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JP5595961B2 - 電子材料用Cu−Ni−Si系銅合金及びその製造方法 - Google Patents

電子材料用Cu−Ni−Si系銅合金及びその製造方法 Download PDF

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JP5595961B2 JP2011076566A JP2011076566A JP5595961B2 JP 5595961 B2 JP5595961 B2 JP 5595961B2 JP 2011076566 A JP2011076566 A JP 2011076566A JP 2011076566 A JP2011076566 A JP 2011076566A JP 5595961 B2 JP5595961 B2 JP 5595961B2
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Description

本発明は析出硬化型銅合金に関し、とりわけ各種電子部品に用いるのに好適なCu−Ni−Si系銅合金に関する。
コネクタ、スイッチ、リレー、ピン、端子、リードフレーム等の各種電子部品に使用される電子材料用銅合金には、基本特性として高強度及び高導電性(又は熱伝導性)を両立させることが要求される。近年、電子部品の高集積化及び小型化・薄肉化が急速に進み、これに対応して電子機器部品に使用される銅合金に対する要求レベルはますます高度化している。
高強度及び高導電性の観点から、電子材料用銅合金として従来のりん青銅、黄銅等に代表される固溶強化型銅合金に替わり、析出硬化型の銅合金の使用量が増加している。析出硬化型銅合金では、溶体化処理された過飽和固溶体を時効処理することにより、微細な析出物が均一に分散して、合金の強度が高くなると同時に、銅中の固溶元素量が減少し電気伝導性が向上する。このため、強度、ばね性などの機械的性質に優れ、しかも電気伝導性、熱伝導性が良好な材料が得られる。
析出硬化型銅合金のうち、コルソン系合金と一般に呼ばれるCu−Ni−Si系銅合金は比較的高い導電性、強度、及び曲げ加工性を兼備する代表的な銅合金であり、業界において現在活発に開発が行われている合金の一つである。この銅合金では、銅マトリックス中に微細なNi−Si系金属間化合物粒子を析出させることによって強度と導電率の向上が図られる。
特表2005−532477号公報(特許文献1)には、Cu−Ni−Si−Co系合金の製造工程における各焼鈍を段階的焼鈍プロセスとすることができ、典型的には、段階的焼鈍において、第一工程は、第二工程よりも高い温度であり、段階的焼鈍は、一定温度での焼鈍に比べて、強度と導電性のより良好な組合せをもたらしうることが記載されている。
特開2006−283059号公報(特許文献2)には、耐力が700N/mm2以上、導電率が35%IACS以上、かつ曲げ加工性にも優れたコルソン(Cu−Ni−Si系)銅合金板を得ることを目的として、銅合金鋳塊に対し、必要に応じて熱間圧延し急冷した後、冷間圧延を行い、連続焼鈍を行って溶体化再結晶組織を得た後、加工率20%以下の冷間圧延及び400〜600℃×1〜8時間の時効処理を行い、続いて加工率1〜20%の最終冷間圧延後、400〜550℃×30秒以下の短時間焼鈍を行う高強度銅合金板の製造方法が記載されている。
また、コルソン(Cu−Ni−Si系)銅合金板については強度、導電性、及びばね限界値を向上させるため種々の取り組みが行われている(特許文献3〜特許文献6)。
特表2005−532477号公報 特開2006−283059号公報 特開2004−269962号公報 特開平6−212374号公報 特開2006−283059号公報 特開平11−256256号公報
このように、従来、強度、導電性及びばね限界値を改善するための努力が払われてきたが、未だ改善の余地は残されている。そこで、本発明は強度、導電性及びばね限界値のバランスを向上させたCu−Ni−Si系合金を提供することを課題の一つとする。また、本発明はそのようなCu−Ni−Si系合金の製造方法を提供することを別の課題の一つとする。
