以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
《第1実施形態》
図1は本実施形態に係るハイブリッド車両の全体構成を示すブロック図である。
本実施形態に係るハイブリッド車両1は、複数の動力源を車両の駆動に使用するパラレル方式の電気自動車である。このハイブリッド車両1は、図1に示すように、内燃機関(以下、「エンジン」という)10、第1クラッチ15、モータジェネレータ(電動機・発電機)20、第2クラッチ25、バッテリ30、インバータ35、自動変速機40、プロペラシャフト51、ディファレンシャルギアユニット52、ドライブシャフト53、および左右の駆動輪54を備えている。
エンジン10は、ガソリンまたは軽油を燃料として作動する内燃機関であり、エンジンコントロールユニット70からの制御信号に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度や燃料噴射量等が制御される。
第1クラッチ15は、エンジン10の出力軸とモータジェネレータ20の回転軸との間に介装されており、エンジン10とモータジェネレータ20との間の動力伝達を断接する。この第1クラッチ15の具体例としては、例えば比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチなどを例示することができる。この第1クラッチ15は、統合コントロールユニット60からの制御信号に基づいて油圧ユニット16の油圧が制御されることで、クラッチ板を締結(スリップ状態も含む。)/解放させる。
モータジェネレータ20は、ロータに永久磁石を埋設し、ステータにステータコイルが巻きつけられた同期型モータジェネレータである。このモータジェネレータ20には、ロータ回転角を検出するレゾルバ21が設けられている。このモータジェネレータ20は、電動機としても機能するし発電機としても機能する。インバータ35から三相交流電力が供給されている場合には、モータジェネレータ20は回転駆動する(力行)。一方、外力によってロータが回転している場合には、モータジェネレータ20は、ステータコイルの両端に起電力を生じさせることで交流電力を生成する(回生)。モータジェネレータ20によって発電された交流電力は、インバータ35によって直流電力に変換された後に、バッテリ30に充電される。
バッテリ30の具体例としては、リチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池などを例示することができる。このバッテリ30には電流・電圧センサ31が取り付けられており、これらの検出結果をモータコントロールユニット80に出力することが可能となっている。
第2クラッチ25は、モータジェネレータ20と、左右の駆動輪54との間に介装されており、モータジェネレータ20と左右の駆動輪54との間の動力伝達を断接する。この第2クラッチ25の具体例としては、上述の第1クラッチ15と同様に、たとえば湿式多板クラッチなどを例示することができる。この第2クラッチ25は、トランスミッションコントロールユニット90からの制御信号に基づいて油圧ユニット26の油圧が制御されることで、クラッチ板を締結(スリップ状態も含む。)/解放させる。
自動変速機40は、前進7速、後退1速等の有段階の変速比を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える変速機である。この自動変速機40は、トランスミッションコントロールユニット90からの制御信号に基づいて変速比を変化させる。なお、第2クラッチ25としては、図1に示すように、専用クラッチとして新たに追加したものである必要はなく、自動変速機40の各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用したものとすることができる。ただし、このような構成に特に限定されず、たとえば、図2に示すように、第2クラッチ25を、モータジェネレータ20の出力軸と自動変速機40の入力軸との間に介装した構成としもよいし、あるいは、図3に示すように、第2クラッチ25を、自動変速機40の出力軸とプロペラシャフト51との間に介装した構成としてもよい。なお、図2、図3は、他の実施形態に係るハイブリッド車両の構成を示す図であり、図2、図3においては、パワートレーン以外の構成は図1と同様であるため、パワートレーンのみを示している。また、図1〜図3においては、後輪駆動のハイブリッド車両を例示したが、前輪駆動のハイブリッド車両や四輪駆動のハイブリッド車両とすることも、もちろん可能である。
図4は、自動変速機40の構成を表すスケルトン図である。自動変速機40は、第1遊星ギヤセットGS1(第1遊星ギヤG1、第2遊星ギヤG2)、第2遊星ギヤセットGS2(第3遊星ギヤG3、第4遊星ギヤG4)を備えている。なお、これら第1遊星ギヤセットGS1(第1遊星ギヤG1、第2遊星ギヤG2)、第2遊星ギヤセットGS2(第3遊星ギヤG3、第4遊星ギヤG4)は、入力軸Input側から軸方向出力軸Output側に向けて、この順に配置されている。
また、自動変速機40は、摩擦締結要素として複数のクラッチC1、C2、C3、複数のブレーキB1、B2、B3、B4、および複数のワンウェイクラッチF1、F2を備えている。
第1遊星ギヤG1は、第1サンギヤS1と、第1リングギヤR1と、これら両ギヤS1,R1に噛み合う第1ピニオンP1を支持する第1キャリヤPC1と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。第2遊星ギヤG2は、第2サンギヤS2と、第2リングギヤR2と、これら両ギヤS2,R2に噛み合う第2ピニオンP2を支持する第2キャリヤPC2と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。また、第3遊星ギヤG3は、第3サンギヤS3と、第3リングギヤR3と、これら両ギヤS3,R3に噛み合う第3ピニオンP3を支持する第3キャリヤPC3と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。さらに、第4遊星ギヤG4は、第4サンギヤS4と、第4リングギヤR4と、これら両ギヤS4,R4に噛み合う第4ピニオンP4を支持する第4キャリヤPC4と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。
