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JP5730083B2 - 信号処理装置、探査装置、信号処理プログラム、及び信号処理方法 - Google Patents

信号処理装置、探査装置、信号処理プログラム、及び信号処理方法 Download PDF

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Description

本発明は、主として、マルチビームソナーにおいて受信信号を処理して目標を検出するための構成に関する。
近年、大陸棚調査や港湾水路調査において、ソナーを使用した海底地形探査が重要性を増している。海底地形探査ではPPIソナーやマルチビームソナーが用いられてきたが、その探知アルゴリズムに関しては、魚群やその他の目標物探知とは異なるアルゴリズムが用いられる。これは、海底からの音響エコーは連続エコーであるから、単体反響物からのパルスエコーとは異なった対応が必要な為である。
図7(a)に、扇形の送信ビーム99が海中を進む様子を二点鎖線で示す。即ち、送信ビーム99は、時刻1では海底101の地点1でエコーを発生させ、次の時刻2では海底101の地点2でエコーを発生させ、次の時刻3では海底101の地点3でエコーを発生させる。このように、海底101で次々と発生したエコーが受信素子100に受信されるので、海底101からのエコーは連続エコーとなる。
最も基本的な海底検出アルゴリズムは、海底からのエコーを複数の受信素子で受信し、各受信素子の出力信号を整相して合成することにより単一の受信ビームを形成して(いわゆるビームフォーミング法)、音軸方向(受信ビームのメインローブが向く方向)からのエコーの振幅ピークを検出するものである。海底101からのエコーは連続エコーであるから、当該海底101からのエコーを受信ビームのメインローブで受信すると、例えば図7(b)に示すように時間軸方向で拡がった信号として検出される。
ピーク位置の検出法としては最大値法や重心法などがあるが、海底からのエコーのように時間軸方向に拡がった信号ではピーク位置の検出が不安定になり、海底の位置を正確に検出できない場合があるという問題がある。また、振幅ピークの検出は、各種ゲート論理・スレッショルド論理と組み合わされ使用されるが、残響やノイズの影響、特に図7(b)に示すようなサイドローブの影響を受ける。この結果、検出確率・検出精度が悪化するという問題がある。
一方、等しい指向性を持つ2つの受信ビームを形成し、受信ビーム間の位相差の情報を用いて海底位置を推定する方法がスプリットビーム法である。図8(a)には、2つの受信ビームを概念的に2つの受信素子102,103で描いている。例えば図8(a)の場合、受信ビームの音軸上から外れた地点1,地点3からのエコーは、2つの受信ビームに位相差を与える。一方、受信ビーム音軸上の地点2からのエコーでは、2つの受信ビームの位相差はゼロとなる。海底からのエコーは連続エコーであるため、2つの受信ビーム間の位相差は、図8(b)に示すように時間的に連続して変化する。なお、海底からのエコーを受信していない場合、2つの受信ビーム間の位相差はランダムに変化する。従って、2つの受信ビーム間の位相差が連続的に変化し、かつ位相差がゼロとなる点(ゼロ点)の時間(図8の場合は時刻2)を検出することにより、音軸上の海底位置(図8の場合は地点2)を検出することができる。
また、スプリットビーム法を用いた別の目標検出アルゴリズムとして、「位相差誤差分散法」が知られている(例えば特許文献1、特許文献2)。位相差誤差分散法では、所定時間区間内で得られた位相差情報の分散に基づいて目標の検出を行う。上記特許文献は、所定の時間区間内での位相差の分散を求めることにより、物標からのエコーと非エコーとを区別することができるとしている。
特公昭63−52346号公報 特開平10−62534号公報
