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JP5332739B2 - 光電変換素子及び太陽電池 - Google Patents

光電変換素子及び太陽電池 Download PDF

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Description

本発明は、色素増感型の光電変換素子及び該光電変換素子を用いた太陽電池に関する。
近年、無限で有害物質を発生しない太陽光の利用が精力的に検討されている。このクリーンエネルギー源である太陽光利用として現在実用化されているものは、住宅用の単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン及びテルル化カドミウムやセレン化インジウム銅等の無機系太陽電池が挙げられる。
しかしながら、これらの無機系太陽電池の欠点としては、例えば、シリコン系では非常に純度の高いものが要求され、当然精製の工程は複雑でプロセス数が多く、製造コストが高いことが挙げられる。
その一方で、有機材料を使う太陽電池も多く提案されている。有機太陽電池としては、p型有機半導体と仕事関数の小さい金属を接合させるショットキー型光電変換素子、p型有機半導体とn型無機半導体、あるいはp型有機半導体と電子受容性有機化合物を接合させるヘテロ接合型光電変換素子等があり、利用される有機半導体は、クロロフィル、ペリレン等の合成色素や顔料、ポリアセチレン等の導電性高分子材料またはそれらの複合材料等である。これらを真空蒸着法、キャスト法またはディッピング法等により、薄膜化し電池材料が構成されている。有機材料は低コスト、大面積化が容易等の長所もあるが、変換効率は1%以下と低いものが多く、また耐久性も悪いという問題もあった。
こうした状況の中で、良好な特性を示す太陽電池がスイスのグレッツェル博士らによって報告された(非特許文献1参照)。提案された電池は色素増感型太陽電池であり、ルテニウム錯体で分光増感された酸化チタン多孔質薄膜を作用電極とする湿式太陽電池である。この方式の利点として、酸化チタン等の安価な金属半導体を高純度まで精製する必要なく利用できることが挙げられ、従って低コストで太陽電池を製造することができる。また、色素の分光増感作用により、可視光成分の多い太陽光を有効に電気へ変換できることである。
上記の色素増感型太陽電池は、一般にガラス基板を用いて作製している。しかし、ガラス基板は重量がかさむことや割れやすいといった問題を抱えている。これらの欠点を補うものとして、樹脂基板を用いた色素増感太陽電池が報告された(例えば、特許文献1参照)。樹脂基板を用いると、可撓性を付与することもできるので、設置形態や用途の自由度が上がることが見込まれる。しかし、樹脂基板はガラス基板に比べ耐熱性に劣るため、酸化チタン膜の高温焼結(500℃前後)を行うことができず、酸化チタン粒子間ならびに酸化チタンと導電性基板間の接着性が悪くなって、光電変換効率もガラス基板を用いたセルに比べ大きく下がっている。また、色素増感型太陽電池の劣化機構として電解質層中への水分の混入が指摘されているが、樹脂基板は一般にガスバリア性(水蒸気透過度)が悪いので長期間の使用により電解液中への水分の混入を招く問題がある。
特開2005−56627号公報
B.O’Regan,M.Gratzel,Nature,353,737(1991)
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、高い光電変換効率と優れた耐久性を併せ持ち、かつ可撓性を有する光電変換素子及び該光電変換素子を用いた太陽電池を提供することにある。
本発明の上記課題は、以下の構成により達成される。
1.対向する1対の可撓性を有するフィルムの間に、膜厚10〜70μmの無機ガラスフィルム、透明導電層、増感色素を担持した半導体層、電解質層、導電層及び膜厚10〜70μmの無機ガラスフィルムがこの順に設置されてなることを特徴とする光電変換素子。
2.前記無機ガラスフィルムのJIS K 7126−1987に準拠した方法で測定した水蒸気透過度が0.01g/(m・day)以下であることを特徴とする前記1に記載の光電変換素子。
