次に図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。図1は、この発明の実施形態に従う、内燃機関(以下、エンジンという)およびその制御装置の全体的な構成図である。
電子制御ユニット(以下、「ECU」)という)10は、入出力インターフェース、中央演算処理装置(CPU)、およびメモリを備えるコンピュータである。メモリには、車両の様々な制御を実現するためのコンピュータ・プログラムおよび該プログラムの実施に必要なデータを格納することができる。本発明に従う様々な制御のためのプログラム、および該プログラムの実行の際に用いるデータおよびマップは、メモリに格納されている。ECU10は、車両の各部から送られてくるデータを入出力インターフェースを介して受け取って演算を行い、制御信号を生成し、これを、該入出力インターフェースを介してエンジンの各部を制御するために送る。
エンジン12は、たとえば4気筒4サイクルのエンジンであり、図には、そのうちの一つの気筒が概略的に示されている。エンジン12は、吸気バルブ14を介して吸気管16に連結され、排気バルブ18を介して排気管20に連結されている。ECU10からの制御信号に従って燃料を噴射する燃料噴射弁22が、吸気管16に設けられている。代替的に、燃料噴射弁22を、燃焼室24に設けてもよい。
エンジン12は、吸気管16から吸入される空気と、燃料噴射弁22から噴射される燃料との混合気を、燃焼室24に吸入する。燃焼室24には、ECU10からの点火時期信号に従って火花を飛ばす点火プラグ26が設けられている。点火プラグ26による火花により、混合気は燃焼する。この燃焼により混合気の体積は増大し、ピストン28を下方に押し下げる。ピストン28の往復運動は、クランク軸30の回転運動に変換される。4サイクルエンジンでは、エンジンの1燃焼サイクルは、吸入、圧縮、燃焼、および排気行程からなる。ピストン28は、1燃焼サイクルにつき2往復する。
連続可変動弁機構31は、本実施形態では、可変リフト機構32および可変位相機構33から構成される。可変リフト機構32は、ECU10からの制御信号に従って、吸気バルブ14のリフト量を連続的に変更することができる機構である。可変リフト機構32の一例は、後述される。
可変位相機構33は、ECU10からの制御信号に従って、吸気バルブ14の位相を連続的に変更することができる機構である。可変位相機構33は、任意の既知の手法により実現することができる。たとえば、電磁的に吸気バルブの位相を進角または遅角に制御する手法が提案されている(たとえば、特開2000―227033号を参照)。
なお、代替的に、可変リフト機構32および可変位相機構33を一体的に構成してもよい。また、本願発明は、リフト量および位相を連続的に変更可能なこれら機構に限定されるわけではなく、リフト量および位相を段階的(ステップ状)に変更可能な機構にも適用可能である。
ECU10には、エンジン12のクランク軸30の回転角度を検出するクランク角センサ34およびエンジン12の吸気バルブ14を駆動するカムが連結されたカム軸の回転角度を検出するカム角センサ35が接続されており、これらのセンサの検出値はECU10に供給される。クランク角センサ34は、所定のクランク角度(たとえば30度)毎に1パルス(CRKパルス)を発生し、該パルスにより、クランク軸30の回転角度位置を特定することができる。また、カム角センサ35は、エンジン12の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(CYLパルス)と、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)でパルス(TDCパルス)を発生する。これらのパルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種の制御タイミングおよびエンジン回転数NEの検出に使用される。
なお、カム角センサ35により出力されるTDCパルスと、クランク角センサ34により出力されるCRKパルスとの相対関係から、クランク軸に対するカム軸の実際の位相CAINが検出される。この実施例では、位相CAINは、最遅角をゼロとし、進角になるほど大きい値を持つ。
また、連続可変動弁機構31には、吸気バルブ14のリフト量を検出するためのCSAセンサ36が設けられ、該センサ36は、ECU10に接続されている。CSAセンサ36については、後述される。CSAセンサ36の検出値は、ECU10に送られる。
吸気管16内にはスロットル弁42が配置されている。スロットル弁42は、ECU10からの制御信号に応じてアクチュエータ(図示せず)によって駆動されるドライブバイワイヤ(drive by wire:DBW)式のスロットル弁である。
スロットル弁開度センサ44がスロットル弁42に設けられており、スロットル開度THに応じた信号をECU10に出力する。
本実施形態では、連続可変動弁機構31により吸気バルブ14のリフト量を制御すると共に、スロットル弁42の開度の制御を介して吸気管圧力を制御することにより、エンジン12への吸入空気量を制御する。
吸気管16のスロットル弁42の上流側に、エアフローメータ40が設置されている。エアフローメータ40は、吸入空気量を示す電気信号をECU10に出力する。
吸気管16のスロットル弁42の下流には吸気管内圧力センサ50および吸気温センサ54が備えられ、それぞれ、吸気管内絶対圧PBおよび吸気温度TAを示す電気信号をECU10に出力する。また、大気圧センサ55がエンジン外部の任意の位置に設置されており、大気圧PAを示す電気信号をECU10に出力する。
吸気管圧力は、絶対圧およびゲージ圧で表されることができ、ここでゲージ圧は、大気圧PAに対する吸気管内絶対圧PBの差圧を表し、PB−PA(mmHg)である。
さらに、エンジン12の水温TWを検出するエンジン水温センサ56が備えられ、エンジンの水温を示す電気信号をECU10に出力する。
排気管20の触媒46の上流側にはLAF(linear air-fuel)センサ48が設置されている。LAFセンサ48は、リーンからリッチにわたる広範囲において排ガス中の酸素濃度に比例する信号をECU10に出力する。
図2を参照して、この発明の一実施形態に従う、可変リフト機構32を説明する。(a)に示すように、カム62が設けられたカムシャフト61と、
カムホルダに支持部65aを中心として揺動可能に支持されるコントロールアーム65と、コントロールアーム65を揺動させるコントロールカム67が設けられた制御軸(コントロールシャフト)66と、コントロールアーム65にサブカムシャフト63bを介して揺動可能に支持されると共に、カム62に従動して揺動するサブカム63と、サブカム63に従動し、吸気バルブ14を駆動するロッカーアーム64とを備えている。ロッカーアーム64は、コントロールアーム65内に、ロッカーシャフト68によって揺動可能に支持されている。
サブカム63は、カム62に当接するローラ63aを有し、カムシャフト61の回転により、サブカムシャフト63bを中心として揺動する。ロッカーアーム64は、サブカム63に当接するローラ64aを有し、サブカム63の動きが、ローラ64aを介して、ロッカーアーム64に伝達される。コントロールアーム65は、コントロールカム67に当接するローラ65bを有し、制御軸66の回転により、支持部65aを中心として揺動する。
(a)、(b)および(c)は、矢印で示されているように、吸気バルブ14の高リフト状態、中リフト状態、低リフト状態をそれぞれ示している。制御軸66を介してコントロールアーム65の位置を変化させることにより、(a)のような高リフト状態と、(c)のような低リフト状態の間を連続的に遷移させることができる。(a)に示す状態では、サブカム63の動きがロッカーアーム64を介して吸気バルブ14に伝達され、吸気バルブ14は、最大リフト量LFTMAXまで開弁する。(b)に示す状態では、サブカム63の動きの、ロッカーアーム64を介した吸気バルブ14への伝達量は、(a)よりも少なく、よって(a)よりも小さいリフト量で開弁する。(c)に示す状態では、サブカム63の動きはロッカーアーム64にほとんど伝達されないため、吸気バルブ14は低リフト状態となる。
