以下に、本発明に係る版交換装置および版交換方法ならびに印刷機の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
図1は、本発明の実施の形態にかかる印刷機の概略図である。印刷機10は、例えば、新聞用オフセット輪転印刷機であって、図1に示すように、主に、複数(本実施の形態では5台)の給紙ユニットS1〜S5を有する給紙装置(供給部)Sと、複数(本実施の形態では5台)の印刷ユニットU1〜U5を有する印刷装置(印刷部)Uと、ウェブパス装置Dと、少なくとも1台(本実施の形態では2台)の折ユニットF1,F2を有する折機(排出部)Fとから構成されている。
給紙装置Sの各給紙ユニットS1〜S5には、それぞれ被印刷体としてのウェブWがロール状に巻かれたウェブ巻取紙Rを保持する保持アーム11が設けられている。保持アーム11は、3つのウェブ巻取紙Rをそれぞれ保持し、かつ自身が回転することで、保持したウェブ巻取紙Rを移動させて給紙位置に臨ませることができる。また、この各給紙ユニットS1〜S5には、図示しない紙継装置が設けられており、給紙位置で繰り出されているウェブ巻取紙Rが残り少なくなると、この紙継装置により給紙位置にあるウェブ巻取紙RのウェブWに対して、待機位置にあるウェブ巻取紙RのウェブWを紙継することができる。
印刷装置Uの各印刷ユニットU1〜U5において、印刷ユニットU1,U5は、両面4色印刷を行う多色刷印刷ユニットであり、印刷ユニットU2〜U4は、両面2色印刷を行う2色刷印刷ユニットとなっている。すなわち、印刷ユニットU1,U5は、それぞれ両面印刷を行うように対向配置された1対のブランケット胴21が、4色印刷を行うようにウェブWの搬送方向に4組配置されている。印刷ユニットU2〜U4は、それぞれ両面印刷を行うように対向配置された1対のブランケット胴21が、2色印刷を行うようにウェブWの搬送方向に2組配置されている。また、印刷ユニットU1〜U5には、各ブランケット胴21に対向配置された版胴22、および図には明示しないが版胴22に取り付けられた刷版にインキを供給するインキ供給機構が設けられている。
また、印刷ユニットU1〜U5にて、版胴22には、ウェブWに対し、4頁の印刷を同時に行うように、図1の紙面に直交する方向(版胴22の軸方向)に沿って4頁の刷版が取り付けられる。そして、インキ供給機構は、1つの版胴22の4頁の刷版にそれぞれインキを供給するように構成されている。また、ブランケット胴21は、1つの版胴22の4頁の刷版に供給されたインキが転写されるように構成されている。
また、各給紙ユニットS1〜S5と各印刷ユニットU1〜U5との間には、複数のインフィード装置In1〜In5が設けられている。そして、これら各印刷ユニットU1〜U5および各インフィード装置In1〜In5は、それぞれ独立して駆動される。したがって、各給紙ユニットS1〜S5から各インフィード装置In1〜In5を介して各印刷ユニットU1〜U5にウェブWが供給されると、各印刷ユニットU1〜U5では、各ウェブWに対して所定の印刷を行うことができる。
なお、本実施の形態では、各印刷ユニットU1〜U5を、多色刷印刷ユニットU1,U5と2色刷印刷ユニットU2〜U4により構成したが、この構成に限定されるものではない。例えば、両面単色印刷を行う両面単色刷ユニット、一面4色または2色印刷を行う多色刷印刷ユニットなど印刷物に応じて適宜各種ユニットを組み合わせて使用すればよい。
ウェブパス装置Dは、ウェブWの搬送方向(ウェブWの長さに沿う縦方向)に沿ってその幅方向(ウェブWの搬送方向に直交する横方向)の中央部で2つに縦断裁するカッタ(図示せず)と、縦断裁されたウェブWの搬送経路を設定する多数のターンバー30と、ターンバー30で搬送経路が設定されたウェブWを掛け回して搬送方向でのウェブ長さを設定することで、後の折機Fにより断裁されたときの天地(搬送方向)の余白寸法を調整するコンペンセータローラ31とが設けられている。したがって、各印刷ユニットU1〜U5で4頁の印刷が施された各ウェブWは、カッタにより2頁分ごとに縦断裁されると共に、ターンバー30により搬送経路が変更され、所定の順番(頁順)に重ねられる。
折機Fは、各折ユニットF1,F2において、ウェブパス装置Dで重ねられたウェブWを導入し、このウェブWを縦折りし、所定の長さで横断裁し、さらに横折りして所望の折丁(例えば新聞などの印刷物)を形成し排出するものである。
