JP5376662B2 - 鋼管柱基部接合方法 - Google Patents
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Description
この場合、柱基部接合部は、鋼管柱をベースプレートに隅肉溶接をし、リブ等で補剛する柱基部接合構造が一般的であった。リブは概ね三角形で、ベースプレート上に垂直に立てかつ鋼管柱の外周面に当て、溶接固定される。
この種の構造では、図12に示すように、鋼管柱1をベースプレート2にあけた穴2a内に差し込み 鋼管柱1の下端とベースプレート2の穴2aの上縁との2箇所による上下2段隅肉溶接で接合する方法が一般的である。隅肉溶接部を3で示す。この溶接方法では完全溶け込み溶接にはならない。
しかし、例えば照明柱の場合、一般に鋼管柱とベースプレートとの板厚差が大きいので、比較的大きな電流、電圧にて入熱量を上げて溶接するが、このため、完全に溶け込み溶接をを目指した場合、予め鋼製の裏当て材を接合部に直接設置する必要がある。
すなわち、図13に示すように、鋼管柱5の下端外周面側に開先を形成し、鋼管柱5の下端部あるいはベースプレート6に裏当て金7を先付けした状態で溶接接合する(特許文献2)。溶接部を8で示す。
一方、図13のように裏当て材を用いる柱基部接合方法では、鋼管柱とベースプレートとの板厚差が大きい場合でも一応完全溶け込み溶接が可能であるが、良好な溶接部が得られる溶接条件が厳しいという問題がある。また、常に完全溶け込み溶接が行われるとも限らず、厳格な欠陥検査が不要となるような完全溶け込み溶接が安定して得られることが望まれる。
また、裏当て材があると 溶接部の裏波が目視で確認出来ないので、目視のみでの品質管理ができないという問題もある。
鋼管柱の下端外面に開先を形成し、ベースプレートに鋼管柱の内径と同径の穴をあけ、鋼管柱を、管軸方向から見てその内面が前記ベースプレート穴内面と一致するようにベースプレートに垂直に当て、鋼管柱内面に嵌合可能な外径を持ち外面に周溝を形成した、溶接後に取り外し可能な筒状の裏当て材を、前記周溝が鋼管柱内面とベースプレート穴内面との境界を跨るようにして鋼管柱内面及び穴内面に当て、鋼管下端外面側から鋼管柱とベースプレートとを前記裏当て材の周溝内に裏波ビードが張り出すように溶接接合し、次いで裏当て材を取り外すことを特徴とする。
また、均一な裏波ビードを得ることが容易であり、一定の溶接品質を得ることが容易になる。
また、板厚の薄い鋼管柱と板厚の厚いベースプレートとの板厚差が大きい溶接では、良好な溶接部を得るための適切な溶接条件を設定することが難しいが、裏波ビードが周溝内に張り出すような溶接接合が行われる溶接条件を設定することで、完全溶け込み溶接が行われる条件を設定することが可能であり、完全溶け込み溶接を安定して実現することが可能となる。
また、従来の上下2段の隅肉溶接をする方法と異なり、1段のみで済むので、溶接作業の作業能率は良好である。
また、裏当て材は取り外し可能なので、再使用することができ、経済的である。
これらの図において、11は鋼管柱、12はベースプレート、13は裏当て材、14は裏当て材固定治具である。
後述する溶接試験に用いた鋼管柱11の板厚は4.2mm、ベースプレート12の板厚Tは19〜40mmであるが、本発明はこのように板厚差の大きな鋼管柱とベースプレートとのリブなしの溶接接合部を得るに際して、鋼管柱11の下端部をベースプレート12に溶接固定する鋼管柱基部接合方法であり、以下のようにして鋼管柱11をベースプレート12に溶接固定する。
鋼管柱11の下端外面に例えば45°のレ開先11aを形成し、ベースプレート12に鋼管柱11の内径と同径の穴12aをあける。
鋼管柱11の下端を、管軸方向から見てその内面が前記ベースプレート穴12aの内面と一致するようにしてベースプレート12に当てる。実施例ではルートギャップなしである。
