以下、各図を参照しながら、本発明の各実施形態について説明する。
<第一実施形態>
まず、図1〜図4を用いて、本発明の第一実施形態に係る燃料電池システム10について説明する。
図1は、本実施形態に係る燃料電池システム10のシステム構成を示している。燃料電池システム10は、燃料電池車両に搭載される車載電源システムとして機能するものであり、反応ガス(燃料ガス、酸化剤ガス)の供給を受けて発電する燃料電池スタック20と、酸化剤ガスとしての空気を燃料電池スタック20に供給するための酸化剤供給系30と、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池スタック20に供給するための燃料供給系40と、電力の充放電を制御するための電力系50と、システム全体を統括制御するコントローラ60と、を備えている。
燃料電池スタック20は、多数のセルを直列に積層してなる固体高分子電解質型セルスタックである。燃料電池スタック20では、アノード極において(1)式の酸化反応が生じ、カソード極において(2)式の還元反応が生じる。燃料電池スタック20全体としては(3)式の起電反応が生じる。
H2 → 2H++2e- …(1)
(1/2)O2+2H++2e- → H2O …(2)
H2+(1/2)O2 → H2O …(3)
図2は、燃料電池スタック20を構成するセル21の分解斜視図である。セル21は、高分子電解質膜22と、アノード極23と、カソード極24と、セパレータ26,27と、から構成されている。アノード極23及びカソード極24は、高分子電解質膜22を両側から挟んでサンドイッチ構造を成す拡散電極である。
ガス不透過の導電性部材から構成されるセパレータ26,27は、このサンドイッチ構造をさらに両側から挟みつつ、アノード極23及びカソード極24との間にそれぞれ燃料ガス及び酸化剤ガスの流路を形成する。セパレータ26には、断面凹状のリブ26aが形成されている。
リブ26aにアノード極23が当接することで、リブ26aの開口部は閉塞され、燃料ガス流路が形成される。セパレータ27には、断面凹状のリブ27aが形成されている。リブ27aにカソード極24が当接することで、リブ27aの開口部は閉塞され、酸化剤ガス流路が形成される。
アノード極23は、白金系の金属触媒(Pt,Pt−Fe,Pt−Cr,Pt−Ni,Pt−Ruなど)を担持するカーボン粉末を主成分とし高分子電解質膜22に接する触媒層23aと、触媒層23aの表面に形成され通気性と電子導電性とを併せ持つガス拡散層23bと、を有する。同様に、カソード極24は、触媒層24aとガス拡散層24bとを有する。
より詳細には、触媒層23a,24aは、白金、又は白金と他の金属からなる合金を担持したカーボン粉を適当な有機溶媒に分散させ、電解質溶液を適量添加してペースト化し、高分子電解質膜22上にスクリーン印刷したものである。ガス拡散層23b、24bは、炭素繊維から成る糸で織成したカーボンクロス、カーボンペーパー、又はカーボンフェルトにより形成されている。
高分子電解質膜22は、固体高分子材料、例えば、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を発揮する。高分子電解質膜22、アノード極23及びカソード極24によって膜−電極アセンブリ25が形成される。
図1に戻り、燃料電池スタック20には、燃料電池スタック20の出力電圧(FC電圧)を検出するための電圧センサ71と、出力電流(FC電流)を検出するための電流センサ72と、が取り付けられている。
酸化剤供給系30は、燃料電池スタック20のカソード極に供給される酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス通路33と、燃料電池スタック20から排出される酸化剤オフガスが流れる酸化剤オフガス通路34と、を有している。酸化剤ガス通路33には、フィルタ31を介して大気中から酸化剤ガスを取り込むエアコンプレッサ32と、エアコンプレッサ32により加圧される酸化剤ガスを加湿するための加湿器35と、燃料電池スタック20への酸化剤ガスの供給を遮断するための遮断弁A1と、が設けられている。
酸化剤オフガス通路34には、燃料電池スタック20からの酸化剤オフガスの排出を遮断するための遮断弁A2と、酸化剤ガスの供給圧を調整するための背圧調整弁A3と、酸化剤ガス(ドライガス)と酸化剤オフガス(ウェットガス)との間で水分交換するための加湿器35と、が設けられている。
