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JP5431152B2 - 注射器内に装備される摺動弁及び該摺動弁を装備した注射器 - Google Patents

注射器内に装備される摺動弁及び該摺動弁を装備した注射器 Download PDF

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Description

本発明は、注射器内に装備される摺動弁、詳細には注射器内に装填された薬液に直接接触する中間摺動弁とプランジャ摺動弁および、該摺動弁を装備した注射器であって、該薬液への影響はもとより、該薬液による影響のない摺動弁及び注射器に関する。
従来から、複数に区画された注射筒内に複数の薬液(又は薬剤、溶解液等)を予め収納保存しておき、使用時に、それらを混合して投与したり、一回の注射操作によって該複数の薬剤を連続して投与することができる複室式注射器が用いられている。
このような複室式注射器では、注射筒内に摺動可能に配された中間摺動弁によって注射器内が複数の室に区画され、該区画内に複数の薬液がそれぞれ隔てられ装填される。
上記の中間摺動弁として、従来、薬液接触面に合成樹脂フィルムを積層し、該薬液接触面に直ちに続く胴体の端部には合成樹脂フィルムを積層することなく弾性体素面を露出させたもの、すなわち胴体端部に弾性体素面を環状に露出させた中間摺動弁が特開平6−343677号公報で提案されている。
上述した中間摺動弁によれば、薬液接触面から直ちに続いた胴体端部の環状帯部分を弾性素面とすることで、摺動性と気密性の両立を図ることができる。
しかし、この中間摺動弁では、薬液接触面に直ちに続く胴体端部に弾性体素面が露出しているため、該弾性体素面と薬液との接触を完全に防止することが困難であり、例えば、注射器内で薬液を長期間保存するような場合、弾性体に含まれる可溶性物質が薬液中に溶出する虞れはもとより、該溶出により中間摺動弁自体の物性も低下し、実際の使用に際して、中間摺動弁に要求される機能を完全に果たし得ない虞れもある。
また、当然のことながら、注射器においては、上記の複室式注射器に限らず、単室式注射器(中間摺動弁で注射筒内を区画していない注射器をいう。以下、同じ)にあっても、先端に摺動弁を具備するプランジャが併用される。このプランジャ先端の摺動弁(以下、プランジャ摺動弁)においても、上記の中間摺動弁と同様に、薬液に接触する面のみに合成樹脂フィルムを積層したものでは、露出している弾性体表面と薬液との接触を完全に防止することが困難で、弾性体に含まれる可溶性物質が薬液中に溶出する虞れに加え、該溶出によりプランジャ摺動弁自体の物性の低下が生じる虞れがある。
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであり、長期間、注射器内に薬液を保存する場合にも、薬液の品質を保持することができるばかりでなく、摺動弁に要求される機能を長期間に渡って維持することができる摺動弁、具体的には中間摺動弁とプランジャ摺動弁および、このような摺動弁を装備した複室式あるいは単室式の注射器を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は、複室式注射器の注射筒内を複数の室に区画する中間摺動弁又は、複室式あるいは単室式の注射筒内に装備されるプランジャ摺動弁であって、
〔1〕これらの摺動弁は、略円柱状の第1弾性体と、該第1弾性体の一方の底面で結合された略円柱状の第2弾性体とからなり、
前記第1弾性体の他方の底面及び該底面から連続する側面部分に合成樹脂フィルムが積層され、
前記第2弾性体の少なくとも側面部分に合成樹脂フィルムが積層されてなることを特徴とし、
〔2〕上記第1弾性体と第2弾性体との結合は、底面に形成された環状の凹部と凸部とが嵌合することで行われることを特徴とし、
〔3〕上記摺動弁が注射筒に挿入された際に、前記第1弾性体と前記第2弾性体の結合部が前記注射筒の内壁に接触しないように形成されていることを特徴とし、
