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JP5309576B2 - ガス分解素子 - Google Patents

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Description

本発明は、ガス分解素子に関し、より具体的には、臭気ガスを電気化学反応によって分解し、無臭化するためのガス分解素子に関するものである。
空気中に含まれる臭気成分を電気エネルギーによって分解するために、水素イオン導電性の電解質層をはさむように位置させた電極にガス導入経路を設け、これら電極に電圧を印加することで臭気ガスを分解する臭気除去装置の提案がなされている(特許文献1)。上記の臭気除去装置によれば、両電極間に電圧を印加して、アノード反応によって、アセトアルデヒド等の臭気ガスを分解して無臭化することができる。この臭気除去装置において、水素イオン(プロトン)伝導性の固体電解質にイオン伝導性樹脂を用いた例が、開示されている。
上記イオン伝導性樹脂は、「パーフルオロカーボン系陽イオン交換性ポリマー」の一般名で呼ばれる高分子樹脂である。以後の説明では、パーフルオロカーボン系を「PFC系」とし、また電解質について用いる場合は「陽イオン交換性」などは省略して「陽イオン交換性ポリマー」は、単に「ポリマー」または「高分子」と記す。したがって、たとえば、パーフルオロカーボン系陽イオン交換性ポリマーは、電解質に用いる場合は、「PFC系ポリマー」または「PFC系高分子」と記す。また、とくに断らないかぎり、イオンは正負のイオンとするが、本発明では、文脈から陽(正)イオン、とくにプロトンと解することができる場合が多い。
上記PFC系高分子は、疎水性のパーフルオロアルキル基を主鎖骨格に、一部のパーフルオロビニルエーテル側鎖の末端にイオン交換基を有する構造をもつ高分子である。PFC系高分子膜は、たとえば容易にイオン交換基に変換できる−SO2Fまたはカルボン酸エステルを有するパーフルオロカーボン系ポリマーを膜状に押出し成形した後、加水分解等を行いイオン交換基を導入することにより製造することができる。イオン交換基にスルホン酸基やカルボン酸基を用いたPFC系ポリマー膜として、デュポン社製の商品名(登録商標)「ナフィオン」、旭硝子(株)社製の「フレミオン」、徳山曹達(株)社製の「ネオセプタ」等がある。上記のナフィオンは、テトラフルオロエチレンとパーフルオロスルホニルエトキシビニルエーテルとの共重合体を、加水分解したパーフルオロアルキル系陽イオン交換性ポリマーである。
上記のPFC系高分子は、もっぱら固体燃料電池の固体電解質用に使用が検討されてきた。PFC系高分子膜を燃料電池の固体電解質に用いた例として、薄膜化しながら繰り返し使用後のPFC系高分子膜の強度を確保するために、フッ素樹脂微粒子を補強に用いた例が開示されている(特許文献2)。この特許文献2では、PFC系ポリマーが湿潤下で強度が低下し、とくに薄膜化された状態で乾湿繰り返しの後の湿潤下での強度低下を改善するために、PFC系ポリマーにフッ素樹脂微粒子を分散させて強化をはかる方法が示されている。このような構造を持つことにより、薄膜、湿潤下で強度の補強を得ることができ、また、電気発生反応箇所の均質性をも得ることができる。
燃料電池と原理が類似する臭気除去装置においても、固体電解質に用いられる材料にはイオン伝導性が求められ、上記特許文献1においてもPFC系高分子を用いた固体電解質が開示されている。燃料電池か又はガス分解素子かの用途を問わず、PFC系高分子においてイオン伝導の作用を得るには、湿潤状態が必須であり、適切な保水状態を維持しなければイオン伝導性を得ることができない。たとえば水不足状態では電気抵抗が増大し、湿度30%未満ではイオン伝導性を発現しない。また、水分過剰では、いわゆるフラッディング(洪水)状態になって臭気ガスを含んだ気体の電極への接触が阻害される。水分過剰状態でも、湿分枯渇状態でも、安定してガス分解をすることはできない。
PFC系高分子を適切な保水状態にするためには、PFC系高分子膜自体を薄膜化するのが効果的である。薄膜化することによって、対極(カソード)での生成水の膜内への逆拡散が促進され、PFC系高分子膜の厚み全体で、イオン伝導性の作用を奏することができる。しかしながら、PFC系高分子は、パーフルオロカーボンスルホン酸高分子等の誘導体を含めて、パーフルオロアルキル主鎖によって形状を保持しており、ファンデルワールス力に起因する結合力のため本質的に弱い材料である。とくに薄膜化された場合、湿潤下では強度は著しく低下する。
薄膜化に伴うもう一つの大きな問題は、ピンホールの悪影響の顕在化と、使用中のピンホール径の拡大である。PFC系高分子膜は、100μm以下に薄膜化するとピンホールの悪影響が顕在化して、しかも使用中にピンホールの径が拡大して破れにいたるという弱点を有する。燃料電池に用いたPFC系高分子膜にピンホールがあると、燃料ガスの水素ガスおよび燃焼ガスの酸素ガスがクロスリークして、規格通りの電圧の電力を取り出せなくなり、燃料電池を組み込んだ装置全体に深刻な影響を及ぼす。このような悪影響は、湿潤下での使用中の温度サイクルおよび湿度サイクルにより促進される。
特許第2701923号 特開2001−29800号公報
臭気ガスの分解素子としては、上記のPFC系高分子膜を必要とするが、ガス分解素子特有の使用のされ方を踏まえた構成材料の設計が求められる。ガス分解素子の構成部材の材料選択は、当該ガス分解素子が世の中に受け入れられるかどうかを左右する重要な要因となる。ガス分解素子における固体電解質層は、イオン導電性および湿分を確保するために、薄膜、湿潤下における強度低下およびピンホールに対する耐性を備える必要がある。また一方で、ガス分解素子は小さい電極面積で能率よく臭気ガスを分解する反応を遂行しなければならない。商品の競争力を高めるためには、電極単位面積当たりの反応頻度(単位時間当たり反応)を高める必要がある。電極単位面積当たりの能率は、触媒等の配置が一定であれば、PFC系高分子の割合、電気抵抗、などで決まり、PFC系高分子の割合が高いほど、また電気抵抗が小さいほど、好ましいが、すべての要因について完全に把握されるまでに至っていない。
本発明は、ガス分解素子特有の使用のされ方を踏まえて、電極単位面積当たりの能率(以下、単に「能率」と記す)を維持するために、高いイオン導電性および湿分、ならびに薄膜等の条件を確保しながら、湿潤下における強度劣化およびピンホールに対する高い耐性を持つ固体電解質を備えたガス分解素子を提供することを目的とする。
