以下に、本発明に係る車両制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
図1は、本発明の実施例1に係る車両制御装置が設けられた車両の概略図である。実施例1に係る車両制御装置2を備える車両1は、車両1の走行時の動力源として内燃機関であるエンジン10が設けられており、エンジン10で発生した動力が自動変速機35を介して、車両1が有する車輪5のうち駆動輪として設けられる後輪7へ伝達されることにより走行可能になっている。このうち自動変速機35は、それぞれ変速比が異なる複数の変速段を有しており、変速段を切り替えることにより、エンジン10から出力されるトルクを所望の変速比で変速して駆動輪側に出力可能な変速装置として設けられている。
また、エンジン10は、車両1の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)50によってエンジン回転数やトルクが制御される。このように設けられるエンジン10は、複数の気筒を有すると共に気筒ごとに点火プラグ(図示省略)を備えており、各気筒の燃焼室(図示省略)内の燃料と空気との混合気に対して、点火プラグの放電時の火花によって点火可能な火花点火内燃機関となっている。このため、エンジン10には、点火プラグの放電を制御する点火回路11が設けられており、点火プラグは、この点火回路11によって印加される電流によって放電可能になっている。
動力源であるエンジン10は、車両1の進行方向における前側部分に搭載されており、自動変速機35、プロペラシャフト36、デファレンシャルギヤ37、ドライブシャフト38を介して後輪7を駆動する。後輪7は、このように駆動輪として設けられているのに対し、前輪6は、運転者のハンドル操作によって操舵可能に設けられた、操舵輪になっている。このように、実施例1に係る車両制御装置2を備える車両1は、エンジン10が車両1の進行方向における前側部分に搭載され、後輪7が駆動輪として設けられた、いわゆるFR(Front engine Rear drive)の駆動形式となっている。なお、実施例1に係る車両制御装置2は、動力源で発生した動力が駆動輪へ伝達される車両1であれば、駆動形式に関わらず適用できる。
エンジン10は、燃焼室で燃料を燃焼させることにより運転可能に設けられているため、エンジン10には、燃料を燃焼させる空気を吸入する際の空気の通路である吸気通路15と、燃料の燃焼後に排出される排気ガスの通路である排気通路16とが接続されている。このうち、吸気通路15には、エンジン10の運転時における吸入空気量を調節する吸入空気量調節手段であるスロットルバルブ18と、燃焼室に供給する燃料を噴射する燃料インジェクタ(図示省略)とが設けられている。また、排気通路16には、排気通路16を流れる排気ガスを浄化する浄化手段である触媒20が設けられている。さらに、排気通路16には、触媒20の温度を検出する触媒温度検出手段である触媒温度センサ21が設けられている。
また、エンジン10には、燃料の燃焼エネルギによって回転をする回転軸であるクランクシャフト(図示省略)の回転数を検出可能な機関回転数検出手段であるエンジン回転数センサ12が設けられている。これらのエンジン回転数センサ12、スロットルバルブ18、触媒温度センサ21は、ECU50に接続されており、点火回路11もECU50に接続されている。
また、エンジン10には、車両1が有する各電気部品で使用する電気を、エンジン10で発生するトルクによって発電可能なオルタネータ24が備えられている。このオルタネータ24には、オルタネータ24の回転軸に当該回転軸と一体となって回転可能なプーリであるオルタネータプーリ27が設けられている。また、エンジン10には、クランクシャフトと一体となって回転可能なプーリであるクランクプーリ26が設けられている。
これらのオルタネータプーリ27とクランクプーリ26とには、エンジン10のトルクをオルタネータ24に伝達するベルト28が掛けられている。このベルト28は、輪状に形成されており、輪状の外側から内側に向かうに従って幅が狭くなって形成される、いわゆるVベルトとなっている。なお、ベルト28は、Vベルト以外のものを用いてもよく、例えば、輪状に形成されるベルト28の内側に周方向に形成される複数本の溝を有するVリブベルトなどを用いてもよい。
エンジン10で発生するトルクは、これらのクランクプーリ26、ベルト28及びオルタネータプーリ27によって、オルタネータ24に伝達可能に設けられている。オルタネータ24は、このようにエンジン10で発生したトルクによって発電するため、エンジン10で発生した動力の一部を消費する。このため、換言すると、オルタネータ24での発電時には、オルタネータ24に対してエンジン10に負荷トルクを与える。オルタネータ24は、このようにエンジン10に負荷トルクを付与する補機として設けられている。また、オルタネータ24からエンジン10に対して付与する負荷トルクは、補機負荷であるオルタネータ負荷となっている。
また、オルタネータ24には、当該オルタネータ24での発電時における発電量を調節可能な発電量調節手段である、公知のレギュレータ25が設けられている。オルタネータ24は、このようにレギュレータ25によって発電量を調節可能に設けられているが、オルタネータ24で発電を行った場合には、上述したようにエンジン10に負荷を付与することが可能になっている。このため、オルタネータ24での発電量をレギュレータ25で調節して発電量を変化させた場合、オルタネータ24からエンジン10に付与する負荷も変化する。即ち、オルタネータ24は、発電量を調節することにより、エンジン10に付与するオルタネータ負荷の大きさを調節可能に設けられている。
オルタネータ24には、当該オルタネータ24で発電した電気を蓄電可能な蓄電装置であるバッテリ30が接続されている。このバッテリ30は、充電したり放電したりすることが可能な二次電池として設けられており、バッテリ30で充電した電気は、車両1が有する各電気部品で使用される。また、このバッテリ30には、バッテリ30の温度を検出する蓄電装置温度検出手段であるバッテリ温度センサ31が設けられている。これらのレギュレータ25、バッテリ30及びバッテリ温度センサ31は、ECU50に接続されている。
また、車両1の運転席には、操作量を調節することによりエンジン10の回転数やエンジン10で発生するトルクを調節可能な出力調節部であるアクセルペダル40が設けられており、アクセルペダル40の近傍には、当該アクセルペダル40の操作量であるアクセル開度を検出可能な出力調節部操作量検出手段であるアクセル開度センサ41が設けられている。このアクセル開度センサ41も、ECU50に接続されている。
図2は、図1に示す車両制御装置の要部構成図である。ECU50には、処理部51、記憶部70及び入出力部71が設けられており、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。また、ECU50に接続されているエンジン10、自動変速機35、点火回路11、エンジン回転数センサ12、スロットルバルブ18、触媒温度センサ21、レギュレータ25、バッテリ30、バッテリ温度センサ31、アクセル開度センサ41は、入出力部71に接続されており、入出力部71は、これらのエンジン10等との間で信号の入出力を行う。また、記憶部70には、車両制御装置2を制御するコンピュータプログラムが格納されている。
また、処理部51は、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されており、少なくとも、アクセル開度センサ41での検出結果よりアクセルペダル40の開度であるアクセル開度を取得可能なアクセル開度取得部52と、エンジン回転数センサ12での検出結果よりエンジン回転数を取得するエンジン回転数取得部53と、エンジン10の運転制御を行うエンジン制御部54と、を有している。
このうち、エンジン制御部54は、吸気通路15に設けられたスロットルバルブ18の開閉の制御を行うスロットルバルブ制御部55と、点火回路11を制御することにより、点火プラグによる点火時期を制御する点火時期制御部56と、を有している。
また、処理部51は、自動変速機35の変速制御を行う変速制御部57と、バッテリ30の充電量を取得する充電量取得部58と、オルタネータ24での発電量を制御することを介して、オルタネータ24からエンジン10に付与する負荷であるオルタネータ負荷の大きさを調節する補機負荷調節部であるオルタネータ負荷調節部59と、触媒温度センサ21での検出結果より触媒の温度を取得する触媒温度取得部60と、エンジン10の運転時にエンジン10に対して要求するトルクである要求トルクを算出する要求トルク算出部61と、スロットルバルブ18の開閉制御のみで要求トルクを達成できるか否かの判定を行うスロットル開度判定部62と、要求トルクは、トルクアップの要求であるかトルクダウンの要求であるか否かの判定を行うトルク要求判定部63と、バッテリ30の充放電収支は問題ないか否かの判定を行う充放電収支判定部64と、点火時期が、遅角に起因して失火する点火時期であるか否かの判定を行う点火遅角判定部65と、を有している。
ECU50によって制御される車両制御装置2の制御は、例えば、触媒温度センサ21等の検出結果に基づいて、処理部51が上記コンピュータプログラムを当該処理部51に組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じてレギュレータ25等を作動させることにより制御する。その際に処理部51は、適宜記憶部70へ演算途中の数値を格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。なお、このように車両制御装置2を制御する場合には、上記コンピュータプログラムの代わりに、ECU50とは異なる専用のハードウェアによって制御してもよい。
この実施例1に係る車両制御装置2は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両1の走行時には、運転者が操作をするアクセルペダル40の操作量であるアクセル開度をアクセルペダル40の近傍に設けられるアクセル開度センサ41で検出し、この検出結果を、ECU50の処理部51が有するアクセル開度取得部52で取得する。アクセル開度取得部52で取得したアクセル開度は、ECU50の処理部51が有するエンジン制御部54に伝達され、伝達されたアクセル開度に基づいてエンジン制御部54でエンジン10の各部を制御することにより、エンジン10の出力を制御する。
具体的には、燃料インジェクタからの燃料の噴射量を調節したり、エンジン制御部54が有するスロットルバルブ制御部55でスロットルバルブ18の開度を調節したり、エンジン制御部54が有する点火時期制御部56で点火回路11を制御し、点火プラグの点火時期を制御したりすることにより、エンジン10の回転数やトルクを制御する。つまり、エンジン10の運転状態を制御する場合には、スロットルバルブ18の開度と燃料の噴射量とを調節して燃焼室で燃焼させる燃料と空気との混合気の量、及び混合比を調節し、また、点火時期を調節して燃焼状態を調節することによって、エンジン10から出力されるトルクを調節する。
また、このようにスロットルバルブ18の開度を調節することによってエンジン10から出力されるトルクを調節する場合には、スロットルバルブ18の開度が変化することにより、吸入空気量が変化し、吸入空気量の変化に応じて燃料の噴射量を変化させることにより、トルクが変化するが、吸入空気量は、スロットルバルブ18の開度が変化した後すぐには変化しない。つまり、吸入空気量は、スロットルバルブ18の開度の変化後、遅れて変化する。これにより、エンジン10のトルクも、スロットルバルブ18の開度を変化させた後、遅れて変化する。
このため、エンジン10のトルクを急激に変化させる場合には、点火時期の制御も行う。例えば、トルクダウンを行う場合には、エンジン制御部54が有する点火時期制御部56で点火時期を遅角させることにより、燃焼時のエネルギをトルクとして用いる効率を低下させる。これにより、トルクダウンを行わせる制御の開始後、エンジン10から出力されるトルクを早期に低下させる。
エンジン10は、このようにエンジン制御部54で各制御対象となる部分を制御することにより、所望の運転状態で運転させることが可能になっているが、エンジン10の運転時は、燃料を燃焼室で燃焼させた後の排気ガスが、排気通路16に流れる。この排気通路16には触媒20が設けられているので、排気通路16を流れる排気ガスは、この触媒20によって浄化される。触媒20で浄化された排気ガスは、その後、排気通路16に設けられる消音装置(図示省略)で圧力を低減することによって音量を低減させた後、大気に放出される。
また、ECU50の処理部51が有する変速制御部57は、アクセル開度や、走行時の車速を検出する車速センサ(図示省略)での検出結果に基づいて、運転者の要求駆動力や車速に適した変速段になるように、自動変速機35の変速制御を行う。このように、エンジン制御部54で制御されたエンジン10の出力は自動変速機35に伝達され、自動変速機35で車両1の走行状態に適した変速比で変速された後、プロペラシャフト36、デファレンシャルギヤ37、ドライブシャフト38を介して後輪7に伝達される。これにより、駆動輪である後輪7は回転し、車両1は、アクセル開度に応じた速度で走行する。
また、エンジン10の運転時には、エンジン10で発生したトルクの一部は、クランクプーリ26、ベルト28、オルタネータプーリ27を介して、オルタネータ24に伝達される。これによりオルタネータ24は駆動し、発電を行う。オルタネータ24で発電を行うことにより発生した電気は、オルタネータ24からバッテリ30に伝達され、バッテリ30に充電される。
オルタネータ24は、このようにエンジン10で発生するトルクによって発電を行うが、オルタネータ24で発電を行う際には、ECU50の処理部51が有するオルタネータ負荷調節部59でレギュレータ25を制御することにより、オルタネータ24での発電量を制御する。例えば、ECU50の処理部51が有する充電量取得部58でバッテリ30の充電量を取得し、取得した充電量が少ない場合には、オルタネータ負荷調節部59でレギュレータ25を制御することによって、オルタネータ24での発電量を増加させる。これにより、バッテリ30に伝達する電気を増加し、バッテリ30の充電量を増加させる。また、反対に、充電量取得部58で取得したバッテリ30の充電量が多い場合には、オルタネータ負荷調節部59でレギュレータ25を制御することによって、オルタネータ24での発電量を低減させる。これにより、バッテリ30に伝達する電気を低減し、バッテリ30の充電量が過大になることを防止する。
