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JP5032860B2 - 位相差フィルムおよびその製造方法 - Google Patents

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JP5032860B2 JP2007035174A JP2007035174A JP5032860B2 JP 5032860 B2 JP5032860 B2 JP 5032860B2 JP 2007035174 A JP2007035174 A JP 2007035174A JP 2007035174 A JP2007035174 A JP 2007035174A JP 5032860 B2 JP5032860 B2 JP 5032860B2
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Description

本発明は、液晶表示装置などの表示装置の光学素子として有用な位相差フィルム(又は位相差板)、特に可視光域で波長が大きくなるにつれて位相差が大きくなる波長依存性(正の波長分散特性)を有する位相差フィルム(又は位相差板)、その製造方法、並びに前記位相差フィルムを用いた偏光板に関する。
位相差フィルムは、高分子フィルムの屈折率が三次元方向でそれぞれに制御されたフィルムであり、一般に高分子フィルムを延伸操作などによって配向させることにより得ることができる。このような位相差フィルムの主な機能は光の偏光状態を変えることであり、液晶表示装置をはじめとするフラットパネルディスプレイや反射防止フィルムなどに応用されている。
さらに位相差フィルムには、直線偏光を円偏光に変換するλ/4板、および直線偏光の偏光振動面を90度変換するλ/2板などがある。しかし、従来の位相差フィルムは、単色光に対しては、光線波長の位相差をλ/4又はλ/2の位相差に調整できるが、可視光域の波長の異なる光線が混在した合成波である白色光が入射した場合、波長分散性に起因して、各波長での偏光の形態が大きく異なって偏光状態の分布が生じる。その結果、入射した白色光が有色光に変換されるという大きな問題がある。このような問題を解決するために、広い波長域の光に対して均一な位相差を付与できる広帯域位相差フィルムの検討がなされている。
特開平10−68816号公報(特許文献1)には、複屈折光の位相差が1/4波長である1/4波長板と、複屈折光の位相差が1/2波長である1/2波長板とを、それらの光軸が交差した状態で貼り合わせた位相差板が開示されている。しかし、この位相差板には1/4波長板と1/2波長板とを必要とし、単一の層で有効な位相差板を形成できない。
国際公開WO 00/026705号パンフレット(特許文献2)には、一軸延伸フィルムで構成されたレタデーションフィルムであって、波長450nmでのレタデーションと550nmでのレタデーションとが所定の関係式を満足し、かつ吸水率が1%以下であるレタデーションフィルムが開示されている。この文献には、ビスフェノール骨格とビスフェノールフルオレン骨格とを有するポリカーボネート共重合体で構成され、積層することなく一枚のフィルムで逆の波長分散性(波長依存性)を有する位相差フィルムが開示されている。しかし、位相差フィルムが疎水性の高いポリカーボネート系樹脂で構成されているため、ポリビニルアルコール系樹脂を用いた偏光板との積層には工夫が必要となる。
なお、特開2001−42123号公報(特許文献3)には、1枚のセルロースアセテートフィルムからなる位相差板であって、波長400〜700nmにおいて、位相差値が正になる波長帯域と負になる波長帯域とを有している位相差板が開示されている。この文献には、アセチル化度が2.7〜2.9のセルロースアセテートとともに、波長400〜700nmにおいて位相差が正であるか又は負である位相差板としてのポリカーボネートフィルムとの積層位相差板が開示されている。しかし、一般的なセルロースアセテートフィルム単独では、延伸しても十分な面内位相差が発現せず、可視光域の全波長域において位相のずれを確実に補償するためには、ポリカーボネートフィルムとの積層が必要となる。
特開2001−91743号公報(特許文献4)には、波長450nmで測定したレタデーション値が100乃至125nmであり、かつ波長590nmで測定したレタデーション値が135乃至160nmである位相差板であって、面内の遅相軸方向の屈折率n、面内の遅相軸方向に垂直な方向の屈折率nおよび厚み方向の屈折率nが、n>n>nの関係を満足する一枚のポリマーフィルムからなる位相差板が開示されている。この文献には、ポリマーフィルムがセルロースエステルフィルムであること、特定の分子構造を有する化合物(レタデーション調整剤)を含むことも記載されている。しかし、この位相差板では、レタデーション調整剤を必要とする。
特開2002−296422号公報(特許文献5)には、アセチル基の置換度が1.4〜2.85、アセチル基とプロピオニル基及び/又はブチリル基との合計置換度が2.3〜2.85であるセルロースエステルを用い、所定の条件で1.15〜2.0倍に延伸する位相差フィルムの製造方法が開示されている。この文献には、位相差フィルムは、波長400〜700nmの範囲で、長波長ほど大きな位相差を示し、波長450nm,550nm及び650nmでの位相差をそれぞれR450,R550及びR650としたとき、0.5<R450/R550<1.0、1.0<R650/R550<1.5の範囲にあることも記載されている。しかし、プロピオニル基及び/又はブチリル基を所定の置換度で有する必要があり、成形や、熱延伸時に熱分解が生じ、プロピオン酸、ブタン酸などの悪臭を発生させる虞がある。
なお、特開2005−300978号公報(特許文献6)には、乳酸を主たる繰り返し単位とする脂肪酸エステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートシートを所定の条件で幅手方向に延伸配向したフィルムであって、厚みが20〜100μm、面内リタデーションが20〜100nm、厚み方向リタデーションが90〜200nmである位相差フィルムが開示されている。この文献の実施例では、アセチル置換度2.8のセルロースアセテート100重量部とL−ラクチド400重量部と加熱して溶解させ、開環重合触媒を添加して反応させ、反応生成物にクロロホルムを添加し、クロロホルム溶液を大過剰のメタノール中に添加して反応生成物を沈殿させ、吸引濾過は、乾燥してフレーク状の反応生成物を得たことも記載されている。しかし、この反応生成物で位相差フィルムを調製しても、L−ラクチドの組成比がセルロースアセテートに比べて高すぎるために、表示装置向けの位相差フィルムとしては十分な光学特性、耐熱性を得ることができない。
特開2001−181302号公報(特許文献7)には、ヒドロキシル基を有するセルロース誘導体に、オクチル酸スズなどの開環重合触媒の存在下、環状エステル類を開環グラフト重合し、変性セルロース誘導体を製造することが記載されている。この文献には、シクロヘキサノン又はγ−ブチロラクトンの溶媒中、水分0.1質量%以下の反応系で反応させること、得られた変性セルロース誘導体を成形し、シート、フィルムとして使用できることも記載されている。しかし、この文献には、変性セルロース誘導体の光学的特性については記載がない。
特開平10−68816号公報(特許請求の範囲) 国際公開WO 00/026705号パンフレット(特許請求の範囲) 特開2001−42123号公報(特許請求の範囲) 特開2001−91743号公報(特許請求の範囲) 特開2002−296422号公報(特許請求の範囲、段落[0076]) 特開2005−300978号公報(特許請求の範囲、実施例2) 特開2001−181302号公報(特許請求の範囲、段落[0032]、実施例)
従って、本発明の目的は、積層することなく単一のフィルムで、位相差に関して長波長で位相差が大きな正の波長依存性を有する位相差フィルム及びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、非積層形態の一枚のフィルムであっても、可視光域において波長が大きくなるにつれて位相差が大きくなり、位相のずれを確実に補償できる位相差フィルム及びその製造方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、位相差に関して波長依存性を容易かつ精度よく制御できる位相差フィルム及びその製造方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、前記位相差フィルムを用いた偏光板を提供することにある。
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ヒドロキシル基を有するセルロースアシレートなどのグルカン誘導体に対してラクトンなどのヒドロキシ酸成分をグラフトすると、前記正の波長依存性(正の波長分散特性)を有する変性グルカン誘導体が得られること、この変性グルカン誘導体がヒドロキシ酸成分のホモポリマー(特に結晶性樹脂成分)を含むと光学的特性が低下することを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明の位相差フィルム(又は位相差板)は、グルカン誘導体(セルロース誘導体など)の残存ヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分がグラフト共重合した変性グルカン誘導体(変性セルロース誘導体など)で構成されている。前記位相差フィルム(又は位相差板)は、積層することなく1枚のフィルムにおいて、下記式を満足する。
Re(450nm)/Re(650nm)<1
(式中、Re(450nm)及びRe(650nm)はそれぞれ波長450nm及び波長650nmでの位相差値を示す)
前記位相差フィルムは、位相差に関して正の波長依存性を示す。すなわち、波長550nmでの位相差値を基準値としたとき、波長400〜700nmにおいて、550nm未満の波長での位相差値が基準値と同じであるか又は基準値よりも小さく、550nmを越える波長での位相差値が基準値と同じであるか又は基準値よりも大きい。より具体的には、本発明の位相差フィルムは、下記式を満足してもよい。
0.3<Re(450nm)/Re(550nm)<1.00
1.00<Re(650nm)/Re(550nm)<1.6
(式中、Re(450nm)、Re(550nm)及びRe(650nm)は、それぞれ波長450nm、波長550nm及び波長650nmでの位相差値を示す)
グルカン誘導体(セルロース誘導体など)は、セルロースアシレート、例えば、アシル基の平均置換度1.5〜2.95のセルロースアシレートであってもよい。さらに、グルカン誘導体(セルロース誘導体など)は、アシル基の平均置換度2.0〜2.9のセルロースC2−4アシレートであってもよい。このようなグルカン誘導体(セルロース誘導体など)は、通常、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、及びセルロースアセテートブチレートから選択された少なくとも一種である場合が多い。
