以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る燃料電池システムの制御装置が適用される燃料電池システムの構成例を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態の燃料電池システム1は、燃料ガスと酸化剤ガスとが供給されて電気化学反応により発電する燃料電池(燃料電池本体、燃料電池スタックとも呼ばれる)2と、燃料電池システム1の全体を制御するコントローラ(制御装置)3と、水素ガスを貯蔵する水素タンク4と、水素タンク4から供給される水素ガスの圧力を調整する水素圧力制御弁5と、水素タンク4から供給された水素ガスと、水素循環ポンプ6によって再循環してきた水素ガスとを混合し、燃料電池で消費されなかった水素ガスを再循環させる水素循環流路7と、燃料電池における反応で使用されない不純物を排出する水素パージ弁8と、水素タンク4内の温度を検出するタンク温度センサ9と、水素タンク4内の圧力を検出するタンク圧力センサ10と、燃料電池2のアノード入口における水素圧力を検出する水素入口圧力センサ11と、大気圧力を検出する大気圧力センサ12と、空気を加圧して燃料電池2のカソードに供給するコンプレッサ13と、コンプレッサ13から供給される空気の流量を検出する空気流量センサ14と、燃料電池のカソード入口における空気圧力を検出する空気入口圧力センサ15と、燃料電池における空気の圧力を制御する空気圧力制御弁16と、燃料電池2を冷却するための冷却液を循環させる冷却液循環ポンプ17と、燃料電池から排出された冷却液温度を検出する冷却液温度センサ18と、循環する冷却液を放熱させて冷却する熱交換器19と、冷却液が低温では循環ライン20に流れるように内蔵サーモスタットにより流路を切り替える三方弁21と、循環ラインの冷却液を加熱する電気ヒータ22と、燃料電池2によって発電される電力を制御する電力制御装置23と、2次電池24と、2次電池内部の温度を検出する温度センサ25とを備えている。
燃料電池2には、アノードに燃料ガスである水素ガスが供給され、カソードに酸化剤ガスである空気が供給されて以下に示す電気化学反応によって発電が行われている。
[アノード(燃料極)] :H2 → 2H+ + 2e- (化1)
[カソード(酸化剤極)]:2H+ + 2e- + (1/2)O2 → H2O (化2)
また、燃料電池2のアノードに水素を供給する水素供給系では、水素タンク4に水素が貯蔵されており、この水素タンク4内の温度及び圧力はそれぞれタンク温度センサ9とタンク圧力センサ10によって測定される。そして、水素タンク4から供給された高圧の水素ガスは水素圧力制御弁5によって圧力が制御されて燃料電池2に供給される。
燃料電池2から排出された未反応の水素は、水素循環ポンプ6及び水素循環流路7により水素圧力制御弁5の下流へ循環される。この循環された水素は、水素圧力制御弁5によって圧力調整された水素と混合され、混合された水素が燃料電池2に供給される。
燃料電池2のアノード入口における水素の圧力は、水素入口圧力センサ11によって検出され、コントローラ3に送信される。そして、水素入口圧力センサ11で測定された圧力に基づいて水素圧力制御弁5の制御が行われる。また、燃料電池2から排出された水素は、通常、水素パージ弁8を閉じておくことにより水素循環流路7へ流れるようになっている。ただし、燃料電池2内に水溢れ(フラッディング)等が発生した場合や、燃料電池2の水素循環系に窒素などの不純物ガスの蓄積懸念がある場合、もしくは、燃料電池2の運転圧を低下させる場合などには、水素パージ弁8は開放されて水素循環流路7及び燃料電池2内に存在する水素は排出される。
ここで、燃料電池2の運転圧力は可変圧である。即ち、燃料電池2から取り出される出力や温度によって燃料電池2へ供給する空気圧力及び水素圧力を適切に設定している。一方、酸化剤ガスである空気を供給する空気供給系では、コンプレッサ13が外気から空気を吸入し、吸入した空気を加圧して送出している。送出された空気は空気流量センサ14で計量された後に空気供給流路へ送られ、燃料電池2のカソードへ供給されている。このとき、燃料電池2のカソード入口における空気の圧力を空気入口圧力センサ15によって検出し、検出された圧力に基づいて空気圧力制御弁16の開度をコントローラ3が制御している。
