JP5365908B2 - 定着装置及び画像形成装置 - Google Patents
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Description
オンデマンド方式の定着装置は、ベルト部材としての定着フィルム(エンドレスフィルム)、回転体としての加圧ローラ、固定部材としてのヒータ、等で構成されている。ヒータは、定着フィルムの内部に設置され、定着フィルムを介して加圧ローラに圧接してニップ部を形成するとともに、ニップ部の位置で定着フィルムを加熱する。そして、ニップ部に向けて搬送された記録媒体上のトナー像は、ニップ部にて熱と圧力とを受けて記録媒体上に定着される。
ここで、特許文献2等には、加圧パッドと加圧ベルトとの摺動性を向上させることを目的として、加圧パッドの摺接面にPTFE含侵ガラスクロス(低摩擦シート)を設置する技術が開示されている。
ここで、特許文献3等には、加圧パッドと加圧ベルトとの摺動性を向上させることを目的として、加圧パッドと加圧ベルトとの間にシリコーンオイル(潤滑剤)を介在させる技術が開示されている。
ここで、特許文献4等には、ベルト案内部材と定着ベルトとの摺動性を向上させることを目的として、双方の部材の摺接面にPFA、PTFE等からなる表面層(摺動層)を形成する技術が開示されている。
詳しくは、特許文献1等の定着装置は、ベルト部材と固定部材との摺動抵抗が大きいために、ベルト部材や固定部材が磨耗してしまい装置の耐久性が低かった。さらに、ベルト部材と固定部材との摺動抵抗が大きいために装置の駆動トルクが高く、定着ベルトがスリップして定着画像が乱れる「スリップ画像」が生じてしまったり、駆動ギアの歯面が破損してしまったりする可能性があった。
また、特許文献3等の定着装置は、固定部材とベルト部材との間にシリコーンオイルを介在させているために、ベルト部材や固定部材の磨耗を軽減する効果がある程度期待できる。しかし、固定部材の摺接面やベルト部材の摺接面における潤滑剤の保持性が充分ではないために、装置を長時間稼動させると、やがて潤滑剤が摺接面からはじかれてしまい、ベルト部材との摺動抵抗が増加してしまう可能性があった。
また、特許文献4等の定着装置は、固定部材の摺接面とベルト部材の摺接面とにPFA、PTFE等からなる摺動層をそれぞれ形成しているために、ベルト部材や固定部材の磨耗を軽減する効果がある程度期待できる。しかし、互いに平滑な摺接面の間に潤滑剤を介在させても、双方の摺接面における潤滑剤の保持性は不充分であるために、装置を長時間稼動させると、やがて潤滑剤が摺接面からはじかれてしまい、ベルト部材との摺動抵抗が増加してしまう可能性があった。
Va<Vb
なる関係が成立するように形成されたものである。
Ta<Tb
なる関係が成立するように形成されたものである。
図1〜図8にて、この発明の実施の形態1について詳細に説明する。
まず、図1にて、画像形成装置全体の構成・動作について説明する。
図1に示すように、本実施の形態1における画像形成装置1は、タンデム型カラープリンタである。画像形成装置本体1の上方にあるボトル収容部101には、各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)に対応した4つのトナーボトル102Y、102M、102C、102Kが着脱自在(交換自在)に設置されている。
ボトル収容部101の下方には中間転写ユニット85が配設されている。その中間転写ユニット85の中間転写ベルト78に対向するように、各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)に対応した作像部4Y、4M、4C、4Kが並設されている。
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、露光部3から発せられたレーザ光Lの照射位置に達して、この位置での露光走査によって各色に対応した静電潜像が形成される(露光工程である。)。