制御軸66には、アクチュエータのモータ(図示せず)が接続されており、該モータによって制御軸66を回転させることにより、吸気弁14のリフト量を連続的に変更することができる。この実施形態では、前述したCSAセンサ36(図1)は、制御軸66の回転角度位置を検出するよう設けられている。検出された制御軸66の回転角度位置CSAが、リフト量を示すパラメータとして使用される。なお、ここで示す可変リフト機構32の形態は一例であり、他の任意の適切なリフト量を連続的もしくは段階的に変更することができる機構を用いてもよい。たとえば、特開2008−25418号公報には、連続的にリフト量を変化させることができる可変リフト機構の詳細な構成が示されている。
ここで、自着火について説明すると、上記のように火花点火式のエンジンの場合にも、気筒内の温度および圧力が高くなると、自着火が生じるおそれがある。ここで、気筒内の圧力は、主に、空気の充填量と有効圧縮比(実圧縮比)によって決まり、有効圧縮比は、主に、エンジンの設計上予め決められた圧縮比(メカ圧縮比と呼ぶ)と、吸気バルブの作動特性(これは、吸気バルブの開閉タイミングおよび吸気バルブのリフト量により表される)によって決まる。連続可変動弁機構31を搭載したエンジンでは、エンジンの運転状態に従って吸気バルブの作動特性を変更することができる。したがって、どの作動特性に従って吸気バルブを作動させるかにより、気筒内の圧力が高くなるおそれがあり、自着火が生じるおそれがある。
図3を参照すると、排気バルブ18の作動特性と、連続可変動弁機構31によって制御される吸気バルブ14の作動特性が示されている。縦軸はリフト量を示し、横軸は、1燃焼サイクルにおけるクランク角度を表しており、圧縮行程の期間が示されている。
EXは、排気バルブ18の作動特性を示す。INは、吸気バルブ14の作動特性を示し、複数の実線で表されるように、エンジンの運転状態に従って作動特性INを連続的に変化させる、すなわち吸気バルブの位相およびリフト量を連続的に変化させることができる。各作動特性INにおいて、リフト量のピーク点が、図2を参照して説明した最大リフト量LFTMAXに対応する。なお、以下の説明における「リフト量」は、各作動特性における最大リフト量LFTMAX(すなわち、吸気バルブを開ける量(mm))を表している。
図から明らかなように、この可変動弁機構31においては、リフト量を小さくするほど、吸気バルブ14を閉じるタイミングが早められる。他方、吸気バルブを閉じるタイミングが圧縮行程の開始時点に近くなるほど、有効圧縮比は大きくなる。したがって、図のような吸気バルブの作動特性INの場合、リフト量を小さくするほど、有効圧縮比が高くなる傾向があり、自着火が生じやすくなる。
ここで図4を参照すると、上記のような可変動弁機構31を作動させた場合の、リフト量に対する有効圧縮比の推移についての或る実験結果が示されている。この実験では、エンジンの設計上予め設定されたメカ圧縮比が異なる3つのエンジンについて、リフト量に対する有効圧縮比(実圧縮比)の推移が調べられた。この実験結果によって示されるように、リフト量が低いほど、有効圧縮比が高くなることがわかる。なお、図に示される点A1およびA2は、リフト量が低い領域において、同じ有効圧縮比を実現するのに2つのリフト量が存在することを示しており、これについては後述される。
また、上で述べたように、自着火発生は、筒内温度にも依存して変化する。ここで図5を参照すると、上記のような可変動弁機構31を作動させた場合の、吸気温度TAに対する、自着火を防止可能な最低のリフト量を示す。すなわち、各吸気温度に対し、図のグラフで示す値よりもリフト量が小さくなると、自着火が生じうることを示している。たとえば、吸気温度が、B1で示される温度以下では、B2で示される低リフト量を用いても自着火が生じないが、吸気温度がB1より大きくなると、B2で示される低リフト量では、自着火が生じうることを表している。この結果で示されるように、吸気温度が高いほど、筒内温度が高いことを示すので、リフト量を高くしないと、自着火が生じやすくなることがわかる。なお、筒内温度は、吸気温度だけでなくエンジン水温によっても影響を受ける。したがって、図には示していないが、吸気温度と同様に、エンジン水温が高いほど、リフト量を高くしないと、自着火が生じやすくなる。
このように、可変動弁機構31を搭載することにより、低いリフト量(たとえば、5mm以下)で吸気バルブ14を動作させることが可能となる。これにより、ポンピングロスを低くすることができるので、燃費の向上を図ることができる。したがって、負荷の低い運転領域では、低いリフト量で吸気バルブを動作させたいという要望がある。他方、低リフト量で吸気バルブ14を動作させると、有効圧縮比が高くなり、特に筒内温度が高い状況下では、自着火が生じやすくなる。したがって、自着火の発生を抑制することができる程度に低い値のリフト量を見極める必要がある。
そこで図6を参照すると、典型的なエンジンのPV(圧力(kPa)―容量(cc))線図が示されている。点C1は、圧縮行程の開始位置を示しており、点C2は、爆発行程の開始位置を示している。点C1における容量および圧力を(V1,P1)で表し、点C2における容量および圧力を(V2,P2)で表す。容量V2は、圧縮した後の気筒内の容量を示しており、これは、エンジンの設計上予め決まっている。容量V1は、吸気バルブ14を閉じるタイミング、すなわちどの作動特性で吸気バルブ14を作動させるかに依存して変化する。
圧縮行程における圧縮を断熱圧縮と仮定すると、ポアソンの法則に基づき、以下の式(1)が成立する。ここで、γは、比熱比を表す。
ここで、圧縮行程開始時の圧力P1には、想定される最大のゲージ圧が設定され、圧縮後の圧力P2には、自着火を防止可能な筒内圧の上限値が設定されることにより、このポアソンの式を利用して容量V1を決定することができる。ここで、自着火を防止可能な筒内圧の上限値は、後述するように、吸気温度とエンジン水温から推定された筒内温度に基づいて設定される。
こうして決定された容量V1は、自着火を防止可能な容量の上限値を示している。圧縮行程開始時の容量が該上限値V1よりも高いと、圧縮後の筒内圧が上記上限値より高くなり、自着火を起こすおそれがある。したがって、該上限値を超えない容量の範囲に対応するリフト量の範囲が、自着火を防止するためのリフト量の範囲として決定される。このリフト量の範囲に収まるよう、目標リフト量を決定すればよい。こうして、現在の筒内温度の状況下で、筒内圧が自着火を防止可能な値であるようにリフト量が制御されるので、低リフト量であっても、自着火発生を防止することができる。
以下、本願発明の一実施形態に従う、吸入空気量を制御する具体的な手法について説明する。
図7は、この実施形態で用いる制御形態の概要を示す。図には、目標吸入空気量に対する目標ゲージ圧、目標リフト量および目標位相の推移が示されている。この実施形態によると、エンジンは2つの制御領域を有する。1つは、目標吸入空気量が所定値より低い領域であり、負圧制御領域と呼ばれる。この領域は低負荷領域であり、よってアイドリング運転状態はこの領域において実現される。この領域では、目標リフト量を一定にしつつ、目標吸入空気量の増大に従って目標ゲージ圧を変更する。負圧制御領域では、オーバーラップ期間(吸気バルブと排気バルブの両方が開いているクランク角度期間)を小さくすると共にポンピングロスを低減するため、目標リフト量は低めの値(運転領域全体においてリフト量の下限値となり、ミニマムリフトとも呼ばれる)に設定される。
また、可変動弁機構31は、リフト量が低いとき、吸気バルブを閉じるタイミングが遅いほどフリクションが高くなるという特性を有する。したがって、低リフト量を用いる負圧制御領域では、吸気バルブを閉じるタイミングを早めるために、目標位相は、進角された値になるよう制御される。これにより、ポンピングロスをより確実に抑制して、燃費の向上を図ることができる。