また、燃料電池2を冷却する冷却系では、燃料電池2を冷却するための冷却液が冷却液循環ポンプ17によって循環されており、燃料電池2の熱を吸収して暖められた冷却液は冷却液温度センサ18によって温度が計測された後に熱交換器19へ送られ、熱交換器19で放熱して冷却されている。さらに、冷却液温度が所定温度以下ではサーモスタットを具備する三方弁21が冷却液流路を循環ライン20に切り換える機構を備え、コントローラ3によって電気ヒータ22の出力を可変で制御することによって、冷却液を温める。さらに、燃料電池2の発電電流、発電電圧は電力制御装置23内部にある電流センサ、電圧センサにて検出されてコントローラ3に出力されている。さらに、2次電池24の電流、電圧においても、電力制御装置23内部にある電流センサ、電圧センサにて検出されてコントローラ3に出力されている。また、2次電池内部の温度についても、温度センサ25にて検出されてコントローラ3に出力されている。
また、燃料電池2から取り出される発電電力は、電力制御装置23によって制御される。この電力制御装置23は昇降圧型のDC/DCコンバータであり、燃料電池2とモータなどの外部負荷との間に配置されて燃料電池2の発電電力を制御している。このDC/DCコンバータでは、昇圧変換と降圧変換のときにはそれぞれ動作させるスイッチング素子が異なっており、スイッチング素子へ加える制御信号のデューティ比に応じて所望の電圧を出力させることができる。したがって、昇圧時には入力電圧以上の電圧を出力するようにスイッチング素子が制御され、降圧時には入力電圧以下の電圧を出力するようにスイッチング素子が制御されている。
また、コンプレッサ13、水素循環ポンプ6、電気ヒータ22、冷却液循環ポンプ17を含む燃料電池2の補機については、2次電池24から電源が供給されている構成とする。また、コントローラ3は上述したすべてのセンサからの出力を受信し、コンプレッサ13や水素パージ弁8などを駆動するアクチュエータに対して駆動信号を出力している。さらに、コントローラ3は燃料電池システム1に対して以下に示す発電制御処理を実施している。
次に図2を参照して、コントローラ3(燃料電池システムの制御装置)の要部構成について説明する。コントローラ3は、補機消費電力パラメータから補機消費電力を演算する補機消費電力演算部30と、2次電池24の状態パラメータから2次電池の充放電能力を演算する2次電池充放電能力演算部31と、補機消費電力と2次電池充放電能力とに基づいて、燃料電池2にて発電可能な上限発電電力及び下限発電電力を算出する上下限発電電力演算部32と、燃料電池2の発電電流及び発電電圧である燃料電池スタックパラメータに基づいて燃料電池2が発電している電力を実発電電力として算出する実発電電力演算部34と、上限発電電力と下限発電電力との範囲内で燃料電池2を解凍させるための発電電力を制御する発電電力制御部35と、上限発電電力と下限発電電力との範囲内に実発電電力を収めるように燃料電池2の補機消費電力を調整する補機消費電力調整部36とを備えている。
上記構成の本発明によれば、上限発電電力と下限発電電力の範囲内に設定した目標発電電力を燃料電池に発電させて、この発電電力を電力吸収手段に吸収させることにより、凍結温度以下での燃料電池特性が不確定な状態においても、上限発電電力、下限発電電力の範囲内での発電を実現することが可能となり、確実に燃料電池を解凍させ燃料電池システムを起動させることができるという効果がある。
補機消費電力演算部30へ入力する補機消費電力パラメータは、電気ヒータ22、コンプレッサ13、水素循環ポンプ6、冷却液ポンプ17などの燃料電池の補機の電圧及び消費電流、或いは、回転速度やトルク等である。これらの補機は、例えば、それぞれに供給される電圧と、それぞれが消費する電流を検出するセンサを内蔵し、検出された電圧値及び消費電流値をコントローラ3へ送信している。尚、電圧センサ及び電流センサに代えて、回転速度及びトルクを検出するセンサを備えていてもよい。
補機消費電力パラメータとして、回転速度及びトルクが補機消費電力演算部30へ入力される場合には、補機消費電力演算部30は、回転速度及びトルクから補機消費電力を計算する計算式或いは計算マップを備えているものとする。この計算式或いは計算マップは、予めそれぞれの補機について、利用範囲の回転速度及びトルクについて消費電力を測定し、測定結果から計算式或いは計算マップを作成して、補機消費電力演算部30に保持しておくものとする。
2次電池24の温度は温度センサ25で検出されて、2次電池状態パラメータとして、コントローラ3の2次電池充放電能力演算部31へ入力されている。また電力制御装置23が検出する2次電池24の電圧及び電流は、2次電池状態パラメータとして、コントローラ3の2次電池充放電能力演算部31へ入力されている。
