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JP5717359B2 - メタルガスケット用耐熱オーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents

メタルガスケット用耐熱オーステナイト系ステンレス鋼 Download PDF

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JP5717359B2 JP2010127403A JP2010127403A JP5717359B2 JP 5717359 B2 JP5717359 B2 JP 5717359B2 JP 2010127403 A JP2010127403 A JP 2010127403A JP 2010127403 A JP2010127403 A JP 2010127403A JP 5717359 B2 JP5717359 B2 JP 5717359B2
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本発明は、内燃機関のエンジン,排気ガス経路部材(エキゾーストマニホールド,触媒コンバータ),EGRクーラーならびにターボチャージャー等の高温雰囲気に曝されても、優れた耐へたり性を維持するメタルガスケットとして使用されるオーステナイト系ステンレス鋼に関する。
加熱・冷却が頻繁に繰り返される雰囲気に曝されるエンジン等には従来からメタルガスケットが使用されてきたが、エンジンの高性能化や環境規制に伴い排気ガス温度が上昇し、600〜800℃の温度に曝されるガスケットが増加している。ガスケットが曝される温度の上昇にともない、従来のガスケット材では以下の課題を生じている。
特開平7−3406,特開2008−111192に代表されるSUS301系の加工誘起マルテンサイト相に強化された材料や、特開平7−278758に代表されるSUS431系の焼入−焼戻マルテンサイト相に強化された材料は、加熱される温度がマルテンサイト相の分解温度に相当するため軟化が著しく耐へたり性に劣る。
JISG4902(耐食耐熱超合金板)に規定されるNCF625,NCF718やJISG4312(耐熱鋼板)に規定されるSUH660等の析出強化系の材料は使用中に微細析出物を生成するため、600〜800℃の析出強化には有効であるが、高価なNiが多量に含まれるためコスト高となる。
これらの課題を解決させるために、特開2003−82441ではNとNbにより強化されたFe−Cr−Niオーステナイト系ステンレス鋼が、また、特開平7−3407,特開平9−279315,特開平11−241145では、Nにより強化されたFe−Cr−Mn−Niオーステナイト系ステンレス鋼が開示されており、一部の耐熱用ガスケットに適用されつつある。
しかし、これらの鋼はNを多く含むために降伏応力(0.2%耐力)が非常に高くなるという課題を有する。すなわち、ガスケットに必要な平坦度を矯正加工にて確保するには焼なまし材で比較的軟質であることが望ましく、使用中の耐熱性を確保するには高温でのへたり性に優れることが望ましいが、多量にNを添加する鋼では前者の特性を満足するとは必ずしも言い難いからである。
以上述べたように、Niを多量に含まないオーステナイト系ステンレス鋼において初期の耐力が比較的低く、高温での耐熱性(へたり性)に優れた低N鋼が必要となってきているが、その成分系は必ずしも明確化されていないのが現状であった。
特開平7−3406号公報 特開平8−111192号公報 特開平7−278258号公報 特開2003−82441号公報 特開平7−3407号公報 特開平9−279315号公報 特開平11−241145号公報
本発明は、比較的安価で常温での加工性と高温での耐へたり性を同時に向上させた耐熱用メタルガスケットに適したオーステナイト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。