〔4〕プランジャ摺動弁は、一方の底面(上記〔2〕の構成の場合には、第2弾性体の、第1弾性体との非結合底面)にプランジャ結合穴が形成され、該底面及び該底面から連続する側面部分に合成樹脂フィルムが積層されてなることを特徴とする。
また、本発明は、注射器であって、
〔5〕上記〔1〕〜〔4〕に記載の摺動弁を備えてなることを特徴とする。
本発明における上記中間摺動弁またはプランジャ摺動弁(以下、これらを纏めて摺動弁と記すこともある)は、略円柱状の弾性体からなり、該弾性体の側面部分(中間摺動弁の場合は弾性体の両底面から連続する側面部分、プランジャ摺動弁の場合は弾性体の一方の底面から連続する側面部分)が合成樹脂フィルムにより覆われているため、これらの弁を複室式あるいは単室式注射器(以下、これらを纏めて注射器と記すこともある)の注射筒内に挿入したときに、薬液とこれらの弁の弾性体との接触を防止することができる。その結果、これらの摺動弁に配合されている該薬液への可溶性物質の溶出を防ぐことができ、長期間、注射器内に薬液を保存する場合にも、薬液の品質を保持することはもとより、これらの弁の特性をも保持することができる。
上記摺動弁は、第1弾性体と、該第1弾性体の一方の底面で結合された略円柱状の第2弾性体とからなっており、第1,第2弾性体の非結合底面に続く側面部分が合成樹脂フィルムで覆われる。
この摺動弁が中間摺動弁の場合は、第1弾性体及び第2弾性体それぞれの非結合底面も合成樹脂フィルムで覆われ、プランジャ摺動弁の場合は、第1弾性体の他方の底面(すなわち非結合底面)が合成樹脂フィルムで覆われ、第2弾性体の他方の底面(すなわち非結合底面であって、プランジャ結合穴が設けられる底面)も必要に応じて合成樹脂フィルムで覆われる。
そのため、本発明における中間摺動弁やプランジャ摺動弁では、注射筒内に挿入したときに、薬液と弾性体との接触を防止することができ、その結果、これらの弁に配合されている該薬液への可溶性物質の溶出がなく、長期間、注射器内に薬液を保存する場合にも、薬液の品質を保持することはもとより、これらの弁の特性をも保持することができる。
上記第1,第2弾性体の結合されるべき底面は、それぞれが平坦状をなし、それぞれを加熱下で接触させ圧を加えるだけなどで強固に結合するが、例えば、一方の弾性体(例えば第1弾性体)の底面に環状の凹部を、他方の弾性体(例えば第2弾性体)の底面に環状の凸部をそれぞれ形成し、これらの凹部と凸部を嵌合させて第1弾性体と第2弾性体とを結合してもよい。このとき、凸部の径を凹部の径よりやや大きめに形成しておけば、第1,第2弾性体の弾性により、一旦嵌合された凹部と凸部とが脱着することはない。
この凹部と凸部での嵌合態様によれば、第1弾性体と第2弾性体とがより強固に結合する。なお、このような凹部と凸部は連続又は断続した円環状、矩形環状、三角環状、多角環状などの環状、あるいは円柱状、矩形柱状、三角柱状、多角柱状などの柱状、その他適宜の形状であってよい。
本発明における摺動弁では、注射筒に挿入された際に、第1弾性体と第2弾性体の結合部が、注射筒の内壁に接触しないように形成されていることが好ましい。
このようにすることで、中間摺動弁及びプランジャ摺動弁を摺動させる際のフリクションを低減することができる。その結果、優れた摺動性を得ることができ、本発明の摺動弁にはシリコーンオイルなどの滑剤を塗布する必要もなくなる。
本発明における注射器は、複室式注射器においては、上述した中間摺動弁により注射筒内が複数の室に区画されており、またプランジャ摺動弁として上述したプランジャ摺動弁を用いることができ、単室式注射器においては、プランジャ摺動弁として上述したプランジャ摺動弁を用いることができる。