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、中間転写ベルト78及び第1転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kとの対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上のトナー像が中間転写ベルト78上に転写される(1次転写工程である。)。このとき、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上には、僅かながら未転写トナーが残存する。
最後に、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、不図示の除電部との対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上の残留電位が除去される。
こうして、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上でおこなわれる、一連の作像プロセスが終了する。
ここで、中間転写ユニット85は、中間転写ベルト78、4つの1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79K、2次転写バックアップローラ82、クリーニングバックアップローラ83、テンションローラ84、中間転写クリーニング部80、等で構成される。中間転写ベルト78は、3つのローラ82〜84によって張架・支持されるとともに、1つのローラ82の回転駆動によって図1中の矢印方向に無端移動される。
そして、中間転写ベルト78は、矢印方向に走行して、各1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kの1次転写ニップを順次通過する。こうして、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上の各色のトナー像が、中間転写ベルト78上に重ねて1次転写される。
その後、中間転写ベルト78は、中間転写クリーニング部80の位置に達する。そして、この位置で、中間転写ベルト78上の未転写トナーが回収される。
こうして、中間転写ベルト78上でおこなわれる、一連の転写プロセスが終了する。
詳しくは、給紙部12には、転写紙等の記録媒体Pが複数枚重ねて収納されている。そして、給紙ローラ97が図1中の反時計方向に回転駆動されると、一番上の記録媒体Pがレジストローラ対98のローラ間に向けて給送される。
その後、記録媒体Pは、排紙ローラ対99のローラ間を経て、装置外へと排出される。排紙ローラ対99によって装置外に排出された被転写Pは、出力画像として、スタック部100上に順次スタックされる。
こうして、画像形成装置における、一連の画像形成プロセスが完了する。
図2は、定着装置20を示す構成図である。図3は、定着装置20を幅方向にみた図である。図4は、定着装置20のニップ部の近傍を示す拡大図である。図5は、定着ベルト20と固定部材26との摺接部を示す拡大図である。
図2に示すように、定着装置20は、ベルト部材としての定着ベルト21、固定部材26、加熱部材22、補強部材23、断熱部材27、加熱手段としてのヒータ25(熱源)、回転体としての加圧ローラ31、温度センサ40、等で構成される。
定着ベルト21の表面層21a(内周面)は、層厚が50μm以下であって、フッ素を含有する材料で形成されている。具体的に、表面層21a(摺動層)を形成する材料としては、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフロオロプロピレン共重合体)等のフッ素樹脂材料や、これらにポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の樹脂を混ぜたもの、を用いることができる。なお、定着ベルト21の表面層21aについては、後でさらに詳しく説明する。
定着ベルト21の基材層は、層厚が30〜50μmであって、ニッケル、ステンレス等の金属材料やポリイミド等の樹脂材料で形成されている。
定着ベルト21の弾性層は、層厚が100〜300μmであって、シリコーンゴム、発泡性シリコーンゴム、フッ素ゴム、等のゴム材料で形成されている。弾性層を設けることで、ニップ部における定着ベルト21表面の微小な凹凸が形成されなくなり、記録媒体P上のトナー像Tに均一に熱が伝わりユズ肌画像の発生が抑止される。