ヒドロキシ酸成分(ヒドロキシカルボン酸成分など)は、ヒドロキシアルカンカルボン酸(ヒドロキシC2−10アルカンカルボン酸)、ラクトン(C4−10ラクトン)、及び環状ジエステル(C4−10環状ジエステル)から選択された少なくとも一種であってもよい。
ヒドロキシ酸成分のグラフト割合は、グルカン誘導体(セルロース誘導体など)のグルコース単位1モルに対して、ヒドロキシ酸換算で、平均0.1〜4モル(0.3〜3モル、好ましくは0.5〜2.5モル、さらに好ましくは0.6〜2.0モル)程度であってもよい。また、ヒドロキシ酸成分のグラフト鎖は、遊離のポリヒドロキシ酸の形態において非結晶性である場合が多い。換言すると、グラフト鎖のポリヒドロキシ酸は、遊離の形態で非結晶性を示す平均重合度を有している場合が多い。さらに、ヒドロキシ酸成分のグラフト鎖の平均置換度は0.01〜1程度、グラフト鎖の平均重合度は1〜20程度であってもよい。セルロース誘導体は、アシル基の平均置換度をAとし、ヒドロキシ酸成分のグラフト鎖の平均置換度をBとしたとき、A+B=2.3〜3.0、B=0.01〜1.0の関係式を充足するセルロースエステルであってもよい。前記変性グルカン誘導体(変性セルロース誘導体など)において、ヒドロキシ酸成分の遊離の単独重合体の含有量は、少ないのが好ましく、例えば、10重量%以下である。
前記位相差フィルムは、位相差に関して正の波長依存性を示すため、1/4波長板又は1/2波長板として有効に利用できる。また、前記位相差フィルムは、偏光板との積層に適しており、位相差フィルムと偏光板との積層により円偏光又は楕円偏光板を形成できる。
本発明は、変性グルカン誘導体を用いて前記特性を有する位相差フィルムを製造する方法も包含する。この方法では、溶媒中、(1)ヒドロキシ酸成分の重合を単独では(活性水素原子を有する開始剤の非存在下では)重合活性を示さない触媒(又は触媒しない触媒)の存在下、(2)水分含有量が0.5重量%以下の反応系で、ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体と、ヒドロキシ酸成分とを反応させ、ヒドロキシ酸成分がグラフトした変性グルカン誘導体(グラフト体)を製造する。このような方法では、ヒドロキシ酸成分のホモポリマー、特に、ヒドロキシ酸成分のホモポリマーの生成を抑制できるため、通常の精製法により高品位の変性グルカン誘導体を得ることができ、位相差フィルムの光学的特性を向上できる。前記位相差フィルムは、得られた前記変性グルカン誘導体をフィルム又はシート成形し、このフィルム又はシートを延伸するか又は延伸することなく製造できる。また、フィルム又はシートは、流延製膜法又は溶融製膜法で調製できる。
本発明では、グルカン誘導体(セルロース誘導体など)にヒドロキシ酸成分がグラフト重合しているため、積層することなく単一のフィルム(位相差フィルム)で、位相差に関して正の波長依存性を実現できる。また、非積層形態の一枚のフィルムであっても、可視光域において位相のずれを確実に補償できる。さらに、グラフト割合やグラフト鎖の平均置換度、およびアシル基とグラフト鎖の総平均置換度などにより、位相差に関して波長依存性を容易かつ精度よく制御できる。さらには、本発明では変性グルカン誘導体(変性セルロース誘導体など)中の遊離のポリヒドロキシ酸の含有量を低減できるので、前記位相差フィルムを容易に製造できる。
位相差フィルム(又は位相差板)を構成する変性グルカン誘導体において、グルカン誘導体の残存ヒドロキシル基にはヒドロキシ酸成分がグラフト共重合している。変性グルカン誘導体(グラフト体)は、無溶媒又は溶媒中、触媒の存在下、ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体とヒドロキシ酸成分とを反応(グラフト重合)させることにより調製できる。
[グルカン誘導体]
グルカンとしては、特に限定されず、例えば、β−1,4−グルカン、α−1,4−グルカン、β−1,3−グルカン、α−1,6−グルカンなどが挙げられる。代表的なグルカンとしては、例えば、セルロース、アミロース、デンプン、レンチナン、デキストランなどの多糖類が挙げられる。グルカンは単独で又は2種以上合わせて使用できる。これらのグルカンうち、セルロース、デンプン(又はアミロース)、特にセルロースが好ましい。セルロースとしては、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、コットンリンターパルプなどの種々のセルロース源が使用できる。これらのパルプは、通常、ヘミセルロースなどの異成分を含有していてもよい。パルプとしては、針葉樹パルプ及びリンターパルプから選択された少なくとも一種のパルプを使用する場合が多い。高品位セルロースのα−セルロース含有量は、98%以上(例えば、98.5〜100%、好ましくは99〜100%、さらに好ましくは99.5〜100%程度)であってもよい。
グルカン誘導体は、グルカンのグルコース単位のヒドロキシル基の一部が置換(エーテル化、エステル化などにより置換)されたグルカン誘導体、例えば、前記グルコース単位(又はグルコース骨格)のヒドロキシル基(グルコース単位の2,3および6位に位置するヒドロキシル基)に、アシル基などが置換(結合)し、かつヒドロキシル基が残存する誘導体である場合が多い。ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
グルカン誘導体の具体例としては、例えば、エーテル化されたグルカン(セルロースエーテル類など)、エステル化されたグルカン(セルロースエステル類など)、エーテル化及びエステル化されたグルカン(セルロースエーテルエステル類など)などが挙げられる。以下に、代表的なグルカン誘導体として、セルロース誘導体について詳述する。
セルロース誘導体としては、セルロースエーテル[例えば、アルキルセルロース(例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ブチルセルロースなどのC1−4アルキルセルロース)、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシC2−4アルキルセルロースなど)、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのヒドロキシC2−4アルキルC1−4アルキルセルロースなど)、シアノアルキルセルロース(シアノエチルセルロースなど)、カルボキシアルキルセルロース(カルボキシメチルセルロースなど)など]、セルロースエステル(アシルセルロース又はセルロースアシレート;硝酸セルロース、リン酸セルロースなどの無機酸エステル;硝酸酢酸セルロースなどの無機酸及び有機酸の混酸セルロースエステルなど)などが挙げられる。
好ましいグルカン誘導体(特にセルロース誘導体)は、セルロースアシレート(又はセルロースエステル)である。セルロースアシレートにおいて、アシル基としては、例えば、アルキルカルボニル基[例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基などのC2−10アルキルカルボニル基(例えば、C2−6アルキルカルボニル基、好ましくはC2−4アルキルカルボニル基)など]、シクロアルキルカルボニル基(例えば、シクロヘキシルカルボニル基などのC5−10シクロアルキルカルボニル基など)、アリールカルボニル基(例えば、ベンゾイル基などのC7−12アリールカルボニル基など)などが挙げられる。セルロースのグルコース単位には、同一又は異なるアシル基が結合していてもよい。これらのアシル基のうち、C2−4アルキルカルボニル基が好ましい。特に、これらのアシル基のうち、少なくともアセチル基が好ましく、例えば、グルコース単位には、アセチル基のみが結合していてもよく、アセチル基と他のアシル基(C3−4アシル基など)とが結合していてもよい。
好ましいグルカン誘導体(セルロースアシレートなどのセルロース誘導体)は、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースC2−4アシレート(セルロースジアセテートなどのセルロースアセテート)である。
グルカン誘導体(セルロースアセテートなどのセルロースアシレートなど)において、置換基(アシル基、アルキル基など)の平均置換度は、0.5〜2.99(例えば、0.7〜2.95)程度の範囲から選択でき、グルカン誘導体(特にセルロースアシレート)の平均置換度は、例えば、1〜2.95(例えば、1.5〜2.95)、好ましくは1.8〜2.9、さらに好ましくは1.9〜2.85(例えば、2.0〜2.7)程度であってもよい。セルロースアシレートの平均置換度は、通常、2.0〜2.9(例えば、2.25〜2.9)、好ましくは2.2〜2.87(例えば、2.3〜2.87)、さらに好ましくは2.3〜2.85(例えば、2.35〜2.85)、特に2.35〜2.8(例えば、2.37〜2.8)程度であってもよい。また、セルロースジアシレートの平均置換度は、2.2〜2.7(例えば、2.3〜2.6)程度であってもよい。
ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体において、ヒドロキシル基(残存するヒドロキシル基)の割合は、グルコース単位1モルに対して、例えば、平均0.01〜2.5モル(例えば、0.05〜2モル)、好ましくは0.1〜1.5モル(例えば、0.1〜1モル)、さらに好ましくは0.15〜0.8モル(例えば、0.3〜0.7モル)程度であってもよい。
さらに、グルカン誘導体の平均重合度(粘度平均重合度)は、70以上(例えば、80〜800)の範囲から選択でき、100〜500、好ましくは110〜400、さらに好ましくは120〜350程度であってもよい。
なお、ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体(セルロースアシレートなど)は、市販品を使用してもよく、慣用の方法により合成してもよい。例えば、セルロースアシレートは、通常、セルロースを有機カルボン酸(酢酸など)により活性化処理した後、硫酸触媒を用いてアシル化剤(例えば、無水酢酸などの酸無水物)によりセルローストリアシレート(一次セルロースアシレート)を調製し、過剰量のアシル化剤(特に、無水酢酸などの酸無水物)を分解し、脱アシル化又はケン化(加水分解又は熟成)によりアシル化度を調整し、二次セルロースアシレートを生成することにより製造できる。アシル化剤としては、酢酸クロライドなどの有機酸ハライドであってもよいが、通常、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などのC2−6アルカンカルボン酸無水物などが使用できる。
なお、一般的なセルロースアシレートの製造方法については、「木材化学(上)」(右田ら、共立出版(株)1968年発行、第180頁〜第190頁)を参照できる。また、他のグルカン(例えば、デンプンなど)についても、セルロースアシレートの場合と同様の方法でアシル化(および脱アシル化)できる。
[ヒドロキシ酸成分]