3.前記半導体層が増感色素を吸着した多孔質酸化チタンからなることを特徴とする前記1または2に記載の光電変換素子。
4.前記1〜3のいずれか1項に記載の光電変換素子を有することを特徴とする太陽電池。
本発明により、高い光電変換効率と優れた耐久性を併せ持ち、かつ可撓性を有する光電変換素子及び該光電変換素子を用いた太陽電池を提供することができた。
本発明の光電変換素子の一例を示す断面図である。
本発明者らは、鋭意検討の結果、色素増感型の光電変換素子において、対向する1対の可撓性を有するフィルムの間に、膜厚10〜70μmの無機ガラスフィルム、透明導電層、増感色素を担持した半導体層、電解質層、導電層及び膜厚10〜70μmの無機ガラスフィルムをこの順に設置することで、高い光電変換効率と優れた耐久性を併せ持ち、かつ可撓性を有する光電変換素子及び該光電変換素子を用いた太陽電池が得られることを見出した。
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の光電変換素子の一例を示す断面図である。
図1に示すように、本発明の光電変換素子は、可撓性を有するフィルム1及び8、膜厚10〜70μmの無機ガラスフィルム2及び7、透明導電層3、増感色素を担持した半導体層4、電解質層5ならびに導電層6から構成されている。
本発明は、可撓性を有する光電変換素子の好ましいフィルム材料に関するものである。
一般に可撓性基板としてよく用いられるのは樹脂フィルムであるが、樹脂フィルムは耐熱性が低いため高温での熱処理が不可能である。このため、基板上での半導体膜の高温焼結(500℃前後)を行うことができず、半導体粒子間ならびに半導体粒子と導電性基板間の接着性が悪くなり、光電変換効率もガラス基板を用いたセルに比べ大きく低下する。樹脂フィルムの代わりに薄膜の無機ガラスフィルムを光電変換素子の基板として用いると、半導体粒子が強固に焼結した可撓性基板を得ることができ、良好な電子伝達能が発現できることを見出した。
以下、可撓性を有するフィルム、無機ガラスフィルム、導電層及び透明導電層、増感色素を担持した半導体層、電解質層ならびに導電層のそれぞれについて説明する。
(可撓性を有するフィルム)
フィルムが可撓性を有するとは、該フィルムの厚さをx(μm)とした場合、x1/2×10(cm)、好ましくはx1/2×5(cm)、さらに好ましくはx1/2(cm)の直径を有する丸棒に巻き付けても該フィルムに破断及びクラックの発生がないことを意味する。
このようなフィルムとしては、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム等を用いることができる。厚さとしては、50〜500μmが好ましい。
(無機ガラスフィルム)
本発明で用いる無機ガラスフィルムの膜厚は10〜70μmである。無機ガラスの膜厚が70μmを超えると可撓性が失われ破断及びクラックが発生する。
また、無機ガラスフィルムは一般にガスバリア性(水蒸気透過度)に優れているので、高湿環境下での長期間使用においても、電解液中へ水分が混入せず劣化を防ぐことができる。充分なガスバリア性を得るには、前記無機ガラスフィルムのJIS K 7126−1987に準拠した方法で測定した水蒸気透過度が0.01g/(m・day)以下であることが好ましい。前記の条件を満たす時、一般にガラス膜の厚さは10μm以上である。
本発明に用いる無機ガラスの製造方法としては、例えば、公知のゾル−ゲル法を用いたSiOガラスの作製方法や、これらに樹脂を添加して製膜後、焼成により有機成分をバーンアウトさせて塗膜を形成する方法等が挙げられる。
本発明で用いる無機ガラスフィルムの製造例を以下に述べる。
(製造例1)
コロイダルシリカゾルとして、粒子径10〜20nmのシリカ微粒子を分散した水溶媒系を用いた(固体含有率20質量%、pH2.8)。硝酸ジルコニル二水和物1.0gを1.9gの蒸留水に溶解した。得られた硝酸ジルコニル水溶液をコロイダルシリカゾル5.3gに混合した。別に、バインダーとしてポリビニルアルコール(クラレポバールPVA−105、(株)クラレ製)を蒸留水に溶解して、ポリビニルアルコール5質量%溶液を調製した。さらに水1.8gに2−アミノエタノール0.6gを溶解し、そこに酢酸1.8gをゆっくり添加して中和し、アミノエタノール溶液を調製した。ポリビニルアルコール5質量%溶液6gに、界面活性剤0.1gと、アミノエタノール溶液0.2gを添加し、そこに上記調製した硝酸ジルコニル含有シリカゾル4.8gを加えて混合液を調製した。
