JP5138044B2 - 骨盤臓器脱を治療又は予防するための器具 - Google Patents

Description

本発明は、骨盤内にある臓器が膣内に落ち込んで女性器から脱出するのを治療又は予防するための器具に関するものである。

骨盤臓器脱（性器脱ともいう）とは、子宮・膀胱・尿道・小腸・直腸などの骨盤内にある臓器が膣内に落ち込み、膣壁と一緒に女性器から外部へ脱出したり、膣壁自体が女性器から外部へ脱出（これを特に膣断端脱という）したりしてしまう病気である。脱出した臓器によって、子宮脱、膀胱瘤、尿道粒、小腸瘤、直腸瘤と称され、複数の臓器が飛び出すこともある。骨盤臓器脱は、一般的に生命に関わることはないとされている。

しかしながら、骨盤内の臓器が女性器より外部へ脱出してしまうことにより、臓器の粘膜が空気に晒されて乾燥し、擦れて出血し、歩行が困難になったりする。また、膀胱が脱出することにより、尿道へ影響を及ぼし、尿失禁あるいは排尿困難などの症状を引き起こすこともある。更に、直腸が脱出した場合には、排便困難などの症状を引き起こすこともある。

骨盤臓器脱の重症分類は、膣内への落込みや女性器から外部への脱出度合いにより１度から４度までに分類される。軽症なものは膣の中だけでの下垂で１度、腔の出口まで達すると２度、そして膣から外へ出てくるようになると３度、全て脱出すると４度となる。この種の骨盤臓器脱は、日常生活が著しく阻害される病気、いわゆるＱＯＬ(Quality of Life)疾患であり、更年期以降の女性に多く見られる。

ところで、痔静脈が鬱血、拡張して生じた痔核が肛門外に脱出する脱肛の痛みを和らげる器具として、特許文献１に開示されたものが知られている。この器具は、紙、木材、ゴム（特に硬質ゴム）、石膏等の如き適宜の材料で形成された接当具を患部に押し当てることで、痔核を肛門内に押し込め、これにより激痛を緩和するものである。

特開平９−２２０２５３号公報

解決しようとする課題は、骨盤の中に収まるべき子宮・膀胱・尿道・小腸・直腸などの臓器の位置が下がって膣内に落ち込み、女性器から外に出てきた臓器を押し上げることで、骨盤臓器脱の治療又は予防をするには、女性器との接触による痛みや違和感を解消することができない点である。

本発明は、患者の女性器に接触する受容部材を少なくとも柔軟性を有する材料から構成する一方で、受容部材を支持する支持部材を相対的に剛性を有する材料から構成し、受容部材を支持部材に対して揺動又は伸縮可能にすることにより、上記課題を解決する。

本発明によれば、患者の女性器に接触する受容部材が柔軟性を有する材料から構成され、しかも受容部材が支持部材に対して揺動又は伸縮可能に構成されているので、痛みや違和感を解消することができる一方、受容部材を支持する支持部材は相対的に剛性を有する材料から構成されているので、女性器から外に出てこようとする骨盤臓器を受け止めることができる。

発明の一実施の形態に係る器具の全体構成を示す平面図、側面図、底面図、Ａ−Ａ断面図およびＢ−Ｂ断面図である。 図１のカバーの構成を示す平面図、側面図、Ｂ−Ｂ断面図およびＡ−Ａ断面図である。 図１の弾性体の構成を示す平面図、側面図、Ａ−Ａ断面図、Ｂ−Ｂ断面図および正面図である。 図１の支持部材の構成示す平面図、側面図、Ａ−Ａ断面図およびＢ−Ｂ断面図である。 発明の一実施の形態に係る固定シートの構成を示す平面図およびＡ−Ａ断面図である。 発明の一実施の形態に係る保持ベルトの構成を示す正面図である。 図６の保持ベルトを示す背面図である。 発明の他の実施の形態に係る器具を示す断面図である。

