JP5330071B2 - 耐衝撃部材、人体防護服および耐衝撃部材の製造方法 - Google Patents
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Description
本発明は、高速飛来物の衝撃に対する防護に用いられる耐衝撃部材、人体防護服および耐衝撃部材の製造方法に関する。
従来、銃弾等の高速飛来物等に対して耐衝撃性を有する部材として、高強度繊維に樹脂など付着させた耐衝撃性繊維強化プラスチックにセラミックスや金属を、接着剤を介して積層した多層積層体が開発されている。そして、そのような多層積層体を防護チョッキ等に用いた耐衝撃部材が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。それら部材の多くは、多層積層体を成型し、1体の平板もしくは曲面板とされた構成をなしている。
また、防護チョッキとして、着用者の動きに自由度を持たせ、かつ防護性を得るものとして、多数のディスクと呼ばれる円板状の小板を貼りあわせて成形する身体防護具の製造方法が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
しかしながら、特許文献1記載の多層積層体は、形状の決まった板材であるため、人体になじまず、着用時の装着感が良いとはいえない。このような多層積層体には、曲面加工を施した板材を接合させて人体形状に近い形状とした耐衝撃部材も存在するが、量産品として生産する場合には画一的な寸法が採用されることになる。したがって、結局は個々の着用者に違和感を与える。
一方、特許文献2記載の身体防護具の製造方法は、多数の小板を貼りあわせて成形し、フレキシビリティーを持たせている。しかしながら、この場合には、衝撃に対し小板1枚で防護される身体部位と、2枚で防護される身体部位とが生じる。これに対し、防護性能を確保しようとすると、小板の厚みを増す必要が生じ、身体防護具の重量が重くなる。また、各小板のフライス加工を必要とするため、製作までに多大なコストと工数を要し、実生産には向かない。
さらに、上記の身体防護具では、小板の配置構成が使用中も保持され、かつフレキシビリティーを確保できるように接合方法を選定することも重要である。特許文献2では、(a)剥離紙と接着面付きのフィルム上に小板を配置固定する、(b)型等に小板を所定配置に並べておき、その上に接着剤を塗布した外布を被せ、小板と外布とを接合させる、(c)単に両面を外布で覆い、外布の外縁部のみ接着剤を塗布して外布同士のみを接着固定するという方法で小板の接合が試みられている。
しかしながら、(a)の方法では必ずしも強固な接着強度が得られない。また、(c)の方法ではもともと変形しやすい布類で全体を包むのみである。したがって、いずれも配置構成の保持力が十分でない。一方、(b)の方法では、強固に小板配置を保持するために接着剤で小板と外布との間隙を埋めており、フレキシビリティーが失われる。このように、小板の配置保持とフレキシビリティー確保の両者を実現できる接合方法は、未だ確立されていない。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、軽量でフレキシビリティーを有するとともに、耐衝撃性に優れる耐衝撃部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
(1)上記の目的を達成するため、本発明に係る耐衝撃部材は、高速飛来物の衝撃に対する防護に用いられる耐衝撃部材であって、鱗状に配列された小板を備え、前記配列された小板のうち隣り合う小板同士が接触する方向の小板列について、互いに隔列の位置関係にある前記小板列が、隙間なく防護対象を覆っていることを特徴としている。
このように本発明の耐衝撃部材は、互いに隔列の位置関係にある小板列が隙間なく防護対象の表面を覆っているため、点衝撃を想定した場合、耐衝撃部材の防護対象の表面上の任意の1点において、点衝撃の方向は必ず小板の2枚と交わることになる。また、鱗状に小板を配列させたものであるため、フレキシビリティーがあり、着用時の違和感が少ない。また、隔列で防護対象をカバーしているため、小板同士の収まりがよく、嵩張らない。また、簡易な製造工程を採用でき、産業的に非常に有用である。
(2)また、本発明に係る耐衝撃部材は、前記各小板が、内接円が一定サイズとなる主面形状を有し、前記小板列のうち任意の列内で、隣り合う小板の主面内接円同士がつくる重なりが、小板厚み方向への投影について、接するか、または交わる主面内接円を有する特定の小板が、前記任意の列に対して隔列となる小板列内に存在することを特徴としている。これにより、防護対象を隔列の小板で効率よくカバーすることができ、結果的に2枚の小板で全面をカバーすることができる。
(3)また、本発明に係る耐衝撃部材は、前記特定の小板の主面内接円の中心から前記主面内接円同士がつくる重なりの交点のうち近いものへ向う方向と小板列の配列方向とがなす角が75°以上105°以下であることを特徴としている。これにより、防護対象を隔列の小板で効率よくカバーすることができる。また、その一方で耐衝撃性を維持しつつ軽量化することができる。
(4)また、本発明に係る耐衝撃部材は、前記各小板は、内接円が一定サイズとなる主面形状を有し、前記小板列内で隣り合う小板の主面内接円同士がつくる重なり幅と小板半径との比が0.1以上0.5以下であることを特徴としている。これにより、効率よく防護対象をカバーでき、耐衝撃部材が嵩張らず、軽量化することができる。
(5)また、本発明に係る耐衝撃部材は、前記小板は、10%以下の気孔率および99%以上の純度を有する酸化アルミニウムの緻密体のエコーチップ硬度測定によるロックウェル硬度HRCに対して、1.1倍より大きい硬度を有し、かつ、3.5×103kg/m3以下の密度のセラミックスまたは金属基複合材料で形成されていることを特徴としている。このように、高硬度の材料により、変形が所定の基準以下に抑えられ、変形が小さくされるため、防護対象への衝撃を低減することができる。また、耐衝撃部材は軽量であるため、防護服として用いた場合には装着した状態で動きやすい。