これにより、複室式注射器にあっては、区画された各室に保存される薬液と、中間摺動弁及びプランジャ摺動弁を構成する弾性体とが接触することを防止することができ、単室式注射器にあっては、注射筒内に保存される薬液とプランジャ摺動弁を構成する弾性体とが接触することを防止することができる。その結果、これらの弁に配合されている該薬液への可溶性物質の溶出がなく、長期間、注射器内に薬液を保存する場合にも、薬液の品質を保持することはもとより、これらの弁の特性をも保持することができる。
本発明によれば、中間摺動弁にあっては、略円筒状をした弾性体の両底面及び各底面から連続する側面部分を合成樹脂フィルムによって覆う構成とし、プランジャ摺動弁にあっては、略円筒状をした弾性体の少なくとも一方の底面及び該底面から連続する側面部分を合成樹脂フィルムによって覆う構成としたので、長期間、注射器内に薬液を保存する場合にも、これらの弁に配合されている該薬液への可溶性物質が該薬液中に溶出するといった事態は発生せず、薬液の品質を保持することはもとより、これらの弁自体の特性が損なわれることもなくなる。
図1は、実施形態に係る中間摺動弁が用いられた複室式注射器の概略断面図である。
図2は、実施形態に係る中間摺動弁の断面図であり、(A)が結合底面に凹凸部が設けられて場合を示し、(B)が設けられていない場合を示している。
図3は、実施形態に係る中間摺動弁を構成する第1の部材と第2の部材との結合方法を説明するための図であり、(A)が結合底面に凹凸部が設けられて場合を示し、(B)が設けられていない場合を示している。
図4は、実施形態に係るプランジャ摺動弁の断面図である。
符号の説明
1 2室式注射器
2 注射筒
3 バイパス通路
4 第1室(前室)
5 第2室(後室)
6 ノズルキャップ
10 中間摺動弁
11 第1の部材
12 第2の部材
13 第1弾性体
14 第2弾性体
15,16,25,26 合成樹脂フィルム
17 凹部
18 凸部
20 プランジャ摺動弁
21 第1の部材
22 第2の部材
23 第1弾性体
24 第2弾性体
27 凹部
28 凸部
29 プランジャ接合穴
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。また、ここでは、実施形態に係る中間摺動弁を、使用時に2種類の薬液を混合して使用する2室式注射器に適用した場合を例にして説明する。以下、本明細書中では、2室式注射器の針装着側を前方と呼び、プランジャ装着側を後方と呼ぶこともある。
まず、図1を用いて、実施形態に係る中間摺動弁10とプランジャ摺動弁20とが用いられた2室式注射器1の構成を説明する。ここで、図1は、2室式注射器1の概略断面図である。
2室式注射器1は、注射筒2と、該注射筒2の略中央の位置に、摺動可能に挿入された中間摺動弁10と、該中間摺動弁10よりも後方開口部側に摺動可能に挿入されたプランジャ摺動弁20とを備えている。すなわち、注射筒2はその内部が、中間摺動弁10によって2室に区画されている。
注射筒2の先端部にはゴム栓6が嵌め込まれている。注射筒2の内壁と、注射筒2の先端部を密封するゴム栓6と、中間摺動弁10とによって区画された第1室4には、第1の薬剤(前方薬液)が充填・保存されている。一方、注射筒2の内壁と、中間摺動弁10と、プランジャ摺動弁20とによって区画された第2室5には、第2の薬液(後方薬液)が充填・保存されている。
注射筒2内部の第1室4内には、凹部バイパスによって構成されるバイパス通路3が設けられている。バイパス通路3は、第1室4内壁に注射筒2の軸方向に平行して1〜4本程度、設けられている。
注射操作によって、中間摺動弁10が注射筒2の前方に移動してバイパス通路形成部に押し込まれることにより、中間摺動弁10をバイパスするバイパス通路が形成される。注射筒2の第2室5に充填・保存されている第2の薬液は、このバイパス通路を通って第1室4内に注入され、前方薬剤を溶解、混合した後、人体へ注射される。
次に、図2,3を併せて用いて、中間摺動弁10の構成について説明する。ここで、図2は、中間摺動弁10の断面図であり、図3は、中間摺動弁10を構成する第1弾性体13と第2弾性体14との結合方法を説明するための図である。
