しかしながら、上述のような圧縮機構においては、ステータのコアカットから垂れ落ちる潤滑油が、マフラー部材に形成された吐出口から吹き出された冷媒によって吹き上げられる虞がある。これにより、潤滑油が油溜め部に戻るの流れが阻害され、油戻し特性が低下する。
そこで、本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、油戻し特性の低下を防ぐことができるロータリー圧縮機を提供することを目的とする。
第1の発明にかかるロータリー圧縮機は、モータと、前記モータの下方に配置され且つ前記モータの駆動力によって冷媒を圧縮して吐出する圧縮機構とを備えたロータリー圧縮機であって、前記モータは、鉛直方向に延びる溝状のコアカットが外周面に複数形成されたステータを有し、前記圧縮機構は、圧縮室が形成されたシリンダの端面に配置されたヘッド部材と、前記ヘッド部材との間にマフラー空間が形成されるように配置されると共に、前記圧縮室から供給された冷媒を吐出する1又は複数の吐出口を有するマフラー部材とを有しており、前記吐出口の少なくとも1つは、周方向について前記コアカットと異なる位置に配置されており、周方向について前記吐出口が間にある隣り合う2つのコアカット間の周方向距離が、周方向について前記吐出口が間にない隣り合う2つのコアカット間の周方向距離より長い。
なお、「前記吐出口の少なくとも1つは、周方向について前記コアカットと異なる位置に配置されている」とは、「モータ及び圧縮機構のそれぞれの上面図において、ヘッド部材の中心位置から吐出口の少なくとも1つの一部分を通過するように延在する直線上に対応した位置にコアカットがない」ことを意味している。
上述のロータリー圧縮機では、コアカットから垂れ落ちる油が、吐出口から吐出された冷媒によって吹き上げられるのを防ぐことができる。したがって、油戻し特性の低下を防ぐことができる。
第2の発明にかかるロータリー圧縮機は、第1の発明にかかるロータリー圧縮機において、前記吐出口の全ては、周方向について前記コアカットと異なる位置に配置されている。
このロータリー圧縮機では、コアカットから垂れ落ちる油が吹き上げられるのをより確実に防ぐことができる。
第3の発明にかかるロータリー圧縮機は、第1又は第2の発明にかかるロータリー圧縮機において、前記コアカットの少なくとも1つは、周方向について前記吐出口から最も離れた位置に配置されている
なお、「周方向について前記吐出口から最も離れた位置」とは、吐出口が1つである場合は「その1つの吐出口から周方向について最も離れた位置」を、吐出口が複数である場合は「周方向に隣り合う2つの吐出口の周方向に沿う中間位置」を意味している。
上述のロータリー圧縮機では、コアカットから垂れ落ちる油が吹き上げられるのをさらに確実に防ぐことができる。
第4の発明にかかるロータリー圧縮機は、第1〜3のいずれかの発明にかかるロータリー圧縮機において、前記モータ及び前記圧縮機構を収納する筒状ケーシングをさらに備えており、前記シリンダ及び前記ヘッド部材の少なくともいずれか一方は、平面視において円形形状を有すると共に前記筒状ケーシング内に嵌め込まれている。
円形形状のシリンダ及び/又はヘッド部材を筒状ケーシングに嵌め込む構成の場合には、シリンダ及び/又はヘッド部材の外周面と筒状ケーシングの内周面との間に油戻し通路が形成されないので、油戻し特性の低下が顕著である。したがって、上述のロータリー圧縮機では、油戻し特性の低下を抑制できる本発明を適用することが特に効果的である。
第5の発明にかかるロータリー圧縮機は、第1〜4のいずれかの発明にかかるロータリー圧縮機において、前記シリンダ及び前記ヘッド部材の少なくともいずれか一方は、上下方向に貫通した1又は複数の油戻し通路を有しており、前記油戻し通路の少なくとも1つは、周方向について前記コアカットと同じ位置に配置されている。
なお、「前記油戻し通路の少なくとも1つは、周方向について前記コアカットと同じ位置に配置されている」とは、「モータ及び圧縮機構のそれぞれの上面図において、ヘッド部材の中心位置から油戻し通路の少なくとも1つの一部分を通過するように延在する直線上に対応した位置にコアカットがある」ことを意味している。