(6)また、本発明に係る耐衝撃部材は、前記小板は、窒化珪素で形成されていることを特徴としている。窒化珪素は価格が比較的安価であり、その製造方法が簡単で、特段の後加工が不要である。したがって、工業的に有用性が高い。
(7)また、本発明に係る耐衝撃部材は、少なくとも片面に配置された無反発材料または低反発材料からなる緩衝層を更に備え、前記小板は、角を取る加工がなされてないことを特徴としている。これにより、緩衝層が小板を固定することで配置構成を保持しやすい。また、無反発材料または低反発材料は適度な塑性や弾性を有するため、装着感の悪化を最小限に抑えることができる。そして、小板としてシンプルな平板を用いることを可能にしている。また、無反発材料または低反発材料は構成全体の耐衝撃性能を増加させると同時に、セラミックス等で作製された基体が破壊した際の破片を吸収する役割を持つ。
(8)また、本発明に係る耐衝撃部材は、前記小板に減圧圧着により接着剤で接着されている外布を更に備えることを特徴としている。このような外布との接着により、小板間の接着強度が得られる。また、外布により、適度な塑性と弾性とを有するため、構成の保持能力と構成全体のフレキシビリティーの両者をともに確保することができる。
(9)また、本発明に係る耐衝撃部材は、上記の耐衝撃部材を備えることを特徴としている。これにより、フレキシビリティーが維持され、軽量かつ耐衝撃性がある人体防護服を実現できる。
(10)また、本発明に係る耐衝撃部材の製造方法は、高速飛来物の衝撃に対する防護に用いられる耐衝撃部材の製造方法であって、隣り合う小板同士が接触する方向の小板列について、互いに隔列の位置関係にある前記小板列が、隙間なく防護対象を覆うように鱗状に小板を配列する工程と、前記配列された小板により形成される小板層の両面に布を接着する工程と、前記布が接着された小板層を密封可能な袋に入れる工程と、前記密封可能な袋内を真空引きする工程と、を含むことを特徴としている。
このように密封可能な袋内を真空引きすることにより、小板の配置を維持しつつ、接着剤を必要以上に残留させずに、耐衝撃部材を製造することができる。その結果、耐衝撃部材の耐衝撃性を確保しつつフレキシビリティーも維持できる。
本発明によれば、軽量でフレキシビリティーを有するとともに、耐衝撃性に優れる耐衝撃部材、人体防護服および耐衝撃部材の製造方法を提供できる。
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。また、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
[耐衝撃部材の構成]
(全体)
図1は、耐衝撃部材5を示す断面模式図である。耐衝撃部材5は、高速飛来物の衝撃に対する防護に用いられる。図1に示すように、耐衝撃部材5は、小板層60、繊維層40および緩衝層61を備えている。小板層60は、鱗状に配列された小板10とその両側を覆う外布63を有している。そして、小板10同士および小板10と外布63とは接着剤70により結合されている。小板10は、円板形状に形成されており、すべて一定サイズであることが好ましい。
(全体)
図1は、耐衝撃部材5を示す断面模式図である。耐衝撃部材5は、高速飛来物の衝撃に対する防護に用いられる。図1に示すように、耐衝撃部材5は、小板層60、繊維層40および緩衝層61を備えている。小板層60は、鱗状に配列された小板10とその両側を覆う外布63を有している。そして、小板10同士および小板10と外布63とは接着剤70により結合されている。小板10は、円板形状に形成されており、すべて一定サイズであることが好ましい。
(小板)
小板10のサイズは、小さすぎると配置にかかる工数が増大し、大きすぎると耐衝撃部材5のフレキシビリティーを損なう。したがって、たとえば円板の場合、直径25mm以上100mm以下とするのが好ましく、約直径50mmとするのがさらに好ましい。また、小板10は、四角形板状や多角形板状などでも構わない。その場合には内接円が一定サイズとなる主面形状を有していることが好ましい。四角形板状または多角形板状の場合には、内接円の重なりや中心位置について円板状の場合と同様に配置する。このように上記の小板10の配置は、円板の外形円周も含めて内接円に関する条件として把握することができる。
小板10のサイズは、小さすぎると配置にかかる工数が増大し、大きすぎると耐衝撃部材5のフレキシビリティーを損なう。したがって、たとえば円板の場合、直径25mm以上100mm以下とするのが好ましく、約直径50mmとするのがさらに好ましい。また、小板10は、四角形板状や多角形板状などでも構わない。その場合には内接円が一定サイズとなる主面形状を有していることが好ましい。四角形板状または多角形板状の場合には、内接円の重なりや中心位置について円板状の場合と同様に配置する。このように上記の小板10の配置は、円板の外形円周も含めて内接円に関する条件として把握することができる。
なお、小板10の主面は、研削加工が施されていない面とすることができる。研削加工を施していない所謂鋳放し面、または焼き放し面をそのまま小板10の主面とすることで耐衝撃性をより高めることができる。
また、小板10の厚みについては、使用する材料や要求される性能のレベルにより様々であり、限定されない。小板10の材質には、主にセラミックスやセラミックスと金属の複合材等が用いられる。材質選定の際には、特に硬度および密度を考慮する必要がある。
