本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は視覚再生補助装置の外観を示した概略図、図2は視覚再生補助装置における体内装置を示す図である。視覚再生補助装置1は、図1及び図2に示すように、外界を撮影するための体外装置10と、網膜を構成する細胞に電気刺激を与え視覚の再生を促す体内装置20とからなる。体外装置10は、患者が掛けるバイザ11と、バイザ11に取り付けられるCCDカメラ等からなる撮影装置12と、外部デバイス13、送信手段である共振回路の一次コイル14等にて構成されている。
外部デバイス13には、変調回路13a、発振回路13b、増幅回路13cが組み込まれている。変調回路13aは、入力信号を電磁誘導による伝送に適した状態に変換するためのCPU等の演算処理回路を有している。変調回路13aは入力された撮像装置12からの被写体像の撮像データ(画像データ)を制御信号に変換する。なお、制御信号は、撮影された被写体を患者に認識させるために必要となる電気刺激パルス信号と、電気刺激パルス信号を出力させる(後述する)電極45を指定するための電極指定信号とを含む。
発振回路13bは、体内装置20を駆動させる電力及び体内装置20側で信号を復調する場合の時間基準となるクロック信号の元となる高周波信号を出力させる。発振回路13bには水晶体振動子等の周波数精度が高い素子(例えば、周波数確度10ppm程度)が使用される。発振回路13bから出力された高周波信号は変調回路13aに入力される。ここで、変調回路13aは高周波信号を制御信号に基づき電磁誘導に適した状態に変換して増幅回路13cに出力させる。増幅回路13cは、発振回路13bからの出力信号を電磁誘導で伝送するために増幅させる。
増幅回路13cからの出力信号は1次コイル14に入力される。1次コイル14は、変調手段13aからの信号を、本実施形態では、電磁波(以下、搬送波)として体内装置20側に伝送(無線送信)する。つまり、搬送波には、制御信号(電気刺激パルス信号及び電極指定信号)と、体内装置20を駆動させるための電力及びクロック信号とが含まれている。また、1次コイル14の中心には図示なき磁石が取り付けられている。磁石は後述する受信手段である共振回路の2次コイル31との位置固定に使用される。バイザ11は眼鏡形状を有しており、図1に示すように、患者の眼前に装着して使用される。また、撮影装置12はバイザ11の前面に取り付けてあり、患者に視認させる被写体が撮影される。
次に、体内装置20の構成を説明する。図2(a)は、体内装置20の外観を模式的に示した図である。図2(b)は刺激部40の概略断面図である。体内装置20は、大別して体外装置10から送信された搬送波を受け取る受信部(受信ユニット)30と、網膜を構成する細胞を電気刺激する刺激部(刺激ユニット)40により構成される。受信部30には、体外装置10からの搬送波を受信する受信手段である2次コイル31、制御ユニット80が設けられている。制御ユニット80は、2次コイル31で受信された搬送波から得られる電力により駆動される。
制御ユニット80には、クロック生成回路80aとデコーダ80bとが組み込まれている。クロック生成回路80aは、制御ユニット80全体の動作の基準時間となるクロック信号を発生させる。デコーダ80bは、クロック生成回路80aから出力されたクロック信号に基づき、搬送波から制御信号を抽出する。また、制御ユニット80は、制御信号から、電気刺激パルス信号と、電気刺激パルス信号を出力させる電極を指定する電極指定信号を生成し、刺激部40へ送信するための役割を有する。なお、クロック生成回路80aから出力されるクロック信号の詳細な説明は後述する。
これら2次コイル31や制御ユニット80は、基板33上に形成される。なお、受信部30には1次コイル14を位置固定させるための図示なき磁石が設けられている。対向電極(帰還電極)34はそれぞれの電極ユニット44に対向して配置され、効率的に網膜を構成する細胞を電気刺激するための部材である。
