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JP5224415B2 - 電気電子部品用銅合金材料とその製造方法 - Google Patents

電気電子部品用銅合金材料とその製造方法 Download PDF

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JP5224415B2 JP2010507743A JP2010507743A JP5224415B2 JP 5224415 B2 JP5224415 B2 JP 5224415B2 JP 2010507743 A JP2010507743 A JP 2010507743A JP 2010507743 A JP2010507743 A JP 2010507743A JP 5224415 B2 JP5224415 B2 JP 5224415B2
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Description

本発明は電気電子機器用の部品、例えばコネクタ、端子材等に関するものであり、特に、高導電性が所望される高周波リレーやスイッチ、あるいは、自動車車載用などのコネクタや端子材およびリードフレームなどの電気電子部品に適用される銅合金材料に関する。
これまで、電気電子機器用の部品であるコネクタ、端子、リレー、スイッチなどには、黄銅(C26000)、リン青銅(C51910,C52120,C52100)、ベリリウム銅(C17200,C17530)及びコルソン系銅合金(以下、単にコルソン銅ともいう。例えば、C70250)などの銅合金が使用されてきた。ここで、「Cxxxxx」とはCDA(Copper Development Association)で規定された銅合金の種類である。
近年、電気電子機器で使用される電流が大きくなり、それに伴い、電気電子機器用部品に用いられる銅合金材料にも高導電性が要求されるようになってきている。例えば、黄銅やリン青銅は導電性が低く、コルソン銅はコネクタ材として、中導電性(導電率が約40%IACS)を示すが、さらに高導電性が求められている。また、ベリリウム銅は高価であることも周知である。一方、高導電性である純銅(C11000)やスズ入銅(C14410)などは強度が低い欠点がある。そこで、従来のコルソン銅を越える導電性と同等の引張強度、曲げ加工性を備えた銅合金が所望されている。この要求を満たす銅合金として、Cu−Co(コバルト)−Si(珪素)系合金が注目されている。このCu−Co−Si系合金は、CoとSiの金属間化合物を利用した析出強化型銅合金である。
特に、近年の電子機器部品では、機器の小型化に伴い複雑かつ厳しい曲げ加工がされたコネクタや端子が多く見られる。これは、小型化に伴いコネクタのサイズもダウンサイズするが、接触の信頼性を保つためにはできるだけ長いコンタクト長をとりたいためである。このような設計思想を持つコネクタや端子をベローズ(蛇腹)曲げコネクタまたはベローズ曲げ端子と呼ぶことが多い。つまり、小さな部品の中に複雑に曲げられた端子・コネクタが装備・設置される要求が高い。一方で、小型化に伴い使用されるコネクタ・端子の材料はより薄くなる。これは、軽量化、省資源の観点からも進んでいる。薄い材料は厚い材料と比べて、同じ接圧を保つためには強度が高いことが求められる。
銅合金材料の強度を高める方法として、固溶強化、加工強化、析出強化などの様々な強化方法がある。銅合金材料において、導電性と強度は一般に相反関係にあるが、銅合金材料の導電性を低下させずに強度を高める方法として、析出強化が有望であることが知られている。この析出強化とは析出を起こす元素を添加した合金を高温熱処理して、銅母相へそれらの元素を固溶させた後、その固溶させた際の温度より低温で熱処理して、固溶させた元素を析出させる手法である。例えば、ベリリウム銅、コルソン銅などはその強化方法を採用している。
