数により表示している。指数値が低いほど、タイヤの重量が小さいことを意味する。
実施例で用いるエチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量及びケン化度は、重水素化ジメチルスルホキシドを溶媒とした1H−NMR測定[日本電子社製「JNM−GX−500型」を使用]で得られたスペクトルから算出した。また、エチレン−ビニルアルコール共重合体のメルトフローレート(MFR)は、メルトインデクサーL244[宝工業株式会社製]の内径9.55mm、長さ162mmのシリンダにサンプルを充填し、190℃で溶融した後、重さ2160g、直径9.48mmのプランジャーを使用して均等に荷重をかけ、シリンダの中央に設けた径2.1mmのオリフィスより単位時間あたりに押出される樹脂量(g/10分)から求めた。但し、エチレン−ビニルアルコール共重合体の融点が190℃付近あるいは190℃を超える場合は、2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿して算出した値をメルトフローレート(MFR)とした。
エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)[(株)クラレ製「E105」]と、熱可塑性ポリウレタン(TPU)[(株)クラレ製「クラミロン3190」]とを使用し、押出装置を用いて、共押出により3層構造を有する熱可塑性樹脂フィルムの積層体(TPU層/EVOH層/TPU層/EVOH層/TPU層)を作製した。共押出の成形条件は、下記のとおりである。なお、各層の厚みは、TPU層(C1)2μm、EVOH層(C2)20μm、TPU層(C3)2μm、EVOH層(C4)20μm、TPU層(C5)10μmである。
各樹脂の押出機仕様
熱可塑性ポリウレタン:25mmφ押出機「P25−18AC」[大阪精機工作株式会社製]
EVOH :20mmφ押出機ラボ機ME型「CO−EXT」[株式会社東洋精機製]
Tダイ仕様 :500mm幅2種3層用[株式会社プラスチック工学研究所製]
冷却ロールの温度 :50℃
引き取り速度 :4m/分
エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)[(株)クラレ製「E105」]と、熱可塑性ポリウレタン(TPU)[(株)クラレ製「クラミロン3190」]とを使用し、押出装置を用いて、共押出により、両端をTPU層としTPU層とEVOH層とが交互に繰り返される21層構造を有する熱可塑性樹脂フィルムの積層体(TPU層/EVOH層/TPU層/…EVOH層/TPU層)を作製した。共押出の成形条件は、下記のとおりである。なお、TPU層の厚みは、2μm、EVOH層の厚みは、1μmである。
各樹脂の押出機仕様
熱可塑性ポリウレタン:25mmφ押出機「P25−18AC」[大阪精機工作株式会社製]
EVOH :20mmφ押出機ラボ機ME型「CO−EXT」[株式会社東洋精機製]
Tダイ仕様 :500mm幅2種7層用[株式会社プラスチック工学研究所製]
冷却ロールの温度 :50℃
引き取り速度 :4m/分
また、インナーライナーの−20℃における動的貯蔵弾性率を測定したところ、動的貯蔵弾性率は、5.9×108であった。
《製造例1》
下記の配合に基づいてゴム層aを得た。
天然ゴム…50質量部
SBR[JSR(株)製,SBR1712]…68.75質量部
GPF N−660(カーボンブラック)[旭カーボン(株)製,50S]…43質量部
軟化剤[TOP、大八化学工業(株)製]…50質量部
老化防止剤[Nocrac224−S、大内新興化学工業(株)製]…1.5質量部
ステアリン酸[旭電化工業(株)製]…1.5質量部
加硫促進剤[Accel M、川口化学工業(株)製]…0.5質量部
加硫促進剤[Accel CZ、川口化学工業(株)製]…1質量部
酸化亜鉛[ハイテック社 製]…4質量部
硫黄[軽井沢精錬所製]…2.66質量部
また、上記のゴム層aについて、上記測定方法にて−20℃における動的貯蔵弾性率を測定したところ、動的貯蔵弾性率は、2×105であった。
下記の配合に基づいてゴム層bを得た。
天然ゴム…50質量部
SBR[JSR(株)製,SBR1712]…68.75質量部
GPF N−660(カーボンブラック)[旭カーボン(株)製,50S]…43質量部
軟化剤[TOP、大八化学工業(株)製]…25質量部
老化防止剤[Nocrac224−S、大内新興化学工業(株)製]…1.5質量部
ステアリン酸[旭電化工業(株)製]…1.5質量部
加硫促進剤[Accel M、川口化学工業(株)製]…0.5質量部
加硫促進剤[Accel CZ、川口化学工業(株)製]…1質量部
酸化亜鉛[ハイテック社 製]…4質量部
硫黄[軽井沢精錬所製]…2.66質量部
また、上記のゴム層bについて、上記測定方法にて−20℃における動的貯蔵弾性率を測定したところ、動的貯蔵弾性率は、2×106であった。