その混合液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にキャストし、一晩室温下で乾燥した。乾燥した前駆体フィルムをPETフィルムから剥離し、それをアルミナ基板上において電気炉により焼成した。焼成は、室温から500℃までは脱バインダーを目的として3時間かけてゆっくり昇温した。さらに、1時間かけて1200℃まで昇温して、その温度で30分間かけて焼成した。得られたフィルムを0.5g取り、炭素・硫黄分析装置(EMIA−520、堀場製作所製)にて炭素分析を行ったところ、1ppm未満で検出限界以下であった。また、得られた無機ガラスフィルムは厚さ50μmであり、直径7cmの丸棒に巻き付けても破断及びクラックの発生は観測されなかった。
(製造例2)
ジメチルジメトキシシラン13.8ml、フェニルトリメトキシシラン9.3ml、テトラエトキシシラン5.7ml、トリメトキシボラン0.57mlをテトラヒドキシフラン(THF)50mlに溶解し、撹拝しながら水12.5mlと塩酸1.25mlを加え3時間還流した。3時間後、オイルバスの温度を徐々に上げて、200℃に達してからさらに2時間反応させ、非常に粘度の高い水飴状の物質を得た。この重合体7gをTHF3mlに溶かし、トリエチルアミン0.53mlを添加して、フッ素樹脂フィルム上にキャストした。初めは120℃のオーブン中で乾燥し、徐々に温度を上げて、最終的に200℃で30分乾燥した。フッ素樹脂フィルムからフィルムを剥がして枠に固定し、300℃で30分、400℃で30分の熱処理を行った。得られたフィルムを0.5g取り、炭素・硫黄分析装置(EMIA−520、堀場製作所製)にて炭素分析を行ったところ、1ppm未満で検出限界以下であった。また、得られた無機ガラスフィルムは厚さ20μmであり、直径7cmの丸棒に巻き付けても破断及びクラックの発生は観測されなかった。
また、松浪硝子工業(株)より市販の極薄板ガラスを用いることができる。
(導電層及び透明導電層)
導電層に用いられる材料の例としては、金属(例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン)あるいは導電性金属酸化物(例えば、インジウム、スズ、亜鉛、ガリウム等の酸化物、及びこれらの元素の複合酸化物)や炭素を挙げることができる。酸化スズを用いる時はフッ素ドーピングをしたものを用いるのが好ましい。導電層は表面抵抗が50Ω/cm以下であることが好ましく、10Ω/cm以下であることがさらに好ましい。
透明導電層とは、前記の導電層のうち実質的に透明であるものを指し、実質的に透明であるとは光の透過率が10%以上であることを意味し、50%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが最も好ましい。
導電層は、I イオン等の酸化や他のレドックスイオンの還元反応を十分な速さで行わせる触媒能を持った物質であることが好ましい。このようなものとしては、白金電極、導電材料表面に白金メッキや白金蒸着を施したもの、ロジウム金属、ルテニウム金属、カーボン、ポリピロール等が挙げられる。
(増感色素を担持した半導体層)
本発明に係る半導体層(図1の4)の作製方法について説明する。
本発明に係る半導体を焼成により作製する場合には、増感色素を用いた半導体の増感処理(吸着、多孔質への入り込み等)は、半導体の焼成後に実施することが好ましい。焼成後、半導体に水が吸着する前に素早く増感色素の吸着処理を実施することが特に好ましい。
本発明に係る半導体が粒子状の場合には、半導体を導電層に塗布あるいは吹きつけて作製するのがよい。また、半導体が膜状であって、導電層上に保持されていない場合には、半導体を導電層上に貼合して作製することが好ましい。
本発明の光電変換素子において、半導体としては、周期表(元素周期表ともいう)の第3族〜第5族、第13族〜第15族系の元素を有する化合物、金属のカルコゲニド(例えば、酸化物、硫化物、セレン化物等)、金属窒化物等を使用することができる。
