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JP5659467B2 - 成形物の製造方法 - Google Patents

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Description

セルロースナノファイバーのような水溶性あるいは水分散性多糖類の製造方法と成形物に関するものであり、各種バリア材料、支持体、フィルター材料、生体適合性材料などへの適合可能な材料となる成形物の製造方法と成形物に関するものである。
近年、温暖化などによる環境の悪化や石油枯渇化が懸念されており、再生可能な天然資源を有効利用しようという流れがあらゆる分野の材料開発で起こっている。特にセルロースは植物の細胞壁などに存在し、原料としては空気中の二酸化炭素を取り込んで生合成されるため、カーボンニュートラルな材料として注目されている。現在では、セルロースを用いた様々な材料が開発されており、高機能性材料として利用されている。しかし、セルロースエステルやセルロースエーテルなど、その多くが有害な試薬や有機溶媒を用いる反応によりセルロースを化学修飾などにより改質するものが多く、生成物も各種有機溶媒に溶解するが水には溶解しないため、成形時にも有機溶媒を使用するものが多く、有機溶媒を除去するためにエネルギーを必要とし、また除去した有機溶媒を回収する設備が必要になるなどの問題があった。また、用途によっては導入した官能基が各種機能発現の阻害や、生体や環境への悪影響を及ぼす事などが懸念されている。また、これらの誘導体を用いてナノファイバーやフィルムなどを成形するには、有毒な有機溶媒を用いることが多い。水に溶解する誘導体も開発され、水を用いた成形方法も開発されているが、即座に低いエネルギーで乾燥・成形することは技術的に困難であった。
そこで、特開2008−1728のように、天然のセルロース素材を水系の処理により改質した後、解繊の処理を施すことによりナノファイバーを得る方法が知られている。この方法を用いることで、天然の構造を有効に利用しつつナノファイバ−を得ることと、水などの安全な溶媒を用いた成形が可能となった。
特開2008−1728号公報
しかしながら、特許文献1のセルロースナノファイバーのような水溶性あるいは水分散性の高分子はそのナノ化機構が水などの沸点の高い極性溶媒による静電的な反発を利用した解繊を主とする分散機構からなるため、高分子の周りにある程度量の溶媒が必要となる。そのため、水溶液あるいは水分散液の中のセルロース分の濃度が薄くなってしまい、この水溶液あるいは水分散液から成形物を得るには多量の溶媒を除去する必要があった。水などの溶媒の除去には多量のエネルギーを必要とするうえ、水から成形を行った場合、成形物が水や湿度に弱く、一旦成形しても再度水や水蒸気に触れた際に膨潤・崩壊してしまうという問題があった。
そこで、本発明は天然資源を利用した高分子の成形体を少ないエネルギーで効率よく溶媒を除去し、成形物を形成する方法と成形物を提供することを目的としている。更に、水や湿度に強い成形物を提供することにある。
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、石膏から成る多孔質基材の表面に、溶媒である水とカルボキシル基の量が0.1mmol/g以上1.7mmol/g以下であり、短軸方向1nm以上500nm以下、長軸方向が500nm以上1000μm以下であり、セルロースを原料に用いたセルロースIの結晶性を有するセルロースナノファイバーとを含む液を接触させる工程と、前記多孔質基材により前記溶媒である水を除去してフィルム状の成形物を形成する工程と、前記多孔質基材により、前記溶媒である水を除去することで、前記液の固形分濃度を4%以上にしてフィルム状の成形物を形成する工程と、形成された前記フィルム状の成形物を前記多孔質基材から剥離する工程と、形成された前記フィルム状の成形物を乾燥する工程と、形成された前記フィルム状の成形物を洗浄する工程と、を具備することを特徴とするフィルム状の成形物の製造方法であり、または形成された前記フィルム状の成形物を洗浄する工程を挟まずに、乾燥する工程の後において、石膏を多孔質基材に用いて成形したフィルム状の成形物からは0.1から1.5%のナトリウムが検出され、カルシウムは1.2から7%検出され、フィルム状の成形物を洗浄した後に乾燥させたフィルム状の成形物表面からは、カルシウムが0.5から6%に減少していることを特徴とするフィルム状の成形物の製造方法である。
