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JP5322212B2 - 多孔質電極基材、その製造方法、膜−電極接合体、および固体高分子型燃料電池 - Google Patents

多孔質電極基材、その製造方法、膜−電極接合体、および固体高分子型燃料電池 Download PDF

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Description

本発明は、液体燃料を用いた固体高分子型燃料電池に用いられる多孔質電極基材およびその製造方法、ならびにその多孔質電極基材を用いた膜−電極接合体および固体高分子型燃料電池に関するものである。
固体高分子型燃料電池はプロトン伝導性の高分子電解質膜を用いることを特徴としており、水素等の燃料ガスと酸素等の酸化ガスを電気化学的に反応させることにより起電力を得る装置である。固体高分子型燃料電池は、自家発電装置や、自動車等の移動体用の発電装置として利用可能である。
このような固体高分子型燃料電池は、水素イオン(プロトン)を選択的に伝導する高分子電解質膜を有する。また、貴金属系触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層とガス拡散電極基材とを有するガス拡散電極が、触媒層側を内側にして、高分子電解質膜の両面に接合された構造となっている。
このような高分子電解質膜と2枚のガス拡散電極からなる接合体は膜−電極接合体(MEA: Membrane Electrode Assembly)と呼ばれている。またMEAの両外側には燃料ガスまたは酸化ガスを供給し、かつ生成ガスおよび過剰ガスを排出することを目的としたガス流路を形成したセパレーターが設置されている。
多孔質電極基材は電気的な接触抵抗を低減し、かつ、セパレーターより供給される燃料ガスまたは酸化ガスがセル外へ漏出することを抑制することを目的として、セパレーターによって数MPaの荷重で締結されるため、機械的強度が必要となる。
さらに、多孔質電極基材は主に次の3つの機能を持つ必要がある。第1に多孔質電極基材の外側に配置されたセパレーターに形成されたガス流路より触媒層中の貴金属系触媒に均一に燃料ガスまたは酸化ガスを供給する機能である。第2に触媒層で反応により生成した水を排出する機能である。第3に触媒層での反応に必要な電子または生成される電子をセパレーターへ導電する機能である。これらの機能を付与するため、多孔質電極基材は一般的に炭素質材料を用いることが有効とされている。
したがって、多孔質電極基材には高い反応ガスおよび酸化ガス透過能と水の排出性、電子導電性が必要である。加えて、一般的な固体高分子型燃料電池で用いられる高分子電解質膜は、含水状態でプロトン伝導性を示すことより、多孔質電極基材には生成水の排水のみでなく、高分子電解質膜の保水という相反する機能が求められている。多孔質電極基材のガス透気度を高くし生成水の排水能を高くしたものでは高分子電解質膜が乾燥することによりプロトン伝導抵抗が増大し、発電性能が低下する。逆に多孔質電極基材のガス透気度を低くし高分子電解質膜の保水能を高めたものでは、生成水の排水不良によって反応ガスおよび酸化ガスの拡散が阻害されるフラッディングにより発電性能が低下する。
従来は、機械強度を強くするために、炭素短繊維を抄造後有機高分子で結着させ、高温で焼成し有機高分子を炭素化させたペーパー状の炭素/炭素複合体から成る多孔質電極基材を得ていたが、均一性の高い構造であるために、保水性と、生成水の排水性のバランスを保つことが困難であるという問題があった。また、ガス拡散性、排水性の向上を目的として、貫通孔を形成した多孔質電極基材が提案されているが、貫通孔を形成させるため、機械的強度を維持することが困難であることと、保水性を保つことが困難であるという問題があった。
特許文献1には、厚みが0.05〜0.5mmで嵩密度が0.3〜0.8g/cmであり、かつ、歪み速度10mm/min、支点間距離2cmおよび試験片幅1cmの条件での3点曲げ試験において曲げ強度が10MPa以上でかつ曲げの際のたわみが1.5mm以上であることを特徴とする燃料電池用多孔質炭素電極基材が記載されている。しかし、この多孔質電極基材は、機械的強度、表面平滑性が高く、十分な導電性は有しているもの、均一性の高い構造であるために、保水性と、生成水の排水性のバランスを保つことが困難であるという問題があった。
特許文献2には、一方の面に触媒層が形成されたカーボンシートからなり、その一方の面から他方の面に亘って複数の貫通孔が形成されていることを特徴とするガス拡散電極が記載されている。この多孔質電極基材は、高いガス拡散性を有しているものの、機械的強度を維持することと、保水性を保つことが困難であるという問題があった。
国際公開第2002/042534号パンフレット 特開2002−110182号公報
