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JP5426209B2 - 酸化パルプ中に残留する有機系酸化触媒の除去方法 - Google Patents

酸化パルプ中に残留する有機系酸化触媒の除去方法 Download PDF

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本発明は、N−オキシル化合物を酸化触媒として用いて製造された酸化パルプから、水による洗浄だけでは除去できないパルプ中に残留するN−オキシル化合物を、効率よく除去できる方法に関する。
セルロース系原料を触媒量の2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシラジカル(以下、TEMPOとする)と安価な酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムとの共存下で処理するとセルロースの一級水酸基をカルボキシル基およびアルデヒド基へと酸化することができ、こうして得られた酸化パルプは、水中でミキサーなどの簡単な機械処理を行なうことにより、高粘度で透明なセルロースナノファイバー水分散液へと調製することができることが知られている(非特許文献1)。
上記の方法により得られたセルロースナノファイバーは、生分解性のある水分散型新規素材であり、ファイバー表面に局在するカルボキシル基を基点として、自由に改質することができる。また、上記の方法により得られたセルロースナノファイバーは、分散液の形態であるため、各種水溶性ポリマーとブレンドしたり、或いは有機・無機系顔料と複合化することで品質の改変を図ることもできる。さらに、セルロースナノファイバーをシート化したり、繊維化することも可能である。セルロースナノファイバーのこのような特性を活かした用途として高機能包装材料、透明有機基盤部材、高機能繊維、分離膜、再生医療材料などが想定されている。今後、セルロースナノファイバーの特徴を最大限活用することで循環型の安全・安心社会形成に不可欠な新規高機能性商品を開発することが期待されている。
Saito, T., et al., Cellulose Commun., 14 (2), 62 (2007)
しかし、上記のTEMPOなどのN−オキシル化合物を触媒として製造された酸化パルプ中には、十分に水洗した後であっても、窒素分として10ppm程度のN−オキシル化合物が残留する。N−オキシル化合物が残留する酸化パルプを用いてセルロースナノファイバー水分散液を調製すると、当然ながらセルロースナノファイバー分散液中にもN−オキシル化合物が混在することとなり、セルロースナノファイバーを高機能性材料として利用する場合、その用途によっては、分散液中に残存するN−オキシル化合物が好ましくない影響を及ぼす場合がある。N−オキシル化合物の1種であるTEMPOやその誘導体は、環境や人体に対する毒性がいまだ明確となっておらず、セルロースナノファイバー分散液またはそれから調製されたフィルムを化粧品の増粘剤や食品用包装などの目的で使用することを想定すれば、分散液中にN−オキシル化合物が残存していないことが好ましい。また、例えば、分散液中にN−オキシル化合物が存在すると、セルロースナノファイバーの分散性が低下して分散液の透明度が低下し、セルロースナノファイバー分散液から調製されるフィルムの透明度が低下することも考えられる。したがって、N−オキシル化合物をできるだけ除去できる方法についての開発が望まれているが、現在のところ、パルプ中に残留するN−オキシル化合物を除去する方法についての報告はない。
本発明は、パルプ中に残留するN−オキシル化合物を効率良く除去できる方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討した結果、N−オキシル化合物を酸化触媒として得られた酸化パルプを、pH3〜10の条件下で50℃以上120℃以下の温度に加熱した後に水洗することにより、酸化パルプ中に残留するN−オキシル化合物を効率良く除去できることを見出した。また、こうして得られたN−オキシル化合物が除去された酸化パルプを用いることにより、N−オキシル化合物の濃度が極めて低いセルロースナノファイバー分散液を得ることができることを見出した。
本発明は、N−オキシル化合物を触媒として用いて得られた酸化パルプを、pH3〜10の条件下で、50℃以上120℃以下の温度に加熱した後に水洗することにより、酸化パルプ中に不純物として極微量残存するN−オキシル化合物を除去することを特徴とするものである。
(N−オキシル化合物を用いた酸化パルプの製造)
本発明において、加熱処理される酸化パルプは、(1)N−オキシル化合物、及び(2)臭化物、ヨウ化物、若しくはこれらの混合物の存在下で、酸化剤を用い、セルロース系原料を酸化することにより、製造される。