本発明によれば、水などの安全性の高い溶媒を用いながら、少ないエネルギーで効率よく成形物を得ることができ、また、水や湿度に強い成形体を得ることが可能となった。
本発明を詳細に説明する。本発明の成形物の製造方法は、多孔質基材上に溶媒に溶解或いは分散させた高分子を含む液を接触させ、液の固形分濃度を4%以上に濃縮することで、高分子の成形物を得る製造方法である。この工程を経ることで、更に乾燥工程を経ても、従来の成形方法と比べ、成形物の形成のためのエネルギーを大きく減少させることができる。逆に、濃縮工程で固形分濃度が4%より小さいと、成形物の強度を保持し難く、また、その後乾燥工程を経る場合、溶媒の除去に従来と同じく大きなエネルギーを投入することになる。
多孔質基材上に溶媒に溶解或いは分散させた高分子を含む液を接触させる方法は、公知の方法を用いることができ、具体的には、多孔質基材又はロール状多孔質基材の表面に溶媒に溶解或いは分散させた高分子を含む液をキャスト、コーティング、型押し、鋳型成形する方法などが挙げられる。
本発明の成形物の製造方法は、多孔質基材上に形成された成形物を多孔質基材から剥離する工程を有してもよい。多孔質基材により液の固形分濃度を4%以上に濃縮して形成した成形物は、液に含まれる高分子の種類によっては、固体物としてある程度の強度を保持することができる。このため、形成した成形物は、多孔質基材から剥離することが可能であり、剥離した成形物はその物性に応じてゲル状あるいは固形状でそのままの形状あるいは更にカレンダリング、エンボス、延伸、多孔化、成形などを行うことも可能で各種用途に適用することができる。
また、本発明の成形物の製造方法は、多孔質基材上に形成された成形物を乾燥する工程を有してもよい。液の固形分濃度は多孔質基材により4%以上に濃縮することができるので、それ以上に液を濃縮して固形分濃度を調整したい場合や、成形物の強度を調整したい場合に、乾燥工程を経ることで液の固形分濃度や成形物の強度を調整することができる。
また、本発明の成形物の製造方法は、形成された成形物を洗浄する工程を有してもよい。多孔質基材の材質によっては、形成された成形物の表面に異物等が付着する場合がある。このような場合に形成された成形物を洗浄する工程を経ることで、成形物の表面に付着した異物を除去することが可能である。
本発明の剥離工程、乾燥工程、洗浄工程は必要に応じて行えばよく、高分子の含有量の高いままのゲル状のような成形物を得る場合は、濃縮工程のみの状態をとることもでき、また、ゲルを更にアルコールなどの溶媒中に投入することで多孔質な成形物を得ることも可能である。
剥離工程、乾燥工程、洗浄工程は、多孔質基材の表面に成形物を形成する工程を経た後であれば、どのような順序で各工程を経てもよく、形成された成形物の物性や成形物の用途に応じて適宜順序を選択することができる。
本発明の多孔質基材は、主に溶媒を除去し、固形分濃度を濃縮するための基材である。多孔質基材の孔径は、溶媒が通る大きさがあれば特に限定されないが、例えば、数nmから数mmの無数の孔が空いている基材などを用いることができる。孔径は、大きいと目詰まりもしにくく、効率的な溶媒の除去が可能となるが、高分子物質の抜けが多くなり、成形物の表面平滑性に劣る傾向がある。また、孔径は成形物の表面形状にも影響してくる。しかし、多孔質基材と高分子間の相互作用などによっても変わってくるので、基材・高分子・溶媒の種類と量、用途に合わせて適宜選択することが可能である。
例えば、1nmから100μmの範囲が高分子の抜けや濃縮の効率から見て好ましく、更には500nmから5μmの孔径であると、高分子繊維の抜けが小さい上、目詰まりもしにくく、また濃縮の効率もよいため好ましい。
