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JP4785302B2 - メタルガスケット用高強度オーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents

メタルガスケット用高強度オーステナイト系ステンレス鋼 Download PDF

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JP4785302B2 JP2001273552A JP2001273552A JP4785302B2 JP 4785302 B2 JP4785302 B2 JP 4785302B2 JP 2001273552 A JP2001273552 A JP 2001273552A JP 2001273552 A JP2001273552 A JP 2001273552A JP 4785302 B2 JP4785302 B2 JP 4785302B2
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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、内燃機関のエンジンや排気ガス配管等の高温雰囲気に曝されても、優れた耐ヘタリ性を維持するメタルガスケットとして使用されるオーステナイト系ステンレス鋼に関する。
【0002】
【従来技術及び問題点】
昇温が予定されている雰囲気に曝されるエンジン等には、従来からアスベスト製のガスケットが使用されきたが、エンジンの高性能化やノンアスベストの法規制化に対応してメタルガスケットが使用されるようになってきた。
ガスケットは、接合面の気密性を維持するための諸特性を備えていることが要求される。たとえば、排気系のエキゾストマニホルドガスケットやマフラー部分のガスケットでは、エンジン特有の高温・高圧及び高振動下で、しかも温度変化,圧力変化や排気系での温度上昇に対応できる疲労特性やシール性を維持するため、被加工部分の形状凍結性(耐ヘタリ性)に優れていることが要求される。そこで、オーステナイト系の中でも耐熱性や高温強度を重視してSUS310S等の高Ni−高Cr鋼がメタルガスケット材料に使用されている。
【0003】
しかし、SUS310SはNiを20質量%程度含有するオーステナイト系ステンレス鋼であり、おのずと材料コストが高くなる。また、SUS310Sほどの高合金では、熱間圧延や冷間圧延時に変形抵抗が大きく、製造性に難点がある。しかも、メタルガスケットの製品厚さに対応したゲージコントロールを実現するために工程に加わる制約も多くなる。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、Ni量の低減により材料コストの上昇を抑制すると共に、オーステナイト自体の硬さ及び高温保持中の歪み時効を積極的に利用して高温強度を改善し、耐ヘタリ性に有効な合金設計を採用することにより、500〜800℃の高温雰囲気においても優れた耐ヘタリ性を呈し、高温用メタルガスケットに適したオーステナイト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。
【0005】
本発明のメタルガスケット用オーステナイト系ステンレス鋼は、その目的を達成するため、C:0.02〜0.20質量%,Si:0.8〜3.0質量%,Mn:2.5質量%以下,P:0.060質量%以下,S:0.020質量%以下,Ni:7.0〜15.0質量%,Cr:13.0〜25.0質量%,Nb:0.80質量%以下,N:0.05〜0.25質量%を含み、残部Fe及び不可避的不純物の組成をもち、C+2N:0.20質量%以上でHVR=C+2N+0.12Si+1.4Nbと定義されるHVR値が0.45以上に調整されていることを特徴とする。
【0007】
【実施の形態】
本発明者等は、Ni含有量を15質量%以下に抑えたオーステナイト系ステンレス鋼の範疇で、過酷な使用環境に耐え得る、具体的には高温雰囲気に曝されても硬度低下が少なく、良好な耐ヘタリ性を維持する高温用ガスケットに適したオーステナイト系ステンレス鋼板を合金設計の面から種々調査検討した。
高温メタルガスケットは、加熱・冷却が頻繁に繰り返される500℃以上の高温雰囲気で使用される。このような過酷な雰囲気を考慮すると、ビード加工した個所を変形させたとき、弾性変形内で当初のビード形状に復元しようとする力、すなわちスプリング力が重要なファクターになる。なかでも、振動の激しい部位に使用される高温用メタルガスケットでは、大きな復元力を呈することが必要とされる。