入力軸Inputは、第2リングギヤR2に連結され、エンジン10からの回転駆動力を入力する。出力軸Outputは、第3キャリヤPC3に連結され、出力回転駆動力を不図示のファイナルギヤ等を介して駆動輪54に伝達する。第1連結メンバM1は、第1リングギヤR1と第2キャリヤPC2と第4リングギヤR4とを一体的に連結するメンバである。第2連結メンバM2は、第3リングギヤR3と第4キャリヤPC4とを一体的に連結するメンバである。第3連結メンバM3は、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とを一体的に連結するメンバである。
第1遊星ギヤセットGS1は、第1遊星ギヤG1と第2遊星ギヤG2とを、第1連結メンバM1と第3連結メンバM3により連結してなり、4つの回転要素から構成される。また、第2遊星ギヤセットGS2は、第3遊星ギヤG3と第4遊星ギヤG4とを、第2連結メンバM2により連結してなり、5つの回転要素から構成される。第1遊星ギヤセットGS1は、入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力されるトルク入力経路を有する。第1遊星ギヤセットGS1に入力されたトルクは、第1連結メンバM1から第2遊星ギヤセットGS2に出力される。第2遊星ギヤセットGS2は、入力軸Inputから第2連結メンバM2に入力されるトルク入力経路と、第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に入力されるトルク入力経路とを有する。第2遊星ギヤセットGS2に入力されたトルクは、第3キャリヤPC3から出力軸Outputに出力される。
なお、H&LRクラッチC3が解放され、第3サンギヤS3よりも第4サンギヤS4の回転数が大きい時は、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4は独立した回転数を発生する。よって、第3遊星ギヤG3と第4遊星ギヤG4が第2連結メンバM2を介して接続された構成となり、それぞれの遊星ギヤが独立したギヤ比を達成する。
また、インプットクラッチC1は、入力軸Inputと第2連結メンバM2とを選択的に断接するクラッチである。ダイレクトクラッチC2は、第4サンギヤS4と第4キャリヤPC4とを選択的に断接するクラッチである。H&LRクラッチC3は、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4とを選択的に断接するクラッチである。なお、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4の間には、第2ワンウェイクラッチF2が配置されている。フロントブレーキB1は、第1キャリヤPC1の回転を選択的に停止させるブレーキである。また、第1ワンウェイクラッチF1は、フロントブレーキB1と並列に配置されている。ローブレーキB2は、第3サンギヤS3の回転を選択的に停止させるブレーキである。2346ブレーキB3は、第3連結メンバM3(第1サンギヤS1および第2サンギヤS2)の回転を選択的に停止させるブレーキである。リバースブレーキB4は、第4キャリヤPC4の回転を選択的に停止させるブレーキである。
図5は、自動変速機40での前進7速、後退1速の締結作動表を示す図である。図5中、「○」は、該当するクラッチもしくはブレーキが締結している状態を示し、空白は、これらが解放している状態を示す。また、図5中、「(○)」は、エンジンブレーキ作用時にのみ締結することを示す。なお、上述したように、本実施形態においては、第2クラッチ25として、自動変速機40内の摩擦締結要素を流用しており、図5中、太い実線で囲まれた摩擦締結要素を第2クラッチ25とすることができる。具体的には、1速から3速まではローブレーキB2が第2クラッチ25に該当し、4速から7速まではH&LRクラッチC3が第2クラッチ25に該当する。
なお、自動変速機40として、上述した前進7速、後退1速の有段階の変速機に特に限定されず、たとえば、特開2007−314097号公報に記載されているような、前進5速、後退1速の有段階の変速機を自動変速機40として用いてもよい。
図1に戻り、自動変速機40の出力軸は、プロペラシャフト51、ディファレンシャルギアユニット52、および左右のドライブシャフト53を介して、左右の駆動輪54に連結されている。なお、図1において55は左右の操舵前輪である。
本実施形態におけるハイブリッド車両1は、第1および第2のクラッチ15,25の締結/解放状態に応じて以下に説明する各走行モードに切り替えることが可能となっている。
モータ使用走行モード(以下、「EV走行モード」とする。)は、第1クラッチ15を解放させると共に第2クラッチ25を締結させて、モータジェネレータ20の動力のみを動力源として走行するモードである。
エンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」とする。)は、第1クラッチ15および第2クラッチ25をいずれも締結させて、エンジン10を動力源に含みながら走行するモードである。
エンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」とする。)は、第1クラッチ15を締結させると共に、第2クラッチ25をスリップ状態として、エンジン10を動力源に含みながら走行するモードである。このWSC走行モードは、特にバッテリ30の充電状態SOC(State of Charge)が低下している場合やエンジン10の冷却水の温度が低い場合、クリープ走行を達成するモードである。なお、WSC走行モードの詳細については、後述する。
モータ使用スリップ走行モード(以下、「MWSC走行モード」とする。)は、エンジン10を作動させた状態で、第1クラッチ15を解放させると共に、第2クラッチ25をスリップ状態として、モータジェネレータ20の動力のみを動力源として、走行するモードである。特に、上述したWSC走行モードにおいて、ドライバがアクセルペダルを調整し車両停止状態を維持するアクセルヒルホールドが行われるような場合、第2クラッチ25のスリップ量が過多である状態が継続し、そのため、第2クラッチ25が過熱するおそれがある。エンジン回転数をアイドル回転数よりも小さくすると、エンジンストールが発生するためである。そのため、本実施形態では、このような場合において、第2クラッチ25が過熱されてしまうことを防止するために、第2クラッチ25の負荷を低減するための走行モードである、MWSC走行モードが選択されることとなる。MWSC走行モードの詳細については、後述する。
なお、EV走行モードからHEV走行モードに移行する際には、解放していた第1クラッチ15を締結し、モータジェネレータ20のトルクを利用することで、エンジン始動を行なうことができる。
