本発明に係るマイクロ構造体について、マイクロミラー素子を例に説明する。
図1は、本発明に係るマイクロミラー素子を示す斜視図である。図2は、同マイクロミラー素子に設けられた構造体の部分を示す斜視図である。また、図3(a)は、同マイクロミラー素子のトーションバーの部分を上から見た図、図3(b)は、図2のIII−III線断面図である。また、図4,図5は、同マイクロミラー素子の製造工程を示す図、図6は、同マイクロマラー素子のトーションバーの位置の測定方法を示す図である。
マイクロミラー素子1は、平面視で長方形の枠形状を有するフレーム2と、楕円形状のミラー部31の長軸上に揺動軸32を延長し、その揺動軸32の先端部に複数の櫛歯電極33を一列に突設した揺動部材3を備えている。揺動部材3は、フレーム2の内側に一対のV字状のトーションバー4,4’によって揺動可能に支持されている。
フレーム2は高さ方向で2つの領域に分けられ、揺動部材3はフレーム2内の上側領域2Aに配置されている。一方、フレーム2の下側領域2Bの内側面であって、揺動部材3の複数の櫛歯電極33に臨む部分には複数の櫛歯電極21が突設されている。複数の櫛歯電極21は、各櫛歯電極が複数の櫛歯電極33の隙間の略中央に位置している。なお、図1では、フレーム2の内側の内容が分かるように、フレーム2の上側領域2Aの部分は一点鎖線で描いている。
フレーム2の厚みの寸法L3は、例えば、5〜50μmであり、高さ方向の寸法Hは、例えば600μm程度である。
マイクロミラー素子1は、後述するように、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術などのバルクマイクロマニシング技術により、例えば、絶縁膜(BOX(Buried Oxide)層)63を挟んで2つのシリコン層61,62が積層されたSOI基板6に対して加工を施して製造されたものである(図4,図5参照)。SOI基板6の2つのシリコン層61,62は不純物のドープにより導電性を有している。
揺動部材3は、SOI基板6の表面側のシリコン層61(以下、「第1シリコン層61」という。)を加工して形成される。従って、フレーム2の第1シリコン層61に相当する領域が上側領域2Aとなっている。また、フレーム2の複数の櫛歯電極21は、SOI基板6の裏面側のシリコン層62(以下、「第2シリコン層62」という。)を加工して形成される。従って、フレーム2の第2シリコン層62と絶縁膜63に相当する領域が下側領域2Bとなっている。
ミラー部31は、第1シリコン層61と略同一の厚みを有する楕円板状の形状を有している。楕円板の表面にミラー面311が形成されている。ミラー部31の短軸方向の寸法L1は、例えば、20〜300μmである。
一方、揺動軸32は、第1シリコン層61と略同一の幅を有する短冊状の板材である。揺動軸32は、板材の幅方向をミラー部31の高さ方向(図1の上下方向)に一致させて当該ミラー部31に延設されている。揺動軸32の高さ方向の寸法L2は、例えば、10〜100μmである。
複数の櫛歯電極33は、第1シリコン層61と略同一の幅を有する長方形状の片部材である。複数の櫛歯電極33は、揺動軸32の両方の面に所定の間隔を設けてフレーム2の長辺側の側面に向かってそれぞれ突設されている。揺動軸32の一方の面に突設された複数の櫛歯電極33は、他方の面に突設された複数の櫛歯電極33とそれぞれ対をなしている。
一方、複数の櫛歯電極21は、第2シリコン層62と略同一の幅を有する長方形状の片部材である。複数の櫛歯電極21は、フレーム2の長辺に沿う両内側面に櫛歯電極33の間隔と同一の間隔を設けて揺動軸32に向かってそれぞれ突設されている。各櫛歯電極21は、櫛歯電極33の各間隔の中央に位置するように配置されている。
一対のトーションバー4,4’は、断面が矩形状の棒部材をV字状に繋ぎ合わせた形状を有している。一対のトーションバー4,4’は、揺動軸32のミラー部31とこのミラー部31に最も近い櫛歯電極33との間の所定の位置(揺動部材3の重心位置Mまたはその近傍位置)に設けられている。各トーションバー4,4’は、V字の開いた側が揺動軸32の側面に接続され、V字の窄まった側がフレーム2の側面に接続されている。各トーションバー4,4’は、その厚みが揺動軸32の高さ方向の寸法よりも短く、揺動軸32の高さ方向において下辺の近傍位置(絶縁膜63に近接した位置)に設けられている(図2参照)。
櫛歯電極33は、揺動軸32を揺動させるための駆動電圧(直流電圧)が印加される部分である。櫛歯電極33は、第1シリコン層61の導電性により電極として機能する。ミラー部31、揺動軸32、複数の櫛歯電極33及び一対のトーションバー4,4’は、後述するように導電性を有する第1シリコン層61によって一体的に形成されるので、これらの部材のいずれかに電圧が印加されると、複数の櫛歯電極33に電圧が印加される。同様に、櫛歯電極21も揺動軸32を揺動させるための駆動電圧(櫛歯電極33とは逆極性の電圧)が印加される部分である。櫛歯電極21は、第2シリコン層62の導電性により電極として機能する。