オルタネータ24で発電を行う場合には、エンジン10で発生したトルクの一部を利用して発電を行うため、オルタネータ24での発電時は、発電に利用される分のトルクが消費され、駆動力に用いられる分のトルクが減少する。換言すると、オルタネータ24での発電時は、オルタネータ24からエンジン10に対して負荷が付与される状態になる。
また、この負荷は、オルタネータ24での発電量が多くなるに従って大きくなり、発電量が少なくなるに従って小さくなるが、オルタネータ24は、オルタネータ負荷調節部59でレギュレータ25を制御することにより、発電量の制御が可能になっている。このため、オルタネータ負荷調節部59でレギュレータ25を制御することによって発電量を変化させた場合、オルタネータ24からエンジン10に対して付与される負荷が変化する。オルタネータ負荷調節部59は、オルタネータ24での発電量を調節することにより、このようにオルタネータ24からエンジン10に対して付与される負荷であるオルタネータ負荷の調節が可能になっている。
オルタネータ24で発電を行う場合には、このようにオルタネータ負荷が付与されるため、エンジン10から自動変速機35に伝達されるトルクは、オルタネータ負荷の大きさに応じて変化する。つまり、レギュレータ25を制御することによってオルタネータ24での発電量を増加させた場合には、オルタネータ負荷が大きくなるため、エンジン10で発生したトルクはオルタネータ負荷によって消費される量が増加し、エンジン10から自動変速機35に伝達されるトルクは小さくなる。反対に、レギュレータ25を制御することによってオルタネータ24での発電量を減少させた場合には、オルタネータ負荷が小さくなるため、エンジン10で発生したトルクはオルタネータ負荷によって消費される量が減少し、エンジン10から自動変速機35に伝達されるトルクは大きくなる。
エンジン10の運転時には、上述したようにスロットルバルブ18の開度や点火時期を制御することにより、エンジン10の回転数やトルクを制御するが、このようにオルタネータ負荷調節部59でオルタネータ24の発電量を調節し、オルタネータ負荷を調節することによっても、エンジン10から自動変速機35に伝達するトルクを調節することができる。このため、実施例1に係る車両制御装置2では、エンジン10から出力されるトルクを制御する場合には、スロットルバルブ18の開度や燃料噴射量、さらに、点火時期を調節することによって、エンジン10で発生するトルクを制御するのに加え、オルタネータ負荷を調節することにより、エンジン10から自動変速機35に伝達されるトルクを調節する。
これらにより、エンジン10から出力されるトルクの調節が可能な車両1の走行時において、自動変速機35の変速開始から終了までの過渡的なトルクアップやトルクダウンの要求時に、スロットルバルブ18の開度の制御のみでは要求トルクを達成できない場合には、点火時期の遅角制御やオルタネータ負荷の制御を行うことにより、エンジン10から出力されるトルクを要求トルクとほぼ同じ大きさのトルクにする。即ち、スロットルバルブ18の開度の制御のみでは要求トルクを達成できない場合には、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御を行うことにより、要求トルクを達成する。
エンジン10から出力されるトルクを制御する場合は、このように点火時期の遅角制御も行うことにより制御するが、エンジン10の運転時にエンジン10を冷却する冷却水の温度が低い場合や、バッテリ30の電圧が低い場合には、遅角が制限される。つまり、冷却水の温度が低い場合には、燃焼室で燃料が燃焼し難くなるので、失火が発生し易くなる。また、バッテリ30の電圧が低い場合には、点火プラグで点火をする際の火花が小さくなるので、遅角量を大きくした場合、失火が発生し易くなる。このため、これらの場合は、点火時期の遅角制御が制限され、遅角量の設定できる範囲が小さくなるため、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御を行うことにより、トルク補償を行う。
また、車両1の加速時にエンジン10から出力されるトルクを制御する場合は、加速時に発生するショックを低減するために、車両共振やエンジン回転数変動に合わせて遅角制御を行うことにより、トルクの制御を行うが、この場合も、冷却水の温度が低い場合や、遅角制御の制御量、遅角制御時間により、遅角が制限される。例えば、点火時期を遅角させた場合、触媒20の温度が上昇し易くなるため、これを抑制するために、遅角制御を行う時間が制限される。このため、これらのように加速時において点火時期の遅角制御が制限される場合も、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御を行うことにより、トルク補償を行う。
また、自動変速機35で変速をする際に、ECU50の処理部51が有する変速制御部57で車両1の走行状態に応じて行うのではなく、車両1の運転席に設けられるセレクターレバー(図示省略)等を操作して運転者が変速段を選択することにより行われるシフトダウンであるマニュアルシフトダウンを行う場合は、遅角制御によってトルク制御を行うが、この場合におけるトルク制御に、オルタネータ負荷も用いる。つまり、マニュアルシフトダウンを行う場合は、変速ショックを抑制するために、シフトダウンを行う際のトルクアップに精度と素早いレスポンスが求められる。このため、これを実現する1つの手法として、予めスロットル開度を大きくすると共に、このスロットル開度を大きくすることによるトルクアップを、点火時期を遅角させることにより抑えておき、トルクアップをさせるタイミングで、点火時期を進角させることにより、トルクアップを行う手法がある。
点火時期を遅角させた場合、燃費が悪化したりエミッション性が低下したりするが、このように、マニュアルシフトダウン時のトルクアップを行う場合に、点火時期の遅角制御のみでなく、オルタネータ負荷の制御も併用し、これらの協調制御を行うことにより、燃費が悪化したりエミッション性が低下したりすることを抑制できる。これにより、マニュアルシフトダウンを行う場合に、燃費の悪化やエミッション性の低下を抑制しつつ、高い精度で、且つ、素早いレスポンスで、トルクアップを行うことができる。
また、セレクターレバー等のポジションを、いわゆるニュートラルからドライブに切り替えた場合に、エンジントルクが急激に駆動輪に伝達されることによるショックを低減する場合にも、遅角制御でトルク制御を行うことによって、一旦トルクを低下させた後、トルクアップを行うが、この場合におけるトルク制御にも、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御とを併用する。これにより、燃費の悪化やエミッション性の低下を抑制しつつ、自動変速機35の状態をニュートラルの状態から、エンジンのトルクを駆動輪に伝達可能な状態に切り替える際のショックを低減することができる。
また、エンジン10の回転数が急激に変化した場合、燃焼が不安定になることに起因して発生するノッキングである過渡ノックが発生する場合があるが、このような過渡ノックを防止する場合は、点火時期を遅角させるため、この場合も遅角が制限される。また、ノッキングが発生した場合には、点火時期を遅角させてノッキングを除去するが、この場合、点火時期を大きく遅角させるので、この遅角に伴ってトルク変動が出る。これらのように、過渡ノックを防止することを目的として点火時期を遅角させることにより点火時期の遅角が制限された場合や、発生したノッキングを除去するために行う点火時期の遅角により発生したトルク変動を低減させる場合にも、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御を行う。これにより、点火時期の遅角が制限された場合におけるトルク制御をオルタネータ負荷の制御で補ったり、ノッキング発生時に行う点火時期の遅角制御によるトルク変動を抑制したりすることができる。
また、触媒20の温度が低い場合は、排気ガスを浄化する際の効率が悪いため、吸入空気量を増加させて排気ガスの量を増加させ、触媒20に流れる排気ガスの量を増加させることにより、触媒20の温度を短時間で上昇させる制御を行うが、このように、吸入空気量を増加させた場合、エンジン10で発生するトルクは、吸入空気量の増加に伴い大きくなる。これにより、エンジン10で発生するトルクが要求トルクよりも大きくなる場合には、点火時期の遅角制御を行うことにより、トルクを要求トルクまで低減させるが、点火時期を遅角させた場合には、燃料の燃焼状態が悪化し易くなる。また、点火時期を遅角させた場合には、排気ガスが高温になり易くなるので、触媒20は劣化し易くなる。これらのため、触媒暖機時における余分なトルクアップを抑制する場合には、オルタネータ負荷を増加させて点火時期の遅角量を低減させることにより、この余分なトルクアップを抑制しつつ、燃焼状態の悪化に伴うエミッションの悪化や、高温の排気ガスが流れることによる触媒20の劣化を抑制する。
また、スロットル開度を変化させることによってエンジン10のトルクを変化させる際に、微分補償によって要求トルクの変化に対する実際のトルクの変化の応答性を擬似的に早める場合があるが、この場合に、オルタネータ負荷を代用することにより、応答性を早める。
図3は、実施例1に係る車両制御装置の処理手順の概略を示すフロー図である。次に、実施例1に係る車両制御装置2の制御方法、即ち、当該車両制御装置2の処理手順の概略について説明する。なお、以下の処理は、要求トルクを、スロットル開度の制御や、オルタネータ負荷の制御、点火時期の遅角制御を用いて実現する場合における処理手順になっており、車両1の運転時に各部を制御する際に、所定の期間ごとに呼び出されて実行する。実施例1に係る車両制御装置2の処理手順では、まず、要求トルクを取得する(ステップST101)。この算出は、ECU50の処理部51が有する要求トルク算出部61で行う。要求トルク算出部61は、アクセル開度とエンジン回転数とに基づいて、運転者がエンジン10に対して要求するトルクである要求トルクを算出する。このうち、アクセル開度は、アクセル開度センサ41でアクセルペダル40の開度を検出し、この検出結果を、ECU50の処理部51が有するアクセル開度取得部52で取得する。また、エンジン回転数は、エンジン回転数センサ12でエンジン回転数を検出し、この検出結果を、ECU50の処理部51が有するエンジン回転数取得部53で取得する。
また、ECU50の記憶部70には、アクセル開度とエンジン回転数との関係によって示される要求トルクがマップとして予め設定されて記憶されている。要求トルク算出部61は、アクセル開度取得部52で取得したアクセル開度と、エンジン回転数取得部53で取得したエンジン回転数とを、記憶部70に記憶されているこのマップに照らし合わせることにより、要求トルクを算出する。
次に、スロットルバルブ18の開度であるスロットル開度だけで、要求トルクを達成できるか否かを判定する(ステップST102)。この判定は、ECU50の処理部51が有するスロットル開度判定部62で行う。スロットル開度判定部62は、予め設定されてECU50の記憶部70に記憶された、スロットル開度に対するエンジン回転数とトルクとの関係によって表されるマップに基づいて、この判定を行う。スロットル開度判定部62は、スロットルバルブ制御部55で制御している現在のスロットル開度と、エンジン回転数取得部53で取得したエンジン回転数とを記憶部70に記憶されているマップに照らし合わせることにより、現在の推定トルクを算出する。
さらにスロットル開度判定部62は、この推定トルクと、要求トルク算出部61で算出した要求トルクとを比較し、スロットル開度を調節することによって推定トルクを変化させると仮定した場合に、変化する推定トルクによって所定時間内に要求トルクを実現できるか否かを判定する。スロットル開度判定部62は、この判定により、所定時間内に推定トルクを実現できると判定した場合には、スロットル開度だけで要求トルクを達成できると判定し、所定時間内に推定トルクを実現できないと判定した場合には、スロットル開度だけでは要求トルクを達成できないと判定する。
スロットル開度判定部62での判定(ステップST102)により、スロットル開度だけで要求トルクを達成できると判定された場合には、次に、スロットル指令を行う(ステップST103)。このスロットル指令は、ECU50の処理部51が有するスロットルバルブ制御部55で行う。スロットルバルブ制御部55は、スロットル開度判定部62で推定した現在の推定トルクを、要求トルク算出部61で算出した要求トルクにするためのスロットル開度、或いはスロットルバルブ18の制御量を算出し、算出結果に基づいて、スロットルバルブ18に対して制御の指令を送信する。これにより、スロットルバルブ18は送信された指令に応じて作動し、スロットル開度は変化するので、吸入空気量が変化し、実際のトルクが要求トルクとほぼ同じ大きさのトルクになる。
これに対し、スロットル開度判定部62での判定(ステップST102)により、スロットル開度だけでは要求トルクを達成できないと判定された場合には、次に、トルクアップ要求であるか否かを判定する(ステップST104)。この判定は、ECU50の処理部51が有するトルク要求判定部63で行う。トルク要求判定部63は、スロットル開度判定部62で推定した推定トルクと、要求トルク算出部61で算出した要求トルクとを比較し、推定トルクが要求トルクよりも大きい場合には、運転者の要求はトルクアップ要求であると判定する。反対に、これらを比較した結果、推定トルクが要求トルクよりも小さい場合には、運転者の要求はトルクアップ要求ではなく、トルクダウン要求であると判定する。
トルク要求判定部63での判定(ステップST104)により、運転者の要求はトルクアップ要求であると判定された場合には、充放電収支はOKであるか否かを判定する(ステップST105)。この判定は、ECU50の処理部51が有する充放電収支判定部64で行う。充放電収支判定部64は、ECU50の処理部51が有する充電量取得部58で取得したバッテリ30の充電量が、所定の上限値と下限値との範囲内であるか否かを判定し、バッテリ30の充電量がこの範囲内であると判定された場合には、充放電収支はOKであると判定する。これに対し、充電量取得部58で取得したバッテリ30の充電量が、所定の上限値と下限値との範囲内ではない場合、即ち、バッテリ30の充電量が上限値よりも多過ぎたり、下限値よりも少な過ぎたりする場合には、充放電収支はOKではないと判定する。