《第１実施形態》
図１〜図４を参照して、本発明の一実施の形態に係る器具１を説明する。
本例の器具１は、上述した各種の骨盤臓器脱の治療または予防のための器具であって、患者（予防のために装着する者も含む。）の女性器に接触させて装着されるものである。本例の器具１は、図１（ａ）〜（ｅ）に示すように、受容部材１０と支持部材２０とを備える。

受容部材１０は、主として半球状または半楕円球状とされ、当該受容部材１０の表面を被覆するカバー１１と、このカバー１１の裏面に接触して設けられた弾性体１２とを有する。
図２（ａ）は本例のカバー１１を示す平面図、同図（ｂ）は側面図、同図（ｃ）はＡ−Ａ断面図、同図（ｄ）はＢ−Ｂ断面図であり、カバー１１は、図１（ｄ）及び（ｅ）に示すように弾性体１２を包み込むように覆うことで、受容部材１０の表面を被覆する。そして、カバー１１の下端は内側に折り曲げられて折り曲げ基端部１３が形成され、これによって弾性体１２の底面周辺を包囲して支持する構造とされている。

また、カバー１１の下端部には、折り曲げ基端部１３と反対側（外側）に向かって腹側基端部１４と背側基端部１５が形成されている。なお、ここでいう腹側とは、患者が本例の器具１を女性器に接触させて装着した場合における、患者のお腹側に位置するという意味であり、同様に背側とは患者の背中側に位置するという意味である。後述する支持部材２０の腹側支持部２２が背側支持部２３に比べて幅広に形成されていることから、これに応じてカバー１１の腹側基端部１４は背側基端部１５より幅広に形成されている。これは本例の器具１を女性器に装着した場合に、腹側は比較的広い下腹部に当接するのに対し、背側は臀部の下部に当接するため、違和感を解消するために幅狭に形成したものである。

カバー１１の折り曲げ基端部１３、腹側基端部１４および背側基端部１５は、図１（ｄ）および（ｅ）に示すように、支持部材２０の腹側支持部２２および背側支持部２３のそれぞれの表面に、接着剤などを用いて固定される。

カバー１１は、患者の女性器に直接接触させて装着するため、女性器から外へ出てきた骨盤臓器や女性器そのものに接触する。このため、歩行や日常動作をすると、骨盤臓器や女性器が擦れて痛みを感じるおそれがある。本例では、カバー１１を、柔軟性を有する材料、たとえば軟質シリコーンゴムその他の熱硬化性樹脂系エラストマーまたは熱可塑性エラストマーから構成することで患者の痛みを和らげる。柔軟性の程度としては、たとえば日本工業規格ＪＩＳ Ｋ６２５３にて規定されるタイプＡのデュロメータによる硬度が０〜８０度、好ましくは５〜５０度、さらに好ましくは１０〜４０度である。

本例の弾性体１２は、ウレタンスポンジ（発泡ウレタン樹脂）その他発泡樹脂などの弾性を有する材料から構成され、カバー１１の裏面に接触するように設けられ、図３（ａ）〜（ｅ）に示すように、カバー１１の裏面に沿って凸状部１６とされている。なお、患者の症状に応じて、弾性体１２の凸状部１６及び後述する支持部材２０の凸状部２１の径を大きくし弾性体１２の厚さを薄く形成することもできる。こうすることにより、本例の器具１が有する弾性の範囲を変動させることができ、骨盤臓器脱の症状分類に応じた器具１を提供することができる。たとえば、症状分類が軽症であるほど弾性体１２の厚さを薄くし、重症であるほど弾性体１２の厚さを厚くする。

本例の支持部材２０は、受容部材１０に比べて剛性を有する、たとえば上記ＪＩＳ Ｋ６２５３のタイプＡデュロメータによる硬度が３０〜８０度の熱硬化性エラストマーまたは熱可塑性エラストマーから構成され、図４（ａ）〜（ｃ）に示すように、中央に凸状部２１が形成され、その両端に腹側支持部２２と背側支持部２３が形成されている。上述したとおり、支持部材２０の中央の凸状部２１は患者の女性器に相当する幅寸法とされ、腹側支持部２２と背側支持部２３はこれより幅狭であって、背側支持部２３は腹側支持部２２よりさらに幅狭に形成されている。

