JP5658609B2 - マグネシウム合金材およびエンジン部品 - Google Patents
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Description
その一方で、長周期積層構造とα−Mgとで形成される前記ラメラ相の領域内では、比較的粗大な板状析出物が主たる析出物として多数存在しており、これがGd−Zn系マグネシウム合金材の高温疲労強度を大きく向上させている要因であることを知見した。
本発明マグネシウム合金材(鍛造材)の特徴的な組織を、図1:500倍のSEM像、図2:図1のA部を部分的に拡大して示す5000倍のSEM像、図3:図1のB部を部分的に拡大して示す5000倍のSEM像で各々示す。この図1(図2、3)は後述する実施例表1の発明例1のSEM像である。
このようなマグネシウム合金材組織において、本発明では、前記長周期積層構造の相の領域内に、図2に拡大して示す通り、白い、粒状、棒状、線状などの様々な不定形の形状を有する、比較的粗大な粒状析出物を多数存在させる。これら図2に見えている、言い換えると、図2の視野で測定する、白い不定形の比較的粗大な粒状析出物の大きさの範囲は、最大径が0.1μm以上、3μm未満の範囲の粒状析出物であり、この粒状析出物を1.0個/μm2以上の平均個数密度で存在させる。
また、同時に、本発明では、長周期積層構造とα−Mgとで形成されるラメラ相の領域内に、図3に拡大して示す通り、比較的均一な長さ(後述する長径)を有し、互いの向く方向が規則性をもった白っぽい直線(直線状)として見える、粗大な板状析出物を多数存在させる。
前記効果の欄で記載した通り、高温疲労強度を確保するためには、マグネシウム合金材からなるエンジン部品が高温下で繰り返し荷重を受ける中、マグネシウム合金に導入される転位セルの集積を均一分散化させることが重要となる。そこで、マグネシウム合金が繰り返し荷重を受ける中で、転位セルが集積するサイトとして、ひとつは、前記ラメラ相の領域内に析出する主たる析出物に着目し、その主たる析出物の存在形態について検討した。そして、高温疲労強度特性に優れたマグネシウム合金材を得るためには、まず、前記ラメラ相に特有の析出物の存在形態が規定する条件を満たすことが有効であることを知見した。
これに対して、前記ラメラ相の領域内に多数存在させる、板状析出物の長径が3μm未満と小さくては、このような微細な板状析出物を例え前記ラメラ相の領域内に、0.1個/μm2以上の平均個数密度で、多数存在させ得たとしても、この障壁効果が弱く、転位セルを均一に分散させることができない。したがって、この板状析出物の長径は少なくとも3μmは必要である。これより長径が短い板状析出物は、障壁効果が弱く、高温疲労強度特性の向上に寄与することができない。一方、板状析出物の長径の上限については特に規定しないが、これら板状析出物を含有する前記ラメラ相の領域の長径(最大径、最大長さ)より長くなることはない。
また、例え前記ラメラ相の領域内に、規定する大きさと形状の粗大な板状析出物を存在させ得たとしても、この粗大板状析出物の平均個数密度が0.1個/μm2未満では、少なすぎて、やはり、この障壁効果が弱く、転位セルを均一に分散させることができず、十分な高温疲労強度特性を確保することができなくなる。したがって、前記した長径を満足する板状析出物の平均個数密度は少なくとも0.1個/μm2は必要である。板状析出物を0.1個/μm2以上分散させることで、高温疲労強度特性の確保に有効な疲労ダメージにより導入される転位セル構造集積の障壁を設けることができる。なお、この個数密度の上限は製造限界により定まり、0.5個/μm2を超える個数密度にすることは実質的に困難であるので、0.5個/μm2を上限とする。
前記長周期積層構造の相の領域内に存在する粒状析出物の場合も、高温疲労強度特性を向上させる機構は、粗大板状析出物の場合と同じである。前記効果の欄で記載した通り、高温疲労強度を確保するためには、マグネシウム合金材からなるエンジン部品が高温下で繰り返し荷重を受ける中、マグネシウム合金に導入される転位セルの集積を均一分散化させることが重要となる。そこで、マグネシウム合金が繰り返し荷重を受ける中で、転位セルが集積するサイトとして、もうひとつの、前記長周期積層構造の相の領域内に析出する主たる析出物に着目し、その主たる析出物の存在形態について検討した。そして、高温疲労強度特性に優れたマグネシウム合金材を得るためには、もうひとつ、この長周期積層構造の相に特有の析出物の存在形態が規定する条件を満たすことが有効であることを知見した。