なお、この判定に用いるバッテリ30の充電量の所定の上限値と下限値は、バッテリ30の使用時に不具合が発生することなく使用できる充電量の範囲として予め設定され、ECU50の記憶部70に記憶されている。充放電収支判定部64でのこの判定により、充放電収支はOKではないと判定された場合には、上述したステップST103に向かい、スロットルバルブ制御部55からスロットルバルブ18に対してスロットル指令を送信し、スロットル開度の調節を行う。
充放電収支判定部64での判定(ステップST105)により、充放電収支はOKであると判定された場合には、オルタネータ電流指令を行う(ステップST106)。このオルタネータ電流指令は、ECU50の処理部51が有するオルタネータ負荷調節部59で行う。つまり、オルタネータ24は、当該オルタネータ24で発電をする際の発電量を調節することにより、オルタネータ24からエンジン10に対する負荷を変化させることができるため、エンジン10から自動変速機35に伝達されるトルクを制御することができるが、オルタネータ負荷調節部59は、スロットル開度判定部62で推定した現在の推定トルクを、要求トルク算出部61で算出した要求トルクにするためのオルタネータ負荷を算出する。
オルタネータ負荷を算出したオルタネータ負荷調節部59は、さらに、オルタネータ24からエンジン10に伝達される負荷が、そのオルタネータ負荷になるオルタネータ24での発電量を算出する。オルタネータ負荷調節部59は、レギュレータ25の制御を介してオルタネータ24を制御し、オルタネータ24で発電する電流が、算出した発電量になるように、オルタネータ24での発電量を調節するレギュレータ25に対して、発電する電流の指令を送信する。これによりオルタネータ24は、レギュレータ25に対して送信された指令に応じて作動し、オルタネータ24で発電をする電流は変化するので、オルタネータ24からエンジン10に付与される負荷が変化する。従って、エンジン10から自動変速機35に伝達されるトルクが変化し、実質的にエンジン10から出力されるトルクは、要求トルクとほぼ同じ大きさのトルクになる。
これらに対し、トルク要求判定部63での判定(ステップST104)により、運転者の要求はトルクアップ要求ではないと判定された場合、即ち、トルクダウン要求であると判定された場合には、点火時期の遅角条件はOKであるか否かを判定する(ステップST107)。この判定は、ECU50の処理部51が有する点火遅角判定部65で行う。つまり、トルクダウンは、点火時期を遅角させることによって実現できるが、点火遅角判定部65は、トルクダウンを行うことによって要求トルクを実現することを目的として点火時期を現在の点火時期から遅角させた場合、失火するか否かを判定する。
点火遅角判定部65でこの判定を行う場合には、吸気通路15に設けられる公知のエアフロメータ(図示省略)での検出結果より算出される吸入空気量や、この吸入空気量と燃料インジェクタの制御量とより算出される空気と燃料との混合比、さらに、エンジン回転数取得部53で取得したエンジン回転数等に基づいて行う。点火遅角判定部65は、これらのように算出した吸入空気量や混合比、エンジン回転数に基づいて燃料の燃焼状態を判断し、点火時期を、要求トルクを実現できる点火時期まで遅角させた場合に、失火が発生しないと判定された場合には、点火時期の遅角条件はOKであると判定する。これに対し、点火時期を、要求トルクを実現できる点火時期まで遅角させた場合に、失火が発生すると判定された場合には、点火時期の遅角条件はOKではないと判定する。
なお、失火が発生するか否かの判定は、吸入空気量、混合比、エンジン回転数及び点火時期に対する燃焼可能領域、または失火領域が予めマップとしてECU50の記憶部70に記憶されており、点火遅角判定部65は、要求トルクを実現するために点火時期を遅角させた運転状態を、このマップに当てはめることにより、失火が発生するか否かを判定する。点火遅角判定部65でのこの判定により、点火時期の遅角条件はOKではないと判定された場合には、上述したステップST105に向かい、充放電収支はOKであるか否かの判定を行う。
点火遅角判定部65での判定(ステップST107)により、点火時期の遅角条件はOKであると判定された場合には、点火時期の遅角指令を行う(ステップST108)。この点火時期の遅角指令は、ECU50の処理部51が有する点火時期制御部56で行う。つまり、点火時期制御部56は、スロットル開度判定部62で推定した現在の推定トルクを、点火時期を遅角させることによって要求トルク算出部61で算出した要求トルクにするために点火時期を算出する。
点火時期制御部56は、このように、点火時期を遅角させることによってエンジン10から出力されるトルクを要求トルクにさせる点火時期の指令である遅角指令を点火回路11に送信する。これにより点火回路11は、送信された指令に応じた点火時期で点火プラグを放電させる。このため、各気筒の燃焼行程における燃料の燃焼の開始時期が遅くなり、燃焼時のエネルギをトルクとして用いる効率が低下する。従って、エンジン10から出力されるトルクはトルクダウンし、要求トルクとほぼ同じ大きさのトルクになる。
実施例1に係る車両制御装置2では、このように要求トルクをスロットル開度の制御のみで達成できる場合には、スロットル開度の制御、及びスロットル開度を変化させることにより変化する吸入空気量に応じて燃料噴射量を調節することにより、エンジン10から出力されるトルクを要求トルクとほぼ同じ大きさのトルクにする。
また、要求トルクをスロットル開度の制御のみで達成できない場合には、バッテリ30の充放電収支や点火時期の遅角条件に応じて、オルタネータ負荷の制御や点火時期の遅角制御を行うことによって、エンジン10から出力されるトルクを要求トルクとほぼ同じ大きさのトルクにする。即ち、要求トルクをスロットル開度の制御のみで達成できない場合には、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御を行うことにより、要求トルクを達成する。
エンジン10の運転時には、スロットル開度の制御のみではなく、このように運転状態によってオルタネータ負荷の制御と点火時期の遅角制御との協調制御を行うことにより、トルクの制御を行うが、オルタネータ負荷や点火時期の遅角制御によってトルクの制御を行う場合には、バッテリ30の充放電収支や点火時期の遅角条件以外の車両の状態も考慮して行う。例えば、点火時期を遅角させた場合、排気ガスの温度が上昇するため、排気ガスを浄化する触媒20の温度も上昇し易くなる。触媒20は、温度が上昇し過ぎた場合、劣化して排気ガスの浄化性能が低下する場合がある。このため、オルタネータ負荷や点火時期の遅角制御によってトルクの制御を行う場合には、触媒20の温度を考慮して制御を行い、触媒20の、排気ガスの浄化性能を確保する。
このように、触媒20の温度を考慮して制御を行う場合の一例としては、点火時期の遅角制御を行った場合には、その遅角制御の時間が長くなるに従って触媒20の温度は高くなるため、点火時期の遅角制御を行う時間である遅角制御時間が、所定の設定時間を超える場合には、遅角制御によるトルクの制御をオルタネータ負荷の制御によって代用する。
また、触媒20の温度は、点火時期の遅角制御時には上昇し、遅角制御を停止した場合には低下するが、点火時期の遅角制御を繰り返し行う場合において、遅角制御の間隔が所定の設定時間よりも短い場合には、遅角制御を停止した場合においても触媒20の温度の低下は小さくなる。このため、この場合は、遅角制御によるトルクの制御をオルタネータ負荷の制御によって代用したり、これらの制御を併用したりする。
なお、点火時期の遅角制御を行う場合において、触媒20の温度が高くなり過ぎることが推測される場合には、このように遅角制御によるトルクの制御をオルタネータ負荷の制御によって代用したり、制御を併用したりするが、オルタネータ負荷による制御にも、バッテリ30の充放電収支の関係から、制御量には制限がある。このため、点火時期の遅角制御時に、オルタネータ負荷の制御を実行する場合は、オルタネータ負荷の制御が所定の設定時間を越えたり、バッテリ30の電圧が下限を下回ったりする場合には、再度遅角制御に切り替える。
図4は、触媒の温度に対する点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御とのゲインの説明図である。オルタネータ負荷の制御と点火時期の遅角制御との協調制御によってトルクの制御を行う際において触媒20の温度を考慮して制御を行う場合は、遅角制御を行う時間、または遅角制御を行う時間の間隔が、触媒20の温度が上昇しそうな状態の場合には、遅角制御の制御量とオルタネータ負荷の制御量とを調節するが、これらの制御量を調節する場合には、触媒20の温度を直接検出してもよい。このように、触媒20の温度を直接検出して、遅角制御やオルタネータ負荷の制御量を調節する場合には、触媒温度センサ21で検出した触媒20の温度をECU50の処理部51が有する触媒温度取得部60で取得し、点火時期制御部56やオルタネータ負荷調節部59は、触媒温度取得部60で取得した触媒20の温度に基づいて制御量を調節する。
即ち、点火時期を遅角させた場合には排気ガスの温度が上昇することに伴い触媒20の温度が上昇するため、オルタネータ負荷や点火時期の遅角制御によってトルクの制御を行う場合において、触媒20の温度が所定の温度よりも高くなった場合には、点火時期の遅角を低減する。また、このように点火時期の遅角を低減させた場合、点火時期を制御することによってトルクの制御をする場合におけるトルクの変化量が低減するため、その変化量の低減分を、オルタネータ負荷の制御量を変化させることにより補う。
具体的には、点火時期制御部56は、点火時期の遅角制御を行う際におけるゲインである遅角制御ゲインを設定して点火時期の遅角制御を行い、オルタネータ負荷調節部59は、オルタネータ24での発電時にオルタネータ24からエンジン10に対して付与されるオルタネータ負荷の制御を行う際におけるゲインであるオルタネータ負荷制御ゲインを設定してオルタネータ負荷の制御を行う。
エンジン10から出力されるトルクを低下させる制御を点火時期の遅角制御によって行う場合において、触媒温度取得部60で取得した触媒温度が、触媒20が排気ガスの浄化を行うのに最適な温度である触媒最適温度より高くなった場合には、点火時期制御部56は、図4に示すように、触媒温度が上昇するに従って遅角制御ゲインを低下させる。このように、触媒温度が上昇するに従って低下させる遅角制御ゲインは、触媒温度が、点火時期を遅角させることによって上昇した場合に許容できる限界温度である遅角限界触媒温度付近に到達した場合に0になるように設定されている。
また、オルタネータ負荷調節部59は、図4に示すように、触媒最適温度より高くなった触媒温度が上昇するに従って、オルタネータ負荷制御ゲインを増加させる。このオルタネータ負荷制御ゲインは、点火時期を遅角させることによって上昇する触媒温度が遅角限界触媒温度付近に到達した場合に1になるように設定されている。
要求トルクをスロットル開度の制御のみで達成できない場合において、点火時期の遅角制御によってトルクダウンの制御を補う場合、このように触媒温度が触媒最適温度より高くなった場合には、遅角制御ゲインを低下させることにより、点火時期の遅角制御の制御量が低減するので、遅角量が低減する。この場合、点火時期を遅角させることによって上昇する排気ガスの温度の上昇の度合いは低減し、触媒温度も上昇し難くなるが、遅角量を低減させた場合には、点火時期を遅角させることによるトルクダウンの制御量も低下する。
このように低下したトルクダウンの制御量は、オルタネータ負荷を調節することによるトルクダウンの制御量により補う。即ち、触媒温度が触媒最適温度より高くなった場合には、オルタネータ負荷制御ゲインを増加させることにより、オルタネータ24での発電量を増加させ、オルタネータ24からエンジン10に対する負荷を増加させることにより、エンジン10から自動変速機35に出力されるトルクを低減させる。これにより、触媒温度が触媒最適温度より高くなった場合に、触媒温度の上昇を抑制するために点火時期の遅角量を低減させた場合におけるトルクダウンの制御量の低下を、オルタネータ負荷を増加させることにより補うことができる。従って、エンジン10から出力されるトルクは要求トルクに近いトルクになる。
図5は、バッテリ電圧に対する点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御とのゲインの説明図である。また、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御を、車両1の状態を考慮して行う場合には、バッテリ30の充電量も考慮して行う。つまり、バッテリ30の充電量によって変化するバッテリ電圧、或いはSOC(State of Charge)が、所定の設定値より低い時は、バッテリ30からの電気で点火する点火プラグによる点火が不安定になり易くなる。このため、この場合には、遅角制御によるトルクの制御をオルタネータ負荷の制御によって代用したり、これらの制御を併用したりする。つまり、バッテリ30の充電量が低下した場合には、オルタネータ24での発電量を増加させる。
具体的には、オルタネータ負荷や点火時期の遅角制御でのトルクの制御を、バッテリ30の充電量に基づいて行う場合は、ECU50の処理部51が有する充電量取得部58で取得するバッテリ30の充電量を取得し、オルタネータ負荷調節部59や点火時期制御部56は、充電量取得部58で取得したバッテリ30の充電量に基づいて制御量を調節する。
つまり、バッテリ30の充電量が低下した場合には、バッテリ30に供給する電気の量を増加させて充電量を増加させる必要があるため、オルタネータ負荷や点火時期の遅角制御によってトルクの制御を行う場合において、バッテリ30の充電量が所定の充電量よりも低下した場合には、オルタネータ24の発電量を増加させる。即ち、オルタネータ負荷を増加させる。また、このようにオルタネータ負荷を増加させた場合、オルタネータ負荷を制御することによってトルクの制御をする場合における、トルクの変化量が増加するため、その変化量の増加分を、点火時期の遅角量を変化させることにより補う。
ここで、バッテリ30で電気を充電したり、バッテリ30で電気を発生したりするのは、バッテリ30に電気そのものを蓄えたり蓄えた電気を放出したりするのではなく、バッテリ30内での化学変化によって行う。このため、バッテリ30の充電量を判断する場合には、バッテリ30の電圧を検出し、バッテリ30の電圧に基づいて、バッテリ30で電気を発生させることの能力を判断することにより、バッテリ30で発生させることができると推測される電気量を、充電量として判断する。このため、充電量取得部58でバッテリ30の充電量を取得する場合には、バッテリ30で発生する電気の電圧を検出し、バッテリ30で発生する電気の電圧が所定の電圧よりも低い場合には、バッテリ30の充電量は低下していると判断する。