本発明のメタルガスケット用耐熱オーステナイト系ステンレス鋼は、その目的を達成するため、 C:0.03超〜0.20質量%,Si:2.0超え〜5.0質量%,Mn:2.24質量%以下,Ni:7.0〜17.0質量%,Cr:13.0〜23.0質量%,N:0.05質量%未満、Nb:0.05〜0.8質量%またはMo:0.1〜2.0質量%の1種又は2種を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、さらに下記(1)式で示されるSFE値が2〜20であることを特徴とする。
SFE=25.7+2(Ni)+410(C)−0.9(Cr)−77(N)−13(S
i)−1.2(Mn)・・・(1)
ただし、式中の各項は、合金元素の含有量(質量%)である。
また、さらにCu:0超え〜4.0質量%,Ti:0超え〜0.5質量%,V:0超え〜1.0質量%,Al:0超え〜0.2質量%,B:0超え〜0.020質量%以下,REM(希土類元素):0超え〜0.2質量%,Y:0超え〜0.2質量%,Ca:0超え〜0.1質量%,Mg:0超え〜0.1質量%の1種又は2種以上を含むことができる。
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、メタルガスケットに要求される500〜800℃の高温環境での耐へたり性に優れている。一方、焼き戻し状態では十分な加工性を有しているため、平坦度の矯正が容易である。
上記2点の特徴を有しているため、このオーステナイト系ステンレス鋼をエギゾストマニホルド,インテックマニホルド等の低温用メタルガスケットとして自動車用エンジンに組み込むと、周辺機器の寿命やエンジン自体の性能が向上する。また、エンジン用ガスケットの他に、自動車排ガス部品,自動車排気管の振動遮断用継手に使用されるボールジョイント部に組み込まれる弾性ガスケットにも使用できる。
ガスケット試験片の形状を示す図である。
本発明者らは、上記課題を解決するために種々検討を行い、以下の知見を得て本発明に至った。
(1)初期の軟質化はNを0.05%未満とすることにより達成される。
(2)高温でのへたり性はビード部(加工部)を加熱によって軟化しにくい因子で強化しておくこと、すなわち、主として積層欠陥にて硬化されることにより達成される。
積層欠陥による高温での耐へたり性向上のメカニズムは必ずしも明確でないが、積層欠陥の交差により導入される転位が可働しにくいことや強加工によってε−マルテンサイト相が生成し、しかもこれが加熱により分解されにくいことが挙げられる。
以下、本発明が対象とするオーステナイト系ステンレス鋼に含まれる合金成分,含有量等を説明する。
C:0.03超〜0.20質量%
高温強度の向上に有効な合金成分であり、固溶強化や析出強化によってステンレス鋼を強化する。このような作用は、0.03質量%超のC含有で顕著になる。しかし、0.20質量%を超える過剰量のCが含まれると、高温保持中に巨大な粒界炭化物が析出しやすくなり、材料を脆化させる。
Si:2.0超え〜5.0質量%
フェライト形成元素であり、オーステナイト相中で大きな固溶強化能を呈し、高温保持中に歪み時効によって時効硬化を促進させる。このような効果は、2.0質量%以上のSi含有量で顕著になる。しかし、5.0質量%を超える過剰量のSiを添加すると、高温割れが誘発され、製造上で種々のトラブルを引き起こす。Si含有量は3.0超〜5.0質量%以下の範囲とすることが一層好ましい。
Mn:2.5質量%以下
オーステナイト形成元素であり、高価なNiの代替成分として使用され、Niの必要量を低減できる。また、Sを固定することによって熱間加工性を改善することにも有効である。しかし、2.5質量%を超える過剰量のMn添加は、高温強度や機械的性質を低下させる。
Ni:7.0〜17.0質量%
安定なオーステナイト組織を確保するために必須の合金成分であり、Niの最適含有量は鋼材に含まれるCr,Si,Mo等のフェライト形成元素量に依存する。しかし、7.0質量%未満のNi含有量ではオーステナイト相の安定化が困難になる。他方、17.0質量%を越えるNi含有量では、鋼材コストが上昇して経済的に不利となる。Ni含有量は11.0〜15.0質量%の範囲とすることが一層好ましい。
Cr:13.0〜23.0質量%
