JP5418724B2 - 金属製中空柱状部材 - Google Patents
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Description
本発明は、フレームを構成する鋼、アルミニウム、ステンレス、チタン等の金属製の薄肉中空柱状部材に関する。
近年、自動車分野では、自動車の衝突安全性を維持または高めながら車体を軽量化して、CO2排出量を低減し自動車の環境性能を高めるために、クラッシュボックス等のフレーム部材の断面形状の工夫によりその剛性を高める取り組み例が多く見られる。フレーム部材の剛性を高めるためには、フレーム部材の長手方向の断面特性の分布(強度バランス)が重要となる。設計を誤ると、例えば自動車の前方衝突において、自動車のフレームの先端に位置するクラッシュボックスより、該クラッシュボックスの後方に位置するフレームが先に変形してしまうことが起こりえる。また、自動車の衝突実験では、荷重方向等の境界条件は一定ではなく、ある程度の誤差が発生する。そのため、クラッシュボックス等の軸方向の圧潰変形モードが主たる変形モードであるエネルギー吸収部材は、ある程度の境界条件の変化で衝撃吸収能が大きく変化しない、すなわち、ロバスト性の優れる部材であることが求められる。
ここで強度バランスとは、フレームの長手方向に垂直な複数の断面形状と適用される材料特性から算出される断面2次モーメントや最大耐座屈荷重等の長手方向の分布をいい、衝撃吸収能とは単位軸方向の圧潰量あたりのエネルギー吸収量をいい、ロバスト性とは力学的な境界条件の変化に対する衝撃吸収能の不変性をいう。
従来技術として、特許文献1には、軸方向の少なくとも一部における横断面形状が複数の頂点を有する閉断面であって、内部へ向かって凹んだ溝部を形成する衝撃吸収部材が開示されている。
また、特許文献2には、中空矩形断面を有するアルミニウム合金製の押出部材から成るエネルギー吸収部材において、壁面部の外側に矩形断面の凸部を設ける技術が記載されている。
更に、特許文献3には、側面に軸方向に延在する、内側に凸状となるビードや、外側に凸状となるビードを形成した自動車のフロントサイドフレームが開示されている。
更に、特許文献4には、開口部を車幅方向外側に向けた略C字断面形状を有する自動車の衝撃吸収部材が記載されている。
更に、特許文献5には、多角形断面を有した衝撃吸収部材において、多角形断面のある一辺の長さと、該辺を挟んで隣接する二辺の長さと、該二辺の成す角度の範囲を限定する技術が記載されている。
然しながら、特許文献1〜3に開示の技術は、いずれも横断面の頂点部の総数を増大させ圧縮変形による部材の単位長さ当たりの断面力を極端な凹凸部形成により著しく向上させるものであるため、フレームの強度バランスの観点から、全体的にフレームを設計し直す必要がある。部分的に適用した場合、全体の強度バランスがくずれ、予期していない箇所から変形し逆に部材単体の衝撃エネルギー吸収量を低減させるおそれがある。さらには、極端な凹凸部成形は変形モードを不安定化させるため、安定した軸方向の圧潰変形を困難にするおそれがある。
また、先行特許4〜5は、いずれも凹凸部成形が抑えられ、圧縮変形による部材の単位長さ当たりの断面力の向上は緩やかであり、安定した軸方向の圧潰変形モードを図ることができる。しかし、いずれの特許も図示された略多角形上の頂点の内角の配置が適切でなく、荷重方向によっては多角形化することで発生する屈曲現象により頂点部を消失させ、断面力の著しい低下を生じさせるおそれがある。
本発明の目的は、強度バランスを損なわずに衝撃吸収能を向上させる技術とその適用部材を提供することである。