ところが、スプリットビームによって位相差を検出する場合において、図9(a)のように海底構造物104が存在していると、海底101からのエコーに加えてマルチパスエコーを受信してしまい、2つの受信ビーム間での位相差のゼロ点は図9(b)のように乱れてしまう。このため、上記スプリットビーム法では、海底構造物104の近傍において海底位置を誤検出してしまう場合がある。また、図10(a)のように送信器の直下位置(送信ビームが海底101に対して直交して入射する位置)からの海底エコーは、ゼロ点を正確に判定できないという問題がある。例えば図10(a)の場合、時刻4において地点2に送信ビーム99が直交入射してエコーが発生したあと、地点1や地点3でエコーが発生するまでに要する時間は極めて短くなる。従って、直下位置の海底からのエコーでは2つの受信ビーム間の位相差は時間的に急激に変化してしまい、位相差が連続的に変化する期間が殆どない(図10(b))ので、ゼロ点を安定して検出することができない。
以上のように、スプリットビーム法では、送信器の直下位置近傍や、海底構造物近傍の海底を正確に検出できないという課題がある。上記特許文献1及び2の構成も、スプリットビームの位相差の情報を利用している以上、送信器の直下近傍や海底構造物の近傍で海底検出が困難である点に変わりはない。
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、サイドローブやマルチパスの影響を受けずに海底を検出することができる信号処理装置を提供することにある。
課題を解決するための手段及び効果
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の信号処理装置が提供される。この信号処理装置は、複数の受信素子と、整相済信号取得部と、素子位相分散値算出部と、目標検出部と、を備える。前記受信素子は、目標からのエコーを受信する。前記整相済信号取得部は、複数の前記受信素子の出力信号が整相された整相済信号を取得する。前記素子位相分散値算出部は、前記受信素子間での整相済信号の位相の分散値を求める。前記振幅算出部は、前記整相済信号に基づいて形成された受信ビームの振幅を求める。前記目標検出部は、前記分散値及び前記振幅に基づいて目標を検出する。
即ち、複数の受信素子の出力信号を整相した場合、音軸方向からのエコーを受信したときには受信素子間で信号の位相が一致するが、サイドローブやマルチパスの場合は、受信素子間で信号の位相がバラつく傾向がある。そこで、上記のように受信素子間で整相済信号の位相の分散をみることで、サイドローブやマルチパスの影響を排除しつつ音軸方向の目標を検出することができる。また、位相の分散値に加えて、振幅の情報を考慮することにより、検出精度を向上させることができる。
上記の信号処理装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、上記の信号処理装置は相関処理部備える前記相関処理部は、前記分散値と前記振幅との相関値を求める。前記目標検出部は、前記相関値に基づいて目標を検出する。
このように、分散値と振幅との相関をとることで、検出精度を向上させることができる。
本発明の第2の観点によれば、上記の信号処理装置と、複数の前記受信素子を備えた受信器と、前記目標検出部が検出した目標を表示する表示装置と、を備えた探査装置が提供される。
この探査装置により、目標を精度良く検出して表示装置に表示させることができる。
上記の探査装置において、前記受信素子は超音波受信素子であり、前記目標検出部は、海底を検出することが好ましい。
即ち、本発明の信号処理装置によれば、連続エコーを受信した場合でも目標の位置を精度良く検出することができる。従って、上記探査装置は、音響エコーが連続エコーとなる海底の探査に特に有効である。
本発明の第3の観点によれば、以下信号処理プログラムが提供される。即ち、この信号処理プログラムがコンピュータに実行させる処理は、整相済信号取得ステップと、素子位相分散値算出ステップと、振幅算出ステップと、目標検出ステップと、を含む。前記整相済信号取得ステップでは、目標からのエコーを受信する複数の受信素子の出力信号が整相された整相済信号を取得する。前記素子位相分散値算出ステップでは、前記受信素子間での整相済信号の位相の分散値を求める。前記振幅算出ステップでは、前記整相済信号に基づいて形成された受信ビームの振幅を求める。前記目標検出ステップでは、前記分散値及び前記振幅に基づいて前記目標を検出する。
上記のように受信素子間で出力信号の位相の分散をみることで、サイドローブやマルチパスの影響を排除しつつ音軸方向の目標を検出することができる。また、位相の分散値に加えて、振幅の情報を考慮することにより、検出精度を向上させることができる。