ここで、印刷機10による一連の印刷動作について説明する。本実施の形態における印刷機10では、各印刷ユニットU1〜U5、各インフィード装置In1〜In5および各折ユニットF1,F2は独立して駆動する。このため、一種類の印刷物を作成することはもちろん、二種類の異なる印刷物を同時に作成できる。つまり、二種類の印刷物のうち、一方の印刷物は、複数の印刷ユニットU1〜U5の中の一部の印刷ユニットを用いて印刷が行われた後、一方の折ユニットF1から排紙され、他方の印刷物は、残りの印刷ユニット用いて印刷が行われた後、他方の折ユニットF2から排紙される。以下、一種類の印刷物を作成する場合について説明する。
各給紙ユニットS1〜S5から各インフィード装置In1〜In5を介して各印刷ユニットU1〜U5にウェブWがそれぞれ供給されると、各印刷ユニットU1〜U5では、各ウェブWに対して4色刷や2色刷が両面に行われる。各印刷ユニットU1〜U5で印刷が施された複数のウェブWは、ウェブパス装置Dにおいて、カッタにより縦断裁されると共に、搬送経路が変更されて所定の順番に重ねられる。そして、ウェブパス装置Dにより重ね合わされたウェブ群が折機F(折ユニットF1または折ユニットF2)に導入されると、重ねられた各ウェブ群は、縦折りされた後、所定の長さで横断裁され、横折りされて所望の折丁(印刷物)が作成され、排出される。
このように構成された印刷機10では、印刷装置Uの各印刷ユニットU1〜U5について、印刷作業(例えば、一種類の印刷物の必要数の印刷)が終了すると、それまで版胴22に装着されていた刷版(旧版)を取り外し、新しい刷版(新版)を版胴22に装着して別の印刷作業を開始する。この場合、本実施の形態にかかる版交換装置を用いて刷版の交換作業を行う。
図2は、版胴および刷版の概略斜視図、図3は、本発明の実施の形態にかかる版交換装置の概略側面図である。図2および図3に示すように、刷版Pは、一端部であるくわえ部P1が版胴22に係止された状態で版胴22に巻き付けられ、この状態で他端部であるくわえ尻部P2が版胴22に係止されることで版胴22に装着される。
本実施の形態の版交換装置40では、版胴22の外周面にギャップ部22aが凹設されている。ギャップ部22aの開口部分には、刷版Pにおける鉤状のくわえ部P1を係止する第1係止溝22bと、刷版Pにおける鉤状のくわえ尻部P2を係止する第2係止溝22cとが互いに対向して形成されている。また、ギャップ部22aの内部であって版胴22の軸方向中央位置には、くわえ部P1における刷版Pの幅方向(版胴22の軸方向に沿う方向)中央Cに形成された切欠溝P1a、およびくわえ尻部P2における刷版Pの幅方向中央Cに形成された切欠溝P2aが嵌合するレジスターピン22dが設けられている。このレジスターピン22dは、版胴22の軸方向に直交して延在する棒状体であって、第1係止溝22b側と第2係止溝22c側とを繋ぐように設けられている。さらに、図2に示すように、ギャップ部22aの内部には、第2係止溝22cに係止されたくわえ尻部P2を押さえる版押え爪22eが配設されている。
また、本実施の形態の版交換装置40は、印刷装置Uの印刷ユニットU1〜U5に設けられており、版押え手段50と版押込手段60とを有している。印刷ユニットU1〜U5では、版胴22を両側から挟むように、一対のフレーム71が配置されており、このフレーム71を繋ぐように版胴22の軸方向に沿って延在して横梁72が固定されている。横梁72には、取付ブラケット73が下方に延出して固定されている。そして、取付ブラケット73に上記版押え手段50および版押込手段60が固定されている。
版押え手段50は、刷版Pのくわえ部P1が版胴22のギャップ部22aに係止し、かつ切欠溝P1aがレジスターピン22dに嵌合した状態で版胴22を回転するとき、刷版Pを版胴22の外周面に押し付ける版押えローラ51と、版押えローラ51を刷版Pに接触する押付位置(図3に二点鎖線で示す)と、版押えローラ51を刷版Pから離れる離隔位置(図3に実線で示す)とに移動させる第1エアシリンダ(版押えローラ移動手段)52とを備えている。
版押込手段60は、ギャップ部22aに刷版Pのくわえ部P1が係止し、切欠溝P1aがレジスターピン22dに嵌合し、かつ刷版Pが版胴22の外周面に巻き付けられた状態で、刷版Pのくわえ尻部P2の切欠溝P2aをレジスターピン22dに嵌合させると共に刷版Pのくわえ尻部P2をギャップ部22aに押し込む版押込ローラ61と、版押込ローラ61を刷版Pに接触する押付位置(図3に二点鎖線で示す)と、版押込ローラ61を刷版Pから離れる離隔位置(図3に実線で示す)とに移動させる第2エアシリンダ(版押込ローラ移動手段)62とを備えている。