本発明者らは、部材が圧壊されるときの、変形モードと衝撃吸収能(エネルギー吸収量)の関係を調査した結果、部材の横断面の頂点部の挙動が圧潰変形時のエネルギー吸収量に大きく寄与することを見出した。圧潰変形時に屈曲等の変形により圧潰変形前の頂点部が消失すると、著しく反力が低下する。従って、頂点部で屈曲を起こさない方法が有効であるが、軸方向の圧潰変形時は特に制御が難しい。そこで本発明者らは部材の軸方向の圧潰解析および実験により、屈曲位置を制御することで、圧潰変形時の頂点部の消失を抑制できることを見出した。この技術は、座屈による反力低下の割合を軽減するものであるため、全体的な強度バランスを損なうことはない。
本発明によれば、少なくとも5つの頂点部と、該頂点部間に延設された辺とを有した多角形断面を有した金属製中空柱状部材であって、前記多角形断面は、内角の小さい2つの頂点部(A、B)によって、その周囲が1または複数の辺から成る2つの周囲セグメントに分割され、該2つの周囲セグメントの少なくとも一方が少なくとも4つの辺を含み、該少なくとも4つの辺を含む周囲セグメントに含まれる少なくとも3つの頂点部(∨(i) (i=1, 2, 3, ...))の各々の内角は180°以下であり、前記2つの頂点部(A、B)を結ぶ直線(L)と、前記少なくとも3つの頂点部(∨(i) (i=1, 2, 3, ...))との間の距離(SS(i) (i=1, 2, 3, ...))が、前記2つの頂点部(A、B)間の距離の1/2よりも短く、更に、前記少なくとも3つの頂点部∨(i)のうち最小の内角を有した頂点部(C)の内角が前記2つの頂点部(A、B)の内角よりも大きく、前記少なくとも4つの辺を含む周囲セグメント沿いに、前記少なくとも3つの頂点部∨(i)のうち最小の内角を有した頂点部(C)と前記2つの頂点部(A、B)の一方(A)との間、および、前記最小の内角を有した頂点部(C)と前記2つの頂点部(A、B)の他方(B)との間に、前記最小の内角を有した頂点部(C)の内角の角度よりも大きい内角を有した頂点部(VI)が存在している金属製中空柱状部材が提供される。
更に、本発明の他の特徴によれば、少なくとも5つの頂点部と、該頂点部間に延設された辺とを有した多角形断面を有した金属製中空柱状部材であって、前記金属製中空柱状部材は2つの接合部(J)を備え、前記多角形断面は、前記2つの接合部(J)近傍の2つの頂点部(A、B)によって、その周囲が1または複数の辺から成る2つの周囲セグメントに分割され、該2つの周囲セグメントの少なくとも一方が少なくとも4つの辺を含み、該少なくとも4つの辺を含む周囲セグメントに含まれる少なくとも3つの頂点部(∨(i) (i=1, 2, 3, ...))の各々の内角は180°以下であり、前記2つの頂点部(A、B)を結ぶ直線(L)と、前記少なくとも3つの頂点部(∨(i) (i=1, 2, 3, ...))との間の距離(SS(i) (i=1, 2, 3, ...))が、前記2つの頂点部(A、B)間の距離の1/2よりも短く、前記少なくとも4つの辺を含む周囲セグメント沿いに、前記少なくとも3つの頂点部∨(i)のうち最小の内角を有した頂点部(C)と前記2つの頂点部(A、B)の一方(A)との間、および、前記最小の内角を有した頂点部(C)と前記2つの頂点部(A、B)の他方(B)との間に、前記最小の内角を有した頂点部(C)の内角の角度よりも大きい内角を有した頂点部(VI)が存在している金属製中空柱状部材が提供される。
本発明の金属製中空柱状部材は、特に自動車のフレームを構成するフレーム部材に適している。
なお、本発明で、多角形とは、各辺を延長した直線の交点で形成される図形が多角形であることを意味し、多角形断面を有した金属製中空柱状部材は、頂点部に曲率が設けられている部材を含んでいる。
本発明によれば、強度バランスを損なわずに衝撃吸収能とロバスト性を向上させた部材が提供される。
先ず、図1〜図6を参照して、本発明の原理を説明する。
