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JP5161612B2 - 永久磁石式回転電機、永久磁石式回転電機の組立方法及び永久磁石式回転電機の分解方法 - Google Patents

永久磁石式回転電機、永久磁石式回転電機の組立方法及び永久磁石式回転電機の分解方法 Download PDF

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Description

本発明は、永久磁石式回転電機、永久磁石式回転電機の組立方法及び永久磁石式回転電機の分解方法に関する。
一般に、永久磁石式回転電機は大きく分けて2種類のタイプがある。回転子鉄心の外周に永久磁石を貼り付けた表面磁石型永久磁石式回転電機と、永久磁石を回転子鉄心の中に埋め込んだ埋込型永久磁石式回転電機である。可変速駆動用電動機としては、埋込型永久磁石式回転電機が適している。
図19を用いて、従来の埋込型永久磁石式回転電機の構成を説明する。回転子1の回転子鉄心2の外周部に長方形の空洞を等配で極数の数だけ設けている。図19は4極の回転子1であり、4個の空洞を設けてそれぞれに永久磁石4を挿入している。永久磁石4は回転子1の半径方向、又は、永久磁石4の断面の長方形におけるエアギャップ面に対向する辺(図19では長辺)に直角方向に磁化される。永久磁石4は負荷電流により減磁しないように保磁力の高いNdFeB永久磁石等が主に適用されている。回転子鉄心2は空洞を打抜いた電磁鋼板を積層して形成している。このような回転子1は、固定子20の内部に収容されている。この固定子20は、電機子巻線21を固定子鉄心22の内側に形成されたスロットに収容することで構成されている。そして固定子20の内周面と回転子1の外周面とは、エアギャップ23を介して対向させている。
このような永久磁石式回転電機の公知例としては、「埋込磁石同期電動機の設計と制御」、武田洋次他、オーム社(非特許文献1)、特開平07−336919号公報(特許文献1)が知られている。また、可変速特性に優れて高出力の回転電機としては、永久磁石式リラクタンス型電動機がある。その公知例としては、特開平11−27913号公報(特許文献2)、特開平11−136912号公報(特許文献3)が知られている。さらに、AlNiCo磁石の埋め込み永久磁石電動機でAlNiCo磁石の磁力を変化させる回転電機として、米国特許第6800977号公報(特許文献4)及びWeschta, “Schachung des Erregerfelds bei einer dauermagneterregten Synchronmaschine”, ETZ Archiv Vol.7,No3,79〜84ページ(1985年)(非特許文献2)に記載されたものが知られている。
非特許文献2の回転電機の場合、AlNiCo磁石を用いた永久磁石電動機で、AlNiCo磁石の磁束量を変化させるようにしているが、この構成ではAlNiCo磁石を減磁できるが、磁化させて元の磁化状態に戻すことが困難である。特許文献4に記載された回転電機は、磁束集中型の埋め込み永久磁石電動機であり、永久磁石にはAlNiCo磁石を用いている。この回転電機は、非特許文献2に記載された回転電機の変形例であり、非特許文献2の回転電機と同様に磁界をかけてAlNiCo磁石の磁束量を変化させる。しかし、特許文献4の回転電機の場合、単なるAlNiCo磁石の電動機なので十分な出力が得られない。また、非特許文献2及び特許文献4ではトルク発生時に負荷電流によるAlNiCo磁石の減磁があり、負荷電流による減磁によりトルクが低下する問題がある。そこで、エネルギー積の小さなAlNiCo磁石で十分なトルクを得ようとすると、AlNiCo磁石の磁化方向厚みが厚くなる。永久磁石が厚くなると、そのAlNiCo磁石を磁化するために必要な電流は大幅に増加するので永久磁石の磁化が困難となり、永久磁石の磁束量を変化させることはできなくなる。
永久磁石式回転電機では、永久磁石の鎖交磁束が常に一定で発生しているので、永久磁石による誘導電圧は回転速度に比例して高くなる。そのため、低速から高速まで可変速運転する場合、高速回転では永久磁石による誘導電圧(逆起電圧)が極めて高くなる。永久磁石による誘導電圧がインバータの電子部品に印加されてその耐電圧以上になると、電子部品が絶縁破壊する。そのため、永久磁石の磁束量が耐電圧以下になるように削減された設計を行うことが考えられるが、その場合には永久磁石式回転電機の低速域での出力及び効率が低下する。
低速から高速まで定出力に近い可変速運転を行う場合、永久磁石の鎖交磁束は一定であるので、高速回転域では回転電機の電圧が電源電圧上限に達して出力に必要な電流が流れなくなる。その結果、高速回転域では出力が大幅に低下し、さらには高速回転まで広範囲に可変速運転できなくなる。
最近では、可変速範囲を拡大する方法として、非特許文献1に記載されているような弱め磁束制御が適用され始めている。電機子巻線の総鎖交磁束量はd軸電流による磁束と永久磁石による磁束とから成る。弱め磁束制御では、負のd軸電流による磁束を発生させることによってこの負のd軸電流による磁束で全鎖交磁束量を減少させる。また、弱め磁束制御においても高保磁力の永久磁石は磁気特性(B−H特性)の動作点が可逆の範囲で変化するようにする。このため、永久磁石は弱め磁束制御の減磁界により不可逆的に減磁しないように高保磁力のNdFeB磁石を適用する。
弱め磁束制御を適用した運転では、負のd軸電流による磁束で鎖交磁束が減少するので、鎖交磁束の減少分が電圧上限値に対する電圧の余裕分を作る。そして、トルク成分となる電流を増加できるので高速域での出力が増加する。また、電圧余裕分だけ回転速度を上昇させることができ、可変速運転の範囲が拡大される。
しかし、出力には寄与しない負のd軸電流を常時流し続けるため銅損が増加して効率は悪化する。さらに、負のd軸電流による減磁界は高調波磁束を生じ、高調波磁束等で生じる電圧の増加は弱め磁束制御による電圧低減の限界を作る。これらより、埋込型永久磁石式回転電機に弱め磁束制御を適用しても基底速度の3倍以上の可変速運転は困難である。さらに、前述の高調波磁束により鉄損が増加し、中・高速域で大幅に効率が低下する問題がある。また、高調波磁束による電磁力で振動を発生することもある問題もある。
ハイブリッド自動車用駆動電動機に埋込型永久磁石電動機を適用した場合、エンジンのみで駆動される状態では電動機は連れ回される。中・高速回転では電動機の永久磁石による誘導電圧が上昇するので、電源電圧以内に抑制するため、弱め磁束制御で負のd軸電流を流し続ける。この状態では、電動機は損失のみを発生するので総合運転効率が悪化する。
他方、電車用駆動電動機に埋込型永久磁石電動機を適用した場合、電車は惰行運転する状態があり、上と同様に永久磁石による誘導電圧を電源電圧以下にするために弱め磁束制御で負のd軸電流を流し続ける。その場合、電動機は損失のみを発生するので総合運転効率が悪化する。
このような問題点を解決する技術が、特開2006−280195号公報(特許文献5)に記載されている。この特許文献5には、高出力で低速から高速までの広範囲での可変速運転を可能とし、効率向上、信頼性向上を実現する永久磁石式回転電機に関連し、巻線を設けた固定子と、固定子巻線の電流で作る磁界により不可逆的に磁束密度が変化する程度の低保磁力の永久磁石と低保磁力の2倍以上の保磁力を有する高保磁力の永久磁石を配置した回転子から構成され、電源電圧の最大電圧以上となる高速回転域では低保磁力の永久磁石と高保磁力の永久磁石による全鎖交磁束が減じるように電流による磁界で低保磁力の永久磁石を磁化させて全鎖交磁束量を調整する技術が記載されている。
さらに、永久磁石式電動機として特開平07−336980号公報(特許文献6)に記載されたブラシレスDCモータも知られている。このブラシレスDCモータは、回転子鉄心が小保磁力の第1磁石部と大保磁力の第2磁石部を有し、回転子鉄心の磁極の磁束量の削減を電機子巻線への通電により小保磁力の第1磁石部の磁化方向のみを反転させて行う構成にして、電機子巻線に減磁中ずっと逆界磁電流を流すことなく磁束低減を可能としたものである。
この従来のブラシレスDCモータの場合、第1磁石部、第2磁石部に採用している磁石の種類が不明であり、磁気特性もその図7からは数値が不明であるので特定することができないが、両者の磁気特性グラフの形状から推測すれば小保磁力の第1磁石部はフェライト系永久磁石であり、大保磁力の第2磁石部はNdFeB永久磁石のように見受けられる。しかしながら、このような図7に示す磁気特性の保磁力が大小に異なる2種類の永久磁石を採用した場合でも、フェライト系永久磁石の場合には保磁力が小さいので減磁されてしまいやすく、q軸トルク電流による磁界によっても減磁してしまう、減磁させるために必要な電流が大きい、トルクが十分に出ない等の問題点がある。
他方、保磁力が300kA/mを超えるような永久磁石を減磁させるための永久磁石として採用すると、それを減磁させるために大きな電流を流す必要があって電源が大きくなる、その永久磁石の周りの部材が減磁電流により発生する磁界により飽和してしまい永久磁石を減磁できなくなる問題点がある。また、永久磁石の残留磁束密度についても、フェライト系永久磁石のように残留磁束密度が0.6Tよりも小さい(フェライト磁石で0.45T)と磁束量の変化幅が小さくなり、出力変化幅が小さくなってしまう問題点がある。
特開平07−336919号公報 特開平11−27913号公報 特開平11−136912号公報 米国特許6800977号公報 特開2006−280195号公報 特開平07−336980号公報 「埋込磁石同期電動機の設計と制御」、武田洋次他、オーム社 Weschta,"Schachung des Erregerfelds bei einer dauermagneterregten Synchronmaschine",ETZ Archiv Vol.7,No3,79〜84ページ(1985年)
本発明は、上述した従来技術の課題を解決するためになされたものであり、低速から高速までの広範囲で可変速運転を可能とし、低速回転域の高トルク化と中・高速回転域での高出力化、効率の向上、信頼性向上、製造性向上、材料の削減、希少材料の削減が可能な永久磁石式回転電機を提供することを目的とする。
本発明はさらに、上記永久磁石式回転電機の特性を利用し、容易に組立、分解できる永久磁石式回転電機の組立方法及び分解方法を提供することを目的とする。
本発明の特徴は、円筒状の回転子鉄心の中に保磁力と磁化方向厚の積が他の永久磁石よりも小さい複数個の第1の永久磁石をその磁化方向が径方向に対してほぼ直交する姿勢若しくは径方向にほぼ一致する姿勢で、かつ、回転方向に沿い等角度間隔で埋め込み、前記回転子鉄心の中に保磁力と磁化方向厚の積が前記第1の永久磁石よりも大きい複数個の第2の永久磁石をその磁化方向が径方向にほぼ一致する姿勢で、隣り合う前記第1の永久磁石同士の間それぞれの位置に、かつ、回転方向に沿い等角度間隔で埋め込み、隣り合う前記第1の永久磁石とその間の前記第2の永久磁石とで当該第2の永久磁石の数だけの複数の磁極を形成する回転子と、前記回転子をその周囲に磁気空隙を介して囲繞するように配置された固定子と、前記固定子の前記磁気空隙に面する内周部に形成された電機子巻線とを有する永久磁石式回転電機であって、前記回転子鉄心における隣り合う前記磁極同士を磁気的に連結する磁極間ヨーク部分のすべてに前記電機子巻線に流される所定の磁化電流が作る磁界の磁束にて磁気飽和する磁路狭部分を形成すると共に、前記回転子鉄心の内周側に嵌め込まれるシャフトを非磁性材で形成し、前記複数の磁極それぞれにおいて前記電機子巻線に流される前記所定の磁化電流が作る磁界により前記複数個の第1の永久磁石それぞれを磁化させて前記第1の永久磁石それぞれの磁束量を不可逆的に変化させることができるようにした永久磁石式回転電機である。