燃料供給系40は、燃料ガス供給源41と、燃料ガス供給源41から燃料電池スタック20のアノード極23に供給される燃料ガスが流れる燃料ガス通路43と、燃料電池スタック20から排出される燃料オフガスを燃料ガス通路43に帰還させるための循環通路44と、循環通路44内の燃料オフガスを燃料ガス通路43に圧送する循環ポンプ45と、循環通路44に分岐接続される排気排水通路46と、を有している。
燃料ガス供給源41は、例えば、高圧水素タンクや水素吸蔵合金などで構成され、高圧(例えば、35MPa乃至70MPa)の水素ガスを貯留する。遮断弁H1を開くと、燃料ガス供給源41から燃料ガス通路43に燃料ガスが流出する。燃料ガスは、レギュレータH2やインジェクタ42により、例えば、200kPa程度まで減圧されて、燃料電池スタック20に供給される。
循環通路44には、燃料電池スタック20からの燃料オフガスの排出を遮断するための遮断弁H4と、循環通路44から分岐する排気排水通路46と、が接続されている。排気排水通路46には、排気排水弁H5が配設されている。排気排水弁H5は、コントローラ60からの指令によって作動することにより、循環通路44内の不純物を含む燃料オフガスと水分とを外部に排出(パージ)する。
排気排水弁H5を介して排出される燃料オフガスは、酸化剤オフガス通路34を流れる酸化剤オフガスと混合され、希釈器(図示せず)によって希釈される。循環ポンプ45は、循環系内の燃料オフガスをモータ駆動により燃料電池スタック20に循環供給する。
電力系50は、DC/DCコンバータ51、バッテリ52、トラクションインバータ53、トラクションモータ54及び補機類55を備えている。DC/DCコンバータ51は、バッテリ52から供給される直流電圧を昇圧してトラクションインバータ53に出力する機能と、燃料電池スタック20が発電した直流電力、又は回生制動によりトラクションモータ54が回収した回生電力を降圧してバッテリ52に充電する機能とを有する。
バッテリ52は、本発明における蓄電装置に相当するものであり、余剰電力の貯蔵源、回生制動時の回生エネルギ貯蔵源、燃料電池車両の加速又は減速に伴う負荷変動時のエネルギーバッファとして機能する。バッテリ52としては、例えば、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、リチウム二次電池等の二次電池が好適である。バッテリ52には、その残容量であるSOC(State of charge)を検出するためのSOCセンサ73が取り付けられている。
トラクションインバータ53は、例えば、パルス幅変調方式で駆動されるPWMインバータであり、コントローラ60からの制御指令に従って、燃料電池スタック20又はバッテリ52から出力される直流電圧を三相交流電圧に変換して、トラクションモータ54の回転トルクを制御する。トラクションモータ54は、例えば、三相交流モータであり、燃料電池車両の動力源を構成する。
補機類55は、燃料電池システム10内の各部に配置されている各モータ(例えば、ポンプ類などの動力源)や、これらのモータを駆動するためのインバータ類、更には各種の車載補機類(例えば、エアコンプレッサ、インジェクタ、冷却水循環ポンプ、ラジエータなど)を総称するものである。
なお、本実施形態においては、燃料電池スタック20及びバッテリ52の少なくとも一方の電力を受けて作動する機器(トラクションモータ54や補機類55)を「負荷」と総称することとする。本実施形態における電力系50は、コントローラ60からの制御信号を受けて、燃料電池スタック20やバッテリ52を負荷に接続するように機能する。
コントローラ60は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インタフェースを備えるコンピュータシステムであり、燃料電池システム10の各部を制御する。例えば、コントローラ60は、イグニッションスイッチから出力される起動信号IG(システム始動要求)を受信すると、燃料電池システム10の運転を開始し、アクセルセンサから出力されるアクセル開度信号ACC(負荷要求)や、車速センサから出力される車速信号VCなどを基に、システム全体の要求電力を求める。システム全体の要求電力は、車両走行電力と補機電力との合計値である。
補機電力には、車載補機類(加湿器、エアコンプレッサ、水素ポンプ、及び冷却水循環ポンプ等)で消費される電力、車両走行に必要な装置(変速機、車輪制御装置、操舵装置、及び懸架装置等)で消費される電力、乗員空間内に配設される装置(空調装置、照明器具、及びオーディオ等)で消費される電力などが含まれる。