また、版押え手段50および版押込手段60は、制御装置74により駆動制御される。具体的に、制御装置74は、第1エアシリンダ52および第2エアシリンダ62に対して圧縮空気の給排および給排の停止を行う電磁弁(図示せず)を制御する。これにより、第1エアシリンダ52は、版押えローラ51を押付位置および離隔位置に移動し、第2エアシリンダ62は、版押込ローラ61を押込位置および離隔位置に移動する。また、制御装置74は、版胴22を回転させる版胴用モータ75を駆動制御する。
ここで、版押え手段50および版押込手段60の具体的な構成について説明する。まず、版押え手段50について説明する。図4は、版押え手段の一部裁断平面図、図5は、版押え手段の正面図(版胴側から視た図)、図6は、版押え手段の拡大側面図、図7は、版押え手段の支持部材の拡大断面図である。なお、図4、図6および図7に示す版押え手段50は、版押えローラ51が版胴22から離れた離隔位置にある状態を示している。
版押え手段50は、上述したように版押えローラ51と第1エアシリンダ52とを備えている。
第1エアシリンダ52は、版押え手段50に2つ設けられている。各第1エアシリンダ52は、版胴22の軸方向に沿って長手状に延在する支持ブラケット53の両端に固定されている。そして、各第1エアシリンダ52は、支持ブラケット53を介して上述した取付ブラケット73に固定されている。なお、本実施の形態の第1エアシリンダ52は、復動型のエアシリンダとして構成され、2つの給排気部52bが設けられている。そして、各第1エアシリンダ52は、駆動ロッド52aの進退移動が共に行われ、かつ駆動ロッド52aの進退移動が同期して行われるように、それぞれ給排気部52bに繋がる給排気管52cが、圧縮空気の給排および給排の停止を行う電磁弁(図示せず)から同じ長さに設定されている。なお、図には明示しないが、第1エアシリンダ52は、復動型に限らず単動型のエアシリンダとして構成されていてもよい。
版押えローラ51は、軸部材51aを有している。軸部材51aは、版胴22の軸方向に沿って長手状に延在して設けられ、その両端部が各第1エアシリンダ52の駆動ロッド52aに取り付けられている。軸部材51aの両端部には、軸部材51a(版胴22)の軸方向に沿って延在する長穴51bが形成されている。一方、第1エアシリンダ52の駆動ロッド52aの先端には、駆動ロッド52aの伸長方向で開口するようにコ字形状のリンク部51cが固定されている。そして、軸部材51aは、その端部がリンク部51cのコ字形状内に挿通され、かつ長穴51bにリンク部51cを貫通する支持ピン51dが挿通されている。したがって、軸部材51aは、その両端部が駆動ロッド52aに対して長穴51bの範囲で自身の軸方向へのスライド移動を許容されていると共に、支持ピン51dの回りに回転可能に支持された形態で第1エアシリンダ52の駆動ロッド52aに取り付けられ、第1エアシリンダ52の駆動ロッド52aの伸縮に伴い、その伸縮方向Aに移動可能に設けられている。すなわち、版押えローラ51は、自身の軸方向と、および第1エアシリンダ52による移動方向(駆動ロッド52aの伸縮方向A)とに直交する態様で支持ピン51dがなす回転軸回りの回転を許容されつつ、自身の軸方向へのスライド移動を許容されて第1エアシリンダ52の駆動ロッド52aに接合されている。なお、軸部材51aは、少なくとも一端部が駆動ロッド52aに対して長穴51bの範囲で軸方向へのスライド移動を許容されていてもよい。また、図には明示しないが、リンク部51cに長穴51dが形成され、この長穴51bに軸部材51aを貫通する支持ピン(ピン部材)51dが挿通されていてもよい。