本発明によれば、低速から高速までの広範囲で可変速運転が可能であり、そのうえ、低速回転域の高トルク化と中・高速回転域での高出力化、効率の向上、信頼性の向上、製造性の向上、材料の削減、希少材料の削減が図れる永久磁石式回転電機を提供することができる。
また、本発明の永久磁石式回転電機の組立方法及び分解方法によれば、上記の永久磁石式回転電機において、回転子を固定子の内側に挿入して組み立てる時あるいは回転子を固定子から抜き取る時に、第1の永久磁石による磁束と第2の永久磁石による磁束が磁極又は磁気空隙面で互いに逆方向となるように着磁した状態にして組立あるいは分解することで、固定子側に回転子が磁気吸引力にて吸着される力が小さい状態で組立あるいは或いは分解することができ、組立作業、分解作業が磁気吸着力に抗する大きな治具を用いずとも容易に行える。
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳説する。尚、以下の各実施の形態では、4極の永久磁石式回転電機を例示しているが、他の極数でも同様に適用できる。
(第1の実施の形態)
[永久磁石式回転電機]図1は本発明の第1の実施の形態の永久磁石式回転電機の構造を示し、固定子20の内部に回転子1をエアギャップ23を介して対向するように収容した構造である。尚、固定子20は、従来例と同様であり図20と同様のものである。
図1に示すように、本実施の形態の永久磁石式回転電機における回転子1は、回転子鉄心2、保磁力と磁化方向厚みの積が小となる第1の永久磁石3、保磁力と磁化方向厚の積が大となる第2の永久磁石4から構成される。回転子鉄心2は珪素鋼板を積層して構成し、保磁力と磁化方向厚みの積が小となる第1の永久磁石3はAlNiCo磁石とし、回転子鉄心2の径方向断面に4個埋め込まれている。この第1の永久磁石3にはFeCrCo磁石を適用してもよい。保磁力と磁化方向厚の積が大となる第2の永久磁石4は、NdFeB磁石とし、回転子鉄心2の径方向断面に4個埋め込まれている。
AlNiCo磁石で成る第1の永久磁石3は回転子1のほぼ径方向に沿って配置され、その断面は径方向の外側が広く径方向の内側が狭い台形状である。また、第1の永久磁石3の磁化方向はほぼ周方向(回転方向)であり、磁化方向の平均厚みは(仕様によるが)本実施の形態では6mmである。NdFeB磁石で成る第2の永久磁石4はほぼ周方向(回転方向)に配置され、その断面は長方形状である。また、第2の永久磁石4の磁化方向はほぼ径方向であり、磁化方向の厚みは本実施の形態では2mmである。
回転鉄心2の内周側には回転軸9が嵌め込まれている。この回転子2の内周側の形状は次の通りである。回転子鉄心2における隣り合う磁極鉄心部7同士を磁気的に連結する磁極間の内周側のヨーク部分を他の部分よりも径方向で薄肉にすることで電機子巻線21に流される所定の磁化電流が作る磁界の磁束にて磁気飽和する磁路狭部分11を形成している。これにより、複数の磁極鉄心部7それぞれにおいて電機子巻線21に流される磁化電流が作る磁界により複数個の第1の永久磁石3それぞれを磁化させて第1の永久磁石3それぞれの磁束量を不可逆的に変化させることができ、しかも、磁化電流が作る磁束が磁路狭部分11により飽和してこの飽和磁束密度よりも大きな磁束が第2の永久磁石4を通過することがなく、第1の永久磁石3に対して磁化電流が作る磁束を選択的に通らせて効果的に減磁し、さらには磁化方向を反転させることができるが、第2の永久磁石4にはその飽和磁束密度よりも大きな磁束を流れなくして減磁を受けにくくしている。
この回転子鉄心2の磁極間ヨーク部分における磁路狭部分11は、電機子巻線21に流される磁化電流が0の状態では磁気飽和近傍の磁束密度となり、電機子巻線21に磁化電流が通電される時には磁気飽和する寸法サイズである。またシャフト9はステンレススティールのような非磁性材である。
図2に本実施の形態に適用する第1の永久磁石3用のアルニコ磁石(AlNiCo磁石)、FeCrCo磁石、第2の永久磁石4用のNdFeB磁石の磁気特性を示す。AlNiCo磁石の保磁力(磁束密度が0になる磁界)は60〜120kA/mであり、NdFeB磁石の950kA/mの1/15〜1/8になる。また、FeCrCo磁石の保磁力は約60kA/mであり、NdFeB磁石の950kA/mの1/15になる。AlNiCo磁石とFeCrCo磁石は、NdFeB磁石と比較してかなり低保磁力である。
また、外部磁界をかけることで磁束密度が可逆的に変化する可逆磁化域から外部磁界をかけることで磁束密度が不可逆的に変化する不可逆磁化域に移行する折れ点、つまりクニック点は、第1の永久磁石3用のAlNiCo磁石(AlNiCo)で0.6T以上の位置にあり、FeCrCo磁石では0.8T以上の位置にある。そして第2の永久磁石4用のNdFeB磁石の場合、第2象限、第4象限にはクニック点は見られず、外部磁界をかけることで磁束密度が全域で可逆的に変化する。
本実施の形態の回転電機における永久磁石の磁化について述べる。d軸磁気回路上では、NdFeB永久磁石4に関しては、d軸電流による磁束が2個のNdFeB永久磁石4(隣り合う互いに異極の2個のNdFeB永久磁石4)を通るので、d軸電流による磁界は1極当たり1個のNdFeB永久磁石4に作用する。一方、AlNiCo永久磁石3に関しては、d軸電流による磁束は磁極間にある1個のAlNiCo永久磁石3を通るので、d軸電流による磁界は1極当たりNdFeB永久磁石4の1/2個分に作用する。すなわち1極分の磁気回路上で特性を評価するにはAlNiCo永久磁石3の磁石の厚みを1/2として評価すればよい。
本実施の形態では、保磁力と磁化方向厚みの積が小となる第1の永久磁石3には、保磁力が120kA/mのAlNiCo磁石を適用している。本実施の形態では、1極当りのAlNiCo磁石の保磁力と磁化方向厚みの積は120kA/m×(6×10−3/2)m=360Aとなる。保磁力と磁化方向厚の積が大となる第2の永久磁石4には、保磁力が1000kA/mのNdFeB磁石を適用している。本実施の形態では、1極当りのNdFeB磁石の保磁力と磁化方向厚みの積は1000kA/m×(2×10−3)m=2000Aとなる。本実施の形態においては、NdFeB永久磁石4の保磁力と磁化方向厚みの積は、AlNiCo永久磁石3の5.6倍も大となるようにしてある。
図1に示すように、低保磁力のAlNiCo永久磁石3は回転子鉄心2の中に埋め込まれ、AlNiCo永久磁石3の両端部には空洞5が設けられる。AlNiCo永久磁石3は磁極間の中心軸になるq軸と一致する回転子1の半径方向に沿って配置される。また、AlNiCo永久磁石3の磁化容易方向はほぼ周方向であり、半径に対して直角方向(図1ではAlNiCo永久磁石3の台形断面を2等分し回転中心を通る線に直角)方向とする。
高保磁力のNdFeB永久磁石4も回転子鉄心2内に埋め込まれ、NdFeB永久磁石4の両端部には空洞5が設けられている。NdFeB永久磁石4は、2個のAlNiCo永久磁石3により回転子1の内周側で挟まれるように回転子1のほぼ周方向に配置されている。NdFeB永久磁石4の磁化容易方向は回転子1の周方向に対してほぼ直角(図1ではNdFeB永久磁石4の長方形断面の長辺に対して直角)方向である。
そして、回転子鉄心2の磁極鉄心部7は、2個のAlNiCo永久磁石3と1個のNdFeB永久磁石4とで取り囲まれるようにして形成されている。図1と図3〜図6に示すように、回転子鉄心2の磁極鉄心部7の中心軸方向がd軸、磁極間の中心軸方向がq軸となる。したがって、AlNiCo永久磁石3は磁極間の中心軸となるq軸方向に配置され、AlNiCo永久磁石3の磁化方向はq軸に対して90°又は−90°方向となる。隣り合うAlNiCo永久磁石3において、互いに向かい合う磁極面は同極にしてある。
NdFeB永久磁石4は磁極鉄心部7の中心軸となるd軸に対して直角方向に配置され、その磁化方向はd軸に対して0°又は180°の方向となる。隣り合うNdFeB永久磁石4において、互いに磁極の向きは逆極性にしてある。
[永久磁石電動機ドライブシステム]
図7は、本発明の第1の実施の形態の永久磁石式回転電機を電動機として回転駆動するための永久磁石電動機ドライブシステム100の制御ブロック図である。同図を説明する前に、永久磁石同期電動機(PM電動機)としての可変磁束電動機について説明する。可変磁束電動機101のイメージを図8に示す。ステータ側は従来の電動機と同様である。ロータ151側には永久磁石として、磁性体の磁束密度が固定の固定磁石FMGと、磁性体の磁束密度が可変の可変磁石VMGとがある。従来のPM電動機は、前者の固定磁石FMGのみであるのに対して、本可変磁束電動機1の特徴は、可変磁石VMGが備わっていることにある。
ここで固定磁石や可変磁石について説明を加える。永久磁石とは、外部から電流などを流さない状態において磁化した状態を維持するものであって、いかなる条件においてもその磁束密度が厳密に変化しないというわけではない。従来のPM電動機であっても、インバータなどにより過大な電流を流すことで減磁したり、あるいは逆に着磁したりする。よって、永久磁石とは、その磁束量が一定不変なものではなく、通常の定格運転中に近い状態ではインバータ等から供給される電流によって磁束密度が概ね変化しないもののことを指す。一方、前述の磁束密度が可変である永久磁石、つまり、可変磁石とは、上記のような運転条件においてもインバータ等で流し得る電流によって磁束密度が変化するものを指す。
このような可変磁石VMGは、磁性体の材質や構造に依存してある程度の範囲で設計が可能である。例えば、最近のPM電動機は、残留磁束密度Brの高いNdFeB磁石(ネオジム磁石)を用いることが多い。この磁石の場合、残留磁束密度Brが1.2T程度と高いため、大きなトルクを小さい装置サイズにて出力可能であり、電動機の高出力小型化が求められるハイブリッド車(HEV)や電車には好適である。従来のPM電動機の場合、通常の電流によって減磁しないことが要件であるが、このNdFeB磁石(ネオジム磁石)は約1000kA/mの非常に高い保磁力Hcを有しているので、PM電動機用に最適な磁性体である。PM電動機用には、残留磁束密度が大きく保磁力の大きい磁石が選定されるためである。
ここで、残留磁束密度が高く、保磁力Hcの小さいアルニコAlNiCo磁石(Hc=60〜120kA/m)やFeCrCo磁石(Hc=約60kA/m)といった磁性体を可変磁石とする。通常の電流量(インバータによって従来のPM電動機を駆動する際に流す程度の電流量という意味)によって、NdFeB磁石の磁束密度(磁束量)はほぼ一定であり、AlNiCo磁石などの可変磁石VMGの磁束密度(磁束量)は可変となる。厳密に言えば、固定磁石FMGとしているNdFeB磁石も可逆領域で利用しているため、微小な範囲で磁束密度が変動するが、インバータ電流がなくなれば当初の値に戻る。他方、可変磁石VMGは不可逆領域まで利用するため、インバータ電流がなくなっても当初の値にならない。図8において、可変磁石VMGであるAlNiCo磁石の磁束量も、d軸方向の量が変動するだけで、q軸方向はほぼ0である。