また、HEV走行モードには、エンジン走行モード、モータアシスト走行モード、および走行発電モードがある。エンジン走行モードでは、モータジェネレータ20を駆動させずに、エンジン10のみを動力源として駆動輪54を動かす。モータアシスト走行モードでは、エンジン10とモータジェネレータ20との両方を駆動させて、これら2つを動力源として駆動輪54を動かす。走行発電モードでは、エンジン10を動力源として駆動輪54を動かすと同時に、モータジェネレータ20を発電機として機能させ、バッテリ30を充電する。
なお、以上に説明したモードの他に、停車時において、エンジン10の動力を利用してモータジェネレータ20を発電機として機能させ、バッテリ30を充電したり電装品へ電力を供給する発電モードを備えてもよい。
本実施形態におけるハイブリッド車両1の制御系は、図1に示すように、統合コントロールユニット60、エンジンコントロールユニット70、モータコントロールユニット80、およびトランスミッションコントロールユニット90を備えている。これらの各コントロールユニット60,70,80,90は、たとえばCAN通信を介して相互に接続されている。
エンジンコントロールユニット70は、統合コントロールユニット60からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(エンジン回転数Ne、エンジントルクTe)を制御する指令を、エンジン10に備えられたスロットルバルブアクチュエータへ出力する。なお、エンジン回転数Ne、エンジントルクTeの情報は、CAN通信線を介して統合コントロールユニット60へ供給される。
モータコントロールユニット80は、モータジェネレータ20に設けられたレゾルバ21からの情報を入力し、統合コントロールユニット60からの目標モータジェネレータトルク指令値等に応じて、モータジェネレータ20の動作点(モータ回転数Nm、モータトルクTm)を制御する指令をインバータ35に出力する。また、モータコントロールユニット80は、電流・電圧センサ31により検出された電流値および電圧値に基づいてバッテリ30のSOCを演算および管理する。このバッテリSOC情報は、モータジェネレータ20の制御情報に用いられると共に、CAN通信を介して統合コントロールユニット60に送出される。さらに、モータコントロールユニット80は、モータジェネレータ20に流れる電流値(電流値の正負によって駆動トルクと回生制御トルクを区別している)に基づいて、モータジェネレータトルクTmを推定する。モータ回転数Nm、モータトルクTmの情報は、CAN通信を介して統合コントロールユニット60に送出される。
トランスミッションコントロールユニット90は、アクセル開度センサ91、車速センサ92、第2クラッチ25油圧センサ93、および、ドライバの操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチ94からのセンサ情報を入力し、統合コントロールユニット60からの第2クラッチ25制御指令に応じ、第2クラッチ25の締結・解放を制御する指令を、油圧ユニット26に出力する。なお、アクセル開度APO、車速VSP、およびインヒビタスイッチ94の情報は、CAN通信を介して統合コントロールユニット60に送出される。
統合コントロールユニット60は、ハイブリッド車両1全体の消費エネルギを管理することで、ハイブリッド車両1を効率的に走行させるための機能を担うものである。この統合コントロールユニット60は、第2クラッチ25出力回転数N2outを検出する第2クラッチ25出力回転数センサ61、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2を検出する第2クラッチ25トルクセンサ62、ブレーキ油圧センサ63、第2クラッチ25の温度を検知する温度センサ64、および、車両の前後加速度および横加速度を検出するGセンサ65からのセンサ情報を取得する。また、統合コントロールユニット60は、これらの情報に加えて、CAN通信を介して得られたセンサ情報の取得も行なう。なお、上述したように、第2クラッチ25が、自動変速機40の変速段に応じて、2種類存在する(ローブレーキB2およびH&LRクラッチC3)ため、温度センサ64は、これらの温度をそれぞれ、検出可能なように、複数設けることができる。
そして、統合コントロールユニット60は、これらの情報に基づいて、エンジンコントロールユニット70への制御指令によるエンジン10の動作制御、モータコントロールユニット80への制御指令によるモータジェネレータ20の動作制御、トランスミッションコントロールユニット90への制御指令による自動変速機40の動作制御、第1クラッチ15の油圧ユニット16への制御指令による第1クラッチ15の締結・解放制御、および、第2クラッチ25の油圧ユニット26への制御指令による第2クラッチ25の締結・解放制御を実行する。
次いで、統合コントロールユニット60により実行される制御について説明する。図6は、統合コントロールユニット60の制御ブロック図である。なお、以下に説明する制御は、たとえば、10msecごとに実行される。図6に示すように、統合コントロールユニット60は、目標駆動力演算部100、モード選択部200、目標充放電演算部300、動作点指令部400、および変速制御部500を備える。
目標駆動力演算部100は、予め定められた目標駆動力マップを用いて、アクセル開度センサ91により検出されたアクセル開度APO、および車速センサ92により検出された車速VSPに基づいて、目標駆動力tFo0を演算する。図7に、目標駆動力マップの一例を示す。
モード選択部200は、Gセンサ65の検出値に基づいて路面勾配を推定する路面勾配推定演算部210を有する。路面勾配推定演算部210は、不図示の車輪速センサの車輪速加速度平均値等から実加速度を演算し、この演算結果と、Gセンサ65の検出値との偏差から路面勾配を推定する。
さらに、モード選択部200は、モードマップ選択部220を有する。モードマップ選択部220は、路面勾配推定演算部210により推定された路面勾配に基づいて、後述する通常モードマップおよびMWSC対応モードマップのうち、いずれのモードマップを使用するかの選択を行なう。図8は、モードマップ選択部220による、選択ロジックを表す概略図である。図8に示すように、モードマップ選択部220は、通常モードマップが選択されている状態において、推定勾配が所定値g2以上になると、MWSC対応モードマップに切り換える。一方、MWSC対応モードマップが選択されている状態において、推定勾配が所定値g1(<g2)未満になると、通常モードマップに切り換える。すなわち、モード選択部200は、推定勾配に対してヒステリシスを設けて、マップ切り換えを行うものであり、これにより、マップ切り換え時の制御ハンチングを防止する。