燃料電池2の発電電圧及び発電電流は、電力制御装置23で検出され、これらの検出値は、燃料電池スタックパラメータとしてコントローラ3の実発電電力演算部34へ入力している。
これら各部からなるコントローラ3は、例えば中央演算ユニット(CPU)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、及び入出力インターフェース(I/Oインターフェース)を有するマイクロコンピュータによって構成することができる。
次に図3のフローチャートを参照して、本実施形態のコントローラ3による制御処理を説明する。ただし、このフローチャートは所定時間周期(例えば10msec周期)で実行されている。
図3に示すように、まずステップS301において、燃料電池2が凍結温度以下の状態か否かを判定し、ステップS302において、燃料電池2が凍結か否かを判別する凍結フラグが1の場合は、ステップS303において、燃料電池2を発電することで解凍させるオペレーションを実施する。一方、凍結フラグが0の場合は、ステップS304において、燃料電池2が解凍したと判断し、燃料電池2の通常発電を実施し、制御処理を終了する。
次に上述したステップS301〜S304の各ステップにおいて実施される処理の詳細について説明する。まず、ステップS301における燃料電池凍結判定を図4のフローチャートに基づいて説明する。まず、ステップS401において、燃料電池2の温度を検出する。例えば、冷却液温度センサ18にて温度を検出し、実験、および、シミュレーション結果などより決定した、燃料電池と冷却液温度センサ18との位置誤差、および、冷却液温度センサ18自体の誤差分を、冷却液温度センサ18に対して加味した温度を燃料電池2の温度として決定する。
次にステップS402において、S401で求めた燃料電池2の温度と、凍結温度閾値を比較し、燃料電池2の温度が、凍結温度閾値より小さければ、燃料電池2が凍結している可能性があると判断し、S403にて、凍結フラグに1を代入する。一方、燃料電池2の温度が、凍結温度閾値以上ならば、燃料電池2が凍結していないと判断し、S404にて、凍結フラグに0を代入し、燃料電池凍結判定の処理を終了する。
次に、ステップS303における燃料電池解凍発電を図5のフローチャートに基づいて説明する。まず、ステップS501において、補機消費電力パラメータを検出する。ここでは、燃料電池2の各補機の電流、電圧であり、ポンプやコンプレッサなどであれば、回転数や、トルクなどで代用しても良い。次に、ステップS502において、2次電池状態パラメータを検出する。ここでは、2次電池24の電流、電圧、温度である。
次いで、ステップS503では、ステップS501で検出した補機消費電力パラメータに基づいて実補機消費電力の算出を行う。ここでは、補機の電流、電圧を補機消費電力パラメータとして検出できるものは、電流、電圧を乗じて、補機消費電力を算出する。また、電流、電圧を直接検出できないものは、例えば、ポンプ、コンプレッサにおいて、回転数、トルクを検出できる場合は、回転数、トルクを乗じ、加えて、モータ・インバータ間の損失電力を無視できないものは、図7のような、回転数とトルクを入力とした3次元マップを用いて損失電力を出力して、回転数、トルクを乗じた消費電力に加味してもよい。損失電力の3次元マップは、出荷検査時などに予め損失電力を計測することで値を求める。そして、各補機の消費電力の総和を、実補機消費電力として算出する。
次いで、ステップS504では、ステップS502で検出した2次電池状態パラメータに基づいて2次電池24の充放電能力の演算を行う。ここでは、ステップS502で検出した2次電池状態パラメータを用いて、2次電池に充放電させてもよい電力を演算するステップである。例えば、図8、図9のような2次電池24の電圧と温度を入力とした3次元マップを用いて、2次電池が充電可能な電力、放電可能な電力を検索して求める。図8、図9の3次元マップは、出荷検査時などに予め充放電可能な電力を計測することで値を求める。また、ここでは2次電池24の電圧、電流を乗じて算出した実充放電電力に基づいて、図8、図9の出力を補正する構成を追加してもよい。
次に、ステップS505において、ステップS503で演算した補機消費電力、および、ステップS504で演算した2次電池充放電能力に基づき、燃料電池2で発電可能な上限発電電力及び下限発電電力の算出を行う。次に、ステップS506において、燃料電池状態パラメータを検出する。この燃料電池状態パラメータは、燃料電池2の発電状態を表すパラメータであり、例えば、燃料電池2の実発電電流及び実発電電圧である。また、燃料電池状態パラメータとして燃料電池2のセル毎の電圧値を追加で検出してもよい。