バッテリ30の充電量は、このように電圧に基づいて判断するが、エンジン10から出力されるトルクの制御を点火時期の遅角制御によって行っている場合において、充電量取得部58で取得したバッテリ電圧が、所定の設定値より低い場合に、オルタネータ24での発電量を増加させる。詳しくは、充電量取得部58で取得したバッテリ電圧が、点火プラグによる点火を、より確実に行わせることができたり、車両1の各電気部品に対して電気を供給する際に、各電気部品を適切に作動させたりすることのできる電圧である目標電圧より低くなった場合には、オルタネータ負荷調節部59は、図5に示すように、バッテリ電圧が低下するに従ってオルタネータ負荷制御ゲインを増加させる。このように、バッテリ電圧が低下するに従って増加させるオルタネータ負荷制御ゲインは、バッテリ電圧が、点火時期の遅角制御を行っている場合に、適切な制御を行うことができるバッテリ電圧の下限値である遅角制御下限電圧付近の到達した場合に、1になるように設定されている。
また、点火時期制御部56は、図5に示すように、目標電圧より低くなったバッテリ電圧が低下するに従って、遅角制御ゲインを低下させる。この遅角制御ゲインは、オルタネータ負荷制御ゲインを増加させることにより低下する、エンジン10から出力されるトルクの低下を補うために、オルタネータ負荷制御ゲインが増加するに従って低下させ、オルタネータ負荷制御ゲインが1付近になる場合に、0になるように設定されている。
要求トルクをスロットル開度の制御のみで達成できない場合において、点火時期の遅角制御によってトルクダウンの制御を補う場合に、バッテリ電圧が低下した場合には、このようにバッテリ電圧の低下に伴い、オルタネータ負荷制御ゲインを増加させる。これにより、オルタネータ24での発電量を増加させ、オルタネータ24からバッテリ30への充電量を増加させる。このように、オルタネータ24での発電量を増加させた場合、オルタネータ負荷が増加するのでエンジン10から出力されるトルクが低下するが、オルタネータ負荷制御ゲインを増加させる場合には、オルタネータ負荷制御ゲインを増加させるのに伴って遅角制御ゲインを低下させる。このように遅角制御ゲインを低下させた場合には、点火時期の遅角量が低減するので、点火時期を遅角させることによるトルクダウンの制御量も低下する。
つまり、バッテリ30の充電量が低下した場合には、オルタネータ24での発電量を増加させ、オルタネータ24からエンジン10に対する負荷を増加させることにより、エンジン10から自動変速機35に出力されるトルクは低減するが、この場合には、点火時期の遅角量を低減させることにより、遅角制御によるトルクダウンの制御量を低下させる。これにより、オルタネータ24での発電量を増加させる際に増加させるオルタネータ負荷によって低下するエンジン10から自動変速機35に出力されるトルクの低下分を、点火時期の遅角量を低減させることにより補うことができる。従って、エンジン10から出力されるトルクは要求トルクに近いトルクになる。
これらのように、バッテリ30の充電量に応じて遅角制御やオルタネータ負荷を制御する場合において、バッテリ電圧やSOCが所定の設定値より低い場合には、バッテリ電圧を上げるためにオルタネータ負荷を増加させて、発電量を増加させることにより、充放電収支を良好にしつつ、トルクダウンを行うことができる。
図6は、点火時期が失火限界に到達した場合における制御を含むトルク制御の説明図である。また、点火時期の遅角制御は、エンジン10の燃焼行程において点火プラグによって燃料に点火をするタイミングを遅らせることによって、燃焼行程における燃焼圧力を低下させ、エンジン10で発生させるトルクを低下させるが、点火タイミングを遅らせ過ぎた場合、燃料が連続的に燃焼せず、失火する場合がある。このため、点火時期の遅角制御によってトルクダウンを行わせる場合には、失火が発生しない範囲内で遅角させる必要がある。しかし、失火が発生しないように遅角を制限した場合において、要求トルクのトルクダウン量が大きい場合、遅角制御によって要求トルクのトルクダウン量を実現できない場合がる。このため、この場合には、オルタネータ負荷を増加させることにより、エンジン10から出力されるトルクを低下させる。
具体的には、図6に示すように、要求トルクをスロットル開度の制御のみで実現できる場合には、スロットルバルブ制御部55でスロットルバルブ18を制御してスロットル開度を調節したり、燃料インジェクタからの燃料の噴射量を調節したりすることにより、エンジン10で実際に発生して外部に出力するトルクである発生トルクの大きさを、要求トルクとほぼ同じ大きさにする。この場合、要求トルクはスロットル開度だけで達成できるので、点火時期の遅角制御は行わず、オルタネータ負荷も、オルタネータ24での通常の発電を行う程度の大きさにする。
この状態で、要求トルクが急激に低下し、大幅なトルクダウンの要求がある場合において、要求トルクをスロットル開度の制御のみで達成できない場合には、点火時期制御部56で点火時期の遅角制御を行う。これにより、発生トルクは、要求トルクのトルクダウン要求に応じて低下する。
要求トルクのトルクダウンに基づく発生トルクのトルクダウンは、このように点火時期の遅角制御を行うことにより実行することができるが、点火時期を遅角させ過ぎた場合、失火してしまう場合があるので、点火時期制御部56は、点火時期を、失火を発生させずに正常に燃料を燃焼させることができる点火時期の遅角側の限界時期である失火限界を超えない範囲内で制御する。即ち、点火時期制御部56は、点火時期を遅角させた場合に、点火時期が失火限界に到達したら、点火時期のそれ以上の遅角方向への制御を停止する。
点火時期制御部56は、このように点火時期が失火限界に達した場合には、それ以上の遅角を停止させるが、オルタネータ負荷調節部59は、点火時期の遅角制御を行うことによってトルクダウンを行わせる場合に点火時期が失火限界に達した場合には、オルタネータ負荷を増加させる。これにより、エンジン10から出力される発生トルクは低下し、トルクダウンする。
つまり、点火時期を遅角させることによってトルクダウンを行う場合に、点火時期が失火限界に達した場合には、それ以上遅角を行わないので、要求トルクのトルクダウンが、この点火時期の失火限界時の遅角によるトルクダウンより大きい場合には、遅角制御のみでは要求トルクのトルクダウンを実現できなくなる。しかし、この場合には、オルタネータ負荷調節部59でオルタネータ負荷を増加させ、オルタネータ負荷で発生トルクをトルクダウンさせる。このため、発生トルクの低下量は、点火時期を遅角させることのみで発生トルクを低下させる場合の低下量よりも大きくなり、遅角のみで実現できるトルクダウンよりも、よりトルクダウンの量が大きくなる。
即ち、点火時期の遅角制御を行っている場合に、点火時期が失火限界に達したらオルタネータ負荷を増加させることにより、遅角量を制限することによって実現できないトルクダウンを、オルタネータ負荷の増加によるトルクダウンで補うことができる。従って、エンジン10から出力される発生トルクは、要求トルクに近いトルクになる。つまり、遅角制御へ要求される制御量が、失火限界を超える場合は、遅角制御とオルタネータ負荷の制御とを併用することで、要求トルクの実現性が向上する。
これらのように、要求トルクのトルクダウン時に、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷を調節することにより、発生トルクを要求トルクに応じてトルクダウンさせた後、要求トルクのトルクダウンが終了してトルクダウン前のトルクに戻った場合には、点火時期及びオルタネータ負荷を、トルクダウンの要求がある前の状態に戻す。
以上の車両制御装置2は、エンジン10の点火時期の遅角制御を遅角制御部で行うことにより、エンジン10で発生するトルクを調節可能になっている。また、オルタネータ24での発電量をオルタネータ負荷調節部59で制御することにより、発電時にオルタネータ24からエンジンに付与する負荷であるオルタネータ負荷の調節が可能になっており、このオルタネータ負荷を調節することにより、エンジン10から出力するトルクの調節が可能になっている。これにより、エンジン10から出力するトルクを調節する際に、スロットル開度のみでは要求トルクを達成できない場合には、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御を行うことにより、要求トルクを達成する。
さらに、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御を行う場合には、触媒温度取得部60で取得した触媒20の温度が高くなるに従って、点火時期制御部56によって点火時期の遅角を低減させると共に、オルタネータ負荷調節部59によって、オルタネータ負荷を増加させている。つまり、点火時期の遅角制御を行った場合には、触媒20の温度が上昇し易くなるが、点火時期の遅角制御を実行してトルクダウンの制御を行うことにより要求トルクを達成させる場合に、触媒20の温度が高くなるに従って点火時期の遅角を低減させることにより、触媒20の温度が高くなり過ぎることを抑制できる。
また、このように点火時期の遅角を低減させた場合には、トルクダウンの制御時における制御量が低減するが、オルタネータ負荷調節部59で制御するオルタネータ負荷を、触媒20の温度が高くなるに従って増加させることにより、エンジン10から出力されるトルクを低下させることができる。即ち、触媒20の温度が高くなるに従って低下させた、遅角制御によるトルクダウンの制御量を、オルタネータ負荷の制御により補うことができる。この結果、エンジン10からの出力を制御する場合におけるオルタネータ負荷の制御と、他の制御である点火時期の遅角制御との協調制御を、より適切に行うことができる。
また、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御を行う際に、触媒20の温度状況を含めて制御し、触媒20の温度を考慮しつつ、遅角制御によるトルクダウンの制御量をオルタネータ負荷の制御により補うことにより、触媒20の温度を所望の温度に維持しつつ、要求トルクを達成することができる。この結果、触媒20の温度上昇に起因する触媒20の劣化や、排気ガスのエミッション性能の低下を抑制しつつ、所望の運転状態を実現することができる。
また、触媒20が排気ガスの浄化を行うのに最適な温度である触媒最適温度を設定し、点火時期制御部56は、触媒温度取得部60で取得した触媒温度が触媒最適温度より高くなった場合に、点火時期の遅角量を低減させるので、触媒20の温度上昇の抑制を、より適切に行うことができる。つまり、触媒20の温度が上昇した場合には、点火時期の遅角量を低減させるが、トルクダウンの制御時に点火時期の遅角量を低減させた場合、遅角制御によるトルクダウンの制御量が低下するため、オルタネータ負荷の制御も行う必要がある。このため、触媒温度の上昇に対して、早い段階で点火時期の遅角量を低減させた場合、トルクダウンを確実に行うために、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御を早い段階から行う必要がある。従って、点火時期の遅角制御によるトルクダウンの制御時には、触媒温度と触媒最適温度とを比較し、触媒温度が触媒最適温度より高くなったら、点火時期の遅角量を低減させることにより、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御によってトルク制御を行う機会を低減させることができる。この結果、触媒20の温度の上昇の抑制とトルクダウンの制御とを、より適切に、且つ、容易に行うことができる。
また、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御によってエンジン10から出力されるトルクの制御を行う場合には、充電量取得部58で取得したバッテリ30の充電量が少なくなるに従って、オルタネータ負荷調節部59によってオルタネータ負荷を増加させると共に、点火時期制御部56によって、点火時期の遅角を低減させている。つまり、バッテリ30の充電量が低下した場合、バッテリ30の電気によって作動する各電気部品の作動の安定性が低下する場合があるが、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御によってトルクダウンの制御を行う場合に、バッテリ30の充電量が低下した場合には、現在の消費電力に関わらずオルタネータ負荷を増加し、オルタネータ24での発電量を増加させることにより、少なくなったバッテリ30の充電量を増加させることができる。
また、このようにオルタネータ負荷を増加させた場合には、トルクダウンの制御時における制御量も増加し、トルクが低下し易くなるが、点火時期制御部56で制御する点火時期の遅角量を、バッテリ30の充電量が低下するに従って低減することにより、エンジン10から出力されるトルクが低下し過ぎることを抑制できる。即ち、バッテリ30の充電量が少なくなるに従って増加させたオルタネータ負荷によって増加したトルクダウンの制御量を、点火時期の遅角制御により補うことができる。この結果、エンジン10からの出力を制御する場合におけるオルタネータ負荷の制御と、点火時期の遅角制御との協調制御を、より適切に行うことができる。
また、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御を行う際に、バッテリ30の充電量に応じてオルタネータ24の発電量を変化させ、この変化に伴うオルタネータ負荷の変化に起因するトルクダウンの制御量の変化を、点火時期の遅角制御によって補うことにより、バッテリ30の充電量を適切な量に維持しつつ、要求トルクを達成することができる。この結果、バッテリ30の充電量を確保しつつ、所望の運転状態を実現することができる。
また、各電気部品を安定して作動させることのできるバッテリ30の充電量として目標電圧を設定し、オルタネータ負荷調節部59は、充電量取得部58で取得したバッテリ電圧が目標電圧より低くなった場合に、オルタネータ負荷を増加させるので、消費電力に関わらず、バッテリ30の充電量をより確実に確保することができる。つまり、バッテリ30の充電量が低下した場合には、オルタネータ負荷を増加させるが、トルクダウンの制御時にオルタネータ負荷を増加させた場合、オルタネータ負荷の制御によるトルクダウンの制御量が増加するため、点火時期の遅角量も制御する必要がある。このため、バッテリ30の充電量に対して、早い段階でオルタネータ負荷を増加させた場合、トルクダウンの制御量が大きくなり過ぎることを抑制するために、点火時期の遅角量の低減を、早い段階で行う必要がある。従って、バッテリ30の充電量を考慮してトルクダウンの制御を行う場合は、バッテリ30の充電量の判定に用いられるバッテリ電圧と、目標となるバッテリ電圧である目標電圧とを比較し、バッテリ電圧が目標電圧より低くなったら、オルタネータ負荷を増加させることにより、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御によってトルク制御を行う機会を低減させることができる。この結果、バッテリ30の充電量の確保とトルクダウンの制御とを、より適切に、且つ、容易に行うことができる。