中間摺動弁10は、略円柱状の第1弾性体13と第2弾性体14とからなり、これら第1,第2弾性体はそれぞれの底面13c,14cで結合されており、該第1弾性体13の他方の底面(すなわち、非結合底面)13a並びに該底面13aから連続する側面部分13bに合成樹脂フィルム15が積層されており(以下、この合成樹脂フィルム15が積層された第1弾性体13を第1の部材11と記すこともある)、該第2弾性体14の他方の底面(すなわち、非結合底面)14a並びに該底面14aから連続する側面部分14bに合成樹脂フィルム16が積層されている(以下、この合成樹脂フィルム16が積層された第2弾性体14を第2の部材12と記すこともある)。
すなわち、中間摺動弁10は、第1の部材11を構成する第1弾性体13の底面13cと、第2の部材12を構成する第2弾性体14の底面14cとが結合されて形成される。
ここで、第1弾性体13の底面(結合底面)13cには環状
の凹部17が形成されており、第2弾性体14の底面(結合底面)14cには環状の凸部18が形成されている。そして、第1弾性体13と第2弾性体14とが結合(すなわち、第1の部材11と第2の部材12とが結合)される際に、環状の凹部17と環状の凸部18とが嵌合される。
なお、第1弾性体13と第2弾性体14とは、上記のように凹・凸部17,18の嵌合によらず、例えば、接着剤や加熱による融着等によって結合されていてもよい(図2(B),図3(B)参照)。もちろん図示はしないが、一体成形されていてもよいし、また各結合底面13c,14c(環状の凹・凸部17,18を含む)にも合成樹脂フィルムが積層されていてもよい。
図2(B),図3(B)は、第1,第2弾性体13,14の各結合底面13c,14cを、上記のような凹・凸部17,18を設けずに、平坦状とした場合であり、これら結合底面13c,14cを対面させて接触させ、接着剤や加熱による融着などで結合させる例を示している。
次に、本発明のプランジャ摺動弁を、図4に示す該摺動弁の断面図を用いて説明する。図4に示すように、プランジャ摺動弁20は、略円柱状の第1弾性体23と略円柱状の第2弾性体24とからなり、これら第1,第2弾性体23,24はそれぞれの底面23c,24cで結合されており、該第1弾性体23の他方の底面(すなわち、非結合底面)23a並びに該底面23aから連続する側面部分23bに合成樹脂フィルム25が積層されている(以下、この合成樹脂フィルム25が積層された第1弾性体23を第1の部材21と記すこともある)。
上記の該第2弾性体24の他方の底面(すなわち、非結合底面)24aには、プランジャ結合穴29が形成されており、本例では該底面24a並びに該底面24aから連続する側面部分24bに合成樹脂フィルム26が積層されている(以下、この合成樹脂フィルム26が積層された第2弾性体24を第2の部材22と記すこともある)。
なお、プランジャ結合穴29が形成された第2弾性体24の底面24aには、合成樹脂フィルムは必ずしも積層する必要はないが、薬液との接触を完全に防止するためには、本例のように、該底面24a(プランジャ結合穴29の壁面を含む)に合成樹脂フィルムを積層することが好ましい。
このように、プランジャ摺動弁20も、第1の部材21を構成する第1弾性体23の一方の底面23cと、第2の部材22を構成する第2弾性体24の一方の底面24cとが結合されて形成される。
ここで、第1弾性体23の底面(結合底面)23cには環状の凹部27が形成されており、第2弾性体24の底面(結合底面)24cには環状の凸部28が形成されている。そして、第1弾性体23と第2弾性体24とが結合(すなわち、第1の部材21と第2の部材22とが結合)される際に、環状の凹部27と環状の凸部28とが嵌着される。
なお、第1弾性体23と第2弾性体24とは、図2(B),3(B)に示す中間摺動弁10の場合と同様に、各結合底面23c,24cを、凹・凸部を設けずに、平坦状とし、これら結合底面23c,24cを対面させて接触させ、例えば、接着剤や加熱による融着等によって結合されていてもよい(図示省略)。もちろん一体成形されていてもよいし、また各結合底面23c,24c(環状の凹・凸部27,28を含む)にも合成樹脂フィルムが積層されていてもよい。