【0008】
復元力の増大には、冷間圧延等により歪を導入し、多くの転位を組織に導入することが有効である。導入された転位は転位相互の干渉によって所定の変形が外部から加えられた際に大きな抵抗となって働き、結果としてスプリング力を向上させる。しかし、高温用メタルガスケットのように500℃以上の高温雰囲気に長時間曝される用途では、スプリング性に有効な転位がミクロ組織的に移動し、転位密度が低下する傾向にある(回復過程)。
本発明にあっては、転位の移動を抑制することにより転位回復を遅らせ、優れたスプリング性を維持することを狙っている。転位の移動抑制は、(1)加熱前の初期状態で転位を相互干渉させることによって動きやすい可動転位の割合を少なくすること、(2)高温雰囲気における転位の移動(ミクロ的に原子の運動)を抑制すること、(3)転位が移動する場合にあっても転位の移動を阻止する障害物を作り込んでおくことによって達成される。
【0009】
前掲(1)〜(3)の機能を付与するため、本発明ではC,N,Si,Nb量を規制している。侵入型原子として固溶するC,Nは、マトリックスを固溶強化すると共に転位の導入過程を複雑化し、可動転位の割合を減少させる。また、転位近傍に集積しやすく、転位の移動抑制にも有効である。更に、炭窒化物として析出した場合には、転位の移動を阻止するピニング効果が発現する。Siは高温雰囲気における転位の移動抑制に有効である。原子半径の大きなNbは,それ自体の拡散が遅くなるドラッグ効果によって高温雰囲気における転位の移動抑制に働き、析出物を生成した場合にはピニング効果を発現させる。
転位の移動抑制に有効なC,N,Si,Nbの影響を総合的に調査し、それぞれの寄与度を解析した結果、C+N≧0.20質量%でHVR=C+2N+0.12Si+1.4Nbと定義されるHVR値を0.45以上に調整するとき、要求特性に応じた転位の移動抑制効果が得られ、優れたスプリング性を呈するメタルガスケットが得られることを解明した。
【0010】
以下、本発明が対象とするオーステナイト系ステンレス鋼に含まれる合金成分,含有量等を説明する。
C:0.02〜0.20質量%
高温強度の向上に有効な合金成分であり、固溶強化や析出硬化によってステンレス鋼を高強度化する。このような作用は、0.02質量%以上のC含有で顕著になる。しかし、0.20質量%を超える過剰量のCが含まれると、高温保持中に巨大な粒界炭化物が析出しやすくなり、材料を脆化させる。
【0011】
Si:0.8〜3.0質量%
フェライト形成元素であり、オーステナイト相中で大きな固溶強化能を呈し、高温保持中に歪み時効によって時効硬化を促進させる。このような効果は、0.8質量%以上のSi含有量で顕著になる。しかし、3.0質量%を超える過剰量のSiを添加すると、高温割れが誘発され、製造上で種々のトラブルを引き起こす。
Mn:2.5質量%以下
オーステナイト形成元素であり、高価なNiの代替成分として使用され、Niの必要量を低減できる。また、Sを固定することによって熱間加工性を改善することにも有効である。しかし、2.5質量%を超える過剰量のMn添加は、σ相等の金属間化合物を析出させる原因となり、高温強度や機械的性質を低下させる。
【0012】
P:0.060質量%以下
固溶強化能の大きな合金成分であるが、靭性に悪影響を及ぼすことを考慮し、通常許容されている0.060質量%にP含有量の上限を設定した。
S:0.020質量%以下
熱間圧延段階で耳割れ発生の原因となる硫化物を生成させる有害元素であることから、S含有量は低いほど好ましい。しかし、B添加によってS含有量の許容範囲も拡大するので、0.020質量%をS含有量の上限に設定した。
【0013】
Ni:7.0〜15.0質量%
安定なオーステナイト組織を確保するために必須の合金成分であり、Niの最適含有量は鋼材に含まれるCr,Si,Mo等のフェライト形成元素量に依存する。しかし、7.0質量%未満のNi含有量ではオーステナイト相の安定化が困難になる。他方、15.0質量%を越えるNi含有量では、鋼材コストが上昇して経済的に不利となる。
Cr:13.0〜25.0質量%
耐食性・耐酸化性に必要な合金成分であり、過酷な高温腐食雰囲気に曝されるメタルガスケット用途を考慮すると少なくとも13.0質量%のCr量が必要である。しかし、25.0質量%を超える過剰量のCrが含まれると、δフェライトが形成され、安定したオーステナイト相が維持できなくなる。