次いで、モードマップについて説明する。モードマップとしては、図9に示す通常モードマップと、図10に示すMWSC対応モードマップとを有する。
図9に示すように、通常モードマップが選択されている場合には、アクセル開度APOと車速VSPに基づいて、EV走行モード、WSC走行モード、およびHEV走行モードのうちから、目標モードの選択が行なわれる。ただし、通常モードマップに基づいて、EV走行モードが選択された場合でも、バッテリ30のSOCが所定値以下である場合には、EV走行モードではなく、HEVモードが目標モードとして設定される。
図9に示す通常モードマップにおいて、HEV→WSC切換線は、所定アクセル開度APO1未満の領域では、自動変速機40が1速段のときに、エンジン10のアイドル回転数よりも小さな回転数となる下限車速VSP1よりも低い領域に、WSC走行モードとなるように設定されている。また、所定アクセル開度APO1以上の領域では、大きな駆動力を要求されることから、下限車速VSP1よりも高い車速VSP1’領域までWSC走行モードが設定されている。なお、バッテリ30のSOCが低く、EV走行モードを達成できない場合には、発進時等であってもWSC走行モードを選択する。
また、図10に示すように、MWSC対応モードマップが選択されている場合には、アクセル開度APOと車速VSPに基づいて、WSC走行モード、MWSC走行モード、およびHEV走行モードのうちから、目標モードの選択が行なわれる。図10に示すように、MWSC対応モードマップは、EV走行モード領域が設定されていない点で通常モードマップとは異なる。また、HEV→WSC切換線が、下限車速VSP1のみで規定されている点で通常モードマップとは異なる。さらに、WSC走行モード領域内にMWSC走行モード領域が設定されている点で通常モードマップとは異なる。MWSC走行モード領域は、下限車速VSP1よりも低い所定車速VSP2と所定アクセル開度APO1よりも高い所定アクセル開度APO2とで囲まれた領域に設定されている。
なお、本実施形態においては、MWSC対応モードマップに基づいて、MWSC走行モードが選択された場合でも、バッテリ30のSOCが低く、MWSC走行モードが達成できないため、MWSC走行モードを禁止するMWSC走行制御禁止モードに設定されている場合には、MWSC走行モードではなく、WSC走行モードが目標モードとして設定される。
目標充放電演算部300は、予め定められた目標充放電量マップを用いて、バッテリ30のSOCから、目標充放電電力tPを演算する。図11に、目標充放電量マップの一例を示す。
動作点指令部400は、アクセル開度APO、目標駆動力tFoO、目標モード、車速VSP、および目標充放電電力tPに基づいて、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルク、目標モータジェネレータトルク、目標第2クラッチ伝達トルク容量、自動変速機40の目標変速段、および第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。
変速制御部500は、シフトマップに示すシフトスケジュールに沿って、目標第2クラッチ伝達トルク容量、および目標変速段を達成するように自動変速機40内のソレノイドバルブを駆動制御する。なお、この際に用いられるシフトマップは、車速VSPとアクセル開度APOに基づいて予め目標変速段が設定されたものである。
次いで、WSC走行モードについて説明する。
WSC走行モードとは、エンジン10が作動した状態を維持している点に特徴があり、要求駆動力変化に対する応答性が高いモードである。具体的には、WSC走行モードでは、第1クラッチ15を完全締結し、第2クラッチ25を要求駆動力に応じた伝達トルク容量としてスリップ制御し、エンジン10とモータジェネレータ20のうち少なくとも一方の駆動力を用いて走行する。
本実施形態のハイブリッド車両1は、トルクコンバータのように回転数差を吸収する要素が存在しないため、第1クラッチ15と第2クラッチ25とを完全締結すると、エンジン10の回転数に応じて車速が決まってしまう。エンジン10には自立回転を維持するためのアイドル回転数による下限値が存在し、このアイドル回転数は、エンジンの暖機運転等によりアイドルアップを行っていると、さらに下限値が高くなる。また、要求駆動力が高い状態では素早くHEV走行モードに遷移できない場合がある。
一方、EV走行モードでは、第1クラッチ15を解放するため、上記エンジン回転数による下限値に伴う制限はない。しかしながら、バッテリ30のSOCに基づく制限によってEV走行モードによる走行が困難な場合や、モータジェネレータ20のみで要求駆動力を達成できない領域では、エンジン10によって安定したトルクを発生する以外に手段がない。
そこで、本実施形態では、上記下限値に相当する車速よりも低車速領域であって、かつ、EV走行モードによる走行が困難な場合や、モータジェネレータ20のみでは要求駆動力を達成できない領域では、エンジン回転数を所定の下限回転数に維持し、第2クラッチ25をスリップ制御させ、エンジントルクを用いて走行するWSC走行モードを選択する。
図12は、WSC走行モードにおけるエンジン動作点設定処理を表す概略図、図13は、WSC走行モードにおけるエンジン目標回転数を表すマップである。WSC走行モードにおいて、ドライバがアクセルペダルを操作すると、図13に基づいてアクセルペダル開度に応じた目標エンジン回転数特性が選択され、この特性に沿って車速に応じた目標エンジン回転数が設定される。そして、図12に示すエンジン動作点設定処理によって目標エンジン回転数に対応した目標エンジントルクが演算される。
ここで、エンジン10の動作点をエンジン回転数とエンジントルクにより規定される点と定義する。図12に示すように、エンジン動作点は、エンジン10の出力効率が高い動作点を結んだ線(以下、α線)上で運転することが望まれる。一方で、上述のようにエンジン回転数を設定した場合、ドライバのアクセルペダル操作量(要求駆動力)によってはα線から離れた動作点が選択されることとなる。そこで、エンジン動作点をα線に近づけるために、目標エンジントルクは、α線を考慮した値にフィードフォワード制御される。
一方、モータジェネレータ20は、設定されたエンジン回転数を目標回転数とする回転数フィードバック制御が実行される。そして、エンジン10とモータジェネレータ20とは直結状態とされていることから、モータジェネレータ20が目標回転数を維持するように制御されることで、エンジン10の回転数も自動的にフィードバック制御されることとなる。