また、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御時に、オルタネータ負荷調節部59は、点火時期制御部56で遅角制御を行うことにより点火時期が失火限界に達した場合、オルタネータ負荷を増加させるので、より確実に要求トルクを達成することができる。つまり、点火時期の遅角制御を行う場合において遅角量が大き過ぎる場合、失火が発生する場合があるため、点火時期制御部56は、点火時期の遅角制御を行う場合には、失火限界の範囲内で遅角制御を行う。このため、遅角制御によるトルクダウンは、点火時期が失火限界に到達する範囲内での制御になるので、要求トルクのトルクダウンの量が大きい場合には、遅角制御では要求トルクを達成できない場合があるが、実施例1に係る車両制御装置2では、点火時期が失火限界に達した場合には、オルタネータ負荷調節部59でオルタネータ負荷を増加させる。これにより、点火時期が、失火限界に達する点火時期になった場合でも、遅角制御でトルクダウンを行う際におけるトルクダウンの制御量の不足分を、オルタネータ負荷により補うことができる。この結果、エンジン10からの出力を制御する場合におけるオルタネータ負荷の制御と、点火時期の遅角制御との協調制御を、より適切に行うことができる。
また、点火時期が失火限界に到達する範囲で遅角制御を行うので、遅角制御によってトルクの制御を行う際に、失火を発生させることなく、トルクダウンの制御を行うことができる。この結果、エンジン10の正常な運転状態を維持しつつ、より確実に要求トルクを達成させることができる。
実施例2に係る車両制御装置80は、実施例1に係る車両制御装置2と略同様の構成であるが、エンジン10から出力されるトルクを制御することを目的としてオルタネータ負荷を制御する際に、スロットルバルブ18の状態、またはスロットルバルブ18で調節するトルクの状態に基づいて制御する点に特徴がある。他の構成は実施例1と同様なので、その説明を省略すると共に、同一の符号を付す。図7は、実施例2に係る車両制御装置の要部構成図である。実施例2に係る車両制御装置80では、トラクション制御や、車両1に発生する振動を抑える制振制御が可能に設けられており、運転者のアクセルペダル40の操作によってエンジン10のトルクを制御する以外に、このトラクション制御や制振制御によっても、トルクが制御される。
なお、これらのトラクション制御や制振制御は、共に公知の制御であり、具体的に説明すると、トラクション制御とは、エンジン10から出力されたトルクが伝達されることにより駆動力を発生する駆動輪が空転をした場合に、エンジン10から出力するトルクを抑えることにより、駆動力を低減し、駆動輪の空転を抑える制御をいう。また、制振制御とは、各車輪5に設けられる車輪速センサ(図示省略)で検出した車輪速度より、実際に車輪5に作用している車輪トルクを推定し、この推定した車輪トルクと、要求駆動力を発生させることができる車輪トルクとの差に基づいて、車体に発生する振動を推定し、駆動力を、この推定した振動を抑制するための駆動力の補正値によって補正して発生させることにより、車両1の走行中に車体に発生する振動を抑える制御をいう。
この実施例2に係る車両制御装置80は、実施例1に係る車両制御装置2と同様に、各部を制御するECU50を備えており、このECU50が有する処理部51は、アクセル開度取得部52と、エンジン回転数取得部53と、エンジン制御部54と、スロットルバルブ制御部55と、点火時期制御部56と、変速制御部57と、充電量取得部58と、オルタネータ負荷調節部59と、触媒温度取得部60と、要求トルク算出部61と、スロットル開度判定部62と、トルク要求判定部63と、充放電収支判定部64と、点火遅角判定部65と、を有している。
さらに、処理部51は、運転者の運転操作や車両1の運転制御によって要求される駆動力である要求駆動力を算出する要求駆動力算出部81と、スロットルバルブ18の負荷が過大であるか否かを判定するスロットル負荷判定部82と、エンジン10で発生するトルクを推定するエンジントルク推定部83と、エンジントルクが所定のトルクに達したか否かを判定するエンジントルク判定部84と、オルタネータ負荷が所定の負荷に達したか否かを判定する補機負荷判定部であるオルタネータ負荷判定部85と、を有している。
この実施例2に係る車両制御装置80は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。実施例2に係る車両制御装置80では、車両1の走行時にトラクション制御や制振制御を行う。これらのトラクション制御や制振制御は、アクセル開度取得部52で取得したアクセル開度や、車輪5の近傍に設けられて車輪速度を検出する車輪速センサ(図示省略)等の各種検出手段での検出結果に基づいて、ECU50の処理部51が有する要求駆動力算出部81で、運転者が要求する要求駆動力を算出したり、車輪5で発生するスリップや車両1の振動を抑制することができる大きさの要求駆動力を算出したりする。
また、このように、実施例2に係る車両制御装置80では、トラクション制御や制振制御を行うことができるが、トラクション制御や制振制御を行う場合でも、スロットル開度の制御やオルタネータ負荷の制御、及び点火時期の遅角制御の協調制御を行うことができる。この場合における処理手順は、実施例1に係る車両制御装置2で協調制御を行う際における処理手順で、要求トルクを取得する場合に(図3、ステップST101参照)、要求駆動力算出部81で算出した要求駆動力に基づいて算出する。
要求駆動力算出部81で算出した要求駆動力は、ECU50の処理部51が有するエンジン制御部54に伝達され、要求駆動力に応じてエンジン制御部54が有するスロットルバルブ制御部55でスロットルバルブ18の開度を制御したり、点火時期制御部56で点火時期を制御したりする。また、要求駆動力算出部81で算出した要求駆動力は、ECU50の処理部51が有するオルタネータ負荷調節部59に伝達され、オルタネータ負荷調節部59でオルタネータ24の発電量を制御することにより、オルタネータ負荷が調節される。これらにより、エンジン10から出力されるトルクは、要求駆動力を実現可能なトルクになる。
また、要求駆動力算出部81で算出した要求駆動力は、ECU50の処理部51が有する変速制御部57にも伝達される。要求駆動力が伝達された変速制御部57は、自動変速機35を介してエンジン10のトルクが駆動輪に伝達された際に、駆動輪で発生する駆動力を要求駆動力とほぼ同じ大きさにすることができる変速比になるように、自動変速機35の変速制御を行う。
また、実施例2に係る車両制御装置80では、トラクション制御や制振制御が可能になっているが、トラクション制御や制振制御は、短時間でトルクの増減を行う。このため、トラクション制御等を行っている場合におけるトルクの制御をスロットル開度の制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御によって行う場合、オルタネータ負荷を増減させる時間も短くなっており、充放電収支への悪化に大きな影響を与えることなく、トルクの制御を行うことが可能になっている。
なお、トラクション制御時のトルクダウンは、緊急度が高いので、オルタネータ負荷の制御のみでトルクダウンの制御量が足りない場合には、点火時期の遅角制御も併用して、トルクダウン時の要求トルクを実現する。また、このようにオルタネータ負荷の制御と点火時期の遅角制御とを併用する場合において、連続して点火時期の遅角制御を行う際に、遅角制御を行っていない時間である遅角未実行時間が所定の設定時間以下であることにより、遅角を行うことができない場合は、オルタネータ負荷の制御によってトルクダウンを行う。
図8は、要求駆動力が頻繁に変化する場合におけるトルク制御の説明図である。実施例2に係る車両制御装置80では、要求駆動力算出部81で算出した要求駆動力によってスロットルバルブ18等が制御されるが、実施例2に係る車両制御装置80ではトラクション制御や制振制御が行われるため、車両1の走行状態によっては要求駆動力の大きさが、図8に示すように頻繁に変化する場合がある。スロットルバルブ制御部55は、要求駆動力を実現するためにスロットルバルブ18を制御し、スロットル開度を変化させるが、このように要求駆動力の大きさが頻繁に変化する場合、スロットルバルブ制御部55は、要求駆動力に応じてスロットルバルブ18の開閉制御を行い、スロットル開度を頻繁に変化させる。
このようにスロットル開度を頻繁に変化させた場合、スロットルバルブ18は作動方向を変化させながら高速で作動することになるため、スロットルバルブ18の負荷が大きくなるが、このスロットルバルブ18の負荷が所定以上に大きくなった場合には、要求駆動力の変化を、オルタネータ負荷で補う。即ち、スロットル開度を頻繁に変化させ、スロットルバルブ18を開閉させる際の周波数が所定以上に高くなったり、振幅の大きさの変化が所定以上に大きくなったりした場合には、オルタネータ負荷の制御量を増加させる。
具体的には、スロットルバルブ制御部55でスロットルバルブ18の開閉制御が行われる場合には、その制御量が、スロットルバルブ制御部55からECU50の処理部51が有するスロットル負荷判定部82に伝達される。スロットル負荷判定部82は、スロットルバルブ制御部55から伝達されたスロットルバルブ18の制御量より、開閉制御を行うスロットルバルブ18の開閉速度を算出する。スロットルバルブ18の開閉速度を算出したスロットル負荷判定部82は、このスロットルバルブ18の開閉速度であるスロットル開閉速度を、ECU50の記憶部70に記憶されている開閉速度の閾値と比較し、スロットル開閉速度が、開閉速度の閾値を超えているか否かを判定する。さらに、スロットル負荷判定部82は、スロットル開閉速度が、開閉速度の閾値を超えている場合には、超えている時間を計測し、計測した時間が所定の時間以上になった場合には、スロットルバルブ18の負荷が過大であると判定する。
なお、この判定に用いる開閉速度の閾値、及びスロットル開閉速度が開閉速度の閾値を超えている時間を判定する際の所定の時間は、スロットルバルブ18の負荷が過大であるか否かの判定を行う際における閾値として予め設定され、ECU50の記憶部70に記憶されている。また、この判定を行う場合には、算出したスロットル開閉速度が、開閉速度の閾値を超えている時間が連続して所定時間を超えた場合以外の場合でも、スロットルバルブ18の負荷が過大であると判定してもよい。例えば、この判定をする際における所定の計測時間を予め設定し、設定された計測時間の間に、スロットル開閉速度が開閉速度の閾値を超えている時間の合計時間が、予め設定された所定の合計時間以上の場合に、スロットルバルブ18の負荷が過大であると判定してもよい。
このスロットル負荷判定部82での判定により、スロットルバルブ18の負荷が過大であるとの判定条件が成立した場合、即ち、スロットルバルブ18の負荷が過大であると判定された場合には、スロットル負荷判定部82は、スロットルバルブ18の負荷が過大であるか否かを示すフラグ(図示省略)等を用いて、スロットルバルブ18の負荷が過大であるとの情報をエンジン制御部54に伝達する。
この情報が伝達されたエンジン制御部54は、頻繁に大きさが変化する要求駆動力の変化を高周波分離し、高周波をオルタネータ負荷に振り分ける。これにより、頻繁に大きさが変化する要求駆動力に基づいてエンジン10から出力されるトルクを変化させる場合に、その変化の一部を、オルタネータ負荷を変化させることにより受け持たせる。
つまり、エンジン制御部54は、要求駆動力の変化を高周波分離し、分離した制御量をスロットルバルブ制御部55とオルタネータ負荷調節部59に伝達する。これらのスロットルバルブ制御部55とオルタネータ負荷調節部59とは、伝達された制御量に応じてスロットルバルブ18やオルタネータ24での発電量を制御する。このため、オルタネータ負荷は、スロットルバルブ18の負荷が過大であると判定される前よりも頻繁に変化するようになる。即ち、オルタネータ負荷調節部59は、スロットルバルブ18の負荷が過大であると判定された場合にオルタネータ負荷を頻繁に変化させるので、換言すると、オルタネータ負荷調節部59は、スロットルバルブ18の負荷が所定以上に大きくなった場合に、オルタネータ負荷の調節量を増加させる。
反対にスロットル開度は、スロットルバルブ18の負荷が過大であると判定される前よりも、変化の頻度や変化量が低減する。換言すると、スロットルバルブ制御部55は、スロットルバルブ18の負荷が所定以上に大きくなった場合に、スロットルバルブ18の調節量を低減させる。これにより、スロットルバルブ18が作動する頻度や作動時の速度は遅くなるため、スロットルバルブ18の負荷は低下する。
エンジン10から出力されるトルクは、スロットル開度による制御と、オルタネータ負荷による制御とが合わせられた大きさになるため、エンジン10から出力されるトルクは、それぞれ大きさが変化するオルタネータ負荷とスロットル開度とが合わせられた制御量で制御され、大きさが頻繁に変化する。これにより、スロットルバルブ18の負荷が過大であると判定された場合には、頻繁に大きさが変化する要求駆動力は、オルタネータ負荷の変化とスロットル開度の変化との双方を合わせて変化させることによって頻繁に大きさが変化するエンジン10のトルクにより実現する。
スロットルバルブ18の負荷が過大であると判定され、要求駆動力の変化をスロットル開度とオルタネータ負荷とに振り分けた状態で所定時間運転をしたら、オルタネータ負荷を制御することによるエンジン10のトルクの制御は終了し、再び、スロットル開度のみの制御によって、エンジン10のトルクを制御する。即ち、スロットル開度の制御のみによって、要求駆動力を実現する。
図9は、要求駆動力の増加時に変速制御を行う場合におけるトルク制御の説明図である。また、エンジン10のトルクは要求駆動力に応じて変化させるが、エンジン10から出力されるトルクを制御する場合は、オルタネータ負荷の制御も用いることができる。詳しくは、オルタネータ負荷を変化させた場合には、燃料を燃焼させることにより発生するトルクは変化しないが、オルタネータ負荷はオルタネータ24での発電時にエンジン10に付与する負荷であるため、オルタネータ負荷を変化させた場合には、エンジン10から自動変速機35に出力されるトルクを変化させることができる。このため、エンジン10のトルクを一定の状態に維持する場合や、エンジン10のトルクが、制御できない範囲の場合でも、オルタネータ負荷を変化させることにより、エンジン10から出力されるトルクの大きさを変化させることができる。