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねたところ、溶体化処理後の時効処理を特定の温度及び時間条件で多段時効を3段階で実施すると、強度及び導電性に加えてばね限界値が有意に向上することを発見した。そこで、この原因について調査したところ、X線回折法によって得られる圧延面の結晶方位について、圧延面の{200}Cu面に対し55°(測定条件上、α=35°)の位置関係にある{111}Cu面の回折ピークでのβ角度90°のピーク高さが銅粉末のそれに対して2.5倍以上であるという特異性を有することを見出した。このような回折ピークが得られた理由は不明であるが、第二相粒子の微細な分布状態が影響を与えていると考えられる。
上記の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、Ni:1.0〜4.0質量%、Si:0.2〜1.0質量%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる電子材料用銅合金であって、圧延面を基準としたX線回折極点図測定により得られる結果で、α=35°におけるβ走査による{200}Cu面に対する{111}Cu面の回折ピーク強度のうち、β角度90°のピーク高さが標準銅粉末のそれに対して2.5倍以上である銅合金である。
本発明に係る銅合金は更に別の一実施形態において、Siの質量濃度に対するNiの質量濃度の比i/Siが3.5≦Ni/Si≦5.5を満たす。
本発明に係る銅合金は更に別の一実施形態において、更にCr、Mg、P、As、Sb、Be、B、Mn、Sn、Ti、Zr、Al、Fe、Zn及びAgの群から選ばれる少なくとも1種を総計で最大2.0質量%含有する。
本発明は別の一側面において、
−上記何れかに記載の組成をもつ銅合金のインゴットを溶解鋳造する工程1と、
−900℃以上1000℃以下で1時間以上加熱後に熱間圧延を行う工程2と、
−冷間圧延工程3と、
−700℃以上900℃以下で溶体化処理を行い、400℃までの平均冷却速度を毎秒10℃以上として冷却する工程4と、
−材料温度を400〜500℃として1〜12時間加熱する一段目と、次いで、材料温度を350〜450℃として1〜12時間加熱する二段目と、次いで、材料温度を260〜340℃として4〜30時間加熱する三段目を有し、一段目から二段目までの冷却速度及び二段目から三段目までの冷却速度はそれぞれ0.1〜8℃/分とし、一段目と二段目の温度差を20〜60℃とし、二段目と三段目の温度差を20〜180℃として多段時効する第一の時効処理工程5と、
−冷間圧延工程6と、
−100℃以上350℃未満で1〜48時間行う第二の時効処理工程7と、
を順に行うことを含む上記銅合金の製造方法である。
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る銅合金からなる伸銅品である。
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る銅合金を備えた電子部品である。
本発明によって、強度、導電性、ばね限界値が共に優れた電子材料用のCu−Ni−Si系合金が提供される。
Ni、及びSiの添加量
Ni、及びSiは、適当な熱処理を施すことにより金属間化合物を形成し、導電率を劣化させずに高強度化が図れる。
Ni、及びSiの添加量がそれぞれNi:1.0質量%未満、Si:0.2質量%未満では所望の強度が得られず、逆に、Ni:4.0質量%超、Si:1.0質量%超では高強度化は図れるが導電率が著しく低下し、更には熱間加工性が劣化する。よってNi及びSiの添加量はNi:1.0〜4.0質量%、Si:0.2〜1.0質量%とした。Ni及びSiの添加量は好ましくは、Ni:1.5〜3.0質量%、Si:0.3〜0.8質量%である。
また、Siの質量濃度に対してNiとの質量濃度の比Ni/Siが低すぎる、すなわち、Niに対してSiの比率が高過ぎると、固溶Siにより導電率が低下したり、焼鈍工程において材料表層にSiO2の酸化皮膜を形成して半田付け性が劣化したりする。一方、Siに対するNiの割合が高くすぎると、シリサイド形成に必要なSiが不足して高い強度が得られにくい。