このとき、モータジェネレータ20が出力するトルクは、α線を考慮して決定された目標エンジントルクと要求駆動力との偏差を埋めるように自動的に制御される。モータジェネレータ20では、上記偏差を埋めるように基礎的なトルク制御量(回生・力行)が与えられ、さらに、目標エンジン回転数と一致するようにフィードバック制御される。
あるエンジン回転数において、要求駆動力がα線上の駆動力よりも小さい場合、エンジン出力トルクを大きくした方がエンジン出力効率は上昇する。このとき、出力を上げた分のエネルギをモータジェネレータ20により回収することで、第2クラッチ25に入力されるトルク自体はドライバの要求トルクとしつつ、効率の良い発電が可能となる。
ただし、バッテリ30のSOCの状態によって発電可能なトルク上限値が決定されるため、バッテリ30のSOCからの要求発電出力(SOC要求発電電力)と、現在の動作点におけるトルクとα線上のトルクとの偏差(α線発電電力)との大小関係を考慮する必要がある。
図12(a)は、α線発電電力がSOC要求発電電力よりも大きい場合の概略図である。SOC要求発電電力以上にはエンジン出力トルクを上昇させることができないため、α線上に動作点を移動させることはできない。ただし、より効率の高い点へ移動させることで燃費効率を改善する。
図12(b)は、α線発電電力がSOC要求発電電力よりも小さい場合の概略図である。SOC要求発電電力の範囲内であれば、エンジン動作点をα線上に移動させることができるため、この場合は、最も燃費効率の高い動作点を維持しつつ発電することができる。
図12(c)は、エンジン動作点がα線よりも高い場合の概略図である。要求駆動力に応じた動作点がα線よりも高いときは、バッテリSOCに余裕があることを条件として、エンジントルクを低下させ、不足分をモータジェネレータ20の力行により補う。これにより、燃費効率を高くしつつ要求駆動力を達成することができる。
次に、WSC走行モード領域を、推定勾配に応じて変更している点について説明する。図14は、車速を所定状態で上昇させる際のエンジン回転数マップである。平坦路において、アクセルペダル開度がAPO1よりも大きな値の場合、WSC走行モード領域は下限車速VSP1よりも高い車速領域まで実行される。このとき、車速の上昇に伴って、図13に示すマップのように徐々に目標エンジン回転数は上昇する。そして、VSP1’に相当する車速に到達すると、第2クラッチ25のスリップ状態は解消され、HEV走行モードに遷移する。
推定勾配が所定勾配(g1またはg2)より大きい勾配路において、上記と同じ車速上昇状態を維持しようとすると、それだけ大きなアクセル開度となる。このとき、第2クラッチ25の伝達トルク容量TCL2は平坦路に比べて大きくなる。この状態において、仮に図13に示すマップのようにWSC走行モード領域を拡大してしまうと、第2クラッチ25は強い締結力でのスリップ状態を継続することとなり、発熱量が過剰となるおそれがある。そこで、推定勾配が大きい勾配路のときに選択される、図10に示すMWSC対応モードマップでは、WSC走行モード領域を不要に広げることなく、車速VSP1に相当する領域までとする。これにより、WSC走行モードにおける過剰な発熱を回避することができる。
次いで、MWSC走行モードについて説明する。
推定勾配が所定勾配(g1またはg2)より大きいときに、たとえば、ブレーキペダル操作を行うことなく車両を停止状態もしくは微速発進状態に維持しようとすると、平坦路に比べて大きな駆動力が要求される。自車両の荷重負荷に対向する必要があるからである。
これに対し、第2クラッチ25のスリップによる発熱を回避する観点から、バッテリ30のSOCに余裕があるときはEV走行モードを選択することも考えられる。このとき、EV走行モード領域からWSC走行モード領域に遷移したときにはエンジン始動を行う必要があり、モータジェネレータ20はエンジン始動用トルクを確保した状態で駆動トルクを出力するため、駆動トルク上限値が不要に狭められる。
また、EV走行モードにおいて、モータジェネレータ20にトルクだけを出力し、モータジェネレー20の回転を停止もしくは極低速回転すると、インバータのスイッチング素子にロック電流が流れ(電流が1つの素子に流れ続ける現象)、耐久性の低下を招くおそれがある。
さらに、1速でエンジン10のアイドル回転数に相当する下限車速VSP1よりも低い領域(VSP2以下の領域)において、エンジン10自体は、アイドル回転数より低下させることができない。このとき、WSC走行モードを選択すると、第2クラッチ2520のスリップ量が大きくなり、第2クラッチ2520の耐久性に影響を与えるおそれがある。
特に、勾配路では、平坦路に比べて大きな駆動力が要求されていることから、第2クラッチ2520に要求される伝達トルク容量は高くなり、高トルクで高スリップ量の状態が継続されることは、第2クラッチ2520の耐久性の低下を招きやすい。また、車速の上昇もゆっくりとなることから、HEV走行モードへの遷移までに時間がかかり、さらに発熱するおそれがある。
そこで、本実施形態においては、エンジン10を作動させたまま、第1クラッチ15を解放し、第2クラッチ25の伝達トルク容量をドライバの要求駆動力に制御しつつ、モータジェネレータ20の回転数が第2クラッチ25の出力回転数よりも所定回転数高い目標回転数にフィードバック制御するMWSC走行モードを採用している。
言い換えると、モータジェネレータ20の回転状態をエンジンのアイドル回転数よりも低い回転数としつつ第2クラッチ25をスリップ制御するものである。同時に、エンジン10はアイドル回転数を目標回転数とするフィードバック制御に切り換える。WSC走行モードでは、モータジェネレータ20の回転数フィードバック制御によりエンジン回転数が維持される。これに対し、MWSC走行モードでは、第1クラッチ15を解放するため、第1クラッチ15が解放されると、モータジェネレータ20によってエンジン回転数をアイドル回転数に制御できなくなる。よって、MWSC走行モードでは、エンジン10自体によりエンジン回転数フィードバック制御を行う。