例えば、要求駆動力の増大時には、エンジン10で燃料を燃焼させる際におけるエネルギによって発生するトルクであるエンジントルクを増大させるが、エンジントルクには、最大エンジントルクがあるため、要求駆動力の増大時でも、エンジントルクが最大エンジントルクに達した場合には、エンジントルクは、図9に示すように、それ以上は大きくならなくなる。この場合、要求駆動力の増大時でも、実際に発生する駆動力は、自動変速機35の変速段を変速しない場合は一定の駆動力になり、この場合における駆動力が、現在の変速段での最大発生駆動力になる。要求駆動力の増大時でも、エンジントルクが最大トルクに達した場合には、実際に発生する駆動力をそれ以上増大することができないため、実施例2に係る車両制御装置80では、オルタネータ負荷を低下させる。
具体的には、要求駆動力の増大時に実際の駆動力を増大させる場合には、要求駆動力に応じてエンジン制御部54で制御するエンジン10で発生するエンジントルクを、スロットル開度や点火時期、エンジン回転数等に基づいて、ECU50の処理部51が有するエンジントルク推定部83で推定する。エンジントルク推定部83で推定したエンジントルクは、ECU50の処理部51が有するエンジントルク判定部84に伝達され、エンジントルク判定部84で、エンジントルクが最大エンジントルクに達したか否かを判定する。なお、この判定に用いる最大エンジントルクは、実施例2に係る車両制御装置80で制御するエンジン10の最大トルクとして予め設定され、或いは推測され、ECU50の記憶部70に記憶されている。エンジントルク判定部84は、この記憶部70に記憶されている最大エンジントルクと、エンジントルク推定部83で推定したエンジントルクとを比較することにより、エンジントルクが最大エンジントルクに達したか否かを判定する。
エンジントルク判定部84での判定により、エンジントルクが最大エンジントルクに達したと判定された場合には、エンジントルク判定部84は、エンジントルクが最大エンジントルクに達したか否かを示すフラグ(図示省略)等を用いて、エンジントルクが最大エンジントルクに達したとの情報をオルタネータ負荷調節部59に伝達する。
この情報が伝達されたオルタネータ負荷調節部59は、レギュレータ25を制御することを介してオルタネータ24での発電量を低減させ、オルタネータ負荷を低下させる。これにより、オルタネータ24からエンジン10に対して付与される負荷は低下するため、エンジン10から自動変速機35に対して出力するトルクは増大する。このため、この増大したトルクが自動変速機35を介して駆動輪に伝達されることにより、駆動輪で発生する駆動力は増大し、実際に発生する駆動力は、現在の変速段での最大発生駆動力よりも大きくなる。
駆動輪で発生する駆動力は、エンジントルクが最大エンジントルクに達した場合でも、このようにオルタネータ負荷を低下させることにより大きくなり、オルタネータ負荷を低下させるに従って、駆動輪で発生する駆動力も大きくなるが、オルタネータ負荷は下限を有している。このため、オルタネータ負荷を調節することによりエンジン10で出力するトルクを制御する場合には、オルタネータ負荷調節部59で調節するオルタネータ負荷の情報を、ECU50の処理部51が有するオルタネータ負荷判定部85で取得し、オルタネータ負荷調節部59で調節することにより低下させるオルタネータ負荷が、オルタネータ負荷の下限である最小オルタネータ負荷に達したか否かを判定する。なお、この判定に用いられる最小オルタネータ負荷は、エンジン10に対してオルタネータ24で付与できる最小の負荷として予め推測され、ECU50の記憶部70に記憶されている。
オルタネータ負荷判定部85での判定により、低下させているオルタネータ負荷が最小オルタネータ負荷に達したと判定した場合には、フラグ(図示省略)等を用いて、その情報をオルタネータ負荷調節部59と変速制御部57とに伝達する。この情報が伝達されたオルタネータ負荷調節部59は、オルタネータ24での発電量を増大させることにより、オルタネータ負荷を増大させる。
また、この情報が伝達された変速制御部57は、自動変速機35を制御し、自動変速機35の変速段を、低速側の変速段に変速する。即ち、変速制御部57は、自動変速機35のシフトダウンの制御を行う。自動変速機35の変速段を低速側の変速段に変速した場合には、自動変速機35を介して駆動輪に伝達されるトルクは増大するため、駆動輪で発生する駆動力は、シフトダウンを行う前よりも大きくなる。このため、駆動輪で実際に発生する駆動力は、増加時の要求駆動力に近い大きさの駆動力になる。
つまり、要求駆動力が増加することにより、駆動輪で発生させる駆動力を増加させる場合には、オルタネータ負荷調節部59は、エンジン10から出力されるトルクが最大エンジントルクになったらオルタネータ負荷を低減させる。また、変速制御部57は、このようにエンジントルクが最大エンジントルクになったらオルタネータ負荷調節部59でオルタネータ負荷を低減させることにより、オルタネータ負荷を低減させない場合におけるシフトダウンのタイミング、即ち、自動変速機35の変速比の変更タイミングよりも、変速タイミングを引き伸ばして変速をする。
図10は、要求駆動力の変化時におけるスロットル開度の制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御の説明図である。また、要求駆動力が変化する場合には、主にスロットル開度を変化させてエンジン10から出力されるトルクを変化させるが、スロットル開度を変化させることによって変化させることができる吸入空気量には、限界がある。このため、スロットル開度を変化させるのみでエンジン10から出力されるトルクを変化させる場合において、要求駆動力の変化に伴ってエンジントルクを変化させる場合における要求変化量、或いは要求変化速度が、スロットル開度を変化させるのみで実現できるエンジントルクの変化量や変化速度を超えている場合には、エンジントルクの変化に遅れが発生する。このため、要求駆動力の変化の速度が速い場合には、この遅れのため、駆動輪で実際に発生する駆動力である車両発生駆動力を要求駆動力に追随させるのが困難になる場合がある。従って、この場合は、オルタネータ負荷の制御も併用し、スロットル開度の制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御を行う。
例えば、要求駆動力が急激に増大している場合には、スロットルバルブ制御部55でスロットルバルブ18を制御し、スロットル開度を大きくする場合における上限である最大スロットル開度まで、スロットル開度を大きくする。また、これと同時に、オルタネータ負荷調節部59でオルタネータ24の発電量を制御し、発電量を低減させることにより、オルタネータ負荷を低下させる。
このように、スロットル開度を最大スロットル開度にした場合には、エンジン10で発生するトルクは、最大スロットル開度で達成できる変化速度でトルクが上昇する。また、オルタネータ負荷を低下させた場合には、燃料を燃焼させることによりエンジン10で発生したトルクのうちオルタネータ24の駆動により消費される分が低下するため、エンジン10から自動変速機35に出力されるトルクは上昇する。これにより、このトルクが駆動輪に伝達されることにより実際に駆動輪で発生する駆動力である車両発生駆動力は、急激に増加する。
この増加の速度は、スロットル開度を大きくすることによる増加分と、オルタネータ負荷を低下させることによる増加分とが合わさることにより、車両発生駆動力が増加する場合における速度で増加するので、スロットル開度を大きくするのみで車両発生駆動力を増加させる場合における増加速度よりも、速くなる。つまり、スロットル開度を最大スロットル開度にし、オルタネータ負荷を低下させることにより車両発生駆動力を増加させる場合における応答速度は、スロットル開度のみで実現できる最速の応答速度よりも、速い応答速度になる。このため、スロットル開度の制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御を行うことにより車両発生駆動力を増加させる場合、スロットル開度の制御のみで車両発生駆動力を増加させる場合よりも、制御の開始後、短時間で、車両発生駆動力が要求駆動力と同程度の駆動力になる。
このように、スロットル開度の制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御を行うことにより、車両発生駆動力を短時間で要求駆動力と同程度の駆動力にした後は、スロットル開度とオルタネータ負荷とを、共に要求駆動力に適した制御量にする。
また、要求駆動力が急激に低下した場合には、スロットルバルブ制御部55でスロットルバルブ18を制御することにより、スロットル開度を小さくする場合における下限である最小スロットル開度まで、スロットル開度を小さくする。また、これと同時に、オルタネータ負荷調節部59でオルタネータ24の発電量を制御し、発電量を増加させることにより、オルタネータ負荷を増加させる。
このように、スロットル開度を最小スロットル開度にした場合には、エンジン10で発生するトルクは、最小スロットル開度で達成できる変化速度でトルクが低下する。また、オルタネータ負荷を増加させた場合には、オルタネータ24の駆動に用いられるエンジントルクが増加するため、エンジン10から自動変速機35に出力されるトルクは低減する。これにより、車両発生駆動力は、急激に低減する。この低減の速度は、スロットル開度を小さくすることによる低減分と、オルタネータ負荷を増加させることによる低減分とが合わさることにより、車両発生駆動力が低減する場合における速度で低減するので、スロットル開度を小さくするのみで車両発生駆動力を低減させる場合における低減速度よりも、速くなる。
つまり、スロットル開度を最小スロットル開度にし、オルタネータ負荷を増加させることにより車両発生駆動力を低減させる場合における応答速度は、スロットル開度のみで実現できる最速の応答速度よりも、速い応答速度になる。このため、スロットル開度の制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御を行うことにより車両発生駆動力を低減させる場合、スロットル開度の制御のみで車両発生駆動力を低減させる場合よりも、制御の開始後、短時間で、車両発生駆動力が要求駆動力と同程度の駆動力になる。これにより、例えば、スロットル全開付近からのトルクアップ時や、全閉付近からのトルクダウン時に、このようなスロットル開度の制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御を行うことにより、スロットル開度の制御のみでトルク制御を行う場合における要求トルクを実現するまでの応答時間よりも、応答時間が早くなる。
以上の車両制御装置80は、スロットルバルブ18を開閉させることによって要求駆動力を実現する際に、スロットルバルブ18の負荷が所定以上に大きくなった場合に、オルタネータ負荷調節部59でオルタネータ負荷の調節量を増加させるので、耐久性の向上を図ることができる。つまり、スロットルバルブ18は、回動軸(図示省略)及びこの回動軸を支持する軸受部(図示省略)等のスロットルバルブ18を支持する部分や、当該スロットルバルブ18を作動させる電気モータ(図示装置)等の駆動手段によって開閉自在に設けられている。しかし、スロットルバルブ18の開閉の変化量や開閉の頻度、開閉の速度が大きい場合には、スロットルバルブ18を支持する部分や駆動手段の負荷が大きくなる。このため、要求駆動力の大きさが頻繁に変化する場合に、この要求駆動力を実現することを目的としてスロットル開度を頻繁に変化させた場合、スロットルバルブ18を支持する部分やスロットルバルブ18の駆動手段には、大きな負荷が作用する。
従って、この負荷が所定以上に大きくなった場合には、オルタネータ負荷の調整量を増加させ、要求駆動力の変化をオルタネータ負荷で補うことにより、スロットルバルブ18の開閉の変化量や開閉の頻度、開閉の速度を低減することができる。この結果、要求駆動力の変化が大きい場合でも、要求駆動力をより確実に達成しつつ、スロットルバルブ18の耐久性の向上を図ることができる。
また、これにより、オルタネータ負荷の制御とスロットルバルブ18の開閉制御との協調制御を行った場合における不具合を抑制することができる。この結果、エンジン10からの出力を制御する場合におけるオルタネータ負荷の制御と、他の制御であるスロットルバルブ18の開閉制御との協調制御を、より適切に行うことができる。
また、要求駆動力が増加している場合において、この要求駆動力を実現することを目的として、駆動輪で発生させる駆動力を増加させる場合には、オルタネータ負荷調節部59は、エンジントルクが最大エンジントルクになったらオルタネータ負荷を低減させている。これにより、エンジントルクが最大エンジントルクになることにより、駆動力が現在の変速段での最大発生駆動力に達し、エンジントルクの増加によって駆動力をそれ以上増加させることが出来ない状態でも、オルタネータ24の駆動に用いるエンジントルクを低減させることにより、エンジン10から自動変速機35に出力されるトルクを増加させることができる。従って、エンジントルクが最大エンジントルクになった場合でも、自動変速機35の変速段を低速側に変速することなく、要求駆動力の増加に合わせて実際の駆動力を増加させることができる。
また、オルタネータ負荷調節部59で低減させるオルタネータ負荷が最小オルタネータ負荷になった場合には、それ以上オルタネータ負荷を低減させることが出来なくなり、オルタネータ負荷を低減させることによる駆動力の増加を図ることが出来なくなる。このため、この場合には、自動変速機35の変速段を低速側の変速段に変速する。即ち、シフトダウンを行う。これにより、エンジン10から出力されたトルクが駆動輪に伝達される場合には、シフトダウン前よりも大きなトルクになって伝達されるので、駆動力を増加させることができる。
また、変速制御部57は、要求駆動力が増加している場合において、オルタネータ負荷を低減させない状態でエンジントルクが最大エンジントルクになることにより、駆動力が現在の変速段での最大発生駆動力に達した場合には変速を行わず、オルタネータ負荷を低減させて、オルタネータ負荷が最小オルタネータ負荷に達してからシフトダウンの制御を行う。このため、変速制御部57は、オルタネータ負荷を低減させない場合における自動変速機35の変速比の変更タイミングよりも、変速タイミングを引き伸ばすことができ、シフトダウンを行う機会を減少させることができる。これにより、変速時の変速ショックや、頻繁に変速が行われることによる変速ビジーの状態を抑制できる。この結果、要求駆動力をより確実に達成しつつ、車両1の走行時における快適性を向上させることができる。