第1シリコン層61と第2シリコン層62は、絶縁膜63により電気的に絶縁されている。従って、第1シリコン層61に形成された揺動部材3と第2シリコン層62に形成されたフレーム2との間に駆動電圧を印加しても、フレーム2の櫛歯電極21と揺動部材3の櫛歯電極33とが短絡することはなく、両電極間に駆動電圧に基づく電位差が生じる。そして、その電位差により櫛歯電極21と揺動部材3の間に互いに引き合う静電力が生じ、この静電力により揺動部材3の櫛歯電極33が下側領域2Bに下降し、ミラー部31が上側領域2Aよりも上側に上昇する。櫛歯電極33の下側領域2Bへの下降により一対のトーションバー4,4’に捩れが生じ、その捩れに起因する復元力が揺動部材3に作用する。従って、櫛歯電極33は、その復元力と静電力とがバランスする位置まで下降する。静電力は駆動電圧に比例するから、駆動電圧の大きさに応じて櫛歯電極33の下降量が変化し、この結果、ミラー部31のミラー面311の水平面(絶縁膜63に沿う面)に対する傾斜角θが変化する。
一方、駆動電圧の印加がなくなると、櫛歯電極21と櫛歯電極33との間に生じていた静電力がなくなる。従って、各トーションバー4,4’の復元力により櫛歯電極33は、元の位置に戻り、ミラー部31のミラー面311は水平位置に戻る。この結果、駆動電圧を0[V]を含めて連続的若しくは段階的に変化させることにより、ミラー部31のミラー面311の水平面に対する傾斜角θが連続的若しくは段階的に変化する。
マイクロミラー素子1のミラー面311の角度制御は、図1に示すように、フレーム2と揺動部材3との間に駆動電圧を印加する駆動回路7を接続し、この駆動回路7からの駆動電圧値を制御回路8により制御することによって行われる。ミラー面311の傾斜角を所定のピッチで多段階に設定するとともに、各段の傾斜角θに対応する制御信号を設定しておき、制御回路8からその制御信号を駆動回路7に出力することで、マイクロミラー素子1のミラー面311の傾斜角θが制御される。
制御回路8が駆動回路7からの駆動電圧を高速で変化させたときには、揺動部材3が図1の矢印Rで示す方向に、高速振動する。このときの揺動部材3の振動特性は、一対のトーションバー4,4’の機械構造に基づく捩れに対する共振特性に依存する。そして、その共振特性は、SOI基板6を加工して形成される各トーションバー4,4’のV字形状やSOI基板6の高さ方向における位置によって大きく変化する。そこで、本実施形態では、各トーションバー4,4’のマイクロミラー素子1の高さ方向における位置を正確に測定できるようにするために、図2に示すように、揺動部材3の各トーションバー4,4’の下側に、それぞれ位置測定用の基準面Srを与える構造体5,5’を設けている。なお、図1,図2では、構造体5’は見えていない。また、図2では、構造体5を見易くするために、フレーム2の部分は省力している。
各構造体5,5’は、三角柱状を有している。一方の構造体5の三角柱の平面視の形状(絶縁層63に沿う断面形状)は、図3(a)に示すように、トーションバー4と揺動軸32とで囲まれた三角形とほぼ同一となっている。従って、一方の構造体5は、トーションバー4と揺動軸32とで囲まれた三角形の空間Kの下部に位置するように、第2シリコン層62に設けられている。構造体5の上面S1は、図3(b)に示すように、第2シリコン層62と絶縁層63との境界面Spと一致し、構造体5の下面S2は第2シリコン層62の開放面(図3(b)では下面)Sqと一致している。そして、構造体5の上面S1がトーションバー4のマイクロミラー素子1の高さ方向における位置側定の基準面Srとなっている。他方の構造体5’も上述した一方の構造体5と同様の構成である。
次に、図1に示すマイクロミラー素子1の製造方法について、図4および図5を用いて説明する。
図4および図5に示すマイクロミラー素子1の製造方法は、バルクマイクロマニシング技術を用いるマイクロ構造体の製造方法の一手法である。図4および図5においては、図5(d)に示すミラー支持部M、揺動軸AR、フレームF1,F2、トーションバーT1,T2、一組の櫛歯電極E1,E2および構造体Gの形成過程を、一の断面の変化として表す。この一の断面は、加工が施される材料基板(多層構造を有するウエハ)における単一のマイクロミラー素子形成区画に含まれる複数の所定箇所の断面を、モデル化して連続断面として表したものである。ミラー支持部Mは、ミラー部31の一部に相当する。揺動軸ARは、揺動軸32に相当し、揺動軸32の横断面を表す。フレームF1,F2は、それぞれフレーム2に相当し、フレーム2の横断面を表す。トーションバーT1は、トーションバー4に相当し、トーションバー4の延び方向の断面を表す。トーションバーT2は、トーションバー4’に相当し、トーションバー4’の横断面を表す。櫛歯電極E1は、櫛歯電極33の一部に相当し、電極歯の横断面を表す。櫛歯電極E2は、櫛歯電極21の一部に相当し、電極歯の横断面を表す。
マイクロミラー素子1の製造においては、まず、図4(a)に示すような材料基板6を用意する。材料基板6は、第1シリコン層61と、第2シリコン層62と、両シリコン層61,62間の絶縁層63とからなる積層構造を有するSOI基板である。第1シリコン層61および第2シリコン層62は、不純物をドープすることにより導電性を付与されたシリコン材料よりなる。不純物としては、Bなどのp型不純物や、PおよびSbなどのn型不純物を採用することができる。絶縁層63は、例えば、酸化シリコンよりなる。第1シリコン層61の厚さh1は、例えば、10〜100μmであり、第2シリコン層62の厚さh2は、例えば、50〜500μmであり、絶縁層63の厚さh3は、例えば、0.3〜3μmである。
次に、図4(b)に示すように、第1シリコン層61上にミラー面311を形成する。ミラー面311の形成においては、スパッタリング法により、第1シリコン層61の表面に、例えば、Cr(50nm)を成膜した後、その上にAu(200nm)を成膜する。次に、所定のマスクを介してこれら金属膜に対してエッチング処理を順次行うことにより、ミラー面311をパターン形成する。Auに対するエッチング液としては、例えば、ヨウ化カリウム−ヨウ素水溶液を使用することができる。Crに対するエッチング液としては、例えば硝酸第二セリウムアンモニウム水溶液を使用することができる。