このロータリー圧縮機では、コアカットから垂れ落ちる油を油戻し通路に確実に導くことができる。したがって、油戻し特性の低下を確実に防ぐことができる。
第6の発明にかかるロータリー圧縮機は、第1〜5のいずれかの発明にかかるロータリー圧縮機において、前記圧縮機構は、前記マフラー部材を前記ヘッド部材に固定する複数の締結部材をさらに有しており、前記締結部材の少なくとも1つは、周方向について前記コアカットと同じ位置に配置されている。
なお、「前記締結部材の少なくとも1つは、周方向について前記コアカットと同じ位置に配置されている」とは、「モータ及び圧縮機構のそれぞれの上面図において、ヘッド部材の中心位置から締結部材の少なくとも1つの一部分を通過するように延在する直線上に対応した位置にコアカットがある」ことを意味している。
このロータリー圧縮機では、コアカットから垂れ落ちる油が、マフラー部材とヘッド部材との間の締結部材で固定されていない箇所から漏れた冷媒によって吹き上げられるのを防ぐことができる。したがって、油戻し特性の低下をより確実に防ぐことができる。
第7の発明にかかるロータリー圧縮機は、第1〜6のいずれかの発明にかかるロータリー圧縮機において、前記マフラー部材は、その外周縁の全周に亘って形成され且つ前記ヘッド部材の上面に対向するように配置可能なシール部を有しており、前記マフラー部材は、前記シール部が前記ヘッド部材の上面に対向した状態で前記ヘッド部材に固定される。
シール部とヘッド部材の上面との間でシールする構成は、シール性能が比較的低く冷媒が漏れ出しやすい。したがって、上述のロータリー圧縮機では、本発明を適用することが特に効果的である。
第8の発明にかかるロータリー圧縮機は、第1〜6のいずれかの発明にかかるロータリー圧縮機において、前記マフラー部材は、その外周縁の全周に亘って形成され且つ前記ヘッド部材の側面に対向するように配置可能なシール部を有しており、前記マフラー部材は、前記シール部が前記ヘッド部材の側面に対向した状態で前記ヘッド部材に固定される。
第9の発明にかかるロータリー圧縮機は、第1〜8のいずれかの発明にかかるロータリー圧縮機において、冷媒としてCO2冷媒が用いられている。
CO2冷媒を用いる場合には比較的粘度の高い油を用いる必要があるので、油戻し特性の低下が顕著である。したがって、上述のロータリー圧縮機では、油戻し特性の低下を抑制できる本発明を適用することが特に効果的である。
以上の説明に述べたように、本発明によれば、以下の効果が得られる。
第1の発明では、コアカットから垂れ落ちる油が、吐出口から吐出された冷媒によって吹き上げられるのを防ぐことができる。したがって、油戻し特性の低下を防ぐことができる。
また、第2の発明では、コアカットから垂れ落ちる油が吹き上げられるのをより確実に防ぐことができる。
また、第3の発明では、コアカットから垂れ落ちる油が吹き上げられるのをさらに確実に防ぐことができる。
さらに、第4の発明では、油戻し特性の低下を防ぐことができる本発明を適用することが特に効果的である。
加えて、第5の発明では、コアカットから垂れ落ちる油を油戻し通路に確実に導くことができる。したがって、油戻し特性の低下を確実に防ぐことができる。
さらに、第6の発明では、コアカットから垂れ落ちる油が、マフラー部材とヘッド部材との間の締結部材で固定されていない箇所から漏れた冷媒によって吹き上げられるのを防ぐことができる。したがって、油戻し特性の低下をより確実に防ぐことができる。
また、第7の発明では、本発明を適用することが特に効果的である。
さらに、第9の発明では、油戻し特性の低下を抑制できる本発明を適用することが特に効果的である。
以下、図面に基づいて、本発明の一実施形態にかかるロータリー圧縮機について説明する。
図1は、本発明の第1参考例にかかるロータリー圧縮機の断面図である。より詳細には、図1は、図2(b)のI−I線に沿う断面図である。図2(a)は、図1に示すロータリー圧縮機のモータの平面図であり、(b)は圧縮機構の平面図である。図3は、図1に示すマフラー部材及びフロントヘッドの拡大図である。以下、図1〜図3を参照して、本発明の一実施形態にかかるロータリー圧縮機1について詳細に説明する。