図9は、固定磁石FMGと可変磁石VMGのBH特性(磁束密度−磁化特性)を例示している。また、図10は、図9の第2象限のみを定量的に正しい関係にて示したものである。NdFeB磁石とAlNiCo磁石の場合、それらの残留磁束密度Br1,Br2には有意差はないが、保磁力Hc1,Hc2については、NdFeB磁石のHc2に対し、AlNiCo磁石のHc1は1/15〜1/8、FeCrCo磁石のHc1は1/15になる。
従来の永久磁石電動機ドライブシステムにおいて、インバータの出力電流による磁化領域は、NdFeB磁石の保磁力より十分に小さく、その磁化特性の可逆範囲で利用されている。しかしながら、可変磁石は、保磁力が上述のように小さいため、インバータの出力電流の範囲において、不可逆領域(電流を0にしても、電流印加前の磁束密度Bに戻らない)での利用が可能で、磁束密度(磁束量)を可変にすることができる。
可変磁束電動機1の動特性の等価簡易モデルを、(1)式に示す。同モデルは、d軸を磁石磁束方向、q軸をd軸に直行する方向として与えたdq軸回転座標系上のモデルである。
Figure 0005161612
ここに、R1は巻線抵抗、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、Φfixは固定磁石の磁束量、Φvarは可変磁石の磁束量、ω1はインバータ周波数である。
図7は、第1の実施の形態の永久磁石電動機ドライブシステム100の主回路100A及び制御回路100Bを示している。主回路100Aは、直流電源103、直流電力を交流電力に変換するインバータ104、このインバータ104の交流電力にて駆動される可変磁束永久磁石電動機101にて構成されている。そして、主回路100Aには、電動機電力を検出するための交流電流検出器102、電動機速度を検出するための速度検出器118が設置されている。
次に、制御回路100Bについて説明する。ここでの入力は、運転指令Run*とトルク指令Tm*である。運転指令生成部116は、運転指令Run*と保護判定部117で判断された保護信号PROTとを入力とし、運転状態フラグRunを生成出力する。基本的には、運転指令が入った場合(Run*=1)に、運転状態フラグRunを運転状態(Run=1)にし、運転指令が停止を指示した場合(Run*=0)には、運転状態フラグRunを停止状態(Run=0)にする。さらに、保護検知の場合(PROT=1)には、運転指令Run*=1であっても、運転状態は停止状態Run=0にする。
ゲート指令生成部115は、運転状態フラグRunを入力し、インバータ104に内在するスイッチング素子へのゲート指令Gstを生成出力する。このゲート指令生成部115では、運転状態フラグRunが停止(Run=0)から運転(Run=1)に変わる場合、即時にゲートスタート(Gst=1)とし、運転状態フラグRunが運転(Run=1)から停止(Run=0)に変わる場合、所定時間が経過した後に、ゲートオフ(Gst=0)にするように作用する。
磁束指令演算部112は、運転状態フラグRunとインバータ周波数ω1、すなわち、ロータ回転周波数ωRを入力として、磁束指令Φ*を、例えば次の(2)式のように生成して出力する。すなわち、運転停止(Run=0)の場合には、磁束指令Φ*を最小Φminにして、運転状態(Run=1)であって、かつ、回転周波数ωRが所定値より低い場合には、磁束指令Φ*を最大Φmaxとし、また、速度が所定値より高い場合、磁束指令Φ*を最小Φminとする。
Figure 0005161612
ここに、Φminは可変磁束電動機101として取り得る最小磁束量(>0)、Φmaxは可変磁束電動機101として取り得る最大磁束量、ωAは所定の回転周波数である。尚、磁束量のΦmin,Φmaxの設定については、後で可変磁束制御部113のところで説明する。
電流基準演算部111では、トルク指令Tm*と磁束指令Φ*とを入力として、d軸電流基準IdRとq軸電流基準IqRを次式(3),(4)のように演算する。
Figure 0005161612
同(3),(4)式は、電動機のリラクタンストルクを用いないことを想定し、電動機極数も0とした演算式である。d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqの差異ΔLがある突極形電動機であっても、差異のない非突極形の電動機であってもよい。
しかしながら、効率の最適化や所定電流での最大出力を考える場合、リラクタンストルクを考慮することが有効である。この場合、例えば、次式のように演算する。
Figure 0005161612
ここに、Kはd軸電流とq軸電流との比率であり、前述の効率最適化や最大出力等、用途によって変わる値である。最適化を図るためには関数形をとり、その引数としてトルク、速度等を用いる。また、簡易な近似やテーブル化して用いることもできる。また、(5)式の磁束指令Φ*は、後述する磁束推定値Φhを用いても、動作は可能である。
磁化要求生成部129の詳細な構成を図10に示す。この図10のブロックは、制御マイコンによって所定時間ごとに制御がなされる。磁束指令Φ*は、前回値の保持部131に入力され、その値が保持される。前回値の保持部131の出力は、前回に記憶した磁束指令Φ*であり、今回の磁束指令値Φ*と共に、変化判定部130に入力される。変化判定部130では、入力2つの変化があった場合には1を、変化がない場合には0を出力する。すなわち、磁束指令Φ*が変化した場合にのみ1が立つ。上記同様な回路を、磁束指令Φ*に代わり、運転状態フラグRunについても有し、前回値の保持部133に入力され、その値が保持される。前回値の保持部133の出力は、前回に記憶した運転状態フラグRunであり、今回の運転状態フラグRunと共に変化判定部134に入力される。2つの変化判定部130,134の出力が論理和演算部(OR)132に入力され、それらの論理和が磁化要求フラグFCreqとして出力される。
磁化要求生成部129の出力である磁化要求フラグFCreqは、磁束指令Φ*が変化した場合、あるいは、運転状態フラグRunが変化した場合に磁化要求(FCreq=1)となり、それ以外では要求なし(FCreq=0)となる。尚、運転状態フラグRunが変化する状態とは、インバータが始動するとき、停止するとき、保護で停止するときなどである。また、ここでは磁束指令Φ*を用いているが、後述する可変磁束制御部113の磁化電流指令Im*(磁化電流テーブル127の出力)の変化で磁化要求FCreqを生成してもよい。
可変磁束制御部113の詳細な構成を図11に示す。可変磁束制御部113は、磁束指令演算部112の出力である磁束指令Φ*を入力し、d軸電流基準IdRを補正するd軸磁化電流差分量ΔIdm*を出力する。この磁化電流差分量ΔIdm*の生成は、以下の演算処理による。
可変磁石VMGを磁化するためには、図9の可変磁石のBH特性に則り、所定の磁化電流指令Im*を求めればよい。特に、磁化電流指令Im*の大きさは、図9中のH1sat以上、すなわち、可変磁石の磁化飽和領域となるように設定する。
磁化飽和領域まで磁化電流を流すため、磁束指令演算部112で設定すべき磁束量ΦminやΦmaxは、可変磁石の磁束(磁束密度)がプラスないしはマイナスの最大(飽和)値に固定磁石分を加算した値として設定する。可変磁石VMGの磁束量の正の最大値をΦvarmax(負の最大値の絶対値は正の最大値と等しいとする)、固定磁石FMGの磁束量をΦfixとすれば、次式である。
Figure 0005161612
磁束指令Φ*を入力とし、対応する磁化電流を記憶した磁化電流テーブル127によって、磁束指令Φ*を得るための磁化電流指令Im*を出力する。
基本的に、磁石の磁化方向をd軸としているので、磁化電流指令Im*は、d軸電流指令Id*に与えるようにする。本実施の形態では、電流基準演算部111からの出力であるd軸電流基準IdRをd軸磁化電流指令差分ΔIdm*で補正し、d軸電流指令Id*とする構成にしているので、減算器126によってd軸磁化電流指令ΔIdm*を次式によって求める。
Figure 0005161612
尚、磁束切り替えの際には、d軸電流指令Id*に磁化電流Im*を直接与えるような構成とすることも可能である。
一方、磁化要求フラグFCreqは、磁束を切り替えたい要求の際に、少なくとも一瞬切り替え要求(FCreq=1)が立つ。磁束を確実に可変とするために、磁化要求フラグFCreqを最小オンパルス器128へと入力する。この出力である磁化完了フラグ(=1:磁化中、=0:磁化完了)は、一旦オン(=1)が入力された場合、所定の時間の間はオフ(=0)にならない機能を有する。所定時間を越えて入力がオン(=1)である場合には、それがオフとなると同時に出力もオフとなる。
切り替え器123には、磁化完了フラグが入力され、磁化中(磁化完了フラグ=1)の場合には減算器126の出力を、磁化完了(磁化完了フラグ=0)の場合には0を出力する。
電圧指令演算部110は、以上により生成されたdq軸電流指令Id*,Iq*に基づき、当該指令に一致する電流が流れるように電流制御器を含むdq軸電圧指令Vd*,Vq*を生成する。
そして電圧指令演算部110のdq軸電圧指令Vd*,Vq*を、座標変換部105にて3相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に変換し、この3相電圧指令によってPWM回路106がPWMにてゲート信号を生成し、インバータ104をPWM制御する。尚、座標変換部107は電流検出器102の交流検出電流Iu,Iwを2軸dq軸変換してdq軸電流検出値Id,Iqに変換して電圧指令演算部110に入力する。また、擬似微分器108は速度検出器118の信号からインバータ周波数ω1を求める。尚、電圧指令演算部110、座標変換部105,107、PWM回路106には、従来同様の公知技術が採用されている。
図12には、各信号の動作のタイミングチャートの一例が示してある。ここでは保護信号は立っていない状況(PROT=0)だが、運転状態フラグRunの変化及び磁束指令Φ*の変化にて磁化要求フラグが立ち、それを所定時間幅確保する磁化完了フラグが立ち、この磁化完了フラグの期間だけ、磁化電流指令Im*が値を持つ。
次に、このように構成された本実施の形態の永久磁石式回転電機、そしてそのドライブシステムの作用を説明する。1極当りの磁化に要する起磁力は磁化に要する磁界と1極当りの永久磁石の厚みの積で概算する。AlNiCo磁石の第1の永久磁石3は250kA/mの磁界で100%近くまで着磁できる。着磁磁界と1極当りの磁石の厚みの積は、250kA/m×(6×10−3/2)m=750Aとなる。
一方、NdFeB磁石の第2の永久磁石4は1500〜2500kA/mの磁界で100%近くまで着磁できる。着磁磁界と1極当りの磁石の厚みの積は、1500〜2500kA/m×(2×10−3)m=3000〜5000Aとなる。つまり、AlNiCo永久磁石3はNdFeB永久磁石4の約1/4〜1/6の磁界で着磁できる。また、AlNiCo永久磁石3を着磁する程度の磁界であれば、NdFeB永久磁石4は可逆減磁状態であり、着磁後でもNdFeB永久磁石4は着磁前の状態の磁束を維持できる。