次に、図4(c)に示すように、第1シリコン層61上に酸化膜パターン64およびレジストパターン65を形成し、第2シリコン層62上に酸化膜パターン66を形成する。酸化膜パターン64は、揺動部材3(ミラー支持部M,揺動軸AR,櫛歯電極E1)およびフレーム2(フレームF1,F2)に対応するパターン形状を有する。レジストパターン65は、両トーションバー4,4’(トーションバーT1,T2)に対応するパターン形状を有する。また、酸化膜パターン66は、フレーム2(フレームF1,F2)、櫛歯電極21(櫛歯電極E2)および構造体5,5’(構造体G)に対応するパターン形状を有する。
次に、図4(d)に示すように、酸化膜パターン64およびレジストパターン65をマスクとして、DRIE(deep reactive ion etching)により、第1シリコン層61に対し所定の深さまでエッチング処理を行う。所定の深さとは、トーションバーT1,T2の厚さに相当する深さであり、例えば5μmである。DRIEでは、エッチングと側壁保護とを交互に行うBoschプロセスにおいて、良好なエッチング処理を行うことができる。後出のDRIEについても、このようなBoschプロセスを採用することができる。
次に、図5(a)に示すように、剥離液を作用させることにより、レジストパターン65を剥離する。剥離液としては、例えば、AZリムーバ700(クラリアントジャパン製)を使用することができる。
次に、図5(b)に示すように、酸化膜パターン64をマスクとして、DRIEにより、トーションバーT1,T2を残存形成しつつ第1シリコン層61に対して絶縁層63に至るまでエッチング処理を行う。本エッチング処理により、揺動部材3(ミラー支持部M,揺動軸AR,櫛歯電極E1)、両トーションバー4,4’(トーションバーT1,T2)、および、フレーム2(フレームF1,F2)の一部が成形される。
次に、図5(c)に示すように、酸化膜パターン66をマスクとして、DRIEにより第2シリコン層62に対して絶縁層63に至るまでエッチング処理を行う。本エッチング処理により、フレーム2(フレームF1,F2)の一部、櫛歯電極21(櫛歯電極E2)および構造体5,5’(構造体G)が成形される。
次に、図5(d)に示すように、絶縁層63において露出している箇所、および酸化膜パターン64,66を、エッチング除去する。エッチング手法としては、ドライエッチングまたはウエットエッチングを採用することができる。ドライエッチングを採用する場合、エッチングガスとしては、例えば、CF4やCHF3などを採用することができる。ウエットエッチングを採用する場合、エッチング液としては、例えば、フッ酸とフッ化アンモニウムからなるバッファードフッ酸(BHF)を使用することができる。
以上の一連の工程を経ることにより、ミラー支持部M、揺動軸AR、フレームF1,F2、トーションバーT1,T2、一組の櫛歯電極E1,E2および構造体Gを成形してマイクロミラー素子1が製造される。
トーションバー4,4’のマイクロミラー素子1の高さ方向における位置は、図3(b)に示すように、フレーム2の下面(構造体5の下面S2に相当)から各トーションバー4,4’の上面Stまでの距離Ltとして求められる。この距離Ltは、例えば、第2シリコン層62の厚みをh2とし、構造体5の基準面Srからトーションバー4の上面Stまでの距離をLt2とすると、Lt=h2+Lt2で表される。SOI基板6の第2シリコン層62の厚みh2は、既知であるから、距離Lt2を正確に測定できると、距離Ltを正確に求めることができる。
本実施形態では、SOI基板6に実際に形成されるマイクロミラー素子1に基準面Srを与える構造体5,5’を形成している。従って、例えば、図6(a)に示すように、測定ラインN上にレーザー光を照射し、その反射光によりレーザー照射位置から反射面まで距離Dを測定することより、その測定結果を用いて距離Ltが測定される。具体的には、同図(b)に示すような波形を取得し、その波形の段差から距離Lt2を正確に測定し、この測定値Lt2に予め測定されている第2シリコン層62の厚みh2を加算して、各トーションバー4,4’のフレーム2の高さ方向における位置の測定値Ltが測定される。
上記のように、本実施形態では、SOI基板6に形成される複数のマイクロミラー素子1の全てに、一対のトーションバー4,4’のマイクロミラー素子1の高さ方向における位置を測定するための基準面Srを与える一対の構造体5,5’を一体的に形成している。従って、同一のSOI基板6に形成される複数のマイクロミラー素子1の一部のマイクロミラー素子1について、マイクロミラー素子1毎に構造体5,5’の基準面Srを用いたトーションバー4,4’の位置測定をすることにより、トーションバー4,4’の位置を正確に測定することができる。そして、その測定値を用いて同一のSOI基板6に形成された複数のマイクロミラー素子1のトーションバー4,4’の共振特性を正確に把握することができる。
なお、一対の構造体5,5’は、上記のように、一対のトーションバー4,4’のマイクロミラー素子1の高さ方向における位置を測定する際に測定の基準面Srを与える機能を果たすだけである。一対の構造体5,5’は、各マイクロミラー素子1の本来の機能動作(揺動部材3を揺動させてミラー面311の傾斜角θを変化させる動作)には関係しない。むしろ、各構造体5,5’は、各トーションバー4,4’の下部にそれぞれ設けられるので、揺動部材3の揺動動作における各トーションバー4,4’の捩れに干渉してはならないように配置する必要がある。