本参考例のロータリー圧縮機1は、図1に示すように、1シリンダ型ロータリー圧縮機であって、密閉ケーシング10と、密閉ケーシング10内に配置される駆動機構20及び圧縮機構30とを備えている。このロータリー圧縮機1は、いわゆる高圧ドーム型の圧縮機であって、密閉ケーシング10内において、圧縮機構30が駆動機構20の下方に配置される。また、密閉ケーシング10の下部には、圧縮機構30の各摺動部に供給される潤滑油2が貯留されている。
密閉ケーシング10は、図1に示すように上下方向に伸延する筒状のケーシング本体11と、このケーシング本体11の上下の開口端部にそれぞれ取り付けられた蓋部12とからなる。蓋部12は、ケーシング本体11に溶接されておりケーシング本体11の開口を気密状に閉塞している。
駆動機構20は、圧縮機構30を駆動するために設けられており、駆動源となるモータ21と、モータ21に取り付けられるシャフト25とを備えている。モータ21は、ロータ22と、このロータ22の径方向外側にエアギャップを介して配置されるステータ23とを有している。
ロータ22は、積層された電磁鋼板からなり、円柱形状を有している。また、ロータ22には、磁石が埋設されている。ロータ22の中心には、シャフト25が取り付けられる孔22aが形成されている。孔22aに取り付けられるシャフト25は、ロータ22の回転と共に回転する。
ステータ23は、積層された複数の鋼板からなり、図2(a)に示すように、環状部23aと、この環状部23aの内周面から径方向内側に突出するティース23bとを有する。本実施形態においては、ステータ23は、ティース23bが周方向に等間隔に24個設けられた24スロットとなっている。そして、複数のティース23bにまとめてコイル線が巻付けられている(図示せず)。すなわち、本参考例のモータ21は、いわゆる分布巻きのモータである。モータ21は、コイルに電流を流すことによってステータ23に発生する電磁力により、ロータ22をシャフト25と共に回転させる。
環状部23aの外周面には、上下方向に延びる溝状の2つのコアカット24a、24bが形成されている。ここで、図1に示すように、ステータ23は、環状部23aの外周面と筒状のケーシング本体11の内周面とが接触する状態で、ケーシング本体11に嵌め込まれている。このとき、ケーシング本体11の内周面と環状部23aの外周面におけるコアカット24a、24bが形成された部分との間に形成されるすき間は、モータ21よりも上方の空間まで吹き上げられた潤滑油2を下方に戻すための通路となる。図2(a)に示すように、2つのコアカット24a、24bは、モータ21の平面視においてシャフト25に対して対称な位置に配置されている。
シャフト25は、モータ21の駆動力を圧縮機構30に伝達する機能を有している。このシャフト25には、圧縮機構30における後述するシリンダ60の圧縮室B内に位置するように偏心部25aが設けられている。この偏心部25aには、ローラ70が装着されている。これにより、シャフト25がロータ22と共に回転するのに伴って、偏心部25aに装着されるローラ70が圧縮室Bで回転する。
圧縮機構30は、アキュムレータ(図示せず)から吸入した冷媒をモータ21の駆動力によって圧縮する。この圧縮機構30により圧縮された冷媒は、駆動機構20のロータ22とステータ23との間のエアギャップを通過して、駆動機構20を冷却した後、密閉ケーシング10の上部から密閉ケーシング10の外へと延びる吐出管13から吐出される。なお、本実施形態においては、冷媒としてCO2冷媒が用いられている。この圧縮機構30は、駆動機構20のシャフト25の回転軸方向に沿って上から下に向かって、マフラー部材40と、フロントヘッド50と、シリンダ60及びローラ70と、リアヘッド80とを有している。
マフラー部材40は、フロントヘッド50の後述する本体部51の上面に取り付けられており、フロントヘッド50の上面と共にマフラー空間Aを形成して、冷媒の吐出に伴う騒音の低減を図っている。このマフラー部材40は、図2(b)及び図3に示すように、フロントヘッド50の上面と共にマフラー空間Aを形成する突出部41と、フロントヘッド50の後述する本体部51の上面に対向するように配置可能なシール部42とを有している。シール部42は、突出部41の下端から延びており、突出部41の下端の全周に亘って形成されている。