図6に刺激部40を眼内に埋植した状態の概略図を示す。対向電極34は図示するように眼内中央の前眼部寄りの位置に置かれる。これによって、網膜E1は電極44と対向電極34(対向電極)との間に位置され、電極ユニット44からの電気刺激パルス信号が効率的に網膜を貫通される。
刺激部40は、電気刺激パルス信号を出力させる複数の電極ユニット44、刺激制御部42(制御手段)、これらを設置する基板43を含む。各電極ユニット44は、電荷を放出させる電極45と、電極45から放出された電荷の拡散を抑制し、電荷密度を高めるための遮蔽部材48で構成される(図3参照)。各電極45は、後述する作製方法(接続形態)にて各々が刺激制御部42に接続される(詳細は後述する)。刺激制御部42は、制御ユニット80から送られてきた制御信号(電極指定信号を含む)に基づいて、対応する電気刺激パルス信号を電極45の各々へ振り分けるマルチプレクサ機能を有する。電極45には生体適合性が高い金属、例えば金や白金、窒化チタン、酸化イリジウム等が用いられる。
遮蔽部材48は、上方に開口部48aを持ち、内部に電極を収める円筒形状の部材であり、生体適合性が良く絶縁性を有する材料にて形成される。遮蔽部材48を形成するための材料としては、ポリパラキシレン(登録商標パリレン、以下パリレンと記す),ポリプロピレン,ポリイミド、シリコーン樹脂等の樹脂材料が好適に用いられる。このような遮蔽部材48は、電極45の側面に接触することなく所定の隙間を有した状態にてその周囲を覆うように形成され,電気刺激パルス信号を出力するのに使用可能な電極の表面積を十分に確保するものとしている。遮蔽部材48の詳細な説明は後述する。
本実施形態で用いられる基板43は、眼内、特に、層状の眼球組織内に設置されるため、眼球の形状に沿うことが好ましく、層間(層内)に長期埋植されても患者の負担が少ないことが好ましい。このため、基板43は、パリレン、ポリプロピレン、ポリイミド等、生体適合性が高く、所定の厚さにおいて折り曲げ可能(フレキシブル)な材料を長手方向に延びた平板状に加工したものが用いられる。基板43の厚みは、10〜100μmとされる。この基板43には、電極45と刺激制御部42とを電気的に接続するための導線であるワイヤ41が形成されている。ワイヤ41は、生体適合性の高い金属、例えば、金、白金等から形成され、その表面が生体適合性を有すると共に絶縁性を有する素材、例えば、パリレン、ポリイミド等の樹脂にて被覆される。ワイヤ41の厚み(径)は、基板43のフレキシブル性や耐久性の観点から好ましい程度の厚み、例えば、10〜100μmとされる。基板43上に実装された刺激制御部42はワイヤ41を介して基板43上に複数個形成された電極45と接続される。後述する電極45の作製方法により、ワイヤ41が基板43にて覆われることにより、ワイヤ41の金属部分は絶縁性を有する被覆に二重に覆われるため、ワイヤ41部分に体液等が浸潤しても、漏電等の可能性が低くなる。
刺激制御部42は、各半導体素子の組合せにより機能を果たす半導体の集積回路であり、半導体基板上に集積回路を機能させるパターン配線が形成された面を基板43側にして接合されている。また、詳細な説明は略すが、刺激制御部42は、その周囲をメッキで形成した金属膜などに覆われており、生体からの浸潤等を低減させる構成とされる。なお、刺激制御部42は、セラミックスや金属にて形成された気密ケースを用いて密封処理される構成としてもよい。このような場合、刺激制御部42は、ケースに設けられた気密端子を介してワイヤ41と接続される。
また、体内において離れた位置に置かれる受信部30と刺激部40とは、複数のワイヤ(導線)50によって電気的に接続されている。ワイヤ50は、体内に設置された際に眼球運動に対応した伸縮性、耐久性を備えることが好ましく、上述のワイヤ41と同様の素材にて作製される。受信部30に一端を接続されたワイヤ50は、刺激部40に配置されたワイヤ41の末端部分に接続される。詳細な説明は略すが、ワイヤ50とワイヤ41は、熔接や圧着等により接続される。また、ワイヤ50はシリコーン、パリレン等の絶縁材料で個別に絶縁されている。取扱いを容易にするために個々のワイヤ51はシリコーン、パリレン等の樹脂によりケーブル51として一体化された構造となっている。