本発明は、充分なガス透気度、厚みおよび貫通方向抵抗を備え、燃料電池とした時に、加湿条件の変動によっても電池性能の変動が少ない高い水分管理機能を発揮する多孔質電極基材、その製造方法、膜−電極接合体、および固体高分子型燃料電池を提供することを目的とする。
本発明は以下の通りである。
(1)以下の(A)〜(D)工程を順に行う多孔質電極基材の製造方法。
(A)炭素短繊維とバインダー短繊維とを、分散し炭素繊維紙を作製する工程
(B)前記炭素繊維紙に、窒素ガス雰囲気中2000℃の条件下で1時間炭素化した後の残炭率が20%以上の樹脂を溶解した溶液を含浸させた後、炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂に対し貧溶媒となる溶媒に浸漬させ、炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂を凝固させた前駆体シートを作製する工程
(C)溶媒を除去した前駆体シートを得る工程
(D)前駆体シート中の炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂を炭素化して多孔質電極基材を得る工程
(2)以下の(a)〜(d)工程を順に行う多孔質電極基材の製造方法。
(a)炭素短繊維とバインダー短繊維とを、分散し炭素繊維紙を作製する工程
(b)前記炭素繊維紙にポリアクリロニトリルのジメチルアセトアミド溶液を含浸させた後、水に浸漬させポリアクリロニトリルを凝固させた前駆体シートを作製する工程
(c)溶媒を除去した前駆体シートを得る工程
(d)前駆体シート中のポリアクリロニトリルを炭素化して多孔質電極基材を得る工程
(3)(b)と(d)工程を以下の(b’)と(d’)工程に各々替える(2)の多孔質電極基材の製造方法。
(b’) 前記炭素繊維紙にフェノール樹脂組成物のメタノール溶液を含浸させた後、水に浸漬させフェノール樹脂組成物を凝固させた前駆体シートを作製する工程
(d’) 前駆体シート中のフェノール樹脂組成物を炭素化して多孔質電極基材を得る工程
(4)(D)工程の炭素化の前に加熱加圧する(1)〜(3)のいずれかの多孔質電極基材の製造方法。
(5)加熱加圧後、酸化処理してから炭素化する(4)の多孔質電極基材の製造方法。
(6)(1)〜(5)のいずれかの多孔質電極基材の製造方法で得られる多孔質電極基材。
(7)分散した炭素短繊維同士が、多孔質化した炭素によって接合されている(6)の多孔質電極基材。
(8)分散した炭素短繊維同士が、多孔質化した炭素によって接合されている多孔質電極基材。
(9)(6)〜(8)のいずれかの多孔質電極基材を用いた膜−電極接合体。
(10)(9)の膜−電極接合体を用いた固体高分子型燃料電池。
本発明によれば、充分なガス透気度、厚みおよび貫通方向抵抗を備え、燃料電池とした時に、加湿条件の変動によっても電池性能の変動が少ない高い水分管理機能を発揮する多孔質電極基材、その製造方法、膜−電極接合体、および固体高分子型燃料電池を得ることができる。
<炭素短繊維>
本発明で用いる炭素短繊維の原料である炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などいずれであっても良いが、ポリアクリロニトリル系炭素繊維が好ましい。特に、多孔質炭素電極基材の機械的強度が比較的高くすることができることから、用いる炭素繊維がポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維のみからなることが好ましい。
炭素短繊維の直径は、炭素短繊維の生産コスト、分散性の面から、3〜9μmであることが好ましい。最終的に得られる多孔質電極基材の平滑性の面から、4μm以上、8μm以下であることがさらに好ましい。
炭素短繊維の繊維長は、分散性の点から、2〜12mmが好ましい。
<分散>
本発明において、「分散」とは、炭素短繊維がおおむね一つの面を形成するように横たわっているという意味である。これにより炭素短繊維による短絡や炭素短繊維の折損を防止することができる。炭素短繊維の配向方向は実質的にランダムであっても、特定方向への配向性が高くなっていても良い。
<製造方法>
本発明の多孔質電極基材の製造方法は、以下に示す工程を順に行う方法である。多孔質電極基材は、例えば以下の方法により好適に製造することができる。
(A)炭素短繊維とバインダー短繊維とを、分散し炭素繊維紙を作製する工程
(B)前記炭素繊維紙に炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂を溶解した溶液を含浸させた後、炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂に対し貧溶媒となる溶媒に浸漬させ、炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂を凝固させた前駆体シートを作製する工程