セルロース系原料の酸化の際に用いられ、かつ本発明により抽出することのできるN−オキシル化合物としては、下記一般式(式1)で示される物質が挙げられる。
Figure 0005426209
(式1中、R1〜R4は同一又は異なる炭素数1〜4程度のアルキル基を示す。)
式1で表される化合物のうち、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−オキシラジカル(以下TEMPOと称する)及び4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−オキシラジカル(以下、4−ヒドロキシTEMPOと称する)を発生する化合物が好ましい。また、下記式2〜4のいずれかで表されるN−オキシル化合物のラジカル、すなわち、4−ヒドロキシTEMPOの水酸基をアルコールでエーテル化、またはカルボン酸若しくはスルホン酸でエステル化し、適度な疎水性を付与した4−ヒドロキシTEMPO誘導体は、安価であり、かつ均一な酸化セルロースを得ることができるため、セルロース系原料の酸化に好ましく用いることができ、また、本発明の方法により効率よく回収することができる。
Figure 0005426209
Figure 0005426209
Figure 0005426209
(式2〜4中、Rは炭素数4以下の直鎖又は分岐状炭素鎖である。)
さらに、下記式5で表されるN−オキシル化合物のラジカル、すなわち、アザアダマンタン型ニトロキシラジカルも、4−ヒドロキシTEMPO誘導体と同様の理由から、好ましい。
Figure 0005426209
(式5中、R5及びR6は、同一又は異なる水素又はC1〜C6の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基を示す。)
セルロース系原料の酸化の際に用いられるN−オキシル化合物の使用量は、一般的に、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.01〜10mmol、好ましくは0.01〜1mmol、さらに好ましくは0.05〜0.5mmol程度である。
セルロース系原料の酸化の際に用いられる臭化物またはヨウ化物としては、水中で解離してイオン化可能な化合物、例えば、臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属などが挙げられる。臭化物またはヨウ化物は、一般的に、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.1〜100mmol、好ましくは0.1〜10mmol、さらに好ましくは0.5〜5mmol程度の量で用いられる。
セルロース系原料の酸化の際に用いられる酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などが挙げられる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが、生産コストの観点から、特に好ましく用いられる。酸化剤は、一般的に、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.5〜500mmol、好ましくは0.5〜50mmol、さらに好ましくは2.5〜25mmol程度の量で用いられる。
N−オキシル化合物、並びに臭化物及び/またはヨウ化物の存在下で酸化剤を用いて酸化されるセルロース系原料としては、特に限定されないが、各種木材由来のクラフトパルプ又はサルファイトパルプ、それらを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末セルロース、あるいはそれらを酸加水分解などの化学処理により精製した微結晶セルロース粉末などが用いられる他、ケナフ、麻、イネ、バカス、竹等の植物が用いられることもある。このうち、漂白済みクラフトパルプ、漂白済みサルファイトパルプ、粉末セルロース、または微結晶セルロース粉末は、量産化やコストの観点から好ましく用いられる。
N−オキシル化合物、並びに臭化物及び/またはヨウ化物の存在下で酸化剤を用いて行なわれるセルロース系原料の酸化は、一般的に、15〜30℃程度の室温で、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加することにより、反応液のpHを9〜12、好ましくは10〜11程度に維持しながら、0.5〜4時間程度の反応時間で行なわれる。
酸化反応の後、ガラスフィルターなどのフィルターを用いて濾過を行ない、水で十分に洗浄して酸化パルプを得る。
(酸化パルプの加熱処理)
本発明では、上記の酸化方法により得られた酸化パルプを、pH3〜10の条件下で、50℃以上120℃以下の温度に加熱した後、水洗することにより、酸化パルプ中に残留するN−オキシル化合物を除去する。