また、版押えローラ51は、押付部材51eを有している。押付部材51eは、軸部材51aに取り付けられ、版押えローラ51が押付位置に移動したときに刷版Pに接触し、刷版Pを版胴22の外周面に押し付けるものである。押付部材51eは、円筒状に形成され、その内部に内筒51fが嵌め込まれている。内筒51fは、軸部材51aを内部に通し、かつ軸部材51aを中心にガタ無く回転可能に設けられている。この押付部材51eは、図4および図5に示すように、軸部材51aに対し、刷版Pの幅方向中央Cに対応する部位を除くように軸部材51aの軸方向で複数に分割して配置されている。ここで、刷版Pの幅方向中央Cとは、刷版Pのくわえ部P1が版胴22のギャップ部22aに係止し、かつ切欠溝P1aがレジスターピン22dに嵌合した形態で、刷版Pの幅方向の中央部を示す。本実施の形態では、押付部材51eは、刷版Pの幅に対し等間隔で偶数(4つ)に分割して軸部材51aに配置されていることで、刷版Pの幅方向中央Cに対応する部位を除いている。また、上記のように分割配置された押付部材51eは、軸部材51aを内部に通す筒状のスペーサ51gを両側に介すことで、軸部材51aの軸方向に移動しないように保持されている。また、分割された各押付部材51eは、全て同じ外径とされており、かつ外周面の形状が、中央を膨らませた太鼓型に形成されている。
上記版押えローラ51は、支持部材54により支持されている。支持部材54は、軸部材51aの外周に固定された軸受部54aと、軸受部54aの移動を案内するガイド部54bとで構成されている。軸受部54aは、円筒状を基体とし、その両外側が平坦かつ平行に削られた形状のものであり、金属または樹脂に潤滑材を含ませてある。ガイド部54bは、軸受部54aの平坦部を挟むようにコ字形状に形成され、その開口側を第1エアシリンダ52における駆動ロッド52aの伸長方向に向けて支持ブラケット53に固定されている。この支持部材54は、長穴51bおよび支持ピン51dによる版押えローラ51の前記回転および前記スライド移動を許容しつつ、第1エアシリンダ52による押付位置および離隔位置への版押えローラ51の移動を案内する。さらに、支持部材54は、駆動ロッド52aの伸縮方向Aに案内することで、版押えローラ51が刷版Pに接触したときに回転する版胴22から反力を受けたり、版押えローラ51が重力を受けたりした場合に、版押えローラ51の上下方向の振れを抑制しつつ、版押えローラ51の移動を円滑に案内する。
次に、版押込手段60について説明する。図8は、版押込手段の一部裁断平面図、図9は、版押込手段の正面図(版胴側から視た図)、図10は、版押込手段の拡大側面図である。なお、図8および図10に示す版押込手段60は、版押込ローラ61が版胴22から離れた離隔位置にある状態を示している。
版押込手段60は、上述したように版押込ローラ61と第2エアシリンダ62とを備えている。
第2エアシリンダ62は、版押込手段60に1つ設けられている。第2エアシリンダ62は、版胴22の軸方向に沿って長手状に延在する支持ブラケット63の長手方向中央に駆動ロッド62aが固定されている。そして、第2エアシリンダ62は、上述した取付ブラケット73に固定されている。なお、本実施の形態の第2エアシリンダ62は、復動型のエアシリンダとして構成され、2つの給排気部62bが設けられている。そして、それぞれ給排気部62bに繋がる給排気管62cが、圧縮空気の給排および給排の停止を行う電磁弁(図示せず)に接続されている。なお、図には明示しないが、第2エアシリンダ62は、復動型に限らず単動型のエアシリンダとして構成されていてもよい。
版押込ローラ61は、軸部材61aを有している。軸部材61aは、版胴22の軸方向に沿って長手状に延在して設けられ、その両端部が第2エアシリンダ62の駆動ロッド62aが固定された支持ブラケット63側に取り付けられている。具体的には、支持ブラケット63の両端部に軸受部61bが固定され、この軸受部61bに対して軸部材61aの両端が支持されている。したがって、軸部材61aは、第2エアシリンダ62の駆動ロッド62aの伸縮に伴い、その伸縮方向Bに移動可能に設けられている。
また、版押込ローラ61は、押込部材61cを有している。押込部材61cは、軸部材61aに取り付けられ、版押込ローラ61が押付位置に移動したときに刷版Pに接触し、刷版Pのくわえ尻部P2を版胴22のギャップ部22aに押し込むものである。押込部材61cは、円筒状に形成され、その内部に内筒61dが嵌め込まれている。内筒61dは、軸部材61aを内部に通し、かつ軸部材61aを中心にガタ無く回転可能に設けられている。