なお、図示は略すが、受信部30は、ケーブル51、対向電極34を外に出して、気密性の高い容器に収められ、その容器の蓋が密閉される。さらに、容器の上から生体適合性がよく絶縁性を有する樹脂等でコーティングされる。これにより、受信部30はハーメチックシールされる。
次に、電極ユニット44について説明する。図3は、電極ユニット44付近の模式的断面図である。図4は、電極45の周縁に成形される遮蔽部材48の作製方法を段階的に示した図である。図は説明の簡便のため、各部材の縮尺は模式的としている。
基板43は、第1基板となるカバー部43aと、第2基板となるベース部43bにて構成されており、カバー部43aとベース部43bの間には、電極45と、電極45に接続されたワイヤ41が挟持されている。電極45は、平板状に形成されるベース部43bとカバー部43aに挟まれる基台45aと、基台45aを基部として柱状(凸状)に延びた円筒部45bにより構成される。
円筒部45bは、カバー部43aの厚みよりも長く(高く)形成される。網膜に刺激を与え、視覚の再生を促すためには所定の電荷量が必要となるが、電極45はこのような電荷量を電荷注入能力の範囲内で放出させるのに充分な表面積を有していることが必要となる。このような電極の表面積は電極径と高さによって決まるが、電極径を大きくすると限られた配置スペースに形成することが可能な電極数が少なくなってしまう。このため、本実施形態では電極数を確保するために電極45(円筒部45b)の径をできるだけ抑えるとともに、必要とされる表面積を確保するために個々の電極を高さ方向に立体的に長く(高く)形成するものとしている。例えば、円筒部45bは外径が100〜500μm、高さが100〜500μmに形成される。このように電極45にある程度の高さを持たせることで、患者眼の網膜を構成する細胞を刺激するために必要な電荷量を放出させるための電極45の表面積が確保される。
次に、電極45の作成方法を簡単に説明する。電極45は、基台45aとワイヤ41とがレーザ溶接、抵抗溶接、圧着加工等の既存の接合技術により機械的に接続されると共に電気的に接続される。電極45とワイヤ41とが接続された状態で、平板状に作製された樹脂製のカバー部43aに形成された図示を略す貫通孔に電極ユニット44の円筒部45bが通される。貫通孔は、レーザ加工又は機械加工により円筒部45bを貫通させる程度の大きさに形成されると共に、カバー部43aの所定の位置にある電極45の数に合わせて形成されている。
次に、既存の蒸着技術を用いて、カバー部43aと同種の樹脂を基台45aに所定の厚さが得られるまで蒸着させ、フレキシブル性を有する平板状のベース部43bを形成する。これにより、基台45a及びワイヤ41は、カバー部43aとベース部43bにて狭持(包埋)され、円筒部45bが、基板43上に凸状に形成される。
ところで、電極45から放出される電荷は、狙った箇所の網膜を構成する細胞に集中して照射されることが好ましい。しかし、本実施形態のように、電極45に高さがある場合は、電極表面から放射された電荷が発散されてしまい、狙った網膜を構成する細胞への刺激効率が低下してしまう。そこで、本実施形態では、電極45から放出された電荷を空間的に集中させるために、電極45の周縁に遮蔽部材48を設けるものとしている。
次に、図4を用いて遮蔽部材48の作製方法を説明する。図4(a)に示すステップでは、円筒部45bと遮蔽部材48との間に間隙を作るために、円筒部45bの表面に液状のフォトレジスト47が塗られる。フォトレジスト47としては、紫外線等の照射により硬化するポジ型のフォトレジストが使用される。そして、フォトレジスト47が塗られた状態で紫外線を照射して、フォトレジストを硬化させる。その後現像液を用いて不要部分を溶解除去することで図4(a)に示す構造を形成する。なお、フォトレジストは遮蔽部材48と電極45とを接触させず電極の表面積確保用の隙間を形成するために用いるため、10μm以上の厚さにて塗布されていることが好ましい。