なお、本実施形態においては、上述したWSC走行モードおよびMWSC走行モードに加えて、エンジン・モータ使用スリップ走行モード(以下、「EWSC−MWSC走行モード」とする。)を備えるものであってもよい。EWSC−MWSC走行モードは、エンジン10を作動させた状態で、第1クラッチ15を締結させると共に、第2クラッチ25をスリップ状態として、エンジン10の動力のみを動力源として、走行するモード(以下、「EWSC走行モード」とする。)と、上述したMWSC走行モードとを交互に切り替えながら走行するモードである。第2クラッチ25が過熱されてしまうことを防止するために、MWSC走行モードが選択されている場合に、MWSC走行モードでは、バッテリ30からの電力のみで走行を行なうため、バッテリ30のSOCが低下し続けることとなる。これに対して、バッテリ30のSOCが所定値以下となった場合に、バッテリ30のSOCの低下を防止、あるいはSOCを上昇させるために、本実施形態では、EWSC走行モードとMWSC走行モードとを交互に切り替えながら走行を行なうEWSC−MWSC走行モードを実行するような構成としてもよい。
次いで、本実施形態における、クラッチ保護制御について、説明する。
WSC走行モードやMWSC走行モードである場合に、車両負荷が高い場合、たとえば、登坂路において、ドライバが、ブレーキペダル操作を行うことなく、アクセルペダルを調整し、ハイブリッド車両1を停止状態に維持するアクセルヒルホールドや、微速発進状態を維持すると、第2クラッチ25のスリップ量が過多の状態が継続し、第2クラッチ25が過熱するおそれがある。
そのため、本実施形態では、第2クラッチ25が所定のクラッチ保護温度Tα以上である場合に、第1クラッチ15および第2クラッチ25を完全締結させて、エンジン10をストールさせ、第2クラッチ25の保護を図る保護制御を実施する。そして、このようなクラッチ保護制御を実現するために、統合コントロールユニット60は、クラッチ保護制御部410を備える。
クラッチ保護制御部410は、温度センサ64により検出された第2クラッチ25の温度がクラッチ保護温度Tα(過熱を表す所定温度)以上であるか否かの判定を行ない、第2クラッチ25の温度がクラッチ保護温度Tα以上である場合に、第1クラッチ15および第2クラッチ25を完全締結させる指令を出力する。なお、この際には、ハイブリッド車両1の駆動力増加に伴う急発進を防止するために、第2クラッチ25の第2クラッチ伝達トルク容量TCL2を、上限トルク容量まで所定の変化率で徐々に上昇させる。
さらに、クラッチ保護制御部410は、クラッチ保護制御時、モータジェネレータ20を目標回転数に応じて回転数制御すると共に、エンジン10を目標エンジントルクに応じてトルク制御する。
この保護制御時におけるモータジェネレータ20の目標モータ回転数は、目標時間後にモータ回転数が所定回転数となるようなモータ回転数の下降勾配を決め、この下降勾配が得られるような回転数に設定される。ここで、目標時間としては、当該保護制御によりハイブリッド車両1を前進させる距離と時間とに応じて適宜設定すればよい。また、所定回転数は、エンジン10の低回転共振帯(エンジン10と車両フロアとが共振してハイブリッド車両1の音振性能が悪化する回転数領域)の上限値よりもオフセット回転数だけ高い回転数とすることができる。
なお、モータジェネレータ20のモータ回転数が、所定回転数に到達した場合、クラッチ保護制御が解除されるまでの間、目標モータ回転数はゼロに設定される。
また、保護制御時におけるエンジン10の目標エンジントルクは、エンジン回転数が所定回転数となるまでの間、エンジントルクとモータトルクとの合計が、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2以下となるようなエンジントルクに設定される。なお、エンジン回転数が所定回転数に到達した場合、エンジン10がストールし、クラッチ保護制御が解除されるまでの間、目標エンジン回転数はゼロに設定されると共に、エンジン10のフューエルカットを行う。
一方で、上述したクラッチ保護制御を行うと、走行不可の状態となってしまうため、第2クラッチ25の温度がクラッチ保護温度Tα以上となり、クラッチ保護制御が実行される前に、ドライバに対して告知を行い、クラッチ保護制御が行われることを回避できるようにすることが望ましい。そこで、本実施形態では、第2クラッチ25の温度が所定の第1閾値温度Tβ(Tβ<Tα)以上となった場合に、第2クラッチ25の締結トルクを、所定の周期で繰り返し変化させるトルク振動制御を実施し、第2クラッチ25の締結トルクを、所定の周期で繰り返し変化させ、第2クラッチ25のトルクを振動させることにより、ドライバに対して告知を行なう。そして、このようなトルク振動制御を実現するために、統合コントロールユニット60は、トルク振動制御部420を備える。
図15に、トルク振動制御部420によるトルク振動制御モードと通常モードとの切替え処理の流れを示すフローチャートを示す。図15に示すように、トルク振動制御部420は、温度センサ64からのセンサ情報に基づいて、第2クラッチ25の温度を取得し、第2クラッチ25の温度が第1閾値温度Tβ以上であるか否かの判定を行なう(ステップS1)。なお、この場合において、第2クラッチ25の温度としては、自動変速機40の入出力回転サンサから第2クラッチ25の相対回転を算出し、目標駆動トルクより第2クラッチ25の目標トルクを算出し発熱量を計算し、これにより、第2クラッチ25の温度を推定するような構成としてもよい。また、第1閾値温度Tβとしては、ドライバに対して告知を行なうことで、第2クラッチ25の温度がクラッチ保護温度Tα以上となるのを防止するのに適した温度とすればよく、特に限定されないが、たとえば予め定められた所定の温度とすることができる。あるいは、図16に示すマップにしたがって、ドライバの要求トルクおよび路面勾配推定演算部210により推定された推定勾配に基づいて設定される、所定値βから、下記式(1)に従って、第1閾値温度Tβを設定してもよい。
第1閾値温度Tβ=クラッチ保護温度Tα−所定値β …(1)
なお、この場合においては、図16に示すように、ドライバの要求トルクが大きいほど、また、推定勾配が大きいほど、車両負荷が大きくなり、第2クラッチ25の温度上昇速度は速くなる傾向にあるため、所定値βはより高い値に設定され、結果として、第1閾値温度Tβはより低い温度に設定される。逆に、ドライバの要求トルクが小さいほど、また、推定勾配が小さいほど、車両負荷は小さくなり、第2クラッチ25の温度上昇速度は遅くなる傾向にあるため、所定値βはより小さい値に設定され、結果として、第1閾値温度Tβはより高い温度に設定される。このように、ドライバの要求トルクおよび推定勾配に基づいて、クラッチ振動制御を行うための閾値温度(第1閾値温度Tβ)を設定することにより、トルク振動制御を実行するタイミングを、第2クラッチ25の温度上昇速度に応じたものとすることができ、結果として、トルク振動制御を実行し、これにより、ドライバに対して告知を行なうタイミングを、より適切なものとすることができる。