小板10の硬度は、耐衝撃部材5の耐衝撃性能を左右する重要な因子の一つである。小板10の変形が大きいと人体への衝撃が増大する。小板10を互いに重ね合わせた構成であっても、小板10の耐衝撃性能が全体の耐衝撃性能に影響する。したがって、高硬度の材料により、変形が所定の基準以下に抑えられることが重要である。また、その一方で耐衝撃部材5には軽量であることも求められる。このような事情から、小板10は、10%以下の気孔率および99%以上の純度を有する酸化アルミニウムの緻密体のエコーチップ硬度測定によるロックウェル硬度HRCに対して、1.1倍より大きい硬度を有し、かつ、3.5×103kg/m3以下の密度のセラミックスまたは金属基複合材料で形成されていることが好ましい。具体的には小板10は、窒化珪素で形成されていることが好ましい。なお、小板10の配置については後述する。
(フィルム)
小板10は、フィルム62を有していることが好ましい。フィルム62は、小板10の表面にフィルム62を貼り付けられている。これにより、衝撃が加わった際、小板10自身の破壊による飛散を防止する。フィルム62には、たとえば片面に接着剤70と剥離紙が予め付着され、剥離紙を剥がすことで小板10に接着できるようなビニールフィルム等を用いることができる。また、織布を、接着剤70を用いて小板10に貼り付け、フィルム62の代わりとして用いることもできる。織布としては、たとえばポリエステル系の薄布を用いることができるが、特に限定されない。また高強度繊維の織布を用いても、機能的には問題ない。
小板10は、フィルム62を有していることが好ましい。フィルム62は、小板10の表面にフィルム62を貼り付けられている。これにより、衝撃が加わった際、小板10自身の破壊による飛散を防止する。フィルム62には、たとえば片面に接着剤70と剥離紙が予め付着され、剥離紙を剥がすことで小板10に接着できるようなビニールフィルム等を用いることができる。また、織布を、接着剤70を用いて小板10に貼り付け、フィルム62の代わりとして用いることもできる。織布としては、たとえばポリエステル系の薄布を用いることができるが、特に限定されない。また高強度繊維の織布を用いても、機能的には問題ない。
(外布)
外布63は、配置した各小板10を固定するために、小板層60の両面に配置され、小板10ごと接着されている。小板10同士を直接接合すると、フレキシビリティーの確保が困難なため、外布63を介して接着するのが好ましい。外布63としては、たとえば、高強度繊維からなる織布を用いることができる。外布63は、小板10に接着剤70を用い減圧圧着により接着されていることが好ましい。
ただし固定方法の詳細は後述する。
外布63は、配置した各小板10を固定するために、小板層60の両面に配置され、小板10ごと接着されている。小板10同士を直接接合すると、フレキシビリティーの確保が困難なため、外布63を介して接着するのが好ましい。外布63としては、たとえば、高強度繊維からなる織布を用いることができる。外布63は、小板10に接着剤70を用い減圧圧着により接着されていることが好ましい。
ただし固定方法の詳細は後述する。
(接着剤)
配置した小板10の接合においては、使用時の配置の保持とフレキシビリティーとを同時に実現させる必要がある。たとえばフィルム62のみでは配置を保持しきれないため、接着剤70の使用は必須である。たとえば予め接着剤70を塗布した外布63を小板層60の両面に被せ、小板10と外布63、および外布63同士をそれぞれ接合することができる。
配置した小板10の接合においては、使用時の配置の保持とフレキシビリティーとを同時に実現させる必要がある。たとえばフィルム62のみでは配置を保持しきれないため、接着剤70の使用は必須である。たとえば予め接着剤70を塗布した外布63を小板層60の両面に被せ、小板10と外布63、および外布63同士をそれぞれ接合することができる。
(繊維層)
このように構成される小板層60の防護対象側、すなわち人体と接触する側には、高強度繊維からなる繊維層40を配置することが好ましい。繊維層40は、耐衝撃部材5の耐衝撃性能を向上させると同時に、セラミックス等で作製された小板層60が破壊した際の破片を吸収する。高強度繊維とは、引っ張り強度や弾性率に優れた繊維を意味する。高強度繊維の材質は特に限定されないが、アラミド繊維、または全芳香族ポリエステルを用いるのが好ましい。
このように構成される小板層60の防護対象側、すなわち人体と接触する側には、高強度繊維からなる繊維層40を配置することが好ましい。繊維層40は、耐衝撃部材5の耐衝撃性能を向上させると同時に、セラミックス等で作製された小板層60が破壊した際の破片を吸収する。高強度繊維とは、引っ張り強度や弾性率に優れた繊維を意味する。高強度繊維の材質は特に限定されないが、アラミド繊維、または全芳香族ポリエステルを用いるのが好ましい。
(緩衝層)
小板10として角を取る等の仕上加工を行わないシンプルな平板を用いた場合には、鱗状の小板層60の被衝撃面および防護対象面の両方に、凹凸が生じる。特に防護対象面側の凹凸は、着用時の装着感を大きく損なわせる。このような凹凸は、防護対象面に繊維層40を配しても十分ではなく、その繊維層40は鱗状の形状なりに均される。したがって、防護対象面に緩衝層61として、無反発材料または低反発性の材料(以下「無反発材料等」)を配置することが好ましい。これにより、シンプルな平板の小板10を用い、装着感の悪化を最小限に抑えることができる。なお、被衝撃面に緩衝層61を設けてもよい。
小板10として角を取る等の仕上加工を行わないシンプルな平板を用いた場合には、鱗状の小板層60の被衝撃面および防護対象面の両方に、凹凸が生じる。特に防護対象面側の凹凸は、着用時の装着感を大きく損なわせる。このような凹凸は、防護対象面に繊維層40を配しても十分ではなく、その繊維層40は鱗状の形状なりに均される。したがって、防護対象面に緩衝層61として、無反発材料または低反発性の材料(以下「無反発材料等」)を配置することが好ましい。これにより、シンプルな平板の小板10を用い、装着感の悪化を最小限に抑えることができる。なお、被衝撃面に緩衝層61を設けてもよい。
緩衝層61には、衝撃を受けた際のエネルギーを吸収分散させ、人体へのショックを和らげる効果も期待できる。緩衝層61に用いられる無反発材料等には、たとえばスポンジ、発泡ウレタン、軟質ゴムを挙げることができる。ただし、構成全体の軽量化を確保するためには、比重は低い方がよく密度0.5×103kg/m3以下が好ましい。また、気泡緩衝材を用いてもよい。