本発明のガス分解素子は、触媒機能をもつ触媒微粒子を保持する触媒電極層と、触媒電極層と対をなす対向電極層と、触媒電極層と対向電極層とに挟まれたイオン伝導性の固体電解質層とを備える。そして、固体電解質層は、無数の絶縁粒子を含んで触媒電極層および対向電極層へと連続するパーフルオロカーボン系イオン交換性高分子層を有し、平面的に見て、前記触媒電極層から対向電極層にかけて前記絶縁粒子を含まないパーフルオロカーボン系イオン交換性高分子層の単相領域が、複数、設けられていて、単相領域の平均径が1mm以上30mm以下であることを特徴とする。
ここで、上述のガス分解素子は、燃料電池と類似した原理構成を持つが、ガス分解素子特有の使用のされ方をする。たとえば、(1)燃料電池では発電の結果生じる水は定常的に多くなる傾向が強い。しかし、ガス分解素子では、臭気ガスの濃度は通常は人体の許容量以下環境における不快感を除去するのが主用途なので、反応頻度または電極における単位時間当たりの反応箇所密度は高くはない。したがって稼動の結果生じる水分は多くなく、むしろ不足傾向となる。(2)また、触媒電極に導入されるガスは、燃料電池では水素分子(ガス)であるのに対して、ガス分解素子ではメタノール等の分子であり、水素分子のサイズの数倍大きい。
ガス分解素子特有の使用のされ方についてさらに詳しく見ると、分解対象のガス種によって、つぎのように燃料電池と相違する場合がある。(G1)アンモニアやアセトアルデヒドなどの臭気ガスのように、それ自体で自発的に反応(脱臭)を起して発電するものと、(G2)メチルメルカプタンやトルエンなどのように、外部電源を必須にして外部電源によって反応させないと分解しないものがある。(G1)のガスも、(G2)のガスと同様に外部電源によって分解をアシストすることは可能である。ただし、(G1)のガスと(G2)のガスとでは、反応における水の流れが相違する。(G1)の臭気ガスに対して、臭気ガス入口側(触媒電極側)に水を含ませると、空気側(対向電極側)に水が生成する。一方、(G2)の臭気ガスの場合、電気分解過程によらなければ臭気ガスを分解することはできない。触媒電極および対向電極の極性は、電気分解でも発電でも同じであり、臭気ガス入口側を陽極(プラス極)とし、空気側(対向電極側)を陰極(マイナス極)とし、空気側に水を導入する。このため、(G2)のガスに対しては、水の不足および過剰はほとんど生じないので、水の流れについてはそれほど重要視しなくてよい。したがって、湿潤下での耐久性低下などの問題は、(G1)のガスの場合に重要課題となる。燃料電池と比較すると、上記(G1)および(G2)の両方を考慮して、ガス分解素子では、湿分の制御は大掛かりな機構は必要なく、湿分を安定化する小さな工夫または機構によって、常に満足すべき湿分を確保できる可能性があると推測される。
上記の本発明のガス分解素子の構成により、両電極間のイオン伝導を確保した上でPFC系高分子層を薄膜化しても、絶縁粒子の分散強化により補強されているので、湿潤下での強度を高めることができる。また絶縁粒子は径が固体電解質層の厚みより小さいので、固体電解質層の薄膜化に対して、微粒子のサイズによっては制約を受けずに薄膜化することができ、薄膜化を通じて能率確保に貢献することができる。またピンホールについては、絶縁粒子によってピンホールが分断または完全に分断されないまでも彎曲されるので、半径の小さい水素ガスと異なり、平均径の大きい臭気ガス分子の通過をブロックし易くなる。このため、臭気ガスの分解に長時間を要するなどの問題を克服することができる。なお、対向電極層は、触媒機能をもつ金属微粒子を担持させた電極層としてもよいし、そのような触媒機能を奏しない電極層としてもよい。
また、平面的に見て、触媒電極層から対向電極層にかけて絶縁粒子を含まないPFC系高分子層の単相領域が、複数、設けられる。これによって、絶縁粒子の間隙を通過するだけでなく、対向電極側へと直に通過できるPFC系高分子部分を得ることができる。すなわち単相領域を通って、直に、両電極間のイオン伝導性を確保できる。臭気ガス濃度が高くない場合のガス分解反応では固体電解質層中のプロトン密度(電流密度)は低いので、実質的に、多孔質フッ素樹脂膜を用いない場合の電気抵抗のレベルに近づき、能率を確保することが容易になる。単相領域の平面形状は、矩形、円形、楕円、多角形等どのような形状でもよい。
また、薄膜化を実現したときの使用中の耐久性については、絶縁粒子が分散する箇所で確保することができる。使用中のピンホールの孔拡大や、強度劣化、破壊発生などに対しては次のようなメカニズムによる耐性向上を期待することができる。すなわち、2つの電極間にこの固体電解質層をはさむ組み立て工程の際に、両側の表層に位置するPFC系高分子に厚み方向に小さめの圧力を加えたまま、製品とするのがよい。このような組み立てによれば、単相領域に位置するPFC系高分子はその単相領域の外側に向けて逃げようとする(面内変位)が、単相領域の外側は分散した絶縁粒子で補強されているので、ブロックされ、この単相領域を構成しているPFC系高分子に周囲から面内圧力が加わる。また、製造時に圧力を負荷しなくても、湿分を得てPFC系高分子は膨潤するので、面内方向にも、また厚み方向にも広がろうとする。しかし、厚み方向については両側に接する電極により押さえ込まれ、また面内方向については、上述のように分散絶縁粒子の剛性上昇等により面内変位が阻止されるので、面内圧力が加わる。このため、使用中の湿分の増加に起因する膨潤→ピンホールの径拡大という劣化パターンは防止される。この結果、ピンホールの拡大は抑制され、また湿潤下での耐久性向上も得ることができる。単相領域の外側におけるPFC系高分子においては、分散絶縁粒子で補強される。
上記の単相領域の平均径を、1mm以上30mm以下とする。ここで、平均径は、単相領域の平面形状における最小径と最長径との平均値とする。単相領域の平均径が1mm未満では、高いイオン伝導度を実現して能率を大きく改善することができない。また、単相領域の平均径が30mmを超えると、絶縁粒子による補強作用が固体電解質膜の全領域にゆきわたらず、薄膜化によって単相領域部分にピンホールや耐久性劣化が生じる。
本発明の参考例として挙げるものであるが、上記の固体電解質層が、絶縁粒子を含むPFC系高分子層の中心層と、その中心層を挟むように位置し、絶縁粒子を含まないPFC系高分子層の2つの電極接触層とから構成され、中心層の厚みが、2つの電極接触層のいずれの一方の厚みに対しても0.5倍以上とする構造をとることができる。すなわち2つの電極接触層の厚いほうの0.5倍以上とすることができる。これによって、中心層によって、薄膜、湿潤下での強度低下、およびピンホール拡大に対する耐性を得ることができる。また触媒電極層および対向電極層における電気化学反応によって生じるイオンの伝導は、2つの電極接触層によって確保することができる。すなわち電気化学反応の結果生じるイオンを、絶縁粒子に乱されずに確実に固体電解質側に導入することができ、能率の確保に貢献することができる。また、2つの電極接触層は、イオン伝導に寄与しない絶縁粒子を含まないので、電気回路的にみて中心層と直列接続することによって、固体電解質層全体のイオン伝導性を改善し、かつ電気抵抗を下げることができる。固体電解質層の厚みは、電気化学反応的理由だけでなく、部材の取り扱い性、機械的な必要寸法などから決まるので、固体電解質層に上記の構造をもたせることによって、イオン伝導性を確保し、電気抵抗を下げられる効果はそのまま高い能率確保に結びつけることができる。