従って、構造体5については、
(1)SOI基板6の第2シリコン層62を加工し、少なくとも当該第2シリコン層62の境界面Spを残して形成する、
(2)各トーションバー4,4’の下部であって各トーションバー4,4’の捩れに干渉しない位置に形成する、
の条件を満たすものであれば、図2に示す構造に限定されるものではない。
例えば、本実施形態では、各トーションバー4,4’がV字状をしているので、各構造体5,5’の断面形状を三角形の空間Kとほぼ同一の形状としたが、必ずしも各構造体5,5’の断面形状を三角形の空間Kと合わせる必要はない。例えば、各構造体5,5’の断面形状を台形状にしてもよい。
また、図7に示すように、構造体5を、V字形のトーションバー4の外側の下部に当該トーションバー4の外側形状に沿う一対の板部材5A,5Bで構成してもよい。この場合は、板部材5A,5Bの各上面S5A,S5Bが基準面Srとして機能する。さらに、構造体5を、図8に示すように、図2の構成と図7の構成を組み合わせた構成としてもよい。この場合、外側の板部材5A,5Bと内側の三角柱部材5Cの各上面S5A,S5B,S5Cが基準面Srとして機能する。上記のことは、構造体5’についても同様である。なお、図7(a)および図8(a)では、構造体5A〜5Cを見易くするために、フレーム2の部分は省略している。
構造体5,5’は、マイクロミラー素子1のミラー面311を振動させる構成要素の観点から見れば、必ずしも必要な要素ではない。従って、構造体5,5’を可及的に軽量にし、ミラー面311の振動特性への影響をできるだけ少なくすることが好ましい。
この目的のため、例えば、図9に示すように、三角柱状の構造体5の内部を第2シリコン層62の面Sq側から刳り貫き、筒体にするとよい。筒状の構造体5は、第2シリコン層62に2段DRIE(deep reactive ion etching)プロセスを適用することによって形成することができる。構造体5’についても同様である。なお、図9は、構造体5の穴を見易くするために、底面側から描いている。また、構造体5を見易くするために、フレーム2の部分は省略している。
ところで、SOI基板6を加工してマイクロミラー素子1を製造する場合、ローディング効果(エッチングにおける開口面積の差に起因して第1シリコン層61の除去速度が不均一とになり、各トーションバー4,4’のV字形が不均一になるという効果)を抑制するために、図10に示すように、各トーションバー4,4’の上部に、構造体5,5’と類似した形状の第2の構造体7がそれぞれ形成される場合がある。第2の構造体7は、トーションバー4と揺動軸32とで囲まれた三角形の空間Kと相似形で当該三角形よりも小さい三角形の断面形状を有する。
本願発明に係る構造体5,5’は、第2の構造体7とはその目的が相違し、互いに干渉するものではないので、図10に示すように、第2の構造体7が形成されたマイクロミラー素子に対しても形成することができる。なお、図10では、構造体5および第2の構造体7を見易くするために、フレーム2の部分は省略している。
次に、本発明に係るマイクロ構造体の適用例について説明する。
光クロスコネクト装置などの各種の光通信用デバイスに適用される光スイッチの大規模化を実現するために、反射面の角度が制御可能な複数のマイクロティルトミラーアレイを用いた空間光結合型の光スイッチが知られている。本発明に係るマイクロ構造体の適用例としてこのような光スイッチが挙げられる。
図11,図12は、本発明に係るマイクロ構造体を適用したマイクロティルトミラーアレイを用いた光スイッチの一例を示す図である。図11は、マイクロティルトミラーアレイを用いた光スイッチの基本構成を示す図、図12は、同光スイッチの上面図である。
チである。
光スイッチ10は、光入出力部材11と、入出力光反射ミラー12と、折返しミラー13を有する。光入出力部材11は、光を入力させる光入力部11Aと光を出力させる光出力部11Bとを同一平面上に並設した部材である。光入力部11Aと光出力部11Bには、それぞれコリメータアレイが設けられている。各コリメータアレイは、複数のコリメータを格子状に配列したものである。
入出力光反射ミラー12は、光入出力部材11の光入力部11Aから入力された光を折返しミラー13側に反射する入力光反射部12Aと折返しミラー13から戻された光を光入出力部材11の光出力部11B側に反射する出力光反射部12Bとを同一平面上に並設した部材である。入力光反射部12Aと出力光反射部12Bには、それぞれティルトミラーアレイが設けられている。各ティルトミラーアレイは、格子状に配列された複数のマイクロミラー素子である。そして、そのマイクロミラー素子は、上述した本願発明に係るマイクロミラー素子1によって構成されている。従って、入力光反射部12Aおよび出力光反射部12Bに形成された複数のマイクロミラー素子のそれぞれに、上述した構造体5,5’が形成されている。