次に、ステップS507において、ステップS505で求めた上限発電電力、下限発電電力、ステップS503で求めた補機消費電力に基づき、燃料電池2を発電することで解凍させる際の目標発電電力の算出を行う。次に、ステップS508において、ステップS507で求めた目標発電電力に基づいて燃料電池2の発電制御を行う。次にステップS509にて、ステップS505で求めた上限発電電力、下限発電電力、ステップS507で求めた目標発電電力、S508で発電制御した結果の実発電電力の値に基づいて、上限発電電力と下限発電電力との範囲内に確実に実発電電力が入るように補機消費電力を調整する。
次に、ステップS505における燃料電池2で発電可能な上限発電電力、下限発電電力を算出する上下限発電電力演算を図6のフローチャートに基づいて説明する。まず、ステップS601において、燃料電池2を発電して解凍させる際の上限発電電力の算出を行う。ここでは、ステップS503で算出した補機消費電力に、ステップS504で算出した2次電池充電可能電力を加算したものを上限発電電力とする。ここでは、補機消費電力を算出する際のセンサノイズ、過渡的な値の変動を考慮して、低域通過フィルタを透過した値、もしくは、固定値を減算した値を上限発電電力としてもよい。
次に、ステップS602において、燃料電池2を発電して解凍させる際の下限発電電力の算出を行う。ここでは、ステップS503で算出した補機消費電力から、ステップS504で算出した2次電池24の放電可能電力を減算したものを下限発電電力とする。ここでは、補機消費電力を算出する際のセンサノイズ、過渡的な値の変動を考慮して、低域通過フィルタを透過した値、もしくは、固定値を加算した値を下限発電電力としてもよい。
次に、ステップS507における燃料電池2で発電することで解凍を実施する際の目標発電電力を算出する目標発電電力演算を図10のフローチャートに基づいて説明する。まず、ステップS1001において、目標充電電力を0にリセットする。次に、ステップS1002において、後述する目標充電電力の算出、および、目標発電電力を算出する際の1次遅れフィルタのカットオフ周波数を決定する変数である中間変数1を、ステップS503にて算出した上限発電電力に対して補機消費電力を減算することで算出する。ここで、上限発電電力は、S601で補機消費電力と2次電池充電能力との和として計算されている場合には、中間変数1は、2次電池充電能力そのものとなる。
次に、ステップ1003において、後述する目標発電電力を算出する際の1次遅れフィルタのカットオフ周波数を決定する変数である中間変数2を、ステップS503にて算出した補機消費電力に対して下限発電電力を減算することで算出する。ここで、下限発電電力は、S602で補機消費電力から2次電池放電能力を減じたものとして計算されている場合には、中間変数2は、2次電池放電能力そのものとなる。
次に、ステップS1004において、ステップS502にて検出した2次電池電圧が2次電池電圧閾値以下かどうか判定する。ここで、2次電池電圧閾値は、燃料電池システム1を正常に動作できる2次電池電圧の上限値以下の値を設定する。或いは2次電池電圧閾値は、2次電池24の充電完了判断電圧としてもよい。2次電池電圧が2次電池電圧閾値以下であれば、ステップS1005に遷移し、そうでなければ、ステップS1007に遷移する。
次に、ステップS1005にて、後述する目標充電電力を決定する補正係数1を算出する。ここでは、図11のようなステップ502で検出した2次電池電圧を入力とする2次元マップを用いて、補正係数1を出力する。図11の補正係数1の2次元マップの設定方法として、2次電池電圧が2次電池電圧閾値に近づけば近づくほど、上限値を1以下として0にしていくような設定とする。
図11に示した補正係数1は、2次電池24の電圧が所定値より低い間は補正係数の値が1となり基本充電電電力で2次電池24を充電し、2次電池24の電圧と2次電池電圧閾値との差が所定値に達したときに、以後の目標充電電力を2次電池電圧と2次電池電圧閾値との差が小さいほど目標充電電力を直線的に小さくする通常の充電方法である。2次電池電圧閾値及び所定値は、使用する2次電池の特性に合わせて2次電池供給元から提供される値を使用するのが好ましい。また、2次電池24の温度により補正係数1を修正してもよい。
次に、ステップS1006にて、2次電池24に充電させる目標充電電力を、ステップS1001で算出した中間変数1と、ステップS1005で算出した補正係数1を乗算することにより算出する。