上記本発明の参考例として挙げた発明において、PFC系高分子のみからなる2つの電極接触層は、触媒電極層または対向電極層に配置される固体材料と連続して一体化されるので、当該2つの電極接触層の表層において上記固体材料の補強作用を受ける。中心層の厚みが2つの電極接触層のいずれの一方の厚みの0.5倍未満では、固体電解質層の補強を十分に行うことができない。一方、中心層の厚みの上限は、2つの電極接触層の厚いほうの5倍程度とするのがよい。上記のイオン伝導性の確保および電気抵抗の低下の効果を十分に得にくくなるからである。
上記の絶縁粒子は、樹脂を主構成材料とするのがよい。PFC系高分子は、樹脂であるため、樹脂材料(粒子)は、比較的、PFC系高分子となじみがよい場合が多い。PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)やPVDF(登録商標:ポリフッ化ビニリデン)は、PFC系高分子となじみがよく、粒子による分散強化に有効である。
上記のPFC系高分子と、絶縁粒子との界面に、融合層を有するのがよい。ここで、融合層は、絶縁粒子の融点がPFC系高分子の軟化温度より高い場合は、PFC系高分子の軟化温度に加熱して徐冷することによって、得られる。また、絶縁粒子が樹脂で形成され、その融点がPFC系高分子の軟化温度より低い場合は、絶縁性の樹脂粒子の融点に加熱して徐冷することによって得られる。いずれの場合も、上記界面での整合性を高めて、一体化を促進することができる。この結果、薄膜、湿潤下で、強度劣化およびピンホールに対する耐性を向上させることができる。絶縁性樹脂粒子の融点以上に加熱した場合、融合層は、絶縁樹脂の融点以上に加熱して放冷する処理によって、絶縁樹脂粒子とPFC系高分子との界面において、絶縁樹脂粒子の表層に形成される層であり、PFC系高分子との機械的一体化または両者間の摩擦力向上を促進する。融合層は、絶縁樹脂粒子の走査型電子顕微鏡、絶縁樹脂粒子の薄膜についての透過電子顕微鏡によって観察することができる。比較的、大きな絶縁樹脂粒子の場合には、光学顕微鏡像によっても認識することができる。溶融した絶縁樹脂粒子が凝固する際、外側から徐々に凝固して凝固速度が遅いので、凝固方向に沿って並ぶ樹脂状晶などの向きの揃い方、凝固速度に依存する樹脂状晶の樹脂間隔等により、融合層の存否を判別することができる。また、例えばミクロトームにより膜の断面出しを行い、低加速(SEM)電子顕微鏡による観察によっても、融合層の存否を判別するができる。
絶縁粒子の平均粒子径を、0.2μm以上1μm以下とすることができる。同じ割合で固体電解質に混合した場合であっても、微粒子の径を小さくすることによって、強化作用を向上することができる。このため、イオン伝導性を確保しながら、薄膜、湿潤下での強度を確保することが容易となる。絶縁粒子の平均径を0.2μm未満のものは、ハンドリングが面倒になり、一般的でなくなり、また平均径を1μmを超えて大きくすると強化作用が低下する。
固体電解質における絶縁粒子の割合を50重量%以下とするのがよい。一般に、絶縁粒子はイオン伝導性がないので、50重量%を超えて固体電解質層中に分散させると、イオン伝導度もしくは電気抵抗が無視できないレベルにまで低下する。絶縁粒子の割合の下限は、薄膜の程度によるが、厚み5μm〜20μm程度の場合は、相当の分散強化を得るために、15重量%以上の絶縁粒子を分散させるのがよい。より好ましい範囲は、20重量%以上である。
上記の固体電解質層の厚みを、2μm以上50μm以下とすることができる。上記の絶縁粒子とPFC系高分子とで構成される固体電解質層の厚みが2μm未満の場合、大きな径のピンホールが固体電解質層を容易に貫通し、臭気ガスのリークを生じやすく、また分散絶縁粒子で補強しても湿潤下での耐久性の確保が難しい。また厚みが50μmを超えると、固体電解質層の電気抵抗が高くなり、必要な印加電圧を高くしなければならず、ガス分解素子の小型化、軽量化、経済性を阻害する。
本発明によれば、ガス分解素子特有の使用のされ方に適合して、能率を維持するために、高いイオン導電性および湿分、ならびに薄膜等の条件を確保しながら、湿潤下における強度劣化およびピンホールに対する高い耐性を持つ固体電解質を備えたガス分解素子を得ることができる。
(実施の形態1)
図1は、本発明の参考例として挙げた、実施の形態1におけるガス分解素子10を示す図である。このガス分解素子10は、イオンとくにプロトン伝導性を有する固体電解質層11を挟んで、多孔質の導電材に触媒微粒子を担持させた触媒電極層6と、対向電極層7とが積層されたことを特徴とするものである。触媒電極層6は多孔質の導電性基体8により支持されている。また対向電極層7においても多孔質の導電材が触媒微粒子を担持しており、当該対向電極層7は、多孔質の導電性基体9によって支持されている。本実施の形態においては、図2に示すように、固体電解質層11が、絶縁粒子3と、無数の絶縁粒子3を含んで両電極6,7に、直接、接触するPFC系高分子層5とで構成される点にポイントがある。多孔質の触媒電極層6,7は、多孔質の導電性基体8,9と別に形成してもよいし、多孔質の導電性基体8,9の部分に触媒微粒子を担持した導電粒子を接触・保持させることによって形成してもよい。
次に、固体電解質層11の周囲の構成部材について説明する。図1のガス分解素子10では、空気に混入しているエタノール、メタノール、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等の臭気ガスを分解することを目的とする。このため、(導電性基体8,触媒電極層6)と、(導電性基体9,触媒電極層7)とには、触媒電極層6において臭気ガスが酸化反応によって分解するように電位が印加される。すなわち触媒電極層6をアノードとし、その触媒電極層6からプロトンが固体電解質層11に送り出され、図示しない配線に電子が放出される。このときアノード6には、臭気ガスを含む空気が図示しないポンプなどで入口21から導入され、上記アノード反応によって分解したガスを含む空気が、出口22から周囲環境に排出される。固体電解質層11を伝導したプロトンは、対向電極7において、空気と、接触電極層7に配線(図示せず)から流入する電子と反応(還元)して、水を生成する。対向電極7への空気の供給のために、多孔質の導電性基体9には、外部から触媒電極層7にいたる空気流入用孔29が、多数、設けられている。対向電極7における空気量が、多孔質の導電性基材9の間隙を通る空気で間に合えば、空気流入用孔29は設けなくてもよい。