下記の配合に基づいてゴム層cを得た。
天然ゴム…50質量部
SBR[JSR(株)製,SBR1712]…68.75質量部
GPF N−660(カーボンブラック)[旭カーボン(株)製,50S]…43質量部
軟化剤[TOP、大八化学工業(株)製]…10質量部
老化防止剤[Nocrac224−S、大内新興化学工業(株)製]…1.5質量部
ステアリン酸[旭電化工業(株)製]…1.5質量部
加硫促進剤[Accel M、川口化学工業(株)製]…0.5質量部
加硫促進剤[Accel CZ、川口化学工業(株)製]…1質量部
酸化亜鉛[ハイテック社 製]…4質量部
硫黄[軽井沢精錬所製]…2.66質量部
また、上記のゴム層cについて、上記測定方法にて−20℃における動的貯蔵弾性率を測定したところ、動的貯蔵弾性率は、9×106であった。
下記の配合に基づいてゴム層dを得た。
天然ゴム…30質量部
SBR[JSR(株)製,SBR1712]…80質量部
GPF N−660(カーボンブラック)[旭カーボン(株)製,50S]…43質量部
軟化剤[TOP、大八化学工業(株)製]…3質量部
老化防止剤[Nocrac224−S、大内新興化学工業(株)製]…1.5質量部
ステアリン酸[旭電化工業(株)製]…1.5質量部
加硫促進剤[Accel M、川口化学工業(株)製]…0.5質量部
加硫促進剤[Accel CZ、川口化学工業(株)製]…1質量部
酸化亜鉛[ハイテック社 製]…4質量部
硫黄[軽井沢精錬所製]…2.66質量部
また、上記のゴム層dについて、上記測定方法にて−20℃における動的貯蔵弾性率を測定したところ、動的貯蔵弾性率は、4×107であった。
《実施例1》
5層構造を有する熱可塑性樹脂フィルムの積層体をインナーライナーとして用いた。
製造例1によって作製されたゴム層aと、上記インナーライナーと、上記カーカスとを用いて常法によりタイヤAを製造した。なお、ゴム層aと、上記インナーライナーとを接着する接着層として、エポキシ化天然ゴム(ENR)を用いた。ENRは、ENR25:エポキシ化天然ゴム(商品名:ENR25、RRIM社製、エポキシ化度(エポキシ化率)25%)を75質量部、ENR50:エポキシ化天然ゴム(商品名:ENR50、RRIM社製、エポキシ化度(エポキシ化率)50%)を25質量部配合したものを使用した。
実施例1〜6、比較例1〜4において、トレッド部のトレッド幅方向における中央領域を除く領域であって、トレッド端に対応するカーカスの一部である第1部分と、該サイドウォール部において該カーカスの対峙する間隔が最大になる第2部分との間の領域を含む領域であって、ゴム層の延在範囲が、タイヤ径方向及びトレッド幅方向の断面視において、インナーライナーの延在範囲の70%になるように、ゴム層を配置した。
5層構造を有する熱可塑性樹脂フィルムの積層体をインナーライナーとして用いた。製造例2によって作製されたゴム層bと、上記インナーライナーと、上記カーカスとを用いて常法によりタイヤBを製造した。ゴム層bとインナーライナーとを接着する接着層は、実施例1と同一のものを使用した。
5層構造を有する熱可塑性樹脂フィルムの積層体をインナーライナーとして用いた。製造例3によって作製されたゴム層cと、上記インナーライナーと、上記カーカスとを用いて常法によりタイヤCを製造した。ゴム層cとインナーライナーとを接着する接着層は、実施例1と同一のものを使用した。
21層構造を有する熱可塑性樹脂フィルムの積層体をインナーライナーとして用いた。製造例1によって作製されたゴム層aと、上記インナーライナーと、上記カーカスとを用いて常法によりタイヤDを製造した。ゴム層aとインナーライナーとを接着する接着層は、実施例1と同一のものを使用した。
21層構造を有する熱可塑性樹脂フィルムの積層体をインナーライナーとして用いた。製造例2によって作製されたゴム層bと、上記インナーライナーと、上記カーカスとを用いて常法によりタイヤEを製造した。ゴム層bとインナーライナーとを接着する接着層は、実施例1と同一のものを使用した
21層構造を有する熱可塑性樹脂フィルムの積層体をインナーライナーとして用いた。製造例3によって作製されたゴム層cと、上記インナーライナーと、上記カーカスとを用いて常法によりタイヤFを製造した。ゴム層cとインナーライナーとを接着する接着層は、実施例1と同一のものを使用した。
5層構造を有する熱可塑性樹脂フィルムの積層体をインナーライナーとして用いた。比較製造例1によって作製されたゴム層dと、上記インナーライナーと、上記カーカスとを用いて常法によりタイヤGを製造した。ゴム層dとインナーライナーとを接着する接着層は、実施例1と同一のものを使用した。
21層構造を有する熱可塑性樹脂フィルムの積層体をインナーライナーとして用いた。比較製造例1によって作製されたゴム層dと、上記インナーライナーと、上記カーカスとを用いて常法によりタイヤHを製造した。ゴム層dとインナーライナーとを接着する接着層は、実施例1と同一のものを使用した。