他の1つは、目標吸入空気量が上記所定値より高い領域であり、リフト量制御領域と呼ばれる。この領域では、目標ゲージ圧を、基準ゲージ圧(この実施例では、−100mmHg)に一定にしつつ、目標吸入空気量の増大に従って目標リフト量を変更する。この領域は、比較的負荷が高い領域であるので、リフト量によって吸入空気量を制御する。目標位相は、遅角された値になるよう制御される。
このように、可変動弁機構31を用いた吸入空気量制御では、図の負圧制御領域に一例として示されるように、リフト量を低くする運転領域が存在しうる。このような低リフト量を用いた場合、上で説明したように、自着火が生じやすくなる。他方、上記の負圧制御領域のように負荷の低い運転領域では、リフト量を低くすることにより燃費の向上を図ることができるので、リフト量を低めの値にしたいという要望がある。したがって、当該実施形態では、負圧制御領域で用いるべき低リフト量を、自着火の発生を防止可能なように決定する。
図8は、本発明の一実施形態に従う、図7を参照して述べた負圧制御領域における吸入空気量制御に適用可能な内燃機関の制御装置のブロック図である。この制御装置は、図1のECU10において実現され、各ブロックによる機能は、具体的にはECU10のCPUにより実現される。
目標吸入空気量算出部81は、エンジンの運転状態に基づいて、目標吸入空気量GAIRCMDを算出する。この実施形態では、アクセルペダルの開度を検出するセンサ(図示せず)によって検出されたアクセルペダルの開度に基づいて、目標吸入空気量GAIRCMDを算出する。
目標吸入空気量GAIRCMDは、吸気バルブ14のリフト量、吸気管16のゲージ圧、および吸気バルブ14の位相によって実現される。そのため、目標リフト量算出部83、目標ゲージ圧算出部85および目標位相算出部88が設けられており、それぞれ、目標吸入空気量GAIRCMDに基づいて、目標リフト量、目標ゲージ圧および目標位相を算出する。リフト量制御部84は、任意の適切な制御手法で、CSAセンサ36によって検出された実リフト量を目標リフト量に収束させるよう、可変リフト機構32を操作するための制御信号を生成する。こうして、可変リフト機構32により、吸気バルブ14のリフト量は目標リフト量になるよう操作される。
目標スロットル開度算出部86は、算出された目標ゲージ圧を実現するための目標スロットル開度を算出する。スロットル開度制御部87は、任意の適切な制御手法で、スロットル開度センサ44によって検出された実スロットル開度を目標スロットル開度に収束させるよう、スロットル弁42の駆動機構(アクチュエータ)を操作するための制御信号を生成する。こうして、スロットル弁42の開度は、目標スロットル開度になるよう操作される。
位相制御部89は、任意の適切な制御手法で、前述したように検出された実位相CAINを目標位相に収束させるよう、可変位相機構33を操作するための制御信号を生成する。こうして、可変位相機構33により、吸気バルブ14の位相は目標位相になるよう操作される。
また、目標回転数算出部91が設けられ、エンジンの運転状態に基づいて目標回転数NOBJを算出する。エンジン回転数が高くなるほど、燃焼が広がる速度が速くなるので、自着火を抑制することができる。しかしながら、エンジン回転数の上昇は、燃費の低下につながるおそれがあるため、通常時にはリフト量によって自着火を抑制し、これだけでは抑制困難なほど高温の時にのみ回転数を調整するのが好ましい。
以下、目標リフト量算出部83、目標ゲージ圧算出部85、目標位相算出部88および目標回転数算出部91について、それぞれ、具体的な機能を説明する。
図9は、目標リフト量算出部83の詳細なブロック図を示す。密度補正部105は、目標吸入空気量GAIRCMDを、環境状態に従って密度補正する。目標吸入空気量算出部81によって求められた目標吸入空気量GAIRCMD(g)は、所定の標準大気圧PA_STDおよび標準吸気温度TA_STDからなる標準状態下の吸入空気量である。密度補正部105は、該標準状態における空気密度ρ_STDと、大気圧センサ55および吸気温センサ54により検出される現在の大気圧PAおよび現在の吸気温度TAからなる現在の状態における空気密度ρとの比Kρにより、標準状態下の目標吸入空気量GAIRCMDを、現在の状態下の目標吸入空気量GAIRCMDF(g)に換算する。
具体的には、空気密度比Kρは、式(2)のように表される。この実施例では、標準大気圧PA_STDは760mmHgであり、標準吸気温TA_STDは25度すなわち298K(ケルビン)である。PBGAは基準ゲージ圧であり、この実施例で、−100mmHgである(大気圧より100mmHg低い)。前述したように、基準ゲージ圧は、負圧制御領域における最大のゲージ圧を示す(この実施例では、リフト量制御領域における目標ゲージ圧である)。
なお、吸気温に関して“1/2乗”しているのは、吸気温については1/2乗することにより、より良好な精度で吸入空気量を推定できることが、過去の試験結果から判明しているからである。また、JIS規格でも、たとえば修正馬力(トルク)の計算では、温度に関して1/2乗することが定められている(しかしながら、代替的には、吸気温に関して1/2乗しなくてもよい)。
空気密度比Kρを、標準状態下の目標吸入空気量GAIRCMDに乗算することにより、現在の状態下の目標吸入空気量GAIRCMDFを算出する(式(3))。
補正済み目標吸入空気量GAIRCMDFは、現在の状態において、目標吸入空気量GAIRCMDをエンジンに供給するために必要な空気量である。密度補正を行うことにより、本来必要とされる目標吸入空気量GAIRCMDに必要な目標リフト量を算出することができる。
目標リフト量算出部107は、補正済み目標吸入空気量GAIRCMDFに基づいて目標リフト候補ALCMDMを算出する。この実施例では、標準状態における、吸気バルブのリフト量に対する吸入空気量を規定したマップが、エンジン回転数、ゲージ圧および吸気バルブの位相毎に設けられており、これらのマップは、ECU10のメモリに予め記憶されている。これらのマップのうち、検出された位相CAIN、検出されたエンジン回転数NE、および基準ゲージ圧に対応するマップを選択する。
図10には、こうして選択されたマップの一例が示されている。補正済み目標吸入空気量GAIRCMDFに基づいて該マップを参照することにより、対応するリフト量を求め、これを、目標リフト候補ALCMDMとする。こうして、負圧制御領域においてゲージ圧が最大(基準ゲージ圧)の時のリフト量が、負圧制御領域の目標リフト候補ALCMDMとして設定される。
他方、筒内温度推定部111は、吸気温センサ54およびエンジン水温センサ56によってそれぞれ検出された吸気温度TAおよびエンジン水温TWに基づいて、気筒内の温度を推定する。該推定に用いるマップが図11に示されており、これは、予めECU10のメモリに記憶されることができる。筒内温度は、吸気温度TAだけでなく、エンジン水温TWによっても影響を受けるので、両温度に基づいて推定される。筒内温度推定部111は、検出された吸気温度TAおよびエンジン水温TWに基づいて該マップを参照することにより、筒内温度T_ENGを求める。
上限筒内圧算出部113は、推定された筒内温度T_ENGに基づいて、自着火を防止可能な筒内圧の上限値PCYLMAXを求める。これに用いるマップが図12に示されており、これは、予めECU10のメモリに記憶されることができる。筒内温度が高くなるほど、自着火が発生しやすくなるため、自着火防止のための上限筒内圧は減少するよう設定されている。ここで、筒内圧上限値PCYLMAXは、図6を参照して説明した、圧縮後の点C2の圧力P2を示すものとして用いられる。
自着火防止容量算出部115は、前述したポアソンの式(1)を利用して、図6の圧縮開始時の点C1における容量V1を算出する。ここで、圧力P2には、上で述べたように筒内圧上限値PCYLMAXが代入される。圧力P1には、負圧制御領域における最大の吸気管圧力PBMAX(図7を参照して述べたように、基準ゲージ圧(この実施例では、―100mmHg)に相当する吸気管圧力(kPa))が代入される。前述したように、点C2における容量V2は、圧縮後の気筒内の容積を示し、エンジン設計によって予め決められた値である。したがって、以下の式(4)に従い、容量V1を算出することができる。こうして算出された容量V1は、自着火を防止することができる、圧縮行程開始時の容量の上限値を示す。