多角形断面の中空柱状部材の衝撃吸収性能を高めるためには、中空柱状部材部材の軸方向の圧潰量当りのエネルギー吸収量を高めることが必要である。エネルギー吸収量を高めるためには、部材の圧潰時に生じる反力の平均値を高く維持することが重要である。
多角形断面の中空柱状部材の衝撃吸収性能を高めるためには、中空柱状部材部材の軸方向の圧潰量当りのエネルギー吸収量を高めることが必要である。エネルギー吸収量を高めるためには、部材の圧潰時に生じる反力の平均値を高く維持することが重要である。
そのためには、(1)図1において破線で示すように、圧潰時の変形により変動する反力の増加を促進すること、(2)図1において点線で示すように、圧潰時の変形により変動する反力の低下を抑制することが必要である。
本発明者らは、部材の軸方向の圧潰解析および実験により、(a)圧潰時の反力の増加は、主に変形前の部材の横断面形状の頂点部の数によって影響されること、(b)圧潰時の反力の低下は、変形中の部材の横断面形状の頂点部の数によって影響されること、(c)反力の増加は部材の最大反力が増えるため隣接する他の部材へ影響するが、反力の低下は、部材の最大反力は変わらないため、隣接する他の部材へ影響しないことを見出した。
多角形断面を有した中空柱状部材では、一般的に、圧潰時の屈曲により多角形断面の頂点部が消失することがある。その場合、部材は、最初の頂点部の総数よりも少ない頂点部を有した断面形状で変形することになる。断面の頂点部が消失すると、多角形断面の辺の長さが長くなるため、座屈の周期が長くなる。座屈の周期は、反力の変動の周期に相当するので、座屈の周期が長くなると、圧潰中の反力ピークの数が減る。従って、多角形断面の頂点部の数を多くすることによって、座屈開始前の部材の最大反力を高めることができるが、多角形断面の頂点部の数を多くすると頂点部の内角が大きくなるので、部材は屈曲し易くなり、座屈後の部材の反力が著しく低下することがある。
多角形断面を有した中空柱状部材が圧壊に伴う部材の屈曲は不可避であるので、部材の衝撃的吸収性能を高めるためには、どのように屈曲させるかが重要となる。また、屈曲は反力の低下を引き起こすので、屈曲をコントロールすることによって、変形時に消失する頂点部の数を低減し、以て反力の低下量を制御できる可能性がある。
そこで、本発明者らは、多角形断面を有した中空柱状部材の圧潰の解析および実験により、屈曲の回数を減らすのではなく、屈曲位置を制御することで頂点部の消失が抑えられること、さらに屈曲位置を制御するためには頂点部の内角が重要なファクターであることを見出した。
一般的に、多角形断面の中空柱状部材では、横断面内の頂点部の内角が大きいほど、中空柱状部材は屈曲し易くなる。例えば、2本の長手方向のみの変形可能な弾性棒を図2に示すように一端において角度θをもって結合すると共に、反対側の端部を固定した系において、頂点となる結合部に矢印Fで示すように上方から荷重を印加したときの、屈曲開始直前の最大耐屈曲荷重は、材料力学的に解析することができ、角度θ=90°での最大耐屈曲荷重を1.00とすると、角度θ=120°および角度θ=150°の場合、最大耐屈曲荷重は、図3に示すように、夫々約0.30および約0.04となる。
このように、図3から、最大耐屈曲荷重は頂点の内角に非常に敏感であることが理解されよう。従って、多角形断面の頂点部の夫々の内角の大きさを適正にすることによって、多角形断面の中空柱状部材の変形モードを制御でき、そのロバスト性を向上可能となる。
一方、多角形断面の中空柱状部材の圧潰変形では、中空柱状部材の軸方向に力が作用し、変形前は多角形断面の各頂点には、図4に示すように、隣接する頂点部へ向かう引張荷重が作用する。中空柱状部材に屈曲が生じると、屈曲の生じた部分で頂点部の内角は増大(+)し、該屈曲した部分の頂点部に隣接する頂点部は、幾何学的な制約により逆に内角が縮小(−)する。従って、屈曲した部分の周辺は屈曲し難くなる(図5)。同様にして、更に隣の頂点部の内角は増大(+)する。すなわち、1つの頂点部で屈曲が生じると内角は交互に(+)または(−)となり、内角が増大した頂点は屈曲により消失する可能性が高くなる(図6)。