本実施の形態では、固定子20の電機子巻線21に通電時間が極短時間(0.1ms〜10ms程度)となるパルス的な電流を流して磁界を形成し、AlNiCo永久磁石3に磁界を作用させる。但し、回転電機の巻線インダクタンスの大きさや電流波形により通電時間は変わる。永久磁石を磁化するための磁界を形成するパルス電流は固定子20の電機子巻線21のd軸電流成分とする。着磁磁界を250kA/mとすると、理想的にはAlNiCo永久磁石3には十分な着磁磁界が作用し、NdFeB永久磁石4には着磁による不可逆減磁はない。
図3はAlNiCo永久磁石3とNdFeB永久磁石4の磁束が磁極及びエアギャップ面で加え合せになるように着磁磁界を作用させたときの各永久磁石の磁束を示している。図3ではAlNiCo磁石の第1の永久磁石3とNdFeB磁石の第2の永久磁石4とによる鎖交磁束は増加して増磁状態となる。着磁磁界は固定子20の電機子巻線21に極短時間のパルス的な電流を流して形成する。このとき通電する電流はd軸電流成分である。パルス電流はすぐに0になり、着磁磁界はなくなるが、AlNiCo磁石の第1の永久磁石3は不可逆的に変化して着磁方向に磁束B3を発生する。B4はNdFeB磁石の第2の永久磁石4による磁束である。尚、図3、図4、図5での磁束分布は1極のみを示している。
図4では鎖交磁束を減少させるときの作用を示す。電機子巻線21に負のd軸電流を通電して形成する磁界Bdは図3と逆方向の磁束を発生する。電機子巻線21の負のd軸電流により作られる磁界Bdは、回転子1の磁極中心からAlNiCo永久磁石3とNdFeB永久磁石4とに対して磁化方向とほぼ逆方向に作用している。各永久磁石3,4には図3の磁化方向とは逆方向の磁界B3i,B4iが作用する。AlNiCo永久磁石3は保磁力と磁化方向厚の積を小さくしているため、この逆磁界によりAlNiCo永久磁石3の磁束は不可逆的に減少する。一方、NdFeB永久磁石4は保磁力と磁化方向厚の積が大きいため逆磁界を受けても磁気特性は可逆範囲であり、負のd軸電流による着磁磁界Bdが消えた後の磁化状態には変化がなく磁束量も変わらない。したがって、AlNiCo永久磁石3のみが減磁することになり、鎖交磁束量を減少できる。
本実施の形態ではさらに大きな電流を通電させて強い逆磁界によりAlNiCo永久磁石3の極性を反転させる。AlNiCo永久磁石3の極性を反転させることにより、鎖交磁束を大幅に減少でき、特に鎖交磁束を0にできる特徴がある。
一般にAlNiCo磁石の着磁磁界と1極当りの永久磁石の厚みとの積はNdFeB磁石の約1/4〜1/6なので、AlNiCo永久磁石3のみ磁化できる磁界を作用させる。負のd軸電流による磁化(着磁)された後の状態を図5に示す。NdFeB永久磁石4の磁束B4と逆方向に発生するAlNiCo永久磁石3の磁束B3は相殺されて、各永久磁石3,4の磁束量B3,B4が同じ場合ではエアギャップ23の磁束をほぼ0にできる。このとき、NdFeB永久磁石4の磁束B4は相殺されるとともにAlNiCo永久磁石3との磁気回路を構成できるので多くの磁束は回転子1内に分布する。このような作用により、エアギャップ磁束密度の磁束分布は一様に0に分布させることができる。
前述の鎖交磁束が0の状態から鎖交磁束を増加する場合は、鎖交磁束0では逆の極性となっているAlNiCo永久磁石3において、d軸電流による磁界によりAlNiCo永久磁石3の磁束B3を減少させる。このときAlNiCo永久磁石3は逆極性になっているので、AlNiCo永久磁石3に作用させる磁界は図3に示すAlNiCo永久磁石3の元の磁化方向と同方向となる。すなわち、図4に示すd軸電流による磁界Bdとは逆方向になる。さらに鎖交磁束を増加させて元の最大鎖交磁束の状態に戻すときには、AlNiCo永久磁石3は再度極性を反転して(元の極性に戻って)図3の状態に戻る。したがって、本実施の形態の永久磁石式回転電機の場合、AlNiCo永久磁石3は磁気特性上(磁束密度と磁界に関する特性であるB−H曲線)を第1象限から第4象限までの全範囲で動作させることができることになる。
これに対して、従来の永久磁石式回転電機における永久磁石は第2象限のみで動作させている。また、従来の永久磁石式回転電機は、鎖交磁束を低下させるために電機子巻線21の負のd軸電流による磁束を発生させて回転子1の永久磁石4の磁束を相殺させている。しかし、埋め込み磁石電動機では基本波鎖交磁束は50%程度までしか低減できなく、また高調波磁束はかなり増加し、高調波電圧と高調波鉄損が生じて問題となる。したがって、鎖交磁束を0にすることは極めて困難であり、仮に基本波を0にできても高調波磁束は逆にかなり大きな値になる。これに対して、本実施の形態の永久磁石式回転電機では、回転子1において永久磁石3,4のみの磁束で一様に減少できるので高調波磁束は少なく、損失の増加はない。
永久磁石の磁化に関しては、本実施の形態の回転電機においては、d軸電流による磁界はNdFeB永久磁石4には永久磁石2個分(N極とS極の2個の永久磁石)に作用することになり、この点だけでもNdFeB永久磁石4に作用する磁界はAlNiCo永久磁石3に作用する磁界の約半分になる。したがって、本実施の形態の回転電機においては、保磁力と磁化方向厚みの積が小となる第1の永久磁石3は、d軸電流による磁界により磁化され易くなる。
NdFeB永久磁石4は、着磁磁界と磁石の厚みの積がAlNiCo永久磁石3の4倍であり、さらに配置構成の点では、NdFeB永久磁石4に作用するd軸電流による磁界はAlNiCo永久磁石3の1/2になる。したがって、NdFeB永久磁石4を着磁するにはAlNiCo永久磁石3の8倍の起磁力を必要とする。つまり、AlNiCo永久磁石3を着磁する程度の磁界であれば、NdFeB永久磁石4は可逆減磁状態であり、着磁後でもNdFeB永久磁石4は着磁前の状態の磁束を維持できる。
次に、第1の永久磁石であるAlNiCo永久磁石3と第2の永久磁石であるNdFeB永久磁石4の相互的な磁気の影響について述べる。図5の減磁状態ではNdFeB永久磁石4の磁界はAlNiCo永久磁石3にバイアス的な磁界として作用し、負のd軸電流による磁界とNdFeB永久磁石4による磁界がAlNiCo永久磁石3に作用して磁化し易くなる。また、AlNiCo永久磁石3の保磁力と磁化方向厚の積がNdFeB永久磁石4の無負荷時の動作点における磁界の強さと磁化方向厚の積に等しいか、それ以上にすることにより鎖交磁束の増磁状態においてNdFeB永久磁石4の磁界に打ち勝ち、磁束量を発生する
以上より、本実施の形態の回転電機では、d軸電流によりAlNiCo永久磁石3の鎖交磁束量を最大から0まで大きく変化させることができ、また磁化方向も正逆方向の両方向にできる。NdFeB永久磁石4の鎖交磁束B4を正方向とすると、AlNiCo永久磁石3の鎖交磁束B3を正方向の最大値から0、さらには逆方向の最大値まで広範囲に調整することができる。
したがって、本実施の形態の永久磁石式回転電機では、AlNiCo永久磁石3をd軸電流で磁化させることによりAlNiCo永久磁石3とNdFeB永久磁石4とを合わせた全鎖交磁束量を広範囲に調整することができる。低速域では、AlNiCo永久磁石3はNdFeB永久磁石4の鎖交磁束と同方向(前述の図3で示した増磁状態)で最大値になるようにd軸電流で磁化する。このとき、永久磁石によるトルクは最大になるので、回転電機のトルク及び出力は最大にすることができる。また、中・高速域では、図4のd軸電流による磁界BdでAlNiCo永久磁石3の磁束量を不可逆的に低下させ、全鎖交磁束量を下げる。これにより回転電機の電圧は下がるので、電源電圧の上限値に対して余裕ができ、回転速度(周波数)をさらに高くすることが可能となる。最高速度を著しく高くするとき(可変速範囲をさらに拡大、例えば基底速度の3倍以上の可変速運転の範囲)はAlNiCo永久磁石3はNdFeB永久磁石4の鎖交磁束と逆方向になるように磁化させる(AlNiCo永久磁石3の磁束B3の向きは図5の状態で磁化は最大とする)。永久磁石3,4の全鎖交磁束は、NdFeB永久磁石4とAlNiCo永久磁石3との鎖交磁束の差となり、最も小さくできる。回転電機の電圧も最小となるので回転速度(周波数)を最高値まで上げることができる。
これらにより、本実施の形態の永久磁石式回転電機及びそれを回転駆動する永久磁石電動機ドライブシステムによれば、高出力で低速回転から高速回転まで広範囲の可変速運転が実現できる。また、本実施の形態の永久磁石式回転電機によれば、鎖交磁束を変化させるときの着磁電流を極短時間だけ流すので損失を著しく低減でき、広い運転範囲で高効率となる。
また、永久磁石を磁化させるための電機子巻線21の電流による磁界は、第1の永久磁石3と第2の永久磁石4に作用し、図14の矢印B13,B14のように電流による磁束が流れる。磁極間ヨーク部分に容易に磁気飽和する磁路狭部分11を形成しているので、磁化電流が作る磁束は非磁性体のシャフト9を通らずに第2の永久磁石4,4間の内周側の磁極間ヨーク部分の磁路狭部11を通ろうとする。しかし、この磁路狭部11は容易に磁気飽和するため、電機子電流による磁界で生じる第2の永久磁石4を通る磁束を少なくすることができる。このように磁化させたい第1の永久磁石3の電流による磁束は大きく、同時に磁化減磁を避けたい第2の永久磁石4を通る磁束を小さくすることにより、回転子磁極鉄心部7及び固定子鉄心22の磁気飽和も緩和される。したがって、第1の永久磁石3を磁化させるためのd軸電流を少なくすることができる。
次に、本実施の形態の永久磁石式回転電機及び永久磁石電動機ドライブシステムにおいて、トルク発生時の負荷電流(q軸電流)による永久磁石3,4の減磁について述べる。本実施の形態の永久磁石式回転電機がトルクを発生するときは、固定子20の電機子巻線21にq軸電流を流すことにより、q軸電流と永久磁石3,4の磁束との磁気作用でトルクを発生させる。このときq軸電流による磁界が発生する。そこで、本実施の形態の永久磁石式回転電機では、AlNiCo永久磁石3は、その磁化方向がq軸方向と直角方向となるようにq軸近傍に配置する。これよりAlNiCo永久磁石3の磁化方向とq軸電流による磁界とが理想的にはほぼ直交する方向になり、q軸電流による磁界の影響を大きく受けることがなくなる。
しかし、最大トルク状態や小型・高出力化のため電機子巻線のアンペアターンを大きくした回転電機では、負荷電流であるq軸電流で生じる磁界はかなり大きくなる。保磁力と厚みの積が小さい第1の永久磁石を回転子に設けた場合、この過大なq軸電流による磁界はq軸にある永久磁石を不可逆減磁させる。すなわち、q軸電流でトルク発生時に永久磁石が減磁してトルクが低下する。