そのため、合金組成中のNi/Si比は3.5≦Ni/Si≦5.5の範囲に制御することが好ましく、4.0≦Ni/Si≦5.0の範囲に制御することがより好ましい。
Crの添加量
Crは溶解鋳造時の冷却過程において結晶粒界に優先析出するため粒界を強化でき、熱間加工時の割れが発生しにくくなり、歩留低下を抑制できる。すなわち、溶解鋳造時に粒界析出したCrは溶体化処理などで再固溶するが、続く時効析出時にCrを主成分としたbcc構造の析出粒子またはSiとの化合物を生成する。通常のCu−Ni−Si系合金では添加したSi量のうち、時効析出に寄与しなかったSiは母相に固溶したまま導電率の上昇を抑制するが、珪化物形成元素であるCrを添加して、珪化物をさらに析出させることにより、固溶Si量を低減でき、強度を損なわずに導電率を上昇できる。しかしながら、Cr濃度が0.5質量%、とりわけ2.0質量%を超えると粗大な第二相粒子を形成しやすくなるため、製品特性を損なう。従って、本発明に係るCu−Ni−Si系合金には、Crを最大で2.0質量%添加することができる。但し、0.03質量%未満ではその効果が小さいので、好ましくは0.03〜0.5質量%、より好ましくは0.09〜0.3質量%添加するのがよい。
Mg、Mn、Ag及びPの添加量
Mg、Mn、Ag及びPは、微量の添加で、導電率を損なわずに強度、応力緩和特性等の製品特性を改善する。添加の効果は主に母相への固溶により発揮されるが、第二相粒子に含有されることで一層の効果を発揮させることもできる。しかしながら、Mg、Mn、Ag及びPの濃度の総計が0.5質量%、とりわけ2.0質量%を超えると特性改善効果が飽和するうえ、製造性を損なう。従って、本発明に係るCu−Ni−Si系合金には、Mg、Mn、Ag及びPから選択される1種又は2種以上を総計で最大2.0質量%、好ましくは最大1.5質量%添加することができる。但し、0.01質量%未満ではその効果が小さいので、好ましくは総計で0.01〜1.0質量%、より好ましくは総計で0.04〜0.5質量%添加するのがよい。
Sn及びZnの添加量
Sn及びZnにおいても、微量の添加で、導電率を損なわずに強度、応力緩和特性、めっき性等の製品特性を改善する。添加の効果は主に母相への固溶により発揮される。しかしながら、Sn及びZnの総計が2.0質量%を超えると特性改善効果が飽和するうえ、製造性を損なう。従って、本発明に係るCu−Ni−Si系合金には、Sn及びZnから選択される1種又は2種を総計で最大2.0質量%添加することができる。但し、0.05質量%未満ではその効果が小さいので、好ましくは総計で0.05〜2.0質量%、より好ましくは総計で0.5〜1.0質量%添加するのがよい。
As、Sb、Be、B、Ti、Zr、Al及びFeの添加量
As、Sb、Be、B、Ti、Zr、Al及びFeにおいても、要求される製品特性に応じて、添加量を調整することで、導電率、強度、応力緩和特性、めっき性等の製品特性を改善する。添加の効果は主に母相への固溶により発揮されるが、第二相粒子に含有され、若しくは新たな組成の第二相粒子を形成することで一層の効果を発揮させることもできる。しかしながら、これらの元素の総計が2.0質量%を超えると特性改善効果が飽和するうえ、製造性を損なう。従って、本発明に係るCu−Ni−Si系合金には、As、Sb、Be、B、Ti、Zr、Al及びFeから選択される1種又は2種以上を総計で最大2.0質量%添加することができる。但し、0.001質量%未満ではその効果が小さいので、好ましくは総計で0.001〜2.0質量%、より好ましくは総計で0.05〜1.0質量%添加するのがよい。
上記したCr、Mg、Mn、Ag、P、Sn、Zn、As、Sb、Be、B、Ti、Zr、Al及びFeの添加量が合計で2.0質量%を超えると製造性を損ないやすいので、好ましくはこれらの合計は2.0質量%以下とし、より好ましくは1.5質量%以下とする。
結晶方位