自着火防止リフト算出部117は、容量V1に基づいて、自着火を防止することができるリフト量を算出する。該算出に用いるマップが図13に示されており、これは、予めECU10のメモリに記憶されることができる。自着火防止リフト算出部117は、容量V1に基づいて該マップを参照することにより、対応するリフト量L1およびL2を求める。
図4に示すように、リフト量に対する有効圧縮比の関係では、リフト量の低い範囲において有効圧縮比は凸曲線を描いており、点A1およびA2に示すように、同じ有効圧縮比値に対して2個のリフト量が存在する。同様の関係が、リフト量に対する容量の関係においても成立し、したがって、図13に示すように(この図では、リフト量の低い範囲が示されている)、リフト量の低い範囲において容量は凸曲線を描いている。
前述したように、容量V1は、自着火を防止することができる容量の範囲の上限値を示しているので、容量V1に対応するリフト量L1より高いリフト量範囲と、容量V1に対応するリフト量L2より低いリフト量範囲とが、自着火を防止するためのリフト量範囲である。これらの範囲のいずれかに収まるよう、目標リフト量を制御することにより、自着火を防止することができる。
選択部119は、この実施形態では、図13のようなマップを参照し、車両が減速しているか否かに従って、2つの値のリフト量L1およびL2のいずれかを選択する。後述するように、ここで選択されたリフト量は、目標吸入空気量に基づいて算出された目標リフト候補ALCMDMをリミット処理するのに用いられる。高い方の値が選択されれば、下限値として用いられ、低い方の値が選択されれば、上限値として用いられる。したがって、選択部119は、車両を減速していない通常走行時には、高い値のリフト量L1を選択する。これにより、車両の出力を維持しつつ、リミット処理において、目標リフト量の不必要な切り下げを回避することができる。
他方、選択部119は、車両が減速しているときには、低い値のリフト量L2を選択する。この理由を述べると、図14には、或る実験によって得られた、リフト量に対するエンジンフリクションの推移を示されている。前述したように、可変動弁機構31は、リフト量が低いとき、吸気バルブを閉じるタイミングが遅いと、フリクションが高くなるという特性を有する。これが、図に示されており、吸気バルブの位相が遅角された状態では、リフト量の値が低い領域205において、フリクションが大きくなっている。低い値のリフト量L2を選択することにより、このようなフリクションの増大を介して、運転者に減速感を与えることができる。
この実施形態では、減速しているか否かを、燃料カットが行われているときに値1が設定される燃料カットフラグF_FCを用いて判断する。燃料カットフラグF_FCの値がゼロであるときには、選択部119は、リフト量L1およびL2のうち、高い値のリフト量L1を選択する。燃料カットフラグF_FCの値が1であるときには、選択部119は、リフト量L1およびL2のうち、低い値のリフト量L2を選択する。以下、自着火防止用に選択したリフト量を、Lselで表す。
代替的に、燃料カットに代えて、たとえば車速センサによって車速を検出し、今回検出された車速と前回検出された車速とを比較し、減速していると判断されたときには低い値のリフト量を選択し、そうでないときには高い値のリフト量を選択するようにしてもよい。
なお、上の例では、容量V1に対応するリフト量が2つ存在している場合について説明した。それに対し、図13の凸曲線の頂点に接する点線201に対応する容量Vtよりも容量が大きい領域では、容量V1に対応するリフト量が存在しない。この場合には、どのリフト量であっても容量V1を上回らないことを示す。したがって、選択部119は、選択したリフト量Lselにゼロを設定し、目標リフト候補ALCMDMが該選択したリフト量Lselで何ら制限されないようにする。
また、容量V1が、点線201に対応する容量Vtであるとき、該点線201は凸曲線の頂点に接しているため、対応するリフト量が1個となる。この場合にも、どのリフト量であっても容量V1を上回らないので、選択部119は、選択したリフト量Lselにゼロを設定する。
なお、図13では、リフト量と容量の関係は凸曲線を描いているが、可変動弁機構によっては、このような曲線の形態になるとは限らず、容量V1に対して、対応する3個以上の複数のリフト量が存在することもありうる。このような場合には、上記高い値のリフト量L1として、最大のリフト量が選択され、上記低い値のリフト量L2として、最小のリフト量が選択される。
好ましくは、移行フィルタ部121が設けられる。移行フィルタ部121は、選択部119によって選択された自着火防止リフト量Lselに対し、所定のフィルタリングを適用する。後述するように、目標リフト量ALCMDFは、目標リフト量算出部107により算出された目標リフト候補ALCMDMと、自着火防止リフト量Lselとの間で切り換えられる。目標リフト候補ALCMDMが目標リフト量ALCMDFとして継続的に用いられている場合には、負圧制御領域では目標吸入空気量は主にゲージ圧によって制御されるので、1制御サイクルにおけるリフト量の変化量は小さい。しかしながら、前回の制御サイクルでは目標リフト候補ALCMDMが目標リフト量ALCMDFとして用いられ、今回の制御サイクルでは自着火防止リフト量Lselが目標リフト量ALCMDFとして用いられると、リフト量が一時に変化するおそれがある。フィルタリングを適用することにより、自着火防止リフト量Lselに切り換えられた場合でも、1制御サイクルにおけるリフト量の変化量を所定値以下に抑制することができる。
また、上記のようにリフト量の変化量を抑制する理由について述べると、図15には、目標吸入空気量に応じて可変リフト機構32を介してリフト量を操作したときの吸入空気量の推移207と、該目標吸入空気量に応じてスロットルアクチュエータを介してスロットル開度を操作したときの吸入空気量の推移209とが示されている。縦軸の吸入空気量は、目標吸入空気量を値1として正規化された値で表されている。両者を比較して明らかなように、リフト量による吸入空気量は、スロットル開度による吸入空気量よりも早期に目標吸入空気量に到達しており、リフト量の応答は、スロットル開度の応答よりも速い。このような応答性の違いを考慮することなく、リフト量とスロットル開度を同様に変化させても、実際の吸入空気量と目標吸入空気量との間に乖離が生じるおそれがある。そこで、一実施形態では、移行フィルタ121を適用し、リフト量を徐々に変化させ(変化速度を緩やかにし)、両者の応答性の違いを補償する。
移行フィルタ部121は、自着火防止のために選択部119によって選択されたリフト量Lselの前回値と今回値を比較し、その差(絶対値で表される)が所定値以下となるように、選択されたリフト量Lselの今回値を補正する。たとえば、|選択されたリフト量Lselの前回値−選択されたリフト量Lselの今回値|の差DLiftが所定値D以上かどうかを判断し、所定値D以上ならば、選択されたリフト量Lselの今回値に対してリミット処理する。該リミット処理では、選択されたリフト量Lselの今回値が、選択されたリフト量Lselの前回値+所定値Dである最大値を上回ったならば、該最大値を、選択されたリフト量Lselの今回値とし、選択されたリフト量Lselの今回値が、選択されたリフト量Lselの前回値−所定値Dである最小値を下回ったならば、該最小値を、選択されたリフト量Lselの今回値とする。こうして、選択されたリフト量Lselの今回値は、前回値に対して、所定値D(たとえば、0.1mm)以上の差を生じないよう設定される。以下、フィルタ済みリフト量Lselを、Lfilで表す。