そこで、本実施の形態の永久磁石式回転電機では、大きなトルクを発生するときは、正のd軸電流をq軸電流に重畳させて流す。図6にトルク発生時に正のd軸電流を重畳させたときの磁界の作用を模式的に示す。図6において、B3iは正のd軸電流による磁界を示し、B5iは負荷電流(q軸電流)により磁界を示し、B6は保磁力と磁化方向厚みの積が小さい第1の永久磁石3の磁化方向を示している。トルクが大きな範囲では各磁極にある2種類の永久磁石3,4は加え合せの方向とするので、この状態では正のd軸電流は永久磁石3の磁化方向と同方向になる。したがって、図6に示すように永久磁石3内でもq軸電流による減磁界を相殺するように正のd軸電流が作る磁界B3iが作用する。このため、本実施の形態を適用すれば、保磁力と厚みの積が小さい第1の永久磁石3を用いても、大きなトルクを発生する状態においても前述の永久磁石3の不可逆減磁を抑制でき、負荷電流の磁界B5iによるトルクの低下を抑制でき、大トルクを発生することが可能となる。
次に、永久磁石3,4の両端部に形成した空洞5の作用について述べる。この空洞5は、永久磁石3,4による遠心力が回転子鉄心2に作用した時の回転子鉄心2への応力集中と減磁界を緩和する。図1に示したような空洞5を設けることにより、回転子鉄心2は曲率のついた形状にでき、応力が緩和される。また、電流による磁界が永久磁石3,4の角部に集中して減磁界が作用し、角部が不可逆減磁する場合がある。ところが本実施の形態では、永久磁石3,4の各端部に空洞5を設けているため、永久磁石端部での電流による減磁界が緩和される。
これにより、本実施の形態の永久磁石式回転電機及び永久磁石電動機ドライブシステムによれば、次の効果が得られる。NdFeB永久磁石4の鎖交磁束を正方向とすると、AlNiCo永久磁石3の鎖交磁束を正方向の最大値から0まで変化させ、さらには極性を反転して逆方向の最大値まで広範囲に調整することができる。このようにAlNiCo永久磁石3は磁気特性上で第1象限から第4象限までの全範囲で動作させることになる。これらより、本実施の形態では、AlNiCo永久磁石3をd軸電流で磁化させることによりAlNiCo永久磁石3とNdFeB永久磁石4とを合わせた全鎖交磁束量を広範囲に調整することができる。さらに、永久磁石の全鎖交磁束量の調整は回転電機の電圧を広範囲に調整することを可能とし、また、着磁は極短時間のパルス的な電流で行うので常時弱め磁束電流を流し続ける必要がなく、損失を大幅に低減できる。また、従来のように弱め磁束制御を行う必要がないので、高調波磁束による高調波鉄損も発生しない。
以上より、本実施の形態の永久磁石式回転電機及び永久磁石電動機ドライブシステムは、高出力で低速から高速までの広範囲の可変速運転が可能であり、広い運転範囲において高効率なものになる。また、永久磁石による誘導電圧に関しては、AlNiCo永久磁石3をd軸電流で着磁して永久磁石3,4の全鎖交磁束量を小さくできるので、永久磁石の誘導電圧によるインバータ電子部品の破損がなくなり、信頼性が向上する。また、回転電機が無負荷で連れ回される状態では、AlNiCo永久磁石3を負のd軸電流で着磁することで永久磁石3,4の全鎖交磁束量を小さくでき、これより、誘導電圧は著しく低くなり、誘導電圧を下げるための弱め磁束電流を常時通電する必要がほとんどなくなり、総合効率が向上する。特に惰行運転時間が長くなる通勤電車に本実施の形態の永久磁石式回転電機を搭載して駆動すると、総合運転効率は大幅に向上する。
また、本実施の形態の永久磁石式回転電機及び永久磁石電動機ドライブシステムでは、保磁力と磁化方向厚の積が大きい第2の永久磁石4はNdFeB磁石とし、保磁力と磁化方向厚の積が小さい第1の永久磁石3はAlNiCo磁石で構成し、第2の永久磁石4の磁束密度ψPM2は、回転子1の回転速度が最高回転速度ωになったときの第2の永久磁石4による逆起電圧が当該回転電機の電源であるインバータ電子部品の耐電圧E以下になる大きさ、つまり、ψPM2≦E/ω・N(ただし、Nは電機子巻線21の巻数)としている。これにより、次のような効果がある。すなわち、永久磁石による逆起電圧は回転速度に比例して高くなる。この逆起電圧はd軸電流を常時流し続けることによりインバータ電子部品の耐電圧や電源電圧以下に押さえ込まれている。しかし、制御不能時にはこの逆起電圧が過大になりインバータの電子部品等を絶縁破壊する。そのため、従来の永久磁石式回転電機では設計時に耐電圧により永久磁石の逆起電圧が制限され、永久磁石の磁束量が削減され、電動機の低速域での出力及び効率が低下していた。ところが、本実施の形態の場合、高速回転時になると短時間のd軸電流により減磁方向の磁界を発生させて永久磁石を不可逆的に磁化させて永久磁石3,4の鎖交磁束を低減させるので、高速回転時において制御不能になっても、過大な逆起電圧が発生することはない。
また、電機子巻線21等の電気的な短絡が生じた場合は、短絡電流によりAlNiCo永久磁石3は減磁するか極性が反転するので、永久磁石3,4による鎖交磁束はNdFeB永久磁石4によるもののみか極性反転時には0にできる。したがって、短絡電流は瞬時に回転電機自身で小さくできる。これより、短絡電流によるブレーキ力や短絡電流による加熱を防ぐことができる。
以上より、本実施の形態の永久磁石式回転電機及び永久磁石電動機ドライブシステムは、低速回転時で高トルク(高出力)を発生し、また高出力で低速から高速までの広範囲の可変速運転が可能であり、広い運転範囲において高効率運転が可能である。さらに高速回転時の逆起電圧を抑制でき、インバータを含めたドライブシステムの信頼性を高めることができる。
(第2の実施の形態)本発明の第2の実施の形態について、図1を用いて説明する。本実施の形態の永久磁石式回転電機において、AlNiCo磁石の第1の永久磁石3は磁化方向厚みが一定でない形状とし、図1に示すように断面は台形形状としている。
AlNiCo磁石は残留磁束密度が高く保磁力が小さいため磁束密度が低い領域では磁界に対して磁束密度が急変する。したがって、磁界の強さのみで磁束密度を微調整するには磁界の強さの制御は高い精度が要求される。そこで、本実施の形態では永久磁石の着磁に必要な磁化力は永久磁石の磁化方向厚みにより大きく変化することを応用する。本実施の形態では、AlNiCo永久磁石でなる第1の永久磁石3は台形形状なので磁化方向厚みが一定でない。そのため、着磁磁界を作用させたときに各厚みの永久磁石部分で発生する磁束量を変えることができる。すなわち、着磁磁界の強さは永久磁石の厚みによる影響に大きく依存させることができる。これにより、d軸電流による磁界に対する磁束量の調整も容易になり、外部条件変動による磁束量のばらつきを少なくできる。
(第3の実施の形態)本発明の第3の実施の形態の永久磁石式回転電機及び永久磁石電動機ドライブシステムについて説明する。本実施の形態は、図1に示した永久磁石式回転電機101に対して図7に示した永久磁石電動機ドライブシステムにより短時間のd軸電流によるパルス的な磁界でAlNiCo永久磁石3を不可逆的に磁化して鎖交磁束量を変化させる。さらに、中速度回転域や高速度回転域で負のd軸電流による磁束を常時発生させることにより、負のd軸電流による磁束と永久磁石3,4による磁束からなる鎖交磁束は、前述の負のd軸電流による磁束で微調整することができる。すなわち、中・高速度域では、短時間のd軸電流によるパルス的な磁界でAlNiCo永久磁石3の磁化状態を不可逆的に変化させることによって鎖交磁束量を大きく変化させ、常時通電させる負のd軸電流により鎖交磁束量を微調整する。このとき、常時通電する負のd軸電流が微調整する鎖交磁束量は僅かなので、常時流し続ける負のd軸電流は僅かとなり、大きな損失は発生しない。
これらより、本実施の形態の永久磁石式回転電機によれば、電圧の基になる鎖交磁束量を広範囲で変化させるとともに微調整することができ、しかも高効率で可変できる。
(第4の実施の形態)本発明の第4の実施の形態の永久磁石式回転電機について、図13を用いて説明する。本実施の形態において、固定子20の構造は、図1に示した第1の実施の形態のものや図20に示した従来例のものと同様である。
図13に示したように、本実施の形態では、回転子1において、その外周側に凸になるように逆U字形状のNdFeB永久磁石4を回転子鉄心2内に埋め込み、逆U字の中心軸がd軸と一致する位置としている。q軸上にはAlNiCo永久磁石3を径方向に回転子鉄心2内に配置している。逆U字形状にすることにより2個のAlNiCo永久磁石3に挟まれた領域でNdFeB永久磁石4の磁極の面積を広くすることができる。さらに、逆U字状にすることによりq軸磁束の磁路Bqを妨げるように逆U字形状のNdFeB永久磁石4を配置するので、q軸インダクタンスを低減できる。これより力率を向上できる。また、逆U字形状のNdFeB永久磁石4の外周側先端(中央部)と回転子鉄心2の外周(エアギャップ面)の間隔WpをAlNiCo永久磁石3とNdFeB永久磁石4の磁束でほぼ磁気飽和しない程度にする。この磁極鉄心7の中央部の磁束密度が最大でも1.9T程度にすれば、エアギャップの磁束分布が歪まなく、永久磁石の磁束を有効に利用できる。
(第5の実施の形態)本発明の第5の実施の形態の永久磁石式回転電機について、図14を用いて説明する。本実施の形態の永久磁石式回転電機における固定子20の構造は、図1に示した第1の実施の形態のものや図20に示した従来例のものと同様である。
図14に示したように、本実施の形態における回転子1では、AlNiCo磁石の第1の永久磁石3はq軸で径方向に回転子鉄心2内に配置し、NdFeB磁石の第2の永久磁石4は周方向に接するようにd軸に直角に回転子鉄心2内に配置している。回転子1は回転子鉄心2の内周側で鉄のシャフト9に嵌め込む構成である。シャフト9は4面をカットした形状とし、回転子鉄心2とシャフト9との間には空気層8を形成している。またシャフト9はステンレススティールのような非磁性材とすることができる。
永久磁石を磁化させるための電機子巻線21の電流による磁界は、AlNiCo永久磁石3とNdFeB永久磁石4に作用し、図14の矢印B13,B14のように電流による磁束が流れる。前述の空気層8があるので電流による磁束はシャフト9には通らずにNdFeB永久磁石4,4間の内周側の狭い鉄心部分を通ろうとする。しかし、この狭い鉄心部分は容易に磁気飽和するため、電機子電流による磁界で生じるNdFeB永久磁石4を通る磁束を少なくすることができる。
このように磁化させたいAlNiCo永久磁石3の電流による磁束は増加し、同時にNdFeB永久磁石4を通る電流による磁束は少なくなることにより、回転子磁極鉄心部7及び固定子鉄心22の磁気飽和も緩和される。したがって、AlNiCo永久磁石3を磁化させるためのd軸電流を少なくすることができる。ここで、シャフト9を非磁性材にすると、シャフト9に漏れる磁束も減少してNdFeB永久磁石4を通る磁束はさらに減少し、回転子磁極鉄心部7及び固定子鉄心22の磁気飽和もいっそう緩和される。
(第6の実施の形態)本発明の第6の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1〜5の実施の形態の永久磁石式回転電機において、回転子1における保磁力と磁化方向厚の積が大きい第2の永久磁石4として、Dy元素が少ないNdFeB磁石で構成する。Dy元素が少ないため残留磁束密度は高くなり、20℃において1.33T以上の残留磁束密度が得られる。
従来の回転電機は高速になると誘導電圧による電圧上昇を抑制するために負のd軸電流による弱め磁束制御を行っている。このとき永久磁石には過大な逆磁界が作用して永久磁石は不可逆減磁して出力が大幅に低下したままになる場合もある。この対策としてNdFeB磁石の中でも保磁力の大きな磁石を適用する。NdFeB磁石の保磁力を大きくする方法としてDy元素を添加するが、これにより永久磁石の残留磁束密度が低下して回転電機の出力も低下する。また、耐減磁を向上させるためにだけNdFeB磁石の磁化方向厚を厚くすることになる。