コントローラ60は、燃料電池スタック20とバッテリ52とのそれぞれの出力電力の配分を決定し、燃料電池スタック20の発電量が目標電力に一致するように、酸化剤供給系30及び燃料供給系40を制御するとともに、DC/DCコンバータ51を制御して、燃料電池スタック20の出力電圧を調整することにより、燃料電池スタック20の運転ポイント(出力電圧、出力電流)を制御する。
燃料電池スタック20では、上述の(1)式に示すように、アノード極23で生成された水素イオンが電解質膜22を透過してカソード極24に移動し、カソード極24に移動した水素イオンは、上述の(2)式に示すように、カソード極24に供給されている酸化剤ガス中の酸素と電気化学反応を起こし、酸素の還元反応を生じさせる。その結果、触媒層24aの白金触媒表面を酸化皮膜が覆って有効面積が減少し、発電効率(出力特性)が低下する。
そこで、コントローラ60は、燃料電池システム10の始動時において、カソード極24の触媒表面から白金皮膜及びアニオン吸着を除去する「リフレッシュ処理」を実施する。具体的には、コントローラ60は、イグニッションスイッチから出力される起動信号IGを受信した(システム始動要求がなされた)場合に、燃料供給系40を制御してアノード極23への燃料ガスの供給を開始すると同時に、電力系50を制御して燃料電池スタック20を負荷に接続する。その後、コントローラ60は、アクセルセンサから出力されるアクセル開度信号ACCを受信した(負荷要求がなされた)場合に、酸化剤供給系30を制御してカソード極24への酸化剤ガスの供給を開始する。これにより、比較的早期に、カソード極24の触媒における白金皮膜の除去とアニオン吸着の除去とを両立させることができる。すなわち、コントローラ60は、本発明における燃料供給手段、負荷接続手段及び酸化剤供給手段として機能するものである。
次に、図3のフローチャート及び図4のタイムチャートを参照しつつ、本実施形態に係る燃料電池システム10の始動時におけるリフレッシュ処理の手順について説明する。
まず、コントローラ60は、イグニッションスイッチから出力される起動信号IG(システム始動要求)を受信したか否かを判定する(始動要求判定工程:S1)。そして、コントローラ60は、始動要求判定工程S1において起動信号IGを受信したものと判定した場合に、その受信した時点(システム始動要求がなされた時点)から、燃料供給系40を制御することによりアノード極23への燃料ガスの供給を開始する(燃料供給工程:S2)。また、コントローラ60は、燃料ガスの供給開始と同時に、電力系50を制御することにより燃料電池スタック20を負荷に接続する(負荷接続工程:S3)。なお、起動信号IGを受信した時点においては、燃料電池スタック20での発電は行われていない。
負荷接続工程S3を経た後、コントローラ60は、アクセルセンサから出力されるアクセル開度信号ACC(負荷要求)を受信したか否かを判定する(負荷要求判定工程:S4)。そして、コントローラ60は、負荷要求判定工程S4においてアクセル開度信号ACCを受信したものと判定した場合に、その受信した時点(負荷要求がなされた時点)から、酸化剤供給系30を制御することによりカソード極24への酸化剤ガスの供給を開始する(酸化剤供給工程:S5)。
燃料供給工程S2、負荷接続工程S3及び酸化剤供給工程S5を順次経ることにより、比較的早期に、カソード極24の触媒における白金皮膜の除去とアニオン吸着の除去とを両立させることができる。なお、燃料供給工程S2、負荷接続工程S3及び酸化剤供給工程S5を順次経ることにより、燃料電池スタック20での発電が開始されるため、コントローラ60は、燃料電池スタック20から電力を負荷に供給させて負荷運転を実現させる(燃料電池運転工程:S6)。
従来の燃料電池システムにおいては、図4(A)に示すように、起動信号(システム始動要求)が出力されると、アノード極及びカソード極の双方に反応ガスを供給してアイドル運転を実施していた。アイドル運転とは、燃料電池スタックにおける発電を一時的に休止してバッテリから負荷への電力供給を行い、燃料電池スタックには開放端電圧を維持し得る程度の反応ガスを間欠的に供給する運転モードである。従来は、このアイドル運転の実施中にアクセル開度信号が出力されると、燃料電池スタックを負荷に接続するとともに燃料電池スタックでの発電を開始し、燃料電池スタックからの電力を負荷に供給して負荷運転を実施していた。