中空柱状部材のこのような屈曲形態を考慮すると、本発明は、少なくとも5つの頂点部を有した多角形断面の中空柱状部材に適用可能である。多角形断面内のどの位置から屈曲が生じ頂点部が消失するかは、圧潰時の荷重方向に依存するが、主には頂点部の内角の大きさ、位置およびフランジ等の接合部の存在により決定される。なお、エネルギー吸収量を向上させるため、材料として強度、延性に優れ、かつ複雑な応力状態でもある程度の延性を保持する、すなわち異方性が小さいことが重要であることから、多角形断面の中空柱状部材は金属製であることが好ましい。
一方、屈曲は、軸方向に所謂「compact型」圧潰変形で生じ易いため、多角形断面の中空柱状部材は、軸方向に「compact型」圧潰変形となるサイズとすることが好ましい。具体的には、多角形断面の頂点部の間隔Dと板厚tとの比(t/D)は、好ましくは0.005以上、さらに好ましくは0.010以上となるようにする。また、中空柱状部材の長手方向長さHと、多角形断面の最小長さhとの比(h/H)を好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.15以上とする。なお、多角形断面の最小長さは、中空柱状部材の横断面に接する2本の平行な直線間の最小距離のことである。ここで、「compact型」との語は、軸方向の圧潰変形時に一定のパターンの繰り返しにより圧潰する変形モードのことであり、過去複数の文献で呼称されている。
次に、本発明の第1の実施形態を説明する。
先ず、少なくとも5つの頂点部と、該少なくとも5つの頂点部間に延びる辺とを含む多角形断面において、内角の小さい2つの頂点部A、Bを選択し、該2つの頂点部A、Bによって多角形断面の周囲を1または複数の辺から成る2つの周囲セグメントに分割する。その際、2つの周囲セグメントの少なくとも一方が、少なくとも4つの辺を含むように2つの頂点部A、Bを選択する。次に、該2つの頂点部A、Bを結ぶ直線をL、該直線Lの長さ、つまり2つの頂点部A、B間の距離をSとする。更に、前記少なくとも4つの辺を含む周囲セグメントに含まれる少なくとも3つの頂点部∨(i) (i=1, 2, 3, ...)と直線Lとの間の距離をSS(i) (i=1, 2, 3, ...)とする。このとき、SS(i)<0.5Sを満たす、すなわち内角は90°より大きく、かつ多角形断面内の頂点部∨(i)の内角が全て180°以下である場合(図7)、頂点部A、B間の周囲セグメント上の頂点部∨(i)の全て、もしくは一部が屈曲により消失する可能性が高くなる。
先ず、少なくとも5つの頂点部と、該少なくとも5つの頂点部間に延びる辺とを含む多角形断面において、内角の小さい2つの頂点部A、Bを選択し、該2つの頂点部A、Bによって多角形断面の周囲を1または複数の辺から成る2つの周囲セグメントに分割する。その際、2つの周囲セグメントの少なくとも一方が、少なくとも4つの辺を含むように2つの頂点部A、Bを選択する。次に、該2つの頂点部A、Bを結ぶ直線をL、該直線Lの長さ、つまり2つの頂点部A、B間の距離をSとする。更に、前記少なくとも4つの辺を含む周囲セグメントに含まれる少なくとも3つの頂点部∨(i) (i=1, 2, 3, ...)と直線Lとの間の距離をSS(i) (i=1, 2, 3, ...)とする。このとき、SS(i)<0.5Sを満たす、すなわち内角は90°より大きく、かつ多角形断面内の頂点部∨(i)の内角が全て180°以下である場合(図7)、頂点部A、B間の周囲セグメント上の頂点部∨(i)の全て、もしくは一部が屈曲により消失する可能性が高くなる。