[小板の配置]
(小板列)
次に、小板10の配置を説明する。図2A〜図2Cは、小板10の配置の一例を示す正面図、側面図および底面図である。なお、以下では衝撃を受ける面を正面として説明する。また、各図の2A〜2Cで表される矢印は、見る方向について相互の関係を示している。また、図3A、図3Bは、小板10の配置の一例を示す正面図である。図2A〜図2Cに示すように、耐衝撃部材5は、同一径である円板形状の小板10により構成され、小板10は、図中の縦方向、横方向において、互いに一部を重ね合わせて配置されている。小板10は、図中の横方向へ一直線に配置されている。列内では隣り合う小板10が接触している。図3Aに示すように、その横方向の各列を小板列L1、L2、L3、L4と呼ぶ。また、その小板列における縦列の位置をC1、C2、C3、C4と呼び、たとえば小板列L1の縦列C1の位置を(1,1)と表す。なお、上記の例では、16枚の小板10が配列されているが、通常はこれより多くの小板10が用いられる。
(小板列)
次に、小板10の配置を説明する。図2A〜図2Cは、小板10の配置の一例を示す正面図、側面図および底面図である。なお、以下では衝撃を受ける面を正面として説明する。また、各図の2A〜2Cで表される矢印は、見る方向について相互の関係を示している。また、図3A、図3Bは、小板10の配置の一例を示す正面図である。図2A〜図2Cに示すように、耐衝撃部材5は、同一径である円板形状の小板10により構成され、小板10は、図中の縦方向、横方向において、互いに一部を重ね合わせて配置されている。小板10は、図中の横方向へ一直線に配置されている。列内では隣り合う小板10が接触している。図3Aに示すように、その横方向の各列を小板列L1、L2、L3、L4と呼ぶ。また、その小板列における縦列の位置をC1、C2、C3、C4と呼び、たとえば小板列L1の縦列C1の位置を(1,1)と表す。なお、上記の例では、16枚の小板10が配列されているが、通常はこれより多くの小板10が用いられる。
図3Bに示すように、小板列L1内で、位置(1,1)(1,2)で隣り合う2つの小板10は、外形同士の重なりをつくっている。この重なりの小板10厚み方向への投影Pに対して、位置(3,2)の小板10が接している。なお、投影Pに対して、位置(3,2)の小板10の投影が接していることが好ましいが、交わるような配置であってもよい。一様に小板10が配置されている場合には、任意の小板列L1〜L4に対して同様の関係が成り立つ。このように、小板列L1〜L4のうち任意の列内で、隣り合う小板10同士がつくる重なりが、小板厚み方向への投影について、接するか、または交わる特定の小板10が、その列に対して隔列となる小板列内に存在する。
上記の関係は小板10の重なり上の交点12、13を用いて表すこともできる。すなわち、最上段の小板列L1には、位置(1,1)(1,2)の小板10同士の重なりPが存在し、各小板10の外形円周上の2箇所に重なりの交点12、13が存在する。そして、位置(3,2)の小板10に近い方の交点13は、位置(3,2)の小板10の外形円周上に配置している。
また、上記の例では、小板列L1と小板列L3との間に特定の配置関係が成り立っているが、小板列L2と、小板列L4との間にも、同様の配置関係が成立している。これによりたとえば、最上の第1列、第3列、第5列、と続く奇数列の列群、および、第2列、第4列、第6列、と続く偶数列の列群の各々で、投影面全体をカバーできる。このように、配列された小板10のうち隣り合う小板10同士が接触する方向の小板列L1〜L4について、互いに隔列の位置関係にある小板列が、隙間なく防護対象を覆っている。したがって、耐衝撃部材5は、端部を除く小板層60の被衝撃面内の任意の1点において、防護対象面にまでに必ず2枚以上の小板10が重なっている。
(小板の重なり)
このような小板10の配置により、たとえば弾丸によるような点衝撃を想定した場合、端部を除く小板層60面内の任意の1点において、点衝撃の方向は必ず小板10の2枚と交わる。なお、図3Aに示す例では、小板列方向における小板10の互いの重なりは小板10の半径Rの約2分の1であり、小板列に垂直な方向における小板10の重なりは小板10の直径の約5分の3である。このとき、小板列方向における小板10の互いの重なり度合Xは、0.5である。
このような小板10の配置により、たとえば弾丸によるような点衝撃を想定した場合、端部を除く小板層60面内の任意の1点において、点衝撃の方向は必ず小板10の2枚と交わる。なお、図3Aに示す例では、小板列方向における小板10の互いの重なりは小板10の半径Rの約2分の1であり、小板列に垂直な方向における小板10の重なりは小板10の直径の約5分の3である。このとき、小板列方向における小板10の互いの重なり度合Xは、0.5である。
図3Bは、小板10の位置関係を示す模式図である。特定の小板10の主面内接円の中心から主面内接円同士がつくる重なりの交点のうち近いものへ向う方向と小板列の配列方向とがなす角θが75°以上105°以下であることが好ましい。特に、図3Bに示すように最上列の小板列における小板10同士の重なりにより各外形円周の存在する交点13と、第3列の小板列L3内の小板10の中心点とを結ぶ径方向20が、小板列の配列方向21と直交することが好ましい。
図3Cは、小板列内で隣り合う小板10の重なり度合Xを0.25に固定したときの上記の角θと相当面積Sとの関係を示すグラフである。図3Cに示すように、角θが75°以上105°以下において、相当面積Sは1.250以上となり、高い値が維持されている。したがって、角θが75°以上105°以下のときに防護対象を二重の小板10で効率よくカバーすることができる。そして、耐衝撃性を維持しつつ軽量化することができる。また、相当面積Sは角θが90°のときに最大値をとることから、角θが90°のときに防護対象を最も効率よく小板10でカバーできる。なお、相当面積Sは、所定数の小板10によりカバーできる面積に比例する指標であり、詳細は後述する。