ところで、銅合金材料においては、導電性と強度との関係のほか、曲げ加工性と強度との関係も相反する関係にある。強度を高めるためには最終の冷間圧延率を高めることが効果的であるとされるが、冷間圧延率を高めると曲げ加工性が著しく劣化する傾向がある。これまで、析出型の銅合金として、ベリリウム銅、コルソン銅、チタン銅などが、曲げ加工性と強度のバランスがよいとされてきた。しかし、ベリリウム銅は添加元素であるベリリウムが環境負荷物質とされており、代替材料が求められている。また、コルソン銅やチタン銅は一般に50%IACS以上の導電性を有しない。50%IACS以上の高い導電性の要求される用途としては、例えば、高電流が印加されるバッテリー端子やリレー接点などがある。また、一般に導電率が高い材料は熱伝導特性も優れているため、放熱性を要求されるCPU(集積演算素子)のソケットやヒートシンクなどの材料にも高い導電性の要求がある。特に、最近のハイブリッド車や高速処理が行われるCPUでは、高い導電性と高い強度を備えた材料が要求されている。
このような背景から、強度、曲げ加工性、導電性(熱伝導性)を加味し、CoとSiからなる金属間化合物を利用した銅合金が注目されつつある。CoとSiとを必須に含む銅合金が、以下のとおり知られている。
特許文献1には、熱間加工性を改善するため、CoとSiのほか、Zn(亜鉛)、Mg(マグネシウム)、S(硫黄)を必須に含む銅合金が開示されている。
特許文献2には、CoとSiのほか、Mg、Zn、Sn(スズ)を含む合金が開示されている。
特許文献3には、CoとSiのほか、Sn、Znを必須とする合金が開示されている。
特許文献4には、リードフレーム用途の析出強化型合金のCu−Co−Si系合金が開示されている。
特許文献5には、析出する介在物の大きさが2μm以下であるCu−Co−Si系合金が開示されている。
特許文献6には、CoSi化合物を析出させたCu−Co−Si系合金が開示されている。
特開昭61−87838号公報 特開昭63−307232号公報 特開平02−129326号公報 特開平02−277735号公報 特開2008−88512号公報 特開2008−56977号公報
しかしながら、上記特許文献1〜6に開示された技術には、以下のような課題があった。
例えば、これらはいずれも電気電子部品用途のように、強度、導電性、曲げ加工性を同時に満足させることを目的としたものではなく、また、その合金の状態の詳細には触れていない。
さらに、各特許文献に記載された技術は、いずれも強度、曲げ加工性、導電性(熱伝導性)のすべてを高いレベルで満足するものではない。
特許文献1に開示された技術は、本発明とは異なりSを必須構成元素とする銅合金であり、その目的も本発明と異なり熱間加工性の向上である。そのため、例えば、特許文献1には、析出物(特にCoとSiの析出物)については記載がなく、析出物がどのようなものであるか不明であり、これらの制御方法も不明である。また、電気電子部品として求められる強度や導電性等の諸特性を評価した結果は記載されていない。
特許文献2はCoとSiの析出物がCoSi化合物であるとの記載はあるものの、その析出物の詳細(粒径等)や制御方法は不明である。なお、製法としては、500℃の温度で1時間または450℃の温度で1時間の焼鈍を行ったとの記載はあるが、再結晶処理についての記載はなく、この記載があったとしても母材の結晶粒径は不明である。すなわち、特許文献2に開示された技術による銅合金は、高導電率および高強度が要求される電気電子部品用途の銅合金として特性が不十分であると考えられる。
特許文献3もまた、CoとSiの析出物がCoSi化合物であるとの記載はあるものの、その析出物の詳細(粒径等)や制御方法は不明であり、かつその導電率は30%IACS以下と比較的低い。なお、製法としては、400〜500℃の温度で1時間の焼鈍の前に950℃の温度で溶体化処理と冷間圧延を行っているとの記載があるが、導電率が30%IACS以下と比較的低く、高導電率および高強度が要求される電気電子部品用途の銅合金としては特性が不十分であるといえる。
特許文献4に記載のCu−Co−Si系合金はリードフレーム用途であり、析出強化型合金と記載されているものの、析出物を形成する具体的な化合物及びその詳細(粒径等)は不明である。なお、製法としては、500℃の温度で1時間の熱処理、その後に冷間圧延と300℃で1時間のひずみ取り焼鈍を行ったとの記載はあるが、再結晶処理についての記載はなく、この記載があったとしても母材の結晶粒径は不明である。すなわち、特許文献4に開示された技術による銅合金は、高導電率および高強度が要求される電気電子部品用途の銅合金として特性が不十分であると考えられる。