本発明の第4の観点によれば、以下の信号処理方法が提供される。即ち、この信号処理方法では、目標からのエコーを受信する複数の受信素子の出力信号が整相された整相済信号を取得し、前記受信素子間での整相済信号の位相の分散値を求め、前記整相済信号に基づいて形成された受信ビームの振幅を求め、前記分散値及び前記振幅に基づいて目標を検出する。
上記のように受信素子間で出力信号の位相の分散をみることで、サイドローブやマルチパスの影響を排除しつつ音軸方向の目標を検出することができる。また、位相の分散値に加えて、振幅の情報を考慮することにより、検出精度を向上させることができる。
本発明の一実施形態に係るマルチビームソナーの構成を示すブロック図。 送波ビーム及び受信ビームの様子を説明する図。 (a)振幅値の時系列グラフの例。(b)素子位相分散値の逆数の時系列グラフの例。 音軸方向からのエコーを受信したときの、各受信素子の整相済データの位相を示す図。 音軸方向以外からのエコーを受信したときの、各受信素子の整相済データの位相を示す図。 マルチパスエコーを受信したときの、各受信素子の整相済データの位相を示す図。 単一の受信ビームで海底からのエコーを受信している様子を説明する図。 2つの受信ビームで海底からのエコーを受信している様子を説明する図。 2つの受信ビームでマルチパスエコーを受信している様子を説明する図。 2つの受信ビームで直下位置の海底からのエコーを受信している様子を説明する図。
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。本発明の一実施形態に係るマルチビームソナー(探査装置)50は、図1に示すように、受信器10と、受信回路11と、送信器18と、送信回路17と、信号処理装置12と、表示装置13と、を備えている。
本実施形態のマルチビームソナー50は海底探査を目的としたものであり、受信器10及び送信器18は海底探査船98の船底に取り付けられる。そして、送信器18から海底に向けて送信ビームを送信し、海底で発生したエコーを受信器10で受信して、当該受信器10が出力する信号を信号処理装置12で処理することで海底のコンター(等高線)データを取得し、その結果を表示装置13に表示するように構成されている。
本実施形態のマルチビームソナー50は、公知のクロスファンビーム方式で構成されている。即ち、送信器18は、超音波振動子からなる送信素子19を1列に配列した超音波振動子アレイとして構成されている。受信器10も同様に、超音波振動子からなる受信素子15を1列に配列した超音波振動子アレイとして構成されている。そして、送信器18の送信素子19は船首船尾方向に並ぶように配置され、受信器10の受信素子15は船側方向に並ぶように配置されている。
送信回路17は、送信器18が備える複数の送信素子19に対してパルス信号を印加することで、送信器18から海中に向けて送波ビームを送出させる。送信回路17は、各送信素子19に対して前記パルス信号を印加するタイミングを制御することで、図2に示すような扇形の送信ビーム99を海底101に向けて送出させるように構成されている。
受信回路11は、複数の受信素子15が出力した出力信号30を増幅、フィルタリング等の適宜の処理を行ったのち、検波・サンプリングしてデジタルのサンプリングデータ31を信号処理装置12に出力するように構成されている。なお本実施形態において、受信回路11は、公知のIQ検波(直交検波)を行うように構成されている。従って、受信回路11が出力するサンプリングデータ31は、実数成分のデータと虚数成分のデータを含んでいる。
次に、信号処理装置12について説明する。信号処理装置12は、図略のCPU、RAM、ROM等のハードウェアと、前記ROMに記録された信号処理プログラム等のソフトウェアと、からなるコンピュータとして構成されている。
前記信号処理プログラムは、移相ステップ(整相済信号取得ステップ)、素子位相分散値算出ステップ、ビームフォーミング処理ステップ、レベルスレッショルド処理ステップ(振幅検出ステップ)、相関処理ステップ、海底検出ステップ(目標検出ステップ)、コンターデータ出力ステップ等の処理を信号処理装置12に実行させる。そして、前記ハードウェアと前記ソフトウェアとが協働して動作することにより、信号処理装置12を、移相部20、素子位相分散値算出部21、ビームフォーミング処理部22、レベルスレッショルド処理部(振幅検出部)23、相関処理部24、海底検出部(目標検出部)25、コンターデータ出力部26等として機能させることができるように構成されている。