図4(b)に示すステップでは、遮蔽部材48を形成する樹脂層49が、フォトレジスト47及び基板43上に蒸着によって形成される。蒸着は真空蒸着法等の既知の蒸着技術を用いることができる。この樹脂層49により遮蔽部材48が形成される。樹脂層49を形成するための蒸着材料には、電気刺激パルス信号を遮断する絶縁性を有すると共に、生体適合性を有するポリイミド等が使用される。例えば、樹脂層49は5μm〜50μmの厚さとなるように蒸着されることが好ましい。樹脂層49が50μm以上となると、蒸着での形成に時間がかかる。一方、5μmよりも薄いと機械的強度が確保され難くなる。
以上のように、電極45(円筒部45b)上にフォトレジスト47の層及び樹脂層49が形成された後、上方から酸素プラズマを用いてドライエッチングを行い、電極45の上部の樹脂層49の一部を取り除くとともにフォトレジスト47を露出させるようにする。プラズマ照射に際しては、電極44の上にマスク60をかぶせる。マスク60には、電極ユニット44の数と位置が一致する複数の開口部61が設けられており、開口部61は、マスク60を電極ユニット44に取り付けた際に、電極45の先端のみが現れる形状となっている。マスク60は例えばシリコーン等で形成される。
図4(c)に示すステップのように、マスク60が置かれた状態で、開口部61の上側からプラズマが照射される。プラズマはフォトレジスト47の表面が現れるのに必要な時間とパワーで照射される。これにより、開口部61に位置する樹脂層49がプラズマ照射で蒸散されて、各電極に形成されたフォトレジスト47の層が露出される。
次に、図4(d)のステップのように、プラズマ照射後の電極ユニット44からマスク60を取外した後、電極ユニット44を図示を略す溶解液に浸す。溶解液には、フォトレジスト47を溶解するアセトン等の有機溶剤が使用される。溶解液は電極ユニット44上部のフォトレジスト47が露出されている部分から浸透し、フォトレジスト47の層全体を溶解する。これにより、フォトレジストは全て取り除かれ、電極45(円筒部45b)と樹脂層49との間に所定の隙間d1が形成される。
そして、図3に示すように、残りの樹脂層49によって、電極45(円筒部45b)の周縁に配置される円筒状の遮蔽部材48が形成される。なお、遮蔽部材48は電極45の高さと同じか、それよりも低い高さで形成されるのが好ましく、遮蔽部材48の高さ調節は前述したプラズマ照射による蒸散量によって調節することができる。本実施形態では、遮蔽部材48は高さは100μm〜500μm以下の高さで形成される。
なお、本実施形態では、電極45の側面に遮蔽部材48が形成され、電極45の上方には電極径よりも若干大きな開口が形成される例を示したが、これに限るものではなく、電極45の全体を覆うように遮蔽部材90を形成し、遮蔽部材90の上面の一部にのみ、開口部91を設けるようにしても良い(図5(b)参照)。
図5に変容例2の遮蔽部材90の形成方法を示す。なお、図5において、図4と同じ構成要素には同じ図番号を用いて説明する。遮蔽部材90の形成方法は、図4(a)、図4(b)のステップは実施例1と同じである。図4(c)に示すステップの次に、図5(a)のステップに示すように、電極45にマスク60が取り付けられた状態で、マスク60の開口部61の上に蓋部材70を置く。蓋部材70は樹脂などで形成され、蓋部材70の中央にはレーザ照射などであけられた円形の開口部71が設けられている。
各電極ユニット44の上にマスク60及び蓋部材70が置かれた状態で、開口部61の上側からプラズマが照射される。これにより、開口部71に位置する樹脂層49のみが蒸散される。そして、図4(d)と同様のステップで、プラズマ照射後の電極ユニット44が溶解液に浸されると、開口部71から浸透した溶解液によってフォトレジスト47の層全体が溶解される。そして、図5(b)に示すように、電極45bの表面と所定の間隙を有して配置される遮蔽部材90が形成される。また、遮蔽部材90の開口部91が小さく形成されることで、電極45から放出された電荷がより空間的に集中され、より良好な電気刺激が行われるようになる。