なお、カバー１１と支持部材２０は、カバー１１の下端部で接合することから、同材質樹脂から構成すれば熱融着等の接合方法によっても接合することができる。また、カバー１１と支持部材２０との硬度については、カバー１１が女性器への接触による擦れが和らぐ硬度であればよく、これに対して支持部材２０は、受容部材１０を後述する固定シート２に確実に固定できる剛性を有するものであればよい。

本例の支持部材２０の凸状部２１の略頂部には貫通孔２４が形成されている。この貫通孔２４は、カバー１１の折り曲げ基端部１３、腹側基端部１４および背側基端部１５が支持部材２０に接合され、これにより形成された内部空間に弾性体１２が封止されるため、当該弾性体１２が伸縮したときの空気抜き孔として機能する。

したがって、貫通孔２４の径を大きくすれば伸縮応答性が高くなって柔軟性がより顕著になるのに対し、貫通孔２４の径を小さくすれば伸縮応答性が低くなって瞬間的に剛性が高くなる。こうした作用を利用すること、すなわち、複数の径の中から適切な径を選択することで、柔軟性又は瞬間的な剛性のいずれか一方を選択することができ、骨盤臓器脱の症状に応じた器具１を提供することができる。

次に、上述した器具１の装着具について説明する。
図５は、上述した器具１を患者の女性器に装着するにあたり、これを保持するための固定シート３を示す平面図およびＡ−Ａ断面図である。本例の固定シート３は、さらさらした布からなる第１層３１と、この第１層３１の裏面に設けられた弾力性を有する第２層３２と、この第２層３２の裏面に設けられた尿もれ又はおりものを吸収する素材からなる第３層３３と、この第３層３３の裏面に設けられた防水素材からなる第４層３４と、この第４層３４の裏面に設けられた滑り止め機能を有する第５層３５と、を有する。さらさらした布とは、液体の浸透が不可逆性を有する布であって、液体が第１層３１から第２層３２へ向かって浸透するが、第２層３２から第１層３１へは浸透しない特性を有する布である。

第１層３１には、器具１の受容部材１０を外部に露出する穴３１Ａが形成され、また第１層３１と第２層３２との間に、穴３１Ａと連通するとともに支持部材２０の腹側支持部２２と背側支持部２３が挿入されるスリット３１Ｂ，３１Ｃが形成されている。このスリット３１Ｂ，３１Ｃに腹側支持部２２と背側支持部２３を挿入することで、器具１が固定シート３に対して着脱可能に固定される。

そして、固定シート３は、図６に示す女性用の下着のパンツ５の所定位置、すなわち受容部材１０のカバー１１が骨盤臓器の脱出部位である女性器に対向する位置に、面ファスナーまたは滑り止め機能を有する第５層３５で固定することで、患者の身体に対して器具１を固定することができる。

さらに、受容部材１０を骨盤臓器の脱出部位である女性器にさらに強く密着させたいときは、図６及び図７に示す保持ベルト４を用いることもできる。図６は保持ベルト４を示す正面図、図７は背面図であり、骨盤臓器の脱出部位である女性器に対する受容部材１０の相対的位置を調節でき、かつ着脱自在に取り付けるための保持ベルトである。

本例の保持ベルト４は、腰ベルト４１と、この腰ベルト４１の正面に間隔をあけて２箇所から延出する調整紐４２と、受容部材１０の装着位置に対応する取付シート４３と、を有する。２本の調整紐４２は、取付シート４３の正面及び背面にそれぞれ形成された孔を通過し、腰ベルト４１の背面に間隔をあけて２箇所にて固定されている。