ヒドロキシ酸成分としては、ヒドロキシアルカンカルボン酸、環状エステルなどが例示でき、環状エステルには、ラクトン(環状モノエステル)、及び環状ジエステルが含まれる。ヒドロキシアルカンカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸(L−乳酸、D−乳酸、)、ヒドロキシプロピオン酸(ヒドロアクリル酸)、α−オキシ酪酸、6−ヒドロキシヘキサン酸などのヒドロキシC2−10アルカンカルボン酸(好ましくはα−ヒドロキシC2−6アルカンカルボン酸、さらに好ましくはα−ヒドロキシC2−4アルカンカルボン酸)などが例示できる。なお、ヒドロキシ酸は、低級アルキルエステル(例えば、C1−2アルキルエステル)化されていてもよい。これらのヒドロキシ酸のうち、特に、α−ヒドロキシ酸[特に、乳酸(L−乳酸、D―乳酸、又はこれらの混合物)]が好ましい。ヒドロキシ酸は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。ラクトン(環状モノエステル)としては、例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、ラウロラクトン、エナントラクトン、ドデカノラクトン、ステアロラクトン、α−メチル−ε−カプロラクトン、β−メチル−ε−カプロラクトン、γ−メチル−ε−カプロラクトン、β,δ−ジメチル−ε−カプロラクトン、3,3,5−トリメチル−ε−カプロラクトンなどのC3−20ラクトン、好ましくはC4−15ラクトン、さらに好ましくはC4−10ラクトン)などが例示できる。環状ジエステルとしては、例えば、グリコリド、ラクチド(L−ラクチド、D−ラクチド又はこれらの混合物)などのC4−15環状ジエステル、好ましくはC4−10環状ジエステルなど)などが挙げられる。
好ましいヒドロキシ酸成分は、環状エステル、例えば、C4−10ラクトン(例えば、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどのC4−8ラクトン)、C4−10環状ジエステル[ラクチド(L−ラクチド、D−ラクチド、又はそれらの混合物)などのC4−8環状ジエステル]である。環状エステルとしては、通常、ε−カプロラクトン、ラクチド(L−ラクチド、D−ラクチド、又はそれらの混合物)を用いる場合が多い。
これらのヒドロキシ酸成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。異種のヒドロキシ酸成分を組み合わせる場合、例えば、例えば、ε−カプロラクトンとラクチド(L−ラクチド、D−ラクチド、又はそれらの混合物)との組合せなどが例示できる。
ヒドロキシ酸成分の割合は、特に制限されず、ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体100重量部に対して、例えば、5〜1000重量部(例えば、10〜400重量部)、好ましくは20〜200重量部、さらに好ましくは30〜150重量部(例えば、35〜130重量部、特に25〜80重量部)程度であってもよく、通常、50〜170重量部(例えば、60〜140重量部、好ましくは65〜120重量部)程度であってもよい。
[触媒]
グルカン誘導体とヒドロキシ酸成分(環状エステルなど)との反応において、ヒドロキシ酸成分の重合を単独で(又は活性水素原子を有する開始剤を含まず、ヒドロキシ酸成分と触媒と不活性溶媒だけの反応系で)重合活性を示す触媒(触媒する触媒)を用いると、ヒドロキシ酸成分のホモポリマーが生成する。そのため、本発明では、ヒドロキシ酸成分(環状エステルなど)の重合(又は開環重合、グラフト重合)を触媒する化合物のうち、活性水素原子(ヒドロキシル基、アミノ基の活性水素原子)を有さず又は反応系で活性水素原子を生成せず、触媒単独では(活性水素原子を有する開始剤の非存在下では)、ヒドロキシ酸成分の重合を開始しない(又は重合活性を示さない)触媒、例えば、金属錯体(又は金属化合物)を使用する。このような触媒を用いると、活性水素原子を有する化合物(開始剤、特に水)が共存しない場合には、ヒドロキシ酸成分(環状エステルなど)の重合が開始せず(又は実質的に開始しない)、ヒドロキシル基を有するグルカン誘導体との共存(又は併用)下において、ヒドロキシ酸成分(環状エステルなど)の重合が開始し、ヒドロキシ酸成分のホモポリマー(又はオリゴマー)の生成を有効に防止でき、高い効率でグラフト重合体が得られる。
なお、単独でヒドロキシ酸成分の重合を開始する金属錯体(又は金属化合物)としては、アルコキシ基、アミノ基などを配位子として有する金属錯体(例えば、トリイソプロポキシアルミニウム、テトラ−n−ブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、トリブチルスズモノメトキサイドのような金属アルコキシド)が挙げられる。これらの金属錯体を用いてヒドロキシ酸成分を重合すると、前記配位子と中心金属との間に、ヒドロキシ酸成分(環状エステルでは開環した構造)が連鎖的に挿入され、前記金属錯体そのものが重合開始剤として機能し、ヒドロキシ酸成分(環状エステルなど)の単独重合反応が進行する。従って、前記グルカン誘導体とヒドロキシ酸成分との反応系に前記金属錯体を共存させると、グラフト効率が大きく低下し、目的とするグラフト重合体のほかに多量のヒドロキシ酸成分のホモポリマー(オリゴマー)が副生する。
前記金属錯体は、中心金属とこの中心金属に配位する配位子とで構成されている。触媒(環状エステルでは開環重合触媒)の中心金属としては、例えば、典型金属[例えば、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなど)、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなど)、周期表第12族金属(亜鉛など)、周期表第13族金属(アルミニウムなど)、周期表第14族金属(ゲルマニウム、スズなど)、周期表第15族金属(アンチモン、ビスマスなど)など]、遷移金属[例えば、希土類金属(又は周期表第3族金属、例えば、イットリウム、ランタン、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、エルビウムなど)、周期表第4族金属(チタン、ジルコニウム、イッテルビウムなど)、周期表第5族金属(ニオブなど)、周期表第6族金属(モリブデンなど)、周期表第7〜9族金属(鉄など)など]などが挙げられる。好ましい中心金属には、周期表第14族金属、例えば、スズなどが含まれる。
配位子(又は環状エステルに対する重合活性を示さない不活性な配位子)としては、例えば、一酸化炭素(CO)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子など)、酸素原子、炭化水素[例えば、アルカン(メタン、エタン、プロパン、ブタンなどのC1−20アルカン、好ましくはC1−10アルカン、さらに好ましくはC1−6アルカンなど)、シクロアルカン(例えば、シクロペンタン、シクロヘキサンなどのC4−10シクロアルカンなど)、アレーン(ベンゼン、トルエンなどのC6−10アレーンなど)など]、β−ジケトン(例えば、アセチルアセトンなどのβ−C5−10ジケトンなど)、カルボン酸[例えば、アルカンカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸などのC1−20アルカンカルボン酸、好ましくはC2−12アルカンカルボン酸)などの脂肪族カルボン酸;安息香酸などの芳香族カルボン酸など]、炭酸、ホウ酸などに対応する配位子(例えば、ハロ、アルキル、アシルアセトナト、アシルなどのアニオン性配位子)などが挙げられる。これらの配位子は、単独で又は2種以上組み合わせて中心金属に配位していてもよい。配位子は、少なくともアニオン性配位子(ハロゲン原子、酸素原子、炭化水素、β−ジケトン、カルボン酸などに対応するアニオン性配位子)、特に脂肪族カルボン酸に対応するアニオン性配位子(アルキルカルボニル)で構成されていてもよい。
代表的な触媒(開環重合触媒など)としては、アルコキシ基(及びヒドロキシル基)及び/又はアミノ基(第3級アミノ基以外のアミノ基)を配位子として有しない金属錯体、例えば、カルボン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、酸化物、アセチルアセトネートキレートなどが挙げられる。具体的な触媒(開環重合触媒など)としては、例えば、アルカリ金属化合物(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの炭酸塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウムなどのアルカンカルボン酸アルカリ金属塩、安息香酸リチウムなどのアレーンカルボン酸アルカリ金属塩など)、アルカリ土類金属化合物(例えば、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウムなどアルカンカルボン酸アルカリ土類金属塩)、亜鉛化合物(酢酸亜鉛、アセチルアセトネート亜鉛など)、アルミニウム錯体又はアルミニウム化合物(例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム)、ゲルマニウム錯体又はゲルマニウム化合物(例えば、酸化ゲルマニウムなど)、スズ錯体又はスズ化合物[例えば、スズカルボキシレート(例えば、オクチル酸スズ(オクチル酸第一スズなど)などのスズC2−18アルカンカルボキシレート(又はC2−18アルカンカルボン酸スズ)、好ましくはスズC4−14アルカンカルボキシレート)、アルキルスズカルボキシレート(例えば、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、モノブチルスズトリオクチレート、モノブチルスズトリス(2−エチルヘキサノエート)、ジブチルスズビス(2−エチルヘキサノエート)、ジブチルスズジラウリレートなどのモノ又はジC1−12アルキルスズC2−18アルカンカルボキシレート、好ましくはモノ又はジC2−10アルキルスズC2−14アルカンカルボキシレートなど)などのスズ(又はチン)カルボキシレート類;アルキルスズオキサイド(例えば、モノブチルスズオキシド、ジブチルスズオキシド、ジイソブチルスズオキシドなどのモノ又はジアルキルスズオキサイドなど);ハロゲン化スズ(塩化スズなど);ハロゲン化スズアセチルアセトナト(塩化スズアセチルアセトナトなど);無機酸スズ(硝酸スズ、硫酸スズなど)など]、鉛化合物(酢酸鉛など)、アンチモン化合物(三酸化アンチモンなど)、ビスマス化合物(酢酸ビスマスなど)などの典型金属化合物又は典型金属錯体;希土類金属化合物(例えば、酢酸ランタン、酢酸サマリウム、酢酸ユウロピウム、酢酸エルビウム、酢酸イッテルビウムなどのカルボン酸希土類金属塩)、チタン化合物(酢酸チタン、チタンアセチルアセトネートなど)、ジルコニウム化合物(酢酸ジルコニウム、ジルコニウムアセチルアセトネートなど)、ニオブ化合物(酢酸ニオブなど)、鉄錯体又は鉄化合物(例えば、酢酸鉄、鉄アセチルアセトナトなど)などの遷移金属化合物又は遷移金属錯体が挙げられる。触媒(開環重合触媒など)は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