次に、ステップS1007において、後述する目標発電電力を算出する際の1次遅れフィルタのカットオフ周波数を決定する変数である中間変数3を、ステップS1001、S1002で算出した中間変数1、中間変数2の値の最小値として算出する。
次に、ステップS1008において、後述する目標発電電力を決定する中間変数4を、ステップS503で算出した補機消費電力と、ステップS1006で算出した目標充電電力を加算することで求める。このように2次電池電圧が2次電池電圧閾値より低い場合には、目標発電電力を補機消費電力と目標充電電力との和としているので、2次電池電圧を回復させながら、短時間で燃料電池2の解凍を行うことができるという効果がある。
次に、ステップS1009において、後述する目標発電電力を算出する際の1次遅れフィルタのカットオフ周波数を決定する。ここでは、図12のようにステップS1003で算出した中間変数3を入力とする2次元マップを用いて、1次遅れフィルタのカットオフ周波数を出力する。ここでは中間変数3が小さいほど、カットオフ周波数を低い値となるように設定する。すなわち、上限発電電力、下限発電電力いずれか一方に対して、補機消費電力との偏差の絶対値が小さいほど、目標発電電力の応答が遅くなるように1次遅れフィルタのカットオフ周波数を決定する。
このような目標発電電力の応答特性の設定により、補機消費電力が上限発電電力又は下限発電電力に近づいて、2次電池24の充放電能力による偏差電力の吸収幅が小さく、変動吸収が困難になる場合には、目標発電電力の応答が遅くなっているので、実発電電力を容易に目標発電電力に追従させ、実発電電力が上限発電電力及び下限発電電力の範囲を超えることを回避することができるという効果がある。
次に、ステップS1010において、ステップS1009にて算出したカットオフ周波数に応じたフィルタ係数にて構成される1次遅れフィルタを中間変数4に作用させて、目標発電電力を出力する。ここでは、ステップS1009、ステップS1010において1次遅れとして例を挙げたが、2次遅れフィルタ、移動平均フィルタなどのバンド幅を、中間変数4に応じて可変とする低域通過フィルタを用いてもよい。
次に、ステップS506における発電制御を図13の制御ブロック図を用いて説明する。まず、演算器1301において、発電制御器1303のフィードバックゲインを決定するための入力を演算する。ここでは、まず、ステップS504で検出した燃料電池2の発電電流、および、発電電圧を乗じて燃料電池で実際に発電されている電力である実発電電力を算出する。
次に、ステップS503で算出した上限発電電力に対して実発電電力を減算した値ΔPWRMAX、および、実発電電力に対してステップS503で算出した下限発電電力を減算した値ΔPWRMIN、および、燃料電池2の発電電流STKCを入力として用いる。次に、減算器1302において、ステップS505で算出した目標発電電力に対して実発電電力が一致するように、発電制御器1303に、目標発電電力に対して、実発電電力を減算した値ΔPWRを入力する。
次に、発電制御器1303において、電力制御装置23に指令する操作量USTKCを決定する。この操作量USTKCは、燃料電池2から電力制御装置23が取り出す電流値である。
まず、発電制御器1303で用いるフィードバックゲインの演算方法を説明する。ここでは、フィードバックゲインを演算する一例としてファジィ推論を用いた方法について説明する。ここで、フィードバックゲインを可変で設定しなければならない理由として、水の凍結温度以下の温度での燃料電池2の発電特性は、セル流路の水詰まり等によるガス拡散性能低下等により、非凍結時以上に不確定であること、かつ、非線形要素が強いことから、モデル規範制御によるフィードバックゲインの設計手法を用いることが困難であるため、発電電力の過渡応答性に着目してフィードバックゲインを可変にする必要があると考えた。
通常、制御系のフィードバックゲインを可変とすると、フィードバックゲインの切替時に、制御系がオーバーシュートしたり振動が生じたりして、好ましくない挙動が現れることがある。しかし本実施例は、フィードバックゲイン制御にファジィ推論を用いて実発電電力の制御を行うことにより、比較的簡易な構成でフィードバックゲインの切り替えを滑らかに実施することができるという効果がある。
このため、発電制御器1303は、ファジィ推論によるフィードバックゲイン演算部1307と、目標発電電力と実発電電力との偏差ΔPWRにフィードバックゲインを乗じる乗算器1308と、積分器1310と、最小選択器1313と、最大選択器1314と、上限制限発電電力演算部1311と、下限制限発電電力演算部1312とを備えている。