信号処理装置12は、素子位相分散値Dkと、受信ビームの振幅値35と、を求め、両者の相関値36を求めて、当該相関値36に基づいて海底の位置を検出するように構成されている。素子位相分散値Dkについては後述することとし、まずは受信ビームの振幅値35を求める処理について説明する。
信号処理装置12は、公知のビームフォーミング法により、図2のように指向性を有する受信ビーム97を形成して、当該受信ビーム97の音軸方向(メインローブが向く方向)θからのエコー信号の振幅値35を求める。ビームフォーミング法は公知であるから詳細な説明は省略するが、複数の受信素子15の出力信号30を移相したうえで合成して1つの受信ビーム信号を形成するものである。信号を移相させる量(位相角)を変更することにより、受信ビーム97の音軸方向θを変更することができるので、所望の方向からのエコーを検出することができる。
移相部(整相済信号取得部)20は、受信回路11から入力される各受信素子15のサンプリングデータ31に適宜の移相処理を行って、それぞれの受信素子15についての整相済データ(整相済信号)32を取得する。このとき、各サンプリングデータ31を移相させる量(移相角)は、ビームフォーミング法によって形成される受信ビーム97の音軸をどの方向に向けるか(どの方向からのエコーを検出したいか)によって決定される。例えば受信ビーム97の音軸を図2のθ方向に向けたい場合(θ方向からのエコーを検出したい場合)、移相部20は、前記θ方向からの平面波を受信した場合に各受信素子15のサンプリングデータ31の位相が一致するように(各受信素子15の出力信号を整相するように)移相処理を行う。なお、この移相部20の機能は、前記信号処理プログラムの移相ステップに対応している。
ビームフォーミング処理部22は、各受信素子15の整相済データ32に対して所定の重み付け等の処理を行って合成し、単一の受信ビーム信号34として出力する。なお、このビームフォーミング処理部22の機能は、前記信号処理プログラムのビームフォーミング処理ステップに対応している。
レベルスレッショルド処理部(振幅検出部)23は、受信ビーム信号34に閾値処理を施し、所定レベル以下の信号をノイズとして除去した後、当該受信ビーム信号34の振幅の大きさを示す振幅値35を出力する。このように、受信ビーム信号34に含まれるノイズを除去することで、後述の海底検出部25による海底検出の精度を向上させることができる。なお、このレベルスレッショルド処理部23の機能は、前記信号処理プログラムのレベルスレッショルド処理ステップに対応している。
ある音軸方向についての振幅値35を求める処理を時間軸方向で繰り返すことにより、その音軸方向での振幅値35の時系列データを取得することができる。振幅値35の時系列データをグラフで示すと、例えば図3(a)のようになる。図3(a)に示すように、メインローブによる振幅値35のピークは、時間軸方向で拡がりを持つ。このように振幅のピークが拡がってしまうため、振幅ピークの位置検出が不安定となり、海底位置を安定して検出できないという問題があった。この点、本実施形態の信号処理装置12は、後述のように、振幅値35と素子位相分散値Dkとの相関をとることにより海底の位置を安定して検出することができる。
なお、受信ビームにはサイドローブが存在しているので、海底検出の精度を向上させるためには、当該サイドローブで受信した信号の影響を排除しなければならない。このため、従来のビームフォーミング処理では、振幅値35の時系列データに適当な窓関数を掛けるなど処理を行うことで、サイドローブのピークを除去していた。しかし、窓関数を掛けることで必要なピークまでも除去されてしまうおそれがあった。この点、本実施形態では、後述の素子位相分散値Dkと振幅値35との相関をとることによりサイドローブの影響を除去できるので、窓関数を掛けるなどの処理を省略できる。これにより、必要なピークまで除去してしまうことを防止できる。
次に、本発明の特徴である素子位相分散法について説明する。この素子位相分散法は、受信素子15間での信号の位相の分散をみることで、目標を検出するものである。