本実施の形態の永久磁石式回転電機では、AlNiCo永久磁石3を不可逆的に磁化させて電圧となる鎖交磁束量を調整している。したがって、NdFeB永久磁石4に過大な逆磁界が作用するような弱め磁束制御は使用しない。微調整のための弱め制御を使用する場合もあるが、僅かな電流なので逆磁界も極めて小さくできる。これより、本実施の形態の回転電機は、従来の回転電機には減磁のため使用できなかった低保磁力で高残留磁束密度のNdFeB磁石を適用することができるようになり、NdFeB磁石によるエアギャップ磁束密度は高くなり、高出力が得られる。
例えば、従来の回転電機に適用するNdFe磁石の特性は保磁力Hcj=2228kA/m、残留磁束密度Br=1.23Tであり、本発明に実施の形態に適用するNdFeB磁石の特性はHcj=875kA/m、残留磁束密度Br=1.45Tである。このように保磁力は小さいが磁束密度は1.17倍の磁石の適用が可能となり、約1.17倍に高出力が期待できる。
また、従来の回転電機では出力に貢献せずに耐減磁のために磁石の厚みを増加していたが、本実施の形態の回転電機は減磁界が小さいのでNdFeB磁石の使用量を低減できる。また、埋蔵量の少ないDy元素をほとんど添加しないNdFeB磁石を適用できようになるので、将来的にも安定して製造できる。
(第7の実施の形態)本発明の第7の実施の形態の永久磁石式回転電機では、回転子1における保磁力と磁化方向厚の積が大きい第2の永久磁石4はNdFeB磁石とし、保磁力と磁化方向厚の積が小さい第1の永久磁石3はAlNiCo磁石で構成する。そして、最高回転速度時において、NdFeB永久磁石4が発生する逆起電圧が回転電機の電源であるインバータ電子部品の耐電圧以下にする構成とする。
永久磁石による逆起電圧は回転速度に比例して高くなる。この逆起電圧がインバータの電子部品に印加し、電子部品の耐電圧以上になると電子部品が絶縁破壊する。そのため、従来の永久磁石回転電機では設計時に耐電圧により永久磁石の逆起電圧が制限され、永久磁石の磁束量が削減され、電動機の低速域での出力及び効率が低下する。
本実施の形態では、高速回転時になると負のd軸電流により減磁方向の磁界で永久磁石を不可逆的に磁化させてAlNiCo永久磁石3の磁束を0近傍まで小さくする。AlNiCo永久磁石3による逆起電圧はほぼ0にできるので、磁束量を調整できないNdFeB永久磁石4による逆起電圧を最高回転速度で耐電圧以下にすればよい。すなわち、NdFeB永久磁石4のみの磁束量を耐電圧以下までになるまで小さくすることになる。一方、低速回転時では、最大の磁束量となるように磁化されたAlNiCo永久磁石3とNdFeB永久磁石4による鎖交磁束量は増加できる。
さらには、実用上では、最高速域ではAlNiCo永久磁石3は低速時とは逆方向に磁化されることになるので、総鎖交磁束量はNdFeB永久磁石4のみの鎖交磁束よりも小さくなる。すなわち、本実施の形態の回転電機においては、高速時の逆起電圧はNdFeB永久磁石4のみによる逆起電圧よりも小さくなり、実質的には耐電圧と許容最高回転数は十分な余裕ができる。
以上より、本実施の形態の回転電機は、低速回転時での高出力と高効率を維持しながら、高速回転時の逆起電圧を抑制でき、インバータを含めたシステムの信頼性を高めることができる。
(第8の実施の形態)本発明の第8の実施の形態の永久磁石式回転電機について、図15を用いて説明する。本実施の形態の永久磁石式回転電機における固定子20の構造は、図1に示した第1の実施の形態のものや図20に示した従来例のものと同様である。
本実施の形態の永久磁石式回転電機では、磁極間の中心軸になるq軸と一致する回転子1の半径方向にAlNiCo永久磁石3を回転子鉄心内に配置する。そして、AlNiCo永久磁石3の端部の鉄心を除いたq軸近傍のエアギャップ側回転子鉄心2を回転子鉄心の最外周より窪ませた形状10とする。
次に、本実施の形態の永久磁石式回転電機の作用について述べる。d軸方向の電流の磁束(d軸磁束)はAlNiCo永久磁石3とNdFeB永久磁石4を横断することになり、永久磁石は空気の透磁率とほぼ等しいのでd軸インダクタンスは小さくなる。一方、q軸方向の磁束は回転子鉄心の磁極鉄心7をAlNiCo永久磁石3とNdFeB永久磁石4の長手方向に沿うように流れる。鉄心の磁極鉄心7の透磁率は永久磁石の1000〜10000倍あるので、q軸方向の回転子鉄心2に窪みがなく回転子鉄心外径が周方向で均一であれば、q軸インダクタンスは大きくなる。そして、電流と磁束の磁気的作用でトルクを発生するためにq軸電流を流すが、q軸インダクタンスは大きいのでq軸電流で生じる電圧は大きくなる。すなわち、q軸インダクタンスが大きくなることにより、力率が悪くなる。
本実施の形態では、AlNiCo永久磁石3のあるq軸近傍のエアギャップ側回転子鉄心は回転子鉄心2の最外周より窪んだ鉄心の形状10となっているので、窪んだ鉄心部分10を通る磁束は減少する。すなわち、窪んだ鉄心部分10はq軸方向にあるのでq軸インダクタンスを小さくすることができる。これより、力率を向上できる。また、窪んだ鉄心部分10によりAlNiCo永久磁石3の端部近傍では等価的にエアギャップ長が長くなるので、AlNiCo永久磁石3の端部近傍の平均的な磁界は低くなる。これより、トルクを発生するために必要なq軸電流によるAlNiCo永久磁石3への減磁界の影響を小さくできる。
また、AlNiCo永久磁石3の端部と回転子の磁極鉄心7の中央までの間において、d軸中心となる回転子の磁極鉄心7の中央部が回転子の最外周部分となり、磁極鉄心7の中央部から前記AlNiCo永久磁石3の端部の外周側鉄心部分に至るにつれて、回転子の軸中心からの回転子鉄心外周までの距離が短くなる形状とする。
これにより、本実施の形態によってq軸インダクタンスを小さくでき、q軸電流によるAlNiCo永久磁石3の減磁を抑制できる。全周に渡って滑らかに外周の窪みが大きくなっているので磁束の高調波成分を低減できて、トルクリプル、コギングトルクも低減できる。
(第9の実施の形態)本発明の第9の実施の形態としての永久磁石式回転電機について、図16を用いて説明する。図16は本実施の形態の永久磁石式回転電機の構造を示していて、固定子20の内部に回転子1をエアギャップ23を介して対向するように収容した構造である。固定子20は、従来例と同様であり図20と同様のものである。また、図1に示した第1の実施の形態の永久磁石式回転電機と共通する要素については共通の符号を付して示し、重複する説明は省略する。
図16に示すように、本実施の形態の永久磁石式回転電機は、第1の実施の形態に対して回転子1に埋め込んだ保磁力と磁化方向厚みの積が小となる第1の永久磁石3の構成に特徴があり、この第1の永久磁石3を2種類、つまり、径方向の外側に配置した永久磁石3Aと径方向の内側に配置した永久磁石3Bとで構成している。永久磁石3Aは永久磁石3Bに対して、保磁力と磁化方向厚の積がやや大となる磁気特性を有している。例えば永久磁石3AはAlNiCo磁石とし、永久磁石3BはFeCrCo磁石を用いる。あるいは、永久磁石3A,3B共にAlNiCo磁石とするが、磁気特性が上記のように若干異なり、外側に配置した永久磁石3Aは内側に配置した永久磁石3Bよりも保磁力と磁化方向厚の積がやや大となる磁気特性を備えたものとする。尚、その他の構成、またドライブシステムの構成はすべて第1の実施の形態と同様である。
第1の実施の形態に示すように保磁力と磁化方向厚の積が小となる第1の永久磁石3を1種類で構成した場合、通常の回転駆動用の磁界による磁束Bsが常に第1の永久磁石3の磁極側の径方向の外側の肩部分(丸で囲んだ部分S)に強く作用し、磁化電流を流さない状態でも減磁する現象が発生することがある。そこで、本実施の形態の永久磁石式回転電機では、磁化電流を流すことで減磁させ、あるいは磁化方向を反転させる第1の永久磁石3を図示のように2種類の永久磁石3A,3Bにて構成し、主に磁化電流により減磁させ、あるいは磁化方向を反転させる永久磁石は主に永久磁石3Bとし、回転駆動時に作用する強い磁界に対して減磁耐性を持たせるためにその磁界が強く作用する部分Sには保磁力と磁化方向厚の積が永久磁石3Aよりも若干大きい永久磁石3Bを配置する構成にしている。
これにより、本実施の形態の永久磁石式回転電機では、第1の実施の形態の永久磁石式回転電機よりも低速回転時で高トルク(高出力)を発生し、また高出力で低速から高速までの広範囲の可変速運転が可能であり、広い運転範囲において高効率運転が可能である作用、効果を奏する。
尚、上記実施の形態のように第1の永久磁石を保磁力の異なる2種類あるいはそれ以上の複数種の永久磁石にて分割した構造とする構成は、第1の実施の形態で採用した第1の永久磁石3にとどまらず、図13〜図16に示したそれぞれの構造の永久磁石式回転電機においても、それらの第1の永久磁石3を本実施の形態と同様の分割構造とすることができる。
(第10の実施の形態)本発明の第10の実施の形態の永久磁石式回転電機は、上記第1〜9の実施の形態のそれぞれにおいて、回転子1を固定子に挿入して組み立てる製造時に、AlNiCo永久磁石3による磁束とNdFeB永久磁石4による磁束が、磁極鉄心7又はエアギャップ面で互いに逆方向となるようにAlNiCo永久磁石3を磁化させた状態にすることを特徴とする。
製造工程で、着磁した回転子1を固定子に挿入して組立を行うには永久磁石の磁気吸引力に対策が必要である。本発明では、AlNiCo永久磁石3の磁束とNdFeB永久磁石4の磁束が互いに逆方向になるように磁化したので回転子1から発生する永久磁石の磁束量は少なくできる。したがって、回転子と固定子の間で生じる磁気吸引力は小さくなり、組立作業性が向上する。さらに、AlNiCo永久磁石3とNdFeB永久磁石4により発生する磁束量を0にすると、磁気吸引力はなくなり、回転子を固定子に組み込む作業は極めて容易にできる。
尚、上記第1〜9の実施の形態のそれぞれにおいて、修理点検のために回転子1を固定子から抜き出す分解時にも、AlNiCo永久磁石3による磁束とNdFeB永久磁石4による磁束が、磁極鉄心7又はエアギャップ面で互いに逆方向となるようにAlNiCo永久磁石3を磁化させた状態にするのが望ましい。分解時に、AlNiCo永久磁石3の磁束とNdFeB永久磁石4の磁束が互いに逆方向になるように磁化しておくと、回転子1から発生する永久磁石の磁束量は少なくでき、回転子と固定子の間で生じる磁気吸引力を小さくでき、分解作業性も向上する。さらに、AlNiCo永久磁石3とNdFeB永久磁石4により発生する磁束量を0にすると、磁気吸引力はなくなり、回転子を固定子から抜き出す作業も極めて容易になる。
また尚、上記の各実施の形態では4極の回転電機を示したが、8極等の多極の回転電機に対しても本発明を適用でき、その場合には、極数に応じて永久磁石の配置位置、形状を適切に変更することで対応するが、作用、効果は各実施の形態と同様に得られる。
また、磁極を形成する永久磁石において、保磁力と磁化方向の厚みの積をもって永久磁石を区別する定義をしている。したがって、磁極には同じ種類の永久磁石で形成し、磁化方向厚みを異なるように形成しても同様な作用と効果が得られる。