次に、フィードバックゲインの設定方法を詳細に説明する。まず、演算器1301で算出したΔPWRMAX、ΔPWRMIN、燃料電池2の出力電流値STKC、および、減算器1302で算出したΔPWRを、入力前件部変数として、フィードバックゲイン演算部1307へ入力する。ファジィ推論を用いたフィードバックゲイン演算部1307における前件部メンバーシップ関数を図14〜図17に、最終的に出力となるフィードバックゲインを決定する後件部メンバーシップ関数を図18に示し、その数値の一例を示す。
前件部メンバーシップ関数は、零(ZERO)、負(NEGATIVE)、正(POSITIVE)各々を0から1の値を取る台形関数として設定する。例えば、図14において、ΔPWRの値が0であれば、ΔPWRがPOSITIVE(以下Pとも略す)であるグレード数(確からしさ)が0.5であり、且つΔPWRがNEGATIVE(以下Nとも略す)であるグレード数が0.5である。例えば、図14において、ΔPWRの値が1.5であれば、ΔPWRがPOSITIVEであるグレード数が0.75であり、且つΔPWRがNEGATIVEであるグレード数が0.25である。
例えば、図15において、ΔPWRMAXの値が2.0であれば、ΔPWRMAXがZEROであるグレード数が0.75であり、且つΔPWRMAXがPOSITIVEであるグレード数が0.25である。
ここで、図17のSTKCに基づく前件部メンバーシップ関数でのSTKCMAXは、水の凍結温度以下の温度においても燃料電池2を継続して安定して発電可能な燃料電池2の出力電流値を実験的に求め、これに基づいて決定する。後件部メンバーシップ関数は、図18に示すようにファジィシングルトンを用いた簡略化した構成を用いる。この前件部メンバーシップ関数及び後件部メンバーシップ関数に基づいて、フィードバックゲインFZGAINを決定する制御規則表を図19(a)〜(d)に示す。
次に、制御規則表の見方及び制御規則表に基づく計算を説明する。例えば、図19(a)のルール1は、ΔPWRがP、且つSTKCがP、且つΔPWRMINがZ、且つΔPWRMAXがPのとき、POSITIVE1(P1)を選択するというルールである。
この4条件のANDによるルール1により計算されるP1のグレード数は、[ΔPWRがPであるグレード数]×[STKCがPであるグレード数]×[ΔPWRMINがZであるグレード数]×[ΔPWRMAXがPであるグレード数]である。このように、ファジィ制御における条件のANDの結果は、変数及び関数が0(偽)又は1(真)の値をとるブール代数の積ではなく、各条件のグレード数の総乗の値となる。
以下、図19のルール16までの各ルールについて、ルール1と同様に、ZERO(表中ではZ)、POSITIVE1(表中ではP1)、POSITIVE2(表中ではP2)を算出する。次に図19のルール1〜16に基づいて算出した、ZERO(Z)、POSITIVE1(P1)、POSITIVE2(P2)の各グレード数を合計する。次いで、ZERO、POSITIVE1、POSITIVE2として求めたそれぞれのグレード数を図18の3本の棒グラフの長さにに置き換えて、3本の棒の重心点を求め、重心点のFZGAINの数値へデファジィ化する。こうしてフィードバックゲインFZGAINの数値を決定する。
そして減算器1302で算出したΔPWR値に、フィードバックゲインFZGAIN値を乗じ、積分器1310を通して一次遅れを施して、電力制御装置23の仮操作量USTKC1を算出する。次いで、仮操作量USTKC1を最小選択器1313で上限制限発電電力値に制限し、最大選択器1314で下限制限発電電力値に制限して、電力制御装置23へ出力する最終的な操作量USTKC値を算出する。
ここでは、補機消費電力パラメータを入力として、上限制限発電電力演算部1311及び下限制限発電電力演算部1312により、上限制限発電電力及び下限制限発電電力をそれぞれ算出する。例えば、上限制限発電電力とは、現時点の発電を継続した場合に、燃料電池2の電解質膜が必要以上に乾燥しない値に設定する。また、下限制限発電電力とは、現時点の発電を継続した場合に、燃料電池2の電解質膜を必要以上に加湿しない値に設定する。ここでは加えて、燃料電池2を安定して発電できる発電電圧以下にならないように制限を加えてもよい。次に、上限制限発電電力、下限制限発電電力を上下限として、電力制御装置23への操作量USTKCの積分器ワインドアップを防止する。