定着ベルト21の離型層は、層厚が10〜50μmであって、PFA、PTFE、ポリイミド、ポリエーテルイミド、PES(ポリエーテルサルファイド)、等の材料で形成されている。離型層を設けることで、トナーT(トナー像)に対する離型性(剥離性)が担保される。
定着ベルト21の内部(内周面側)には、固定部材26、ヒータ25(加熱手段)、加熱部材22、補強部材23、断熱部材27、等が固設されている。
ここで、固定部材26は、定着ベルト21の内周面に、フッ素グリス等の潤滑剤を介して摺接するように固定されている。そして、固定部材26が定着ベルト21を介して加圧ローラ31に圧接することで、記録媒体Pが搬送されるニップ部が形成される。図3を参照して、固定部材26は、その幅方向両端部が定着装置20の側板43に固定支持されている。なお、固定部材26の構成・動作については後で詳しく説明する。
そして、加熱部材22は、ヒータ25の輻射熱により加熱されて定着ベルト21を加熱する(熱を伝える。)。すなわち、加熱部材22がヒータ25(加熱手段)によって直接的に加熱されて、加熱部材22を介して定着ベルト21がヒータ25(加熱手段)によって間接的に加熱されることになる。加熱部材22の材料としては、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属熱伝導体(熱伝導性を有する金属である。)を用いることができる。
また、加熱部材22と定着ベルト21とが摺接しても定着ベルト21の磨耗が軽減されるように、定着ベルト21の内周面には、フッ素を含む材料からなる表面層が形成されるとともに、双方の部材21、22の間にはフッ素グリス等の潤滑剤が塗布されている。さらには、加熱部材22の摺接面を摩擦係数の低い材料で形成することもできる。
なお、本実施の形態1では、加熱部材22の断面形状が略円形になるように形成したが、加熱部材22の断面形状が多角形になるように形成することもできるし、加熱部材22の周面にスリットを設けることもできる。
また、補強部材23における、ヒータ25に対向する面の一部又は全部に、断熱部材を設けたり、鏡面処理を施したりすることもできる。これにより、ヒータ25から補強部材23に向かう熱(補強部材23を加熱する熱)が加熱部材22の加熱に用いられることになるために、定着ベルト21(加熱部材22)の加熱効率がさらに向上することになる。
また、本実施の形態1では、定着ベルト21の直径が加圧ローラ31の直径と同等になるように形成したが、定着ベルト21の直径が加圧ローラ31の直径よりも小さくなるように形成することもできる。その場合、ニップ部における定着ベルト21の曲率が加圧ローラ31の曲率よりも小さくなるために、ニップ部から送出される記録媒体Pが定着ベルト21から分離され易くなる。
装置本体1の電源スイッチが投入されると、ヒータ25に電力が供給されるとともに、加圧ローラ31の図2中の矢印方向の回転駆動が開始される。これにより、加圧ローラ31との摩擦力によって、定着ベルト21も図2中の矢印方向に従動(回転)する。
その後、給紙部12から記録媒体Pが給送されて、2次転写ローラ89の位置で、記録媒体P上に未定着のカラー画像が担持(転写)される。未定着画像T(トナー像)が担持された記録媒体Pは、不図示のガイド板に案内されながら図2の矢印Y10方向に搬送されて、圧接状態にある定着ベルト21及び加圧ローラ31のニップ部に送入される。
そして、加熱部材22(ヒータ25)によって加熱された定着ベルト21による加熱と、補強部材23によって補強された固定部材26と加圧ローラ31との押圧力とによって、記録媒体Pの表面にトナー像Tが定着される。その後、ニップ部から送出された記録媒体Pは、矢印Y11方向に搬送される。
図4を参照して、定着ベルト21の内周面21aに摺接する固定部材26は、ベース層26b上に表面層26aが形成されたものである。固定部材26は、加圧ローラ31との対向面(摺接面)が、加圧ローラ31の曲率にならうように凹状に形成されている。これにより、記録媒体Pは加圧ローラ31の曲率にならうようにニップ部から送出されるために、定着工程後の記録媒体Pが定着ベルト21に吸着して分離しないような不具合を抑止することができる。