そして、第1閾値温度Tβ以上である場合には、ドライバに対して告知を行なう必要があると判断し、第2クラッチ25の締結トルクを、所定の周期で繰り返し変化させるトルク振動制御を行うトルク振動制御モードに設定し、トルク振動制御を実施する(ステップS2)。一方、第1閾値温度Tβ未満である場合には、ドライバに対して告知を行なう必要はないと判断し、通常制御モードに設定する(ステップS3)。ここで、通常制御モードとは、通常のWSC走行モードまたはMWSC走行モードにおいて、上述した方法にしたがって、車速VSP、アクセル開度APO、バッテリ30のSOC等に基づいて、エンジン10、モータジェネレータ20、第1クラッチ15、および、第2クラッチ25をそれぞれ制御するモードである。
図17は、本実施形態に係るトルク振動制御を示すタイムチャートである。なお、図17は、アクセルペダルを調整し車両停止状態を維持するアクセルヒルホールドが行なわれている場面におけるタイムチャートである。
図17に示すように、アクセルペダルを調整し車両停止状態を維持するアクセルヒルホールドが行なわれている場面において、目標モードとして、WSC走行モードまたはMWSC走行モードが選択されている場合には、時間の経過とともに、第2クラッチ25の温度が上昇していく。そして、t1の時点において、第2クラッチ25の温度が、第1閾値温度Tβ以上となると、統合コントロールユニット60のトルク振動制御部420により、通常制御モードから、クラッチ振動制御モードに切替える処理が行われる。
t1〜t2においては、第2クラッチ25の目標トルクが、「ドライバの要求トルク+加算トルク」と等しい値となるまで、トルク振動制御部420により、トルク上昇時変化率(図17中、b/a)にしたがって、第2クラッチ25の目標トルクを上昇させる制御が行われる。そして、t2の時点において、第2クラッチ25の目標トルクが、「ドライバの要求トルク+加算トルク」と等しい値となると、t2〜t3において、第2クラッチ25の目標トルクが、「ドライバの要求トルク」と等しい値となるまで、トルク振動制御部420により、トルク下降時変化率(図17中、d/c)にしたがって、第2クラッチ25の目標トルクを下降させる制御が行われる。そして、t3の時点において、第2クラッチ25の目標トルクが、「ドライバの要求トルク」と等しい値となると、再び、トルク上昇時変化率(図17中、b/a)にしたがって、第2クラッチ25の目標トルクを上昇させる制御が行われる。そして、このような目標トルクを上昇および下降させる制御を、振動周期Tにしたがって、繰り返し行ない、第2クラッチ25のトルクを振動させることにより、ドライバに対して告知を行なうものである。
なお、クラッチ振動制御モードにおける、加算トルク、トルク上昇時変化率、およびトルク下降時変化率は、ハイブリッド車両1の車両重量と、推定勾配とに基づいて設定することができる。具体的には、図18に示すようなマップを用いて、加算トルク、トルク上昇時変化率、およびトルク下降時変化率を設定することができる。ここで、図18(a)は、加算トルクの設定に用いるマップの一例、図18(b)は、トルク上昇時変化率の設定に用いるマップの一例、図18(c)は、トルク下降時変化率の設定に用いるマップの一例を示している。
本実施形態によれば、第2クラッチ25の温度が、クラッチ保護制御を行うための閾値温度であるTαよりも低い、所定の第1閾値温度Tβ以上となった場合に、第2クラッチ25の締結トルクを、所定の周期で繰り返し変化させるトルク振動制御を実施し、第2クラッチ25の締結トルクを、所定の周期で繰り返し変化させ、第2クラッチ25のトルクを振動させる。そして、本実施形態によれば、第2クラッチ25のトルクを振動させることにより、ドライバに対して、クラッチ保護制御が実行されそうな状態であることを、告知することができ、これにより、クラッチ保護制御が行われることを回避できるようにすることができる。特に、本実施形態によれば、第2クラッチ25の締結トルクを、所定の周期で繰り返し変化させ、第2クラッチ25のトルクを振動させることにより、ドライバに対して告知を行なうものであるため、該告知を行なうためのディスプレイ表示装置や、音声案内装置などを用いることなく、ドライバに対して告知をすることができる。
加えて、本実施形態によれば、トルク振動制御を行う際において、ドライバの要求トルクを基点として、加算トルクに基づいて、第2クラッチ25のトルクを振動させることにより、登板路において、ハイブリッド車両1のずり下がりを抑制することができる。
《第2実施形態》
次いで、本発明の第2実施形態について説明する。
本発明の第2実施形態は、上述した第1実施形態のハイブリッド車両1において、トルク振動制御モードと通常モードとの切替える際の切替え処理が以下に説明する点で異なる以外は、第1実施形態と同様であり、第1実施形態と同様の作用を奏する。
以下においては、第2実施形態における、トルク振動制御モードと通常モードとの切替え処理について説明する。図19は、第2実施形態に係るトルク振動制御モードと通常モードとの切替え処理の流れを示すフローチャートである。
図19に示すように、まず、トルク振動制御部420は、MWSC走行モードを禁止するMWSC走行制御禁止モードに設定されているか否かの判定を行なう(ステップS101)。なお、MWSC走行モードは、モータジェネレータ20の動力のみを動力源として、走行するモードであるため、バッテリ30のSOCが低い場合には、MWSC走行モードが達成できない場合がある。そのため、本実施形態においては、バッテリ30のSOCが所定値未満である場合には、MWSC走行モードを禁止するMWSC走行制御禁止モードに設定される。MWSC走行制御禁止モードに設定されていない場合(ステップS101=No)には、上述した第1実施形態と同様に、トルク振動制御部420は、第2クラッチ25の温度が第1閾値温度Tβ以上であるか否かの判定を行い(ステップS102)、第1閾値温度Tβ以上である場合には、ドライバに対して告知を行なう必要があると判断し、トルク振動制御モードに設定し、トルク振動制御を実施する(ステップS103)。一方、第1閾値温度Tβ未満である場合には、ドライバに対して告知を行なう必要はないと判断し、通常制御モードに設定する(ステップS105)。