耐食性・耐酸化性に必要な合金成分であり、過酷な高温腐食雰囲気に曝されるメタルガスケット用途を考慮すると少なくとも13.0質量%のCr量が必要である。しかし、23.0質量%を超える過剰量のCrが含まれると、δフェライトが形成され、安定したオーステナイト相が維持できなくなる。
N:0.05質量%未満
オーステナイト系ステンレス鋼の高温強度の上昇に有効な合金成分であるが、0.05質量%以上のNが含まれると、M23中のCがC+Nに遷移し、析出速度を低下させる。そのため、高温保持中において析出強化への変態が遅延され、高温強度を低下させる。
Nb:0.80質量%以下
メタルガスケットが曝される高温雰囲気下で析出物を形成し、或いはオーステナイトマトリックスに固溶することにより、硬度を上昇させ、耐軟化性を改善する。しかし、0.80質量%を超える過剰量のNb含有は、高温強度向上に起因して熱間加工性を低下させる。
Mo:2.0質量%以下
必要に応じて添加される合金成分であり、耐食性の向上に有効であると共に、高温保持中に炭窒化物となって微細に分散し高温強度を上昇させる。時効処理時にあっては、析出物の形成によって強度を向上させる。そのため、メタルガスケットが過酷な高温雰囲気に曝されても、Mo添加により強度の低下が防止される。しかし、2.0質量%を超えるMoの過剰添加は、高温域でのδフェライト生成を促進させる。
Cu:4.0質量%以下
必要に応じて添加される合金成分であり、メタルガスケットが使用される雰囲気の温度上昇に伴ってCu系析出物を生成させ、高温強度,耐軟化性を改善する。しかし、3.0質量%を超えるCuの過剰添加は、熱間加工性を低下させ、割れ発生の原因となる。
Ti:0.5質量%以下
必要に応じて添加される合金成分であり、硬度上昇,耐ヘタリ性の改善に有効な析出物を高温雰囲気で形成する。しかし、0.5質量%を超えるTiの過剰添加は、表面疵を発生させる原因となる。
V:1.00質量%以下
必要に応じて添加される合金成分であり、硬度上昇,耐ヘタリ性の改善に有効な析出物を高温雰囲気で形成する。しかし、1.0質量%を超えるVの過剰添加は、表加工性、靭性を低下させる原因となる。
Al:0.2質量%以下
必要に応じて添加される合金成分であり、製鋼時に脱酸剤として添加されると共に、鋼板をガスケット形状に打抜く際に打抜き性に悪影響を及ぼすA2系介在物を激減させる効果を奏する。このような効果は0.2質量%のAl含有量で飽和し、それ以上Alを増量しても却って表面欠陥の増加を招く。
B:0.020質量%以下
必要に応じて添加される合金成分であり、高温強度上昇に有効な炭窒化物の微細析出を促進させ、熱間圧延温度域においてはS等の粒界偏析を抑制しエッジクラックの発生を防止する作用を呈する。しかし、0.020質量%を超える過剰量のBを添加すると、低融点硼化物が生成しやすく、却って熱間加工性が劣化する。
REM(希土類元素):0.2質量%以下
Y:0.2質量%以下
Ca:0.1質量%以下
Mg:0.1質量%以下
必要に応じて添加される合金成分であり、何れも熱間加工性を改善し、耐酸化性の向上にも有効である。熱間加工性,耐酸化性に及ぼす効果は何れも添加量の増加に応じて顕著になるが、REM,Yでは0.20質量%、Ca,Mgでは0.10質量%で飽和する。
SFE値:2〜20
SFE値は次の式で定義される積層欠陥エネルギーの指標であり、本発明においてはこれを2〜20に限定する。
SFE=25.7+2(Ni)+410(C)−0.9(Cr)−77(N)−13(Si)−1.2(Mn)・・・(1)
ただし、式中の各項は、合金元素の含有量(質量%)である。
SFE値は、本発明においては耐へたり性を確保するために上記範囲に限定しており、この範囲を保つことで良好な加工性および加熱保持後の耐軟化性を確保するものである。SFEが2を下回る場合、加工硬化が大きくなりすぎるため製品加工する際、シワの発生や割れが生じる。また、SFEが20を超えると加工しやすくなるものの、εマルテンサイト等の生成が起こらず、600〜800℃加熱によるビードへたり量が大きくなる。