これらの触媒のうち、特に、スズカルボキシレート類[例えば、スズ(又はチン)カルボキシレート(例えば、スズC2−10アルカンカルボキシレート)、アルキルスズカルボキシレート(例えば、モノブチルスズトリス(2−エチルヘキサノエート)、ジブチルスズビス(2−エチルヘキサノエート)などのモノ又はジC3−8アルキルスズC2−10アルカンカルボキシレート)など]などのスズ錯体(又はスズ化合物)が好ましい。
さらに、スズ系触媒には、ポリスタノキサン触媒も含まれる。ポリスタノキサンのうち、置換基としてヒドロキシル基を有するポリスタノキサン触媒(例えば、1−ヒドロキシ−3−クロロテトラブチルジスタノキサン)は、ヒドロキシル基に起因してヒドロキシ酸成分(環状エステルなど)を単独重合させやすく、グラフト重合活性を低下させやすい。そこで、本発明では、通常、ヒドロキシル基(詳細には、スズ原子に直接結合したヒドロキシル基)を除く置換基を有するポリスタノキサン触媒(ポリスタノキサン、ポリスタノキサン化合物)を好適に用いる。
ポリスタノキサン触媒は、酸素原子を介してスズ原子同士が結合した構造を少なくとも1つ有するスズ化合物であり、例えば、下記式(1)で表される。
Figure 0005032860
(式中、R、R、XおよびXは、同一又は異なって、ヒドロキシル基を除く置換基を示し、nは1以上の整数を示す。)
上記式(1)において、基R、R、XおよびXとしては、ヒドロキシル基以外の置換基であればよく、例えば、炭化水素基[例えば、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、へキシル基、2−エチルへキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基などのC1−24アルキル基、好ましくはC1−16アルキル基、さらに好ましくはC1−8アルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基などのC2−10アルケニル基など)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC4−10シクロアルキル基など)、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基など)、アラルキル基(ベンジル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)など]、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、ラウリルオキシ基などのC1−20アルコキシ基)、シクロアルキルオキシ基(例えば、シクロヘキシルオキシ基などのC4−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基など)、アラルキルオキシ基(ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基など)、アシル基[例えば、ホルミル基、アルキルカルボニル基又はアルカノイル基(例えば、アセチル基、プロピオニル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ドデカノイル基などのC2−24アルキルカルボニル基、好ましくはC2−20アルキルカルボニル基;(メタ)アクリロキシ基などのC2−10アルケニルカルボニル基など)、アリールカルボニル基又はアロイル基(例えば、ベンゾイル基などのC7−10アリールカルボニル基)など]、アシルオキシ基[例えば、ホルミルオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基(例えば、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、ヘプタノイルオキシ基、オクタノイルオキシ基、ノナノイルオキシ基、デカノイルオキシ基、ラウロイルオキシ基(ドデカノイルオキシ基)、ヘキサデカノイルオキシ基、オクタデカノイルオキシ基などのC2−24アルキルカルボニルオキシ基、好ましくはC2−20アルキルカルボニルオキシ基、さらに好ましくはC2−16アルキルカルボニルオキシ基)、シクロアルキルカルボニルオキシ基(例えば、シクロヘキシルカルボニルオキシ基などのC4−10アルキル−カルボニルオキシ基など)、アリールカルボニルオキシ基(例えば、ベンゾイルオキシ基などのC7−10アリールカルボニルオキシ基)など]、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などのC1−10アルコキシ−カルボニル基など)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、窒素原子含有基(例えば、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基など)などが挙げられる。これらの置換基(配位子)は、単独で又は2種以上組み合わせて、スズ原子に置換していてもよい。
また、基RおよびRは、対応する二価基により互いに結合して環(キレート)を形成していてもよい。さらに、基XおよびXは、直接結合又は対応する二価基により結合していてもよい。すなわち、ポリスタノキサン触媒は、鎖状(直鎖状)ポリスタノキサンであってもよく、環状ポリスタノキサンであってもよい。
なお、置換基は、配位結合により配位子として結合していてもよい。このような配位子である置換基は、前記例示の配位子、例えば、一酸化炭素(CO)、炭酸、ホウ酸、アシルアセトナト(アセチルアセトナトなど)などであってもよい。
これらの置換基のうち、アルコキシ基、アシルオキシ基、炭化水素基など、特にアシルオキシ基、炭化水素基が好ましい。基R、R、XおよびXは、同系統の置換基であってもよいが、通常、代表的には、XおよびXが非炭化水素系置換基(例えば、アシルオキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、(チオ)イソシアナト基、(チオ)シアナト基など)であり、基RおよびRが炭化水素基(特にアルキル基)である場合が多い。特に、前記式(1)において、基XおよびXがアシルオキシ基(特にアルカノイルオキシ基)であり、RおよびRが炭化水素基(特にアルキル基)である化合物、例えば、1,3−ジアルカノイルオキシ−1,1,3,3−テトラアルキルジスタノキサンであってもよい。これらの置換基が置換したポリスタノキサンでは、加水分解によりヒドロキシル基を生成しにくく、より一層効率よく環状エステルの単独重合を抑制できる。
前記式(1)において、nは、1以上(例えば、1〜10程度)の整数であればよく、好ましくは1〜8(例えば、1〜6)、さらに好ましくは1〜4(例えば、1〜3)であってもよく、通常1〜2(特に1)であってもよい。代表的なポリスタノキサン触媒としては、ジスタノキサン(前記式(1)においてn=1の化合物)、ポリスタノキサン(前記式(1)においてnが2以上の化合物)などが挙げられる。
ジスタノキサンとしては、例えば、ジハロ−テトラアルキルジスタノキサン類(例えば、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトラメチルスタノキサン、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサン、1,3−ジブロモ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサンなどの1,3−ジハロ−テトラC1−20アルキルジスタノキサン)、ジハロ−テトラアリールジスタノキサン類(例えば、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトラフェニルジスタノキサンなどの1,3−ジハロ−テトラC6−10アリールジスタノキサン)、ジ(イソ)シアナト−テトラアルキルジスタノキサン類(例えば、1,3−ジ(イソ)シアナト−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサンなどの1,3−ジ(イソ)シアナト−テトラC1−20アルキルジスタノキサンなど)、ジ(イソ)チオシアナト−テトラアルキルジスタノキサン類(例えば、1,3−ジ(イソ)チオシアナト−1,1,3,3−テトラメチルジスタノキサンなどの1,3−ジ(イソ)チオシアナト−テトラC1−20アルキルジスタノキサンなど)、アルコキシ−テトラアルキルジスタノキサン類、アリールオキシ−テトラアルキルジスタノキサン類、アシルオキシ−テトラアルキルジスタノキサン類などが挙げられる。
アルコキシ−テトラアルキルジスタノキサン類としては、例えば、アルコキシ−ハロ−テトラアルキルジスタノキサン(例えば、1−クロロ−3−メトキシ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサン、1−ブロモ−3−メトキシ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサンなどのC1−10アルコキシ−ハロ−1,1,3,3−テトラC1−20アルキルジスタノキサンなど)、アルコキシ−(イソ)チオシアナト−テトラアルキルジスタノキサン(例えば、1−メトキシ−3−(イソ)チオシアナト−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサンなどのC1−10アルコキシ−(イソ)チオシアナト−1,1,3,3−テトラC1−20アルキルジスタノキサンなど)などが挙げられる。アリールオキシ−テトラアルキルジスタノキサン類としては、例えば、アリールオキシ−ハロ−テトラアルキルジスタノキサン(例えば、1−クロロ−3−フェノキシ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサンなどのC6−10アリールオキシ−ハロ−1,1,3,3−テトラC1−20アルキルジスタノキサンなど)、アリールオキシ−(イソ)チオシアナト−テトラアルキルジスタノキサン(例えば、1−フェノキシ−3−(イソ)チオシアナト−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサンなどのC6−10アリールオキシ−(イソ)チオシアナト−1,1,3,3−テトラC1−20アルキルジスタノキサンなど)などが挙げられる。