特許文献5に記載のCu−Co−Si合金はその合金中に析出する介在物の大きさが2μm以下との記載はあるが、介在物の規定方法等詳細は不明である。また、鋳塊をそのまま室温で圧延する工程を経て製造される例のみが示されている。ここで、所望の合金特性を得るために一般に厳密な粒径制御が必要とされることを考慮すると、特許文献5に開示された技術による銅合金は、高導電率および高強度が要求される電気電子部品用途の銅合金として特性が不十分であると考えられる。
特許文献6もまた、CoとSiの析出物がCoSi化合物であるとの記載はあるものの、その析出物の詳細(粒径等)や制御方法や密度が不明である。なお、製法としては、最終圧延前に700〜1050℃の熱処理を行うことが記載されているが、この温度では析出した化合物が再固溶(溶体化処理温度)すると記載されており、最終的にCoとSiの析出物が存在するか否か不明である。その結果、高導電率および高強度が要求される電気電子部品用途の銅合金として特性が不十分であると考えられる。
さらに、特許文献5および特許文献6には、材料の内側曲げ半径をR、板厚をtとした際に、特定の強度レベルにおいてR/t=1の条件で曲げ加工性を評価した例があるが、この程度のレベルでは今後要求される曲げ加工性には必ずしも対応できない場合があると考えられる。
上述したように、特許文献1〜6に開示された技術には不明な点や矛盾する点があり、上記各特許文献で開示された技術だけでは高導電率で高強度の材料を得ることができなかった。
また、高導電率および高強度が要求される電気電子部品用途の銅合金として十分な合金特性を得るためには、母材の結晶粒径や析出物の粒径を厳密に制御することが必要とされるが、各特許文献にはそのことが記載されていない。すなわち、各特許文献に開示の発明による銅合金は、高導電率および高強度が要求される電気電子部品用途の銅合金として特性が不十分であると考えられる。
発明は、高い導電性、高い強度、良好な曲げ加工性のすべてを満足するため、Cu−Co−Si系銅合金の結晶粒径の値が所定範囲に制御された銅合金材料を提供することを課題とする。
発明者らは、特に高導電率および高強度が要求される電気電子部品用途に好適な銅合金材料を得るため、銅合金材料における導電性と強度、曲げ加工性の関係についてさらに検討を重ね、本発明を完成させるに至った。
本発明によれば、以下の手段が提供される:
(1)Co(コバルト)を0.7〜2.0質量%、Si(ケイ素)を0.1〜0.5質量%それぞれ含み、残部Cu(銅)及び不可避不純物からなる組成を有し、CoのSiに対する質量比(Co/Si)が3以上5以下である電気電子部品用銅合金材料であって、母材の銅合金の結晶粒径の算術平均が3〜20μm、標準偏差が8μm以下であって、前記標準偏差が前記算術平均よりも小さく、CoとSiからなる析出物の粒子径が5〜50nmで、前記析出物の密度が1×10〜1×1010個/mmであり、かつ、銅合金材料としての引張強度が570MPa以上、導電率が60%IACS以上である電気電子部品用銅合金材料。
(2)さらに、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)の群から選ばれる少なくとも1種を合計で0.01〜1.0質量%含有し、残部が銅および不可避不純物である(1)項に記載の電気電子部品用銅合金材料。
)さらに、Ti(チタン)0.01〜0.1質量%含有し、残部が銅および不可避不純物である(1)または2)に記載の電気電子部品用銅合金材料。
)標準偏差を算術平均で割った値が0.65以下である(1)〜()のいずれか1項に記載の電気電子部品用銅合金材料。
)(1)〜()のいずれか1項に記載の組成を有する銅合金材料を溶解鋳造し、
熱間圧延し、
面削し、
冷間圧延し、
再結晶熱処理し、
時効熱処理する
各工程を有し、
前記溶解鋳造工程が、10〜30K/秒(ここでKは絶対温度を示すケルビンである)の冷却速度で冷却しながら鋳造して、鋳塊を得る工程であり、
前記熱間圧延工程が、前記鋳塊を温度900〜1000℃で30分間〜60分間保持後に加工し、速やかに水冷却、つまり急速冷却、にて焼入れを施す工程であり、
前記再結晶熱処理工程が、温度800〜1025℃に保持されたソルトバス内で一定時間熱処理を行い、その後、速やかに水冷却で焼き入れを行う工程であり、ここで、昇温速度は、温度300℃以上では10〜300K/秒であり、冷却速度は、30〜200K/秒であり、