次に、図13の発電制御器1303のフィードバックゲイン演算部1307における図19のルール1〜16の特徴的な過渡応答について述べる。ルール9〜14については、通常時のフィードバックゲインPOSITIVE1(P1)の値よりも大きな値であるフィードバックゲインPOSITIVE2を採用している。
このような大きなフィードバックゲインPOSITIVE2(P2)を採用している理由について、ルール9〜12と、ルール13及び14とに分けて説明する。
図19(a)、(b)より、ΔPWR=Pの場合、ΔPWRMAX=Pのときのルール1〜4がP1であるのに対して、ΔPWRMAX=Nのときのルール9〜12は、P2である。これは言い換えれば、上限発電電力に実発電電力が近づくほど、実発電電力の制御ゲインを大きくして、実発電電力を目標発電電力に近づけるように制御する制御速度を高くすることに相当する。これにより、凍結温度以下の燃料電池の電流電圧特性が不安定な状態において、例えば凍結した水が解凍して燃料電池電流電圧特性が急上昇し、燃料電池電圧が急上昇したような場合にも、迅速に燃料電池の実発電電力を低下させて、上限発電電力を超えることがないように制御することができるという効果がある。
図19(d)より、ΔPWR=N、且つSTKC=Zの場合、ΔPWRMIN=Pのときのルール7,8がP1であるのに対して、ΔPWRMIN=Zのときのルール13,14は、P2である。これは言い換えれば、実発電電力が目標発電電力より大きく、且つ発電電流が小さい場合、下限発電電力に実発電電力が近づくほど、実発電電力の制御ゲインを大きくして、実発電電力を目標発電電力に近づけるように制御する制御速度を高くすることに相当する。これにより、凍結温度以下の燃料電池の電流電圧特性が不安定な状態において、例えば生成水が凍結してガス拡散性が低下したりして、燃料電池電圧が急低下したような場合にも、迅速に燃料電池の実発電電力を増加させて、下限発電電力を下回ることがないように制御することができるという効果がある。
また、図19(c)より、ΔPWR=N、且つSTKC=Pの場合、ΔPWRMIN=Pのときのルール5,6がP1であるのに対して、ΔPWRMIN=Nのときのルール15,16は、Zである。これは言い換えれば、実発電電力が目標発電電力より大きく、且つ発電電流が大きい場合、下限発電電力に実発電電力が近づくほど、実発電電力制御のフィードバックゲインを小さくして、実発電電力を目標発電電力に近づけるように制御する制御速度を低くすることに相当する。これにより、凍結温度以下の燃料電池の電流電圧特性が不安定な状態において、例えば燃料電池から電流を取り出すことによる燃料電池電圧の降下が生じた場合にも、緩やかに燃料電池からの取り出し電流を減少させて取り出し電流の増減による制御系の振動を抑制することができるという効果がある。
次に図20のフローチャートを参照して、図5のステップS509において、燃料電池2で発電する際の補機消費電力を調整する方法を説明する。
まず、ステップS2001において目標空気流量の設定を行う。ここでは予め設定した固定電流値に基づいて、図21に示す2次元マップを用いて目標空気流量を算出する。この2次元マップは、燃料電池2の内部で局所的な空気供給不足が起きないような空気利用率となるように設定されている。
次いで、ステップS2002において目標圧力設定を行う。ここでは、例えば燃料電池2の耐圧を許容できる最大値に設定する。そして、ステップS2003において、ステップS2001で算出した目標空気流量と、ステップS2002で算出した目標圧力、および、大気圧力センサ12に基づいて、図22に示す3次元マップを用いてコンプレッサ指令回転数を算出する。なお、このマップデータは、コンプレッサの回転数と圧力比に対する空気流量の特性に基づいて設定されている。また、ここで算出したコンプレッサ指令回転数は、コントローラ3からコンプレッサ13の駆動回路に対して指示されて、コンプレッサ13が指令回転数に従って駆動される。
次いで、ステップS2004において、水素循環ポンプ6の回転数の設定を行う。ここでは、ステップS2001で設定した固定電流に基づいて、図23に示す2次元マップを用いて水素循環ポンプ回転数を算出する。この2次元マップは、燃料電池2の内部で局所的な水素供給不足が起きないような水素利用率となるように設定されている。なお、ここで算出した水素循環ポンプ指令回転数は、コントローラ3から水素循環ポンプ6の駆動回路に対して指示されて、水素循環ポンプ指令回転数に従って駆動される。