入力光反射部12Aに設けられたティルトミラーアレイの各ミラー面の傾斜角を変化させることにより、入力光反射部12Aから折返しミラー13に反射される入力光の光路が変化する。同様に、出力光反射部12Bに設けられたティルトミラーアレイの各ミラー面の傾斜角を変化させることにより、出力光反射部12Bから光入出力部材11の光出力部11Bに反射される出力光の光路が変化する。従って、入力光反射部12Aおよび出力光反射部12Bの各ティルトミラーアレイの各ミラー面の傾斜角をそれぞれ制御することにより、光入出力部材11の光入力部11Aから入出力光反射ミラー12の入力光反射部12A、折返しミラー13および入出力光反射ミラー12の出力光反射部12Bを通って光入出力部材11の光出力部11Bに至る光路が制御される。これにより、入力する光の光入力部11Aにおけるコリメータアレイの入射位置とその光の光出力部11Bにおけるコリメータアレイの出射位置とが変化し、光路が切り換えられる。
光入出力部材11の光の入出力面の法線方向n1と、入出力光反射ミラー12の光の反射面の法線方向n2は非平行となるように設定されている。具体的には、光入出力部材11の光の入出力面と入出力光反射ミラー12の光の反射面のなす角度は略45度に設定されている。また、折返しミラー13は、略直角に開いた2つの反射面13Aと反射面13Bを有している。2つの反射面13Aと反射面13Bの開き角を略90度にすることによって入射光の伝播方向に平行な方向に光のビームが折り返されるので、光学系の設計を容易に行うことができる。折返しミラー13は、入出力光反射ミラー12に対して、一方の反射面13Aが入出力光反射ミラー12の入力光反射部12Aに対向し、他方の反射面13Bが入出力光反射ミラー12の出力光反射部12Bに対向するように配置されている。
従って、図12において、入出力光反射ミラー12の各マイクロミラー素子のミラー面が反射面に平行であれば、例えば、光入出力部材11の光入力部11Aの入力位置aから上方に入力される光は、図12の光路T1で示されるように、入出力光反射ミラー12のミラー面で略直角に右方向に反射されて折返しミラー13の反射面13Aに入射される。反射面13Aに入射した光は、略直角に上方に反射されて反射面13Bに入射され、反射面13Bで略直角に左方向に反射されて入出力光反射ミラー12の出力光反射部12Bに入射される。そして、出力光反射部12Bで略直角に下方に反射されて光入出力部材11の光出力部11Bの出力位置bから出力される。
一方、入出力光反射ミラー12の各マイクロミラー素子のミラー面を反射面に対して傾斜させると、例えば、図12の光路T2で示されるように、光路が変化し、光入出力部材11の光入力部11Aの入力位置aから入射された光は、光出力部11Bの出力位置b’から出力される。すなわち、光出力部11Bにおける出力位置が出力位置bから出力位置b’に切り換えられる。
光スイッチ10は、光入出力部材11、入出力光反射ミラー12および折返しミラー13の相互の配置関係を図12に示す配置関係にすることにより、光スイッチ10内における光の空間伝播距離を長くすることなく、光入出力部材11、入出力光反射ミラー12および折返しミラー13を一体化してコンパクトに構成される。特に、光入出力部材11の光の入出力面と入出力光反射ミラー12の光の反射面のなす角度を略45度に設定することにより、入出力光反射ミラー12の各マイクロミラー素子の光の振れ角に対する、入出力光反射ミラー12と折返しミラー13との間における光路の長さを最も短くすることができる。
なお、光入出力部材11のコリメータアレイの配列方向(図12のN1の方向)、入出力光反射ミラー12のマイクロティルトミラーアレイの配列方向(図12のN2の方向)、および折返しミラー13の光路のシフト方向(図12のN3の方向)がそれぞれ入出力光反射ミラー12の法線方向n2と光入出力部材11から入力される光の伝播方向とを含む基準平面に対して平行になるようにしてもよい。あるいは、基準平面に対して上記のN1〜N3の各方向が垂直なるようにしてもよい。この場合は、光スイッチ10内の光の空間伝播距離を更に短くすることができる。
次に、光スイッチの他の例として、波長毎に光路切換えを行うための光スイッチが挙げられる。このような光スイッチ(以下、「波長選択スイッチ」という。)は、例えば、図13に示す波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)通信用のメッシュ型ネットワーク15における各ノードに配置される波長選択スイッチモジュール17内に設けられる。
メッシュ型ネットワーク15は、合波部16と、波長選択スイッチモジュール17と、分波部18とを有する。合波部16は、複数の異なる光伝送路(例えば、光ファイバーなど)によって伝送された波長の異なる複数の光を合わせて1本の光伝送路に出力するものである。一方、分波部18は、1本の光伝送路によって伝送された異なる複数の波長を含む光から各波長の光を分光し、複数の光伝送路にそれぞれ出力するものである。波長選択スイッチモジュール17は、波長毎のクロス・バースイッチとして機能するものである。
波長選択スイッチモジュール17は、例えば、図14に示すように、入力伝送路に接続される入力ポート数(図14では2個)に対応して設けられる複数の分波部171と、出力伝送路に接続される出力ポート数(図14では2個)に対応して設けられる複数の合波部173と、分波部171と合波部173との間に設けられ、各分波部171から出力される波長毎に分光された複数の光の複数の合波部173への出力先を切り換える複数の2×2光スイッチ172とを備えている。2×2光スイッチ172の数nは、分波部171で分光される波長の数nに対応している。
図14では、第1の分波部171は、第1の入力ポートP1から入力されるn個の波長を含む光(WDM光)から各波長の光を取り出し、n個の2×2光スイッチ172にそれぞれ入力する。第2の分波部171は、第2の入力ポートP2から入力されるn個の波長を含むWDM光から各波長の光を取り出し、n個の2×2光スイッチ172にそれぞれ入力する。