本発明に係る銅合金は、圧延面を基準としたX線回折極点図測定により得られる結果で、α=35°におけるβ走査による{200}Cu面に対する{111}Cu面の回折ピーク強度のうち、β角度90°のピーク高さの標準銅粉末のそれに対する比率(以下、「β角度90°のピーク高さ比率」という。)が2.5倍以上である。{111}Cu面の回折ピークでのβ角度90°のピーク高さを制御することによってばね限界値が向上する理由は必ずしも明らかではなく、あくまでも推定であるが、1回目の時効処理を3段時効にすることで、1段目及び2段目で析出した第2相粒子の成長及び3段目で析出した第2相粒子により、次工程の圧延で加工歪が蓄積されやすくなり、蓄積した加工歪を駆動力として、第2の時効処理で集合組織が発達すると考えられる。
β角度90°のピーク高さ比率は好ましくは2.8倍以上であり、より好ましくは3.0倍以上である。純銅標準粉末は325メッシュ(JIS Z8801)の純度99.5%の銅粉末で定義される。
{111}Cu面の回折ピークでのβ角度90°のピーク高さは、以下の手順で測定する。ある1つの回折面{hkl}Cuに着目して、着目した{hkl}Cu面の2θ値に対し(検出器の走査角2θを固定し)、α軸走査をステップで行い、角α値に対して試料をβ軸走査(0〜360°まで面内回転(自転))させる測定方法を極点図測定という。なお、本発明のXRD極点図測定では、試料面に垂直方向をα=90°と定義し、測定の基準とする。また、極点図測定は、反射法(α:−15°〜90°)で測定とする。本発明では、α=35°のβ角度に対する強度をプロットして、β=85°〜95°の範囲で最も高い強度を90°のピーク値として読み取る。
製造方法
コルソン系銅合金の一般的な製造プロセスでは、まず大気溶解炉を用い、電気銅、Ni、Si等の原料を溶解し、所望の組成の溶湯を得る。そして、この溶湯をインゴットに鋳造する。その後、熱間圧延を行い、冷間圧延と熱処理を繰り返して、所望の厚み及び特性を有する条や箔に仕上げる。熱処理には溶体化処理と時効処理がある。溶体化処理では、約700〜約900℃の高温で加熱して、第二相粒子をCu母地中に固溶させ、同時にCu母地を再結晶させる。溶体化処理を、熱間圧延で兼ねることもある。時効処理では、約350〜約550℃の温度範囲で1時間以上加熱し、溶体化処理で固溶させた第二相粒子をナノメートルオーダーの微細粒子として析出させる。この時効処理で強度と導電率が上昇する。より高い強度を得るために、時効前及び/又は時効後に冷間圧延を行なうことがある。また、時効後に冷間圧延を行なう場合には、冷間圧延後に歪取焼鈍(低温焼鈍)を行なうことがある。
上記各工程の合間には適宜、表面の酸化スケール除去のための研削、研磨、ショットブラスト酸洗等が適宜行なわれる。
本発明に係る銅合金においても上記の製造プロセスを経るが、最終的に得られる銅合金の特性が本発明で規定するような範囲となるためには、熱間圧延、溶体化処理および時効処理条件を厳密に制御して行なうことが重要である。
まず、鋳造時の凝固過程では粗大な晶出物が、その冷却過程では粗大な析出物が不可避的に生成するため、その後の工程においてこれらの第二相粒子を母相中に固溶する必要がある。900℃〜1000℃で1時間以上保持後に熱間圧延を行えば母相中に固溶することができる。また、熱間圧延終了後は速やかに冷却することが望ましい。
溶体化処理では、溶解鋳造時の晶出粒子や、熱延後の析出粒子を固溶させ、溶体化処理以降の時効硬化能を高めることが目的である。このとき、溶体化処理時の保持温度と時間、および保持後の冷却速度が重要となる。保持時間が一定の場合には、保持温度を高くすると、溶解鋳造時の晶出粒子や、熱延後の析出粒子を固溶させることが可能となる。
溶体化処理後の冷却速度は速いほど冷却中の析出を抑制できる。冷却速度が遅すぎる場合には、冷却中に第二相粒子が粗大化して、第二相粒子中のNi、Si含有量が増加するため、溶体化処理で十分な固溶を行えず、時効硬化能が低減する。よって、溶体化処理後の冷却は急冷却とするのが好ましい。具体的には、700℃〜900℃で溶体化処理後、平均冷却速度を毎秒10℃以上、好ましくは15℃以上、より好ましくは毎秒20℃以上として400℃まで冷却するのが効果的である。上限は特に規定しないが、設備の仕様上毎秒100℃以下となる。ここでの、“平均冷却速度”は溶体化温度から400℃までの冷却時間を計測し、“(溶体化温度−400)(℃)/冷却時間(秒)”によって算出した値(℃/秒)をいう。