これに対し、本実施形態に係る燃料電池システム10におけるコントローラ60は、図4(B)に示すように、起動信号IG(システム始動要求)が出力されると、まずアノード極23への燃料ガスの供給を開始すると同時に燃料電池スタック20に負荷を接続する。その後、コントローラ60は、アクセル開度信号ACC(負荷要求)が出力された段階でカソード極24への酸化剤ガスの供給を開始して燃料電池スタック20での発電を開始させ、燃料電池スタック20からの電力を負荷に供給させて負荷運転を実施している。
図4(B)から明らかなように、本実施形態においては、燃料ガスの供給開始時点(負荷接続時点)から酸化剤ガスの供給開始時点までカソード極24の電位は低く維持されることとなり、これにより、白金皮膜の除去が達成される。また、カソード極24に酸化剤ガスを供給する前にアノード極23に燃料ガスを供給しかつ負荷を接続しているため、酸化剤ガスの供給前にカソード極24への水素の移動量が増大するので、この状態で酸化剤ガスを供給することによりカソード極24において比較的多くの水分を生成することができる。これにより、アニオン吸着の除去が達成されることとなる。
以上説明した実施形態に係る燃料電池システム10においては、燃料電池スタック20のカソード極24への酸化剤ガスの供給を開始する前に、アノード極23への燃料ガスの供給を開始しかつ燃料電池スタック20を負荷に接続するため、酸化剤ガスの供給開始前にカソード極24への水素の移動量を増大させるとともにカソード極24の電位を低下させることができる。そして、カソード極24への水素の移動量を増大させた状態でカソード極24への酸化剤ガスの供給を開始することにより、カソード極24において水分を比較的多く生成することができる。この結果、比較的早期に、カソード極24の触媒における白金皮膜の除去とアニオン吸着の除去とを両立させることができる。よって、本実施形態に係る燃料電池システム10が搭載された燃料電池車両において、燃料消費量を低減(燃料消費率を向上)させつつ良好な運転性能を確保することができる。
また、以上説明した実施形態に係る燃料電池システム10においては、起動信号IG(システム始動要求)が出力されてからアクセル開度信号ACC(負荷要求)が出力されるまでの間に、アノード極23への燃料ガスの供給及び負荷接続を行うことができる。すなわち、システム始動から負荷運転開始までの時間を有効利用して、カソード極24への水素の移動量を増大させることができる。従って、負荷運転開始直後に、白金皮膜の除去とアニオン吸着の除去とを両立させることができる。
<第二実施形態>
次に、図5及び図6を用いて、本発明の第二実施形態に係る燃料電池システムについて説明する。本実施形態に係る燃料電池システムは、第一実施形態に係る燃料電池システム10のコントローラ60の制御内容を変更したものであり、その他の構成については第一実施形態と実質的に同一である。従って、第一実施形態と共通する構成については、同一の符合を付して詳細な説明を省略することとする。
本実施形態に係る燃料電池システムのコントローラは、アクセルセンサから出力されるアクセル開度信号ACC(負荷要求)を受信した場合に、電力系50を制御することにより、そのアクセル開度信号ACCを受信した時点(負荷要求がなされた時点)から所定時間だけバッテリ52から負荷に電力を供給させて、バッテリ電力のみによる負荷運転を実施させる。すなわち、本実施形態におけるコントローラは、本発明における電力制御手段として機能するものである。
また、本実施形態におけるコントローラは、第一実施形態と同様に、始動時におけるリフレッシュ処理を実施する。具体的には、本実施形態におけるコントローラは、イグニッションスイッチから出力される起動信号IGを受信した時点(システム始動要求がなされた時点)からアノード極23への燃料ガスの供給を開始すると同時に、燃料電池スタック20を負荷に接続する。そして、コントローラ60は、負荷接続後においてアクセルセンサから出力されるアクセル開度信号ACCを受信した時点(負荷要求がなされた時点)から所定時間が経過した後に、カソード極24への酸化剤ガスの供給を開始する。
次に、図5のフローチャート及び図6のタイムチャートを参照しつつ、本実施形態に係る燃料電池システムの始動時におけるリフレッシュ処理の手順について説明する。