前記時効熱処理工程での室温から最高温度に到達するまでの昇温速度は3〜25K/分の範囲内にあり、降温に際しては300℃までは炉内で1〜2K/分の範囲内で冷却を行い、
母材の銅合金の結晶粒径の算術平均が3〜20μm、標準偏差が8μm以下であって、前記標準偏差が前記算術平均よりも小さく、CoとSiからなる析出物の粒子径が5〜50nmで、前記析出物の密度が1×10〜1×1010個/mmであり、かつ、銅合金材料としての引張強度が570MPa以上、導電率が60%IACS以上である電気電子部品用銅合金材料を得てなる
(1)〜()のいずれか1項に記載の電気電子部品用銅合金材料を製造する方法。
)前記再結晶熱処理工程での保持温度が、
Coの添加量が1質量%未満の場合は、再結晶熱処理時の保持温度を850℃以上900℃未満とし、
Coの添加量が1質量%以上の場合は、再結晶熱処理時の保持温度を900℃以上1000℃未満とする
)項に記載の電気電子部品用銅合金材料の製造方法。
また、「析出物の粒子径(サイズ)」とは、後述する方法で求めた析出物の平均粒子径であり、「結晶粒径」とは、後述するJIS−H0501(切断法)に基づいて測定した値である。
明により、強度、導電性、曲げ加工性に優れ、電気電子機器用途に好適な銅合金材料を提供することができる。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、下記の記載からより明らかになるであろう。
本発明の銅合金材料の好ましい実施の態様について、詳細に説明する。ここで、「銅合金材料」とは、銅合金素材(ここでは形状の概念がない銅合金の各成分元素の混合物を意味する)が、所定の形状(例えば、板、条、箔、棒、線など)に加工された後のものを意味する。また、「母材の銅合金」とは形状の概念を含まない銅合金を意味する。
なお、銅合金材料の好ましい具体例として板材、条材について説明するが、銅合金材料の形状は板材や条材に限られるものではない。
次に、本発明の銅合金材料の好ましい実施の態様について、詳細に説明する。
本発明では、必須の添加元素としてCo(コバルト)を0.7〜2.0質量%含有し、Si(ケイ素)を、CoのSiに対する質量比(Co/Si)が3以上5以下となる範囲で(0.1〜0.5質量%の範囲で)含有する銅合金材料である。これにより、導電率が60%IACS以上、引張強度が570MPa以上となり、特に高いレベルで高導電率かつ高強度の要求を満足することができる。本発明では銅合金材料の導電率は60%IACS以上であり、高い程好ましいが、その上限は通常75%IACS程度である。また、本発明では銅合金材料の引張強度は、より好ましくは600MPa以上、さらに好ましくは750MPa以上であり、高い程好ましいが、その上限は通常900MPa程度である。
また、母材の銅合金の結晶粒径の算術平均が3〜20μm、標準偏差が8μm以下であることが、曲げ加工性の一層の向上のために有用である。なお、標準偏差は小さければ小さいほどよく、結晶粒径の標準偏差は結晶粒径の算術平均より小さい値である。母材の銅合金の結晶粒径の算術平均および標準偏差が上記範囲にあることで、曲げ応力(負荷された歪)を十分に分散させることができる。なお、曲げ加工性をさらに高めたい場合には、母材の銅合金の結晶粒径の算術平均から標準偏差を引いた値が0μmより大きいことが好ましく、標準偏差を算術平均で割った値が0.65以下であることがより好ましく、0.4以下であることがさらに好ましい。なお、標準偏差を算術平均で割った値の下限は0.2以上であることが現実的で、この値より小さくなると特性は向上するが、実際の製造が困難になる傾向がある。ここで、母材の銅合金の結晶粒径の算術平均および標準偏差を求める際の測定母数は100以上に設定することが好ましく、算術平均および標準偏差の測定母数は同一の値とすることがより好ましい。
本発明の銅合金材料では、CoとSiからなる析出物の粒子径(平均粒子径)を5〜50nmとしている。析出物の粒子径が5nm以上であると十分な析出強化量を得ることができる。また、この析出物は銅母相と整合に析出して材料を強化するため、析出物の粒子径が50nm以下であると、材料の強度が確保される。好ましくは析出物のサイズは10〜30nm、より好ましくは20〜30nmである。
析出密度については、CoとSiからなる析出物の分布密度を1×10 〜10 10 個/mm としている。