固体電解質層11はイオン伝導性を持たなければならないが、固体電解質層11においてイオン伝導性を担う材料がPFC系高分子である場合には、イオン伝導性の発現に湿分は必須である。すなわち湿分が所定レベルを超えて低下すると、ガス分解素子10は機能しなくなる。プロトンは両電極間を移動する必要があるので、固体電解質層11の全厚みにわたって、上記の湿分は必要である。対向電極層7での水生成反応の水を固体電解質層11の全厚みに有効に行き渡らせるためには、上述のように固体電解質層11は薄いほうが好ましい。とくに、居住空間の無臭化用のガス分解素子では、臭気ガス濃度は高くなく反応頻度は低く、したがって生成する水分レベルは低いので、固体電解質層11またはPFC系高分子膜の薄膜化は重要である。さらに、全固体電解質層11は、上記のガス分解素子10のなかで、電気抵抗として位置づけられるが、この全固体電解質膜11を薄くするほうが電気抵抗は低く、したがってイオン伝導度は高く、触媒電極層6におけるガス分解効率を高めることができる。
上記の薄膜について、湿潤下、ピンホールの無害化をしながら、また強度低下を抑制しながら実現するために、本実施の形態では、固体電解質層11を、絶縁粒子3で補強したPFC系高分子層5によって形成する。絶縁粒子3にはイオン伝導性はないが、強度は高く、PFC系高分子膜5の補強をすることができる。絶縁粒子3は、樹脂、とくにPFC系高分子5となじみが良いフッ素樹脂で形成するのがよい。たとえば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体(TFE−HFP−VDF(登録商標))、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、これらの二種以上の混合物などを用いるのがよい。また、絶縁粒子3をセラミックスで形成する場合は、アルミナ(Al23)、酸化ケイ素等の周知のセラミックスを用いることができる。また、シリカゲル等を用いてもよい。
本実施の形態における絶縁粒子3の平均径は、0.2μm以上1μm以下とするのがよいが、この範囲の外にある平均径の絶縁粒子3を用いてもよい。同じ割合で固体電解質に混合した場合であっても、絶縁粒子3の径を小さくすることによって、強化作用を向上することができ、このため、イオン伝導性を確保して能率を確保しながら、薄膜、湿潤下での強度を確保することが容易となる。絶縁粒子3の平均径が0.2μm未満のものは、ハンドリングが面倒になり、また入手が困難である。一方、平均径を1μmを超えて大きくすると強化作用が低下する。
固体電解質11における絶縁粒子3の割合については、絶縁粒子3の割合を50重量%以下とするのがよい。一般に、絶縁粒子3はイオン伝導性がないので、50重量%を超えて固体電解質層中に分散させると、イオン伝導度もしくは電気抵抗が無視できないレベルにまで低下する。絶縁粒子3の割合の下限は、薄膜の程度によるが、厚み5μm〜20μm程度の場合は、所定の分散強化を得るために、15重量%以上の絶縁粒子3を分散させるのがよい。より好ましい範囲は、20重量%以上である。
固体電解質層11の厚みについては、2μm以上50μm以下とするのがよい。上記の絶縁粒子3と絶縁系高分子5とで構成される固体電解質層11の厚みが2μm未満の場合、大きな径のピンホールが固体電解質層11を容易に貫通し、臭気ガスのリークを生じやすく、また分散絶縁粒子で補強しても湿潤下での耐久性の確保が難しい。また固体電解質層11の厚みが50μmを超えると、固体電解質層11の電気抵抗が高くなり、必要な印加電圧を高くしなければならず、ガス分解素子の小型化、軽量化、経済性を阻害する。
固体電解質層11内の絶縁粒子3の分散の仕方は、図2に示すように、固体電解質層11の全厚みにわたって均質に分散してもよいし、図3に示すように、中心層11cにのみ絶縁粒子3を含み、中心層11cを挟む両側の電極接触層11dには絶縁粒子3を混入しない構成にしてもよい。図3の構造の固体電解質層11の場合、中心層11cの厚みが、両側の電極接触層11dのいずれの一方の厚みに対しても0.5倍以上とするのがよい。これによって、中心層11cによって、薄膜、湿潤下での強度低下、およびピンホール拡大に対する耐性を得ることができる。また触媒電極層6および対向電極層7における電気化学反応によって生じるイオンの伝導は、2つの電極接触層11dによって確保することができる。すなわち電気化学反応の結果生じるイオンを、絶縁粒子に乱されずに確実に固体電解質側に導入することができ、能率の確保に貢献することができる。また、2つの電極接触層は、イオン伝導に寄与しない絶縁粒子を含まないので、電気回路的にみて中心層と直列接続することによって、固体電解質層全体のイオン伝導性を改善し、かつ電気抵抗を下げることができる。固体電解質層の厚みは、電気化学反応的理由だけでなく、部材の取り扱い性、機械的な必要寸法などから決まるので、固体電解質層に上記の構造をもたせることによって、イオン伝導性を確保し、電気抵抗を下げられる効果はそのまま高い能率確保に結びつけることができる。また、PFC系高分子のみからなる2つの電極接触層11dは、触媒電極層または対向電極層に配置される固体材料と連続して一体化されるので、当該2つの電極接触層の表層において上記固体材料の補強作用を受ける。なお、図3に示す構造の固体電解質層について、絶縁粒子の重量比などに言及する場合は、中心層における絶縁粒子の重量比をさすこととする。
絶縁粒子3は、任意の絶縁材料、絶縁樹脂等で形成することができるが、親水性の樹脂であることが望ましい。親水性の絶縁樹脂粒子の場合、撥水性の材料に比べてPFC系高分子に対して摩擦力を高くでき、大きな補強作用を得ることができる。また、無数に分散された親水性絶縁樹脂粒子は、そこに湿分が吸収されるので、湿分不足状態では湿分を供出して湿分不足を緩和し、水分過剰状態においては水分を吸収して水分過剰を緩和することに役立つ。
絶縁粒子3を樹脂材料で形成する場合には、樹脂粒子3がPFC系高分子5と接する表層に熱融合層を有するのがよい。このあとの製造方法において説明するように、樹脂粒子3を含む固体電解質層11を形成し、乾燥した後、樹脂の融点を超える温度に加熱して徐冷するのがよい。この融点を超える温度に加熱して徐冷することにより、PFC系高分子5と接する樹脂粒子3の表層に熱融合層が形成され、PFA高分子5と樹脂粒子3との一体化が促進され、樹脂粒子3による補強作用が向上し、薄膜、湿潤下での耐久性を高めることができる。樹脂粒子3がPFA粒子である場合には、融点は307℃程度なので、これを超える温度に加熱して徐冷することにより熱融合層を形成することができる。