この押込部材61cは、図8および図9に示すように、軸部材61aに対し、刷版Pのくわえ尻部P2に形成された切欠溝P2aに対応する部位と、その他の部位とに軸部材61aの軸方向で複数に分割して配置されている。ここで、切欠溝P2aに対応する部位とは、刷版Pのくわえ部P1が版胴22のギャップ部22aに係止し、かつ切欠溝P1aがレジスターピン22dに嵌合し、かつ刷版Pが版胴22の外周面に巻き付けられた状態で、刷版Pのくわえ尻部P2をギャップ部22aに押し込む場合、くわえ尻部P2の切欠溝P2aがレジスターピン22dに嵌合する位置である。すなわち、言い換えると、押込部材61cは、軸部材61aに対し、版胴22のレジスターピン22dに対応する部位と、その他の部位とに軸部材61aの軸方向で複数に分割して配置されていることになる。そして、本実施の形態では、レジスターピン22dが版胴22の軸方向中央に設けられ、切欠溝P2aが刷版Pのくわえ尻部P2の幅方向中央Cに形成されているから、これらと対応するように押込部材61cは、軸部材61aの軸方向中央に配置され、さらに刷版Pのくわえ尻部P2をギャップ部22aに押し込むように軸部材61aの他の部位に配置されている。すなわち、本実施の形態では、押込部材61cは、刷版Pの幅に対し等間隔で奇数(5つ)に分割して軸部材61aに配置されていることで、切欠溝P2aに対応する部位と、その他の部位とに配置されている。また、上記のように分割配置された押込部材61cは、軸部材61aを内部に通す筒状のスペーサ61eを両側に介すことで、軸部材61aの軸方向に移動しないように保持されている。
このように分割配置された押込部材61cは、切欠溝P2aに対応する部位に配置された押込部材61cの外径D1が、その他の部位に配置された押込部材61cの外径D2に比較して大きく形成されている。すなわち、切欠溝P2aに対応する部位に配置された押込部材61cは大径部として構成され、その他の部位に配置された押込部材61cは小径部として構成されている。また、押込部材61cは、外周面の形状が、中央を膨らませた太鼓型に形成されている。
ところで、版押え手段50および版押込手段60を固定する取付ブラケット73が固定された横梁72は、版胴22から離れるのに伴って下方に傾斜している。さらに、版押え手段50と版押込手段60とは、版胴22の回転方向に伴う後述の動作の関係において、版押え手段50が下方に延出した取付ブラケット73の上側に固定され、版押込手段60が取付ブラケット73の下側に固定されている。しかも、版胴22は、その外周面が、版押え手段50が固定されている位置に対しては比較的近く、版押込手段60が固定されている位置に対しては比較的遠くなるように配置されている。このことから、版押え手段50の第1エアシリンダ52の全長(ストローク)は、版押込手段60の第2エアシリンダ62の全長(ストローク)より短くなるように設定されている。このため、第1エアシリンダ52は、ストロークの小さい比較的小型のものを2つ設けられ、第2エアシリンダ62は、ストロークの大きい比較的大型のものを1つ設けられている。
ここで、本実施の形態の版交換装置40の動作として、刷版Pの装着方法および取り外し方法である版交換方法について説明する。図11〜図19は、本実施の形態の版交換装置による版装着方法を表す概略図、図20〜図26は、本実施の形態の版交換装置による版取外し方法を表す概略図である。
制御装置74は、刷版Pの版胴22への装着にあたっては、各エアシリンダ52,62を駆動制御する。まず、図11に示すように、版胴用モータ75を駆動制御することで、版胴22を版掛け位置で停止させる。版胴22の版掛け位置とは、版胴22のギャップ部22aが版押えローラ51および版押込ローラ61よりも若干下方で若干下方向きに位置する状態である。なお、図11において、符号78は、後述する版逃がし装置であり、制御装置74により駆動制御される。また、符号79は、くわえ尻排出検出センサであり、その検出信号が制御装置74に入力されるようになっている。
次に、図12に示すように、版胴22が版掛け位置にある状態で、オペレータは版掛けを実施する。この版掛けでは、版胴22のギャップ部22a(第1係止溝22b)に、刷版Pのくわえ部P1を引っ掛けて係止させ、かつくわえ部P1の切欠溝P1aをギャップ部22aのレジスターピン22dに嵌合させる。なお、版掛けにおいては、版押えローラ51および版押込ローラ61は、いずれも離隔位置に退避している。
そして、図13に示すように、オペレータによる版掛けの状態から、版胴22を所定角度だけ正回転させる。なお、正回転とは、版胴22に刷版Pが巻き付く方向であって図13に矢印で表す反時計回り方向である。また、所定角度とは、版胴22のギャップ部22aが版押えローラ51の前に位置する回転位置である。