(C)溶媒を除去した前駆体シートを得る工程
(D)前駆体シート中の炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂を炭素化して多孔質電極基材を得る工程
<バインダー短繊維>
バインダー短繊維は、炭素短繊維を含む炭素短繊維紙中で各成分をつなぎとめるバインダー(糊剤)として使用される。バインダー短繊維としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニルなどを用いることができる。特にポリビニルアルコールは炭素短繊維紙作製工程での結着力に優れるため、炭素短繊維の脱落が少なくバインダーとして好ましい。
<炭素短繊維紙を作製する工程>
炭素短繊維とバインダー短繊維とを分散させて、炭素短繊維紙を作製する方法としては、液体の媒体中に炭素短繊維とバインダー短繊維を分散させて抄造する湿式法や、空気中に炭素短繊維とバインダー短繊維を分散させて降り積もらせる乾式法が適用できるが、中でも湿式法が好ましい。炭素短繊維が単繊維に分散するのを助け、分散した単繊維が再び収束を防止するのを防ぐことができる。
炭素短繊維とバインダー短繊維を混合する方法としては、炭素短繊維とともに水中で攪拌分散させる方法と、直接混ぜ込む方法があるが、均一に分散させるためには水中で拡散分散させる方法が好ましい。このようにバインダー短繊維を混ぜることにより、炭素繊維紙の強度を保持し、その製造途中で炭素繊維紙から炭素短繊維が剥離したり、炭素短繊維の配向が変化したりするのを防止することができる。
また、炭素短繊維紙の作製は連続で行なう方法やバッチ式で行なう方法があるが、本発明において行なう炭素短繊維紙の作製は、特に目付のコントロールが容易であるという点と生産性及び機械的強度の観点から連続が好ましい。炭素短繊維紙の目付けは、10〜200g/m2とすることが好ましい。
<炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂>
本発明で炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂として用いる樹脂は、炭素化後も導電性物質として残存する物質であり、常温において粘着性、あるいは流動性を示すものが好ましい。ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂、アラミド樹脂、ピッチ等を単体若しくは混合物として用いることができ、用いる樹脂の種類、後述する樹脂の含浸の際の含浸量、硬化、炭素化温度によって残存する炭素化量が異なる。
フェノール樹脂組成物として、フェノール類とアルデヒド類の反応によって得られるレゾールタイプフェノール樹脂組成物を用いることもできるが、固体の熱融着性を示すノボラックタイプのフェノール樹脂組成物を混合させることもが好ましい。
<炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂の含浸方法>
炭素短繊維紙に炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂を含浸する方法としては、炭素短繊維紙に樹脂を含浸させることができればよく、特に限定されないが、コーターを用いて炭素短繊維紙表面に樹脂を均一にコートする方法、絞り装置を用いるdip−nip方法、若しくは炭素短繊維紙と樹脂フィルムを重ねて、樹脂を前駆体シートに転写する方法が、連続的に行なうことができ、生産性及び長尺ものも製造できるという点で好ましい。
<炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂の含浸量>
多孔質電極基材に排水性と保湿性、ガス拡散性のバランスを保つことができる水分管理機能を発現させるためには炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂が炭化した多孔質炭素が、炭素短繊維100質量部に対し20〜50質量部であることが好ましいため、炭素短繊維紙に含浸させる炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂量は、炭素短繊維100質量部に対し、70〜120質量部含浸させることが好ましい。
<炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂の凝固>
炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂の凝固は、炭素短繊維とバインダー短繊維から成る炭素短繊維紙に炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂溶液を含浸させた後、炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂に対し、貧溶媒となる凝固浴中に浸漬させ、炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂を凝固させることによって行う。凝固浴に用いる溶媒としては、一般的には水系溶媒を用いることができるが、樹脂に対して貧溶媒となるものであれば特に限定されない。また、単一溶媒であっても、複数の溶媒を混ぜた混合溶媒を用いても良い。
炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂としてポリアクリロニトリルを用いた場合は、水や水/ヂメチルアセトアミドの混合溶媒などを用いることができる。またフェノール樹脂組成物を用いた場合は、水や水/アルコール混合溶媒を用いることができる。
炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂を凝固させることによって空隙を形成させることができ、炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂の多孔質化を促すことができる。
空隙形成は、凝固浴中での凝固速度に依存する。凝固速度が比較的速い方が空隙を形成しやすいため、炭素短繊維紙に炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂を含浸させた際の樹脂溶液濃度、凝固浴組成、凝固浴温度によって精密に制御する。樹脂溶液濃度としては、含浸時の作業性の点で5〜40質量%とすることが好ましい。
例えば、炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂をポリアクリロニトリルまたはフェノール樹脂組成物とし、貧溶媒となる凝固浴を水とした場合は、好ましい凝固浴温度10℃〜80℃である。
多孔質化した炭素は、多孔質電極基材の中で、炭素短繊維間を結着し、かつ自身が多孔質化した樹脂の炭化物であり、多孔質化は、空隙サイズを精密に制御するためには、樹脂含浸後の凝固過程で多孔質化することが好ましい。
<炭素化>
炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂を凝固された前駆体シートは、そのまま炭素化することができる。その他、前駆体シートを加熱加圧成型後に炭素化することもでき、さらにその加熱加圧成型後の前駆体シートを酸化処理した後に炭素化することが可能である。
前駆体シートの炭素化は、炭素短繊維を炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂で融着させ、かつ炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂を炭素化することより、多孔質電極基材の機械的強度と導電性を発現させることを目的に行う。
炭素化は、多孔質電極基材の導電性を高めるために、不活性ガス中で行うことが好ましい。炭素化は、1000℃以上の温度で行う。1000〜3000℃の温度範囲で炭素化することが好ましく1000〜2200℃の温度範囲がより好ましい。1000℃未満の温度で炭素化して得られた多孔質電極基材は、導電性が十分ではない。炭素化の前に300〜800℃の程度の不活性雰囲気での焼成による前処理を行っても良い。
炭素化の時間は、例えば10分〜1時間とすることができる。
連続作製による前駆体シートを炭素化する場合は、前駆体シートの全長にわたって連続で炭素化を行うことが、低コスト化という観点で好ましい。多孔質電極基材が長尺であれば、多孔質電極基材の生産性が高くなるだけでなく、その後のMEA製造も連続で行うことができ、燃料電池のコスト低減に大きく寄与することができる。また、本発明の多孔質電極基材は、連続的に巻き取ることも可能で、多孔質電極基材や燃料電池の生産性、コストの観点から好ましい。
<加熱加圧>
炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂を凝固された前駆体シートは、炭素化の前に、200℃未満の温度で加熱加圧することが、炭素短繊維を炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂で融着させ、かつ、多孔質電極基材の厚みムラを低減できるという点で好ましい。加熱加圧は、前駆体シートを均等に加熱加圧できる技術であれば、いかなる技術も適用できる。その例としては、上下両面から平滑な剛板にて熱プレスする方法や連続ベルトプレス装置を用いて行う方法がある。
連続製造による前駆体シートを加熱加圧する場合は、連続ベルトプレス装置を用いて行う方法が、長尺の多孔質電極基材ができるという点で好ましい。多孔質電極基材が長尺であれば、多孔質電極基材の生産性が高くなるだけでなく、その後のMEA製造も連続で行うことができ、燃料電池のコスト低減化に大きく寄与することができる。また、本発明の多孔質電極基材は、連続的に巻き取ることも可能で、多孔質電極基材や燃料電池の生産性、コストの観点から好ましい。連続ベルト装置におけるプレス方法としては、ロールプレスによりベルトに線圧で圧力を加える方法と液圧ヘッドプレスにより面圧でプレスする方法があるが、後者の方がより平滑な多孔質電極基材が得られるという点で好ましい。