次に、PFA粒子などのフッ素樹脂粒子3を含むPFC系高分子5によって形成される固体電解質層11の製造方法について、説明する。まず、フッ素樹脂粒子3の水性懸濁液を準備する。水性懸濁液としては、フッ素樹脂粒子を水に懸濁した懸濁液、乳化重合で得られたラテックスを濃縮・安定化したディスパーションなどがあげられる。上記の水性懸濁液は水を分散媒体として使用するが、アルコールなどの水混和性で易揮発性の有機溶媒を併用してもよい。フッ素樹脂粒子の水性懸濁液を調製する段階で、後述の含フッ素界面活性物質を添加することができる。水性懸濁液中のフッ素樹脂粒子の濃度は、とくに限定されないが、通常は5〜80重量%、好ましくは15〜60重量%である。
PFC系高分子が水や有機溶媒などに難溶性の場合には、イオン交換基を該イオン交換基に変換し得る官能基(たとえばカルボン酸エステル基)とするか、またはそのような官能基を有する前駆体を使用することができる。本発明で使用するPFC系高分子には、このような前駆体も包含される。このような前駆体を使用した場合には、固体電解質の層を形成したのち、または層状物の加熱処理後に、加水分解や中和などの処理を行って、官能基をイオン交換基に変換させる。難溶性のPFC系高分子を使用する場合には、その溶液中に、PFC系高分子の一部が分散状態で存在していてもよい。
PFC系高分子の溶液は、溶媒として、たとえば水、アルコール、テトラヒドロフラン、これらの混合溶媒などを使用して調製する。溶媒としては、水と、アルコールなどの水混和性で易揮発性の有機溶媒とを併用した混合溶媒がとくに好ましい。溶液中のPFC系高分子の濃度は、とくに限定されないが、通常は5〜80重量%、好ましくは10〜70重量%、より好ましくは15〜60重量%である。また、水性分散液中で、フッ素樹脂粒子とPFC系高分子を均一に分散混合させるために、含フッ素界面活性物質を添加するのがよい。含フッ素界面活性物質を添加することにより、フッ素樹脂粒子3の水性懸濁液とPFC系高分子の溶液とを混合する際に、フッ素樹脂粒子が凝集するのを防ぎ、かつフッ素樹脂粒子3とPFC系高分子5とを均一に分散させることができ、それによってイオン伝導性に優れた固体電解質層11を得ることができる。
市販のフッ素樹脂粒子の水性懸濁液には、フッ素樹脂粒子3を乳化させるために界面活性物質を含有するものもあるが、乳化のために混合された界面活性物質の量だけでは、フッ素樹脂粒子の水性懸濁液とPFC系高分子の溶液とを混合する際に、フッ素樹脂粒子が凝集するのを防ぐことは困難である。また、その界面活性物質が含フッ素界面活性物質以外のものであると、フッ素樹脂粒子とPFC系高分子とを含有する水性分散液の凝集を防ぐことが難しい。そのために、水性分散液を調製する際に、含フッ素界面活性物質を添加して、水性分散液中に含フッ素界面活性物質を含有させるのがよい。
含フッ素界面活性物質としては、たとえばパーフルオロアルキルスルホン酸塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩など)、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンスルホン酸塩などのアニオン系の含フッ素界面活性物質;パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール、パーフルオロアルキルアルコキシレート、フッ素化アルキルエステルなどのノニオン系の含フッ素界面活性物質をあげることができる。上記の中でも、パーフルオロアルキルスルホン酸ナトリウムまたはカリウムが好ましい。
固体電解質層11の湿潤下での強度上昇等を得るために、フッ素樹脂粒子3について架橋することができる。フッ素樹脂を架橋するためには、水性分散液に架橋性の物質を含有させておき、該水性分散液から形成した層状物に電離放射線を照射したり、または層状物を加熱して架橋させればよい。架橋剤は、予めフッ素樹脂粒子の水性懸濁液に添加しておいてもよいし、またはフッ素樹脂粒子、PFC系高分子および含フッ素界面活性物質を含有する水性分散液に添加してもよい。架橋剤は、フッ素樹脂粒子3を構成するフッ素樹脂の種類に応じて、適切な架橋剤を用いるのがよい。
フッ素樹脂粒子3、PFC系高分子5、および必要に応じて上記界面活性剤および/または架橋剤を含有する水性分散液を導電性基体上に塗布または流延し、乾燥して、層状物を形成し、次いで、その層状物を該フッ素樹脂の融点以上の温度に加熱することにより固体電解質層11を形成する。フッ素樹脂粒子3とPFC系高分子5の混合比率は、固形分基準の重量比で、5:95〜50:50、より好ましくは5:95〜30:70とするのがよい。フッ素樹脂粒子の混合比率が少なすぎると固体電解質層11の強度が低下し、また湿潤下での耐久性が劣化する。一方、フッ素樹脂粒子の混合比率が多すぎると、イオン伝導度が低下する。
フッ素樹脂粒子3、PFC系高分子5などを含む水性分散液を導電性基体上に塗布または流延するには、たとえば導電性基体に水性分散液を滴下させて流延させる方法、刷毛で塗布する方法、スプレーコートする方法、スピンコートする方法などがあげられる。塗布法や流延法を採用することにより、大面積の固体電解質層11を容易に量産することが可能になる。水性分散液を導電性基体上に塗布または流延したあと、乾燥して、フッ素樹脂粒子とPFC系高分子を含む混合物からなる乾燥層状物を形成する。水性分散液を用いることにより、フッ素樹脂粒子3とPFC系高分子5を均一に混合することができ、均質な層状物を得ることができる。
乾燥して得た層状物は、用いたフッ素樹脂の融点以上に加熱処理し放冷または徐冷して熱融合層を形成することができる。加熱処理により、通常、フッ素樹脂粒子3とPFC系高分子5とが一体化して、強度、耐熱性、耐薬品性、耐酸化性、湿潤下の強度劣化やピンホールへの耐性向上を得ることができる。上記の製造方法以外にも、固体電解質層を触媒電極層上に積み上げながら製造する方法など、多くの変形された製造方法を用いることができる。
触媒電極層6,7は、上述のように、導電性基体8,9の延長部分に触媒微粒子を担持した導電粒子を、導電接触を確保しながら分散・保持させるのがよい。導電性基体8,9は、導電性でかつ導電粒子を分散保持できる層状多孔質体がよいが、例えばカーボンペーパーやカーボンフェルト等の、カーボン繊維からなる多孔質のシートが好ましい。とくにカーボン繊維の多孔質のシートは、分解反応によって発生するプロトン起因の強酸性雰囲気に対する耐性に優れている上、多孔質ゆえに、多数の触媒微粒子を担持することができるため、臭気ガスを分解する効率を、さらに向上できるという利点を有している。