好ましい金属のカルコゲニドとして、チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、またはタンタルの酸化物、カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモンまたはビスマスの硫化物、カドミウムまたは鉛のセレン化物、カドミウムのテルル化物等が挙げられる。他の半導体としては、亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物、ガリウム−ヒ素または銅−インジウムのセレン化物、銅−インジウムの硫化物、チタンの窒化物等が挙げられる。
具体例としては、TiO、ZrO、SnO、Fe、WO、ZnO、Nb、Ta、CdS、ZnS、PbS、Bi、CdSe、CdTe、GaP、InP、GaAs、CuInS、CuInSe、Ti等が挙げられるが、好ましく用いられるのは、TiO、ZnO、SnO、Fe、WO、Nb、CdS、PbSであり、より好ましく用いられるのは、TiOまたはSnOであるが、中でも特に好ましく用いられるのはTiOである。
光電極に用いる半導体は、上述した複数の半導体を併用して用いてもよい。例えば、上述した金属酸化物もしくは金属硫化物の数種類を併用することもでき、また酸化チタン半導体に20質量%の窒化チタン(Ti)を混合して使用してもよい。また、J.Chem.Soc.Chem.Commun.,15(1999)記載の酸化亜鉛/酸化錫複合としてもよい。この時、半導体として金属酸化物もしくは金属硫化物以外に成分を加える場合、追加成分の金属酸化物もしくは金属硫化物半導体に対する質量比は30%以下であることが好ましい。
(半導体微粉末含有塗布液の調製)
まず、半導体の微粉末を含む塗布液を調製する。この半導体微粉末はその1次粒子径が微細な程好ましく、その1次粒子径は1〜5000nmが好ましく、さらに好ましくは2〜50nmである。半導体微粉末を含む塗布液は、半導体微粉末を溶媒中に分散することによって調製することができる。溶媒中に分散された半導体微粉末は、その1次粒子状で分散する。溶媒としては半導体微粉末を分散し得るものであればよく、特に制約されない。
前記溶媒としては、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合液が含まれる。有機溶媒としては、メタノールやエタノール等のアルコール、メチルエチルケトン、アセトン、アセチルアセトン等のケトン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素等が用いられる。塗布液中には、必要に応じ界面活性剤や粘度調節剤(ポリエチレングリコール等の多価アルコール等)を加えることができる。溶媒中の半導体微粉末濃度の範囲は0.1〜70質量%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜30質量%である。
(半導体微粉末含有塗布液の塗布と形成された半導体層の焼成処理)
上記のようにして得られた半導体微粉末含有塗布液を、導電性支持体上に塗布または吹きつけ、乾燥等を行った後、空気中または不活性ガス中で焼成して、導電性支持体上に半導体層(半導体膜)が形成される。
導電性支持体上に塗布液を塗布、乾燥して得られる皮膜は、半導体微粒子の集合体からなるもので、その微粒子の粒径は使用した半導体微粉末の1次粒子径に対応するものである。
このようにして導電性支持体等の基板上に形成された半導体微粒子集合体膜は、導電性支持体との結合力や微粒子相互の結合力が弱く、機械的強度の弱いものであることから、機械的強度を高め、基板に強く固着した焼成物膜とするため、前記半導体微粒子集合体膜の焼成処理が好ましく行われる。
本発明においては、この焼成処理で得られる焼成物膜はどのような構造を有していてもよいが、多孔質構造膜(空隙を有する、ポーラスな層ともいう)であることが好ましい。
ここで、本発明に係る半導体薄膜の空隙率は10体積%以下が好ましく、さらに好ましくは8体積%以下であり、特に好ましくは0.01〜5体積%以下である。なお、半導体薄膜の空隙率は誘電体の厚み方向に貫通性のある空隙率を意味し、水銀ポロシメーター(島津ポアライザー9220型)等の市販の装置を用いて測定することができる。