なお、本実施の形態1では、ニップ部を形成する固定部材26の形状を凹状に形成したが、ニップ部を形成する固定部材26の形状を平面状に形成することもできる。すなわち、固定部材26の摺接面(加圧ローラ31に対向する面である。)が平面形状になるように形成することができる。これにより、ニップ部の形状が記録媒体Pの画像面に対して略平行になって、定着ベルト21と記録媒体Pとの密着性が高まるために定着性が向上する。さらに、ニップ部の出口側における定着ベルト21の曲率が大きくなるために、ニップ部から送出された記録媒体Pを定着ベルト21から容易に分離することができる。
金属板を曲げ加工することにより形成する略パイプ状の加熱部材22は、その肉厚を薄くすることができるために、ウォームアップ時間を短縮することができる。しかし、加熱部材22自身の剛性は小さくなっているため、加圧ローラ31の加圧力に抗しきれずに、撓んだり、変形することがある。パイプ状の加熱部材22が変形してしまうと所望のニップ幅が得られずに、定着性が低下するという問題が生じる。これに対して、本実施の形態1では、薄肉の加熱部材22とは別に高剛性の固定部材26を設置してニップ部を形成しているために、そのような問題が生じるのを未然に防止することができる。
本実施の形態1では、定着ベルト21と加熱部材22とがほぼ全周にわたって近接しているため、加熱待機時(プリント動作待機時)においても定着ベルト21を周方向に温度ムラなく加熱できる。したがって、プリント要求を受けた後、速やかにプリント動作をおこなうことができる。このとき、特許文献1等のオンデマンド方式の定着装置では、ニップ部で加熱待機時に加圧ローラを変形させたまま熱を与えてしまうと、加圧ローラのゴムの材質によっては、熱劣化を起こして加圧ローラの寿命が短くなってしまったり、加圧ローラに圧縮永久ひずみが発生してしまったりする(ゴムの圧縮永久ひずみは、ゴムの変形に加熱が加わることにより増大する。)。そして、加圧ローラに圧縮永久ひずみが発生すると、加圧ローラの一部が凹んだ状態になり、所望のニップ幅が得られないため、定着不良が発生したり、回転時に異音が生じたりする。
これに対して、本実施の形態1では、固定部材26と加熱部材22との間に断熱部材27が設置されているために、加熱待機時に加熱部材22の熱が固定部材26に達しにくくなる。したがって、加熱待機時に加圧ローラ31が変形した状態で高温加熱される不具合が軽減されて、上述の問題が生じるのを抑止することができる。
これに対して、本実施の形態1では、固定部材26と加熱部材22との間に断熱部材27が設置されているために、加熱部材22の熱がニップ部の潤滑剤に達しにくくなる。したがって、潤滑剤の高温による劣化が軽減されて、上述の問題が生じるのを抑止することができる。
これにより、双方の部材21、26の摺接面に保持される潤滑剤の保持性が著しく高められ、定着ベルト21や固定部材26の磨耗が著しく低減されることになる。
従来の定着装置は、ベルト部材と固定部材との互いの摺接面の材質と潤滑剤との組み合わせが好適ではないために、ベルと部材と固定部材との摺動性が不充分であった。具体的に、先に挙げた特許文献1〜4について分析する。
特許文献1等では、固定部材(セラミックヒータ)の摺接面がガラスコートされており、ベルト部材(定着フィルム)の内周面はポリイミド等の樹脂材料やステンレス、ニッケル等で形成されている。このような場合には、摺接面の界面には潤滑剤が存在するものの、ガラスとポリイミド(又は、ステンレス、ニッケル)との摺動は表面摩擦係数が大きいために、経時で磨耗が大きく進行してしまう。
これに対して、特許文献2等では、固定部材の表面にPTFE含侵ガラスクロス(低摩擦シート)が設けられ、さらにその表面に潤滑剤が塗布されている。しかし、ベルト部材の内周面はポリイミド等の樹脂で形成されていて、PTFE含侵ガラスクロスのやわらかいPTFEが経時で大きく磨耗してしまう。