突出部41の中央部分には、上記したシャフト25及びフロントヘッド50のボス部52が挿通される開口41aが形成されている。また、突出部41には、マフラー空間Aの内側に向かって張り出した絞り部41b、41cが形成されている。突出部41における絞り部41b、41cが形成された部分から延びるシール部42は、マフラー部材40とフロントヘッド50とを固定するボルト43a、43bが配置されるボルト受け面42c、42dとなっている。図3に示すように、ボルト受け面42c、42dには、ボルト43a、43bが嵌挿されるボルト孔42bが形成されている。
ボルト受け面42c、42dにそれぞれ配置されたボルト43a、43bは、周方向についてコアカット24a、24bと同じ位置に配置されている。具体的には、図2(a)、(b)に示すように、フロントヘッド50の中心O2(シャフト25の中心)からボルト43a、43bの中心を通過するように延在する直線L21上に対応した位置にコアカット24a、24bがある。より詳細には、モータ21の平面視においてモータ21の中心O1(シャフト25の中心)及び2つのコアカット24a、24bの中心を通る直線L11と直線L21とは、上下方向に同一の位置にある。すなわち、ボルト43a、43bの中心位置が、周方向についてコアカット24a、24bの中心位置と一致している。尚且つ、図2(a)において破線で示すボルト43a、43bの全ての部分が、モータ21の中心O1とコアカット24a、24bの一方の端部d1とを結ぶ直線L12と、中心O1とコアカット24a、24bの他方の端部d2とを結ぶ直線L13との間の内側に対応する位置に配置されている。
また、突出部41には、圧縮室Bからマフラー空間Aに供給された冷媒をマフラー空間Aから吐出するための2つの吐出口41d、41eが形成されている。図2(a)、(b)に示すように、フロントヘッド50の中心O2から吐出口41d、41eの中心を通過するように延在する直線L22上に対応した位置にコアカット24a、24bがない。尚且つ、図2(a)において破線で示す吐出口41d、41eの全ての部分が、上述の2つの直線L12、L13の間の内側に対応した位置に位置していない。より詳細には、直線L22は、直線L11と上下方向に同一位置にある直線L21と直交している。すなわち、2つの吐出口41d、41eは、周方向について2つのコアカット24a、24bと90°異なる位置に配置されている。換言すると、2つのコアカット24a、24bは、いずれも周方向について2つの吐出口41d、41eの周方向に沿う中間位置である、吐出口41d、41eから最も離れた位置に配置されている。
フロントヘッド50は、シリンダ60の上端面に配置され、シリンダ60における圧縮室Bの上方の開口を閉塞する円板状の本体部51と、本体部51から上方に突出する環状のボス部52と、本体部51の外周縁から延びる伸延部53とを有している。本体部51の中央には、シャフト25が挿入される軸受け孔51aが形成されている。ボス部52は、軸受け孔51aを囲むように形成されている。また、フロントヘッド50は、平面視で円形形状を有しており、図1に示すように、伸延部53の外周面が全周に亘って筒状のケーシング本体11の内周面と接触する状態で、ケーシング本体11に嵌め込まれている。
本体部51には、上方に開口した凹状の弁収容室(図示せず)と、シリンダ60の圧縮室Bにおけるローラ70の回転駆動によって圧縮された冷媒が吐出される吐出ポート(図示せず)とが設けられている。この吐出ポートから吐出される冷媒は、上述したマフラー空間Aを介して、マフラー部材40に形成された吐出口41d、41eから吐出される。また、弁収容室には、吐出ポートの出口を開閉する吐出弁(図示せず)と、その吐出弁の開放を規制する押さえ部材(図示せず)とが設けられている。
本体部51の外縁部分には、上記したマフラー部材40に形成される2つのボルト受け面42c、42dに形成されたボルト孔42bに対応するそれぞれの位置に、ボルト43a、43bを嵌挿するための2つのボルト孔51dが形成されている。また、フロントヘッド50には、圧縮機構30の各部材を組み付けるスルーボルト(図示せず)を嵌挿するためのスルーボルト孔(図示せず)が設けられている。