ここで、図14に示すように、第1エアシリンダ52を駆動して版押えローラ51を前進させ、刷版Pを版胴22の外周面に押し付ける押付位置に版押えローラ51を移動させる。なお、一般に、刷版Pは、版胴22に巻回する向きとは逆向きの版胴22から離隔する方向に湾曲している。
そして、この状態で、版胴22を正回転させると、図15に示すように、刷版Pが版押えローラ51に押え付けられたままで版胴22の外周面に巻き付けられていく。なお、正回転する版胴22の外周面に刷版Pが巻き付けられるとき、版逃がし装置78により刷版Pのくわえ尻部P2を支持することで、版胴22に対するくわえ尻部P2の接触が防止される。
その後、図16に示すように、正回転する版胴22の外周面に刷版Pのほとんどの部分が巻き付けられると、版逃がし装置78を退避させる。そして、図17に示すように、刷版Pのくわえ尻部P2が版胴22のギャップ部22aに接近する。
そして、図示しないオートクランプ装置(版押え爪22e)を解除の状態にし、図18に示すように、第2エアシリンダ62を駆動して版押込ローラ61を前進させ、押込位置に移動させる。すると、刷版Pは、くわえ尻部P2が版押込ローラ61によりギャップ部22a(第2係止溝22c)内に押し込まれる。そして、この状態で、オートクランプ装置(版押え爪22e)を作動することで、刷版Pのくわえ尻部P2が版押え爪22eに係止され、くわえ尻部P2が版胴22のギャップ部22aに固定されると共に、くわえ尻部P2の切欠溝P2aがギャップ部22aのレジスターピン22dに嵌合される。
その後、図19に示すように、第1エアシリンダ52を駆動して版押えローラ51を後退させ、版胴22(刷版P)から離れた離隔位置に移動させると共に、第2エアシリンダ62を駆動して版押込ローラ61を後退させ、版胴22(刷版P)から離れた離隔位置に移動させる。ここで、刷版Pの版胴22への装着が完了する。
一方、制御装置74は、刷版Pの版胴22からの取り外しにあたっては、各エアシリンダ52,62を駆動制御する。まず、図20に示すように、版胴用モータ75を駆動制御することで、版胴22を版取り外し位置で停止させる。版胴22の版取り外し位置とは、版胴22のギャップ部22aが版押えローラ51および版押込ローラ61よりも若干下方で若干下向きに位置する、上述の版掛け位置に近い状態である。
次に、図21に示すように、第1エアシリンダ52を駆動して版押えローラ51を前進させ、刷版Pを版胴22の外周面に押し付ける押付位置に版押えローラ51を移動させる。
この状態から、図示しないオートクランプ装置(版押え爪22e)を解除し、図22に示すように、版押え爪22eによる刷版Pのくわえ尻部P2の係止を解除する。続いて、図23に示すように、版胴22を逆回転させる。すると、版胴22から刷版Pが巻き出される。このとき、くわえ尻排出検出センサ79が刷版Pのくわえ尻部P2を検出した場合、版胴22の逆回転を継続する。一方、くわえ尻排出検出センサ79が刷版Pのくわえ尻部P2を検出できないときは、版押え爪22eによる刷版Pのくわえ尻部P2の係止が解除されていないから、版胴22の逆回転を停止させる。なお、版胴22が逆回転して外周面から刷版Pが巻き出されるとき、図24に示すように、版逃がし装置78により刷版Pのくわえ尻部P2を支持することで、版胴22に対するくわえ尻部P2の接触が防止される。
その後、図25に示すように、版胴22が逆回転して外周面から刷版Pのほとんどの部分が巻き出されると、版逃がし装置78を退避させる。そして、この状態では、刷版Pは、くわえ部P1のみが版胴22のギャップ部22aに係止され、全体が自重で垂れ下がった形になる。ここで、第1エアシリンダ52を駆動して版押えローラ51を後退し、版胴22(刷版P)から離れた離隔位置に移動させる。
そして、図26に示すように、オペレータは、版胴22のギャップ部22aから刷版Pのくわえ部P1を取外すことで、刷版Pの版胴22からの取り外しが完了する。