特許文献4等では、固定部材の摺接面とベルト部材の内周面とに、それぞれ、フッ素系の摺動層が設けられているために、双方の摺接面の一方だけが極端に磨耗してしまうことはない。しかし、双方の摺接面の間に介在された潤滑剤が熱源により直接加熱されているので、潤滑剤が高温に達して枯渇してしまう。また、双方の摺接面が平滑であるために、摺接面の接触面積が大きくなって、摩擦抵抗が大きくトルクアップしてしまう。さらに、双方の摺接面の表面エネルギーが低いために、潤滑剤が摺接面からはじかれてしまい、潤滑剤の機能が低減してしまう。特許文献3等においても、固定部材の摺接面やベルト部材の摺接面における潤滑剤の保持性が充分ではないために、潤滑剤が摺接面からはじかれてしまう。
定着ベルト21の表面層21a(摺接面)は、層厚が50μm以下であって、フッ素を含有する材料で形成され、さらに表面層21aの表面エネルギーが潤滑剤の表面張力よりも大きくなるように形成されている。具体的に、表面層21a(摺動層)を形成する材料として、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフロオロプロピレン共重合体)等のフッ素樹脂材料に、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の樹脂を混ぜたものを用いている。
固定部材26の表面層26aは、フッ素系のコート(固体潤滑剤としてのフッ素粒子が分散されたコート剤や、フッ素分子が分散された共析メッキ等である。)や、フッ素樹脂(PFA、PTFE、FEP)、フッ素樹脂フィルム等で形成され、さらにブラスト処理やエッチング処理が施されて多孔質状に形成されている。また、固定部材26の表面層26aとして、ガラスクロスの表面にフッ素系のコートをさせたシートや、フッ素樹脂を繊維化し編みこんだメッシュ等を用いることもできる。なお、本願において、「多孔質状」の表面層26aとは、表面層26aの表面(おもて面)から裏面にかけて多数の孔が貫通しているもののみではなく、表面層26aのおもて面(摺動面)に凹凸(裏面まで貫通しない孔)が多数形成されているものも含まれるものと定義する。
また、双方の部材21、26間に介在する潤滑剤としては、フッ素グリス等を用いることができる。
さらに、双方の表面層が互いに平滑に形成されてしまうと、フッ素系材料で形成された表面層の表面エネルギー(潤滑剤に対する濡れ性)が低いために、摺接面で潤滑剤がはじかれてしまい摺動性が悪くなってしまう。これに対して、本実施の形態1では、一方の表面層を多孔質状に形成しているために、経時においても表面層の孔に潤滑剤が保持させる。すなわち、図5に示すように、巨視的にみると、多孔質状に形成された表面層26aの網目(図5に示すように、白丸と白丸との間に多くの隙間が形成されている構造である。)に潤滑剤Qが入り込んで、潤滑剤Qが表面層26aに強固に保持された状態になる。このように、定着ベルト21と固定部材26との低摩擦性、低磨耗性が向上するとともに、双方の摺接面における潤滑剤の保持性が高くなり、定着装置20としての耐久性が飛躍的に向上する。
実験は、本実施の形態1における定着装置20において、定着ベルト21の摺動面21a(表面層)の材質及び表面性と、固定部材26の摺動面26a(表面層)の材質及び表面層と、を図6のように変化させて、装置20を連続稼動させながら装置20の駆動トルクを連続的に測定したものである。経時において、測定した駆動トルクが小さくその変動が小さいほど(所定のトルクに達するまでの定着ベルト21の走行距離が長いほど)、双方の部材21、26の摺動抵抗が小さくて、装置の耐久性が高いことになる。図6には、定着装置20の駆動トルクが6kgfにまで上昇したときと、8kgfにまで上昇したときと、の定着ベルト21の走行距離を示している。また、図6の「耐久性」の評価において、「◎」は装置の耐久性が充分であって、「△」は装置の耐久性が許容レベルであって、「×」は装置の耐久性が不充分である結果を示している。
図6の実験結果から、双方の部材21、26の表面層がフッ素系樹脂で形成され、そのうち一方の表面層が多孔質状に形成された場合に、装置の耐久性が格段に向上していることがわかる。