曲げ加工性に関しては、引張強度が570MPa以上650MPa以下の場合は、R/tの値が0.5以下、引張強度が650MPaを超えて700MPa以下の場合は、R/tの値が1.0以下、引張強度が700MPaを超える場合は、R/tの値が1.5以下であることが好ましい。ここで、R/tとは、日本伸銅協会技術標準「銅および銅合金薄板条の曲げ加工性評価方法(JBMA T307)」に準拠した曲げ角度90°のW曲げ試験を行った結果を意味し、圧延垂直方向に切り出した板材を所定の曲げ半径(R)の条件下で曲げ試験を行って、その頂点にクラック(割れ)が生じない限界のRを求め、その時の板厚(t)で規格化した値である。一般にR/tが小さいほど、曲げ加工性が良好であるとされる。本発明の電気電子部品用銅合金材料では、引張強度と曲げ加工性(R/t)が、前記の関係を有するものが好ましい。また、曲げ加工性(R/t)の下限は0である。
以下、CoおよびSi以外の添加元素について説明する。
Fe、Cr、NiはCoと置換を行ってSiと化合物を形成し、強度向上に寄与する元素である。Fe、Ni、Crは、Coの一部と置換して、(Co、χ)Si化合物(χはFe、Ni、Cr)を形成し、強度を向上させる働きがある。これらの元素の少なくとも1種(各元素、任意の2種類の元素の組合せ、3種類全てのいずれでも良い)を合計で0.01〜1.0質量%の範囲としている。0.01質量%以上であればその効果が顕著に発揮され、合計で1.0質量%以下であれば、鋳造時に晶出を起こしたり、強度に寄与しない金属間化合物を形成したりすることもなく、導電性低下などの影響もない。なお、これらの元素は複合して添加しても、単独で添加してもほぼ同じような効果が見られるが、Niを添加すると顕著な強度向上効果を示す。Fe、Ni、Crの添加量は、好ましくは、これらの元素の少なくとも1種の合計で0.05〜0.9質量%である。
なお、ZrやTiについても、Fe、Ni、Crとほぼ同様の効果を奏するが、ZrやTiは酸化しやすく、多量に添加すると製造中の材料に割れが発生することがあるので、ZrおよびTiの添加量については、これらの元素の少なくとも1種を合計で0.01〜0.1質量%の範囲とすることが好ましい。
Sn、Zn、Mg、Mnは銅母相に固溶して強化する特徴がある。その添加量が、これらの元素の少なくとも1種の合計で0.01質量%以上であれば効果を奏し、1.0質量%以下であれば導電性を阻害することもない。好ましい添加量は、これらの元素の少なくとも1種の0.05〜0.2質量%である。
本発明の銅合金材料における不可避不純物としては、H、C、O、S等が挙げられる。
なお、Znには半田密着性を向上させる効果、Mnは熱間加工性を改善する効果もある。また、Sn、Mgの添加は耐応力緩和特性の改善に効果がある。個々のSn、Mg添加でもその効果は見られるが、同時に添加することにより、相乗的にその効果を発揮する元素である。その添加量が、これらの元素の少なくとも1種の合計で0.1質量%以上であれば効果を奏し、1.0質量%以下であれば導電性を阻害することもなく、50%IACS以上の導電性が確保される。一方、SnとMgの添加比について、Sn/Mg≧1の場合には、耐応力緩和特性はさらに向上する。
次に、本発明の銅合金材料を製造する工程の一例を説明する。
<溶解鋳造>
銅合金の原料となる銅、コバルト、ケイ素などを溶解し、鋳型に流し込んで10〜30K/秒(Kは絶対温度を示す「ケルビン」である。以下同じ)の冷却速度で冷却しながら鋳造し、銅合金鋳塊を得る。ここでは幅160mm、厚さ30mm、長さ180mmとなるようにする。
<熱間圧延・面削・冷間圧延>
その後、この鋳塊を温度900〜1000℃で30分間〜60分間保持し、その後熱間圧延によって厚さ12mmになるまで加工後、速やかに水冷却(急速冷却)にて焼入れを施し、表面上の酸化皮膜除去のため、圧延された表面を片側1mm前後面削して約10mmにした後、冷間圧延にて厚さ約0.1〜0.3mmとなるように加工する。
<再結晶熱処理>
この後、溶体化、再結晶させる目的で、温度800〜1025℃に保持されたソルトバス(塩浴炉)内で一定時間(ここでは30秒間)再結晶熱処理を行い、水冷却で焼き入れを行う。再結晶熱処理の際、昇温速度はサンプルを板厚の異なったステンレス板にはさむことで調整して熱処理を行う。このときの好ましい昇温速度は、温度300℃以上では10〜300K/秒である。また、好ましい冷却速度は、30〜200K/秒である。