次いで、ステップS2005において、ステップS506で検出した燃料電池2の発電電流および発電電圧を乗じて、燃料電池2で実際に発電されている電力である実発電電力を算出する。次に、ステップS2006において、後述する補機消費電力の調整量を決定するために用いる中間変数5の算出を行う。ここでは、ステップS507で算出した目標発電電力に対して、ステップS2005で算出した実発電電力を減算した値を中間変数5とする。
次いで、ステップS2007において、後述する補機消費電力の調整量を決定するための入力である補機増加参考値を求める。ここでは、ステップS2006で算出した中間変数5に基づいて、図24に示す2次元マップを用いて補機増加参考値を算出する。ここで、図24に示すように補機増加参考値の正負が切り替わる電力閾値を、ステップS505で算出した下限発電電力から、ステップS507で算出した目標発電電力までの範囲内になるように設定する。また、電力閾値に近づくほど0に近い値を設定することで、補機消費電力の調整による発電電力の振動を抑制する。
次に、ステップS2008において、補機消費電力の調整を行う。ここでは、燃料電池2での実発電電力を継続しても安定して発電可能な補機動作点を確保できるように、電気ヒータ22の出力、目標圧力、コンプレッサ13の指令回転数、水素循環ポンプ6の指令回転数、冷却液ポンプ17の指令回転数のいずれか1つ以上の補機消費電力を用いて決定する。
ここでは、燃料電池の水素圧力及び空気圧力の目標である目標運転圧力を調整することにより、コンプレッサ13の消費電力を変化させて補機消費電力を調整する方法を説明する。このように目標空気圧力の調整を目標空気流量の調整よりも優先させると、空気供給装置であるコンプレッサ13の音響振動の変化が少なく、燃料電池システムの使用者に違和感を与えることがないという効果がある。
まず、ステップS2007にて算出した補機増加参考値に基づいて、図25に示すような目標運転圧力を調整する2次元マップを用いる。ここで算出した目標運転圧力調整値を、現在の目標運転圧力の値に対して加算することで、燃料電池2の空気入口圧力を調整により、コンプレッサ13の消費電力を調整することが可能となる。
コンプレッサ13の消費電力は、コンプレッサ13が供給する空気圧力が高いほど大きくなるので、空気圧力の調整により補機消費電力を調整することができる。ここでは、その後、燃料電池2を継続して安定して発電できる上下限値で目標運転圧力を制限する。ここで上限値は、例えば、ステップS2002で算出した目標圧力として、下限値は、ステップS506で検出した燃料電池2の発電電流に必要な水素供給を実施できるだけの目標圧力として設定する。
また、ここで算出した目標運転圧力に基づいて、水素圧力制御弁5を操作することによってアノードの水素圧力を制御している。このとき、水素圧力制御弁5の操作は、水素入口圧力センサ11で検出された燃料電池2の水素圧力と目標ガス圧力との差に基づいてF/B制御を行なって水素圧力制御弁5の指令開度を決定し、実行されている。なお、このF/B制御は、PID制御やモデル規範型制御など一般的によく知られているその他の方法によって構成することもできる。
また、ここで算出される水素圧力制御弁5の指令開度は、コントローラ3から水素圧力制御弁5の駆動回路に対して指示されて、水素圧力制御弁5が指令開度に従って駆動される。また、同じように、ここで算出した目標運転圧力に基づいて、空気圧力制御を行う。この空気ガスの圧力制御では、空気圧力制御弁16を操作することによって空気圧力の制御を行う。空気圧力制御弁16の操作は、空気入口圧力センサ15で検出した燃料電池2の空気圧力と目標空気圧力との差に基づいてF/B制御を行なって空気圧力制御弁16の指令開度を決定して、実行されている。
なお、このF/B制御は、PID制御やモデル規範型制御など一般的によく知られている方法により構成することができる。また、ここで算出された空気圧力制御弁16の指令開度は、コントローラから空気圧力制御弁16の駆動回路に対して指示されて、空気圧力制御弁16が指令開度に従って駆動されることになる。
1…燃料電池システム、2…燃料電池、3…コントローラ(燃料電池システムの制御装置)、4…水素タンク、5…水素圧力制御弁、6…水素循環ポンプ、7…水素循環流路、8…水素パージ弁、9…タンク温度センサ、10…タンク圧力センサ、11…水素入口圧力センサ、12…大気圧力センサ、13…コンプレッサ、14…空気流量センサ、15…空気入口圧力センサ、16…空気圧力制御弁、17…冷却液循環ポンプ、18…冷却液温度センサ、19…熱交換器、20…循環ライン20、21…三方弁、22…電気ヒータ、23…電力制御装置、24…2次電池、25…温度センサ25。