本発明に係るCu−Ni−Si系合金を製造する上では、溶体化処理後に軽度の時効処理を2段階に分けて行ない、2回の時効処理の間に冷間圧延を行うことが有効である。これにより、析出物の粗大化が抑制され、良好な第二相粒子の分布状態を得ることができる。そして、これが最終的には本発明に係る銅合金特有の結晶方位につながると考えられる。
しかしながら、本発明者は溶体化処理直後の第1の時効処理を次の特定条件で3段時効すると、ばね限界値が顕著に向上することを見出した。多段時効を行うことで強度及び導電性のバランスが向上するとした文献はあったものの、多段時効の段数、温度、時間、冷却速度を厳密に制御することでばね限界値までが顕著に向上するとは驚きであった。本発明者の実験によれば、1段時効や2段時効ではこのような効果を得ることはできなかったし、第2の時効処理のみを3段時効しても十分な効果は得られなかった。
理論によって本発明が制限されることを意図しないが、3段時効を採用することによってばね限界値が顕著に向上した理由は次の通りと考えられる。1回目の時効処理を3段時効にすることで、1段目及び2段目で析出した第2相粒子の成長及び3段目での第2相粒子の析出により、次工程の圧延で集合組織が発達しにくくなると考えられる。
3段時効では、まず、材料温度を400〜500℃として1〜12時間加熱する、一段目では第二相粒子の核生成及び成長による強度・導電率を高めるのが目的である。
一段目における材料温度が400℃未満であったり、加熱時間が1時間未満であったりすると、第二相粒子の体積分率が小さく、所望の強度、導電率が得られにくい。一方、材料温度が500℃超になるまで加熱した場合や、加熱時間が12時間を超えた場合には、第二相粒子の体積分率は大きくなるが、粗大化してしまい強度が低下する傾向が強くなる。
一段目の終了後、冷却速度を0.1〜8℃/分として、二段目の時効温度に移行する。ここでの冷却速度は、(一段目時効温度−二段目時効温度)(℃)/(一段目時効温度から二段目時効温度に到達するまでの冷却時間(分))で測定される。
次いで、材料温度を350〜450℃として1〜12時間加熱する。二段目では一段目で析出した第二相粒子を強度に寄与する範囲で成長させることにより導電率を高めるためと、二段目で新たに第二相粒子を析出させる(一段目で析出した第二相粒子より小さい)ことで強度、導電率を高めるためが目的である。
二段目における材料温度が350℃未満であったり、加熱時間が1時間未満であったりすると一段目で析出した第二相粒子が成長できないため、導電率を高めにくく、また二段目で新たに第二相粒子を析出させることができないため、強度、導電率を高めることができない。一方、材料温度が450℃超になるまで加熱した場合や、加熱時間が12時間を超えた場合一段目で析出した第二相粒子が成長しすぎて粗大化していまい、強度が低下してしまう。
一段目と二段目の温度差は、小さすぎると一段目で析出した第二相粒子が粗大化して強度低下を招く一方で、大きすぎると一段目で析出した第二相粒子がほとんど成長せず導電率を高めることができない。また、二段目で第二相粒子が析出しにくくなるので、強度及び導電率をたかめることができない。そのため、一段目と二段目の温度差は20〜60℃とすべきである。
二段目の終了後は、先と同様の理由から、冷却速度を0.1〜8℃/分として、三段目の時効温度に移行する。ここでの冷却速度は、(二段目時効温度−三段目時効温度)(℃)/(二段目時効温度から三段目時効温度に到達するまでの冷却時間(分))で測定される。
次いで、材料温度を260〜340℃として4〜30時間加熱する。三段目では一段目と二段目で析出した第二相粒子を少し成長させるためと、新たに第二相粒子を生成させることが目的である。
三段目における材料温度が260℃未満であったり、加熱時間が4時間未満であったりすると、一段目と二段目で析出した第二相粒子を成長させることができず、また、新たに第二相粒子を生成させることができないため、所望の強度、導電率及びばね限界値が得られにくい。一方、材料温度が340℃超になるまで加熱した場合や、加熱時間が30時間を超えた場合には一段目と二段目で析出した第二相粒子が成長しすぎて粗大化してしまうため、所望の強度及びばね限界値が得られにくい。