一方、第1の合波部173は、n個の2×2光スイッチ172からそれぞれ入力される波長の異なる複数の光を多重化して第1の出力ポートQ1から外部に出力する。第2の合波部173は、n個の2×2光スイッチ172からそれぞれ入力される波長の異なる複数の光を多重化して第2の出力ポートQ2から外部に出力する。
また、2×2光スイッチ172は、2個の分波部171からそれぞれ入力される所定波長の光の2個の合波部173への出力切換え(クロス出力またはバー出力)を行う。
波長選択スイッチモジュール17では、例えば、第1の入力ポートP1に波長λ2,λ5,λ6のWDM光が入力され、第2の入力ポートP2に波長λ1,λ3,λ4,λ7のWDM光が入力された場合、第1の分波部171で波長λ2、λ5、λ6の光に分光され、各波長の光が各波長に対応する3個の2×2光スイッチ172(図14で、上下に並ぶ2×2光スイッチ172に上から番号を付すと、2番目、5番目、6番目の2×2光スイッチ172)に入力される。また、第2の分波部171で波長λ1、λ3、λ4,λ7の光に分光され、各波長の光が1番目、3番目、4番目、7番目の2×2光スイッチ172にそれぞれ入力される。
1番目から7番目の2×2光スイッチ172では、それぞれ制御信号に基づいて入力された各波長の光の出力先が切り換えられる。図14の例では、2番目、5番目、6番目の各2×2光スイッチ172では波長λ2,λ5の光は第2の合波部173に出力され、波長λ6の光は第1の合波部173に出力される。一方、1番目、3番目、4番目、7番目の各2×2光スイッチ172では波長λ1,λ4の光は第1の合波部173に出力され、波長λ3,λ7の光は第2の合波部173に出力される。従って、第1の出力ポートQ1からは第1の合波部173で波長λ1,λ4,λ6の光を多重化した光が出力され、第2の出力ポートQ2からは第2の合波部173で波長λ2,λ3,λ5,λ7の光を多重化した光が出力される。
なお、図14に記載の利得等化機能のブロックは、例えば、2×2光スイッチ172内の出力用光伝送路(光ファイバー)への集光位置をコア中心から適宜ずらすことによってコアへの光結合量を変化させ、各波長の光の利得の調整を行うものである。
次に、波長選択スイッチモジュール17の具体構成について説明する。
図15は、波長選択スイッチモジュール17の基本構成を示す斜視図である。また、図16は、波長選択スイッチモジュール17内の構成要素である分光器を示す要部断面図、図17は、マイクロミラーアレイユニットにおけるマイクロミラー素子のアレイ構造を模式的に示した図である。
波長選択スイッチモジュール17は、基板1701上にマウントされた、光の入出力を行う光学系を構成するコリメータアレイ1702、入力されたWDM光を波長毎に分光するための分光光学系を構成する分光器1703、集光光学系を構成する集光レンズ1704および光スイッチング素子であるマイクロミラーアレイユニット1705を有している。
コリメータアレイ1702は、例えば、ガラス基板の一方の面に一列に配列された複数(図15では4個)のマイクロレンズ(コリメートレンズ、以下、単に「レンズ」という。)を形成し、他方の面の各レンズに対する部分に、レンズ中心にファイバ中心を一致させて接着や融着等により複数(図15では4個)の光ファイバー1702A,1702Bを接続した構成を有する。複数の光ファイバーは、一部が光入力用であり、残りが光出力用である。図15では、上側2段の2つの光ファイバー1702Aが光入力用で、下側2段の2つの光ファイバー1702Bが光出力用である。
従って、光入力用の光ファイバー1702Aの一方が、図14における上側の分波部171に接続され、光入力用の光ファイバー1702Aの他方が、図14における下側の分波部171に接続される。また、光出力用の光ファイバー1702Bの一方が、図14における上側の合波部173に接続され、光出力用の光ファイバー1702Bの他方が、図14における下側の合波部173に接続される。
分光器1703は、入射光を波長によって異なる方向(角度)に反射するものである。分光器1703には、回折格子が用いられている。回折格子は、図16に示すように、ガラス基板1703A上に平行な多数の溝1703Bを周期的に刻んだ光学素子である。回折格子は、光の回折現象を利用して、一定の入射角度αで入射される複数の波長成分に対して、波長毎に異なる出射角度βで反射する。これにより、入射されるWDM光は、含まれる波長が分離される。
なお、図16に示す回折格子は、回折効率を高めるために、溝1703Bを鋸波状としたフレーズ型回折格子と呼ばれるものである。図16に示す回折格子は反射型であるが、透過型の回折格子を用いることもできる。
集光レンズ1704は、分光器1703により分光された各波長の光をマイクロミラーアレイユニット1705内の所定のマイクロミラーに集光する一方、マイクロミラーアレイユニット1705内のいずれかのマイクロミラーで反射された光を分光器1703に集光するものである。
マイクロミラーアレイユニット1705は、分光器1703によって集光される光の反射方向を切り換えるものである。マイクロミラーアレイユニット1705には、図17に示すように、本発明に係るマイクロ構造体で構成されるマイクロミラー素子が複数個、所定の間隔Pで一列に配列されている。なお、図17は、マイクロミラー素子のアレイ構造を模式的に示したもので、複数の枠が所定のピッチで一列に配列された枠体1705Aの各枠内にマイクロミラー素子1705Bを揺動可能に支持した構成として描いている。