なお、図5(a)のステップで使用される蓋部材70を用いず、樹脂層49の頂点部に直接レーザ照射により穴を開けるようにしても良い。
これ以外にも、遮蔽部材の形状としては、電極45の表面との間に隙間を有し、電極の上方に開口部が形成されていれば良い。これにより、電荷注入能力を超えないための電極45の表面積が確保された状態で必要な電荷量が放出されると共に、より電荷が空間的に集中された状態で、網膜細胞の電気刺激が行えるようになる。
次に、視覚再生補助装置の制御系を説明する。図7は視覚再生補助装置1の全体の制御系を示すブロック図である。図8は体内装置20の制御ユニット80の制御ブロック図である。
図7において、視覚再生補助装置1の体外装置10側(1次側)は、撮影装置12、外部デバイス13、共振回路の一次コイル14を含む。体内装置20側(2次側)は共振回路の2次コイル31と、対向電極34と、制御ユニット80(クロック生成回路80a及びデコーダ80bを含む)と、刺激制御部42とを含む。
図8に示す制御ユニット80のブロック図において、クロック生成回路80aは、整形・分周回路81、発振回路82、クロック検出回路83、信号切換回路84から構成される。整形・分周回路81は、搬送波の周波数を下げてクロック信号(以下、搬送波クロック信号)を生成する。発振回路82からは、搬送波クロック信号と同じ周期のクロック信号(以下、発振クロック信号)が出力される。なお、発振回路82は、体内装置20の小型化のために、RC回路等の簡単な構成で作られており、集積回路上に搭載できる程度に小さい回路面積で組み込まれている。クロック検出回路83は、整形・分周回路81から出力される搬送波クロック信号の有無のモニタを行い、搬送波クロック信号が無い場合に切換信号を出力する。信号切換回路84は、クロック検出回路83からの切換信号に基づき、クロック生成回路80aから出力させるクロック信号を搬送波クロック信号と発振クロック信号とで切換える。
次に、以上のような構成を備える装置の動作を説明する。発振回路13bから出力された高周波信号は変調回路13aに入力される。また、撮影装置12で撮影された被写体像は変調回路13aに入力されて制御信号に変換される。変調回路13aは制御信号によるデジタル信号に基づき、高周波信号を所定の変調方式で変調させる。ここでは、オン・オフ・キーイング(OOK)方式により、変調度100%での信号処理が行われる。
変調度100%(OOK方式)では、搬送波の振幅0%(OFF期間)と、振幅100%(ON期間)の組み合わせで情報が伝送されるため、体内装置20側(2次側)では、搬送波の有無の検出のみによって信号を判別できる。つまり、受信側に信号を判別するための閾値を設定する必要が無いため、閾値と搬送波の振幅とを比較判定するための回路が不要となり、2次側の回路構成が簡単になる。変調回路13aから出力された搬送波は、増幅回路13cで増幅されて、1次コイル14を介して体内装置20側に伝送(無線送信)される。
体内装置20(2次側)では、電磁誘導により2次コイル31で搬送波が受信される。これにより、体内装置20側では駆動用の電力を得ることができる。また、クロック生成回路80aの整形・分周回路81により搬送波から搬送波クロック信号が生成される。
ところで、本実施形態では変調度100%の搬送波であるために、搬送波の振幅が100%であるON期間と、搬送波の振幅が0%となるOFF期間となるタイミングが発生する。ON期間では搬送波の周波数に基づき搬送波クロック信号が生成されるが、OFF期間では搬送波クロック信号が得られない。その為、OFF期間には制御ユニット80側にクロック信号が供給されなくなり、制御ユニット80が正常に動作できなくなる可能性がある。そこで、本実施形態では、搬送波のOFF期間が検出された場合に、体内装置20の発振回路82から出力されるクロック信号(以下、発振クロック信号とする)を用いて制御ユニット80を動作させる。これにより、クロック生成回路80aからは制御動作を行うために必要な連続したクロック信号が出力されるようになる。クロック生成回路から出力されるクロック信号は、装置(制御ユニット)を動作させるのに必要な時間基準となる基準クロック信号である。