二段目と三段目の温度差は、小さすぎると一段目、二段目で析出した第二相粒子が粗大化して強度及びばね限界値の低下を招く一方で、大きすぎると一段目、二段目で析出した第二相粒子がほとんど成長せず導電率を高めることができない。また、3段目で第二相粒子が析出しにくくなるので、強度、ばね限界値及び導電率を高めることができない。そのため、二段目と三段目の温度差は、20〜180℃とすべきである。
一つの段における時効処理では、第2相粒子の分布が変化してしまうことから、温度は一定とするのが原則であるが、設定温度に対して±5℃程度の変動があっても差し支えない。そこで、各ステップは温度の振れ幅が10℃以内で行う。
第1の時効処理後には冷間圧延を行う。この冷間圧延では第1の時効処理での不十分な時効硬化を加工硬化により補うことができる。このときの加工度は所望の強度レベルに到達するために10〜80%、好ましくは20〜60%である。ただし、ばね限界値が低下する。
冷間圧延後は、第2の時効処理でばね限界値と導電率を高めることが重要である。第2の時効温度を高く設定すると、ばね限界値と導電率は上昇するが、温度条件が高すぎた場合には、すでに析出している粒子が粗大化して、過時効状態となり、強度が低下する。よって第2の時効処理では、導電率とばね限界値の回復を図るために通常行われている条件よりも低い温度で長時間保持することに留意する。析出速度の抑制と転位の再配列の効果を共に高めるためである。第2の時効処理の条件の一例を挙げると、100℃以上350℃未満の温度範囲で1〜48時間であり、より好ましくは200℃以上300℃以下の温度範囲で1〜12時間である。
第2の時効処理直後は不活性ガス雰囲気中で時効処理を行った場合であっても表面が僅かに酸化しており、半田濡れ性が悪い。そこで、半田濡れ性が要求される場合には、酸洗及び/又は研磨を行うことができる。
本発明のCu−Ni−Si系合金は種々の伸銅品、例えば板、条、管、棒及び線に加工することができ、更に、本発明によるCu−Ni−Si系銅合金は、リードフレーム、コネクタ、ピン、端子、リレー、スイッチ、二次電池用箔材等の電子部品等に使用することができる。
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
第1の時効条件が合金特性に与える影響
表1に記載の各添加元素を含有し、残部が銅及び不純物からなる銅合金を、高周波溶解炉で1300℃で溶製し、厚さ30mmのインゴットに鋳造した。次いで、このインゴットを1000℃で3時間加熱後、板厚10mmまで熱間圧延し、熱間圧延終了後は速やかに冷却した。次いで、表面のスケール除去のため厚さ9mmまで面削を施した後、冷間圧延により厚さ0.115mmの板とした。次に、700℃以上900℃以下で溶体化処理を120秒行い、その後冷却した。なお、溶体化温度は添加元素の濃度が高い場合は高めに設定した。溶体化温度から400℃までの平均冷却速度を20℃/sとして水冷した。その後は空気中に放置して冷却した。次いで、不活性雰囲気中、表1に記載の各条件で第一の時効処理を施した。各段における材料温度は表1に記載された設定温度±3℃以内に維持した。その後、0.08mmまで冷間圧延し、最後に、不活性雰囲気中、300℃で3時間かけて第二の時効処理をして、各試験片を製造した。
Figure 0005595961
Figure 0005595961
Figure 0005595961
Figure 0005595961
このようにして得られた各試験片につき、合金特性を以下のようにして測定した。
強度についてはJIS Z2241に準拠して圧延平行方向の引っ張り試験を行って0.2%耐力(YS:MPa)を測定した。
導電率(EC;%IACS)についてはダブルブリッジによる体積抵抗率測定により求めた。
ばね限界値は、JIS H3130に準拠して、繰り返し式たわみ試験を実施し、永久歪が残留する曲げモーメントから表面最大応力を測定した。