アシルオキシ−テトラアルキルジスタノキサン類としては、例えば、ジアシルオキシ−テトラアルキルジスタノキサン[例えば、ジアルカノイルオキシ−テトラアルキルジスタノキサン(例えば、1,3−ジアセトキシ−1,1,3,3−テトラメチルジスタノキサン、1,3−ジブチリルオキシ−1,1,3,3−テトラメチルジスタノキサン、1,3−ジオクタノイルオキシ−1,1,3,3−テトラメチルジスタノキサン、1,3−ジ(2−エチルヘキサノイルオキシ)−1,1,3,3−テトラメチルジスタノキサン、1,3−ジドデカノイルオキシ−1,1,3,3−テトラメチルジスタノキサン、1,3−ジアセトキシ−1,1,3,3−テトラエチルジスタノキサン、1,3−ジアセトキシ−1,1,3,3−テトラプロピルジスタノキサン、1,3−ジアセトキシ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサン、1,3−ジブチリルオキシ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサン、1,3−ジオクタノイルオキシ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサン、1,3−ジ(2−エチルヘキサノイルオキシ)−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサン、1,3−ジドデカノイルオキシ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサン、1,3−ジアセトキシ−1,1,3,3−テトラオクチルジスタノキサン、1,3−ジドデカノイルオキシ−1,1,3,3−テトラオクチルジスタノキサン、1,3−ジアセトキシ−1,1,3,3−テトラドデシルジスタノキサン、1,3−ジブチリルオキシ−1,1,3,3−テトラドデシルジスタノキサン、1,3−ジドデカノイルオキシ−1,1,3,3−テトラドデシルジスタノキサンなどの1,3−ジC2−24アルカノイルオキシ−テトラC1−20アルキルジスタノキサン、好ましくは1,3−ジC2−20アルカノイルオキシ−テトラC1−20アルキルジスタノキサン、さらに好ましくは1,3−ジC2−16アルカノイルオキシ−テトラC1−16アルキルジスタノキサンなど)、ジアロイルオキシ−テトラアルキルジスタノキサン(例えば、1,3−ジベンゾイルオキシ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサンなどの1,3−ジC7−11アロイルオキシ−テトラC1−20アルキルジスタノキサンなど)など]、アシルオキシ−ハロ−テトラアルキルジスタノキサン[例えば、アルカノイルオキシ−ハロ−テトラアルキルジスタノキサン(例えば、1−クロロ−3−アセトキシ−1,1,3,3−テトラメチルジスタノキサン、1−クロロ−3−プロピオニルオキシ−1,1,3,3−テトラメチルジスタノキサンなどのC2−20アルカノイルオキシ−ハロ−1,1,3,3−テトラC1−20アルキルジスタノキサン、好ましくはC2−16アルカノイルオキシ−ハロ−1,1,3,3−テトラC1−16アルキルジスタノキサンなど)など]などが挙げられる。
ポリスタノキサンとしては、トリスタノキサン{例えば、ジハロ−ヘキサアルキルトリスタノキサン類(例えば、1,5−ジクロロ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルスタノキサンなどの1,5−ジハロ−ヘキサC1−20アルキルトリスタノキサン);アルコキシ−ハロ−ヘキサアルキルトリスタノキサン(例えば、1−クロロ−5−メトキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリスタノキサンなどのC1−10アルコキシ−ハロ−1,1,3,3,5,5−ヘキサC1−20アルキルトリスタノキサンなど)などのアルコキシ−ヘキサアルキルトリスタノキサン類;ジアシルオキシ−ヘキサアルキルトリスタノキサン[例えば、ジアルカノイルオキシ−ヘキサアルキルトリスタノキサン(例えば、1,5−ジアセトキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリスタノキサン、1,5−ジブチリルオキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリスタノキサン、1,5−ジオクタノイルオキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリスタノキサン、1,5−ジ(2−エチルヘキサノイルオキシ)−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリスタノキサン、1,5−ジドデカノイルオキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリスタノキサン、1,5−ジアセトキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサブチルトリスタノキサン、1,5−ジブチリルオキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサブチルトリスタノキサン、1,5−ジオクタノイルオキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサブチルトリスタノキサン、1,5−ジ(2−エチルヘキサノイルオキシ)−1,1,3,3,5,5−ヘキサブチルトリスタノキサン、1,5−ジドデカノイルオキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサブチルトリスタノキサン、1,5−ジアセトキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサオクチルトリスタノキサン、1,5−ジブチリルオキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサオクチルトリスタノキサン、1,5−ジオクタノイルキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサオクチルトリスタノキサン、1,5−ジ(2−エチルヘキサノイルオキシ)−1,1,3,3,5,5−ヘキサオクチルトリスタノキサン、1,5−ジドデカノイルオキシ−1,1,3,3,5,5−ヘキサオクチルトリスタノキサンなどの1,5−ジC2−20アルカノイルオキシ−ヘキサC1−20アルキルトリスタノキサン、好ましくは1,5−ジC2−16アルカノイルオキシ−ヘキサC1−16アルキルトリスタノキサンなど]などのアシルオキシ−ヘキサアルキルトリスタノキサン類など}などの前記ジスタノキサンに対応するポリスタノキサンなどが挙げられる。
ポリスタノキサン触媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。これらのポリスタノキサンのうち、アシルオキシ−テトラアルキルジスタノキサン類(特に、ジアルカノイルオキシ−テトラアルキルスタノキサン、ジアロイルオキシ−テトラアルキルジスタノキサンなどのジアシルオキシ−テトラアルキルスタノキサン)、アシルオキシ−ヘキサアルキルトリスタノキサン類(特に、ジアルカノイルオキシ−ヘキサアルキルトリスタノキサン、ジアロイルオキシ−ヘキサアルキルトリスタノキサンなどのジアシルオキシ−ヘキサアルキルトリスタノキサン)が好ましい。特に、ジアルカノイルオキシ−テトラアルキルジスタノキサン(例えば、1,3−ジアルカノイルオキシ−1,1,3,3−テトラアルキルジスタノキサンなどの1,3−ジアシルオキシ−1,1,3,3−テトラアルキルジスタノキサン)などのジアシルオキシ−テトラアルキルジスタノキサン(又はテトラアルキルジスタノキサンジカルボキシレート)が好ましい。
なお、ポリスタノキサンは、市販品を使用してもよく、慣用の方法により合成したものを使用することもできる。例えば、ジアシルオキシテトラアルキルジスタノキサンは、ジアルキルスズオキシドとアシル基に対応する化合物(カルボン酸、無水カルボン酸など)とを反応させる方法、ジオルガノスズジカルボキシレートとアルコールとを反応させる方法(特開2006−28066号公報に記載の方法など)などを利用して合成できる。
グラフト重合反応(開環重合反応)において、前記触媒の割合(使用割合)は、前記グルカン誘導体(開始点となるグルカン誘導体)のヒドロキシル基1モルに対して、例えば、10−7〜10−1モル、好ましくは5×10−7〜5×10−2モル、さらに好ましくは10−6〜3×10−2モル、特に10−5〜10−2モル(例えば、10−5〜8×10−3モル)程度であってもよく、通常、2×10−5〜5×10−3モル(例えば2×10−5〜2×10−3モル、好ましくは5×10−5〜10−3モル、さらに好ましくは5×10−5〜5×10−4モル)程度であってもよい。
ポリスタノキサン触媒の割合(使用割合)は、前記グルカン誘導体(セルロースアシレートなど)およびヒドロキシ酸成分の総量100重量部に対して、0.0001〜10重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.0005〜5重量部、好ましくは0.001〜3重量部、さらに好ましくは0.005〜2重量部(例えば、0.01〜1.5重量部)、特に0.05〜1重量部(例えば、0.1〜0.7重量部)程度であってもよい。また、前記グルカン誘導体100重量部に対するポリスタノキサン触媒の割合(使用割合)は、例えば、0.001〜10重量部、好ましくは0.01〜5重量部、さらに好ましくは0.05〜3重量部(例えば、0.1〜2重量部)程度であってもよい。
[溶媒]
ヒドロキシ酸成分(環状エステルなど)を用いた重合反応系では、水に対する溶解度が小さな特定の溶媒(疎水性溶媒)又は水分含有量の少ない溶媒を使用すると、水の影響を極力抑え、ヒドロキシ酸成分(環状エステルなど)のホモポリマーの生成を著しく抑制できる。そこで、前記特定の触媒と特定の溶媒とを組み合わせることにより、ヒドロキシ酸成分単独の重合(すなわち、環状エステルなどのホモポリマーの生成)を抑制するのが有用である。また、溶媒の非存在下、前記特定の触媒を用いることによっても、ヒドロキシ酸成分単独の重合を抑制できる。
20℃における水に対する溶媒の溶解度(又は溶媒の水分含有量)は、10重量%以下[例えば、0(又は検出限界)〜8重量%]の範囲から選択でき、例えば、7重量%以下(例えば、0.0001〜6重量%程度)、好ましくは5重量%以下(例えば、0.0005〜4重量%程度)、さらに好ましくは3重量%以下(例えば、0.0008〜2重量%程度)、特に1重量%以下(例えば、0.001〜0.8重量程度)であってもよく、より効率よくホモポリマーの副生を抑制するためには、0.7重量%以下(例えば、0.002〜0.5重量%、好ましくは0.003〜0.3重量%、さらに好ましくは0.005〜0.1重量%、特に0.007〜0.05重量%程度)であってもよい。