図7に係る実験は、定着ベルト21の摺接面の表面エネルギーと固定部材26の摺接面の表面エネルギーとがどちらも潤滑剤の表面張力よりも小さい場合と、定着ベルト21の摺接面の表面エネルギーが潤滑剤の表面張力よりも大きい場合と、で定着装置20を連続稼動して駆動トルクの変動を測定したものである。図7において、横軸は定着ベルト21の走行距離を示し、縦軸は装置20の駆動トルクを示す。また、図7において、グラフS1は定着ベルト21の摺接面の表面エネルギーが潤滑剤の表面張力よりも大きい場合のトルク変動を示し、グラフS2は定着ベルト21の摺接面の表面エネルギーと固定部材26の摺接面の表面エネルギーとがどちらも潤滑剤の表面張力よりも小さい場合のトルク変動を示す。なお、表面エネルギーの小さい表面層は、純粋なPFAコート層であって、表面エネルギーの大きい表面層はPFAにポリイミド等の樹脂を添加したものである。また、固定部材26と定着ベルト21との間に介在する潤滑剤として、フッ素オイルを含むフッ素グリスを用いた。
図7の実験結果から、定着ベルト21の摺接面の表面エネルギーが潤滑剤の表面張力よりも大きい場合の方が、経時でのトルク上昇が抑えられ、磨耗による抵抗を小さい値で維持することができることがわかる。このように、定着ベルト21側の表面エネルギーを大きくすることで、摺接面における潤滑剤の濡れ性が向上して、装置の耐久性が高められる。
さらに、フッ素樹脂のみで定着ベルト21の表面層21aを形成してしまうとその表面エネルギーが小さくなってしまうため、定着ベルト21の表面層21aをフッ素樹脂にポリイミド等の樹脂を添加したもので形成して、定着ベルト21の内周面21aの表面エネルギーを潤滑剤Qの表面張力よりも大きく設定することで、互いに摺接する摺接面のうち一方の摺接面における濡れ性(潤滑剤に対する濡れ性である。)が向上して、摺接面における潤滑剤の保持性を高めることができる。
双方の部材21、26の摺接面が低摩擦で摺接するためには、双方の摺接面の間に潤滑剤Qが介在していることが重要である。そのため、上述したように、一方の摺接面(表面層26a)を多孔質状に形成して、その空孔に潤滑剤を溜めることで潤滑剤Qの保持性を向上させている。しかし、多孔質状の表面層26aが表面エネルギーの低いフッ素を含む材料で形成されているため、その表面層26aにおける潤滑剤Qの濡れ性が充分ではない。そこで、本実施の形態1では、多孔質状の表面層26aの裏面を、表面エネルギーの大きな平滑面26b1に接触させることで、図5に示すように、表面層26aの空孔に入り込んだ潤滑剤Qが平滑面26b1に密着して潤滑剤Qの保持力が向上する。
図8に係る実験は、表面層26aの裏面に接する面26b1をステンレスで形成した場合と、表面層26aの裏面に接する面26b1をフッ素ゴムで形成した場合と、で定着装置20を連続稼動して駆動トルクの変動を測定したものである。図8において、横軸は定着ベルト21の走行距離を示し、縦軸は装置20の駆動トルクを示す。また、図8において、グラフS3は表面層26aの裏面に接する面26b1をステンレスで形成した場合のトルク変動を示し、グラフS4は表面層26aの裏面に接する面26b1をフッ素ゴムで形成した場合のトルク変動を示す。なお、多孔質状の表面層26aとして、PFA繊維を編んだメッシュを用いた。また、固定部材26と定着ベルト21との間に介在する潤滑剤として、フッ素オイルを含むフッ素グリスを用いた。
図8の実験結果から、表面層26aの裏面に接する面26b1をステンレスで形成した場合の方が、経時における急激なトルク上昇がなく、耐久性に優れていることがわかる。これは、フッ素ゴムの表面エネルギーに対してステンレスの表面エネルギーが大きく潤滑剤Qに対する濡れ性が良いために、潤滑剤Qが表面層26aの孔に入り込んだ後に、ステンレスで形成されたベース層26bの表面26b1に密着・保持されて、潤滑剤Qの保持性がさらに高められるためである。
定着ベルト21の表面層21a(摺接面)をPFAコート層又はPTFEコート層とした場合に、その表面エネルギーEaは22.6mN/m程度である。また、固定部材26の多孔質状の表面層26a(摺接面)をPFA繊維又はPTFE繊維でメッシュ状に編みこまれた摺動シートとした場合に、その表面エネルギーEbは20mN/m程度である。ここで、固定部材26と定着ベルト21との間に介在する潤滑剤としてフッ素オイルを含むフッ素グリス(40℃での動粘度が65×10-6m2/s)を用いた場合に、その表面張力Ejは18mN/m程度になる。また、固定部材26と定着ベルト21との間に介在する潤滑剤としてフッ素オイルを含むフッ素グリス(40℃での動粘度が25×10-6m2/s)を用いた場合には、その表面張力Ejは17.7mN/m程度になる。したがって、Ea>Ej、かつ、Eb>Ejが満足されることになる。