伸延部53には、上下方向に貫通した2つの油戻し通路53a、53bが形成されている。図2(b)に示すように、2つの油戻し通路53a、53bの中心は、上述の直線L21上でありシャフト25に対して対称な位置にそれぞれ位置している。すなわち、2つの油戻し通路53a、53bの中心は、周方向についてコアカット24a、24bの中心と同じ位置に配置されている。
シリンダ60には、図1に示すように、シャフト25の回転に伴って偏心運動するローラ70が配置される圧縮室Bが設けられている。この圧縮室Bとマフラー空間Aとは、上記した図示しない吐出ポートを介して連通される。したがって、シャフト25の偏心部25aに装着されるローラ70の偏心運動によって圧縮された冷媒は、圧縮室Bから上記した吐出ポートを介してマフラー空間Aに導かれる。
また、シリンダ60には、上下方向に貫通した2つの油戻し通路61が形成されている。2つの油戻し通路61は、フロントヘッド50に形成された2つの油戻し通路53a、53bの下方にそれぞれ対応する位置に形成されている。すなわち、2つの油戻し通路61の中心は、周方向についてコアカット24a、24bの中心と同じ位置に配置されている。なお、図1に示すように、シリンダ60の外周面とケーシング本体11の内周面との間には僅かなすき間が形成されている。
リアヘッド80は、シリンダ60の下端面に配置され、シリンダ60における圧縮室Bの下方の開口を閉塞する。このリアヘッド80は、シャフト25が嵌挿される軸受け孔81aを有する円板状の本体部81と、軸受け孔81aを囲むように当該本体部81から下方に突出する環状のボス部82とを有している。
以上のように、本参考例のロータリー圧縮機1では、モータ21におけるステータ23の外周面に上下方向に延びる溝状のコアカット24a、24bが形成されている。そして、マフラー部材40に形成された2つの吐出口41d、41eは、いずれも周方向についてコアカット24a、24bと異なる位置に配置されている。したがって、コアカット24a、24bから垂れ落ちる潤滑油2が、吐出口41d、41eから吐出された冷媒によって吹き上げられるのを防ぐことができる。よって、油戻し特性の低下を防ぐことができる。
また、本参考例のロータリー圧縮機1では、全ての吐出口41d、41eが、周方向についてコアカット24a、24bと異なる位置に配置されている。よって、コアカット24a、24bから垂れ落ちる潤滑油2が吹き上げられるのをより確実に防ぐことができる。
また、本参考例のロータリー圧縮機1では、2つのコアカット24a、24bは、周方向について吐出口41d、41eから最も離れた位置に配置されている。したがって、コアカット24a、24bから垂れ落ちる潤滑油2が吹き上げられるのをさらに確実に防ぐことができる。
さらに、本参考例のロータリー圧縮機1は、モータ21及び圧縮機構30を収納する筒状のケーシング本体11を備えている。フロントヘッド50は、平面視において円形形状を有していると共にケーシング本体11内に嵌め込まれている。通常、このように円形形状のフロントヘッド50を筒状のケーシング本体11に嵌め込む構成の場合には、フロントヘッド50の外周面とケーシング本体11との間に油戻し通路が形成されないので、油戻し特性の低下が顕著である。したがって、このような構成のロータリー圧縮機に対して、油戻し特性の低下を抑制できる本発明を適用することが特に効果的である。
加えて、本参考例のロータリー圧縮機1では、フロントヘッド50に2つの油戻し通路53a、53bが形成されており、シリンダ60に2つの油戻し通路61が形成されている。こられ油戻し通路53a、53b及び油戻し通路61は、周方向についてコアカット24a、24bと同じ位置に配置されている。したがって、コアカット24a、24bから垂れ落ちる潤滑油2を油戻し通路53a、53b及び油戻し通路61に確実に導くことができる。よって、油戻し特性の低下を確実に防ぐことができる。