図4から6は、移相部20が出力した整相済データ32の位相のバラツキを示すものである。横軸は受信素子15、各受信素子15の整相済データ32の位相を示す。図4から6は受信素子15が6個の場合を例示しており、各受信素子15を1から6の番号で示している。
前述のように、各受信素子15の整相済データ32は移相部20によって整相されており、音軸方向からの平面波を受けたときには図4のように移相が一致する。これを逆に言うと、音軸方向以外の方向からエコーを受けたときには、整相済データ32の位相が受信素子15間でバラつくことになる(例えば図5)。
また受信ビームにはサイドローブが存在しているが、サイドローブで受信したエコーも音軸方向以外の方向から到来したエコーであることに違いはない。従って、サイドローブでエコーを受信したときにも、図5と同様に、整相済データ32の移相は受信素子15間でバラつく。また、マルチパスエコーを受信した場合も、例えば図6のように、整相済データ32の位相が受信素子15間でバラつく。また、エコーを受信していないときには、各受信素子15の出力はノイズとなり位相はランダムに変化する。従って、信号を受信していなとき、整相済データ32の位相は受信素子15間でバラつくことになる。
以上をまとめると、音軸方向からエコーを受信した場合のみ、各受信素子15の整相済データ32の位相が一致し、それ以外の場合は整相済データ32の位相が受信素子15間でバラつくことがわかる。
本願発明者らは、以上の点に着目し、受信素子15間での出力信号の位相のバラツキを評価することにより海底検出を行う素子位相分散法を発明するに至った。この素子位相分散法は、複数の受信素子15間で出力信号(具体的には整相済データ32)の位相の分散値を算出するものである。即ち、音軸方向から外れた方向からのエコーや、サイドローブ、マルチパスエコー、ノイズ等の場合、受信素子15間での出力信号の位相はバラつくため、分散値は大きくなる。音軸方向からの目標エコーを受信した場合のみ受信素子15間での出力信号の位相が同相となり、分散値が最小になる。従って、受信素子15間での出力信号の分散値に基づいて、音軸方向からの目標エコーを識別することができる。この分散値を、素子位相分散値Dkと呼ぶ。
素子位相分散値算出部21は、以下の数式1により素子位相分散値Dkを求める。ここで、Nは受信素子15の数を示し、例えば図4から6のように受信素子15が6個の場合はN=6である。Riは各受信素子15についての整相済データ32の実数成分、Iiは各受信素子15についての整相済データ32の虚数成分を示す。なお、この素子位相分散値算出部21の機能は、信号処理プログラムの素子位相分散値算出ステップに対応している。
Figure 0005730083
なお、averageは整相済データ32の位相の平均値であり、数式2で求めることができる。
Figure 0005730083
前述のように、振幅値の時系列グラフ(図3(a))では、ピークの幅が時間軸方向で拡がってしまうという問題があった。これは、海底からのエコーが連続エコーであるため、音軸方向以外の様々な方向からのエコーも受信ビームで受信しているからである。この点、素子位相分散法では、音軸方向からのエコーを受信したときにのみ素子位相分散値Dkが最小になる。従って、連続エコーを受信したときであっても、素子位相分散値Dkが最小になるときを検出することにより、音軸方向の海底位置を精度良く検出することができる。
また、前述のように、サイドローブによってエコーを受信した場合は素子位相分散値Dkの値が大きくなるので、音軸方向からの海底エコー(Dk小)と、サイドローブによって受信されたエコー(Dk大)と、を精度良く判別することができる。
また、従来のスプリットビーム法では、2つの受信ビーム間での位相差を、時間軸方向で見る必要があった。従って、位相差の値が時間軸方向で乱れてしまう場合には誤検出が発生していた。この点、素子間位相分散法は、ある時刻における位相の分散値を見ているだけであり、時間変化を見る必要はない。従って、従来のスプリットビーム法では安定して海底を検出できなかったような場合(位相差の値が時間軸方向で乱れてしまう場合)であっても、素子位相分散法によれば安定した海底検出が可能である。