加熱温度は、効果的に表面を平滑にするために、200℃未満が好ましく、120〜190℃がより好ましい。
成型圧力は特に限定されないが、炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂の比率が多い場合は、成型圧が低くても前駆体シートの表面を平滑にすることが容易である。このとき必要以上にプレス圧を高くすることは、加圧時に炭素短繊維を破壊する、多孔質電極基材としたときその組織が緻密になりすぎるなどの問題が生じる場合がある。例えば、20kPa〜10MPaの圧力で加圧することができる。
加熱加圧の時間は、例えば30秒〜10分とすることができる。剛板に挟んで、又連続ベルト装置で前駆体シートの加熱加圧を行う時は、剛板やベルトに炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂などが付着しないようにあらかじめ剥離剤を塗っておくか、前駆体シートと剛板やベルトとの間に離型紙を挟んで行うことが好ましい。
<酸化処理>
炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂を凝固された前駆体シートは、加熱加圧成型した後、200℃以上300℃未満の温度で酸化処理することが、炭素短繊維を炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂でより融着させ、かつ、炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂の炭素化率を向上させるという点で好ましい。
酸化処理は、200〜300℃の温度範囲で行うことが好ましく、240〜270℃で行うことがより好ましい。酸化処理は、大気雰囲気下で行うことが好ましい。
酸化処理の時間は、例えば30分〜2時間とすることができる。
連続製造による前駆体シートを酸化処理する場合は、前駆体シートの全長にわたって連続で行うことが低コスト化という観点で好ましい。多孔質電極基材が長尺であれば、多孔質電極基材の生産性が高くなるだけでなく、その後のMEA製造も連続で行うことができ、燃料電池のコスト低減に大きく寄与することができる。また本発明の多孔質電極基材は、連続的に巻き取ることも可能で、多孔質電極基材や燃料電池の生産性、コストの観点から好ましい。
<多孔質電極基材>
本発明の多孔質電極基材の厚みは、50〜300μmであることが好ましい。
<膜−電極接合体(MEA)、固体高分子型燃料電池>
以上のような本発明の多孔質電極基材は、膜−電極接合体に好適に用いることができる。そして、本発明の多孔質電極基材を用いた膜−電極接合体は、固体高分子型燃料電池に好適に用いることができる。
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明する。実施例中の各物性値等は以下の方法で測定した。
(1)ガス透気度
JIS規格P−8117に準拠し、ガーレーデンソメーターを使用して200mLの空気が透過するのにかかった時間を測定し、ガス透気度を算出した。
(2)厚み
多孔質電極基材の厚みは、厚み測定装置ダイヤルシックネスゲージ7321(商品名、ミツトヨ製)を使用して測定した。測定子の大きさは直径10mmで、測定圧力は1.5kPaとした。
(3)貫通方向抵抗
多孔質電極基材の厚さ方向の電気抵抗(貫通方向抵抗)は、試料を金メッキした銅板に挟み、金メッキした銅板の上下から1MPaで加圧し、10mA/cmの電流密度で電流を流したときの抵抗値を測定し、次式より求めた。
貫通抵抗(mΩ・cm)=測定抵抗値(Ω)×試料面積(cm
(実施例1)
炭素短繊維として、平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維を用意した。また、バインダー短繊維として、平均繊維長が3mmのポリビニルアルコール(PVA)短繊維(商品名:VBP105−1、クラレ株式会社製)を用意した。
炭素短繊維100質量部を水中に均一に分散して単繊維に解繊し、十分に分散したところに、PVA短繊維25質量部を均一に分散し、標準角型シートマシン(熊谷理機工業(株)製、商品名:No.2555 標準角型シートマシン)を用いてJIS P−8209法に準拠して手動により炭素短繊維紙の作製を行い、乾燥させて、目付けが25g/mの炭素短繊維紙を得た。炭素短繊維の分散状態は良好であった。