実施例の裏当て材13は、図4に示すように、両端部を互いに逆のテーパ状に尖らせた帯状の銅板を湾曲させてリング状にし、前記テーパ状の両端部13bをラップさせたものである。ラップさせた両端部13bは互いにスライド可能であり、リング状の裏当て材13の径を弾性的に拡径できる。拡径していない状態では、図4(ロ)に拡大して示すように両端部13bのテーパ面Sの全体が互いに接触しており、この時のラップ部の厚みは銅板の板厚に等しい。拡径して両端部13bを互いに離れるようにスライドさせるとラップ部の厚みは僅かに薄くなるが、僅かなので特に問題はない。
溶接完了後、裏当て材13を取り外す。
これにより、図6に模式的に示したように、裏波ビード15aが明確に出た断面の溶接部(溶接金属部を15で示す)を得ることが可能である(なお、図6は後述の図7Aのマクロ断面写真に概ね相当する)。
供試体は表1に示す通りであり、鋼管柱11のサイズは、φ177.8×4.2mm、ベースプレート12は350×350×T(板厚T=19、25、36、40)mm、ベースプレート穴径は169.4(+0、−1.5mm)である。供試体の数はNo.1〜No.4の4種類・各4個の16個である。溶接資材は表1に示した通りである。
裏当て材13は、図4に示した銅板リング状のもので、図3において、幅W=30mm、板厚5mm、周溝13aの幅w=15mm、深さ1mmである。なお、裏当て材の周溝は幅は10〜20mmが適切と思われるが、必ずしもそのサイズでなくてもよい。
そして、4種類16個の供試体について、「電流A、電圧V、周波数Hz、速度mm/sec」の各溶接条件の組み合わせを種々変えて溶接を行った。
溶接条件「電流A、電圧V、周波数Hz、速度mm/sec」の組み合わせは、
「260A-35V-32Hz-650mm/sec」
「270A-30V-20Hz-400mm/sec」
「270A-35V-32Hz-650mm/sec」
「280A-34V-35Hz-700mm/sec」
「280A-36V-32Hz-650mm/sec」
「280A-34V-35Hz-800mm/sec」
「290A-34V-40Hz-800mm/sec」
「290A-36V-40Hz-800mm/sec」
「290A-38V-40Hz-800mm/sec」
で行った。
溶接完了後、外部欠陥検査と内部欠陥検査(超音波探傷試験、マクロ組織試験)を実施して溶接部の状況を確認した。外部欠陥検査ではアンダーカット、オーバーラップ、ピット、表面割れ、溶接止端形状などの溶接外観検査をし、特に裏波ビードの状況を確認した。
超音波探傷試験では、溶接部の全周について行い、欠陥の有無、欠陥の大きさ及び位置(360°周方向の位置)を調べた。また、超音波探傷試験の後、各供試体のそれぞれについて溶接ビードの周方向の2〜5箇所のマクロ断面写真を撮った。断面を調べた箇所は、裏波ビードが明確に出た箇所、及び出なかった箇所を適宜取り上げた。
図7Aは隆起した裏波ビードが明確に得られた箇所(周方向の位置)のもの、図7Bは隆起した裏波ビードが得られなかった場合のものである。
外観検査で隆起した裏波ビードが明確に得られた箇所では、超音波探傷試験によってその箇所に傷は検出されず、また、断面を調べた結果、図7Aのマクロ断面写真のように完全溶け込み溶接が行われていた(鋼管柱とベースプレートとの間に未溶着部分はほとんどなかった)。
一方、裏波ビードの出なかった箇所(周方向の位置)では、超音波探傷試験でその箇所に傷が検出された場合と、されなかった場合とがあった。そして、裏波ビードの出なかった箇所について断面を調べた結果では、図7Bのマクロ断面写真のように溶け込み不足で未溶着部分がある場合と、未溶着部分のない完全溶け込み溶接となっていた場合とがあった。
なお、裏波ビードが出ない箇所(周方向位置)があった原因としては、溶接条件が適切でなかったと考えられる場合とともに、鋼管柱芯ズレが生じた場合など別の要因もあった。
以上のことから、隆起した裏波ビードが全周に亘って明確に確認できた場合には、全周について完全溶け込み溶接が行われたと判断することも可能と思われる。