β角度90°のピーク高さ比率については、先述した測定方法により、リガク社製型式RINT−2500VのX線回折装置を使用して求めた。
曲げ加工性については、Badway(曲げ軸が圧延方向と同一方向)のW曲げ試験として、W字型の金型を用いて試料板厚と曲げ半径の比が2となる条件で90°曲げ加工を行った。続いて、曲げ加工部表面を光学顕微鏡で観察し、クラックが観察されない場合を実用上問題ないと判断して○(良好)とし、クラックが認められた場合を×(不良)とした。
各試験片の試験結果を表2に示す。
Figure 0005595961
Figure 0005595961
実施例No.1〜46は、β角度90°のピーク高さ比率が2.5以上であり、強度、導電性及びばね限界値のバランスに優れていることが分かる。
比較例No.8、比較例No.19〜23、比較例No.25〜35は第一の時効を二段時効で行った例である。
比較例No.7は第一の時効を一段時効で行った例である。
比較例No.2、9は3段目の時効時間が短かった例である。
比較例No.4は3段目の時効温度が低かった例である。
比較例No.13は3段目の時効温度が高かった例である。
比較例No.12は3段目の時効時間が長かった例である。
比較例No.1は1段目の時効温度が低かった例である。
比較例No.3は1段目と2段目の温度差が大きかった例である。
比較例No.5は1段目の時効時間が短かった例である。
比較例No.6は2段目の時効時間が短かった例である。
比較例No.10は2段目の時効時間が長かった例である。
比較例No.11は1段目の時効時間が長かった例である。
比較例No.14は2段目の温度が高かった例である。
比較例No.15は1段目及び2段目の温度が高かった例である。
比較例No.16は2段目から3段目の冷却が遅かった例である。
比較例No.17は1段目から2段目の冷却が遅かった例である。
比較例No.18はNi濃度が低かった例である。
比較例No.24はNi濃度及びSi濃度が高かった例である。
比較例は何れもβ角度90°のピーク高さ比率が2.5未満であり、実施例に比べて強度、導電性及びばね限界値のバランスに劣っていることが分かる。

Claims (5)

  1. Ni:1.0〜4.0質量%、Si:0.2〜1.0質量%を含有し、Siの質量濃度に対するNiの合計質量濃度の比Ni/Siが3.5≦Ni/Si≦5.5を満たし、残部がCu及び不可避不純物からなる電子材料用銅合金であって、圧延面を基準としたX線回折極点図測定により得られる結果で、α=35°におけるβ走査による{200}Cu面に対する{111}Cu面の回折ピーク強度のうち、β角度90°のピーク高さが標準銅粉末のそれに対して2.5倍以上である銅合金。
  2. 更にCr、Mg、P、As、Sb、Be、B、Mn、Sn、Ti、Zr、Al、Fe、Zn及びAgの群から選ばれる少なくとも1種を総計で最大2.0質量%含有する請求項1記載の銅合金。
  3. −請求項1または2に記載の組成をもつ銅合金のインゴットを溶解鋳造する工程1と、
    −900℃以上1000℃以下で1時間以上加熱後に熱間圧延を行う工程2と
    −冷間圧延工程3と、
    −700℃以上900℃以下で溶体化処理を行い、400℃までの平均冷却速度を毎秒10℃以上として冷却する工程4と、
    −材料温度を400〜500℃として1〜12時間加熱する一段目と、次いで、材料温度を350〜450℃として1〜12時間加熱する二段目と、次いで、材料温度を260〜340℃として4〜30時間加熱する三段目を有し、一段目から二段目までの冷却速度及び二段目から三段目までの冷却速度はそれぞれ0.1〜8℃/分とし、一段目と二段目の温度差を20〜60℃とし、二段目と三段目の温度差を20〜180℃として多段時効する第一の時効処理工程5と、
    −冷間圧延工程6と、
    −100℃以上350℃未満で1〜48時間行う第二の時効処理工程7と、
    を順に行うことを含む銅合金の製造方法。
  4. 請求項1または2記載の銅合金からなる伸銅品。
  5. 請求項1または2記載の銅合金を備えた電子部品。
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