マイクロミラーアレイユニット1705は、各マイクロミラー素子1705Bのミラー面の傾斜角を変更することにより、図18に示すように、分光器1703によって集光される光の反射方向を切り換え、これにより2つの光入力用の光ファイバー1702Aと2つの光出力用の光ファイバー1702Bの対応関係を切り換える。
図18の例では、同図(a)では、光入力用の第1の光ファイバー1702Aから入射した光が分光器1703および集光レンズ1704を通ってマイクロミラーアレイユニット1705に入射されると、その光は光出力用の第2の光ファイバー1702Bに対応する光路に向かう所定の角度で反射される。従って、マイクロミラーアレイユニット1705からの反射光は、集光レンズ1704および分光器1703によって光出力用の第2の光ファイバー1702Bに導かれ、その第2の光ファイバー1702Bから出力される。
一方、同図(b)は、同図(a)の状態に対してマイクロミラーアレイユニット1705のミラー面を上方に傾けたもので、これによりマイクロミラーアレイユニット1705での反射角が同図(a)の場合よりも小さくなり、マイクロミラーアレイユニット1705で反射した光が集光レンズ1704で集光される位置は同図(a)の場合よりも上に移動し、光出力用の第1の光ファイバー1702Bに対応するようになる。従って、マイクロミラーアレイユニット1705からの反射光は、集光レンズ1704および分光器1703によって光出力用の第1の光ファイバー1702Bに導かれ、その第1の光ファイバー1702Bから出力される。
なお、マイクロミラーアレイユニット1705における各マイクロミラー素子のミラー面の角度制御は、マイクロミラー素子1のミラー面311の角度制御で説明したように、制御回路によりマイクロミラー素子毎に設けられる駆動回路への制御信号を制御することにより行われる。
なお、マイクロミラーアレイユニット1705の各ミラー面には、分光器1703によって分光された光が集光されるから、各ミラー面の傾斜角を制御することにより、波長毎に出力用の光ファイバー1702Bが切り換えられることになる。
また、マイクロミラーアレイユニット1705の各ミラー面の傾斜角を調整することにより、集光レンズ1704および分光器1703を経由して集光される出力用の光ファイバー1702Bの集光位置が変化する。この集光位置が出力用の光ファイバー1702Bのコア中心からずれると、光結合量が変化する。従って、マイクロミラーアレイユニット1705の各ミラー面の傾斜角を調整することにより、図14に示した利得等化機能が実現される。
次に、本発明に係るマイクロ構造体の適用例として、コリオリ力を利用した振動型で二重ジンバル構造を有する角速度センサについて説明する。
角速度センサは、物体に加わる回転角速度を検出するためのセンサである。角速度センサは、ビデオカメラの手振れ検出や、カーナビゲーション、サイドエアバック開放タイミング用のロール角検出、車やロボットの姿勢検出などに使用される。
図19は、本発明に係るマイクロ構造体を適用した角速度センサの基本構造を示す上面図である。
角速度センサ20は、矩形状のフレーム枠21と、このフレーム枠21の内側に揺動自在に支持され、矩形の枠形状を有する第1のジンバル部22と、この第1のジンバル部22の内側に揺動自在に支持される矩形形状の第2のジンバル部23を備えている。
第1のジンバル部22は、相対する一組の側面22a,22c(図19では、上下の側面)の中央に凹部がそれぞれ形成されている。第1のジンバル部22の各凹部はトーションバー24によってフレーム枠21に接続されている。他の相対する一組の側面22b,22d(図19では、左右の側面)にはそれぞれ櫛歯電極221,222が形成されている。一方、フレーム枠21の第1のジンバル部22の側面22bに対向する側面には、櫛歯が櫛歯電極221の櫛歯と噛み合うように、櫛歯電極211が形成されている。フレーム枠21の第1のジンバル部22の側面22dに対向する側面には、櫛歯が櫛歯電極222の櫛歯と噛み合うように櫛歯電極212が形成されている。
第2のジンバル部23は、相対する一組の側面23b,23d(図19では、左右の側面)の中央に凹部がそれぞれ形成されている。第2のジンバル部23の各凹部はトーションバー25によって第1のジンバル部22に接続されている。他の相対する一組の側面23a,23c(図19では、上下の側面)にはそれぞれ櫛歯電極231,232が形成されている。一方、第1のジンバル部23の第2のジンバル部23の側面23aに対向する内側の側面には、櫛歯が櫛歯電極231の櫛歯と噛み合うように櫛歯電極223が形成されている。第1のジンバル部22の第2のジンバル部23の側面22cに対向する内側の側面には、櫛歯が櫛歯電極232の櫛歯と噛み合うように櫛歯電極224が形成されている。
なお、図19では、トーションバー24,25を1本の棒材で描いているが、トーションバー24,25は、図1に示すトーションバー4と同様に、V字状をなす一対の棒材で構成される。
角速度センサ20は、図20に示すように、トーションバー25の軸方向をX軸、トーションバー24の軸方向をY軸、X軸およびY軸に垂直な方向をZ軸とすると、櫛歯電極211と櫛歯電極221の間への駆動電圧の印加と、櫛歯電極212と櫛歯電極222の間への駆動電圧の印加とを交互に行うことにより、第1のジンバル部22をY軸を中心に振動させて使用する。このとき、第2のジンバル部23は、X軸周りの回転力が作用しなければ、第1のジンバル部22と一体的にY軸を中心に振動する。すなわち、第1のジンバル部22(以下、「駆動ジンバル部22」という。)に対して第2のジンバル部23(以下、「検出ジンバル部23」という。)が傾くことはない。