なお、固定部材26と定着ベルト21との間に介在する潤滑剤としてシリコーンオイルを用いた場合には、その表面張力が21mN/m(>Eb)になり、上述した本実施の形態1における効果を充分に発揮することができないことを、本願発明者は実験にて確認した。
Va<Vb
Ta<Tb
なる関係が成立するように、定着ベルト21及び固定部材26を形成している。
これは、高温で使用される定着ベルト21の内周面21aをフッ素系材料で形成した場合に、定着ベルト21の磨耗速度が速まるためである。これに対して、定着ベルト21の表面層21aの層厚を単純に厚くしてしまうと、定着ベルト21の熱容量が増えることにともない定着ベルト21の加熱効率が低下して、装置20のウォームアップ時間が長くなってしまう。そこで、本実施の形態1では、定着ベルト21の表面層21aの摩耗速度が遅くなるように、定着ベルト21の表面層21aをフッ素樹脂に耐熱性樹脂材料を混ぜたもので形成するとともに、固定部材26の表面層26aの層厚を定着ベルト21の表面層21aの層厚よりも厚く設定した。
ここで、表面層の「磨耗速度」とは、定着ベルト21の走行距離に対する表面層の磨耗量であって、材料に1Nの力が作用した状態で1km磨耗させた場合の磨耗量(mm3/N・km)を示す「比磨耗量」とほぼ同義である。
これに対して、本実施の形態1では、定着ベルト21の表面層21a(内周面)にポリイミドやポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性樹脂を混ぜたり、モリブデンやカーボンフィラーを混入させたりすることにより、定着ベルト21の表面層21aの磨耗速度Vaが固定部材26の表面層26aの磨耗速度Vbよりも遅くなるように設定した(Va<Vbである。)。さらに、定着ベルトの表面層21aの層厚Taを50μm以下として、固定部材26の表面層26aの層厚Tbを100μm以上に設定した(Ta<Tbである。)。これにより、定着ベルト21の表面層21aの磨耗が進んで定着ベルト21の基材層が露出することにより、装置20の駆動トルクが急激に上昇してしまう不具合が抑止される。すなわち、定着ベルト21の熱容量を増加させずに、装置20の耐久性を向上させることができる。
図9にて、この発明の実施の形態2について詳細に説明する。
図9は、実施の形態2における定着装置を示す構成図であって、前記実施の形態1における図2に相当する図である。本実施の形態2における定着装置は、加熱部材22が電磁誘導によって加熱される点が、前記実施の形態1のものとは相違する。
ここで、本実施の形態2における定着装置20は、加熱手段として、ヒータ25の代わりに、誘導加熱部50が設置されている。そして、本実施の形態2における加熱部材22は、ヒータ25の輻射熱によって加熱される前記実施の形態1のものとは異なり、誘導加熱部50による電磁誘導によって加熱される。
定着ベルト21が図9中の矢印方向に回転駆動されると、定着ベルト21は誘導加熱部50との対向位置で加熱される。詳しくは、励磁コイルに高周波の交番電流を流すことで、加熱部材22の周囲に磁力線が双方向に交互に切り替わるように形成される。このとき、加熱部材22表面に渦電流が生じて、加熱部材22自身の電気抵抗によってジュール熱が発生する。このジュール熱によって、加熱部材22が電磁誘導加熱されて、さらに加熱された加熱部材22によって定着ベルト21が加熱される。
なお、加熱部材22を効率的に電磁誘導加熱するためには、誘導加熱部50を加熱部材22の周方向全域に対向するように構成することが好ましい。また、加熱部材22の材料としては、ニッケル、ステンレス、鉄、銅、コバルト、クロム、アルミニウム、金、白金、銀、スズ、パラジウム、これらのうち複数の金属からなる合金、等を用いることができる。