本発明の多孔質基材による溶媒の除去方法は、孔による毛細管現象あるいは孔内の溶媒との親和性によって、溶媒が多孔質基材の孔内に取り込まれるが、外力を加えて強制的に溶媒を多孔質基材の孔内に取り込むことも可能である。例えば、多孔質基材の表側から圧力をかけて溶媒を孔内に押し込んだり、多孔質基材の裏側を陰圧にすることで溶媒を孔内に引き込んだりすることもできる。このように外力を加えて強制的に溶媒を多孔質基材の孔内に取り込むことで、短時間で液の固形分濃度を上げることができる。
また、多孔質基材の材質は、有機、無機あるいは有機無機の複合体から選ぶことが出来る。有機多孔質基材を用いる場合、基材にフレキシビリティーを持たすことが容易であるというメリットがあり、連続シート状の基材を用いて連続フィルムなどを形成することもできる。また、無機多孔質基材を用いる場合、基材の環境負荷やコストを抑えることができる。
特に、後述する高分子にカルボキシル基やカルボキシル基ナトリウム塩など多価の陽イオンと交換し、無数のイオン結合を形成することが出来る材料を用いた場合、多孔質基材に、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、コバルト、シリカ、銅、銀、金、白金或いは多価アミンなどの水中でイオン化しうる二価以上の陽イオンを含むものを用いることで、更に、本発明の1つの目的でもある耐水・耐湿成形物を容易に得ることが可能である。
有機多孔質基材の材質は、具体的には、木粉やパルプ、セルロースやセルロース誘導、キチン、キトサンなどの多糖類体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリアクリル酸、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル、エチレンブタジエン共重合体などのエラストマー樹脂、エポキシ樹脂などを例として挙げることができる。これらの材質は単体で用いてもよく、また、複数組み合わせて用いてもよい。
一方、無機多孔質基材の材質は、具体的には、石膏、メソポーラスシリカ、ゼオライト、酸化チタン、アパタイトその他多孔質セラミックスなどを例として挙げることができる。安価で形状が作りやすく、吸水性が高いという点から石膏を用いるとよい。
石膏は、硫酸カルシウムの各水和物および無水物をいい、通常、型取り・鋳込み成形には硫酸カルシウム半水和物と水で反応生成した硫酸カルシウム二水和物の型が用いられている。この硫酸カルシウム二水和物は水中でカルシウムイオンを放出する。本発明のような水に分散させたセルロースナノファイバーのように、カルボキシル基のナトリウム塩などを含む物質が接触すると、カルボキシル基のナトリウム塩とカルシウム塩が交換し、理想的には2つのカルボキシル基に1つのカルシウム塩により、架橋する。こうして成形した成形物は、再度水や水蒸気と接触しても、膨潤・溶解が抑えられる。また、石膏は無数の孔が存在しており、水などの溶媒を効率的に除去することが可能となる。この濃縮の際に、通常のポリマーなどでは孔を通りぬけようとするものが多く、目詰まりの原因となる上、成形物としての収率が低くなってしまう。しかし、セルロースナノファイバーのようなものは、幅はナノオーダーで小さくても、アスペクト比があり、長さ方向は大きい。また、特にカルボキシル基を有しているため、石膏と触れた界面でカルボキシル基カルシウム塩が生成し、石膏表面に残るものが多い。
多孔質基材に石膏を用いた場合、成形物の表面に石膏の粒子が付着することがある。この場合、上述した洗浄工程を経ることで成形物の表面に付着した石膏の粒子を除去することが可能であるが、特に、成形体を0.1Nから1Nの酸に15〜50℃の温度で浸漬することが好ましい。
また、多孔質基材に柔軟性があれば連続シート状の形状をとることで、あるいは多孔質基材に柔軟性がなければロール状などの形状をとることで、いずれにしても連続表面をもつ形状をとることで、成形物の連続的な形成が可能となる。これにより、連続フィルムなどの成形物を得ることができる。
また、成形物の成形性、密着性、離型性、表面平滑性などを付与するため、あるいは多孔質基材の表面強化などを付与するため各種表面処理を施すことが可能である。
表面処理としては、具体的には、コロナ処理、プラズマ処理、グロ−放電処理、フレーム処理、UVオゾン処理、低温プラズマ処理、エキシマレーザー光又はArFエキシマレーザー光による処理、樹脂などのコーティングなどが挙げられる。