例えば前述のように、従来のスプリットビーム法では、海底構造物の近傍では位相差が時間軸方向で乱れてゼロ点を誤検出するため、海底を誤検出してしまう場合があった。この点、素子位相分散法では、海底構造物によるマルチパスを受信した場合には素子位相分散値Dkが大きくなる。従って、音軸方向の海底エコー(Dk小)と、マルチパスエコー(Dk大)と、を精度良く判別することができるので、海底構造物近傍であっても海底を誤検出することを防止できる。
また、受信器10がエコーを受信していない場合、出力信号30はノイズとなるので、素子位相分散値Dkは大きくなる。従って、音軸方向からの海底エコーと、ノイズと、を精度良く判別することができる。
また、素子位相分散値Dkは、受信ビームの振幅の検出精度に依存せずに求めることができる。従って、例えばスキャッターや残響などによって振幅値35を精度良く検出できない場合であっても、素子位相分散値Dkに基づいて音軸方向の海底を精度良く検出することが可能となる。
以上のように、素子位相分散値Dkは、音軸方向の海底からのエコーを受信した場合にのみ最小となり、それ以外の場合(例えば音軸方向以外からのエコーを受信した場合、サイドローブでエコーを受信した場合、マルチパスエコーを受信した場合、又はエコーを受信していない場合など)には大きな値を示す。従って、素子位相分散値Dkに基づいて、音軸方向の海底位置を精度良く検出することができる。
ただし、本実施形態では、素子位相分散値Dkを直接用いて海底位置を検出するのではなく、素子位相分散値Dkと、振幅値35と、の相関値36を求めたうえで、当該相関値36のピークを検出して海底位置を求めている。このように、両者の相関をとることで、海底検出の精度を向上させることができる。
相関処理部24は、ある音軸方向についての素子位相分散値Dkと、同じ音軸方向についての振幅値35と、の相関値36を算出する。相関値36は、素子位相分散値の逆数(1/Dk)と、振幅値35と、を掛け合わせることで求めることができる。素子位相分散値の逆数(1/Dk)と振幅値35の両方が大きな値の場合には、相関値36も大きな値を示す。一方、素子位相分散値の逆数(1/Dk)と振幅値35の少なくとも何れか一方が小さな値の場合には、相関値36も小さな値を示すことになる。なお、この相関処理部24の機能は、信号処理プログラムの相関処理ステップに対応している。
ある音軸方向についての素子位相分散値の逆数(1/Dk)を求める処理を時間軸方向で繰り返すことにより、その音軸方向での1/Dkの時系列データを取得することができる。素子位相分散値の逆数(1/Dk)の時系列データをグラフで例示すると、図3(b)のようになる。前述のように、素子位相分散値Dkは、音軸方向からのエコーを受信したときに最小となる。従って、素子位相分散値Dkの逆数(1/Dk)の時系列グラフでは、音軸方向から海底エコーを受信したときにピークが現れる。
ここで、図3に示すように、素子位相分散値の逆数(1/Dk)と振幅値35の両方が大きな値を示すのは、音軸方向からの海底エコーを受信したときのみである。従って、相関値36は、音軸方向からの海底エコーを受信したときのみ大きなピークを有することになる。
一方、例えば、サイドローブでエコーを受信したり、マルチパスエコーを受信した場合には、振幅値35の値は大きくなるが、素子位相分散値の逆数(1/Dk)は小さくなる。従って、両者の相関を取ることにより、サイドローブやマルチパスエコーのピークを抑えることができる。即ち、サイドローブでエコーを受信したり、マルチパスエコーを受信した場合は相関値36の値は小さくなるので、音軸方向からの海底エコーを受信した場合(相関値36が大になる場合)と明確に区別することができる。このように、相関値36を求めることで、サイドローブやマルチパスの影響を排除することができる。
なお前述のように、直下位置の海底からのエコーは位相差が急激に変化するという傾向がある。このため、受信ビームの音軸を直下に向けたときに、当該音軸上の海底からのエコーは位相差が乱れ易く、素子移相分散値Dkが大きくなる傾向がある。従って、直下位置の海底を素子移相分散値Dkのみで検出することは難しい。ところが一方で、直下位置の海底から受信したエコーは信号レベルが大きいので、振幅値35は大きくなる。従って、直下位置の海底からのエコーを受信した場合であっても、素子移相分散値の逆数(1/Dk)と振幅値35との相関値36は、ある程度大きな値を示すことになる。このように、素子位相分散値Dkのみでは直下位置の海底を検出することが難しいが、振幅値35との相関を取ることにより相関値36にピークが現れるので、直下位置の海底を検出することができる。