(第11の実施の形態)本発明の第11の実施の形態としての永久磁石電動機ドライブシステム200について、図17〜図19を用いて説明する。本実施の形態の永久磁石電動機ドライブシステムは、上記第1の実施の形態のドライブシステムに代えて、第1の実施の形態の永久磁石式回転電機乃至第9の実施の形態の永久磁石式回転電機の駆動制御に適用できる。尚、図17において、図7に示した第1の実施の形態の永久磁石電動機ドライブシステムと共通の要素には同一の符号を付して示してある。
本実施の形態の可変磁束永久磁石電動機ドライブシステム200は主回路200Aと制御回路200Bで構成されており、図7に示した第1の実施の形態に対して、制御回路200Bにおいて電圧指令演算部110の出力する電圧指令Vd*,Vq*と座標変換部107の出力するdq軸電流Id,Iqとロータ回転角周波数ω1を用いて磁束Φhを推定し、可変磁束制御部113に出力する磁束推定部109を追加的に備え、また可変磁束制御部113が図19の構成を備えたことを特徴とする。尚、主回路200Aの構成は図7の主回路100Aと同じである。
磁束推定部109は、dq軸電圧指令Vd*,Vq*とdq軸電流Id,Iq、ロータ回転角周波数ω1(インバータ周波数)に基づき、次式によってd軸磁束量を推定する。
Figure 0005161612
磁束推定値Φhは、磁束指令演算部112からの磁束指令Φ*と共に可変磁束制御部113に入力される。
本実施の形態における可変磁束制御部113の詳細な構成を図18に示す。減算器119にて磁束指令Φ*と磁束推定値Φhとの偏差が演算され、同偏差はPI制御器120に入力される。また、磁束指令Φ*は磁化電流基準演算部121に入力される。磁化電流基準演算部121は、磁束指令Φ*に応じた磁束に磁化されるように、磁化電流指令Im*をテーブルを利用して算定し、あるいは関数式に当てはめて算定する。この特性は、前述のBH特性に基づき算定する。加算器122において、磁化電流基準演算部121の出力とPI制御部120の出力とを加算する。
この加算器122が磁化電流指令Im*になる。磁化するためには、この磁化電流指令Im*をd軸電流指令Id*として与える。よって、本実施の形態の構成上、Id*がIm*と一致するように、減算器126にて磁化電流指令Im*からd軸電流基準IdRを減算し、d軸磁化電流指令差分値ΔIdm*を算出する。これにより、図18における加算器114にてd軸電流基準IdRと加算されるため、d軸電流指令Id*が磁化電流Im*と一致する。
可変磁束制御部113における切り替え器123では、後述の磁化完了フラグに基づき、2つの入力を選択して、磁化電流指令Idm*として選択して出力する。磁化完了フラグ=0(磁化完了)の場合、d軸磁化電流指令差分ΔIdm*=0とする。また、磁化完了フラグ=1(磁化中)である場合、加算器122の出力をΔIdm*として出力する。
減算器119の出力である磁束指令Φ*と磁束推定値Φhとの偏差は、磁化完了判定部124へと入力される。この磁化完了判定部124では、例えば磁束偏差の絶対値が所定値αより小さい場合には1を出力し、αより大きい場合には0を出力する。フリップフロップ(RS−FF)125は、セットSへの入力に磁化要求フラグFCreqを、リセットR側に磁化完了判定部124の出力を入力する。このRS−FF125の出力が磁化完了フラグであり、PI制御部120と切り替え器123とに入力される。この磁化完了フラグが0であれば磁化完了、1であれば磁化中であることを示す。
また、磁束推定部109の出力である磁束推定値Φhは電流基準演算部111にも入力される。電流基準演算部111では、第1の実施の形態での演算式での磁束指令Φ*に代え、磁束推定値Φhによってdq軸電流基準IdR,IqRを次式にて求める。
Figure 0005161612
以上の構成により、本実施の形態は、次のような作用効果を奏する。磁化要求があった場合、磁化要求フラグ=1が少なくとも一瞬立つ。RS−FF125がセットされることで、磁化完了フラグ=1、すなわち磁化中になる。切り替え器123がPI制御器120及び磁化電流基準演算部121からの出力を磁化電流指令Im*として出力するようになる。この磁化電流基準演算部121は、磁束指令Φ*に磁化されるように、事前に把握しているBH特性に基づく磁化電流をフィードフォワード的に与えることになる。これにより、指令値の近傍まで瞬時に磁化することができ、磁化に要する時間が低減されるため、不要なトルクの発生や損失の発生を抑えることができる。尚、BH特性は、予め実験的に求めたものを用いることもできる。
しかしながら、前述のように、厳密に磁束を所定値に一致させることは困難である。そこで、本実施の形態では、図19に示すように、可変磁束制御部113におけるPI制御器120の作用により磁束の偏差が0に近づくように磁化電流Im*を補正していく。これにより、最終的には磁束指令Φ*と磁束推定値Φh(すなわち、推定誤差がなければ実磁束)とが一致することになる。このため、磁化処理における磁束量の繰り返しの精度が向上し、トルク精度が向上できる。
また、本実施の形態では、図19に示すように、可変磁束制御部113における磁化完了判定部124で、磁束偏差の絶対値が所定値α以内となったことで事実上磁束は一致し磁化が完了したとして出力を1にし、RS−FF125はこのリセット要求を受けて、出力である磁化完了フラグを0にする。よって、確実に磁束推定値がその指令である磁束指令Φ*に一致したことをもって磁化処理を完了することができる。これにより、本実施の形態によれば、磁化処理における磁束量の繰り返し精度が向上し、トルク精度の向上が期待できる。
また、本実施の形態によれば、dq軸電流基準IdR,IqRの生成に電圧電流より推定された磁束推定値Φhを用いるため、仮に磁化処理によって磁束量にばらつきが生じても実態に応じてdq軸電流指令が補正される。そしてこの指令に応じてdq軸電流が流れるため、可変磁束量のばらつきがトルクに与える影響を低減することが可能であり、トルク精度が向上する。
尚、本実施の形態では、磁束推定値に基づき構成しているが、磁束推定器には、LdやLqなどのモータインダクタンスが含まれる。これらの値は磁気飽和によって変動するが、特に可変磁束モータでは磁気飽和が可変磁束量によって大きく変動する。よって、可変磁束の推定値を入力として、モータインダクタンスを出力する関数あるいはテーブルを備えることは、磁束推定精度、ひいてはトルク精度の向上に有益である。
また、上述のようにテーブル化しても、インダクタンスの特性を精度良く把握することが困難な場合もある。その場合、磁束を推定する代わり、ホール素子などによって構成される磁束検出器を備え、検出された実磁束Φrを上記の磁束推定値Φhの代わりに用いることで、より一層の磁束推定精度の向上、ひいてはトルク精度の向上が図れる。
図1は、本発明の第1の実施の形態の永久磁石式回転電機の断面図。 図2は、上記実施の形態において、回転子の永久磁石に採用した低保磁力の永久磁石と高保磁力の永久磁石の磁気特性のグラフ。 図3は、上記実施の形態の回転子において、短時間通電のd軸電流で永久磁石を不可逆的に磁化して増磁状態にしたときの永久磁石の磁束(鎖交磁束が最大)の説明図。 図4は、上記実施の形態の回転子において、短時間通電のd軸電流による減磁磁界の磁束の説明図。 図5は、上記実施の形態の回転子において、短時間通電のd軸電流による減磁磁界が作用した後(d軸電流による磁界が消滅後)の永久磁石の磁束(鎖交磁束が最小)の説明図。 図6は、上記実施の形態の回転子において、正のd軸電流による磁界と負荷電流(q軸電流)による磁界の説明図。 図7は、本発明の第1の実施の形態の永久磁石電動機ドライブシステムのブロック図。 図8は、可変磁束永久磁石電動機の簡易モデル図。 図9は、上記実施の形態の永久磁石式回転電機のBH特性図。 図10は、上記実施の形態の永久磁石電動機ドライブシステムにおける磁化要求生成部の内部構成を示すブロック図。 図11は、上記実施の形態の永久磁石電動機ドライブシステムにおける可変磁束制御部の内部構成を示すブロック図。 図12は、上記実施の形態の永久磁石電動機ドライブシステムによる電動機制御のタイミングチャート。 図13は、本発明の第4の実施の形態の永久磁石式回転電機における回転子の断面と磁束の説明図。 図14は、本発明の第5の実施の形態の永久磁石式回転電機における回転子の断面図。 図15は、本発明の第8の実施の形態の永久磁石式回転電機における回転子の断面図。 図16は、本発明の第9の実施の形態の永久磁石式回転電機の断面図。 図17は、本発明の第11の実施の形態の永久磁石電動機ドライブシステムのブロック図。 図18は、上記実施の形態の永久磁石電動機ドライブシステムにおける可変磁束制御部の内部構成を示すブロック図。 図19は、上記実施の形態の永久磁石電動機ドライブシステムによる電動機制御のタイミングチャート。 図20は、従来の埋込型永久磁石電動機の断面図。
符号の説明
1…回転子
2…回転子鉄心
3…永久磁石
4…永久磁石
5…空洞
7…磁極鉄心
8…空洞(高磁気抵抗)
9…シャフト
10…窪み形状
11…磁路狭部分
100,200…永久磁石電動機ドライブシステム
100A,200A…主回路
100B,200B…制御回路
101…永久磁石電動機
104…インバータ

Claims (29)

  1. 円筒状の回転子鉄心の中に保磁力と磁化方向厚の積が他の永久磁石よりも小さい複数個の第1の永久磁石をその磁化方向が径方向に対してほぼ直交する姿勢若しくは径方向にほぼ一致する姿勢で、かつ、回転方向に沿い等角度間隔で埋め込み、前記回転子鉄心の中に保磁力と磁化方向厚の積が前記第1の永久磁石よりも大きい複数個の第2の永久磁石をその磁化方向が径方向にほぼ一致する姿勢で、隣り合う前記第1の永久磁石同士の間それぞれの位置に、かつ、回転方向に沿い等角度間隔で埋め込み、隣り合う前記第1の永久磁石とその間の前記第2の永久磁石とで当該第2の永久磁石の数だけの複数の磁極を形成する回転子と、
    前記回転子をその周囲に磁気空隙を介して囲繞するように配置された固定子と、
    前記固定子の前記磁気空隙に面する内周部に形成された電機子巻線とを有する永久磁石式回転電機であって、
    前記回転子鉄心における隣り合う前記磁極同士を磁気的に連結する磁極間ヨーク部分のすべてに前記電機子巻線に流される所定の磁化電流が作る磁界の磁束にて磁気飽和する磁路狭部分を形成すると共に、前記回転子鉄心の内周側に嵌め込まれるシャフトを非磁性材で形成し、
    前記複数の磁極それぞれにおいて前記電機子巻線に流される前記所定の磁化電流が作る磁界により前記複数個の第1の永久磁石それぞれを磁化させて前記第1の永久磁石それぞれの磁束量を不可逆的に変化させることができるようにした永久磁石式回転電機。
  2. 前記回転子は、前記複数個の第1の永久磁石をその磁化方向が径方向に対してほぼ直交する姿勢で、かつ、回転方向に沿い等角度間隔で埋め込んだ構造にしたことを特徴とする請求項1に記載の永久磁石式回転電機。
  3. 前記回転子鉄心の磁極間ヨーク部分における前記磁路狭部分は、前記電機子巻線に流される磁化電流が0の状態では磁気飽和近傍の磁束密度となり、前記電機子巻線に磁化電流が通電される時には磁気飽和するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の永久磁石式回転電機。