通常のブチルゴムからなるインナーライナーを用いた。製造例2によって作製されたゴム層bと、通常のインナーライナーと、上記カーカスとを用いて常法によりタイヤIを製造した。ゴム層bとブチルゴムインナーライナーとを接着する接着層は、実施例1と同一のものを使用した。
5層構造を有する熱可塑性樹脂フィルムの積層体をインナーライナーとして用いた。上記インナーライナーと、上記カーカスとを用いて常法によりタイヤJを製造した。すなわち、比較例4では、ゴム層を用いなかった。
結果を表1に示す。
続いて、実施例1のタイヤAに適用したゴム層aの延在範囲を変えて、上述した方法により、タイヤ重量と、亀裂の有無、ガスバリア性を測定した。
《実施例7》
タイヤ径方向及びトレッド幅方向の断面視において、ゴム層の延在範囲がインナーライナーの延在範囲の60%になるように、タイヤAに適用したゴム層aを配置した。
《実施例8》
タイヤ径方向及びトレッド幅方向の断面視において、ゴム層の延在範囲がインナーライナーの延在範囲の50%になるように、タイヤAに適用したゴム層aを配置した。
《実施例9》
タイヤ径方向及びトレッド幅方向の断面視において、ゴム層の延在範囲がインナーライナーの延在範囲の40%になるように、タイヤAに適用したゴム層aを配置した。
《実施例10》
タイヤ径方向及びトレッド幅方向の断面視において、ゴム層の延在範囲がインナーライナーの延在範囲の30%になるように、タイヤAに適用したゴム層aを配置した。
《比較例5》
タイヤ径方向及びトレッド幅方向の断面視において、ゴム層の延在範囲がインナーライナーの延在範囲の20%になるように、タイヤAに適用したゴム層aを配置した。
《比較例6》
タイヤ径方向及びトレッド幅方向の断面視において、ゴム層の延在範囲がインナーライナーの延在範囲の10%になるように、タイヤAに適用したゴム層aを配置した。
《比較例7》
タイヤ径方向及びトレッド幅方向の断面視において、ゴム層の延在範囲がインナーライナーの延在範囲の80%になるように、タイヤAに適用したゴム層aを配置した。
《比較例8》
タイヤ径方向及びトレッド幅方向の断面視において、ゴム層の延在範囲がインナーライナーの延在範囲の90%になるように、タイヤAに適用したゴム層aを配置した。
Claims (6)
- リムに当接する一対のビード部と、該ビード部に連なり互いに対峙する一対のサイドウォール部と、路面に接地するトレッド部と、該トレッド部の幅方向外側のトレッド端からタイヤ径方向の内側に向けて延び該サイドウォール部に連なるタイヤショルダー部と、
該一対のビード部の間で馬蹄形に形成されるとともに該トレッド部の該路面とは反対側に配置されるカーカスと、
前記カーカスと前記トレッド部との間に配置されるベルト層と、
該カーカスの該路面とは反対側に配置されるとともに熱可塑性樹脂フィルムのみからなるインナーライナーと、
を有するタイヤであって、
該カーカスと該インナーライナーとの間に配置されるゴム層を有し、
該ゴム層の−20℃における動的貯蔵弾性率E’が1.0×105〜1.0×107Paであるとともに、前記ゴム層の厚みが0.1〜1mmであり、
該ゴム層が、
該トレッド部のトレッド幅方向における中央領域を除く領域であって、
該ベルト層のトレッド幅方向における最も外側に位置するベルト端部に対応するカーカスの一部である第1部分と、該サイドウォール部において該カーカスの対峙する間隔が最大になる第2部分との間の領域を含む領域に配置されており、
タイヤ径方向及びトレッド幅方向の断面視において、該ゴム層の延在範囲は、該インナーライナーの延在範囲の30%以上70%以下であるタイヤ。 - 前記タイヤのタイヤ径方向及びトレッド幅方向の断面視において、前記ゴム層の延在範囲は、前記インナーライナーの延在範囲の50%以下である請求項1に記載のタイヤ。
- 前記ゴム層が、天然ゴム及びスチレン−ブタジエン共重合体ゴムからなる請求項1又は2に記載のタイヤ。
- 前記ゴム層には、ゴム成分100質量部に対して軟化剤5〜40質量部が含まれる請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤ。
- 前記インナーライナーは、
熱可塑性樹脂からなるA層と、
該A層に隣接し、エラストマーを含む樹脂組成物からなるB層と
を含み、
上記A層の一層の平均厚みが0.001μm以上10μm以下であり、上記B層の一層の平均厚みが0.001μm以上40μm以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載のタイヤ。 - 前記インナーライナーは、
前記A層と前記B層とを含む複数の樹脂層が7層以上積層された多層構造体である請求項5に記載のタイヤ。
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