<時効熱処理>
次に、時効析出させる目的で、温度525℃で120分間の時効熱処理を施す。その際の室温から最高温度に到達するまでの昇温速度は3〜25K/分の範囲内にあり、降温に際しては、析出に影響を与えると考えられる温度帯より十分低い温度である300℃までは炉内で1〜2K/分の範囲内で冷却を行う。
<仕上げ圧延(必要に応じて)>
時効熱処理が終了した銅合金材料に、さらに0%〜40%(上限は好ましくは20%)の加工率で最終の冷間圧延を施して仕上げ圧延材を得る。なお、仕上げ圧延は実施してもしなくてもよい。加工率0%とは、仕上げ圧延を行わないことを意味する。
<歪取り焼鈍>
時効熱処理終了後(仕上げ圧延したものは仕上げ圧延終了後)に、必要に応じて歪取り焼鈍を施す。
<工程の繰り返しについて>
再結晶熱処理と時効熱処理は、上記条件で2回以上繰り返してもよい。
基本的には、再結晶熱処理と時効熱処理により、結晶粒の粒径やその分布(標準偏差)が決定される。結晶粒の粒径やその分布を変化させるには、再結晶熱処理や時効熱処理における、昇温速度、熱処理時の保持温度、冷却速度を制御することが効果的である。
また、昇温速度、熱処理時の保持温度、冷却速度は、本発明の銅合金材料において必須の添加元素であるCo、Siの添加量にも関係するため、Co、Siの添加量を調整することによっても結晶粒の粒径やその分布を変化させることができる。さらに、Cu、Co、Si以外の元素を添加することによって、結晶粒以外の析出物を銅合金中に分散させて、その作用により結晶粒の粒径やその分布を変化させることもできる。
本発明の銅合金材料は、高導電率、高強度、さらに良好な曲げ加工性をすべて満足するため、結晶粒径の算術平均が3μm以上20μm以下、標準偏差を8μm以下とすることが求められる。なお、標準偏差は小さければ小さいほどよく、結晶粒径の標準偏差は結晶粒径の算術平均より小さい値である。母材の銅合金の結晶粒径の算術平均および標準偏差が上記範囲にあることで、曲げ応力(負荷された歪)を十分に分散させることができる。
よって、上述の添加元素や製造条件(特に再結晶熱処理と時効熱処理の条件)は、結晶粒径の算術平均および標準偏差の条件を満足するように適宜調整される。特に、結晶粒径の算術平均が3μm未満の場合においては、未再結晶領域が残存し、曲げ特性の劣化に直結するため、結晶粒径の標準偏差は結晶粒径の算術平均より小さい値であることが好ましく、3μm以上となるようにする。
なお、曲げ加工性をさらに高めたい場合には、母材の銅合金の結晶粒径の算術平均から標準偏差を引いた値が0μmより大きいことが好ましく、また、標準偏差を算術平均で割った値が0.65以下であることがより好ましく、0.4以下であることがさらに好ましい。なお、標準偏差を算術平均で割った値の下限は0.2以上であることが、実際の製造上現実的である。
ここで、再結晶熱処理における昇温速度について説明する。
昇温速度が遅すぎると加熱処理が過ぎてしまい、析出物や晶出物の粗大化が起き、強度低下が起きてしまうおそれがある。また、過熱による結晶粒粗大化がおきるおそれがある。一方、昇温速度が速すぎると、結晶粒粗大化を防ぐ析出物生成量数が少なくなり、結晶粒の粗大化がおきてしまうおそれがある。このため、好ましい昇温速度は上記のようになる。
また、再結晶熱処理温度に関しては、Coの添加量により調整することも効果的である。Coの添加量が1質量%未満の場合は、再結晶熱処理時の保持温度を850℃以上900℃未満とし、Coの添加量が1質量%以上の場合は、再結晶熱処理時の保持温度を900℃以上1000℃未満とすることが好ましい。再結晶熱処理時の保持温度がこの範囲より低い場合は強度不足となるおそれが高まり、再結晶熱処理時の保持温度がこの範囲より高い場合は結晶粒粗大化による曲げ性の劣化が起こりうるだけでなく、銅合金材料の変形も起こりうるためである。
なお、本発明の別の好ましい実施態様として、以下のものが挙げられる。
C3)Coを0.7〜2.5質量%(上限は好ましくは2.0質量%)であり、CoのSiに対する質量比(Co/Si)が3以上5以下である銅合金材料であって、
母材の銅合金の結晶粒径の算術平均が3〜20μm、標準偏差が8μm以下であって、前記標準偏差が前記算術平均よりも小さいことを特徴とする銅合金材料。