また、本参考例のロータリー圧縮機1では、圧縮機構30のマフラー部材40とフロントヘッド50とを固定するボルト43a、43bは、周方向についてコアカット24a、24bと同じ位置に配置されている。マフラー部材40とフロントヘッド50との間のボルト43a、43bで固定されている箇所は、それ以外の箇所に比べて両者が強固に密着しているので、冷媒の漏れは殆どない。したがって、本実施形態においては、コアカット24a、24bの下方からの冷媒の漏れは殆どない。すなわち、コアカット24a、24bから垂れ落ちる潤滑油2が、図1において破線で示すように、マフラー部材40とフロントヘッド50との間のボルト43a、43bで固定されていない箇所から漏れた冷媒によって吹き上げられるのを防ぐことができる。よって、油戻し特性の低下をより確実に防ぐことができる。
また、本参考例のロータリー圧縮機1では、マフラー部材40は、その外周縁の全周に亘って形成され且つフロントヘッド50の上面に対向するように配置可能なシール部42を有している。そして、マフラー部材40は、シール部42がフロントヘッド50の上面に当接した状態でフロントヘッド50に固定される。このようにシール部42とフロントヘッド50の上面との間でシールする構成は、シール性能が比較的低く冷媒が漏れ出しやすい。よって、このような構成のロータリー圧縮機では、本発明を適用することが特に効果的である。
さらに、本参考例のロータリー圧縮機1では、冷媒としてCO2冷媒が用いられている。CO2冷媒を用いる場合には、比較的粘度の高い潤滑油を用いる必要があるので、油戻し特性の低下が顕著である。したがって、このような構成のロータリー圧縮機では、油戻し特性の低下を抑制できる本発明を適用することが特に効果的である。
以上、本発明の実施形態の第1参考例について図面に基づいて説明したが、本発明の実施形態の具体的な構成は、これらの参考例に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、下記の実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
例えば、上述の参考例では、マフラー部材40のシール部42とフロントヘッド50の上面との間でシールする構成を採用する場合について説明したが、これには限定されない。ここで、本発明の実施形態の第1変形例にかかるロータリー圧縮機のマフラー部材140及びフロントヘッド150の断面図を図4に示す。図4に示すように、本変形例にかかるマフラー部材140は、フロントヘッド150の上面と共にマフラー空間Aを形成する突出部141と、フロントヘッド150の側面に対向するように配置可能なシール部142とを有している。シール部142は、突出部141の下端から延びており、突出部141の下端の全周に亘って形成されている。そして、マフラー部材140は、シール部142がフロントヘッド150の側面に対向した状態でフロントヘッド150に固定される。なお、シール部材142とフロントヘッド150の側面とは当接していてもよいし、これらの間に僅かなすき間が形成されていてもよい。このように、マフラー部材140のシール部142とフロントヘッド150の側面との間でシールする構成を採用することで、上述の参考例の構成に比べてシール性能を高めることができる。
また、上述の参考例では、2つのコアカット24a、24bが、周方向について吐出口41d、41eから最も離れた位置に配置されている場合について説明したが、本発明の実施形態では、吐出口41d、41e及びコアカット24a、24bが周方向について互いに異なる位置に配置されていればよい。具体的には、フロントヘッド50の中心O2及び吐出口41d、41eの少なくとも一部分を通る直線上に対応する位置にコアカット24a、24bがなければよい。
ここで、本発明の実施形態にかかるロータリー圧縮機のモータ221の平面図を図5(a)に、圧縮機構230の平面図を図5(b)にそれぞれ示す。図5(a)に示すように、本変形例にかかるモータ221のステータ223における外周面には、4つのコアカット224a、224b、224c、224dが形成されている。