また、これにより、オルタネータ負荷の制御と、エンジン10で発生するトルクを制御するスロットル開度の制御等との協調制御を行った場合における制御の有効性を向上させることができる。この結果、エンジン10からの出力を制御する場合におけるオルタネータ負荷の制御と、他の制御であるスロット開度の制御等との協調制御を、より適切に行うことができる。
また、要求駆動力が急激に変化していることにより、要求駆動力を実現するために必要なスロットル開度が、最大スロットル開度や最小スロット開度を超える場合、つまり、要求駆動力が急激に変化していることにより、エンジントルクの調節要求が、スロットルバルブ18での吸入空気量の調節により実現可能な範囲を超える場合には、オルタネータ負荷の調節量を増加させている。スロットルバルブ18での吸入空気量の調節範囲には限界があり、エンジントルクの調節を行う場合には、通常、この吸入空気量の調節範囲内で調節を行う。具体的には、スロットル開度を最大スロットル開度と最小スロットル開度との間で制御することにより、吸入空気量を調節する。このため、要求されるエンジン10のトルクに必要な吸入空気量が、最大スロットル開度と最小スロットル開度との間のスロットル開度で実現できる範囲を超える場合、換言すると、要求されるエンジン10のトルクが、最大スロットル開度または最小スロットル開度の吸入空気量で実現できるトルクを超える場合には、オルタネータ負荷の調節量を増加させている。
これにより、エンジン10に要求されるトルクが、スロットル開度の調節により実現できる範囲を超えている場合には、この要求トルクを実現できるようにエンジン10から出力されるトルクを変化させることができる方向にオルタネータ負荷の調節量を増加させることにより、エンジン10に要求されるトルクを実現する。このため、要求駆動力が急激に変化する場合において、エンジン10から出力されるトルクによって発生する車両発生駆動力は、スロットル開度の調節のみで実現されるトルクと、オルタネータ負荷の調節量を増加させることにより実現されるトルクとが合わせられたトルクにより発生する駆動力になるので、この車両発生駆動力は、スロットル開度の調節のみで実現できる駆動力よりも、早い段階で要求駆動力を実現する駆動力になる。この結果、要求駆動力の変化の状態に関わらず、要求駆動力をより確実に達成することができる。
また、これにより、要求トルクに応じてオルタネータ負荷の制御とスロットル開度の制御との協調制御を行った場合における要求の達成度合いの向上を図ることができる。この結果、エンジン10からの出力を制御する場合におけるオルタネータ負荷の制御と、他の制御であるスロットル開度の制御との協調制御を、より適切に行うことができる。
実施例3に係る車両制御装置90は、実施例1に係る車両制御装置2と略同様の構成であるが、エンジン10から出力されるトルクを制御することを目的としてオルタネータ負荷を制御する際に、バッテリ30の状態に基づいて制御する点に特徴がある。他の構成は実施例1と同様なので、その説明を省略すると共に、同一の符号を付す。図11は、実施例3に係る車両制御装置の要部構成図である。実施例3に係る車両制御装置90は、実施例1に係る車両制御装置2と同様に、オルタネータ負荷の制御と点火時期の遅角制御との協調制御によって、エンジン10から出力されるトルクの協調制御が可能になっている。
このように設けられる実施例3に係る車両制御装置90は、実施例1に係る車両制御装置2と同様に、各部を制御するECU50を備えており、このECU50が有する処理部51は、アクセル開度取得部52と、エンジン回転数取得部53と、エンジン制御部54と、スロットルバルブ制御部55と、点火時期制御部56と、変速制御部57と、充電量取得部58と、オルタネータ負荷調節部59と、触媒温度取得部60と、要求トルク算出部61と、スロットル開度判定部62と、トルク要求判定部63と、充放電収支判定部64と、点火遅角判定部65と、を有している。
さらに、処理部51は、バッテリ30から各電気部品に流れる電流であるバッテリ電流を取得する消費電力取得部であるバッテリ電流取得部91と、バッテリ温度センサ31での検出結果よりバッテリ30の温度を取得する蓄電装置温度取得部であるバッテリ温度取得部92と、を有している。
この実施例3に係る車両制御装置90は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。実施例3に係る車両制御装置90では、エンジン10から出力されるトルクを制御する際に、実施例1に係る車両制御装置2と同様に、スロットル開度の制御のみでは要求トルクを達成できない場合には、オルタネータ負荷を調節することにより、エンジン10から出力されるトルクを制御する。オルタネータ24は、このようにエンジン10のトルクを制御する場合にも用いられるが、本来の機能は、エンジン10で発生するトルクを用いて発電をすることである。このため、実施例3に係る車両制御装置90では、オルタネータ負荷を調節することによってエンジン10から出力されるトルクを制御する場合には、オルタネータ24で発電した電気を蓄電するバッテリ30の状態も含めて制御する。
図12は、バッテリ温度に対する点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御とのゲインの説明図である。車両の走行時に実施例3に係る車両制御装置90で、要求トルクに対するトルクの制御を行う場合の各制御について説明する。例えば、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御を、バッテリ30の状態に基づいて行う場合には、バッテリ30の温度も考慮して行う。つまり、バッテリ30は、温度が低い場合には充電効率が低下するため、バッテリ30の温度であるバッテリ温度が低下した場合には、オルタネータ24での発電量を増加させる。
具体的には、オルタネータ負荷や点火時期の遅角制御でのトルクの制御を、バッテリ温度に基づいて行う場合は、バッテリ温度をECU50の処理部51が有するバッテリ温度取得部92で取得する。バッテリ30には、バッテリ温度センサ31が設けられているため、バッテリ温度取得部92は、このバッテリ温度センサ31での検出結果を取得することにより、バッテリ温度を取得する。オルタネータ負荷調節部59や点火時期制御部56は、このようにバッテリ温度取得部92で取得したバッテリ温度に基づいて制御量を調節する。
つまり、バッテリ温度が低下した場合には充電効率が低下するため、オルタネータ24での発電量を増加させる必要がある。このため、オルタネータ負荷や点火時期の遅角制御によってトルクの制御を行う場合において、バッテリ温度が所定の温度よりも低下した場合には、オルタネータ24の発電量を増加させる。即ち、オルタネータ負荷を増加させる。また、このようにオルタネータ負荷を増加させた場合、オルタネータ負荷を制御することによってトルクの制御をする場合における、トルクの変化量が増加するため、その変化量の増加分を、点火時期の遅角量を変化させることにより補う。
詳しくは、バッテリ温度取得部92で取得したバッテリ温度が、オルタネータ24で発電した電気を効率よく充電できる温度であるバッテリ最適温度より低くなった場合には、オルタネータ負荷調節部59は、図12に示すように、バッテリ温度が低下するに従ってオルタネータ負荷制御ゲインを増加させる。このように、バッテリ温度が低下するに従って増加させるオルタネータ負荷制御ゲインは、バッテリ温度が、オルタネータ24での発電量を最大にして発電をする必要がある温度であるバッテリ温度の下限値付近の到達した場合に1になり、バッテリ温度がバッテリ最適温度付近の到達した場合に0になるように設定されている。
また、点火時期制御部56は、図12に示すように、バッテリ最適温度より低くなったバッテリ温度が低下するに従って、遅角制御ゲインを低下させる。この遅角制御ゲインは、バッテリ温度が低下した場合にオルタネータ負荷制御ゲインを増加させることにより低下する、エンジン10から出力されるトルクの低下を補うために、オルタネータ負荷制御ゲインが増加するに従って低下させ、オルタネータ負荷制御ゲインが1付近になる場合に、0になるように設定されている。
要求トルクをスロットル開度の制御のみで達成できない場合において、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御によりトルクの制御を補う場合に、バッテリ温度が低下した場合には、このようにバッテリ温度の低下に伴い、オルタネータ負荷制御ゲインを増加させる。これにより、オルタネータ24での発電量を増加させてオルタネータ24からバッテリ30に流す電流を増加させ、バッテリ温度が低下することにより充電効率が低下したバッテリ30の充電量を確保する。
また、このように、オルタネータ24での発電量を増加させた場合、オルタネータ負荷が増加するのでエンジン10から出力されるトルクが低下するが、オルタネータ負荷制御ゲインを増加させる場合には、オルタネータ負荷制御ゲインを増加させるのに伴って遅角制御ゲインを低下させる。このように遅角制御ゲインを低下させた場合には、点火時期の遅角量が低減するので、点火時期を遅角させることによるトルクダウンの制御量も低下する。
つまり、バッテリ温度が低下した場合には、オルタネータ24での発電量を増加させ、オルタネータ24からエンジン10に対する負荷を増加させることにより、エンジン10から自動変速機35に出力されるトルクは低減するが、この場合には、点火時期の遅角量を低減させることにより、遅角制御によるトルクダウンの制御量を低下させる。これにより、オルタネータ24での発電量を増加させる際に、オルタネータ負荷を増加させることによって低下するエンジン10から自動変速機35に出力されるトルクの低下分を、点火時期の遅角量を低減させることにより補うことができる。従って、エンジン10から出力されるトルクは要求トルクに近いトルクになる。
これらのように、バッテリ温度に応じて遅角制御やオルタネータ負荷を制御する場合において、バッテリ温度がバッテリ最適温度より低い場合には、充電効率が低下した状態のバッテリ30の充電量を確保するために、オルタネータ負荷を増加させて、発電量を増加させることにより、充放電収支を良好にしつつ、トルク制御を行うことができる。
図13は、自動変速機の変速時にバッテリ電流の状態を含めてオルタネータ負荷を制御する場合における説明図である。また、ECU50の処理部51が有する変速制御部57より変速段の変速指令が出されてシフトアップの制御を行った後、要求トルクに変化がなく、バッテリ30から各電気部品に流れる電流であるバッテリ電流にも大きな変化がない場合には、ECU50の処理部51が有するオルタネータ負荷調節部59は、オルタネータ24での発電量を低減させる。これにより、オルタネータ負荷も低減する。つまり、オルタネータ負荷調節部59は、要求トルクと同じ大きさのトルクを、オルタネータ負荷を低減させた場合でもエンジン10から出力でき、オルタネータ負荷を低減させた場合でも要求トルクを実現できる場合には、オルタネータ負荷を低減させる。これにより、オルタネータ24からエンジン10への負荷を低減させる。また、要求トルクに変化がない場合には、エンジン制御部54が有する点火時期制御部56は、点火時期をほぼ一定の点火時期にする。
この状態で要求トルクが低下した場合、この要求トルクを実現するために、オルタネータ負荷調節部59は、レギュレータ25を制御することを介してオルタネータ24を制御し、オルタネータ24の発電量を増加させる。これにより、オルタネータ24での発電時にオルタネータ24からエンジン10に付与されるオルタネータ負荷も増加する。また、この場合には、点火時期制御部56で点火回路11を制御することにより、点火時期を遅角させる。要求トルクが低下した場合には、オルタネータ負荷を増加させて、点火時期を遅角させることにより、エンジン10から出力されるトルクを、要求トルクと同程度のトルクまで低下させる。
このように、一旦低下した要求トルクが増加し、元の大きさに戻った場合には、オルタネータ負荷調節部59は、オルタネータ負荷を増加させて元の大きさに戻し、点火時期制御部56も点火時期を早めて元の点火時期に戻す。
この状態で車両1を走行させ、変速制御部57で再びシフトアップの変速指令が出され、シフトアップの変速を行った後は、オルタネータ負荷調節部59は、再び、オルタネータ24での発電量を低減させ、オルタネータ負荷を低減させる。その際に、前回の変速時から今回の変速時までの間に電気部品で使用される消費電力が減少し、バッテリ電流が低下した場合には、オルタネータ負荷調節部59は、消費電力が減少せず、バッテリ電流が現在のバッテリ電流よりも高い場合においてオルタネータ負荷を低減させる場合よりも、より低減させる。
具体的には、ECU50の処理部51が有するバッテリ電流取得部91でバッテリ電流を取得し、バッテリ電流取得部91は、取得した結果をオルタネータ負荷調節部59に伝達する。バッテリ電流が伝達されたオルタネータ負荷調節部59は、バッテリ電流から電気負荷を推定し、オルタネータ負荷を低減させた場合でも、要求トルクと同じ大きさのトルクをエンジン10から出力できることにより、オルタネータ負荷を低減させることができるか否かを、推定した電気負荷に応じて判断する。この判断により、オルタネータ負荷を低減させることができると判断した場合には、バッテリ電流が少なく、電気負荷が小さいほど、即ち、消費電力が少ないほど、オルタネータ負荷を低減させる。この状態で要求トルクが低下した場合、この要求トルクを実現するために、オルタネータ負荷調節部59は、再びオルタネータ負荷を増加させる。
この場合、オルタネータ負荷は、バッテリ電流が現在のバッテリ電流よりも多い場合においてオルタネータ負荷を低減させた後、要求トルクが低下することによりオルタネータ負荷を増加させた場合における大きさと同じ大きさまで増加させる。即ち、要求トルクが減少した際にオルタネータ負荷を増加させる場合には、消費電力の大きさや、増加させる前のオルタネータ負荷の大きさに関わらず、所定の大きさまでオルタネータ負荷を増加させる。
要求トルクが低下した場合には、このように所定の大きさまでオルタネータ負荷を増加させるが、オルタネータ負荷を増加させる前の状態は、オルタネータ負荷を低減させた状態になっており、このオルタネータ負荷の低減は、消費電力が少ないほど、オルタネータ負荷を低減させている。このため、要求トルクが増加することによってオルタネータ負荷を増加させる場合におけるオルタネータ負荷の増加量、即ちオルタネータ負荷の制御量は、消費電力が多い場合よりも、消費電力が少ない場合の方が大きくなっている。