この炭素短繊維紙に、ポリアクリロニトリルを10質量%含むポリアクリロニトリルのジメチルアセトアミド溶液を含浸させた後、室温の水からなる凝固浴中に浸漬させることにより、空隙を有するポリアクリロニトリルを凝固させた。その後、80℃の乾燥機中で乾燥させることによって、目付けが46g/mの前駆体シートを得た。これは、炭素短繊維100質量部に対し、ポリアクリロニトリルを105質量部付着させたことになる。
次に、2枚重ね合わせたこの前駆体シートを2枚のシリコーン系離型剤をコートした紙に挟んだ後、バッチプレス装置にて180℃、30kPaの条件下で3分間加圧加熱した。
加圧加熱した前駆体シートをバッチ炭素化炉にて、窒素ガス雰囲気中、2000℃の条件下で1時間炭素化することで多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗がそれぞれ良好な結果であった。結果を表1に示した。
なお、得られた多孔質電極基材の表面SEM写真を図1に示す。分散した炭素短繊維同士が、炭多孔質化した炭素によって接合されていることが確認できた。また、評価結果を表1に示した。
(実施例2)
凝固浴温度を57℃としたこと以外は実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、表面SEM観察により分散した炭素短繊維同士が、炭多孔質化した炭素によって接合されており、実施例1と比較して炭化樹脂中の空隙サイズが大きくなっていることが確認できた。また、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗もそれぞれ良好な結果であった。評価結果を表1に示した。
(実施例3)
凝固浴を30質量%のジメチルアセトアミドを含む水/ジメチルアセトアミド混合溶液としたこと以外は実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、表面SEM観察により分散した炭素短繊維同士が、炭多孔質化した炭素によって接合されており、実施例1と比較して炭化樹脂中の空隙サイズが小さくなっていることが確認できた。また、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗もそれぞれ良好な結果であった。評価結果を表1に示した。
(実施例4)
加圧加熱した前駆体シートをバッチ熱風炉で、空気中、250℃の条件下で1時間酸化処理した後、2000℃の条件下で1時間炭素化したこと以外は実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、表面SEM観察により分散した炭素短繊維同士が、炭多孔質化した炭素によって接合されており、実施例1と比較して炭化樹脂中の空隙サイズが同等であることが確認できた。また、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗もそれぞれ良好な結果であった。評価結果を表1に示した。
(実施例5)
得られる炭素短繊維紙の目付けが50g/m、樹脂凝固乾燥後の前駆体シートの目付けを92g/mとし、加圧加熱せずに、2000℃の条件下で1時間炭素化したこと以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、表面SEM観察により分散した炭素短繊維同士が、炭多孔質化した炭素によって接合されており、実施例1と比較して炭化樹脂中の空隙サイズが同等であることが確認できた。また、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗もそれぞれ良好な結果であった。評価結果を表1に示した。
(実施例6)
樹脂溶液をフェノール樹脂組成物を10質量%含むフェノール樹脂組成物のメタノール溶液とし、凝固乾燥後の前駆体シートの目付けを46g/mとしたこと以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、表面SEM観察により分散した炭素短繊維同士が、炭多孔質化した炭素によって接合されており、実施例1と比較して炭化樹脂中の空隙サイズが同等であることが確認できた。また、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗もそれぞれ良好な結果であった。評価結果を表1に示した。
(比較例1)
実施例1の樹脂含浸後の前駆体シートを凝固浴中に浸漬させずに120℃で1時間乾燥させたこと以外は実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。表面SEM観察により分散した炭素短繊維同士が、炭多孔質化していない炭素によって接合されていることが確認できた。また、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗はそれぞれ良好な結果であった。評価結果を表1に示した。
(比較例2)