さらに、加熱部材22自身を抵抗発熱体とすることもできる。具体的に、加熱部材22を薄肉の抵抗発熱体で形成して、その両端部に電源部を接続する。そして、加熱部材(抵抗発熱体)に電流が流されると、加熱部材自身の電気抵抗によって抵抗発熱体が昇温して、定着ベルト21が加熱されることになる。
これらの場合にも、固定部材26の摺接面と定着ベルト21の摺接面とを前記各実施の形態と同様に形成することで、前記各実施の形態と同様の効果を得ることができる。
20 定着装置、
21 定着ベルト(ベルト部材)、
21a 内周面(表面層、摺接面)、
22 加熱部材、
23 補強部材、
25 ヒータ(加熱手段)、
26 固定部材、
26a 表面層(多孔質状の表面層、摺接面)、
26b ベース層、 26b1 境界面、
27 断熱部材、
31 加圧ローラ(回転体)、
50 誘導加熱部(加熱手段)、 Q 潤滑剤、 P 記録媒体。
Claims (8)
- 記録媒体上にトナーを定着する定着装置であって、
所定方向に走行するとともに、可撓性を有する無端状のベルト部材と、
前記ベルト部材の外周面に当接する回転体と、
前記ベルト部材の内周面に潤滑剤を介して摺接するように固定されるとともに、当該ベルト部材を介して前記回転体に圧接して記録媒体が搬送されるニップ部を形成する固定部材と、
前記ニップ部を除く位置で前記ベルト部材の内周面に対向するように略パイプ状に形成されて、前記ベルト部材を加熱する加熱部材と、
前記加熱部材の内周面に対向するように設置されて、前記加熱部材を加熱するヒータと、
を備え、
前記固定部材と前記ベルト部材とは、双方の部材が摺接する摺接面にフッ素を含有する材料で形成された表面層をそれぞれ具備し、双方の部材の前記表面層のうち一方の表面層が多孔質状に形成され、双方の部材の前記表面層のうち少なくとも一方の表面層の表面エネルギーが前記潤滑剤の表面張力よりも大きくなるように形成され、前記ベルト部材の前記表面層の磨耗速度をVaとして、前記固定部材の前記表面層の磨耗速度をVbとしたときに、
Va<Vb
なる関係が成立するように形成されたことを特徴とする定着装置。 - 前記固定部材又は前記ベルト部材は、前記多孔質状に形成された前記表面層の摺接面の反対側の面が当該表面層の表面エネルギーよりも大きな表面エネルギーを有する面に接触するように形成されたことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
- 前記ベルト部材と前記固定部材とは、前記ベルト部材の前記表面層の層厚をTaとして、前記固定部材の前記表面層の層厚をTbとしたときに、
Ta<Tb
なる関係が成立するように形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の定着装置。 - 前記潤滑剤は、フッ素グリスであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の定着装置。
- 前記固定部材と前記ヒータとの間に断熱部材を設置したことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の定着装置。
- 前記ベルト部材は、トナー像を加熱して溶融する定着ベルト又は定着フィルムであって、
前記回転体は、ローラ状に形成された加圧ローラであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の定着装置。 - 前記固定部材の前記表面層は、多孔質状に形成され、
前記ベルト部材の前記表面層は、その表面エネルギーが前記潤滑剤の表面張力よりも大きくなるように形成されて、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、モリブデン、カーボンフィラーのいずれかが混入されたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の定着装置。 - 請求項1〜請求項7のいずれかに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
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