第1のリミッタ123は、目標リフト量算出部107によって算出された目標リフト候補ALCMDMと、フィルタ済みリフト量Lfilとを比較する。選択部119によって選択されたリフト量が、2つのリフト量のうちの高い方の値L1であった場合(すなわち、通常走行時)、該リフト量L1よりも高い値のリフト量にしないと自着火が生じるおそれがある。したがって、フィルタ済みリフト量Lfilを下限値として用いる。目標リフト候補ALCMDMが、フィルタ済みリフト量Lfilよりも大きければ、該目標リフト候補ALCMDMを、リミット処理済み目標リフト量ALCMDLとして出力し、フィルタ済みリフト量Lfil以下であれば、該フィルタ済みリフト量Lfilを、リミット処理済み目標リフト量ALCMDLとして出力する。
他方、選択部119によって選択されたリフト量が、2つのリフト量のうちの低い方の値L2であった場合(すなわち、減速走行時)、該リフト量L2よりも低い値のリフト量にしないと自着火が生じるおそれがある。したがって、フィルタ済みリフト量Lfilを上限値として用いる。目標リフト候補ALCMDMが、フィルタ済みリフト量Lfilより小さければ、該目標リフト候補ALCMDMを、リミット処理済み目標リフト量ALCMDLとして出力し、フィルタ済みリフト量Lfil以上であれば、該フィルタ済みリフト量Lfilを、リミット処理済み目標リフト量ALCMDLとして出力する。
このように、目標吸入空気量に基づいて算出される目標リフト量(目標リフト候補)ALCMDMは、最大ゲージ圧(基準ゲージ圧)を前提に算出されているのでミニマムリフトとなるよう算出されるが、該目標リフト量ALCMDMが自着火を発生させるおそれのあるときには、自着火防止リフトで制限される。したがって、自着火発生を防止可能な程度に低い値のリフト量を実現することができる。
第2のリミッタ125は、さらに、固定値γを下限値として用い、リミット処理済み目標リフト量ALCMDLをリミット処理する。具体的には、リミット処理済み目標リフト量ALCMDLが固定値γより大きければ、該リミット処理済み目標リフト量ALCMDLを、最終の目標リフト量ALCMDFとして出力し、リミット処理済み目標リフト量ALCMDLが該固定値γ以下であれば、該固定値γを、最終の目標リフト量ALCMDFとして出力する。第2のリミッタ125により、最終の目標リフト量ALCMDFは、固定値γ以上に設定される。このようにするのは、後述するように、低い値L2が選択された場合でも、ゲージ圧と共に目標吸入空気量を実現するためである。
固定値γによる下限リミット処理によって、目標リフト量が不必要に高められないように、該固定値γは、図7を参照して説明したミニマムリフトが取りうる最小の値もしくはその近傍に設定されるのがよい。
こうして出力された目標リフト量ALCMDFは、図8を参照して説明したように、可変リフト機構32のリフト量制御に用いられ、吸気バルブ14は、目標リフト量ALCMDFになるよう制御される。
図16は、図8の目標ゲージ圧算出部85の詳細なブロック図である。図7に示されるように、負圧制御領域において、目標ゲージ圧は一次式で表される。目標ゲージ圧算出部85は、この一次式を算出することにより、目標ゲージ圧を算出する。一次式は、2点を求めることによって算出されることができる。
図10を参照して説明したように、標準状態における、吸気バルブのリフト量に対する吸入空気量を規定したマップが、エンジン回転数、ゲージ圧および吸気バルブの位相毎に設けられてメモリに記憶されている。第1の吸気量算出部131は、これらのマップのうち、検出されたエンジン回転数NE、検出された吸気バルブの位相CAIN、および基準ゲージ圧(前述したように、−100mmHgであり、PBGA1で表される)に応じたマップを選択する。該選択されたマップが、図17の符号211で表されている。第1の吸気量算出部131は、検索用リフト選択部130によって選択された検索用リフトLkeyに基づいて該マップを参照し、対応する第1の吸気量GAIR1を求める。
他方、第2の吸気量算出部133は、検出されたエンジン回転数NE、検出された位相CAIN、および基準ゲージ圧とは異なるゲージ圧(たとえば、―600mmHgであり、PBGA2で表される)に応じたマップを選択する。該選択されたマップを、図17の符号213により示す。第2の吸気量算出部133は、検索用リフト選択部130によって選択された検索用リフトLkeyに基づいて該マップを参照し、対応する第2の吸気量GAIR2を求める。
ここで、検索用リフト選択部130は、選択部119(図9)によって用いられた減速を示すフラグF_FCの値に応じて、選択部119によって選択されたリフト量Lsel(L1またはL2)と、第2のリミッタ125(図9)で用いた固定値γとのいずれか一方を、検索用リフトLkeyとして選択する。具体的には、F_FCの値がゼロであって減速中でないならば、選択されたリフト量Lselを選択し、F_FCの値が1であって減速中であるならば、固定値γを選択する。
この根拠について説明すると、最終目標リフト量ALCMDFは、第1のリミッタ123(図9)で制限されるため、減速しているか否かに従って、1)高い方の値L1を下限として、L1以上の値に設定されるか、2)低い方の値L2を上限としてL2以下の値に設定される。上記1)の場合、目標リフト候補ALCMDMが、L1により制限されずにそのまま最終の目標リフト量ALCMDFに設定されても、第1および第2の吸気量算出部131および133は、L1に基づいて上記マップを参照してよい。このような状況下の目標吸入空気量GAIRCMDは、図7のリフト量制御領域に入っていることを示すので、ブロック141で後述するように、目標ゲージ圧は自動的に基準ゲージ圧に制限される。したがって、選択されたリフト量L1に基づいて上記マップを参照しても、最終目標リフト量に適合した目標ゲージ圧が、結果として求められる。
他方、上記2)の場合、リフト量制御領域にまだ入っていないので、リフト量に適合したゲージ圧を求める必要がある。L2以下のリフト量は、L2が固定値γより小さければ、該固定値γで下限リミット処理(図9の第2のリミッタ125参照)されるので、最終の目標リフト量ALCMDFは、少なくとも固定値γ以上の値を持つ。したがって、固定値γを、検索用リフトLkeyとして選択し、これに基づいて、第1および第2の吸気量算出部131および133は上記マップを参照する。これにより、目標吸入空気量を実現するのに十分なゲージ圧を求めることができる。
なお、検索用リフト選択部130に入力されるのが、移行フィルタ121によりフィルタリングされる前のリフト量Lselである点に注意されたい。図15を参照して前述したように、目標吸入空気量の変化に対し、スロットル開度の応答はリフト量に比べて遅い。したがって、目標リフト量を、移行フィルタ121によりフィルタリングされた後のリフト量Lfilに基づいて決定するのに対し、目標ゲージ圧を、移行フィルタ121が適用される前のリフト量Lselに基づいて決定することにより、1制御サイクルにおける目標リフト量による吸入空気量の変化量が、1制御サイクルにおけるスロットル開度による吸入空気量の変化量よりも小さい所定量以下に抑制されることとなる。これにより、両者の間の応答特性の差を補償することができる。
傾き算出部135は、上記一次式を表す直線上の2点が求められたので、以下の式(5)により、該一次式の傾きβを算出する。
切り換え吸気量算出部137は、図7に示すように負圧制御領域からリフト量制御領域に切り換える時の吸入空気量を算出する。上記のGAIR1は、図7において、目標ゲージ圧が基準ゲージ圧に達したときの吸入空気量に相当するので、負圧制御領域からリフト量制御領域に切り換える時の(目標)吸入空気量である。前述したように、GAIR1を求めるのに用いたマップは、標準状態下のマップであるので、GAIR1は、現在の状態下で、標準状態下の吸入空気量を実現するのに必要な吸入空気量である。したがって、該標準状態下の吸入空気量αは、前述した式(3)と同様に、以下の式(6)のように算出されることができる。ここで、PA_STDおよびTA_STDは、式(2)を参照して述べたように、標準大気圧および標準吸気温を示す。PBGAは、前述したように、基準ゲージ圧である。PAおよびTAは、それぞれ、検出された大気圧(mmHg)および吸気温(K)である。