多孔質構造を有する焼成物膜になった半導体層の膜厚は、10nm以上が好ましく、さらに好ましくは100〜10000nmである。
焼成処理時、焼成物膜の実表面積を適切に調製し、上記の空隙率を有する焼成物膜を得る観点から、焼成温度は1000℃より低いことが好ましく、さらに好ましくは200〜800℃の範囲であり、特に好ましくは300〜800℃の範囲である。
また、見かけ表面積に対する実表面積の比は、半導体微粒子の粒径及び比表面積や焼成温度等によりコントロールすることができる。また、加熱処理後、半導体粒子の表面積を増大させたり、半導体粒子近傍の純度を高め、増感色素から半導体粒子への電子注入効率を高めたりする目的で、例えば、四塩化チタン水溶液を用いた化学メッキや三塩化チタン水溶液を用いた電気化学的メッキ処理を行ってもよい。
(増感色素)
本発明では、半導体層に増感色素を担持させている。電荷の半導体薄膜への効率的な注入の観点から、上記増感色素はカルボキシル基を有することが好ましい。以下に、増感色素の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
Figure 0005332739
(半導体の増感処理)
半導体の増感処理は上記のように増感色素を適切な溶媒に溶解し、その溶液に前記半導体を焼成して固着した基板を浸漬することによって行われる。その際には、半導体層(半導体膜ともいう)を焼成により形成し、基板を予め減圧処理や加熱処理して膜中の気泡を除去し、増感色素が半導体層(半導体膜)内部深くに進入できるようにしておくことが好ましく、半導体層(半導体膜)が多孔質構造膜である場合には特に好ましい。
増感色素を溶解するのに用いる溶媒は、溶解することができ、かつ半導体を溶解したり半導体と反応したりすることのないものであれば格別の制限はないが、溶媒に溶解している水分及び気体が半導体膜に進入して、前記増感色素の吸着等の増感処理を妨げることを防ぐために、予め脱気及び蒸留精製しておくことが好ましい。
好ましく用いられる溶媒は、メタノール、エタノール、n−プロパノール、t−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒、塩化メチレン、1,1,2−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素溶媒であり、混合溶媒を用いてもよい。特に好ましくはエタノール、t−ブチルアルコール、アセトニトリルである。
半導体を焼成した基板を、増感色素を含む溶液に浸漬する時間は、半導体層(半導体膜)に前記増感色素が深く進入して吸着等を十分に進行させ、半導体を十分に増感させ、かつ溶液中で前記増感色素の分解等により生成した分解物が増感色素の吸着を妨害することを抑制する観点から、25℃では1〜48時間が好ましく、さらに好ましくは3〜24時間である。この温度、時間は、特に半導体膜が多孔質構造膜である場合に好ましい。ただし、浸漬時間については25℃での値であり、温度条件を変化させて場合にはこの限りではない。
浸漬しておくに当たり、増感色素を含む溶液は、増感色素が分解しない限り、沸騰しない温度にまで加熱して用いてもよい。好ましい温度範囲は10〜100℃であり、さらに好ましくは25〜80℃であるが、前記の通り溶媒が前記温度範囲で沸騰する場合はこの限りでない。
増感色素を用いて増感処理を行う場合、増感色素を単独で用いてもよいし、複数を併用することもできる。
また、本発明に好ましいカルボキシル基を有する増感色素と他の増感色素を併用して用いることもできる。併用して用いることのできる増感色素としては、本発明に係る半導体層を分光増感しうるものならばいずれの増感色素も用いることができる。光電変換の波長域をできるだけ広くし、かつ光電変換効率を上げるため2種類以上の増感色素を混合することが好ましい。また、目的とする光源の波長域と強度分布に合わせるように混合する増感色素とその割合を選ぶことができる。
特に、本発明の光電変換素子の用途が後述する太陽電池である場合には、光電変換の波長域をできるだけ広くして太陽光を有効に利用できるように、吸収波長の異なる二種類以上の増感色素を混合して用いることが好ましい。