なお、さらなる多数の溶接試験の結果によっては、「裏波を確認できた時は溶接品質は合格である」との検査基準とされることも考えられる。その場合には、超音波探傷試験等の内部欠陥検査を省略することが可能になる。
なお、上記16個の供試体による溶接実験では、供試体の数が十分でないので、完全溶け込み溶接と溶接条件との明確かつ規則的な関係は得られなかったが、例えば、ベースプレート板厚19mmでは「280A-36V-32Hz-650mm/sec」の溶接条件では概ね完全溶け込み溶接が行われた。ベースプレート12板厚25mm、36mmでは「280A-34V-35Hz-700mm/sec」の溶接条件で概ね完全溶け込み溶接が行われた。ベースプレート12板厚40mmでは「280A-34V-35Hz-800mm/sec」、及び「290A-38V-40Hz-800mm/sec」の溶接条件で概ね完全溶け込み溶接が行われた。
図8は図1(イ)における裏当て材13及び裏当て材固定治具14のみを示した拡大図、図9は 図8における裏当て材固定治具14のみを示した図である。
この裏当て材固定治具14は、4つのセグメント部材21と、この4つのセグメント部材21を支持するセグメント支持部材22とからなる。
各セグメント部材21は、図10にも示すように、扇形板部23と、その外側円弧部から立ち上がった円弧状側壁部24と、ボルト挿通穴25aを有し前記扇形板部23に垂直に固定された支持板部25とからなる。
前記セグメント支持部材22は、図11にも示すように、板状リング27と、この板状リング27の直角二方向にあけた穴27aに合わせて溶接固定したナット28と、このナット28に螺合させた裏当て材拡径ボルト29とからなる。
まず、ベースプレート12の穴12aに、裏当て材13を固定すべき位置をマーキングする。
そのマーキングに合わせて裏当て材13をベースプレート穴12a内に配置し、裏当て材13の内側に配置した裏当て材固定治具14でベースプレート穴12a内面に固定する。その際、裏当て材固定治具14のセグメント支持部材22の裏当て材拡径ボルト29を回して、4つのセグメント部材21の円弧状側壁部24をそれぞれ半径方向外方に押し出して、各円弧状側壁部24を介して裏当て材13を拡径し、ベースプレート12の穴12aの内面に押し当て固定する。
次いで、図5に模式的に示したベースプレート支持回転駆動部31を持つ自動溶接機における前記ベースプレート支持回転駆動部31にベースプレート12をその穴芯を水平にして固定する。31aはベースプレート12を支持する円板状の支持部、31bは支持部31aを回転駆動する駆動部を示す。
次いで、鋼管柱11の下端部を、裏当て材固定治具14でベースプレート12の穴12a内に固定された裏当て材13の外周に被せるようにして、ベースプレート12に突き当て、鋼管柱11が正確に水平になっていることを確認して、例えば周方向の3箇所でベースプレート12に仮付けする。実施例ではルートギャップ無しとしているので、鋼管柱11のベースプレート12に対するセットが容易である。
この状態では、図2、図3、図5などに示すように、裏当て材13は、その周溝13aが鋼管柱11の内面とベースプレート穴12aの内面との境界Pを跨るようにして、鋼管柱11の内面及び穴12aの内面に当たっている。
溶接完了後、ベースプレート12をベースプレート支持回転駆動部31の支持部31aから取り外し、次いで、裏当て材固定治具14のボルト29を緩めて、裏当て材13を裏当て材固定治具14とともに取り外す。
次いで、裏波ビードが内面に適切な状態で張り出していることを確認する。これにより、完全溶け込み溶接がされた溶接接合部を得ることができる。
なお、裏波ビードを確認し溶接不良がないことを確認した後は、裏波ビードを削って鋼管柱内面と面一にしてもよい。
板厚の薄い鋼管柱11と板厚の厚いベースプレート12との板厚差が大きい溶接では、良好な溶接部を得るための適切な溶接条件を設定することが難しいが、裏波ビードが裏当て材13の周溝13a内に張り出すような溶接接合が行われる溶接条件を設定することで、完全溶け込み溶接が行われる条件を設定することが可能であり、完全溶け込み溶接を安定して実現することが可能となる。