比較のため、本発明によらない小板10の配置を説明する。図4Aは、小板10の配置の比較例を示す正面図である。図4Aに示すような小板10の配置では、たとえば弾丸のような点衝撃を加えたとき、点衝撃の加わる部位により、点衝撃の進行方向の直線が小板10の2枚と交わる場合と、1枚のみと交わる場合とが生じる。このような場合には、所期の耐衝撃性能を確保しようとすると、1枚のみと交わる部位において小板10の厚みを増す必要がある。その結果、小板10の重量が増す。そして、小板10の2枚と交わる部位では必要以上に厚みが増し、全重量も増加する。
図4Bは、上記とは別の小板10の配置の一例を示す正面図である。図4Bに示す配列では、上記の径方向20と配列方向21とのなす角θは45°である。そして、小板10の半径Rに対して、小板列方向の小板10間の重なりは0.5Rであり、小板列に垂直な方向の小板列同士の距離は0.69Rであり、図4Aの例における小板列同士の距離0.83Rよりも小さい。すなわち、図4Bに例示するような配置の方法では、耐衝撃部材5全体を同一寸法の配置に組上げるのに必要な小板10の枚数が増し、全体の重量が増える。
(最適な重なり幅)
次に、小板列方向の小板10間の重なりについて説明する。図3Aに示す配置は、小板列方向の小板10同士の重なり度合Xを決めれば一意に決まり、小板列方向の小板10同士の重なり度合Xを変えることで、配置のパターンは無限に存在する。しかし一方で、全体を軽量化する要請から重なり度合Xの最適範囲が決まる。
次に、小板列方向の小板10間の重なりについて説明する。図3Aに示す配置は、小板列方向の小板10同士の重なり度合Xを決めれば一意に決まり、小板列方向の小板10同士の重なり度合Xを変えることで、配置のパターンは無限に存在する。しかし一方で、全体を軽量化する要請から重なり度合Xの最適範囲が決まる。
耐衝撃部材5全体の軽量化は、同一の枚数で占められる面積をなるべく広くするよう小板10を配置することと同値である。図5A、図5Bは、小板配列の寸法を図示した正面図である。この面積は、図5A、図5Bに示す小板10の小板列方向の広がりAと、小板列に垂直な方向の広がりBとの積をR2で割った相当面積Sで決まる。図5A、図5Bでは、小板列方向への小板10同士の重なり度合Xを小板10の半径Rに対する割合としてXと表している。図6は、重なり度合Xと相当面積Sとの関係を示す図である。なお、相当面積Sは、Xがゼロのときの値に対する相対値でもある。図6によれば、Xが約0.25で相当面積Sは最大となり、概ね0.1≦X≦0.5でそれに準ずる値をとる。したがって、図3Aに示す小板10の配置で軽量化を図るには、小板列方向の小板10同士を、小板10の半径Rの0.1倍以上0.5倍以下の重なり幅で配置することが好ましいことがわかる。このように、小板列内で隣り合う小板10の主面内接円同士がつくる重なり幅と小板半径Rとの比X(重なり度合)が0.1以上0.5以下であることが好ましい。
[製造方法]
次に、上記のように構成される耐衝撃部材5の製造方法について説明する。
次に、上記のように構成される耐衝撃部材5の製造方法について説明する。
(小板作製)
まず、小板10を準備する。セラミックスの焼結体の小板10を作製するときには、たとえば原料粒子を顆粒にしてプレス成形し、多孔体の中間製品とした後、所定の温度圧力で加圧焼結することができる。また、金属基複合材の小板10を作製するときには、たとえばゴム型等に強化材のスラリーを注入して焼き固めることで多孔質体を成形し、その後所定の形状に生加工し、その生加工品に金属を浸透することができる。
まず、小板10を準備する。セラミックスの焼結体の小板10を作製するときには、たとえば原料粒子を顆粒にしてプレス成形し、多孔体の中間製品とした後、所定の温度圧力で加圧焼結することができる。また、金属基複合材の小板10を作製するときには、たとえばゴム型等に強化材のスラリーを注入して焼き固めることで多孔質体を成形し、その後所定の形状に生加工し、その生加工品に金属を浸透することができる。
一方、小板10には、フライス加工等の仕上加工は行わず、シンプルな平板を用いる。これにより、製作時の加工コスト・工数が大幅に低減される。また、表面形状を加工した場合には、その加工形状に対応した配置のみが可能であるのに対し、シンプルな平板であれば多種多様な配置方法に対応できる。
このように準備された小板10を、上記のように互いに隔列の位置関係にある小板列が、隙間なく防護対象を覆うように鱗状に小板10を配列する。そして、配列された小板10により形成される小板層60の両面に外布63を接着する。その際には、小板層60の鱗状の外形と外布63との間に、接着剤70を隙間無く埋め込む必要がある。図7は、本発明によらない接着方法の一例を示す図である。図7に示すように多量の接着剤70を用いると、埋め込まれた接着剤70の影響で耐衝撃部材5全体のフレキシビリティーが減殺されうる。耐衝撃部材5全体のフレキシビリティーと、配置の保持を十分に確保するには、接着剤70の使用量を最小限に抑え、かつ外布63と小板10との密着性を高める必要がある。そのための接着方法には以下のように3つ考えられる。
(接着方法1)
一つの方法としては、外布63を接合した後、専用の型を介して耐衝撃部材5全体を加圧して鱗状形状の外形なりに外布63ごと圧着することができる。この方法によれば外布63と小板10が密着され、同時に必要量以上の接着剤70が追い出される。ただし、加圧圧着する以上、専用の型としては耐久性が求められるため、高額な金属製の型が必要となる。また、要求される性能によって小板10の厚みを変える必要があるが、金属型も小板10の厚みの種類分だけ準備しなければならなくなる。さらに工業製品として量産する場合には、複数ロットを並行して製作するため、1種類の小板10の厚みに対しても複数の金属型が必要となる。したがって、それら製作のための初期投資費用が嵩む。