少なくとも3つの頂点部∨(i)が180°以上の内角を有した頂点部を含んでいると、該頂点部から辺が外側に延設されることになるので、中空柱状部材が圧壊されるとき、この180°以上の内角を有した頂点部は、他の頂点部とは大きく異なる変形の仕方をするので、圧壊変形中の中空柱状部材の変形が複雑になり、その変形制御が困難になる。
また、SS(i)<αS(α>0)としたとき、αが小さいほど、すなわち頂点部∨(i)の内角が大きくなるほど、頂点部∨(i)の全て、もしくは一部が屈曲により消失する可能性が高まる。
更に、本実施の形態では、更に、頂点部∨(i)のうち最小の内角を有した頂点部Cの内角が2つの頂点部A、Bの内角よりも大きくなっている。更に、選択された周囲セグメント沿いに頂点部A、C間および頂点部B、C間に存在する頂点部のうち、頂点部Cの内角の角度よりも大きい内角を有した頂点部を頂点部VIとする。頂点部VIは、中空柱状部材が圧潰変形する際、優先的に屈曲の起点となり、該頂点部VI以外の頂点部A、B、Cが屈曲し難くくなり、該頂点部の消失が防止される。すなわち、本実施の形態では、∠A<∠C<∠VI、かつ、∠B<∠C<∠VIとなっている。ここで、∠Aは頂点部Aの内角であり、∠Bは頂点部Bの内角であり、∠Cは頂点部Cの内角であり、∠VIは頂点部VIの内角である。
一方、本発明の条件を満たさない場合、つまり、図9に示すように、周囲セグメント沿いに2つの頂点部A′、B′間の少なくとも3つの頂点部のうち、頂点部C′の内角が他の頂点部∨1、∨2の内角よりも大きい場合、中空柱状部材が圧壊されるときの屈曲により消失する頂点部の数が多くなり、図9の例では、頂点部A′、B′および頂点部∨1、∨2が消失し、結果として中空柱状部材の反力が著しく低下してしまう。
優先的に頂点部VIで屈曲させるためには、頂点部VIと頂点部Cの内角の角度差が大きいほどよく、好ましくは10°、さらに好ましくは20°の差を有することが望ましい。また同内角である頂点部Cが複数存在する場合は、該複数の頂点部Cは隣接している。もし隣接しない場合、すなわち図9の内角の小さい2点が頂点部Cの場合は、同図で示したとおり頂点の消失数の抑制に寄与しない。
なお、上記の頂点部A、B、C、VIの関係が、中空柱状部材の横断面の少なくとも一部で満足していることが重要であり、横断面の全ての頂点で満足しなくてもよい。例えば、一部に部材の長手方向ビードを有し、横断面の頂点の一部の内角が180°以上である場合も、他部で本発明の内角の関係が満足されていれば圧潰時の変形により変動する反力の低下は抑制される。
以上の横断面の頂点部の内角の分布と位置関係を満たす領域を多く作ることで、多角形断面内の屈曲位置を制御でき、結果的に頂点部の消失数を抑えることができる。
次に、本発明の他の実施形態を説明する。
中空柱状部材がフランジ等の2つの接合部Jを有する場合、接合部Jは、板の重ね合わせで肉厚が大きいため、2つの接合部Jの最近傍の横断面の頂点部A、Bは屈曲により消失され難い。該2つの頂点部A、Bを結ぶ直線をL、該直線Lの長さ、つまり2つの頂点部A、B間の距離をS、前記少なくとも4つの辺を含む周囲セグメントに含まれる少なくとも3つの頂点部∨(i) (i=1, 2, 3, ...)と直線Lとの間の距離をSS(i) (i=1, 2, 3, ...)としたときに、SS(i)<0.5Sを満たす、すなわち内角は90°より大きく、かつ多角形断面内の頂点部∨(i)の内角が全て180°以下である場合(図10、図11)、頂点部A、B間の周囲セグメント上の頂点部∨(i)の全て、もしくは一部が屈曲により消失する可能性が高くなる。