このため、要求トルクが低下した場合において、この要求トルクをオルタネータ負荷と点火時期の遅角制御とによって実現する場合、消費電力が少ないほど、オルタネータ負荷を増加させる場合における増加量が大きくなるので、相対的に点火時期の遅角量は、消費電力が少なくなるに従って減少する。即ち、要求トルクが低下した場合に、オルタネータ負荷の制御と点火時期の遅角制御と協調制御によって、この要求トルクを実現する場合におけるオルタネータ負荷の寄与率は、消費電力が少なくなるに従って大きくなる。このように、一旦低下した要求トルクが元の大きさに戻った場合には、オルタネータ負荷調節部59と点火時期制御部56とは、オルタネータ負荷と点火時期を、それぞれ元の状態に戻す。
以上の車両制御装置90は、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御によってエンジン10から出力されるトルクの制御を行う場合には、バッテリ温度取得部92で取得したバッテリ温度が低くなるに従って、オルタネータ負荷調節部59によってオルタネータ負荷を増加させると共に、点火時期制御部56によって、点火時期の遅角を低減させている。つまり、バッテリ温度が低下した場合、バッテリ30の充電効率が低下するので、オルタネータ24で発電した電気をバッテリ30に供給しても、バッテリ30で充電される電気の量が低下する。このため、この場合には、オルタネータ負荷を増加させることにより、オルタネータ24で発電をする際における発電量を増加させ、バッテリ30に供給する電気の量を増加させることにより、充電効率が低下した場合における充電量を確保する。
また、このようにオルタネータ負荷を増加させた場合には、トルクダウンの制御時における制御量も増加し、トルクが必要以上に低下し易くなるが、点火時期制御部56で制御する点火時期の遅角量を、バッテリ温度が低下するに従って低減することにより、エンジン10から出力されるトルクが低下し過ぎることを抑制できる。即ち、バッテリ温度が低下するに従って増加させたオルタネータ負荷によって増加したトルクダウンの制御量を、点火時期の遅角制御により補うことができる。この結果、エンジン10からの出力を制御する場合におけるオルタネータ負荷の制御と、点火時期の遅角制御との協調制御を、より適切に行うことができる。
また、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御を行う際に、バッテリ温度に応じてオルタネータ24の発電量を変化させ、この変化に伴うオルタネータ負荷の変化に起因するトルクダウンの制御量の変化を、点火時期の遅角制御によって補うことにより、バッテリ温度が低下し、充電効率が低下した場合においてバッテリ30に供給する電気の量を適切な電気量にしつつ、要求トルクを達成することができる。この結果、バッテリ温度が低下した場合におけるバッテリ30の充電量を確保しつつ、所望の運転状態を実現することができる。
また、オルタネータ24で発電した電気を効率よく充電できるバッテリ30の温度としてバッテリ最適温度を設定し、オルタネータ負荷調節部59は、バッテリ温度取得部92で取得したバッテリ温度がバッテリ最適温度より低くなった場合に、オルタネータ負荷を増加させるので、より確実に、バッテリ温度に応じて充電を行うことができる。つまり、バッテリ温度が低下した場合には、オルタネータ負荷を増加させるが、トルクダウンの制御時にオルタネータ負荷を増加させた場合、オルタネータ負荷の制御によるトルクダウンの制御量が増加するため、点火時期の遅角量も制御する必要がある。このため、バッテリ温度に対して、早い段階でオルタネータ負荷を増加させた場合、トルクダウンの制御量が大きくなり過ぎることを抑制するために、点火時期の遅角量の低減を、早い段階で行う必要がある。従って、バッテリ温度を考慮してトルクの制御を行う場合は、バッテリ温度取得部92で取得したバッテリ温度と、バッテリ最適温度とを比較し、取得したバッテリ温度がバッテリ最適温度より低くなったら、オルタネータ負荷を増加させることにより、点火時期の遅角制御とオルタネータ負荷の制御との協調制御によってトルク制御を行う機会を低減させることができる。この結果、バッテリ温度が低下した場合におけるバッテリ30の充電量の確保とトルクの制御とを、より適切に、且つ、容易に行うことができる。
また、エンジン10の冷間時は、触媒20の早期暖機を図るため遅角制御を行っているので、冷間時はトルクの制御を行うことを目的として遅角制御を行う場合の制御量が限られており、また、エンジン10の冷間時は、バッテリ30の温度も低くなっている。また、実施例3に係る車両制御装置90では、バッテリ温度が低下した場合、オルタネータ負荷を増加させると共に点火時期の遅角量を低減することにより、エンジン10の冷間時にバッテリ温度が低いことによる充電効率の低下に基づいて点火時期の遅角量を低減させるが、エンジン10の冷間時には、遅角制御の制御量も上述したように制限される。このため、この場合、エンジン10の冷間時の制御と、バッテリ温度が低いことにより充電効率が低下した場合の制御との双方の制御を、適切に行うことができる。この結果、バッテリ温度が低下した場合におけるバッテリ30の充電量の確保とトルクの制御、及びエンジン10の冷間時における運転制御を、より適切に、且つ、容易に行うことができる。
また、車両1の走行時における要求トルクと同じ大きさのトルクを、オルタネータ負荷を低減させた場合でもエンジン10から出力できる場合には、消費電力が少ないほどオルタネータ負荷を低減させ、この状態で要求トルクが低下した場合には、消費電力に関わらず、要求トルクに応じてオルタネータ負荷を増加させている。このように、オルタネータ負荷を低減させた場合でも要求トルクを実現できる場合には、予めオルタネータ負荷を低減させておくことにより、要求トルクが低下し、エンジン10から出力されるトルクを低下させるためにオルタネータ負荷を増加させる必要がある場合でも、より確実にオルタネータ負荷を増加させることができる。これにより、より確実に要求トルクを実現することができる。
また、点火時期を遅角させた場合、触媒20の温度が上昇するため、遅角制御を行った後は、所定の時間が経過するまでは再び遅角制御を行うことができない。このため、予めオルタネータ負荷を低減させて、オルタネータ負荷を増加させる際における余裕を持たせておくことにより、要求トルクが低下した場合に、点火時期の遅角制御をあまり行うことなく、オルタネータ負荷を増加させることによってトルクの制御を行うことができる。これにより、触媒20の温度の上昇を抑制しつつ、より確実に要求トルクを実現することができる。これらの結果、エンジン10からの出力を制御する場合におけるオルタネータ負荷の制御と、他の制御である点火時期の遅角制御との協調制御を、より適切に行うことができる。
なお、実施例2に係る車両制御装置80や実施例3に係る車両制御装置90での制御は、実施例1に係る車両制御装置2で実行可能な制御に関わらず、単独で実行してもよい。実施例2に係る車両制御装置80や実施例3に係る車両制御装置90での制御を、実施例1に係る車両制御装置2で実行可能な制御に関わらず単独で実行した場合でも、上述した各効果を得ることができ、エンジン10からの出力を制御する場合におけるオルタネータ24の負荷トルクの制御と他の制御との協調制御を、より適切に行うことができる。
また、実施例2に係る車両制御装置80では、要求駆動力の増大時において、エンジントルクが最大トルクに達した場合に、オルタネータ負荷を低下させる制御について説明しているが(図9参照)、要求駆動力が低下している場合にも、同様の制御を行ってもよい。つまり、要求駆動力が低下することによりエンジントルクを低下させる場合に、エンジントルクが、エンジン10で発生させることのできる最小のトルクである最小エンジントルクに達した場合には、オルタネータ負荷を増加させる。これにより、エンジン10から自動変速機35に出力されるトルクは低下するため、実際に発生する駆動力も低下する。即ち、エンジントルクが最小エンジントルクに達した場合には、オルタネータ負荷を増加させることにより、実際に発生させる駆動力を、現在の変速段で発生させることのできる最小の駆動力である最小発生駆動力以下の大きさにする。
このように、スロットル開度を調節することにより発生することができる駆動力を超える駆動力を発生させる場合、つまり、最大エンジントルク出力時の更なるトルクアップ要求や、最小エンジントルク出力時の更なるトルクダウン要求がある場合には、これらの要求に対して、スロットル開度の制御と、オルタネータ負荷の制御とを協調させて、トルク要求を実現する。これにより、変速タイミングを引き伸ばし、変速回数を減らすことができるので、変速時の変速ショックや、頻繁に変速が行われることによる変速ビジーの状態を抑制できる。この結果、要求駆動力をより確実に達成しつつ、車両1の走行時における快適性を向上させることができる。
また、実施例2に係る車両制御装置80では、エンジントルクが最大トルクや最小トルクに達した場合に、オルタネータ負荷を制御することにより、変速タイミングを引き伸ばしているが、エンジントルクが最大トルクや最小トルクに達した場合以外でも変速タイミングを引き伸ばす制御を行ってもよい。例えば、アクセル開度やアクセルペダル40の踏み込み速度等から、運転者の要求駆動力の変動が小さいと判断され、且つ、変速しなければトルクを実現できない場合に、オルタネータ負荷を制御することにより、要求駆動力を実現してもよい。これにより、変速による応答遅れや変速ショックを防止しつつ、微少な車両1のコントロールを行うことができる。なお、この場合、オルタネータ負荷を制御しても目標駆動力を達成できない場合、または、オルタネータ負荷の制御が所定の設定時間を越えて続いた場合は、自動変速機の変速を行う。
また、実施例2に係る車両制御装置80では、要求駆動力が変化している場合に、オルタネータ負荷の制御を行うことにより変速タイミングを引き伸ばす制御を行っているが、変速時におけるオルタネータ負荷を変化させる制御は、変速タイミングを引き伸ばす以外に用いてもよい。例えば、オルタネータ負荷の制御を、シフトダウン中のトルクのコントロールに用いてもよい。シフトダウンを行うときは、エンジン回転数を、変速後のエンジン10から駆動輪までの変速比と車速とに応じた回転数に上昇させる必要があるが、シフトダウン時には、このようにエンジン回転数を上昇させる必要があるため、このエンジン回転数の上昇にエンジントルクの大部分を使用してしまう。これにより、変速中に運転者が加速したいと思っても、運転者が要求するトルクをエンジンから出力できなくなってしまい、微妙なコントロールができなくなる場合がある。このため、このようなシフトダウン中にアクセルペダル40が踏まれ、運転者が要求するトルクが大きくなった場合には、オルタネータ負荷を低下させることにより、エンジン10から出力されるトルクを増加させる。これにより、スロットル開度のみでは制御できない領域、即ち、変速段が切り替わる際の短い時間でのトルクのコントロールを、オルタネータ負荷の制御により行うことができ、運転者の要求に応じた走行制御を行うことができる。
また、実施例3に係る車両制御装置90では、オルタネータ負荷を低減させた場合でも、要求トルクを実現できる場合はオルタネータ負荷を低減させることにより、オルタネータ負荷の制御量を確保しているが(図13参照)、このようにオルタネータ負荷を低減させるのは、オルタネータ24が最大限付近まで発電を行っている場合に行うと、より効果を得ることができる。つまり、オルタネータ24が最大限付近まで発電を行っている場合は、エンジン10から出力されるトルクを、オルタネータ負荷を増加させることにより低下させたい場合でも、オルタネータ負荷を増加させることができなくなる。このため、オルタネータ24が最大限付近まで発電を行っている場合には、一時的に発電量を減少させられるか否かをバッテリ電流に基づいて判断し、減少させられる場合は、トルクダウンの要求がある前に一時的に発電量を減少させる。即ち、一時的にオルタネータ負荷を減少させ、トルクダウンの要求があった場合に、オルタネータ負荷を増加させる。これにより、より確実に要求トルクを実現することができる。
また、実施例3に係る車両制御装置90で、オルタネータ24での発電量を一時的に減少させた後、トルクダウンの要求があった場合にオルタネータ負荷を増加させる場合において、オルタネータ負荷の制御と点火時期の遅角制御との協調制御を行うと共に遅角制御を短い間隔で行う場合には、遅角制御を行うことができない所定の設定時間を経過したら、発電量を徐々に戻す。つまり、点火時期の遅角制御は、触媒20保護の観点から、遅角後、短時間で再び遅角を行うことができないので、点火時期の遅角制御を行ったら、オルタネータ負荷を低減させて、オルタネータ負荷を増加可能な状態にスタンバイさせておく。その後、トルクダウンの要求があった場合に、オルタネータ負荷を増加させることによりトルクを低減させる制御を行い、遅角制御を行うことができない所定の設定時間を経過したら、オルタネータ負荷を徐々に低減させると共に点火時期の遅角量を徐々に増加させる。これにより、エンジン10からの出力を制御する場合におけるオルタネータ負荷の制御と、点火時期の遅角制御との協調制御を、より適切に行うことができる。
また、これらのように、オルタネータ24での発電量を一時的に減少させ、オルタネータ負荷を低下させた状態にすることにより、トルクダウン要求があった場合に確実にトルクを低下できるようにスタンバイをする制御を行う場合には、将来トルクダウン要求があるか否かを推測して行うことにより、より適切な制御を行うことができる。例えば、自動変速機35の変速時には、何秒後にトルクダウン要求があるかが予めわかるので、バッテリ電圧、即ち、消費電力を見ながら、オルタネータ24での発電量を低下させ、オルタネータ負荷を低減させても要求トルクを実現できる場合には、発電量を低下させておく。このように、将来的なトルクダウン要求を予測し、この予測に基づいてオルタネータ負荷を低減させる制御を行うことにより、より確実に要求トルクを実現することができる。
また、実施例1〜3に係る車両制御装置2、80、90による各制御、及び上述した各制御は、それぞれ組み合わせて用いてもよい。車両1に備えられる各装置の形態や、車両1を使用する際における態様に応じて制御を適宜組み合わせることにより、オルタネータ24の負荷トルクの制御と、点火時期の遅角制御などの他の制御とを、それぞれ適切に行うことができ、また、それぞれの制御を単独で行った場合と比較して、より大きな効果や、異質な効果を得ることができる。これにより、エンジン10からの出力を制御する場合におけるオルタネータ24の負荷トルクの制御と他の制御との協調制御を、より適切に行うことができる。