また、均一な裏波ビードを得ることが容易であり、一定の溶接品質を得ることが容易になる。
また、従来の上下2段の隅肉溶接をする方法と異なり、1段のみで済むので、溶接作業の作業能率は良好である。
また、裏当て材13は取り外し可能なので、再使用することができ、経済的である。
また、鋼管柱11の内面とベースプレート12の穴12aの内面とが面一なので、図13に示した従来の鋼管柱基部接合方法と比べて、鋼管柱内に多くの電線等を通すことができる。
裏当て材13のサイズ(幅W、板厚)は、試験例に用いたサイズに限らず、鋼管柱及びベースプレートのサイズに応じて、あるいはその他の条件に応じて、適宜変更するとよい。
裏当て材13の周溝13aの幅wは、試験例の鋼管柱及びベースプレートのサイズの場合は10〜20mmが適切である。また、周溝13aの深さhは、鋼管柱及びベースプレートのサイズによっては0.5〜5mmの範囲が適切となることも考えられる。
また、裏当て材固定治具の構造は、実施例のものに限定されず、種々の構造のものを用いることができる。
実施例では溶接法としてMAG溶接を採用したが、その他のアーク溶接法を採用してもよい。また、使用する溶接機は半自動又は自動溶接機が好適であるが、必ずしもこれに限定されない。
本発明では、板厚の薄い鋼管柱と板厚の厚いベースプレートとの板厚差大なる溶接接合に適用されるが、例えば鋼管柱の板厚が4.2〜12mm、ベースプレートの板厚が16〜52mmなどで、板厚比としてはベースプレートの板厚が鋼管柱の板厚の3〜12倍程度のものに適用して好適である。
鋼管柱の具体的例としては、主として照明灯や標識や信号などの主柱であるが、本発明はベースプレート露出型でリブなしの種々の鋼管柱基部接合構造に適用できる。
12 ベースプレート
12a 穴(ベースプレート穴)
13 裏当て材
13a 周溝
13b 両端部
14 裏当て材固定治具
15 溶接部(溶接金属部)
15a 裏波ビード
21 セグメント部材
22 セグメント支持部材
23 扇形板部
24 円弧状側壁部
25 支持板部
25a ボルト挿通穴
27 板状リング
27a 穴
28 ナット
29 裏当て材拡径ボルト
31 (溶接機の)ベースプレート支持回転駆動部
31a 支持部
31b 回転駆動部
32 溶接トーチ
Claims (3)
- 板厚差の大きな鋼管柱とベースプレートとのリブなしの溶接接合部を得るに際して、 鋼管柱の下端部をベースプレートに溶接固定する鋼管柱基部接合方法であって、
鋼管柱の下端外面に開先を形成し、ベースプレートに鋼管柱の内径と同径の穴をあけ、鋼管柱を、管軸方向から見てその内面が前記ベースプレート穴内面と一致するようにベースプレートに垂直に当て、鋼管柱内面に嵌合可能な外径を持ち外面に周溝を形成した、溶接後に取り外し可能な筒状の裏当て材を、前記周溝が鋼管柱内面とベースプレート穴内面との境界を跨るようにして鋼管柱内面及び穴内面に当て、鋼管下端外面側から鋼管柱とベースプレートとを前記裏当て材の周溝内に裏波ビードが張り出すように溶接接合し、次いで裏当て材を取り外すことを特徴とする鋼管柱基部接合方法。 - 前記裏当て材が銅板又はセラミックからなることを特徴とする請求項1記載の鋼管柱基部接合方法。
- ベースプレートに鋼管柱を仮付けし、ベースプレートの穴内に配した裏当て材固定治具を用いて裏当て材を、その周溝が鋼管柱内面とベースプレート穴内面との境界を跨るようにして鋼管柱内面及び穴内面に当て、ベースプレートを支持して回転させるベースプレート支持回転駆動部を持つ溶接機における前記ベースプレート支持回転駆動部に前記ベースプレートを固定し、鋼管下端外面の開先に溶接トーチを向け、ベースプレートを鋼管柱と一体に回転させつつ鋼管柱とベースプレートとを前記裏当て材の周溝内に裏波ビードが張り出すように溶接接合し、次いで裏当て材を取り外すことを特徴とする請求項1又は2記載の鋼管柱基部接合方法。
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