本実施の形態の版交換装置40にあっては、版押え手段50における版押えローラ51が、刷版Pの幅方向中央Cに対応する部位を除くように押付部材51eを軸部材51aに取り付けてある。これにより、上述した刷版Pの版胴22への装着において、版胴22のギャップ部22aに刷版Pのくわえ部P1が係止した状態で版胴22を正回転するとき、押付部材51eは、刷版Pの幅方向中央Cに接触することなく、刷版Pの他の部位に接触することとなる。このため、版押えローラ51の押付部材51eにより版胴22の外周面に押し付けられつつ版胴22の外周面に巻き付けられる刷版Pは、その幅方向中央Cの部位では版押えローラ51によるニップ力が付与されず、幅方向中央Cの両側に版押えローラ51によるニップ力が付与される。この結果、版押えローラ51により版胴22の外周面に押し付けられながら版胴22の外周面に巻き付けられる刷版Pに対し、幅方向中央Cを中心として版胴22の回転方向に対して斜めに傾く外力の付与を抑制できる。したがって、版押えローラ51のニップ力を調整することなく、刷版Pを版胴22の回転方向に対して真っ直ぐ巻き付け、くわえ尻部P2の切欠溝P2aの位置をレジスターピン22dに嵌合する位置に合致させるので、版胴22に対して刷版Pを適正に装着させることができる。また、押付部材51eは、外周面の形状が、中央を膨らませた太鼓型に形成されている。このため、押付部材51eは、刷版Pに対してほぼ点で接触するので、この押付部材51eの接触により生じるニップ力をより一様にする効果が得られる。
しかも、本実施の形態の版交換装置40にあっては、版押込手段60における版押込ローラ61が、くわえ尻部P2の切欠溝P2aに対応する部位に大径部として構成された押込部材61cを軸部材61aに取り付けてあり、その他のくわえ尻部P2に対応する部位には小径部として構成された押込部材61cを軸部材61aに取り付けてある。これにより、上述した刷版Pの版胴22への装着において、版押込ローラ61で刷版Pのくわえ尻部P2をギャップ部22a内に押し込む際、くわえ尻部P2の切欠溝P2aの位置に真っ先に大径部をなす押込部材61cが接触することになる。このため、押込部材61cの接触により切欠溝P2aを基点として切欠溝P2aの開口を拡げる方向にくわえ尻部P2が湾曲するので、切欠溝P2aをレジスターピン22dに確実に嵌合させることができる。また、切欠溝P2aの開口を拡げて湾曲したくわえ尻部P2には、小径部をなす押込部材61cが接触するため、くわえ尻部P2は、湾曲が元に戻されつつギャップ部22a内に押し込まれることになる。したがって、版胴22に対して刷版Pを適正に装着させることができる。また、押込部材61cは、外周面の形状が、中央を膨らませた太鼓型に形成されている。このため、押込部材61cは、くわえ尻部P2の切欠溝P2aの位置に対してほぼ点で接触するので、この押込部材61cの接触により切欠溝P2aを基点として切欠溝P2aの開口を拡げる作用をより顕著に得られる。
また、本実施の形態の版交換装置40では、版押え手段50の版押えローラ51は、押付部材51eが、刷版Pの幅方向中央Cに対応する部位を除くように刷版Pの幅に対し等間隔で偶数(複数)に分割され、軸部材51aに配置されている。このように、偶数に分割した押付部材51eを軸部材51aに配置する構成であれば、刷版Pの幅方向全体のニップ力を一様にするための高い寸法精度が要求されない。このため、量産が可能であり、生産コストを低減することができる。刷版Pの幅方向に長いローラは、その長手方向でのニップ力を一様にするために高い寸法精度が要求されるので、量産することが困難である。
また、本実施の形態の版交換装置40では、版押え手段50の版押えローラ51について、刷版Pの幅方向中央Cに対応する部位を除くように分割した押付部材51eを軸部材51aに取り付けることで、幅方向中央Cを中心として版胴22の回転方向に対して斜めに傾く外力の付与を抑制している。同様に、他の実施の形態として、刷版Pの幅方向中央Cに対応する部位を除く構成としては、図27に示すように、刷版Pの幅方向に長手状であって、刷版Pの幅方向中央Cに対応する長手方向の中央に凹部51iが形成された押付部材51hを軸部材51aに取り付けた構成としてもよい。
なお、本実施の形態の版交換装置40では、版押え手段50の版押えローラ51について、刷版Pの幅方向中央Cに対応する部位を除くように分割した押付部材51eを軸部材51aに取り付けることで、幅方向中央Cを中心として版胴22の回転方向に対して刷版Pが斜めに傾く外力の付与を抑制している。その他の実施の形態として、幅方向中央Cを中心として版胴22の回転方向に対して刷版Pが斜めに傾く外力の付与を抑制するには、例えば、刷版Pの幅方向中央Cに対するニップ力を、刷版Pの他の部位に対するニップ力に比較して小さくしてもよい。具体的には、図28に示すように、刷版Pの幅方向に外径を同じくして長手状に形成すると共に、刷版Pの幅方向中央Cに対応する部位αを、他の部位に対応する部位βに比較して摩擦力(グリップ力)の小さい材質で形成された押付部材51jを軸部材51aに取り付けた構成としてもよい。