次に、本発明の高分子について説明する。本発明の高分子はポリビニルアルコール、ポリオエチレンオキシド、ポリアミン、ポリアクリル酸などの合成高分子でもよいが、本発明の1つの目的である天然資源を利用した高分子であることが好ましい。また、絶対存在量の多さ、コスト、利用しやすさなどの点から澱粉やキチン・キトサン、セルロースなどの天然多糖類を原料に用いた高分子であるとより好ましい。中でも、セルロースや、再生セルロース、酢酸セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの改質セルロース系材料が好ましい。
また、本発明の高分子にセルロースや改質セルロースを用いた場合、これらのセルロースは結晶性セルロースであることが好ましい。結晶性が高いと成形物表面および全体の強度や、耐水性、熱安定性が向上する。
また、本発明の高分子は、カルボキシル基を持つ多糖類がイオン交換により多価陽イオンと架橋して耐水性・耐湿性を向上させることができる点から好ましい。多糖類へのカルボキシル基導入の改質については、成形物を生体材料などに用いる場合や、より緻密な膜を形成し、ガスバリア性を向上させたい場合など、用途により、導入した官能基が機能発現の阻害要因となることがない改質処方が好ましい。このような改質処方として、N−オキシル化合物を用いた水系の酸化処理により、多糖類のピラノース環のC6位の水酸基のみをカルボキシル基に変換する処方を挙げることができる。このN−オキシル化合物を用いた酸化多糖類は安全な試薬により改質処理が行われている点、緻密な膜を形成することが出来るため、成形物の表面強度、成形のしやすさの点から好ましい。
また、天然のセルロースやキチンを用いてこれらの処理を行い、続いて微細化の処理を行うことで、ナノファイバーを得ることが知られているが、このナノファイバーは原料調製の環境負荷が小さいことに加え、高い結晶性とある範囲の均一な大きさを有するため、本発明の高分子としてナノファイバーを用いることは、成形物表面および全体の強度と柔軟性、耐水性、熱安定性という点から好ましい。
本発明の高分子は、短軸方向1nm以上500nm以下、長軸方向が500nm以上1000μm以下の繊維状高分子を含むことを特徴としている。これは多くの高分子の場合、分子が単分散しているのではなく、ある単位で分子間力・水素結合・共有結合などでまとまった繊維状をしていることを意味しており、天然セルロースなどの場合、これは結晶構造をもつミクロフィブリルなどがこれにあたる。このある程度の大きさと短軸と長軸を持つことで、孔の大きさが分子や繊維の大きさより遥かに大きくても、抜けが少なく収率良く、また良好な形状の成形物を得ることができる。
また、本発明の高分子は、カルボキシル基を含むことを特徴としている。カルボキシル基が導入されていることで、水などの溶液・分散液にしたときの分散性が良く、良好な表面や形状の成形が可能になる。高分子中にカルボキシル基を含むことで、イオン交換により多価陽イオンと架橋して耐水性・耐湿性を向上させることができる点から好ましい。特に、本発明の高分子は、1分子または1ファイバー中に複数のカルボキシル基を含むことが好ましい。なお、1ファイバーとは高分子が溶媒などの中で分散しうる1つの集合体・単位のことをいい、1分子でも、あるいは複数の分子が集まり集合体を成していても良い。
本発明の高分子は、高分子に含まれるカルボキシル基の量が、0.1mmol/g以上6.0mmol/g以下であることが好ましい。0.1mmol/g以下であると、陽イオンと交換する点が少なく、架橋点が少なく、耐水性・耐湿性向上の効果が薄い。また、6.0mmol/gより大きいと接触させただけでの陽イオンとの交換が不十分であるなどの理由で、交換せずに残るカルボキシル基やナトリウム塩の量が多いため、耐水性・耐湿性の向上が不十分で、成形物の水による膨潤などが大きくなってしまう。耐水性・耐湿性の向上、および成形物の形状などの観点からは、0.1mmol/g以上2.5mmol/g以下であるとより好ましく、更に耐熱性などの観点からは0.1mmol/g以上1.7mmol/g以下であるとより好ましい。