一つの方法としては、外布63を接合した後、専用の型を介して耐衝撃部材5全体を加圧して鱗状形状の外形なりに外布63ごと圧着することができる。この方法によれば外布63と小板10が密着され、同時に必要量以上の接着剤70が追い出される。ただし、加圧圧着する以上、専用の型としては耐久性が求められるため、高額な金属製の型が必要となる。また、要求される性能によって小板10の厚みを変える必要があるが、金属型も小板10の厚みの種類分だけ準備しなければならなくなる。さらに工業製品として量産する場合には、複数ロットを並行して製作するため、1種類の小板10の厚みに対しても複数の金属型が必要となる。したがって、それら製作のための初期投資費用が嵩む。
(接着方法2)
2つ目の方法として、密封可能な袋80と真空ポンプ81を用いる方法がある。図8Aは、真空ポンプ81を用いた接着方法の一例を示す図である。図8Aに示すように外布63を鱗状の外形を持つ小板層60に接着し、これを気密性のある、袋壁がフィルム状の袋80で覆い、袋80の開口部から真空ポンプ81で吸引する。このようにして袋80内を減圧し接合固定することが好ましい。図8Aに示すアセンブリで袋80内を数百パスカルまで減圧し、袋80を密閉した後そのまま必要な時間保持する。そして、その後袋80より外布63および小板層60を取り出し、耐衝撃部材5として使用する。なお、袋80内に外布63および小板層60を残したままで袋80ごと耐衝撃部材5として使用してもよい。
2つ目の方法として、密封可能な袋80と真空ポンプ81を用いる方法がある。図8Aは、真空ポンプ81を用いた接着方法の一例を示す図である。図8Aに示すように外布63を鱗状の外形を持つ小板層60に接着し、これを気密性のある、袋壁がフィルム状の袋80で覆い、袋80の開口部から真空ポンプ81で吸引する。このようにして袋80内を減圧し接合固定することが好ましい。図8Aに示すアセンブリで袋80内を数百パスカルまで減圧し、袋80を密閉した後そのまま必要な時間保持する。そして、その後袋80より外布63および小板層60を取り出し、耐衝撃部材5として使用する。なお、袋80内に外布63および小板層60を残したままで袋80ごと耐衝撃部材5として使用してもよい。
上記のように袋80内を減圧状態とすることで、小板10と外布63の密着性は格段に向上し、不必要な量の接着剤70も小板層60から追い出される。その結果、小板層60には必要最小限の量の接着剤70しか残留せず、かつ密着性も確保できる。このような状態であれば、外布63は適度な塑性と適度な弾性を有するため、配置の保持とフレキシビリティーをともに確保できる。また、真空ポンプ81は減圧吸引の際の数分間のみ必要であるため共用化できる。袋壁がフィルム状の袋80は安価であるため、量産時にも初期投資費用を低減することもできる。
減圧圧着工程の途中では、外布63との接着で、ある程度、小板10の配置が保たれるが、弱い接着力をもつ両面テープのようなものを小板10の間に挟み込み、仮固定を行ってもよい。仮固定は、接着力が弱いため、フレキシビリティーを確保する上で障害とはならない。
袋壁がフィルム状の袋80の材質は、特段限定されないが、たとえば厚み約0.1mmのポリエチレン製の袋80を用いることができる。また、いわゆるチャックのような、密封機能を有することが好ましい。真空ポンプ81についても、袋80、および接続配管等の付随治具も含めた減圧装置全体のアセンブリとして、数百パスカル程度の減圧が確保できれば、機種や仕様等は特に限定されない。なお外布63には、適度な塑性と弾性が必要であるため、高強度繊維が好ましい。
なお、上記の例では、外布63に包まれた小板層60のみを袋80内に封入して真空吸引しているが、繊維層40や緩衝層61も含めて袋80内に封入し真空吸引してもよい。これにより繊維層40や緩衝層61と外布63に包まれた小板層60との間で十分な接着が得られる。
(接着方法3)
また、図8Bは、専用ゴム型82を用いた接着方法の一例を示す図である。図8Bに示す方法では、シリコンゴムで作製された専用ゴム型82を、小板層60の両側に重ね、専用ゴム型82ごと減圧圧着する。そして、そのまま減圧下で専用ゴム型82ごと必要な時間保持した後に袋80より取り出し、専用ゴム型82を外布63から離型する。このような方法であれば、専用ゴム型82の取り付けと取り外しの分、必要工数は増すものの、減圧圧着中の配置の保持はさらに確実となる。また、シリコンゴム製の型は金属型に比べ、製作費用が圧倒的に安価であるため、初期投資費用を低減できる。
また、図8Bは、専用ゴム型82を用いた接着方法の一例を示す図である。図8Bに示す方法では、シリコンゴムで作製された専用ゴム型82を、小板層60の両側に重ね、専用ゴム型82ごと減圧圧着する。そして、そのまま減圧下で専用ゴム型82ごと必要な時間保持した後に袋80より取り出し、専用ゴム型82を外布63から離型する。このような方法であれば、専用ゴム型82の取り付けと取り外しの分、必要工数は増すものの、減圧圧着中の配置の保持はさらに確実となる。また、シリコンゴム製の型は金属型に比べ、製作費用が圧倒的に安価であるため、初期投資費用を低減できる。
小板10とフィルム62、外布63と防護対象面の繊維層40、およびそれらと無反発材料等からなる緩衝層61との接合方法については、特に限定されない。ウレタン樹脂、エポキシ樹脂系の接着剤70を用いてもよいし、剥離紙と接着面付きのフィルム62を用いてもよい。また、小板層60と外布63との接合に際し用いる接着剤70として、たとえばウレタン樹脂、エポキシ樹脂系の接着剤70を用いることができるが、材質については特に限定されない。
このようにして製造される耐衝撃部材5の用途には、たとえば防弾服等の人体防護服、防弾盾、ヘルメットが挙げられる。耐衝撃部材5は、曲面形状である人体への装着感の向上に優れており、人体への装着部材が主な用途となる。
[実験1]