続いて、中間摺動弁10及びプランジャ摺動弁20を構成する第1,第2弾性体13,14,23,24の素材について説明する。
第1,第2弾性体13,14,23,24は、天然ゴム(NR)、ポリイソプレン(IR)、ポリブタジエン(BR)、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合ゴム(SIR)、エチレン−プロピレン−非共役共重合体ゴム(EPDM)、イソブチレン−イソプレン共重合ゴム(IIR)、IIRの塩素化ゴム(CIIR)、IIRの臭素化ゴム(BIIR)、ブタジエン−アクリロニトリル共重合ゴム(NBR)、NBRの水素添加ゴム、SBS、SEBS、SIBS等を単独で、あるいは適宜の組み合わせによる混合体やアロイ化体で用いることができる。
上記いずれの素材を用いる場合も、上記の原料エラストマーに各種配合剤を配合して組成物とし、これを硫黄、硫黄を含有する架橋剤、有機過酸化物、電子線などで架橋して、高弾性体とすることが好ましい。高弾性体の指標としては、JISK6262(2006)の圧縮永久ひずみが40%以下であることが挙げられる。また弾性体の硬度は、JISK6253(1997)の硬度で25〜65であることが好ましい。
弾性体13,14,23,24を得るための架橋操作は、金型内で加熱、加圧する方法、その他押出機やニーダー内にて行なう動的架橋による方法が挙げられる。
一方、弾性体13,14,23,24に積層する合成樹脂フィルム15,16,25,26は、衛生性が高く、摺動性の高い合成樹脂を用いることが好ましい。このような特性を有する合成樹脂としては、例えばフッ素系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂(PP、ホモポリマーの外にエチレン基、ブチレン基などを共重合したコーポリマーも含む)、ポリエステル系樹脂(PET)、ポリスルホン系樹脂(PSF)、メチルペンテン系樹脂(PMP)、ポリアクリレート系樹脂(PAR)、ポリアミド系樹脂(PA)、変性フェニレンオキサイド樹脂(PPE)、環状オレフィン系化合物又は架橋多環式炭化水素化合物を重合体成分とする樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、オレフィン系樹脂を極性基で変性(グラフト)した樹脂などが挙げられ、好ましくはフッ素系樹脂、分子量が100万〜700万程度の超高分子量ポリエチレン系樹脂が挙げられる。
弾性体13,14,23,24に積層する合成樹脂フィルム15,16,25,26の厚さは0.01〜0.3mm程度が好ましい。
なお、中間摺動弁10及びプランジャ摺動弁20以外の部分については、この種の技術分野で従来公知の材料を用いることができる。注射筒2の材料としては、硝子やプラスチック(例えば、環状オレフィン系樹脂(COC、COP)、ポリメチルペンテン樹脂、ポリプロピレン樹脂、プロピレン−エチレン共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、あるいは上記樹脂体とポリアミド樹脂、ポリビニールアルコール樹脂、エチレン−酢酸ビニルのケン化体から選ばれる樹脂とを2層以上積層したもの)を用いることができる。
中間摺動弁10及びプランジャ摺動弁20を製造するには、次のようにする。
まず、中間摺動弁10については、合成樹脂フィルムと弾性体の成型シートとを重ね合せプレス成型し、該フィルムと該シートに張力を付与した状態で周囲を切断することにより、第1の部材11を成型する。また、同様にして第2の部材12を成型した後、第1の部材11を構成する第1弾性体13の底面13cと、第2の部材12を構成する第2弾性体14の底面14cとを結合する。