本発明において、加熱処理に供する酸化パルプは、パルプ濃度0.1〜50質量%の水分散液の形態であることが好ましく、より好ましくはパルプ濃度が1〜30質量%、更に好ましくは2〜20質量%である。
本発明の加熱処理では、上記の酸化パルプ水分散液のpHを、pH3〜10、好ましくはpH3〜9、最も好ましくはpH3〜8に調整する。pHの調整に使用する酸またはアルカリの種類は、特に限定されず、無機化合物でも有機化合物でも良い。好適には、酸として塩酸又は硫酸を用いることができ、アルカリとして水酸化ナトリム水溶液を用いることができる。酸化パルプ水分散液のpHが3未満または10を超える場合は、酸またはアルカリが過剰であることからセルロースが分解してパルプ収率が著しく低下するだけではなく、N−オキシル化合物の除去率も低下する。
本発明の加熱処理は、酸化パルプを50℃以上120℃以下、好ましくは70℃以上100℃未満、さらに好ましくは70℃以上90℃以下の温度に加熱する。加熱時の温度が50℃未満である場合には、N−オキシル化合物の除去率が顕著に低下する。また、120℃より高温に加熱すると、セルロースが顕著に分解して可溶化するため、パルプ収率が著しく低下する。加熱時の温度が100℃未満である場合は、加熱処理時に耐圧性の容器を用いる必要がないので、設備コストの観点から有利である。
加熱処理時の圧力は、特に限定されず、大気圧下、加圧下のいずれでもよい。
加熱処理の処理時間は、pH及び温度に応じ、10分〜10時間程度、好ましくは30分〜6時間程度、最も好ましくは1〜5時間程度の範囲で、適宜設定することができる。
上記の条件により加熱処理した酸化パルプを、十分に水洗することにより、酸化パルプ中に残存するN−オキシル化合物を除去することができる。
(セルロースナノファイバーの調製)
本発明の方法により得られたN−オキシル化合物の含有量が極めて低い酸化パルプを解繊、分散することにより、幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度のセルロースのシングルミクロフィブリルであるセルロースナノファイバーの分散液を調製することができる。
解繊・分散に用いる装置の種類としては、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置が挙げられるが、透明性と流動性に優れるセルロースナノファイバー分散液を効率よく得るには、50MPa以上、好ましくは100MPa以上、さらに好ましくは140MPa以上の条件下で分散できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーで処理することが好ましい。
本発明により得られた酸化パルプを用いて調製されたセルロースナノファイバー分散液は、N−オキシル化合物の残存量が極めて低いため、セルロースナノファイバーの分散性が良好であり、高い透明性を有する。本発明のセルロースナノファイバーの透明性は、0.1%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液に対する波長660nmの光の透過率に基づいて、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上である。
次に実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は、本発明の好適な例を具体的に説明したものであり、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
<酸化パルプの調製>
針葉樹由来の漂白済み未叩解サルファイトパルプ(日本製紙ケミカル社)5g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム754mg(7mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで攪拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)18mlを添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応した後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで酸化処理したパルプを得た。
<パルプ中の残留TEMPO量の測定>
パルプ中の残留TEMPOは微量窒素量計(三菱化学、TN−10)を用いてパルプ中の窒素量として測定した。