小板10用の各材料について単体で耐衝撃性能を評価した。まず、7種類の材料で板状の試料を作製し、硬度を測定した。その際にはエコーチップ試験によりロックウェル硬度HRCを測定した。エコーチップ硬度測定とは、従来、鋼、鋳鋼および鋳鉄の硬さ試験に用いられており、エコーチップ硬さ試験法(ASTM規格A956−96「鋼製品のエコーチップ硬さ試験の標準試験方法」)に従う測定方法である。この方法では、被試験体の表面をインパクトボディーで打撃し、このインパクトボディーの反発速度と打撃速度との比を求め、この比を基準とした被試験体の硬さ値(L=反発速度/打撃速度×1000)に基づいて被試験体の圧縮強度を推定している。
小板10用の各材料について単体で耐衝撃性能を評価した。まず、7種類の材料で板状の試料を作製し、硬度を測定した。その際にはエコーチップ試験によりロックウェル硬度HRCを測定した。エコーチップ硬度測定とは、従来、鋼、鋳鋼および鋳鉄の硬さ試験に用いられており、エコーチップ硬さ試験法(ASTM規格A956−96「鋼製品のエコーチップ硬さ試験の標準試験方法」)に従う測定方法である。この方法では、被試験体の表面をインパクトボディーで打撃し、このインパクトボディーの反発速度と打撃速度との比を求め、この比を基準とした被試験体の硬さ値(L=反発速度/打撃速度×1000)に基づいて被試験体の圧縮強度を推定している。
また、試料について米国NIJ規格のレベルIIIに準拠する条件により耐弾試験を行った。すなわち、64式小銃を用いて7.62mm径の弾丸を射撃距離8m、弾速700m/sで射撃し、試料の状態を観察した。各材料の試料について厚さを変えて試験を行い、貫通しない最小の厚さと比重との積を非貫通時の重量として評価した。
図9は、各材料についての実験結果を示す表である。図9に示すように、硬度と非貫通時の重量とは正の相関関係を有しており、特にSiC/Si複合材料、窒化珪素、ボロンカーバイドが軽量であり、かつ耐衝撃性に優れていることが認められた。
これらの耐衝撃性に優れた材質は、エコーチップ硬度測定したときに55より大きいロックウェル硬度HRCを有していた。一方、気孔率10%以下、純度99%以上の酸化アルミニウムの緻密体のロックウェル硬度HRCは、エコーチップ硬度測定によれば50であり、耐衝撃性を高めるためには、この硬度の1.1倍より大きいロックウェル硬度HRCを有することが好ましい。同時にこれらの耐衝撃性に優れた材質では、3.5×103kg/m3以下の密度を有するため、この材料を小板10に用いた耐衝撃部材5は軽量となる。
以上の実験結果を参照すれば、小板10として、3.5×103kg/m3以下の密度であって、かつ、エコーチップ硬度測定したときに、気孔率10%以下、純度99%以上の酸化アルミニウムの緻密体の硬度の、1.1倍より大きいロックウェル硬度HRCを有する材料を用いることが好ましい。これらの材料の中には、SiC/Si複合材料、窒化珪素、ボロンカーバイドが含まれるが、窒化珪素の代わりに、サイアロン(Si、Al、O、Nからなるセラミックス)を用いても、同様の効果が期待できる。また当然ながら、これら材質を互いに接合させた材料も、同等以上の性能を持つと期待できることから、本発明で選定する材料の範囲には含まれる。
なお、上記のSiC/Si複合材料、窒化珪素、ボロンカーバイドのうち、総合的には窒化珪素が最も好ましい。最も軽く、耐衝撃性を示したのはボロンカーバイドではあるが、ボロンカーバイドはその原料が高価である。一方、窒化珪素は、価格も比較的安価であり、製造が容易である。すなわち、原料顆粒を押し固めて成形し、焼結するのみで、所定形状の小板10が得られ、特段の後加工は不要である。
[実験2]
図8Aに示す製法で耐衝撃部材5を製作したところ、適度なフレキシビリティーを有しており、全体を人体形状になじませることが容易だった。また、鱗状の配置が崩れることはなかった。一方、図7に示すような接着剤70を充填する製法で小板層60を製作したところ、殆ど屈曲ができず、無理に力を加えると中央付近で全体が折れまがり、使用不可能となった。
図8Aに示す製法で耐衝撃部材5を製作したところ、適度なフレキシビリティーを有しており、全体を人体形状になじませることが容易だった。また、鱗状の配置が崩れることはなかった。一方、図7に示すような接着剤70を充填する製法で小板層60を製作したところ、殆ど屈曲ができず、無理に力を加えると中央付近で全体が折れまがり、使用不可能となった。
[実験3]
耐衝撃部材5の、性能評価を行った。図10は、性能評価の結果を示す表である。耐衝撃部材5と、耐衝撃部材5として小板10に用いられたのと同じ材質のセラミックの一枚板(比較例1)と、硬度の低い小板を耐衝撃部材5と同様に配置した部材(比較例2)に対して、米国NIJ規格のレベルIIIに準拠する条件により耐弾試験を行った。なお、図中では小板層60に相当する層を基体層と表現している。小板10およびセラミック一枚板の材質としては窒化珪素を、比較例2における小板の材質としては炭化珪素を、それぞれ用いた。セラミック一枚板には、繊維層40および緩衝層61として、耐衝撃部材5と同じ厚み、材質のものを、各々接合した。耐衝撃部材5の寸法は250mm×300mm(小板列に垂直な方向×小板列方向、以下同様)とし、小板列方向における小板同士の重なり幅は、小板半径Rの0.25倍とした。使用した小板の枚数は76枚であった。なお、一枚板の寸法も同様に、250mm×300mmとした。
耐衝撃部材5の、性能評価を行った。図10は、性能評価の結果を示す表である。耐衝撃部材5と、耐衝撃部材5として小板10に用いられたのと同じ材質のセラミックの一枚板(比較例1)と、硬度の低い小板を耐衝撃部材5と同様に配置した部材(比較例2)に対して、米国NIJ規格のレベルIIIに準拠する条件により耐弾試験を行った。なお、図中では小板層60に相当する層を基体層と表現している。小板10およびセラミック一枚板の材質としては窒化珪素を、比較例2における小板の材質としては炭化珪素を、それぞれ用いた。セラミック一枚板には、繊維層40および緩衝層61として、耐衝撃部材5と同じ厚み、材質のものを、各々接合した。耐衝撃部材5の寸法は250mm×300mm(小板列に垂直な方向×小板列方向、以下同様)とし、小板列方向における小板同士の重なり幅は、小板半径Rの0.25倍とした。使用した小板の枚数は76枚であった。なお、一枚板の寸法も同様に、250mm×300mmとした。