表1に示す組成のステンレス鋼を300kg真空溶解炉で溶製し、その後スラブを熱間鍛造、切り出し、熱間圧延、焼鈍、酸洗、冷延圧延、焼鈍、酸洗工程を経て板厚0.5〜0.2mmのステンレス鋼帯を製造した。
Figure 0005717359
表2に、各ステンレス鋼の冷延焼鈍材の0.2%耐力を示す。発明鋼はいずれも低い耐力を示しており、ガスケットへの加工が容易であることがわかる。
Figure 0005717359
各ステンレス鋼帯から150mm×150mmの正方形試験片を切り出し、試験片の中央に内径75mmの円形開口を形成し、開口周辺に幅2.5mm,高さ0.25mm,突起部2Rのビードをプレス成形することによりメタルガスケット(図1)を作製した。次いで、ビード部がフラットになるように治具で押え、700℃に48時間保持した後、室温まで徐冷した。徐冷後の試験片について、室温での残存ビード高さを測定した。なお、残存ビード高さの測定には焦点顕微鏡を使用し、3点の平均値として算出した。
結果を表3に示す。測定結果にみられるように、鋼種No.1〜10(本発明例)では700℃×48時間加熱後に室温での残存ビード高さが0.210mm以上であり、メタルガスケットに要求される残存ビード高さを備えていた。他方、比較鋼No.11〜15(比較例)では、何れも残存ビード高さが0.200mm未満であり、メタルガスケットとしての性能上に問題があった。残存ビード高さが低い理由には、次のような原因が考えられる。
比較鋼No.11はSi量が不足し、N量が多すぎることにより、加熱保持中の時効硬化能が低下したため、残存ビード高さが十分でない。比較鋼No.12,13は、加熱される温度がマルテンサイト相の分解温度に相当するため著しく軟化し、残存ビード高さが低くなった。比較鋼No.14,15は過剰量のNを含有していることからSFE値が低くなり、加工誘起マルテンサイトの生成し、高温保持中に焼戻しされたため、残存ビード高さが低くなった。
Figure 0005717359
この対比から明らかなように、N量を低減したオーステナイト系ステンレス鋼であっても、SFE値の適正管理により、形状凍結性に優れ、長期間にわたって気密性を維持するメタルガスケットが得られることが確認された。
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、メタルガスケットに要求される500〜800℃の高温環境での耐へたり性に優れている。また、このオーステナイト系ステンレス鋼をエギゾストマニホルド,インテックマニホルド等の低温用メタルガスケットとして自動車用エンジンに組み込むと、周辺機器の寿命やエンジン自体の性能が向上する。また、エンジン用ガスケットの他に、自動車排ガス部品,自動車排気管の振動遮断用継手に使用されるボールジョイント部に組み込まれる弾性ガスケットにも使用できる。

Claims (2)

  1. C:0.03超〜0.20質量%,Si:2.0超え〜5.0質量%,Mn:2.24質量%以下,Ni:7.0〜17.0質量%,Cr:13.0〜23.0質量%,N:0.05質量%未満、Nb:0.05〜0.8質量%またはMo:0.1〜2.0質量%の1種又は2種を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、さらに下記(1)式で示されるSFE値が2〜20であることを特徴とするメタルガスケット用耐熱オーステナイト系ステンレス鋼。
    SFE=25.7+2(Ni)+410(C)−0.9(Cr)−77(N)−13(S
    i)−1.2(Mn)・・・(1)
    ただし、式中の各項は、合金元素の含有量(質量%)である。
  2. さらにCu:0超え〜4.0質量%,Ti:0超え〜0.5質量%,V:0超え〜1.0質量%,Al:0超え〜0.2質量%,B:0超え〜0.020質量%以下,REM(希土類元素):0超え〜0.2質量%,Y:0超え〜0.2質量%,Ca:0超え〜0.1質量%,Mg:0超え〜0.1質量%の1種又は2種以上を含む請求項1記載のメタルガスケット用耐熱オーステナイト系ステンレス鋼。
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