水に対する溶解度が小さい溶媒としては、具体的には、例えば、脂肪族炭化水素類[例えば、アルカン(例えば、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどの直鎖状又は分岐鎖状C7−20アルカンなど)、シクロアルカン(例えば、シクロヘキサンなどのC4−10シクロアルカン)など]、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン(o,m又はp−キシレン)、エチルベンゼンなどのC6−12アレーン、好ましくはC6−10アレーン)、脂肪族ケトン類[例えば、ジアルキルケトン(例えば、ジエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、ジn−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトンなどのC5−15ジアルキルケトン、好ましくはC7−10ジアルキルケトン)など]、鎖状エーテル類[例えば、ジアルキルエーテル(例えば、ジn−プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジn−ブチルエーテルなどのC6−10ジアルキルエーテルなど)、アルキルアリールエーテル(アニソールなど)など]などの非ハロゲン系溶媒、ハロゲン系溶媒などが挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えば、ハロアルカン(例えば、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロロプロパンなどのハロC1−10アルカン)、ハロシクロアルカン(クロロシクロヘキサンなどのハロC4−10シクロアルカン)、ハロゲン系芳香族炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン、クロロメチルベンゼン、クロロエチルベンゼンなどのハロC6−12アレーン、好ましくはハロC6−10アレーンなど)などのハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。
20℃において水に対する溶解度が10重量%を越える溶媒、例えば、親水性溶媒であっても、慣用の方法、例えば、蒸留、乾燥剤(硫酸マグネシウムなど)などを利用して水分を除去することにより反応に有効に使用できる。前記親水性溶媒としては、重合の開始剤(例えば、環状エステルの開環重合の開始剤)となる官能基(ヒドロキシル基、一級又は二級アミノ基など)を有しない溶媒であれば特に限定されず、例えば、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチルなど)、窒素含有溶媒(ニトロメタン、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなど)、末端ヒドロキシル基が修飾されたグリコール類(例えば、メチルグリコールアセテートなどのセロソルブアセテート類、カルビトールアセテート類など)、エーテル類(テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソランなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、炭酸プロピレンなどが挙げられる。さらに、必要であれば、過剰のヒドロキシ酸成分(例えば、ラクトン、ラクチドなど)を溶媒として用いてもよい。溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
溶媒の沸点は、例えば、60℃以上(例えば、70〜250℃程度)、好ましくは80℃以上(例えば、85〜220℃程度)、さらに好ましくは90℃以上(例えば、95〜200℃程度)、特に100℃以上(例えば、105〜180℃程度)であってもよい。溶媒の沸点が低いと、反応温度が制約され、重合速度が低下する。
溶媒の割合は、溶媒の種類などにもよるが、グルカン誘導体100重量部に対して、50重量部以上(例えば、55〜500重量部程度)の範囲から選択でき、例えば、60〜450重量部(例えば、65〜400重量部)、好ましくは60〜300重量部(例えば、65〜250重量部)、さらに好ましくは70〜200重量部(例えば、75〜190重量部)、特に80〜180重量部(例えば、85〜170重量部、好ましくは90〜150重量部)程度であってもよい。また、溶媒の割合は、グルカン誘導体及びヒドロキシ酸成分の総量100重量部に対して、例えば、10〜200重量部、好ましくは30〜150重量部、さらに好ましくは40〜120重量部(例えば、50〜100重量部)、通常45〜90重量部(例えば、50〜80重量部)程度であってもよい。
なお、グルカン誘導体とヒドロキシ酸成分との反応は、ヒドロキシ酸成分のホモポリマーの生成や副反応を抑えるため、出来る限り水分が少ない状態で行ってもよい。反応系(反応の液相系)の水分含有量は、例えば、0.5重量%以下(0(又は検出限界)〜0.4重量%程度)であり、通常、0.3重量%以下[0〜0.25重量%程度]、好ましくは0.2重量%以下(例えば、0.0001〜0.18重量%程度)、さらに好ましくは0.15重量%以下(例えば、0.0005〜0.12重量%程度)、特に0.1重量%以下(例えば、0.001〜0.05重量%程度)であってもよい。なお、縮合反応によりグラフト化する場合には、水よりも高沸点の溶媒を用い、共沸などを利用して生成する水を除去しつつ反応を行ってもよい。反応系の水分含有量は、慣用の方法、例えば、減圧乾燥、蒸留、乾燥剤(硫酸マグネシウムなど)などを利用して各原料や溶媒から水分を除去することにより調整できる。水分含有量は、加熱式水分気化装置を備えたカールフィッシャー式電量法水分測定装置((株)ダイヤインスツルメンツ製、CA−100)を用いて、JISK0113(2005年発行)に準拠して測定できる。
反応(グラフト化反応)は、常温下で行ってもよいが、通常、加温又は加熱下で行われる。反応温度は、例えば、60〜250℃、好ましくは80〜220℃、さらに好ましくは100〜180℃(例えば、105〜170℃)であり、通常、110〜160℃程度であってもよい。反応は、攪拌しながら空気中又は不活性雰囲気(窒素、ヘリウムなどの希ガスなど)中で行うことができ、通常、不活性雰囲気中で行うことができる。また、反応は、常圧又は加圧下で行ってもよい。
グラフト反応で生成した反応生成物は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、中和、沈澱などの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製してもよい。
[変性グルカン誘導体]
前記グルカン誘導体とヒドロキシ酸成分との反応により得られる変性グルカン誘導体は、ヒドロキシ酸成分の遊離のホモポリマー(オリゴマー)の含有量が少なく、グルカン誘導体のヒドロキシル基(開始基)に対してヒドロキシ酸成分が有効にグラフトしているという特色がある。ヒドロキシ酸成分のグラフト割合(平均付加モル数)は、ヒドロキシ酸換算で、グルコース単位1モルに対して、平均0.01〜5モル程度の範囲から選択でき、通常、0.1〜4モル(例えば、0.3〜3モル)、好ましくは0.5〜2.5モル、さらに好ましくは0.6〜2.0モル(例えば、0.7〜1.8モル)程度である。
アシル基(アセチル基など)の平均置換度をAとし、ヒドロキシ酸成分のグラフト鎖の平均置換度をBとしたとき、セルロース誘導体において、A+B=2.3〜3.0、好ましくは2.4〜2.98(例えば、2.45〜2.97)、さらに好ましくは2.5〜2.97(例えば、2.55〜2.95)程度である。
また、ヒドロキシ酸成分のグラフト鎖の平均置換度(グルコース単位1モルあたりの平均モル数)Bは、グルコース単位に対して、0.01〜2(例えば、0.015〜1.5)程度の範囲から選択でき、通常、0.01〜1.0(例えば、0.05〜0.8)、好ましくは0.07〜0.7(例えば、0.08〜0.6)、さらに好ましくは0.1〜0.5(例えば、0.15〜0.45)程度である。
なお、グラフト鎖の重合度や分子量が大きくなると、グラフト鎖部分が結晶性を有するため、変性グルカン誘導体の光学的特性が低下する場合がある。そのため、ヒドロキシ酸成分のグラフト鎖は、遊離のポリヒドロキシ酸の形態で非結晶性である場合が多い。より具体的には、グラフト鎖の平均重合度は、非結晶性を示す範囲、例えば、1〜20(例えば、2〜15)、好ましくは3〜12(例えば、4〜10)、さらに好ましくは4.5〜8.5(例えば、5〜8)程度である場合が多い。
また、変性グルカン誘導体において、グルカン誘導体の置換基(例えば、アシル基)の平均置換度(モル数)とグラフト鎖の平均置換度(モル数)との割合は、前者/後者=50/50〜99.5/0.5(例えば、70/30〜99/1)、好ましくは75/25〜98.5/1.5(例えば、80/20〜98/2)、さらに好ましくは85/15〜97.5/2.5(例えば、87.5/12.5〜97/3)程度であってもよい。
変性グルカン誘導体において、ヒドロキシル基(残存ヒドロキシル基)の割合は、グルコース単位1モルに対して、例えば、平均0〜1.2モル(例えば、0.01〜1モル)の範囲から選択でき、通常、0.02〜0.8モル(例えば、0.03〜0.7モル)、好ましくは0.04〜0.6モル、さらに好ましくは0.05〜0.55モル(例えば、0.07〜0.5モル)程度であってもよい。ヒドロキシル基は、必要に応じて保護基により保護してもよい。
なお、変性グルカン誘導体において、置換基(アシル基、グラフト鎖など)の置換度、ヒドロキシル基濃度、グラフト鎖の重合度(分子量)などは、慣用の方法、例えば、核磁気共鳴スペクトル(NMR)(H−NMR、13C−NMRなど)などを用いて測定できる。
さらに、ヒドロキシ酸成分の単独重合体の含有割合は、変性グルカン誘導体全体に対して、15重量%以下(例えば、0〜12重量%程度)の範囲から選択でき、例えば、10重量%以下(例えば、0.05〜9重量%程度)、好ましくは8重量%以下(例えば、0.1〜7重量%程度)、さらに好ましくは5重量%以下(例えば、0.1〜4.5重量%、特に0.1〜3重量%程度)であってもよい。このようにヒドロキシ酸成分の遊離の単独重合体の含有量が少ないため、位相差フィルムの光学的特性(透明性、位相差性など)を向上できる。
なお、変性グルカン誘導体は、わずかであるが、カルボキシル基を有している場合がある。このようなカルボキシル基も、前記ヒドロキシル基と同様に保護(又は封止)してもよい。
さらに、変性グルカン誘導体(変性セルロースアシレートなど)のガラス転移温度Tgは、例えば、70℃以上(例えば、73〜220℃程度)、好ましくは75〜200℃(例えば、78〜190℃)、さらに好ましくは80〜180℃(例えば、85〜160℃)程度であってもよく、通常、90〜155℃(例えば、95〜150℃)程度であってもよく、100〜180℃(例えば、110〜175℃、特に120℃〜170℃)程度であってもよい。
さらに、変性グルカン誘導体の酸価は、通常、20mgKOH/g以下(例えば、0〜18mgKOH/g程度)、好ましくは15mgKOH/g以下(例えば、0.1〜12mgKOH/g程度)、さらに好ましくは10mgKOH/g以下(例えば、0.3〜9mgKOH/g程度)、特に8mgKOH/g以下(例えば、0.5〜7mgKOH/g程度)である。変性グルカン誘導体の酸価は、通常、0.2〜10mgKOH/g(例えば、0.4〜8mgKOH/g)、特に0.5〜5mgKOH/g(例えば、0.5〜3mgKOH/g)程度である。酸価が小さな変性グルカン誘導体は、耐加水分解性に優れている。酸価は、前記ヒドロキシ酸成分の単独重合体および未反応のヒドロキシ酸成分の含有量などを低減することにより小さくすることができる。酸価は、JISK0070(1992年発行)に準拠し、フェノールフタレインを指示薬とした中和滴定法によって測定できる。