併用して用いる増感色素の中では、光電子移動反応活性、光耐久性、光化学的安定性等の総合的な観点から、金属錯体色素、フタロシアニン系色素、ポルフィリン系色素、ポリメチン系色素が好ましく用いられる。
本発明に好ましいカルボキシル基を有する増感色素と併用して用いることのできる増感色素としては、例えば、米国特許第4,684,537号明細書、同4,927,721号明細書、同5,084,365号明細書、同5,350,644号明細書、同5,463,057号明細書、同5,525,440号明細書、特開平7−249790号公報、特開2000−150007号公報等に記載の増感色素を挙げることができる。
半導体層に増感色素を含ませるには、前記増感色素を適切な溶媒(エタノール等)に溶解し、その溶液中によく乾燥した半導体を長時間浸漬する方法が一般的である。
増感色素を複数種類併用したり、本発明に好ましいカルボキシル基を有する増感色素以外の他の増感色素を併用したりして増感処理する際には、各々の増感色素の混合溶液を調製して用いてもよいし、それぞれの増感色素について溶液を用意して、各溶液に順に浸漬して作製することもできる。各増感色素について別々の溶液を用意し、各溶液に順に浸漬して作製する場合は、半導体層に前記増感色素を含ませる順序がどのようであっても、本発明に記載の効果を得ることができる。また、増感色素を単独で吸着させた半導体微粒子を混合する等により作製してもよい。
吸着処理は、半導体層が粒子状の時に行ってもよいし、支持体上に膜を形成した後に行ってもよい。吸着処理に用いる化合物を溶解した溶液はそれを常温で用いてもよいし、該化合物が分解せず溶液が沸騰しない温度範囲で加熱して用いてもよい。また、後述する光電変換素子の製造のように、半導体微粒子の塗布後に前記増感色素の吸着を実施してもよい。また、半導体微粒子と増感色素とを同時に塗布することにより、増感色素の吸着を実施してもよい。また、未吸着の増感色素は洗浄によって除去することができる。
また、本発明に係る半導体層の増感処理については、半導体が増感色素を含むことにより増感処理が行われるが、増感処理の詳細については、後述する光電変換素子のところで具体的に説明する。
また、空隙率の高い半導体薄膜を有する半導体層の場合には、空隙に水分、水蒸気等により水が半導体薄膜上、及び半導体薄膜内部の空隙に吸着する前に、前記増感色素の吸着処理(半導体層の増感処理)を完了することが好ましい。
(電解質層)
本発明に用いられる電解質層(電荷移動層ともいう)について説明する。
電解質層にはレドックス電解質が好ましく用いられる。ここで、レドックス電解質としては、I/I 系や、Br/Br 系、キノン/ハイドロキノン系等が挙げられる。このようなレドックス電解質は従来公知の方法によって得ることができ、例えば、I/I 系の電解質はヨウ素のアンモニウム塩とヨウ素を混合することによって得ることができる。電解質層はこれらレドックス電解質の分散物で構成され、それら分散物は溶液である場合に液体電解質、常温において固体である高分子中に分散させた場合に固体高分子電解質、ゲル状物質に分散された場合にゲル電解質と呼ばれる。電解質層として液体電解質が用いられる場合、その溶媒としては電気化学的に不活性なものが用いられ、例えば、アセトニトリル、炭酸プロピレン、エチレンカーボネート等が用いられる。固体高分子電解質の例としては、特開2001−160427号公報記載の電解質が、ゲル電解質の例としては「表面科学」21巻、第5号288〜293頁に記載の電解質が挙げられる。
(太陽電池)
本発明の太陽電池について説明する。
本発明の太陽電池は、本発明の光電変換素子の一態様として太陽光に最適の設計並びに回路設計が行われ、太陽光を光源として用いた時に最適な光電変換が行われるような構造を有する。即ち、色素増感された半導体に太陽光が照射されうる構造となっている。
本発明の太陽電池に、太陽光または太陽光と同等の電磁波を照射すると、半導体に吸着された増感色素は、照射された光もしくは電磁波を吸収して励起する。励起によって発生した電子は半導体に移動し、次いで導電性支持体を経由して対向電極に移動して、電荷移動層のレドックス電解質を還元する。一方、半導体に電子を移動させた増感色素は酸化体となっているが、対向電極から電荷移動層のレドックス電解質を経由して電子が供給されることにより、還元されて元の状態に戻り、同時に電荷移動層のレドックス電解質は酸化されて、再び対向電極から供給される電子により還元されうる状態に戻る。このようにして電子が流れ、本発明の光電変換素子を用いた太陽電池を構成することができる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