カーボンペーパーは、たとえば、単繊維状のカーボン繊維を、湿式または乾式抄紙等により製造されて、任意の厚みや坪量を有するものであってよい。また、カーボンフェルトとしては、単繊維状のカーボン繊維をカーディング等し、積層し、ニードルパンチ加工等によって互いに結合させる等して製造される。任意の平均繊維径や目付け量を有するものが、使用可能である。ただし、ガス分解素子を、できるだけ薄型化することを考慮すると、基体としてはカーボンペーパーが好適に使用される。
前記カーボンペーパー等の導電性基体に触媒微粒子を分散保持させた触媒電極層6,7としては、種々の構造を有するものを採用することができる。すなわち、前記触媒電極層としては、(1)導電性基体の表面に、直接に、触媒微粒子を担持させたもののほか、(2)前記触媒微粒子を、例えばカーボンブラック等の導電性粉末の表面に担持させた複合粒子を、プロトン透過性を有するバインダ樹脂中に分散させた膜を、導電性基体の表面に積層してもよい。上記(1)の触媒電極層は、例えば、触媒微粒子のもとになる金属のイオンを含む溶液中に、導電性基体を浸漬した状態で、還元剤の作用によって、前記金属のイオンを還元させて、微粒子状に析出させるとともに、導電性基体の表面(多孔質導電性基体の場合は、孔の内表面も含む)に直接に担持させることによって構成される。
また、(2)の触媒電極層は、例えば、前記と同様の方法で、カーボンブラック等の導電性粉末の表面に、触媒微粒子を担持させた複合粉末を、プロトン透過性を有するバインダ樹脂の液中に配合して塗布液を調整した後、前記塗布液を、導電性基体の表面に塗布し、乾燥させて、複合粉末が分散されたバインダ樹脂の膜を形成する。前記(2)の触媒電極層においては、導電性基体として、先に説明したカーボンペーパー、カーボンフェルト等の、多孔質で、通気性を有するものを用いるとともに、バインダ樹脂の膜が、プロトン透過性を有する絶縁層と接するように、その絶縁層と積層して使用される。
上記の積層状態においては、多孔質の導電性基体によって、触媒微粒子と臭気ガスとの接触を維持しながら、触媒微粒子を含む複合粒子を、プロトン透過性を有するバインダ樹脂からなる膜中に分散させたことと、当該膜を、導電性基体と絶縁層とで挟んだこととの相乗効果によって、触媒微粒子の脱落等を防止して、より長期間にわたって、触媒機能を発揮させることができるという利点がある。触媒微粒子のもとになる金属としては、例えばルテニウム、パラジウム、オスミウム、白金等の白金族の金属や、鉄、コバルト、ニッケル等の鉄族の金属、あるいはバナジウム、マンガン、銀、金等の、触媒微粒子にすると触媒機能を発揮する種々の金属、上記金属の2種以上の合金、あるいは、上記金属の1種または2種以上と、他の金属との合金等が挙げられる。
触媒微粒子の粒径は、良好な触媒機能を発揮させることを考慮すると100nm以下、特に0.5〜50nmであるのが好ましい。(2)の触媒金属層に用いる、プロトン透過性を有するバインダ樹脂としては、プロトン透過性を有する種々の高分子電解質等、たとえば上記のPFC系高分子が使用可能である。PFC系高分子の溶液や水分散液が好適に使用される。上記の溶液や水分散液中に複合粉末を配合することで、先に説明した塗布液を、簡単に調整することができる。上記の触媒電極層6,7などの製造方法については、このあと説明する実施の形態2においても共通する。
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2のガス分解素子における固体電解質層11を示す平面図である。本実施の形態におけるガス分解素子の固体電解質層11では、PFC系高分子5の単相領域11pと、その周囲に広がる絶縁粒子3とPFC系高分子5との混合領域11mとが設けられる点に特徴を有する。単相領域11pの平面形状は問わない。そして、その単相領域11pおよび混合領域11mの上下(表裏)面に露出するようにPFC系高分子層5が配置されている。図4に示す固体電解質層11では、単相領域11pは数個〜十数個であり、その直径は、固体電解質層11の辺の数分の一〜十数分の一程度である。しかし、単相領域11pは、図5に示すように、数百個〜数千個あってもよい。図4および図5の場合、単相領域11pの面積率は、25%以上85%以下とするのが好ましい。本実施の形態におけるガス分解素子10において、MEA(Membrane Electrode Assembly)における固体電解質11の両側の構造(触媒電極層6,7等)は、図1に示すガス分解素子10の構造と同じである。
本実施の形態における固体電解質層11においては、単相領域11pでは、PFC系高分子5のみが全厚みにわたって位置するので、PFC系高分子本来のイオン伝導度を得ることができる。このような固体電解質は、マクロ的には大小の電気抵抗部分が並列接続されている等価回路となり、電気抵抗は、マクロ的には単相領域11pのPFC系高分子単独の部分で決まり、イオンはもっぱら単相領域11pのPFC系高分子を通ることになる。臭気ガス濃度が高くない場合のガス分解反応では固体電解質層中のプロトン密度(電流密度)は低いので、実質的に、絶縁粒子を用いない場合の電気抵抗とほとんど同じとなる。このため、ガス分解素子10全体の電気抵抗を低くすることができ、ガス分解効率を高めることができる。
また、ピンホールや湿潤下での強度劣化の耐性については、絶縁粒子3が存在する箇所で確保することができる。とくに、2つの電極間にこの固体電解質層11をはさむ組み立て工程の際に、両表層に位置するPFC系高分子層に厚み方向に小さめの圧力を加えたまま、製品とするのがよい。このような組み立てによれば、単相領域11pに位置するPFC系高分子層5はその単相領域11pの外側に向けて逃げようとする(面内変位)が、単相領域11pの外側は絶縁粒子3で補強されているので、ブロックされ、この単相領域11pを形成するPFC系高分子5に周囲から面内圧力が加わる。
また、製造時に圧力を負荷しなくても、湿分を得てPFC系高分子は膨潤するので、図6および図7に示すように、面内方向にもまた厚み方向にも広がろうとする。しかし、厚み方向については両側に接する電極6,7により押さえ込まれ、また面内方向については、上述のように絶縁粒子3により面内変位が阻止されるので、面内圧力が加わる。このため、使用中の湿分の増加に起因する膨潤→ピンホールの径拡大→破れ、という劣化パターンは防止される。この結果、ピンホールの拡大は抑制され、また湿潤下での耐久性向上も得ることができる。単相領域11pの外側におけるPFC系高分子層5においては、絶縁粒子3で補強される。