また、図5(b)に示すように、マフラー部材240とフロントヘッド250とは、4つのボルト243a、243b、243c、243dで固定されている。フロントヘッド250の中心O4からボルト243a、243bの中心を通過するように延在する直線L41上に対応した位置にコアカット224a、224bがある。また、中心O4からボルト243c、243dの中心を通過するように延在する直線L42上に対応した位置にコアカット224c、224dがある。より詳細には、直線L41は、モータ221の中心O3及び2つのコアカット224a、224bの中心を通る直線L31と上下方向に同一の位置にある。また、直線L42は、モータ221の中心O3及び2つのコアカット224c、224dの中心を通る直線L32と上下方向に同一の位置にある。尚且つ、ボルト243a、243bの全ての部分が、モータ221の中心O3とコアカット224a、224bの一方の端部d3とを結ぶ直線L33と、中心O3とコアカット224a、224bの他方の端部d4とを結ぶ直線L34との間の内側に対応する位置に配置されている。また、ボルト243c、243dの全ての部分が、モータ221の中心O3とコアカット224c、224dの一方の端部d5とを結ぶ直線L35と、中心O3とコアカット224c、224dの他方の端部d6とを結ぶ直線L36との間の内側に対応する位置に配置されている。
マフラー部材240には、2つの吐出口241d、241eが形成されている。フロントヘッド250の中心O4から吐出口241d、241eの中心を通過するように延在する直線L43上に対応した位置にコアカット224a、224b、224c、224dがない。尚且つ、吐出口241d、241eの全ての部分が、上述のように図5(a)に示す2つの直線L33、L34の間の内側に対応した位置、及び2つの直線L35、L36の間の内側に対応した位置のいずれにも位置していない。すなわち、2つの吐出口241d、241eは、周方向についてコアカット224a、224b、224c、224dと異なる位置に配置されている。
ここで、直線L31と上下方向に同一位置にある直線L41と直線L43とのなす角θ1は、約60°である。また、直線L32と上下方向に同一位置にある直線L42と直線L43とのなす角θ2は、約60°である。すなわち、コアカット224a、224dは、周方向について吐出口241eと約60°異なる位置に配置されており、コアカット224b、224cは、周方向について吐出口241dと約60°異なる位置に配置されている。
フロントヘッド250には、その中心が直線L41上に位置する油戻し通路253a、253bと、直線L42上に位置する油戻し通路253c、253dとが形成されている。すなわち、本変形例においても、上述の参考例と同様に、全てのボルト243a、243b、243c、243d、及び油戻し通路253a、253b、253c、253dは、いずれも周方向についてコアカット224a、224b、224c、224dと同じ位置に配置されている。
さらに、上述の第1参考例では、モータ21は、24スロットのステータ23を備えており、分布巻き方式である場合について説明したが、モータ21の方式はこれには限定されない。ここで、本発明の第2参考例にかかるロータリー圧縮機のモータ321の平面図を図6(a)に、圧縮機構330の平面図を図6(b)にそれぞれ示す。図6(a)に示すように、本参考例のモータ321は、ティース323bが6個設けられた6スロットのステータ323を備えており、各ティース323bに絶縁物を介してコイル線が直接巻き付けられる、いわゆる集中巻き方式である。ステータ323の外周面には、2つのコアカット324a、324bが形成されている。そして、図6(b)に示すように、圧縮機構330のマフラー部材340とフロントヘッド350とを固定する2つのボルト343a、343bは、上述の参考例と同様に、周方向についてコアカット324a、324bと同じ位置に配置されている。また、マフラー部材340に形成された2つの吐出口341d、341eは、周方向についてコアカット324a、324bと異なる位置に配置されている。さらに、フロントヘッド350の伸延部353に形成された油戻し通路353a、353bは、周方向についてコアカット324a、324bと同じ位置に配置されている。