まず、コントローラは、イグニッションスイッチから出力される起動信号IG(システム始動要求)を受信したか否かを判定する(始動要求判定工程:S11)。そして、コントローラは、始動要求判定工程S11において起動信号IGを受信したものと判定した場合に、その受信した時点(システム始動要求がなされた時点)から、燃料供給系40を制御することによりアノード極23への燃料ガスの供給を開始する(燃料供給工程:S12)。また、コントローラは、燃料ガスの供給開始と同時に、電力系50を制御することにより燃料電池スタック20を負荷に接続する(負荷接続工程:S13)。なお、起動信号IGを受信した時点においては、燃料電池スタック20での発電は行われていない。
負荷接続工程S13を経た後、コントローラは、アクセルセンサから出力されるアクセル開度信号ACC(負荷要求)を受信したか否かを判定する(負荷要求判定工程:S14)。そして、コントローラは、負荷要求判定工程S14においてアクセル開度信号ACCを受信したものと判定した場合に、その受信した時点(負荷要求がなされた時点)から、電力系50を制御することによりバッテリ52から負荷に電力を供給させて、バッテリ電力のみによる負荷運転を実施させる(バッテリ運転工程:S15)。
その後、コントローラは、アクセル開度信号ACCを受信した時点(バッテリ運転を開始した時点)から所定時間が経過したか否かを判定する(経時判定工程:S16)。そして、コントローラは、経時判定工程S16において所定時間が経過したものと判定した場合に、酸化剤供給系30を制御することによりカソード極24への酸化剤ガスの供給を開始する(酸化剤供給工程:S17)。燃料供給工程S12、負荷接続工程S13及び酸化剤供給工程S17を順次経ることにより、燃料電池スタック20での発電が開始されるため、コントローラは、燃料電池スタック20から電力を負荷に供給させて負荷運転を実現させる(燃料電池運転工程:S18)。
従来の燃料電池システムにおいては、図6(A)に示すように、起動信号が出力されると、アノード極及びカソード極の双方に反応ガスを供給してアイドル運転を実施し、その後アクセル開度信号が出力されると、燃料電池スタックを負荷に接続するとともに燃料電池スタックでの発電を開始し、燃料電池スタックからの電力を負荷に供給して負荷運転を実施していた。
これに対し、本実施形態に係る燃料電池システムにおけるコントローラは、図6(B)に示すように、起動信号IG(システム始動要求)が出力されると、まずアノード極23への燃料ガスの供給を開始すると同時に燃料電池スタック20に負荷を接続する。その後、コントローラは、アクセル開度信号ACC(負荷要求)が出力された段階で所定時間だけバッテリ運転を実施し、所定時間経過後にカソード極24への酸化剤ガスの供給を開始して燃料電池スタック20での発電を開始させ、燃料電池スタック20からの電力を負荷に供給させて負荷運転を実施している。
図6(B)から明らかなように、本実施形態においても、燃料ガスの供給開始時点(負荷接続時点)から酸化剤ガスの供給開始時点までカソード極24の電位は低く維持されることとなり、これにより、白金皮膜の除去が達成される。また、カソード極24に酸化剤ガスを供給する前にアノード極23に燃料ガスを供給しかつ負荷を接続しているため、酸化剤ガスの供給前にカソード極24への水素の移動量が増大するので、この状態で酸化剤ガスを供給することによりカソード極24において比較的多くの水分を生成することができる。これにより、アニオン吸着の除去が達成されることとなる。
以上説明した実施形態に係る燃料電池システムにおいては、燃料電池スタック20のカソード極24への酸化剤ガスの供給を開始する前に、アノード極23への燃料ガスの供給を開始しかつ燃料電池スタック20を負荷に接続するため、酸化剤ガスの供給開始前にカソード極24への水素の移動量を増大させるとともにカソード極24の電位を低下させることができる。そして、カソード極24への水素の移動量を増大させた状態でカソード極24への酸化剤ガスの供給を開始することにより、カソード極24において水分を比較的多く生成することができる。この結果、比較的早期に、カソード極24の触媒における白金皮膜の除去とアニオン吸着の除去とを両立させることができる。よって、本実施形態に係る燃料電池システムが搭載された燃料電池車両において、燃料消費量を低減(燃料消費率を向上)させつつ良好な運転性能を確保することができる。