また、患者の腰骨上の胴回りに係止される腰ベルト４１には、その長さを調整するための、たとえばＤ管などの調整器４４が設けられている。同様に、２本の調整紐４２のそれぞれにも、その長さを調整するための、たとえばＤ管などの調整器４５が設けられている。この調整器４５を締め付けることにより、女性器に対して受容部材１０を強く押し付けることができ、骨盤臓器の受容性を高めることができる。

以上のように、本例の器具１によれば、患者の女性器から出てきた骨盤臓器が擦れることによる痛みなどのストレスや違和感を与えることなく、また女性器から出てきた骨盤臓器を確実に受け止めることができる柔軟性と剛性とをバランス良く備えているので、骨盤臓器脱による諸症状に悩む女性が、日常生活に不便さを感ずることなく、かつ快適に暮らすことができる。

これに加えて本例の器具１によれば、下記の効果も得ることができる。
（１）リングペッサリーの装着で性交渉ができなかった人ができるようになる。
（２）手術をしないので、出産が可能になる。
（３）リングペッサリー装着による感染症を防止することができる。
（４）医療機関が近くになくても、また医療機関に頼らずとも、自分自身で簡便に治療又は予防ができる。

《第２実施形態》
図８（ａ）〜（ｃ）のそれぞれは、発明の他の実施の形態を示す主たる断面図であり、図１に相当する器具１を示す。なお、図１に示す器具１の構成部品と概念的に共通する部材には同一の符号を付す。また、図５に示す固定シート３や図６に示す保持ベルト４は、上述した第１実施形態と同様又は改変して使用することができる。

図８（ａ）に示す器具１は、受容部材１０が支持部材２０に対して、当該支持部材２０の軸部２５の部分で揺動可能に構成されている点が第１実施形態と相違する。すなわち、支持部材２０は、第１実施形態と同様に比較的剛性を有する材料から構成されているが、腹側支持部２２および背側支持部２３と凸状部２１との間に所定長の軸部２５が形成され、これにより凸状部２１に固定された受容部材１０が、軸部２５の自己弾性によって揺動することができる。

このように、受容部材１０を支持部材２０に対して揺動可能に構成すると、図５に示す固定シート３や、さらに図６に示す保持ベルト４に器具１の支持部材２０を固定した場合でも、患者の動きに応じて受容部材１０が揺動する。したがって、患者の女性器と受容部材１０の表面との擦れがより抑制され、こすれによる痛みをいっそう緩和することができる。

なお、受容部材１０の形状は、図８（ａ）に示すようなマッシュルーム形のほか、図８（ｂ）に示すような球形等々、種々の形状とすることができる。また、図８（ｂ）に示すように、受容部材１０の形状に応じて支持部材２０の凸状部２１の形状を球形等に変更することもできる。

上述した第１実施形態の器具１に対して相違する他の点は、受容部材１０がカバー１１と弾性体１２という別部材から構成されるのではなく、一つの部材で一体的に構成されている点である。本例の受容部材１０は、柔軟性を有する材料、たとえばゲル状の軟質シリコーンゴムその他の熱硬化性樹脂系エラストマーまたは熱可塑性エラストマーで構成することができる。柔軟性の程度としては、たとえば日本工業規格ＪＩＳ Ｋ６２５３にて規定されるタイプＡのデュロメータによる硬度が０〜５０度、好ましくは０〜３０度である。この場合、受容部材１０の表面に被覆層を形成してもよい。

図８（ｃ）に示す器具１は、受容部材１０をバルーン（風船部材）から構成し、さらに支持部材２０をバルーン１０の基端部に一体的に形成し、ここに空気を注入するためのバルブ２６を設けている点が、第１実施形態と相違する。すなわち、バルーン１０はゴムなどの熱硬化性エラストマーから構成され、球形又は患者の膣形状に応じた所定形状に形成されている。なお、バルーン１０の頂部の厚さを相対的に厚く形成し、骨盤臓器の受容剛性を高めるようにしてもよい。