この場合において、上記のフィルムとシートとを張力を付与した状態で切断することにより、該フィルムと該弾性体の復元力によって、第1の部材11を構成する第1弾性体13の一方の底面(結合底面13c)の外径が他方の底面(非結合底面13a)の外径よりも小さく形成される。同様に、第2の部材12を構成する第2弾性体14の一方の底面(結合底面14c)の外径が他方の底面(非結合底面14a)の外径よりも小さく形成される。この外径の小さい方の底面13c,14c同士を結合底面とすることにより、中間摺動弁10を注射筒2に挿入した際に、第1弾性体13と第2弾性体14の結合部が、注射筒2の内壁に接触しない。
また、プランジャ摺動弁20についても、上記と同様にして、第3の部材21と第4の部材22を成型し、第3の部材21を構成する第3弾性体23の底面23cと、第4の部材22を構成する第4弾性体24の底面24cとを結合する。
この場合においても、合成樹脂フィルムと弾性体シートを張力を付与した状態で切断することにより、該フィルムと該弾性体の復元力によって、第1の部材21を構成する第1弾性体23の一方の底面(結合底面23c)の外径が他方の底面(非結合底面23a)の外径よりも小さく形成される。同様に、第2の部材22を構成する第2弾性体24の一方の底面(結合底面24c)の外径が他方の底面(非結合底面24a)の外径よりも小さく形成される。この外径の小さい方の底面23c,24c同志を結合底面とすることにより、プランジャ摺動弁20を注射筒2に挿入した際に、第1弾性体23と第2弾性体24の結合部が、注射筒2の内壁に接触しない。
このような構成を有する2室式注射器1に充填・保存されている2種類の薬液等を投与する場合には、まずプランジャ摺動弁20のプランジャ結合穴29にプランジャ(図示省略)を嵌合し、ノズルキャップ6を被せた状態のまま、プランジャでプランジャ摺動弁20を注射筒2内に圧入する。そうすることで中間摺動弁10が前方へ移動し、バイパス通路形成部にさしかかったところでバイパス通路3が開通し、後室5の薬液が前室4に流れ込み、前室4の薬剤と後室5の薬液とが混合される。前室4の薬剤が固体である場合には、この状態でよく振とうし、薬剤を完全に溶解させる。その後、ノズルキャップ6を外し、注射針を取り付け薬液を人体に注入する。
本実施形態に係る中間摺動弁10及びプランジャ摺動弁20によれば、中間摺動弁10における第1弾性体13及び第2弾性体14それぞれの一方の底面13a,14a及び該底面13a,14aから連続する側面部分13b,14bに合成樹脂フィルム15,16が積層され、プランジャ摺動弁20における第1弾性体23及び第2弾性体24それぞれの底面23a,24a及び該底面23a,24aから連続する側面部分23b,24bに合成樹脂フィルム25,26が積層されているため、薬剤を第1室(前室)4に入れ、中間摺動弁10を複室式注射器1の注射筒2内に挿入し、薬液を第2室(後室)5に入れた後、プランジャ摺動弁20で注射筒2を封止したときに、中間摺動弁10の第1弾性体13,第2弾性体14、プランジャ摺動弁20の第1弾性体23,第2弾性体24と、前・後室4,5内の薬液とが接触することがない。その結果、長期間、注射器内に薬液を保存する場合にも、これらの弾性体13,14,23,24に配合されている該薬液への可溶性物質の溶出がなく、長期間、注射器内に薬液を保存する場合にも、薬液の品質を保持することはもとより、これらの弁10,20の特性をも保持することができる。
また、上記凹・凸部17,18を設ける構成の中間摺動弁10では、第1弾性体13に形成された環状の凹部17と、第2弾性体14に形成された環状の凸部18とが嵌合することで、第1弾性体13と第2弾性体14とをより強固に結合することができ、上記凹・凸部27,28を設ける構成のプランジャ摺動弁20では、第1弾性体23に形成された環状の凹部27と、第2弾性体24に形成された環状の凸部28とが嵌合することで、第1弾性体23と第2弾性体24とをより強固に結合することができる。