また、以上説明した実施形態に係る燃料電池システムにおいては、アクセル開度信号ACC(負荷要求)が出力されてから所定時間だけバッテリ52から負荷に電力を供給することができる。従って、起動信号IG(システム始動要求)が出力されてからアクセル開度信号ACCが出力されるまでの時間と、アクセル開度信号ACCが出力されてから所定時間が経過するまでの時間(バッテリ52から負荷に電力が供給される時間)と、を利用して、アノード極23への燃料ガスの供給及び負荷接続を行うことができる。この結果、カソード極24への水素の移動量を増大させるための時間を充分に確保することができるので、カソード極24においてより多くの水分を生成することが可能となる。
<第三実施形態>
次に、図7及び図8を用いて、本発明の第三実施形態に係る燃料電池システムについて説明する。本実施形態に係る燃料電池システムは、第一実施形態に係る燃料電池システム10のコントローラ60の制御内容を変更したものであり、その他の構成については第一実施形態と実質的に同一である。従って、第一実施形態と共通する構成については、同一の符合を付して詳細な説明を省略することとする。
本実施形態に係る燃料電池システムのコントローラは、燃料電池スタック20の前回運転時における最大温度に基づいて、今回始動時のリフレッシュ処理における燃料ガスの供給継続時間(始動要求に基づいてアノード極23への燃料ガスの供給を開始した時点から燃料ガスの供給を継続する時間)を設定する。すなわち、本実施形態におけるコントローラは、本発明における燃料供給時間設定手段として機能するものである。コントローラは、例えば、燃料電池スタック20の前回運転時における最大温度と、燃料ガスの供給継続時間と、の相関関係を表すマップをメモリに記憶させておき、このマップを用いて、前回運転時における最大温度に対応する燃料ガスの供給継続時間を出力することができる。
また、本実施形態におけるコントローラは、第一実施形態と同様に、始動時におけるリフレッシュ処理を実施する。具体的には、本実施形態におけるコントローラは、イグニッションスイッチから出力される起動信号IGを受信した時点(システム始動要求がなされた時点)からアノード極23への燃料ガスの供給を開始すると同時に、燃料電池スタック20を負荷に接続する。そして、コントローラは、燃料ガスの供給開始時点から、設定した供給継続時間が経過した後に、カソード極24への酸化剤ガスの供給を開始する。
次に、図7のフローチャート及び図8のタイムチャートを参照しつつ、本実施形態に係る燃料電池システムの始動時におけるリフレッシュ処理の手順について説明する。
まず、コントローラは、イグニッションスイッチから出力される起動信号IG(システム始動要求)を受信したか否かを判定する(始動要求判定工程:S21)。そして、コントローラは、始動要求判定工程S21において起動信号IGを受信したものと判定した場合に、燃料電池スタック20の前回運転時における最大温度に基づいて、今回始動時のリフレッシュ処理における燃料ガスの供給継続時間を設定する(燃料供給時間設定工程:S22)。次いで、コントローラは、起動信号IGを受信した時点(システム始動要求がなされた時点)から、燃料供給系40を制御することによりアノード極23への燃料ガスの供給を開始する(燃料供給工程:S23)と同時に、電力系50を制御することにより燃料電池スタック20を負荷に接続する(負荷接続工程:S24)。なお、起動信号IGを受信した時点においては、燃料電池スタック20での発電は行われていない。
負荷接続工程S24を経た後、コントローラは、アクセルセンサから出力されるアクセル開度信号ACC(負荷要求)を受信したか否かを判定する(負荷要求判定工程:S25)。そして、コントローラは、負荷要求判定工程S25においてアクセル開度信号ACCを受信したものと判定した場合に、燃料ガスの供給開始時点から、燃料供給時間設定工程S22で設定した供給継続時間が経過した否かを判定する(経時判定工程:S26)。
次いで、コントローラは、経時判定工程S26において供給継続時間が経過したものと判定した場合に、酸化剤供給系30を制御することによりカソード極24への酸化剤ガスの供給を開始する(酸化剤供給工程:S27)。燃料供給工程S23、負荷接続工程S24及び酸化剤供給工程S27を順次経ることにより、燃料電池スタック20での発電が開始されるため、コントローラは、燃料電池スタック20から電力を負荷に供給させて負荷運転を実現させる(燃料電池運転工程:S28)。
一方、コントローラは、経時判定工程S26において供給継続時間が経過していないものと判定した場合に、電力系50を制御することによりバッテリ52から負荷に電力を供給させて、バッテリ電力による負荷運転を実施させる(バッテリ運転工程:S29)。その後、コントローラは、経時判定工程S26に戻って供給継続時間が経過した否かを判定し、供給継続時間が経過したものと判定した場合に、既に述べた酸化剤供給工程S27及び燃料電池運転工程S28を実施する。