ただ、この粒状析出物の場合には、粗大板状析出物のような形状ではなく、ミクロン(μm)オーダの比較的粗大なサイズの効果である。このように、従来のようなナノメータオーダのような微細なサイズではなく、ミクロン(μm)オーダのサイズに大きくすることによって、板状のような形状効果は無いものの、析出物が適切な厚みを持たせて、繰り返し荷重を受ける中で割れることのない形態となっている。
本発明で規定する各粗大析出物は、その生成履歴からも、従来のような析出物とは区別される。本発明の組織と、これらの組織にまつわる粗大析出物は、後述する通り、Gd−Zn系マグネシウム合金鋳造材(インゴット)を、高温と低温での2回(2段階)の熱処理と、熱間鍛造や熱間押出などの熱間での塑性加工後の、長時間の人工時効処理とによって生成させる。したがって、従来のような、鋳造時に晶出する晶出物や、あるいは鋳造材の溶体化処理後の人工時効処理によって析出する析出物、更には、従来のような、鋳造材を溶体化処理および人工時効処理後に押出などの熱間での塑性加工によって析出する析出物ではない。すなわち、鋳造材を2段階で熱処理後に、熱間での塑性加工を介して、更に人工時効処理を行い、新たに析出、成長させた、従来にはない、新規な析出物であり、この点でも、従来の析出物とは明確に区別される。前記従来技術では、鋳造材を溶体化処理後に人工時効処理して、あるいは、この後に熱間押出などの塑性加工して、板状析出物を生成させたことが記載されている。しかし、このような製造方法(製造履歴)では、端的には、板状や粒状の析出物を、本発明のような形状に粗大化させることができない。
本発明では、前提となるマグネシウム合金の成分組成を、優れた機械的性質を得るための基本として、原子%で、Gd:0.4〜5.0%、Zn:0.2〜2.5%、を各々含有し、残部Mgおよび不可避的不純物からなるGd−Zn系マグネシウム合金組成とする。以下に各成分元素について説明する。但し、各元素の含有量の%表示は全て原子%の意味である。
Gd(ガドリウム)は、同じ効果を有するY、Dy、Ho、Er、Tmなど他の希土類元素(REM:Rare−Earth−Metal)に比して、鋳造しやすく常法にて製造しやすいという、大きな利点がある。Gdは、Znと共に特定の量含有することにより、Mg−Gd−Zn系合金の合金組織中に長周期積層(LPSO)構造を形成させやすくなる。また、高温疲労強度を確保するために必要な、本発明で規定する、結晶粒内の粗大な板状析出物を構成する元素である。
Zn(亜鉛)は、Gdと共に特定の量含有することにより、Mg−Gd−Zn系合金の合金組織中に長周期積層構造を形成させる。Zn含有量が少なすぎると、長周期積層構造を形成させることができない。一方で、Zn含有量が多すぎると、粗大なMg−Zn系金属間化合物が粒界に分散して、マグネシウム合金鍛造材の伸びが低下する(脆化する)。したがって、Znは0.2〜2.5原子%の範囲で含有させる。
Zr(ジルコニウム)、Mn(マンガン)は結晶粒を微細化する効果がある元素であり、必要がある場合には、選択的に0.05〜1.0原子%の範囲で含有させる。
Al(アルミニウム)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Ca(カルシウム)は、固溶強化または分散強化の作用でマグネシウム合金の高温強度を高める元素であり、板状析出物を分散制御することに組み合わせることで、高温での耐疲労強度を底上げする効果を発揮する。これらの元素を選択的に含有させる場合は、これらの合計の含有量で0.05〜6.0原子%とする。
なお、Mg−Gd−Zn系合金は、Mg地金だけではなく、Mgスクラップを溶解原料として使用するなど、前記した成分以外の元素が必然的に含まれる可能性がある。この点、上記添加元素以外にも、本発明に係るマグネシウム合金鍛造材の効果に悪影響を与えない範囲内であれば、不可避的不純物の範囲で、他の成分を含有することができる。例えば、Fe(鉄)、Si(シリコン)等を、許容量として、各々0.2原子%以下だけ含んでいても構わない。
本発明マグネシウム合金材および、このマグネシウム合金材からなるエンジン部品を得るための好ましい製造方法、製造条件について以下に説明する。
熱処理は、長周期積層構造や、長周期積層構造の相に粗大粒状析出物を形成させるために必要である。この熱処理は、1回目の熱処理である、480〜550℃、より好ましくは500〜530℃の温度で1〜20時間の保持と、2回目の熱処理である、360〜500℃、より好ましくは380〜480℃の温度で1〜20時間の保持を行う、2段階(2回)の熱処理の組合せで行う。