上記の単相領域11pの平均径Dについては、1mm以上30mm以下する。単相領域11pの平面形状は、矩形、円形、楕円、多角形等どのような形状でもよい。そして、平均径は、単相領域11pの平面形状における最小径と最長径との平均値とする。単相領域11pの平均径が1mm未満では、電気抵抗がマクロ的にPFC系高分子単独の部分とはならず、イオン伝導において実質的に低い電気抵抗を実現することができない。また、単相領域11pの平均径が30mmを超えると、絶縁粒子3による補強作用が固体電解質膜の全領域にゆきわたらず、薄膜化によってピンホールの悪影響の顕在化や耐久性劣化が生じる。なお、本実施の形態に限らず、すべての実施の形態において、混合領域11mの表裏面側に、PFC系高分子層が単独で存在する厚みdmは、ほとんどゼロでもよい。
単相領域11pと混合領域11mとを含む固体電解質層の作製方法は、たとえば単相領域11pに蓋をした枠材を用いて、上記のフッ素樹脂粒子およびPFC系高分子等を含む水性分散液を流延または塗布し、次いで、単相領域11pに対してPFC系高分子の溶液を塗布または流延するのがよい。多少、PFC系高分子5が混合領域11mにはみ出しても、平坦度を確保すればよいので、問題ない。別の作製方法として、完成時の固体電解質層11の厚みより薄い厚みで、フッ素樹脂粒子およびPFC系高分子等を含む水性分散液を、枠体内に液状のまま配置しておき、そこに固体のPFC系高分子を単相領域11pに対応するように押し込んで作製することもできる。このとき、多数の単相領域11pが一度に形成されるように、固体電解質層11の単相領域11pの配置に合わせた型を用いて、その多数の型に単相領域11pを嵌め入れておいて、上記水性分散液に押し込むのがよい。その他の任意の能率的な作製方法を用いることができる。
上記の本発明のガス分解素子について、とくに固体電解質に着目して実施例により、その作用効果のうち、ガス分解の能率面について作用効果を検証した。耐久性については、検証実験を準備している。
1.複合膜の作製
(A)(PFA/PFC系高分子)複合膜
PFAとPFC系高分子のナフィオンとの複合膜を次のようにして作製した。PFAには旭硝子株式会社製TW3507を、PFC系高分子にはナフィオン溶液(12wt%)を、また溶媒には3M株式会社製FC−95溶液(10wt%)を、用いた。PFAの粒径は0.2μmを標準としたが、粒径1μmのものも用いた(参考例3)。固体電解質の中でPFAの割合を標準の20重量%とする場合には、PFA:ナフィオン溶液:FC−95溶液を、重量比で5:125:1の割合で調製した。PFAの重量割合20重量%のほかに、50重量%のものも調製した(参考例4)。これら混合調整液を、1回塗布毎に、50℃に30分間保持して乾燥し、次いで常温で真空中に30分間保持して乾燥するという工程を、繰り返して約20μm厚みの固体電解質層を得た。ただし、参考例5のみは、繰り返し数を多くして約50μm厚みの固体電解質層を得た。PFAとナフィオンとの馴染みを良くする目的で、予熱250℃×10分間を行い、次いで本加熱350℃×3分間の処理を行った。本発明例6を除いて残りのすべての例に対して、上記予熱および本加熱からなる加熱処理を行って、融合層を形成した。
図3の構造を有する参考例2は、上記(A)の作製方法にて中心層を作製した後、さらにこの中心層に対し、20wt%ナフィオン溶液を両側に所定厚みとなるまで塗布し、120℃で30分の加熱処理を繰り返し行い作製した。
単層領域を設けた本発明例6および7の作製は、直系2mmφの突起が10コ×10コ配列されている型に混合調整液を塗布し、乾燥後に型から剥離させる方法以外は基本的に上記と同じ方法で作製した。
(B)(PVdF(登録商標)/PFC系高分子)複合膜
上記(A)におけるPFAに代えて、PVdF(登録商標)を用いた。PVdF(登録商標)はアルケマ株式会社製の粒径1μmのカイナー粉末とした。その他、FC−95溶液等は上記(A)と同じであり、同じ方法に従って複合膜を作製した。
(C)PVdF(登録商標)の均一分散性を向上した(PVdF(登録商標)/PFC系高分子)複合膜
溶液に特級ピロリドン溶剤を用い、PVdF(登録商標)の重量割合を20重量%とするために、重量比で、上記カイナー粉末:ナフィオン溶液(12wt%):特級ピロリドン溶剤=5:125:15で混合し調製した。この調製液から複合膜を得る方法は、(B)の方法に従った。特級ピロリドン溶剤に使用によりカイナー粉末の均一分散性を高めることができる。この処理方法に従って、参考例8の試験体を作製した。
2.MEAの作製
(D)(セラミックス粒子/PFC系高分子)複合膜
セラミックス粒子として、平均粒径2μmのアルミナ(参考例9)およびシリカゲル(参考例10)を用いて、PFC系高分子との複合膜を作製した。セラミックス粒子の重量割合を20重量%とするために、上記ナフィオン溶液(12wt%)に分散させて、繰り返し塗工と乾燥とを行うことにより、厚み20μmの固体電解質層を形成した。次いで、なじみを良くするために上記予熱および本加熱からなる加熱処理を行って、融合層を形成した。
2.MEAの作製
白金を40wt%でアセチレンブラックに担持した触媒に適量水を加えて混合後、5wt%ナフィオン溶液を加え、攪拌した。これをカーボンペーパーに塗工した後、60℃に10分間程度保持して乾燥した。次いで、上記1.で作製した複合膜の両側に、乾燥を終えたカーボンペーパーを配置して、温度130℃、加圧時間3分間、圧力20kgf/cm2の条件によって、ホットプレスでMEAを作製した。上記のMEAにガス拡散層として5mm厚みのカーボンフェルトを入れ、その陽極側および負極側に電極集電体を配置した。最後にアクリル製のガスホルダーを取り付け、0.5kgf/cm2の圧力でボルト締めした。なお、電極面積は4cm角サイズで実施した。
3.ガス分解性能の評価
100ppm濃度のアセトアルデヒドガスをテトラパックに5000cm3満たした中に、上記の試験体を装入し、シールした。外部電源で2Vの電圧を陰陽極間に印加し;テトラパック内部のアセトアルデヒド濃度を検知管で定期的に測定した。表1に示すアセトアルデヒド濃度は10分後のアセトアルデヒド濃度である。試験体の仕様および性能測定結果(10分後のアセトアルデヒド濃度)について、表1に示す。
Figure 0005309576
電極面積4cm角サイズの場合、ガス分解素子を運転開始して10分後のアルデヒド濃度が初期100ppmの半分以下の濃度まで分解することを1つの基準とした。表1に示す測定結果は、最も能率の低い参考例4および5が40ppmであり、その他の例はいずれも基準値より低く、満足すべき能率を有している。
(1)固体電解質層の厚みの影響
参考例1(固体電解質層厚み20μm)と参考例5(固体電解質層厚み50μm)とは、固体電解質層の厚み以外の要因は共通である。アセトアルデヒド濃度は、参考例5が40ppmであるのに対して、参考例1は10ppmであり、固体電解質層の厚みを薄くすることは、繰り返し強調してきたように、能率確保に非常に有効であることが分かる。