クロック検出回路83は整形・分周回路81から出力される搬送波クロック信号をモニタして、搬送波のON,OFFを検出する。例えば、クロック検出回路83は搬送波クロック信号の波形の立ち上がりを逐次モニタすることで、ON,OFFを検出する(詳細は後述する)。
クロック検出回路83は搬送波のOFFを検出すると、信号切換回路84に切換信号を送信する。信号切換回路84は切換信号の入力が無い間は、搬送波クロック信号を制御信号とともにデコーダ80bに向けて出力させる。一方、切換信号を受信している間は、発振回路82から発振クロック信号のみをデコーダ80bに向けて出力させる。このように、信号切換回路84はクロック検出回路83からの切換信号の有無によって、クロック生成回路80aから出力させるクロック信号を切換え、それにより制御ユニット80を動作させる。
ここで、クロック生成回路80aによるクロック信号の切換動作を、図9のクロック生成回路80aを構成する各部の信号波形を用いて説明する。ここでは、搬送波に基づき生成される搬送波クロック信号fc、発振回路82から出力される発振クロック信号fosc、切換信号ch、クロック生成回路80aからデコーダ80bに向けて出力されるクロック信号foを示している。
搬送波がON期間の時間t0からt1では、クロック検出回路83により搬送波クロック信号fcの波形の立ち上がりが所定時間毎に検出され、搬送波がON状態であると判定される。その為、クロック生成回路80aからは搬送波クロック信号fcがクロック信号foとして出力される。
一方、時間t2からt3の搬送波のOFF状態では、クロック検出回路83により搬送波クロック信号fcの立ち上がりが検出されなくなる。例えば、所定の時間Δtの間に搬送波クロック信号fcの立ち上がりが検出されないと、クロック検出回路83は搬送波がOFF期間であると判定する。そして、切換信号chを出力する。なお、時間Δtは搬送波クロック信号fcの周期に基づき決定され、例えば、時間Δtは搬送波クロック信号fcの1パルスの時間よりも僅かに長い時間で設定される。
信号切換回路84は切換信号chを受信すると、クロック生成回路80aから出力されるクロック信号foを、搬送波クロック信号foから発振クロック信号foscに切換えるための信号を発振回路82に送信する。そして、信号切換回路84が切換信号chを受信している間は、発信回路82から出力される発振クロック信号fosc(周波数fosc)が、クロック信号foとしてクロック生成回路80aからデコーダ80bに向けて送信される。
なお、搬送波がON期間の時には、搬送波クロック信号fcと発振クロック信号foscとの同期が取られていると都合が良い。この場合には体内装置20に同期回路85を設ける。なお、同期回路85はフリップ・フロップ回路などの論理回路で簡単な構成で作られ、集積回路上に配置される。これにより、切換信号回路84によるクロック信号の切換時に、グリッジ等のノイズが発生されずに、直ちに発振クロック信号に切換えられる。なお、図9では、搬送波クロック信号fcと発振クロック信号foscとの同期が同期回路85により取られている状態を示している。
なお、搬送波クロック信号fcと発振クロック信号foscを同期させない場合でも、クロック生成回路80aに高周波成分を除去するためのフィルター又は論理回路を設けると良い。フィルター又は論理回路は簡単な構成で作られるので、これにより、内部装置20を大きくすること無く、搬送波クロック信号fcと発振クロック信号foscとの切換時に発生するグリッジ等のノイズを除去することができる。以上のように構成することで、より正確なクロック信号foがクロック生成回路80aから出力される。
以降、時間t3以降でクロック検出回路83により再び搬送波クロック信号fcの立ち上がりが検出されると、クロック検出回路83は切換信号chの送信を停止する。これにより、信号切換回路84への切換信号chの入力が無くなると、クロック生成回路80aからは搬送波クロック信号fcに基づくクロック信号foが出力される。