【0014】
Nb:0.80質量%以下
メタルガスケットが曝される高温雰囲気下で析出物を形成し、或いはオーステナイトマトリックスに固溶することにより、硬度を上昇させ、耐ヘタリ性を改善する。しかし、0.80質量%を超える過剰量のNb含有は、高温強度向上に起因して熱間加工性を低下させる。
N:0.05〜0.25質量%
オーステナイト系ステンレス鋼の高温強度を上昇させると共に、マルテンサイト相の硬化に有効な合金成分であり、0.05質量%以上でNの添加効果が顕著になる。しかし、0.25質量%を超える過剰量のNが含まれると、鋳造時にブローホールが発生しやすくなる。
【0019】
【実施例】
表1に示す組成のステンレス鋼を真空溶解炉で溶製し、鍛造,熱延,焼鈍,冷延工程を経て板厚0.5〜0.2mmのステンレス鋼帯を製造した。
【0020】
【表1】
Figure 0004785302
【0021】
各ステンレス鋼帯から150mm×150の正方形試験片を切り出し、試験片の中央に内径75mmの円形開口を形成し、開口周辺に幅2.5mm,高さ0.25mm,突起部2Rのビードをプレス成形することによりメタルガスケット(図1)を作製した。次いで、ビード部を含んで200mm角に切り出し、ビード部がフラットになるように治具で押え、700℃に48時間保持した後、室温まで徐冷した。
徐冷後の試験片について、室温での素材硬度及び残存ビード高さを測定した。
なお、残存ビード高さの測定には焦点顕微鏡を使用し、3点の平均値として算出した。
【0022】
表2の測定結果にみられるように、鋼種No.1〜7(本発明例)では700℃×48時間加熱後に室温での残存ビード高さが0.210mm以上であり、メタルガスケットに要求される耐ヘタリ性を備えていた。
他方、比較鋼No.8〜13(比較例)では、何れも残存ビード高さが0.200mm未満であり、メタルガスケットとしての性能上に問題があった。残存ビード高さが低い理由には、次のような原因が考えられる。比較鋼No.8はSi量が不足し、比較鋼No.11,12はHVR値,C+2Nが低すぎるため、耐ヘタリ性が十分でない。比較鋼No.9は、過剰量のCを含んでいることから加熱保持中に炭化物が過剰析出してビード部に割れが発生した。比較鋼No.10は、過剰なCr含有のためδフェライト生成に起因する割れが発生した。比較鋼No.13は、Ni量が不足するためオーステナイト単相組織を維持できず、マルテンサイトの生成によって高温保持中で著しく軟化し、ヘタリ量が多くなった。
【0023】
この対比から明らかなように、Ni量を低減したオーステナイト系ステンレス鋼であっても、HVR値、C+2Nの適正管理により、形状凍結性に優れ、長期間にわたって気密性を維持するメタルガスケットが得られることが確認された。
【0024】
【表2】
Figure 0004785302
【0025】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、Ni量を低減した成分系においてC+2Nが0.20質量%以上でHVR値が0.45以上となる成分設計を採用することにより、メタルガスケットに要求される500〜800℃の高温環境での耐ヘタリ性に優れている。また、このオーステナイト系ステンレス鋼をエギゾストマニホルド,インテックマニホルド等の低温用メタルガスケットとして自動車用エンジンに組み込むと、周辺機器の寿命やエンジン自体の性能が向上する。また、エンジン用ガスケットの他に、自動車排ガス部品,自動車排気管の振動遮断用継手に使用されるボールジョイント部に組み込まれる弾性ガスケットにも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 圧縮疲労試験,ヘタリ試験に用いたビード付き試験片

Claims (1)

  1. C:0.02〜0.20質量%,Si:0.8〜3.0質量%,Mn:2.5質量%以下,P:0.060質量%以下,S:0.020質量%以下,Ni:7.0〜15.0質量%,Cr:13.0〜25.0質量%,Nb:0.80質量%以下,N:0.05〜0.25質量%を含み、残部Feおよび不可避的不純物の組成をもち、C+2N:0.20質量%以上でHVR=C+2N+0.12Si+1.4Nbと定義されるHVR値が0.45以上に調整されていることを特徴とするメタルガスケット用オーステナイト系ステンレス鋼。
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