記(C3)の実施態様については、例えば、その合金組成、添加元素、結晶粒と析出物の状態、その製造方法(各製造工程、製造条件など)について、さらにそれらの具体例や好ましい範囲など、前記本発明と異なる構成要素に関することを除いて全て同様である。また、前記(C3)の実施態様は、前記本発明と同様の効果を奏するものである。
次に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
(実施例
に示した成分を含有し、残部がCuと不可避不純物から成る合金を高周波溶解炉により溶解し、これを10〜30K/秒の冷却速度で鋳造して幅160mm、厚さ30mm、長さ180mmの鋳塊を得た。なお、冷却温度は鋳塊に割れなどが発生しない条件下で行った。
得られた鋳塊を温度1000℃で30分間保持し、熱間圧延を行い板厚t=12mmの熱延板を作製し、その両面を各1mm面削して板厚t=10mmとし、次いで冷間圧延により板厚t=0.3mmに仕上げ、その後800〜1025℃の範囲の温度で再結晶熱処理を行った。再結晶熱処理の温度はCoの添加量などに応じて、表に記載のとおり変化させた。そして、再結晶熱処理後の材料に対して次の2工程を施し、最終製品に相当する供試材を作成した。
工程A:再結晶熱処理−時効熱処理(温度525℃で2時間)−冷間加工(0〜20%)
※この後、必要に応じて、温度300〜400℃の範囲で1〜2時間の歪取り焼鈍を実施した。
工程B:再結晶熱処理−冷間圧延(0〜20%)−時効熱処理(温度525℃で2時間)
この供試材について下記の特性調査を行った。銅合金材料の合金としての特性評価結果を表1に示す。
a.引張強度:
供試材の圧延平行方向から切り出したJIS Z2201−13B号の試験片をJIS Z2241に準じて3本測定しその平均値を示した。
b.導電率測定:
四端子法を用いて、20℃(±1℃)に管理された恒温槽中で、各試験片の2本について導電率を測定し、その平均値(%IACS)を表1に示した。このとき端子間距離は100mmとした。
c.曲げ加工性:
供試材から圧延方向に垂直に幅10mm、長さ35mmに試験片を切出し、これに曲げの軸が圧延方向に平行に曲げ半径R=0〜0.5(mm)の6水準で90°W曲げ(Bad−way曲げ)し、曲げ部における割れの有無を50倍の光学顕微鏡で目視観察および走査型電子顕微鏡(SEM)によりその曲げ加工部位を観察し割れの有無を調査した。表1中のR/tのRは曲げ半径でtは板厚を示し、この値が小さいほど良好な曲げ加工性を示す。
d3.結晶粒径(算術平均):
試験片の圧延方向に垂直な断面を湿式研磨、バフ研磨により鏡面に仕上げた後、クロム酸:水=1:1の液で数秒研磨面を腐食した後、光学顕微鏡で200〜400倍の倍率か、走査型電子顕微鏡(SEM)の二次電子像を用いて500〜2000倍の倍率で写真をとり、断面粒径をJIS H0501の切断法に準じて結晶粒径を測定した。そして、その測定母数を200として算術平均を求め、この値を結晶粒径の算術平均の値とした。なお、表中では「平均結晶粒径」と表記している。
e3.結晶粒径の偏差:
上記結晶粒径測定と同様の手法で粒径を1個ずつ測定し、その測定母数を200として結晶粒径の標準偏差を求めた。
f.析出物のサイズと密度
析出物のサイズは透過電子顕微鏡(TEM)を用いて評価を行った。最終製品では加工歪みの影響を受けて観察しにくくなるため時効熱処理後の材料の組織観察を実施した。熱処理材の任意の場所からTEM用試験片を切り出し、硝酸(20%)のメタノール溶液を用いて、温度−20〜−25℃の範囲で電解研磨(ツインジェット式電解研磨装置による)を行って観察用の試験片を完成させた。
その後、加速電圧:300kVで観察を行って、電子線の入射方位を(001)近傍に合わせて、100000倍の写真を任意に3枚撮影した。その写真を用いて析出物(約100個)の平均サイズをと個数を求めた。
Figure 0005224415
表1に記載のとおり、本発明に従った例では、強度、導電性を満足している。別途、曲げ加工性について試験したところ、本発明に従った例では、良好な結果が得られており、本発明に従った例では、強度、導電性、曲げ加工性のすべてをバランス良く満足していることを確認した。具体的には、導電率が60%IACS以上であって、かつ引張強度が570MPa以上650MPa以下でR/tの値が0.5以下、引張強度が650MPaを超えて700MPa以下でR/tの値が1.0以下、引張強度が700MPaを超える場合でR/tの値が1.5以下となった。これに対し、本発明に従わなかった例では上記の値を満足しない結果となった。