従来の燃料電池システムにおいては、図8(A)に示すように、起動信号が出力されると、アノード極及びカソード極の双方に反応ガスを供給してアイドル運転を実施し、その後アクセル開度信号が出力されると、燃料電池スタックを負荷に接続するとともに燃料電池スタックでの発電を開始し、燃料電池スタックからの電力を負荷に供給して負荷運転を実施していた。
これに対し、本実施形態に係る燃料電池システムにおけるコントローラは、図8(B)に示すように、起動信号IG(システム始動要求)が出力されると、まずアノード極23への燃料ガスの供給を開始すると同時に燃料電池スタック20に負荷を接続する。その後、コントローラは、燃料ガスの供給開始時点から、設定した供給継続時間が経過した後に、カソード極24への酸化剤ガスの供給を開始して燃料電池スタック20での発電を開始させ、燃料電池スタック20からの電力を負荷に供給させて負荷運転を実施している。
図8(B)から明らかなように、本実施形態においても、燃料ガスの供給開始時点(負荷接続時点)から酸化剤ガスの供給開始時点までカソード極24の電位は低く維持されることとなり、これにより、白金皮膜の除去が達成される。また、カソード極24に酸化剤ガスを供給する前にアノード極23に燃料ガスを供給しかつ負荷を接続しているため、酸化剤ガスの供給前にカソード極24への水素の移動量が増大するので、この状態で酸化剤ガスを供給することによりカソード極24において比較的多くの水分を生成することができる。これにより、アニオン吸着の除去が達成されることとなる。
以上説明した実施形態に係る燃料電池システムにおいては、燃料電池スタック20のカソード極24への酸化剤ガスの供給を開始する前に、アノード極23への燃料ガスの供給を開始しかつ燃料電池スタック20を負荷に接続するため、酸化剤ガスの供給開始前にカソード極24への水素の移動量を増大させるとともにカソード極24の電位を低下させることができる。そして、カソード極24への水素の移動量を増大させた状態でカソード極24への酸化剤ガスの供給を開始することにより、カソード極24において水分を比較的多く生成することができる。この結果、比較的早期に、カソード極24の触媒における白金皮膜の除去とアニオン吸着の除去とを両立させることができる。よって、本実施形態に係る燃料電池システムが搭載された燃料電池車両において、燃料消費量を低減(燃料消費率を向上)させつつ良好な運転性能を確保することができる。
また、以上説明した実施形態に係る燃料電池システムにおいては、燃料電池スタック20の前回運転時における最大温度に基づいて燃料ガスの供給継続時間を設定し、この供給継続時間が経過した後に、カソード極24への酸化剤ガスの供給を開始することができる。例えば、高温運転ほどアニオン吸着が発生し易いことを考慮し、燃料電池スタック20の前回運転時における最大温度が比較的高い場合には燃料ガスの供給継続時間を比較的長く設定することができる。従って、前回運転時に発生したアニオン吸着を効果的に除去することが可能となる。
なお、第三実施形態においては、経時判定工程S26よりも前に負荷要求判定工程S25を実施した例を示したが、負荷要求判定工程S25よりも前に経時判定工程S26を実施してもよい。すなわち、アクセル開度信号ACCを受信したか否かの判定を行う前に、設定した供給継続時間が経過したか否かの判定を行い、供給継続時間が経過した場合にカソード極24への酸化剤ガスの供給を開始することもできる。このような場合には、供給継続時間が経過するまではバッテリ52から負荷に電力を供給し、供給継続時間が経過した段階で燃料電池スタック20での発電を開始させて燃料電池スタック20から負荷に電力を供給することができる。
また、以上の各実施形態においては、燃料ガスの供給開始と同時に燃料電池スタック20に負荷を接続した例を示したが、燃料ガスの供給開始後に燃料電池スタック20に負荷を接続することもできる。また、燃料ガスの供給開始前に燃料電池スタック20に負荷を接続しておいてもよい。
また、以上の各実施形態においては、本発明に係る燃料電池システムを燃料電池車両に搭載した例を示したが、燃料電池車両以外の各種移動体(ロボット、船舶、航空機等)に本発明に係る燃料電池ユニットを搭載することもできる。また、本発明に係る燃料電池ユニットを、建物(住宅、ビル等)用の発電設備として用いられる定置用発電システムに適用してもよい。