こうして、一次式の傾きβおよび切り換え時の吸入空気量αが求められたので、目標ゲージ圧算出部139は、目標吸入空気量GAICMDに対する目標ゲージ圧PBGACMDMを、以下の式(7)に従って算出する。
PBGACMDM=β×GAIRCMD―100−(α×β) (7)
リミッタ141は、目標ゲージ圧PBGACMDMを、基準ゲージ圧を用いてリミット処理し、最終的な目標ゲージ圧PBGACMDFを算出する。すなわち、この実施例では基準ゲージ圧が−100mmHgであるので、該基準ゲージ圧を上回らないように、最終的な目標ゲージ圧PBGACMDFを算出する。目標ゲージ圧PBGACMDFは、図8を参照して説明したように、目標スロットル開度を決定するのに用いられ、該目標スロットル開度を実現するようスロットルバルブ42が操作される。
図18は、図8の目標位相算出部88の詳細なブロック図である。目標位相算出部151は、検出されたエンジン回転数NEおよび目標吸入空気量GAIRCMDに基づいて、目標位相を求める。たとえば図19に示すようなマップをエンジン回転数毎に作成して予めECU10のメモリに記憶することができる。目標位相算出部151は、検出されたエンジン回転数に対応するマップを選択し、該選択したマップを、目標吸入空気量GAIRCMDに基づいて参照することにより、対応する目標位相CAINCMDを求める。
自着火を防止するよう選択部119(図9)によって選択されたリフト量Lselが高い方の値L1である場合、リフト量比較部153は、目標リフト候補ALCMDMと、L1とを比較する。比較の結果、目標リフト候補ALCMDMがL1より大きければ、目標位相CAINCMDを、最終的な目標位相CAINCMDFとして出力する。
他方、目標リフト候補ALCMDMがL1以下であれば、遅角部155は、目標位相CAINCMDを所定量だけ遅角する。ここで、該所定量は、図20に示すような、目標吸入空気量、自着火防止用のリフト量Lselおよび位相補正値DCAINCMDの間の関係を規定したマップを参照することにより求められる。該マップは、予めECU10のメモリに記憶されることができる。遅角部155は、目標吸入空気量GAINCMDおよび選択部119により選択されたリフト量L1に基づいて該マップを参照することにより、対応する位相補正値DCAINCMDを求め、該位相補正値DCANCMDだけ、上記のように目標位相CAINCMDを遅角し、これを、最終の目標位相CAICMDFとして出力する。
このような遅角を行う理由を述べると、従来、目標位相は、検出されたエンジン回転数と目標吸入空気量に基づいて決定されていた。しかしながら、これは、吸気温によってリフト量が変化しないことを前提としている。ここで図21を参照すると、図3と同様の排気バルブの作動特性EXと吸気バルブの作動特性IN1およびIN2が示されており、IN1のリフト量は、IN2のリフト量より高い。図3にも示されているが、可変動弁機構31では、リフト量を高くするほど、吸気バルブ14を開くタイミングが進角されるように、吸気バルブ14の作動特性が決められている。そのため、自着火を防ぐために、作動特性をIN2からIN1に切り換えると、排気バルブ18と吸気バルブ14のオーバーラップ期間(クランク角度で表される)が、tdだけ長くなる。
このようなオーバーラップ期間の増大は、燃焼の安定性を低下させるおそれがある。したがって、目標リフト候補ALCMDMが自着火防止のためのリフト量L1以下のときには、該目標リフト候補ALCMDよりも高くなるようリフト量が制御されることを示すので、目標位相CAINCMDを遅角し、オーバーラップ期間の増大を抑制する。
なお、図示していないが、前述したように減速中のために自着火防止用に低い値L2のリフト量が選択部119によって選択されたときには、フリクションを増大させるために目標位相を遅角するのがよい(たとえば、最遅角にされる)。
こうして算出された目標位相CAINCMDFは、図8を参照して説明したように、可変位相機構33の位相制御に用いられ、該目標位相CAICMDFを実現するよう吸気バルブ14は操作される。
図22は、図8の目標回転数算出部91のブロック図である。目標回転数算出部171は、検出されたエンジン水温TWに基づいて、所定のマップを参照し、対応する目標回転数NOBJを求める。該マップを、図23に示す。
補正部173は、目標回転数NOBJを、図9を参照して前述した、推定された筒内温度T_ENGに基づいて補正する。具体的には、筒内温度T_ENGが所定の自着火発生温度より高ければ、回転数を高くするため、所定量DNOBJを目標回転数NOBJに加算し、その結果を、最終的な目標回転数NOBJFとする。筒内温度T_ENGが所定の自着火発生温度以下であれば、目標回転数NOBJを最終的な目標回転数NOBJFとする。
筒内温度が所定の自着火発生温度より高い状況は、リフト量だけで自着火を抑制することが困難な状況を示しており、このような状況下でのみ、エンジン回転数を高めることによって自着火を抑制する。エンジン回転数が高いほど、燃焼の進行が速くなるので、自着火を抑制することができる。こうして、通常時は、リフト量によって自着火を抑制することができるので、エンジン回転数の上昇に起因して燃費が低下するのを回避することができる。
次に、図24〜図26を参照して、この発明の一実施形態に従う、制御プロセスについて説明する。これらの制御プロセスは、ECU10のCPUにより、所定の時間間隔で(たとえば、TDC信号に同期して)実行されることができる。
図24は、負圧制御領域における吸入空気量制御プロセスのフローである。ステップS1において、目標吸入空気量GAIRCMDを算出する。前述したように、たとえばアクセルペダルの開度に基づいて算出されることができる。ステップS2において、前述した式(3)に従って、目標吸入空気量GAIRCMDを密度補正し、補正済み目標吸入空気量GAIRCMDFを算出する。ステップS3において、現在のエンジン回転数および位相を取得し、前述したように、図10に示されるような、基準ゲージ圧、該取得したエンジン回転数および位相におけるマップを、補正済み目標吸入空気量GAIRCMDFに基づいて参照し、目標リフト候補ALCMDMを求める。
ステップS4において、現在の吸気温度TAおよびエンジン水温TWを取得し、たとえば図11に示すようなマップを参照して、筒内温度T_ENGを推定する。ステップS5において、筒内温度T_ENGに基づいて、たとえば図12に示すようなマップを参照し、自着火を防止可能な圧縮後の筒内圧の上限値PCYLMAXを求める。
ステップS6において、前述した式(4)に従って、自着火防止のための容量V1を算出する。ステップS7において、該容量V1に基づいて、たとえば図13に示すマップを参照し、自着火防止用のリフト量L1およびL2を求める。なお、前述したように、容量V1に対応するリフト量が2個存在しなければ、自着火防止用のリフト量としてゼロを出力する。
ステップS8において、車両が減速しているか否かに従って、2つのリフト量L1およびL2のうちのいずれか一方を選択する。前述したように、減速中であると判断されたならば、低い値のリフト量L2が選択され、そうでない場合には高い値のリフト量L1が選択される(選択されたリフト量Lselの出力)。ステップS9において、前述したように、選択されたリフト量Lselを、1制御サイクルにおけるリフト変化量を所定量以下に抑制するように、フィルタリングする(フィルタ済みリフト量Lfilの算出)。なお、ステップS1〜S3の処理と、S4〜S9の処理は、並列に実行してもよい。
ステップS10において、フィルタリングされたリフト量Lfilで、目標リフト候補ALCMDMをリミット処理する。前述したように、高い値L1のリフト量が選択された場合、目標リフト候補ALCMDMが該フィルタ済みリフト量Lfilより大きければ、該目標リフト候補ALCMDMをリミット処理済みリフト量ALCMDLとして出力する。そうでなければ、該フィルタ済みリフト量Lfilをリミット処理済みリフト量ALCMDLとして出力する。