上記の酸化パルプの調製に用いた原料パルプである漂白済み未叩解サルファイトパルプの窒素量は、21ppmであった。また、上記の酸化パルプの調製により得られた酸化パルプの窒素量は、32ppmであった。酸化パルプの窒素量と原料パルプの窒素量との差は、酸化反応に用いたTEMPOの窒素量に基づくと考えられるため、上記の酸化パルプの調製によりパルプ中に残留したTEMPO由来の窒素量は、32ppm−21ppm=11ppmであると計算できる。
TEMPO酸化パルプ0.2g(絶乾)を25mlの超純水に分散し、0.5N塩酸水溶液でpHを3.5に調整した。85℃、2時間加熱処理した後、ガラスフィルターでパルプをろ別し、十分に水洗した。得られたパルプを70℃で乾燥した後、パルプ中の窒素量を上記の方法により測定した。その結果、酸化パルプの窒素量は23ppmであった。上記のとおり、原料パルプの窒素量は21ppmであったから、残留TEMPO由来の窒素量は23ppm−21ppm=2ppmとなったことがわかる。また、上記のとおり、加熱処理前に存在したTEMPO由来の窒素量は11ppmであったから、実施例1の処理により、パルプ中に残留したTEMPOを、82%の除去率で除去できたことがわかる。
また、加熱処理時に溶解したセルロース量の指標として、加熱処理後、パルプをろ別して得られたろ液中の全有機炭素量を、全有機体炭素計(島津製作所、TOC−V)を用いて測定した。残留TEMPO由来の窒素量(ppm)、残留TEMPOの除去率(%)、及びろ液中の全有機炭素量(ppm)の結果を表1に示す。
pHを5.5とした以外、実施例1と同様にして加熱処理を行った。実施例1と同様にして測定した残留TEMPO由来の窒素量(ppm)、残留TEMPOの除去率(%)、及びろ液中の全有機炭素量(ppm)の結果を表1に示す。
pHを7.7とした以外、実施例1と同様にして加熱処理を行った。結果を表1に示す。
[比較例1]
pHを2.5とした以外、実施例1と同様にして加熱処理を行った。結果を表1に示す。
[比較例2]
0.5N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを11.9とした以外、実施例1と同様にして加熱処理を行った。結果を表1に示す。
温度を50℃、時間を4時間とした以外、実施例1と同様にして加熱処理を行った。結果を表1に示す。
温度を120℃、時間を30分間とした以外、実施例1と同様にして加熱処理を行った。結果を表1に示す。
[比較例3]
温度を40℃、時間を6時間とした以外、実施例1と同様にして加熱処理を行った。結果を表1に示す。
[比較例4]
温度を130℃、時間を10分間とした以外、実施例1と同様にして加熱処理を行った。結果を表1に示す。
Figure 0005426209
実施例1により得られた酸化パルプの0.1%(w/v)スラリーをミキサーを用いて12,000rpmで15分間処理し、さらに、超高圧ホモジナイザーを用いて140MPaの圧力で5回処理して、透明なゲル状分散液であるセルロースナノファイバーの分散液を得た。こうして得られたセルロースナノファイバー分散液は、分散性が良好で透明度が高かった。0.1%(w/v)の水分散液における660nm光の透過率をUV−VIS分光光度計UV−265FS(島津製作所社)を用いて測定したところ、97.5%であった。

Claims (3)

  1. (1)N−オキシル化合物、及び、(2)臭化物、ヨウ化物、若しくはこれらの混合物の存在下で、酸化剤を用いてセルロース系原料を酸化して得られた酸化パルプから、N−オキシル化合物を除去する方法であって、該酸化パルプを、pH3〜10の条件下で、50℃以上120℃以下に加熱し、次いで水洗することを含む、N−オキシル化合物の除去方法。
  2. 除去されるN−オキシル化合物が、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシラジカル(TEMPO)を発生する化合物、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシラジカル(4−ヒドロキシTEMPO)を発生する化合物、4−ヒドロキシTEMPOの水酸基をエーテル化もしくはエステル化して得られる4−ヒドロキシTEMPO誘導体を発生する化合物、又はアザアダマンタン型ニトロキシラジカルを発生する化合物、或いはそれらの混合物である、請求項1に記載の方法。
  3. (1)N−オキシル化合物、及び(2)臭化物、ヨウ化物、若しくはこれらの混合物の存在下で、酸化剤を用いてセルロース系原料を酸化して、酸化パルプを製造すること、
    酸化パルプを、pH3〜10の条件下で、50℃以上120℃以下に加熱し、次いで水洗してN−オキシル化合物が除去された酸化パルプを製造すること、及び
    N−オキシル化合物が除去された酸化パルプを、解繊・分散処理してセルロースナノファイバーを得ること
    を含む、セルロースナノファイバーの製造方法
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