この状態で、Z軸を中心に回転角速度Ωzが加わると、Y軸に直交する方向にコリオリ力が発生し、このコリオリ力が検出ジンバル部23にX軸周りの回転力として作用し、検出ジンバル部23がX軸を中心に振動する。なお、駆動ジンバル部22は、X軸周りに回転できないので、コリオリ力により揺動することはない。検出ジンバル部23のX軸を中心とした振動により、櫛歯電極231と櫛歯電極223との間の静電容量(または電極間の電位)と、櫛歯電極232と櫛歯電極224との間の静電容量(または電極間の電位)とが変化する。検出ジンバル部23の振動の振幅、すなわち、X軸周りの変位角θxは静電容量(または電極間の電位)の変化幅に比例するとともに、コリオリ力に比例するから、静電容量(または電極間の電位)の変化幅は変位角度θxに比例する。従って、静電容量の変化幅または電極間の電位の変化幅を検出することにより、回転角速度Ωzが検出される。
角速度センサ20においてもトーションバー24、25の高さ方向における位置と形状が駆動ジンバル部22および検出ジンバル部23の振動特性に影響を与えることはマイクロミラー素子1の場合と同様である。従って、SOI基板を用いてバルクマイクロマニシング技術により角速度センサ20を製造する場合は、トーションバー24、25の下部の当該トーションバー24、25の捩れ動作に干渉しない位置にトーションバー24、25の位置測定用の基準面Srを与える構造体5,5’を形成することにより、トーションバー24、25の位置を正確に測定することができる。
上記のように、本発明は、バルクマイクロマニシング技術によりSOI基板を加工してフレームにトーションバーを介して揺動自在に揺動部材を支持する構造のマイクロ構造体に広く適用できるものである。従って、上記実施形態として開示したマイクロミラー素子や角速度センサに限定されるものではなく、加速度センサなどの他の振動素子にも適用することができる。
また、上記実施形態では、1つの絶縁層を挟んで2つのシリコン層を積層したSOI基板を用いる場合について説明したが、SOI基板の積層構造はこれに限定されるものではなく、複数の絶縁層と複数の導体層とを交互に積層した構造であってもよい。
上記実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)
枠形状の固定部とこの固定部内に一対のトーションバーにより揺動自在に支持された揺動部を備え、絶縁層を挟んで二つの導体層を積層してなるSOI基板に前記固定部および前記揺動部を形成する加工を施して製造されるマイクロ構造体において、前記一対のトーションバーは、一方の導体層の前記絶縁層に接する位置に当該導体層よりも薄い厚みで形成され、他方の導体層の各トーションバーの下側に位置し、当該トーションバーの捩れ動作と干渉しない部分に、当該導体層と同一の厚みを有する構造体をそれぞれ設けた、マイクロ構造体。
(付記2)
前記構造体のトーションバーを臨む面を当該トーションバーの前記一方の導体層の厚み方向における位置の基準面とする、付記1に記載のマイクロ構造体。
(付記3)
前記構造体は、前記固定部および前記揺動部の両方の前記他方の導体層に形成されている、付記1または2に記載のマイクロ構造体。
(付記4)
前記構造体は、前記固定部または前記揺動部のいずれか一方の前記他方の導体層に形成されている、付記1または2に記載のマイクロ構造体。
(付記5)
前記トーションバーは、前記固定部と前記揺動部との間に接続された複数の棒状体を含み、前記構造体は、前記他方の導体層の前記固定部、前記揺動部および前記複数の棒状体によって作られる空間形状の下側に位置する部分に設けられ、当該構造体の前記導体層の層に沿った断面形状は、前記空間形状と略同一の形状である、付記1または2に記載のマイクロ構造体。
(付記6)
前記構造体は、前記他方の導体層の前記固定部、前記揺動部および前記複数の棒状体によって作られる空間形状の下側に位置する部分に設けられる第1の構造体と、前記他方の導体層の前記複数の棒状体に対向する位置よりも外側の部分に設けられる第2の構造体とを含み、前記第1の構造体の前記導体層の層に沿った断面形状は、前記空間形状と略同一の形状であり、前記第2の構造体の前記導体層の層に沿った断面形状は、前記複数の棒状体に沿う長辺を有する横長の矩形形状である、付記1または2に記載のマイクロ構造体。
(付記7)
前記トーションバーは、V字の開いた側が前記揺動部に接続され、V字の窄まった側が前記固定部に接続されたV字形状の部材である、付記5または6に記載のマイクロ構造体。
(付記8)
前記空間形状の下側に位置する部分に設けられる構造体の断面形状は、前記トーションバーと前記揺動部とで囲まれた三角形と略同一の三角形状である、付記7に記載のマイクロ構造体。
(付記9)
前記構造体は、前記他方の導体層の前記絶縁体に接していない面に開口した筒形状である、付記1ないし8のいずれかに記載のマイクロ構造体。
(付記10)
前記構造体は、2段エッチングプロセスによって筒形状に形成されている、付記9に記載のマイクロ構造体。
(付記11)
付記1乃至10のいずれかに記載のマイクロ構造体で構成されるマイクロ素子。
(付記12)
少なくともミラー素子、角速度センサ、加速度センサを含む、付記11のマイクロ素子。