他方、低い値L2のリフト量が選択された場合、目標リフト候補ALCMDMが該フィルタ済みリフト量Lfilより小さければ、該目標リフト候補ALCMDMを、リミット処理済みリフト量ALCMDLとして出力する。そうでなければ、該フィルタ済みリフト量Lfilを、リミット処理済みリフト量ALCMDLとして出力する。
ステップS11において、リミット処理済みリフト量ALCMDLを固定値γで下限リミット処理し、最終の目標リフト量ALCMDFを算出する。最終目標リフト量ALCMDFは、可変リフト機構32のリフト量制御の目標値として用いられる。
ステップS12において、ステップS8で選択されたリフト量Lselおよび固定値γに基づいて、目標ゲージ圧PBGACMDFを算出する。具体的には、前述したように、選択されたリフト量Lselおよび固定値γに基づいて検索用リフトLkeyを決定し、該検索用リフトLkeyに基づいて図17に示すようなマップを参照することにより、第1のゲージ圧における第1の吸気量および第2のゲージ圧における第2の吸気量を求め、負圧制御領域における目標ゲージ圧を表す一次式を算出し、該一次式に基づいて、目標吸入空気量GAIRCMDに対応する目標ゲージ圧PBGACMDを算出する。ステップS13において、前述したように、基準ゲージ圧で該目標ゲージ圧PBGACMDをリミット処理し、最終の目標ゲージ圧PBGACMDFを算出する。最終目標ゲージ圧PBGACMDFに基づいて目標スロットル開度が決定され、スロットル弁42は、該目標スロットル開度に基づいて制御される。
図25は、この発明の一実施形態に従う、負圧制御領域における吸気バルブの位相を制御するプロセスのフローである。
ステップS31において、前述したように、現在のエンジン回転数NEおよび目標吸入空気量GAIRCMDを取得し、たとえば図19のようなマップを参照して、目標位相CAINCMDを求める。ステップS32において、自着火防止のために選択されたリフト量Lselとして、低い値L2が選択されたかどうかを判断する。この判断がNoならば、高い値L1が選択されたことを示す。ステップS33に進み、目標リフト候補ALCMDMとL1とを比較する。前述したように、高い値L1のリフト量が選択された場合、目標リフト候補ALCMDMが該選択されたリフト量L1より大きければ、該目標リフト候補が最終目標リフト量ALCMDFとなる。この場合、自着火防止用のリフト量L1によってリフト量が高められるわけではないので、ステップS36において、目標位相CAINCMDを、最終目標位相CAINCMDFとする。
他方、高い値L1のリフト量が選択された場合、目標リフト候補ALCMDMが該L1以下であれば、該L1が最終目標リフト量ALCMDFとなる。この場合、自着火防止用のリフト量L1によってリフト量が高められる。これによってオーバーラップ期間が長くなるおそれがあるので、ステップS34において、たとえば図20に示すマップを、目標吸入空気量GAIRCMDおよび自着火防止用のリフト量L1に基づいて参照して、位相補正値DCAINCMDを求める。ステップS35において、該位相補正値DCAINCMDを、目標位相CAINCMDから減算することにより、最終の目標位相CAINCMDFを算出する。これにより、目標位相CAINCMDよりも遅角された最終目標位相CAINCMDFを求めることができる。
ステップS32の判断がYesの場合、すなわち自着火防止用のリフト量Lselとして低い値L2のリフト量が選択された場合、目標リフト候補ALCMDMよりも低い値のリフト量が用いられることになるので、位相を遅角する必要はない。したがって、ステップS36に進み、目標位相CAINCMDを、最終目標位相CAINCMDFとする。
図26は、この発明の一実施形態に従う、負圧制御領域における目標回転数を算出するプロセスのフローである。
ステップS41において、前述したように、現在のエンジン水温TWを取得し、たとえば図23のマップを参照して、目標回転数NOBJを求める。ステップS42において、図24のステップS4において推定された筒内温度T_ENGと、所定の自着火発生温度とを比較する。筒内温度T_ENGが自着火発生温度より高ければ、筒内温度が高温となっており、リフト量制御だけでは自着火を抑制することができないおそれがあることを示す。したがって、ステップS43に進み、所定値DNOBJを目標回転数NOBJに加算することにより、最終の目標回転数NOBJFを算出する。こうして、エンジン回転数を高めることにより、筒内温度が高い状況でも自着火発生を抑制することができる。ステップS42において、筒内温度T_ENGが自着火発生温度以下であれば、リフト量制御によって自着火発生を抑制することができるので、ステップS44において、目標回転数NOBJを、最終の目標回転数NOBJとする。該目標回転数NOBJFに一致するようエンジンの回転数は制御される。
上記の実施形態(第1の実施形態と呼ぶ)では、推定された気筒内の温度T_ENGに基づいて吸気バルブのリフト量を制限することにより、自着火を防止しており、さらに、リフト量の制御だけで自着火を抑制することが困難な場合、たとえば図26を参照して述べたように、推定された気筒内の温度T_ENGが所定の自着火発生温度より高い場合には、エンジン回転数を高めることによって自着火を防止している。
代替の実施形態(第2の実施形態と呼ぶ)では、第1の実施形態と同様に、リフト量を制御することにより自着火を防止しようとするものであるが、リフト量の制御だけで自着火を抑制することが困難な場合には、燃料噴射時期を変更することによって自着火を防止する。以下、この第2の実施形態の詳細を述べる。
第1の実施形態では、図1を参照して前述したように、燃料噴射弁を吸気管に設けることができ、代替的に、該燃料噴射弁を燃焼室に臨むように設けてもよい。この第2の実施形態では、該燃料噴射弁は、後者の形態を取り、燃料を気筒内に噴射するよう燃焼室に設けられる。
図27は、第2の実施形態に従う、制御装置の機能ブロック図を示す。第1の実施形態に従う制御装置の機能ブロック図を表した図8と、燃料噴射時期算出部301が設けられている点で異なる。また、燃料噴射時期算出部301が設けられたことにより、目標リフト量算出部303が、図8の目標リフト量算出部83と、機能において多少の変更がなされている。
図28には、目標リフト量算出部303のブロック図が示されている。目標リフト量算出部303は、第1の実施形態に従う目標リフト量算出部83のブロック図を表した図9と、筒内温度補正係数算出部311、筒内温度補正部313、および一次遅れフィルタ313が設けられている点で異なる。以下、図27および図28について、第1の実施形態と異なる点についてのみ説明する。
まず、燃料噴射時期算出部301について説明すると、該算出部301は、目標リフト量算出部303の筒内温度推定部111(図28)によって推定された筒内温度T_ENGを受け取り、これを、所定値と比較する。ここで、所定値は、自着火発生温度よりも所定温度DKCTMPだけ低い値(すなわち、“自着火発生温度−DKCTMP”)に設定される。“自着火発生温度”は、図26のステップS42で使用されているものと同じであり、前述したように、自着火が発生するおそれのある筒内温度として予め設定された値である。DKCTMPは、筒内温度についての余裕値として予め設定される。
燃料噴射時期算出部301は、推定筒内温度T_ENGが該所定値以下であれば、燃料噴射時期を、通常の噴射時期(たとえば、所定値であることができ、あるいはエンジンの運転状態に基づいて設定されることができる)に設定する。推定筒内温度T_ENGが該所定値より大きければ、自着火抑制用に設定された噴射時期に設定される。ここで、噴射時期は、一般にクランク角度によって表され、通常の噴射時期および自着火抑制用の噴射時期の両方とも、圧縮行程中に設定されるが、自着火抑制用の噴射時期は、通常の噴射時期よりも進角側にある。すなわち、自着火抑制用の噴射時期は、通常の噴射時期よりも、時間的に早められる。こうして、通常の噴射時期または自着火抑制用の噴射時期に設定された燃料噴射時期に燃料が噴射されるように、燃料噴射弁が駆動される。