なお、変性グルカン誘導体は、必要により種々の添加剤、例えば、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、過酸化物分解剤、熱安定剤など)、可塑剤(フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤など)、レタデーション調整剤(特開平2001−91743号公報に開示のレタデーション調整剤、例えば、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ジベンジルオキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系レタデーション調整剤など)、離型剤、滑剤、着色剤などを含んでいてもよい。
[位相差フィルム]
前記変性グルカン誘導体で構成された位相差フィルムは、未延伸フィルムであってもよく延伸フィルム(一軸又は二軸延伸フィルム)であってもよい。位相差フィルムは、通常、未延伸フィルム又は一軸延伸フィルムである場合が多い。延伸倍率は、レタデーション値に応じて1.05〜5倍程度の範囲から適当に選択でき、例えば、1.1〜3倍、好ましくは1.15〜2.5倍、さらに好ましくは1.2〜2倍(例えば、1.3〜1.7倍)程度であってもよい。
位相差フィルムは、積層することなく1枚のフィルムで位相のずれを補償するのに有効である。本発明の位相差フィルムは、積層することなく1枚のフィルムにおいて、位相差に関して正の波長依存性を示し、下記関係式(1)を満足する。
Re(450nm)/Re(650nm)<1 (1)
(式中、Re(450nm)及びRe(650nm)はそれぞれ波長450nm及び波長650nmでの位相差値(レタデーション値)を示す)
すなわち、本発明の位相差フィルムは、波長550nmでの位相差値(レタデーション値)を基準値としたとき、波長400〜700nmにおいて、550nm未満の波長での位相差値が基準値と同じであるか又は基準値よりも小さく、550nmを越える波長での位相差値(レタデーション値)が基準値と同じであるか又は基準値よりも大きい。より具体的には、前記式(1)において、Re(450nm)/Re(650nm)=Xとすると、X=0.3〜0.98、好ましくは0.35〜0.95、さらに好ましくは0.38〜0.93(例えば、0.4〜0.92)程度であってもよい。
さらに、本発明の位相差フィルムは、下記関係式(2)及び(3)を満足する。
0.3<Re(450nm)/Re(550nm)<1.00 (2)
1.00<Re(650nm)/Re(550nm)<1.6 (3)
(式中、Re(450nm)、Re(550nm)及びRe(650nm)は、それぞれ波長450nm、波長550nm及び波長650nmでの位相差値を示す)
前記式(2)及び(3)において、Re(450nm)/Re(550nm)=Yとすると、Y=0.3〜0.98、例えば、0.35〜0.98(例えば、0.4〜0.97)、好ましくは0.45〜0.96、さらに好ましくは0.5〜0.95(例えば、0.55〜0.93)程度であってもよく、Re(650nm)/Re(550nm)=Zとすると、Z=1.01〜1.6、例えば、1.01〜1.5(例えば、1.02〜1.45)、好ましくは1.02〜1.4(例えば、1.02〜1.35)、さらに好ましくは1.03〜1.3(例えば、1.04〜1.25)程度であってもよい。
なお、フィルムのレタデーション値(面内のレタデーション値Re、厚み方向のレタデーション値Rth)は、遅相軸方向の屈折率、進相軸方向の屈折率、および厚み方向の屈折率を測定し、これらの屈折率の値から、下記式で定義される式に基づいてそれぞれ算出できる。
Re=(nx−ny)×d
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚みを示す。)
本発明の位相差フィルムは、通常、可視光域において、波長が大きくなるにつれて位相差も大きくなり、波長が短くなるにつれて位相差も小さくなる。すなわち、正の波長分散特性を有している。そのため、可視光域での光線の位相のずれを補償し、鮮明な色再現性を実現するのに有効である。
位相差フィルムの厚みは特に制限されず、例えば、5〜1000μm(例えば、10〜500μm)、好ましくは20〜300μm(例えば、30〜250μm)、さらに好ましくは50〜200μm(例えば、50〜150μm)程度であってもよい。
なお、位相差フィルムのレタデーション値(Re)は、波長550nmにおいて、例えば、1〜1000(例えば、2〜800)程度の範囲から選択でき、通常、3〜750(例えば、5〜600)、好ましくは10〜500(例えば、50〜400)、さらに好ましくは75〜350(例えば、100〜300)程度であってもよい。レタデーション値は延伸の程度により容易に調整できる。
このような位相差フィルムは、位相差に関して正の波長依存性を有しており、所定波長の光線の位相のずれを有効に補償でき、1/4波長板又は1/2波長板として利用できる。波長550nmにおいて、1/4波長板のレタデーション値は、110〜160nm(例えば、125〜150nm)程度であり、1/2波長板のレタデーション値は、225〜325nm(例えば、250〜300nm)程度である。
[位相差フィルムの製造方法]
位相差フィルムは、慣用の方法でフィルム又はシート成形し、得られたフィルム又はシートを延伸(又は配向処理)することなく製造してもよく、延伸(又は配向処理)することにより製造してもよい。フィルム成形には、押し出し成形、ブロー成形などの溶融成形法(溶融製膜法)を利用してもよく、流延成形法(流延製膜法)を利用してもよい。フィルム成形には、通常、流延成形法が利用される。溶融成形法では、押出機を用いて前記変性グルカン誘導体単独又は変性グルカン誘導体を含む組成物を溶融してダイのスリットからフィルム状に押出成形し、冷却することによりフィルム又はシートを調製し、このフィルム又はシートを延伸(又は配向処理)するか又は延伸することなく、位相差フィルムを得ることができる。溶融成形法ではTダイを利用して押し出し成形する場合が多い。なお、溶融製膜法では、ダイからの溶融フィルム又はシートの引き取りによりフィルム又はシートを配向させることもできる。本願明細書では、このような配向も延伸の概念に含めることができる。
流延成形法では、前記変性グルカン誘導体を含むドープを流延成形してフィルム又はシートを調製し、このフィルム又はシートを延伸(又は配向処理)するか又は延伸することなく、位相差フィルムを得ることができる。より詳細には、前記ドープは、前記変性グルカン誘導体と、この変性グルカン誘導体を可溶な溶媒とで構成でき、溶媒としては、前記例示の溶媒(塩化メチレン、トリクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素類、炭化水素類、ケトン類、エステル類、エーテル類など)の他、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)なども利用できる。ドープ中の変性グルカン誘導体の濃度は、例えば、5〜30重量%、好ましくは10〜25重量%程度であってもよい。前記ドープを、平滑面を有する剥離性支持体(金属ドラムなど)に流延し、ドープの塗膜中の溶媒を少なくとも部分的に除去し、前記支持体から剥離することにより溶媒を含んでいてもよいフィルム又はシートを得ることができる。流延成形法では、フィルム又はシートの延伸操作は、フィルム又はシートから溶媒を除去した後で行われる。
フィルム又はシートの延伸操作は、例えば、機械方向又は縦方向(MD方向)に延伸してもよく、幅方向(TD方向)に延伸してもよく、MD方向及びTD方向に延伸してもよい。延伸は、変性グルカン誘導体のガラス転移温度以上の温度で行うことができ、通常、所定温度(ガラス転移温度+10℃)以下の温度で行うことができる。
本発明の位相差フィルムは、光線の位相差を補償するのに適しており、光学素子(光学補償フィルム、反射防止フィルムなど)として種々の光学装置に利用できる。特に、液晶や偏光板の透過により位相にずれが生じるため、液晶表示装置での位相差フィルムなどの光学補償フィルムとして有用である。より具体的には、位相差フィルムと偏光板(又は偏光フィルム、偏光子)とを積層し、円偏光又は楕円偏光板を構成してもよい。なお、1/4波長板と偏光板との積層により円偏光板を構成でき、1/2波長板と偏光板との積層により楕円偏光板を構成できる。位相差フィルムは偏光板(又は偏光フィルム)の少なくとも一方の面に積層すればよく、偏光板の両面に積層してもよい。このような積層フィルムでは、位相差フィルムがグルカン誘導体で構成されているため、位相差フィルムにより偏光板の保護フィルムとしての機能も発現できる。そのため、本発明の位相差フィルムは、偏光板用保護フィルムなどの保護フィルムとしても有用である。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[実施例1]
(グラフト体の調製)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、L−20、平均置換度2.41)70重量部を加え、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージし、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン30重量部、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)67重量部を加えて150℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応系中の水分含量は、0.03重量%であった。この混合液にモノブチルスズトリオクチレート0.25重量部を添加し、150℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応混合液を室温まで冷却し反応を終結させ反応生成物を得た。さらに、クロロホルム90重量部に対して反応生成物10重量部を溶解した後、大過剰のメタノール900重量部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃で5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.72、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.13、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は5.4、ヒドロキシル基の平均置換度DS(OH)は0.33であった。これらの特性値はH−NMR測定により求めた。
(フィルムの作製)
得られたグラフト体15重量部、塩化メチレン78重量部、およびメタノール7重量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり撹拌しながら24時間かけて溶解した。このドープを加圧ろ過した後、さらに24時間静置しドープ中の泡を除いた。