また、本発明に用いられる溶媒は、成形際に及ぼす環境への影響を少しでも少なくするという観点、多孔質基材との接触によりイオン化しうる二価以上の陽イオンを取り込み、耐水化・耐湿化ができると言う点から、水や、水を含む溶媒であることが好ましい。
前述のN−オキシル化合物を用いた酸化処理と微細化により調製したセルロースナノファイバーは、カルボキシル基を有し、かつナトリウム塩を形成している。例えば、本発明の高分子としてナノファイバーを用いる場合、多孔質基材に石膏を用いて本発明の成形物の製造方法により形成した成形物は、カルボキシル基のナトリウム塩が水溶液中で石膏のカルシウム塩と置き換わり、イオン交換が起こり、カルボキシル基のカルシウム塩を形成した成形物が得られる。イオン交換は、セルロース水溶液と石膏の界面で頻繁に起こるため、石膏へのセルロースナノファイバーの浸透が抑えられ、水と交換したナトリウム塩が石膏に吸収される。濃縮の途中でも水がセルロースナノファイバーの周りに存在しているため、界面のみでなく、内部でもイオン交換が起こる。そのため、例えば30μm程度のフィルムを成形したとき、フィルムの石膏面だけでなく、石膏に直接接していない面においても、ナトリウムイオンが減少していることが確認できる。
本発明の成形物に含まれる元素分析法としては各種手法が適用できるが、ICP,ESCA,EPMA(EDX,WDX)などの手法を用いてイオン交換されていることを確認できるが、EPMAにおいては固体サンプルのまま簡便に測定が行える。
本発明の成形物は、ナトリウム元素濃度が3%以下であることが好ましい。ナトリウム元素濃度が3%以下であることによって本発明の目的のひとつである耐水性や耐湿性が格段に向上する。また、電子部材、生態適合性材料など特殊な用途への利用が広がる。
また、本発明の成形物は、カルシウム元素濃度が1%以上20%以下であることが好ましい。カルシウム元素濃度が0.5%以上20%以下であることによって、耐水性・耐湿性が向上する上、生体適合性材料・細胞培地などへの利用が期待できる。
なお、セルロースナノファイバーを通常の方法によりキャストし、そのEPMAを測定すると、ナトリウムが元素濃度で2から7%検出され、カルシウムは検出されない。一方、石膏を多孔質基材に用いて成形したフィルムからは0.1から1.5%のナトリウムが検出され、カルシウムは1.2から7%検出される。また、得られた成形物を洗浄した後の成形物表面からは、ナトリウムは更に減少し、カルシウムも0.5から6%に減少することが確認できる。
本発明の成形物は、具体的には、ゲル、フィルム、シート、多孔質シート、筒状、ボトル、針状、繊維状、リボン状などが挙げられる。
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明する。
<製造例>
針葉樹クラフトパルプ30gを水600gに浸漬し、ミキサーにて分散させた。分散後のパルプスラリーにあらかじめ水200gに溶解させたTEMPOを0.3g、NaBrを3g添加し、更に水で希釈し全体を1400mLとした。系内を20℃に保ち、セルロース1gに対し10mmolになるよう次亜塩素酸ナトリウム水溶液を計りとり、30分で滴下した。滴下開始からpHは低下を始めるが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを10に保つ。2時間後、0.5N水酸化ナトリウムが2.5mmol/gになったところでエタノールを30g添加し、反応を停止させた。反応系に0.5N塩酸を添加し、pH2まで低下させた。酸化パルプをろ過し、0.01N塩酸または水で繰返し洗浄した後、酸化パルプを得た。得られた酸化パルプを水で希釈し水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8の1%分散液を得た。超音波ホモジナイザーで20分間処理し、pH8の透明な1%セルロースナノファイバー水溶液を得た。
<分析:カルボキシル基量測定>