前述したように、当該第2の実施形態においては燃料噴射弁は気筒内に燃料を噴射するので、該燃料噴射により、ピストンに燃料が付着し、よって筒内温度を下げることができる。自着火抑制用の噴射時期は通常の噴射時期よりも時間的に早いので、自着火抑制用の噴射時期で噴射することにより、筒内温度が自着火発生温度に達する前に、気筒内の温度をより確実に下げることができる。したがって、自着火発生を、より確実に防止することができる。
好ましくは、通常の噴射時期から自着火抑制用の噴射時期に移行する際に用いる余裕値DKCTMPの値と、自着火抑制用の噴射時期から通常の噴射時期に以降する際に用いる余裕値DKCTMPの値とを持ち替えるのが好ましい。
ここで、図29を参照すると、第2の実施形態に従う、推定筒内温度T_ENGと燃料噴射時期の推移の一例が示されている。余裕値DKCTMPとして、2つの値D1およびD2が示されており、D1(たとえば、30度)は、通常の噴射時期θgenから自着火抑制用の噴射時期θhotに移行する際に用いられ、D2(たとえば、50度)は、自着火抑制用の噴射時期θhotから通常の噴射時期θgenに移行する際に用いられ、D2の大きさは、D1の大きさよりも大きい。
時間t1に至るまで、筒内温度T_ENGは、“自着火発生温度−D1”に達していないため、燃料噴射時期θinjは通常の噴射時期θgenに設定される。時間t1において、筒内温度T_ENGが“自着火発生温度−D1”を超えたため、燃料噴射時期θinjは、通常の噴射時期θinjから、自着火抑制用の噴射時期θhotに切り換えられる。
その後、時間t2に至るまで、筒内温度T_ENGは、“自着火発生温度−D1”を下回ることがあるものの、“自着火発生温度−D2”を超えているため、燃料噴射時期θinjは自着火抑制用の噴射時期θ_hotに維持される。
時間t2に至ったとき、筒内温度T_ENGは、“自着火発生温度−D2”を下回る。したがって、燃料噴射時期θinjは、自着火抑制用噴射時期θhotから、通常の噴射時期θinjに切り換えられる。
このように、自着火抑制用噴射時期θhotから通常噴射時期θgenに切り換えるときの閾値は、通常噴射時期θgenから自着火抑制用噴射時期θhotに切り換えるときの閾値よりも低くなるよう設定されるのが好ましい。こうすることにより、筒内温度が確実に低下した状態で通常噴射時期θgenに切り換えられるので、自着火発生を、より確実に防止することができる。
図27に戻り、こうして算出された燃料噴射時期θinjは、目標リフト量算出部303に渡される。図28を参照すると、筒内温度補正係数算出部311が、該設定された燃料噴射時期θinjを受け取り、これが、通常噴射時期θgenを表しているのか、自着火抑制用噴射時期θhotを表しているのかを判断する。通常噴射時期θgenであれば、補正係数に値1を設定し、自着火抑制用噴射時期θhotであれば、補正係数に、値1より小さい正の値(たとえば、0.9)を設定する。
筒内温度補正部313は、推定された筒内温度T_ENGに、該補正係数を乗算することによって補正する。したがって、通常噴射時期θgenであれば、推定筒内温度T_ENGの補正は実質的に行われない。自着火抑制用噴射時期θhotであれば、推定筒内温度T_ENGは、低くなるように補正される。自着火抑制用噴射時期θhotで燃料噴射を行うことにより、前述したように筒内温度は低下するので、これを反映するように推定筒内温度T_ENGの補正が行われることとなる。この補正により、燃料噴射時期θinjを変更した場合に、より正確な推定筒内温度T_ENGを算出することができる。
好ましくは、一次遅れフィルタ315が設けられ、補正された推定筒内温度T_ENGに対して一次遅れフィルタリングが適用される。燃料噴射時期θinjの変更によって推定筒内温度T_ENGが急激に変化するおそれがあるが、該フィルタリングの適用により、このような急激な変化を抑制することができる。
こうしてフィルタリングされた補正済み筒内温度T_ENGが、上限筒内圧算出部113に渡され、それ以降の処理は、第1の実施形態で述べたのと同様に行われる。
図30は、第2の実施形態に従う、吸入空気量制御のプロセスのフローチャートである。第1の実施形態における吸入空気量制御プロセスを表す図24と異なる点は、ステップS4とS5の間に、ステップS4aから4cが設けられている点である。他のステップは、図24と同様であるので、説明を省略する。
ステップS4で推定された筒内温度T_ENGは、燃料噴射時期算出プロセス(図31に後述される)に渡され、該プロセスで該推定筒内温度T_ENGに基づいて算出された燃料噴射時期θinjが、ステップS4aで受け取られる。ステップS4aにおいて、該燃料噴射時期θinjに応じた補正係数を設定する。前述したように、燃料噴射時期θinjが通常噴射時期θgenであれば、値1を補正係数に設定し、自着火抑制用噴射時期θhotであれば、値1より小さい正の値(たとえば、0.9)を補正係数に設定する。
ステップS4bにおいて、該補正係数を、ステップS4で推定された筒内温度T_ENGに乗算することにより、補正を行う。ステップS4cにおいて、一次遅れフィルタを、該補正済みの筒内温度T_ENGに適用する。こうしてフィルタリングされた筒内温度T_ENGが算出され、ステップS5に渡される。
図31は、第2の実施形態に従う、燃料噴射時期算出プロセスを示す。このプロセスは、図30を参照して述べたように、余裕値DKCTMPとして、D1およびD2の値(D2>D1)を用いた場合に基づいている。
ステップS51において、筒内温度推定部111によって推定された筒内温度T_ENGが、所定値である“自着火発生温度−D1”より大きいかどうかを判断する。この判断がYesならば、すなわち該推定筒内温度T_ENGが“自着火発生温度−D1”より大きければ、ステップS52において、燃料噴射時期θinjに、自着火抑制用の噴射時期θhotを設定する。
この判断がNoならば、ステップS53において、該推定筒内温度T_TNGが、所定値である“自着火発生温度−D2”より大きいかどうかを判断する。この判断がNoならば、すなわち該推定筒内温度T_ENGが“自着火発生温度−D2”以下であれば、ステップS55において、燃料噴射時期θinjに、通常噴射時期θgenを設定する。
ステップS51の判断がNoであり、ステップS53の判断がYesならば、推定筒内温度T_ENGが、“自着火発生温度−D2”と“自着火発生温度−D1”の間にあることを示す。図29を参照して述べたように、一旦自着火抑制用噴射時期θhotに設定された場合には、推定筒内温度T_ENGが、“自着火発生温度−D2”を下回るまでは、燃料噴射時期は自着火抑制用噴射時期θhotに維持される。そのため、ステップS54において、燃料噴射時期θinjの前回値が、通常噴射時期θgenであったか、もしくは自着火抑制用噴射時期θhotであったかを調べる。通常噴射時期θgenであったならば、ステップS54の判断はNoとなり、今回の燃料噴射時期θinjに、通常噴射時期θgenを設定する(S55)。自着火抑制用噴射時期θhotであったならば、ステップS54の判断はYesとなり、今回の燃料噴射時期θinjに、自着火抑制用噴射時期θhotを設定する(S52)。こうして算出された燃料噴射時期θinjは、前述したように、図30のステップS4aの処理に用いられると共に、燃料噴射弁の駆動に用いられる。
なお、第2の実施形態では、図26に示すようなエンジン回転数の制御を行っていない。代替的に、エンジン回転数の制御と、燃料噴射時期の制御の両方を行うようにしてもよい。この場合、目標回転数を、図26を参照して説明したように制御しつつ、図31に示すような燃料噴射時期の制御が行われる。こうして、自着火を、より確実に防止することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施形態に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において改変して用いることができる。