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
本願は、2008年7月31日に日本国で特許出願された特願2008−197672、2008年7月31日に日本国で特許出願された特願2008−197677、及び2008年8月5日に日本国で特許出願された特願2008−202468に基づく優先権を主張するものであり、これらはいずれもここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。

Claims (6)

  1. Co(コバルト)を0.7〜2.0質量%、Si(ケイ素)を0.1〜0.5質量%それぞれ含み、残部Cu(銅)及び不可避不純物からなる組成を有し、CoのSiに対する質量比(Co/Si)が3以上5以下である電気電子部品用銅合金材料であって、母材の銅合金の結晶粒径の算術平均が3〜20μm、標準偏差が8μm以下であって、前記標準偏差が前記算術平均よりも小さく、CoとSiからなる析出物の粒子径が5〜50nmで、前記析出物の密度が1×10〜1×1010個/mmであり、かつ、銅合金材料としての引張強度が570MPa以上、導電率が60%IACS以上である電気電子部品用銅合金材料。
  2. さらに、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)の群から選ばれる少なくとも1種を合計で0.01〜1.0質量%含有し、残部が銅および不可避不純物である請求項1記載の電気電子部品用銅合金材料。
  3. さらに、Ti(チタン)0.01〜0.1質量%含有し、残部が銅および不可避不純物である請求項1または請求項に記載の電気電子部品用銅合金材料。
  4. 標準偏差を算術平均で割った値が0.65以下である請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の電気電子部品用銅合金材料。
  5. 請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の組成を有する銅合金材料を溶解鋳造し、
    熱間圧延し、
    面削し、
    冷間圧延し、
    再結晶熱処理し、
    時効熱処理する
    各工程を有し、
    前記溶解鋳造工程が、10〜30K/秒(ここでKは絶対温度を示すケルビンである)の冷却速度で冷却しながら鋳造して、鋳塊を得る工程であり、
    前記熱間圧延工程が、前記鋳塊を温度900〜1000℃で30分間〜60分間保持後に加工し、速やかに水冷却にて焼入れを施す工程であり、
    前記再結晶熱処理工程が、温度800〜1025℃に保持されたソルトバス内で一定時間熱処理を行い、その後、速やかに水冷却で焼き入れを行う工程であり、ここで、昇温速度は、温度300℃以上では10〜300K/秒であり、冷却速度は、30〜200K/秒であり、
    前記時効熱処理工程での室温から最高温度に到達するまでの昇温速度は3〜25K/分の範囲内にあり、降温に際しては300℃までは炉内で1〜2K/分の範囲内で冷却を行い、
    母材の銅合金の結晶粒径の算術平均が3〜20μm、標準偏差が8μm以下であって、前記標準偏差が前記算術平均よりも小さく、CoとSiからなる析出物の粒子径が5〜50nmで、前記析出物の密度が1×10〜1×1010個/mmであり、かつ、銅合金材料としての引張強度が570MPa以上、導電率が60%IACS以上である電気電子部品用銅合金材料を得てなる
    請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の電気電子部品用銅合金材料を製造する方法。
  6. 前記再結晶熱処理工程での保持温度が、
    Coの添加量が1質量%未満の場合は、再結晶熱処理時の保持温度を850℃以上900℃未満とし、
    Coの添加量が1質量%以上の場合は、再結晶熱処理時の保持温度を900℃以上1000℃未満とする
    請求項記載の電気電子部品用銅合金材料の製造方法。
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