実施例
(光電変換素子1の作製)
無機ガラスフィルムとして厚さ30μmの製造例1の無機ガラスフィルムを用いた。この無機ガラスフィルムの片面にスプレー熱分解法によりFTO(フッ素ドープされた酸化スズ)薄膜を設け、シート抵抗10Ω/□の透明導電膜を得て透明導電層とした。この無機ガラスフィルムは、直径5cmの丸棒に巻き付けても破断及びクラックの発生は観測されず、水蒸気透過度は0.01g/m/day以下であった。このFTO薄膜上に、市販の低温焼成用酸化チタンペースト(粒径18nmの酸化チタン粒子を有機溶媒に分散したもの)を、スクリーン印刷法(塗布面積5×5mm)により塗布した。120℃で3分間乾燥させた後、200℃で10分間ならびに500℃で15分間焼成を行い、厚さ2.5μmの酸化チタン薄膜を得た。この薄膜上に重ねて、市販の酸化チタンペースト(粒径400nm)を同様の方法で塗布し厚さ2.5μmの酸化チタン薄膜を重ね塗りした後、同様の焼成処理を行い、半導体層を得た。
下記増感色素(1)及び増感色素に対して2当量のケノデオキシコール酸をアセトニトリル:t−ブチルアルコール=1:1の混合溶媒に溶解し、増感色素濃度5×10−4モル/lの溶液を調製した。前記の半導体層を担持した無機ガラスフィルム基板を、この溶液に室温で3時間浸漬して、増感色素の吸着処理を行い、増感色素を担持した半導体層を得た。
Figure 0005332739
電解質層に用いる電解液として、ヨウ化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム0.6モル/l、ヨウ化リチウム0.1モル/l、ヨウ素0.05モル/l、4−(t−ブチル)ピリジン0.05モル/lを含む3−メトキシプロピオニトリル溶液を用いた。
FTO薄膜を設けた無機ガラスフィルム基板を別に用意し、この導電面側に白金薄膜(厚さ40nm)をスパッタリングにより付着させた。これらの2枚の無機ガラスフィルム基板をそれぞれ導電面側が内側になるように対向させて、シリカ/アルミナ系無機接着剤を用いて貼り合わせた。接着剤の間隙から前記電解液を注入した後、100℃で30分間熱硬化することにより2枚の無機ガラスフィルム基板を接着した。両面セパレータで挟持された厚み20μmのアクリル系透明粘着剤の一方のセパレータを剥離し、露出した粘着剤面を、厚さ40μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面にゴムローラを用いて貼着した。この片面粘着フィルムを2つ用意し、先に作製した素子の両面にゴムローラを用いて貼着することにより光電変換素子1を作製した。
(光電変換素子2、3の作製)
無機ガラスフィルムを厚さ70μm及び10μmに変更した他は、光電変換素子1と同様にして、それぞれ光電変換素子2及び3を作製した。
(光電変換素子4の作製)
市販の低温焼成用酸化チタンペースト(粒径18nmの酸化チタン粒子を有機溶媒に分散したもの)を、酸化インジウムスズ(ITO)導電性膜でコーティングしたポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルム基板へスキージ法(塗布面積5×5mm)により塗布した。150℃で5分間加熱乾燥を行い、厚さ2.5μmの酸化チタン薄膜を得た。このフィルム基板を70℃の0.1モル/l四塩化チタン水溶液中で30分浸漬し、充分に水洗後、再度150℃で5分間加熱乾燥を行った。この樹脂フィルム基板に対して光電変換素子1と同様に増感色素吸着処理を行った。この樹脂フィルム基板に対して光電変換素子1と同様に白金スパッタリング処理を行った。
光電変換素子1と同様の方法で電解液の作製及び注入を行い、先に作製した2枚の樹脂フィルム基板を紫外線硬化樹脂フィルムで貼り合わせることにより、光電変換素子4を作製した。
(光電変換素子5の作製)