塑性加工は、製品形状に合わせて、熱間での鍛造、押出、圧延などの周知の加工が適宜選択され、続いて、冷間で鍛造、抽伸、圧延などの周知の加工が適宜選択されてよい。以下は、熱間鍛造を例にとって説明する(以下の文章は熱間押出や熱間圧延にも適用でき、読み替えられる)。前記熱処理したマグネシウム合金鋳塊を、前記2回目の熱処理後に一旦冷却したて再加熱するか、あるいは前記2回目の熱処理後に、熱間での塑性加工(鍛造などの)開始温度まで冷却して、塑性加工を施す。熱間鍛造では、前記した鋳造、熱処理工程により生じたラメラ相を微細化すると共に、キンク帯を形成させて、高温疲労強度を向上させる。したがって、できるだけ低温で塑性加工し、必要十分な歪みを与えることが好ましい。
本発明のGd−Zn系マグネシウム合金材の製造方法では、優れた高温疲労強度特性を付与するために、前記熱間鍛造を行った後に、人工時効処理を行う。具体的には、270〜330℃の範囲で50時間以上の時効処理を施し、長周期積層構造とα−Mgとで形成されるラメラ相の領域内に、長径が3μm以上の粗大な板状析出物を形成させる。人工時効処理の温度が270℃未満の場合は、析出物が成長できないため、粗大な板状析出物が本発明で規定する形態とならず、その結果、高温疲労強度特性を確保できなくなる。一方、人工時効処理の温度が330℃を上回ると、析出物の主要元素であるGdの固溶温度に近くなり、粗大な板状析出物が本発明で規定する形態とならない。
この試験材を、表2に示す各温度、各時間条件で、人工時効処理を各々施した。
析出物の平均個数密度は、人工時効処理後の前記試験材を切断して、樹脂に埋め込み、その表面を鏡面研磨して平滑に仕上げた後、FE−SEM(日本電子製、JSM−7001F)で反射電子像を観察することにより求めた。FE−SEMの倍率は5000倍、加速電圧は8kVとした。
高温疲労強度(高温破断寿命)については、小野式回転曲げ疲労試験機を用い、回転曲げ疲労試験を実施することにより確認、評価した。試験片は、前記試験材から切り出した、直径(D0):12.0mm、長さ(L):90mm、最細部径(d):8.0mm、平滑部曲率半径(R):48.0mmの、JIS Z2274の2号試験片とし、赤外線ヒータで加熱してその試験片の温度を300℃に保った状態で、回転数:3000rpmの条件で疲労試験を実施した。107回疲労試験を繰返し、試験片の107回疲労強度を測定した。そして、この疲労試験で、107回疲労強度が45MPaを超えたものを、高温疲労強度特性に優れた耐熱マグネシウム合金材と判断した。
ちなみに、表1の発明例、比較例の各例とも、前記円盤状の試験材の組織は、前記図1に示した、明るい灰色の長周期積層構造の相と、長周期積層構造とα−Mgとで形成される暗い灰色のラメラ相とを有するマグネシウム合金材組織であった。発明例の長周期積層構造の相は、全体の2割以下であった。
また、前記円盤状の試験材からJIS4号試験片を切り出し、JIS規定の引張試験に準じて、引張強さ、耐力(0.2%)、伸び(%)を測定した。この結果、表に個別には示さないが、表の発明例、比較例の各例とも、TSが250〜350MPa、YSが200〜300MPaの範囲にある、耐熱材として必要な機械的な特性を各々満足していることを確認した。
Claims (4)
- 原子%で、Gd:0.4〜5.0%、Zn:0.2〜2.5%を各々含有し、残部Mgおよび不可避的不純物からなり、長周期積層構造の相と、長周期積層構造とα−Mgとで形成されるラメラ相とを有するマグネシウム合金材組織において、前記長周期積層構造の相が全体の3%以上、20%以下であり、前記長周期積層構造の相の領域内に、最大径が0.1μm以上、3μm未満の範囲の粒状析出物が1.0個/μm2以上、10個/μm 2 以下の平均個数密度で存在するとともに、前記ラメラ相の領域内に、長径が3μm以上の粗大な板状析出物が0.1個/μm2以上、0.5個/μm 2 以下の平均個数密度で存在していることを特徴とするマグネシウム合金材。
- 前記マグネシウム合金材が、更に、Zr、Mnのうちのいずれか1種または2種を合計で0.05〜1.0原子%含む請求項1記載のマグネシウム合金材。
- 前記マグネシウム合金材が、更に、Al、Ni、Cu、Caのうちのいずれか1種または2種以上を合計で0.05〜6.0原子%含む請求項1記載のマグネシウム合金材。
- 請求項1乃至3のいずれかに記載のマグネシウム合金材からなるエンジン部品。
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