中空柱状部材がフランジ等の2つの接合部Jを有する場合、接合部Jは、板の重ね合わせで肉厚が大きいため、2つの接合部Jの最近傍の横断面の頂点部A、Bは屈曲により消失され難い。該2つの頂点部A、Bを結ぶ直線をL、該直線Lの長さ、つまり2つの頂点部A、B間の距離をS、前記少なくとも4つの辺を含む周囲セグメントに含まれる少なくとも3つの頂点部∨(i) (i=1, 2, 3, ...)と直線Lとの間の距離をSS(i) (i=1, 2, 3, ...)としたときに、SS(i)<0.5Sを満たす、すなわち内角は90°より大きく、かつ多角形断面内の頂点部∨(i)の内角が全て180°以下である場合(図10、図11)、頂点部A、B間の周囲セグメント上の頂点部∨(i)の全て、もしくは一部が屈曲により消失する可能性が高くなる。
少なくとも3つの頂点部∨(i)が180°以上の内角を有した頂点部を含んでいると、該頂点部から辺が外側に延設されることになるので、中空柱状部材が圧壊されるとき、この180°以上の内角を有した頂点部は、他の頂点部とは大きく異なる変形の仕方をするので、圧壊変形中の中空柱状部材の変形が複雑になり、その変形制御が困難になる。
また、SS(i)<αS(α>0)としたとき、αが小さいほど、すなわち頂点部∨(i)の内角が大きくなるほど、頂点部∨(i)の全て、もしくは一部が屈曲により消失する可能性が高まる。
更に、本実施の形態では、更に、頂点部∨(i)のうち最小の内角を有した頂点部Cの内角が2つの頂点部A、Bの内角よりも大きくなっている。更に、選択された周囲セグメント沿いに頂点部A、C間および頂点部B、C間に存在する頂点部のうち、頂点部Cの内角の角度よりも大きい内角を有した頂点部を頂点部VIとする。頂点部VIは、中空柱状部材が圧潰変形する際、優先的に屈曲の起点となり、該頂点部VI以外の頂点部A、B、Cが屈曲し難くくなり、該頂点部の消失が防止される。すなわち、本実施の形態では、∠A<∠C<∠VI、かつ、∠B<∠C<∠VIとなっている。ここで、∠Aは頂点部Aの内角であり、∠Bは頂点部Bの内角であり、∠Cは頂点部Cの内角であり、∠VIは頂点部VIの内角である。
一方、本発明の条件を満たさない場合、つまり、図9に示すように、周囲セグメント沿いに2つの頂点部A′、B′間の少なくとも3つの頂点部のうち、頂点部C′の内角が他の頂点部∨1、∨2の内角よりも大きい場合、中空柱状部材が圧壊されるときの屈曲により消失する頂点部の数が多くなり、図9の例では、頂点部A′、B′および頂点部∨1、∨2が消失し、結果として中空柱状部材の反力が著しく低下してしまう。
優先的に頂点部VIで屈曲させるためには、頂点部VIと頂点部Cの内角の角度差が大きいほどよく、好ましくは10°、さらに好ましくは20°の差を有することが望ましい。また同内角である頂点部Cが複数存在する場合は、該複数の頂点部Cは隣接している。もし隣接しない場合、すなわち図9の内角の小さい2点が頂点部Cの場合は、同図で示したとおり頂点の消失数の抑制に寄与しない。
なお、上記の頂点部A、B、C、VIの関係が、中空柱状部材の横断面の少なくとも一部で満足していることが重要であり、横断面の全ての頂点で満足しなくてもよい。例えば、一部に部材の長手方向ビードを有し、横断面の頂点の一部の内角が180°以上である場合も、他部で本発明の内角の関係が満足されていれば圧潰時の変形により変動する反力の低下は抑制される。
2カ所のフランジ部等の接合部Jを有し、以上の横断面の頂点部の内角の分布と位置関係を満たす領域を作ることで、多角形断面内の屈曲位置を制御でき、結果的に頂点部の消失数を抑えることができる。
本発明の金属製中空柱状部材は、特に自動車のフレームを構成するフレーム部材に適している。自動車分野では、衝突安全性能の一層の向上、燃費向上のための一層の車体軽量化、グローバル展開に向けた多くの車種の開発期間短縮といった多く課題に対し、多くの設計者、研究者が取り組んでいる。