そして、バルーン１０を萎めた状態で当該バルーン１０を膣内に挿入し、バルブ２６に針を差し込んでポンプＰにより空気を注入する。これにより、バルーン１０が膣内で膨らみ、骨盤臓器を受容することができる。本例のように受容部材をバルーン１０により構成すると、ポンプＰによる空気の注入量を患者自身が調節できるので、女性器に個人差があっても汎用性が高い器具を提供することができる。

図８（ａ）〜（ｃ）に示す器具１は、腹側支持部２２および背側支持部２３を図５に示す固定シート３のスリット３１Ｂ，３１Ｃに挿入して固定してもよいが、固定シート３を使用せずに女性器に接触させてもよい。この場合に、腹側支持部２２および背側支持部２３を器具１を取り外す際の摘み（把持部）として利用することができる。

１…器具
１０…受容部材
１１…カバー
１２…弾性体
１３…折り曲げ基端部
１４…腹側基端部
１５…背側基端部
１６…凸状部
２０…支持部材
２１…凸状部
２２…腹側支持部
２３…背側支持部
２４…空気抜き用貫通孔
３…固定シート
３１…第１層
３１Ａ…穴
３１Ｂ，３１Ｃ…スリット
３２…第２層
３３…第３層
３４…第４層
３５…第５層
４…保持ベルト
４１…腰ベルト
４２…調整紐
４３…取付シート
４４，４５…調整器

Claims (6)

1. 患者の女性器に接触させて装着される、骨盤臓器脱を治療又は予防するための器具において、
   少なくとも前記女性器に接触する表面が柔軟性を有する受容部材と、
   前記受容部材を支持する、前記受容部材に比べて相対的に剛性を有する支持部材と、を備え、
   前記受容部材は、前記支持部材に対して揺動又は伸縮可能であり、
   前記受容部材は、熱硬化性エラストマーまたは熱可塑性エラストマーからなる柔軟性を有するカバーと、前記カバーの裏面に接するように設けられた弾性体とを有してなると共に、 前記カバーの基端部が、前記弾性体の底面の周辺部まで当該弾性体を被覆するように、前記支持部材に固定されており、
   前記支持部材に、前記カバーとにより画成される空間の空気抜き用の貫通孔が形成されている器具。
2. 請求項１に記載の器具において、
   前記受容部材の前記カバーの硬度（ＪＩＳ Ｋ６２５３ タイプＡデュロメータ）が１０度〜４０度である器具。
3. 請求項１又は２に記載の器具において、
   前記弾性体は、前記カバーの裏面に沿った凸状部を備えた形状に形成され、
   前記支持部材は、前記弾性体の裏面に接触する凸状部を備えた形状に形成され、
   前記支持部材の凸状部の略頂部に前記空気抜き用の貫通孔が形成されている器具。
4. 請求項１〜３のいずれかに記載の器具において、
   前記空気抜き用の貫通孔として、孔径が異なる複数の貫通孔の中から選択された貫通孔が、前記支持部材に形成されている器具。
5. 請求項１〜４のいずれかに記載の器具において、
   前記弾性体は発泡性樹脂からなる器具。
6. 請求項１〜５のいずれか１に記載の器具において、
   前記支持部材を固定する固定シートをさらに備え、
   前記固定シートは、液体透過が不可逆性を有する布からなる第１層と、前記第１層の裏面に設けられた弾力性を有する第２層と、前記第２層の裏面に設けられた尿もれ又はおりものを吸収する素材からなる第３層と、前記第３層の裏面に設けられた防水素材からなる第４層と、前記第４層の裏面に設けられた滑り止め機能を有する第５層と、を有し、
   前記第１層には、前記受容部材が外部に露出する穴が形成され、
   前記第１層と前記第２層との間には、前記穴と連通して設けられ、前記支持部材の両端部を挿入して前記受容部材の位置を固定するスリットが形成されている器具。

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