また、本発明の実施形態の第2変形例にかかるロータリー圧縮機のモータ421の平面図を図7(a)に、圧縮機構430の平面図を図7(b)にそれぞれ示す。図7(a)に示すように、本変形例のモータ421は、上述の第2参考例にかかるモータ321と同様に、ティース423bが6個設けられた6スロットのステータ423を備えた集中巻き方式である。ステータ423の外周面には、4つのコアカット424a、424b、424c、424dが形成されている。そして、図7(b)に示すように、圧縮機構430のマフラー部材440とフロントヘッド450とは、方向についてコアカット424a、424b、424c、424dとそれぞれ同じ位置に配置された4つのボルト443a、443b、443c、443dで固定されている。また、マフラー部材440に形成された2つの吐出口441d、441eは、周方向についてコアカット424a、424b、424c、424dと異なる位置に配置されている。さらに、フロントヘッド450の伸延部453には、方向についてコアカット424a、424b、424c、424dとそれぞれ同じ位置に配置された4つの油戻し通路453a、453b、453c、453dが形成されている。
また、上述の実施形態では、全ての吐出口41d、41eが、周方向についてコアカット24a、24bと異なる位置に配置されている場合について説明したが、吐出口41d、41eのうち少なくとも1つが、周方向についてコアカット24a、24bと異なる位置に配置されていればよい。
さらに、上述の実施形態では、フロントヘッド50は、平面視で円形形状を有しており、その外周面が全周に亘って筒状のケーシング本体11の内周面と接触する状態で、ケーシング本体11に嵌め込まれている場合について説明したが、これには限られない。すなわち、外周面が全周に亘って筒状のケーシング本体11の内周面と接触するのは、フロントヘッド50及びシリンダ60の少なくともいずれか一方でよい。また、フロントヘッド50及びシリンダ60の少なくとも一方が、その外周面の一部のみがケーシング本体11の内周面と接触する状態で、ケーシング本体11に嵌め込まれていてもよい。この場合、フロントヘッド50及び/又はシリンダ60の外周面におけるケーシング本体11の内周面と接触していない部分と、ケーシング本体11の内周面との間のすき間は、潤滑油2を下方に戻すための通路となる。
加えて、上述の実施形態では、フロントヘッド50に2つの油戻し通路53a、53bが形成されていると共に、シリンダ60における油戻し通路53a、53bの下方に対応する位置に2つの油戻し通路61がそれぞれ形成されており、油戻し通路53a、53bの中心が周方向についてコアカット24a、24bの中心と同じ位置に配置されている場合について説明したが、これには限定されない。フロントヘッド50の中心O2及び油戻し通路53a、53bの少なくとも一部分を通る直線上に対応する位置にコアカット24a、24bが位置していることが好ましいが、油戻し通路53a、53b、61は、コアカット24a、24bと同じ位置に配置されていなくてもよい。
また、上述の実施形態では、フロントヘッド50及びシリンダ60の両方に油戻し通路53a、53b、61が形成されている場合について説明したが、これには限定されない。油戻し通路53a、53b、61は、フロントヘッド50及びシリンダ60のうち、少なくとも、その外周面が全周に亘って筒状のケーシング本体11の内周面と接触する状態でケーシング本体11に嵌め込まれているものに形成されていればよい。すなわち、本実施形態のシリンダ60の外周面はケーシング本体11の内周面に接触していないので、シリンダ60に形成された油戻し通路61は無くてもよい。
加えて、上述の実施形態では、マフラー部材40とフロントヘッド50とを固定するボルト43a、43bの中心位置が、周方向についてコアカット24a、24bの中心位置と一致しており、且つ、ボルト43a、43bの全ての部分が、モータ21の中心O1とコアカット24a、24bの一方の端部d1とを通る直線L12と、中心O1とコアカット24a、24bの他方の端部d2とを通る直線L13との内側に対応する位置に配置されている場合について説明したが、これには限定されない。すなわち、フロントヘッド50の中心O2及びボルト43a、43bの少なくとも1つの一部分を通る直線上に対応する位置にコアカット24a、24bが位置していることが好ましいが、ボルト43a、43bは、周方向についてコアカット24a、24bと異なる位置に配置されていてもよい。
さらに、上述の実施形態では、冷媒としてCO2冷媒が用いられている場合について説明したが、冷媒はCO2に限られるものではなく、例えばフロン等を用いてもよい。