衝突安全性能関係において、日本では国連統一基準(ECE規則)R94のオフセット衝突時の乗員保護と同等の基準が制定され、2007年の新型乗用車から適用になっている。また2.5[t]以下の商用車にも適用が拡大されている。米国では2009年からFMVSS214に32km/hの速度でのポール側突の追加が計画されている。また、FMVSS301が改正され80km/hでのオフセット後突が2006年から段階的に適用されている。
自動車の燃費に関連して、日本ではエネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)の改正により、2015年度を目標達成年度とした「重量車燃費基準」が策定され、2006年4月から施行されている。米国では、連邦は2008−2011年式の小型トラックのCAFEシステムに関する改正案を発表した。連邦およびカリフォルニア州の双方において次期規制強化が議論されている。
グローバル展開に関しては、自動車の輸出量は近年増加の一途をたどっており、2001年と2005年を比較しても約22%と急激に増加している。日本のメーカーのロシア進出等、今後全ての日本のメーカーで海外生産が国内生産を上回ることが予想される。
以上のような背景から、急ピッチで進む設計期間の短縮、車体軽量化、衝突安全性の向上のために、本発明は内角の分布の工夫のみにより、フレーム全体の強度バランスを変えることなく、衝突安全性向上が見込まれるため、設計者の負担を削減、車体の軽量化にも寄与できると考えられる。自動車の衝突時に動的な荷重が負荷される部材は数多くあるが、特に前面衝突時の衝撃吸収エネルギー量に大きく寄与するクラッシュボックス、フロントサイドメンバ、または後面衝突時の衝撃吸収エネルギー量に大きく寄与するリアサイドメンバ等の衝撃吸収部材の設計時に本発明は大きく貢献できると考えられる。
以下、実施例を参照しながら、本発明の効果を説明する。
まず本発明者らは、図12、13に示すように、2種類の略10角形断面の薄肉中空柱状部材100、200に対し、圧潰時の反力と圧潰量の関係を比較した。その断面形状の寸法を、図12(部材100)および図13(部材200)に示す。部材200が本発明形状の一例である。部材100、200の双方ともにJSC590Y鋼から形成され、長さ300mm、板厚1.6mmであり、全ての隅部に1.35mm-1の曲率が付与されている。重量を700kgとした衝突体を軸方向(図12、13の紙面に垂直な方向)かつ圧縮方向に初速5.0m/sの速度で衝突させたときの圧潰量と反力の関係を解析により評価し、部材100、200を比較した(図14)。
まず本発明者らは、図12、13に示すように、2種類の略10角形断面の薄肉中空柱状部材100、200に対し、圧潰時の反力と圧潰量の関係を比較した。その断面形状の寸法を、図12(部材100)および図13(部材200)に示す。部材200が本発明形状の一例である。部材100、200の双方ともにJSC590Y鋼から形成され、長さ300mm、板厚1.6mmであり、全ての隅部に1.35mm-1の曲率が付与されている。重量を700kgとした衝突体を軸方向(図12、13の紙面に垂直な方向)かつ圧縮方向に初速5.0m/sの速度で衝突させたときの圧潰量と反力の関係を解析により評価し、部材100、200を比較した(図14)。
次に本発明者らは、2種類の略10角形断面の薄肉中空柱状部材300、400に対し、圧潰時の反力と圧潰量の関係を比較した。その断面形状の寸法を、図15(部材300)、図16(部材400)に示す。部材400が本発明形状の一例である。部材300、400の双方ともにJSC590Y鋼から形成され、長さ150mm、板厚1.6mmであり、全ての隅部に1.35mm-1の曲率が付与されている。重量700kgの衝突体を軸方向(図15、16の紙面に垂直な方向)かつ圧縮方向に初速5.0m/sの速度で衝突させたときの圧潰量と反力の関係を解析により評価し、部材300、400を比較した(図17)。