一方、MWSC走行制御禁止モードに設定されている場合(ステップS101=Yes)には、ステップS104に進み、トルク振動制御部420は、第2クラッチ25の温度が所定の第2閾値温度Tγ(Tγ<Tβ)以上であるか否かの判定を行なう。そして、第2クラッチ25の温度が第2閾値温度Tγ以上である場合には、ドライバに対して告知を行なう必要があると判断し、トルク振動制御モードに設定し、トルク振動制御を実施する(ステップS103)。一方、第2閾値温度Tγ未満である場合には、ドライバに対して告知を行なう必要はないと判断し、通常制御モードに設定する(ステップS105)。ここで、第2閾値温度Tγは、上述した第1閾値温度Tβよりも低い温度に設定される。すなわち、本実施形態においては、MWSC走行制御禁止モードに設定されている場合には、MWSC走行制御禁止モードに設定されていない場合と比較して、第2クラッチ25の温度がより低い温度である場合でも、トルク振動制御を実施する。
第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果に加えて、次の効果を奏する。
すなわち、第2実施形態においては、バッテリ30のSOCが所定値以下であり、第2クラッチ25の負荷を低減するための走行モードである、MWSC走行モードが禁止されている場合には、トルク振動制御を行う閾値温度を、MWSC走行モードが禁止されていない場合における域値温度であるTβよりも低いTγに設定する。すなわち、第2実施形態においては、MWSC走行モードが禁止されている場合には、第2クラッチ25の負荷を低減するために、MWSC走行モードとすることができず、そのため、MWSC走行モードで走行する場合と比較して、第2クラッチ25の温度上昇速度が速くなってしまう。そのため、本実施形態によれば、MWSC走行モードが禁止されている場合には、トルク振動制御を行う閾値温度をより低い温度に設定することで、比較的低い温度にて、トルク振動制御を実行することで、これにより、ドライバに対して告知を行なうタイミングを、より適切なものとすることができる。
《第3実施形態》
次いで、本発明の第3実施形態について説明する。
本発明の第3実施形態は、上述した第1実施形態のハイブリッド車両1において、トルク振動制御モードにおける、トルク振動方法が以下に説明する点で異なる以外は、第1実施形態と同様であり、第1実施形態と同様の作用を奏する。
以下においては、第3実施形態における、トルク振動制御について、図20に示すタイムチャートに基づいて、説明する。図20は、第3実施形態に係るトルク振動制御を示すタイムチャートである。なお、図20は、上述した図17と同様に、アクセルペダルを調整し車両停止状態を維持するアクセルヒルホールドが行なわれている場面におけるタイムチャートである。
図20に示すように、アクセルペダルを調整し車両停止状態を維持するアクセルヒルホールドが行なわれている場面において、目標モードとして、WSC走行モードまたはMWSC走行モードが選択されている場合には、時間の経過とともに、第2クラッチ25の温度が上昇していく。そして、t11の時点において、第2クラッチ25の温度が、第1閾値温度Tβ以上となると、統合コントロールユニット60のトルク振動制御部420により、通常制御モードから、クラッチ振動制御モードに切替える処理が行われる。
t11〜t12においては、第2クラッチ25の目標トルクが、「ドライバの要求トルク+加算トルク」と等しい値となるまで、トルク振動制御部420により、トルク上昇時変化率(図20中、f/e)にしたがって、第2クラッチ25の目標トルクを上昇させる制御が行われる。そして、t12の時点において、第2クラッチ25の目標トルクが、「ドライバの要求トルク+加算トルク」と等しい値となると、t12〜t13において、第2クラッチ25の目標トルクが、「ドライバの要求トルク−減算トルク」と等しい値となるまで、トルク振動制御部420により、トルク下降時変化率(図20中、h/g)にしたがって、第2クラッチ25の目標トルクを下降させる制御が行われる。そして、t13の時点において、第2クラッチ25の目標トルクが、「ドライバの要求トルク−減算トルク」と等しい値となると、t13〜t14において、トルク上昇時変化率(図20中、j/i)にしたがって、第2クラッチ25の目標トルクが、「ドライバの要求トルク+加算トルク」と等しい値となるまで、第2クラッチ25の目標トルクを上昇させる制御が行われる。そして、このような目標トルクを上昇および下降させる制御を、振動周期Tにしたがって、繰り返し行ない、第2クラッチ25のトルクを振動させることにより、ドライバに対して告知を行なうものである。
なお、クラッチ振動制御モードにおける、加算トルク、トルク上昇時変化率、およびトルク下降時変化率は、上述した第1実施形態と同様に、図18に示すようなマップを用いて、設定することができる。また、クラッチ振動制御モードにおける、減算トルクも、加算トルク、トルク上昇時変化率、およびトルク下降時変化率と同様に、ハイブリッド車両1の車両重量と、推定勾配とに基づいて設定することができる。具体的には、図21に示すようなマップを用いて、減算トルクを設定することができる。なお、本実施形態においては、t11〜t12の区間のみ、第2クラッチ25の目標トルクの変位幅が「加算トルク分」のみであり、変位幅が「加算トルク分+減算トルク分」である他の区間と異なることとなるため、トルク上昇時変化率も他の区間と異なることとなる。
第3実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果に加えて、次の効果を奏する。
すなわち、第3実施形態によれば、トルク振動制御を行う際に、ドライバの要求トルクを基点として、加算トルクおよび減算トルクに基づいて、第2クラッチ25のトルクを振動させることにより、登坂路において、ハイブリッド車両1を進行および後退させることなく、ハイブリッド車両1のずり下がりを抑制することができる。
なお、上述した実施形態において、エンジン10およびモータジェネレータ20は本発明の動力源に、第2クラッチ25は本発明の摩擦締結要素に、温度センサ64は本発明の温度検出手段に、Gセンサ65は本発明の路面勾配検知手段に、統合コントロールユニット60の動作点指令部400は本発明の締結トルク制御手段および負荷低減制御手段および禁止手段に、統合コントロールユニット60のトルク振動制御部420は本発明のトルク振動制御手段に、それぞれ相当する。
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
たとえば、上述した実施形態においては、第2クラッチ25の温度が所定のクラッチ保護温度Tα以上となった場合に、第1クラッチ15および第2クラッチ25を共に締結することで、クラッチ保護制御を行う場合を例示したが、第2クラッチ25の温度が所定温度Tα以上となった場合に、ドライバのブレーキペダル操作量に係わらずブレーキ液圧を発生させることによりメカブレーキを利かせるとともに、第2クラッチ25を解放することで、クラッチ保護制御を行うような構成としてもよい。