実施例6の樹脂含浸後の前駆体シートを凝固浴中に浸漬させずに室温で8時間乾燥させたこと以外は実施例6と同様にして多孔質電極基材を得た。表面SEM観察により2次元平面内に分散した炭素短繊維同士が、炭多孔質化していない炭素によって接合されていることが確認できた。また、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗はそれぞれ良好な結果であった。評価結果を表1に示した。
(実施例7)
(1)膜−電極接合体(MEA)の作製
実施例1で得られた多孔質電極基材をカソード用、アノード用に2組用意した。両面に触媒担持カーボン(触媒:Pt、触媒担持量:50質量%)からなる触媒層(触媒層面積:25cm、Pt付着量:0.3mg/cm)を形成したパーフルオロスルホン酸系の高分子電解質膜(膜厚:30μm)を、カソード用、アノード用の多孔質電極基材で挟持し、これらを接合してMEAを得た。
(2)MEAの燃料電池特性評価
前記(1)で作製したMEAを、蛇腹状のガス流路を有する2枚のカーボンセパレーターによって挟み、固体高分子型燃料電池(単セル)を形成した。
この単セルの電流密度−電圧特性を測定することによって、燃料電池特性評価を行った。燃料ガスとしては水素ガスを用い、酸化ガスとしては空気を用いた。セル温度を80℃、燃料ガス利用率を60%、酸化ガス利用率を40%とした。また、ガス加湿はバブラーにそれぞれ燃料ガスと酸化ガスを通すことによって行った。
加湿器温度80℃、電流密度が0.8A/cmのときの燃料電池セルのセル電圧が0.648Vであった。
また、加湿器温度60℃、電流密度が0.8A/cmのときの燃料電池セルのセル電圧が0.608Vと良好な特性を示し、加湿条件の変動によっても電池性能の変動が少ない高い水分管理機能を有していることが確認できた。
(比較例3)
比較例1で得られた多孔質電極基材を用いたこと以外は、実施例7と同様にして燃料電池評価を行った。
加湿器温度80℃、電流密度が0.8A/cmのときの燃料電池セルのセル電圧が0.637Vであった。
また、加湿器温度60℃、電流密度が0.8A/cmのときの燃料電池セルのセル電圧が0.532Vと燃料電池セル内での保水性の低下による性能低下が顕著に見られた。
Figure 0005322212
本発明の多孔質電極基材の表面SEM像である。

Claims (10)

  1. 以下の(A)〜(D)工程を順に行う多孔質電極基材の製造方法。
    (A)炭素短繊維とバインダー短繊維とを、分散し炭素繊維紙を作製する工程
    (B)前記炭素繊維紙に、窒素ガス雰囲気中2000℃の条件下で1時間炭素化した後の残炭率が20%以上の樹脂を溶解した溶液を含浸させた後、炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂に対し貧溶媒となる溶媒に浸漬させ、炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂を凝固させた前駆体シートを作製する工程
    (C)溶媒を除去した前駆体シートを得る工程
    (D)前駆体シート中の炭素化後の残炭率が20%以上の樹脂を炭素化して多孔質電極基材を得る工程
  2. 以下の(a)〜(d)工程を順に行う多孔質電極基材の製造方法。
    (a)炭素短繊維とバインダー短繊維とを、分散し炭素繊維紙を作製する工程
    (b)前記炭素繊維紙にポリアクリロニトリルのジメチルアセトアミド溶液を含浸させた後、水に浸漬させポリアクリロニトリルを凝固させた前駆体シートを作製する工程
    (c)溶媒を除去した前駆体シートを得る工程
    (d)前駆体シート中のポリアクリロニトリルを炭素化して多孔質電極基材を得る工程
  3. (b)と(d)工程を以下の(b’)と(d’)工程に各々替える請求項2記載の多孔質電極基材の製造方法。
    (b’) 前記炭素繊維紙にフェノール樹脂組成物のメタノール溶液を含浸させた後、水に浸漬させフェノール樹脂組成物を凝固させた前駆体シートを作製する工程
    (d’) 前駆体シート中のフェノール樹脂組成物を炭素化して多孔質電極基材を得る工程
  4. (D)工程の炭素化の前に加熱加圧する請求項1〜3のいずれか一項に記載の多孔質電極基材の製造方法。
  5. 加熱加圧後、酸化処理してから炭素化する請求項4記載の多孔質電極基材の製造方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の多孔質電極基材の製造方法で得られる多孔質電極基材。
  7. 分散した炭素短繊維同士が、多孔質化した炭素によって接合されている請求項6に記載の多孔質電極基材。
  8. 分散した炭素短繊維同士が、多孔質化した炭素によって接合されている多孔質電極基材。
  9. 請求項6〜8のいずれか一項に記載の多孔質電極基材を用いた膜−電極接合体。
  10. 請求項9に記載の膜−電極接合体を用いた固体高分子型燃料電池。
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