海底検出部25は、送信ビームを送信してから相関値36がピークを示すまでの時間に基づいて、音軸方向の海底の位置を検出する。相関値36のピークの検出は、最大値法や重心法などの適宜の方法を用いることができる。既に説明したように、相関値36は、サイドローブやマルチパス等の影響が排除されているので、海底の位置を示すピークを安定して検出することができる。海底検出部25は、相関値36に基づいて海底の位置を検出すると、当該海底位置を示すコンターデータ37を生成し、コンターデータ出力部26に出力する。なお、この海底検出部25の機能は、信号処理プログラムの海底検出ステップに対応している。
コンターデータ出力部26は、コンターデータ37を表示装置13に出力する。なお、このコンターデータ出力部26の機能は、信号処理プログラムのコンターデータ出力ステップに対応している。
なお、クロスファンビーム方式のレーダ装置においては、様々な方向に音軸を向けた受信ビームを多数形成し、各方向についてのコンターデータ37を求める処理を並列的に行う。そして、以上の処理を、送信器18が送信する扇状の送信ビームの方向を変更しながら行うことにより、海底の3次元的形状をスキャンすることができる。表示装置13は、このようにして得られたコンターデータに基づいて、海底の3次元的形状を表示することができる。
以上で説明したように、本実施形態の信号処理装置12は、移相部20と、素子位相分散値算出部21と、海底検出部25と、を備える。移相部20は、複数の受信素子15の出力信号を整相して整相済データ32を取得する。素子位相分散値算出部21は、各受信素子15間での整相済データ32の位相の分散値Dkを求める。海底検出部25は、前記分散値Dkに基づいて目標を検出する。
即ち、音軸方向からのエコーを受信したときには受信素子15間で整相済データ32の位相が一致するが、サイドローブやマルチパスの場合は、受信素子15間で整相済データ32の位相がバラつく傾向がある。そこで、上記のように受信素子15間で出力信号の位相の分散値Dkをみることで、サイドローブやマルチパスの影響を排除しつつ音軸方向の海底を検出することができる。
また、本実施形態の信号処理装置12は、レベルスレッショルド処理部23と、相関処理部24と、を備える。レベルスレッショルド処理部23は、整相済データ32に基づいて形成された受信ビームの振幅値35を求める。相関処理部24は、分散値Dkと振幅値35との相関値36を求める。海底検出部25は、相関値36に基づいて海底を検出する。
このように、位相の分散値Dkに加えて、振幅値35を考慮することにより、検出精度を向上させることができる。
また本実施形態のマルチビームソナー50は、信号処理装置12と、複数の受信素子15を備えた受信器10と、海底検出部25が検出した海底を表示する表示装置13と、を備えている。
このマルチビームソナー50により、海底を精度良く検出して表示装置13に表示させることができる。
また本実施形態のマルチビームソナー50において、受信素子15は超音波受信素子であり、海底検出部25によって海底を検出している。
即ち、本発明の信号処理装置12によれば、連続エコーを受信した場合でも目標の位置を精度良く検出することができる。従って、この構成は音響エコーが連続エコーとなる海底の探査に特に有効である。また、本実施形態のマルチビームソナー50によれば、従来のスプリットビーム法では検出することが難しかった直下位置近傍の海底も検出することができる。
また、本実施形態の信号処理プログラムは、移相ステップと、素子位相分散値算出ステップと、海底検出ステップと、を含む。移相ステップでは、複数の受信素子15の出力信号を整相して整相済データ32を取得する。素子位相分散値算出ステップでは、受信素子15間での整相済データ32の位相の分散値Dkを求める。海底検出ステップでは、分散値Dkに基づいて海底を検出する。
また、本実施の信号処理方法では、複数の受信素子15の出力信号を整相して整相済データ32を取得し、受信素子15間での整相済データ32の位相の分散値Dkを求め、分散値Dkに基づいて海底を検出している。
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