  4. 前記回転子鉄心の磁極間ヨーク部分における前記磁路狭部分は、当該永久磁石式回転電機の最大トルク発生時の磁束状態では磁気飽和直前の磁束密度となり、前記電機子巻線に磁化電流が通電される時には磁気飽和するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の永久磁石式回転電機。
  5. 前記回転子鉄心の磁極間ヨーク部分における前記磁路狭部分は、当該永久磁石式回転電機の最大トルク発生時の磁束状態では磁気飽和直前の磁束密度となり、前記電機子巻線に流される磁化電流が0の状態でも磁気飽和近傍の磁束密度となり、前記電機子巻線に磁化電流が通電される時には磁気飽和するものであり、かつ、前記磁路狭部分での磁束密度は、最大トルク時の磁束密度よりも電流が0の時の磁束密度の方が大きく、さらに前記磁化電流が通電される時の磁束密度が最も大きい設定にしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の永久磁石式回転電機。
  6. 前記回転子鉄心における磁極間ヨーク部分の磁路断面積を前記磁極それぞれよりも内側の磁極ヨーク部分の磁路断面積よりも狭くすることで、前記電機子巻線に流される所定の磁化電流が作る磁界の磁束にて磁気飽和する前記磁路狭部分を形成したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  7. 前記回転子鉄心における前記磁極間ヨーク部分の平均磁束密度は磁気飽和し、前記磁極ヨーク部分の平均磁束密度は飽和磁束密度に達しない構成としたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  8. 前記回転子鉄心における前記磁極間ヨーク部分の磁束密度は、前記電機子巻線に流す磁化電流が0の状態で1.8T〜2Tとし、前記磁化電流の通電時には2T以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  9. 前記回転子鉄心における前記磁極間ヨーク部分の磁束密度は、前記電機子巻線に磁化電流を流さない状態で1.8Tとし、前記磁化電流の通電時には2Tであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  10. 前記第1の永久磁石の磁化方向厚は、前記第2の永久磁石の磁化方向厚よりも大きくしたことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  11. 前記第1の永久磁石は、前記第2の永久磁石からバイアス的な磁界が作用するように配置されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  12. 前記第1の永久磁石の保磁力と磁化方向厚みの積は、前記第2の永久磁石の無負荷時の動作点における磁界の強さと磁化方向厚の積に等しいか又はそれ以上にしたことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  13. 前記第1の永久磁石と第2の永久磁石との磁化方向を異ならせたことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  14. 前記磁極を構成する第1の永久磁石は、その磁化方向とq軸のなす角度が前記磁極を構成する第2の永久磁石の磁化方向とq軸のなす角度よりも大きくなる位置に配置されていることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  15. 前記磁極を構成する第2の永久磁石は、その磁化方向がd軸方向又は回転子の径方向になる位置に配置されていることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  16. 前記第1の永久磁石は、その磁化方向が回転子の回転方向になる位置に配置されていることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  17. 前記第1の永久磁石の磁化方向の厚みは、前記第2の永久磁石の磁化方向厚みよりも大きくしたことを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  18. 前記第2の永久磁石は、その中心部が端部よりも前記磁気空隙に近くなる形状としたことを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  19. 前記第2の永久磁石は、その中心部から前記回転子鉄心の磁気空隙面までの間隔を、当該第2の永久磁石の中心部近傍の回転子鉄心が全ての永久磁石の磁束で磁気飽和しない程度の位置に配置したことを特徴とする請求項1〜18のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  20. 前記第2の永久磁石は、20℃において0.9T以上の残留磁束密度を有することを特徴とする請求項1〜19のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  21. 前記第2の永久磁石は、Dy元素をほとんど含まないNdFeB系の永久磁石であることを特徴とする請求項1〜20のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  22. 前記第2永久磁石の磁束密度ψPM2は、前記回転子の回転速度が最高回転速度ωになったときの前記第2の永久磁石による逆起電圧が当該回転電機の電源であるインバータ電子部品の耐電圧E以下になる大きさ(ψPM2≦E/ω・N。ただし、Nは前記電機子巻線の巻数)であることを特徴とする請求項1〜21のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  23. 前記回転子鉄心は、前記回転子の磁極中心軸となるd軸方向の磁気抵抗が小さく、磁極間の中心軸となるq軸方向の磁気抵抗が大きくなる形状であることを特徴とする請求項1〜22のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  24. 前記第1の永久磁石は、前記磁気空隙側の端部で磁気抵抗が高くなる構成としたことを特徴とする請求項1〜23のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  25. 前記第1の永久磁石をq軸近傍に配置し、前記q軸近傍の前記磁気空隙側の回転子鉄心部分を前記回転子鉄心の最外周よりも窪ませた形状としたことを特徴とする請求項1〜24のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  26. 前記第1の永久磁石をq軸近傍に配置し、d軸中心となる前記回転子鉄心の磁極の中央部を前記回転子の最外周部分とし、前記回転子鉄心において前記d軸中心の磁極中央部近傍から前記q軸近傍に至る部分又はその一部分を当該回転子鉄心の最外周よりも窪ませた形状としたことを特徴とする請求項1〜25のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  27. 前記第1の永久磁石は、保磁力が大小異なる2種類の永久磁石で構成されていて、保磁力の大きい方の永久磁石を径方向の外側、保磁力の小さい方の永久磁石を径方向の内側に配置したことを特徴とする請求項1〜26のいずれかに記載の永久磁石式回転電機。
  28. 円筒状の回転子鉄心の中に保磁力と磁化方向厚の積が他の永久磁石よりも小さい複数個の第1の永久磁石をその磁化方向が径方向に対してほぼ直交する姿勢若しくは径方向にほぼ一致する姿勢で、かつ、回転方向に沿い等角度間隔で埋め込み、前記回転子鉄心の中に保磁力と磁化方向厚の積が前記第1の永久磁石よりも大きい複数個の第2の永久磁石をその磁化方向が径方向にほぼ一致する姿勢で、隣り合う前記第1の永久磁石同士の間それぞれの位置に、かつ、回転方向に沿い等角度間隔で埋め込み、隣り合う前記第1の永久磁石とその間の前記第2の永久磁石とで当該第2の永久磁石の数だけの複数の磁極を形成する回転子と、前記回転子をその周囲に磁気空隙を介して囲繞するように配置された固定子と、前記固定子の前記磁気空隙に面する内周部に形成された電機子巻線とを有する永久磁石式回転電機であって、前記回転子鉄心における隣り合う前記磁極同士を磁気的に連結する磁極間ヨーク部分のすべてに前記電機子巻線に流される所定の磁化電流が作る磁界の磁束にて磁気飽和する磁路狭部分を形成すると共に、前記回転子鉄心の内周側に嵌め込まれるシャフトを非磁性材で形成し、前記複数の磁極それぞれにおいて前記電機子巻線に流される前記所定の磁化電流が作る磁界により前記複数個の第1の永久磁石それぞれを磁化させて前記第1の永久磁石それぞれの磁束量を不可逆的に変化させることができるようにした永久磁石式回転電機の組立方法であって、
    前記回転子を前記固定子の内側に挿入して組み立てる時に、前記第1の永久磁石による磁束と、前記第2の永久磁石による磁束が前記磁極又は磁気空隙面で互いに逆方向となるように着磁した状態にして組み立てることを特徴とする永久磁石式回転電機の組立方法。
  29. 円筒状の回転子鉄心の中に保磁力と磁化方向厚の積が他の永久磁石よりも小さい複数個の第1の永久磁石をその磁化方向が径方向に対してほぼ直交する姿勢若しくは径方向にほぼ一致する姿勢で、かつ、回転方向に沿い等角度間隔で埋め込み、前記回転子鉄心の中に保磁力と磁化方向厚の積が前記第1の永久磁石よりも大きい複数個の第2の永久磁石をその磁化方向が径方向にほぼ一致する姿勢で、隣り合う前記第1の永久磁石同士の間それぞれの位置に、かつ、回転方向に沿い等角度間隔で埋め込み、隣り合う前記第1の永久磁石とその間の前記第2の永久磁石とで当該第2の永久磁石の数だけの複数の磁極を形成する回転子と、前記回転子をその周囲に磁気空隙を介して囲繞するように配置された固定子と、前記固定子の前記磁気空隙に面する内周部に形成された電機子巻線とを有する永久磁石式回転電機であって、前記回転子鉄心における隣り合う前記磁極同士を磁気的に連結する磁極間ヨーク部分のすべてに前記電機子巻線に流される所定の磁化電流が作る磁界の磁束にて磁気飽和する磁路狭部分を形成すると共に、前記回転子鉄心の内周側に嵌め込まれるシャフトを非磁性材で形成し、前記複数の磁極それぞれにおいて前記電機子巻線に流される前記所定の磁化電流が作る磁界により前記複数個の第1の永久磁石それぞれを磁化させて前記第1の永久磁石それぞれの磁束量を不可逆的に変化させることができるようにした永久磁石式回転電機の分解方法であって、
    前記回転子を前記固定子の内側から抜き取る時に、前記第1の永久磁石による磁束と、前記第2の永久磁石による磁束が前記磁極又は磁気空隙面で互いに逆方向となるように着磁した状態にして抜き出すことを特徴とする永久磁石式回転電機の分解方法。
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