図10において、「○」は、銃弾が貫通せず変形が規定の変形量以内であり、耐衝撃性が十分であることを示している。「×」は、銃弾が貫通したことを示している。図10に示すように、一枚板単独では厚み6mmで所期の性能が発揮されているのに対し、耐衝撃部材5では、小板10が厚み3mmのものだけでなく、厚み2.5mmのものでも一枚板と同等以上の性能が発揮されていることが分かる。小板10の厚みを3mmとすると、耐衝撃部材5の面内各所が実質6mm厚みと同等となるため、これは当然の結果である。これに対し、小板10の厚みを2.5mmとした場合は実質厚みが5mmとなるにもかかわらず、所期の性能が発揮されている。耐衝撃部材5では、各小板10を、水平からやや傾斜させて配置させるが、衝撃に対しては完全に垂直よりもやや傾斜した状態の方が有利であることが一つの理由と考えられる。さらに上記の傾斜により、弾丸の進行方向の直線が小板10と交わる実質距離が5mmよりも長くなったことも理由として考えられる。
この結果、所期の性能を発揮できた最小厚みでの重量比較を行うと、耐衝撃部材5では28.1kg/m2であった。セラミック一枚板を用いたものでは所期の性能を発揮できた最小厚みでの重量が12.7kg/m2であった。このように、セラミック一枚板は軽量化では優れているものの、フレキシビリティーが得られないため、人体の防護には用い難い。
一方、比較例2を参照すると、銃弾の貫通を防止できた最小厚みは4mmであり、所期の性能を発揮できた最小厚みでの重量は37.7kg/m2となり、重量が増していた。したがって、配置が耐衝撃部材5と同じであっても、材質を適切に選択しなければ、期待した所期の効果は得られないことが確認された。
5 耐衝撃部材
10 小板
L1、L2、L3、L4 小板列
12、13 小板の重ね合わせの交点
20 径方向
21 配列方向
40 繊維層
60 小板層
61 緩衝層
62 フィルム
63 外布
70 接着剤
80 袋
81 真空ポンプ
82 専用ゴム型
A 小板の小板列方向への広がり
B 小板の小板列に垂直な方向への広がり
P 重なりの投影
R 小板半径
S 相当面積
X 重なり度合
θ 小板の交点に向う径方向と小板列方向とのなす角
10 小板
L1、L2、L3、L4 小板列
12、13 小板の重ね合わせの交点
20 径方向
21 配列方向
40 繊維層
60 小板層
61 緩衝層
62 フィルム
63 外布
70 接着剤
80 袋
81 真空ポンプ
82 専用ゴム型
A 小板の小板列方向への広がり
B 小板の小板列に垂直な方向への広がり
P 重なりの投影
R 小板半径
S 相当面積
X 重なり度合
θ 小板の交点に向う径方向と小板列方向とのなす角
Claims (10)
- 高速飛来物の衝撃に対する防護に用いられる耐衝撃部材であって、
鱗状に配列された小板を備え、
前記配列された小板のうち隣り合う小板同士が接触する方向の小板列について、互いに隔列の位置関係にある前記小板列が、隙間なく防護対象を覆っていることを特徴とする耐衝撃部材。 - 前記各小板は、内接円が一定サイズとなる主面形状を有し、
前記小板列のうち任意の列内で、隣り合う小板の主面内接円同士がつくる重なりが、小板厚み方向への投影について、接するか、または交わる主面内接円を有する特定の小板が、前記任意の列に対して隔列となる小板列内に存在することを特徴とする請求項1記載の耐衝撃部材。 - 前記特定の小板の主面内接円の中心から前記主面内接円同士がつくる重なりの交点のうち近いものへ向う方向と小板列の配列方向とがなす角が75°以上105°以下であることを特徴とする請求項2記載の耐衝撃部材。
- 前記各小板は、内接円が一定サイズとなる主面形状を有し、
前記小板列内で隣り合う小板の主面内接円同士がつくる重なり幅と小板半径との比が0.1以上0.5以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の耐衝撃部材。 - 前記小板は、10%以下の気孔率および99%以上の純度を有する酸化アルミニウムの緻密体のエコーチップ硬度測定によるロックウェル硬度HRCに対して、1.1倍より大きい硬度を有し、かつ、3.5×103kg/m3以下の密度のセラミックスまたは金属基複合材料で形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の耐衝撃部材。
- 前記小板は、窒化珪素で形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5に記載の耐衝撃部材。
- 少なくとも片面に配置された無反発材料または低反発材料からなる緩衝層を更に備え、
前記小板は、角を取る加工がなされてないことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の耐衝撃部材。 - 前記小板に減圧圧着により接着剤で接着されている外布を更に備えることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の耐衝撃部材。
- 請求項1から請求項8に記載の耐衝撃部材を備えることを特徴とする人体防護服。
- 高速飛来物の衝撃に対する防護に用いられる耐衝撃部材の製造方法であって、
隣り合う小板同士が接触する方向の小板列について、互いに隔列の位置関係にある前記小板列が、隙間なく防護対象を覆うように鱗状に小板を配列する工程と、
前記配列された小板により形成される小板層の両面に布を接着する工程と、
前記布が接着された小板層を密封可能な袋に入れる工程と、
前記密封可能な袋内を真空引きする工程と、を含むことを特徴とする耐衝撃部材の製造方法。
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