また、本実施の形態の版交換装置40では、版押込手段60の版押込ローラ61は、押込部材61cが、刷版Pの幅方向に分割され、かつ刷版Pの幅方向中央Cに対応する部位を大径部にし、他を小径部として軸部材61aに配置されている。このような構成であれば、版押え手段50の版押えローラ51の構成部品を利用して版押込ローラ61を生産することができるので、生産コストを低減することができる。なお、刷版Pのくわえ尻部P2の切欠溝P2aが、刷版Pの幅方向中央Cに形成されている場合、押込部材61cが、刷版Pの幅に対し等間隔で奇数に分割され、かつ中央を大径部にし、他を小径部として軸部材61aに配置できる。
なお、本実施の形態の版交換装置40では、版押込手段60の版押込ローラ61について、切欠溝P2aを基点として切欠溝P2aの開口を拡げる方向にくわえ尻部P2を湾曲させる構成として、例えば、図29に示すように、刷版Pの幅方向に長手状であって、くわえ尻部P2の切欠溝P2aに対応する部位に大径部相当の凸部61fが形成され、その他を小径部相当の細径部61gとして形成された押込部材61hを軸部材51aに取り付けた構成としてもよい。
また、本実施の形態の版交換方法では、版胴22の外周面に形成されたギャップ部22aに刷版Pのくわえ部P1が係止した状態で版胴22を回転するとき、刷版Pの幅方向中央Cに対するニップ力を、刷版Pの他の部位に対するニップ力に比較して小さく、または無として形成された版押えローラ51により、刷版Pを版胴22の外周面に押し付ける工程を含む。このため、版押えローラ51により版胴22の外周面に押し付けられつつ版胴22の外周面に巻き付けられる刷版Pは、その幅方向中央Cの部位では版押えローラ51によるニップ力が比較的小さく、または付与されず、幅方向中央Cの両側に版押えローラ51によるニップ力が付与される。この結果、版押えローラ51により版胴22の外周面に押し付けられながら版胴22の外周面に巻き付けられる刷版Pに対し、幅方向中央Cを中心として版胴22の回転方向に対して斜めに傾く外力の付与を抑制できる。したがって、版押えローラ51のニップ力を調整することなく、刷版Pを版胴22の回転方向に対して真っ直ぐ巻き付け、くわえ尻部P2の切欠溝P2aの位置をレジスターピン22dに嵌合する位置に合致させるので、版胴22に対して刷版Pを適正に装着させることができる。
しかも、前記工程の次に、ギャップ部22aに刷版Pのくわえ部P1が係止され、かつ刷版Pが版胴22の外周面に巻き付けられたとき、刷版Pのくわえ尻部P2に形成された切欠溝P2aに対応する部位の外径が、切欠溝P2aを除く刷版Pのくわえ尻部P2に対応する部位の外径に比較して大きく形成された版押込ローラ61により、切欠溝P2aをギャップ部22aに形成されたレジスターピン22dに嵌合するように刷版Pのくわえ尻部P2をギャップ部22aに押し込む工程とを含む。このため、くわえ尻部P2への大径部の接触により切欠溝P2aを基点として切欠溝P2aの開口を拡げる方向にくわえ尻部P2が湾曲するので、切欠溝P2aをレジスターピン22dに確実に嵌合させることができる。また、切欠溝P2aの開口を拡げて湾曲したくわえ尻部P2には、小径部をなす押込部材61cが接触するため、くわえ尻部P2は、湾曲が元に戻されつつギャップ部22a内に押し込まれることになる。したがって、版胴22に対して刷版Pを適正に装着させることができる。
また、本実施の形態の輪転印刷機10では、上述した版交換装置40を適用したことにより、版胴22に対して刷版Pを適正に装着させることができるので、版交換にかかる作業時間や手間を削減すると共に、品質の高い印刷物を印刷することができる。
なお、上述した実施の形態では、版押え手段50および版押込手段60を、エアシリンダとローラにより構成したが、この構成に限定されるものではなく、例えば、エアシリンダに代え、版押えローラ移動手段および版押込ローラ移動手段として油圧シリンダ、エアモータ、電動モータなどを適用してもよい。
また、上述した実施の形態では、版交換装置40および版交換方法を、新聞用オフセット輪転印刷機に適用して説明したが、商業用オフセット輪転印刷機、または枚葉印刷機など他の印刷機における版交換に適用することもできる。