得られたナノファイバー水溶液の濃度を正確に測定した後、固形分で0.1g相当を計り取り、0.2%濃度に希釈して、塩酸を添加することでpH2とした後、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を0.1mL/minの定速で注入しながら電導度を測定し、その変動からカルボキシル基により電導度が変動し難くなる領域を読み取り、カルボキシル基量を測定した。その結果、製造例で作成したセルロースナノファイバーのカルボキシル基量は1.6mmol/gであった。得られたセルロースナノファイバー水溶液をスチレン容器の中で80℃で乾燥させ、乾燥固形物を得た
<分析:結晶性>
乾燥固形物のX線回折を測定した。セルロースナノファイバーはセルロースIの結晶性を有することを確認した。
<分析:ナトリウム濃度>
固形物のEPMAを測定した。ナトリウムが元素濃度で6.3%検出された。
<分析:繊維観察>
SEMによりセルロースナノファイバーの乾燥固形物の観察を行った。繊維幅は10nm、繊維長さは約5μmであることが分かった。
<実施例1>
多孔質基材として石膏(サンエス石膏 特緑)を用いた。規定の量の水中に石膏を加え、手早くかき混ぜた後、筒状の型に流し込み石膏のロールを作成した。多孔質基材の上に製造例1の1%セルロースナノファイバー水溶液を載せ、圧力をかけてセルロースナノファイバー水溶液を濃縮させた。固形分濃度4%まで濃縮し、石膏からフィルム状の成形物を剥がした。自然乾燥により、膜厚10μmの実施例1の成形物を作製した。
<実施例2>
実施例1と同様に石膏からセルロースナノファイバーフィルムを剥がし、0.1N塩酸水溶液に25℃の温度で浸した。10分後、取り出して80度のオーブンで1晩乾燥させ、実施例2の成形物を作成した。
<評価:元素濃度>
実施例1および実施例2で作製した成形物のEPMAを測定した。実施例1は元素濃度でナトリウムが0.7%、カルシウムが3.6%であった。実施例2はナトリウムが0.1%、カルシウムが1.2%であった。
<評価:溶解性試験>
製造例のセルロースナノファイバー、実施例1および実施例2で作製した成形物を、水、0.01N水酸化ナトリウム水溶液、pH7.4の生理食塩水、0.01N塩酸水溶液に浸漬した。3時間後形状を観察したところ、製造例のセルロースナノファイバーを単に乾燥させたものは水、水酸化ナトリウム水溶液中で崩壊あるいは溶解したが、実施例1の成形物は水あるいは水酸化ナトリウム水溶液中で膨潤したが、溶解あるいは崩壊は見られなかった。また、実施例2の成形物は水酸化ナトリウム水溶液中では膨潤したが、水、塩酸水溶液中では膨潤も見られなかった。
<評価:透明性試験>
得られた成形物の透明性を透過率により測定した。660nmでの透過率は実施例1も実施例2も85%以上を維持していた。
本発明の成形物の製造方法は、各種バリア材料、支持体、フィルター材料、生体適合性材料などへの適合可能な材料となる成形物の製造方法として用いることができる。

Claims (1)

  1. 石膏から成る多孔質基材の表面に、溶媒である水とカルボキシル基の量が0.1mmol/g以上1.7mmol/g以下であり、短軸方向1nm以上500nm以下、長軸方向が500nm以上1000μm以下であり、セルロースを原料に用いたセルロースIの結晶性を有するセルロースナノファイバーとを含む液を接触させる工程と、
    前記多孔質基材により前記溶媒である水を除去してフィルム状の成形物を形成する工程と、
    前記多孔質基材により、前記溶媒である水を除去することで、前記液の固形分濃度を4%以上にしてフィルム状の成形物を形成する工程と、
    形成された前記フィルム状の成形物を前記多孔質基材から剥離する工程と、
    形成された前記フィルム状の成形物を乾燥する工程と、
    形成された前記フィルム状の成形物を洗浄する工程と、
    を具備することを特徴とするフィルム状の成形物の製造方法であり、形成された前記フィルム状の成形物を洗浄する工程を挟まずに、乾燥する工程の後において、石膏を多孔質基材に用いて成形したフィルム状の成形物からは0.1から1.5%のナトリウムが検出され、カルシウムは1.2から7%検出され、フィルム状の成形物を洗浄した後に乾燥させたフィルム状の成形物表面からは、カルシウムが0.5から6%に減少していることを特徴とするフィルム状の成形物の製造方法。
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