無機ガラスフィルムの代わりに市販のFTO導電膜付きガラス板(シート抵抗10Ω/□、厚さ1.1mm)を用いた他は、光電変換素子1と同様にして光電変換素子5を作製した。
(光電変換素子6の作製)
無機ガラスフィルムの片側(半導体層と反対側、図1の7)をITO導電性膜でコーティングしたPET樹脂フィルム基板で置き換えた他は光電変換素子1と同様にして光電変換素子6を作製した。
(光電変換素子7の作製)
無機ガラスフィルムを厚さ5μmに変更した他は、光電変換素子1と同様にして光電変換素子7を作製した。
(光電変換素子の評価)
得られた各光電変換素子について下記の評価を行った。
作製した光電変換素子を、ソーラーシミュレータ(英弘精機製)を用い、AMフィルター(AM−1.5)を通したキセノンランプから100mW/cmの擬似太陽光を照射することにより行った。半導体層上に5×5mmのマスクをかけた条件下で光電変換特性の測定を行った。即ち、I−Vテスターを用いて室温にて電流−電圧特性を測定し、短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、及び形状因子(FF)を求め、これらから光電変換効率(η(%))を求めた。なお、光電変換素子の光電変換効率(η(%))は下記式(A)に基づいて算出した。
式(A) η=100×(Voc×Jsc×FF)/P
ここで、Pは入射光強度[mW・cm−2]、Vocは開放電圧[V]、Jscは短絡電流密度[mA・cm−2]、FFは形状因子を示す。
光電変換素子作製直後の初期光電変換効率に加え、各光電変換素子を直径7cmの丸棒に10分間巻き付けた後、あるいは素子作製後に温度30℃湿度90%の条件下で10日間静置した後での光電変換効率を測定し比較した。各フィルムの水蒸気透過度はJIS K 7126−1987に準拠した方法で測定した。
評価の結果を表1に示す。
Figure 0005332739
表より、耐熱性のある無機ガラスフィルムからなる可撓性基板を用いた本発明の光電変換素子1〜3の光電変換効率は、可撓性はあるものの耐熱性のない樹脂フィルム基板を用いた比較の光電変換素子4に比べて高く、可撓性のないガラス基板を用いた比較の光電変換素子5と同程度の光電変換効率を示した。比較の光電変換素子4ではPET樹脂フィルム基板の耐熱性が低いため150℃での熱処理しかできず、酸化チタン微粒子間及び酸化チタン微粒子と透明導電層間の接着性が不十分であったのに対し、本発明の光電変換素子1〜3では500℃で焼成処理をすることができ、前述の接着性が大きく向上したことで説明できる。
また、高湿度条件(90%)における10日間静置後での光電変換効率を比較した時、本発明の光電変換素子1〜3は、比較の光電変換素子4及び6より光電変換効率の減少度合いが小さく、無機ガラス基板のガスバリア性が樹脂基板に比べて優れていることを反映している。一方、無機ガラスフィルムの膜厚が5μmと薄い比較の光電変換素子7では、充分なガスバリア性は得られなかった。
本発明の光電変換素子により、高い光電変換効率と優れた耐久性を併せ持ち、かつ可撓性を有する太陽電池を提供することができた。
1、8 可撓性を有するフィルム
2、7 膜厚10〜70μmの無機ガラスフィルム
3 透明導電層
4 増感色素を担持した半導体層
5 電解質層
6 導電層

Claims (4)

  1. 対向する1対の可撓性を有するフィルムの間に、膜厚10〜70μmの無機ガラスフィルム、透明導電層、増感色素を担持した半導体層、電解質層、導電層及び膜厚10〜70μmの無機ガラスフィルムがこの順に設置されてなることを特徴とする光電変換素子。
  2. 前記無機ガラスフィルムのJIS K 7126−1987に準拠した方法で測定した水蒸気透過度が0.01g/(m・day)以下であることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
  3. 前記半導体層が増感色素を吸着した多孔質酸化チタンからなることを特徴とする請求項1または2に記載の光電変換素子。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の光電変換素子を有することを特徴とする太陽電池。
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