本発明は、海底探査を目的としたソナー装置に限らず、複数の受信素子を備えたソナー装置であれば、例えば魚群探知等を目的としたソナー装置にも適用することができる。魚群探知用のソナーの場合であっても、目標からのエコーは受信素子間での位相の分散が小さく、マルチパスやサイドローブ等の場合は受信素子間での位相の分散が大きくなると考えられるからである。
また本発明の構成は、超音波を利用して目標を探査するソナー装置に限らず、複数の受信素子を備えたレーダ装置にも適用することができる。レーダ装置の場合であっても、目標からのエコーは受信素子間での位相分散が小さく、マルチパスやサイドローブ等の場合は受信素子間での位相の分散が大きくなると考えられるからである。
受信素子の数、配置などは上記実施形態で説明した構成に限らない。クロスファンビーム方式に限らず、複数の受信素子を備えた探査装置であれば本発明の構成を適用することができる。
相関処理部では、素子位相分散値の逆数(1/Dk)と振幅値35とを掛け合わせて相関値36を求めるとしたが、相関値36を求める方法はこれに限らない。例えば、素子位相分散値の逆数(1/Dk)と振幅値35とを単純に掛け合わせるのではなく、両者を掛け合わせる際に重み付けを行っても良い。
上記実施形態で説明したように、素子位相分散値Dkが最小になったときを検出することで、音軸方向の目標エコーを検出することができる。従って、目標を検出するためには必ずしも相関値を求める必要はなく、ビームフォーミングによって振幅を求める処理は省略してもよい。
整相済信号を取得する方法としては、上記のようにソフトウェアによって各受信素子の信号を移相する方法のほか、PPIソナーのように受信素子の受信面を対象物に対して機械的に向ける方法を採用することもできる。
信号処理装置12は、ハードウェアとソフトウェアとから構成されるとして説明したが、信号処理装置12の機能の一部又は全部を、専用のハードウェアによって実現しても良い。
10 受信器
12 信号処理装置
13 表示装置
15 受信素子
20 移相部
21 素子位相分散値算出部
23 レベルスレッショルド処理部(振幅検出部)
24 相関処理部
25 海底検出部(目標検出部)
50 マルチビームソナー(探査装置)

Claims (6)

  1. 目標からのエコーを受信する複数の受信素子と、
    複数の前記受信素子の出力信号が整相された整相済信号を取得する整相済信号取得部と、
    前記受信素子間での整相済信号の位相の分散値を求める素子位相分散値算出部と、
    前記整相済信号に基づいて形成された受信ビームの振幅を求める振幅算出部と、
    前記分散値及び前記振幅に基づいて前記目標を検出する目標検出部と、
    を備えることを特徴とする信号処理装置。
  2. 請求項1に記載の信号処理装置であって、
    記分散値と前記振幅との相関値を求める相関処理部備え、
    前記目標検出部は、前記相関値に基づいて目標を検出することを特徴とする信号処理装置。
  3. 請求項1又は2に記載の信号処理装置と、
    複数の前記受信素子を備えた受信器と、
    前記目標検出部が検出した目標を表示する表示装置と、
    を備えることを特徴とする探査装置。
  4. 請求項3に記載の探査装置であって、
    前記受信素子は超音波受信素子であり、
    前記目標検出部は、海底を検出することを特徴とする探査装置。
  5. 目標からのエコーを受信する複数の受信素子の出力信号が整相された整相済信号を取得する整相済信号取得ステップと、
    前記受信素子間での整相済信号の位相の分散値を求める素子位相分散値算出ステップと、
    前記整相済信号に基づいて形成された受信ビームの振幅を求める振幅算出ステップと、
    前記分散値及び前記振幅に基づいて前記目標を検出する目標検出ステップと、
    を含む処理をコンピュータに実行させることを特徴とする信号処理プログラム。
  6. 目標からのエコーを受信する複数の受信素子の出力信号が整相された整相済信号を取得し、
    前記受信素子間での整相済信号の位相の分散値を求め、
    前記整相済信号に基づいて形成された受信ビームの振幅を求め、
    前記分散値及び前記振幅に基づいて前記目標を検出することを特徴とする信号処理方法。
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