上記ドープを、ガラス板上にバーコーターを用いてドープ温度30℃で流延した。流延したガラス板を密閉し、表面を均一にする(レベリングする)ために2分間静置した。レベリング後、40℃の温風乾燥機で8分間乾燥させた後、ガラス板からフィルムを剥離した。次いでフィルムをステンレス製の枠に支持し、100℃の温風乾燥機で20分間乾燥させて膜厚104μmのフィルムを得た。自動複屈折率計(王子計測機器(株)製、KOBRA−WPR)を用い、23℃、50%RHの雰囲気下で、得られたフィルム(延伸前フィルム、未延伸フィルム)の波長分散性(波長依存性)を測定したところ、Re(450nm)/Re(650nm)=0.96、Re(450nm)/Re(550nm)=0.97、Re(650nm)/Re(550nm)=1.01、Re(550nm)=6nmとなった。このフィルムは測定波長が短波長になるほど位相差が小さくなり、正の波長分散特性を有することを確認した。
[実施例2]
実施例1で得られたフィルム(未延伸フィルム)を、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、140℃で幅方向に1.2倍延伸させた。得られた膜厚97μmのフィルム(1.2倍延伸)の波長分散性(波長依存性)を、前記自動複屈折率計を用いて実施例1と同様の条件で測定したところ、Re(450nm)/Re(650nm)=0.90、Re(450nm)/Re(550nm)=0.93、Re(650nm)/Re(550nm)=1.04、Re(550nm)=99nmとなった。このフィルムは測定波長が短波長になるほど位相差が小さくなり、正の波長分散特性を有することを確認した。
[実施例3]
実施例1で得られたフィルム(未延伸フィルム)を、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、140℃で幅方向に1.5倍延伸させた。得られた膜厚92μmのフィルム(1.5倍延伸)の波長分散性(波長依存性)を、前記自動複屈折率計を用いて実施例1と同様の条件で測定したところ、Re(450nm)/Re(650nm)=0.90、Re(450nm)/Re(550nm)=0.93、Re(650nm)/Re(550nm)=1.04、Re(550nm)=185nmとなった。このフィルムは測定波長が短波長になるほど位相差が小さくなり、正の波長分散特性を有することを確認した。
[実施例4]
(グラフト体の調製)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、NAC、平均置換度2.80)70重量部を加え、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージを行い、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン30重量部、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)67重量部を加えて160℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応系中の水分含量は、0.04重量%であった。この混合液にモノブチルスズトリオクチレート0.25重量部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応混合液を室温まで冷却し反応を終結させ反応生成物を得た。さらに、クロロホルム90重量部に対して反応生成物10重量部を溶解した後、大過剰のメタノール900重量部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃にて5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−カプロラクトングラフト共重合体)を得た。
そして、H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトしたε−カプロラクトンの平均モル数(MS)は0.76、グラフト鎖(グラフトしたカプロラクトン)の平均置換度(DS)は0.11、グラフト鎖のε−カプロラクトンの平均重合度(DPn)は6.7、ヒドロキシル基の平均置換度DS(OH)は0.09であった。
(フィルムの作製)
得られたグラフト体を用いて、実施例1と同様にフィルムを製膜した。得られたフィルム(未延伸フィルム)を、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、160℃で幅方向に1.5倍延伸させた。得られた膜厚107μmのフィルム(1.5倍延伸フィルム)の波長分散性(波長依存性)を、前記自動複屈折率計を用いて実施例1と同様の条件で測定したところ、Re(450nm)/Re(650nm)=0.42、Re(450nm)/Re(550nm)=0.53、Re(650nm)/Re(550nm)=1.27、Re(550nm)=44nmとなった。このフィルムは測定波長が短波長になるほど位相差が小さくなり、正の波長分散特性を有することを確認した。
[実施例5]
(グラフト体の調製)
撹拌機、いかり型撹拌翼を備えた反応器に酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、L−20、平均置換度2.41)50重量部、L−ラクチド((株)武蔵野化学研究所製)50重量部を加え、65℃、12時間、4Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージを行い、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したシクロヘキサノン(ANON)67重量部を加えて160℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応系中の水分含量は、0.03重量%であった。この混合液にモノブチルスズトリオクチレート0.25重量部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応混合液を室温まで冷却し反応を終結させ反応生成物を得た。さらに、クロロホルム90重量部に対して反応生成物10重量部を溶解した後、大過剰のメタノール900重量部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物(グラフト体)を濾別することによって、L−ラクチドの単独重合体を除去した。さらに、60℃にて5時間以上加熱乾燥し、L−ラクチドがセルロースアセテートにグラフトしたグラフト体(セルロースアセテート−ラクチドグラフト共重合体)を得た。
そして、H−NMRにより得られたグラフト体の一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりにグラフトした乳酸単位(乳酸ユニット)の平均モル数(MS)は1.80、グラフト鎖(グラフトしたL−ラクチド鎖)の平均置換度(DS)は0.26、グラフト鎖の乳酸単位の平均重合度(DPn)は7.1、ヒドロキシル基の平均置換度DS(OH)は0.33であった。
(フィルムの作製)
得られたグラフト体を用いて、実施例1と同様にフィルムを製膜した。得られたフィルム(未延伸フィルム)を、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、140℃で幅方向に1.5倍延伸させた。得られた膜厚94μmのフィルム(延伸前フィルム、未延伸フィルム)の波長分散性(波長依存性)を、前記自動複屈折率計を用いて実施例1と同様の条件で測定したところ、Re(450nm)/Re(650nm)=0.83、Re(450nm)/Re(550nm)=0.88、Re(650nm)/Re(550nm)=1.07、Re(550nm)=77nmとなった。このフィルムは測定波長が短波長になるほど位相差が小さくなり、正の波長分散特性を有することを確認した。
[実施例6]
実施例5で得られた未延伸フィルムを、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、上記と同様にして幅方向に1.8倍延伸させた。得られた膜厚85μmのフィルム(1.8倍延伸)の波長分散性(波長依存性)を、前記自動複屈折率計を用いて実施例1と同様の条件で測定したところ、Re(450nm)/Re(650nm)=0.80、Re(450nm)/Re(550nm)=0.86、Re(650nm)/Re(550nm)=1.08、Re(550nm)=102nmとなった。このフィルムは測定波長が短波長になるほど位相差が小さくなり、正の波長分散特性を有することを確認した。
[比較例1]
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアプラスチック(株)製、ユーピロンS−3000U)を用い、溶融製膜によりフィルムを得た。得られた未延伸フィルムを、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、140℃で幅方向に1.5倍延伸させた。得られた膜厚57μmのフィルム(1.5倍延伸)の波長分散性(波長依存性)を、前記自動複屈折率計を用いて実施例1と同様の条件で測定したところ、Re(450nm)/Re(650nm)=1.11、Re(450nm)/Re(550nm)=1.07、Re(650nm)/Re(550nm)=0.96、Re(550nm)=1731nmとなった。このフィルムは測定波長が短波長になるほど位相差が大きくなり、屈折率異方性は負であることを確認した。
結果を表1に示す。なお、表中、Ds(OAc)は酢酸セルロースの平均置換度、MSはグルコース単位1モルあたりにグラフトしたヒドロキシ酸成分の平均モル数、DS(HA)はグルコース単位1モルあたりのグラフト鎖の平均置換度、DPnはグラフト鎖の平均重合度、DS(OH)はグルコース単位1モルあたりのヒドロキシル基の平均置換度を示す。また、XはRe(450nm)/Re(650nm)、YはRe(450nm)/Re(550nm)、ZはRe(650nm)/Re(550nm)を示す。
Figure 0005032860
表から明らかなように、比較例1に比べ、実施例で得られたフィルムは、位相差に関して正の波長依存性を示し、波長が大きくなるにつれて位相差も大きく特性を示した。なお、図1に、比較例1、実施例4及び実施例6で得られた位相差フィルムの波長依存性を示す。
図1は比較例1、実施例4及び実施例6で得られた位相差フィルムの波長依存性を示すグラフである。

Claims (2)

  1. 溶媒中、(1)ヒドロキシ酸成分の重合を単独では重合活性を示さない触媒の存在下、(2)水分含有量が0.5重量%以下の反応系で、グルカン誘導体の残存ヒドロキシル基にヒドロキシ酸成分をグラフトさせ、生成した変性グルカン誘導体をフィルム又はシート成形し、このフィルム又はシートを延伸するか又は延伸することなく位相差フィルムを製造する方法。
  2. 流延製膜法又は溶融製膜法でフィルム又はシートを調製する請求項記載の製造方法。
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