このように、搬送波のON期間及びOFF期間に関わらず、クロック生成回路80aからは、一定のクロック信号が連続して発生されるので、制御ユニット80はクロック信号に基づき安定して制御動作を行うことができるようになる。
クロック生成回路80aから出力されたクロック信号foは、デコーダ80bに入力される。デコーダ80bはON期間にて得られた制御信号とクロック信号foとに基づき制御動作を行い、電気刺激パルス信号及び電極指定信号を抽出する。そして、制御ユニット80は、電気刺激パルス信号と、電極指定信号とを刺激制御部42に送信する。
刺激制御部42は、制御ユニット80から供給される電気刺激パルス信号を電極指定信号に基づいて各電極ユニット44(電極45)に分配する。これにより、各電極45からは網膜を構成する細胞に対して視覚の再生を行うために必要な電気刺激パルス信号が出力される。このような電気刺激パルス信号の電荷は好ましくは、0.01μC〜1μC、より好ましくは0.1〜0.2μCの電荷である。電荷量が小さすぎると網膜細胞が刺激されず、電荷量が大きすぎると、電極45の劣化または体液等が電気分解され易くなる。
なお、電極45から放出される電荷量は、単位表面積当たり、50μC/cm2としても良い。各電極ユニット44から出力される電気刺激パルス信号により、網膜E1を構成する細胞が電気刺激され、患者は視覚(擬似光覚)を得る。
以上の説明では、クロック生成回路80aの信号切換回路84により、OFF期間に搬送波クロック信号と発振クロック信号とが切換えられる方法を述べた。これ以外にも、同期回路85によって、ON期間に発振クロック信号が搬送波クロック信号に同期されていれば、信号切換回路84を設けずに、常に発振クロック信号に基づき制御ユニット80を動作させるようにしても良い。ON期間には、発振クロック信号は搬送波クロック信号に同期されることで周波数精度が改善されるので、これにより、前述と同様の効果が得られる。
なお、体内装置20側で、搬送波から電気刺激パルス信号が正確に抽出されるためには、制御ユニット80がクロック信号に基づき正しく動作される必要がある。ON期間には周波数精度の高い搬送波に基づき生成された搬送波クロック信号が使用されるが、OFF期間に使用される発振クロック信号は、発振回路82が体内装置20の小型化のために簡単な構成(例えば、RC回路)で作られているので、周波数精度が低い(誤差が大きい)ものとなる。
しかしながら、本実施形態では搬送波がOFFとなる期間のみに対して発振回路82から搬送波に同期されないクロック信号が出力されるものであり、このOFF期間にて多少のクロック信号のずれが生じても制御ユニット80が正常に動作することのできる範囲内とされる。
より具体的には、本実施形態では1符合当たりのビット数を10ビット(1バイト(8ビット)+スタートビット(1ビット)+パリティビット(1ビット))とし、1ビットを128クロックで表すものとしており、10ビットを伝送する時間は、搬送波1280波分の時間となる。また、1ビットにおける0,1の判定は、搬送波がOFFとなるタイミングが1ビット当たりの時間の先頭か、中央かで判定を行っている。したがって0,1の判定ができなくなる条件は、1ビット周期の先頭と中央の中間位置にオフ期間のタイミングがくる場合となる。したがって、本実施形態では1ビット周期の先頭の中央の1/3期間、つまり搬送波128/6=21波分の時間ずれが生じたところを復号できず許容できなくなる条件とする。したがって1符合当たりでは約1.6%(21/1280)のクロック信号のずれが、許容上限とされる。本実施形態では搬送波がOFFとなる期間(時間)を2.4μsec程度としており、これをもとに計算すると発振回路82の周波数精度が±10%以内であれば、許容可能となる。通常、RC回路にて発振回路を作り込んでも周波数精度はこの範囲内に収めることができるため、誤作動なく装置を駆動させることが可能となる。つまり、ビット長が2倍の20ビットになれば、許容上限は±5%となり、この条件においてOFF期間を1.2μsecとすれば、許容上限は±10%程度となる。