しかも、上記のように、凸部18,28の径をそれぞれ凹部17,27の径よりやや大きめに形成しておけば、第1弾性体13,14と第2弾性体23,24の弾性により、一旦嵌合された凹部17,27と凸部18,28とが脱着することはなく、上記の結合状態は一層強固なものになる。
さらに、本発明における中間摺動弁10によれば、第1弾性体13と第2弾性体14との結合部が注射筒2の内壁に接触せず、本発明におけるプランジャ摺動弁20によれば、第1弾性体23と第2弾性体24との結合部が注射筒2の内壁に接触しないため、中間摺動弁10及びプランジャ摺動弁20を摺動させる際のフリクションを低減することができ、優れた摺動性を確保することができる。
また、本発明における複室式注射器1では、注射筒2内を2室に区画する中間摺動弁として、本発明にかかる中間摺動弁10を用いているため、区画された各室4,5に保存される薬液と中間摺動弁10を構成する第1弾性体13,第2弾性体14とが接触することを防止できることに加え、プランジャ摺動弁として、本発明にかかるプランジャ摺動弁20を用いているため、第2室(後室)5に保存される薬液とプランジャ摺動弁20を構成する第1弾性体23,第2弾性体24とが接触することを防止できる。その結果、長期間、注射器内に薬液を保存する場合にも、これらの弾性体に配合されている薬液への可溶性物質の溶出がなく、薬液の品質を保持することはもとより、これらの弁10,20の特性をも保持することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、混合タイプの2室式注射器に中間摺動弁10を適用したが、1回の注射操作で2種類以上の薬剤を混合することなく順次注射することができる直列順次分注型注射器等にも適用することができる。また、中間摺動弁10により区画される室の数は2室に限られることなく、3室以上であってもよい。
さらに、上記実施形態では、中間摺動弁10を第1の部材11と第2の部材12とから構成したが、2つの部材に分割することなく構成してもよい。その他、本発明の範囲を逸脱しないで適宜変更して実施することが可能である。
また、本発明の注射器は、図示はしないが、中間摺動弁10を1個も使用しない単室式注射器であってもよく、この単室式注射器においても、プランジャ摺動弁として、本発明におけるプランジャ摺動弁が使用される。

Claims (6)

  1. 注射筒内に装備される摺動弁であって、
    略円柱状の第1弾性体と、該第1弾性体の一方の底面で結合された略円柱状の第2弾性体とからなり、その結合底面の外径は、それぞれの非結合底面の外径よりも小さく形成されており、
    前記第1弾性体の非結合底面及び該非結合底面から連続する側面部分に合成樹脂フィルムが積層され、
    前記第2弾性体の少なくとも側面部分に合成樹脂フィルムが積層され
    前記第1弾性体と前記第2弾性体の結合部に隣接した側面部分には、合成樹脂フィルムが積層されていないことを特徴とする摺動弁。
  2. 第1弾性体と第2弾性体との結合が、底面に形成された環状の凹部と凸部とが嵌合することで行われることを特徴とする請求項1に記載の摺動弁。
  3. 注射筒に挿入された際に、前記第1弾性体と前記第2弾性体の結合部が前記注射筒の内壁に接触しないように形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動弁。
  4. 摺動弁が、複室式注射器の注射筒内を複数の室に区画する中間摺動弁又は、プランジャ摺動弁であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の摺動弁。
  5. 摺動弁が、プランジャ摺動弁であって、一方の底面にプランジャ結合穴が形成され、該底面及び該底面から連続する側面部分に合成樹脂フィルムが積層されてなることを特徴とする請求項に記載の摺動弁。
  6. 請求項1〜のいずれか一項に記載の摺動弁を備えてなることを特徴とする注射器。
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