(2)絶縁粒子の重量比の影響
参考例1(絶縁粒子20wt%)と参考例4(絶縁粒子50wt%)とは、絶縁粒子の重量比以外の要因は共通である。アセトアルデヒド濃度は、参考例4が40ppmであるのに対して、参考例1は10ppmであり、絶縁粒子の割合を多くすることは、補強には良いが、能率確保には望ましくないことが確認された。
(3)PFA粒子の粒径
参考例1(粒径0.2μm)および参考例3(粒径1μm)は、PFA粒子の粒径以外の要因は共通である。参考例1のアセトアルデヒド濃度は10ppmであるのに対して、参考例3では8ppmである。実験誤差を考慮すると、大きな影響は認めがたい。
(4)(中心層/電極接触層)の構造(図3に示す構造)
参考例1と参考例2とを比較することによって、図3に示す構造の効果を確認することができる。固体電解質の全厚みにわたってPFA粒子で補強した参考例1のアセトアルデヒド濃度が10ppmであったのに対して、中心層の4μmのみをPFA粒子で補強して、残りの電極接触層をナフィオンのみで構成して厚み20μmとした参考例2(図3参照)では、5ppmと半減している。したがって、PFA粒子で補強する中心層の厚みを薄くして、残りの部分をナフィオンのみで構成する固体電解質層の構造は、能率向上に有効であることが確認された。
(5)単層領域
参考例1(単層領域なし)と本発明例7(単層領域あり)とは、単層領域の有無以外の要因は共通している。参考例1では、アセトアルデヒド濃度は10ppmであるのに比して、本発明例7では5ppmである。単層領域の能率への好影響が確認された。
(6)融合層
本発明例6(融合層なし)と本発明例7(融合層あり)とは融合層の有無以外の要因は共通している。本発明例6では、アセトアルデヒド濃度30ppmであるのに対して、本発明例7では5ppmである。これより融合層を設けないことによって、能率が大幅に低下することが分かる。逆に、融合層は、強度の確保だけでなく、能率の維持(低下防止)のために、非常に好ましいことが判明した。
(7)PFAとPVdF(登録商標)
参考例3(PFA)と参考例8(PVdF(登録商標))とは、絶縁粒子の材料以外の要因は共通にしている。参考例3のアセトアルデヒド濃度は8ppmであるのに対して、参考例8では10ppmである。両者は、能率に及ぼす影響については、ほとんど同等であるといえる。
(8)セラミックス粒子(アルミナおよびシリカゲル)
セラミックス粒子は粒径が2μmであるが、重量比20wt%、固体電解質層20μmの条件下で、アルミナの場合は25ppm、またシリカゲルの場合は20ppmであった。本結果からは、能率確保について、PFAやPVdF(登録商標)に比べて特別な優位性を認めることはできず、逆に、少し劣る印象を受けた。
上記の結果より、能率の確保という観点から、まず、固体電解質層を薄くして、その薄膜化を可能にするために、絶縁粒子を分散させる。その絶縁粒子を分散させる際に、融合層を形成し、絶縁粒子の重量比を低くして、できれば単層領域を設けるのがよい。絶縁粒子としては、平均粒径0.2μm〜1μm程度のPFAまたはPVdF(登録商標)を用いるのがよい。
(他の実施の形態)
1.上記の説明では、酸化反応(アノード反応)によるガス分解の例を示したが、還元反応(カソード反応)であってもよい。還元反応の場合は、固体電解質を伝導するイオンは陰イオンとなり、陰イオン伝導を示す固体電解質を用いることになる。
2.上記の実施の形態における各ポイント要素を組み合わせたものも本発明の範囲に含まれる。
上記において、本発明の実施の形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
本発明によれば、ガス分解素子特有の使用のされ方に適合して、イオン導電性を十分高く確保しながら、薄膜、湿潤下でのピンホール対策および耐久性向上をはかった固体電解質を備えたガス分解素子を得ることができるので、自動車を含む各種乗り物、オフィス、一般家庭、駅、港、空港等の待合所、トイレなどでの利用が期待される。
本発明の実施の形態1におけるガス分解素子を示す断面図である。 図1に示すガス分解素子の固体電解質層の部分断面図である。 図1に示すガス分解素子の別の固体電解質層の部分断面図である。 本発明の実施の形態2のガス分解素子における固体電解質層を示す平面図である。 本発明の実施の形態2のガス分解素子における別の固体電解質層を示す斜視図である。 図4のVI−VI線に沿う断面図である。 図6の固体電解質の部分を平面的に見た図である。
3 絶縁粒子(フッ素樹脂粒子)、5 PFC系高分子層、6 触媒電極層、7 対向電極層(触媒電極層)、8,9 導電性基体、10 ガス分解素子、11 固体電解質層、11c 中心層、11d 電極接触層、11m 混合領域、11p 単相領域、21 空気入口、22 出口、29 空気流入用孔。

Claims (6)

  1. 触媒機能をもつ触媒微粒子を保持する触媒電極層と、
    前記触媒電極層と対をなす対向電極層と、
    前記触媒電極層と前記対向電極層とに挟まれたイオン伝導性の固体電解質層とを備え、
    前記固体電解質層は、無数の絶縁粒子を含んで前記触媒電極層および対向電極層へと連続するパーフルオロカーボン系イオン交換性高分子層を有し、
    平面的に見て、前記触媒電極層から対向電極層にかけて前記絶縁粒子を含まないパーフルオロカーボン系イオン交換性高分子層の単相領域が、複数、設けられていて、
    前記単相領域の平均径が1mm以上30mm以下であることを特徴とする、ガス分解素子。
  2. 前記絶縁粒子が樹脂を主構成材料とすることを特徴とする、請求項に記載のガス分解素子。
  3. 前記パーフルオロカーボン系イオン交換性高分子と、前記絶縁粒子との界面に、融合層を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のガス分解素子。
  4. 前記絶縁粒子の平均粒子径が0.2μm以上1μm以下であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1つに記載のガス分解素子。
  5. 前記固体電解質における前記絶縁粒子の割合が50重量%以下であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1つに記載のガス分解素子。
  6. 前記固体電解質層の厚みが、2μm以上50μm以下であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1つに記載のガス分解素子。
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