さらに本発明者らは、上記部材300、400に対し、該部材の軸方向に対して衝突角度を1°変更(図15、図16の紙面垂直方向から右に1°傾斜)させた同様の圧潰解析を実施し、圧潰量と反力の関係の境界条件の変化による影響を確認した(図18)。
何れの実施例においても、本発明部材は、初期反力ピークは本発明外部材とほぼ同一であるが、初期反力ピークから座屈する際の著しい反力低下を本発明外部材よりも抑えており、かつ境界条件が変化した場合でもほぼ同等の反力と圧潰量の関係、すなわちほぼ同等の衝撃吸収能を有していることが確認できる。本発明により部材の最大反力を同等に維持したまま、衝撃吸収能とロバスト性を向上させうることが確認できる。
Claims (3)
- 少なくとも5つの頂点部と、該頂点部間に延設された辺とを有した多角形断面を有した金属製中空柱状部材であって、
前記多角形断面は、内角の小さい2つの頂点部(A、B)によって、その周囲が1または複数の辺から成る2つの周囲セグメントに分割され、該2つの周囲セグメントの少なくとも一方が少なくとも4つの辺を含み、
該少なくとも4つの辺を含む周囲セグメントに含まれる少なくとも3つの頂点部(∨(i) (i=1, 2, 3, ...))の各々の内角は180°以下であり、
前記2つの頂点部(A、B)を結ぶ直線(L)と、前記少なくとも3つの頂点部(∨(i) (i=1, 2, 3, ...))との間の距離(SS(i) (i=1, 2, 3, ...))が、前記2つの頂点部(A、B)間の距離の1/2よりも短く、
更に、前記少なくとも3つの頂点部(∨(i))のうち最小の内角を有した頂点部(C)の内角が前記2つの頂点部(A、B)の内角よりも大きく、
前記少なくとも4つの辺を含む周囲セグメント沿いに、前記少なくとも3つの頂点部(∨(i))のうち最小の内角を有した頂点部(C)と前記2つの頂点部(A、B)の一方(A)との間、および、前記最小の内角を有した頂点部(C)と前記2つの頂点部(A、B)の他方(B)との間に、前記最小の内角を有した頂点部(C)の内角の角度よりも大きい内角を有した頂点部(VI)が存在している金属製中空柱状部材。 - 少なくとも5つの頂点部と、該頂点部間に延設された辺とを有した多角形断面を有した金属製中空柱状部材であって、
前記金属製中空柱状部材は2つの接合部(J)を備え、
前記多角形断面は、前記2つの接合部(J)近傍の2つの頂点部(A、B)によって、その周囲が1または複数の辺から成る2つの周囲セグメントに分割され、該2つの周囲セグメントの少なくとも一方が少なくとも4つの辺を含み、
該少なくとも4つの辺を含む周囲セグメントに含まれる少なくとも3つの頂点部(∨(i) (i=1, 2, 3, ...))の各々の内角は180°以下であり、
前記2つの頂点部(A、B)を結ぶ直線(L)と、前記少なくとも3つの頂点部(∨(i) (i=1, 2, 3, ...))との間の距離(SS(i) (i=1, 2, 3, ...))が、前記2つの頂点部(A、B)間の距離の1/2よりも短く、
前記少なくとも4つの辺を含む周囲セグメント沿いに、前記少なくとも3つの頂点部(∨(i))のうち最小の内角を有した頂点部(C)と前記2つの頂点部(A、B)の一方(A)との間、および、前記最小の内角を有した頂点部(C)と前記2つの頂点部(A、B)の他方(B)との間に、前記最小の内角を有した頂点部(C)の内角の角度よりも大きい内角を有した頂点部(VI)が存在している金属製中空柱状部材。 - 用途が自動車のフレーム用であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属製中空柱状部材。
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